(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】アルミニウム部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/04 20060101AFI20240214BHJP
C25D 11/12 20060101ALI20240214BHJP
C25D 11/14 20060101ALI20240214BHJP
C25D 11/16 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C25D11/04 302
C25D11/04 313
C25D11/12 301
C25D11/14 F
C25D11/16 301
(21)【出願番号】P 2020178051
(22)【出願日】2020-10-23
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】山口 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】田口 喜弘
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-025384(JP,A)
【文献】特開2013-076118(JP,A)
【文献】特開2017-075383(JP,A)
【文献】特開2018-090897(JP,A)
【文献】特開2019-039060(JP,A)
【文献】国際公開第2020/110903(WO,A1)
【文献】特開2003-27284(JP,A)
【文献】特開2001-59200(JP,A)
【文献】特開2017-122267(JP,A)
【文献】特開2019-094553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/04-11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される基材と、
前記基材の表面と接するバリア層と、前記バリア層の前記基材とは反対側の面に接する第1ポーラス層と、前記第1ポーラス層の前記バリア層とは反対の面に接し、前記第1ポーラス層と接する面から露出する表面に向かって整列して直線状に延びる複数の孔を有する第2ポーラス層とを含む陽極酸化皮膜と、
を備え
るアルミニウム部材であって、
前記第1ポーラス層は複数の分岐する孔及び前記第2ポーラス層よりも大きい平均孔径の複数の孔の少なくともいずれか一方を有
し、
前記陽極酸化皮膜側から測定した前記アルミニウム部材のL
*
a
*
b
*
表色系におけるL
*
値は82.5~100であり、a
*
値は-1~+1であり、b
*
値は-1.5~+1.5であり、
ゴニオフォトメーターを用いて前記陽極酸化皮膜側の反射強度を-80度~+10度の検出器角度で測定した場合において、最小反射強度に対する最大反射強度の比が400以下であり、
前記バリア層の厚さは300nm未満であり、
前記第1ポーラス層の厚さは5000nm以下である、アルミニウム部材。
【請求項2】
前記基材の表面の算術平均高さSaは0.1μm~0.5μmであり、最大高さSzは0.2μm~5μmであり、粗さ曲線要素の平均長さRSmは0.5μm~10μmである、請求項
1に記載のアルミニウム部材。
【請求項3】
前記第1ポーラス層の前記孔内には顔料が充填されていない、請求項1又は2に記載のアルミニウム部材。
【請求項4】
第1ポーラス層は、カルボキシル基を含む酸及びこれらの塩類、並びに、ケイ酸塩、アンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルミニウム部材。
【請求項5】
前記第1ポーラス層は複数の分岐する孔を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のアルミニウム部材。
【請求項6】
前記第1ポーラス層の厚さは4000nm以下であり、前記第2ポーラス層の厚さは5μm以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載のアルミニウム部材。
【請求項7】
前記第2ポーラス層の平均孔径は100nm以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のアルミニウム部材。
【請求項8】
アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される基材を、整列して直線状に延びる複数の孔を形成可能な電解液で第1陽極酸化する第1陽極酸化工程と、
前記第1陽極酸化された基材を電解液で第2陽極酸化する第2陽極酸化工程と、
を含み、
前記第2陽極酸化の電解液は、複数の分岐する孔及び前記直線状に延びる複数の孔よりも大きい平均孔径を有する複数の孔の少なくともいずれか一方を形成可能な電解液である、
請求項1又は2に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項9】
前記第1陽極酸化の電解液は酸性電解液であり、前記第2陽極酸化の電解液は酸性又はアルカリ性電解液である、請求項
8に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項10】
前記基材の表面に凹凸を形成する粗面化処理工程をさらに備え、
前記第1陽極酸化工程では前記凹凸が形成された基材を第1陽極酸化する、請求項
8又は
9に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項11】
前記粗面化処理工程では20μm以下の平均粒子径を有する粒子を前記基材の表面に衝突させて前記凹凸を形成する、請求項
10に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項12】
前記第1陽極酸化の電解液は硫酸、アミド硫酸及びカルボキシル基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項
8~
11のいずれか一項に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項13】
前記第2陽極酸化の電解液はカルボキシル基を有する化合物及びリン酸並びにこれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項
8~
12のいずれか一項に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項14】
前記第2陽極酸化の電解液はナトリウム、カリウム及びアンモニアからなる群より選択される少なくとも一種を含有する、請求項
8~
13のいずれか一項に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば携帯機器やパソコン筐体を、紙のような白色の外観にしたいという要望が増加している。このような要望に応えるため、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成された基材の表面に陽極酸化皮膜を形成することによって、アルミニウム部材の外観を白色にする試みがなされている。
【0003】
特許文献1には、基材の表面の算術平均高さSaが0.1μm~0.5μmであり、最大高さSzが0.2μm~5μmであり、粗さ曲線要素の平均長さRSmが0.5μm~10μmであるアルミニウム部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のアルミニウム部材によれば、基材の算術平均高さSa、最大高さSz及び粗さ曲線要素の平均長さRSmを所定の範囲内とすることにより、白色の外観を有するアルミニウム部材が得られる。しかしながら、斜めから見た場合の白色度を向上させ、さらに紙に近い外観を有するアルミニウム部材が求められている。
【0006】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、白色を有し、角度依存性が低いアルミニウム部材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係るアルミニウム部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される基材を備える。アルミニウム部材は、基材の表面と接するバリア層と、バリア層の基材とは反対側の面に接する第1ポーラス層と、第1ポーラス層のバリア層とは反対の面に接し、第1ポーラス層と接する面から露出する表面に向かって整列して直線状に延びる複数の孔を有する第2ポーラス層とを含む陽極酸化皮膜を備える。第1ポーラス層は複数の分岐する孔及び第2ポーラス層よりも大きい平均孔径の複数の孔の少なくともいずれか一方を有する。
【0008】
本発明の第2の態様に係るアルミニウム部材の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される基材を、整列して直線状に延びる複数の孔を形成可能な電解液で第1陽極酸化する第1陽極酸化工程を含む。上記方法は、第1陽極酸化された基材を電解液で第2陽極酸化する第2陽極酸化工程を含む。第2陽極酸化の電解液は、複数の分岐する孔及び直線状に延びる複数の孔よりも大きい平均孔径を有する複数の孔の少なくともいずれか一方を形成可能な電解液である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、白色を有し、角度依存性が低いアルミニウム部材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係るアルミニウム部材の一例を示す断面図である。
【
図2】本実施形態に係るアルミニウム部材の製造方法の一例を示す図である。
【
図3】ゴニオフォトメーターを用いて白色度の角度依存性を評価する方法を説明する図である。
【
図4】実施例1、比較例1及び参考例(コピー用紙)の角度依存性を示すグラフである。
【
図5】実施例12のアルミニウム部材の断面をFIB(集束イオンビーム)加工し、TEM(透過型電子顕微鏡)で2,550倍に拡大した画像である。
【
図6】実施例12のアルミニウム部材の断面をFIB(集束イオンビーム)加工し、TEM(透過型電子顕微鏡)で19,500倍に拡大した画像である。
【
図7】実施例12のアルミニウム部材の断面をFIB(集束イオンビーム)加工し、TEM(透過型電子顕微鏡)で43,000倍に拡大した画像である。
【
図8】比較例6のアルミニウム部材の断面をFIB(集束イオンビーム)加工し、TEM(透過型電子顕微鏡)で2,550倍に拡大した画像である。
【
図9】比較例6のアルミニウム部材の断面をFIB(集束イオンビーム)加工し、TEM(透過型電子顕微鏡)で19,500倍に拡大した画像である。
【
図10】比較例6のアルミニウム部材の断面をFIB(集束イオンビーム)加工し、TEM(透過型電子顕微鏡)で43,000倍に拡大した画像である。
【
図11】比較例7のアルミニウム部材の断面をFIB(集束イオンビーム)加工し、TEM(透過型電子顕微鏡)で2,550倍に拡大した画像である。
【
図12】比較例7のアルミニウム部材の断面をFIB(集束イオンビーム)加工し、TEM(透過型電子顕微鏡)で19,500倍に拡大した画像である。
【
図13】比較例7のアルミニウム部材の断面をFIB(集束イオンビーム)加工し、TEM(透過型電子顕微鏡)で43,000倍に拡大した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本実施形態に係るアルミニウム部材及びアルミニウム部材の製造方法について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
[アルミニウム部材]
図1に示すように、本実施形態のアルミニウム部材1は、基材10と、陽極酸化皮膜20とを備える。以下において、これらの構成要素を説明する。
【0013】
(基材10)
基材10は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される。基材10は、例えば、1000系合金、3000系合金、5000系合金、6000系合金又は7000系合金で形成されていてもよい。基材10は、0質量%~10質量%のマグネシウムと、0.1質量%以下の鉄と、0.1質量%以下のケイ素とを含有し、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム又はアルミニウム合金により形成されてもよい。基材10は、0質量%~10質量%のマグネシウムと、0.1質量%以下の鉄と、0.1質量%以下のケイ素と、10質量%以下の亜鉛とを含有し、残部がアルミニウム及び不可避不純物であるアルミニウム又はアルミニウム合金により形成されてもよい。
【0014】
マグネシウムは必ずしも基材10に含有されている必要はないが、基材10がマグネシウムを含有していると、アルミニウムとマグネシウムとが固溶して、基材10の強度を向上させることができる。また、マグネシウムの含有量を10質量%以下とすることにより、基材10の耐食性の低下を抑制しつつ、基材10の強度を向上させることができる。マグネシウムの含有量は、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、マグネシウムの含有量は、8質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0015】
鉄及びケイ素はアルミニウムと固溶しにくい。そのため、基材10がこれらの元素を含有する場合、これらの元素は陽極酸化皮膜20内に鉄又はケイ素を含む第二相として析出しやすい。陽極酸化皮膜20がこれらのような第二相を含有する場合、陽極酸化皮膜20内を透過する光の一部が第二相に吸収されるため、アルミニウム部材1が黄色を帯びた色のように見えてしまうことがある。基材10は0.05質量%以下の鉄を含有していることが好ましい。また、基材10は0.05質量%以下のケイ素を含有していることが好ましい。
【0016】
亜鉛は必ずしも基材10に含有されている必要はないが、基材10が亜鉛を含有していると、基材10の強度を維持することができる。また、亜鉛の含有量を10質量%以下とすることにより、基材10の強度を維持しつつアルミニウム部材1の外観が損なわれない。亜鉛の含有量は8質量%以下であることが好ましい。
【0017】
基材10は不可避不純物を含有していてもよい。本実施形態において、不可避不純物とは、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりするものを意味する。不可避不純物は、本来は不要なものであるが、微量であり、アルミニウム又はアルミニウム合金中の特性に影響を及ぼさないため、許容されている不純物である。アルミニウム又はアルミニウム合金中に含有される可能性がある不可避不純物は、アルミニウム、マグネシウム、鉄、及びケイ素以外の元素である。アルミニウム又はアルミニウム合金中に含有される可能性がある不可避不純物としては、例えば、銅、マンガン、クロム、亜鉛、チタン、ガリウム、ホウ素、バナジウム、ジルコニウム、鉛、カルシウム及びコバルトなどが挙げられる。不可避不純物の量は、アルミニウム又はアルミニウム合金中に合計で0.5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましく、0.15質量%以下がさらに好ましく、0.10質量%以下が特に好ましい。また、不可避不純物として含まれる個々の元素の含有量は0.05質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましい。
【0018】
基材10は陽極酸化皮膜20側の表面11に凹凸を有していてもよい。アルミニウム部材1は、表面11に形成された凹凸によって陽極酸化皮膜20を透過する光を拡散反射することができる。表面11の凹凸は、後述する粗面化処理によって形成することができる。基材10の表面11の算術平均高さSaは0.1μm~0.5μmであり、最大高さSzは0.2μm~5μmであり、粗さ曲線要素の平均長さRSmは0.5μm~10μmであることが好ましい。
【0019】
算術平均高さSaを0.1μm以上とすることにより、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面11で拡散反射するため、アルミニウム部材1を斜めから見た場合の白色度をさらに高くすることができる。また、算術平均高さSaを0.5μm以下とすることにより、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面11の凹凸間で捕捉されるのを抑制することができるため、アルミニウム部材1の外観が灰色になるのを抑制することができる。算術平均高さSaは0.4μm以下であることがより好ましい。算術平均高さSaは、ISO25178に準じて測定することができる。
【0020】
最大高さSzを0.2μm以上とすることにより、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面11で拡散反射するため、アルミニウム部材1を斜めから見た場合の白色度をさらに高くすることができる。また、最大高さSzを5μm以下とすることにより、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面11の凹凸間で捕捉されるのを抑制することができるため、アルミニウム部材1の外観が灰色になるのを抑制することができる。最大高さSzは、1μm以上であることがより好ましく、4.7μm以下であることがより好ましい。最大高さSzは、ISO25178に準じて測定することができる。
【0021】
粗さ曲線要素の平均長さRSmを0.5μm以上とすることにより、基材10の表面11の凹凸のピッチが小さくなりすぎないため、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面11の凹凸間で捕捉されるのを抑制することができる。したがって、アルミニウム部材1の外観が灰色になるのを抑制することができる。また、粗さ曲線要素の平均長さRSmを10μm以下とすることにより、基材10の表面11の凹凸のピッチが大きくなりすぎない。そのため、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面11で拡散反射し、アルミニウム部材1を斜めから見た場合の白色度をさらに高くすることができる。粗さ曲線要素の平均長さRSmは、5μm以上であることがより好ましく、9.5μm以下であることがより好ましい。粗さ曲線要素の平均長さRSmは、JIS B0601:2013(ISO 4287:1997,Amd.1:2009)に準じて測定することができる。
【0022】
基材10の表面11の算術平均高さSa、最大高さSz及び粗さ曲線要素の平均長さRSmは、基材10から陽極酸化皮膜20を除去することにより測定することができる。なお、基材10の表面11の凹凸は陽極酸化によって滑らかになるため、陽極酸化前の基材10の表面11の凹凸と陽極酸化後の基材10の表面11の凹凸とは形状が異なっているおそれがある。そのため、本実施形態では、陽極酸化皮膜20除去後の基材10の表面11の形状を測定している。基材10から陽極酸化皮膜20を除去する方法は特に限定されない。例えばJIS H8688:2013(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の単位面積当たりの質量測定方法)に準じ、アルミニウム部材1をリン酸クロム酸(VI)溶液に浸し、陽極酸化皮膜20を溶解して除去することができる。
【0023】
基材10の形状や厚さは特に限定されず、用途に応じて適宜変更することができる。また、基材10は、加工処理又は熱処理などがされていてもよい。
【0024】
(陽極酸化皮膜20)
陽極酸化皮膜20は、基材10の表面11に設けられる。このような陽極酸化皮膜20により、耐食性や耐摩耗性などを向上させることができる。陽極酸化皮膜20は、バリア層21と、第1ポーラス層22と、第2ポーラス層23とを含む。
【0025】
バリア層21は基材10の表面11と接している。バリア層21は緻密な無孔質の層である。バリア層21の厚さは特に限定されないが、例えば1nm以上であってもよく、10nm以上であってもよい。また、バリア層21の厚さは、500nm以下であってもよく、300nm以下であってもよい。
【0026】
バリア層21は、酸化アルミニウムを含んでいる。また、バリア層21は、アルミニウム及び酸素の他、陽極酸化で用いた電解液の溶液の成分に由来する元素である、硫黄、炭素、ナトリウム、カリウム、リン、ケイ素、アンモニアの構成元素である窒素などの元素を含んでいてもよい。ポーラスタイプ電解液を組み合わせた2段電解法により生成したバリア層21及び第1ポーラス層22では、電解液成分で得られた皮膜自体の色調及び入射光の屈折により、アルミニウム部材1の白色度をさらに高くすることができる。
【0027】
第1ポーラス層22はバリア層21の基材10とは反対側の面に接している。第1ポーラス層22は複数の分岐する孔を有していてもよい。第1ポーラス層22の各孔は樹状構造を有しており、第1ポーラス層22にはバリア層21の表面から第2ポーラス層23に向かって分岐しながら延びる複数の孔が設けられてもよい。第1ポーラス層22は、バリア層21の表面から第2ポーラス層23に向かって延びる直線状の孔が設けられており、直線状の孔から分岐する孔が設けられていてもよい。第1ポーラス層22の複数の孔の平均孔径は、例えば5nm~350nmの範囲内である。第1ポーラス層22の平均孔径は、10nm以上であってもよく、20nm以上であってもよい。また、第1ポーラス層22の平均孔径は、300nm以下であってもよい。第1ポーラス層22の平均孔径は、第2ポーラス層23の平均孔径よりも大きくてもよい。
【0028】
第1ポーラス層22の厚さは、特に限定されないが、10nm以上5000nm以下であることが好ましい。第1ポーラス層22の厚さを10nm以上とすることにより、アルミニウム部材1の白さをより向上させることができる。第1ポーラス層22を5000nm以下とすることにより、陽極酸化皮膜20を形成した際の白色度を高い状態で維持することができる。第1ポーラス層22の厚さは、50nm以上であってもよく、100nm以上であってもよい。第1ポーラス層22の厚さは、4000nm以下であってもよく、3500nm以下であってもよい。
【0029】
第1ポーラス層22は、酸化アルミニウムを含んでいる。また、第1ポーラス層22は、アルミニウム及び酸素の他、陽極酸化の電解液に由来する硫酸、リン酸及びこれらの塩類、蓚酸、サリチル酸、クエン酸、マレイン酸及び酒石酸等のようなカルボキシル基を含む酸並びにこれらの塩類、並びに、ケイ酸塩、アンモニウム塩などの化合物を含んでいてもよい。塩としては、ナトリウム塩及びカリウム塩などが挙げられる。第1ポーラス層22が上記元素を含むことにより、第1ポーラス層22が白色になることから、白色度のさらに高いアルミニウム部材1が得られる。
【0030】
第2ポーラス層23は、第1ポーラス層22のバリア層21とは反対の面に接する。第2ポーラス層23は、第1ポーラス層22と接する面から露出する表面24に向かって整列して直線状に延びる複数の孔を有する。第2ポーラス層23の孔は、第1ポーラス層22の孔と連なっていてもよい。第2ポーラス層23の複数の孔の平均孔径は、例えば5nm~200nmの範囲内である。第2ポーラス層23の平均孔径は、8nm以上であってもよく、10nm以上であってもよい。また、第2ポーラス層23の平均孔径は、100nm以下であってもよく、50nm以下であってもよく、30nm以下であってもよい。
【0031】
第2ポーラス層23の厚さは、特に限定されないが、2μm以上50μm以下であることが好ましい。第2ポーラス層23の厚さを2μm以上とすることにより、基材10の上に生成された陽極酸化皮膜20の干渉色を抑制することができ、アルミニウム部材1のL*値を向上させることができる。第2ポーラス層23の厚さを50μm以下とすることにより、陽極酸化皮膜20を形成する際の溶解を低減することができる。第2ポーラス層23の厚さは、5μm以上であってもよく、8μm以上であってもよい。また、第2ポーラス層23の厚さは、25μm以下であってもよく、15μm以下であってもよい。
【0032】
第2ポーラス層23は、酸化アルミニウムを含んでいる。また、第2ポーラス層23は、酸化アルミニウムに加え、陽極酸化の電解液に由来する硫酸、アミド硫酸、リン酸及びこれらの塩類、蓚酸、サリチル酸、クエン酸、マレイン酸及び酒石酸等のようなカルボキシル基を含む酸並びにこれらの塩類、並びに、ケイ酸塩、アンモニウム塩などの化合物を含んでいてもよい。塩としては、ナトリウム塩及びカリウム塩などが挙げられる。第2ポーラス層23が上記化合物を含むことにより、第2ポーラス層23の透明性が高くなることから、第1ポーラス層22で拡散された光を透過しやすくなり、白色度を高い状態で維持したアルミニウム部材1が得られる。
【0033】
第1ポーラス層22は複数の分岐する孔及び第2ポーラス層23よりも大きい平均孔径の複数の孔の少なくともいずれか一方を有する。すなわち、第1ポーラス層22は、複数の分岐する孔を有していてもよく、第2ポーラス層23よりも大きい平均孔径の複数の孔を有していてもよく、第2ポーラス層23よりも大きい平均孔径の複数の分岐する孔を有していてもよい。これにより、第1ポーラス層22での拡散反射を促進し、白色度の角度依存性を低減することができる。なお、本明細書において、平均孔径は、透過型電子顕微鏡でアルミニウム部材1の断面を観察して10以上の孔を測定した平均値である。
【0034】
第1ポーラス層22の複数の孔、及び第2ポーラス層23の複数の孔の酸化アルミニウムの水和物は、酢酸ニッケル系の封孔剤、フッ化ニッケル系の封孔剤、ケイ酸系の封孔剤及び温水並びにこれらの水蒸気法による封孔方法で封孔されていてもよく、封孔されていなくてもよい。また、封孔処理の代わりに透明の有機系材料、無機系材料、複合材料でコーティングされてもよい。有機系材料のコーティングの例としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びフッ素樹脂のような樹脂コーティングなどが挙げられる。無機系材料のコーティングの例としては、DLC(Diamond-like Carbon)、ケイ素などの金属がスパッタリングされたスパッタ膜、及び株式会社ディ・アンド・ディ製のパーミエイト(登録商標)シリーズ等でコーティングされた無機成分を含有する無機コーティング膜などが挙げられる。複合材料のコーティングの例としては、樹脂と無機物質とを含むコーティングなどが挙げられる。
【0035】
陽極酸化皮膜20の露出する表面24の算術平均高さSaは0μm~0.45μmであることが好ましい。表面24の算術平均高さSaを0.45μm以下とすることにより陽極酸化皮膜20の表面24で光の一部が反射するため、アルミニウム部材1の白色度をより向上させることができる。算術平均高さSaは、ISO25178に準じて測定することができる。また、陽極酸化皮膜20の表面24の算術平均高さSaは、表面24を研磨するなどして調整することができる。
【0036】
陽極酸化皮膜20側から測定したアルミニウム部材1のL*a*b*表色系におけるL*値は82.5~100であり、a*値は-1~+1であり、b*値は-1.5~+1.5であることが好ましい。L*a*b*表色系におけるL*値、a*値及びb*値は、JIS Z8781-4:2013(測色-第4部:CIE 1976 L*a*b*色空間)に準じて求めることができる。L*値、a*値及びb*値は色彩色差計などを用いて測定することができ、拡散照明垂直受光方式(D/0)、視野角2°、C光源のような条件で測定することができる。
【0037】
L*値を82.5以上とすることにより、明度が向上することから、アルミニウム部材1の白色度をより向上させることができる。また、L*値の上限は特に限定されず、L*の最大値である100である。
【0038】
また、a*値を-1~+1、b*値を-1.5~+1.5とすることで、彩度が0に近くなることから、アルミニウム部材1が赤色、黄色、緑色、青色などを帯びることを抑制することができ、アルミニウム部材1の白色度をより向上させることができる。なお、a*値は-0.8~+0.8、b*値は-0.8~+0.8であることが好ましい。
【0039】
ゴニオフォトメーターを用いて陽極酸化皮膜20側の反射強度を-80度~+10度の検出器角度で測定した場合において、最小反射強度に対する最大反射強度の比が400以下であることが好ましい。上記比が400以下であると、様々な角度からアルミニウム部材1を見た場合であっても白色に見えるため、白色度の角度依存性をさらに低くすることができる。上記比は小さい程好ましいため、上記比の下限値は1である。
【0040】
以上の通り、本実施形態に係るアルミニウム部材1は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される基材10と、陽極酸化皮膜20とを備える。陽極酸化皮膜20は、基材10の表面11と接するバリア層21と、バリア層21の基材10とは反対側の面に接する第1ポーラス層22とを含む。陽極酸化皮膜20は、第1ポーラス層22のバリア層21とは反対の面に接し、第1ポーラス層22と接する面から露出する表面24に向かって整列して直線状に延びる複数の孔を有する第2ポーラス層23を含む。第1ポーラス層22は複数の分岐する孔及び第2ポーラス層23よりも大きい平均孔径の複数の孔の少なくともいずれか一方を有する。
【0041】
第2ポーラス層23は、直線状に延びる複数の孔を有するために透光性が高く、入射光の大部分が第2ポーラス層23で吸収されずに第1ポーラス層22まで到達する。第1ポーラス層22は複数の分岐する孔及び第2ポーラス層23よりも大きい平均孔径の複数の孔の少なくともいずれか一方を有する。そのため、第1ポーラス層22を通過した光が第1ポーラス層22で拡散反射する。基材10の表面11で反射された光は、第1ポーラス層22でさらに拡散反射し、第2ポーラス層23を通過する。そのため、本実施形態のアルミニウム部材1は、白色度の角度依存性が低いと推定される。また、上述のように、第2ポーラス層23の透光性は高く、多くの光が第2ポーラス層23で吸収されずに基材10の表面11で反射するため、白色度の高いアルミニウム部材1が得られる。アルミニウム部材1は、紙のような白色の外観を有するため、例えばスマートフォンやパソコンなどの筐体に好ましく用いることができる。
【0042】
[アルミニウム部材の製造方法]
アルミニウム部材1の製造方法は、
図2に示すように、粗面化処理工程S1と、エッチング工程S2と、第1陽極酸化工程S3と、第2陽極酸化工程S4と、封孔処理工程S5とを含んでいる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0043】
(粗面化処理工程S1)
粗面化処理工程S1では、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される基材10の表面11に凹凸を形成する。粗面化処理工程S1は必須の工程ではないが、アルミニウム部材1の外観をより白色にすることができる。凹凸を形成する基材10は、例えば、所定の元素を有する溶湯の調製、鋳造、圧延、熱処理などにより作製してもよい。また、凹凸を形成する基材10は、鋳造後、圧延後又は熱処理後、特段の表面処理をせずに、そのまま用いてもよい。また、凹凸を形成する基材10は、フライス盤による研削、並びに、エメリー紙、バフ研磨、化学研磨及び電解研磨等により表面11を研磨して用いてもよい。凹凸を形成する基材10の表面11は、算術平均高さSaを100nm未満程度に研磨してもよい。基材10の表面11の算術平均高さSaを100nm未満とすることにより基材10の明度が高くなる。そのため、表面11の凹凸形成、エッチング工程S2、第1陽極酸化工程S3及び第2陽極酸化工程S4を経ても、より紙に近い白色外観を有するアルミニウム部材1を得ることができる。
【0044】
基材10の表面11の凹凸は例えばブラスト処理で形成してもよい。ブラスト処理では、基材10の表面11に粒子を衝突させて凹凸を形成することができる。ブラスト処理の方法は特に限定されず、例えばウェットブラスト及びドライブラストの少なくともいずれか一方を用いることができる。粗面化処理工程S1では20μm以下の平均粒子径を有する粒子を基材10の表面11に衝突させて凹凸を形成することが好ましい。平均粒子径を20μm以下とすることにより、陽極酸化皮膜20を通過した光が基材10の表面11の凹凸で吸収されるのを抑制することができ、アルミニウム部材1の外観をより白色にすることができる。
【0045】
ブラスト処理の粒子の平均粒子径は、10.5μm以下であることがより好ましい。一方、平均粒子径の下限は特に限定されないが、2μm以上であることが好ましい。平均粒子径を2μm以上とすることにより、基材10の表面11に適度に凹凸が形成されることから、陽極酸化皮膜20を通過してきた光を拡散反射させることができる。そのため、角度を変えて斜めから見た場合でも、アルミニウム部材1が白く見えるため、アルミニウム部材1を紙のような白色にすることができる。なお、平均粒子径は、体積基準における粒度分布の累積値が50%の時の粒子径を表し、例えば、レーザー回折・散乱法により測定することができる。
【0046】
ブラスト処理に用いられる粒子としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、アルミナ、ジルコニアなどを含むセラミックビーズ、ステンレス、スチールなどを含む金属ビーズ、ナイロン、ポリエステル、メラミン樹脂などを含む樹脂ビーズ、ガラスなどを含むガラスビーズなどが挙げられる。なお、ウェットブラストの場合は、粒子を水などの液体に混ぜて基材10に吹き付けることができる。ブラスト処理の際の噴射圧力、粒子総数などの条件は特に限定されず、基材10の状態などに応じて適宜変更することができる。
【0047】
基材10の表面11に凹凸を形成する方法はブラスト処理に限定されず、レーザー加工及び粗面化処理剤などを用いたエッチング処理などの他の方法で形成してもよい。レーザー加工では、基材10の表面11にレーザー光を照射することで凹凸を形成する。基材10の表面11の凹部及び凸部の径、深さ及びピッチなどは、レーザー光のスポット径、波長、出力、周波数及びパルス幅、基材10に対するレーザー光の移動速度などを調節することによって変更することができる。エッチング処理による粗面化処理は、例えば、奥野製薬工業株式会社のアルサテン(登録商標)OL-25等のフッ化物を含有した薬品を用いてエッチング処理することで凹凸を形成する。基材10の表面11の凹部の深さ及び凸部の高さなどは、エッチング液の温度、濃度及び時間などを調節することによって変更することができる。
【0048】
(エッチング工程S2)
エッチング工程S2は、必須の工程ではないが、粗面化処理工程S1で形成された基材10の表面11の凹凸の角を取り除き、凹凸を滑らかにすることができる。エッチングの条件は特に限定されず、白色度の高いアルミニウム部材1が得られればよい。
【0049】
エッチング工程S2では、粗面化された基材10を、酸性溶液及びアルカリ性溶液の少なくともいずれか一方によりエッチングすることが好ましい。酸性溶液としては、例えば、塩酸、硫酸及び硝酸などの水溶液を用いることができる。また、アルカリ性溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び炭酸ナトリウムなどの水溶液を用いることができる。酸性溶液及びアルカリ性溶液の濃度などは特に限定されないが、水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合、例えば10g/L~100g/Lであってもよい。
【0050】
エッチング時間やエッチング温度も特に限定されず、基材10の状態やエッチング液に応じて適宜調整することができる。一例を挙げると、エッチング時間は5秒~90秒、エッチング温度は40℃~60℃である。
【0051】
(第1陽極酸化工程S3)
第1陽極酸化工程S3では、凹凸が形成された基材10を、整列して直線状に延びる複数の孔を形成可能な電解液で第1陽極酸化する。第1陽極酸化で用いられる電解液は、第2ポーラス層23中にストレート状の複数の孔を形成可能であれば特に限定されない。電解液は、例えば、硫酸、アミド硫酸、カルボキシル基を含む酸並びにこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の電解質を含む水溶液であってもよい。カルボキシル基を含む酸としては、蓚酸、サリチル酸、クエン酸、マレイン酸及び酒石酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸が挙げられる。これらの中でも、第1陽極酸化の電解液は硫酸、アミド硫酸及びカルボキシル基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。第1陽極酸化の電解液は酸性電解液であることが好ましく、電解液のpHは例えば0~2である。電解液における上記電解質の濃度は、例えば10g/L~600g/Lである。
【0052】
第1陽極酸化の条件は特に制限されず、基材10の状態などに応じて適宜調整することができる。電解液の温度は、例えば0℃~30℃であってもよい。電流密度は、例えば1mA/cm2~50mA/cm2であってもよい。電解時間は、例えば10分~50分であってもよい。
【0053】
(第2陽極酸化工程S4)
第2陽極酸化工程S4では、第1陽極酸化された基材10を電解液で第2陽極酸化する。第2陽極酸化の電解液は、複数の分岐する孔及び上記直線状に延びる複数の孔よりも大きい平均孔径を有する複数の孔の少なくともいずれか一方を形成可能な電解液である。第2陽極酸化工程S4で用いられる電解液は、第1ポーラス層22中に複数の分岐する孔及び上記直線状に延びる複数の孔よりも大きい平均孔径を有する複数の孔の少なくともいずれか一方を形成可能であれば特に限定されない。電解液は、例えば酒石酸などのようなカルボキシル基を有する化合物、リン酸、クロム酸、ホウ酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種の電解質を含む水溶液であってもよい。これらの中でも、第2陽極酸化の電解液は、カルボキシル基を有する化合物及びリン酸並びにこれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。具体的には、第2陽極酸化の電解液は酒石酸塩水溶液であることが好ましい。酒石酸塩水溶液は、少なくとも複数の分岐する孔を形成することができる。また、第2陽極酸化の電解液はリン酸水溶液であることも好ましい。リン酸水溶液は上記直線状に延びる複数の孔よりも大きい平均孔径を有する複数の孔を形成することができる。第2陽極酸化の電解液はナトリウム、カリウム及びアンモニアからなる群より選択される少なくとも一種を含有していてもよい。第2陽極酸化の電解液は酸性又はアルカリ性電解液であってもよい。第2陽極酸化の電解液がアルカリ性電解液である場合、電解液のpHは例えば9~14である。電解液をアルカリ性にするため、電解液に水酸化ナトリウムなどを混合してもよい。電解液における上記電解質の濃度は、例えば0.5g/L~200g/Lである。
【0054】
第2陽極酸化の条件は特に制限されず、基材10の状態などに応じて適宜調整することができる。一例を挙げると、電解液の温度は、例えば0℃~40℃であってもよい。電圧は、例えば2V~500Vであってもよい。単位面積当たりの電気量は、例えば0.05C/cm2~40C/cm2であってもよい。電解時間は、例えば0.1分~180分であってもよい。
【0055】
(封孔処理工程S5)
封孔処理工程S5は必須の工程ではないが、第1ポーラス層22の孔及び第2ポーラス層23の孔の酸化アルミニウムの水和物を封孔することにより、アルミニウム部材1の耐食性を向上させることができる。封孔処理は公知の方法で実施することができ、例えば、高温の水蒸気、酢酸ニッケル水溶液又はフッ化ニッケル等などを用いて実施することができる。
【0056】
以上の通り、本実施形態に係るアルミニウム部材1の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される基材10を、整列して直線状に延びる複数の孔を形成可能な電解液で第1陽極酸化する第1陽極酸化工程S3を含む。上記方法は、第1陽極酸化された基材10を電解液で第2陽極酸化する第2陽極酸化工程S4を含む。第2陽極酸化の電解液は、複数の分岐する孔及び直線状に延びる複数の孔よりも大きい平均孔径を有する複数の孔の少なくともいずれか一方を形成可能な電解液である。
【0057】
上記方法は、第1陽極酸化工程S3及び第2陽極酸化工程S4を含むため、陽極酸化皮膜20が形成される。第1陽極酸化工程S3では整列して直線状に延びる複数の孔が陽極酸化皮膜20に形成される。第2陽極酸化工程S4では複数の分岐する孔及び直線状に延びる複数の孔よりも大きい平均孔径を有する複数の孔の少なくともいずれか一方が陽極酸化皮膜20に形成される。そのため、第1陽極酸化工程S3及び第2陽極酸化工程S4によって、バリア層21と、第1ポーラス層22と、第2ポーラス層23とを含む陽極酸化皮膜20が形成される。したがって、上記方法によって上述したアルミニウム部材1を製造することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
(粗面化処理)
圧延及び焼鈍した厚さ3mmの5000系アルミニウム合金板を、長さ50mm及び幅50mmに切り出したものを基材とした。5000系アルミニウム合金は、マグネシウム4.31質量%、鉄0.02質量%及びケイ素0.02質量%を含有し、残部がアルミニウム(Al)及び不可避不純物である。
【0060】
上記基材にドライブラストで粒子を衝突させ、基材の表面に凹凸を形成した。粒子は、株式会社不二製作所製のフジランダムWA 粒番号1200(アルミナ粒子、最大粒子径27.0μm 平均粒子径9.5±0.8μm)を用いた。ブラスト処理後、基材を200g/Lの硝酸水溶液に室温(約20℃)で3分間浸漬させて脱脂した。
【0061】
(エッチング)
凹凸が形成された基材を、温度50℃で濃度50g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に60秒間浸漬してエッチングした後、濃度200g/Lの硝酸水溶液に室温(約20℃)で2分間浸漬してスマットを除去した。
【0062】
(第1陽極酸化)
エッチングされた基材を、濃度180g/Lの硫酸を含むpH0の酸性水溶液に浸漬し、温度18℃、電流密度15mA/cm2及び電解時間33分の電解条件で第1陽極酸化した。
【0063】
(第2陽極酸化)
第1陽極酸化された部材を、濃度106g/Lの酒石酸二ナトリウム・2水和物と濃度3g/Lの水酸化ナトリウムとを含有するpH13のアルカリ性水溶液に浸漬させた。そして、上記部材を、温度5℃、電圧100V、電気量1C/cm2、昇圧速度1V/秒及び電解時間約4分の電解条件で第2陽極酸化した。
【0064】
(封孔処理)
第2陽極酸化された部材を、酢酸ニッケル系封孔材によって90℃で30分間封孔処理した。このようにして、本例のアルミニウム部材を作製した。
【0065】
[実施例2]
第2陽極酸化の電圧を160Vとした以外は実施例1と同様にして本例のアルミニウム部材を作製した。
【0066】
[実施例3]
基材として圧延及びT6処理した7000系アルミニウム合金板を用いた以外は実施例2と同様にアルミニウム部材を作製した。上記7000系アルミニウム合金板は、0質量%~10質量%のマグネシウムと、0.1質量%以下の鉄と、0.1質量%以下のケイ素と、10質量%以下の亜鉛とを含有し、残部がアルミニウム及び不可避不純物である。
【0067】
[実施例4]
基材をブラスト処理せず、第2陽極酸化の電圧を20Vとした以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0068】
[実施例5]
基材をブラスト処理せず、第2陽極酸化の電圧を40Vとした以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0069】
[実施例6]
基材をブラスト処理せず、第2陽極酸化の電圧を80Vとした以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0070】
[実施例7]
基材をブラスト処理せず、第2陽極酸化の電圧を120Vとした以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0071】
[実施例8]
基材をブラスト処理せず、第2陽極酸化の電圧を160Vとした以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0072】
[実施例9]
基材をブラスト処理せず、第2陽極酸化の電圧を200Vとした以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0073】
[実施例10]
基材をブラスト処理せず、第2陽極酸化の電圧を240Vとした以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0074】
[実施例11]
第1陽極酸化された部材を、濃度98g/Lのリン酸水溶液(pH1)に浸漬させた。そして、上記部材を、温度5℃、電圧100V、電気量1C/cm2、昇圧速度1V/秒及び電解時間約4分の電解条件で第2陽極酸化した。上記以外は実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0075】
[比較例1]
第2陽極酸化をせず、第1陽極酸化された部材を封孔処理した以外は実施例1と同様にして本例のアルミニウム部材を作製した。
【0076】
[比較例2]
エッチングされた基材を、濃度106g/Lの酒石酸二ナトリウム・2水和物と濃度4g/Lの水酸化ナトリウムとを含有するpH13の水溶液に浸漬させた。そして、上記部材を、温度5℃、電圧160V、電気量20C/cm2、昇圧速度1V/秒及び電解時間約4分の条件で陽極酸化した後、封孔処理した。上記以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0077】
[比較例3]
基材をブラスト処理しなかった以外は、比較例2と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0078】
[比較例4]
基材をブラスト処理しなかった以外は、比較例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0079】
[比較例5]
エッチングされた基材を、濃度98g/Lのリン酸水溶液(pH1)に浸漬させた。そして、上記部材を、温度5℃、電圧100V、電気量20C/cm2、昇圧速度1V/秒及び電解時間約4分の電解条件で陽極酸化した。上記以外は実施例1と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0080】
[評価]
各例で得られたアルミニウム部材の基材表面の凹凸、第1ポーラス層及び第2ポーラス層の平均孔径、アルミニウム部材の色調並びに白色度の角度依存性を以下の通り評価した。
【0081】
(算術平均高さSa及び最大高さSz)
まず、JIS H8688:2013に準じ、上記のようにして得られたアルミニウム部材をリン酸クロム酸(VI)溶液に浸し、陽極酸化皮膜を溶解させて除去した。次に、基材の陽極酸化皮膜側の表面の算術平均高さSa及び最大高さSzを、ブルカー・エイエックスエス株式会社の3次元白色干渉型顕微鏡ContourGT-Iを用いて、ISO25178に準じて測定した。算術平均高さSa及び最大高さSzは、測定範囲を60μm×79μm、対物レンズを115倍、内部レンズを1倍の条件で測定した。
【0082】
(粗さ曲線要素の平均長さRsm)
まず、JIS H8688:2013に準じ、上記のようにして得られたアルミニウム部材の陽極酸化皮膜をリン酸クロム酸(VI)溶液に溶解させて除去した。次に、基材の陽極酸化皮膜側の表面における粗さ曲線要素の平均長さRsmを、ブルカー・エイエックスエス株式会社の3次元白色干渉型顕微鏡ContourGT-Iを用いて、JIS B0601:2013に準じて測定した。粗さ曲線要素の平均長さRsmは、カットオフλcを80μm、対物レンズを115倍、内部レンズを1倍、測定距離を79μmの条件で測定した。
【0083】
(平均孔径)
アルミニウム部材の断面を透過型電子顕微鏡で観察し、ポーラス層の平均孔径を測定した。
【0084】
(色調)
JIS Z8722に準拠し、コニカミノルタジャパン株式会社製の色彩色差計CR400を用い、陽極酸化皮膜の表面からアルミニウム部材の色調を測色し、L*値、a*値及びb*値を求めた。色調は、照明・受光光学系を拡散照明垂直受光方式(D/0)、観察条件をCIE2°視野等色関数近似、光源をC光源、及び、表色系をL*a*b*の条件で測定した。
【0085】
(角度依存性)
アルミニウム部材の白色度の角度依存性を、ニッカ電測株式会社製のゴニオフォトメーター(GP-2型)を用いて評価した。具体的には、
図3に示すように、アルミニウム部材101に対して光を照射し、検出器102が受光する光の強度を測定した。検出器102は、アルミニウム部材101を中心として所定の距離をおいて回転可能に設けられている。入射光103の入射角が45度及び反射光104の反射角が45度の位置に検出器102が配置される場合を検出器角度0度とした。検出器角度が-80度~+30度の範囲において0.5度間隔でアルミニウム部材101が反射する反射光104の陽極酸化皮膜側の反射強度を測定した。そして、検出器角度が-80度~+10度の範囲における最小反射強度に対する最大反射強度(最大反射強度/最小反射強度)の比を算出した。上記比が400以下である場合には角度依存性が「良」と判定し、記比が400より大きい場合には角度依存性が「否」と判定した。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
表1に示すように、実施例1~実施例11のアルミニウム部材では、L
*値が85~100であり、a
*値が-1~+1であり、b
*値が-1.5~+1.5であった。また、
図4に示すように、実施例1のアルミニウム部材は、比較例1のアルミニウム部材と比較して検出器角度-80度~-40度における反射強度が大きく、参考例のコピー用紙のように光の反射強度の角度依存性が低かった。さらに、実施例1~実施例11のアルミニウム部材では、ゴニオフォトメーターを用いて前記陽極酸化皮膜側の反射強度を-80度~+10度の検出器角度で測定した場合において、最小反射強度に対する最大反射強度の比が400以下であった。
【0091】
一方、比較例1~比較例5のアルミニウム部材では、第1陽極酸化及び第2陽極酸化を実施しなかったため、L*値が低いか、又は、角度依存性が高かった。比較例2、比較例3及び比較例5のように、複数の分岐する孔又は直線状に延びる複数の孔よりも大きい平均孔径を有する複数の孔の形成を目的とする電解液を用いた陽極酸化だけでは高いL*値を有するアルミニウム部材が得られない。また、比較例1及び比較例4のように、硫酸水溶液を用いた陽極酸化だけでは高いL*値を有するアルミニウム部材が得られるが、角度依存性の低いアルミニウム部材が得られない。そのため、これらの2種類の陽極酸化によって、白色度が高く、白色度の角度依存性が低いアルミニウム部材が得られると推定される。
【0092】
次に、透過型電子顕微鏡で断面を観察するためにアルミニウム部材を以下のようにして作製した。
【0093】
[実施例12]
第1陽極酸化の電解時間を11分とし、第2陽極酸化の電解時間を80秒とし、封孔処理を実施しなかった以外は実施例2と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0094】
[比較例6]
第2陽極酸化を実施しなかった以外は実施例12と同様にして本例のアルミニウム部材を作製した。
【0095】
[比較例7]
第1陽極酸化を実施せず、第2陽極酸化の電圧を110V、電解時間を11分とした以外は実施例12と同様にしてアルミニウム部材を作製した。
【0096】
図5、
図6及び
図7は、実施例12のアルミニウム部材の断面をFIB(集束イオンビーム)加工し、透過型電子顕微鏡で2,550倍、19,500倍及び43,000倍にそれぞれ拡大した画像である。
図8、
図9及び
図10は、比較例6のアルミニウム部材の断面をFIB(集束イオンビーム)加工し、透過型電子顕微鏡で2,550倍、19,500倍及び43,000倍にそれぞれ拡大した画像である。
図11、
図12及び
図13は、比較例7のアルミニウム部材の断面をFIB(集束イオンビーム)加工し、透過型電子顕微鏡で2,550倍、19,500倍及び43,000倍にそれぞれ拡大した画像である。
図5~
図13に示すように、第1ポーラス層は複数の分岐する孔を有し、第2ポーラス層は直線状に延びる複数の孔を有することが分かる。
図5~
図13並びに図示しないEDS(エネルギー分散型X線分光法)による元素分析の結果から、陽極酸化皮膜は、第2陽極酸化に由来するバリア層及び第1ポーラス層が基材の表面に形成されていることが分かった。また、第1陽極酸化に由来する第2ポーラス層が第1ポーラス層の表面に形成されていることが分かった。
【0097】
なお、実施例1~実施例10のアルミニウム部材についても、第1ポーラス層は複数の分岐する孔を有し、第2ポーラス層は直線状に延びる複数の孔を有していた。実施例11のアルミニウム部材については、第2ポーラス層は直線状に延びる複数の孔を有していたが、第1ポーラス層は複数の分岐する孔を有していなかった。しかしながら、第1ポーラス層は、表1に示すように、第2ポーラス層よりも大きい平均孔径の複数の孔を有していた。以上の結果から、第1ポーラス層と第2ポーラス層を備え、第1ポーラス層が複数の分岐する孔及び第2ポーラス層よりも大きい平均孔径の複数の孔の少なくともいずれか一方を有するアルミニウム部材は、白色を有し、角度依存性が低いことが分かる。
【0098】
以上、本実施形態を実施例及び比較例によって説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0099】
1 アルミニウム部材
10 基材
11 表面
20 陽極酸化皮膜
21 バリア層
22 第1ポーラス層
23 第2ポーラス層
24 表面