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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】内燃機関の排気浄化システム
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20240214BHJP
   F01N 3/32 20060101ALI20240214BHJP
   F01N 3/22 20060101ALI20240214BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20240214BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20240214BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20240214BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20240214BHJP
   B60W 20/16 20160101ALI20240214BHJP
【FI】
F01N3/08 G
F01N3/32 A
F01N3/22 301X
F01N3/22 311Z
F02D29/02 Z
B60K6/46 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W20/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021043312
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022143002
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本城 文紀
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-113581(JP,A)
【文献】特開2018-178850(JP,A)
【文献】特開2018-119458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
F01N 3/32
F01N 3/22
F02D 29/02
B60K 6/46
B60W 10/06
B60W 10/08
B60W 20/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられた選択還元触媒と、
前記選択還元触媒の上流の排気通路に尿素水を供給する尿素添加弁と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記内燃機関の停止時に、前記排気通路に尿素水を供給し、前記選択還元触媒に所定量のアンモニアを吸着するよう構成されている停止時制御部と、
前記内燃機関の始動時に、前記選択還元触媒の温度上昇に伴い前記選択還元触媒から脱離する放出アンモニア量が、前記内燃機関から排出されたNOxの浄化によって消費される量を超えないように、前記内燃機関の運転状態を決定するよう構成されている始動時制御部と、を備えた、内燃機関の排気浄化システムであって、
前記尿素添加弁の上流の前記排気通路には過給機のタービンが設けられており、
前記タービンの上流の前記排気通路と前記尿素添加弁の上流の前記排気通路とを連通するバイパス通路と、
前記バイパス通路を開閉する切替弁と、をさらに備え、
前記始動時制御部は、前記内燃機関の運転状態を制御するとき、前記切替弁により、前記バイパス通路を開放するよう構成されている、内燃機関の排気浄化システム。
【請求項2】
内燃機関の排気通路に設けられた選択還元触媒と、
前記選択還元触媒の上流の排気通路に尿素水を供給する尿素添加弁と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記内燃機関の停止時に、前記排気通路に尿素水を供給し、前記選択還元触媒に所定量のアンモニアを吸着するよう構成されている停止時制御部と、
前記内燃機関の始動時に、前記選択還元触媒の温度上昇に伴い前記選択還元触媒から脱離する放出アンモニア量が、前記内燃機関から排出されたNOxの浄化によって消費される量を超えないように、前記内燃機関の運転状態を決定するよう構成されている始動時制御部と、を備えた、内燃機関の排気浄化システムであって、
前記尿素添加弁の上流の前記排気通路に空気を供給するエアポンプを、さらに備え、
前記停止時制御部は、前記排気通路に尿素水を供給するとき、前記エアポンプを駆動して前記排気通路に空気を供給するよう構成されている、内燃機関の排気浄化システム。
【請求項3】
前記始動時制御部は、
前記選択還元触媒の温度を取得する触媒温度取得部と、
前記選択還元触媒の温度に基づき、前記選択還元触媒で浄化可能なNOx量を算出するNOx量算出部と、
前記NOx量を浄化するために必要なアンモニア量を算出するアンモニア量算出部と、
前記放出アンモニア量が前記アンモニア量になるよう前記選択還元触媒の温度を上昇させるための排気温度である要求排気温度を算出する要求排気温度算出部と、
前記内燃機関から排出されるNOx量が前記NOx量になり、かつ、排気温度が前記要求排気温度になる、前記内燃機関の動作点を求める運転状態決定部と、を備える、請求項1または請求項2に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項4】
前記始動時制御部は、
前記選択還元触媒の温度を取得する触媒温度取得部と、
前記内燃機関を始動したときの前記選択還元触媒の温度に基づき、予め記憶されたマップから、前記内燃機関の動作点を求める運転状態決定部と、を備える、請求項1または請求項2に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項5】
前記尿素添加弁の上流の前記排気通路に空気を供給するエアポンプを、さらに備え、
前記停止時制御部は、前記排気通路に尿素水を供給するとき、前記エアポンプを駆動して前記排気通路に空気を供給するよう構成されている、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【請求項6】
前記内燃機関は、蓄電装置の電力で駆動される走行用モータを備えるとともに前記蓄電装置への充電が可能なハイブリッド車両に搭載されており、
前記内燃機関は、前記蓄電装置への充電を行うジェネレータを駆動するものであり、
前記制御装置は、決定された前記運転状態となるよう、前記内燃機関と前記ジェネレータを制御するよう構成されている、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関の排気浄化システム、および内燃機関の排気浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気に含まれる窒素酸化物(NOx)を浄化する排気浄化システムとして、排気通路に噴射された尿素水からアンモニアを生成し、生成したアンモニアを還元剤として排気中のNOxを還元する選択還元触媒を備えた排気浄化システムが知られている。たとえば、特開2018-178850号公報(特許文献1)には、内燃機関の停止時に、選択還元触媒の温度に応じて尿素水の噴射量を制御し、選択還元触媒に吸着するアンモニアの量を最適な値とすることにより、アンモニアが外部に排出されること(アンモニアのスリップ)を抑制しつつ、吸着したアンモニアを利用して再始動時のNOx浄化を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-178850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
再始動を含む、内燃機関の始動時において、選択還元触媒の温度が低く、選択還元触媒が十分に活性化していない場合がある。この場合、NOxの浄化のためには、選択還元触媒を早期に暖機することが望ましい。しかし、選択還元触媒の温度が急速に高くなると、吸着されていたアンモニアが多量に放出され、アンモニアのスリップが生じる可能性がある。
【0005】
本開示は、再始動時を含む、内燃機関の始動時において、選択還元触媒に吸着されていたアンモニアのスリップを抑止しつつ、選択還元触媒の暖機を可能とすることを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の内燃機関の排気浄化システムは、内燃機関の排気通路に設けられた選択還元触媒と、選択還元触媒の上流の排気通路に尿素水を供給する尿素添加弁と、制御装置と、を備えた内燃機関の排気浄化システムである。制御装置は、内燃機関の停止時に、排気通路に尿素水を供給し、選択還元触媒に所定量のアンモニアを吸着するよう構成されている停止時制御部と、内燃機関の始動時に、選択還元触媒の温度上昇に伴い選択還元触媒から脱離する放出アンモニア量が、内燃機関から排出されたNOxの浄化によって消費される量を超えないように、内燃機関の運転状態を決定するよう構成されている始動時制御部と、を備える。
【0007】
この構成によれば、尿素添加弁から排気通路に供給された尿素水が加水分解され、アンモニアが生成される。このアンモニアを還元剤として、内燃機関から排出されたNOxを選択還元触媒で、還元浄化する。内燃機関の停止時には、内燃機関への燃料供給は停止しているため、内燃機関から排出されるNOxの量は、実質的にゼロである。したがって、内燃機関の停止時に、排気通路に供給された尿素水から生成したアンモニアは、選択還元触媒に吸着される。制御装置の停止時制御部は、内燃機関の停止時に、排気通路に尿素水を供給し、選択還元触媒に所定量のアンモニアを吸着させる。
【0008】
選択還元触媒に吸着されているアンモニアは、選択還元触媒の温度上昇に伴い脱離し、選択還元触媒から放出される。制御装置の始動時制御部は、内燃機関の始動時に、選択還元触媒の温度上昇に伴い選択還元触媒から脱離する放出アンモニア量が、内燃機関から排出されたNOxの浄化によって消費される量を超えないように、内燃機関の運転状態を決定する。したがって、内燃機関の始動時に、選択還元触媒の温度上昇に伴い選択還元触媒から脱離したアンモニアは、内燃機関から排出されたNOxを浄化することによって消費され、選択還元触媒に吸着していたアンモニアが外部に排出されること(アンモニアのスリップ)を抑止しつつ、選択還元触媒の暖機を行うことが可能になる。
【0009】
内燃機関は、蓄電装置の電力で駆動される走行用モータを備えるとともに蓄電装置への充電が可能なハイブリッド車両に搭載されてよい。内燃機関は、蓄電装置への充電を行うジェネレータを駆動するものであり、制御装置は、決定された運転状態となるよう、内燃機関とジェネレータを制御するよう構成してよい。
【0010】
この構成によれば、ハイブリッド車両は、走行用モータを制御することにより、走行制御される。そして、決定された運転状態、たとえば、決定された燃料噴射量および回転数(回転速度)になるよう、内燃機関およびジェネレータが制御される。したがって、ハイブリッド車両の走行に影響を与えることなく、内燃機関の排気浄化システムを作動ことができる。
【0011】
本開示の内燃機関の排気浄化方法は、内燃機関の排気通路に設けられた選択還元触媒と、選択還元触媒の上流の排気通路に尿素水を供給する尿素添加弁と、を備えた内燃機関の排気浄化方法である。内燃機関の排気浄化方法は、内燃機関の停止時に、排気通路に尿素水を供給し、選択還元触媒に所定量のアンモニアを吸着し、内燃機関の始動時に、選択還元触媒の温度上昇に伴い選択還元触媒から脱離する放出アンモニア量が、内燃機関から排出されたNOxの浄化によって消費される量を超えないように、内燃機関の運転状態を決定し、決定した運転状態で内燃機関を制御する。
【0012】
この構成によれば、内燃機関の停止時に、排気通路に供給された尿素水から生成したアンモニアは、選択還元触媒に吸着され、内燃機関の始動時に、選択還元触媒の温度上昇に伴い選択還元触媒から脱離する放出アンモニア量が、内燃機関から排出されたNOxの浄化によって消費される量を超えないように、内燃機関が制御される。したがって、内燃機関の始動時に、選択還元触媒の温度上昇に伴い選択還元触媒から脱離したアンモニアは、内燃機関から排出されたNOxを浄化することによって消費され、選択還元触媒に吸着していたアンモニアのスリップを抑止しつつ、選択還元触媒の暖機を行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、再始動時を含む、内燃機関の始動時において、選択還元触媒に吸着されていたアンモニアのスリップを抑止しつつ、選択還元触媒の暖機を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態に係るハイブリッド車両の全体構成図である。
図2】エンジン1の概略構成図である。
図3】E/G-ECU200で実行される、エンジン停止時制御の処理を示すフローチャートである。
図4】アンモニア吸着可能量QaとSCR触媒温度Tcの関係を示す図である。
図5】SCR触媒74に吸着されているアンモニアの量(吸着アンモニア量)Qを算出する概略フローチャートである。
図6】E/G-ECU200で実行される、エンジン始動時制御の処理を示すフローチャートである。
図7】SCR触媒温度TcとSCR触媒74で浄化可能なNOx量N(NOx浄化可能量N)の関係を示す図である。
図8】S34の処理を示した図である。
図9】エンジン1におけるNOx排出量を表すマップである。
図10】エンジン1における排気温度を表すマップである。
図11】エンジン停止持制御、およびエンジン始動時制御が実行された際における、SCR触媒温度Tc、吸着アンモニア量Qの変化を説明する図である。
図12】変形例1におけるS34の処理を示す図である。
図13】変形例2において、E/G-ECU200で実行されるエンジン始動時制御の処理を示すフローチャートである。
図14】変形例2において、エンジン1の動作点を決定するマップである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0016】
図1は、本実施の形態に係る内燃機関の排気浄化システムを搭載したハイブリッド車両Vの全体構成図である。ハイブリッド車両Vは、エンジン1と、第1モータジェネレータ(以下「第1MG」と称する。)2と、第2モータジェネレータ(以下「第2MG」と称する。)3と、第1インバータ4と、第2インバータ5と、昇圧コンバータ(双方向コンバータ)6と、蓄電装置7と、駆動輪8を備える。
【0017】
エンジン1は、排気浄化装置を備えた、圧縮自己着火式内燃機関(ディーゼルエンジン)であり、その詳細は後述する。第1MG2および第2MG3は、交流回転電機であり、たとえば、ロータに永久磁石が埋設された三相交流同期電動機である。
【0018】
ハイブリッド車両Vはシリーズハイブリッド車であり、第1MG2は、エンジン1によって駆動される発電機(ジェネレータ)として用いられる。第1MG2が発電した交流電力は、第1インバータ4によって直流電力に変換され、昇圧コンバータ6を介して蓄電装置7に供給し、蓄電装置7を充電する。このとき、昇圧コンバータ6は、降圧回路として動作する。また、第1MG2が発電した電力は、第2インバータ5を介して第2MG3へ供給される。第1インバータ4は、蓄電装置7から供給された直流電力を、第1MG2を駆動するための交流電力に変換して、第1MG2を用いて、エンジン1をクランキング、あるいは、モータリングするようにしてもよい。
【0019】
第2MG3は、主として電動機として動作し、駆動輪8を駆動する。第2MGは、本開示の「走行用モータ」に相当する。第2MG3は、蓄電装置7からの電力および第1MG2の発電電力の少なくとも一方を受けて駆動され、第2MG3の駆動力は駆動輪8に伝達される。一方、ハイブリッド車両Vの制動時や下り坂では、第2MG3は、発電機として動作して回生発電を行なう。第2MG3が発電した電力は、第2インバータ5を介して蓄電装置7に充電される。また、第2インバータ5は、昇圧コンバータ6で昇圧された蓄電装置7の直流電力を、第2MG3を駆動するための交流電力に変換する。
【0020】
蓄電装置7は、再充電可能な直流電源であり、たとえばリチウムイオン電池やニッケル水素電池等の二次電池を含んで構成される。蓄電装置7は、第1MG2および第2MG3の少なくとも一方が発電した電力を受けて充電される。そして、蓄電装置7は、その蓄えられた電力を第2インバータ5、および第1インバータ4へ供給する。なお、蓄電装置7として電気二重層キャパシタ等も採用可能である。
【0021】
蓄電装置7には、監視ユニット7aが設けられる。監視ユニット7aには、蓄電装置7の電圧、入出力電流および温度をそれぞれ検出する電圧センサ、電流センサおよび温度センサ(いずれも図示せず)が含まれる。監視ユニット7aは、各センサの検出値(蓄電装置7の電圧、入出力電流および温度)をBAT-ECU110に出力する。
【0022】
ハイブリッド車両Vは、さらに、HV-ECU(Electronic Control Unit)100と、BAT-ECU110と、各種センサ120と、E/G-ECU200とを備える。HV-ECU100、BAT-ECU110、およびE/G-ECU200は、CAN(Controller Area Network)150を通じて互いに通信可能に構成されている。
【0023】
HV-ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、処理プログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、各種信号を入出力するための入出力ポート(図示せず)等を含み、メモリ(ROMおよびRAM)に記憶された情報、各種センサ120からの情報、BAT-ECU110、E/G-ECU200からの情報に基づいて、所定の演算処理を実行する。そして、HV-ECU100は、演算処理の結果に基づいて、第1インバータ4,第2インバータ5、および昇圧コンバータ6を制御するとともに、E/G-ECU200に指令を出力する。
【0024】
BAT-ECU110も、CPU、ROM、RAM、入出力ポート等を含む(いずれも図示せず)。BAT-ECU110は、監視ユニット7aからの蓄電装置7の入出力電流および/または電圧の検出値に基づいて蓄電装置7の蓄電量を示すSOC(State Of Charge)を算出する。SOCは、たとえば、蓄電装置7の満充電容量に対する現在の蓄電量を百分率で表される。そして、BAT-ECU110は、算出されたSOCをHV-ECU100へ出力する。なお、HV-ECU100においてSOCを算出してもよい。
【0025】
図2は、エンジン1の概略構成図である。エンジン1は、ディーゼルエンジンであり、エンジン本体10のシリンダ(気筒)12に形成された燃焼室に、燃料噴射弁(インジェクター)14から燃料を噴射し、圧縮自己着火を行う内燃機関である。エンジン1の吸気通路20には、エアクリーナ22、インタークーラ24、および吸気絞り弁(電子制御スロットル)26が設けられており、エアクリーナ22で異物が除去された新気(空気)は、ターボ過給機30のコンプレッサ32で過給(圧縮)され、インタークーラ24で冷却されて、吸気マニホールド28に供給され、吸気ポートから各燃焼室に供給される。
【0026】
燃焼室から排出される排気(排気ガス)は、排気マニホールド50に集められ、排気通路52を介して、外気に放出される。また、排気の一部は、EGR(Exhaust Gas Recirculation)通路60を介して、吸気マニホールド28に還流される。EGR通路60には、EGRクーラ62とEGR弁64が設けられる。
【0027】
排気通路52には、上流側から、ターボ過給機30のタービン34、酸化触媒70、DPF(Diesel Particulate Filter)72、選択還元触媒74、酸化触媒76が設けられている。酸化触媒70は、排気中の一酸化炭素(CO)を二酸化炭素(CO2)に酸化し、排気中の炭化水素(HC)を水(HO)とCOに酸化する。また、排気中の一酸化窒素(NO)を二酸化窒素(NO)に酸化する。これは、窒素酸化物(NOx)の還元反応は、NOとNOが1:1の比率のとき、反応速度が速いため、ディーゼルエンジンの排気中にはNOが多く含まれているため、排気中のNOをNOに酸化して、NOとNOの比を1:1に近づけるためである。
【0028】
DPF72は、排気中の微粒子を捕集し、捕集した微粒子を適宜燃焼除去することにより、浄化する。選択還元触媒(以下、SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒とも称する)74は、排気中のNOxを還元浄化する。SCR触媒74の詳細は後述する。酸化触媒76は、SCR触媒74から排出された(スリップした)アンモニアを酸化して浄化する。
【0029】
SCR触媒74は、たとえば、セラミック担体に銅(Cu)イオン交換ゼオライトを触媒として担持したものであり、アンモニア(NH3)を還元剤として用いることにより、高い浄化率を示すものである。還元剤として利用するアンモニアは、SCR触媒72の上流の排気通路に供給した尿素水を加水分解することにより生成する。SCR触媒74の上流の排気通路には、尿素添加弁(尿素水噴射インジェクター)80が設けられ、尿素水タンク82から図示しないポンプによって圧送される尿素水を、尿素添加弁80から、SCR触媒「74の上流の排気通路52に噴射する。
【0030】
排気通路52から分岐して、ターボ過給機30のタービン34を迂回するバイパス通路54が設けられており、バイパス通路54の下流端には、バイパス通路54を開閉(連通/遮断)する切替弁90が設けられている。バイパス通路54には、エアポンプ40が設けられており、エアポンプ40が駆動されると、バイパス通路54に外気(空気)が供給される。
【0031】
上記のように構成されたエンジン1では、排気中のNOxは、SCR触媒74によって還元浄化される。SCR触媒74において、排気中のNOxを良好に浄化するためには、SCR触媒74が十分に活性化しており、アンモニアとNOxの反応速度が速いことが望ましい。たとえば、SCR触媒74が200℃以上のとき、良好な浄化性能が得られる。
【0032】
還元剤としてのアンモニアは、尿素添加弁80から供給された尿素水が加水分解することにより生成される。尿素水の加水分解は、所定温度以上で反応が進行するので、排気通路52内の温度が所定温度以上であるときに、尿素添加弁80から尿素水が噴射される。たとえば、排気通路52内の温度が160℃以上であるときに、尿素水が供給される。
【0033】
エンジン1の始動時には、排気温度が低く、排気通路52内の温度が低い。このため、尿素水を加水分解してアンモニアを生成することができない。この点を解決するため、エンジン1の停止時に、尿素水を加水分解して生成したアンニアを、SCR触媒74に吸着(保持)しておく。そして、エンジン1の始動時の排気温度が低いとき、SCR触媒74に吸着しているアンモニアを用いて、排気中のNOxを浄化する。
【0034】
SCR触媒74に吸着しているアンモニアは、SCR触媒74の温度が上昇すると、SCR触媒74から脱離し、放出される。このとき、SCR触媒74の温度が低く、十分に活性化していないと、放出された(脱離した)アンモニアは、NOxと反応することなく、SCR触媒74の下流に排出され、アンモニアのスリップが発生する。また、排気中のNOxも浄化されることなく、排出される。
【0035】
本実施の形態では、エンジン1の始動時に、SCR触媒74の温度上昇に伴いSCR触媒74から脱離するアンモニアの量(放出アンモニア量)が、エンジン1から排出されたNOxの浄化によって消費される量以上にならないように、エンジン1の運転状態を制御して、アンモニアのスリップを抑制する。
【0036】
エンジン1の運転状態を制御するE/G-ECU200は、HV-ECU100と同様に、CPU210、メモリ(ROMおよびRAM)220、各種信号を入出力するための入出力ポート(図示せず)等を含み、各種センサ120からの情報、HV-ECU100からの情報に基づいて、所定の演算処理を実行する。
【0037】
各種センサ120は、たとえば、アクセルペダルセンサ121、エンジン回転数センサ122、SCR触媒上流側温度センサ123、SCR触媒下流側温度センサ124、外気温センサ125を含む。アクセルペダルセンサ121は、ユーザによるアクセルペダル操作量(以下「アクセル開度」ともいう)APを検出する。エンジン回転数センサ122は、エンジン1の回転速度(回転数)NEを検出する。SCR触媒上流側温度センサ123は、SCR触媒74の直上流側の排気通路52内の雰囲気温度である上流側温度Tuを検出する。SCR触媒下流側温度センサ124は、SCR触媒74の直下流側の排気通路52内の雰囲気温度である下流側温度Tdを検出する。外気温センサ125は、外気温度THAを検出する。なお、排気通路52内を排気が流通しているとき、上流側温度Tuは、SCR触媒74の上流の排気温度であり、下流側温度Td」は、SCR触媒74の下流の排気温度である。
【0038】
図3は、E/G-ECU200で実行される、エンジン停止時制御の処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、蓄電装置7のSCOが上限値になり、HV-ECU100からエンジン停止指令が出力されたとき、あるいは、図示しないパワースイッチが押下され、ハイブリッド車両Vのシステムを停止する際に、エンジン1への燃料噴射(燃料供給)を停止してエンジン1を停止したあとに、実行される。まず、ステップ10(以下、ステップをSと略す)で、SCR触媒74の温度であるSCR触媒温度Tcを取得する。たとえば、上流側温度Tuと下流側温度Tdの平均値をSCR触媒温度Tcとして取得する。
【0039】
続く、S11では、SCR触媒温度Tcが所定値T1以上か否かを判定する。所定値T1は、尿素水の加水分解が適正に行われてアンモニアを生成可能な最低温度であり、たとえば、160℃であってよい。SCR触媒温度Tcが所定値T1以上であると、肯定判定され、S12へ進む。
【0040】
S12において、SCR触媒74に吸着されている(保持されている)アンモニアの量(吸着アンモニア量)Qが、SCR触媒74のアンモニア吸着可能量Qa未満であるか否かを判定する。アンモニア吸着可能量Qaは、SCR触媒74で吸着可能なアンモニア量の上限値である。図4は、アンモニア吸着可能量QaとSCR触媒温度Tcの関係を示す図である。図4に示すように、アンモニア吸着可能量Qaは、SCR触媒温度Tcが低いほど、大きな値になる。したがって、SCR触媒温度Tcが低いほど、SCR触媒74は、多量のアンモニアを吸着することができる。アンモニア吸着可能量Qaは、たとえば、図4の関係を用いて、SCR触媒温度Tcから算出する。
【0041】
図5は、SCR触媒74に吸着されているアンモニアの量(吸着アンモニア量)Qを算出する概略フローチャートである。このフローチャートは、ハイブリッド車両Vのシステムが作動しているとき、所定期間毎に繰り返し処理される。S20では、前回、このルーチンが処理されてから、今回のルーチンが開始されるまでの間に、エンジン1から排出されたNOx量ΣNOxを算出する。たとえば、燃料噴射量と回転数NEをパラメータとしたマップからNOx排出量を求め、求めたNOx排出量を積算することより、NOx量ΣNOxを算出する。
【0042】
S21では、前回、このルーチンが処理されてから、今回のルーチンが開始されるまでの間に、生成されたアンモニア量Σqを算出する。たとえば、この間に尿素添加弁80から排気通路52に供給された尿素水の量から、アンモニア量Σqを算出する。
【0043】
続くS22では、吸着アンモニア量Qを「Q=Q(n-1)+Σq-(k*ΣNOx)」として算出する。Q(n-1)は、吸着アンモニア量Qの前回値であり、kはアンモニアとNOxの反応における当量比から求めた係数である。
【0044】
S23では、S22で算出した吸着アンモニア量Qが、アンモニア吸着可能量Qa以下か否かを判定する。アンモニア吸着可能量Qaは、たとえば、図4の関係を用いて、SCR触媒温度Tcから算出する。吸着アンモニア量Qがアンモニア吸着可能量Qaより大きい場合、否定判定されS24へ進み、吸着アンモニア量Qをアンモニア吸着可能量Qaとして、S25へ進む。S23で、吸着アンモニア量Qがアンモニア吸着可能量Qa以下の場合は、肯定判定されS25へ進む。
【0045】
S25では、今回算出した吸着アンモニア量Qを、前回値Q(n-1)としてメモリに記憶し、今回のルーチンを終了する。
【0046】
図3に戻り、S12では、図5のS22、あるいはS24で算出した吸着アンモニア量Qとアンモニア吸着可能量Qaを比較する。吸着アンモニア量Qがアンモニア吸着可能量Qa未満である場合は、肯定判定されS13へ進む。S13では、切替弁90を駆動してバイパス通路54を開放(連通)するとともに、エアポンプ40を駆動してバイパス通路54を介して、SRC触媒74上流の排気通路52に外気(空気)を供給する。そして、尿素添加弁80から尿素水を噴射する。尿素水の噴射量(供給量)は、所定値であってよく、あるいは、アンモニア吸着可能量Qaと吸着アンモニア量Qの差に応じた(比例した)値であってよい。S13を処理すると、S10へ戻る。
【0047】
吸着アンモニア量Qがアンモニア吸着可能量Qa以上である場合は、S12で否定判定されS14へ進む。S14では、エアポンプ40が駆動されているときは、駆動を停止する。なお、尿素添加弁80から尿素水の噴射は、行われない。S14を処理すると、S10へ戻る。
【0048】
S11で、SCR触媒温度Tcが所定値T1未満であり、否定判定されるとS15へ進む。S15では、停止処理を行う。たとえば、今回の処理が、HV-ECU100からエンジン停止指令が出力されたときに実行されたのであれば、エアポンプ40が駆動されているときは、駆動を停止し、次回の始動(再始動)の指令待ちの状態とし、また、尿素水の供給を禁止し、今回のルーチンを終了する。たとえば、今回の処理が、パワースイッチが押下され、ハイブリッド車両Vのシステムを停止する際に実行されたのであれば、エアポンプ40が駆動されているときは、駆動を停止し、燃料ポンプ等の他のエンジン1関連の機器も停止して、ルーチンを終了する。
【0049】
以上のように、図3に示した、エンジン停時制御が実行されることにより、エンジン1が停止した際、SCR触媒温度Tcが所定値T1未満になるまで、尿素水が供給されアンモニアが生成されて、SCR触媒74にアンモニアが吸着される。尿素水は、吸着アンモニア量Qがアンモニア吸着可能量Qaになるまで供給される。これにより、SCR触媒温度Tcの低下に伴い、図4に示す、アンモニア吸着可能量Qaのラインに沿って、吸着アンモニア量Qが増加する。そして、SCR触媒温度Tcが所定値T1になると、吸着アンモニア量Qは、アンモニア吸着可能量Qaの最大値に相当するQhになる。なお、図3のエンジン停止時制御の実行中に、エンジン1の始動(再始動)が要求された場合には、その時点で、エンジン停止持制御は終了する。
【0050】
図6は、E/G-ECU200で実行される、エンジン始動時制御の処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、エンジン1の始動時に処理される。たとえば、蓄電装置7のSCOが所定値以下になり、HV-ECU100からエンジン始動指令が出力されたとき、あるいは、図示しないパワースイッチが押下され、ハイブリッド車両Vのシステムが起動されると、第1MG2によってエンジン1がクランキングされ、エンジン1が始動すると、まず、S30において、SCR触媒温度Tcを取得する。たとえば、S10と同様に、上流側温度Tuと下流側温度Tdの平均値をSCR触媒温度Tcとして取得してよい。
【0051】
続くS31では、SCR触媒温度Tcが所定値TA以上か否かを判定する。所定値TAは、SCR触媒74が十分に活性化する温度であり、たとえば、所定値TAは、200℃であってよい。SCR触媒温度Tcが所定値TA未満であり、否定判定されるとS31へ進む。
【0052】
S32では、切替弁90を駆動してバイパス通路54を開放(連通)したあと、S33へ進む。S33では、SCR触媒74で浄化可能なNOx量Nを算出する。図7は、SCR触媒温度TcとSCR触媒74で浄化可能なNOx量N(NOx浄化可能量N)の関係を示す図である。NOx浄化可能量Nは、たとえば、単位時間当たりに浄化可能なNOx量であり、SCR触媒温度Tcが低いときには、アンモニアとNOxの反応速度が遅いため、NOx浄化可能量Nは小さい値になる。また、SCR触媒74が十分に活性化する温度である所定値TA以上では、SCR触媒74の容量に依存した値になる。S33では、図7に示した関係から、SCR触媒温度Tcに基づき、NOx浄化可能量Nを算出する。
【0053】
続く、S34では、NOx浄化可能量Nを用いて、エンジン1の動作点を算出し、決定する。図8は、S34の処理を示した図である。S341では、エンジン1から排出されるNOxの量(NOx排出量)が、NOx浄化可能量Nなる動作線Dnを算出する。図9は、エンジン1におけるNOx排出量を表すマップである。このマップは、予め実験等により作成され、メモリ220に記憶されている。NOx排出量は、たとえば、単位時間当たりに、エンジン1から排出されるNOxの量である。図9において、横軸はエンジン回転数NEであり、縦軸は燃料噴射量Fqである。ディーゼルエンジンにおいては、一般的に、負荷が高いほど(燃料噴射量Fqが多いほど)NOx排出量が多くなり、また、エンジン回転数NEが高いほどNOx排出量が多くなる。図9において、曲線は、NOx排出量が同じであるエンジン1の動作線である。S341では、図9に示すマップから、NOx排出量がNOx浄化可能量Nになる動作線Dnを抽出する。なお、図9のマップにおいて、NOx排出量がNOx浄化可能量Nより大きい動作線しか抽出できない場合は、最もNOx排出量が小さな動作線を動作線Dnとして抽出する。
【0054】
続くS342では、NOx浄化可能量NのNOxを浄化するのに必要なアンモニア量Naを算出する。たとえば、アンモニアとNOxの反応における当量比から、NOx浄化可能量NのNOxを浄化するのに必要なアンモニア量Naを算出する。
【0055】
S343では、SCR触媒74に吸着しているアンモニアが、アンモニア量Naだけ脱離するために必要な排気温度である要求排気温度Teを算出する。たとえば、現在の吸着アンモニア量Qとアンモニア量Naから、目標とするアンモニア吸着可能量Qatを求め(Qat=Q-Na)、図4に示した、SCR触媒温度Tcとアンモニア吸着可能量Qaとの関係を用いて、目標とするアンモニア吸着可能量Qatになる目標SCR触媒温度Tctを求める。そして、目標SCR触媒温度Tctと現在のSCR触媒温度Tcから、アンモニア量Naを脱離(放出)するために必要なSCR触媒74の昇温量ΔT(=Tct-Tc)(℃)を求める。そして、現在のSCR触媒温度Tc、SCR触媒74の熱容量、および昇温量ΔT(℃)から、要求排気温度Teを算出する。
【0056】
続くS344では、S341で抽出した動作線Dn上において、排気温度が要求排気温度Teになる動作点を求める。図10は、エンジン1における排気温度を表すマップである。このマップは、予め実験等により作成され、メモリ220に記憶されている。図10において、横軸はエンジン回転数NEであり、縦軸は燃料噴射量Fqである。図10において、曲線は、排気温度が同じであるエンジン1の動作線である。ディーゼルエンジンにおいては、負荷が高いほど(燃料噴射量Fqが多いほど)排気温度が高くなる。S344では、図10のマップを用いて、S341で抽出した動作線Dn上において、排気温度が要求排気温度Teになる点を、エンジン1の動作点として算出し決定する。なお、排気温度が要求排気温度Teになる動作点がないときには(要求排気温度Teが、エンジン1の排気温度より、高い、あるいは、低い場合は)、排気温度が要求排気温度Teに最も近い点を、エンジン1の動作点として決定する。
【0057】
E/G-ECU200は、S344で決定した動作点でエンジン1を制御する。たとえば、動作点における燃料噴射量になるように燃料噴射弁14を駆動し、動作点におけるエンジン回転数NEになるよう、第1MG2の負荷(発電量)の指令値をHV-ECU100へ出力する。
【0058】
図6に戻り、続くS35では、SCR触媒温度Tcが所定値T1以上か否かを判定する。SCR触媒温度Tcが所定値T1未満の場合は、尿素水の加水分解を行うことができないので、否定判定されS30に戻り、処理を繰り返す。SCR触媒温度Tcが所定値T1以上の場合、肯定判定されS36へ進む。
【0059】
S36では、吸着アンモニア量Qがアンモニア吸着可能量Qa未満か否かを判定する。なお、アンモニア吸着可能量Qaは、SCR触媒温度Tcに基づいて、図4に示す関係から算出される。吸着アンモニア量Qがアンモニア吸着可能量Qa以上の場合、否定判定されS30に戻り、処理を繰り返す。吸着アンモニア量Qがアンモニア吸着可能量Qaの場合は、肯定判定されS37へ進む。
【0060】
S37では、尿素添加弁80から尿素水を噴射する。尿素水の噴射量(供給量)は、所定値であってよく、あるいは、アンモニア吸着可能量Qaと吸着アンモニア量Qの差に応じた(比例した)値であってよい。S37を処理したあと、S30へ戻り、処理を繰り返す。
【0061】
SCR触媒74の温度が上昇し、SCR触媒温度Tcが所定値TA以上になり、SCR触媒74が十分に活性化すると、S31で肯定判定されS38に進む。S38では、エンジン1の制御を通常制御(SCR触媒74の暖機終了後の制御)に戻し、エンジン始動時制御を終了する。なお、通常制御は、蓄電装置7のSOCの状態に応じてHV-ECU100から出力される指令に基づき、エンジン1を効率的な運転領域で運転する。また、エンジン1から排出されるNOx量に応じて、尿素添加弁80から尿素水が噴射される。なお、通常制御においては、切替弁90によって、バイパス通路54は遮断(閉鎖)され、タービン34を通過する排気によってターボ過給機30が駆動される。
【0062】
図11は、上記のエンジン停止持制御、およびエンジン始動時制御が実行された際における、SCR触媒温度Tc、吸着アンモニア量Qの変化を説明する図である。時刻t1でエンジン1が停止し、エンジン停止持制御が開始されると、SCR触媒74の温度が低下し、時刻t2でSCR触媒温度Tcが所定値T1以下になるまで、尿素水が供給されアンモニアが生成されて、SCR触媒74にアンモニアが吸着される。尿素水は、吸着アンモニア量Qがアンモニア吸着可能量Qaになるまで供給される。これにより、SCR触媒温度Tcの低下に伴い、図4に示す、アンモニア吸着可能量Qaのラインに沿って、吸着アンモニア量Qが増加する。時刻t2でSCR触媒温度Tcが所定値T1以下になると、尿素水の供給が禁止される。このときの吸着アンモニア量Qは、アンモニア吸着可能量Qaの最大値Qhに相当する。(吸着アンモニア量Qは、最大値Qhである。)
時刻t4でエンジン1が始動されると、SCR触媒74で浄化可能なNOx量(NOx浄化可能量N)が排出され、かつ、排出されたNOx量を浄化するのに必要なアンモニア量NaがSCR触媒74から脱離する排気温度になるような、動作点でエンジン1が運転される。
【0063】
エンジン1の始動後、SCR触媒温度Tcが所定値T1に上昇した時刻を時刻t4とすると、時刻t3から時刻t4までの間は、SCR触媒74の吸着アンモニア量Qは最大値Qh以下であるので、SCR触媒温度Tcの上昇によって、SCR触媒74からアンモニアが脱離することはない。時刻t3から時刻t4までの間は、SCR触媒74に吸着されているアンモニアと排気中のNOxが反応することにより、NOxが浄化され、これにともない、吸着アンモニア量Qが減少する。
【0064】
時刻t4で、SCR触媒温度Tcが所定値T1になると、尿素水の加水分解が適正に行われるので、尿素水の供給が許可され、SCR触媒74の吸着アンモニア量Qがアンモニア吸着可能量Qaより小さい場合、吸着アンモニア量Qがアンモニア吸着可能量Qaになるよう、尿素添加弁80から尿素水が噴射される(図6のS35およびS36)。この際、アンモニア吸着可能量Qaは、図4に示すように、SCR触媒温度Tcの上昇に伴い減少する。
【0065】
SCR触媒温度Tcが所定値TAに上昇し、SCR触媒74が十分に活性化する時刻をt5とすると、時刻t4から時刻t5までの間は、SCR触媒74の温度上昇に伴い、SCR触媒74から脱離し、吸着アンモニア量Qが減少する。この間は、SCR触媒74の温度上昇に伴い、SCR触媒74から脱離したアンモニアによって、主に、排気中のNOxが浄化される。この際、SCR触媒74から脱離するアンモニア量は、エンジン1から排出されるNOx量を浄化するのに必要なアンモニア量Naになるよう、排気温度が調整されてエンジン1が運転される(図8のS342~S344)。したがって、SCR触媒74から脱離する放出アンモニア量が、エンジン1から排出されたNOxの浄化によって消費される量を超えないようにエンジン1の運転状態が決定され、エンジン1が運転されるので、SCR触媒74からアンモニアがスリップすることを抑止できる。
【0066】
本実施の形態によれば、エンジン1の停止時に、排気通路52に尿素水を供給し、SCR触媒74に所定量のアンモニアを吸着させる。エンジン1の始動時に、SCR触媒74の温度上昇に伴いSCR触媒74から脱離する放出アンモニア量が、エンジン1から排出されたNOxの浄化によって消費される量を超えないように、エンジン1の運転状態を決定する。したがって、エンジン1の始動時に、SCR触媒74の温度上昇に伴いSCR触媒74から脱離したアンモニアは、エンジン1から排出されたNOxの浄化によって消費され、SCR触媒74に吸着していたアンモニアが外部に排出されること(アンモニアのスリップ)を抑止しつつ、SCR触媒74の暖機を行うことが可能になる。
【0067】
本実施の形態によれば、エンジン1の始動時のエンジン1の動作点は、SCR触媒74で浄化可能なNOx量(NOx浄化可能量N)が排出され、かつ、NOx浄化可能量NのNOxを浄化するのに必要なアンモニア量(アンモニア量Na)がSCR触媒74から脱離する排気温度になるよう決定されている。したがって、SCR触媒74がNOxを浄化可能な範囲内で、排気温度が速やかに上昇するようエンジン1の動作点が決定されるので、アンモニアのスリップを抑制しつつ、SCR触媒74の暖機を早期に完了することができる。また、切替弁90によってバイパス通路54を開放し、エンジン1の排気を、ターボ過給機30のタービン34を迂回してSCR触媒74に流入するので、タービン34によって排気熱が奪われることなく、SCR触媒74を、早期に暖機することができる。
【0068】
本実施の形態によれば、エンジン1は、ハイブリッド車両Vに搭載され、発電機(ジェネレータ)である第1MG2を駆動する。ハイブリッド車両Vの走行制御は、走行用モータである第2MG3の出力を制御することによって行われる。したがって、ハイブリッド車両Vの動力性能に影響をおよぼすことなく、エンジン始動時制御を実行でき、好適に、SCR触媒74のアンモニアスリップを抑止しつつ、SCR触媒74の暖機を行うことが可能になる。なお、本実施の形態では、ハイブリッド車両Vとしてシリーズハイブリッド車を説明した。しかし、ハイブリッド車両Vとして、たとえば、第1MG2と第2MG3とを、遊星歯車装置から構成された動力分割機構で連結した、シリーズ・パラレル型のハイブリッド車であってもよい。
【0069】
本実施の形態によれば、バイパス通路54にエアポンプ40を設け、エンジン停止時制御において、尿素添加弁80から尿素水を噴射する際に、エアポンプ40を駆動し排気通路52に空気(外気)を供給している。これにより、尿素添加弁80から噴射された尿素水、および、尿素水から生成されたアンモニアが、SCR触媒74へ良好に流入し、エンジン停止時制御によって、SCR触媒74が好適にアンモニアを吸着することができる。なお、エアポンプ40は、尿素添加弁80の上流の排気通路52へ空気を供給できればよく、たとえば、DPF72と尿素添加弁80の間の排気通路52にエアポンプ40を設けてもよい。また、エアポンプ40を設けることなく、エンジン停止持制御において、尿素添加弁80から尿素水を噴射する際に、第1MG2でエンジン1をモータリングすることにより、排気通路52に空気を供給するようにしてもよい。
【0070】
本実施の形態では、エンジン1としてディーゼルエンジンを説明したが、エンジン1はガソリンエンジン(火花点火式エンジン)であってもよい。
【0071】
なお、本実施の形態における、エンジン停止持制御(図3)が、本開示の「停止制御部」に相当し、エンジン始動時制御(図6)が、本開示の「始動時制御部」に相当する。また、図6のS30等が本開示の「触媒温度取得部」に相当し、S33が本開示の「NOx量算出部」に相当する。図8のS342が本開示の「アンモニア量算出部」に相当し、S343が本開示の「要求排気温度算出部」に相当し、S344が本開示の「運転状態決定部」に相当する。
【0072】
(変形例1)
上記の実施の形態では、図8に示す処理によって、始動時のエンジン1の動作点(運転状態)を決定しが、図8に示した処理を、図12に示す処理に変更してもよい。図12は、変形例1におけるS34の処理を示す図である。
【0073】
図12示した処理は、図8に示した処理に対して、S341をS341aに変更し、S344をS344aに変更している。S344aでは、エンジン1の排気温度が、S343で算出した要求排気温度Teとなる動作線Dtを、図10のマップから抽出する。なお、排気温度が要求排気温度Teになる動作線Dtがないときには(要求排気温度Teが、エンジン1の排気温度より、高い、あるいは、低い場合は)、排気温度が要求排気温度Teに最も近い動作線を、動作線Dtとして抽出する。
【0074】
続くS341aにおいて、図9のマップを用いて、S344aで抽出した動作線Dt上において、NOx排出量がNOx浄化可能量Nになる点を、エンジン1の動作点として算出し、決定する。なお、図9のマップにおいて、NOx排出量がNOx浄化可能量Nより大きい動作点しか算出できない場合は、最もNOx排出量が小さな動作点、エンジン1の動作点として算出する。
【0075】
この変形例1においても、上記の実施の形態と同様に、エンジン1の始動時のエンジン1の動作点は、SCR触媒74で浄化可能なNOx量(NOx浄化可能量N)が排出され、かつ、NOx可能浄化量NのNOxを浄化するのに必要なアンモニア量(アンモニア量Na)がSCR触媒74から脱離する排気温度になるよう決定される。したがって、SCR触媒74がNOxを浄化可能な範囲内で、排気温度が速やかに上昇するようエンジン1の動作点が決定されるので、アンモニアのスリップを抑制しつつ、SCR触媒74の暖機を早期に完了することができる。
【0076】
(変形例2)
図13は、変形例2において、E/G-ECU200で実行されるエンジン始動時制御の処理を示すフローチャートである。図6に示したフローチャートに対して、S32およびS34が、S40に変更されており、その他の処理は、図6と同様であるので、その説明を省略する。
【0077】
エンジン1の始動時において、エンジン1の運転状態に応じた、始動後のSCR触媒74の温度上昇カーブは、始動時のSCR触媒温度Tcと外気温度THAを用いて、予め実験等によって求めることができる。エンジン1の運転状態に応じた、始動後にエンジン1から排出されるNOx量も、予め実験等によって求めることができる。また、SCR触媒温度Tcの上昇により、始動後にSCR触媒74から脱離しする放出アンモニア量についても、始動時のSCR触媒温度Tcを用いて、予め実験等により求めることができる。変形例2においては、エンジン1の始動後における運転状態(エンジン1の動作点)を、始動時のSCR触媒温度Tcと外気温度THAをパラメータとしたマップとして、予め実験により適合値として求めておき、このマップから、エンジン1の動作点を算出し、決定する。
【0078】
S32で、切替弁90を駆動してバイパス通路54を開放(連通)したあと、S40へ進む。S40では、始動時のSCR触媒温度Tc(S30が最初に処理されたときのSCR触媒温度Tcであってよい)と、外気温センサ125で検出した外気温度THAに元づいて、図14に示すマップから、エンジン1の動作点D*を算出し、決定する。
【0079】
図14は、変形例2において、エンジン1の動作点を決定するマップである。このマップは、予め実験等により求め、E/G-ECU200のメモリ220に格納されている。動作点D*は、エンジン1の燃料噴射量Fqと回転速度NEを決定するものであり、図14のマップでは、横軸が始動時のSCR触媒温度Tcであり、縦軸が外気温度THAである。このマップは、予め実験等により、始動時のSCR触媒温度Tcと外気温度THAをパラメータとして、SCR触媒74の温度上昇に伴いSCR触媒74から脱離する放出アンモニア量が、エンジン1から排出されたNOxの浄化によって消費される量を超えないような動作点D*として求められる。始動時のSCR触媒温度Tcが高いほど、SCR触媒74で浄化可能なNOx量が多い。また、外気温度THAが高いほど、SCR触媒74の温度は、上昇し易い。したがって、エンジン1およびSCR触媒74の特性にもよるが、一般的に、図14に示したマップは、始動時のSCR触媒温度Tcが高いほど、エンジン1から排出されるNOx量が多くなり、外気温度THAが高いほど、排気温度が低くなるような、エンジン1の動作点D*になる。
【0080】
S40で、エンジン1の動作点D*を算出し、決定すると、E/G-ECU200は、動作点における燃料噴射量になるように燃料噴射弁14を駆動し、動作点におけるエンジン回転数NEになるよう、第1MG2の負荷(発電量)の指令値をHV-ECU100へ出力する。
【0081】
この変形例2においても、上記の実施の形態と同様に、エンジン1の始動時のエンジン1の動作点は、SCR触媒74で浄化可能なNOx量(NOx浄化可能量N)が排出され、かつ、NOx可能浄化量NのNOxを浄化するのに必要なアンモニア量(アンモニア量Na)がSCR触媒74から脱離する排気温度になるよう決定される。したがって、SCR触媒74がNOxを浄化可能な範囲内で、排気温度が速やかに上昇するようエンジン1の動作点が決定されるので、アンモニアのスリップを抑制しつつ、SCR触媒74の暖機を早期に完了することができる。
【0082】
なお、変形例2においては、始動時のSCR触媒温度Tcと外気温度THAを用いて、図14のマップからエンジン1の動作点D*を決定していた。しかし、始動時に決定した動作点D*の燃料噴射量Fqあるいは回転数NEの少なくとも一方を、現在のSCR触媒温度Tcで補正してもよい。この場合、SCR触媒74から脱離するアンモニア量とエンジン1から排出されるNOx量を、より精度良く制御することが可能になる。
【0083】
本開示における実施態様を例示すると、次のような態様を例示できる。
1)内燃機関(1)の排気通路(52)に設けた選択還元触媒(74)と、選択還元触媒(74)の上流の排気通路(52)に尿素水を供給する尿素添加弁(80)と、制御装置(200)と、を備えた内燃機関の排気浄化システムであって、制御装置(200)は、内燃機関(1)の停止時に、排気通路(52)に尿素水を供給し、選択還元触媒(74)に所定量のアンモニアを吸着するよう構成されている停止時制御部(S10~S15)と、内燃機関(1)の始動時に、選択還元触媒(74)の温度上昇に伴い選択還元触媒(74)から脱離する放出アンモニア量が、内燃機関(1)から排出されたNOxの浄化によって消費される量を超えないように、内燃機関(1)の運転状態を決定するよう構成されている始動時制御部(S30~S38、S40)と、を備えた内燃機関の排気浄化システム。
【0084】
2)1において、選択還元触媒(74)で吸着可能なアンモニア量の上限値であるアンモニア吸着可能量(Qa)は、選択還元触媒(74)の温度の上昇に伴い減少し、始動時制御部は、選択還元触媒(74)に吸着されているアンモニア量が、選択還元触媒(74)の温度上昇に伴い、アンモニア吸着可能量(Qa)に一致するよう、内燃機関(1)の運転状態を決定する。
【0085】
3)1または2において、停止時制御部は、選択還元触媒(74)に吸着されるアンモニア量が、選択還元触媒(74)の温度の低下に伴い増大するアンモニア吸着可能量(Qa)と一致するよう、排気通路(52)に尿素水を供給し、選択還元触媒(74)の温度が、尿素水を加水分解できる温度(T1)以下になったとき、尿素水の供給を禁止する。
【0086】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0087】
1 エンジン、2 第1モータジェネレータ(第1MG)、3 第2モータジェネレータ(第2MG)、4 第1インバータ、5 第2インバータ、6 昇圧コンバータ、7 蓄電装置、7a 監視ユニット、8 駆動輪、10 エンジン本体、12 シリンダ(気筒)、14 燃料噴射弁、20 吸気通路、22 エアクリーナ、24 インタークーラ、26 吸気絞り弁、28 給気マニホールド、30 ターボ過給機、32 コンプレッサ、34 タービン、40 エアポンプ、50 排気マニホールド、52 排気通路、54 バイパス通路、60 ERG通路、62 EGRクーラ、64 EGR弁、70 酸化触媒、72 DPF、74 選択還元触媒(SCR触媒)、76 酸化触媒、80 尿素添加弁、82 尿素水タンク、90 切替弁、100 HV-ECU、110 BAT-ECU、120 各種センサ、121 アクセルベダルセンサ、122 エンジン回転数センサ、123 SCR触媒上流側温度センサ、124 SCR触媒下流側温度センサ、125 外気温センサ、200 E/G-ECU、210 CPU、220 メモリ、V ハイブリッド車両。
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