(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ターボ圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04D 29/051 20060101AFI20240214BHJP
F04D 29/08 20060101ALI20240214BHJP
F04D 29/16 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
F04D29/051
F04D29/08 F
F04D29/16
(21)【出願番号】P 2020158621
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】飯田 勘
(72)【発明者】
【氏名】吉永 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 雅祐
(72)【発明者】
【氏名】角舘 薫哉
【審査官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0104335(US,A1)
【文献】特開平03-121294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/051
F04D 29/08
F04D 29/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジングの内部空間に収容されたインペラと、を備えるターボ圧縮機であって、
前記インペラの背面側で前記インペラと前記ハウジングの内壁面との間隙をシールし、前記内部空間のうち前記インペラの背面側の空間を前記インペラの出口側の領域と前記インペラの回転軸側の領域とに仕切るラビリンスシール部と、
前記インペラのハブを貫通して設けられ、前記回転軸側の領域を前記インペラの入口側に連通させる連通路と、を備え、
前記回転軸側の領域は、前記内部空間の前記インペラの正面側の領域を経由せずに前記ハウジングの外部と連通する経路を備え
ず、
前記連通路は、前記インペラの回転軸線に沿って延びる主通路と、前記主通路から放射状に分岐し前記回転軸側の領域に開口した複数の分岐通路と、を有する、ターボ圧縮機。
【請求項2】
前記インペラは、クラウンプレートを有するクローズドインペラであり、
前記クラウンプレートの外周面と前記ハウジングの内壁面との間隙をシールする他のラビリンスシール部を更に備える、請求項1に記載のターボ圧縮機。
【請求項3】
前記ラビリンスシール部と、前記他のラビリンスシール部と、は、前記インペラの回転径方向における位置が互いに異なっている、請求項2に記載のターボ圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1に記載のターボ圧縮機が知られている。このターボ圧縮機は、インペラの正面側から吸入されたガスが外周側に吐出されて圧縮される。この種のターボ圧縮機の運転中には、インペラの正面側と背面側との圧力差によって、インペラにスラスト力が作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなスラスト力に起因するインペラの軸受等への負荷を軽減するために、スラスト力を調整することが好ましい。本発明は、インペラのスラスト力の調整を容易にするターボ圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のターボ圧縮機は、ハウジングと、ハウジングの内部空間に収容されたインペラと、を備えるターボ圧縮機であって、インペラの背面側でインペラとハウジングの内壁面との間隙をシールし、内部空間のうちインペラの背面側の空間をインペラの出口側の領域とインペラの回転軸側の領域とに仕切るラビリンスシール部と、インペラのハブを貫通して設けられ、回転軸側の領域をインペラの入口側に連通させる連通路と、を備え、回転軸側の領域は、内部空間のインペラの正面側の領域を経由せずにハウジングの外部と連通する経路を備えない、ターボ圧縮機である。
【0006】
インペラは、クラウンプレートを有するクローズドインペラであり、クラウンプレートの外周面とハウジングの内壁面との間隙をシールする他のラビリンスシール部を更に備える、こととしてもよい。
【0007】
ラビリンスシール部と、他のラビリンスシール部と、は、インペラの回転径方向における位置が互いに異なっている、こととしてもよい。
【0008】
連通路は、インペラの回転軸線に沿って延びる主通路と、主通路から放射状に分岐し回転軸側の領域に開口した複数の分岐通路と、を有する、こととしてもよい。
【0009】
また、前記回転軸側の領域は、前記ラビリンスシール部及び前記連通路のみを介して外部に連通されている、こととしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インペラのスラスト力の調整を容易にするターボ圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態のターボ圧縮機を示す断面図である。
【
図2】
図1のターボ圧縮機のインペラ近傍を拡大して示す断面図である。
【
図3】
図1のターボ圧縮機のインペラをモータ側から見た底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るターボ圧縮機1について説明する。圧縮機1は電動の遠心圧縮機であり、例えば冷媒のガスを圧縮するために使用される。以下の説明で単に「軸方向」、「径方向」、「周方向」と言うときには、後述のインペラ3の回転の軸方向、径方向、周方向を意味するものとする。
【0013】
圧縮機1は、回転軸線X周りに回転するインペラ3と、インペラ3の回転の動力源であるモータ5と、インペラ3及びモータ5を収容するハウジング7と、を備えている。ハウジング7は、インペラ3を収容するインペラハウジング11と、モータ5を収容するモータハウジング13と、を備えている。なお、インペラハウジング11及びモータハウジング13は、各々が複数の部品で構成されていてもよく、各ハウジングを構成する部品や組み合わせ方は自由に設計可能である。
【0014】
インペラハウジング11とモータハウジング13とは、回転軸線X方向に連結されており、インペラハウジング11内からモータハウジング13内に亘って延在する回転軸15が回転軸線X上に存在している。この回転軸15の先端にインペラ3が設けられており、回転軸15はモータ5の駆動力によって回転する。モータ5は、モータハウジング13に設けられたステータ5aと、回転軸15に設けられたロータ5bとで構成されている。
【0015】
インペラハウジング11は、インペラ3の出口3bの外周側に対面して設けられたディフューザ17を有している。また、インペラハウジング11は、ディフューザ17の外周側に設けられたスクロール19を有している。また、インペラハウジング11は、インペラ3の入口3aに軸方向に対面する位置で外部に向けて開口する吸気口21と、スクロール19の出口である吐出口22とを有している。
【0016】
モータ5に電力が供給されると、回転軸15を介してインペラ3がインペラハウジング11内で回転する。これにより、外部のガスが吸気口21を通じて軸方向にインペラ入口3aからインペラ3に吸引され、インペラ出口3bから径方向外側に排出される。インペラ出口3bからのガスは、ディフューザ17に流れ込み、当該ディフューザ17及びスクロール19を通じて圧縮され、吐出口22を通じて、圧縮ガスとして外部に排出される。
【0017】
なお、ハウジング7(インペラハウジング11及びモータハウジング13)は、ガスを外部に漏洩させないように気密に設けられている。すなわち、本実施形態のハウジング7の内部空間は吸気口21又は吐出口22のみを通じて圧縮機1の外部と連通しており、圧縮機1で処理されるガスがハウジング7の筐体壁を通じて圧縮機1の外部に漏洩しないように、ハウジング7が設けられている。つまり、後述の第4領域R4には、後述の第1領域R1、第2領域R2、及び第3領域R3のいずれも介在せずにハウジング7の外部まで連通する流路は形成されていない。例えば、モータハウジング13におけるガスの出入口は軸受部16のみであり、モータハウジング13の筐体壁はガスを通過させない。従って例えば、インペラ3の背面側に漏れ込んだガスが、回転軸15の軸受部16を通じてモータハウジング13の内部(モータ5の収容空間)に入り込んだとしても、このガスがモータハウジング13の筐体壁の隙間を通じて圧縮機1の外部に漏洩するといったことは防止される。
【0018】
このようなハウジング7の気密構造により、圧縮機1は、有毒ガス、危険なガス、又は高価なガス等といったような、外部への漏洩が好ましくないガスを取扱うことができる。このようなガスとしては、例えば、水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられる。
【0019】
インペラ3は、回転軸15の先端にボルト締結等により取り付けられている。インペラ3は、ハブ23と、ハブ23の正面側(吸気口21側)の面23aに設けられた複数のブレード25と、を備えている。また、インペラ3は、ブレード25の周囲に設けられたクラウンプレート27を備えている。このようなクラウンプレート27を備えるタイプのインペラ3は、一般にクローズドインペラと呼ばれる。ハブ23の正面側の面23aとクラウンプレート27とで囲まれた空間内に上記の複数のブレード25が存在している。
【0020】
図2及び
図3に示されるように、インペラ3は連通路29を備えている。連通路29は、インペラ3の正面側(吸気口21側)と背面側(モータ5側)とを連通するように、ハブ23を貫通している。連通路29は、1本の主通路29aと複数(例えばここでは4本とする)の分岐通路29bとを有している。主通路29aは、回転軸線Xに沿って直線状に延びており、回転軸15の周囲で断面円環状をなす通路である。具体的な構造としては、インペラ3のハブ23には回転軸15を締結するための締結用穴28が回転軸線X上に形成されており、この締結用穴28の中心に回転軸15の先端が挿通されている。そして、回転軸15の外周面と締結用穴28の内壁面との間の断面円環状の空間が主通路29aである。
【0021】
4本の分岐通路29bは、主通路29a分岐通路から等間隔で放射状に分岐しており、主通路29aのうちモータ5側に近い方の部位から、モータ5側且つ外周側の斜め方向に向けて延びている。
【0022】
また、連通路29は、インペラ3の正面側の複数の開口29hと、インペラ3の背面側の複数の開口29tと、を有している。開口29hは、主通路29aの吸気口21側の端部の開口であり、ハブ23の正面側の面23a上で周方向に等間隔に位置している。開口29hは、例えば、ブレード25のリーディングエッジ25aよりも上流側且つインペラ入口3aよりも下流側に位置している。4つの開口29tは、各々の分岐通路29bのモータ5側の端部の開口であり、インペラ背面3t上で周方向に等間隔に位置している。
【0023】
インペラ3の背面側には回転軸線Xを中心とする円柱形状をなしモータ5側に向けて軸方向に突出する円柱状部位33が形成されている。そして、圧縮機1は、上記の円柱状部位33の円柱面33sと、インペラハウジング11の内壁面11aと、の間隙をシールする第1ラビリンスシール部31を備えている。本実施形態では、インペラハウジング11の一部を構成するリング状部材35の内縁が円柱面33sに近接するように内周側に延び出している。そして、リング状部材35の内縁面35sと、インペラ背面3tの一部でもある円柱面33sと、の間の隙間に第1ラビリンスシール部31が設けられている。第1ラビリンスシール部31は、内縁面35sに形成された凹凸部を有している。インペラ背面3tは、第1ラビリンスシール部31を境界として外周側部分43と内周側部分44とに径方向に二分される。
【0024】
また、インペラ3の最上流部においては、クラウンプレート27の外周面27aとインペラハウジング11の内壁面11aとが僅かに隙間をあけて径方向に対面している。そして、圧縮機1は、上記の外周面27aと内壁面11aとの間隙をシールする第2ラビリンスシール部32を備えている。第2ラビリンスシール部32は、内壁面11aに形成された凹凸部を有している。
【0025】
なお、第1ラビリンスシール部31は、インペラハウジング11の内壁面11aに凹凸が設けられることで構成されているが、インペラ3側に凹凸が設けられて第1ラビリンスシール部31が構成されてもよい。同様に、第2ラビリンスシール部32も、インペラハウジング11のリング状部材35の内縁面35sに凹凸が設けられることで構成されているが、インペラ3側に凹凸が設けられて第2ラビリンスシール部32が構成されてもよい。また、第1ラビリンスシール部31及び第2ラビリンスシール部32には、壁面の凹凸形状を利用した構造に限らず、ラビリンス流路を構成するための他の構造が採用されてもよい。
【0026】
ここで、インペラ3が収容されたインペラハウジング11の内部空間Rを、第1領域R1(インペラの入口側)、第2領域R2、第3領域R3(インペラの出口側の領域)、及び第4領域R4(インペラの回転軸側の領域)の4つの領域に分けて考える。第1領域R1は、吸気口21及びインペラ入口3aを含む領域である。第2領域R2は、クラウンプレート27の外周面27aとインペラハウジング11の内壁面11aとで挟まれた領域であり、第2ラビリンスシール部32とインペラ出口3bとの間の領域である。第3領域R3は、インペラ3の背面側の空間のうちインペラ出口3bと第1ラビリンスシール部31との間の領域である。第4領域R4は、インペラ3の背面側の空間のうち第1ラビリンスシール部31と回転軸15の軸受部16との間の領域である。なお、第4領域R4は、回転軸15の軸受部16を通じてモータハウジング13の内部空間(モータ5の収容空間)に連通している。また、以下では、インペラハウジング11の内部空間Rのうちインペラ3の背面側の空間(すなわち、第3領域R3と第4領域R4とを合わせた空間)を背面側空間R20と呼ぶ。
【0027】
第1ラビリンスシール部31は、インペラ背面3tを、第3領域R3に接する外周側部分43と、第4領域R4に接する内周側部分44と、に径方向に二分して仕切っている。また、第1ラビリンスシール部31は、背面側空間R20を、インペラ出口3b側の第3領域R3と回転軸15側の第4領域R4とに二分して仕切っている。第3領域R3と第4領域R4との間のガスの移動は、第1ラビリンスシール部31によって抑えられる。第2ラビリンスシール部32は、第1領域R1と第2領域R2とを仕切り、第1領域R1と第2領域R2との間のガスの移動を抑える。連通路29は、第1領域R1と第4領域R4とを連通し、第1領域R1と第4領域R4との間でガスを移動させることができる。すなわち連通路29は、インペラ3のハブ23を貫通して設けられ第4領域R4をインペラ3の入口3a側(第1領域R1)に連通させている。連通路29の開口29tは、インペラ背面3tのうちの第4領域R4に属する部位に位置している。
【0028】
なお、前述の通り、インペラハウジング11及びモータハウジング13は、ガスを外部に漏洩させないように気密に設けられている。従って、第4領域R4は、第1ラビリンスシール部31を通るルート及び連通路29を通るルートのみを介して圧縮機1の外部に連通されていることになる。すなわち、例えば、第4領域R4は、第1ラビリンスシール部31、第3領域R3、第2領域R2、第2ラビリンスシール部32、第1領域R1、及び吸気口21を通じて圧縮機1の外部に連通されている。また、例えば、第4領域R4は、第1ラビリンスシール部31、第3領域R3、ディフューザ17、スクロール19及び吐出口22(
図1参照)を通じて圧縮機1の外部に連通されている。また、例えば、第4領域R4は、連通路29、第1領域R1、及び吸気口21を通じて圧縮機1の外部に連通されている。そして、第1ラビリンスシール部31と連通路29との何れも通らず、且つ第4領域R4と圧縮機1の外部とを連通するルートは存在しない。
【0029】
また、インペラハウジング11及びモータハウジング13が気密に設けられていることから、第4領域R4は、ハウジング7の内部空間内で且つインペラ3の正面側の領域を経由せずにハウジング7の外部と連通する経路を備えていない、と言える。換言すれば、第4領域R4とハウジング7の外部とを連通させるすべてのルートは、ハウジング7の内部空間内で且つインペラ3の正面側の領域の少なくとも何れかを経由すると言える。ハウジング7の内部空間内で且つインペラ3の正面側の領域とは、例えば、第1領域R1及び第2領域R2である。
【0030】
続いて、上記の構成の圧縮機1による作用効果について説明する。
【0031】
圧縮機1の運転中においては、インペラ出口3bからディフューザ17に送り出されるガスの一部が、インペラ3とインペラハウジング11の内壁面11aとの隙間を通じて第2領域R2と第3領域R3とに漏れ流れる。そして第2領域R2のガスは、第2ラビリンスシール部32を通じて第1領域R1に漏れ流れる。このとき、第2ラビリンスシール部32による圧力損失によって、第2領域R2の圧力が第1領域R1の圧力よりも高くなる。
【0032】
一方、第3領域R3に漏れ流れたガスは、第1ラビリンスシール部31を通じて第4領域R4に漏れ流れる。そして第4領域R4のガスは、連通路29を通じて第1領域R1に漏れ流れる。このとき、第1ラビリンスシール部31による圧力損失によって、第3領域R3の圧力が第4領域R4の圧力よりも高くなる。更に、連通路29による圧力損失によって、第4領域R4の圧力が第1領域R1の圧力よりも高くなる。
【0033】
仮に、連通路29が存在しないとすれば、第4領域R4が気密であるために、圧縮機の運転中には第3領域R3の圧力と第4領域R4の圧力とが平衡に達して等しくなる。また仮に、第1ラビリンスシール部31が存在しないとすれば、背面側空間R20(第3領域R3と第4領域R4とを合わせた空間)はほぼ一様の圧力になる。これに対して、連通路29及び第1ラビリンスシール部31を備える圧縮機1によれば、背面側空間R20は、運転中に圧力差をもつ2つの領域(第3領域R3及び第4領域R4)で構成されることになる。すなわち、第3領域R3と第4領域R4との間には圧力差が存在し、この圧力差は、第1ラビリンスシール部31による圧力損失と、連通路29による圧力損失と、に依存する。
【0034】
ここで、圧縮機1の運転中にインペラ3に作用するスラスト力Fは、下式(1)で表される。なおここでは、
図1における左向きの力をプラス符号とする。
F=P3・S3+P4・S4-P1・S1-P2・S2 …(1)
但し、
Pn: 圧縮機1の運転中における第n領域Rnの圧力(n=1~4)
Sn: インペラ3と第n領域Rnとが接する面の軸方向の投影面積(n=1~4)
である。
【0035】
従って、上式(1)から理解されるように、パラメータP1~P4及びS1~S4を適切に設定することにより、圧縮機1の運転中にインペラ3に作用するスラスト力Fを設定することができる。すなわち、例えば、スラスト力Fをゼロに近づけるような圧縮機1の設計によって、圧縮機1の運転中におけるスラスト力Fの低減を図ることができる。
【0036】
例えば、第1ラビリンスシール部31及び第2ラビリンスシール部32の径方向の配置を適切に設計すれば、S1~S4を適切な値に設定することができる。すなわち、第1ラビリンスシール部31と第2ラビリンスシール部32との位置を、径方向における位置が互いに異なるように設計すれば、その位置関係によってS1~S4を所望の値に設定することができる。
【0037】
また例えば、第1ラビリンスシール部31、第2ラビリンスシール部32、及び連通路29の通気特性を適切に設計すれば、これらの各部位における圧力損失が適切に調整され、P1~P4を所望のバランスに設定することができる。
【0038】
また、連通路29は複数の放射状に分岐した分岐通路29bをもって第4領域R4に接続されている。この構成によれば、周方向に間欠的に配置された分岐通路29bがインペラ3に伴って回転することにより、第4領域R4からのガスの流入抵抗を生じさせる。すなわち、インペラ3の回転に依存する分岐通路29bの圧力損失を発生させることができる。従って、インペラ3の回転速度に依存するように連通路29の圧力損失を設定することも可能になる。
【0039】
また、圧縮機1のインペラ3はクラウンプレート27を備えるクローズドインペラであるので、第2領域R2のガスがインペラ3に及ぼす力がシンプルである。従って、式(1)に示されるスラスト力Fのうち第2領域R2に起因する成分がシンプルに表され、上記のような圧縮機1の設計が容易になる。
【0040】
また、インペラ3のスラスト力Fを低減するための他の構造としてバランスピストンがあるが、圧縮機1によれば、バランスピストンよりも構造が単純化され圧縮機1のコストダウンが容易になる。また、圧縮機1によれば、バランスピストンで発生するようなスラスト方向の不安定振動のリスクが低減される。また、圧縮機1によれば、スラスト力Fの低減によって回転軸15の軸受部16に作用する負荷を低減することができるので、軸受部16の油循環や冷却装置等の補機を強化する必要性も低減され、圧縮機1を小型化することができる。
【0041】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。
各実施形態の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0042】
例えば、圧縮機1における第2ラビリンスシール部32は省略されてもよい。また、インペラ3に代えて、クラウンプレート27を備えないタイプのインペラ(オープンインペラ)であってもよい。これらの場合、例えば、第1ラビリンスシール部31の径方向の配置を適切に設計し、第1ラビリンスシール部31及び連通路29の通気特性を適切に設計することで、運転中におけるスラスト力Fが調整される。また、第4領域R4と第1領域R1と連通する流路が、連通路29の他に存在してもよい。
【0043】
また、本発明は、スラスト力Fをゼロに近づけるような圧縮機1の設計のみならず、スラスト力Fを所望の値に近づけるような圧縮機の設計にも適用可能である。例えばこの場合、圧縮機1に代えて、過給機のコンプレッサに本発明が適用されてもよい。過給機においては、コンプレッサインペラの反対側で回転軸に設けられたタービンインペラが存在するので、当該タービンインペラで発生するスラスト力を相殺するように、コンプレッサインペラで発生するスラスト力を調整してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 ターボ圧縮機
3 インペラ
3a インペラ入口
3b インペラ出口
7 ハウジング
11 インペラハウジング
11a 内壁面
23 ハブ
27 クラウンプレート
29 連通路
29a 主通路
29b 分岐通路
31 第1ラビリンスシール部(ラビリンスシール部)
32 第2ラビリンスシール部(他のラビリンスシール部)
R 内部空間
R1 第1領域(インペラの入口側)
R2 第2領域
R3 第3領域(インペラの出口側の領域)
R4 第4領域(インペラの回転軸側の領域)
R20 インペラの背面側の空間