(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20240214BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20240214BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
F01N3/08 A
F01N3/20 K
B01D53/94 280
B01D53/94 ZAB
(21)【出願番号】P 2020167156
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細川 朋寛
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-180765(JP,A)
【文献】特開平7-313878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
F01N 3/20
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから排出される排気が流通する排気通路と、
前記排気通路に配置され、前記排気に含まれるメタンを浄化する触媒と、
前記触媒の上流に配置され、前記排気に含まれる水分を吸着する水分吸着部と、
前記水分吸着部を加熱する加熱装置と、
所定の条件が成立した場合に、前記水分吸着部を加熱するよう前記加熱装置を作動する制御装置と、を備えることを特徴とする排気浄化装置。
【請求項2】
前記触媒の温度を取得する温度取得部をさらに備え、
前記所定の条件は、前記温度取得部によって取得された前記触媒の温度が所定温度以上であることを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項3】
前記所定の条件は、前記エンジンの運転状態が、前記エンジンへ供給される燃料が減少される状態であることを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項4】
前記水分吸着部は、1つの前記触媒の上流に複数配置されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、天然ガスなどのメタン(CH4)を主成分とするガス(メタン主成分ガス)を燃料として用いるガスエンジンの排ガス浄化に用いられる三元触媒が記載されている。当該三元触媒は、ハニカム担体上にコーティングされたウォシュコート層中にPt、Rh、Pd及びCeを少なくとも含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、こうした三元触媒においては、例えばエンジンの冷機始動直後など、触媒温度が低い状態では、メタン(CH4)の浄化性能が十分に得られないという課題があった。
【0005】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたもので、触媒温度が低い状態であってもメタンを浄化させることができる排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、エンジンから排出される排気が流通する排気通路と、前記排気通路に配置され、前記排気に含まれるメタンを浄化する触媒と、前記触媒の上流に配置され、前記排気に含まれる水分を吸着する水分吸着部と、前記水分吸着部を加熱する加熱装置と、所定の条件が成立した場合に、前記水分吸着部を加熱するよう前記加熱装置を作動する制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、触媒温度が低い状態であってもメタンを浄化させることができる排気浄化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係る排気浄化装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係る排気浄化装置の制御装置によって実行される加熱制御の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例に係る排気浄化装置の加熱装置の変形例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例に係る排気浄化装置の水分吸着部の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る排気浄化装置は、エンジンから排出される排気が流通する排気通路と、排気通路に配置され、排気に含まれるメタンを浄化する触媒と、触媒の上流に配置され、排気に含まれる水分を吸着する水分吸着部と、水分吸着部を加熱する加熱装置と、所定の条件が成立した場合に、水分吸着部を加熱するよう加熱装置を作動する制御装置と、を備えることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る排気浄化装置は、触媒温度が低い状態であってもメタンを浄化させることができる。
【実施例】
【0010】
以下、本発明の一実施例に係る排気浄化装置について図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、排気浄化装置1は、排気管3と、触媒4と、水分吸着部5と、加熱装置6と、制御装置7と、を含んで構成されている。本実施例に係る排気浄化装置1は、エンジン2から排出される排気を浄化するよう、エンジン2に接続される排気浄化装置である。
【0012】
本実施例において、エンジン2は、気体燃料であるCNG(Compressed Natural Gas:圧縮天然ガス)を燃料として用いるエンジンである。エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行うように構成されている。
【0013】
本実施例におけるエンジン2は、車両の駆動源として用いられる。エンジン2は、車両に限らず、船舶等の車両以外の輸送手段や、装置又は施設に設置される駆動源としても用いることができる。エンジン2は、メタン(CH4)を含む排気を排出するエンジンであれば、CNGを燃料として用いるエンジンに限られない。
【0014】
排気管3は、図示しない排気マニホールドを介してエンジン2に連結されており、内部に排気通路3aが形成されている。排気通路3aは、エンジン2から排出される排気が流通するようになっている。
【0015】
触媒4は、排気通路3aに配置され、エンジン2から排出される排気を浄化する排ガス浄化触媒である。触媒4は、セラミック又は金属製のハニカム構造体の上に、排ガス浄化の触媒反応の活性種となる白金族金属、酸素吸蔵材、添加剤及びコート基材を、最適な分量にて配合したものを塗布したものからなる。
【0016】
白金族金属としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)を用いる。酸素吸蔵材は、セリア-ジルコニア複合酸化物等からなり、酸素の吸蔵・放出を行うものである。添加剤は、白金族金属や酸素吸蔵材の劣化を抑制するものである。コート基材は、白金族金属、酸素吸蔵材及び添加剤を保持し、かつ、高い比表面積を有し、排ガスと活性種の接触機会を増大するためのアルミナやチタニア等からなる。
【0017】
エンジン2から排出される排気には、メタン(CH4)が含まれる。また、排気中には水分も含まれており、この排気中に含まれる水分の濃度(以下、「水分濃度」という)が高い場合、触媒4の温度を高くしないとメタン(CH4)を十分に浄化できない。これは、排気中に含まれる水分濃度が高いと、メタン(CH4)の活性温度が高くなるためである。したがって、排気中に含まれる水分濃度を下げることができれば、メタン(CH4)の活性温度を低下させることができ、触媒4が活性温度よりも低い温度の低温状態であってもメタン(CH4)を浄化することが可能となる。
【0018】
そこで、本実施例においては、触媒4に導入される排気中の水分を、以下に説明する水分吸着部5によって吸着することにより、触媒4に導入される排気中の水分濃度を低下させるようにしている。
【0019】
水分吸着部5は、排気通路3a上であって触媒4の上流に配置されている。上流とは、排気通路3aにおける排気が流れる方向の上流を意味する。水分吸着部5は、排気に含まれる水分を吸着するようになっている。
【0020】
水分吸着部5としては、セラミック又は金属製のハニカム構造体の上にゼオライト等の水分吸着機能を有する材料をコーティングしたもの、若しくは、ゼオライトを押し固めて成形した顆粒(ペレット)を金属製の容器内に充填したもの、を用いることができる。
【0021】
加熱装置6は、排気通路3a上であって水分吸着部5の上流に配置されており、水分吸着部5を加熱するものである。水分吸着部5に吸着した水分は、加熱装置6による加熱によって水分吸着部5から放出される。加熱装置6としては、電気加熱ヒータやメッシュヒータ等を用いることができる。
【0022】
加熱装置6は、排気通路3aを流通する排気の流れを大きく阻害しない程度の大きさに形成されている。加熱装置6は、制御装置7に接続されており、制御装置7によってオン・オフ、すなわち作動の有無が制御される。
【0023】
制御装置7は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0024】
コンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットを制御装置7として機能させるためのプログラムが格納されている。すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、当該コンピュータユニットは、本実施例における制御装置7として機能する。
【0025】
制御装置7には、エンジン2、加熱装置6、触媒温度センサ41が接続されている。触媒温度センサ41は、触媒4の温度(以下、「触媒温度」という)を検出して、検出結果を制御装置7に送信する。制御装置7は、触媒温度センサ41から触媒温度を取得する温度取得部71としての機能を有する。
【0026】
制御装置7は、エンジン2の駆動時間から触媒温度を推定することによって触媒温度を取得する構成であってもよい。この場合、制御装置7は、エンジン2の駆動時間と触媒温度との関係を予め実験的に求めてROMに記憶した推定マップを参照することにより触媒温度を推定する。
【0027】
また、制御装置7は、排気の温度から触媒温度を推定することによって触媒温度を取得する構成であってもよい。この場合、触媒温度センサ41に代えて、排気の温度を検出する排気温度センサが排気通路3aに設けられる。
【0028】
制御装置7は、所定の条件が成立した場合に、水分吸着部5を加熱するよう加熱装置6をオン、すなわち作動するようになっている。
【0029】
本実施例において、所定の条件は、触媒温度センサ41によって検出された触媒温度が所定温度Ta以上であること、である。したがって、本実施例において、制御装置7は、触媒温度が所定温度Ta以上である場合に、加熱装置6を作動する。
【0030】
所定温度Taは、触媒4が活性し始める温度であって、予め実験的に求められ制御装置7のROMに記憶されている。所定温度Taは、例えばエンジンごと、又は車両ごとに定められた適合値である。
【0031】
次に、
図2を参照して、本実施例の制御装置7によって実行される加熱制御の処理の流れについて説明する。
図2に示す加熱制御は、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
【0032】
図2に示すように、制御装置7は、触媒温度センサ41から触媒温度を取得する(ステップS1)。その後、制御装置7は、ステップS1で取得した触媒温度が所定温度Ta以上であるか否かを判定する(ステップS2)。
【0033】
制御装置7は、ステップS2において触媒温度が所定温度Ta以上でないと判定した場合には、触媒4が活性化していないと判断して、加熱装置6をオフに維持して(ステップS5)、本加熱制御を終了する。
【0034】
制御装置7は、ステップS2において触媒温度が所定温度Ta以上であると判定した場合には、加熱装置6をオンする、すなわち作動する(ステップS3)。これにより、水分吸着部5に吸着された水分が放出される。このとき、エンジン2が駆動されていると、排気中の水分濃度が一時的に上昇するが、触媒4が活性化しているので、十分にメタン(CH4)を浄化可能である。
【0035】
その後、制御装置7は、加熱装置6による水分の放出量が所定量以上か否かを判定する(ステップS4)。制御装置7は、加熱装置6が駆動開始されてからの経過時間によって、加熱装置6による水分の放出量が所定量以上か否かを判定することができる。
【0036】
具体的には、制御装置7は、加熱装置6が駆動開始されてからの経過時間が所定時間以上である場合には、水分の放出量が所定量以上であると判定する。所定時間は、例えば次回のエンジン始動時に水分吸着部5が水分を吸着可能な状態になるまで水分が放出されるのに要する時間であり、予め実験的に求めて制御装置7のROMに記憶されている。「水分吸着部5が水分を吸着可能な状態」とは、水分が完全に放出されている状態に限らず、例えば所定割合(例えば80%)以上の水分が放出されている状態であってもよい。
【0037】
制御装置7は、加熱装置6による水分の放出量が所定量以上でないと判定した場合には、再度、ステップS4の処理を実行する。
【0038】
制御装置7は、加熱装置6による水分の放出量が所定量以上であると判定した場合には、加熱装置6をオフ、すなわち作動を停止して(ステップS5)、本加熱制御を終了する。
【0039】
以上のように、本実施例に係る排気浄化装置は、水分吸着部5が触媒4の上流に配置されているので、排気に含まれる水分を水分吸着部5によって吸着することで触媒4に導入される排気中の水分濃度を低下させることができる。これにより、メタン(CH4)の活性温度を低下させることができ、触媒4が低温状態であってもメタン(CH4)を浄化することができる。
【0040】
また、本実施例に係る排気浄化装置は、所定の条件が成立した場合に、水分吸着部5を加熱するよう加熱装置6を作動するので、水分吸着部5が加熱されることによって水分吸着部5に吸着した水分を水分吸着部5から放出することができる。これにより、水分吸着部5の吸着性能を復帰させることができ、水分吸着部5を再使用することができる。
【0041】
また、本実施例に係る排気浄化装置において、触媒温度が所定温度Ta以上であることが上述の所定の条件であるため、触媒4が活性化された状態で水分吸着部5に吸着した水分を水分吸着部5から放出することができる。これにより、排気中に水分が含まれていても、活性化している触媒4でメタン(CH4)を浄化しつつ、水分吸着部5の再使用に備えることができる。
【0042】
なお、本実施例においては、加熱装置6を作動する所定の条件として、触媒温度が所定温度Ta以上であることを例に説明したが、当該所定の条件は、例えば次のような条件としてもよい。
【0043】
本実施例において、エンジン2の運転状態が、エンジン2へ供給される燃料が減少される状態であることを、所定の条件としてもよい。エンジン2へ供給される燃料が減少される状態としては、例えば、車両が減速中であること、燃料カット中であること、又は減速時アイドルストップ中であること、が挙げられる。これらの場合、排気に含まれるメタン(CH4)が少ないため、触媒4が低温状態であってもメタン(CH4)を大気中に放出することなく、水分吸着部5の再使用に備えることができる。
【0044】
この他、車両停車後であることを所定の条件としてもよいし、車両のイグニッションがオンからオフに切り替わったことを所定の条件としてもよい。
【0045】
上述の所定の条件に関わらず、例えばエンジン2の運転中、定期的に加熱装置6を作動して水分吸着部5から水分を放出するようにしてもよい。
【0046】
(加熱装置の変形例)
本実施例においては、加熱装置6を水分吸着部5の上流に配置した構成について説明したが、これに限らず、
図3に示す変形例のような構成としてもよい。
【0047】
図3に示すように、第1の変形例に係る加熱装置6Aは、水分吸着部5の外周を覆う筒状のメッシュヒータからなる。加熱装置6Aは、螺旋状に周回されて筒状に形成されたシーズヒータによって構成されていてもよい。
【0048】
第1の変形例に係る加熱装置6Aによれば、水分吸着部5の全体をメッシュヒータ又はシーズヒータで覆うので、水分吸着部5を効率的に加熱することができ、より効率的な水分の放出を行うことができる。
【0049】
(水分吸着部の変形例)
本実施例においては、水分吸着部5を触媒4の上流に1つ配置した構成について説明したが、これに限らず、
図4に示すように、水分吸着部を複数配置する構成としてもよい。
【0050】
図4に示す変形例では、触媒4の上流に3つの水分吸着部5A、5B、5Cを配置している。水分吸着部の数は、3つに限定されるものではなく、複数であればよい。水分吸着部5A、5B、5Cのそれぞれは、本実施例の水分吸着部5よりも小型である。
【0051】
図4に示す変形例によれば、水分吸着部5A、5B、5Cのそれぞれの容量が本実施例の水分吸着部5と比べて小さいので、水分を放出して再使用可能となるまでの吸着再生時間を短縮することができる。さらに、水分吸着部を多段化することによって、上流の水分吸着部で吸着しきれなかった水分を下流の水分吸着部で吸着することができる。
【0052】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0053】
1 排気浄化装置
2 エンジン
3 排気管
3a 排気通路
4 触媒
5、5A、5B、5C 水分吸着部
6、6A 加熱装置
7 制御装置
41 触媒温度センサ
71 温度取得部
Ta 所定温度