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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】繊維加工用水分散組成物
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/17 20060101AFI20240214BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
D06M15/17
D06M15/53
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020173671
(22)【出願日】2020-10-15
(65)【公開番号】P2021066990
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2019189828
(32)【優先日】2019-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小川 寿子
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-047896(JP,A)
【文献】特公昭59-051637(JP,B2)
【文献】欧州特許出願公開第03323935(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 - 15/715
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21H 11/00 - 27/42
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジン系樹脂(A)及びノニオン性界面活性剤(B)を含有し、
前記ロジン系樹脂(A)の水酸基価が10~50mgKOH/gである、繊維加工用水分散組成物。
【請求項2】
(A)成分の軟化点が80~180℃である、請求項1に記載の繊維加工用水分散組成物。
【請求項3】
(A)成分がロジンエステル類である、請求項1又は2に記載の繊維加工用水分散組成物。
【請求項4】
(B)成分のHLBが7~19である、請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維加工用水分散組成物。
【請求項5】
ポリエステル繊維に用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維加工用水分散組成物。
【請求項6】
ポリアミド繊維に用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維加工用水分散組成物。
【請求項7】
綿に用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維加工用水分散組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維加工用水分散組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維に対して撥水性や防汚性等の各種機能を付与するために、種々の繊維加工剤によって繊維を加工することが多く行なわれている。
【0003】
例えば、繊維に対する撥水性付与としては、撥水剤による処理が一般的である。撥水剤としては、特にフッ素原子を有するフッ素系撥水剤がよく知られており、かかるフッ素系撥水剤を繊維製品等に処理することにより、その表面に撥水性が付与された繊維製品が知られている。
【0004】
上記フッ素系撥水剤は、一般にフルオロアルキル基を有する単量体(モノマー)を重合、若しくは共重合させることにより製造される。フッ素系撥水剤で処理された繊維製品は優れた撥水性を発揮するものの、フルオロアルキル基を有する単量体は難分解性であるため、環境面において問題がある。
【0005】
そこで、近年、フッ素原子を含まない非フッ素系撥水剤について研究が進められている。例えば、特許文献1には、エステル部分の炭素数が12以上の(メタ)アクリル酸エステルを単量体単位として含む特定の非フッ素系ポリマーからなる撥水剤が提案されている。また、特許文献2には、アミノ変性シリコーンと多官能イソシアネート化合物を含有する柔軟撥水剤が提案されている。しかし、これら撥水剤によって加工を施した繊維は、繊維同士の摩擦抵抗が非常に小さくなるため、滑脱性(衣類等において、着用中に縫い目がずれる現象を防止する性能)が低下するという問題があった。また、上記加工した繊維は硬くなる傾向があるため、その風合いについても十分であるとはいえなかった。さらに、上記加工した繊維を折り曲げたりこすったりした場合に、繊維上の撥水剤被膜に亀裂や剥離が生じ、その部分が光の乱反射によって白化する、いわゆるチョークマークが発生して外観が大きく損なわれる問題もあった。
【0006】
また、その他の繊維に対する機能性付与として、防汚加工が挙げられる。従来から、繊維に汚れが付着することを防止したり、付着した汚れを落ちやすくしたりするために、様々な防汚加工手段が提案されている。
【0007】
上記防汚加工としては、例えば、繊維表面をシリコーン系加工剤等の耐汚染性付与剤で被覆する非フッ素系SG(Soil Guard;汚れ成分が繊維表面に対して付着し難くなる性能)加工が知られている。繊維に対してこのSG加工を施せば、繊維表面に液体汚れが付着し難くなる。しかし、このようなSG加工では、繊維同士の摩擦抵抗が小さくなるため、上記の撥水加工と同様に、繊維の滑脱性が低下し、その風合いも悪くなるという問題があった。
【0008】
特許文献3では、繊維材料に対して、多糖類及び変性オルガノシリケート微粒子を付着させることでSG性に優れる防汚加工薬剤が提案されている。しかし、繊維における滑脱性やその風合いについては考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-328624号公報
【文献】特開2004-059609号公報
【文献】特開2014-122435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、撥水性、耐久撥水性及び防汚性等の繊維加工剤による機能を損ねること無く、滑脱性、風合い及び耐チョークマーク性に優れた繊維製品を得ることができる、繊維加工用水分散組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、ロジン系樹脂を、ノニオン性界面活性剤を用いて水中に分散した組成物を使用することで、前記課題を解決することを見出した。すなわち、本発明は、以下の繊維加工用水分散組成物に関する。
【0012】
1.ロジン系樹脂(A)及びノニオン性界面活性剤(B)を含む、繊維加工用水分散組成物。
【0013】
2.(A)成分の軟化点が80~180℃である、上記項1に記載の繊維加工用水分散組成物。
【0014】
3. (A)成分がロジンエステル類である、上記項1又は2に記載の繊維加工用水分散組成物。
【0015】
4.(B)成分のHLBが7~19である、上記項1~3のいずれか1項に記載の繊維加工用水分散組成物。
【0016】
5. ポリエステル繊維に用いる、上記項1~4のいずれか1項に記載の繊維加工用水分散組成物。
【0017】
6.ポリアミド繊維に用いる、上記項1~4のいずれか1項に記載の繊維加工用水分散組成物。
【0018】
7. 綿に用いる、上記項1~4のいずれか1項に記載の繊維加工用水分散組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明の繊維加工用水分散組成物によれば、繊維加工剤と併用した場合に、撥水性、耐久撥水性及び防汚性等の繊維加工剤による機能を損ねること無く、滑脱性、風合い及び耐チョークマーク性に優れた繊維製品を得ることができる。上記の繊維加工用水分散組成物は、種々の繊維加工剤に適用できるが、撥水剤や耐汚染性付与剤に用いることが好適である。さらに、上記の繊維加工用水分散組成物は、ポリエステル繊維や綿に対して好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[繊維加工用水分散組成物]
本発明の繊維加工用水分散組成物(以下、単に組成物ともいう)は、(A)ロジン系樹脂(以下、(A)成分という)及び(B)ノニオン性界面活性剤(以下、(B)成分という)を含むものである。
【0021】
<ロジン系樹脂(A)>
(A)成分としては、特に限定されず、各種公知のものを使用できる。(A)成分は、例えば、馬尾松、スラッシュ松、メルクシ松、思茅松、テーダ松及び大王松等に由来する天然ロジン(ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン)、天然ロジンを減圧蒸留法、水蒸気蒸留法、抽出法、再結晶法等で精製して得られる精製ロジン(以下、天然ロジンと精製ロジンを纏めて未変性ロジンともいう)、当該未変性ロジンを水素化反応させて得られる水素化ロジン、当該未変性ロジンを不均化反応させて得られる不均化ロジン、当該未変性ロジンを重合させて得られる重合ロジン、アクリル化ロジン、マレイン化ロジン、フマル化ロジン等のα,β―不飽和カルボン酸変性ロジン、又はこれらのエステル化物(以下、これらのエステル化物をロジンエステル類とする)、ロジンフェノール樹脂などが挙げられる。(A)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせても良い。
【0022】
(A)成分は、繊維の滑脱性、耐チョークマーク性、風合い及び組成物の安定性に優れる点から、ロジンエステル類が好ましく、未変性ロジンエステル、水素化ロジンエステル、不均化ロジンエステル、重合ロジンエステル及びα,β―不飽和カルボン酸変性ロジンエステルからなる郡から選択される少なくとも1種がより好ましく、同様の点から、水素化ロジンエステル、不均化ロジンエステル、α,β―不飽和カルボン酸変性ロジンエステル、メルクシ松に由来する未変性ロジンからの未変性ロジンエステルが特に好ましい。以下、未変性ロジンエステル、水素化ロジンエステル、不均化ロジンエステル、重合ロジンエステル及びα,β―不飽和カルボン酸変性ロジンエステルについて説明する。
【0023】
(未変性ロジンエステル)
未変性ロジンエステルは、上記未変性ロジンにアルコール類を反応させて得られる。
【0024】
未変性ロジンは、減圧留去法、水蒸気蒸留法、抽出法、再結晶法等で精製されたものを使用しても良い。
【0025】
上記未変性ロジンと、アルコール類との反応条件としては、該未変性ロジン及びアルコール類を溶媒の存在下又は不存在下に、必要によりエステル化触媒を加え、250~280℃程度で、1~8時間程度で行えば良い。
【0026】
上記アルコール類としては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ステアリルアルコール等の1価のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ダイマージオール等の2価のアルコール類、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの3価のアルコール類、ペンタエリスリトール、ジグリセリンなどの4価のアルコール類、ジペンタエリスリトールなどの6価のアルコール類等が挙げられる。これらの中でも、2つ以上の水酸基を有する多価アルコール類が好ましく、特にグリセリン、ペンタエリスリトールがより好ましい。
【0027】
(水素化ロジンエステル)
水素化ロジンエステルは、上記未変性ロジンを水素化反応させて得られる水素化ロジンに、更にアルコール類を反応させてエステル化させたものである。
【0028】
上記水素化ロジンを得る方法としては、各種公知の手段を用いて得ることができる。具体的には、例えば、公知の水素化条件を用いて上記未変性ロジンを水素化することにより得ることができる。水素化条件は、例えば、水素化触媒の存在下、水素圧2~20MPa程度で、100~300℃程度に上記未変性ロジンを加熱する方法等が挙げられる。また、水素圧は5~20MPa程度、反応温度は150~300℃程度とすることが好ましい。水素化触媒としては、担持触媒、金属粉末等、各種公知のものを使用することができる。担持触媒としては、パラジウム-カーボン、ロジウム-カーボン、ルテニウム-カーボン、白金-カーボン等が挙げられる。金属粉末としては、ニッケル、白金等が挙げられる。これらの中でもパラジウム、ロジウム、ルテニウム、及び白金系触媒が、上記未変性ロジンの水素化率が高くなり、水素化時間が短くなるため好ましい。なお、水素化触媒の使用量は、上記未変性ロジン100質量部に対して、通常0.01~5質量部程度であり、好ましくは0.01~2質量部程度である。
【0029】
上記水素化は、必要に応じて、上記未変性ロジンを溶剤に溶解した状態で行ってもよい。使用する溶剤は特に限定されないが、反応に不活性で原料や生成物が溶解しやすい溶剤であればよい。具体的には、例えば、シクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、デカリン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等を1種または2種以上を組み合わせて使用できる。溶剤の使用量は特に制限されないが、通常、上記未変性ロジンに対して固形分が10質量%以上、好ましくは10~70質量%程度の範囲となるように用いればよい。
【0030】
また、上記水素化ロジンとしては、水素化ロジンに、上記精製を施したものを使用しても良い。
【0031】
上記水素化ロジンと、アルコール類との反応条件としては、水素化ロジン及びアルコール類を溶媒の存在下又は不存在下に、必要によりエステル化触媒を加え、250~280℃程度で、1~8時間程度で行えば良い。
【0032】
上記水素化ロジンをエステル化する際に用いるアルコール類は上記同様である。
【0033】
なお、上記水素化反応と上記エステル化反応の順番は、上記に限定されず、エステル化反応の後に、水素化反応を行ってもよい。
【0034】
(不均化ロジンエステル)
不均化ロジンエステルは、上記未変性ロジンを不均化反応させて得られる不均化ロジンに、更にアルコール類を反応させてエステル化させたものである。
【0035】
上記不均化ロジンを得る方法としては、各種公知の手段を用いて得ることができる。例えば、上記未変性ロジンを不均化触媒の存在下に加熱して反応させればよい。不均化触媒としては、パラジウム-カーボン、ロジウム-カーボン、白金-カーボン等の担持触媒、ニッケル、白金等の金属粉末、ヨウ素、ヨウ化鉄等のヨウ化物等、各種公知のものを例示しうる。該触媒の使用量は、原料となるロジン100質量部に対して通常0.01~5質量部程度、好ましくは0.01~1質量部であり程度、反応温度100~300℃程度、好ましくは150℃~290℃程度である。
【0036】
また、上記不均化ロジンとしては、不均化ロジンに、上記精製を施したものを使用しても良い。
【0037】
上記不均化ロジンと、アルコール類との反応条件としては、不均化ロジン及びアルコール類を溶媒の存在下又は不存在下に、必要によりエステル化触媒を加え、250~280℃程度で、1~8時間程度で行えば良い。
【0038】
上記不均化ロジンをエステル化する際に用いるアルコール類は上記同様である。
【0039】
なお、上記不均化反応と上記エステル化反応の順番は、上記に限定されず、エステル化反応の後に、不均化反応を行ってもよい。
【0040】
(重合ロジンエステル)
重合ロジンエステルは、重合ロジンにアルコール類を反応させて得られる。重合ロジンとは、二量化された樹脂酸を含むロジン誘導体である。
【0041】
重合ロジンを製造する方法としては、公知の方法を採用することができる。具体的には、例えば、原料として、上記未変性ロジンを硫酸、フッ化水素、塩化アルミニウム、四塩化チタン等の触媒を含むトルエン、キシレン等の溶媒中、温度40~160℃程度で、1~5時間程度反応させる方法等が挙げられる。
【0042】
重合ロジンの具体例としては、上記原料としてガムロジンを使用したガム系重合ロジン(例えば、商品名「重合ロジンB-140」、新洲(武平)林化有限公司製)、トール油ロジンを使用したトール油系重合ロジン(例えば、商品名「シルバタック140」、アリゾナケミカル社製)、ウッドロジンを使用したウッド系重合ロジン(例えば、商品名「ダイマレックス」、ASHLAND社製)等が挙げられる。
【0043】
また、重合ロジンとしては、重合ロジンに、水素化、不均化等の変性や、アクリル化、マレイン化及びフマル化等のα,β―不飽和カルボン酸変性等の各種処理を施したものを使用しても良い。また各種処理も単独であっても2種以上を組み合わせても良い。
【0044】
上記重合ロジンと、アルコール類との反応条件としては、重合ロジン及びアルコール類を溶媒の存在下又は不存在下に、必要によりエステル化触媒を加え、250~280℃程度で、1~8時間程度で行えば良い。
【0045】
重合ロジンをエステル化する際に用いるアルコール類は上記同様である。
【0046】
なお、上記重合反応と上記エステル化反応の順番は、上記に限定されず、エステル化反応の後に、重合反応を行ってもよい。
【0047】
(α,β―不飽和カルボン酸変性ロジンエステル)
α,β―不飽和カルボン酸変性ロジンエステルは、上記未変性ロジン又は上記不均化ロジンにα,β-不飽和カルボン酸を付加反応させた変性ロジン(α,β-不飽和カルボン酸変性ロジン)に、更にアルコール類を反応させてエステル化させたものである。
【0048】
上記α,β-不飽和カルボン酸としては、特に限定されず、各種公知のものを使用できる。具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ムコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ムコン酸等が挙げられる。これらの中でも、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸が好ましい。α,β-不飽和カルボン酸の使用量は、乳化性の点から、通常は、上記未変性ロジン又は上記不均化ロジン100質量部に対して1~20質量部程度、好ましくは1~3質量部程度である。
【0049】
α,β-不飽和カルボン酸変性ロジンの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、加熱下で溶融させた上記未変性ロジン又は上記不均化ロジンに、上記α,β-不飽和カルボン酸を加えて、温度180~240℃程度で、1~9時間程度で反応させることが挙げられる。また、上記反応は、密閉した反応系内に窒素等の不活性ガスを吹き込みながら行っても良い。さらに反応では、例えば、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化スズ等のルイス酸や、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等のブレンステッド酸等の公知の触媒を使用してもよい。これら触媒の使用量は、上記未変性ロジン又は上記不均化ロジンに対して通常0.01~10質量%程度である。
【0050】
得られたα,β-不飽和カルボン酸変性ロジンには、上記未変性ロジン又は上記不均化ロジン由来の樹脂酸が含まれてもよく、その含有量は、10質量%未満である。
【0051】
上記α,β-不飽和カルボン酸変性ロジンと、アルコール類との反応条件としては、特に限定されないが、例えば、加熱下で溶融させたα,β-不飽和カルボン酸変性ロジンに、アルコールを加えて、温度250~280℃程度で、15~20時間程度で反応させることが挙げられる。また、上記反応は、密閉した反応系内に窒素等の不活性ガスを吹き込みながら行っても良く、前述の触媒を使用してもよい。
【0052】
α,β-不飽和カルボン酸変性ロジンをエステル化する際に用いるアルコール類は上記同様である。
【0053】
(ロジン系樹脂(A)の物性)
(A)成分の物性としては、特に限定されない。(A)成分の軟化点は、繊維の風合い及び組成物の安定性に優れる点から、好ましくは80~180℃程度、より好ましくは100~140℃程度、特に好ましくは120~130℃程度である。なお、本明細書において、軟化点は、環球法(JIS K 5902)により測定した値である。
【0054】
(A)成分の水酸基価は、組成物の乳化安定性に優れる点から、10~50mgKOH/g程度が好ましい。また、(A)成分の酸価は、乳化安定性に優れる点から、0.5~30mgKOH/g程度が好ましい。なお、本明細書において、水酸基価及び酸価は、JIS K 0070により測定した値である。
【0055】
(A)成分の重量平均分子量は、組成物の乳化安定性に優れる点で、好ましくは500~3000程度、より好ましくは1100~2000程度である。なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算値である。
【0056】
(A)成分の色調は、4ガードナー以下が好ましく、150ハーゼン以下がより好ましく、60ハーゼン以下が特に好ましい。(A)成分の色調が4ガードナー以下である場合、本発明の繊維加工用水分散組成物で処理された繊維製品は、経時における着色(黄変)が抑制される。また、(A)成分の色調がハーゼンレベルである場合は、さらに繊維製品における経時での着色が抑制される。なお、本明細書において、色調は、JIS K0071-3に準じて、ガードナー単位、ハーゼン単位で測定されたものである。
【0057】
<ノニオン性界面活性剤(B)>
(B)成分としては、ノニオン性界面活性剤であれば特に限定されず、各種公知のものを使用できる。本発明の水分散組成物において、ノニオン性界面活性剤(B)ではなく、アニオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤を用いると、繊維加工剤の各種機能(撥水性、防汚性など)が低下する場合や、繊維加工剤との併用の際にその安定性が低下する場合があるため、好ましくはない。(B)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせても良い。
【0058】
(B)成分は、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシ多環フェニルエーテル類、ソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類、グリセリン高級脂肪酸エステル類、ポリアルキレンオキサイドのブロックコポリマー等が挙げられ、具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー等が挙げられる。
【0059】
(B)成分は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル類、ソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類、グリセリン高級脂肪酸エステル類、ポリアルキレンオキサイドのブロックコポリマーが好ましい。
【0060】
(ノニオン性界面活性剤(B)の物性)
(B)成分の物性は、特に限定されない。(B)成分のHLBは、(A)成分の乳化安定性、繊維加工剤の安定性、撥水性及び防汚性に優れる点で、7~19が好ましく、12~15程度が特に好ましい。(B)成分のHLBを7以上とすることにより、(A)成分の乳化安定性及び繊維加工剤の安定性がより優れたものとなる。また、HLBを19以下とすることにより、繊維加工剤における撥水性及び防汚性がより優れたものとなる。なお、HLBとは、界面活性剤の疎水性と親水性のバランスを示す値であり、1~20までの値をとり、数値が小さいほど疎水性が強く、数値が大きくなると親水性が強いことを示す。
【0061】
(B)成分の使用量は特に限定されないが、(A)成分100質量部に対して、固形分換算で1~20質量部程度が好ましく、5~10質量部程度がより好ましい。(B)成分の使用量を1質量部以上とすることにより、確実な乳化を行うことができ、撥水剤や耐汚染性付与剤に用いた場合に安定性が良くなる。また、20質量部以下とすることにより、撥水剤に用いた場合に撥水性が損ない難くなる。
【0062】
<界面活性剤(C)>
本発明の上記組成物は、当該組成物の分散性を向上させることを目的に、本発明の効果を損なわない限りにおいて、必要に応じて(B)成分以外の界面活性剤(C)(以下(C)成分ともいう)を含めてもよい。
【0063】
(C)成分は、(B)成分以外のものであれば、特に限定されず各種公知の乳化剤を使用できる。具体的には、モノマーを重合させて得られる高分子量乳化剤、低分子量アニオン性乳化剤、低分子量カチオン性乳化剤等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせてもよい。これらの中でも、乳化性に優れる点から、低分子量アニオン乳化剤が好ましい。
【0064】
上記高分子量乳化剤の製造に用いられるモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸系ビニルモノマー類;マレイン酸、無水マレイン酸等のジカルボン酸系ビニルモノマー類;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等のスルホン酸系ビニルモノマー類;及びこれら各種有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機塩基類の塩;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系モノマー類;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル系モノマー類;酢酸ビニル等のビニルエステル系モノマー類;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル系モノマー類;メチルビニルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、炭素数6~22のα-オレフィン、ビニルピロリドン等のその他のモノマー類などが挙げられる。これらは単独でも2種以上組み合わせても良い。
【0065】
重合方法としては、溶液重合、懸濁重合、後述する高分子量乳化剤以外の反応性乳化剤、高分子量乳化剤以外の非反応性乳化剤などを用いた乳化重合などが挙げられる。
【0066】
かくして得られた上記高分子量乳化剤の重量平均分子量は特に限定されないが、通常1000~500000程度とすることが、得られる粘着付与樹脂エマルジョンの粘着特性の点で好ましい。ここでいう重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリエチレンオキシド換算値である。
【0067】
上記高分子量乳化剤以外の反応性乳化剤としては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基などの親水基と、アルキル基、フェニル基などの疎水基を有するものであって、分子中に炭素-炭素二重結合を有するものをいう。
【0068】
上記低分子量アニオン性乳化剤としては、例えば、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸エステル塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルスルホコハク酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンジアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレントリアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0069】
上記低分子量カチオン性乳化剤としては、例えば、テトラアルキルアンモニウムクロライド、トリアルキルベンジルアンモニウムクロライド、アルキルアミン酢酸塩、アルキルアミン塩酸塩、オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミン酢酸エステル等が挙げられる。
【0070】
上記高分子量乳化剤以外の乳化剤は単独でも2種以上を適宜選択して使用しても良い。
【0071】
(C)成分の使用量は、乳化性に優れる点から、固形分換算で、(A)成分100質量部に対して、1~10質量部程度が好ましく、2~8質量部程度がより好ましい。
【0072】
本発明の繊維加工用水分散組成物は、所望の特性を損なわない限り、必要に応じて消泡剤、増粘剤、充填剤、酸化防止剤、耐水化剤、造膜助剤等の各種添加剤や、アンモニア水や重曹等のpH 調整剤等を含めてもよい。
【0073】
[繊維加工用水分散組成物の製造方法]
本発明の繊維加工用水分散組成物は、(B)成分及び必要に応じて(C)成分(以下、これらをまとめて「乳化剤」という)の存在下、(A)成分を水に乳化させてなるものである。
【0074】
上記乳化方法としては、特に限定されず、高圧乳化法、転相乳化法等の公知の乳化法を採用することができる。
【0075】
上記高圧乳化法は、(A)成分を液体状態とした上で、上記乳化剤と水とを予備混合して、高圧乳化機を用いて微細乳化した後、必要に応じて溶剤を除去する方法である。(A)成分を液体状態とする方法は、加熱のみでも、溶剤に溶解してから加熱しても、可塑剤等の非揮発性物質を混合して加熱してもよい。溶剤としては、トルエン、キシレン、メチルシクロヘキサン、酢酸エチル等の(A)成分を溶解できる有機溶剤が挙げられる。
【0076】
上記転相乳化法は、(A)成分を加熱溶融した後、撹拌しながら界面活性剤・水を加えまずW/Oエマルジョンを形成させ、次いで、水の添加や温度変化等によりO/Wエマルジョンに転相させる方法である。
【0077】
[繊維加工用水分散組成物の物性及び用途]
本発明の繊維加工用水分散組成物の物性は、特に限定されない。繊維加工用水分散組成物の固形分濃度は特に限定されないが、通常は固形分が10~65質量%程度となるように適宜に調整して用いる。また、繊維加工用水分散組成物の体積平均粒子径は、通常0.1~2μm程度であり、大部分は1μm以下の粒子として均一に分散しているが、0.7μm以下とすることが、貯蔵安定性の点から好ましい。さらに、繊維加工用水分散組成物は、白色ないし乳白色の外観を呈し、pHは2~10程度で、粘度は通常10~1000mPa・s程度(25℃、固形分濃度50%)である。
【0078】
本発明の繊維加工用水分散組成物は、繊維に対する各種加工において、種々の繊維加工剤と併用することで、滑脱性、風合い及び耐チョークマーク性に優れた繊維を得ることができる。上記繊維加工剤としては、特に限定されないが、撥水剤や耐汚染性付与剤が好ましい。
【0079】
本発明の繊維加工用水分散組成物の使用量は、特に限定されないが、繊維加工剤100質量%に対して、1~20質量%程度が好ましく、1~10質量%程度がより好ましい。上記使用量を1質量%以上にすることにより、繊維の滑脱性がより優れたものとなる。また、上記使用量を20質量%以下にすることにより、繊維の風合いや耐チョークマーク性がより優れたものとなり、さらに撥水剤や耐汚染性付与剤を用いた場合に、撥水性や耐汚染性の機能がより維持されるため、好ましい。
【0080】
上記撥水剤、上記耐汚染性付与剤は、特に限定されず、それぞれ各種公知のものを使用できる。以下、撥水剤、耐汚染性付与剤及び繊維について説明する。
【0081】
<撥水剤>
上記撥水剤としては、特に限定されないが、環境の点から、非フッ素系の撥水剤が好ましい。
【0082】
上記非フッ素系の撥水剤は、例えば、分子内に長鎖炭化水素基を含有する化合物等が挙げられる。分子内に長鎖炭化水素基を含有する化合物は、特に限定されないが、長鎖炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルを含むモノマーを反応させて得られる、(メタ)アクリル酸エステル重合体であることが好ましい。上記長鎖炭化水素基は、撥水性に優れる点で、炭素数12~24のアルキル基、アルケニル基であることが好ましい。上記アルキル基、アルケニル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。また、長鎖炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステル以外の上記モノマーとしては、例えば、長鎖炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステル以外の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、α、β-不飽和ジカルボン酸(無水物)等が挙げられる。
【0083】
上記長鎖炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ヘンイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、トリコシル(メタ)アクリレート、テトラコシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、イソトリデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソペンタデシル(メタ)アクリレート、イソヘキサデシル(メタ)アクリレート、イソヘプタデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0084】
上記非フッ素系の撥水剤の市販品としては、例えば、“ネオシード”(登録商標)NR-90(日華化学(株)製)、NR-158(日華化学(株)製)、TH-44(日華化学(株)製)、パラジンHC86(京浜化成(株)製)、パラジンHC200(京浜化成(株)製)、PW-182(大和化学(株)製)“フォボール”(登録商標)RSH(ハンツマン・ジャパン(株)製)、“パラヂウム”(登録商標)ECO-500(大原パラヂウム化学(株)製)、NX018((株)ナノテックス製)、ZERAN R-3(ハンツマン・ジャパン(株)製)、およびPM-3705(スリーエム社製)などが挙げられる。
【0085】
<耐汚染性付与剤>
上記耐汚染性付与剤としては、特に限定されない。耐汚染性付与剤は、例えば、非フッ素系の化合物が挙げられ、具体的には、シリコーン系化合物が挙げられる。
【0086】
上記シリコーン系化合物としては、ゲラネックスSH(松本油脂製薬(株))、ドライポン600E(日華化学(株)製)、リケンパランSG-54(三木理研工業(株))、ライトシリコーンP-290E(北広ケミカル(株))、ポロンMR(信越化学工業(株))、ポロンMF-49(信越化学工業(株))、ネオシードNR8000(日華化学(株))、KF-96シリーズ(信越化学工業(株))、KF8005(信越化学工業(株))、SF-8417(東レ・ダウコーニング(株))、MQ-1600(東レ・ダウコーニング(株))等が挙げられる。
【0087】
<繊維>
繊維としては、天然繊維、化学繊維のいずれであってもよい。天然繊維としては、例えば、綿、大麻、亜麻、ヤシ、いぐさ等の植物繊維;羊毛、山羊毛、モヘア、カシミア、ラクダ毛、絹等の動物繊維;石綿等の鉱物繊維等を挙げることができる。化学繊維としては、例えば、ロックファィバ-、金属繊維、グラファイト、シリカ、チタン酸塩等の無機繊維;レーヨン、キュプラ、ビスコース、ポリノジック、精製セルロース繊維等の再生セルロース系繊維;溶融紡糸セルロース繊維;牛乳タンパク、大豆タンパク等のタンパク質系繊維;再生絹、アルギン酸繊維等の再生・半合成繊維;ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、カチオン可染ポリエステル繊維、ポリビニル繊維、ポリアクリルアルコール繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリビニリデン繊維、ポリスチレン繊維、等の合成繊維を挙げることができる。また、これら繊維を2種以上複合(混紡、混繊、交織、交編等)されていてもよい。
【0088】
ポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維を初め、ポリ乳酸(PLA)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維、ポリアリレート繊維等エステル結合を形成する反応によって縮合させた高分子からなる繊維を意味する。ポリエステル繊維と複合される繊維としては、セルロース繊維、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維等の合成繊維や天然繊維が挙げられる。
【0089】
ポリアミド繊維は、ポリアミドを必須とし、複合化されていてもよい繊維を意味し、たとえば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン4、ナイロン7、芳香族ナイロン(アラミド)等が挙げられる。ポリアミドは、通常、アミド結合を形成する反応によって縮合させて得られる。
【0090】
繊維の形態としては、例えば、織物、編物、布帛、糸状、チーズ、かせ、不織布等の形態を挙げることができる。
【0091】
本発明の繊維加工用水分散組成物は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、綿に用いることが好ましい。特にポリエステル繊維、綿が好ましい。
【0092】
<繊維加工>
上記繊維に対して、本発明の繊維加工用水分散組成物と上記繊維加工剤を用いて加工する方法としては特に限定されず、例えば、浸漬、噴霧、塗布等の加工方法、又はクリーニング法による加工方法等が挙げられる。また、繊維加工用水分散組成物及び上記繊維加工剤を繊維に付着させた後は、水を除去するために乾燥させることが好ましい。
【0093】
上記加工において、繊維加工用水分散組成物及び上記繊維加工剤の繊維への総付着量は、要求される機能の度合いに応じて適宜調整可能であるが、繊維に対して、固形分換算で、0.1~10質量%となるように調整することが好ましく、0.5~2質量%となるように調整することがより好ましい。上記の総付着量が0.1質量%未満であると、効果が出にくく、10質量%を超えると、費用対効果が低くなる。
【0094】
本発明の繊維加工用水分散組成物と上記繊維加工剤を用いて繊維を加工した後は、適宜熱処理することが好ましい。温度条件は特に制限はないが、通常110~180℃程度である。
【0095】
上記加工を施された繊維の用途としては、撥水性や防汚性を付与する対象物、例えば、アウター、ユニフォーム、スポーツ等の衣料;マスク、ガーゼ、紙おむつ等の衛生材料;自動車、航空機、鉄道、船舶等の車両内装材;布団、マットレス、シーツ、枕、カバー、毛布、タオルケット等の寝具類;カーテン、ブラインド、ソファー、椅子、座布団、壁紙、絨毯、カーペット、テーブルクロス、クッション、ふすま等のインテリア;どん帳、暗幕、工事用シート、テント、フィルターなどの産業資材等を挙げることができる。
【0096】
上記加工を施された繊維の用途としては、優れた撥水性、洗濯耐久性及び防汚性等の各種機能、並びに柔軟な風合いを有することから、特に、アウターと呼ばれる衣服や寝装具、具体的には、ダウン用側地、コート、ブルゾン、ウインドブレーカー、ブラウス、ドレスシャツ、スカート、スラックス、手袋、帽子、布団側地、布団干しカバー、カーテンまたはテント類など、衣料用途品、及び非衣料用途品などの繊維製品用途に好適に使用される。
【実施例
【0097】
以下、本発明の実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実
施例に限定されるものではない。なお、例中の「部」および「%」とあるのは、それぞれ
「質量部」および「質量%」を表す。
【0098】
<ロジン系樹脂(A)の製造>
製造例1
撹拌装置、コンデンサー、温度計及び窒素導入管・水蒸気導入管を備えた反応容器に、不均化ロジン(商品名「ロンヂスR」、荒川化学工業(株)製、酸価160、軟化点70℃)100部、フマル酸3部を仕込んだ後、窒素ガス気流下に220℃にて2時間反応させた後、ペンタエリスリトール10.7部、グリセリン1.5部を仕込んだ後、窒素ガス気流下に250℃で2時間反応させた後、さらに280℃まで昇温し同温度で12時間反応させ、エステル化を完了させた。その後、反応容器内を減圧して水分等を除去し、ロジン系樹脂(A1)(以下、(A1)成分とする)を得た。
【0099】
製造例2
実施例1と同様の反応容器に、メルクシ松に由来するインドネシア産のガムロジン(酸価190mgKOH/g、軟化点80℃)100部、ペンタエリスリトール12.4部を仕込んだ後、窒素ガス気流下に250℃で2時間反応させた後、さらに280℃まで昇温し同温度で12時間反応させ、エステル化を完了させた。その後、反応容器内を減圧して水分等を除去し、ロジン系樹脂(A2)(以下、(A2)成分とする)を得た。
【0100】
製造例3
実施例1と同様の反応容器に、不均化ロジン(商品名「ロンヂスR」、荒川化学工業(株)製、酸価160、軟化点70℃)100部、グリセリン11.6部を仕込んだ後、窒素ガス気流下に250℃で2時間反応させた後、さらに280℃まで昇温し同温度で12時間反応させ、エステル化を完了させた。その後、反応容器内を減圧して水分等を除去し、ロジン系樹脂(A3)(以下、(A3)成分とする)を得た。
【0101】
製造例4
実施例1と同様の反応容器に、中国産のガムロジン(CG-WW)100部、フマル酸1部を仕込んだ後、窒素ガス気流下に220℃にて2時間反応させた後、ペンタエリスリトール12.7部を仕込んで250℃で2時間反応させた後、さらに280℃まで昇温し同温度で12時間反応させ、エステル化を完了させた。その後、反応容器内を減圧して水分等を除去し、ロジン系樹脂(A4)(以下、(A4)成分とする)を得た。
【0102】
製造例5
実施例1と同様の反応容器に、重合ロジン(商品名「アラダイムR-140」、荒川化学工業(株)製、酸価140、軟化点140℃)を100部、ペンタエリスリトール11.7部、グリセリン0.6部を仕込んだ後、窒素ガス気流下に250℃で2時間反応させた後、さらに280℃まで昇温し同温度で12時間反応させ、エステル化を完了させた。その後、反応容器内を減圧して水分等を除去し、ロジン系樹脂(A5)(以下、(A5)成分とする)を得た。
【0103】
製造例6
実施例1と同様の反応容器に、重合ロジン(商品名「アラダイムR-140」、荒川化学工業(株)製、酸価140、軟化点140℃)を50部、及びCG-WWを50部仕込んだ後、ペンタエリスリトール11.1部、グリセリン0.5部を仕込んだ後、窒素ガス気流下に250℃で2時間反応させた後、さらに280℃まで昇温し同温度で12時間反応させ、エステル化を完了させた。その後、反応容器内を減圧して水分等を除去し、ロジン系樹脂(A6)(以下、(A6)成分とする)を得た。
【0104】
各製造例におけるロジン系樹脂の軟化点(Sp(℃))は、JIS K 5902の環球法により測定した。結果を表1に示す。
【0105】
各製造例におけるロジン系樹脂の酸価、水酸基価はJIS K 0070により測定した。結果を表1に示す。
【0106】
(重量平均分子量(Mw)の測定)
製造例1~6のロジン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレンの検量線から求めた、ポリスチレン換算値として算出した。結果を表1に示す。なお、GPC法は以下の条件で測定した。
分析装置:HLC-8320(東ソー(株)製)
カラム:TSKgelSuperHM-L×3本
溶離液:テトラヒドロフラン
注入試料濃度:5mg/mL
流量:0.6mL/min
注入量:40μL
カラム温度:40℃
検出器:RI
【0107】
【表1】
【0108】
[繊維加工用水分散組成物の調製]
実施例1
製造例1の(A1)成分100部をトルエン70部に80℃にて3時間かけて溶解させた後、EMALEX630(ノニオン性界面活性剤、HLB15、日本エマルジョン(株)製)を固形分換算で10部及び水140部を添加し、1時間撹拌した。次いで、高圧乳化機(マントンガウリン社製)により30MPaの圧力で高圧乳化して乳化物を得た。次いで、70℃、2.93×10-2MPaの条件下に6時間減圧蒸留を行い、固形分30%の繊維加工用水分散組成物を得た。
【0109】
実施例2
実施例1において、(A1)成分を製造例2の(A2)成分に代えた他は同様に行い、繊維加工用水分散組成物を得た。
【0110】
実施例3
実施例1において、(A1)成分を製造例3の(A3)成分に代えた他は同様に行い、繊維加工用水分散組成物を得た。
【0111】
実施例4
実施例1において、(A1)成分を製造例4の(A4)成分に代えた他は同様に行い、繊維加工用水分散組成物を得た。
【0112】
実施例5
実施例1において、(A1)成分を製造例5の(A5)成分に代えた他は同様に行い、繊維加工用水分散組成物を得た。
【0113】
実施例6
実施例1において、(A1)成分を製造例6の(A6)成分に代えた他は同様に行い、繊維加工用水分散組成物を得た。
【0114】
実施例7
実施例1において、(A1)成分を水素化ロジンエステル(商品名「KE-359」 荒川化学工業(株)製)(以下、(A7)成分とする)に代えた他は同様に行い、繊維加工用水分散組成物を得た。なお、(A7)成分の軟化点は95℃、酸価は15mgKOH/g、水酸基価は44mgKOH/g、重量平均分子量(Mw)は1231、色調50ハーゼンである。
【0115】
実施例8
実施例1において、EMALEX630をエマルゲン220(ノニオン性界面活性剤、HLB14.2、花王ケミカル社製)に代えた他は同様に行い、繊維加工用水分散組成物を得た。
【0116】
実施例9
実施例5において、EMALEX630をエマルゲン220(ノニオン性界面活性剤、HLB14.2、花王ケミカル社製)に代えた他は同様に行い、繊維加工用水分散組成物を得た。
【0117】
実施例10
実施例1において、EMALEX630をノイゲンXL-61(ノニオン性界面活性剤、HLB12.5、第一工業製薬(株)製)に代えた他は同様に行い、繊維加工用水分散組成物を得た。
【0118】
実施例11
実施例1において、EMALEX630をエマルゲン103(ノニオン性界面活性剤、HLB8.1、花王ケミカル社製)に代えた他は同様に行い、繊維加工用水分散組成物を得た。
【0119】
比較例1
実施例5において、EMALEX630をカチオーゲンTMP(カチオン性界面活性剤、第一工業製薬(株)製)を5部用いることに代えた他は同様に行い、繊維加工用水分散組成物を得た。
【0120】
(乳化安定性)
各実施例および比較例において、各ロジン系樹脂をエマルジョン化した際の作業性の良否(発泡または凝集物の発生)につき目視観察し、以下の基準で判定し、表2にまとめた。なお、特性がわずかに良好な場合は、下記基準に「+ 」をつけ、特性がわずかに劣る場合は基準に「- 」をつけた。
◎:発泡または凝集物の発生が殆どなく、作業性に優れる。
○:発泡または凝集物の発生が少なく、作業性が良い。
△:発泡または凝集物の発生がやや多く見られ、作業性がやや劣る。
×:発泡または凝集物の発生が多く見られ、作業性が劣る。
【0121】
【表2】
【0122】
[非フッ素系撥水剤組成物の調製]
評価例1
非フッ素系撥水剤としてPM-3705(スリーエム社製)を95部と、実施例1の繊維加工用水分散組成物を5部(固形分換算)混合し、さらに水で希釈して、固形分が5質量%となる非フッ素系撥水剤組成物を調製した。
【0123】
評価例2
評価例1において、繊維加工用水分散組成物として実施例2のものを使用した他は同様にして、非フッ素系撥水剤組成物を得た。
【0124】
評価例3
評価例1において、繊維加工用水分散組成物として実施例3のものを使用した他は同様にして、非フッ素系撥水剤組成物を得た。
【0125】
評価例4
評価例1において、繊維加工用水分散組成物として実施例4のものを使用した他は同様にして、非フッ素系撥水剤組成物を得た。
【0126】
評価例5
評価例1において、繊維加工用水分散組成物として実施例5のものを使用した他は同様にして、非フッ素系撥水剤組成物を得た。
【0127】
評価例6
評価例1において、繊維加工用水分散組成物として実施例6のものを使用した他は同様にして、非フッ素系撥水剤組成物を得た。
【0128】
評価例7
評価例1において、繊維加工用水分散組成物として実施例7のものを使用した他は同様にして、非フッ素系撥水剤組成物を得た。
【0129】
評価例8
評価例1において、繊維加工用水分散組成物として実施例8のものを使用した他は同様にして、非フッ素系撥水剤組成物を得た。
【0130】
評価例9
評価例1において、繊維加工用水分散組成物として実施例9のものを使用した他は同様にして、非フッ素系撥水剤組成物を得た。
【0131】
評価例10
評価例1において、繊維加工用水分散組成物として実施例10のものを使用した他は同様にして、非フッ素系撥水剤組成物を得た。
【0132】
評価例11
評価例1において、繊維加工用水分散組成物として実施例11のものを使用した他は同様にして、非フッ素系撥水剤組成物を得た。
【0133】
比較評価例1
評価例1において、繊維加工用水分散組成物として比較例1のものを使用した他は同様にして、非フッ素系撥水剤組成物を得た。
【0134】
(試験片の作製)
<撥水性評価用>
評価例1にて得られた非フッ素系撥水剤組成物に、ポリエステル織物を浸漬させ、マングルで絞った。その後、上記組成物が付着したポリエステル織物をピンテンターで120℃、2分間乾燥させ、撥水加工繊維(ポリエステル織物試験片)を得た。
【0135】
(評価例2~11及び比較評価例1)
評価例1で、繊維加工用水分散組成物の種類を表3に示すように変更する以外は、評価例1と同様にして撥水加工繊維をそれぞれ製造した。
【0136】
(撥水性:スプレー試験)
JIS-L-1092(AATCC-22)のスプレー法に準じて、上記撥水加工繊維の撥水性を評価した。結果を表3に示す。撥水性は、下記に記載するように撥水性No.によって表し、点数が大きいほど撥水性が良好なことを示す。結果は目視にて下記の等級で評価した。
撥水性: 状態
5 : 表面に付着湿潤のないもの
4 : 表面にわずかに付着湿潤を示すもの
3 : 表面に部分的湿潤を示すもの
2 : 表面に湿潤を示すもの
1 : 表面全体に湿潤を示すもの
0 : 表裏両面が完全に湿潤を示すもの
【0137】
(洗濯耐久撥水性の試験)
上記撥水加工繊維をJIS L-0217 103に従い、40℃の洗濯液で10回(HL10)洗濯後、タンブラー(60℃で30分)で乾燥して得たものを洗濯耐久性評価用の試験片とする以外は、上記スプレー試験と同様に行い、洗濯耐久撥水性を評価した。結果を表3に示す。
【0138】
(滑脱性試験)
上記撥水加工繊維に対して、JIS L 1096-99.8.21.1縫目滑脱法B法に準じて、荷重117.2N(12kgw)にて経糸滑脱で試験を行い、滑脱抵抗値を測定して、縫目滑脱性を評価した。結果を表3に示す。数値が小さいほど、縫目滑脱性に優れていることを示す。
【0139】
(風合い試験)
上記撥水加工繊維に対する手の触感によって、下記の5段階で風合いを評価した。5人の測定者によって評価を行い、その平均値を算出した。結果を表3に示す。
1: 非常に硬い
2: 硬い
3: 少し硬い
4: 柔らかい
5: 非常に柔らかい
【0140】
(チョークマーク試験)
上記撥水加工繊維に先端が直径5mmのプラスチック製の棒を押し付けなぞった後、その痕跡が布上に残存するかを目視観察し(いわゆるチョークマークテスト)、下記のように5段階で耐チョークマーク性を評価した。結果を表3に示す。
1: 明瞭な痕跡が認められる
2: 痕跡が認められる
3: 少し痕跡が認められる
4: 殆ど痕跡が認められない
5: 痕跡が全くない
【0141】
【表3】
【0142】
[非フッ素系防汚剤組成物の調製]
評価例12
非フッ素系耐汚染性付与剤としてゲラネックスSH(松本油脂製薬(株)製)を95部と、実施例1の繊維加工用水分散組成物を5部(固形分換算)混合し、さらに水で希釈して、固形分が5質量%となる非フッ素系防汚剤組成物を調製した。
【0143】
評価例13
評価例12において、繊維加工用水分散組成物として実施例2のものを使用した他は同様にして、非フッ素系防汚剤組成物を得た。
【0144】
評価例14
評価例12において、繊維加工用水分散組成物として実施例3のものを使用した他は同様にして、非フッ素系防汚剤組成物を得た。
【0145】
評価例15
評価例12において、繊維加工用水分散組成物として実施例7のものを使用した他は同様にして、非フッ素系防汚剤組成物を得た。
【0146】
比較評価例2
評価例12において、繊維加工用水分散組成物として比較例1のものを使用した他は同様にして、非フッ素系防汚剤組成物を得た。
【0147】
(試験片の作製)
<防汚性評価用>
評価例12にて得られた非フッ素系防汚剤組成物に、ポリエステル織物を浸漬させ、マングルで絞った。その後、処理液が付着したポリエステル織物をピンテンターで120℃、2分間乾燥させ、防汚加工繊維(ポリエステル織物試験片)を得た。
【0148】
(評価例13~15及び比較評価例2)
評価例12で、繊維加工用水分散組成物の種類を表4に示すように変更する以外は、評価例11と同様にして防汚加工繊維をそれぞれ製造し、評価した。結果を表4に示す。
【0149】
(防汚性(SG性):液体汚れ試験)
JIS-L-1919 B法(スプレー法)に準じ、 上記防汚加工繊維(20cm×20cm)に汚れ成分(食用赤色2号0.1%およびスクロース10.0%の1:1混合液)100mlを散布し、直径11cmのろ紙にて汚染物質を吸い取った。約1分放置後、室温にて乾燥し、防汚性(SG性)を評価した。結果は目視にて下記の等級で評価した。結果を表4に示す。
汚れにくさ: 状態
5 : 表面に付着のないもの
4 : 表面にわずかに付着を示すもの
3 : 表面に部分的付着を示すもの
2 : 表面に付着を示すもの
1 : 表面全体に付着を示すもの
0 : 表裏両面に完全に浸潤を示すもの
【0150】
(洗濯耐久防汚性(SG性)の試験)
上記防汚加工繊維をJIS-L-0217 103法で10回洗濯処理したものを洗濯耐久性評価用の試験片とする以外は、上記の液体汚れ評価と同様に行い、洗濯耐久防汚性(洗濯耐久SG性)を評価した。結果を表4に示す。
【0151】
(滑脱性試験)
上記防汚加工繊維に対して、JIS L 1096-99.8.21.1縫目滑脱法B法に準じて、荷重117.2N(12kgw)にて経糸滑脱で試験を行い、縫目滑脱性を評価した。結果を表4に示す。
【0152】
(風合い試験)
上記防汚加工繊維に対する手の触感によって、下記の5段階で風合いを評価した。5人の測定者によって評価を行い、その平均値を算出した。結果を表4に示す。
1: 非常に硬い
2: 硬い
3: 少し硬い
4: 柔らかい
5: 非常に柔らかい
【0153】
【表4】