(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
F02M 65/00 20060101AFI20240214BHJP
F02M 61/10 20060101ALI20240214BHJP
F02M 51/00 20060101ALI20240214BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
F02M65/00 306C
F02M61/10 G
F02M51/00 F
F02D41/34
(21)【出願番号】P 2020206914
(22)【出願日】2020-12-14
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 雅司
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-138851(JP,A)
【文献】特開2001-336906(JP,A)
【文献】特表2008-502848(JP,A)
【文献】特表2009-539075(JP,A)
【文献】特表2016-536618(JP,A)
【文献】特開2014-139426(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0195482(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 65/00
F02D 41/30~41/40
F02M 51/00~51/08
F02M 61/00~61/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴孔(16)と、
往復移動することにより前記噴孔を開閉する可動部(20、250、270)と、
前記可動部が着座することにより前記噴孔が閉じられ、前記可動部が離座することにより前記噴孔が開かれるシート部(18)と、
前記可動部を往復移動可能に収容する弁ハウジング(12)と、
前記弁ハウジングの外周に設置され、前記可動部と前記弁ハウジングとに
交流磁界を印加する磁界印加部(36、50、170)と、
前記磁界印加部が印加する
前記交流磁界により、前記弁ハウジングと前記可動部との間隔の大きさに応じた検出信号を出力する検出
コイル(60、180)と、
を備えるインジェクタ(10、70、80、90、120、130、140、150、160、190、200、210、220、240、260)と、
前記可動部が前記噴孔を閉じる前記インジェクタの閉弁時において、前記検出
コイルが出力する前記検出信号に基づいて前記可動部の往復移動方向の位置を検出する検出部(100、110)と、
を備え、
前記磁界印加部と前記検出コイルとは2組以上設置されており、
各組の前記磁界印加部は、それぞれ異なる周波数の前記交流磁界を前記可動部と前記弁ハウジングとに印加し、
前記検出部は、各組の前記検出コイルが出力する前記検出信号と、各組の前記磁界印加部が印加する前記交流磁界と同じ周波数の参照信号とによりロックイン検出を行う、
噴射制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の噴射制御装置であって、
2組の前記磁界印加部および前記検出
コイルは、前記弁ハウジングの外周におい
て前記往復移動方向の異なる位置に設置されている、
噴射制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の噴射制御装置であって、
2組の前記磁界印加部および前記検出
コイルは、前記弁ハウジングの外周において前記可動部を挟んで向き合う位置に設置されている、
噴射制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の噴射制御装置であって、
前記閉弁時における前記可動部の前記往復移動方向の位置が変化すると、2個の前記検出
コイルが出力する前記検出信号の大きさは、上昇と低下との逆方向に変化する、
噴射制御装置。
【請求項5】
噴孔(16)と、
往復移動することにより前記噴孔を開閉する可動部(20、250、270)と、
前記可動部が着座することにより前記噴孔が閉じられ、前記可動部が離座することにより前記噴孔が開かれるシート部(18)と、
前記可動部を往復移動可能に収容する弁ハウジング(12)と、
前記弁ハウジングの外周に設置され、前記可動部と前記弁ハウジングとに
交流磁界を印加する磁界印加部(36、50、170)と、
前記磁界印加部が印加する
前記交流磁界により、前記弁ハウジングと前記可動部との間隔の大きさに応じた検出信号を出力する検出
コイル(60、180)と、
を備えるインジェクタ(10、70、80、90、120、130、140、150、160、190、200、210、220、240、260)と、
前記可動部が前記噴孔を閉じる前記インジェクタの閉弁時において、前記検出
コイルが出力する前記検出信号に基づいて前記可動部の往復移動方向の位置を検出する検出部(100、110)と、
を備え、
前記磁界印加部は、前記可動部を往復移動方向に駆動する駆動コイル(36)により前記可動部と前記弁ハウジングとに前記交流磁界を印加し、
前記検出部は、前記検出コイルが出力する前記検出信号と、前記磁界印加部が印加する前記交流磁界と同じ周波数の参照信号とによりロックイン検出を行う、
噴射制御装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の噴射制御装置であって、
前記可動部は、前記噴孔を開閉するニードル(22、72、82、92、122、192、222、230、252、272)と、前記ニードルと一体に往復移動する可動コア(30)とを有し、
前記検出部は、前記閉弁時における前記可動部の前記往復移動方向の位置を検出することにより、前記ニードルと前記シート部との接触箇所が摩耗したと判断するように構成されている、
噴射制御装置。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか1項を引用する請求項6に記載の噴射制御装置であって、
前記磁界印加部は、前記可動部を前記往復移動方向に駆動する駆動コイルとは異なる磁界印加用の印加コイル(50、170)により、前記可動部と前記弁ハウジングとに
前記交流磁界を印加し、
前記ニードルは、前記弁ハウジングとの径方向の間隔が前記ニードルの軸方向の他の箇所と異なる位置指示部(24、78、88、94、128、194、236)を有する、
噴射制御装置。
【請求項8】
請求項
7に記載の噴射制御装置であって、
前記印加コイルと前記検出コイルとは前記弁ハウジングの外周に巻回されている、
噴射制御装置。
【請求項9】
請求項1から4のいずれか1項、あるいは請求項1から4のいずれか1項を引用する請求項6、あるいは請求項7、あるいは請求項8に記載の噴射制御装置であって、
前記磁界印加部と前記検出
コイルとは、前記弁ハウジングの外周において同軸上に設置されている、
噴射制御装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の噴射制御装置であって、
前記検出部は、さらに、前記インジェクタの燃料噴射を制御するように構成されており、
前記検出部は、前記閉弁時における前記可動部の前記往復移動方向の位置が変化すると、前記インジェクタに対する噴射制御処理を調整するように構成されている、
噴射制御装置。
【請求項11】
請求項10に記載の噴射制御装置であって、
前記検出部は、前記閉弁時における前記可動部の前記往復移動方向の位置が変化すると、前記インジェクタの噴射開始タイミングを調整するように構成されている、
噴射制御装置。
【請求項12】
請求項10または11に記載の噴射制御装置であって、
前記検出部は、前記閉弁時における前記可動部の前記往復移動方向の位置が変化すると、前記インジェクタの噴射期間を調整するように構成されている、
噴射制御装置。
【請求項13】
請求項10から12のいずれか1項に記載の噴射制御装置であって、
前記検出部は、前記閉弁時における前記可動部の前記往復移動方向の位置が変化すると、前記インジェクタに供給される燃料の圧力を調整するように構成されている、
噴射制御装置。
【請求項14】
請求項1から9のいずれか1項に記載の噴射制御装置であって、
前記検出部は、前記閉弁時における前記可動部の前記往復移動方向の位置が変化すると、前記インジェクタの交換を報知するように構成されている、
噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、往復移動することによりインジェクタの噴孔を開閉する可動部の閉弁時における位置を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
往復移動することによりインジェクタの噴孔を開閉する可動部の閉弁時における位置を検出する技術が知られている。例えば、下記特許文献1には、インジェクタの弁ハウジングに収容されている可動部としての弁部材が、往復移動することにより上方ストッパと下方ストッパとにそれぞれ到達したことを、センサ素子により検出する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インジェクタの可動部は、下方ストッパであるシート部に着座することにより噴孔を閉じ、シート部から離座することにより噴孔を開く。しかし、可動部がシート部に着座することが繰り返されると可動部とシート部との接触箇所が摩耗し、閉弁時における可動部の往復移動方向の位置が変化する。
【0005】
閉弁時における可動部の往復移動方向の位置が変化すると、インジェクタの可動部を駆動して燃料噴射を制御する駆動信号に対して、インジェクタが異なるタイミングで異なる噴射量の燃料を噴射する恐れがある。その結果、インジェクタの燃料噴射を高精度に制御できなくなる。
【0006】
また、可動部とシート部との接触箇所の摩耗により閉弁時における可動部の往復移動方向の位置が変化するということは、可動部とシート部との接触箇所が変形している可能性がある。この場合、閉弁時における可動部とシート部との接触箇所の密封性を保持できないことがある。
そこで、閉弁時における可動部の位置の変化を検出し、インジェクタの交換または燃料噴射制御の調整等、適切な処置を実行することが要求される。
【0007】
しかしながら、発明者の詳細な検討の結果、特許文献1に記載の技術では、可動部が下方ストッパに到達する閉弁時のタイミングを検出することはできるが、閉弁時における可動部の往復移動方向の位置を検出することができないという課題が見出された。
【0008】
本開示の一つの局面は、閉弁時におけるインジェクタの可動部の往復移動方向の位置を検出する技術を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一つの態様による噴射制御装置は、インジェクタ(10、70、80、90、120、130、140、150、160、190、200、210、220、240、260)と、検出部(100、110)と、を備える。
【0010】
インジェクタは、噴孔(16)と、可動部(20、250、270)と、シート部(18)と、弁ハウジング(12)と、磁界印加部(36、50、170)と、検出センサ(60、180)と、を備える。
【0011】
可動部は、往復移動することにより噴孔を開閉する。シート部は、可動部が着座することにより噴孔が閉じられ、可動部が離座することにより噴孔が開かれる。弁ハウジングは、可動部を往復移動可能に収容する。磁界印加部は、弁ハウジングの外周に設置され、可動部と弁ハウジングとに磁界を印加する。検出センサは、磁界印加部が印加する磁界により、弁ハウジングと可動部との間隔の大きさに応じた検出信号を出力する。
【0012】
検出部は、可動部が噴孔を閉じるインジェクタの閉弁時において、検出センサが出力する検出信号に基づいて可動部の往復移動方向の位置を検出する。
このような構成によれば、可動部がシート部に着座することにより可動部とシート部との接触箇所が摩耗して閉弁時における可動部の往復移動方向の位置が変化しても、検出センサが出力する検出信号に基づいて可動部の位置を検出することができる。これにより、閉弁時における可動部の往復移動方向の位置に基づいて、適切な処理を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】ニードルの形状と検出電圧との関係を示す説明図。
【
図3】インジェクタのニードルの位置変化を示す模式図。
【
図4】位置検出処理の実行タイミングを示すタイムチャート。
【
図10】第7実施形態のインジェクタを示す模式図。
【
図11】第8実施形態のインジェクタを示す模式図。
【
図12】第9実施形態のインジェクタを示す模式図。
【
図13】第10実施形態のインジェクタを示す模式図。
【
図14】第11実施形態のインジェクタを示す模式図。
【
図15】第12実施形態のインジェクタを示す模式図。
【
図16】第13実施形態のインジェクタを示す模式図。
【
図17】第14実施形態のインジェクタを示す模式図。
【
図18】第15実施形態の噴射制御装置を示す構成図。
【
図19】第16実施形態の噴射制御装置を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示す噴射制御装置2は、インジェクタ10と、検出回路100と、マイコン110と、を備える。マイコンは、マイクロコンピュータの略である。
【0015】
インジェクタ10は、弁ハウジング12と、噴孔16と、シート部18と、可動部20と、スプリング32と、固定コア34と、駆動コイル36と、コネクタ40と、印加コイル50と、検出コイル60と、を備える。インジェクタ10は、例えば、水素等の気体燃料を噴射する。
【0016】
弁ハウジング12は、可動部20とスプリング32と固定コア34とを収容している。弁ハウジング12の筒部14は、可動部20のニードル22を往復移動自在に支持する。筒部14の先端には、噴孔16が形成されている。筒部14の噴孔16の周囲の内周面には、ニードル22が着座するシート部18が形成されている。
【0017】
可動部20は、ニードル22と可動コア30とを備える。ニードル22と可動コア30とは、一体に構成されていてもよいし、別体に構成されていてもよい。
図1に示す可動部20では、ニードル22と可動コア30とは一体に構成されており、ニードル22と可動コア30とは一体に往復移動する。
【0018】
ニードル22がシート部18に着座すると噴孔16が閉じられ、噴孔16からの燃料噴射が遮断される。ニードル22がシート部18から離座すると噴孔16が開かれ、噴孔16から燃料が噴射される。ニードル22の軸方向の途中には、径方向内側に凹んだ断面四角形状のスリット24がニードル22の外周面の全周に形成されている。
【0019】
この構成により、スリット24の底部と筒部14の内周面との間の間隔、つまり磁気ギャップは、ニードル22のスリット24以外の外周面と筒部14の内周面との間の磁気ギャップよりも大きくなっている。その結果、ニードル22のスリット24が形成されている箇所と筒部14との透磁率は、ニードル22のスリット24が形成されていない箇所と筒部14との透磁率よりも小さくなっている。
【0020】
スプリング32は、ニードル22のシート部18と反対側に設置され、シート部18に向けてニードル22に荷重を加える。
固定コア34は、可動コア30に対してシート部18と反対側に設置されており、可動コア30との間に磁気ギャップを形成している。
【0021】
駆動コイル36は、コネクタ40から可動部20を往復方向に駆動する駆動信号を供給されると磁束を発生する。駆動コイル36が発生する磁束は、可動コア30と固定コア34との間を流れ、可動コア30と固定コア34との間に磁気吸引力を発生する。
【0022】
可動コア30と固定コア34との間に磁気吸引力が発生し、スプリング32の荷重に抗して可動コア30が固定コア34側に吸引されると、ニードル22はシート部18から離座する。ニードル22がシート部18から離座すると、噴孔16から燃料が噴射される。
【0023】
ニードル22がシート部18から離座している状態で駆動コイル36への通電が遮断されると、スプリング32から加わる荷重により、ニードル22はシート部18に向かって移動する。そして、ニードル22がシート部18に着座すると、噴孔16からの燃料噴射が遮断される。
【0024】
印加コイル50と検出コイル60とは、印加コイル50が検出コイル60の外周側になるように筒部14の外周に同軸上に設置されている。
検出回路100は、信号生成部102と、増幅器104と、ミキサー106と、LPF108と、を備えている。LPFは、Low Pass Filterの略である。信号生成部102と増幅器104とミキサー106とLPF108とにより、ロックイン検出が行われる。
【0025】
信号生成部102は、印加コイル50に低周波の印加電圧を印加する。印加コイル50に印加される印加電圧は、参照信号として同じ周波数でミキサー106にも印加される。信号生成部102から印加コイル50に低周波の印加電圧が印加されると、印加コイル50が発生する磁束が筒部14とニードル22との間を流れる。そして、筒部14とニードル22とに、印加コイル50に印加される印加電圧と同じ周波数の交流磁界が印加される。
【0026】
印加コイル50が発生する磁束が筒部14とニードル22との間を流れると、検出コイル60が設置されている位置のニードル22と筒部14との間の磁気ギャップの大きさに応じて、検出コイル60に印加電圧と同じ周波数の誘導起電力が発生する。ニードル22と筒部14との間の磁気ギャップが大きい場合よりも磁気ギャップが小さい方が、検出コイル60に発生する誘導起電力の大きさは大きい。
【0027】
検出コイル60は、ニードル22と筒部14との間の磁気ギャップの大きさに応じて発生する誘導起電力を、検出信号として増幅器104に出力する。増幅器104は、検出コイル60から出力される誘導起電力を増幅してミキサー106に出力する。
【0028】
ミキサー106は、信号生成部102から印加コイル50に印加される印加電圧と、検出コイル60に発生する誘導起電力とを乗算して、LPF108に出力する。
LPF108は、ミキサー106の出力から交流成分を除去し、直流成分を検出電圧として出力する。
【0029】
マイコン110は、検出回路100から出力される検出電圧に基づいて、閉弁時におけるニードル22の往復移動方向の位置を検出する。
[1-2.処理]
図2に示すように、スリット24が形成されている箇所と、スリット24が形成されていない箇所とで、ニードル22の半径は異なっている。その結果、ニードル22と筒部14との間の磁気ギャップの大きさに応じて、ニードル22と筒部14との間の透磁率は変化する。
【0030】
印加コイル50に印加電圧が印加されると、透磁率の変化、つまり磁界の強さの勾配に応じて検出コイル60に発生する誘導起電力により、検出回路100から検出電圧が出力される。
【0031】
ニードル22のスリット24が形成されている箇所と筒部14との間の透磁率は、ニードル22のスリット24が形成されていない箇所と筒部14との間の透磁率よりも小さい。したがって、ニードル22のスリット24が形成されている箇所と筒部14との間で検出される検出電圧は、ニードル22のスリット24が形成されていない箇所と筒部14との間で検出される検出電圧よりも低い。
【0032】
ニードル22がシート部18に繰り返し着座すると、ニードル22とシート部18との接触箇所が摩耗する。その結果、インジェクタ10の閉弁時において、ニードル22の往復移動方向の位置は、
図3の左から右に示す変化のように、シート部18側に移動する。
【0033】
閉弁時におけるニードル22の往復移動方向の位置が変化すると、駆動コイル36に供給されて燃料噴射を制御する駆動信号に対して、インジェクタ10が異なるタイミングで異なる噴射量の燃料を噴射する恐れがある。この場合、インジェクタ10の噴射量を高精度に制御できない。
【0034】
また、ニードル22とシート部18との接触箇所の摩耗により、インジェクタ10の閉弁時においてニードル22の往復移動方向の位置が変化するということは、ニードル22とシート部18との接触箇所が変形している可能性がある。この場合、閉弁時におけるニードル22とシート部18との接触箇所の密封性を保持できないことがある。
【0035】
ここで、閉弁時におけるニードル22の往復移動方向の位置が変化し、検出コイル60が設置されている位置にスリット24が近づくか離れると、検出コイル60が設置されている位置において、ニードル22と筒部14との間の透磁率が変化する。ニードル22と筒部14との間の透磁率が変化すると、検出電圧も変化する。
【0036】
検出電圧が低下するのは、閉弁時におけるスリット24の往復移動方向の位置が、検出コイル60と向き合う位置からシート部18に向けて離れていく場合である。検出電圧が上昇するのは、閉弁時におけるスリット24の往復移動方向の位置が、シート部18に向けて検出コイル60と向き合う位置に近づく場合である。
【0037】
マイコン110は、閉弁時において、ニードル22とシート部18との接触箇所が摩耗する前のスリット24の検出コイル60に対する往復移動方向における初期位置を記憶している。そして、マイコン110は、スリット24が初期位置にいるときの検出電圧の値を記憶している。
【0038】
マイコン110は、検出電圧が低下または上昇する変化を検出することで、ニードル22とシート部18との接触箇所の摩耗により、閉弁時におけるスリット24の位置、つまり閉弁時のニードル22の位置が初期位置から所定量変化したことを検出できる。
【0039】
そこで、印加コイル50に低周波の印加電圧を印加し、検出信号として検出コイル60に発生する誘導起電力から検出電圧を検出することにより、閉弁時におけるニードル22の往復移動方向の位置の変化量を検出できる。
【0040】
尚、
図4に示すように、マイコン110は、インジェクタ10に噴射を指令していない期間で、印加コイル50に低周波の印加電圧を印加し、閉弁時におけるニードル22の往復移動方向の位置の変化量を検出する位置検出処理を実行する。
【0041】
例えば、位置検出処理は、エンジンが始動されてから停止されるまでの間に1回または複数回実行される。
図4では、位置検出処理は噴射期間と噴射期間との間で実行される。これ以外にも、エンジンを始動する前のインジェクタ10から最初に燃料が噴射される前に、あるいは、エンジンを停止するときにインジェクタ10から最後に燃料が噴射された後に位置検出処理が実行されてもよい。
【0042】
インジェクタ10を構成する部材の熱膨張や燃料の粘性等を考慮し、エンジンの温度に応じて位置検出処理が実行されてもよい。また、エンジンが始動されてから停止されるまでの間に位置検出処理が複数回実行される場合は、例えば、閉弁時におけるニードル22の位置の変化量の平均が算出される。
【0043】
マイコン110は、閉弁時におけるニードル22の往復移動方向の位置の変化量が所定量以上変化すると、インジェクタ10を交換するように報知する。
そして、マイコン110は、インジェクタ10の交換を報知するまでは、ニードル22の往復移動方向の位置の変化量に応じて、噴射制御処理を調整する。
【0044】
具体的には、噴射制御処理として、以下の(a1)~(a3)に記載されるように、噴射パラメータを調整する。
(a1)インジェクタ10に指令する噴射開始タイミングを早める。
(a2)パーシャルリフトではインジェクタ10に指令する噴射期間を長くし、フルリフトではインジェクタ10に指令する噴射期間を短くする。
(a3)インジェクタ10に供給する燃料圧力を高める。
【0045】
前述した第1実施形態では、スリット24が位置指示部に対応し、印加コイル50が磁界印加部に対応し、検出コイル60が検出センサに対応し、検出回路100とマイコン110とが検出部に対応する。
【0046】
[1-3.効果]
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1a)閉弁時におけるニードルの往復移動方向の位置の変化量を検出できない噴射制御装置では、ニードルの往復移動方向の位置の変化量がインジェクタによりばらつくことが考慮され、早めに交換することを報知される。その結果、交換する必要のないインジェクタが交換されることがある。
【0047】
これに対し、前述した第1実施形態では、閉弁時におけるニードル22の往復移動方向の位置の変化量を高精度に検出できる。したがって、閉弁時におけるニードル22の往復移動方向の位置の変化量が、ニードル22とシート部18との接触箇所の変形により閉弁時の密封性を保持できないと判断される適切なタイミングで、インジェクタ10の交換を報知できる。
【0048】
交換を報知するタイミングは、ユーザがディーラー等でインジェクタ10を交換してもらうまでに要する時間を考慮し、インジェクタ10の閉弁時の密封性を保持できないと判断されるよりも早いタイミングに設定される。
【0049】
(1b)ニードル22とシート部18との接触箇所の摩耗によるインジェクタの交換タイミングを遅らせるために、接触箇所の表面加工を施すか、あるいはニードル22とシート部18とを高硬度な材質で形成することが考えられる。この場合、インジェクタ10の製造コストが上昇する。
【0050】
これに対し、前述した第1実施形態では、ニードル22とシート部18との接触箇所に表面加工に施さないか、あるいはニードル22とシート部18とを高硬度な材質で形成しなくても、適切なタイミングで、インジェクタ10の交換を報知できる。したがって、インジェクタ10を安価に製造できる。
【0051】
(1c)閉弁時におけるニードル22の往復移動方向の位置の変化量を高精度に検出できる。これにより、閉弁時の密封性を保持できないためにインジェクタ10を交換するまでは、ニードル22の往復移動方向の位置の変化量に基づいて、インジェクタ10の噴射を高精度に制御できる。
【0052】
[2.第2実施形態~第10実施形態]
第1実施形態のニードル22と形状が異なるか、第1実施形態の筒部14と形状が異なる第2実施形態~第6実施形態を
図5~
図9に示す。さらに、第1実施形態の印加コイル50および検出コイル60と設置位置が異なるか、あるいは印加コイル50および検出コイル60と設置位置が異なり、かつニードルの形状が異なる第7実施形態~第10実施形態を
図10~
図13に示す。
【0053】
第2実施形態~第10実施形態において、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
第2実施形態~第10実施形態では、前述した第1実施形態の効果(1a)~(1c)と同様の効果を得ることができる。
【0054】
(第2実施形態)
図5に示す第2実施形態のインジェクタ70のニードル72は、大径部74と小径部76とを備えている。マイコン110は、大径部74と小径部76との境界である段差78の初期位置を記憶している。そして、マイコン110は、段差78の形状に対応する検出電圧の変化を検出すると、閉弁時におけるニードル72の往復移動方向の位置が所定量移動したと判断する。
【0055】
第2実施形態では、段差78が位置指示部に対応する。
(第3実施形態)
図6に第3実施形態の示すインジェクタ80のニードル82は、大径部84と小径部86とを備えている。大径部84から小径部86に向けて徐々に縮径するテーパ部88が形成されている。マイコン110は、テーパ部88の初期位置を記憶している。
【0056】
第3実施形態では、テーパ部88が位置指示部に対応する。
(効果)
さらに、第3実施形態では、以下の効果を得ることができる。
【0057】
検出電圧の変化はテーパ部88におけるニードル82の径の変化に対応しているので、マイコン110は、検出電圧の変化により、ニードル82の位置が変化したことを高精度に検出できる。
【0058】
(第4実施形態)
図7に示す第4実施形態のインジェクタ90のニードル92は、検出コイル60と径方向に向き合う位置に、断面V字状に凹むスリット94を備えている。マイコン110は、スリット94の初期位置を記憶している。
【0059】
閉弁時におけるニードル92の往復移動方向の位置の変化により検出コイル60と向き合うスリット94の位置が変化すると、マイコン110が検出する検出電圧に、低下してから上昇するピークが生じる。マイコン110は、低下してから上昇するピークを検出電圧から検出すると、閉弁時におけるニードル92の往復移動方向の位置が所定量移動したと判断する。
【0060】
第4実施形態では、スリット94が位置指示部に対応する。
(効果)
さらに、第4実施形態では、以下の効果を得ることができる。
【0061】
低下してから上昇するピークを検出電圧から検出することにより、閉弁時におけるニードル92の往復移動方向の位置の変化量を高精度に検出できる。
(第5実施形態)
図8に示す第5実施形態のインジェクタ120のニードル122は、大径部124と小径部126とを備えている。検出コイル60と径方向に向き合う位置の小径部126には、断面V字状の突部128が形成されている。マイコン110は、突部128の初期位置を記憶している。
【0062】
閉弁時におけるニードル122の往復移動方向の位置の変化により検出コイル60と向き合う突部128の位置が変化すると、マイコン110が検出する検出電圧に、電圧が上昇してから低下するピークが生じる。マイコン110は、電圧が上昇してから低下するピークを検出電圧から検出すると、閉弁時におけるニードル122の往復移動方向の位置が所定量移動したと判断する。
【0063】
第5実施形態では、突部128が位置指示部に対応する。
(効果)
さらに、第5実施形態では、以下の効果を得ることができる。
【0064】
上昇してから低下するピークを検出電圧から検出することにより、閉弁時におけるニードル92の往復移動方向の位置の変化量を高精度に検出できる。
(第6実施形態)
図9に示す第6実施形態のインジェクタ130のニードル122は、
図8に示す第5実施形態のニードル122と実質的に同一である。マイコン110は、ニードル122の突部128の初期位置を記憶している。
【0065】
インジェクタ130の筒部132は、外筒134と内筒136と突部138とを備えている。突部138は、外筒134の内周側において、検出コイル60と径方向に向き合う側に突出して断面V字状に形成されている。内筒136は、突部138を挟んで外筒134の内周側に設置されている。
【0066】
閉弁時におけるニードル122の往復移動方向の位置の変化により検出コイル60と向き合う突部128の位置が変化すると、マイコン110が検出する検出電圧に、電圧が上昇してから下降するピークが生じる。マイコン110は、上昇してから低下するピークを検出電圧から検出すると、閉弁時におけるニードル122の往復移動方向の位置が所定量移動したと判断する。
【0067】
(効果)
第6実施形態では、第5実施形態と同様の効果を得ることができる。
(第7実施形態)
図10に示す第7実施形態のインジェクタ140では、筒部14の径方向の一方側の外周に印加コイル50が設置され、径方向の他方側の外周に検出コイル60が設置されている。
【0068】
(第8実施形態)
図11に示す第8実施形態のインジェクタ150では、筒部14の外周において、ニードル22の往復移動方向の異なる位置に、印加コイル50と検出コイル60とが並べて設置されている。
【0069】
(第9実施形態)
図12に示す第9実施形態のインジェクタ160では、印加コイル170と検出コイル180とが筒部14の外周に巻回されている。
【0070】
第9実施形態では、印加コイル170が磁界印加部に対応し、検出コイル180が検出センサに対応する。
(第10実施形態)
図13に示す第10実施形態のインジェクタ190では、前述した第7実施形態と同様に、筒部14の径方向の一方側の外周に印加コイル50が設置され、径方向の他方側の外周に検出コイル60が設置されている。そして、印加コイル50および検出コイル60と向き合う位置に、ニードル192を径方向に貫通して貫通孔194が形成されている。
【0071】
ニードル22の往復移動方向において、筒部14が径方向で貫通孔194と向き合う位置の透磁率は、筒部14が貫通孔194以外のニードル192と向き合う位置の透磁率よりも低い。マイコン110は、閉弁時において、検出コイル60と向き合う位置に貫通孔194が移動し、検出電圧が低下すると、閉弁時において、ニードル192の往復移動方向の位置が所定量変化したと判断する。
【0072】
第10実施形態では、貫通孔194が位置指示部に対応する。
[3.第11実施形態]
[3-1.第1実施形態との相違点]
第11実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0073】
前述した第1実施形態では、ニードル22に対し筒部14の径方向の一方側の外周に印加コイル50と検出コイル60とが設置されている。これに対し、
図14に示す第11実施形態のインジェクタ200では、筒部14の外周において、2組の印加コイル50と検出コイル60とがニードル22を挟んで径方向両側のニードル22と向き合う位置に設置される点で、第1実施形態と相違する。
【0074】
2組の印加コイル50と検出コイル60とは、筒部14の外周において、ニードル22を挟んで、筒部14の径方向両側かつニードル22の往復移動方向の同じ位置に設置されている。
【0075】
2個の検出回路100はそれぞれ、各組の印加コイル50に異なる周波数の印加電圧を印加する。したがって、印加コイル50は、筒部14とニードル22とに周波数の異なる交流磁界を印加する。2個の検出回路100はそれぞれ、2個の検出コイル60がそれぞれ出力する検出信号と、各組の印加コイル50に印加する印加電圧と同じ周波数の参照信号とにより、ロックイン検出を行う。
【0076】
図14に示すように、筒部14内のニードル22の径方向の位置がずれると、筒部14の径方向の一方側と他方側とで、筒部14の内周面とニードル22の外周面との間隔が異なる。その結果、ニードル22に対し筒部14の径方向両側の一方に設置された検出コイル60が出力する検出信号から検出される検出電圧が増加する。これに対し、筒部14の径方向両側の他方に設置された検出コイル60が出力する検出信号から検出される検出電圧が低下する。
【0077】
ニードル22の径方向の位置が径方向にずれず、閉弁時におけるニードル22の往復移動方向の位置が変化すると、径方向両側の検出コイル60が出力する検出信号から検出される検出電圧は、同じように増加または低下する。
【0078】
[3-2.効果]
以上説明した第11実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1a)~(1c)に加え、さらに以下の効果を得ることができる。
【0079】
(3a)径方向の両側に設置された検出コイル60が出力する誘導起電力から検出される検出電圧の一方が増加し、他方が低下すると、閉弁時におけるニードル22の往復移動方向の位置が変化したのではなく、ニードル22の径方向の位置が変化したと判断できる。これにより、ニードル22の径方向の位置がずれたことを、閉弁時におけるニードル22の往復移動方向の位置が変化したと誤検出することを抑制できる。
【0080】
[4.第12実施形態]
[4-1.第11実施形態との相違点]
第12実施形態は、基本的な構成は第11実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第11実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0081】
前述した第11実施形態のインジェクタ200では、筒部14の外周において、スリット24に対し、径方向両側でかつニードル22の往復移動方向の同じ位置に2組の印加コイル50と検出コイル60とが設置されている。
【0082】
これに対し、
図15に示す第12実施形態のインジェクタ210では、筒部14の外周において、スリット24に対し、径方向両側でかつニードル22の往復移動方向の異なる位置に2組の印加コイル50と検出コイル60とが設置されている。この点で、第12実施形態は第11実施形態と相違する。
【0083】
スリット24の小径側から大径側の段差を検出する検出コイル60では、検出電圧が増加する前半の検出感度が高い。これに対し、スリット24の大径側から小径側の段差を検出する検出コイル60では、検出電圧が低下する後半の検出感度が高い。
【0084】
マイコン110は、2個の検出コイル60のそれぞれについて、検出感度が高い検出電圧の部分を結合して、ニードル22の往復移動方向の位置を検出する。
[4-2.効果]
以上説明した第12実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1a)~(1c)に加え、さらに以下の効果を得ることができる。
【0085】
(4a)2個の検出コイル60から検出される検出電圧について、検出感度が高い部分を結合することにより、閉弁時におけるニードル22の往復移動方向の位置の変化量を高精度に検出できる。
【0086】
[5.第13実施形態]
[5-1.第1実施形態との相違点]
第13実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0087】
前述した第1実施形態では、ニードル22の軸方向の1箇所にスリット24が形成され、スリット24と径方向に向き合う位置に印加コイル50と検出コイル60とが設置されている。
【0088】
これに対し、
図16に示す第13実施形態のインジェクタ220では、ニードル222の軸方向の異なる2箇所にスリット24が形成されている。さらに、それぞれのスリット24と径方向に向き合う位置、つまりニードル222の往復移動方向の異なる位置に2組の印加コイル50と検出コイル60とが設置されている点で、第1実施形態と相違する。
【0089】
第13実施形態では、2個の検出回路100はそれぞれ、各組の印加コイル50に異なる周波数の印加電圧を印加する。したがって、印加コイル50は、筒部14とニードル222とに周波数の異なる交流磁界を印加する。2個の検出回路100はそれぞれ、2個の検出コイル60がそれぞれ出力する検出信号と、各組の印加コイル50に印加する印加電圧と同じ周波数の参照信号とにより、ロックイン検出を行う。
【0090】
第13実施形態のインジェクタ220は、例えば筒内直噴のインジェクタである。筒内直噴のインジェクタ220では、燃料の燃焼による熱によりニードル222が膨張する。その結果、ニードル222の燃焼室に近いスリット24よりも燃焼室から遠いスリット24の方が、ニードル222の往復移動方向の位置の変化量は大きくなる。
【0091】
マイコン110は、ニードル222の軸方向に離れた2箇所に形成されたスリット24の往復移動方向の位置の変化量の差に基づいて、2箇所に形成されたスリット24のそれぞれについて、ニードル222の往復移動方向の膨張量を検出する。
【0092】
そして、マイコン110は、ニードル222の軸方向の2箇所に形成されたスリット24の往復移動方向の位置の変化量から往復移動方向の膨張量を除いて、閉弁時におけるニードル222の往復移動方向の位置の実際の変化量を検出する。
【0093】
[5-2.効果]
以上説明した第13実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1a)~(1c)に加え、さらに以下の効果を得ることができる。
【0094】
(5a)軸方向に離れた2箇所にスリット24が形成されるので、熱によるニードル222の膨張を考慮して、閉弁時におけるニードル222の往復移動方向の位置の実際の変化量を検出できる。
【0095】
[6.第14実施形態]
[6-1.第1実施形態との相違点]
第14実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0096】
前述した第1実施形態では、ニードル22の軸方向の1箇所に形成されたスリット24と径方向に向き合う位置に印加コイル50と検出コイル60とが設置されている。
これに対し、
図17に示すように、第14実施形態では、ニードル230は大径部232と大径部232との間に小径部234を形成している。そして、大径部232と小径部234との境界に形成された2箇所の段差236と径方向に向き合い、ニードル230の往復移動方向の離れた位置のそれぞれに、1組の印加コイル50と検出コイル60とが設置されている点で、第1実施形態と相違する。
【0097】
つまり、第14実施形態では、ニードル230の往復移動方向の離れた位置に、2組の印加コイル50と検出コイル60とが設置されている。
小径部234のニードル230の軸方向の長さは、2箇所の段差236のそれぞれに1組の印加コイル50と検出コイル60とが設置できるように、第1実施形態のスリット24の軸方向の長さよりも長くなっている。
【0098】
2組の印加コイル50と検出コイル60とは、2箇所の段差236に対して、マイコン110が2個の検出コイル60の検出信号から段差236に対応する検出電圧の変化を同じタイミングで検出できるように設置されている。
【0099】
具体的には、一方の検出コイル60から検出される検出電圧が上昇し、他方の検出コイル60から検出される検出電圧が低下すると、マイコン110は、閉弁時におけるニードル230の往復移動方向の位置が所定量移動したと判断する。
【0100】
つまり、マイコン110は、2個の検出コイル60から検出される検出電圧の大きさが、上昇と低下との逆方向に変化すると、閉弁時におけるニードル230の往復移動方向の位置が所定量移動したと判断する。
【0101】
ところで、2箇所に設置された一方の検出コイル60から段差236に対応する検出電圧の変化が検出され、他方の検出コイル60から段差236に対応する検出電圧の変化が検出されないことがある。
【0102】
この場合、検出コイル60の検出電圧のいずれかにノイズ等が混入していると考えられるので、マイコン110は、閉弁時におけるニードル230の往復移動方向の位置が所定量移動したと判断しない。
【0103】
[6-2.効果]
以上説明した第14実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1a)~(1c)に加え、さらに以下の効果を得ることができる。
【0104】
(6a)ニードル230の往復移動方向に離れた2箇所に設置された検出コイル60の両方から段差236に対応する検出電圧の変化が検出されない場合、閉弁時におけるニードル230の往復移動方向の位置が所定量移動したと誤判定することを抑制できる。
【0105】
[7.第15実施形態]
[7-1.第1実施形態との相違点]
第15実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0106】
前述した第1実施形態では、閉弁時におけるニードル22の往復移動方向の位置の変化量を検出するために、筒部14とニードル22とに磁界を印加する磁界印加用の印加コイル50を筒部14の外周に設置した。
【0107】
これに対し、
図18に示す第15実施形態の噴射制御装置4のインジェクタ240では、駆動コイル36が可動コア30と弁ハウジング12の段差部12aとに磁界を印加する印加コイルを兼ねている点で、第1実施形態と相違する。
【0108】
検出コイル180は、段差部12aに近い筒部14の外周に巻回されている。閉弁時における可動部250のニードル252の往復移動方向の位置がシート部18側に移動すると、閉弁時の可動コア30と段差部12aとの間隔が小さくなる。その結果、閉弁時の可動コア30と段差部12aとの間の透磁率が大きくなるので、検出コイル180の検出信号から検出される検出電圧が上昇する。
【0109】
マイコン110は、検出電圧が所定圧以上上昇すると、閉弁時におけるニードル230の往復移動方向の位置が所定量移動したと判断する。
[7-2.効果]
以上説明した第15実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1a)~(1c)に加え、さらに以下の効果を得ることができる。
【0110】
(7a)駆動コイル36が印加コイルを兼ねているので、噴射制御装置4の部品点数を低減できる。
[8.第16実施形態]
[8-1.第1実施形態との相違点]
第16実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0111】
前述した第1実施形態では、ニードル22の軸方向の1箇所にスリット24が形成され、スリット24と径方向に向き合う位置に印加コイル50と検出コイル60とが設置されている。
【0112】
これに対し、
図19に示す第16実施形態の噴射制御装置6のインジェクタ260では、可動部270のニードル272に対し、軸方向の異なる2箇所にスリット24が形成されている点で、第1実施形態と異なる。
【0113】
さらに、第16実施形態では、筒部14の外周において、ニードル272の軸方向の2箇所に形成された一方のスリット24に対し、径方向両側でかつニードル272の往復移動方向の同じ位置に印加コイル50と検出コイル60とが設置されている。この点で第16実施形態は第1実施形態と相違する。
【0114】
さらに、第16実施形態では、筒部14の外周において、ニードル272の軸方向の2箇所に形成された他方のスリット24に対し、径方向両側でかつニードル272の往復移動方向の異なる位置に印加コイル50と検出コイル60とが設置されている。この点で第16実施形態は第1実施形態と相違する。
【0115】
第16実施形態のインジェクタ260では、印加コイル50と検出コイル60とを1組として、2組以上の4組の印加コイル50と検出コイル60とが設置されている。そして、第16実施形態のインジェクタ260では、前述した第11実施形態~第13実施形態の構成を合わせた構成が採用されている。
【0116】
[8-2.効果]
以上説明した第16実施形態によれば、前述した第11実施形態~第13実施形態の効果を合わせた効果を得ることができる。
【0117】
[9.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は前述した実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0118】
(9a)前述した実施形態では、気体燃料を噴射するインジェクタを例にして説明したが、これに限定されるものではない。例えば、液体燃料を噴射するインジェクタであってもよい。
【0119】
(9b)前述した実施形態では、磁気センサとして検出コイルを使用したが、これに限定されるものではない。例えば、ホール素子またはSQUIDセンサを磁気センサとして使用してもよい。SQUIDは、Superconducting Quantum Interference Deviceの略である。
【0120】
(9c)本開示に記載の噴射制御装置およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の噴射制御装置およびその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の噴射制御装置およびその手法は、一つまたは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。噴射制御装置に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0121】
(9d)前述した実施形態における一つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、一つの構成要素が有する一つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、一つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される一つの機能を、一つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、前述した実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、前述した実施形態の構成の少なくとも一部を、他の前述した実施形態の構成に対して付加または置換してもよい。
【0122】
(9e)前述した噴射制御装置の他、当該噴射制御装置を構成要素とするシステム、当該噴射制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実体的記録媒体、噴射制御方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0123】
2、4、6:噴射制御装置、10、70、80、90、120、130、140、150160、190、200、210、220、240、260:インジェクタ、12:弁ハウジング、16:噴孔、18:シート部、20、250、270:可動部、22、72、82、92、122、192、222、230、252、272:ニードル、30:可動コア、36:駆動コイル(磁界印加部)、50、170:印加コイル(磁界印加部)、60、180:検出コイル(検出センサ)、100:検出回路(検出部)、110:マイコン(検出部)