(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】回転方向判定装置
(51)【国際特許分類】
H02P 23/14 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
H02P23/14
(21)【出願番号】P 2020165897
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 雄寛
(72)【発明者】
【氏名】下野 聖仁
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-045648(JP,A)
【文献】特開2007-166695(JP,A)
【文献】特開2007-236090(JP,A)
【文献】特開2009-077503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相モータにおける3相のうち何れか2相に発生する誘起電圧を合成することにより、1周期において互いに大きさが異なる3つのピークを有する合成波形を生成する誘起電圧波形生成装置と、
前記誘起電圧波形生成装置から前記合成波形が入力される入力ポートを有し、前記入力ポートに入力される前記合成波形に基づいて、前記3相モータの起動前に前記3相モータの回転方向を判定するコントローラと、
を具備する回転方向判定装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記合成波形に重畳されているオフセット電圧を検出してキャンセルする、
請求項1に記載の回転方向判定装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記合成波形の周期に基づいて前記3相モータの回転数及び前記3相モータの1回転における回転位相を算出し、前記回転数及び前記回転位相に基づいて前記回転方向を判定する、
請求項1または2に記載の回転方向判定装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記合成波形の瞬時振幅値が所定の閾値未満から前記所定の閾値以上に変化した時点での前記回転位相を初期値として、前記3相モータの角速度に基づいて加算位相を算出し、前記加算位相に応じて現時点での前記回転位相を算出する、
請求項3に記載の回転方向判定装置。
【請求項5】
前記コントローラは、前記合成波形の1周期において、前記回転位相が0度以上120度未満の範囲に存在するピークを第一ピーク、前記回転位相が120度以上240度未満の範囲に存在するピークを第ニピーク、前記回転位相が240度以上360度未満の範囲に存在するピークを第三ピークとし、前記第一ピークの大きさと前記第三ピークの大きさを比較することにより前記回転方向を判定する、
請求項4に記載の回転方向判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転方向判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機の室外機は、熱交換機と、熱交換機用のファン(以下では「室外機ファン」と呼ぶことがある)と、室外機ファンを回転させるモータ(以下では「ファンモータ」と呼ぶことがある)とを有する。
【0003】
室外機のファンモータは、ファンモータが停止している間に室外機ファンが風などの外力を受けて空転することにより、正転方向とは逆方向、つまり逆転方向に回転する(以下では「逆転」と呼ぶことがある)ことがある。ファンモータは正転方向で起動するため、ファンモータの起動前に室外機ファンが空転することにより、ファンモータが逆転方向に回転している状態でファンモータを起動させてしまうと、ファンモータの起動に失敗したり、ファンモータが破損してしまったりすることがある。そこで、ファンモータの起動前にファンモータの回転方向と回転数とを検出する技術が提案されている。
【0004】
ファンモータが回転しているとき、ファンモータに生じる誘起電圧(以下では「モータ誘起電圧」と呼ぶことがある)に基づいて、ファンモータの回転方向と、ファンモータの回転数とを検出する技術がある。例えば、3相のモータ誘起電圧(以下では「3相誘起電圧」と呼ぶことがある)のうち、何れか2相のモータ誘起電圧のそれぞれの位相に基づいてファンモータの回転方向を判定し、何れか1相のモータ誘起電圧の周期に基づいてファンモータの回転数を検出する技術がある。これにより、ファンモータが逆転していることと、ファンモータが逆転しているときの回転数とを検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のように、ファンモータの回転方向の判定には、3相誘起電圧のうちの2相のモータ誘起電圧が必要であるため、回転方向の判定を行うコントローラには、2相のモータ誘起電圧の各波形がそれぞれ入力される2つの入力ポートが必要であった。
【0007】
そこで、本開示は、入力ポート1つで3相モータの空転時の回転方向の判定が可能となる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の回転方向判定装置は、誘起電圧波形生成装置と、コントローラとを有する。前記誘起電圧波形生成装置は、3相モータにおける3相のうち何れか2相に発生する誘起電圧を合成することにより、1周期において互いに大きさが異なる3つのピークを有する合成波形を生成する。前記コントローラは、前記誘起電圧波形生成装置から前記合成波形が入力される入力ポートを有し、前記入力ポートに入力される前記合成波形に基づいて、前記3相モータの起動前に前記3相モータの回転方向を判定する。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、入力ポート1つでも3相モータの回転方向の判定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の実施例の回転方向判定装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施例の正転方向での空転時の3相の誘起電圧波形の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施例の正転方向での空転時の2相の誘起電圧波形の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施例の正転方向での空転時の誘起電圧波形生成装置の出力波形の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施例の逆転方向での空転時の3相の誘起電圧波形の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、本開示の実施例の逆転方向での空転時の2相の誘起電圧波形の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、本開示の実施例の逆転方向での空転時の誘起電圧波形生成装置の出力波形の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、本開示の実施例のコントローラにおける処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、本開示の実施例のオフセットキャンセル処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、本開示の実施例の回転数検出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、本開示の実施例の位相検出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、本開示の実施例の回転方向判定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、本開示の実施例のコントローラのオフセットキャンセル処理の動作例の説明に供する図である。
【
図14】
図14は、本開示の実施例のコントローラの回転数検出処理の動作例の説明に供する図である。
【
図15】
図15は、本開示の実施例のコントローラの位相検出処理の動作例の説明に供する図である。
【
図16】
図16は、本開示の実施例のコントローラの回転方向判定処理の動作例の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施例を図面に基づいて説明する。以下の実施例において同一の構成には同一の符号を付す。
【0012】
[実施例]
<回転方向判定装置の構成>
図1は、本開示の実施例の回転方向判定装置の構成例を示す図である。
図1において、回転方向判定装置20は、IPM(Intelligent Power Module)10とファンモータMとの間に接続され、誘起電圧波形生成装置30とコントローラ40とを有する。ファンモータMは、3相モータである。コントローラ40の一例として、MCU(Micro Control Unit)が挙げられる。
【0013】
コントローラ40は、単一の入力ポートINを有し、ファンモータMの起動前に、単一の入力ポートINに入力される後述の誘起電圧波形に基づいてファンモータMの回転方向が正転方向であるか逆転方向であるかを判定する。なお、ここ以降で「回転」とは、ファンモータMが停止している間(起動前)に室外機ファンが風などの外力を受けて空転することにより、ファンモータMが回転する状態を示すことがある。また、このときのファンモータMが回転する状態を、室外ファンの場合と同様に、空転とも呼ぶ。
【0014】
誘起電圧波形生成装置30は、ファンモータMの起動前に、3相誘起電圧に基づいて、入力ポートINへと入力される誘起電圧波形を生成する。
【0015】
IPM10は、ファンモータMの起動後に、スイッチング制御により、IPM10の外部から印加される直流電圧Vdcから、3相の交流電圧Vu,Vv,Vwを生成し、生成した各相の交流電圧をファンモータMのU相,V相,W相へ印加することによりファンモータMを駆動する。IPM10は、ファンモータMを駆動する駆動部の一例である。
【0016】
ファンモータMは、空転時にも、3相誘起電圧であるU相、V相、W相の各相の誘起電圧を発生する。以下では、U相の誘起電圧を「U相誘起電圧」と、V相の誘起電圧を「V相誘起電圧」と、W相の誘起電圧を「W相誘起電圧」と呼ぶことがある。
【0017】
誘起電圧波形生成装置30は、第一抵抗R1と、第二抵抗R2と、第三抵抗R3と、第一経路P1と、第二経路P2と、第三経路P3と、第四経路P4とを有する。
【0018】
第一抵抗R1は、ファンモータMのU相に接続された第一経路P1に配置され、U相誘起電圧を後述の第三抵抗R3とで分圧してU相誘起電圧に電圧降下を生じさせる。
【0019】
第二抵抗R2は、ファンモータMのV相に接続された第二経路P2に配置され、V相誘起電圧を後述の第三抵抗R3とで分圧してV相誘起電圧に電圧降下を生じさせる。
【0020】
第三抵抗R3は、第一経路P1と第二経路P2との合流点JPを始点とする第四経路P4に配置され、第三抵抗R3の片側はグランド(GND)に接続される。
【0021】
また、合流点JPを始点とする第三経路P3は、コントローラ40の入力ポートINに接続されている。
【0022】
ここで、第一抵抗R1(以下では第一抵抗R1の抵抗値を「第一抵抗値」と呼ぶことがある)、及び、第二抵抗R2(以下では第二抵抗R2の抵抗値を「第二抵抗値」と呼ぶことがある)のそれぞれは、第三抵抗R3(以下では第三抵抗R3の抵抗値を「第三抵抗値」と呼ぶことがある)を用いて、それぞれの相の誘起電圧を分圧し、分圧された電圧がコントローラ40の入力ポートINへ入力される。U相誘起電圧の振幅値とV相誘起電圧の振幅値とを互いに異ならせるために、第一抵抗値と第二抵抗値とを互いに異ならせる必要がある。例えば、第一抵抗値と第二抵抗値との比は「3:1」とする。
【0023】
<正転方向での回転時の波形>
図2、
図3及び
図4は、本開示の実施例の正転方向に空転した時の誘起電圧の波形の一例を示す図である。以下では、U相誘起電圧の波形を「U相波形」と、V相誘起電圧の波形を「V相波形」と、W相誘起電圧の波形を「W相波形」と呼ぶことがある。
【0024】
図2には、ファンモータMの正転方向での空転時(以下では「正転空転時」と呼ぶことがある)に、観測点MA(
図1)で観測されるU相波形WA1と、観測点MB(
図1)で観測されるV相波形WB1と、観測点MC(
図1)で観測されるW相波形WC1とが示されている。
図1に、観測点MA,MB,MCの基準点MR(GND)を示す。
図2に示すように、ファンモータMが正転方向で空転しているときには、U相波形→V相波形→W相波形→U相波形→V相波形→W相波形→…の順序で各相の誘起電圧の波形が出現する。
【0025】
そこで、
図3に示すように、U相波形WA1、V相波形WB1及びW相波形WC1のうち、U相波形WA1とV相波形WB1とに着目する。以下では、U相波形とV相波形とが合成された波形を「合成波形」と呼ぶことがある。
図4に、U相波形WA1とV相波形WB1との合成結果である合成波形WD1を示す。つまり、正転空転時には、
図4に示す合成波形WD1が観測点MD(
図1)において観測される。よって、正転空転時には、誘起電圧波形生成装置30によって生成される合成波形WD1(
図4)が入力ポートINに入力される。
【0026】
図4において、合成波形WD1の1周期T1には、ピークK11,K12,K13の3つのピークが存在する。
【0027】
ピークK11は、
図3に示すU相波形WA1とV相波形WB1が時間軸で交差している点に相当し、合成結果が他のピークより大きくなる。ピークK12は、時間軸上でU相波形WA1と重なりをもつV相波形WB1の1つのピーク(VP1)に相当し、ピークK13は、時間軸上でV相波形WB1と重なりをもたないU相波形WA1の1つのピーク(UP1)に相当する。ピークK13はピークK12より小さい。ピークK12,K13の大きさの比は、第一抵抗値と第二抵抗値との比、すなわち誘起電圧の分圧比に応じて決定される。例えば、ピークK12の大きさは3.69[V]であるのに対しピークK13の大きさは1.21[V]である。よって、ピークK13の大きさとピークK12の大きさとの比は約「1:3」となり、第一抵抗値と第二抵抗値との比の逆になる。
【0028】
また、正転空転時には、1周期T1において、各ピークは、ピークK13→ピークK11→ピークK12の順序で出現する。
【0029】
<逆転方向での空転時の波形>
図5、
図6及び
図7は、本開示の実施例の逆転方向での空転時の誘起電圧の波形の一例を示す図である。
【0030】
図5には、ファンモータMの逆転方向での空転時(以下では「逆転空転時」と呼ぶことがある)に、観測点MA(
図1)で観測されるU相波形WA2と、観測点MB(
図1)で観測されるV相波形WB2と、観測点MC(
図1)で観測されるW相波形WC2とが示されている。
図5に示すように、ファンモータMが逆転方向で空転しているときには、W相波形→V相波形→U相波形→W相波形→V相波形→U相波形→…の順序で各相の誘起電圧の波形が出現する。
【0031】
そこで、
図6に示すように、U相波形WA2、V相波形WB2及びW相波形WC2のうち、U相波形WA2とV相波形WB2とに着目し、U相波形WA2とV相波形WB2との合成結果である合成波形WD2を
図7に示す。つまり、逆転空転時には、
図7に示す合成波形WD2が観測点MD(
図1)において観測される。よって、逆転空転時には、誘起電圧波形生成装置30によって生成される合成波形WD2(
図7)が入力ポートINに入力される。
【0032】
図7において、合成波形WD2の1周期T2には、ピークK21,K22,K23の3つのピークが存在する。周期T2の長さは、回転数が
図4と等しいとき、周期T1(
図4)の長さと同一である。以下では、周期T1,T2を「周期T」と総称することがある。
【0033】
ピークK21は、
図6に示すU相波形WA2とV相波形WB2が時間軸で交差している点に相当し、合成結果が他のピークより大きくなる。ピークK22は、時間軸上でU相波形WA2と重なりをもつV相波形WB2の1つのピーク(VP2)に相当し、ピークK23は、時間軸上でV相波形WB2と重なりをもたないU相波形WA2の1つのピーク(UP2)に相当する。ピークK23はピークK22より小さい。例えば、ピークK22の大きさは3.69[V]であるのに対しピークK23の大きさは1.21[V]である。よって、ピークK23の大きさとピークK22の大きさとの比は約「1:3」となり、第一抵抗値と第二抵抗値との比の逆になる。
【0034】
また、逆転空転時には、1周期T2において、各ピークは、ピークK22→ピークK21→ピークK23の順序で出現する。
【0035】
<コントローラの動作>
上記のように、正転空転時でも逆転空転時でも、合成波形には、1周期Tの間に3つのピークが出現する。
【0036】
一方で、正転空転時と逆転空転時とでは、3つのピークの出現順序が相違する。以下では、1周期Tの間に出現する3つのピークのうち、大きさが最大のピークを「最大ピーク」と、大きさが最小のピークを「最小ピーク」と、最大ピークより小さく、かつ、最小ピークより大きいピークを「中間ピーク」と呼ぶことがある。
図4では、ピークK11が最大ピークに相当し、ピークK12が中間ピークに相当し、ピークK13が最小ピークに相当する。また、
図7では、ピークK21が最大ピークに相当し、ピークK22が中間ピークに相当し、ピークK23が最小ピークに相当する。
【0037】
つまり、正転空転時には、1周期Tにおいて、各ピークは、最小ピーク→最大ピーク→中間ピークの順序で出現するのに対し、逆転空転時には、1周期Tにおいて、各ピークは、中間ピーク→最大ピーク→最小ピークの順序で出現する。このように、正転空転時と逆転空転時とでは、1周期Tにおける最小ピークと中間ピークとの出現順序が相違する。すなわち、正転空転時には、1周期Tにおいて、最小ピークが出現した後に中間ピークが出現するのに対し、逆転空転時には、1周期Tにおいて、中間ピークが出現した後に最小ピークが出現する。
【0038】
また、1周期Tが360度である場合、正転空転時には、
図16に示すように0度以上120度未満の範囲に最小ピークが第一ピークとして出現し、240度以上360度未満の範囲に中間ピークが第三ピークとして出現する。それに対し、逆転空転時には、0度以上120度未満の範囲に中間ピークが第一ピークとして出現し、240度以上360度未満の範囲に最小ピークが第三ピークとして出現する。なお、最大ピークは、正転空転時でも逆転空転時でも、120度以上240度未満の範囲に第二ピークとして出現する。
【0039】
そこで、コントローラ40は、空気調和機(図示省略)が運転開始の指示を受けてファンモータMを起動させる前に、入力ポートINに入力される合成波形を観測する。そして、コントローラ40は、合成波形の1周期において最小ピークが出現した後に中間ピークが出現するときは、ファンモータMの回転方向を正転方向と判定する。一方で、合成波形の1周期において中間ピークが出現した後に最小ピークが出現するときは、コントローラ40は、ファンモータMの回転方向を逆転方向と判定する。なお、合成波形の観測は、空気調和機が停止している間、常に行われてもよい。
【0040】
<コントローラにおける処理手順>
図8は、本開示の実施例のコントローラが、ファンモータMの空転時の回転方向を判定する処理手順の一例を示すフローチャートである。
図8に示すフローチャートによる処理は、ファンモータMの起動前(つまり、空気調和機の運転停止中)に開始され、繰り返し行われる。以下では、合成波形WD1,WD2を「合成波形WD」と総称することがある。
【0041】
図8において、ステップS100では、コントローラ40は、入力ポートINに入力される合成波形に対してオフセットキャンセル処理を行う。なお、ステップS100でキャンセルされるオフセットは、IPM10内部のインバータの上アームを制御する回路からの漏れ電流がファンモータMへの出力端子に流れることにより合流波形に重畳される電圧である。
【0042】
次いで、ステップS200では、コントローラ40は、回転数検出処理を行う。
【0043】
次いで、ステップS300では、コントローラ40は、位相検出処理を行う。
【0044】
次いで、ステップS400では、コントローラ40は、回転方向判定処理を行う。
【0045】
<オフセットキャンセル処理>
図9は、本開示の実施例のオフセットキャンセル処理の一例を示すフローチャートである。
【0046】
図9において、ステップS105では、コントローラ40は、合成波形WDの瞬時振幅値を電圧値V
θとして検出する。
【0047】
次いで、ステップS110では、コントローラ40は、ステップS105で検出した電圧値Vθが、コントローラ40の内部にあるメモリ(図示なし)に記憶されている電圧値Vθより小さいときに、電圧値Vθの最小値(以下では「最小電圧値」と呼ぶことがある)を、ステップS105で検出した電圧値Vθによって更新する。なお、最初に検出された電圧値Vθは、初期値としてメモリに記憶され上記のように更新される。
【0048】
次いで、ステップS115では、コントローラ40は、合成波形WDの1周期内で電圧値Vθの最小電圧値であるボトム値に対応する所定の更新タイミングが到来したか否かを判定する。所定の更新タイミングが到来したときは(ステップS115:Yes)、処理はステップS120へ進み、所定の更新タイミングが到来していないときは(ステップS115:No)、ステップS120,S125,S130の処理が行われることなく、処理はステップS135へ進む。
【0049】
ステップS120では、コントローラ40は、最小電圧値を合成波形WDにおけるボトム値として確定し、最小電圧値によってボトム値を更新する。
【0050】
次いで、ステップS125では、コントローラ40は、ボトム値の急激な変化を防ぐために、ボトム値にLPF(Low Pass Filter)処理を施し、LPF処理後のボトム値をオフセット電圧値として確定する。
【0051】
次いで、ステップS130では、コントローラ40は、最小電圧値を所定の初期値にリセットする。
【0052】
次いで、ステップS135では、コントローラ40は、ステップS125で確定したオフセット電圧値を電圧値Vθから減算することにより、合成波形WDに重畳されているオフセット電圧を補正する。このオフセット電圧の補正により、合成波形WDに重畳されているオフセットがキャンセルされる。ステップS135の処理により、オフセットキャンセル処理は終了する。
【0053】
<回転数検出処理>
図10は、本開示の実施例の回転数検出処理の一例を示すフローチャートである。この回転数検出処理では、初めに合成波形WDの周期Tvを検出し、検出した合成波形WDの周期Tvを用いて回転数を求める。
【0054】
図10において、ステップS205では、コントローラ40は、合成波形WDの電圧値V
θを検出した回数をカウントするカウンター値cntをインクリメントする。
【0055】
次いで、ステップS210では、コントローラ40は、ステップS105で検出した電圧値V
θが所定の閾値TH以上であるか否かを判定する。電圧値V
θが所定の閾値TH以上(以下、ハイレベルHとする)であるときは(ステップS210:Yes)、処理はステップS215へ進み、電圧値V
θが所定の閾値TH未満(以下、ローレベルLとする)であるときは(ステップS210:No)、処理はステップS220へ進む。なお、所定の閾値THは、例えば、
図14に示す合成波形WDの電圧振幅の平均値に0.4を乗算した値とする。この平均値は、例えば、直近の3周期の電圧振幅の平均値として算出される。
【0056】
ステップS215では、コントローラ40は、電圧値VθがハイレベルHにあると判定する。判定結果は、コントローラ40内部にあるメモリ(図示なし)に記憶される。
【0057】
一方で、ステップS220では、コントローラ40は、電圧値VθがローレベルLにあると判定する。判定結果は、コントローラ40内部にあるメモリ(図示なし)に記憶される。
【0058】
次いで、ステップS225では、コントローラ40は、コントローラ40内部にあるメモリに記憶されている前回の判定の電圧値VθがローレベルLであって、かつ、今回の判定において電圧値VθがハイレベルHにあると判定されたか否かを判定する。電圧値Vθが、前回の判定においてローレベルLであり、今回の判定においてハイレベルHであるときは(ステップS225:Yes)、処理はステップS230へ進む。一方で、電圧値Vθが、前回及び今回の判定の双方においてローレベルLであるとき、前回及び今回の判定の双方においてハイレベルHであるとき、または、前回の判定においてハイレベルHであり今回の判定においてローレベルLであるときは(ステップS225:No)、ステップS230,S235の処理は行われることなく、回転数検出処理は終了する。
【0059】
ステップS230では、コントローラ40は、式(1)に従って、合成波形WDの周期(つまり、誘起電圧の周期)Tvを算出する。式(1)における「Tc」は、コントローラ40が合成波形WDの電圧値Vθを検出する周期(つまり、コントローラ40の演算処理周期)よって決まる所定の周期である。例えば、ファンモータ制御のキャリア周波数が18kHzの場合、18kHzの1/4の4.5kHzの逆数である222μsecが、式(1)における所定の周期Tcとして用いられる。
Tv=cnt*Tc …(1)
【0060】
次いで、ステップS235では、コントローラ40は、式(2)に従ってファンモータMの空転時の回転数(以下では「空転回転数」と呼ぶことがある)rpsを算出し、今回算出した空転回転数によって前回算出した空転回転数を更新するとともに、カウンター値cntをリセットして0(ゼロ)にする。式(1)に従って算出された周期Tvは電気角周期のため、コントローラ40は、式(1)に従って算出した周期TvをファンモータMの極対数で除算することにより、周期Tvを電気角周期から機械角周期に変換する。ステップS235の処理により、回転数検出処理は終了する。
rps=(1/Tv)/ファンモータMの極対数 …(2)
【0061】
<位相検出処理>
図11は、本開示の実施例の位相検出処理の一例を示すフローチャートである。
【0062】
ステップS305では、コントローラ40は、ステップS225の判定処理と同一の判定処理を行う。ステップS305での判定結果が「肯定(Yes)」のときは、処理はステップS310へ進み、ステップS305での判定結果が「否定(No)」のときは、処理はステップS320へ進む。
【0063】
ステップS310では、コントローラ40は、式(3)に従って、ファンモータMの角速度ωを算出し、算出した角速度ωをコントローラ40内部にあるメモリ(図示なし)に記憶することにより、メモリに記憶されている角速度ωを更新する。
ω=360度/Tv=2π/Tv …(3)
【0064】
次いで、ステップS315では、コントローラ40は、式(4)及び式(5)に従って、合成波形WDにおける位相θの初期値θupを算出する。合成波形WDにおける位相θは、ファンモータMの回転位相に相当する。式(4)において、「KE」はファンモータMの誘起電圧定数を示し、「分圧率」は、合成波形WDの中間ピークの大きさに対する最小ピークの大きさの比、即ち、第一抵抗値と第二抵抗値との比で決まる。例えば、第一抵抗値に対する第二抵抗値の比、または、第二抵抗値に対する第一抵抗値の比が「3:1」であるときは、分圧率は「1/3」となる。また、式(5)において、「Vup」は、ステップS305での判定結果が「肯定(Yes)」となって時点、つまり、電圧値VθがローレベルLからハイレベルHに変化した時点での電圧値Vθを示す。よって、初期値θupは、電圧値VθがローレベルLからハイレベルHに変化した時点での位相θに相当する。ステップS315の処理後、処理はステップS330へ進む。
α=KE*rps*分圧率 …(4)
θ=θup=sin-1(Vup/α) …(5)
【0065】
一方で、ステップS320では、コントローラ40は、式(6)に従って、加算位相Δθを算出する。
Δθ=ω*Tc …(6)
【0066】
次いで、ステップS325では、コントローラ40は、式(7)に従って、合成波形WDにおける位相θを算出する。式(7)における「θold」は、前回のステップS330の処理で更新済みの位相θを示す。ステップS325の処理後、処理はステップS330へ進む。
θ=θold+Δθ …(7)
【0067】
ステップS330では、コントローラ40は、ステップS315またはステップS325で今回算出した位相θをθoldとして設定することにより、前回の位相値として用いられるθoldを更新する。ステップS330の処理により、位相検出処理は終了する。
【0068】
<回転方向検出処理>
図12は、本開示の実施例の回転方向判定処理の一例を示すフローチャートである。
【0069】
図12において、ステップS405では、コントローラ40は、位相θが0度以上、かつ、120度未満であるか否かを判定する。位相θが0度以上、かつ、120度未満であるときは(ステップS405:Yes)、処理はステップS410へ進む。一方で、位相θが120度以上、かつ、360度未満であるときは(ステップS405:No)、処理はステップS415へ進む。
【0070】
ステップS415では、コントローラ40は、位相θが240度以上、かつ、360度未満であるか否かを判定する。位相θが240度以上、かつ、360度未満であるときは(ステップS415:Yes)、処理はステップS420へ進む。一方で、位相θが120度以上、かつ、240度未満であるときは(ステップS415:No)、ステップS410,S420の処理が行われることなく、処理はステップS425へ進む。
【0071】
ステップS410では、コントローラ40は、位相θが0度以上かつ120度未満の区間を第一区間とし、第一区間における電圧値Vθを積算し、積算した値を第一区間積算値SUM0-120とする。一方で、ステップS420では、コントローラ40は、位相θが240度以上かつ360度未満の区間を第二区間とし、第ニ区間における電圧値Vθを積算し、積算した値を第二区間積算値SUM240-360とする。ステップS410,S420の処理後、処理はステップS425へ進む。
【0072】
ステップS425では、コントローラ40は、位相θが360度であるか否かを判定する。位相θが360度であるときは(ステップS425:Yes)、処理はステップS430へ進む。一方で、位相θが360度でないときは(ステップS425:No)、ステップS430,S435,S440の処理が行われることなく、回転方向判定処理は終了する。
【0073】
ステップS430では、コントローラ40は、第二区間積算値SUM240-360が第一区間積算値SUM0-120以上であるか否かを判定する。第二区間積算値SUM240-360が第一区間積算値SUM0-120以上であるときは(ステップS430:Yes)、処理はステップS435へ進む。一方で、第二区間積算値SUM240-360が第一区間積算値SUM0-120未満であるときは(ステップS430:No)、処理はステップS440へ進む。
【0074】
ステップS435では、コントローラ40は、ファンモータMの回転方向が正転方向であると判定する。
【0075】
一方で、ステップS440では、コントローラ40は、ファンモータMの回転方向が逆転方向であると判定する。
【0076】
ステップS435またはステップS440の処理により、回転方向判定処理は終了する。なお、回転方向の判定結果は、ファンモータを起動させる制御部(図示なし)に送られる。
【0077】
図13~
図16は、本開示の実施例のコントローラの動作例を説明する図である。
【0078】
図13に示すように、コントローラ40は、検出したボトム値の急激な変動による影響を防ぐため、一定の時間間隔の更新タイミングTM1,TM2,TM3の各々において検出したボトム値をLPF処理する。また、コントローラ40は、LPF処理後のボトム値をオフセット電圧値として確定し、確定したオフセット電圧値を電圧値V
θから減算することにより、合成波形WDに重畳されているオフセット電圧OS1,OS2,OS3のそれぞれをキャンセルする(ステップ120,S125,S135)。よって、タイミングTM1では、ボトム値BT1に相当するオフセット電圧OS1が合成波形WDからキャンセルされ、タイミングTM2では、ボトム値BT2に相当するオフセット電圧OS2が合成波形WDからキャンセルされ、タイミングTM3では、ボトム値BT3に相当するオフセット電圧OS3が合成波形WDからキャンセルされる。
【0079】
また、
図14に示すように、コントローラ40は、電圧値V
θがローレベルLからハイレベルHに変化する時点(以下では「立ち上がり時点」と呼ぶことがある)を判定し(ステップS225:Yes)、前回の立ち上がり時点から今回の立ち上がり時点までの間隔を合成波形WDの周期Tvとして算出し(ステップS230)、算出した周期Tvに基づいて空転回転数rpsを算出する(ステップS235)。
【0080】
また、
図15に示すように、コントローラ40は、電圧値V
θがローレベルLからハイレベルHに変化した時点での位相θupを初期値として、角速度ωに基づいて算出する加算位相Δθに応じて、現時点での位相θを算出する(ステップS310~S330)。また、初期値θupは係数αに基づいて算出され(式(5))、係数αは空転回転数rpsに基づいて算出される(式(4))。
【0081】
また、
図16に示すように、コントローラ40は、第二区間積算値SUM
240-360が第一区間積算値SUM
0-120以上であるときは、合成波形WDにおいて、240度以上360度未満の範囲に存在するピークの大きさが0度以上120度未満の範囲に存在するピークの大きさ以上であると判定する。よって、コントローラ40は、第二区間積算値SUM
240-360が第一区間積算値SUM
0-120以上であるときは、ファンモータMの回転方向が正転方向であると判定する(ステップS430:Yes,ステップS435)。
【0082】
一方で、コントローラ40は、第一区間積算値SUM0-120が第二区間積算値SUM240-360より大きいときは、合成波形WDにおいて、0度以上120度未満の範囲に存在するピークの大きさが240度以上360度未満の範囲に存在するピークの大きさより大きいと判定する。よって、コントローラ40は、第一区間積算値SUM0-120が第二区間積算値SUM240-360より大きいときは、ファンモータMの回転方向が逆転方向であると判定する(ステップS430:No,ステップS440)。
【0083】
このように、コントローラ40は、単一の入力ポートINに入力される合成波形を用いてファンモータMの回転方向を判定する。また、以上のように、単一の合成波形を用いてファンモータMの回転方向を判定可能なため、コントローラ40において、ファンモータMの回転方向の判定のために必要な入力ポート数は1つで足りる。
【0084】
なお、
図1における上記説明では、第一経路P1がファンモータMのU相に接続され、第二経路P2がファンモータMのV相に接続される場合を一例に挙げて説明した。しかし、第一経路P1がファンモータMのV相に接続され、第二経路P2がファンモータMのW相に接続されても良い。また、第一経路P1がファンモータMのW相に接続され、第二経路P2がファンモータMのU相に接続されても良い。このように、第一経路P1及び第二経路P2の接続先が
図1に示すものと異なる場合であっても、合成波形の1周期Tにおける中間ピークと最小ピークとの出現順序は、第一経路P1及び第二経路P2の接続形態に応じて特定される。よって、第一経路P1及び第二経路P2の接続先が
図1に示すものと異なる場合であっても、上記説明と同様にして、回転方向を判定することができる。
【0085】
以上、実施例について説明した。
【0086】
以上のように、本開示の回転方向判定装置(実施例の回転方向判定装置20)は、誘起電圧波形生成装置(実施例の誘起電圧波形生成装置30)と、コントローラ(実施例のコントローラ40)とを有する。誘起電圧波形生成装置は、1周期において互いに大きさが異なる3つのピークを有する波形(実施例の合成波形WD)を生成する。コントローラは、誘起電圧波形生成装置から波形を入力される入力ポート(実施例の入力ポートIN)を有し、入力ポートに入力される波形に基づいて、3相モータ(実施例のファンモータM)の起動前に3相モータの回転方向を判定する。
【0087】
例えば、コントローラは、入力ポートに入力される波形に基づいて3相モータの回転数及び3相モータの回転位相を算出し、回転数及び回転位相に基づいて回転方向を判定する。
【0088】
こうすることで、コントローラは、誘起電圧波形生成装置から入力される単一の波形を用いて3相モータの回転方向を判定することができるため、コントローラにおいて、3相モータの回転方向の判定のために必要な入力ポートは1ポートで足りる。よって、単一の入力ポートを有するコントローラでも3相モータの回転方向の判定が可能となる。
【0089】
また、コントローラは、入力ポートに入力される波形に重畳されているオフセット電圧を検出してキャンセルする。
【0090】
こうすることで、オフセット電圧の影響をなくして回転方向の判定精度を高めることができる。
【0091】
また、コントローラは、入力ポートに入力される波形の瞬時振幅値がローレベルまたはハイレベルの何れにあるか判定する。そして、コントローラは、入力ポートに入力される波形の瞬時振幅値がローレベルからハイレベルに変化した時点での回転位相を初期値として、3相モータの角速度に基づいて加算位相を算出し、算出した加算位相に応じて現時点での回転位相を算出する。
【0092】
こうすることで、回転位相を正確に算出することができるため、回転方向の判定精度を高めることができる。
【0093】
また、コントローラは、入力ポートに入力される波形の1周期において、0度以上120度未満の範囲に存在するピークである第一ピークの大きさと、240度以上360度未満の範囲に存在するピークである第三ピークの大きさとを比較することにより、回転方向を判定する。
【0094】
こうすることで、回転方向が正転方向であるか逆転方向であるかを正確に判定することができる。
【符号の説明】
【0095】
M ファンモータ
20 回転方向判定装置
30 誘起電圧波形生成装置
40 コントローラ
IN 入力ポート
R1 第一抵抗
R2 第二抵抗
R3 第三抵抗
P1 第一経路
P2 第二経路
P3 第三経路
P4 第四経路
JP 合流点