(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】粘弾性界面活性剤流体組成物、及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C09K 8/035 20060101AFI20240214BHJP
C09K 8/68 20060101ALI20240214BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240214BHJP
E21B 43/25 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C09K8/035
C09K8/68
C09K3/00 103H
E21B43/25
(21)【出願番号】P 2020556226
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(86)【国際出願番号】 US2019027268
(87)【国際公開番号】W WO2019200283
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-07
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】アドビンキュラ リゴバルト シー
(72)【発明者】
【氏名】三村 邦年
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0168443(US,A1)
【文献】特表2019-521204(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0362495(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0048548(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0153720(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 8/035
C09K 8/68
C09K 3/00
E21B 43/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤と、
対イオンと、
修飾ナノ粒子と、
を含み、
前記界面活性剤が、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムであり、
前記対イオンが、サリチル酸ナトリウム、及び、ナフタレン-2,3-ジカルボン酸ナトリウムから選択される少なくとも一つであり、
前記修飾ナノ粒子が、修飾シリカナノ粒子、
及び、修飾グラフェンナノ粒
子から選択される少なくとも一つである、
粘弾性界面活性剤流体組成物。
【請求項2】
前記修飾ナノ粒子の平均粒径が0.1nm~1000nmである請求項1に記載の粘弾性界面活性剤流体組成物。
【請求項3】
更に、添加剤を含む請求項1に記載の粘弾性界面活性剤流体組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の粘弾性界面活性剤流体組成物を、坑井刺激法、仕上げ流体、掘削流体、水圧破砕流体、酸刺激法、及び、石油増進回収法から選ばれる少なくとも一つに使用する粘弾性界面活性剤流体組成物の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坑井刺激法、仕上げ流体、掘削流体、水圧破砕流体、酸刺激法、及び、石油増進回収法(EOR)や他の油田流体として使用可能な粘弾性界面活性剤流体組成物、及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
破砕処理中の破砕流体およびプロパント輸送体としては、ポリマー増粘剤が使用されていた。前記ポリマー増粘剤としては、グアーおよびポリアクリルアミドに基づくゲルが用いられていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ポリマー増粘剤に対し、近年では、これらプロパント輸送体として、粘弾性界面活性剤(VES)ベースの破砕流体(以下、“VES流体”と称することがある。)が用いられている。VES流体の粘度は、水溶液または乳濁液中の界面活性分子の自己組織化により作り出される。界面活性剤は、会合および配向して、リオトロピック液晶配列の球状、棒状形状および両連続構造を作り出す。これらの柔軟性のある、高次ミセルのもつれがより高い粘度を溶液にもたらす。水圧破砕法(以下、“HF”と称することがある。)が長年の間掘削の仕上げ工程において使用され、流体がしばしば曝露される高いポンプ速度、ずり応力、ならびに高温および高圧に耐えることができる様々な流体が長年にわたって開発されてきた。
【0004】
現在使用されている破砕流体の大部分は、水性ベースのゲル、乳濁液、または発泡体である。掘削の仕上げ段階(探究および生産)である水圧破砕法において、浸透性の保持およびリークオフ(流体損失)制御が最も重要な必要条件のうちの2つである。当該技術の主要ゴールは、最終的には、坑井の生産性にダメージを与えない、またはこれを低下させさえしないようなプロパント充填の高いコンダクティビティ(conductivity)を達成することである。
【0005】
架橋ゲルの使用は水圧破砕法作動において、また掘削でも最も有力な粘性化媒質である。架橋ゲルは良好なリークオフ制御を提供するが、これらは、特に導入されたすべてのポリマーが分解されず、または流体が弱い流体損失性能を有する場合、プロパント充填の浸透性(permeability)の保持に影響を与えるという点で不利である。VES流体は、水圧破砕法流体としていくつかの会社(Schlumberger、Baker Hughesなど)により報告され、いくつかの特許に出現してきた。VESはポリマーを含まない組成物であり、粘度は高次ミセル構造に向けて濃度を制御することによって主に達成されるので、これらは容易に回収することができ、多くの場合、制御のためのブレーカーを必要としない。加えて、VESは破砕の高さの成長を最小化し、水圧破砕法作動に対して有効な生産性の達成の最終ゴールである有効破砕の長さを増加させることができる。
【0006】
VES流体では、流体の粘度よりむしろ弾性および構造が主な原動力である。重要な利点は、VES流体が、減少した摩擦圧力で、より低い粘度でプロパントを効率的に輸送することができ、よって、より長い破砕長さ(水平方向)、より良い破砕の幾何学的制御、より深部の層に向けて、流体を穴の下方へポンプ供給するためのエネルギーを減少させることができる。VES技術の他の可能な使用として、濾過ケーキの除去、選択的なマトリックス転用、浸透性の保存、およびコイル状管類の洗浄が挙げられる。しかし、VESに関する技術には、例えば、1)高温度での安定性の低さ、2)複雑なブライン条件または高度に塩飽和した環境での安定性の低さ、3)他の化学成分および添加剤と共に一度配置した場合の粘度-弾性の制御の欠如などについて改善点がある。
【0007】
油田用途のためのVES技術の作動については、例えば、いくつかの界面活性剤の型および構造を、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、および両性イオン界面活性剤を含むVES流体を配合するために使用することができる。高温での安定性およびブラインの化学的安定性を有する安定したミセルを作り出す必要がある。3%~8%の範囲の濃度で有用なレオロジーを作り出す界面活性組成物は、要求の厳しい用途に対して対費用効果が高いとみなすことができる。正確な界面活性剤濃度は、坑底温度および所望の流体粘度に依存する。加えて、VES流体は、液体炭化水素への曝露または貯留層ブラインでの希釈により水の様な粘度にまで破壊され得る。したがって、粘度の制御は、水圧破砕法作動のある特定の段階において制御のために合理的に導入される「ブレーカー」を用いて達成することができる。封入されたブレーカーを開発することによって、例えば、正しい深さまたはプロセス段階において、特に破壊プロセスを補助するブラインも液体炭化水素もない乾燥ガス坑井において、粘度の変更を可能にすることができる。VESおよびブレーカー制御の有効性は、プロパント充填コンダクティビティ試験および保持されたプロパント充填浸透性のモニタリングを介して測定することができる。これは、破砕伝播の長さ、地質学的な坑井の結合性(マトリックスアシダイジングおよび砂利の充填輸送)、層の保存に対する影響のモニタリングまで拡張することができ、また、トレーサー分析を用いて現場で増大することもできる。VESおよび水圧破砕法作動でモニタリングされる別の重要な特性は流体損失特性である。浸透性が制御された層へと流体流を加圧することによって(コアフラッディング実験を用いて実験室でシミュレートした)、コアへと流動する累積的液量を、時間および全流体の損失係数と浸透性との対比の関数として測定することができる。次いで、VES系に対する流体損失係数を他の水圧破砕法架橋ポリマーと比較することができる。濾過ケーキの形成が予想される組成物において、濾過ケーキ残留物の量を重量測定法で同様に測定して、この性能を定量化することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<1> 界面活性剤と、対イオンと、修飾ナノ粒子と、を含む、粘弾性界面活性剤流体組成物。
<2> 前記修飾ナノ粒子が、修飾シリカナノ粒子、修飾クレイナノ粒子、修飾グラフェンナノ粒子、及び、修飾ナノセルロースナノ粒子から選択される少なくとも一つである、前記<1>に記載の粘弾性界面活性剤流体組成物。
<3> 前記修飾ナノ粒子の平均粒径が0.1nm~1000nmである前記<1>に記載の粘弾性界面活性剤流体組成物。
<4> 更に、添加剤を含む前記<1>に記載の粘弾性界面活性剤流体組成物。
<5> 前記<1>に記載の粘弾性界面活性剤流体組成物を、坑井刺激法、仕上げ流体、掘削流体、水圧破砕流体、酸刺激法、及び、石油増進回収法から選ばれる少なくとも一つに使用する粘弾性界面活性剤流体組成物の使用方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規な粘弾性界面活性剤流体組成物及びその使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の粘弾性界面活性剤流体組成物について実施形態を用いて説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものでない。
【0012】
≪粘弾性界面活性剤流体組成物(VES流体)≫
本実施形態の新規なVES流体は、油田用途に好適であり、例えば、高い水圧破砕流体性能を有しており、さらに他の刺激法、掘削流体、酸処理、石油増進回収法(EOR)、および粘性化した媒質を必要とする他の油田用途にも有用である。本実施形態のVES流体は、修飾ナノ粒子、界面活性剤、対イオンを基礎配合物として含有し、必要に応じて、共界面活性剤(co-surfuctant)なども含めることができる。また、対費用効果や性能を増強するための、高分子電解質、ナノ粒子、コロイド状粒子、機能添加剤、耐食剤、スケール防止剤、粘度制御剤、抗酸化剤などの添加剤を含有することができる。
【0013】
上述のように、本実施形態のVES流体は、油田操業における様々な流体用途に適用可能であり、粘度、浸透性、密度の制御が可能なVES流体である。VES流体は、現地作業に対して最適化された特性が特定の圧力(P)、量(V)、および温度(T)の条件(PVT条件)について達成されるように、特定の組成比(濃度)および混合の順序に基づき、溶解、希釈、および分散法により調製することができる。
以下、本実施形態のVES流体について、界面活性剤、対イオン及び修飾ナノ粒子について説明し、続いて各種添加剤について説明する。
【0014】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、粘弾性界面活性剤として知られる界面活性剤を用いることが好ましい。粘弾性界面活性剤を用いると、他の界面活性剤に比して低濃度でVES流体を調製することができる。また、界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性イオン界面活性剤などのイオン性界面活性剤や、ノニオン性界面活性剤を用いることができる。これらは、ひも状ミセル(worm-like micelles)や、層状(lamellar)及び小胞形成(vesicle formation)用に最適化された特定の幾何学的パッキングパラメーター(specific geometric packing parameter)を有するように設計されていてもよい。
【0015】
本実施形態に用いられる界面活性剤として望ましい特性としては以下を挙げることができる。但し、本発明は以下の特性を奏するものに限定されるものではない。
・粘度値を維持し、透明性または曇点を保持するための高温での安定性。高濃度、塩の添加、およびアルコール共界面活性剤の添加の作用が安定化について許容できること
・新鮮な水、または海水までのブライン条件における安定性
・グアーまたはキサンタンガム増粘剤に対して、十分なまたは同等の、粘性媒質中でのプロパントの安定性を有すること
・VES流体損失、すなわち、より高い浸透性と共に、より低いリークオフおよびリークオフ速度を達成できること
・水圧破砕法(HF)に対して理想的なVES流体の望ましい特徴の一つは、広範囲な温度の全域で、特に一番高い温度範囲で、およびコストを削減する低い界面活性剤充填量で、粘度が高いこと
・2種またはそれより多くの異なる界面活性剤、好ましくはアニオン性または非イオン性界面活性剤を含有することができるHF流体は、これにより貯留層岩を水で湿らせておくことで層を介したより良い流体移動性が得られる。
【0016】
界面活性剤としては、球状ミセル、ひも状ミセル、円柱状ミセル又は二重層を形成するもののいずれを用いてもよいが、粘弾性の観点から、ひも状ミセル、又は、円柱状ミセルを形成する界面活性剤が好ましい。
【0017】
界面活性剤の例としては以下が挙げられ、その中でも、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(“CTAB”、又は、“塩化セトリモニウム”ともいう)を好適な例の一つとして挙げることができる。
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
VES流体を水圧破砕法流体として用いる場合、その有効量(浸透限界を決定する)で使用されることが好ましい。すなわち、他の成分と組み合わせた最小の量でも、層温度において、150℃で、または150℃超でも、層の所望の程度の破砕を達成するのに十分高い粘度を提供するのに十分発揮できる量で用いるのが好ましい。プロパント(支持材、例えば、砂)がVESと一緒に使用された場合、層破砕にこれらが配置されている間、界面活性剤の量は懸濁液中でプロパント粒子を維持するのに十分低い比重であることが好ましい。VES流体中の界面活性剤の使用量は、使用することになる正確な量および特定の界面活性剤、または特定のプロパントに対する界面活性剤の組合せ(砂、セラミック、樹脂コーティングしたもの)は、所望の粘度、層の温度、溶液の所望のpH、ならびに他の要因、例えば、もしある場合には、破砕流体組成物に使用されている特定の溶解性塩(複数可)の濃度のようなものに応じて異なることになる。界面活性剤の濃度は通常、破砕流体組成物の総重量に対して、約1~約15重量%、好ましくは約3~約10重量%の範囲である。スラリーの充填高さの単純な測定手順を初期に使用することによって、任意の特定のセットのパラメーターに対する最適条件を決定することができる。これは、約20~約60メッシュの粒径を有する砂利、砂、ボーキサイト、ガラスビーズなどを含めた適切なプロパントに対して決定される。得られた流体スラリーは、スラリー1ガロン当たり、約1ppgという低い重量から約20ppgまでの範囲、好ましくは約5ppg~約20ppgの範囲の重量の微粒子物質を有してもよい。“ppg”は破砕流体のガロンに対するプロパントのポンドである。pH制御、腐食およびスケーリング阻害剤、流体損失添加剤などを含むモデル添加剤の存在と共にこの特性を決定することできる。
【0022】
(対イオン)
対イオンは、上述の界面活性剤との関係で好ましいものを適宜選定することができる。対イオンの種類としては特に限定されるものではないが、例えば、サリチル酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、臭化カリウム、ナフタレン-2,3-ジカルボン酸ナトリウム(NaNDC)等が挙げられる。
【0023】
界面活性剤と対イオンとの好ましい組み合わせとしては、CTABとサリチル酸ナトリウムとの組み合わせ、CTABと塩化カルシウムとの組み合わせ、CTABとNaNDCとの組み合わせ等が挙げられる。
【0024】
VES流体中の、対イオンの量としては特に限定されるものではなく、界面活性剤の含有量とのバランス等の観点から、使用される他の材料との関係において適宜選定することができる。
【0025】
以下に、界面活性剤と対イオンとの組み合わせの例を示すが、本発明は以下の組み合わせに限定されるものではない。なお、各界面活性剤と対イオンに付される重量%は、VES流体の全質量に対する割合を示す。
【0026】
・3重量%CTABと0.5重量%サリチル酸ナトリウムとの組み合わせ
・6重量%CTABと1重量%サリチル酸ナトリウムとの組み合わせ
・2.1重量%CTABと30重量%塩化カルシウムとの組み合わせ
CTABとサリチル酸塩は、高い温度性能、低濃度、および塩の不在(ハロゲン化物対イオンにおいて必要)という点から、好ましい組み合わせの一例となる。
また、CaCl2(塩化カルシウム)を用いる場合その濃度(最低使用量)は、界面活性剤に対して、20重量%以上であることが好ましい。
【0027】
さらに、NaNDCは強い対イオンであることが報告されている。NaNDCはCTABとの間で強く結合することができ、このようなイオン間の強い結合は、低濃度のナトリウム塩中でのCTABの紐状ミセルの形成を増進させることができる。また、NaNDCの濃度はまたミセルのミクロ構造を制御するためのパラメーターとなる。このため、NaNDC濃度が増加すると、0.6重量%濃度で、CTAB溶液の粘度を増加させることができ、1~2重量%であることが好ましい。
【0028】
(修飾ナノ粒子)
本実施形態のVES流体において、修飾ナノ粒子の使用は、他の種類のVES調製方法との差別化において、様々な添加剤と他の組成物に含まれる要素との相乗的挙動の調整において、重要な要素の一つとなる。修飾ナノ粒子とは、未修飾のナノ粒子の粒子表面に対し、物性変更、官能基の導入、機能物質の導入などがおこなわれたナノ粒子を意味する。VES流体が修飾ナノ粒子を含んでいるとVES流体の粘弾性などの安定性を高めることができる。
本実施形態のVES流体は、界面活性剤と対イオンと修飾ナノ粒子とが、自己組織化により高次ミセルを有する複合体を生成することができる。複合体を形成したVES流体は、同等のレオロジーの純粋なVES流体のリークオフ速度より低いリークオフ速度(流体損失特性)を優先的に有すると推測され、有意な利点をもたらすことができると推測される。また、本実施形態のVES流体を使用することによって、純粋なVES流体と比較してより高い浸透性のある層を破砕することができる。これは恐らく炭化水素との相互作用によるゲル分解後のことである。新規の複合体VES流体の洗浄性能は、低濃度の線状ゲルポリマー破砕流体に対して観察されたものと同様であるか、またはより良い可能性があり、すなわち洗浄は許容できるものであり、より高い濃度の線状ポリマー流体または共有結合による架橋ポリマー流体よりも優れている。
【0029】
修飾ナノ粒子の粒径は特に限定されるものではないが、例えば、0.1nm~1000nmとすることができ、例えば、1nm~500nm、或いは1nm~100nmとすることができる。なお、本実施形態において修飾ナノ粒子の粒径は、キュムラント平均粒子径を用いることができる。
修飾ナノ粒子は、単分散していることが好ましい。また、修飾ナノ粒子が凝集している場合、その凝集粒子の粒径は、例えば、0.1nm~1000nmとすることができ、例えば、1nm~100nmとすることができる。
【0030】
修飾ナノ粒子は、所望のナノ粒子に対して、公知の表面処理を適宜選定して施すことができる。このような表面処理としては、その高い活性および界面活性剤との相容性などとの観点から、表面グラフト法、化学吸着法、物理吸着法、シラン処理法、表面開始重合法、グラフトモノマーを介した重合法などが挙げられる。また、修飾ナノ粒子の製造に用いられるナノ粒子としては、例えば、VES流体の強い安定性を可能にする、シリカナノ粒子(SNP)、クレイナノ粒子(CNP)、グラフェンナノ粒子、ナノセルロースナノ粒子などが挙げられ、その他、ナノオキシド(二酸化チタン)、ナノアルミナ、亜鉛、金、銀等の金属ナノ粒子、カーボンナノチューブ(単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、二重層カーボンナノチューブ(DWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT))、酸化グラフェンなどを用いてもよい。
本実施形態に用いられる修飾ナノ粒子としては、例えば、修飾シリカナノ粒子、修飾クレイナノ粒子、修飾グラフェンナノ粒子、及び、修飾ナノセルロースナノ粒子、或いはこれらの組み合わせを挙げることができ、さらに具体的には、カチオン性ベンジルシラン修飾シリカナノ粒子、PCIMETA-SIP修飾シリカナノ粒子、の他、カチオン性シランコーティングシリカ、カチオン性(ベンゼン)シランコーティングシリカ、アルキルシラン-シリカ、アニオン性シランコーティングシリカ、PEI-シランコーティングシリカ、などが挙げられる。
この中でも、カチオン性(ベンゼン)シランコーティングシリカ、アニオン性シランコーティングシリカ、PEI-シランコーティングシリカが粘度、弾性率の向上の観点から好ましい。特に、カチオン性(ベンゼン)シランコーティングシリカは高温時における粘度増強にも優れている。
【0031】
VES流体中の、修飾ナノ粒子の量としては特に限定されるものではなく、界面活性剤の含有量とのバランス等の観点から、使用される他の材料との関係において適宜選定することができるが、例えば、0.01~5質量%とすることができ、例えば、0.1~1質量%とすることができる。
【0032】
上記において、シリカナノ粒子は、VESの粘度を増強することができる。レオロジー試験によると、シリカの濃度が0.5%未満の場合、VESの粘度は50%まで増強する。このように、VESの粘度増強及び維持の観点からは、シリカの濃度は0.5%未満が好ましい。
【0033】
修飾ナノ粒子の作製方法については特に限定はないが、例えば、以下のようにして製造することができる。
Cab-o-silシリカ(Cabot)を、真空オーブン内で、50℃で終夜乾燥させ、水を除去する。次いで、260mgのシリカをメタノール40mLに溶解し、超音波処理を少なくとも15分間適用させて、メタノール中でシリカを十分に分散させる。さらに、得られた溶液を200mL丸底フラスコに移し、溶液をN2で少なくとも30分間バブリングする。集中的に撹拌しながら、780mgのシラン類(シラン誘導体やシランカップリング剤を含む)を、シリンジを介して滴下添加し、室温で24時間反応させる。反応終了後、各サイクル中に上澄みを脱イオン水に置き換えながら、修飾されたシリカナノ粒子を数回の遠心分離および再分散サイクルで精製し、得られたシリカナノ粒子を減圧下、室温で乾燥させることで、修飾ナノ粒子を得ることができる。
【0034】
(添加剤)
本実施形態のVES流体は、流体の性能を増強する複数の作用および活性組成物を有するように、VESへの相乗的特性を提供するために添加剤を用いることができる。このような添加剤としては、共界面活性剤、耐食剤、スケール防止剤、pH中和剤、抗酸化剤、摩擦減少剤、殺生物剤、腐食阻害剤、トレース剤、流体損失剤、層安定剤、刺激応答特性剤、又は、ブレーカーなどが挙げられる。なお、本実施形態のVES流体を水圧破砕流体として用いる場合、その粘度は高次ミセル構造に向けて濃度を制御することによって主に達成されるため、回収の際にブレーカーの使用を必須としない。このため、本実施形態のVES流体中の表面活性剤は容易に回収することができる。
【0035】
VES流体中の、添加剤の量としては特に限定されるものではなく、界面活性剤の含有量とのバランス等の観点から、使用される他の材料との関係において適宜選定することができる。
【0036】
≪粘弾性界面活性剤流体組成物の使用≫
上述のように本実施形態のVES流体は、油田用途に好適であり、例えば、水圧破砕流体、掘削流体、酸処理、石油増進回収法(EOR)、および粘性化した媒質を必要とする他の油田用途にも有用である。本実施形態のVES流体は、例えば、坑井刺激法、仕上げ流体、掘削流体、水圧破砕流体、酸刺激法、及び、石油増進回収法に使用することができる。
【0037】
本実施形態のVES流体では、高次ミセルを有する複合体を観察することができる。複合体を形成したVESは、同等のレオロジーの純粋なVES流体のリークオフ速度より低いリークオフ速度(流体損失特性)を優先的に有することが推測される。
これは、VES流体として有意な利点をもたらすことが期待でき、その結果、本実施形態のVES流体を使用することで、公知のVES流体と比較して、より高い浸透性を有する層を破砕することが可能である。本実施形態の新規の複合体VES流体の洗浄性能は、低濃度の線状ゲルポリマー破砕流体に対して観察されたものと同様であるか、またはより良い可能性があり、より高い濃度の線状ポリマー流体または共有結合による架橋ポリマー流体よりも優れていることが推測される。
【実施例】
【0038】
以下、本発明のVES流体について実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
《材料、装置、方法》
〈材料〉
臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)(96%)、サリチル酸ナトリウム(ReagentPlus、99%)およびグアーガムは、Sigma-Aldrichから購入し、そのまま使用した。Cab-o-sil EH-5未処理ヒュームドシリカ(以下、“Cabosilシリカナノ粒子”と称することがある。)はCabot Corp.から入手した。塩酸(ACS Grade、36.5%~38%)はVWR ltd.から購入した。水酸化ナトリウム(ACS試薬、97%)はSigma-Aldrichから購入した。(トリメチルシリルエチル)塩化ベンジルトリメチルアンモニウム(メタノール中60%)はGelest Inc.から購入した。RDG16/30プロパントはPreferred Sandsから購入した。使用する他の化学物質および材料は、この文献内に現れる際に具体的に特定する。
【0040】
〈装置〉
-IR(FTIR)-
シリカナノ粒子の赤外線(IR)スペクトルは、Agilent Technologiesから購入したCary 600シリーズFT-IR分光器で記録し、スキャニング範囲は4000~400cm-1であった。
-DLS-
Mobius Dip Cell(Wyatt Tech,)を備えたMobiusを使用して動的光散乱(DLS)およびゼータ電位を測定した。
-レオロジー特性および粘度特性-
流体のレオロジー特性および粘度特性の実験を、HAAKE MARS 3レオメーター(Thermo Electron Corporation、Karlsruhe、Germany)で、並行測定形状(直径35mm)で行った。
-TGA-
Q500 TGA(TA instruments)を使用して熱重量分析(TGA)を実施した。
-脱イオン水-
Millipore-Q-gardを使用して、脱イオン水を得た。
【0041】
〈方法〉
-動的光散乱(DLS)およびゼータ電位-
0.1重量%のシリカを水に分散し、15分間超音波処理した。溶液を試験のためにMobius dip cellに直接加えた。
【0042】
-粘度の測定-
粘度の測定は、40℃以下の温度の場合、HAAKE MARS 3レオメーター(Thermo Electron Corporation、Karlsruhe、Germany)で、並行プレート形状(直径35mm)で行った。プレートを特定の温度に予熱し、約1mLの流体をプレートの中央に載せた。次いで、プレート間のギャップを1mmに調節し、過剰な流体を取り除いた。0.1s-1~100s-1のずり速度ランプで測定を実施した。
また、40℃超える温度の場合には、粘度の測定に「Grace M5600」を用いた。
【0043】
-レオロジー測定-
レオロジー測定は、HAAKE MARS 3レオメーター(Thermo Electron Corporation、Karlsruhe、Germany)で、並行プレート形状(直径35mm)で行った。プレートを特定の温度に予熱し、約1mLの流体をプレートの中心に載せた。次いで、プレート間のギャップを1mmに調節し、過剰な流体を取り除いた。0.1Hzから10Hzまでの周波数ランプを用いて測定を実施した。
レオロジーは、体積弾性率および貯蔵弾性率ならびに損失弾性率の寄与率という点から、VES材料の粘弾性特性を区別する重要な方法である。G’およびG”はtanデルタと共に2つの重要なパラメーターである。
【0044】
-VESのプロパント安定性試験(スラリー充填高さ)-
5ppgの生砂(サイズ:20/40)をVESと混合し、容積測定用の管内に配置した。混合物を室温下で配置し、24時間静置させた。特定の時間において、画像を撮り、充填高さを記録し、時間と共にプロットした。
【0045】
-プロパント充填流動試験-
Swagelok Company製の管系を使用することによって、プロパント充填流動(PPF)試験を行った。40mLの流体(VES、グアー流体)をシリンダーに加え、ボールバルブで遮断した。底部にスチールメッシュ(Grainger、150メッシュ)が配置されたカラムに、30gのPreferred Sand RDG 16/30を加えた。カラムをシリンダーに接続し、Glas-Col Powrtrolシステムにより制御された加熱テープを、システム全体に巻き、特定の温度に加熱した(80℃測定に対して)。システムを30psiに加圧し、流体の流速を記録した。
【0046】
[実施例1]
(修飾ナノ粒子およびVES増強実験)
[実験例1]
界面活性剤(VES:CTAB)3%、サリチル酸ナトリウム0.5%、及び、水を含むVES流体を用いて、下記ナノ粒子及び修飾ナノ粒子を0.4mg/mL含むVES流体について粘度及びG’、G”(20℃)を測定した。
サンプル1:生ナノクレイ(比較例)
サンプル2:ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PDADMAC)で修飾されたナノクレイ(質量比1:1)(実施例)
サンプル3:生シリカ
サンプル4:PCIMETAで修飾されたシリカ(実施例)
【0047】
以下に示すようにPDADMACで修飾されたナノクレイを用いたものを除き、すべてのVES流体は粘度およびG’がわずかなに改善していた。しかし、PDADMACで修飾されたナノクレイ以外を用いたサンプルでは、この段階で粘度の改善において顕著な差異を示さなかった。対照的に、PDADMACを有するナノクレイは、粘度の低減が示されていた。これは、ナノクレイおよびPDADMACが、クレイ層を剥離するよりむしろインターカレーション構造を形成しただけであることが原因となり得るが、これはAFM(図示を省略)の結果と一致する。以下に結果を示す。
【0048】
【0049】
[実験例2]
(修飾ナノ粒子の調製)
下記表に示す修飾ナノ粒子を調製し、各測定を行った。
【0050】
・アルキルシラン-シリカ1(+):カチオン性シランコーティングシリカ
シリカ(Cabosilシリカナノ粒子)にN-(トリメトキシシリル)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウム クロリド(N-(Trimethoxysilyl) propyl-N,N,N-trimethylammonium chloride)を修飾させた修飾ナノ粒子
・アルキルシラン-シリカ4(-):アニオン性シランコーティングシリカ
シリカ(Cabosilシリカナノ粒子)にN-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミントリアセテートトリカリウム塩(N-(Trimethoxysilylpropyl)ethylenediaminetriacetate tripotassium salt)を修飾させた修飾ナノ粒子
・シリカPEI(+):PEI-シランコーティングシリカ
シリカ(Cabosilシリカナノ粒子)にジメトキシシリメチルプロピル変性ポリエチレンイミン(Dimethyoxysilymethylpropyl modified Polyethylenimine)を修飾させた修飾ナノ粒子
・シリカ2(+):カチオン性(ベンゼン)シランコーティングシリカ
シリカ(Cabosilシリカナノ粒子)に4-(トリメトキシシリルエチル)ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド(4-(Trimethoxysilylethyl) benzyltrimethylammonium chloride)を修飾させた修飾ナノ粒子
【0051】
(アルキルシラン-シリカ1(+):カチオン性シランコーティングシリカ)
【化5】
上記は、アルキルシラン-シリカ1(+):カチオン性シランコーティングシリカに対するIR、DLS、およびTGA実験結果である。
【0052】
シランコーティングシリカの動的光散乱(“DLS”)測定によって、ナノ粒子が水中に十分に分散していたことが確認された。生シリカとカチオン性シランコーティングシリカとを比較すると、サイズは同じで、65nmであった。VES流体を調製した後の、ナノ粒子のサイズに変わらない。このため、上記約6nmで発生するピークの存在はVES(界面活性剤)それ自体に由来する。ここでは、単分散ナノ粒子がVES溶液中で用いられている。
【0053】
(アルキルシラン-シリカ4(-):アニオン性シランコーティングシリカ)
【化6】
上記は、アルキルシラン-シリカ4(-):アニオン性シランコーティングシリカに対するIR、DLS実験結果である。
【0054】
IR、DLS実験をアルキルシラン-シリカ4:(-)アニオン性シランコーティングシリカに対して行った。FTIRの結果から、シリカナノ粒子上へのシランコーティングがうまく行われたことが確認された。DLSの結果から粒子が水中で単分散していたことを確認した。
【0055】
(シリカPEI(+):PEI-シランコーティングシリカ)
【化7】
上記はシリカPEI(+):PEI-シランコーティングシリカに対するIR、TGA実験結果である。
【0056】
シリカPEI(+):PEI-シランコーティングシリカに対するIR、TGA実験をおこなった。FTIRおよびTGA結果から、シリカナノ粒子上へのシランコーティングがうまく行われたことを確認した。
【0057】
(シリカ2(+):カチオン性(ベンゼン)シランコーティングシリカ)
【化8】
上記はシリカ2(+):カチオン性(ベンゼン)シランコーティングシリカに対するIR、TGA実験結果である。
【0058】
シリカ2(+):カチオン性(ベンゼン)シランコーティングシリカに対するIR、TGA実験を行った。FTIRおよびTGA結果から、シリカナノ粒子上へのシランコーティングがうまく行われたことを確認した。
【0059】
[実験例3]
(VES流体の実験)
界面活性剤(VES:CTAB)3%、サリチル酸ナトリウム0.5%、下記ナノ粒子又は修飾ナノ粒子0.1%、水を含むVES流体を用いて、各測定を行った。
サンプル10:VESのみ(比較例)
サンプル11:生シリカ(比較例)
サンプル12:カチオン性(ベンゼン)シランコーティングシリカ(シリカ2(+):修飾ナノ粒子(実施例))
サンプル13:アニオン性シランコーティングシリカ(シリカ4(-):修飾ナノ粒子(実施例))
サンプル14:カチオン性シランコーティングシリカ(シリカ1(+):修飾ナノ粒子(実施例))
サンプル15:PEIシランコーティングシリカ(シリカPEI(+):修飾ナノ粒子(実施例))
【0060】
-レオロジー実験(20℃における粘度)-
【化9】
上記は、各サンプルにおけるシランコーティングシリカに対するレオロジー実験(20℃)の結果である。
【0061】
各サンプルに対しレオロジー実験(20℃)を行った。
上記レオロジー実験の結果によると、カチオン性シランコーティングシリカナノ粒子(サンプル14)およびPEI-シランコーティングシリカ(サンプル15)を除き、VES(界面活性剤のみ)を用いたサンプル10に対し、その他のサンプルでは20℃での粘度が増強されていた。
また、サンプル10(VESのみ)に生シリカを加えたサンプル11においては、サンプル10に対し多少の粘度増強が確認されたが、カチオン性(ベンゼン)(サンプル12)およびアニオン性シランコーティングシリカ(サンプル13)は、20℃での粘度がさらに上昇していた。
一方、カチオン性シランコーティングシリカ(サンプル14)では粘度が低減していた。また、PEIシランコーティングシリカ(サンプル15)はサンプル1と同等のレベルで粘度を保っていた。
【0062】
-レオロジー実験(20℃におけるG’およびG”)-
【化10】
上記は、各サンプルにおけるシランコーティングシリカに対するレオロジー実験およびこれらのG’およびG”プロットである。
【0063】
上記結果によると、カチオン性シランコーティングシリカ(サンプル14)を除き、他のサンプルは、サンプル10(VESのみ)に対して、20℃でのG’が増強されていた。
また、アニオン性シランコーティングシリカ(サンプル13)は最も大きな規模でG’を増加させていた。さらに、カチオン性(ベンゼン)(サンプル12)も同様にG’を大きく増加させていた。
対照的に、G”は、サンプル10に対し、すべてのサンプルにおいて増強が認められたが、その中でもカチオン性シランコーティングシリカ(サンプル14)の増強がもっとも大きかった。
【0064】
-粘度実験(30℃における粘度)-
【化11】
上記は、各サンプルにおけるシランコーティングシリカに対する粘度実験(30℃)である。
【0065】
各サンプルに対し粘度実験(30℃)を行った。
上記に示されている通り、30℃において、サンプル11~13の粘度の増加は、サンプル10(VESのみ)に対して依然として顕著であり、20℃での結果と同様であった。
一方、サンプル14(カチオン性シランコーティングシリカ)は20℃の場合と同様に、30℃での粘度がサンプル10に比して低減していたが、サンプル15(PEIシランコーティングシリカ)は20℃の場合と異なり、サンプル10に対して粘度の増加が認められた。
【0066】
-粘度実験(30℃におけるG’およびG”)-
【化12】
上記は、各サンプルにおけるシランコーティングシリカに対する粘度実験から得られたG”挙動を示す。
【0067】
上記に示されている通り、30℃において、サンプル10(VESのみ)に対してサンプル13(アニオン性シランコーティングシリカ)はG’及びG”の両方が最も増強されていた。
一方、サンプル14(カチオン性シランコーティングシリカ)はG’とG”の両方において、サンプル10に対して低減していた。
サンプル11,12,15については、G’およびG”における全般的増加を示していた。このように、弾性および体積弾性率転移挙動においても、ほとんど同様の挙動を示している。
【0068】
-粘度実験(40℃における粘度)-
【化13】
上記は、各サンプルにおけるシランコーティングシリカに対する粘度実験(40℃)の結果である。
【0069】
各サンプルに対し粘度実験(40℃)を行った。
上記に示されている通り、40℃において、サンプル12(カチオン性(ベンゼン)シランコーティングシリカ)は、サンプル10(VESのみ)に対し、もっとも粘度の増強が認められた。
他のサンプルに関しては、サンプル10との比較において、サンプル13(アニオン性シランコーティングシリカ)は、わずかに粘度が増強されていた。また、サンプル15(PEIシランコーティングシリカ)はサンプル10の粘度と同等であった。
【0070】
-粘度実験(40℃におけるG’およびG”)-
【化14】
上記は、G”挙動を示す各サンプルにおけるシランコーティングシリカに対する粘度実験(40℃)の結果である。
【0071】
上記に示されている通り、40℃において、サンプル12(カチオン性(ベンゼン)シランコーティングシリカ)のG’は、サンプル10(VESのみ)に対して最も大きな増加を示していた。
また、サンプル14(カチオン性シランコーティングシリカ)を除いて、他のサンプルは、全般的にサンプル10に対してG’およびG”の増加が認められた。このように、弾性および体積弾性率転移挙動でもほとんど同様の挙動を示していた。
【0072】
[実験例4]
カチオン性(ベンゼン)シラン修飾シリカに対してさらなる実験を行った。
【0073】
【0074】
上述のように、グラフトの特定と確認のために、カチオン性(ベンゼン)シラン修飾シリカに対してさらなる実験を行った。FTIRおよびTGAの結果は、表面上のシラン層の形成がうまく行われたことを実証している。DLS結果はわずかなサイズの増加を実証したが、これはまたようにシラン層の形成も示している。
【0075】
(VES流体の実験)
界面活性剤(VES:CTAB)3%、サリチル酸ナトリウム0.5%、下記ナノ粒子又は修飾ナノ粒子、水を含むVES流体を用いて、各測定を行った。以下、Cabosilシリカを“シリカA”、Ludoxシリカ(アルドリッチ製 LUDOX AS-40 colloidal silica)を“シリカB”と称することがある。
サンプル10:VESのみ(比較例)
サンプル21:下記シラン1(1%)で修飾されたシリカA(修飾ナノ粒子(実施例))
サンプル22:下記シラン1(1%)で修飾されたシリカB(修飾ナノ粒子(実施例))
サンプル23:下記シラン1(0.1%)で修飾されたシリカA(修飾ナノ粒子(実施例))
サンプル24:下記シラン1(0.5%)で修飾されたシリカA(修飾ナノ粒子(実施例))
サンプル31:下記シラン2(1%)で修飾されたシリカA(修飾ナノ粒子(実施例))
【0076】
-粘度試験-
【化16】
上記は、上記シラン1若しくはシラン2で修飾された修飾Cabosilシリカナノ粒子又はLudoxナノ粒子の粘度測定(20℃又は40℃)の結果である。
【0077】
上述の結果の傾向は実験例3と同様であった。Cabosilシリカ(シリカA)はいずれの温度域においても、サンプル10(VESのみ)に対し、多大な粘度の増加を示した。
一方、室温(20℃)では、Ludoxシリカ(サンプル22)は粘度の増加をあまり示さなかった。また、40℃においては、CabosilおよびLudoxシリカはいずれも粘度の増加を示した。
【0078】
-レオロジー試験-
【化17】
上記は、Cabosilシリカにシラン1又はシラン2を修飾させたナノ粒子に対するレオロジー試験の結果である。
【0079】
上記に示されている通り、レオロジー試験からの結果は、粘度試験と一致した、すなわち、Cabosilシリカ(シリカA)にシラン1を修飾させたナノ粒子を用いたVES流体(サンプル23及び24)は、Cabosilシリカ-シラン2を修飾させたナノ粒子を用いたVES流体(サンプル31)よりも弾性率が高かった。
一方、サンプル23及び24のG’はサンプル42よりも高い値を示したが、一方で、サンプル23及び24のG’’はサンプル31よりも低かった。
【0080】
-ゼータ電位-
【化18】
上記のゼータ電位の測定の結果は、Cabosilシリカナノ粒子がカチオン性シラン試薬により修飾されていることを示している。
【0081】
上述のシラン1で修飾されたシリカナノ粒子上での正電荷の存在を確認するため、ゼータ電位測定を行った。結果、Cabosilシリカナノ粒子が正味の正電荷を有するカチオン性シラン試薬によって十分に修飾されることを示した。
【0082】
【化19】
上記は、VES(CTAB:界面活性剤)を対照として用いた、サンプルに対する粘度およびレオロジーの高塩分安定性試験の結果である。
【0083】
高塩分条件安定性試験を上記に示されている通り実施した。サンプルには、VES(CTAB:界面活性剤)と、対イオンとしてCaCl2と、を用いたVES流体を用い、一方にシラン1で修飾されたシリカナノ粒子を添加し、もう一方には添加しなかった。30%の条件において、シリカを有するVES流体は、シリカを有さないVES流体よりも良い粘度を実証した。これは、CaCl2がVES流体の粘度を増強するのを助けることを示した。
一方、依然として一部の沈殿が認められた。これは、CaCl2が何らかの形でVESの相分離を生成させることを示した。
【0084】
-充填高さ-
【化20】
上記は、VESおよびシリカナノ粒子を用いたスラリーの充填高さの試験の結果である。
【0085】
VESおよびシリカナノ粒子を用いたスラリーの充填高さの試験を行った。
サンプルには、下記を用いた。
サンプル40:3wt% CTAB+0.5wt% サリチル酸ナトリウム(比較例)
サンプル41:3wt% CTAB+0.5wt% サリチル酸ナトリウム+0.1wt% シラン1で修飾されたCabosilシリカ(実施例)
サンプル42:6wt% CTAB+1.0wt% サリチル酸ナトリウム(比較例)
【0086】
シリカナノ粒子を有するVES流体(サンプル41)の結果は、サンプル40と同様であった。また、サンプル42の沈降は、シリカナノ粒子を有するVES(サンプル40)よりわずかに速かった。これはVES流体の粘度に関係すると推測される。また、シリカナノ粒子の増強と共に粘度が増幅するため、スラリーの安定性は増強する。
【0087】
-砂充填プロパント流動充填および浸透性試験-
砂充填プロパントカラムは浸透性試験の流動挙動である。当該方法では、砂の量、砂のサイズ、種類および圧力を制御することによって、流体の粘度およびプロパントとのその相互作用を測定することができる。流体が流出に時間が長くかかるほど、流体の粘度が高い。
【0088】
浸透性試験および手順に関しては上述されているが、結果を下記において再び示す。
【0089】
【0090】
上に示すように、CTAB、NaSal及び修飾シリカ(カチオン性ベンゼン)を含むVES流体(サンプル7)は、30秒を超えるという、より高い安定性および粘度という結果となっていた。これは、修飾シリカ(カチオン性ベンゼン)の添加が、より高い安定性および粘度をもたらすことを示した。これは、流体が流動し始める前までにずっと長い時間がかかったためであると推測される。
【0091】
[実施例2]
未修飾シリカ(下記左のグラフ)およびカチオン性(ベンゼン)シリカを添加剤として有するVESの挙動を比較した。ずり流動化および温度依存性挙動(400psi)の測定を行った。これは、温度依存性粘度において架橋グアーとほぼ同じ性能を示す。サンプル条件は、6wt% CTAB+1wt% サリチル酸ナトリウム+0.1wt% シリカとした。また、架橋グアーとしては0.5wt%のものを用いた。また、本実施例において粘度は高温測定用 Grace Instrumentsレオメーター(Grace M5600)を用いた。
【0092】
【0093】
上記は添加剤としての未修飾シリカ(左のグラフ)およびカチオン性ベンゼンシリカを有するVESの挙動を比較したものである。左のグラフはずり流動化(400psi)および右のグラフは温度依存性挙動(400psi)を示す。これは、温度依存性粘度において架橋グアーとほぼ同じ性能であることを示す。
【0094】
上記結果に示されるように、生シリカを用いたVES流体の場合、125℃では粘度の低下が大きく、通常測定が困難な程度であった。これに対し、カチオン性(ベンゼン)シランコーティングシリカを用いたVES流体は、125℃での粘度が架橋グアーと同程度であり、125℃という高温でも、粘度の測定が可能であった。
【0095】
以上の結果から、シリカの表面をカチオン性(ベンゼン)シラン修飾する事でVESのゲル構造が安定化され、高温での特性が大きく改善したと考えられる。
なおナノクレイ等についても、分散性を改善し高温測定すれば、粘度特性は同様に改善効果が発揮できると推定される。