IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-繊維強化複合成形品およびその成形方法 図1
  • 特許-繊維強化複合成形品およびその成形方法 図2
  • 特許-繊維強化複合成形品およびその成形方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】繊維強化複合成形品およびその成形方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/10 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
C08J5/10 CFC
C08J5/10 CFD
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020542176
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2020007190
(87)【国際公開番号】W WO2021166241
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木谷 智麻
(72)【発明者】
【氏名】松本 賢
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 茂
(72)【発明者】
【氏名】土谷 敦岐
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/188020(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/191771(WO,A1)
【文献】特開2016-060870(JP,A)
【文献】特開2016-094611(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0247820(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0237751(US,A1)
【文献】反応性・非反応性 変性シリコーンオイル,日本,信越化学工業株式会社,2019年11月30日,p.2,https://www.silicone.jp/catalog/pdf/ModifiedSiliconeFluid_J.pdf,[2020年4月6日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B29C 39/00-39/44
B29C 43/00-43/58
B29C 45/00-45/84
B29C 70/00-70/88
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と樹脂組成物を硬化させてなる繊維強化複合成形品であって、前記樹脂組成物が内部離型剤を含み、前記内部離型剤が変性シリコーンオイルであって、前記変性シリコーンオイルの変性基がカルボキシル基、チオール基のいずれかを含み、前記変性シリコーンオイルの官能基当量が100g/mol以上、4,000g/mol以下であり、前記内部離型剤は前記繊維強化複合成形品の表面の所定領域において検出される前記内部離型剤由来のポアソン補正後のイオン強度を、前記所定領域にて検出されるポアソン補正後の総正2次イオン強度で規格化した値が0.1より大きいことを特徴とする繊維強化複合成形品。
【請求項2】
前記所定領域が成形体表面の300μm角領域4ヵ所であり、前記成形体表面の300μm角領域4ヵ所において検出される前記内部離型剤由来のポアソン補正後のイオン強度の平均イオン強度が750,000以上1,700,000以下であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化複合成形品。
【請求項3】
前記成形体表面の300μm角領域4ヵ所において各領域をそれぞれ128×128のピクセルに分けた際に、いずれの領域においても、ポアソン補正前の前記イオン強度が15以下であるピクセル数が全ピクセル数の25%未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維強化複合成形品。
【請求項4】
前記成形体表面の300μm角領域4ヵ所において各領域をそれぞれ128×128のピクセルに分けた際に、全ピクセルから検出される前記内部離型剤由来のポアソン補正前のイオン強度がいずれも12以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の繊維強化複合成形品。
【請求項5】
前記内部離型剤の添加量が前記樹脂組成物の0.1~5wt%であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の繊維強化複合成形品。
【請求項6】
前記樹脂組成物が熱硬化性樹脂組成物であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の繊維強化複合成形品。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂組成物がエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項に記載の繊維強化複合成形品。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の繊維強化複合成形品を得るための繊維強化複合成形品の成形方法であって、前記成形品の硬化成形時に30度以上200度以下で加熱することを特徴とする繊維強化複合成形品の成形方法。
【請求項9】
請求項に記載の繊維強化複合成形品の成形方法であって、前記成形品をプレス成形にて成形を行い、かつ金型に該繊維強化樹脂組成物を投入する際のチャージ面積に対する脱型時の下型側成形品表面積比率が300%以下となるように流動させることを特徴とする繊維強化複合成形品の成形方法。
【請求項10】
請求項またはに記載の繊維強化複合成形品の成形方法であって、キャビティおよび樹脂注入口を有する成形型を用いて強化繊維積層体および樹脂組成物をプレス成形するに際し、前記キャビティ内に前記強化繊維積層体を配置し、前記樹脂注入口から前記樹脂組成物を前記キャビティ内に注入するときに、樹脂注入開始直前に前記樹脂組成物を攪拌することを特徴とする繊維強化複合成形品の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料用離型剤を用いた繊維強化複合成形品およびその成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂材料は、高強度かつ高剛性であるという点から、航空機分野、自動車分野、スポーツやレジャー用途などの産業用といった幅広い分野で利用されている。このような繊維強化樹脂材料は、その用途・形状に合わせてレジントランスファー成形、オートクレーブ成形、引抜成形、圧縮成形、射出成形、フィラメントワインディング成形など様々な成形方法により成形が行われている。これらの成形法を選択した際、成形後に成形品を金型から脱型する必要があるため、離型剤が汎用されている。
【0003】
例えば、特許文献1では金型に対して離型剤(外部離型剤)を塗布(ないし噴霧)し、金型表面に離型剤の薄膜を形成することで成形品との離型性を確保している。一方、特許文献2のように、熱硬化性樹脂からなる樹脂組成物に予め離型剤(内部離型剤)を添加し、樹脂が金型内で硬化する際に成形品表面に離型剤成分がブリードアウトすることで金型との離型性を発現させる方法も採用されている。
【0004】
また、特許文献3のように、金型との離型性を容易にする液状エポキシ樹脂組成物、ならびに連続成形性に優れた液状エポキシ樹脂成形材料を提供するために液状シリコーンを添加する技術や、特許文献4のようにフッ素系離型剤を用いて優れた離型性を発現できる繊維強化複合材料を提供できるとしている例もある。
【0005】
また、特許文献5ではTOF-SIMSを用いて感光性樹脂層の表面にあるモノマー割合を規定することでカバーフィルムとの剥離性、密着性を適度に調整することができている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-274612号公報
【文献】特開2011-89071号公報
【文献】特開2015-151457号公報
【文献】特開2017-203107号公報
【文献】特開2010-66323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、特許文献1に示されるような外部離型剤を用いた成形方法では、成形を経るごとに金型表面との離型性が低下するため、金型表面に頻繁に離型剤を塗布(ないし噴霧)する必要があり、成形のコストや手間の増加につながる。特に、樹脂がエポキシ樹脂の場合、金属との接着性が強く、成形後に金型表面にバリとして樹脂が残留する場合があり、バリ除去に時間とコストを要するとともに成形品表面品位も損なわれるおそれもある。
【0008】
また、特許文献2に示されるような内部離型剤を樹脂組成物中に添加する手法では、離型剤によっては十分な離型性を確保するために、全エポキシ樹脂100質量部に対して最大で10数質量部と多量の離型剤を添加する必要がある。このような添加量で内部離型剤を添加した場合、成形時の離型性については十分である一方、成形品表面に形成される離型剤層が厚くなるため、成形した成形品を別部品(金属製あるいは繊維強化樹脂製)と接着する工程や塗装工程以降において、離型剤層が接合部や塗装部の剥離の原因につながる恐れがある。従って、離型剤層をサンディング等の前処理工程で十分に除去する必要があるが、離型剤層が厚くなるにつれて、この工程に多大な時間とコストを要することになる。また、添加量が多い場合、成形した繊維強化樹脂部品の力学特性の低下も懸念される。
【0009】
従って、必要最低量で金型と離型できる量の内部離型剤を添加する必要があるが、特許文献2に示されるように、採用する樹脂に応じて、多種多様な離型剤が候補として挙げられている一方で、これらの離型剤をどの程度添加すればよいか、十分な検討は行われていない。
【0010】
特許文献3に使用されているポリエーテル、エポキシ変性の液状シリコーンはエポキシ樹脂に対しての離型性発現効果は十分ではなく、薄肉や複雑形状を基本とした産業用途での成形において、外部離型剤を使用せずに少量添加にて成形品を得ることは難しい。
【0011】
また、特許文献4において用いられている離型剤はプリプレグやシートモールディングコンパウンド材料のように低温保管を必要とする材料に向けてブリード性を低くするために25℃以上100℃以下の融点、あるいは軟化点を持つとしている。このように常温で固体化する離型剤では、常温環境下で実施されることの多い成形後の塗装や接着工程前に研磨、脱脂の工程が不可欠となってしまう。さらには繊維強化材料中で固形になる場合、材料自体の硬度を上げてしまい、取り扱い性が落ちる原因や、成形後の力学特性を下げる原因になりかねない。また、離型性の良い状態に対しての指標がないために、外部離型剤を頻繁に塗布する必要がなくなることについて記載はあるが、外部離型剤の塗布なしに成形を実施する材料の提供には至っていない。
【0012】
また、特許文献5における感光性樹脂層はフィルムとの密着性を前提にしており、外部離型剤を使用せずに成形を行えるような繊維強化複合成形品に向けた技術の転用は難しい。またTOF-SIMSの分析にて得られたトータル二次イオン強度に対するモノマー二次イオン強度との割合は低いにも拘らず、対象としているモノマーの全体固形物に対する添加量は多量となっており、少量添加で離型性を発現する技術には至っていない。
本発明の課題は、上記に挙げた各種問題点に鑑みてなされたものであり、繊維強化樹脂材料の成形材料として、内部離型剤が添加された樹脂組成物について、少ない離型剤添加量で外部離型剤を使用しなくとも効果的に金型との離型性を発現させ、高い生産性を達成し、かつ高い力学特性を発現することができる繊維強化複合成形品およびその成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明の繊維強化複合成形品は、次の構成を有する。すなわち、
強化繊維と樹脂組成物を硬化させてなる繊維強化複合成形品であって、前記樹脂組成物が内部離型剤を含み、前記内部離型剤が変性シリコーンオイルであって、前記変性シリコーンオイルの変性基がカルボキシル基、チオール基のいずれかを含み、前記変性シリコーンオイルの官能基当量が100g/mol以上、4,000g/mol以下であり、前記繊維強化複合成形品の表面において以下の測定方法にて検出される前記内部離型剤由来のポアソン補正後のイオン強度を、同領域にて検出されるポアソン補正後の総正2次イオン強度で規格化した値が0.1より大きいことを特徴とする繊維強化複合成形品、である。
【0014】
該イオン強度の測定方法としてはTOF-SIMSを用いることとし、測定方法の詳細については次の通りとする。
【0015】
[測定法]
離型した成形品の表面300μm角領域についてTOF-SIMSを用い、正2次イオン測定を行う。1次イオン種はBi3++、1次イオン照射密度は2.55e+10ions/cmとする。イオン強度は検出された内部離型剤由来と考えられるイオン種の中で最大数のものを対象とし、得られた強度にポアソン補正を行い算出する。
【0016】
[規格化]
前記イオン強度を、同領域中にて検出された総正2次イオン強度に対し、ポアソン補正を行って算出した総正2次イオン強度で割り返して算出する。
【0017】
本発明の繊維強化複合成形品の成形方法は、次の構成を有する。すなわち、
前記繊維強化複合成形品を得るための繊維強化複合成形品の成形方法であって、前記成形品の硬化成形時に30度以上200度以下で加熱することを特徴とする繊維強化複合成形品の成形方法、である。
【0018】
本発明における繊維強化複合成形品は、前記成形体表面の300μm角領域4ヵ所において検出される前記内部離型剤由来のポアソン補正後のイオン強度の平均強度が750,000以上1,700,000以下であることが好ましい。
【0019】
また、前記成形体表面の300μm角領域4ヵ所において各領域をそれぞれ128×128のピクセルに分けた際に、4か所いずれの領域においてもポアソン補正前のイオン強度が15以下であるピクセル数が全ピクセル数の25%未満であることが好ましい。
【0020】
さらに前記成形体表面の300μm角領域4ヵ所において各領域をそれぞれ128×128のピクセルに分けた際に、全ピクセルから検出される前記内部離型剤由来のポアソン補正前のイオン強度がいずれも12以上であることが好ましい。
【0021】
本発明における繊維強化複合成形品は前記内部離型剤の添加量が前記樹脂の0.1~5wt%であることが好ましい。
【0022】
また、前記内部離型剤はシリコーンオイルであ
【0023】
また、前記変性シリコーンオイルの変性基がカルボキシル基、チオール基のいずれかを含
【0024】
さらに、前記樹脂組成物が熱硬化性樹脂組成物であることが好ましく、またさらにはエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂のいずれかであることがより好ましい。
【0025】
本発明の繊維強化複合成形品の成形方法は、前記成形品をプレス成形にて成形を行い、かつ成形前の面積に対する成形後の面積比率が300%以下となるように流動させることが好ましい。
【0026】
本発明の繊維強化複合成形品の成形方法は、キャビティおよび樹脂注入口を有する成形型を用いて強化繊維積層体および樹脂をプレス成形するに際し、成形型の前記キャビティ内に前記強化繊維積層体を配置し、前記成形型に設けられた樹脂注入口から前記樹脂組成物を前記キャビティ内に注入するときに、樹脂注入口開始直前に前記樹脂組成物を攪拌することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
このように本発明における繊維強化樹脂成形品は内部離型剤の添加量を少なくしても良離型性を発現することが可能であり、それにより外部離型剤を使用せずとも離型できる材料を提供できる。少量添加にて離型性を発現する指標が得られているため、高物性の成形品を取得でき、また次工程前に離型剤を除去する手間を抑えられるために高い生産性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明における樹脂組成物を成形した際の離型性を評価するための冶具の概略図である。
図2】本発明における良離型性を発現する繊維強化樹脂成形品の表面300μm角領域の離型剤由来イオン強度の分布を表したTOF-SIMSの測定図である。
図3】離型性の悪い繊維強化樹脂成形品の表面300μm角領域の離型剤由来イオン強度の分布を表したTOF-SIMSの測定図であって、図3(a)は300μm角領域のイオン強度が低いサンプルの測定図、図3(b)は300μm角領域のイオン強度が低く、分布も不均一なサンプルの測定図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0030】
図2は本発明における良離型性を発現する繊維強化樹脂成形品の表面300μm角領域の離型剤由来イオン強度の分布を表したTOF-SIMSの測定図であり、図3(a)は300μm角領域のイオン強度が低いサンプル、図3(b)は300μm角領域のイオン強度が低く、分布も不均一なサンプルの測定図である。
【0031】
本発明における繊維強化複合成形品は、強化繊維と樹脂組成物を硬化させてなる繊維強化複合成形品であって、前記樹脂組成物が内部離型剤を含み、前記内部離型剤が変性シリコーンオイルであって、前記変性シリコーンオイルの変性基がカルボキシル基、チオール基のいずれかを含み、前記変性シリコーンオイルの官能基当量が100g/mol以上、4,000g/mol以下であり、前記繊維強化複合成形品の表面において以下の測定方法にて検出される前記内部離型剤由来のポアソン補正後のイオン強度を、同領域にて検出されるポアソン補正後の総正2次イオン強度で規格化した値(以下、規格値)が0.1より大きいことを特徴とする。これは規格値が0.1以下であると測定領域内にてその他のイオンが占める割合が大きくなり、これはマトリックス樹脂組成物表面が離型面に露出していることを示しており、離型不良を起こすためである。また規格値は0.25以下であることが好ましく、0.22以下であることがさらに好ましい。規格値が0.25以下の場合、離型剤添加による物性低下のおそれはなく、また0.22以下の場合、離型後の工程にて成形品表面の離型剤を除去する際の負荷を小さくすることができる。
【0032】
また、本発明における繊維強化複合成形品は前記成形体表面の300μm角領域4ヵ所において検出される前記内部離型剤由来のポアソン補正後のイオン強度の平均強度が750,000以上1,700,000以下であることが好ましい。該イオン強度の平均強度が1,000,000以上1,300,000以下であることがより好ましい。イオン強度が上記好ましい下限以上の場合、該成形品表面に存在する離型剤量が適度で離型不良を起こし難く、また、バリの除去性が損なわれることがない。一方、上記好ましい上限以下の場合、離型後の工程にて成形品表面の離型剤を除去する際の負荷が小さく、また、金型表面の転写性が落ちるおそれはない。
【0033】
また、本発明における繊維強化複合成形品は300μm角領域4ヵ所において各領域をそれぞれ128×128のピクセルに分けた際に、4か所いずれの領域においてもポアソン補正前のイオン強度が15以下であるピクセル数が全ピクセル数の25%未満であることが好ましい。4か所いずれの領域においてもイオン強度が15以下であるピクセル数が上記好ましい範囲であると、離型剤が成形品表面上に絶対的に不足した状態を示す図3(a)のようなことはなく、離型剤が不均一に分布した状態を示す図3(b)のように離型性を下げることはない。
【0034】
また、本発明における繊維強化複合成形品は300μm角領域4ヵ所において各領域をそれぞれ128×128のピクセルに分けた際に、全ピクセルから検出される前記内部離型剤由来のポアソン補正前のイオン強度がいずれも12以上であることが好ましい。内部離型剤由来のポアソン補正前のイオンの強度が12以上であると、その成形品中に離型性の不足している表面領域が存在せず、成形時に離型不良を招くことはない。
【0035】
[樹脂組成物]
本発明における繊維強化複合材に含まれる樹脂組成物は熱硬化性樹脂組成物であることが好ましく、中でもエポキシ樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、シアン酸エステル樹脂などから選ばれることがより好ましく、中でも、力学特性の優れた繊維強化樹脂部材を得るためには、熱硬化性樹脂組成物と強化繊維の配合が容易であること、成形が容易であることから、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂がさらに好ましい。また、本発明における離型性の発現状態を必要とする材料としては、中でも接着性が高いことからエポキシ樹脂がより好ましい。エポキシ樹脂としては、分子内に複数のエポキシ基を有する化合物が用いられる。また、異なるエポキシ樹脂を2種類以上組み合わせて使用しても構わない。
【0036】
本発明における硬化剤としてはアミン系、酸無水物系いずれを用いても良い。
【0037】
本発明におけるその他の成分として耐熱性を上げるためにイソシアネート成分を用いても良い。イソシアネート化合物としては一分子中に平均して2個以上のイソシアネート基を有するものであれば特に限定されず、公知の脂肪族イソシアネートや芳香族イソシアネートが使用できる。ポリイソシアネート化合物等を単独あるいは2種以上混合して用いてもよい。
【0038】
またこれらのイソシアネートを用いる際には反応性の官能基を持つ内部離型剤を用いた際に、その官能基との反応性が適度であることが望ましく、特に芳香族イソシアネートを用いる際は脂肪族イソシアネートと比較して反応性が高いため、内部離型剤の添加量自体や官能基当量を増やす必要がある。
【0039】
本発明におけるその他の樹脂組成物成分として化学式(I)で表されるウレア化合物を用いても良い。
【0040】
【化1】
【0041】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、H、CH、OCH、OC、NO、ハロゲン、またはNH-CO-NRを表す。RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数1~8の炭化水素基、アリル基、アルコキシ基、アルケニル基、アラルキル基、またはRとRを同時に含む脂環式化合物を表す。)
本発明におけるその他の樹脂組成物成分として硬化促進剤を用いても良い。
【0042】
さらに、樹脂組成物には、要求される特性に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で他の充填材や添加剤を含有しても良い。例えば、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、滑材、帯電防止剤、可塑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤などが挙げられる。
【0043】
[強化繊維]
本発明における強化繊維は特に限定されず、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維など、さらにこれらの混在した強化繊維の使用が可能である。なかでも、好ましい高い機械特性の発現やその特性の設計のし易さ等の面からは、炭素繊維を含むことが好ましい。また、繊維の形態についても、連続繊維形態、短繊維形態など適宜選択可能である。
【0044】
[離型剤]
本発明の繊維強化樹脂材料用樹脂組成物に添加される内部離型剤としては、優れた離型性を有することからシリコーンオイルを用いると強化繊維への樹脂組成物の含浸性を良くすることができる。また強化繊維への含浸時に離型剤が固体の場合には漉し取られることによって偏り発生の問題を生じるが、離型剤が液体であることによってこの偏りを防ぐことができ、さらにはプリプレグやシートモールディングコンパウンドのように半硬化状態で取り扱う材料において、半硬化材料の硬度を柔らかく保つことができ、より好ましい。シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖ないし末端に官能基Rを導入した反応性を有する変性シリコーンオイルを用いる
【0045】
【化2】
【0046】
【化3】
【0047】
のような官能基Rすなわち変性基として、チオール基、カルボキシル基は特にエポキシ樹脂に対する反応性がアミノ基、カルビノール基変性と比較して低いことから少量の添加で離型性を発現できるだけのブリード量が確保できる。また、エーテル、エポキシ変性と比較すると相溶性が高く、マトリックス樹脂組成物中に良く分散することが出来るために成形品表面上に均一にブリードでき、良い離型性が安定して得られる。また、変性部位としては式(II)のように側鎖変性が一般的であり、樹脂組成物や成形条件に合わせて選択が可能である。式(I)のように両末端、もしくは末端変性であれば官能基当量のバラつきが小さく、マトリックス樹脂組成物内での挙動を制御し易いため、離型性の発現度合についてもバラつきが小さくなる。
【0048】
またシリコーンオイルの粘度としては調合時の測り取り易さから10mm/s以上、10,000mm/s以下であることが好ましい。シリコーンオイルの粘度は5,000mm/s以下であると、攪拌時に離型剤を微分散させ易く、表面にも均一に離型剤がブリードするためより好ましい。
【0049】
反応性を有する変性シリコーンオイルの官能基当量としては100g/mol以上、4,000g/mol以下である。官能基当量が100g/mol以上であると、分子内のシロキサン割合が適度で離型性を発現でき、また官能基当量が4,000g/mol以下であると、マトリックス樹脂組成物との相溶性が適度で樹脂組成物中で凝集せず、表面に均一にブリードすることが出来る他、成形品の外観に優れ、成形品の力学特性にも優れる。
【0050】
さらに、これらの内部離型剤の添加量は、樹脂組成物に対して0.1~5wt%であることが好ましい。樹脂組成物が前記熱硬化性樹脂組成物の場合には、これら熱硬化性樹脂組成物を主成分とする主剤成分に対して、0.5~5wt%であることが好ましい。ここで、主剤成分とは例としてエポキシ樹脂の場合、分子内に複数のエポキシ基を有する化合物を主成分とするものである。主剤成分は、当該樹脂化合物を単独または複数種を混合して用いることも可能であり、複数種混合する場合においては、主剤成分の総量に対して上述の範囲内の内部離型剤を添加することが、成形時に優れた離型性を発現する上で好ましい。この好ましい範囲の場合、繊維強化樹脂材料用樹脂組成物を成形時や成形後の工程において、離型剤成分が成形品表面に均一にブリードアウトすることが出来、金型からの離型性に優れ、成形品表面に必要以上にブリードアウトせず成形品の接着や塗装などの工程に障害とならない。また、内部離型剤を添加する相手に2液系の樹脂組成物を用いる際には主剤、硬化剤のいずれに添加しても良く、また主剤と硬化剤を混合した後に添加しても良い。さらに、添加する際の温度は離型剤と樹脂組成物の反応可能温度を下回り、樹脂組成物、離型剤が攪拌混合可能な粘度となる温度であることが好ましい。
【0051】
[繊維強化複合成形品]
本発明の繊維強化複合成形品は、樹脂組成物に対する強化繊維の体積割合が10~90%であることが好ましい。体積割合が10%以上であると、脱型時に成形品にかかる荷重に耐えて破壊され難くなり、90%以下であると、成形品の表面に存在する樹脂組成物および離型剤の絶対量が適度に保たれ、脱型不良の原因とならない。
【0052】
さらに、本発明の繊維強化複合成形品の硬化成形時の成形温度は30度以上200度以下であることが好ましい。成形温度が30度以上であると成形時の樹脂組成物粘度が適度に低い状態で硬化反応が進むことで離型剤のブリードアウトが促進され、また、成形温度が200度以下であると速硬化の樹脂組成物でも成形時間が短時間となりすぎることなく、離型剤のブリードアウトが促進される。
【0053】
またさらに、本発明の繊維強化複合成形品はプレス成形により成形され、かつ金型に該繊維強化樹脂組成物を投入する際のチャージ面積に対する脱型時の下型側成形品表面積比率が300%以下となるように流動させることが好ましい。離型剤の処理時間の削減を要求される高サイクル成形は多くの場合プレス成形が選択されるが、この時に前記面積比率が300%以下の流動率にて成形を行うと、流動に偏りが出来難くなり、樹脂組成物やそこに含まれる離型剤の偏りが生じ難いことで離型不良を起こし難い。
【0054】
また、本発明の繊維強化複合成形品を成形型のキャビティ内に強化繊維積層体を配置し、前記成形型に設けられた樹脂注入口から前記樹脂組成物を前記キャビティ内に注入する方法で得る際には、注入口開始直前に樹脂組成物を攪拌する。これは内部離型剤を添加した1液、もしくは2液の樹脂組成物において内部離型剤が樹脂組成物内でよく分散した状態で成形を実施することによって離型性発現効果のバラつきが小さくなるためである。
【0055】
さらに、本発明の繊維強化複合成形品はプリプレグやシートモールディングコンパウンドのような中間基材を経て成形されるような、樹脂組成物中の離型剤の制御がより難しい材料から得られる場合であってもその効果を発現することができる。このように中間基材を元に成形される場合、成形までの時間は硬化前の樹脂組成物の調合後3か月以内であることが好ましい。これはプリプレグやシートモールディングコンパウンドのような半硬化状態で長期間保管することを要求される材料では、マトリックス樹脂中の離型剤成分が経時的に凝集してしまうために、時間が経つにつれて表面への均一なブリードが困難になるためであり、さらに良い離型性を担保するためには調合後2か月以内であることが好ましい。
【0056】
[離型剤由来イオンの表面状態の確認方法]
本発明における離型剤の繊維強化複合成形品の表面における分布状態はTOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)を用いて確認する。離型した成形品の表面300μm角領域4ヵ所について、1次イオン種はBi3++、1次イオン照射密度は2.55e+10ions/cmとして正2次イオン測定を行うこととする。イオン強度は検出された内部離型剤由来と考えられるイオン種の中で最大数のものを対象とし、得られた強度にポアソン補正を行い、算出する。
【0057】
このとき行うポアソン補正とは、TOF-SIMSにおける不感時間に検出されるべきイオン強度を補うものであり、補正前に比べて補正後は強度が増加する。
【0058】
また、イオン強度の規格化については、同じくポアソン補正を行った全ての正2次イオン強度を足し合わせた値である総正2次イオン強度で割り返して算出する。
【0059】
またさらに、離型した成形品の表面300μm角領域4ヵ所において検出された前記内部離型剤由来のイオン強度を128×128のピクセルに分けて図示し、検出強度毎にピクセル数をカウントする。
【0060】
なお、成形品の表面300μm角領域の4ヵ所は、互いに隣接した箇所である必要はなく、離間した位置にある領域を任意に選択することができる。
【実施例
【0061】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。成形品表面におけるイオン強度、分布状態については分析の都合上、強化繊維を含まない樹脂板にて計測した。この時、以下の結果は強化繊維を含む繊維強化複合成形品においても同様の結果になると考えられる。また、イオン強度を測定した際の樹脂組成物成形品と同様の組成を有する樹脂組成物を用いて繊維強化複合成形品を成形し、離型力を測定し、これらの結果を合わせて表1から6に示す。尚、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
[樹脂材料]
各実施例、比較例の樹脂組成物を得るために、以下の樹脂組成物原料を用いた。なお、表1から表6中の樹脂組成物欄における各成分の数値は含有量を示し、その単位は、特に断らない限り「質量部」である。
【0063】
(A)エポキシ樹脂
“エポトート(登録商標)”YD-128(新日鐵住金化学(株)製):ビスフェノールA型樹脂
“jER(登録商標)”154(三菱化学(株)製):フェノールノボラック型エポキシ樹脂
(B)硬化剤
“jERキュア(登録商標)”DICY7(三菱化学(株)製):ジシアンジアミド
HN-5500(日立化成(株)製):3оr4-メチル-ヘキサヒドロ無水フタル酸
(C)その他成分
(C-1)イソシアネート
“ルプラネート(登録商標)”M20S(BASF INOAC ポリウレタン(株)製):ポリメリックMDI(ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート):複数のMDIをメチレン基で連結した構造を有するもの
“ルプラネート(登録商標)”MI(BASF INOAC ポリウレタン(株)製):モノメリックMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)
(C-2)ウレア化合物
“Omicure(登録商標)”24(PTIジャパン(株)製):2,4-ビス(3,3-ジメチルウレイド)トルエン
(C-3)促進剤
テトラブチルアンモニウムブロミド(東京化成工業(株)製)
・“キュアゾール(登録商標)”1,2DMZ(四国化成(株)製):1.2-ジイミダゾール
(D)離型剤
KF-2001(信越シリコーン(株)製):チオール変性シリコーンオイル
X-22-3701E(信越シリコーン(株)製):カルボキシル変性シリコーンオイルKF-864(信越シリコーン(株)製):アミン変性シリコーンオイル
KF-96-1000CS(信越シリコーン(株)製):未変性シリコーンオイル
X-22-343(信越シリコーン(株)製):エポキシ変性シリコーンオイル
“DOWSIL(登録商標)” L-7002 Fluid(ダウ・東レ(株)製):エーテル変性シリコーンオイル
“DOWSIL(登録商標)” BY 16-750 Fluid(ダウ・東レ(株)製):カルボキシル変性シリコーンオイル
(1)樹脂組成物の調整
表1から表6に示す配合割合によって、常温環境下で(A)から(D)を混合し、実施例1~12および比較例1~5の樹脂組成物を調整し、さらに実施例1~10および比較例1~5においては40℃雰囲気下で24時間保持した。
【0064】
(2)硬化成形
表1、表2、表3、表5、表6に挙げた実施例1~10および比較例1~5においては調整後増粘した樹脂組成物を2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み2mmになるように設定したモールド中に離型フィルム(“ルミラー(登録商標)“高平滑グレード)に挟む形でチャージし、プレス成形にて10MPa、140℃下5分の条件にて樹脂組成物硬化板を得た。表4に挙げた実施例11、12においては同じく厚み2mmになるように設定したモールド中に離型フィルム(“ルミラー(登録商標)“高平滑グレード)に挟む形で樹脂組成物を注入し、140℃下2時間の条件にて硬化させ、樹脂組成物成形板を得た。
【0065】
(3)TOF-SIMSによる樹脂成形品表面の離型剤由来イオン検出方法
表1から表4の樹脂組成物成形板の小片をホルダーに保持して、TOF-SIMS装置(TOF.SIMS 5:ION-TOF社製)により非破壊表層分析を実施した。測定条件は、1次イオン種をBi3++、1次イオン照射密度を2.55e+10ions/cmとした。
【0066】
(4)離型性評価
(試験片作成)
表1から表6の樹脂組成物を用いて、離型性評価を実施した。離型性評価には、図1(a)に示す測定治具1を用いた。測定治具1は平面視円状で、上側冶具2と円柱状の凸部4を有する下側冶具3から構成される。この下側冶具3に対して、凸部4に係合するような円柱状の穴部5を有する円柱状の金属片6ならびに上側冶具2を載置し、上側冶具2と下側冶具3を締結した。このように組み立てられた測定冶具1を実施例1~10、比較例1~5については約140℃に予熱後、金属片6表面に樹脂組成物7を配置するとともに、プレス機にて約10MPaの圧力によって約140℃×5分間の条件で加熱硬化し、金属片に樹脂組成物の硬化物8が接着した評価試験片9を作成した。実施例11、12については治具を140℃に予熱後、樹脂組成物7を測定治具1の金属片6上に注入し、オーブンにて140℃×2時間の条件で加熱硬化し、同じく金属片に樹脂組成物の硬化物8が接着した評価試験片9を作成した。なお、樹脂組成物の硬化物8を成形する際には、離型力測定時の樹脂組成物の硬化物の補強のため、炭素繊維織物(東レ製:BT70-30)一枚(15mm角)を樹脂組成物7と共に金属片6上に配置して成形を行った。また、評価試験片9を成形する際には、上側冶具2に樹脂組成物の硬化物8が接着し、離型力を過大に見積もることがないようにシリコーン製のゴム紐10を上側冶具2の壁面に沿って配置した。
【0067】
(離型力測定試験)
離型性評価は図1(b)に示すように、樹脂組成物の硬化物8を成形後、下側冶具3ならびにゴム紐10を取り外した状態で金属片6の穴部5に同径の円柱体を挿入すると共に、樹脂組成物の硬化物8を金属片6から剥離させるよう円柱体11に荷重Pを付加し、そのときの最大荷重を樹脂組成物の硬化物8の面積で割り返した値を離型力とした。さらに、試験後の金属片6ならびに樹脂組成物の硬化物8の破面を目視観察すると共に、金属片6表面に残った樹脂バリ除去性についても評価した。なお、測定はInstron社製電気機械式万能材料試験機Instron5565を用いて行った。離型性の評価基準は次のとおりとし、破壊モードを括弧内に付記した。
優:離型力が0.2MPa以下となる
良:離型力が0.2MPaより大きく0.3MPa以下となる
可:離型力が0.3MPaより大きくなる
不可: 母材破壊が進行し、成形品は一切離型しない
また、樹脂バリ除去性の評価基準は次のとおりとした。
優:発生したバリはウェスでこするだけで除去可能
良:発生したバリはプラスチックスクレーパーを用いれば除去可能
可:発生したバリは金属スクレーパーを用いれば除去可能
不可:発生したバリは研磨を実施すれば除去可能
(離型剤除去性評価)
離型剤の除去性は離型可能であった実施例1~12の離型後の樹脂組成物の硬化物8の離型面に対し、以下の通りに評価した。
優:アセトンを含ませたウェスで脱脂すれば水性ペンで文字が書ける
良:一度研磨してからアセトンを含ませたウェスで脱脂すれば水性ペンで文字が書ける
可:一度研磨してからSi洗浄剤(HY1100(ダウ・東レ(株)製)を含ませたウェスで脱脂すれば水性ペンで文字が書ける
不可:離型不可のためサンプルが得られず評価が出来ない
実施例1~6では樹脂組成物7に添加されている離型剤の種類、および添加量を変更し、規格化したイオン強度を0.13から0.20の範囲、300μ角中のイオン強度を800,000から1,700,000の範囲、イオン強度15以下のピクセル割合を0%、全ピクセル中の最低イオン強度を12以上となるように設定した。それぞれの水準について離型性を確認したところ、いずれも離型は可能であり、実施例1から3、5、6では、離型力は小さくなり樹脂組成物の硬化物破壊が抑制された。また特に実施例1、5では樹脂バリが発生せず、実施例1以外では離型剤の除去性も特に優れていた。
【0068】
実施例7~10では実施例1~6と異なる配合の樹脂組成物処方を使用し、離型剤を変えず規格化したイオン強度を0.14から0.18の範囲、300μ角中のイオン強度を750,000から1,600,000の範囲、イオン強度15以下のピクセル割合を0%、全ピクセル中の最低イオン強度を11以上となるように設定した。それぞれの水準について離型性を確認したところ、いずれも離型は可能であり、実施例7~9では、離型力は小さくなり樹脂組成物の硬化物破壊が抑制され、実施例7以外では離型剤の除去性も特に優れていた。
【0069】
実施例11、12では実施例1~10とは異なる樹脂組成物を使用し、離型剤添加量を変更して、規格化したイオン強度を0.17から0.22の範囲、300μ角中のイオン強度を1,200,000から1,300,000の範囲、イオン強度15以下のピクセル割合を0%、全ピクセル中の最低イオン強度を17以上となるように設定した。それぞれの水準について離型性を確認したところ、いずれも離型は可能であり、界面破壊が進行する上、樹脂バリが発生しなかったが、実施例11ではブリードした離型剤を拭き取
るためにアセトンを含ませたウェスを用いて脱脂を行う必要があった。
【0070】
次に、比較例1~5では実施例1~10に使用した樹脂組成物を記載の配合比で配合し、離型剤の種類、および添加量を変更して、規格化したイオン強度を0.09以下、300μ角中のイオン強度を300,000から1100,000の範囲、イオン強度15以下のピクセル割合を25%以上、全ピクセル中の最低イオン強度を12未満となるように設定した。それぞれの水準について離型性を確認したところ、いずれも離型は不可であり、樹脂バリ除去性も悪かった。また、離型不可であったことから離型面の離型剤除去性の評価は行えなかった。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【産業上の利用の可能性】
【0077】
本発明の繊維強化樹脂材料用樹脂成形品は、航空機用途、自動車用途、スポーツ用途、その他一般作業用途向けに良離型性を有することで高い生産性を提供できるものである。
【符号の説明】
【0078】
1 測定冶具
2 上側冶具
3 下側冶具
4 凸部
5 穴部
6 金属片
7 樹脂組成物
8 樹脂組成物の硬化物
9 離型性評価試験片
10 シリコーン製ゴム紐
11 円柱体
図1
図2
図3