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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】産業車両の油圧駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/00 20060101AFI20240214BHJP
   F16H 61/68 20060101ALI20240214BHJP
   F16H 59/68 20060101ALI20240214BHJP
   F16H 61/64 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
F16H61/00
F16H61/68
F16H59/68
F16H61/64
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020194267
(22)【出願日】2020-11-24
(65)【公開番号】P2022083037
(43)【公開日】2022-06-03
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 啓介
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-008115(JP,U)
【文献】特開昭61-266854(JP,A)
【文献】実開昭53-015478(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12、61/66-61/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンと回転軸を介して連結されたトルクコンバータと、前記トルクコンバータと入力軸を介して連結され、前記入力軸と出力軸とを断続させる前進クラッチ及び後進クラッチを有するトランスミッションとを備えた産業車両の油圧駆動装置において、
前記エンジンにより駆動され、前記トルクコンバータ、前記前進クラッチ及び前記後進クラッチに作動油を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプと前記前進クラッチ及び前記後進クラッチとの間に配置され、前記産業車両の前後進操作部の操作位置に応じて作動油が流れる方向を切り換える前後進切換バルブと、
前記油圧ポンプと前記前後進切換バルブとの間に配置され、前記産業車両のインチング操作部の操作状態に応じて前記前進クラッチ及び前記後進クラッチに供給される作動油の圧力を調整するインチングバルブと、
前記トルクコンバータを通過した作動油を冷却するクーラと、
前記クーラにより冷却された作動油である冷却油を前記前進クラッチに供給する第1冷却油供給部と、
前記冷却油を前記後進クラッチに供給する第2冷却油供給部とを備え、
前記第2冷却油供給部は、前記前後進操作部の操作位置が前進位置及びニュートラル位置であるときに、前記前後進操作部の操作位置が後進位置であるときに比べて、前記後進クラッチに供給される冷却油の流量を制限する流量制限バルブを有し、
前記流量制限バルブは、前記前後進操作部の操作位置が前記ニュートラル位置であるときに前記後進クラッチに供給される冷却油の流量が、前記前後進操作部の操作位置が前記前進位置であるときに前記後進クラッチに供給される冷却油の流量と等しくなるように設定されている産業車両の油圧駆動装置。
【請求項2】
前記流量制限バルブのスプールは、前記前後進切換バルブのスプールと一体化されている請求項1記載の産業車両の油圧駆動装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業車両の油圧駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業車両の油圧駆動装置としては、例えば特許文献1に記載されているように、フォークリフト用のトルクコンバータ及びトランスミッションに適用される装置が知られている。特許文献1に記載の油圧駆動装置は、エンジンにより駆動され、トルクコンバータ及びトランスミッションに作動油を供給する油圧ポンプと、この油圧ポンプとトランスミッションの前進クラッチ及び後進クラッチとの間に配置された前後進切換バルブと、油圧ポンプと前後進切換バルブとの間に配置されたインチングバルブと、トルクコンバータを通過した作動油を冷却するクーラと、このクーラにより冷却された作動油を前進クラッチ及び後進クラッチに供給する冷却油供給流路とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-139518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術のような油圧駆動装置においては、インチングバルブによって前進クラッチ及び後進クラッチに供給される作動油の圧力が調整または遮断される。これにより、クラッチの摩擦材を滑らせてフォークリフトを寸動させたり、フォークリフトを微速走行させながら荷役ポンプに大きな動力を与えることができる。しかし、インチング操作が長時間行われると、クラッチの摩擦材の発熱が大きくなり、摩擦材が温度上昇により損傷するおそれがある。このため、クーラにより冷却された作動油(冷却油)によって、クラッチの十分な冷却性能を確保する必要がある。
【0005】
しかしながら、冷却油がクラッチに多く供給されると、クラッチの非接続状態では、摩擦材とクラッチプレートとの間が冷却油で満たされ、摩擦材とクラッチプレートとの相対運動により引き摺りトルクが発生し、エネルギーを消費してしまう。一般的に、フォークリフトの前進クラッチについては、荷付け時や坂道登坂時にインチング操作による使用頻度が高く、発熱のダメージを受けやすいため、十分な流量の冷却油が必要である。一方、フォークリフトの後進クラッチについては、インチング操作による使用頻度が低く、状況によっては冷却能力が過剰である場合が多い。従って、消費エネルギーを低減するためには、後進クラッチの引き摺りトルクを低減する必要がある。
【0006】
本発明の目的は、後進クラッチの引き摺りトルクを低減することができる産業車両の油圧駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、エンジンと、エンジンと回転軸を介して連結されたトルクコンバータと、トルクコンバータと入力軸を介して連結され、入力軸と出力軸とを断続させる前進クラッチ及び後進クラッチを有するトランスミッションとを備えた産業車両の油圧駆動装置において、エンジンにより駆動され、トルクコンバータ、前進クラッチ及び後進クラッチに作動油を供給する油圧ポンプと、油圧ポンプと前進クラッチ及び後進クラッチとの間に配置され、産業車両の前後進操作部の操作位置に応じて作動油が流れる方向を切り換える前後進切換バルブと、油圧ポンプと前後進切換バルブとの間に配置され、産業車両のインチング操作部の操作状態に応じて前進クラッチ及び後進クラッチに供給される作動油の圧力を調整するインチングバルブと、トルクコンバータを通過した作動油を冷却するクーラと、クーラにより冷却された作動油である冷却油を前進クラッチに供給する第1冷却油供給部と、冷却油を後進クラッチに供給する第2冷却油供給部とを備え、第2冷却油供給部は、前後進操作部の操作位置が後進位置でないときに、前後進操作部の操作位置が後進位置であるときに比べて、後進クラッチに供給される冷却油の流量を制限する流量制限バルブを有する。
【0008】
このような油圧駆動装置においては、前後進操作部の操作位置が前進位置であるときは、油圧ポンプから前進クラッチに作動油が供給され、前進クラッチが接続状態となる。前後進操作部の位置が後進位置であるときは、油圧ポンプから後進クラッチに作動油が供給され、後進クラッチが接続状態となる。前後進操作部の位置がニュートラル位置であるときは、油圧ポンプから前進クラッチ及び後進クラッチに作動油が供給されず、前進クラッチ及び後進クラッチが遮断状態である。また、前後進操作部の操作位置に関わらず、クーラにより冷却された作動油である冷却油が前進クラッチ及び後進クラッチに供給され、前進クラッチ及び後進クラッチが冷却される。ここで、前後進操作部の操作位置が後進位置でないときは、前後進操作部の操作位置が後進位置であるときに比べて、後進クラッチに供給される冷却油の流量が制限される。このため、前後進操作部の操作位置が後進位置でないときは、後進クラッチに供給される冷却油の流量が少なくなる。これにより、後進クラッチの引き摺りトルクが低減される。
【0009】
流量制限バルブのスプールは、前後進切換バルブのスプールと一体化されていてもよい。このような構成では、流量制限バルブのスプールは、前後進操作部の操作位置に応じて前後進切換バルブのスプールと連動して動作する。このため、前後進切換バルブのスプールと冷却油が流れる油路とを変更すれば足り、専用のコントローラ及び専用のバルブが不要となる。従って、流量制限バルブを既存の油圧システムに安価に導入することができる。
【0010】
流量制限バルブは、前後進操作部の操作位置が前進位置及びニュートラル位置であるときは、前後進操作部の操作位置が後進位置であるときに比べて、後進クラッチに供給される冷却油の流量を制限してもよい。このような構成では、前後進操作部の操作位置が前進位置及びニュートラル位置であるときは、何れも後進クラッチに供給される冷却油の流量が少なくなる。従って、後進クラッチの引き摺りトルクがより低減される。
【0011】
流量制限バルブは、前後進操作部の操作位置がニュートラル位置であるときに後進クラッチに供給される冷却油の流量が、前後進操作部の操作位置が前進位置であるときに後進クラッチに供給される冷却油の流量よりも多くなるように設定されていてもよい。このような構成では、前後進操作部の操作位置が前進位置及び後進位置の一方から他方に切り換わるときに、前後進操作部がニュートラル位置を通過する場合でも、後進クラッチが急激に断続されることが防止される。従って、後進クラッチの断続時に生じるショックを低減することができる。
【0012】
流量制限バルブは、前後進操作部の操作位置がニュートラル位置であるときに後進クラッチに供給される冷却油の流量が、前後進操作部の操作位置が前進位置であるときに後進クラッチに供給される冷却油の流量と等しくなるように設定されていてもよい。このような構成では、流量制限バルブの構造が簡素化されるため、低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、後進クラッチの引き摺りトルクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る産業車両の油圧駆動装置を示す油圧回路図である。
図2図1に示されたトランスミッションの一部を示す断面図である。
図3】エンジンの回転数と後進クラッチの引き摺りトルクとの関係を比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る産業車両の油圧駆動装置を示す油圧回路図である。図1において、本実施形態の油圧駆動装置1は、産業車両であるエンジン式のフォークリフト2に搭載されている。
【0017】
フォークリフト2は、エンジン3と、このエンジン3と回転軸4を介して連結されたトルクコンバータ5と、このトルクコンバータ5と入力軸6を介して連結されたトランスミッション7とを備えている。
【0018】
トルクコンバータ5は、回転軸4と連結されたポンプ8と、入力軸6と連結されたタービン9と、ポンプ8とタービン9との間に配置されたステータ(図示せず)とを有している。ポンプ8は、エンジン3からの動力を受けて回転する。タービン9は、ポンプ8の動力を作動油を介して受け止めてトランスミッション7に伝える。ステータは、作動油の流れを制御してトルクを増幅させる。
【0019】
トランスミッション7は、入力軸6と車軸(図示せず)に連結された出力軸10とを断続させる。トランスミッション7は、入力軸6と連結された前進クラッチ11及び後進クラッチ12と、出力軸10に連結された前進ギヤ13及び後進ギヤ14とを有している。前進ギヤ13は、前進クラッチ11と断続する。後進ギヤ14は、介在ギヤ15を介して後進クラッチ12と断続する。前進クラッチ11及び後進クラッチ12は、湿式多板型クラッチである。
【0020】
前進クラッチ11は、図2に示されるように、入力軸6と一体化されたクラッチドラム16と、前進ギヤ13と螺合するギヤ部17とを有している。クラッチドラム16には、複数のクラッチプレート18が取り付けられている。ギヤ部17には、複数の摩擦材19がクラッチプレート18と対向するように取り付けられている。クラッチプレート18及び摩擦材19は、入力軸6の軸方向に交互に配置されている。クラッチドラム16とギヤ部17との間には、クラッチプレート18を軸方向に押圧するピストン20が配置されている。
【0021】
ピストン20に作動油の油圧が与えられると、ピストン20によりクラッチプレート18がバネ(図示せず)の付勢力に抗して押し付けられ、クラッチプレート18及び摩擦材19が互いに圧接されるため、クラッチドラム16とギヤ部17とが連結される。これにより、前進クラッチ11が接続状態(締結状態)となり、入力軸6の回転がクラッチドラム16、ギヤ部17及び前進ギヤ13を介して出力軸10に伝達される。
【0022】
ピストン20に作動油の油圧が与えられないと、バネ(図示せず)の付勢力によってピストン20がクラッチプレート18を押し付けず、クラッチプレート18及び摩擦材19が互いに離れるため、クラッチドラム16とギヤ部17とが連結されない。これにより、前進クラッチ11が切断状態(非締結状態)となり、入力軸6の回転が出力軸10に伝達されることはない。
【0023】
後進クラッチ12は、図2に示されるように、入力軸6と一体化されたクラッチドラム21と、介在ギヤ15と螺合するギヤ部22とを有している。クラッチドラム21には、複数のクラッチプレート23が取り付けられている。ギヤ部22には、複数の摩擦材24がクラッチプレート23と対向するように取り付けられている。クラッチプレート23及び摩擦材24は、入力軸6の軸方向に交互に配置されている。クラッチドラム21とギヤ部22との間には、クラッチプレート23を軸方向に押圧するピストン25が配置されている。
【0024】
ピストン25に作動油の油圧が与えられると、ピストン25によりクラッチプレート23がバネ(図示せず)の付勢力に抗して押し付けられ、クラッチプレート23及び摩擦材24が互いに圧接されるため、クラッチドラム21とギヤ部22とが連結される。これにより、後進クラッチ12が接続状態(締結状態)となり、入力軸6の回転がクラッチドラム21、ギヤ部22、介在ギヤ15及び後進ギヤ14を介して出力軸10に伝達される。
【0025】
ピストン25に作動油の油圧が与えられないと、バネ(図示せず)の付勢力によってピストン25がクラッチプレート23を押し付けず、クラッチプレート23及び摩擦材24が互いに離れるため、クラッチドラム21とギヤ部22とが連結されない。これにより、前進クラッチ11が切断状態(非締結状態)となり、入力軸6の回転が出力軸10に伝達されることはない。
【0026】
油圧駆動装置1は、油圧ポンプ30と、前後進切換バルブ31と、インチングバルブ32と、リリーフバルブ33と、アキュムレータ34と、オリフィス35,36と、クーラ37とを備えている。
【0027】
油圧ポンプ30は、エンジン3により回転軸4を介して駆動される。油圧ポンプ30は、トルクコンバータ5、前進クラッチ11及び後進クラッチ12に作動油を供給する。油圧ポンプ30は、タンク38から作動油を吸い込む吸込口30aと、作動油を吐出する吐出口30bとを有している。
【0028】
前後進切換バルブ31は、油圧ポンプ30と前進クラッチ11及び後進クラッチ12との間に配置されている。前後進切換バルブ31は、油圧ポンプ30の吐出口30bと作動油流路40、インチングバルブ32及び作動油流路41を介して接続されている。前後進切換バルブ31は、作動油流路42,43を介して前進クラッチ11及び後進クラッチ12とそれぞれ接続されている。前後進切換バルブ31は、作動油流路44を介してタンク38と接続されている。作動油流路40~44は、作動油流路が流れる油路である。
【0029】
前後進切換バルブ31は、フォークリフト2の前後進操作レバー45の操作位置に応じて作動油が流れる方向を切り換える電磁バルブである。前後進操作レバー45は、フォークリフト2の運転室に配置されている。前後進操作レバー45は、運転者がフォークリフト2の進行方向を切り換えるための手動操作レバー(前後進操作部)である。前後進操作レバー45は、ニュートラル位置、前進位置及び後進位置の何れかに切り換えられる。前後進操作レバー45の操作信号は、コントローラ46に送られる。
【0030】
前後進切換バルブ31は、ハウジング(図示せず)に対して移動可能なスプール47と、このスプール47を移動させる電磁操作部48a,48bとを有している。電磁操作部48a,48bは、特に図示はしないが、コントローラ46と接続されている。
【0031】
前後進操作レバー45の操作位置がニュートラル位置にあるときは、コントローラ46から電磁操作部48a,48bに制御信号が与えられず、スプール47の位置はニュートラル位置47c(図示の位置)となる。その状態では、作動油流路41と作動油流路42,43とが遮断されると共に、作動油流路42,43と作動油流路44とが連通する。このため、油圧ポンプ30から吐出された作動油が前進クラッチ11及び後進クラッチ12に供給されず、前進クラッチ11及び後進クラッチ12からタンク38に作動油が戻る。
【0032】
前後進操作レバー45の操作位置が前進位置にあるときは、コントローラ46から電磁操作部48aに制御信号が与えられ、スプール47の位置が前進位置47aとなる。その状態では、作動油流路41と作動油流路42とが連通すると共に、作動油流路43と作動油流路44とが連通する。このため、油圧ポンプ30から吐出された作動油が前進クラッチ11に供給可能となると共に、後進クラッチ12からタンク38に作動油が戻る。
【0033】
前後進操作レバー45の操作位置が後進位置にあるときは、コントローラ46から電磁操作部48bに制御信号が与えられ、スプール47の位置が後進位置47bとなる。その状態では、作動油流路41と作動油流路43とが連通すると共に、作動油流路42と作動油流路44とが連通する。このため、油圧ポンプ30から吐出された作動油が後進クラッチ12に供給可能となると共に、前進クラッチ11からタンク38に作動油が戻る。
【0034】
インチングバルブ32は、油圧ポンプ30と前後進切換バルブ31との間に配置されている。インチングバルブ32は、油圧ポンプ30の吐出口30bと作動油流路40を介して接続されている。インチングバルブ32は、作動油流路41を介して前後進切換バルブ31と接続されている。インチングバルブ32は、作動油流路49を介してタンク38と接続されている。インチングバルブ32は、ハウジング(図示せず)に対して移動可能なスプール50を有している。スプール50には、作動油の流路を絞る可変絞り51が設けられている。
【0035】
インチングバルブ32は、フォークリフト2のインチングペダル52の操作状態に応じて前進クラッチ11及び後進クラッチ12に供給される作動油の圧力を調整するバルブである。インチングペダル52は、フォークリフト2の運転室に配置されている。インチングペダル52は、運転者がフォークリフト2の速度を調整するための手動操作ペダル(インチング操作部)である。インチングペダル52は、インチングバルブ32と機械的に連結されている。
【0036】
インチングペダル52が踏み込まれていないときは、スプール50の位置が全開位置50a(図示の位置)となる。その状態では、作動油流路40と作動油流路41とが連通すると共に、作動油流路41と作動油流路49とが遮断される。従って、前後進切換バルブ31のスプール47の位置が前進位置47aまたは後進位置47bである場合は、油圧ポンプ30から吐出された作動油が前進クラッチ11または後進クラッチ12に供給されるため、前進クラッチ11または後進クラッチ12が接続状態となる。
【0037】
インチングペダル52が最大量踏み込まれると、スプール50の位置が全閉位置50bとなる。その状態では、作動油流路40と作動油流路41とが遮断されると共に、作動油流路41と作動油流路49とが連通する。従って、前後進切換バルブ31のスプール47の位置に関わらず、油圧ポンプ30から吐出された作動油が前進クラッチ11及び後進クラッチ12に供給されないため、前進クラッチ11及び後進クラッチ12が切断状態となる。
【0038】
インチングペダル52が中間位置まで踏み込まれると、スプール50の位置が絞り位置50cとなる。その状態では、作動油流路40と作動油流路41とが可変絞り51を通して連通すると共に、作動油流路41と作動油流路49とが遮断される。従って、油圧ポンプ30から吐出された作動油が可変絞り51で絞られた状態で前進クラッチ11または後進クラッチ12に供給されるため、前進クラッチ11または後進クラッチ12が半接続(半クラッチ)状態となる。
【0039】
リリーフバルブ33は、作動油流路40とタンク38とを接続する作動油流路54の途中に配設されている。リリーフバルブ33は、油圧ポンプ30から吐出された作動油の圧力が設定圧以上になると開く調圧バルブである。リリーフバルブ33の設定圧は、前進クラッチ11及び後進クラッチ12の駆動に必要な圧力に設定されている。
【0040】
アキュムレータ34は、作動油流路40に作動油流路55を介して接続されている。アキュムレータ34は、前後進切換バルブ31のスプール47の位置の切換時に前後進切換バルブ31に生じるショックを緩和する。
【0041】
オリフィス35は、作動油流路40とトルクコンバータ5とを接続する作動油流路56の途中に配設されている。オリフィス35は、油圧ポンプ30からトルクコンバータ5に供給される作動油を減圧する。
【0042】
オリフィス36は、トルクコンバータ5をバイパスするように作動油流路56におけるオリフィス35よりも上流側に接続された作動油流路57の途中に配設されている。オリフィス36は、油圧ポンプ30から吐出された作動油を減圧する。
【0043】
クーラ37は、トルクコンバータ5を通過した作動油を冷却する。クーラ37は、トルクコンバータ5と作動油流路58を介して接続されている。作動油流路58には、作動油流路57が接続されている。クーラ37は、トルクコンバータ5を通過した作動油を、トルクコンバータ5をバイパスした作動油と共に冷却する。クーラ37により冷却された作動油は、冷却油として前進クラッチ11及び後進クラッチ12の冷却及び潤滑に使用される。
【0044】
また、油圧駆動装置1は、冷却油を前進クラッチ11に供給する第1冷却油供給部61と、冷却油を後進クラッチ12に供給する第2冷却油供給部62とを更に備えている。
【0045】
第1冷却油供給部61は、前進クラッチ11におけるクラッチプレート18と摩擦材19との間に冷却油を供給する。第1冷却油供給部61は、クーラ37と前進クラッチ11とを接続する冷却油流路63を有している。冷却油流路63は、冷却油が流れる油路である。冷却油流路63には、冷却油に含まれる不純物を除去するフィルタ64が配設されている。
【0046】
第2冷却油供給部62は、後進クラッチ12におけるクラッチプレート23と摩擦材24との間に冷却油を供給する。第2冷却油供給部62は、冷却油流路63におけるフィルタ64よりも下流側と後進クラッチ12とを接続する冷却油流路65と、この冷却油流路65の途中に配設された流量制限バルブ66とを有している。冷却油流路65は、冷却油が流れる油路である。なお、冷却油流路63及びフィルタ64は、第2冷却油供給部62の一部を構成している。
【0047】
流量制限バルブ66は、前後進操作レバー45の操作位置に応じて後進クラッチ12に供給される冷却油の流量を制限するバルブである。流量制限バルブ66は、前後進操作レバー45の操作位置が後進位置でないときに、前後進操作レバー45の操作位置が後進位置であるときに比べて、後進クラッチ12に供給される冷却油の流量を制限する。
【0048】
具体的には、流量制限バルブ66は、前後進操作レバー45の操作位置が前進位置及びニュートラル位置であるときは、前後進操作レバー45の操作位置が後進位置であるときに比べて、後進クラッチ12に供給される冷却油の流量を制限する。これにより、前後進操作レバー45の操作位置が前進位置及びニュートラル位置であるときは、前後進操作レバー45の操作位置が後進位置であるときに比べて、後進クラッチ12に供給される冷却油の流量が少なくなる。
【0049】
流量制限バルブ66は、前後進切換バルブ31のハウジング(図示せず)に対して移動可能なスプール67を有している。スプール67は、前後進切換バルブ31のスプール47の一端部に固定されている。つまり、スプール67は、スプール47と一体化されている。スプール47は、前後進操作レバー45の操作位置に応じてスプール47と一緒に移動する。
【0050】
スプール67には、冷却油の流路を絞ることで、前進クラッチ11及び後進クラッチ12に供給される冷却油の流路を絞る絞り部68,69が設けられている。絞り部68,69の絞り量は、等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0051】
前後進操作レバー45の操作位置がニュートラル位置であるときは、コントローラ46から電磁操作部48a,48bに制御信号が与えられず、スプール67の位置はニュートラル位置67c(図示の位置)となる。その状態では、冷却油は、絞り部68を通って後進クラッチ12に供給される。このため、後進クラッチ12に供給される冷却油の流量が制限される。
【0052】
前後進操作レバー45の操作位置が前進位置であるときは、コントローラ46から電磁操作部48aに制御信号が与えられ、スプール67の位置が前進位置67aとなる。その状態では、冷却油は、絞り部69を通って後進クラッチ12に供給される。このため、後進クラッチ12に供給される冷却油の流量が制限される。
【0053】
前後進操作レバー45の操作位置が後進位置であるときは、コントローラ46から電磁操作部48bに制御信号が与えられ、スプール67の位置が後進位置67bとなる。その状態では、冷却油は、絞り部68,69を通らずに後進クラッチ12に供給される。このため、後進クラッチ12に供給される冷却油の流量が制限されることはない。
【0054】
以上のような油圧駆動装置1において、前後進操作レバー45の操作位置がニュートラル位置であるときは、前後進切換バルブ31のスプール47がニュートラル位置47c(図示の位置)にあるため、インチングペダル52の操作状態に関わらず、油圧ポンプ30から前進クラッチ11及び後進クラッチ12に作動油が供給されない。従って、前進クラッチ11及び後進クラッチ12は遮断状態であるため、エンジン3の回転が出力軸10に伝達されず、フォークリフト2は停止したままである。
【0055】
また、クーラ37により冷却された作動油(冷却油)が前進クラッチ11及び後進クラッチ12に供給されるため、前進クラッチ11及び後進クラッチ12が冷却される。このとき、流量制限バルブ66のスプール67がニュートラル位置67c(図示の位置)にあるため、冷却油は絞り部68を通って後進クラッチ12に供給される。従って、後進クラッチ12に供給される冷却油の流量が制限される。
【0056】
前後進操作レバー45を操作することで前後進操作レバー45の操作位置が前進位置になると、前後進切換バルブ31のスプール47の位置がニュートラル位置47cから前進位置47aに切り換わる。このとき、インチングペダル52が操作されていない状態では、インチングバルブ32のスプール50が全開位置50a(図示の位置)にあるため、油圧ポンプ30から前進クラッチ11に作動油が供給される。すると、前進クラッチ11が接続状態となるため、エンジン3の回転がトルクコンバータ5、入力軸6及び前進クラッチ11を介して出力軸10に伝達され、フォークリフト2が前進する。
【0057】
また、クーラ37により冷却された作動油(冷却油)が前進クラッチ11及び後進クラッチ12に供給されるため、前進クラッチ11及び後進クラッチ12が冷却される。このとき、流量制限バルブ66のスプール67がニュートラル位置67cから前進位置67aに切り換わるため、冷却油は絞り部69を通って後進クラッチ12に供給される。従って、後進クラッチ12に供給される冷却油の流量が制限される。
【0058】
前後進操作レバー45の操作位置が前進位置にある状態で、インチングペダル52が操作されると、インチングバルブ32のスプール50が全開位置50aから絞り位置50cに切り換わる。このため、油圧ポンプ30から吐出された作動油が可変絞り51を通って前進クラッチ11に供給される。従って、前進クラッチ11に供給される作動油が減圧され、前進クラッチ11が半クラッチ状態となる。
【0059】
前後進操作レバー45を操作することで前後進操作レバー45の操作位置が後進位置になると、前後進切換バルブ31のスプール47の位置がニュートラル位置47cから後進位置47bに切り換わる。このとき、インチングペダル52が操作されていない状態では、インチングバルブ32のスプール50が全開位置50a(図示の位置)にあるため、油圧ポンプ30から後進クラッチ12に作動油が供給される。すると、後進クラッチ12が接続状態となるため、エンジン3の回転がトルクコンバータ5、入力軸6及び後進クラッチ12を介して出力軸10に伝達され、フォークリフト2が後進する。
【0060】
また、クーラ37により冷却された作動油(冷却油)が前進クラッチ11及び後進クラッチ12に供給されるため、前進クラッチ11及び後進クラッチ12が冷却される。このとき、流量制限バルブ66のスプール67がニュートラル位置67cから後進位置67bに切り換わるため、冷却油は絞り部68,69を通らずに後進クラッチ12に供給される。従って、後進クラッチ12に供給される冷却油の流量が制限されることはない。これにより、後進クラッチ12が効果的に冷却される。
【0061】
前後進操作レバー45の操作位置が後進位置にある状態で、インチングペダル52が操作されると、インチングバルブ32のスプール50が全開位置50aから絞り位置50cに切り換わる。このため、油圧ポンプ30から吐出された作動油が可変絞り51を通って後進クラッチ12に供給される。従って、後進クラッチ12に供給される作動油が減圧され、後進クラッチ12が半クラッチ状態となる。
【0062】
ところで、フォークリフト2の荷付け時や坂道登坂時には、インチングペダル52の操作による前進クラッチ11の使用頻度が高く、前進クラッチ11が発熱のダメージを受けやすいため、前進クラッチ11に多くの流量の冷却油を供給する必要がある。しかし、後進クラッチ12は、前進クラッチ11に比べて、インチングペダル52の操作による使用頻度が低い。このため、前進クラッチ11に対して相対的に後進クラッチ12の負荷は低い。
【0063】
前後進操作レバー45の操作位置が前進位置及びニュートラル位置であるときは、後進クラッチ12が非接続状態となる。このような状態において、後進クラッチ12に多くの流量の冷却油が供給されると、後進クラッチ12のクラッチプレート23と摩擦材24との間が冷却油で満たされる。このため、図3(a)に示されるように、クラッチプレート23と摩擦材24との相対運動により引き摺りトルクが発生し、エンジン3の消費エネルギーが増大する。
【0064】
このとき、エンジン3の回転数が高くなるほど、後進クラッチ12の引き摺りトルクが増大する。また、前後進操作レバー45の操作位置が前進位置にあるとき(図3中の実線P参照)は、前後進操作レバー45の操作位置がニュートラル位置にあるとき(図3中の1点鎖線Q参照)に比べて、後進クラッチ12の引き摺りトルクが大きい。なお、前後進操作レバー45の操作位置が後進位置にあるとき(図3中の破線R参照)は、後進クラッチ12の引き摺りトルクが小さい。
【0065】
そのような課題に対し、本実施形態では、流量制限バルブ66を備えることにより、前後進操作レバー45の操作位置が後進位置でないときは、前後進操作レバー45の操作位置が後進位置であるときに比べて、後進クラッチ12に供給される冷却油の流量が制限される。このため、前後進操作レバー45の操作位置が後進位置でないときは、後進クラッチ12に供給される冷却油の流量が少なくなる。これにより、図3(b)に示されるように、後進クラッチ12の引き摺りトルクが低減される。その結果、エンジン3の消費エネルギーが低減される。
【0066】
また、本実施形態では、流量制限バルブ66のスプール67は、前後進切換バルブ31のスプール47と一体化されている。このため、スプール67は、前後進操作レバー45の操作位置に応じてスプール47と連動して動作する。よって、前後進切換バルブ31のスプール47と冷却油が流れる油路とを変更すれば足り、専用のコントローラ及び専用のバルブが不要となる。従って、流量制限バルブ66を既存の油圧システムに安価に導入することができる。
【0067】
また、本実施形態では、流量制限バルブ66は、前後進操作レバー45の操作位置が前進位置及びニュートラル位置であるときは、前後進操作レバー45の操作位置が後進位置であるときに比べて、後進クラッチ12に供給される冷却油の流量を制限する。このため、前後進操作レバー45の操作位置が前進位置及びニュートラル位置であるときは、何れも後進クラッチ12に供給される冷却油の流量が少なくなる。従って、後進クラッチ12の引き摺りトルクがより低減される。
【0068】
また、本実施形態では、前後進操作レバー45の操作位置がニュートラル位置であるときに後進クラッチ12に供給される冷却油の流量を、前後進操作レバー45の操作位置が前進位置であるときに後進クラッチ12に供給される冷却油の流量よりも多くすることにより、前後進操作レバー45の操作位置が前進位置及び後進位置の一方から他方に切り換わるときに、前後進操作レバー45がニュートラル位置を通過しても、後進クラッチ12が急激に断続されることが防止される。従って、後進クラッチ12の断続時に生じるショックを低減することができる。
【0069】
また、本実施形態では、前後進操作レバー45の操作位置がニュートラル位置であるときに後進クラッチ12に供給される冷却油の流量を、前後進操作レバー45の操作位置が前進位置であるときに後進クラッチ12に供給される冷却油の流量と等しくすることにより、流量制限バルブ66の構造が簡素化されるため、低コスト化を図ることができる。
【0070】
なお、本発明は、上記実施形態には限定されない。例えば、流量制限バルブ66は、前後進操作レバー45の操作位置がニュートラル位置であるときに後進クラッチ12に供給される冷却油の流量が、前後進操作レバー45の操作位置が前進位置であるときに後進クラッチ12に供給される冷却油の流量よりも少なくなるように設定されていてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、流量制限バルブ66は、前後進切換バルブ31と一体化されているが、特にそのような形態には限られない。流量制限バルブ66は、前後進切換バルブ31とは別体のバルブとして構成されていてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、前後進操作レバー45の操作位置が前進位置及びニュートラル位置であるときは、前後進操作レバー45の操作位置が後進位置であるときに比べて、後進クラッチ12に供給される冷却油の流量が制限されているが、特にそのような形態には限られない。前後進操作レバー45の操作位置が前進位置であるときのみ、後進クラッチ12に供給される冷却油の流量を制限してもよいし、或いは前後進操作レバー45の操作位置がニュートラル位置であるときのみ、後進クラッチ12に供給される冷却油の流量を制限してもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、油圧駆動装置1は、フォークリフト2に搭載されているが、本発明は、フォークリフト2以外の産業車両にも適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
1…油圧駆動装置、2…フォークリフト(産業車両)、3…エンジン、4…回転軸、5…トルクコンバータ、6…入力軸、7…トランスミッション、10…出力軸、11…前進クラッチ、12…後進クラッチ、30…油圧ポンプ、31…前後進切換バルブ、32…インチングバルブ、37…クーラ、45…前後進操作レバー(前後進操作部)、47…スプール、52…インチングペダル(インチング操作部)、61…第1冷却油供給部、62…第2冷却油供給部、66…流量制限バルブ、67…スプール。
図1
図2
図3