(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】転舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240214BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240214BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D113:00
(21)【出願番号】P 2020155552
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075579
【氏名又は名称】内藤 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100175259
【氏名又は名称】尾林 章
(72)【発明者】
【氏名】関 康大
(72)【発明者】
【氏名】小磯 貴之
【審査官】松永 謙一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-291877(JP,A)
【文献】特開2020-075559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールと転舵輪との間が機械的に分離されたステアバイワイヤ式の転舵装置であって、
前記ステアリングホイールの回転角に応じた第1角度信号及び第2角度信号をそれぞれ出力する第1角度センサ及び第2角度センサと、
前記第1角度信号に応じた第1駆動信号を出力する第1コントローラと、
前記第1駆動信号又は前記第2角度信号に応じた第2駆動信号を出力する第2コントローラと、
前記第1駆動信号に応じた第1転舵力と前記第2駆動信号に応じた第2転舵力とを発生させて前記転舵輪を転舵する転舵アクチュエータと、を備え、
前記第2コントローラは、前記第1角度センサ及び前記第1コントローラの両方が正常である場合には前記第1コントローラが出力した前記第1駆動信号に応じた前記第2駆動信号を出力し、前記第1角度センサ又は前記第1コントローラの少なくとも1つが異常である場合には、前記第2角度信号に応じた前記第2駆動信号を出力し、
前記第1コントローラは、第1ネットワークを介して前記第1角度信号を受信する第1インタフェース回路を備え、
前記第2コントローラは、第2ネットワークを介して前記第2角度信号を受信する第2インタフェース回路を備え、前記第1角度センサ、前記第1コントローラ及び前記第1ネットワークの全てが正常である場合には前記第1駆動信号に応じた前記第2駆動信号を出力し、前記第1角度センサ、前記第1コントローラ又は前記第1ネットワークの少なくとも1つが異常である場合には、前記第2角度信号に応じた前記第2駆動信号を出力する、
ことを特徴とする転舵装置。
【請求項2】
前記第1角度センサ及び前記第1コントローラは第1電源から電源が供給され、
前記第2角度センサ及び前記第2コントローラは第2電源から電源が供給され、
前記第1角度センサ、前記第1コントローラ及び前記第1ネットワークは第1電源から電源が供給され、
前記第2角度センサ、前記第2コントローラ及び第2ネットワークは第2電源から電源が供給される、
ことを特徴とする請求項1に記載の転舵装置。
【請求項3】
前記第1ネットワークの通信速度が前記第2ネットワークの通信速度よりも速いことを特徴とする請求項1又は2に記載の転舵装置。
【請求項4】
前記ステアリングホイールに操舵反力を付与する反力アクチュエータと、
前記第1角度信号に応じて前記反力アクチュエータを制御するとともに、前記第1ネットワークを介して前記第1角度信号を前記第1コントローラに送信する第3コントローラと、
を備え、
前記第2コントローラは、前記第1角度センサ、前記第1コントローラ、前記第1ネットワーク及び前記第3コントローラの全てが正常である場合には前記第1駆動信号に応じた前記第2駆動信号を出力し、前記第1角度センサ、前記第1コントローラ、前記第1ネットワーク又は前記第3コントローラの少なくとも1つが異常である場合には、前記第2角度信号に応じた前記第2駆動信号を出力する、
ることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の転舵装置。
【請求項5】
前記第1コントローラが異常である場合又は前記第2コントローラが異常である場合に、前記第3コントローラは、前記反力アクチュエータを駆動して触覚効果を生成することにより警報を発生するか、前記反力アクチュエータの制御を停止し、
前記第1コントローラは、前記第1駆動信号に代えて前記第1角度信号を前記第2コントローラに出力し、前記第2コントローラは、前記第1駆動信号に代えて前記第1角度信号に応じた前記第2駆動信号を出力する、
ことを特徴とする請求項
4に記載の転舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイールと転舵輪との間が機械的に分離されたステアバイワイヤ式の転舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の転舵装置として、運転者が操舵を行う反力発生器(FFA:Force Feedback Actuator、操舵機構)と、転舵輪を転舵させる転舵力発生器(RWA:Road Wheel Actuator、転舵機構)とが機械的に分離されたステアバイワイヤ(SBW:Steer-By-Wire)式の転舵装置が提案されている。
反力発生器は、運転者の旋回意思を検出すると同時に、路面からステアリングホイールへ伝わる操舵反力を模擬的に発生させる。転舵力発生器は、反力発生器から伝達される運転者の旋回意思に基づいて、転舵輪を転舵させるラック軸力を発生させる。
【0003】
運転者の旋回意思を検出する反力発生器と転舵力を発生させる転舵力発生器とが機械的に分離されているステアバイワイヤ式の転舵装置では、何らかの故障により旋回意思を転舵力発生器に伝達できなくなると、運転者が車両をコントロールできなくなる。このため、運転者の旋回意思に応じて転舵力を発生する構成を冗長化することが好ましい。
下記特許文献1には、モータの回転角を検出するセンサ部と制御部とが2つずつ配置され、これら2つの制御部によって、第1モータ巻線と第2モータ巻線とに供給される電力がそれぞれ制御される冗長構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ステアバイワイヤ式の転舵装置において反力発生器と転舵力発生器の構成要素をそのまま冗長化すると、部品点数とコストの増加を招く。電子部品の点数を増加させることは、換言すると故障する可能性のある部品を増加させることであり、これはシステムの故障率を増加させることにつながる。
本発明は、上記課題に着目してなされたものであり、ステアバイワイヤ式の転舵装置において、運転者の旋回意思に応じて転舵力を発生する構成を冗長化するのに要する部品点数の増加を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によればステアリングホイールと転舵輪との間が機械的に分離されたステアバイワイヤ式の転舵装置が与えられる。この転舵装置は、ステアリングホイールの回転角に応じた第1角度信号及び第2角度信号をそれぞれ出力する第1角度センサ及び第2角度センサと、第1角度信号に応じた第1駆動信号を出力する第1コントローラと、第1駆動信号又は第2角度信号に応じた第2駆動信号を出力する第2コントローラと、第1駆動信号に応じた第1転舵力と第2駆動信号に応じた第2転舵力とを発生させて転舵輪を転舵する転舵アクチュエータと、を備える。第2コントローラは、第1角度センサ及び第1コントローラの両方が正常である場合には第1コントローラが出力した第1駆動信号に応じた第2駆動信号を出力し、第1角度センサ又は第1コントローラの少なくとも1つが異常である場合には、第2角度信号に応じた第2駆動信号を出力する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ステアリングホイールの回転角を検出する第2角度センサとその検出結果に応じて転舵アクチュエータを制御する第2コントローラという最小限の部品で、運転者の旋回意思に応じた転舵力の発生する冗長構成を実現できる。このため部品点数の増加を抑制できる。
さらに、第1角度センサ以外に設けられている既存の角度センサを、第2角度センサとして用いることにより、部品点数の増加をさらに抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の転舵装置の一例の概要を示す構成図である。
【
図2】反力制御装置(FFA-ECU)と転舵制御装置(RWA-ECU)の機能構成の一例を説明するブロック図である。
【
図3】転舵装置の動作モードの一例の状態遷移図である。
【
図4】反力発生器処理ユニット(FFA-MCU)の動作の一例のフローチャートである。
【
図5】第1転舵力発生器処理ユニット(第1RWA-MCU)の動作の一例のフローチャートである。
【
図6】第2転舵力発生器処理ユニット(第2RWA-MCU)の動作の一例のフローチャートである。
【
図7】通常動作モードにおける動作の一例を説明するシーケンス図である。
【
図8】第1角度センサが異常である場合の動作の一例を説明するシーケンス図である。
【
図9】第1RWA-MCUが異常である場合の動作の第1例を説明するシーケンス図である。
【
図10】第1RWA-MCUが異常である場合の動作の第2例を説明するシーケンス図である。
【
図11】第2RWA-MCUが異常である場合の動作の一例を説明するシーケンス図である。
【
図12】第1電源が異常である場合の動作の一例を説明するシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
(構成)
図1は、実施形態のステアバイワイヤ式の転舵装置の一例の概要を示す構成図である。転舵装置は、ステアリングホイール1等を含む操舵機構における操作を、電気信号によって転舵輪8L及び8Rを転舵させる転舵機構に伝えるシステムである。
転舵装置は、
図1に示すように運転者が操舵を行う反力発生器(FFA)10と、転舵輪8L及び8Rを転舵させる転舵力発生器(RWA)20とを備える。
【0011】
反力発生器10と転舵力発生器20との間は機械的に分離されており、反力発生器10は、運転者によるステアリングホイール1の操作に基づいて旋回意思を検出すると同時に、路面からステアリングホイール1へ伝わる操舵反力を模擬的に発生させる。また、運転者の旋回意思を電気信号として転舵力発生器20に伝達する。
一方で転舵力発生器20は、反力発生器10から伝達され旋回意思に基づいて転舵輪8L及び8Rを転舵させるラック軸力を発生させる。
なお、反力発生器10及び転舵力発生器20との間にバックアップクラッチを設けて、反力発生器10と転舵力発生器20とが機械的に分離された状態と、機械的に連結された状態とを切り替えてもよい。
【0012】
反力発生器10は、ステアリングホイール1の操舵軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2に設けられた第1角度センサ11及び反力アクチュエータ12と、反力制御装置(FFA-ECU)13を備える。
転舵機構のピニオン軸4と操舵軸2との間は機械的に分離されている。転舵力発生器20は、転舵機構のピニオン軸4に連結されて転舵機構を転舵させる転舵アクチュエータ21と、転舵制御装置(RWA-ECU)22を備える。
【0013】
これら反力発生器10及び転舵力発生器20には、車両の各種情報(例えば車両の走行速度や、車輪速、加速度センサの検出結果)を授受する第1CAN(Controller Area Network)31が接続されている。
さらに、転舵装置は、反力発生器10と、転舵力発生器20と、第1CAN31とに電力を供給する第1電源34を備える。
図1及び
図2の破線は、電力供給ラインを示す。
【0014】
さらに転舵装置は、第1CAN31とは別個の第2CAN32と、第1電源34とは別個の第2電源35を備える。
転舵力発生器20は、第1電源34に加えて第2電源35からも電力の供給を受けることができる。これにより転舵力発生器20は、第1電源34及び第2電源35のどちらの電源系統に障害が発生しても、転舵アクチュエータ21の駆動を継続できる冗長構成を有する。
【0015】
また、転舵力発生器20に接続される第2CAN32は、第2電源35から電力が供給される。
これにより、第1電源34に障害が発生して第1CAN31に従属故障が発生しても、転舵力発生器20が、車両の各種情報を第2CAN32経由で受信できるように構成されている。
【0016】
さらに、反力発生器10と転舵力発生器20とは、専用CAN(Private Controller Area Network)33によって接続されている。
専用CANは、反力発生器10と転舵力発生器20との間の専用のネットワークであり、第1CAN31や第2CAN32の通信速度よりも高い通信速度を有するネットワークを利用できる。たとえば、第1CAN31や第2CAN32として、数百kbpsの通信速度を有するネットワークを利用し、専用CAN33として数Mbpsの通信速度を有するネットワークを利用してもよい。
専用CAN33及び第2CAN32は、それぞれ特許請求の範囲に記載の「第1ネットワーク」及び「第2ネットワーク」の一例である。
【0017】
反力発生器10の第1角度センサ11は、操舵軸2の回転角度(すなわちステアリングホイール1の操舵角)を検出する。第1角度センサ11は、検出した回転角度を表す第1角度信号θ1を反力制御装置13へ出力する。
反力アクチュエータ12は、操舵軸2に連結され、模擬的な操舵反力として操舵軸2に加える回転力を発生させる。反力アクチュエータ12は、例えば電動モータと、電動モータの回転速度を低下して電動モータの回転力を操舵軸2に伝達する減速ギアを含んでよい。ただし、反力アクチュエータ12はこの例に限定されず、様々な種類のアクチュエータを利用可能である。
【0018】
反力制御装置13は、少なくとも第1角度信号θ1に基づいて、操舵軸2に付与する模擬的な操舵反力を演算する。反力制御装置13は、演算した操舵反力を生じさせる駆動電流Idfを反力アクチュエータ12に供給する。
さらに反力制御装置13は、専用CAN33を経由して第1角度信号θ1を転舵制御装置22へ送信する。これにより、運転者の旋回意思が、反力発生器10から転舵力発生器20へ伝達される。
【0019】
また、操舵軸2には第1角度センサ11とは別個の第2角度センサ30が設けられている。
第2角度センサ30は、第2電源35から電力が供給され、操舵軸2の回転角度(すなわちステアリングホイール1の操舵角)を検出する。
第2角度センサ30は、検出した回転角度を表す第2角度信号θ2を、第2CAN32経由で転舵制御装置22へ送信する。
【0020】
これにより、反力発生器10に障害が発生しても、第1角度信号θ1に代えて第2角度信号θ2を送信することにより、運転者の旋回意思を転舵制御装置22に伝達できる。
また、第2CAN32を経由して送信することで、第1電源34に障害が発生しても、第2角度センサ30と第2CAN32が第2電源35によって動作するので、第2角度信号θ2を転舵制御装置22に伝達できる。
【0021】
第2角度センサ30としては、例えば、第1角度センサ11よりも精度や分解能が低いセンサを用いてもよい。例えば、第2角度センサ30は、横滑り防止装置(ESC:Electronic Stability Control)に使用される操舵角センサと兼用してもよい。このように既存の操舵角センサを第2角度センサ30として用いることにより、運転者の旋回意思を検出する冗長構成に要する部品点数やコストを低減できる。
【0022】
転舵アクチュエータ21は、転舵機構のピニオン軸4に連結され、転舵輪8L及び8Rを転舵させる転舵力を発生させる。転舵アクチュエータ21は、例えば電動モータと、電動モータの回転速度を低下して電動モータの回転力をピニオン軸4に伝達する減速ギアを含んでよい。ただし、転舵アクチュエータ21はこの例に限定されず、様々な種類のアクチュエータを利用可能である。例えば、ラックピニオン機構を用いることに代えて、ボールねじ機構を用いて電動モータの回転力を並進力に変換してラック5bに伝達してもよい。また例えば転舵アクチュエータとして、いわゆる電動油圧機構を用い、電動ポンプから圧送される作動油により駆動する油圧シリンダによって、転舵輪8L及び8Rを転舵させてもよい。要するに、転舵アクチュエータ21は、制御装置からの信号に基づいて転舵輪8L及び8Rを駆動させることができるものであればよい。
【0023】
ピニオン軸4は、ピニオンラック機構5、タイロッド6a及び6b及びハブユニット7a及び7bを介して転舵輪8L及び8Rに連結されている。ピニオンラック機構5は、転舵アクチュエータ21により回転駆動されるピニオン軸4に連結されたピニオン5aと、このピニオン5aに噛合するラック5bとを有する。ピニオン5aに伝達された回転駆動力は、ラック5bで車幅方向の直線的なラック軸力に変換されて、転舵輪8L及び8Rを転舵させる。
【0024】
転舵アクチュエータ21は冗長構成を有し、第1駆動電流Id1及び第2駆動電流Id2を含む2系統の駆動電流のいずれかが供給されれば動作を継続することができる。例えば、本実施形態の転舵アクチュエータ21は、一方の系統の第1駆動電流Id1が供給されるモータ巻線である第1巻線と、他方の第2駆動電流Id2が供給されるモータ巻線である第2巻線とを有する2重巻線モータである。
ただし、転舵アクチュエータ21は2重巻線モータに限定されるものではなく、例えば、第1駆動電流Id1及び第2駆動電流Id2でそれぞれ駆動されて、各々ラック軸力を供給する複数のアクチュエータを備えてもよい。
【0025】
転舵制御装置22は、第1電源34から供給される電力で動作して、反力制御装置13から受信した第1角度信号θ1に基づいて、運転者が意図する車両の目標旋回量(例えば、転舵輪8L及び8Rの目標転舵角)を推定し、目標旋回量に要する転舵アクチュエータ21の駆動力を計算する。
転舵制御装置22は、計算した駆動力を転舵アクチュエータ21に発生させる第1駆動電流Id1及び第2駆動電流Id2を生成する。このとき転舵制御装置22は、第1電源34から供給される電力から第1駆動電流Id1を生成し、第2電源35から供給される電力から第2駆動電流Id2を生成する。
【0026】
転舵制御装置22は、第1駆動電流Id1及び第2駆動電流Id2により発生する駆動力の合計が、目標旋回量に要する駆動力と等しくなるように第1駆動電流Id1及び第2駆動電流Id2を生成する。
例えば転舵制御装置22は、第1駆動電流Id1及び第2駆動電流Id2の比が所定比率となるように、第1駆動電流Id1及び第2駆動電流Id2を生成してよい。所定の比率は、例えば1:1であってもよくその他の比率であってもよい。
転舵制御装置22は、第1駆動電流Id1を転舵アクチュエータ21の第1巻線に供給する。また、第2駆動電流Id2を転舵アクチュエータ21の第2巻線に供給する。
【0027】
反力発生器10、第1電源34又は転舵制御装置22の障害により、第1角度信号θ1に基づく第1駆動電流Id1及び第2駆動電流Id2の生成ができない場合には、転舵制御装置22は、第2電源35から供給される電力により動作して、第2角度センサ30から受信した第2角度信号θ2に基づいて第2駆動電流Id2を算出する。例えば転舵制御装置22は、第2角度信号θ2に基づいて運転者が意図する車両の目標旋回量を推定し、目標旋回量に要する転舵アクチュエータ21の駆動力を計算する。
【0028】
転舵制御装置22は、第2角度信号θ2に基づいて算出した第2駆動電流Id2を、第2電源35から供給される電力から生成して、転舵アクチュエータ21の第2巻線に供給する。
第2角度信号θ2に基づいて算出される第2駆動電流Id2は、反力発生器10、第1電源34及び転舵制御装置22に障害がない場合(すなわち、第1角度信号θ1に基づく第1駆動電流Id1及び第2駆動電流Id2の生成ができる場合)の駆動電流の合計(Id1+Id2)よりも小さくてもよく等しくてもよい。例えば、反力発生器10、第1電源34及び転舵制御装置22に障害がない場合の第2駆動電流Id2の値と等しくてもよい。
【0029】
以上の構成により本実施形態の転舵装置は、反力発生器10、第1電源34又は転舵制御装置22の障害により、第1角度センサ11からの第1角度信号θ1に基づく駆動電流の生成ができなくても、第2角度センサ30からの第2角度信号θ2に基づいて転舵アクチュエータ21の駆動を継続することができる。これにより、障害が発生しても、運転者が車両を安全に停止するまで操舵機構を維持できる。
また、第2電源35又は第2角度センサ30に障害が発生しても、第1角度センサ11からの第1角度信号θ1に基づいて転舵アクチュエータ21の駆動を継続することができる。
これにより、反力発生器10と転舵力発生器20の構成の全体を冗長化しなくても運転者の旋回意思に応じた転舵力の発生する冗長構成を実現できる。
【0030】
次に、反力制御装置(FFA-ECU)13及び転舵制御装置(RWA-ECU)22の機能構成を説明する。
反力制御装置13及び転舵制御装置22は、それぞれ反力発生器10及び転舵力発生器20の動作を司る電子制御ユニット(Electronic Control Unit)であり、例えば、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含んだマイクロコントローラユニット(MCU:Micro Controller Unit)等のコンピュータを備えてよい。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)であってよい。
【0031】
記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
以下に説明する反力制御装置13及び転舵制御装置22の機能は、例えば反力制御装置13及び転舵制御装置22のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0032】
なお、反力制御装置13及び転舵制御装置22を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、反力制御装置13及び転舵制御装置22は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。例えば反力制御装置13及び転舵制御装置22はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0033】
図2は、反力制御装置13と転舵制御装置22の機能構成の一例を説明するブロック図である。
反力制御装置13は、角度センサ入力回路40と、第1CANインタフェース41と、専用CANインタフェース42と、反力発生器処理ユニット(以下「FFA-MCU」と表記する)43と、駆動回路44と、電源回路45とを備える。なお
図2においてインタフェースを「I/F」と表記する。
【0034】
一方で、転舵制御装置22は、専用CANインタフェース50と、第1CANインタフェース51と、第1転舵力発生器処理ユニット(以下「第1RWA-MCU」と表記する)52と、第1駆動回路53と、第1電源回路54とを備える。
さらに、転舵制御装置22は、第2CANインタフェース55と、第2転舵力発生器処理ユニット(以下「第2RWA-MCU」と表記する)56と、第2駆動回路57と、第2電源回路58とを備える。
【0035】
第1RWA-MCU52、第2RWA-MCU56及びFFA-MCU43は、それぞれ特許請求の範囲に記載の「第1コントローラ」、「第2コントローラ」及び「第3コントローラ」の一例である。専用CANインタフェース50及び第2CANインタフェース55は、それぞれ特許請求の範囲に記載の「第1インタフェース回路」及び「第2インタフェース回路」の一例である。
【0036】
反力制御装置13の角度センサ入力回路40は、第1角度センサ11から出力される第1角度信号θ1を、反力制御装置13に入力するための回路である。角度センサ入力回路40は、受信した第1角度信号θ1をFFA-MCU43に入力する。
第1CANインタフェース41は、FFA-MCU43を第1CAN31に接続するネットワークインタフェース回路である。
専用CANインタフェース42は、FFA-MCU43を専用CAN33に接続するネットワークインタフェース回路である。
【0037】
FFA-MCU43は、ステアリングホイール1へ伝わる操舵反力を制御するための処理ユニットであり、例えばマイクロコントローラユニットであってよい。ただし、FFA-MCU43は、マイクロコントローラユニットに限定されるものではなく、様々な種類、規模の処理ユニットを採用できる。
FFA-MCU43は、少なくとも第1角度信号θ1に基づいて、操舵軸2に付与する模擬的な操舵反力を演算する。反力制御装置13は、演算した操舵反力を反力アクチュエータ12に生じさせる電流指令値Irfを演算して駆動回路44に出力する。なお、FFA-MCU43は、第1角度信号θ1に加えて、第1CAN31を経由した車速信号に基づいて操舵反力を演算してもよい。
【0038】
駆動回路44は、電流指令値Irfに基づいて駆動電流Idfを生成し、反力アクチュエータ12に供給する。
電源回路45は、第1電源34から供給される電力から、第1角度センサ11と、角度センサ入力回路40と、第1CANインタフェース41と、専用CANインタフェース42と、FFA-MCU43と、駆動回路44の電源電圧を生成して、各々に電源電圧を供給する。
【0039】
さらに、FFA-MCU43は、第1角度センサ11から出力される第1角度信号θ1を、専用CAN33を経由して転舵制御装置22の第1RWA-MCU52へ送信する。
また、FFA-MCU43は、第1角度センサ11との間の通信が正常であるか否かを判定する。例えば、第1角度センサ11からの第1角度信号θ1を所定周期で受信していない場合や、第1角度信号θ1の信号波形が規格に沿っていない場合、受信信号が前回値よりもかけ離れている場合に、第1角度センサ11との間の通信が異常であると判定し、それ以外の場合に正常であると判定してよい。
FFA-MCU43は、第1角度センサ11との間の通信が正常であると判定した場合に、第1角度センサ11との通信ステータスを「正常」に設定し、異常であると判定した場合に、第1角度センサ11との通信ステータスを「異常」に設定する。
【0040】
また、FFA-MCU43は、第1角度センサ11が正常であるか否かを判定する。例えば、前回検出された第1角度信号θ1との差分が閾値よりも大きい場合に、第1角度センサ11が異常であると判定し、それ以外の場合に正常であると判定してよい。
FFA-MCU43は、第1角度センサ11が正常であると判定した場合に、第1角度センサ11のステータスを「正常」に設定し、異常であると判定した場合に、第1角度センサ11のステータスを「異常」に設定する。
【0041】
また、FFA-MCU43は、FFA-MCU43の自己診断を行い、FFA-MCU43が正常であるか否かを判定する。例えば、FFA-MCU43は、演算処理装置であるコアの正常性のチェックや、FFA-MCU43のROMやRAMのメモリチェックを行うことにより、FFA-MCU43が正常であるか否かを判定する。
FFA-MCU43は、FFA-MCU43が正常であると判定した場合に、FFA-MCU43のステータスを「正常」に設定し、異常であると判定した場合に、FFA-MCU43のステータスを「異常」に設定する。
【0042】
FFA-MCU43は、第1角度センサ11との通信ステータスや第1角度センサ11のステータスを示すステータス情報Sf1を、転舵制御装置22の第1RWA-MCU52へ送信する。
また、FFA-MCU43は、FFA-MCU43のステータスを示すステータス情報Sf2を、専用CAN33を経由して第1RWA-MCU52へ送信する。
【0043】
また、FFA-MCU43は、第1RWA-MCU52のステータスが「正常」又は「異常」のいずれであるかを示すステータス情報Sr11と、第2RWA-MCU56のステータスが「正常」又は「異常」のいずれであるかを示すステータス情報Sr13を、専用CAN33を経由して転舵制御装置22の第1RWA-MCU52から受信する。
FFA-MCU43は、ステータス情報Sr11に基づいて第1RWA-MCU52のステータスを判定し、ステータス情報Sr13に基づいて第2RWA-MCU56のステータスを判定する。
【0044】
FFA-MCU43は、第1RWA-MCU52又は第2RWA-MCU56の少なくとも一方が異常の場合には、これらの異常を運転者に知らせる所定の警報制御を行う。
例えばFFA-MCU43は、反力アクチュエータ12による操舵反力の発生を停止する(すなわち反力アクチュエータ12の制御を停止する)ことによって、異常の発生を運転者に警報してもよい。
【0045】
例えばFFA-MCU43は、反力アクチュエータ12を駆動して触覚効果を生成し、ステアリングホイール1を介して触覚効果を運転者に与えることによって警報を発生してもよい。FFA-MCU43は、例えば反力アクチュエータ12を駆動してステアリングホイール1を振動させることによって触覚効果を生成してよい。この場合、警報であることが分かり易いように振動のオンオフを反復してもよい。例えば所定周期で振動のオンオフを反復してもよい。
【0046】
次に、転舵制御装置22の専用CANインタフェース50は、第1RWA-MCU52を専用CAN33に接続するネットワークインタフェース回路である。
第1CANインタフェース51は、第1RWA-MCU52を第1CAN31に接続するネットワークインタフェース回路である。
【0047】
第1RWA-MCU52は、転舵輪8L及び8Rを転舵する転舵力を制御するための処理ユニットであり、例えばマイクロコントローラユニットであってよい。ただし、第1RWA-MCU52は、マイクロコントローラユニットに限定されるものではなく、様々な種類、規模の処理ユニットを採用できる。第2RWA-MCU56も同様である。
【0048】
第1RWA-MCU52は、FFA-MCU43から受信した第1角度信号θ1に基づいて、運転者が意図する車両の目標旋回量(例えば、転舵輪8L及び8Rの目標転舵角)を推定し、推定した目標旋回量に要する転舵アクチュエータ21の駆動力を計算する。
第1RWA-MCU52は、計算した駆動力を転舵アクチュエータ21に発生させる電流指令値を演算する。
【0049】
上記のとおり、転舵アクチュエータ21は冗長構成を有し、複数系統の駆動電流で駆動される。例えば、本実施形態では、一方の系統の第1駆動電流Id1が供給されるモータ巻線である第1巻線21aと、他方の系統の第2駆動電流Id2が供給されるモータ巻線である第2巻線21bとを有する。このため、第1RWA-MCU52は、第1巻線21aに対する第1電流指令値Ir1と第2巻線21bに対する第2電流指令値Ir2とを決定する。第1電流指令値Ir1及び第2電流指令値Ir2は、それぞれ特許請求の範囲に記載の「第1駆動信号」及び「第2駆動信号」の一例である。
【0050】
第1RWA-MCU52は、第1巻線21aと第2巻線21bにより生じる駆動力の合計が、目標旋回量に要する駆動力と等しくなるように、第1電流指令値Ir1と第2電流指令値Ir2を決定する。例えば、第1RWA-MCU52は、第1電流指令値Ir1と第2電流指令値Ir2との比が所定比率となるように第1電流指令値Ir1と第2電流指令値Ir2を決定してよい。
なお、目標旋回量に要する駆動力の50%を第1駆動電流Id1により発生する場合には、第1RWA-MCU52は第1電流指令値Ir1だけを演算してもよい。この場合には、第1電流指令値Ir1に基づいて第2巻線21bに供給される第2駆動電流Id2を生成できる。
【0051】
第1RWA-MCU52は、第1電流指令値Ir1を第1駆動回路53に出力する。
また、第1RWA-MCU52は、第2電流指令値Ir2を示す駆動要求信号Ircをシリアル通信経由で第2RWA-MCU56へ送信する。なお、目標旋回量に要する駆動力の50%を第1駆動電流Id1により発生する場合には、第1RWA-MCU52は、第1電流指令値Ir1を示す駆動要求信号Ircを第2RWA-MCU56へ送信してもよい。
【0052】
第1駆動回路53は、第1RWA-MCU52から出力される第1電流指令値Ir1に基づいて第1駆動電流Id1を生成し、転舵アクチュエータ21の第1巻線21aに供給する。
第1電源回路54は、第1電源34から供給される電力から専用CANインタフェース50と、第1CANインタフェース51と、第1RWA-MCU52と、第1駆動回路53の電源電圧を生成し、各々に電源電圧を供給する。したがって、第1駆動回路53から出力される第1駆動電流Id1は、第1電源34から供給される電力から生成される。
【0053】
さらに、第1RWA-MCU52は、第1RWA-MCU52の自己診断を行い、第1RWA-MCU52が正常であるか否かを判定する。
第1RWA-MCU52は、第1RWA-MCU52が正常であると判定した場合に、第1RWA-MCU52のステータスを「正常」に設定し、異常であると判定した場合に、第1RWA-MCU52のステータスを「異常」に設定する。
【0054】
また第1RWA-MCU52は、専用CAN33を経由するFFA-MCU43との間の通信が正常であるか否かを判定する。例えば第1RWA-MCU52は、FFA-MCU43からの信号を所定周期で受信していない場合や、専用CAN33の信号波形が規格に沿っていない場合に専用CAN33を経由する通信が異常であると判定し、それ以外の場合に正常であると判定してよい。
第1RWA-MCU52は、専用CAN33を経由する通信が正常であると判定した場合に、専用CAN33のステータスを「正常」に設定し、異常であると判定した場合に、専用CAN33のステータスを「異常」に設定する。
【0055】
また第1RWA-MCU52は、FFA-MCU43から受信したステータス情報Sf1及びSf2に基づいて、反力発生器10が正常であるか否かを判定する。ステータス情報Sf1及びSf2の両方が「正常」を示す場合に、第1RWA-MCU52は、反力発生器10のステータスを「正常」に設定し、ステータス情報Sf1又はSf2のいずれかが「異常」を示す場合に、反力発生器10のステータスを「異常」に設定する。
【0056】
第1RWA-MCU52は、第1RWA-MCU52と専用CAN33のステータスに基づいてステータス情報Sr11を生成する。ステータス情報Sr11は、第1RWA-MCU52のステータスが「正常」又は「異常」のいずれであるかを示す。
第1RWA-MCU52と専用CAN33の両方のステータスが正常である場合、第1RWA-MCU52は、第1RWA-MCU52のステータスが「正常」であることを示すステータス情報Sr11を生成する。
【0057】
第1RWA-MCU52又は専用CAN33のいずれかのステータスが異常である場合、第1RWA-MCU52は、第1RWA-MCU52のステータスが「異常」であることを示すステータス情報Sr11を生成する。
また、第1RWA-MCU52は、反力発生器10のステータスを示すステータス情報Sr12を生成する。
第1RWA-MCU52は、ステータス情報Sr11とSr12とをシリアル通信によって第2RWA-MCU56へ送信する。
【0058】
また、第1RWA-MCU52は、シリアル通信を経由する第2RWA-MCU56との通信が正常であるか否かを判定する。例えば第1RWA-MCU52は、第2RWA-MCU56からの信号を所定周期で受信していない場合や、シリアル通信の信号波形が規格に沿っていない場合にシリアル通信が異常であると判定し、それ以外の場合に正常であると判定してよい。
【0059】
また第1RWA-MCU52は、第2RWA-MCU56のステータスが「正常」又は「異常」のいずれであるかを示すステータス情報Sr2を、シリアル通信を経由して第2RWA-MCU56から受信する。
第1RWA-MCU52は、シリアル通信の正常性の判定結果とステータス情報Sr2に基づいてステータス情報Sr13を生成する。ステータス情報Sr13は、第2RWA-MCU56のステータスが「正常」又は「異常」のいずれであるかを示す。
【0060】
第2RWA-MCU56のステータスとシリアル通信の両方が正常である場合、第1RWA-MCU52は、第2RWA-MCU56のステータスが「正常」であることを示すステータス情報Sr13を生成する。
第2RWA-MCU56のステータス又はシリアル通信のいずれかが異常である場合、第1RWA-MCU52は、第2RWA-MCU56のステータスが「異常」であることを示すステータス情報Sr13を生成する。
第1RWA-MCU52は、専用CAN33を経由してステータス情報Sr11、Sr13をFFA-MCU43へ送信する。
【0061】
第2CANインタフェース55は、第2RWA-MCU56を第2CAN32に接続するネットワークインタフェース回路である。
第2RWA-MCU56は、シリアル通信を経由して第1RWA-MCU52から、第1RWA-MCU52のステータスを示すステータス情報Sr11と、反力発生器10のステータスを示すステータス情報Sr12と、駆動要求信号Ircを受信する。
【0062】
また、第2RWA-MCU56は、第2RWA-MCU56の自己診断を行い、第2RWA-MCU56が正常であるか否かを判定する。第2RWA-MCU56は、第2RWA-MCU56が正常であると判定した場合に、第2RWA-MCU56のステータスを「正常」に設定する。
第2RWA-MCU56は、異常であると判定した場合に、第2RWA-MCU56のステータスを「異常」に設定し、転舵アクチュエータ21の第2巻線21bへ第2駆動電流Id2を供給する第2駆動回路57の制御を停止する。
第2RWA-MCU56は、第2RWA-MCU56のステータスが「正常」又は「異常」のいずれであるかを示すステータス情報Sr2を生成して、シリアル通信を経由して第1RWA-MCU52へ送信する。
【0063】
また、第2RWA-MCU56は、シリアル通信を経由する第1RWA-MCU52との通信が正常であるか否かを判定する。例えば第2RWA-MCU56は、第1RWA-MCU52からの信号を所定周期で受信していない場合や、シリアル通信の信号波形が規格に沿っていない場合にシリアル通信が異常であると判定し、それ以外の場合に正常であると判定してよい。
【0064】
第2RWA-MCU56は、シリアル通信が正常であり、且つステータス情報Sr11が示す第1RWA-MCU52のステータスが正常である場合に、第1RWA-MCU52のステータスを「正常」に設定する。シリアル通信が異常であるか、ステータス情報Sr11が示すステータスが異常である場合に、第1RWA-MCU52のステータスを「異常」に設定する。
【0065】
第2RWA-MCU56は、反力発生器10、第1RWA-MCU52及び第2RWA-MCU56のステータスに応じて転舵装置の駆動モードを切り替える。
反力発生器10、第1RWA-MCU52及び第2RWA-MCU56の全てのステータスが正常である場合、すなわち、反力発生器10、第1RWA-MCU52、第2RWA-MCU56、第1電源34、第2電源35のいずれにも故障が発生していない場合、転舵装置は「通常動作モード」で動作する。
【0066】
通常動作モードでは、第2RWA-MCU56は通常制御を実施する。第2RWA-MCU56は、シリアル通信を介して第1RWA-MCU52から受信した駆動要求信号Ircの値に応じて第2電流指令値Ir2を設定する。
例えば、第2RWA-MCU56は、駆動要求信号Ircの値を第2電流指令値Ir2として設定してよい。第2RWA-MCU56は、第2電流指令値Ir2を第2駆動回路57へ出力する。
【0067】
なお、第1RWA-MCU52は、駆動要求信号Ircに代えて、FFA-MCU43から受信した第1角度信号θ1を第2RWA-MCU56へ送信してもよい。
第2RWA-MCU56は、受信した第1角度信号θ1に基づいて運転者が意図する車両の目標旋回量を推定し、推定した目標旋回量に要する転舵アクチュエータ21の駆動力を計算して、第2巻線21bで分担する駆動力に応じた第2電流指令値Ir2を設定してよい。
【0068】
第2駆動回路57は、第2RWA-MCU56から出力される第2電流指令値Ir2に基づいて第2駆動電流Id2を生成し、転舵アクチュエータ21の第2巻線21bに供給する。
第2電源回路58は、第2電源35から供給される電力から第2CANインタフェース55と、第2RWA-MCU56と、第2駆動回路57の電源電圧を生成して、各々に電源電圧を供給する。したがって、第2駆動回路57から出力される第2駆動電流Id2は、第2電源35から供給される電力から生成される。
【0069】
以上のように、通常動作モードでは転舵アクチュエータ21の第1巻線21aと第2巻線21bとにそれぞれ第1駆動電流Id1と第2駆動電流Id2とが供給されて、第1駆動電流Id1と第2駆動電流Id2を合計した駆動電流によって転舵アクチュエータ21が駆動される。
【0070】
一方で、反力発生器10、第1RWA-MCU52、又は第2RWA-MCU56のいずれかのステータスが異常である場合、すなわち、反力発生器10、第1RWA-MCU52、第2RWA-MCU56、第1電源34、第2電源35のいずれかに故障が発生した場合、転舵装置は「故障時動作モード」で動作する。
【0071】
第2RWA-MCU56又は第2電源35のいずれかに故障が発生した場合、上記のとおり第2駆動電流Id2を供給する第2駆動回路57が停止する。
また、反力発生器10、第1RWA-MCU52、第1電源34のいずれかに故障が発生した場合、第2RWA-MCU56は異常時制御を実施する。異常時制御では、第2RWA-MCU56は第2CAN32を介して第2角度センサ30から第2角度信号θ2を受信する。
【0072】
第2RWA-MCU56は、第2角度信号θ2に応じて第2電流指令値Ir2を設定する。例えば、第2RWA-MCU56は、第2角度信号θ2に基づいて運転者が意図する車両の目標旋回量を推定し、目標旋回量に要する転舵アクチュエータ21の駆動力を計算する。第2RWA-MCU56は、計算した駆動力を転舵アクチュエータ21に発生させる第2電流指令値Ir2を演算する。
【0073】
第2駆動回路57は、第2RWA-MCU56から出力される第2電流指令値Ir2に基づいて第2駆動電流Id2を生成し、転舵アクチュエータ21の第2巻線21bに供給する。
以上のように、故障時動作モードでは、転舵アクチュエータ21の第2巻線21bのみに第2駆動電流Id2が供給されて、第2駆動電流Id2によって転舵アクチュエータ21が駆動される。
【0074】
このため、故障時動作モードにおける第2駆動電流Id2が、通常動作モードにおける第1駆動電流Id1と第2駆動電流Id2の合計よりも小さければ、故障時動作モードで発生する転舵力は、通常動作モードで発生する転舵力よりも小さくなる。
例えば、通常動作モードにおいて第1駆動電流Id1と第2駆動電流Id2とが等しく、通常動作モードにおける第2駆動電流Id2と故障時動作モードにおける第2駆動電流Id2が等しい場合、故障時動作モードで発生する転舵力は、通常動作モードで発生する転舵力の50%となる。
【0075】
図3は、転舵装置の動作モードの一例の状態遷移図である。車両のイグニション(IGN)キーが操作されて転舵装置の電源がオンになると、転舵装置の動作モードは初期化モードST1に遷移する。
初期化モードST1では、FFA-MCU43、第1RWA-MCU52、第2RWA-MCU56は、起動処理と、各部のシステム診断を行う。
【0076】
システム診断では、上述したFFA-MCU43、第1RWA-MCU52、第2RWA-MCU56の自己診断と、第1角度センサ11、第1角度センサ11との間の通信、専用CAN33、シリアル通信が正常であるか否かの判定を行う。
初期化が正常に終了すると、動作モードは通常動作モードST2へ遷移する。一方で、反力発生器10、第1RWA-MCU52、第2RWA-MCU56、第1電源34、第2電源35のいずれの故障が検出されると、動作モードは故障時動作モードST3へ遷移する。
【0077】
通常動作モードST2では、FFA-MCU43、第1RWA-MCU52、第2RWA-MCU56は、前述のシステム診断と同様のシステム診断を定期的に実施する。
診断の結果、故障が検出されなければ第2RWA-MCU56は通常制御を実施する。通常制御では、第1駆動電流Id1と第2駆動電流Id2とが供給されて、第1駆動電流Id1と第2駆動電流Id2を合計した駆動電流によって転舵アクチュエータ21が駆動される。
故障が検出されると、動作モードは故障時動作モードST3へ遷移する。
【0078】
故障時動作モードST3では、第2RWA-MCU56は異常時制御を実施する。
異常時制御では、例えば通常動作モードで発生する転舵力の50%の転舵力を発生するよう転舵アクチュエータを駆動制御する。
第1RWA-MCU52と第1電源34の故障の場合には、第1駆動電流Id1を供給する第1駆動回路52が停止し、第2駆動電流Id2を供給する第2駆動回路57が転舵アクチュエータに駆動電流を供給する。
第2RWA-MCU56と第2電源35の故障の場合には、第2駆動電流Id2を供給する第2駆動回路57が停止し、第1駆動電流Id2を供給する第1駆動回路52が転舵アクチュエータに駆動電流を供給する。
すなわち、異常モードST3では、転舵アクチュエータ21を構成する第1巻線21aと第2巻線21bのどちらか一方を用いて、転舵アクチュエータ21を駆動する。したがって、異常モードST3では、転舵アクチュエータ21は、通常動作モードST2の50%の力を発生させる。
IGNキーが操作されて転舵装置の電源がオフになると処理は終了する。
【0079】
(動作)
次に、実施形態の転舵装置の動作について説明する。
図4は、FFA-MCU43の動作の一例のフローチャートである。
ステップS10においてFFA-MCU43は、FFA-MCU43の自己診断を行い、FFA-MCU43が正常であるか否かを判定する。FFA-MCU43が正常である場合(ステップS10:Y)に処理はステップS12に進む。FFA-MCU43が正常でない場合(ステップS10:N)に処理はステップS11に進む。
ステップS11においてFFA-MCU43は、FFA-MCU43のステータスを「異常」に設定する。その後に処理はステップS22へ進む。
【0080】
ステップS12においてFFA-MCU43は、角度センサ入力回路40を介して第1角度センサ11から出力される第1角度信号θ1を受信する。
ステップS13においてFFA-MCU43は、第1角度センサ11との間の通信が正常であるか否かを判定する。通信が正常である場合(ステップS13:Y)に処理はステップS15に進む。通信が正常でない場合(ステップS13:N)に処理はステップS14に進む。
ステップS14においてFFA-MCU43は、第1角度センサ11との通信ステータスを「異常」に設定する。その後に処理はステップS22へ進む。
【0081】
ステップS15においてFFA-MCU43は、第1角度センサ11が正常であるか否かを判定する。第1角度センサ11が正常である場合(ステップS15:Y)に処理はステップS17に進む。第1角度センサ11が正常でない場合(ステップS15:N)に処理はステップS16に進む。
ステップS16においてFFA-MCU43は、第1角度センサ11のステータスを「異常」に設定する。その後に処理はステップS22へ進む。
【0082】
ステップS17においてFFA-MCU43は、転舵制御装置22の第1RWA-MCU52のステータスを示すステータス情報Sr11と、第2RWA-MCU56のステータスを示すステータス情報Sr13を、専用CAN33を経由して第1RWA-MCU52から受信する。
ステップS18においてFFA-MCU43は、第1RWA-MCU52及び第2RWA-MCU56が正常であるか否かを判定する。
【0083】
第1RWA-MCU52及び第2RWA-MCU56の両方が正常である場合(ステップS18:Y)に処理はステップS19に進む。第1RWA-MCU52又は第2RWA-MCU56のいずれかが異常である場合(ステップS18:N)に処理はステップS20に進む。
ステップS19においてFFA-MCU43は、通常制御を行う。通常制御においてFFA-MCU43は、少なくとも第1角度信号θ1に基づいて操舵軸2に付与する模擬的な操舵反力を演算し、演算した操舵反力を反力アクチュエータ12に生じさせる電流指令値Irfを演算して駆動回路44に出力する。その後に処理はステップS21へ進む。
【0084】
ステップS20においてFFA-MCU43は、異常時制御を行う。異常時制御においてFFA-MCU43は、第1RWA-MCU52又は第2RWA-MCU56の異常を運転者に知らせる所定の警報制御を行う。
例えばFFA-MCU43は、反力アクチュエータ12による操舵反力の発生を停止してもよい。例えばFFA-MCU43は、反力アクチュエータ12を駆動して触覚効果を生成することにより警報を発生してもよい。その後に処理はステップS21へ進む。
【0085】
ステップS21においてFFA-MCU43は、第1角度信号θ1を、専用CAN33を経由して転舵制御装置22の第1RWA-MCU52へ送信する。
ステップS22においてFFA-MCU43は、第1角度センサ11との通信ステータスや第1角度センサ11のステータスを示すステータス情報Sf1を、専用CAN33を経由して第1RWA-MCU52へ送信する。
ステップS23においてFFA-MCU43は、FFA-MCU43のステータスを示すステータス情報Sf2を、専用CAN33を経由して第1RWA-MCU52へ送信する。その後に処理は終了する。
【0086】
図5は、第1RWA-MCU52の動作の一例のフローチャートである。ステップS30において第1RWA-MCU52は、第1RWA-MCU52の自己診断を行い、第1RWA-MCU52が正常であるか否かを判定する。第1RWA-MCU52が正常である場合(ステップS30:Y)に処理はステップS32に進む。第1RWA-MCU52が正常でない場合(ステップS30:N)に処理はステップS31に進む。
ステップS31において第1RWA-MCU52は、第1RWA-MCU52のステータスを「異常」に設定する。その後に処理はステップS44へ進む。
【0087】
ステップS32において第1RWA-MCU52は、専用CAN33を経由してFFA-MCU43と通信する。
ステップS33において第1RWA-MCU52は、専用CAN33を経由するFFA-MCU43との間の通信が正常であるか否かを判定する。専用CAN33の通信が正常である場合(ステップS33:Y)に処理はステップS35に進む。専用CAN33の通信が正常でない場合(ステップS33:N)に処理はステップS34に進む。
ステップS34において第1RWA-MCU52は、専用CAN33のステータスを「異常」に設定する。その後に処理はステップS44へ進む。
【0088】
ステップS35において第1RWA-MCU52は、FFA-MCU43から受信したステータス情報Sf1及びSf2に基づいて、反力発生器10が正常であるか否かを判定する。反力発生器10が正常で場合(ステップS35:Y)に処理はステップS37に進む。反力発生器10が正常でない場合(ステップS35:N)に処理はステップS36に進む。
ステップS36において第1RWA-MCU52は、反力発生器10のステータスを「異常」に設定する。その後に処理はステップS44へ進む。
【0089】
ステップS37において第1RWA-MCU52は、通常制御を行う。通常制御において第1RWA-MCU52は、FFA-MCU43から受信した第1角度信号θ1に基づいて、運転者が意図する車両の目標旋回量を推定し、推定した目標旋回量に要する転舵アクチュエータ21の駆動力を計算する。
第1RWA-MCU52は、転舵アクチュエータ21の第1巻線21aと第2巻線21bにより生じる駆動力の合計が、目標旋回量に要する駆動力と等しくなるように、第1巻線21aに対する第1電流指令値Ir1と第2巻線21bに対する第2電流指令値Ir2を決定する。
ステップS38において第1RWA-MCU52は、第1電流指令値Ir1を第1駆動回路53に出力する。
【0090】
ステップS39において第1RWA-MCU52は、シリアル通信を経由して第2RWA-MCU56と通信する。
ステップS40において第1RWA-MCU52は、シリアル通信を経由する第2RWA-MCU56との通信が正常であるか否かを判定する。シリアル通信が正常である場合(ステップS40:Y)に処理はステップS42に進む。シリアル通信がない場合(ステップS40:N)に処理はステップS41に進む。
【0091】
ステップS41において第1RWA-MCU52は、第2RWA-MCU56のステータスを「異常」に設定する。その後に処理はステップS44へ進む。
ステップS42において第1RWA-MCU52は、第2RWA-MCU56から受信したステータス情報Sr2に基づいて、第2RWA-MCU56が正常であるか否かを判定する。第2RWA-MCU56が正常である場合(ステップS42:Y)に処理はステップS43に進む。第2RWA-MCU56が正常でない場合(ステップS42:N)に処理はステップS41に進む。この場合も第2RWA-MCU56のステータスは「異常」に設定され。その後に処理はステップS44へ進む。
【0092】
ステップS43において第1RWA-MCU52は、第2電流指令値Ir2を示す駆動要求信号Ircをシリアル通信経由で第2RWA-MCU56へ送信する。その後に処理はステップS44へ進む。
ステップS44において第1RWA-MCU52は、ステータス情報Sr11、Sr12をシリアル通信経由で第2RWA-MCU56へ送信する。
ステップS45において第1RWA-MCU52は、ステータス情報Sr11、Sr13を専用CAN33経由でFFA-MCU43へ送信する。その後に処理は終了する。
【0093】
図6は、第2RWA-MCU56の動作の一例のフローチャートである。ステップS50において第2RWA-MCU56は、第2RWA-MCU56の自己診断を行い、第2RWA-MCU56が正常であるか否かを判定する。第2RWA-MCU56が正常である場合(ステップS50:Y)に処理はステップS52に進む。第2RWA-MCU56が正常でない場合(ステップS50:N)に処理はステップS51に進む。
ステップS51において第2RWA-MCU56は、第2RWA-MCU56のステータスを「異常」に設定その後に処理はステップS55へ進む。
【0094】
ステップS52において第2RWA-MCU56は、シリアル通信を経由して第1RWA-MCU52と通信する。
ステップS53において第2RWA-MCU56は、シリアル通信を経由する第1RWA-MCU52との通信が正常であるか否かを判定する。シリアル通信が正常である場合(ステップS53:Y)に処理はステップS55に進む。シリアル通信が正常でない場合(ステップS53:N)に処理はステップS54に進む。
【0095】
ステップS54において第2RWA-MCU56は、第1RWA-MCU52のステータスを「異常」に設定する。また、第1RWA-MCU52から受信したステータス情報Sr11が示す第1RWA-MCU52のステータスが異常である場合にも、第2RWA-MCU56は、第1RWA-MCU52のステータスを「異常」に設定する。その後に処理はステップS55へ進む。
【0096】
ステップS55において第2RWA-MCU56は、第1RWA-MCU52から受信したステータス情報Sr11(反力発生器10のステータス)と、第1RWA-MCU52のステータスと、第2RWA-MCU56のステータスに基づいて、動作モードを設定する。
反力発生器10、第1RWA-MCU52及び第2RWA-MCU56の全てのステータスが正常である場合、動作モードを通常動作モードに設定して(ステップS55:Y)処理はステップS56に進む。
【0097】
反力発生器10、第1RWA-MCU52、又は第2RWA-MCU56のいずれかのステータスが異常である場合、動作モードを故障時動作モードに設定して(ステップS55:N)処理はステップS57に進む。
ステップS56において第2RWA-MCU56は通常制御を行う。通常制御において第2RWA-MCU56は、第1RWA-MCU52から受信した駆動要求信号Ircの値に応じて第2電流指令値Ir2を設定し、第2駆動回路57へ出力する。その後に処理はステップS62へ進む。
【0098】
一方でステップS57において第2RWA-MCU56は、第2RWA-MCU56のステータスが正常であるか否かを判定する。第2RWA-MCU56のステータスが正常である場合(ステップS57:Y)に処理はステップS58に進む。第2RWA-MCU56のステータスが正常でない場合(ステップS57:N)に処理はステップS61に進む。
ステップS58において第2RWA-MCU56は、第2CAN32を介して第2角度センサ30から第2角度信号θ2を受信する。
【0099】
ステップS59において第2RWA-MCU56は、異常時制御を行う。異常時制御において第2RWA-MCU56は、第2角度信号θ2に基づいて運転者が意図する車両の目標旋回量を推定し、目標旋回量に要する転舵アクチュエータ21の駆動力を計算する。第2RWA-MCU56は、計算した駆動力を転舵アクチュエータ21に発生させる第2電流指令値Ir2を演算する。
【0100】
ステップS60において第2RWA-MCU56は、第2電流指令値Ir2を第2駆動回路57へ出力する。その後に処理はステップS62へ進む。
ステップS61において第2RWA-MCU56は、第2駆動回路57の制御を停止する。その後に処理はステップS62へ進む。
ステップS62において第2RWA-MCU56は、第2RWA-MCU56のステータス情報Sr2を生成して、シリアル通信を経由して第1RWA-MCU52へ送信する。その後に処理は終了する。
【0101】
(通常動作モードにおける動作)
次に、通常動作モードにおける転舵装置の動作を説明する。
図7は、通常動作モードにおける動作の一例を説明するシーケンス図である。
ステップS100~S102において、FFA-MCU43、第1RWA-MCU52及び第2RWA-MCU56は自己診断を行う。
【0102】
ステップS103において第1角度センサ11は、第1角度信号θ1をFFA-MCU43へ送信する。
ステップS104においてFFA-MCU43は、第1角度センサ11との通信、並びに第1角度センサ11が正常であると判定する。
ステップS105においてFFA-MCU43は、専用CAN33経由で第1角度信号θ1、ステータス情報Sf1、Sf2を第1RWA-MCU52へ送信する。
【0103】
ステップS106において第1RWA-MCU52は、反力発生器10が正常であると判定する。
ステップS107において第1RWA-MCU52は、通常制御を行う。通常制御において第1RWA-MCU52は、第1角度信号θ1に基づいて第1電流指令値Ir1及び駆動要求信号Ircを生成する。
ステップS108において第1RWA-MCU52は、第1電流指令値Ir1を第1駆動回路53に出力する。
【0104】
ステップS109において第1RWA-MCU52は、シリアル通信経由で第1電流指令値Ir1、ステータス情報Sr11、Sr12を第2RWA-MCU56へ送信する。
ステップS110において第2RWA-MCU56は、シリアル通信の通信結果及びステータス情報Sr11に基づいて第1RWA-MCU52が正常であると判定する。
ステップS111において第2RWA-MCU56は、通常制御を行う。通常制御において第2RWA-MCU56は、駆動要求信号Ircの値に応じて第2電流指令値Ir2を設定する。
【0105】
ステップS112において第2RWA-MCU56は、第2電流指令値Ir2を第2駆動回路57へ出力する。
ステップS113において第2RWA-MCU56は、シリアル通信経由でステータス情報Sr2を第1RWA-MCU52へ送信する。
ステップS114において第1RWA-MCU52は、シリアル通信の通信結果及びステータス情報Sr2に基づいて第2RWA-MCU56が正常であると判定する。
【0106】
ステップS115において第1RWA-MCU52は、専用CAN33経由でステータス情報Sr11、Sr13をFFA-MCU43へ送信する。
ステップS116においてFFA-MCU43は、通常制御を行う。通常制御においてFFA-MCU43は、少なくとも第1角度信号θ1に基づいて操舵軸2に付与する模擬的な操舵反力を演算し、演算した操舵反力を反力アクチュエータ12に生じさせる。
【0107】
(故障時動作モードにおける動作)
次に、故障時動作モードにおける転舵装置の動作を説明する。
図8は、第1角度センサ11が異常である場合の動作の一例を説明するシーケンス図である。
ステップS200~S203の動作は、
図7のステップS100~S103の動作と同様である。
ステップS204においてFFA-MCU43は、第1角度センサ11が異常であると判定する。
【0108】
ステップS205においてFFA-MCU43は、専用CAN33経由でステータス情報Sf1、Sf2を第1RWA-MCU52へ送信する。ステータス情報Sf1は、第1角度センサ11の異常を示す。なお、ステップS204で、第1角度センサ11との通信が異常であると判定した場合も同様である。
【0109】
ステップS206において第1RWA-MCU52は、ステータス情報Sf1に基づいて反力発生器10が異常であると判定する。このため第1RWA-MCU52は、第1電流指令値Ir1及び駆動要求信号Ircを生成せずに、ステップS207でステータス情報Sr11、Sr12をシリアル通信経由で第2RWA-MCU56へ送信する。ステータス情報Sr12は、反力発生器10の異常を示す。
ステップS208において第2RWA-MCU56は、反力発生器10が異常であるため動作モードを故障時動作モードに切り換える。
【0110】
ステップS209において第2RWA-MCU56は、第2CAN32を介して第2角度センサ30から第2角度信号θ2を受信する。
ステップS210において第2RWA-MCU56は、異常時制御を行う。異常時制御において第2RWA-MCU56は、第2角度信号θ2に基づいて第2電流指令値Ir2を演算する。
ステップS211において第2RWA-MCU56は、第2電流指令値Ir2を第2駆動回路57へ出力する。
【0111】
なお、
図8の例において、第1角度センサ11の異常に代えて、FFA-MCU43の異常が検出された場合には、ステップS205において、FFA-MCU43の異常を示すステータス情報Sf2を、FFA-MCU43から第1RWA-MCU52へ送信する。ステップS206において第1RWA-MCU52は、ステータス情報Sf2に基づいて反力発生器10が異常であると判定する。
【0112】
図9は、第1RWA-MCU52が異常である場合の動作の第1例を説明するシーケンス図である。
ステップS300の動作は、
図7のステップS100の動作と同様である。
ステップS301において、第1RWA-MCU52は自己診断を行い、第1RWA-MCU52のステータスを「異常」に設定する。
ステップS302~S306の動作は、
図7のステップS102~S106の動作と同様である。
【0113】
ステップS307において第1RWA-MCU52は、第1RWA-MCU52のステータスが異常であるために、第1電流指令値Ir1及び駆動要求信号Ircを生成せずに、ステータス情報Sr11、Sr12をシリアル通信経由で第2RWA-MCU56へ送信する。ステータス情報Sr11は、第1RWA-MCU52の異常を示す。
ステップS308において第2RWA-MCU56は、ステータス情報Sr11に基づいて第1RWA-MCU52が異常であると判定する。
【0114】
ステップS309において第2RWA-MCU56は、第1RWA-MCU52が異常であるため動作モードを故障時動作モードに切り換える。
ステップS310~S312の動作は
図8のステップSS209~S211の動作と同様である。
ステップS313において第1RWA-MCU52は、専用CAN33経由でステータス情報Sr11、Sr13をFFA-MCU43へ送信する。ステータス情報Sr11は、第1RWA-MCU52の異常を示す。
ステップS314においてFFA-MCU43は、異常時制御を行う。異常時制御においてFFA-MCU43は、第1RWA-MCU52又は第2RWA-MCU56の異常を運転者に知らせる所定の警報制御を行う。
【0115】
なお、
図8の例において、第1RWA-MCU52の代わりに、専用CAN33の通信の異常が検出された場合も、ステータス情報Sf11は、第1RWA-MCU52のステータスの異常を示す値となる。
この結果、ステップS308において第2RWA-MCU56は、第1RWA-MCU52が異常であると判定するため、ステップS309以降は同じ動作を行う。
【0116】
図10は、第1RWA-MCU52が異常である場合の動作の第2例を説明するシーケンス図である。第2例は第1例と異なり、第1RWA-MCU52とのシリアル通信結果に基づいて第2RWA-MCU56が第1RWA-MCU52の異常を検出する。
ステップS400~S406の動作は、
図7のステップS100~S106の動作と同様である。
【0117】
ステップS407において第2RWA-MCU56は、シリアル通信で受信する第1RWA-MCU52の出力に基づいて、第1RWA-MCU52の異常を検出する。
ステップS408~S411の動作は、
図9のステップS309~S312の動作と同様である。
ステップS412において第1RWA-MCU52は、第2RWA-MCU56とのシリアル通信の異常を検出すると、第2RWA-MCU56のステータスを「異常」に設定する。
【0118】
ステップS413において第1RWA-MCU52は、専用CAN33経由でステータス情報Sr11、Sr13をFFA-MCU43へ送信する。ステータス情報Sr13は、第2RWA-MCU56のステータスの異常を示す。
ステップS414においてFFA-MCU43は、ステータス情報Sr13に基づいて異常時制御を行う。
【0119】
図11は、第2RWA-MCU56が異常である場合の動作の一例を説明するシーケンス図である。
ステップS500及びS501は、
図7のステップS100及びS101の動作と同様である。
ステップS502において、第2RWA-MCU56は自己診断を行い、第2RWA-MCU56のステータスを「異常」に設定する。
ステップS503~S509は、
図7のステップS103~S109の動作と同様である。
【0120】
ステップS510において第2RWA-MCU56は、第2RWA-MCU56が異常であるため動作モードを故障時動作モードに切り換える。
ステップS511において第2RWA-MCU56は、第2駆動回路57の制御を停止する。
ステップS512において第2RWA-MCU56は、第2RWA-MCU56の異常を示すステータス情報Sr2をシリアル通信経由で第1RWA-MCU52へ送信する。
【0121】
ステップS513において第1RWA-MCU52は、ステータス情報Sr2に基づいて第2RWA-MCU56が異常であると判定する。
ステップS514において第1RWA-MCU52は、専用CAN33経由でステータス情報Sr11、Sr13をFFA-MCU43へ送信する。ステータス情報Sr13は、第2RWA-MCU56の異常を示す。
ステップS515においてFFA-MCU43は、ステータス情報Sr13に基づいて異常時制御を行う。
【0122】
図12は、第1電源34が異常である場合の動作の一例を説明するシーケンス図である。第1電源34が異常である場合には、第1角度センサ11、FFA-MCU43及び第1RWA-MCU52に従属故障が発生する。
ステップS400において第2RWA-MCU56は、自己診断を行う。
ステップS401において第2RWA-MCU56は、第1RWA-MCU52とのシリアル通信の異常に基づいて、第1RWA-MCU52の異常を検出する。
ステップS402において第2RWA-MCU56は、第1RWA-MCU52が異常であるため動作モードを故障時動作モードに切り換える。
ステップS403~S405の動作は、
図10のステップS409~S411の動作と同様である。
【0123】
(実施形態の効果)
(1)実施形態の転舵装置は、ステアリングホイール1と転舵輪8L及び8Rとの間が機械的に分離されたステアバイワイヤ式の転舵装置である。
第1角度センサ11及び第2角度センサ30は、ステアリングホイール1の回転角に応じた第1角度信号θ1及び第2角度信号θ2をそれぞれ出力する。第1RWA-MCU52は、第1角度信号θ1に応じた第1電流指令値Ir1を出力する。第2RWA-MCU56は、第1電流指令値Ir1又は第2角度信号θ2に応じた第2電流指令値Ir2を出力する。転舵アクチュエータ21は、第1電流指令値Ir1に応じた第1転舵力と第2電流指令値Ir2に応じた第2転舵力とを発生させて転舵輪8L及び8Rを転舵する。
【0124】
第2RWA-MCU56は、第1角度センサ11及び第1RWA-MCU52の両方が正常である場合には第1RWA-MCU52が出力した第1電流指令値Ir1に応じた第2電流指令値Ir2を出力し、第1角度センサ11又は第1RWA-MCU52の少なくとも1つが異常である場合には、第2角度信号θ2に応じた第2電流指令値Ir2を出力する。
【0125】
これにより、反力発生器10、第1電源34又は転舵制御装置22の障害により、第1角度センサ11からの第1角度信号θ1に基づく第1電流指令値Ir1を生成できなくても、第2角度センサ30からの第2角度信号θ2に基づいて転舵アクチュエータ21の駆動を継続することができる。これにより操舵機構を維持できる。例えば運転者が車両を安全に停止するまで操舵機構を維持できる。
また、第2電源35又は第2角度センサ30に障害が発生しても、第1角度センサ11からの第1角度信号θ1に転舵アクチュエータ21の駆動を継続することができる。
【0126】
さらに、反力発生器10と転舵力発生器20の構成の全体を冗長化しなくても運転者の旋回意思に応じた転舵力の発生する冗長構成を実現できる。
すなわち、第2角度センサ30と第2RWA-MCU56という最小限の部品で、運転者の旋回意思に応じた転舵力の発生する冗長構成を実現できる。このため部品点数の増加を抑制できる。
さらに、既存の角度センサを、第2角度センサ30として用いることにより、部品点数の増加をさらに抑制できる。
【0127】
(2)第1RWA-MCU52は、専用CAN33を介して第1角度信号θ1を受信する専用CANインタフェース42を備えてもよい。第2RWA-MCU56は、第2CAN32を介して第2角度信号θ2を受信する専用CANインタフェース50を備えてもよい。第2RWA-MCU56は、第1角度センサ11、第1RWA-MCU52及び専用CAN33の全てが正常である場合には第1電流指令値Ir1に応じた第2電流指令値Ir2を出力し、第1角度センサ11、第1RWA-MCU52又は専用CAN33の少なくとも1つが異常である場合には、第2角度信号θ2に応じた第2電流指令値Ir2を出力してもよい。
これにより、第1RWA-MCU52が第1角度信号θ1を取得する専用CAN33に障害が発生しても、第2角度センサ30からの第2角度信号θ2に基づいて転舵アクチュエータ21の駆動を継続することができる。これにより操舵機構を維持できる。
【0128】
(3)第1角度センサ11及び第1RWA-MCU52は第1電源34から電源が供給され、第2角度センサ30及び第2RWA-MCU56は第2電源35から電源が供給されてもよい。
これにより、第1電源34に障害が発生して、第1角度センサ11及び第1RWA-MCU52に従属故障が発生しても、第2角度センサ30からの第2角度信号θ2に基づいて転舵アクチュエータ21の駆動を継続することができる。これにより操舵機構を維持できる。
【0129】
(4)第1角度センサ11、第1RWA-MCU52及び専用CAN33は第1電源34から電源が供給され、第2角度センサ30、第2RWA-MCU56及び第2CAN32は第2電源35から電源が供給されてもよい。
これにより、第1電源34に障害が発生して、第1角度センサ11、第1RWA-MCU52及び専用CAN33に従属故障が発生しても、第2角度センサ30からの第2角度信号θ2に基づいて転舵アクチュエータ21の駆動を継続することができる。これにより操舵機構を維持できる。
【0130】
(5)専用CAN33の通信速度が第2CAN32の通信速度よりも早くてもよい。
これにより、通常動作モードにおいて、応答速度の高い第1角度信号θ1に基づいて転舵アクチュエータ21を制御することができる。
【0131】
(6)転舵装置は、ステアリングホイール1に操舵反力を付与する反力アクチュエータ12を備えてもよい。FFA-MCU43は、第1角度信号θ1に応じて反力アクチュエータ12を制御するとともに、専用CAN33を介して第1角度信号θ1を第1RWA-MCU52に送信する。
【0132】
第2RWA-MCU56は、第1角度センサ11、第1RWA-MCU52、専用CAN33及びFFA-MCU43の全てが正常である場合には第1電流指令値Ir1に応じた第2電流指令値Ir2を出力し、第1角度センサ11、第1RWA-MCU52、専用CAN33又はFFA-MCU43の少なくとも1つが異常である場合には、第2角度信号θ2に応じた第2電流指令値Ir2を出力してよい。
これにより、第1角度信号θ1を第1RWA-MCU52に送信するFFA-MCU43に障害が発生しても、第2角度センサ30からの第2角度信号θ2に基づいて転舵アクチュエータ21の駆動を継続することができる。これにより操舵機構を維持できる。
【0133】
(7)第1RWA-MCU52が異常である場合又は第2RWA-MCU56が異常である場合に、FFA-MCU43は、反力アクチュエータ12を駆動して触覚効果を生成することにより警報を発生するか、反力アクチュエータ12の制御を停止してもよい。
これにより、第1RWA-MCU52及び/又は第2RWA-MCU56の異常を、運転者に知らせることができる。
【0134】
(8)第1RWA-MCU52は、第1電流指令値Ir1に代えて第1角度信号θ1を第2RWA-MCU56に出力してもよい。第2RWA-MCU56は、第1電流指令値Ir1に代えて第1角度信号θ1に応じた第2電流指令値Ir2を出力してもよい。
このような構成によっても、第1電流指令値Ir1と同様に、第1角度信号θ1に応じた第2電流指令値Ir2を出力できる。
【符号の説明】
【0135】
1...ステアリングホイール、2...操舵軸、4...ピニオン軸、5...ピニオンラック機構、5a...ピニオン、5b...ラック、6a、6b...タイロッド、7a、7b...ハブユニット、8L、8R...転舵輪、10...反力発生器(FFA)、11...第1角度センサ、12...反力アクチュエータ、13...反力制御装置(FFA-ECU)、20...転舵力発生器(RWA)、21...転舵アクチュエータ、21a...第1巻線、21b...第2巻線、22...転舵制御装置(RWA-ECU)、30...第2角度センサ、31...第1CAN、32...第2CAN、33...専用CAN、34...第1電源、35...第2電源、40...角度センサ入力回路、41、51...第1CANインタフェース、42、50...専用CANインタフェース、43...反力発生器処理ユニット(FFA-MCU)、44...駆動回路、45...電源回路、51...第1CANインタフェース、52...第1転舵力発生器処理ユニット(第1RWA-MCU)、53...第1駆動回路、54...第1電源回路、55...第2CANインタフェース、56...第2転舵力発生器処理ユニット(第2RWA-MCU)、57...第2駆動回路、58...第2電源回路