(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】電機子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/04 20060101AFI20240214BHJP
H02K 3/24 20060101ALI20240214BHJP
H02K 15/085 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H02K15/04 Z
H02K3/24 Z
H02K15/085
(21)【出願番号】P 2020207366
(22)【出願日】2020-12-15
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】榊原 孝頼
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-120470(JP,A)
【文献】特開2001-086679(JP,A)
【文献】特開2003-219588(JP,A)
【文献】特開2020-141449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/00- 15/16
H02K 3/00- 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心線の延びる方向に貫通する複数のスリットが設けられた鉄心と、
複数の前記スリットに挿入されるようにして前記鉄心に組み付けられた導体と、
を備えた電機子の製造方法であって、
複数の金属製のベース巻線部を前記スリットに挿入するようにして前記鉄心に組み付けることと、
前記スリットに挿入した状態の前記ベース巻線部同士の間と、前記スリットに挿入した状態の前記ベース巻線部と前記スリットの内面との間とのうち少なくとも一方にピンを挟んだ状態で前記ベース巻線部を加圧して塑性変形させることと、
前記ベース巻線部を塑性変形させた後に前記ピンを抜くことで、前記スリット内に流体が流通可能な流路を形成することと、
前記ベース巻線部同士を電気的に接続することによって前記導体を形成することと、
を備えることを特徴とする電機子の製造方法。
【請求項2】
前記ピンは、テーパーピンであることを特徴とする請求項1に記載の電機子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄心と当該鉄心に組み付けられた導体とを有する電機子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電機子として、例えば特許文献1に示すようなものが知られている。こうした電機子は、複数のスロット(スリット)が形成された鉄心と、当該スロット内に挿入された内部に冷却流路を有する巻線導体(ベース巻線部)とを備えている。この場合、巻線導体は、一方向に延びる溝を有した2つの部材の溝同士を合わせることによって形成され、合わせた2つの溝によって冷却流路が形成された構造になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような電機子は、一方向に延びる溝を有した2つの部材の溝同士を合わせることによって予め巻線導体を形成し、当該形成した巻線導体を鉄心のスロットに挿入した構造になっている。このため、巻線導体とスロットの内面との間に隙間が形成される上に、冷却流路を有した巻線導体の形成にも手間がかかる。したがって、上述のような電機子では、スロット内での巻線導体の占積率を高くできない上に、スロット内に冷却流路を形成することが困難になってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する電機子の製造方法は、中心線の延びる方向に貫通する複数のスリットが設けられた鉄心と、複数の前記スリットに挿入されるようにして前記鉄心に組み付けられた導体と、を備えた電機子の製造方法であって、複数の金属製のベース巻線部を前記スリットに挿入するようにして前記鉄心に組み付けることと、前記スリットに挿入した状態の前記ベース巻線部同士の間と、前記スリットに挿入した状態の前記ベース巻線部と前記スリットの内面との間とのうち少なくとも一方にピンを挟んだ状態で前記ベース巻線部を加圧して塑性変形させることと、前記ベース巻線部を塑性変形させた後に前記ピンを抜くことで、前記スリット内に流体が流通可能な流路を形成することと、前記ベース巻線部同士を電気的に接続することによって前記導体を形成することと、を備えることを要旨とする。
【0006】
この構成によれば、スリット内でベース巻線部を加圧してベース巻線部をスリットの内面及びピンの周面に押し付けて塑性変形させた後にピンを抜くだけでスリット内に流路が形成される。このため、スリットの内面とベース巻線部との間の隙間を低減しつつスリット内に流路を簡単に形成することができる。したがって、スリット内でのベース巻線部の占積率を向上しつつ、スリット内に流路を簡単に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図5】ベース巻線部をステータコアのスリットに組み付けるときの状態を示す斜視図。
【
図6】ステータコアのスリット内に組み付けられたベース巻線部同士の間にテーパーピンをそれぞれ挟んだときの状態を示す要部拡大断面模式図。
【
図7】
図6においてスリット内のベース巻線部をプレス部材によって加圧したときの状態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、電機子の一実施形態を図面に従って説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態における電機子の一例としてのステータ20は、三相電動機の固定子であり、略円筒状をなしている。ステータ20は、鉄心の一例としてのステータコア21と、導体の一例としてのステータコイル22とを備えている。ステータコア21は、円環状の金属板が複数枚(例えば数百枚)積層された積層構造をなしている。
【0009】
ステータコア21には、その中心線Lが延びる方向に貫通するスリット23が複数(本実施形態では48本)設けられている。各スリット23は、ステータコア21の内周面において開口するとともにステータコア21の径方向に延びている。つまり、各スリット23は、ステータコア21の中心線Lが延びる方向の両側とステータコア21の中心側が開口している。
【0010】
各スリット23は、ステータコア21の中心線Lが延びる方向から見てステータコア21の径方向に延びる矩形状をなしており、ステータコア21の周方向において等間隔で並ぶように配置されている。ステータコイル22は、ステータコア21の複数のスリット23に挿入されるようにしてステータコア21に巻回された状態で組み付けられている。ステータコア21には、U相コイル、V相コイル、及びW相コイルに対応する三本のステータコイル22が設けられている。
【0011】
図2及び
図3に示すように、各ステータコイル22は、断面視で矩形状をなしており、金属(本実施形態ではアルミニウム)によって形成されている。各スリット23内における各ステータコイル22が組み付けられた領域には、中心線Lが延びる方向と平行に延びる複数の流路24がステータコア21の径方向に等間隔で並ぶように形成されている。各流路24は、断面が円形状をなしており、例えば油や空気などの冷却用の流体が流通可能になっている。
【0012】
各ステータコイル22の表面には、図示しない絶縁性の被覆層が設けられている。この被覆層により、スリット23内でステータコア21の径方向において隣接するステータコイル22同士の間と、各ステータコイル22とステータコア21(スリット23の内面)との間とが絶縁されている。
【0013】
次に、上述のように構成されたステータ20の製造方法を作用として説明する。
図2及び
図4に示すように、ステータ20を製造する場合には、まず、複数のスリット23が設けられたステータコア21を用意するとともに、ステータコイル22を構成する複数のベース巻線部30を形成する。ベース巻線部30は、金属製(本実施形態ではアルミニウム製)であり、断面視で矩形状をなしている。ベース巻線部30は、平行に延びる2本の直線部31と、これらの直線部31の一端部同士を繋ぐように湾曲して延びる湾曲部32とを有した略U字状をなしている。ベース巻線部30の周面には、上記した図示しない絶縁性の被覆層が設けられている。
【0014】
引き続き、
図5及び
図6に示すように、複数のベース巻線部30をスリット23に挿入するようにしてステータコア21に組み付ける。すなわち、ベース巻線部30の直線部31をステータコア21における対応するスリット23にそれぞれ差し込む。この場合、各ベース巻線部30の一対の直線部31を2つのスリット23に跨がるようにして挿入する。このようにして全て(
図5にはベース巻線部30を1つのみ図示している)のベース巻線部30をステータコア21に組み付ける。
【0015】
このとき、
図6に示すように、各スリット23内に挿入した状態のベース巻線部30同士の間に、ピンの一例としての断面視が円形状をなす鉄製のテーパーピン33を挟む。各テーパーピン33は、先端側に向かうにつれて細くなっているピンであり、スリット23の幅方向の中央部に配置する。したがって、スリット23内では、ベース巻線部30とテーパーピン33とがステータコア21の径方向に交互に並んで配置された状態になる。この状態では、スリット23の内面と各ベース巻線部30の周面との間に僅かな隙間が形成される。
【0016】
引き続き、スリット23におけるステータコア21の内周面側の開口から直方体状の鉄製のプレス部材34をスリット23内に挿入し、スリット23内におけるテーパーピン33を挟んだ状態の全てのベース巻線部30をプレス部材34によって一度に加圧(プレス)する。すると、
図7及び
図8に示すように、鉄製のテーパーピン33よりも軟らかいアルミニウム製のベース巻線部30がスリット23の内面及びテーパーピン33の周面に合わせて潰れるように塑性変形される。
【0017】
これにより、各ベース巻線部30とスリット23の内面との隙間及び各ベース巻線部30とテーパーピン33の周面との隙間が各ベース巻線部30の塑性変形によって埋められる。したがって、ステータコア21のスリット23内での各ベース巻線部30(ステータコイル22)の占積率が効果的に向上される。
【0018】
引き続き、各ベース巻線部30を塑性変形させた後にスリット23内のベース巻線部30同士によって挟まれた状態の各テーパーピン33を引き抜くと、
図3に示すように、各テーパーピン33を引き抜いた後の部分に流路24が形成される。このとき、各テーパーピン33は、テーパー状をなしているため、容易に引き抜かれる。流路24は、テーパーピン33と同様に、一端側から他端側に向かって徐々に径が小さくなるテーパー状になる。
【0019】
引き続き、複数のベース巻線部30の直線部31における先端側の部分を予め定められた所定形状になるようにそれぞれ曲げる。その後、複数のベース巻線部30によって一本のステータコイル22が形成されるように、複数のベース巻線部30の直線部31の先端同士をそれぞれ例えば溶接などによって適宜に電気的に接続する。これにより、ステータコア21にステータコイル22が組み付けられる。すなわち、ステータコア21にステータコイル22が組み付けられたステータ20が製造される。
【0020】
そして、このようにして製造されたステータ20の流路24に冷却用の流体を流通させることで、ステータコア21内のステータコイル22を効率的に冷却することができる。ステータ20が例えばハイブリッド車両に搭載される三相電動機の固定子である場合には、冷却用の流体としてATF(Automatic Transmission Fluid)を用いることが好ましい。なお、ステータ20の流路24には、使用状況に応じて必要であれば、例えば加熱用の流体を流通させるようにしてもよい。
【0021】
以上詳述した実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)ステータ20の製造方法は、複数の金属製のベース巻線部30をスリット23に挿入するようにしてステータコア21に組み付けることと、スリット23に挿入した状態のベース巻線部30同士の間にテーパーピン33を挟んだ状態でベース巻線部30を加圧して塑性変形させることと、ベース巻線部30を塑性変形させた後にテーパーピン33を抜くことで、スリット23内に流体が流通可能な流路24を形成することと、ベース巻線部30同士を電気的に接続することによってステータコイル22を形成することと、を備えている。
【0022】
この構成によれば、スリット23内でベース巻線部30を加圧してベース巻線部30をスリット23の内面及びテーパーピン33の周面に押し付けて塑性変形させた後にテーパーピン33を抜くだけでスリット23内に流路24が形成される。このため、スリット23の内面とベース巻線部30との間の隙間を低減しつつスリット23内に流路24を簡単に形成することができる。したがって、スリット23内でのベース巻線部30の占積率を向上しつつ、スリット23内に流路24を簡単に形成することができる。
【0023】
加えて、スリット23に挿入した状態のベース巻線部30同士の間にテーパーピン33を挟んだ状態でベース巻線部30を塑性変形させているため、ベース巻線部30を塑性変形させた後にテーパーピン33を容易に引き抜くことができる。因みに、テーパーピン33の代わりにストレートピンを用いると、ベース巻線部30を塑性変形させた後にストレートピンを容易に引き抜くことができなくなる。
【0024】
(変更例)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。また、上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0025】
・スリット23に挿入した状態のベース巻線部30とスリット23の内面との間に例えば断面視で半円形状をなすテーパーピンを挟んだ状態でベース巻線部30を加圧して塑性変形させた後に当該テーパーピンを抜くようにしてもよい。このようにすれば、
図9に示すように、スリット23内におけるステータコイル22(ベース巻線部30)の周面とスリット23の内面との間に断面視で半円形状をなす流路40を形成することができる。
【0026】
・スリット23に挿入した状態のベース巻線部30同士の間にテーパーピン33を挟むと共にベース巻線部30とスリット23の内面との間に例えば断面視で半円形状をなすテーパーピンを挟んだ状態でベース巻線部30を加圧して塑性変形させた後に当該テーパーピン及びテーパーピン33を抜くようにしてもよい。このようにすれば、
図10に示すように、スリット23に挿入した状態のステータコイル22(ベース巻線部30)同士の間に流路24を形成できるとともに、スリット23内におけるステータコイル22(ベース巻線部30)の周面とスリット23の内面との間に断面視で半円形状をなす流路40を形成することができる。
【0027】
・スリット23内におけるテーパーピン33を挟んだ状態の複数(上記実施形態では11個)のベース巻線部30は、プレス部材34によって一度に加圧せずに、例えば2つずつあるいは3つずつ複数回に分けてプレス部材34によって加圧するようにしてもよい。
【0028】
・テーパーピン33の代わりに、ピンとしてストレートピンを用いてもよい。
・テーパーピン33の断面形状は、円形に限らず、楕円形や多角形などであってもよい。
【0029】
・ベース巻線部30は、必ずしも断面視で矩形状をなしている必要はない。
・上記実施形態にかかる電機子は、三相電動機に限らず、単相電動機にも適用可能である。また上記実施形態にかかる電機子は、ブラシ式の電動機の回転子(ロータ)にも適用することができる。その他、発電機の電機子にも、上記実施形態にかかる電機子は適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
20…電機子の一例としてのステータ
21…鉄心の一例としてのステータコア
22…導体の一例としてのステータコイル
23…スリット
24,40…流路
30…ステータコイルを構成するベース巻線部
31…直線部
32…湾曲部
33…ピンの一例としてのテーパーピン
34…プレス部材
L…中心線