(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】車両の駆動システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20240214BHJP
B60W 50/029 20120101ALI20240214BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20240214BHJP
B60W 10/20 20060101ALI20240214BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240214BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20240214BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20240214BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W50/029
B60W10/00 134
B60W10/20
B60W10/08
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
(21)【出願番号】P 2021003097
(22)【出願日】2021-01-12
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】窪田 優
【審査官】▲高▼木 真顕
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-176643(JP,A)
【文献】特開2010-166740(JP,A)
【文献】特開2017-005958(JP,A)
【文献】特開2014-093844(JP,A)
【文献】特開2008-061326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 60/00
B60K 1/00 - 6/547
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
B62D 5/00 - 6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(10)の左右の車輪(11~14)を互いに独立して駆動する左右一対の駆動モータ(21,22)と、
前記車両の左右の車輪を互いに独立して転舵する左右一対の転舵機構(31,32)と、
ユーザが意図した前記車両の走行状態である意図走行状態に基づいて、各駆動モータの各トルク指令値を算出する指令値算出部(50)と、
前記指令値算出部により算出された前記各トルク指令値に基づいて、前記各駆動モータを駆動させる駆動制御部(41)と、
前記左右一対の駆動モータの一方が、前記指令値算出部により算出された対応するトルク指令値と異なる異常トルクしか出力できない駆動異常を検知する異常検知部(43,44)と、
前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記指令値算出部により算出された前記各トルク指令値及び前記意図走行状態に基づいて各転舵機構の各転舵量を算出し、前記異常検知部により前記駆動異常が検知された場合に、前記異常トルクしか出力できない駆動モータである異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記意図走行状態に基づいて、前記左右一対の転舵機構の一方の転舵量を第1転舵量として算出し且つ他方の転舵量を前記第1転舵量の絶対値よりも絶対値が小さい第2転舵量として算出する転舵量算出部(46,50)と、
前記転舵量算出部により算出された各転舵量に基づいて、前記各転舵機構を転舵させる転舵制御部(45)と、
前記意図走行状態に基づいて、前記車両が走行する目標軌道を算出する軌道算出部(50)と、
を備え、
前記指令値算出部は、前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道にすべく各駆動モータの各トルク指令値を算出し、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記車両の速度が第1速度よりも高い場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記目標軌道に基づいて、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道よりも外側から徐々に前記目標軌道に近付けるように前記異常モータを除く駆動モータの各トルク指令値を算出し、
前記転舵量算出部は、前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道にすべく各転舵機構の各転舵量を算出し、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記車両の速度が前記第1速度よりも高い場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記目標軌道に基づいて、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道よりも外側から徐々に前記目標軌道に近付けるように前記各転舵機構の各転舵量を算出する、車両の駆動システム。
【請求項2】
前記転舵量算出部は、前記意図走行状態が直進であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記異常トルクが前記異常モータに対応するトルク指令値よりも小さい場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記意図走行状態に基づいて、前記異常モータと左右同じ側の転舵機構の転舵量である前記第1転舵量を前記異常モータと左右逆側へ車輪を向ける転舵量にし、且つ前記異常モータと左右逆側の転舵機構の転舵量である前記第2転舵量を0にする、請求項1に記載の車両の駆動システム。
【請求項3】
前記転舵量算出部は、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記異常トルクが前記異常モータに対応するトルク指令値よりも小さい場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記意図走行状態に基づいて、前記異常モータと左右逆側の転舵機構の転舵量である前記第1転舵量を前記旋回に対応する転舵量にし、且つ前記異常モータと左右同じ側の転舵機構の転舵量である前記第2転舵量を0にする、請求項1又は2に記載の車両の駆動システム。
【請求項4】
前記指令値算出部は、前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記意図走行状態に基づいて各駆動モータの各トルク指令値を算出し、前記異常検知部により前記駆動異常が検知された場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記意図走行状態に基づいて、前記異常モータを除く駆動モータの各トルク指令値を算出する、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両の駆動システム。
【請求項5】
車両(10)の左右の車輪(11~14)を互いに独立して駆動する左右一対の駆動モータ(21,22)と、
前記車両の左右の車輪を互いに独立して転舵する左右一対の転舵機構(31,32)と、
ユーザが意図した前記車両の走行状態である意図走行状態に基づいて、各駆動モータの各トルク指令値を算出する指令値算出部(50)と、
前記指令値算出部により算出された前記各トルク指令値に基づいて、前記各駆動モータを駆動させる駆動制御部(41)と、
前記左右一対の駆動モータの一方が、前記指令値算出部により算出された対応するトルク指令値よりも小さい異常トルクしか出力できない駆動異常を検知する異常検知部(43,44)と、
前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記指令値算出部により算出された前記各トルク指令値及び前記意図走行状態に基づいて各転舵機構の各転舵量を算出し、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記意図走行状態が前記異常トルクしか出力できない駆動モータである異常モータと左右同じ側への旋回である場合に、前記各転舵機構の各転舵量を0にする転舵量算出部(46,50)と、
前記転舵量算出部により算出された各転舵量に基づいて、前記各転舵機構を転舵させる転舵制御部(45)と、
前記意図走行状態に基づいて、前記車両が走行する目標軌道を算出する軌道算出部(50)と、
を備え、
前記指令値算出部は、前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道にすべく各駆動モータの各トルク指令値を算出し、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記車両の速度が第1速度よりも高い場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記目標軌道に基づいて、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道よりも外側から徐々に前記目標軌道に近付けるように前記異常モータを除く駆動モータの各トルク指令値を算出し、
前記転舵量算出部は、前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道にすべく各転舵機構の各転舵量を算出し、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記車両の速度が前記第1速度よりも高い場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記目標軌道に基づいて、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道よりも外側から徐々に前記目標軌道に近付けるように前記各転舵機構の各転舵量を算出する、車両の駆動システム。
【請求項6】
前記指令値算出部は、前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記意図走行状態に基づいて各駆動モータの各トルク指令値を算出し、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記意図走行状態が前記異常モータと左右同じ側への旋回である場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記意図走行状態に基づいて、前記異常モータを除く駆動モータの各トルク指令値を算出する、請求項5に記載の車両の駆動システム。
【請求項7】
前記指令値算出部は、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記車両の速度が前記第1速度よりも低く且つ前記第1速度よりも低い第2速度よりも高い場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記目標軌道に基づいて、前記車両が走行する軌道が前記目標軌道の外側及び内側になることを許容しつつ、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道に近付けるように前記異常モータを除く駆動モータの各トルク指令値を算出し、
前記転舵量算出部は、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記車両の速度が前記第1速度よりも低く且つ前記第2速度よりも高い場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記目標軌道に基づいて、前記車両が走行する軌道が前記目標軌道の外側及び内側になることを許容しつつ、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道に近付けるように前記各転舵機構の各転舵量を算出する、請求項
1~6のいずれか1項に記載の車両の駆動システム。
【請求項8】
前記転舵量算出部は、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記車両の速度が前記第2速度よりも低い場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記目標軌道に基づいて、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道に近付けるように前記各転舵機構の各転舵量を算出する、請求項
7に記載の車両の駆動システム。
【請求項9】
前記左右一対の駆動モータの一方に関連する異常が生じて、前記一方の駆動モータが出力するトルクが上限値を超えないように制限されている制限状態を検知する制限検知部(44)を備え、
前記異常検知部は、前記制限検知部により前記制限状態が検知され、且つトルクが前記上限値を超えないように制限されている駆動モータに対応する前記トルク指令値が前記上限値よりも大きい場合に前記駆動異常を検知し、
前記転舵量算出部は、前記制限検知部により前記制限状態が検知され、且つトルクが前記上限値を超えないように制限されている駆動モータに対応する前記トルク指令値が前記上限値よりも小さい場合に、前記指令値算出部により算出された前記各トルク指令値及び前記意図走行状態に基づいて各転舵機構の各転舵量を算出する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の車両の駆動システム。
【請求項10】
前記異常検知部は、前記左右一対の駆動モータの双方が、前記指令値算出部により算出された対応するトルク指令値よりも小さい共通の所定トルクしか出力できない両駆動異常を検知し、
前記転舵量算出部は、前記異常検知部により前記両駆動異常が検知された場合に、前記所定トルク及び前記意図走行状態に基づいて各転舵機構の各転舵量を算出する、請求項1~
9のいずれか1項に記載の車両の駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の後側左右の駆動輪をそれぞれ駆動する互いに独立した駆動モータと、前側左右の転舵輪をタイロッドを介して同方向へ転舵させる転舵機構とを備える電気自動車がある(特許文献1参照)。特許文献1に記載の電気自動車では、駆動モータの異常による左右の駆動輪の駆動バランスの変化量を補うように、転舵機構の転舵量を変更している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の電気自動車(車両)では、左右の駆動輪の駆動バランスの変化量を補うように転舵機構の転舵量を変更した場合に、転舵量の変更が車両の走行状態に与える影響が大きい。このため、転舵量の変更が過大又は過小となり、運転者(ユーザ)が意図した走行状態で車両を走行させることができないおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、左右の駆動輪のうち一方の駆動輪の駆動モータに異常が生じた場合であっても、ユーザが意図した走行状態で車両を走行させ易くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1手段は、車両の駆動システムであって、
車両(10)の左右の車輪(11~14)を互いに独立して駆動する左右一対の駆動モータ(21,22)と、
前記車両の左右の車輪を互いに独立して転舵する左右一対の転舵機構(31,32)と、
ユーザが意図した前記車両の走行状態である意図走行状態に基づいて、各駆動モータの各トルク指令値を算出する指令値算出部(50)と、
前記指令値算出部により算出された前記各トルク指令値に基づいて、前記各駆動モータを駆動させる駆動制御部(41)と、
前記左右一対の駆動モータの一方が、前記指令値算出部により算出された対応するトルク指令値と異なる異常トルクしか出力できない駆動異常を検知する異常検知部(43,44)と、
前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記指令値算出部により算出された前記各トルク指令値及び前記意図走行状態に基づいて各転舵機構の各転舵量を算出し、前記異常検知部により前記駆動異常が検知された場合に、前記異常トルクしか出力できない駆動モータである異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記意図走行状態に基づいて、前記左右一対の転舵機構の一方の転舵量を第1転舵量として算出し且つ他方の転舵量を前記第1転舵量の絶対値よりも絶対値が小さい第2転舵量として算出する転舵量算出部(46,50)と、
前記転舵量算出部により算出された各転舵量に基づいて、前記各転舵機構を転舵させる転舵制御部(45)と、
を備える。
【0007】
上記構成によれば、左右一対の駆動モータは、車両の左右の車輪を互いに独立して駆動する。左右一対の転舵機構は、前記車両の左右の車輪を互いに独立して転舵する。なお、左右一対の駆動モータが駆動する車両の左右の車輪は、車両の左右の前輪であってもよいし、左右の後輪であってもよいし、車両の左右の前輪及び左右の後輪であってもよい。また、左右一対の転舵機構が転舵する車両の左右の車輪は、車両の左右の前輪であってもよいし、左右の後輪であってもよいし、車両の左右の前輪及び左右の後輪であってもよい。
【0008】
指令値算出部は、ユーザが意図した前記車両の走行状態である意図走行状態に基づいて、各駆動モータの各トルク指令値を算出する。なお、走行状態は、前直進、前左旋回、前右旋回、後直進、後左旋回、後右旋回、車速等を含む。意図走行状態は、車両のハンドルの操作量、アクセルペダル(アクセル操作部)の踏込量(操作量)、ブレーキペダル(ブレーキ操作部)の踏込量(操作量)等に基づいて取得することができる。また、意図走行状態は、車両を一定速度で走行させる定速走行制御の設定、車両を前車に追従走行させる追従走行制御の設定、設定した経路を車両に自動走行させる自動運転(走行)制御の設定等に基づいて取得することができる。なお、定速走行制御、追従走行制御、及び自動運転制御では、車両にユーザが乗車していても、乗車していなくてもよい。
【0009】
駆動制御部は、前記指令値算出部により算出された前記各トルク指令値に基づいて、前記各駆動モータを駆動させる。このため、車両の走行状態が意図走行状態になるように、各駆動モータを駆動させることができる。
【0010】
ここで、異常検知部は、前記左右一対の駆動モータの一方が、前記指令値算出部により算出された対応するトルク指令値と異なる異常トルクしか出力できない駆動異常を検知する。例えば、駆動異常として、駆動モータに流れる電流を検出する電流センサが異常である場合に、駆動モータが出力できるトルクがトルク指令値の1/2に制限され、トルク指令値よりも小さいトルクしか出力できない場合がある。また、駆動異常として、駆動モータがトルク指令値よりも大きい異常トルクしか出力できない場合もある。
【0011】
転舵量算出部は、前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記指令値算出部により算出された前記各トルク指令値及び前記意図走行状態に基づいて各転舵機構の各転舵量を算出する。そして、転舵制御部は、前記転舵量算出部により算出された各転舵量に基づいて、前記各転舵機構を転舵させる。このため、車両の走行状態が意図走行状態になるように、各転舵機構を転舵させることができる。なお、転舵量は、直進の場合に0、左右の一方へ転舵する場合に正の値、他方へ転舵する場合に負の値となる。
【0012】
一方、転舵量算出部は、前記異常検知部により前記駆動異常が検知された場合に、前記異常トルクしか出力できない駆動モータである異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記意図走行状態に基づいて、前記左右一対の転舵機構の一方の転舵量を第1転舵量として算出し且つ他方の転舵量を前記第1転舵量の絶対値よりも絶対値が小さい第2転舵量として算出する。そして、転舵制御部は、前記転舵量算出部により算出された各転舵量(第1転舵量及び第2転舵量)に基づいて、前記各転舵機構を転舵させる。このため、前記異常検知部により前記駆動異常が検知された場合であっても、異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記意図走行状態に基づいて、車両を意図走行状態に近付けるように各転舵機構を転舵させることができる。
【0013】
さらに、第2転舵量の絶対値は、第1転舵量の絶対値よりも小さい。このため、第2転舵量が車両の走行状態に与える影響を抑制して、第1転舵量の調節により車両の走行状態を細かく制御し易くなる。したがって、左右の駆動輪のうち一方の駆動輪の駆動モータに異常が生じた場合であっても、ユーザが意図した走行状態で車両を走行させ易くすることができる。
【0014】
第2の手段では、前記転舵量算出部は、前記意図走行状態が直進であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記異常トルクが前記異常モータに対応するトルク指令値よりも小さい場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記意図走行状態に基づいて、前記異常モータと左右同じ側の転舵機構の転舵量である前記第1転舵量を前記異常モータと左右逆側へ車輪を向ける転舵量にし、且つ前記異常モータと左右逆側の転舵機構の転舵量である前記第2転舵量を0にする。
【0015】
ユーザが車両を直進(前直進及び後直進を含む)させることを意図している場合に、左右の一方の駆動モータ(異常モータ)がトルク指令値よりも小さい異常トルクしか出力できなくなった場合は、車両が異常モータと左右同じ側へ旋回しようとする。例えば、異常モータが右側の車輪の駆動モータである場合は、車両は異常モータと同じ右側へ旋回しようとする。
【0016】
この点、上記構成によれば、前記転舵量算出部は、前記意図走行状態が直進であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記異常トルクが前記異常モータに対応するトルク指令値よりも小さい場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記意図走行状態に基づいて、前記異常モータと左右同じ側の転舵機構の転舵量である前記第1転舵量を前記異常モータと左右逆側へ車輪を向ける転舵量にする。例えば、異常モータが右側の車輪の駆動モータである場合は、異常モータと同じ右側の転舵機構の転舵量である前記第1転舵量を、前記異常モータと逆の左側へ車輪を向ける転舵量にする。このため、異常モータと左右同じ側へ旋回しようとする車両を、直進に近付けることができる。なお、異常モータと左右逆側とは、進行方向を基準にして左右逆側であり、例えば前直進且つ右の駆動モータが異常モータである場合は車輪の前部を左に向け、後直進且つ右の駆動モータが異常モータである場合は車輪の後部を左に向ける。
【0017】
さらに、前記転舵量算出部は、前記異常モータと左右逆側の転舵機構の転舵量である前記第2転舵量を0にする。このため、異常モータと左右逆側の転舵機構を、駆動異常が検知されていない場合と同様に制御することができるとともに、第2転舵量が車両の走行状態に与える影響を抑制して、第1転舵量の調節により車両の走行状態を細かく制御し易くなる。
【0018】
第3の手段では、前記転舵量算出部は、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記異常トルクが前記異常モータに対応するトルク指令値よりも小さい場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記意図走行状態に基づいて、前記異常モータと左右逆側の転舵機構の転舵量である前記第1転舵量を前記旋回に対応する転舵量にし、且つ前記異常モータと左右同じ側の転舵機構の転舵量である前記第2転舵量を0にする。
【0019】
ユーザが車両を旋回(前左旋回、前右旋回、後左旋回、後右旋回を含む)させることを意図している場合に、左右の一方の駆動モータ(異常モータ)がトルク指令値よりも小さい異常トルクしか出力できなくなった場合は、ユーザが意図した車両の旋回軌道(進行方向)から車両がずれる。
【0020】
この点、上記構成によれば、前記転舵量算出部は、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記異常トルクが前記異常モータに対応するトルク指令値よりも小さい場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記意図走行状態に基づいて、前記異常モータと左右逆側の転舵機構の転舵量である前記第1転舵量を前記旋回に対応する転舵量にする。このため、ユーザが意図した車両の旋回軌道からずれようとする車両を、ユーザが意図した車両の旋回軌道に近付けることができる。
【0021】
さらに、前記転舵量算出部は、前記異常モータと左右同じ側の転舵機構の転舵量である前記第2転舵量を0にする。このため、第2転舵量が車両の走行状態に与える影響を抑制して、第1転舵量の調節により車両の走行状態を細かく制御し易くなる。
【0022】
第4の手段では、前記指令値算出部は、前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記意図走行状態に基づいて各駆動モータの各トルク指令値を算出し、前記異常検知部により前記駆動異常が検知された場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記意図走行状態に基づいて、前記異常モータを除く駆動モータの各トルク指令値を算出する。こうした構成によれば、駆動モータのトルクの制御によっても、車両の旋回軌道をユーザが意図した旋回軌道に近付けることができる。
【0023】
第5の手段は、車両の駆動システムであって、
車両(10)の左右の車輪(11~14)を互いに独立して駆動する左右一対の駆動モータ(21,22)と、
前記車両の左右の車輪を互いに独立して転舵する左右一対の転舵機構(31,32)と、
ユーザが意図した前記車両の走行状態である意図走行状態に基づいて、各駆動モータの各トルク指令値を算出する指令値算出部(50)と、
前記指令値算出部により算出された前記各トルク指令値に基づいて、前記各駆動モータを駆動させる駆動制御部(41)と、
前記左右一対の駆動モータの一方が、前記指令値算出部により算出された対応するトルク指令値よりも小さい異常トルクしか出力できない駆動異常を検知する異常検知部(43,44)と、
前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記指令値算出部により算出された前記各トルク指令値及び前記意図走行状態に基づいて各転舵機構の各転舵量を算出し、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記意図走行状態が前記異常トルクしか出力できない駆動モータである異常モータと左右同じ側への旋回である場合に、前記各転舵機構の各転舵量を0にする転舵量算出部(46,50)と、
前記転舵量算出部により算出された各転舵量に基づいて、前記各転舵機構を転舵させる転舵制御部(45)と、
を備える。
【0024】
上記構成によれば、前記転舵量算出部は、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記意図走行状態が、対応するトルク指令値よりも小さい前記異常トルクしか出力できない異常モータと左右同じ側への旋回である場合に、前記各転舵機構の各転舵量を0にする。このため、各転舵機構は各車輪を車両の正面に向けて、車両を直進させようとする。しかし、前記左右一対の駆動モータの一方が、前記指令値算出部により算出された対応するトルク指令値よりも小さい異常トルクしか出力できないため、車両は異常モータと左右同じ側へ旋回しようとする。したがって、各転舵機構が車両の走行状態に与える影響を抑制しつつ、左右の駆動モータが出力するトルクの差を利用して、ユーザが意図した旋回の方向へ車両を旋回させることができる。
【0025】
第6の手段では、第5の手段を前提として、前記指令値算出部は、前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記意図走行状態に基づいて各駆動モータの各トルク指令値を算出し、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記意図走行状態が前記異常モータと左右同じ側への旋回である場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記意図走行状態に基づいて、前記異常モータを除く駆動モータの各トルク指令値を算出する。
【0026】
上記構成によれば、各転舵機構の各転舵量を0にして各転舵機構が車両の走行状態に与える影響を抑制しつつ、駆動モータのトルクの制御によっても、車両の旋回軌道をユーザが意図した旋回軌道に近付けることができる。
【0027】
第7の手段では、前記意図走行状態に基づいて、前記車両が走行する目標軌道を算出する軌道算出部(50)を備え、前記指令値算出部は、前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道にすべく各駆動モータの各トルク指令値を算出し、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記車両の速度が第1速度よりも高い場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記目標軌道に基づいて、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道よりも外側から徐々に前記目標軌道に近付けるように前記異常モータを除く駆動モータの各トルク指令値を算出し、前記転舵量算出部は、前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道にすべく各転舵機構の各転舵量を算出し、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記車両の速度が前記第1速度よりも高い場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記目標軌道に基づいて、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道よりも外側から徐々に前記目標軌道に近付けるように前記各転舵機構の各転舵量を算出する。
【0028】
上記構成によれば、軌道算出部は、前記意図走行状態に基づいて、前記車両が走行する目標軌道を算出する。前記指令値算出部は、前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道にすべく各駆動モータの各トルク指令値を算出する。前記転舵量算出部は、前記異常検知部により前記駆動異常が検知されていない場合に、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道にすべく各転舵機構の各転舵量を算出する。このため、駆動異常が検知されていない場合は、車両が走行する軌道を目標軌道にすることができる。
【0029】
ここで、駆動異常が発生すると、車両が走行する軌道が目標軌道からずれる。車両が第1速度よりも高い速度で走行している場合に車両の軌道を目標軌道に急激に近付けると、車両の運転者に過大な遠心力が作用するおそれがある。
【0030】
この点、前記指令値算出部は、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記車両の速度が第1速度よりも高い場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記目標軌道に基づいて、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道よりも外側から徐々に前記目標軌道に近付けるように前記異常モータを除く駆動モータの各トルク指令値を算出する。また、前記転舵量算出部は、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記車両の速度が前記第1速度よりも高い場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記目標軌道に基づいて、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道よりも外側から徐々に前記目標軌道に近付けるように前記各転舵機構の各転舵量を算出する。このため、車両の運転者に過大な遠心力が作用することを抑制することができ、乗り心地が低下することを抑制することができる。
【0031】
駆動異常が発生すると、車両が走行する軌道が目標軌道からずれる。車両の速度が第1速度よりも低く且つ第1速度よりも低い第2速度よりも高い場合は、車両の軌道を徐々に目標軌道に近付けなくても、車両の運転者に過大な遠心力は作用しにくい。
【0032】
この点、第8の手段では、前記指令値算出部は、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記車両の速度が前記第1速度よりも低く且つ前記第1速度よりも低い第2速度よりも高い場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記目標軌道に基づいて、前記車両が走行する軌道が前記目標軌道の外側及び内側になることを許容しつつ、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道に近付けるように前記異常モータを除く駆動モータの各トルク指令値を算出し、前記転舵量算出部は、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記車両の速度が前記第1速度よりも低く且つ前記第2速度よりも高い場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記目標軌道に基づいて、前記車両が走行する軌道が前記目標軌道の外側及び内側になることを許容しつつ、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道に近付けるように前記各転舵機構の各転舵量を算出する。このため、車両の運転者に過大な遠心力が作用しにくい場合は、車両が走行する軌道を目標軌道に迅速に近付けることができる。
【0033】
駆動異常が発生すると、車両が走行する軌道が目標軌道からずれる。車両の速度が第2速度よりも低い場合は、車両の運転者に作用する遠心力が小さいため、車両の速度を制御する必要性が低い。
【0034】
この点、第9の手段では、前記転舵量算出部は、前記意図走行状態が旋回であり、且つ前記異常検知部により前記駆動異常が検知され、且つ前記車両の速度が前記第2速度よりも低い場合に、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記目標軌道に基づいて、前記車両が走行する軌道を前記目標軌道に近付けるように前記各転舵機構の各転舵量を算出する。このため、車両の速度を制御する必要性が低い場合は、目標軌道に基づいて異常モータを除く駆動モータの各トルク指令値を算出する必要がなく、駆動システムの制御負荷を軽減することができる。
【0035】
第10の手段では、前記左右一対の駆動モータの一方に関連する異常が生じて、前記一方の駆動モータが出力するトルクが上限値を超えないように制限されている制限状態を検知する制限検知部(44)を備え、前記異常検知部は、前記制限検知部により前記制限状態が検知され、且つトルクが前記上限値を超えないように制限されている駆動モータに対応する前記トルク指令値が前記上限値よりも大きい場合に前記駆動異常を検知し、前記転舵量算出部は、前記制限検知部により前記制限状態が検知され、且つトルクが前記上限値を超えないように制限されている駆動モータに対応する前記トルク指令値が前記上限値よりも小さい場合に、前記指令値算出部により算出された前記各トルク指令値及び前記意図走行状態に基づいて各転舵機構の各転舵量を算出する。
【0036】
上記構成によれば、制限検知部は、前記左右一対の駆動モータの一方に関連する異常が生じて、前記一方の駆動モータが出力するトルクが上限値を超えないように制限されている制限状態を検知する。制限状態では、トルク指令値が上限値よりも大きい場合に、出力するトルクが上限値を超えないように制限される。そこで、前記異常検知部は、前記制限検知部により前記制限状態が検知され、且つトルクが前記上限値を超えないように制限されている駆動モータに対応する前記トルク指令値が前記上限値よりも大きい場合に前記駆動異常を検知する。そして、転舵量算出部は、前記異常検知部により前記駆動異常が検知された場合に、上述したように、前記異常モータを除く駆動モータに対応する前記トルク指令値、前記異常トルク、及び前記意図走行状態に基づいて、前記左右一対の転舵機構の一方の転舵量を第1転舵量として算出し且つ他方の転舵量を前記第1転舵量の絶対値よりも絶対値が小さい第2転舵量として算出する。
【0037】
一方、制限状態であっても、トルク指令値が上限値よりも小さい場合は、トルクが上限値を超えないように制限されている駆動モータであっても、トルク指令値のトルクを出力することができる。この点、前記転舵量算出部は、前記制限検知部により前記制限状態が検知され、且つトルクが前記上限値を超えないように制限されている駆動モータに対応する前記トルク指令値が前記上限値よりも小さい場合に、前記指令値算出部により算出された前記各トルク指令値及び前記意図走行状態に基づいて各転舵機構の各転舵量を算出する。したがって、車両を意図走行状態で走行させることができる。
【0038】
左右一対の駆動モータの双方が、各トルク指令値よりも小さい共通の所定トルクしか出力できない状態になることも考えられる。この場合は、左右一対の駆動モータが出力するトルクが大きく異ならないため、左右一対の転舵機構の転舵量を互いに異なる転舵量として算出する必要性が低い。
【0039】
この点、第11の手段では、前記異常検知部は、前記左右一対の駆動モータの双方が、前記指令値算出部により算出された対応するトルク指令値よりも小さい共通の所定トルクしか出力できない両駆動異常を検知し、前記転舵量算出部は、前記異常検知部により前記両駆動異常が検知された場合に、前記所定トルク及び前記意図走行状態に基づいて各転舵機構の各転舵量を算出する。したがって、転舵量算出部が各転舵量を算出する処理負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図2】前輪駆動車両における正常時の転舵機構の動作を示す模式図。
【
図4】異常時における駆動システムの制御の手順を示すフローチャート。
【
図6】ハンドル操作量と車速と目標旋回半径との関係を示すグラフ。
【
図7】異常時における転舵機構の動作の変更例を示す模式図。
【
図8】異常時における転舵機構の動作の他の変更例を示す模式図。
【
図9】異常時における駆動システムの制御の変更例を示す模式図。
【
図10】異常時における駆動システムの制御の他の変更例を示す模式図。
【
図11】後進における異常時の転舵機構の動作を示す模式図。
【
図12】後進における異常時の転舵機構の動作の変更例を示す模式図。
【
図13】後進における異常時の転舵機構の動作の他の変更例を示す模式図。
【
図14】後輪駆動車両における正常時の転舵機構の動作を示す模式図。
【
図16】異常時における転舵機構の動作の変更例を示す模式図。
【
図17】異常時における転舵機構の動作の他の変更例を示す模式図。
【
図18】4輪駆動車両における異常時の転舵機構の動作を示す模式図。
【
図19】異常時における転舵機構の動作の変更例を示す模式図。
【
図20】異常時における転舵機構の動作の他の変更例を示す模式図。
【
図21】異常時における転舵機構の動作の他の変更例を示す模式図。
【
図22】異常時における転舵機構の動作の他の変更例を示す模式図。
【
図23】異常時における転舵機構の動作の他の変更例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、電気自動車の駆動システムに具現化した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0042】
図1に示すように、電気自動車10(車両)は、車輪11~14、駆動ユニット21,22、転舵ユニット31,32、駆動制御部41、トルク決定部42、異常検出部43、異常判定部44、転舵制御部45、転舵量決定部46、車両制御部50、ハンドル操作量検出部51、アクセル操作量検出部52、車速検出部53等を備えている。
【0043】
前側の左の車輪11,右の車輪12は、電気自動車10を駆動する駆動輪である。各車輪11,12は、各駆動ユニット21,22により駆動される。各車輪11,12は、ハンドル操作に基づいて各転舵ユニット31,32により各転舵角が変更され、電気自動車10の進行方向を変更する転舵輪を兼ねている。後側の左右の車輪13,14は、電気自動車10の走行に伴って従動する従動輪である。なお、車輪11~14は、ブレーキ機構(図示略)により制動される。各駆動ユニット21,22が各車輪11,12を制動するブレーキ機構の機能を備えていてもよい。
【0044】
各駆動ユニット21,22は、駆動MG(Motor Generator)、INV(Inverter)、電流センサ、温度センサ、回転角センサ等を備えている。駆動MG(駆動モータ)は、3相交流の電動発電機(交流モータ)である。各駆動MGは、各INVから供給される電力に基づいて各車輪11,12を駆動する機能と、各車輪11,12の回転に基づいて発電する機能とを有している。各駆動MG(各駆動ユニット21,22)は、車輪11,12を互いに独立して駆動する。各INVは、バッテリ(図示略)から供給された直流電力を交流電力に変換して各駆動MGへ供給する。各INVは、例えば6つのスイッチング素子が三相ブリッジ接続された回路である。また、各INVは、各駆動MGの発電により供給された交流電力を、それぞれ直流電力に変換してバッテリへ供給する。各INV(各駆動ユニット21,22)の駆動状態は、駆動制御部41により制御される。ここでは、3相交流を一例として記載したが、相の数は3相に限らず、6相や9相等でもよい。
【0045】
各転舵ユニット31,32は、車輪11,12を互いに独立して転舵する。各転舵ユニット31,32(転舵機構)は、転舵MG、INV等を備えている。各転舵MG(各転舵モータ)は、各車輪11,12の転舵角(向き)を変化させる力である転舵力を発生する。各転舵MGは、各INVを介してバッテリに接続されている。各INVは、バッテリからの直流電力を交流電力に変換し、各転舵モータへ給電する。各INV(各転舵ユニット31,32)の駆動状態は、転舵制御部45により制御される。
【0046】
異常検出部43は、各駆動ユニット21,22の異常を検出する。詳しくは、各電流センサにより検出された各駆動MGの電流、各温度センサにより検出された各駆動MGのコイルの温度(以下、「コイル温度」という)、及び各回転角センサにより検出された各駆動MGの回転角に基づいて、各電流センサ、各温度センサ、及び各回転角センサの異常を検出する。なお、異常検出部43は、各駆動ユニット21,22の各駆動MG、各INV等の異常を検出してもよい。
【0047】
異常判定部44は、異常検出部43により検出された異常に基づいて、異常が生じている駆動ユニットに対応する車輪である異常輪を特定(判定)する。そして、異常判定部44(異常検知部)は、左右一対の駆動ユニット21,22の駆動MGの一方が、車両制御部50により算出された対応するトルク指令値と異なる異常トルクしか出力できない駆動異常を検知する。以後、異常トルクしか出力できない駆動MGを異常駆動MG(異常モータ)という。詳しくは、異常判定部44(制限検知部)は、左右一対の駆動ユニット21,22の駆動MGの一方に関連する異常が生じて、一方の駆動MGが出力するトルクが上限値を超えないように制限されている制限状態を検知する。異常判定部44は、制限状態が検知され、且つトルクが上限値を超えないように制限されている異常駆動MGに対応するトルク指令値が上限値よりも大きい場合に駆動異常を検知する。また、異常判定部44は、車両制御部50とトルク決定部42との通信異常を判定する。異常判定部44は、異常の判定結果を、車両制御部50へ送信する。なお、異常検出部43及び異常判定部44により、異常検知部が構成されている。
【0048】
車両制御部50(上位制御部)は、電気自動車10の全般を制御する。車両制御部50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えるマイクロコンピュータである。車両制御部50には、ハンドル操作量検出部51、アクセル操作量検出部52、車速検出部53等の検出値が入力される。
【0049】
ハンドル操作量検出部51は、ハンドル(操舵部)の操舵角(操作量)を検出する。アクセル操作量検出部52は、アクセルペダル(アクセル操作部)の踏み込み量(操作量)を検出する。車速検出部53は、電気自動車10の速度(車速)を検出する。
【0050】
車両制御部50は、検出部51~53の検出値等に基づいて、電気自動車10の各種制御を実行する。車両制御部50(指令値算出部)は、検出部51~53の検出値、及び異常判定部44の判定結果等に基づいて、各駆動ユニット21,22のトルク指令値(基本トルク値)及びトルク配分、及び各転舵ユニット31,32の転舵量指令値(基本転舵量)及び転舵量配分を算出する。すなわち、運転者(ユーザ)が意図した電気自動車10の走行状態である意図走行状態に基づいて、各駆動ユニット21,22の各駆動MGの各トルク指令値を算出する。例えば、電気自動車10が直進する場合は、駆動ユニット21,22のトルク配分を均等にし、左旋回する場合は駆動ユニット22のトルク配分を駆動ユニット21のトルク配分よりも大きくする。例えば、駆動ユニット21,22が正常である場合は、転舵ユニット31,32の転舵量配分を均等にし、駆動ユニット21,22の一方が異常である場合は、後述するように転舵ユニット31,32の転舵量配分を均等から変更する。
【0051】
トルク決定部42は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えるマイクロコンピュータである。トルク決定部42は、トルク指令値、トルク配分、及び上限値に基づいて最終トルク指令値を決定する。
【0052】
詳しくは、トルク決定部42は、各駆動ユニット21,22の各温度センサにより検出されたコイル温度に基づいて、各駆動ユニット21,22の各駆動MGが発生可能なトルクの上限値(以下、「トルク上限値」という)を制限する。詳しくは、トルク決定部42は、コイル温度がT1未満の場合には、トルク上限値を上限値Tr1とする。トルク決定部42は、コイル温度がT1以上の場合(異常判定部44により上記駆動異常が検知された場合)には、コイル温度が高くなるほどトルク上限値を小さくする。そして、トルク決定部42は、コイル温度がT2(>T1)を超えた場合(異常判定部44により上記駆動異常が検知された場合)には、トルク上限値を0とする。トルク決定部42は、トルク指令値をトルク上限値以下に制限(上限ガード)して最終トルク指令値を決定し、決定した最終トルク指令値を駆動制御部41へ送信する。なお、ここでのトルク値は絶対値を想定している。
【0053】
また、電流センサの所定異常が生じた場合は、電流が誤って検出されて駆動MGが発生するトルクが急変するおそれがある。所定異常としては、例えば電流センサに関する配線の断線や、電流センサの短絡、電流センサのゲイン異常等がある。そこで、トルク決定部42は、電流センサの所定異常が検知された場合(異常判定部44により上記駆動異常が検知された場合)に、所定異常が検知された場合よりも前の所定期間におけるトルク指令値を所定度合小さくした最終トルク指令値に決定する。最終トルク指令値は、例えばトルク指令値を1/2にした値とする。なお、トルク指令値を1/3にした値や、トルク指令値から所定値を引いた値を採用することもできる。
【0054】
また、回転角センサに異常が生じた場合は、駆動MGを回転角に応じて適切に制御することができなくなり、駆動MGが発生するトルクが急変するおそれがある。そこで、トルク決定部42は、回転角センサの異常が検知された場合(異常判定部44により上記駆動異常が検知された場合)に、異常が検知された場合よりも前の所定期間におけるトルク指令値を所定度合小さくした最終トルク指令値に決定する。最終トルク指令値は、例えばトルク指令値を1/4にした値とする。なお、トルク指令値を0にすることもできる。
【0055】
駆動制御部41は、最終トルク指令値に基づいて各駆動ユニット21,22の各INVの駆動状態を制御することにより、各駆動ユニット21,22の各駆動MGの駆動及び発電を制御する。駆動制御部41は、各駆動ユニット21,22において、各電流センサにより検出された各駆動MGの各相の電流、及び各回転角センサにより検出された各駆動MGの回転角に基づいて、各駆動MGが発生するトルクが最終トルク指令値になるように、各INVの駆動状態を制御する。すなわち、車両制御部50により算出された各トルク指令値、及びトルク決定部42により決定された各最終トルク指令値に基づいて、各駆動ユニット21,22の各駆動MGを駆動させる。
【0056】
転舵量決定部46は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えるマイクロコンピュータである。
【0057】
転舵量決定部46は、異常判定部44により上記駆動異常が検知されていない場合に、転舵量指令値及び転舵量配分に基づいて最終転舵量指令値を決定(算出)する。すなわち、転舵量決定部46は、異常判定部44により上記駆動異常が検知されていない場合に、車両制御部50により算出された各トルク指令値及び意図走行状態に基づいて各転舵ユニット31,32の各最終転舵量指令値(各転舵量)を決定する。詳しくは、
図2に示すように、転舵量決定部46は、例えば前直進時に転舵ユニット31,32の各最終転舵量指令値、すなわち車輪11,12の各転舵量を0に決定する。転舵量決定部46は、例えば前左旋回時に転舵ユニット31,32の各最終転舵量指令値を共通の正の値に決定する。転舵量決定部46は、例えば前右旋回時に転舵ユニット31,32の各最終転舵量指令値を共通の負の値に決定する。なお、細い矢印は、各車輪に作用するトルクを示し、駆動輪を黒塗りで示し、従動輪を白抜きで示している(以降においても同様)。転舵量決定部46及び車両制御部50により、転舵量算出部が構成されている。
【0058】
ここで、運転者が電気自動車10を前直進(直進)させることを意図している場合に、例えば車輪12に対応する駆動MG(異常駆動MG)がトルク指令値よりも小さい異常トルクしか出力できなくなった場合は、電気自動車10が異常駆動MGと左右同じ側へ旋回しようとする。例えば、異常駆動MGが右側の車輪12に対応する駆動MGである場合は、電気自動車10は異常駆動MGと同じ右側へ旋回しようとする。
【0059】
そこで、
図3に示すように、転舵量決定部46は、異常判定部44により上記駆動異常が検知された場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、上記異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、左右一対の転舵ユニット31,32の一方の転舵量を第1転舵量として算出し、且つ他方の転舵量を第1転舵量の絶対値よりも絶対値が小さい第2転舵量として算出する。なお、細い矢印の長さは各車輪に作用するトルクの大きさを示し、異常輪を網掛けで示している(以降においても同様)。
【0060】
詳しくは、転舵量決定部46は、意図走行状態が直進であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ異常トルクが異常駆動MGに対応するトルク指令値よりも小さい場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、異常駆動MGと左右同じ側の転舵ユニットの転舵量である第1転舵量を異常駆動MGと左右逆側へ車輪を向ける転舵量にする。例えば、異常駆動MGが右側の車輪12に対応する駆動MGである場合は、異常駆動MGと同じ右側の転舵ユニット32の転舵量である第1転舵量を、異常駆動MGと逆の左側へ車輪12を向ける正の転舵量にする。これにより、異常駆動MGと左右同じ側へ旋回しようとする電気自動車10を、直進に近付ける。すなわち、電気自動車10の走行状態を意図走行状態に近付ける。なお、異常駆動MGと左右逆側とは、進行方向を基準にして左右逆側であり、例えば前直進且つ右の駆動MGが異常駆動MGである場合は車輪12の前部を左に向ける。さらに、転舵量決定部46は、異常駆動MGと左右逆側の転舵ユニット31の転舵量である第2転舵量を0にする。すなわち、異常駆動MGと左右逆側の転舵ユニット31を、駆動異常が検知されていない場合と同様に制御する。
【0061】
また、運転者が電気自動車10を旋回(前左旋回、前右旋回)させることを意図している場合に、左右の一方の駆動MG(異常駆動MG)がトルク指令値よりも小さい異常トルクしか出力できなくなった場合は、運転者が意図した電気自動車10の旋回軌道(進行方向)から電気自動車10がずれる。
【0062】
そこで、
図3に示すように、転舵量決定部46は、意図走行状態が旋回であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ異常トルクが異常駆動MGに対応するトルク指令値よりも小さい場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、異常駆動MGと左右逆側の転舵ユニットの転舵量である第1転舵量を旋回に対応する転舵量にする。すなわち、電気自動車10の走行状態を意図走行状態に近付ける。例えば、前左旋回時に異常駆動MGが右側の車輪12に対応する駆動MGである場合は、異常駆動MGと逆の左側の転舵ユニット31の転舵量である第1転舵量を、左旋回に対応する正の転舵量にする。また、前右旋回時に異常駆動MGが右側の車輪12に対応する駆動MGである場合は、異常駆動MGと逆の左側の転舵ユニット31の転舵量である第1転舵量を、右旋回に対応する負の転舵量にする。さらに、転舵量決定部46は、異常駆動MGと左右同じ側の転舵ユニット32の転舵量である第2転舵量を0(第1転舵量の絶対値よりも絶対値が小さい転舵量)にする。これにより、第2転舵量が電気自動車10の走行状態に与える影響を抑制しつつ、第1転舵量の調節により電気自動車10の走行状態を細かく制御する。
【0063】
また、一方の駆動MGが出力するトルクが上限値を超えないように制限されている制限状態であっても、トルク指令値が上限値よりも小さい場合は、異常駆動MGはトルク指令値のトルクを出力することができる。そこで、転舵量決定部46は、異常判定部44により制限状態が検知され、且つトルクが上限値を超えないように制限されている異常駆動MGに対応するトルク指令値が上限値よりも小さい場合に、車両制御部50により算出された各トルク指令値及び意図走行状態に基づいて、各転舵ユニット31,32の各最終転舵量指令値を算出する。これにより、電気自動車10を意図走行状態で走行させる。
【0064】
そして、転舵制御部45は、各転舵ユニット31,32の転舵量が各最終転舵量指令値になるように、各転舵ユニット31,32の各INVの駆動状態を制御する。すなわち、転舵制御部45は、転舵量決定部46により決定(算出)された各最終転舵量指令値に基づいて、各転舵ユニット31,32を転舵させる。
【0065】
図4は、異常時における駆動システムの制御の手順を示すフローチャートである。
【0066】
まず、異常検出部43は、各駆動ユニット21,22の異常、詳しくは各駆動ユニット21,22各電流センサ、各温度センサ、及び各回転角センサの異常を検出しているか否か判定する(S10)。この判定において、各駆動ユニット21,22の異常を検出していないと判定した場合(S10:NO)、S10の判定を再度実行する。
【0067】
一方、S10の判定において、各駆動ユニット21,22の異常を検出していると判定した場合(S10:YES)、異常判定部44は異常輪を特定する(S11)。
【0068】
続いて、トルク決定部42は、異常輪に対応する異常駆動MGのトルクの上限値を設定する(S12)。
図5に示すように、電流センサに異常が生じた場合はトルクの上限値をトルク指令値の1/2に設定し、回転角センサに異常が生じた場合はトルクの上限値をトルク指令値の1/4に設定し、通信異常が生じた場合はトルクの上限値を直前のトルク指令値に設定する。
【0069】
続いて、ハンドル操作量検出部51はハンドルの操舵角(操作量)を検出する(S13)。アクセル操作量検出部52は、アクセルペダル(アクセル操作部)の踏み込み量(操作量)を検出する(S14)。車速検出部53は、電気自動車10の速度(車速)を検出する(S15)。
【0070】
続いて、車両制御部50(軌道算出部)は、電気自動車10の目標軌道を算出する(S16)。詳しくは、
図6に示すように、検出したハンドル操作量と検出した車速と目標旋回半径との関係を示すグラフに基づいて、目標旋回半径(目標軌道)を算出する。なお、
図6のグラフは、予め電気自動車10の仕様等に応じて設定しておくことができる。
【0071】
続いて、車両制御部50は、算出した目標軌道及び検出したアクセル操作量に基づいて、各駆動MGの各トルク指令値を算出する(S17)。
【0072】
続いて、転舵量決定部46は、算出した目標軌道に基づいて各転舵ユニット31,32の各転舵量指令値を算出する(S18)。詳しくは、電気自動車10の軌道が目標軌道になるように、各転舵ユニット31,32の各転舵量指令値を算出する。
【0073】
続いて、トルク決定部42は、いずれかの駆動MGのトルク指令値が上限値よりも大きいか否か判定する(S19)。この判定において、全ての駆動MGのトルク指令値が上限値よりも大きくないと判定した場合(S19:NO)、トルク決定部42は各トルク指令値を各最終トルク指令値とする(S20)。転舵量決定部46は、各転舵量指令値を各最終転舵量指令値とする(S21)。その後、S13の処理から再度実行する。なお、駆動制御部41は各最終トルク指令値に基づいて各駆動ユニット21,22を制御し、転舵制御部45は各最終転舵量指令値に基づいて各転舵ユニット31,32を制御する。
【0074】
一方、S19の判定において、いずれかの駆動MGのトルク指令値が上限値よりも大きいと判定した場合(S19:YES)、トルク決定部42は上限値を最終トルク指令値とする(S22)。すなわち、トルク指令値を上限値で制限した値を最終トルク指令値とする(上限ガード)。
【0075】
続いて、転舵量決定部46は、上述したように、第1転舵量及び第2転舵量を各最終転舵量指令値とする(S23)。なお、駆動制御部41は各最終トルク指令値に基づいて各駆動ユニット21,22を制御し、転舵制御部45は各最終転舵量指令値に基づいて各転舵ユニット31,32を制御する。
【0076】
続いて、車両制御部50は、車速が0であるか否か判定する(S24)。この判定において、車速が0でないと判定した場合(S24:NO)、S13の処理から再度実行する。一方、この判定において、車速が0であると判定した場合(S24:YES)、この一連の処理を終了する(END)。
【0077】
以上詳述した本実施形態は、以下の利点を有する。
【0078】
・異常判定部44は、左右一対の駆動MGの一方が、車両制御部50により算出された対応するトルク指令値と異なる異常トルクしか出力できない駆動異常を検知する。転舵量決定部46は、異常判定部44により駆動異常が検知されていない場合に、車両制御部50により算出された各トルク指令値及び意図走行状態に基づいて各転舵ユニット31,32の各転舵量を算出する。そして、転舵制御部45は、転舵量決定部46により算出された各転舵量に基づいて、各転舵ユニット31,32を転舵させる。このため、電気自動車10の走行状態が意図走行状態になるように、各転舵ユニット31,32を転舵させることができる。
【0079】
・転舵量決定部46は、異常判定部44により駆動異常が検知された場合に、異常トルクしか出力できない駆動MGである異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、左右一対の転舵ユニット31,32の一方の転舵量を第1転舵量として算出し且つ他方の転舵量を第1転舵量の絶対値よりも絶対値が小さい第2転舵量として算出する。そして、転舵制御部45は、転舵量決定部46により算出された各転舵量(第1転舵量及び第2転舵量)に基づいて、各転舵ユニット31,32を転舵させる。このため、異常判定部44により駆動異常が検知された場合であっても、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、電気自動車10を意図走行状態に近付けるように各転舵ユニット31,32を転舵させることができる。
【0080】
さらに、第2転舵量の絶対値は、第1転舵量の絶対値よりも小さい。このため、第2転舵量が電気自動車10の走行状態に与える影響を抑制して、第1転舵量の調節により電気自動車10の走行状態を細かく制御し易くなる。したがって、左右の車輪11,12(駆動輪)のうち一方の駆動輪の駆動MGに異常が生じた場合であっても、ユーザが意図した走行状態で電気自動車10を走行させ易くすることができる。
【0081】
・転舵量決定部46は、意図走行状態が直進であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ異常トルクが異常駆動MGに対応するトルク指令値よりも小さい場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、
図3の前直進に示すように、異常駆動MGと左右同じ側の転舵ユニット32の転舵量である第1転舵量を異常駆動MGと左右逆側へ車輪12を向ける転舵量にする。このため、異常駆動MGと左右同じ側へ旋回しようとする電気自動車10を、直進に近付けることができる。
【0082】
・転舵量決定部46は、
図3の前直進に示すように、異常駆動MGと左右逆側の転舵ユニット31の転舵量である第2転舵量を0にする。このため、異常駆動MGと左右逆側の転舵ユニット31を、駆動異常が検知されていない場合と同様に制御することができるとともに、第2転舵量が電気自動車10の走行状態に与える影響を抑制して、第1転舵量の調節により電気自動車10の走行状態を細かく制御し易くなる。
【0083】
・
図3の前左旋回及び前右旋回に示すように、転舵量決定部46は、意図走行状態が旋回であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ異常トルクが異常駆動MGに対応するトルク指令値よりも小さい場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、異常駆動MGと左右逆側の転舵ユニット31の転舵量である第1転舵量を旋回に対応する転舵量にする。このため、ユーザが意図した電気自動車10の旋回軌道からずれようとする電気自動車10を、ユーザが意図した電気自動車10の旋回軌道に近付けることができる。
【0084】
さらに、転舵量決定部46は、異常駆動MGと左右同じ側の転舵ユニット32の転舵量である第2転舵量を0にする。このため、第2転舵量が電気自動車10の走行状態に与える影響を抑制して、第1転舵量の調節により電気自動車10の走行状態を細かく制御し易くなる。
【0085】
・異常判定部44は、左右一対の駆動MGの一方に関連する異常が生じて、一方の駆動MGが出力するトルクが上限値を超えないように制限されている制限状態を検知する。制限状態では、トルク指令値が上限値よりも大きい場合に、出力するトルクが上限値を超えないように制限される。そこで、異常判定部44は、異常判定部44により制限状態が検知され、且つトルクが上限値を超えないように制限されている駆動MGに対応するトルク指令値が上限値よりも大きい場合に駆動異常を検知する。そして、転舵量決定部46は、異常判定部44により駆動異常が検知された場合に、上述したように、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、左右一対の転舵ユニット31,32の一方の転舵量を第1転舵量として算出し且つ他方の転舵量を第1転舵量の絶対値よりも絶対値が小さい第2転舵量として算出する。したがって、電気自動車10の走行状態を意図走行状態に近付けることができる。
【0086】
・制限状態であっても、トルク指令値が上限値よりも小さい場合は、トルクが上限値を超えないように制限されている駆動MGであっても、トルク指令値のトルクを出力することができる。この点、転舵量決定部46は、異常判定部44により制限状態が検知され、且つトルクが上限値を超えないように制限されている駆動MGに対応するトルク指令値が上限値よりも小さい場合に、車両制御部50により算出された各トルク指令値及び意図走行状態に基づいて各転舵ユニット31,32の各転舵量を算出する。したがって、電気自動車10を意図走行状態で走行させることができる。
【0087】
なお、上記の実施形態を、以下のように変更して実施することもできる。上記実施形態と同一の部分については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0088】
・
図7の前直進に示すように、転舵量決定部46は、意図走行状態が直進であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ異常トルクが異常駆動MGに対応するトルク指令値よりも小さい場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、異常駆動MGと左右逆側の転舵ユニット31の転舵量である第1転舵量を異常駆動MGと左右逆側へ車輪11を向ける転舵量にしてもよい。これにより、異常駆動MGと左右同じ側へ旋回しようとする電気自動車10を、直進に近付けることができる。そして、転舵量決定部46は、異常駆動MGと左右同じ側の転舵ユニット32の転舵量である第2転舵量を0(第1転舵量の絶対値よりも絶対値が小さい転舵量)にする。これにより、異常駆動MGと左右同じ側の転舵ユニット32を、駆動異常が検知されていない場合と同様に制御することができるとともに、第2転舵量が電気自動車10の走行状態に与える影響を抑制して、第1転舵量の調節により電気自動車10の走行状態を細かく制御し易くなる。
【0089】
・
図7の前左旋回及び前右旋回に示すように、転舵量決定部46は、意図走行状態が旋回であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ異常トルクが異常駆動MGに対応するトルク指令値よりも小さい場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、異常駆動MGと左右同じ側の転舵ユニット32の転舵量である第1転舵量を旋回に対応する転舵量にしてもよい。これにより、ユーザが意図した電気自動車10の旋回軌道からずれようとする電気自動車10を、ユーザが意図した電気自動車10の旋回軌道に近付けることができる。
【0090】
・
図8の前右旋回に示すように、転舵量決定部46は、意図走行状態が旋回であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ意図走行状態が異常トルクしか出力できない駆動MGである異常駆動MGと左右同じ側への旋回である場合に、各転舵ユニット31,32の各転舵量を0にしてもよい。こうした構成によれば、各転舵ユニット31,32は各車輪11,12を電気自動車10の正面に向けて、電気自動車10を直進させようとする。しかし、左右一対の駆動MGの一方が、車両制御部50により算出された対応するトルク指令値よりも小さい異常トルクしか出力できないため、電気自動車10は異常駆動MGと左右同じ側(
図8では右側)へ旋回しようとする。したがって、各転舵ユニット31,32が電気自動車10の走行状態に与える影響を抑制しつつ、左右の駆動MGが出力するトルクの差を利用して、ユーザが意図した旋回の方向へ電気自動車10を旋回させることができる。
【0091】
さらに、車両制御部50は、意図走行状態が旋回であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ意図走行状態が異常駆動MGと左右同じ側への旋回である場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、異常駆動MGを除く駆動MG(
図8では車輪11の駆動MG)の各トルク指令値を算出してもよい。詳しくは、電気自動車10の旋回軌道をユーザが意図した旋回軌道に近付けるように、車輪11の駆動MGのトルク指令値を算出する。こうした構成によれば、各転舵ユニット31,32の各転舵量を0にして各転舵ユニット31,32が電気自動車10の走行状態に与える影響を抑制しつつ、駆動MGのトルクの制御によっても、電気自動車10の旋回軌道をユーザが意図した旋回軌道に近付けることができる。
【0092】
・駆動異常が発生すると、電気自動車10が走行する軌道が目標軌道からずれる。電気自動車10が第1速度(例えば40[km/h])よりも高い速度で走行している場合に電気自動車10の軌道を目標軌道に急激に近付けると、電気自動車10の運転者に過大な遠心力が作用するおそれがある。
【0093】
そこで、
図9に示すように、車両制御部50は、意図走行状態が旋回であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ電気自動車10の速度が第1速度よりも高い場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び目標軌道に基づいて、電気自動車10が走行する軌道を目標軌道よりも外側から徐々に目標軌道に近付けるように異常駆動MGを除く駆動MGの各トルク指令値を算出してもよい。また、転舵量決定部46は、意図走行状態が旋回であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ電気自動車10の速度が第1速度よりも高い場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び目標軌道に基づいて、電気自動車10が走行する軌道を目標軌道よりも外側から徐々に目標軌道に近付けるように各転舵ユニット31,32の各転舵量を算出してもよい。これにより、電気自動車10の運転者に過大な遠心力が作用することを抑制することができ、乗り心地が低下することを抑制することができる。
【0094】
・駆動異常が発生すると、電気自動車10が走行する軌道が目標軌道からずれる。電気自動車10の速度が上記第1速度よりも低く且つ第1速度よりも低い第2速度(例えば10[km/h])よりも高い場合は、電気自動車10の軌道を徐々に目標軌道に近付けなくても、電気自動車10の運転者に過大な遠心力は作用しにくい。
【0095】
そこで、
図10に示すように、車両制御部50は、意図走行状態が旋回であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ電気自動車10の速度が第1速度よりも低く且つ第1速度よりも低い第2速度よりも高い場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び目標軌道に基づいて、電気自動車10が走行する軌道が目標軌道の外側及び内側になることを許容しつつ、電気自動車10が走行する軌道を目標軌道に近付けるように異常駆動MGを除く駆動MGの各トルク指令値を算出してもよい。また、転舵量決定部46は、意図走行状態が旋回であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ電気自動車10の速度が第1速度よりも低く且つ第2速度よりも高い場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び目標軌道に基づいて、電気自動車10が走行する軌道が目標軌道の外側及び内側になることを許容しつつ、電気自動車10が走行する軌道を目標軌道に近付けるように各転舵ユニット31,32の各転舵量を算出してもよい。これにより、電気自動車10の運転者に過大な遠心力が作用しにくい場合は、電気自動車10が走行する軌道を目標軌道に迅速に近付けることができる。
【0096】
なお、電気自動車10の速度が第1速度よりも低く且つ第2速度よりも高い場合に、上述した電気自動車10の速度が第1速度よりも高い場合と同様の制御を実行することもできる。また、電気自動車10の速度が第1速度よりも高い場合に、電気自動車10の速度が第1速度よりも低く且つ第2速度よりも高い場合と同様の制御を実行することもできる。
【0097】
・駆動異常が発生すると、電気自動車10が走行する軌道が目標軌道からずれる。電気自動車10の速度が上記第2速度よりも低い場合は、電気自動車10の運転者に作用する遠心力が小さいため、電気自動車10の速度を制御する必要性が低い。
【0098】
そこで、転舵量決定部46は、意図走行状態が旋回であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ電気自動車10の速度が第2速度よりも低い場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び目標軌道に基づいて、電気自動車10が走行する軌道を目標軌道に近付けるように各転舵ユニット31,32の各転舵量を算出してもよい。これにより、電気自動車10の速度を制御する必要性が低い場合は、目標軌道に基づいて異常駆動MGを除く駆動MGの各トルク指令値を算出する必要がなく、駆動システムの制御負荷を軽減することができる。なお、電気自動車10の速度が第2速度よりも低い場合に、上述した電気自動車10の速度が第1速度よりも低く且つ第2速度よりも高い場合と同様の制御を実行することもできる。
【0099】
・左右一対の駆動MGの双方が、各トルク指令値よりも小さい共通の所定トルクしか出力できない状態になることも考えられる。この場合は、左右一対の駆動MGが出力するトルクが大きく異ならないため、左右一対の転舵ユニット31,32の転舵量を互いに異なる転舵量として算出する必要性が低い。
【0100】
そこで、異常判定部44は、左右一対の駆動MGの双方が、車両制御部50により算出された対応するトルク指令値よりも小さい共通の所定トルクしか出力できない両駆動異常を検知し、転舵量決定部46は、異常判定部44により両駆動異常が検知された場合に、上記所定トルク及び意図走行状態に基づいて各転舵ユニット31,32の各転舵量を算出してもよい。これにより、転舵量決定部46が各転舵量を算出する処理負荷を軽減することができる。
【0101】
・
図11に示すように、電気自動車10が後進する場合に、上記実施形態と同様の制御を実行してもよい。具体的には、転舵量決定部46は、意図走行状態が後直進であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ異常トルクが異常駆動MGに対応するトルク指令値よりも小さい場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、
図11の後直進に示すように、異常駆動MGと左右同じ側の転舵ユニット32の転舵量である第1転舵量を異常駆動MGと左右逆側へ車輪12を向ける転舵量にする。これにより、異常駆動MGと左右同じ側へ旋回しようとする電気自動車10を、直進に近付けることができる。なお、異常駆動MGと左右逆側とは、進行方向を基準にして左右逆側であり、例えば前直進且つ右の駆動MGが異常駆動MGである場合は車輪の前部を左に向け、後直進且つ右の駆動MGが異常駆動MGである場合は車輪の後部を左に向ける。さらに、転舵量決定部46は、
図11の後直進に示すように、異常駆動MGと左右逆側の転舵ユニット31の転舵量である第2転舵量を0(第1転舵量の絶対値よりも絶対値が小さい転舵量)にする。これにより、異常駆動MGと左右逆側の転舵ユニット31を、駆動異常が検知されていない場合と同様に制御することができるとともに、第2転舵量が電気自動車10の走行状態に与える影響を抑制して、第1転舵量の調節により電気自動車10の走行状態を細かく制御し易くなる。
【0102】
図11の後左旋回及び後右旋回に示すように、転舵量決定部46は、意図走行状態が後旋回であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ異常トルクが異常駆動MGに対応するトルク指令値よりも小さい場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、異常駆動MGと左右逆側の転舵ユニット31の転舵量である第1転舵量を旋回に対応する転舵量にする。これにより、ユーザが意図した電気自動車10の旋回軌道からずれようとする電気自動車10を、ユーザが意図した電気自動車10の旋回軌道に近付けることができる。さらに、転舵量決定部46は、異常駆動MGと左右同じ側の転舵ユニット32の転舵量である第2転舵量を0(第1転舵量の絶対値よりも絶対値が小さい転舵量)にする。このため、第2転舵量が電気自動車10の走行状態に与える影響を抑制して、第1転舵量の調節により電気自動車10の走行状態を細かく制御し易くなる。
【0103】
図12の後直進に示すように、転舵量決定部46は、意図走行状態が後直進であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ異常トルクが異常駆動MGに対応するトルク指令値よりも小さい場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、異常駆動MGと左右逆側の転舵ユニット31の転舵量である第1転舵量を異常駆動MGと左右同じ側へ車輪11を向ける転舵量にしてもよい。これにより、異常駆動MGと左右同じ側へ後旋回しようとする電気自動車10を、後直進に近付けることができる。そして、転舵量決定部46は、異常駆動MGと左右同じ側の転舵ユニット32の転舵量である第2転舵量を0(第1転舵量の絶対値よりも絶対値が小さい転舵量)にする。これにより、異常駆動MGと左右同じ側の転舵ユニット32を、駆動異常が検知されていない場合と同様に制御することができるとともに、第2転舵量が電気自動車10の走行状態に与える影響を抑制して、第1転舵量の調節により電気自動車10の走行状態を細かく制御し易くなる。
【0104】
図12の後左旋回及び後右旋回に示すように、転舵量決定部46は、意図走行状態が後旋回であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ異常トルクが異常駆動MGに対応するトルク指令値よりも小さい場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、異常駆動MGと左右同じ側の転舵ユニット32の転舵量である第1転舵量を後旋回に対応する転舵量にしてもよい。これにより、ユーザが意図した電気自動車10の旋回軌道からずれようとする電気自動車10を、ユーザが意図した電気自動車10の旋回軌道に近付けることができる。
【0105】
・
図13の後右旋回に示すように、転舵量決定部46は、意図走行状態が後旋回であり、且つ異常判定部44により駆動異常が検知され、且つ意図走行状態が異常トルクしか出力できない駆動MGである異常駆動MGと左右同じ側への後旋回である場合に、各転舵ユニット31,32の各転舵量を0にしてもよい。こうした構成によれば、各転舵ユニット31,32は各車輪11,12を電気自動車10の後正面に向けて、電気自動車10を後直進させようとする。しかし、左右一対の駆動MGの一方が、車両制御部50により算出された対応するトルク指令値よりも小さい異常トルクしか出力できないため、電気自動車10は異常駆動MGと左右同じ側(
図13では右側)へ後旋回しようとする。したがって、各転舵ユニット31,32が電気自動車10の走行状態に与える影響を抑制しつつ、左右の駆動MGが出力するトルクの差を利用して、ユーザが意図した後旋回の方向へ電気自動車10を旋回させることができる。
【0106】
・
図14~17に示すように、車輪11,12が転舵輪且つ従動輪であり、車輪13,14が駆動輪である電気自動車10の駆動システムに具現化することもできる。
図14は、後輪駆動車両における正常時の転舵機構の動作を示している。
【0107】
図15は、異常時の転舵機構の動作を示している。この場合、前側の車輪11,12に対して、
図3で示した実施形態と同様の転舵制御を行っている。すなわち、駆動輪は、電気自動車10の前輪であっても後輪であってもよい。また、後側の車輪13,14に対しては、車輪14の異常駆動MGのトルクを上限値で制限している。こうした構成によっても、
図3で示した実施形態に準じた作用効果を奏することができる。
【0108】
図16では、前側の車輪11,12に対して、
図7で示した実施形態と同様の転舵制御を行っている。こうした構成によっても、
図7で示した実施形態に準じた作用効果を奏することができる。
【0109】
図17では、前側の車輪11,12に対して、
図8で示した実施形態と同様の転舵制御を行っている。こうした構成によっても、
図8で示した実施形態に準じた作用効果を奏することができる。
【0110】
・
図18~20に示すように、車輪11,12が駆動輪且つ転舵輪であり、車輪13,14が駆動輪且つ転舵輪である電気自動車10の駆動システムに具現化することもできる。ここでは、車輪12,13が異常輪になった例を示している。
【0111】
図18は、異常時の転舵機構の動作を示している。この場合、前側の車輪11,12に対して、
図3で示した実施形態と同様の転舵制御を行っている。すなわち、駆動輪は、電気自動車10の前輪及び後輪であってもよい。また、後側の車輪13,14に対して、前側の車輪11,12に対する転舵制御との組み合わせにより、電気自動車10の走行状態を意図走行状態に近付ける制御を実行している。
【0112】
図19では、前側の車輪11,12に対して、
図7で示した実施形態と同様の転舵制御を行っている。こうした構成によっても、
図7で示した実施形態に準じた作用効果を奏することができる。また、後側の車輪13,14に対して、後側の車輪13,14に対して、前側の車輪11,12に対する転舵制御との組み合わせにより、電気自動車10の走行状態を意図走行状態に近付ける制御を実行している。
【0113】
図20では、前側の車輪11,12に対して、
図8で示した実施形態と同様の転舵制御を行っている。こうした構成によっても、
図8で示した実施形態に準じた作用効果を奏することができる。また、後側の車輪13,14に対して、後側の車輪13,14に対して、前側の車輪11,12に対する転舵制御との組み合わせにより、電気自動車10の走行状態を意図走行状態に近付ける制御を実行している。
【0114】
・
図21~23に示すように、車輪11,12が駆動輪且つ転舵輪であり、車輪13,14が駆動輪且つ転舵輪である電気自動車10の駆動システムに具現化することもできる。ここでは、車輪12,14が異常輪になった例を示している。
【0115】
図21は、異常時の転舵機構の動作を示している。この場合、前側の車輪11,12に対して、
図3で示した実施形態と同様の転舵制御を行っている。すなわち、駆動輪は、電気自動車10の前輪及び後輪であってもよい。また、後側の車輪13,14に対して、前側の車輪11,12に対する転舵制御との組み合わせにより、電気自動車10の走行状態を意図走行状態に近付ける制御を実行している。
【0116】
図22では、前側の車輪11,12に対して、
図7で示した実施形態と同様の転舵制御を行っている。こうした構成によっても、
図7で示した実施形態に準じた作用効果を奏することができる。また、後側の車輪13,14に対して、後側の車輪13,14に対して、前側の車輪11,12に対する転舵制御との組み合わせにより、電気自動車10の走行状態を意図走行状態に近付ける制御を実行している。
【0117】
図23では、前側の車輪11,12及び後側の車輪13,14に対して、
図8で示した実施形態と同様の転舵制御を行っている。こうした構成によっても、
図8で示した実施形態に準じた作用効果を奏することができる。
【0118】
・車両制御部50は、異常判定部44により駆動異常が検知されていない場合に、意図走行状態に基づいて各駆動MGの各トルク指令値を算出し、異常判定部44により駆動異常が検知された場合に、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、異常駆動MGを除く駆動MGの各トルク指令値を算出してもよい。すなわち、異常駆動MGを除く駆動MGが発生するトルク及び異常駆動MGが発生する異常トルクを考慮して、電気自動車10を意図走行状態で走行させるように、異常駆動MGを除く駆動MGの各トルク指令値を算出する。こうした構成によれば、駆動MGのトルクの制御によっても、車両の旋回軌道をユーザが意図した旋回軌道に近付けることができる。
【0119】
・異常判定部44の機能を車両制御部50が備えていてもよい。トルク決定部42の機能を車両制御部50が備えていてもよい。転舵量決定部46の機能を車両制御部50が備えていてもよい。また、車両制御部50がトルク指令値を算出する機能を、トルク決定部42が備えていてもよい。車両制御部50が転舵量指令値を算出する機能を、転舵量決定部46が備えていてもよい。
【0120】
・駆動異常として、駆動MGがトルク指令値よりも大きい異常トルクしか出力できない場合もある。この場合であっても、異常判定部44は、左右一対の駆動MGの一方が、車両制御部50により算出された対応するトルク指令値と異なる異常トルク(トルク指令値よりも大きいトルク)しか出力できない駆動異常を検知する。転舵量決定部46は、異常判定部44により駆動異常が検知された場合に、異常トルクしか出力できない駆動MGである異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、左右一対の転舵ユニット31,32の一方の転舵量を第1転舵量として算出し且つ他方の転舵量を第1転舵量の絶対値よりも絶対値が小さい第2転舵量として算出する。こうした構成によれば、異常判定部44により駆動異常が検知された場合であっても、異常駆動MGを除く駆動MGに対応するトルク指令値、異常トルク、及び意図走行状態に基づいて、電気自動車10を意図走行状態に近付けるように各転舵ユニット31,32を転舵させることができる。さらに、第2転舵量の絶対値は、第1転舵量の絶対値よりも小さい。このため、第2転舵量が電気自動車10の走行状態に与える影響を抑制して、第1転舵量の調節により電気自動車10の走行状態を細かく制御し易くなる。
【0121】
・電気自動車10を運転者(ユーザ)が運転する場合に限らず、電気自動車10を一定速度で走行させる定速走行制御を車両制御部50が実行している時に、上記の各実施形態を実行することもできる。また、電気自動車10を前車に追従走行させる追従走行制御を車両制御部50が実行している時に、上記の各実施形態を実行することもできる。また、設定した経路を電気自動車10に自動走行させる自動運転(走行)制御を車両制御部50が実行している時に、上記の各実施形態を実行することもできる。これらの制御においては、定速走行制御の設定、追従走行制御の設定、自動運転(走行)制御の設定等に基づいて、意図走行状態を取得することができる。なお、定速走行制御、追従走行制御、及び自動運転制御では、電気自動車10にユーザが乗車していても、乗車していなくてもよい。
【符号の説明】
【0122】
10…電気自動車、11…車輪、12…車輪、13…車輪、14…車輪、21…駆動ユニット、22…駆動ユニット、31…転舵ユニット、32…転舵ユニット、41…駆動制御部、42…トルク決定部、43…異常検出部、44…異常判定部、45…転舵制御部、46…転舵量決定部、50…車両制御部。