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特許7435438多孔質膜、複合膜及び多孔質膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】多孔質膜、複合膜及び多孔質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
C08J9/28 101
C08J9/28 CEW
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020500226
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050576
(87)【国際公開番号】W WO2020138065
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2018242771
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】志村 俊
(72)【発明者】
【氏名】花川 正行
(72)【発明者】
【氏名】岩井 健太
(72)【発明者】
【氏名】安田 貴亮
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-510688(JP,A)
【文献】国際公開第2010/032808(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/142311(WO,A1)
【文献】特表2010-526885(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133364(WO,A1)
【文献】特開2014-76446(JP,A)
【文献】特開2013-202461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B01D 69/00
B01D 69/10
B01D 69/12
B01D 71/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とするポリマーを含み、前記ポリマーに占める前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の割合が55質量%以上であり、
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂として、重量平均分子量が5万~100万Daである分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含み、
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂に占める前記分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂の割合は、10~100質量%であり、
GPC-MALS(多角度光散乱検出器を備えたゲル浸透クロマトグラフ)で測定した回転半径〈S1/2とポリマーの絶対分子量Mから、
下記式1で近似して決定される、前記ポリマーについてのaの値が、0.32~0.41であり、かつ、bの値が、0.18~0.42であり、
平均表面孔径が3~16nmであり、
25℃、50kPaにおける純水透水性が0.1~0.8m /m /hrである、多孔質膜。
〈S1/2=bM ・・・(式1)
【請求項2】
前記ポリマーが、親水性樹脂を含む、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
三次元網目構造を有する、請求項1又は2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
前記分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂が星型分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂である、請求項1~3のいずれか1項に記載の多孔質膜。
【請求項5】
前記分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂を15~100質量%含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の多孔質膜。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の多孔質膜と、他の層と、を備え、
前記多孔質膜が、表面部に配置されている、複合膜。
【請求項7】
前記他の層が、支持体である、請求項に記載の複合膜。
【請求項8】
溶融粘度が30kP以下であり、重量平均分子量が5万~100万Daである分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とするポリマーを溶媒に溶解させて、ポリマー溶液を得る、ポリマー溶液調製工程(A)と、
前記ポリマー溶液を非溶媒中で凝固させて、多孔質膜を形成する、多孔質膜形成工程(B)と、を備え、
GPC-MALS(多角度光散乱検出器を備えたゲル浸透クロマトグラフ)で測定した回転半径〈S1/2とポリマーの絶対分子量Mから、
下記式1で近似して決定される、前記ポリマーについてのaの値が、0.32~0.41であり、かつ、bの値が、0.18~0.42であり、
前記ポリマーに占める前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の割合が55質量%以上であり、
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂に占める前記分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂の割合は、10~100質量%であり、
前記ポリマーが親水性樹脂を含み、
前記ポリマー溶液調製工程(A)に供する前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の結晶化度が35%以上である、多孔質膜の製造方法。
〈S1/2=bM ・・・(式1)
【請求項9】
前記ポリマー溶液調製工程(A)に供する分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂が星型分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂である、請求項に記載の多孔質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜、複合膜及び多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、精密ろ過膜や限外ろ過膜等の多孔質膜は、浄水又は排水処理等の水処理分野、血液浄化等の医療分野、食品工業分野等、様々な分野で利用されている。そのような分野における多孔質膜は、繰り返し使用するため、多様な薬品で洗浄又は殺菌されることから、高い耐薬品性が求められるのが通常である。
【0003】
優れた耐薬品性を示す多孔質膜としては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含むポリマーを含む多孔質膜が知られている。例えば特許文献1には、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含むポリマーを含む多孔質膜の断面構造における孔径分布を小さくして、分離性能を向上させる技術が開示されている。また特許文献2においては、多孔質膜が含むポリフッ化ビニリデン系樹脂として長鎖分岐フルオロポリマーを選択することで、多孔質膜の孔径を拡大して透過性能を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2006-263721号公報
【文献】日本国特開2016-510688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、分離性能又は透過性能の向上を図った、従来のポリフッ化ビニリデン系樹脂を含むポリマーを含む多孔質膜では、トレードオフの関係にある双方の性能を両立させることはできず、そのどちらか一方が犠牲となることが問題視されてきた。
【0006】
そこで本発明は、優れた分離性能と透過性能とを両立することが可能であり、かつ、高い耐薬品性を有する、多孔質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とするポリマーを含み、
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂として、分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含み、
GPC-MALS(多角度光散乱検出器を備えたゲル浸透クロマトグラフ)で測定した回転半径〈S1/2とポリマーの絶対分子量Mから、
下記式1で近似して決定される、前記ポリマーについてのaの値が、0.32~0.41であり、かつ、bの値が、0.18~0.42である、多孔質膜を提供する。
〈S1/2=bM ・・・(式1)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とするポリマーを含むことによる高い耐薬品性を確保しつつ、優れた分離性能及び透過性能の双方が達成された、多孔質膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、各実施例/比較例における多孔質膜の評価結果を示すグラフである。
図2図2は、「三次元網目構造」を例示する、実施例8で得られた多孔質膜の表面拡大画像である。
図3図3は、「三次元網目構造」を例示する、実施例8で得られた多孔質膜の断面拡大画像である。
図4図4は、「三次元網目構造」を例示する、比較例3で得られた多孔質膜の表面拡大画像である。
図5図5は、「三次元網目構造」を例示する、比較例3で得られた多孔質膜の断面拡大画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、本明細書において、「質量」は「重量」と同義である。
【0011】
本発明の実施形態に係る多孔質膜は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とするポリマーを含み、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂として、分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含み、GPC-MALS(多角度光散乱検出器を備えたゲル浸透クロマトグラフ)で測定した回転半径〈S1/2とポリマーの絶対分子量Mから、下記式1で近似して決定される、前記ポリマーについてのaの値が、0.32~0.41であり、かつ、bの値が、0.18~0.42であることを必要とする。
〈S1/2=bM ・・・(式1)
【0012】
上記式1の関係から決定される、上記ポリマーについてのaの値が0.41以下であることで、ポリマーの絶対分子量Mに対して回転半径〈S1/2が適度に小さくなる。これにより、多孔質膜が形成される際にポリマーが多孔質膜の表層へと移動しやすくなり、多孔質膜の表層のポリマー密度が上昇しやすくなる。このため、多孔質膜が優れた分離性能を発現するものと推測される。一方で、aの値が0.32以上であることで、ポリマーの絶対分子量Mに対して回転半径〈S1/2が適度に大きくなる。これにより、ポリマー同士が適度に絡み合い、表層のポリマー密度が均質となって、さらに高い分離性能が発現するものと推測される。さらに多孔質膜の表層のポリマー密度の上昇に伴って、内層のポリマー密度は低下するため、優れた分離性能と同時に、高い透過性能が発現するものと推測される。aの値は、0.37~0.40であることがより好ましく、0.37~0.39であることがさらに好ましい。
【0013】
上記式1の関係から決定される、上記ポリマーについてのbの値は、ポリマー同士の絡み合いによる表層のポリマー密度の均質化によって、さらに分離性能を高めるため、0.18~0.42である必要がある。bの値は、0.20~0.38であることが好ましく、0.25~0.33であることがより好ましい。
【0014】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンの単独重合体又はフッ化ビニリデンの共重合体をいう。ここでフッ化ビニリデンの共重合体とは、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーをいう。フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーは、典型的には、フッ化ビニリデンモノマーと、それ以外のフッ素系モノマー等との共重合体である。そのようなフッ素系モノマーとしては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン又は三フッ化塩化エチレンが挙げられる。上記フッ化ビニリデンの共重合体においては、本発明の効果を損なわない程度に、上記フッ素系モノマー以外のエチレン等が共重合されていても構わない。
【0015】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は、大きくなると多孔質膜の透過性能が低下し、小さくなると多孔質膜の分離性能が低下するため、5万~100万Daが好ましい。多孔質膜が、薬液洗浄に晒される水処理用途に供される場合、重量平均分子量は10万~90万Daが好ましく、15万~80万Daがより好ましい。
【0016】
本発明の実施形態に係る多孔質膜は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とするポリマーを含むことが必要である。「ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とする」とは、多孔質膜を構成するポリマーに占めるポリフッ化ビニリデン系樹脂の割合が、50質量%以上であることをいう。上記割合は、高い耐薬品性を確保するため、55質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
【0017】
多孔質膜は本発明の効果を損なわない範囲で、ポリマー以外の成分を含んでいてもよい。ポリマー以外の成分としては、例えば界面活性剤や、無機粒子などが挙げられる。なお、多孔質膜はポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とするポリマーが主成分であることが好ましい。言い換えると、多孔質膜の内、ポリマー以外の成分は50質量%未満であることが好ましい。
【0018】
上記ポリマーについてのaの値を0.32~0.41の範囲により簡便に調整するため、本発明の実施形態に係る多孔質膜は、上記ポリフッ化ビニリデン系樹脂が、分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含むことを必要とする。ポリフッ化ビニリデン系樹脂に占める分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂の割合は、10~100質量%が好ましく、25~100質量%がより好ましく、75~100質量%がさらに好ましい。また、多孔質膜の内、分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂の割合は15~100質量%であることが好ましく、18~80質量%であることがより好ましく、55~80質量%であることがさらに好ましい。
【0019】
また、aの値を0.32~0.41の範囲により簡便に調整するため、分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は、5万~100万Daが好ましく、10万~60万Daがより好ましく、12万~30万Daがさらに好ましい。
【0020】
ここで「分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂」とは、上記のaの値が、0.41以下のポリフッ化ビニリデン系樹脂をいう。さらに、上記ポリマーについてのaの値を0.32~0.41の範囲により簡便に調整するためには、分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂は溶融粘度が30kP以下であることが好ましく、20kP以下であることがより好ましく、10kP以下であることがさらに好ましい。
【0021】
上記ポリマーについてのa及びbの値を、所定の範囲により簡便に調整するため、本発明の実施形態に係る多孔質膜を構成するポリマーは、親水性樹脂を含むことが好ましい。さらに、本発明の実施形態に係る多孔質膜を構成するポリマーが親水性樹脂を含むことで、汚れが多孔質膜に付着しづらくなる。
【0022】
ここで「親水性樹脂」とは、水との親和性が高く、水に溶解する樹脂、又は、水に対する接触角がポリフッ化ビニリデン系樹脂よりも小さい樹脂をいう。親水性樹脂としては、例えば、セルロースアセテート若しくはセルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド若しくはポリメタクリル酸メチル等のアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの重合体、あるいは、それら重合体の共重合体が挙げられる。
【0023】
本発明の実施形態に係る多孔質膜は、ポリマー同士の絡み合いによる表層のポリマー密度の均質化によって、さらに分離性能を高めるため、三次元網目構造を有することが好ましい。ここで「三次元網目構造」とは、図2図5に示すように、本発明の実施形態に係る多孔質膜を構成するポリマーが、三次元的に、網目状に広がっている構造をいう。三次元網目構造は、網目を形成するポリマーに仕切られた、細孔及びボイドを有する。
【0024】
上記のa及びbの値は、多角度光散乱検出器(以下、「MALS」)および示差屈折率計(以下、「RI」)を備えた、ゲル浸透クロマトグラフ(以下、「GPC」)であるGPC-MALSにより測定される、回転半径〈S1/2と、絶対分子量Mとの関係に基づき、決定することができる。GPC-MALSを用いた測定は、多孔質膜を構成するポリマーを、溶媒に溶解して行う。溶媒には、ポリマーの溶解性を向上させるため、塩を添加しても構わない。ポリフッ化ビニリデン系樹脂についてGPC-MALSを用いた測定をする場合においては、例えば、0.1mol/Lの塩化リチウムを添加した、N-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」)を用いることが好ましい。
【0025】
GPC-MALSにより測定される、回転半径〈S1/2と、絶対分子量Mとの関係は、コンフォメーションプロットと呼ばれ、ポリマーの研究において一般的に用いられる手法によって下記式1のように近似することで、上記a及びbの値を決定することができる。このような手法は例えば「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版株式会社、初版、1992年)に記載されているように一般的である。なお、コンフォメーションプロットの近似は、検出器の測定範囲内となる範囲で、式1を両対数グラフとし、最小二乗法を適用して直線近似すればよい。
〈S1/2=bM ・・・(式1)
【0026】
本発明の実施形態で用いる分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、星型分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂であることが好ましい。星型分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂であることで、直鎖ポリフッ化ビニリデン系樹脂や、櫛型分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂、およびランダム分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂と比べて、多孔質膜が形成される際にポリマーが多孔質膜の表層へと移動しやすく、多孔質膜の表層のポリマー密度が上昇し、それによって多孔質膜がさらに優れた分離性能を発現するものと推測される。
【0027】
分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂の形状は、下記式4および式5によってβ値を求めることで判定できる。このような手法は例えば「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版株式会社、初版、1992年)に記載されているように一般的である。β値が0.25~0.75の場合を星型分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂とし、β値が1.1~1.75の場合、櫛型分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはランダム分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂として扱う。本発明の実施形態においては、β値は0.25~0.75が好ましく、さらに好ましくは0.35~0.70であり、最も好ましいのは0.40~0.65である。なお、β値の算出には重量平均分子量の値を用いるのがよい。
β=分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂の固有粘度/直鎖ポリフッ化ビニリデン系樹脂の固有粘度 ・・・(式4)
g=〈分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂のS〉/〈直鎖ポリフッ化ビニリデン系樹脂のS〉 ・・・(式5)
【0028】
ここで、固有粘度[η]および回転半径〈S1/2は、上記のGPC-MALSに、更に粘度検出器(以下、「VISCO」)を備えたGPC-MALS-VISCOを用いて測定される。測定は、多孔質膜を構成するポリマーを、溶媒に溶解して行う。溶媒には、ポリマーの溶解性を向上させるため、塩を添加しても構わない。ポリフッ化ビニリデン系樹脂についてGPC-MALSを用いた測定をする場合においては、例えば、0.1mol/Lの塩化リチウムを添加したNMPを用いることが好ましい。
【0029】
なお、β値の算出に重量平均分子量の値を用いる場合は、まず、GPC-MALS-VISCOを用いた測定によって得られる、各溶出時間における回転半径または固有粘度の値と、各溶出時間における絶対分子量の値との関係について、式1および式6を用いて近似し、a、b、e、fの値を決定して近似式を作成する。そして、得られた各近似式のMに、多孔質膜を構成するポリマーの重量平均分子量を代入する。これにより算出される回転半径〈S1/2および固有粘度[η]を式4または式5にそれぞれ代入することで、β値を求めることができる。
〈S1/2=bM ・・・(式1)
[η]=eM ・・・(式6)
【0030】
本発明の実施形態に係る複合膜は、本発明の実施形態に係る多孔質膜と、他の層と、を備え、本発明の実施形態に係る多孔質膜が、表面部に配置されていることを特徴とする。ここで複合膜の「表面部」とは、複合膜の表面から、その厚み方向に20μmの深さまでの部位をいう。ここで複合膜が中空糸状である場合には、その内表面及び/又は外表面がここでいう「複合膜の表面」となり、複合膜の厚み方向は、中空糸膜の径方向と一致する。優れた分離性能を示す本発明の実施形態に係る多孔質膜が表面部に配置されていることで、被ろ過液に含まれる成分が複合膜の内部に侵入しにくく、複合膜が長期にわたり高い透過性能を維持することができる。
【0031】
上記の他の層は、多孔質膜と重なり層状を形成することが可能な構成要素であれば特に限定はされないが、上記の他の層が、支持体であることが好ましい。ここで「支持体」とは、多孔質膜を物理的に補強するための、多孔質膜よりも破断強力が高い構造体をいう。支持体の破断強力を高めるためには、支持体の破断強度(単位面積あたりの破断強力)は、3MPa以上であることが好ましく、10MPa以上であることがより好ましい。なお複合膜が中空糸状である場合には、支持体の破断強力は300gf以上であることが好ましく、800gf以上であることがより好ましい。また支持体は、複合膜の強力をより高めるため、繊維状組織、柱状組織又は球状組織を有することが好ましい。
【0032】
支持体の破断強度又は破断強力は、引張試験機を用い、長さ50mmの試料について、引張速度50mm/分の条件で引張試験を5回繰り返し、それらを平均値とすることで算出できる。なお、複合膜の全体積に占める支持体の体積の割合が50%以上である場合には、複合膜の破断強度又は破断強力を、その構成要素である支持体の破断強度又は破断強力と見なすことができる。
【0033】
本発明の実施形態に係る多孔質膜又は複合膜の分画分子量は、5,000~80,000Daであることが好ましく、8,000~60,000Daであることがより好ましく、10,000~40,000Daであることがさらに好ましい。ここで「分画分子量」とは、被ろ過液に含まれる成分の分子量の内、多孔質膜で90%除去できる、最小の分子量をいう。
【0034】
本発明の実施形態に係る多孔質膜は、表層のポリマー密度を高め、優れた分離性能を発現させるため、平均表面孔径が3~16nmであることが好ましく、6~14nmであることがより好ましく、8~11nmであることがさらに好ましい。多孔質膜の平均表面孔径は、多孔質膜の表面を走査型電子顕微鏡(以降、「SEM」)で観察することで算出できる。
【0035】
より具体的には、多孔質膜の表面を3万~10万倍の倍率でSEMを用いて観察し、無作為に選択した300個の孔の面積をそれぞれ測定する。各孔の面積から、孔が円であったと仮定したときの直径を孔径としてそれぞれ算出し、それらの平均値を、表面平均孔径とすることができる。
【0036】
本発明の実施形態に係る多孔質膜又は複合膜は、平均表面孔径が上記の範囲であり、かつ25℃、50kPaにおける純水透水性が、0.1~0.8m/m/hrであることが好ましく、0.3~0.7m/m/hrであることがより好ましい。本発明の実施形態に係る多孔質膜又は複合膜の50kPaにおける純水透水性は、多孔質膜が変形しない範囲の圧力で膜面積及び時間当たりの透過水量を測定し、それらの値を50kPaの圧力下の値にそれぞれ換算して、算出すればよい。なお、圧力の換算時には比例関係が成立する。
【0037】
本発明の実施形態に係る多孔質膜の製造方法は、分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とするポリマーを溶媒に溶解させて、ポリマー溶液を得る、ポリマー溶液調製工程(A)と、前記ポリマー溶液を非溶媒中で凝固させて、多孔質膜を形成する、多孔質膜形成工程(B)と、を備え、GPC-MALS(多角度光散乱検出器を備えたゲル浸透クロマトグラフ)で測定した回転半径〈S1/2とポリマーの絶対分子量Mから、下記式1で近似して決定される、前記ポリマーについてのaの値が、0.32~0.41であり、かつ、bの値が、0.18~0.42であることを必要とする。
〈S1/2=bM ・・・(式1)
【0038】
ポリマー溶液調製工程(A)において溶媒に溶解される、分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とするポリマーについてのaの値が0.41以下であることで、ポリマーの絶対分子量Mに対して回転半径〈S1/2が適度に小さくなる。これにより、多孔質膜形成工程(B)において、多孔質膜が形成される際にポリマーが多孔質膜の表層へと移動しやすくなり、多孔質膜の表層のポリマー密度が上昇しやすくなる。そのため、多孔質膜が優れた分離性能を発現するものと推測される。一方で、aの値が0.32以上であることで、ポリマー同士が適度に絡み合い、表層のポリマー密度が均質となる。そのため、さらに高い分離性能が発現するものと推測される。さらに多孔質膜の表層のポリマー密度の上昇に伴って、内層のポリマー密度は低下するため、優れた分離性能と同時に、高い透過性能が発現するものと推測される。
【0039】
上記ポリマーについてのbの値が0.18~0.42であることで、ポリマー同士の絡み合いにより表層のポリマー密度がさらに均質化されて、さらに多孔質膜の分離性能が高まるものと推測される。
【0040】
ポリマー溶液調製工程(A)で用いる溶媒としては、良溶媒が好ましい。ここで「良溶媒」とは、60℃以下の低温領域でもポリフッ化ビニリデン系樹脂を5質量%以上溶解させることができる溶媒をいう。良溶媒としては、例えば、NMP、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素もしくはリン酸トリメチル又はそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0041】
ポリマー溶液調製工程(A)で得られるポリマー溶液は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の他に、親水性樹脂等の第二の樹脂、可塑剤又は塩等を適宜含んでいても構わない。
ポリマー溶液が可塑剤又は塩を含むことで、ポリマー溶液の溶解性が向上する。可塑剤としては、例えば、グリセロールトリアセテート、ジエチレングリコール、フタル酸ジブチル又はフタル酸ジオクチル等が挙げられる。塩としては、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム又は硫酸バリウムが挙げられる。
【0042】
ポリマー溶液調製工程(A)で得られるポリマー溶液の濃度は、高い分離性能と透過性能とを両立させるため、15~30質量%であることが好ましく、20~25質量%であることがより好ましい。
【0043】
ポリマー溶液調製工程(A)で得られるポリマー溶液において、多孔質膜構成成分の内、分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂の割合は15~100質量%であることが好ましく、18~80質量%であることがより好ましく、55~80質量%であることがさらに好ましい。
【0044】
ポリマー溶液調製工程(A)においてポリマーが溶媒に完全溶解したかどうかは、目視で濁り又は不溶物がないことを確認して判断することができるが、吸光度計を用いて確認することが好ましい。ポリマーの溶解が不十分である場合には、ポリマー溶液の保存安定性が低下するばかりでなく、製造される多孔質膜が不均質な構造となり、優れた分離性能を発現しにくい状況となる。得られたポリマー溶液の吸光度は、波長500nmにおいて0.50以下であることが好ましく、0.09以下であることがより好ましい。
【0045】
ポリマー溶液調製工程(A)において溶媒に溶解するポリフッ化ビニリデン系樹脂の結晶化度は、製造される多孔質膜を構成するポリマーについてのa及びbの値を、所定の範囲により簡便に調整するため、35%以上であることが好ましく、38%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の結晶化度は、示差走査熱量計(以下、「DSC」)の測定結果から算出することができる。
【0046】
ポリマー溶液調製工程(A)に供する分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、星型分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂であることが好ましい。星型分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂であることで、直鎖ポリフッ化ビニリデン系樹脂や、櫛型分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂、およびランダム分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂と比べて、多孔質膜が形成される際にポリマーが多孔質膜の表層へと移動しやすく、多孔質膜の表層のポリマー密度が上昇し、それによって多孔質膜がさらに優れた分離性能を発現するものと推測される。
【0047】
多孔質膜形成工程(B)における「非溶媒」とは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点又は溶媒の沸点まで、フッ素樹脂系高分子を溶解も膨潤もさせない溶媒をいう。非溶媒としては、例えば、水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o-ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール若しくは低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、又は、その他の塩素化有機液体あるいはそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0048】
多孔質膜形成工程(B)において連続的に多孔質膜の形成を行う場合には、ポリマー溶液と非溶媒とを接触させる凝固浴において、ポリマー溶液の溶媒が非溶媒と混合され、ポリマー溶液由来の溶媒の濃度が上昇する。そのため、凝固浴中の液体の組成が一定範囲に保たれるように、凝固浴中の非溶媒を入れ替えることが好ましい。凝固浴中の良溶媒の濃度が低いほど、ポリマー溶液の凝固が速くなるため、多孔質膜の構造が均質化され、優れた分離性能を発現させることができる。また、ポリマー溶液の凝固が速くなるため製膜速度を上げることができ、多孔質膜の生産性を向上させることができる。凝固浴中の良溶媒の濃度は、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0049】
通常の多孔質膜の形成においては、ポリマー溶液を凝固させる非溶媒の温度が低いほど分離性能が向上するが、その一方で透過性能が低下してしまう、いわゆるトレードオフの関係が存在する。本発明の実施形態に係る多孔質膜を形成するためのポリマー溶液は、該ポリマーについてのa及びbの値が、所定の範囲に調整されていることで、非溶媒の温度をより低温化した場合においても、優れた透過性能を実現することが可能となる。凝固浴中の、ポリマー溶液及び/又は非溶媒を含む液体の温度は、0~25℃が好ましく、0~20℃がより好ましく、5~15℃がさらに好ましい。
【0050】
製造される多孔質膜の形状は、多孔質膜形成工程(B)におけるポリマー溶液の凝固の態様により制御することができる。平膜状の多孔質膜を製造する場合には、例えば、不織布、金属酸化物又は金属等からなるフィルム状の支持体に、ポリマー溶液を塗布したものを凝固浴に浸漬させることができる。
【0051】
中空糸状の多孔質膜を製造する場合には、二重管口金の外周部からポリマー溶液を、中心部から芯液を、同時に非溶媒の入った凝固浴に吐出することができる。芯液としては、ポリマー溶液調製工程(A)における良溶媒等を用いることが好ましい。またポリマー、金属酸化物又は金属等からなる中空糸状の支持体の表面に、多孔質膜を形成しても構わない。ポリマーからなる中空糸状の支持体の表面に多孔質膜を形成する方法としては、例えば、三重管口金を用いて、中空糸状の支持体の原料となる溶液と、ポリマー溶液とを同時に吐出する方法、又は、予め製膜した中空糸状の支持体の外表面にポリマー溶液を塗布したものを、凝固浴中の非溶媒を通過させる方法が挙げられる。
【実施例
【0052】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0053】
(i)多孔質膜を構成するポリマーについてのa値及びb値
蒸留水中に浸漬した多孔質膜又は複合膜を、クライオスタット(Leica社製;Jung CM3000)を用いて-20℃で凍結し、多孔質膜の切片(複合膜においては、表面部の多孔質膜の切片)を採取して、25℃で1晩、真空乾燥した。真空乾燥後の5mgの多孔質膜に、5mLの0.1M塩化リチウム添加NMPを加え、50℃で約2時間撹拌した。得られたポリマー溶液を、以下の条件でGPC-MALS(ポンプ:株式会社島津製作所製LC-20AD、カラムオーブン:株式会社島津製作所製SIL-20AXHT、カラム:昭和電工株式会社製;Shodex(登録商標) KF-806M φ8.0mm×30cm 2本を直列に接続、示差屈折率計(RI):Wyatt Technology社製;Optilab rEX、多角度光散乱検出器(MALS):Wyatt Technology社製;DAWN HeLEOS)に注入して測定した。注入したポリマー溶液は、27~43分間の範囲でカラムから溶出した。
カラム温度 : 50℃
検出器温度 : 23℃
溶媒 : 0.1M塩化リチウム添加NMP
流速 : 0.5mL/min
注入量 : 0.3mL
【0054】
RIから得られた、溶出時間tのときのポリマー濃度cと、MALSから得られた、溶出時間tのときの過剰レーリー比Rθiから、sin(θ/2)と(K×c/Rθi1/2とのプロットを行い(Berry plot又はZimm plot;下記式3)、その近似式のθ→0の値から、各溶出時間tにおける絶対分子量MWiを算出した。ここで、Kは光学定数であり、下記式2から算出される。なお式2におけるdn/dcは、ポリマー濃度の変化に対するポリマー溶液の屈折率の変化量、すなわち屈折率増分であるが、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を主成分とするポリマーを測定対象とし、かつ上記の溶媒を用いる場合には、屈折率増分として-0.050mL/gの値を適用することができる。
K=4π×n ×(dn/dc)/(λ×N) ・・・(式2)
: 溶媒の屈折率
dn/dc : 屈折率増分
λ : 入射光の真空中での波長
: アボガドロ数
【0055】
また、各溶出時間tにおける回転半径〈S1/2の値は、下記式3の傾きから算出した。
(K×c/Rθi1/2=MWi -1/2{1+1/6(4πn/λ)〈S〉sin(θ/2)} ・・・(式3)
式3から算出される、各溶出時間tにおける絶対分子量Mwiをx軸にとって、かつ、各溶出時間tにおける回転半径〈S1/2をy軸にとってプロットし、検出器の測定範囲内となるように分子量14万~100万Daの範囲で、式1で近似して、多孔質膜を構成するポリマーについてのaの値及びbの値を求めた。なお、近似は式1を両対数グラフとし、最小二乗法を適用して直線近似した。
〈S1/2=bM ・・・(式1)
【0056】
(ii)分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂の形状
(i)で、検出器にさらに粘度検出器:Wyatt Technology社製VISCOSTAR(登録商標)を用いた以外は(i)と同様にして測定を行い、各溶出時間tにおける固有粘度[η]の値を読み取った。(i)で求めた各溶出時間tにおける絶対分子量Mwiをx軸に、固有粘度[η]をy軸にとってプロットし、検出器の測定範囲内となるように分子量14万~100万Daの範囲で、下記式6(Mark-Houwink Plot)で近似して、式6におけるeおよびfの値を求めた。なお、近似は式6を両対数グラフとし、最小二乗法を適用して直線近似した。
[η]=eM ・・・(式6)
式1、式6に多孔質膜又は複合膜の構成するポリマーの重量平均分子量を代入し、得られた回転半径〈S1/2および固有粘度[η]を式4および式5に代入してβ値を求めた。β値が0.25~0.75の場合を星型分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂とし、β値が1.1~1.75の場合をランダム分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂と判定した。なお、直鎖ポリフッ化ビニリデン系樹脂として、ソルベイ社製Solef(登録商標)1015を測定した結果、回転半径〈S1/2および固有粘度[η]は〈S1/2=0.020×M 0.58、[η]=0.065×M 0.65であった。直鎖ポリフッ化ビニリデン系樹脂の値として、本値を適用することができる。
β=分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂の固有粘度/直鎖ポリフッ化ビニリデン系樹脂の固有粘度 ・・・(式4)
g=〈分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂のS〉/〈直鎖ポリフッ化ビニリデン系樹脂のS〉 ・・・(式5)
【0057】
(iii)ポリフッ化ビニリデン系樹脂の結晶化度
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を約5~10mg程度採取し、DSC(株式会社日立ハイテクサイエンス製;DSC6200)にセットして室温から300℃まで5℃/分で上昇させたとき、100~190℃の範囲に見られる吸熱ピークをポリフッ化ビニリデン系樹脂の融解熱と見なした。該熱量を、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の完全結晶融解熱量である104.6J/gで除して、百分率としてポリフッ化ビニリデン系樹脂の結晶化度を算出した。
【0058】
(iv)多孔質膜又は複合膜の分画分子量
多孔質膜の形状が平膜状の場合には、有効膜面積30cmに対して評価を行った。また、多孔質膜の形状が中空糸状の場合には、有効膜面積14cmに対して評価を行った。なお、多孔質膜に加えて支持体を備える複合膜については、支持体を含めた複合膜全体について評価を行った。評価には、下記各種のデキストランを用いた。
デキストランf1~f4(Fluka製;重量平均分子量がそれぞれ1,500Da、6,000Da、15,000~25,000Da、40,000Da)
デキストランa1及びa2(アルドリッチ製;重量平均分子量がそれぞれ60,000Da、20,000Da)
デキストランa3及びa4(アルドリッチ製分子量標準物質;重量平均分子量がそれぞれ5,200Da、150,000Da)
デキストランa5~a7(アルドリッチ製分子量標準物質;重量平均分子量がそれぞれ1,300Da、12,000Da、50,000Da)
【0059】
デキストランf1~f4、並びに、デキストランa1及びa2をそれぞれ500ppmずつ蒸留水に混合して、デキストラン水溶液1を調製した。調製したデキストラン水溶液1を多孔質膜に10kPaで供給して、クロスフロー線速度1.1m/sでクロスフローろ過し、ろ液をサンプリングした。デキストラン水溶液1、及び、サンプリングしたろ液を、GPC(GPC装置:東ソー株式会社製HLC-8320、カラム:東ソー株式会社製;TSKgel(登録商標) G3000PW φ7.5mm×30cm 1本及び東ソー製;TSKgel(登録商標) α-M φ7.8mm×30cm 1本を直列に接続、RI:東ソー製;HLC(登録商標)-8320)に注入して測定した。注入したデキストランは26~42分間の範囲でカラムから溶出した。
カラム温度 : 40℃
検出器温度 : 40℃
溶媒 : 0.5M硝酸リチウム添加50体積%メタノール水溶液
流速 : 0.5mL/min
注入量 : 0.1mL
【0060】
各溶出時間tにおいて、ろ液とデキストラン水溶液1との示差屈折率の値から除去率を算出した。また、デキストランa3及びa4をそれぞれ500ppmずつ蒸留水に混合して、デキストラン水溶液2を調製した。さらに、デキストランa5~a7をそれぞれ500ppmずつ蒸留水に混合して、デキストラン水溶液3を調製した。これらデキストラン水溶液2及び3を、デキストラン水溶液1と同じ条件でGPCに注入して測定し、各溶出時間tにおける分子量を算出する、検量線を作成した。作成した検量線から、各溶出時間tにおける除去率を、各分子量における除去率に換算し、除去率が90%となる最小の分子量を、評価対象である多孔質膜の分画分子量とした。
【0061】
(v)多孔質膜の平均表面孔径
多孔質膜の表面をSEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製;S-5500)を用いて、3万~10万倍の倍率で観察し、無作為に選択した孔300個の面積をそれぞれ測定した。各孔の面積から、孔が円であったと仮定したときの直径を孔径としてそれぞれ算出し、それらの平均値を表面平均孔径とした。
【0062】
(vi)多孔質膜又は複合膜の純水透水性
多孔質膜が平膜状の場合には、有効膜面積30cmに対して評価を行った。また、多孔質膜が中空糸状の場合には、有効膜面積14cmに対して評価を行った。多孔質膜に、温度25℃、ろ過差圧10kPaの条件で、1時間にわたって蒸留水を送液して全量ろ過し、得られた透過水量(m)を測定し、単位時間(h)及び単位膜面積(m)当たりの数値に換算し、さらに圧力(50kPa)換算して算出した。なお、多孔質膜に加えて支持体を備える複合膜については、支持体を含めた複合膜全体について評価を行った。
【0063】
(vii)ポリマー溶液の吸光度
ポリマー溶液を光路長10mmのポリスチレン製セルに入れて、吸光度計(株式会社島津製作所製;UV-2450)にセットし、波長500nmにおける吸光度を測定した。
【0064】
(viii)ポリマー溶液の原料
実施例及び比較例で用いたポリマー溶液の原料を、以下にまとめる。
分岐ポリフッ化ビニリデン(以下、「分岐PVDF」)1(ソルベイ社製;Solef(登録商標、以下同様)9009、重量平均分子量18万Da、結晶化度44%、溶融粘度3kP、上記式1におけるa=0.33かつb=0.42、星型分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂(β=0.42))
分岐PVDF2(ソルベイ社製;Solef460、重量平均分子量73万Da、結晶化度38%、溶融粘度26kP、上記式1におけるa=0.31かつb=0.47、ランダム分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂(β=1.33))
分岐PVDF3(ソルベイ社製;Solef9007、重量平均分子量15万Da、結晶化度45%、溶融粘度2kP、上記式1におけるa=0.33かつb=0.42、星型分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂(β=0.43))
直鎖ポリフッ化ビニリデン(以下、「直鎖PVDF」)1(アルケマ社製Kynar(登録商標)710、重量平均分子量18万Da、結晶化度49%、溶融粘度6kP、上記式1におけるa=0.42かつb=0.16)
直鎖PVDF2(ソルベイ社製;Solef1015、重量平均分子量33万Da、結晶化度48%、溶融粘度22kP、上記式1におけるa=0.65かつb=0.065)
直鎖PVDF3(株式会社クレハ製;KF1300、重量平均分子量35万Da)
NMP(三菱ケミカル株式会社製)
セルロースアセテート(以下、「CA」)(株式会社ダイセル製;LT-35)
セルロースアセテートプロピオネート(以下、「CAP」)(イーストマンケミカル社製;CAP482-0.5)
ポリビニルピロリドン(以下、「PVP」)(BASF社製;K17)
【0065】
(実施例1)
25質量%の分岐PVDF1と、75質量%の直鎖PVDF1とを混合して「PVDF」として、NMP等を加えて120℃で4時間撹拌し、表1に示す組成比のポリマー溶液を調製した。25℃まで放冷したポリマー溶液の吸光度は、0.1であった。
次いで、密度0.42g/cmのポリエステル繊維製不織布を支持体として、その表面に、調製したポリマー溶液を、バーコーター(膜厚2mil)を用いて10m/minで均一に塗布した。ポリマー溶液を塗布した支持体を塗布から3秒後に、6℃の蒸留水に60秒間浸漬させて凝固させ、三次元網目構造を有する多孔質膜を形成した。
得られた多孔質膜を評価した結果を、表1及び図1に示す。上記式1におけるaの値は0.40、bの値は0.19であり、分離性能の指標である分画分子量と、透過性能の指標である純水透水性とは、いずれも優れた値を示した。
【0066】
(実施例2)
25質量%の分岐PVDF2と、75質量%の直鎖PVDF1とを混合して「PVDF」として、NMP等を加えて120℃で4時間撹拌し、表1に示す組成比のポリマー溶液を調製し、25℃まで放冷した。ポリマー溶液の吸光度は、0.3であった。
次いで、蒸留水の温度を15℃に変更した以外は実施例1と同様にして、三次元網目構造を有する多孔質膜を形成した。
得られた多孔質膜を評価した結果を、表1及び図1に示す。上記式1におけるaの値は0.40、bの値は0.18であり、分画分子量と純水透水性とは、いずれも優れた値を示した。
【0067】
(実施例3)
25質量%の分岐PVDF3と、75質量%の直鎖PVDF1とを混合して「PVDF」として、NMP等を加えて120℃で4時間撹拌し、表1に示す組成比のポリマー溶液を調製し、25℃まで放冷した。ポリマー溶液の吸光度は、0.04であった。
次いで、蒸留水の温度を30℃に変更した以外は実施例1と同様にして、三次元網目構造を有する多孔質膜を形成した。
得られた多孔質膜を評価した結果を、表1及び図1に示す。上記式1におけるaの値は0.41、bの値は0.18であり、分画分子量と純水透水性とは、いずれも優れた値を示した。
【0068】
(実施例4)
25質量%の分岐PVDF2と、75質量%の直鎖PVDF2とを混合して「PVDF」として、NMP等を加えて120℃で4時間撹拌し、表1に示す組成比のポリマー溶液を調製し、25℃まで放冷した。ポリマー溶液の吸光度は、0.4であった。
次いで、蒸留水の温度を15℃に変更した以外は実施例1と同様にして、三次元網目構造を有する多孔質膜を形成した。
得られた多孔質膜を評価した結果を、表1及び図1に示す。上記式1におけるaの値は0.41、bの値は0.18であり、分画分子量と純水透水性とは、いずれも優れた値を示した。
【0069】
(実施例5)
分岐PVDF2を「PVDF」として、NMP等を加えて120℃で4時間撹拌し、表2に示す組成比のポリマー溶液を調製した。25℃まで放冷したポリマー溶液の吸光度は、0.7であった。
次いで、蒸留水の温度を30℃に変更した以外は実施例1と同様にして、三次元網目構造を有する多孔質膜を形成した。
得られた多孔質膜を評価した結果を、表2及び図1に示す。上記式1におけるaの値は0.36、bの値は0.27であった。上記式4におけるβの値は1.21であり、多孔質膜が含むポリマーはランダム分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂と判定された。分画分子量と純水透水性とは、いずれも優れた値を示した。
【0070】
(実施例6)
分岐PVDF2に代えて分岐PVDF1を用いた以外は実施例5と同様にして、表2に示す組成比のポリマー溶液を調製した。25℃まで放冷したポリマー溶液の吸光度は、0.09であった。
次いで、蒸留水の温度を15℃に変更した以外は実施例1と同様にして、三次元網目構造を有する多孔質膜を形成した。
得られた多孔質膜を評価した結果を、表2及び図1に示す。上記式1におけるaの値は0.37、bの値は0.28であった。上記式4におけるβの値は0.63であり、多孔質膜が含むポリマーは星型分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂と判定された。分画分子量と純水透水性とは、いずれも優れた値を示した。
【0071】
(実施例7)
分岐PVDF2に代えて分岐PVDF3を用い、CAに代えてCAPを用いた以外は実施例5と同様にして、表2に示す組成比のポリマー溶液を調製した。25℃まで放冷したポリマー溶液の吸光度は、0.07であった。
次いで、蒸留水の温度を20℃に変更した以外は実施例1と同様にして、三次元網目構造を有する多孔質膜を形成した。
得られた多孔質膜を評価した結果を、表2及び図1に示す。上記式1におけるaの値は0.37、bの値は0.28であり、分画分子量と純水透水性とは、いずれも優れた値を示した。
【0072】
(実施例8)
38質量%の直鎖PVDF3と、62質量%のγ-ブチロラクトンを混合し、160℃で溶解して、製膜原液を調製した。この製膜原液を、85質量%γ-ブチロラクトン水溶液を中空部形成液体として随伴させながら二重管口金から吐出した。吐出した製膜原液を、口金の30mm下方に設置した温度20℃の85質量%γ-ブチロラクトン水溶液が入った冷却浴中で凝固させて、球状構造を有する中空糸状の支持体を作製した。
分岐PVDF2に代えて分岐PVDF3を用いた以外は実施例5と同様にして、ポリマー溶液を調製した。25℃まで放冷したポリマー溶液の吸光度は、0.07であった。
次いで、上記の中空糸状の支持体の外表面に、ポリマー溶液を、10m/minで均一に塗布した(厚み50μm)。ポリマー溶液を塗布した支持体を塗布から1秒後に、15℃の蒸留水に10秒浸漬させて凝固させ、三次元網目構造を有する多孔質膜を形成した。
得られた多孔質膜を評価した結果を、表2及び図1に示す。また、得られた多孔質膜をSEMで観察した拡大画像を図2および図3に示す。なお、図2は得られた多孔質膜の表面画像(6万倍)であり、図3は得られた多孔質膜の断面画像(1万倍)である。上記式1におけるaの値は0.37、bの値は0.28であり、分画分子量と純水透水性とは、いずれも優れた値を示した。
【0073】
(比較例1)
直鎖PVDF2を「PVDF」として、NMPを加えて120℃で4時間撹拌し、表3に示す組成比のポリマー溶液を調製した。25℃まで放冷したポリマー溶液の吸光度は、0.01であった。
次いで、蒸留水の温度を25℃に変更した以外は実施例1と同様にして、三次元網目構造を有する多孔質膜を形成した。
得られた多孔質膜を評価した結果を、表3及び図1に示す。上記式1におけるaの値は0.42、bの値は0.16であり、であり、分画分子量と純水透水性とは、いずれも実施例の結果と比較して劣るものであった。
【0074】
(比較例2)
直鎖PVDF2に代えて分岐PVDF2を用いた以外は比較例1と同様にして、表3に示す組成比のポリマー溶液を調製した。25℃まで放冷したポリマー溶液の吸光度は、0.1であった。
次いで、蒸留水の温度を40℃に変更した以外は実施例1と同様にして、三次元網目構造を有する多孔質膜を形成した。
得られた多孔質膜を評価した結果を、表3及び図1に示す。上記式1におけるaの値は0.31、bの値は0.47であった。上記式4におけるβの値は1.33であり、多孔質膜が含むポリマーはランダム分岐ポリフッ化ビニリデン系樹脂と判定された。分画分子量と純水透水性とは、いずれも実施例の結果と比較して劣るものであった。
【0075】
(比較例3)
分岐PVDF3に代えて直鎖PVDF1を用いた以外は実施例8と同様にして、表3に示す組成比のポリマー溶液を調製した。25℃まで放冷したポリマー溶液の吸光度は、0.03であった。
次いで、実施例8と同様にして、中空糸状の支持体の外表面に、ポリマー溶液を塗布して凝固させ、三次元網目構造を有する多孔質膜を形成した。
得られた多孔質膜を評価した結果を、表3及び図1に示す。また、得られた多孔質膜をSEMで観察した拡大画像を図4および図5に示す。なお、図4は得られた多孔質膜の表面画像(10万倍)であり、図5は得られた多孔質膜の断面画像(1万倍)である。上記式1におけるaの値は0.43、bの値は0.17であり、分画分子量と純水透水性とは、いずれも実施例の結果と比較して劣るものであった。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2018年12月26日出願の日本特許出願(特願2018-242771)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5