(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】電池測定システム
(51)【国際特許分類】
G01R 27/02 20060101AFI20240214BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20240214BHJP
G01R 31/396 20190101ALI20240214BHJP
【FI】
G01R27/02 R
G01R31/389
G01R31/396
(21)【出願番号】P 2021064300
(22)【出願日】2021-04-05
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】溝口 朝道
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/045172(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/186423(WO,A1)
【文献】特開2021-48019(JP,A)
【文献】特開2011-47666(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0014220(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/02
G01R 31/36
H01M 10/48
H01M 10/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セル(111~116)が直列接続された組電池(10)の各電池セルの状態を測定する電池測定システム(100)において、
前記組電池を構成する前記電池セルは、直列に接続された1又は複数の電池セルからなるセルブロックに予め分けられており、
所定の交流信号を指示する第1制御部(22)と、
前記第1制御部の指示に基づいて、前記組電池に前記交流信号を印加する信号印加部(21)と、
前記第1制御部からの情報及び電流センサ(90)の測定結果のうち少なくとも一方に基づいて決定される前記交流信号に相当する基準信号、及び前記交流信号が前記組電池に印加されているときに測定された前記組電池の電圧変動に基づいて前記組電池のインピーダンスを検出する第1検出部(23,23a,23b)と、
前記第1制御部からの情報に基づいて決定される前記交流信号に関連する仮信号、及び前記交流信号が前記組電池に印加されているときに測定された前記セルブロックの電圧変動に基づいて前記各セルブロックのインピーダンスを検出する第2検出部(32、321~326,32a,32b)と、
前記第2検出部により検出された前記各セルブロックのインピーダンスを合算したベクトル合算値と、前記第1検出部により検出された前記組電池のインピーダンスとしてのベクトル値と、を比較することにより、前記基準信号と前記仮信号の位相差を特定し、当該位相差に基づいて、前記各セルブロックのインピーダンスの位相を補正する補正部(22)と、を備えた電池測定システム。
【請求項2】
前記第1制御部と、前記信号印加部と、前記第1検出部と、を少なくとも有する電流制御装置(20)と、
前記電流制御装置の前記第1制御部から前記交流信号の振幅及び周波数に関するデジタル情報を入力し、前記デジタル情報に基づいて前記仮信号を決定する第2制御部と、前記第2検出部とを少なくとも有する電池監視装置(30)と、を備える請求項1に記載の電池測定システム。
【請求項3】
前記第2検出部は、
前記交流信号に対して振幅及び周波数が同じである前記仮信号を生成する第2信号生成部(33)と、
前記第2信号生成部により生成された前記仮信号、及び前記各セルブロックの電圧変動を測定し、測定した前記各セルブロックの電圧変動に基づいて前記各セルブロックのインピーダンスの絶対値及び位相を演算し、前記各セルブロックのインピーダンスを検出する第2演算部(341~346)と、を有し、
前記第2演算部は、監視対象とする1又は複数の前記セルブロックごとに、複数設けられている一方、前記第2信号生成部は、全ての前記第2演算部に接続されており、前記各第2演算部に対して前記仮信号を出力する請求項1又は2に記載の電池測定システム。
【請求項4】
前記第2検出部は、監視対象とする1又は複数の前記セルブロックごとに、複数設けられており、
前記各第2検出部は、
前記交流信号に対して振幅及び周波数が同じである前記仮信号を生成する第2信号生成部(331~336)と、
前記第2信号生成部により生成された前記仮信号、及び監視対象とする前記セルブロックの電圧変動を測定し、測定した前記セルブロックの電圧変動に基づいて前記セルブロックのインピーダンスの絶対値及び位相を演算し、前記セルブロックのインピーダンスを検出する第2演算部(341~346)と、を有し、
前記各第2信号生成部は、同期信号を入力したタイミングに基づいて同期をとって、前記仮信号を生成し、出力する請求項1又は2に記載の電池測定システム。
【請求項5】
前記各第2検出部は、直列に接続されており、第1端の第2検出部から同期信号が入力するように構成され、入力した同期信号をリレー伝送の形式で第1端の第2検出部から第2端の第2検出部までの間を往復させるように構成されており、
前記各第2信号生成部は、第1端側から伝送された同期信号と、第2端側から伝送された同期信号の入出力タイミングに基づいて前記各第2検出部の間における同期信号の伝送遅れを補正して、前記各第2検出部の間で前記仮信号を同期させるように生成し、出力する請求項4に記載の電池測定システム。
【請求項6】
前記第2演算部は、前記第2信号生成部により出力された前記仮信号と、前記セルブロックの電圧変動とを掛け合わせた値に基づいて、前記電圧変動の実部を算出し、前記仮信号の位相をシフトさせた信号と、前記セルブロックの電圧変動とを掛け合わせた値に基づいて、前記電圧変動の虚部を算出し、それらに基づいてインピーダンスを算出する請求項3~5のうちいずれか1項に記載の電池測定システム。
【請求項7】
前記第1検出部は、
前記交流信号に対して振幅、周波数及び位相が同じである前記基準信号を生成する第1信号生成部と、
前記第1信号生成部により生成された前記基準信号、及び前記交流信号印加時における前記組電池の電圧変動に基づいて前記組電池のインピーダンスの絶対値及び位相を演算し、前記組電池のインピーダンスを検出する第1演算部と、を有し、
前記第1演算部は、前記第1信号生成部により出力された前記基準信号と、前記組電池の電圧変動とを掛け合わせた値に基づいて、前記電圧変動の実部を算出し、前記基準信号の位相をシフトさせた信号と、前記組電池の電圧変動とを掛け合わせた値に基づいて、前記電圧変動の虚部を算出し、それらに基づいてインピーダンスを算出する請求項1~6のうちいずれか1項に記載の電池測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池測定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、蓄電池の状態を測定するため、蓄電池の複素インピーダンスを測定することが行われていた(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の発明では、パワー制御ユニットにより、蓄電池に対して矩形波信号を印加して、その応答信号に基づいて複素インピーダンス特性を算出していた。そして、この複素インピーダンス特性を基に、蓄電池の劣化状態などを判別していた。
【0003】
また、発振器から交流信号を被測定物に流し、その応答信号(電圧変動)をロックインアンプにより検出し、その検出結果に基づいて、複素インピーダンス特性を算出する技術が知られている(特許文献2)。この技術によれば、検出した電圧振幅で測りたい周波数成分のみを高感度で抽出し、ノイズを除去することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-175556号公報
【文献】特開2012-217625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インピーダンスは、蓄電池に入力した交流信号と、交流信号の入力時における蓄電池の電圧変動とに基づいて検出される。ここで、車載の蓄電池の場合、一般的に主機からの駆動電流や回生電流、及びDCDCコンバータを通して補機へ供給する電流がノイズとして混入し、交流信号を精度よく測定することは困難であることから、蓄電池に入力した交流信号に関する情報(振幅、周波数及び位相)は、交流信号の入力装置(特許文献1の例ではパワー制御ユニット)又は交流信号の入力を指示する指示装置などから取得する必要がある。
【0006】
しかしながら、交流信号に関する情報のうち、位相は、時間に関連する情報(タイミングに係る情報)であり、アナログ情報でしか送れない。このため、入力装置等から蓄電池のインピーダンスを検出する検出回路(特許文献1の例では電池監視部)までの配線が長い場合、入力装置等から検出回路に対して交流信号の位相に関する情報を送信しても、通信遅れから位相のずれが生じてしまう。そして、基準となる交流信号の位相にずれが生じることから、各電池セルのインピーダンスを精度よく検出することが困難となっていた。
【0007】
また、車載の組電池において、入力装置等を検出回路の近くに配置することは設計上困難であることも多かった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、インピーダンスを精度よく検出することができる電池測定システムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段は、複数の電池セルが直列接続された組電池の各電池セルの状態を測定する電池測定システムにおいて、前記組電池を構成する前記電池セルは、直列に接続された1又は複数の電池セルからなるセルブロックに予め分けられており、所定の交流信号を指示する第1制御部と、前記第1制御部の指示に基づいて、前記組電池に前記交流信号を印加する信号印加部と、前記第1制御部からの情報及び電流センサの測定結果のうち少なくとも一方に基づいて決定される前記交流信号に相当する基準信号、及び前記交流信号が前記組電池に印加されているときに測定された前記組電池の電圧変動に基づいて前記組電池のインピーダンスを検出する第1検出部と、前記第1制御部からの情報に基づいて決定される前記交流信号に関連する仮信号、及び前記交流信号が前記組電池に印加されているときに測定された前記セルブロックの電圧変動に基づいて前記各セルブロックのインピーダンスを検出する第2検出部と、前記第2検出部により検出された前記各セルブロックのインピーダンスを合算したベクトル合算値と、前記第1検出部により検出された前記組電池のインピーダンスとしてのベクトル値と、を比較することにより、前記基準信号と前記仮信号の位相差を特定し、当該位相差に基づいて、前記各セルブロックのインピーダンスの位相を補正する補正部と、を備えた。
【0010】
位相に関する情報は時間に関連する情報、つまり、タイミングに係る情報であり、アナログ情報でしか送れない。このため、交流信号を指示する第1制御部と、各セルブロックのインピーダンスを検出する第2検出部との間の配線が長い場合、第1制御部から第2検出部に対して交流信号の位相に関する情報を送信しても、通信遅れから位相のずれが生じてしまう。その一方で、第1制御部と第2検出部とを近くに配置することは設計上困難である。また、車載用の組電池の場合、一般的に補機が接続されていることから、主機や補機に基づくノイズが混入することが多い。このため、組電池を流れる交流信号を精度よく測定することは困難となっている。
【0011】
そこで、上記手段では、第2検出部により検出された各セルブロックのインピーダンスを合算したベクトル合算値と、第1検出部により検出された組電池のインピーダンスとしてのベクトル値と、を比較することにより、基準信号と仮信号の位相差を特定した。そして、当該位相差に基づいて、前記各セルブロックのインピーダンスの位相を補正する補正部を備えた。これにより、各セルブロックのインピーダンスを精度よく検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図5】個別インピーダンス検出処理の流れを示すフローチャート。
【
図7】電池セルのインピーダンスのベクトル合算値と、組電池のインピーダンスとの関係性を説明するための図。
【
図8】第2実施形態における電池測定システムの概略を示す図。
【
図9】第2実施形態におけるインピーダンスの検出タイミングを示す図。
【
図10】第3実施形態における第2インピーダンス検出装置を示す図。
【
図11】第3実施形態における同期信号の入出力タイミングを示す図。
【
図12】変形例の電池測定システムの概略を示す図。
【
図13】変形例の電池測定システムの概略を示す図。
【
図14】変形例の電池測定システムの概略を示す図。
【
図15】変形例の電池測定システムの概略を示す図。
【
図16】変形例の電池測定システムの概略を示す図。
【
図17】変形例の電池測定システムの概略を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、「電池測定システム」を車両(例えば、ハイブリッド車や電気自動車)に適用した実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一又は均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0014】
図1に示すように、電池測定システム100は、組電池10と、組電池10に接続され、組電池10に対して所定の交流信号(交流電流)を入力可能な電流制御装置20と、組電池10に接続され、組電池10を監視する電池監視装置30と、を備える。
【0015】
組電池10は、例えば百V以上となる端子間電圧を有し、複数(本実施形態では6つ)の電池セル11i(i=1,2,3,4,5,6、以下同じ)が直列接続されて構成されている。電池セル11iとして、例えば、リチウムイオン蓄電池や、ニッケル水素蓄電池を用いることができる。
【0016】
電流制御装置20は、組電池10に対してシステムリレースイッチSMRを介して接続され、所定の交流信号(交流電流)を印加可能に構成された信号印加部としての電流印加装置21と、交流信号の入力やインピーダンスの検出を指示する第1制御部としての第1制御装置22と、組電池10のインピーダンスを検出する第1検出部としての第1インピーダンス検出装置23と、を備える。
【0017】
電流印加装置21は、例えば、図示しないモータに接続され、モータを制御するインバータや、コンバータなどの電力変換器である。電流印加装置21は、第1制御装置22からの指示に従って、指示された振幅Is、周波数fs、及び位相θsを有する交流信号を組電池10に印加(入力)する。なお、本実施形態において、交流信号は、正弦波電流波形を有する交流電流である。
【0018】
第1制御装置22は、CPU、ROM、RAM及びI/O等を備えたマイクロコンピュータを主体として構成されており、CPUがROMに記憶されているプログラムを実行することにより、各種機能を実現する。なお、各種機能は、ハードウェアである電子回路によって実現されてもよく、あるいは、少なくとも一部をソフトウェア、すなわちコンピュータ上で実行される処理によって実現されてもよい。また、第1制御装置22は、インバータなどを介してモータを制御するMGECUによって実現してもよい。つまり、MGECUが、第1制御部としての各種機能を備えていてもよい。
【0019】
第1制御装置22は、電流印加装置21に交流信号の振幅Is、周波数fs、及び位相θsを指示し、交流信号を組電池10に印加させる機能を備える。他には、第1インピーダンス検出装置23に対して指示を行い、組電池10のインピーダンスを検出させる機能や、電池監視装置30との通信を行う機能や、インピーダンスの補正を行う機能などを備える。各種機能については後述する。
【0020】
第1インピーダンス検出装置23は、第1信号生成部としての第1正弦波生成回路24と、第1演算部としての第1ロックインアンプ25と、を有する。第1正弦波生成回路24は、第1制御装置22から入力した交流信号の情報(振幅Is、周波数fs、及び位相θs)に基づいて、電流印加装置21が組電池10に印加する交流信号に対して振幅Is、周波数fs及び位相θsが同じ基準信号Ref1(電流信号)を生成する。そして、第1正弦波生成回路24は、生成した基準信号Ref1を参照信号として第1ロックインアンプ25に出力する。
【0021】
図2に示すように、第1ロックインアンプ25は、2位相ロックインアンプである。以下、概略を説明する。第1ロックインアンプ25は、位相シフト回路51、掛算器52,62、積分器53,63、ローパスフィルタ54,64、及びインピーダンス演算回路55などを備える。
【0022】
位相シフト回路51は、基準信号Ref1を入力することにより、基準信号Ref1に対して、90度(90°)位相がシフトされた正弦波電流である第2の基準信号Ref2を生成する。この第2の基準信号Ref2は、掛算器62に出力される。以下では、基準信号Ref1を第1の基準信号Ref1と示す。また、第1ロックインアンプ25では、フィルタ(バンドパスフィルタなど)や、A/D変換器などを介して組電池10の電圧変動Va(電圧信号)が掛算器52,62に入力される。組電池10の電圧変動Vaは、交流信号が組電池10に印加されたこと(外乱)に基づき発生する応答信号としての電圧変動のことである。
【0023】
掛算器52は、組電池10の電圧変動Vaと、第1の基準信号Ref1とを掛け合わせた掛算値Xを算出し、積分器53に出力する。積分器53は、入力した掛算値Xを平均化して、ローパスフィルタ54を介してインピーダンス演算回路55に出力する。これにより、インピーダンス演算回路55は、組電池10の電圧変動Vaの実部Re_Vaを入力することとなる。
【0024】
また、掛算器62は、電圧変動Vaと、第2の基準信号Ref2とを掛け合わせた掛算値Yを算出し、積分器63に出力する。積分器63は、入力した掛算値Yを平均化して、ローパスフィルタ64を介してインピーダンス演算回路55に出力する。これにより、インピーダンス演算回路55は、組電池10の電圧変動Vaの虚部Im_Vaを入力することとなる。
【0025】
インピーダンス演算回路55は、数式(1)及び数式(2)に基づいて、組電池10のインピーダンスの絶対値Za(スカラー値)及び位相θaを演算し、第1制御装置22に出力する。本実施形態では、インピーダンス演算回路55が、組電池10のインピーダンスの絶対値Za及び位相θaを演算したが、第1制御装置22が、電圧変動Vaの実部Re_Va及び虚部Im_Vaを入力して、演算してもよい。
【数1】
【0026】
なお、第1ロックインアンプ25では、積分器53,63やローパスフィルタ54,64を利用しているため、演算(測定)を開始してから、インピーダンスの絶対値Za及び位相θaを演算するまでに時間を必要とする。この時間は、積分時間とフィルタ時定数にもよるが、例えば、
図3に示すように、第1の基準信号Ref1の8周期分(8/fs)程度の時間をサンプリング時間Tsとすればよい。
【0027】
この第1ロックインアンプ25により、電圧変動Vaのうち、第1の基準信号Ref1(=交流信号)に対応する周波数成分のみを高感度で抽出し、ノイズを除去することが可能となっている。以下、第1ロックインアンプ25により検出された組電池10のインピーダンスの絶対値Za及び位相θaを、インピーダンス(Za,θa)と示す場合がある。
【0028】
次に、電池監視装置30について説明する。電池監視装置30は、
図1に示すように、第2制御部としての第2制御装置31と、各電池セル11i(i=1,2,3,4,5,6、以下同じ)のインピーダンスを個別に検出する第2検出部としての第2インピーダンス検出装置32と、を備える。
【0029】
第2制御装置31は、CPU、ROM、RAM及びI/O等を備えたマイクロコンピュータを主体として構成されており、CPUがROMに記憶されているプログラムを実行することにより、各種機能を実現する。なお、各種機能は、ハードウェアである電子回路によって実現されてもよく、あるいは、少なくとも一部をソフトウェア、すなわちコンピュータ上で実行される処理によって実現されてもよい。
【0030】
第2制御装置31は、電流制御装置20との通信を行う機能や、交流信号に関連する仮信号Tem1を決定する機能や、各電池セル11iのインピーダンスを検出させる機能などを備える。各種機能については後述する。
【0031】
第2インピーダンス検出装置32は、第2信号生成部としての第2正弦波生成回路33と、第2演算部としての複数(本実施形態では6つ)の第2ロックインアンプ34i(i=1,2,3,4,5,6、以下同じ)と、を有する。
【0032】
第2正弦波生成回路33は、第2制御装置31からの指示に基づいて、交流信号に関連する仮信号Tem1を生成する。具体的には、第2正弦波生成回路33は、交流信号に対して振幅Is及び周波数fsが同じである仮信号Tem1を生成する。つまり、仮信号Tem1は、第1の基準信号Ref1に対して振幅Is及び周波数fsが同じとなっている。なお、仮信号Tem1の位相θtは、任意となっている。本実施形態では、第2制御装置31の指示に基づいて設定されるが、第2正弦波生成回路33が決定してもよい。
【0033】
第2ロックインアンプ34iは、それぞれ監視対象とする電池セル11iごとに設けられており、仮信号Tem1に基づいて、監視対象とする電池セル11iのインピーダンスを個別に検出する。本実施形態では、各電池セル11iがそれぞれセルブロックに相当する。第2ロックインアンプ34iは、第1ロックインアンプ25と同様に、2位相ロックインアンプであり、構成が同じであるため、詳細な説明を省略する。
【0034】
なお、各電池セル11iの電圧変動を電圧変動Vi(i=1,2,3,4,5,6、以下同じ)と示し、電圧変動Viが、第1ロックインアンプ25の説明における電圧変動Vaに相当する。また、各電池セル11iのインピーダンスの絶対値を絶対値Zi(i=1,2,3,4,5,6、以下同じ)と示し、絶対値Ziが、第1ロックインアンプ25の説明における絶対値Zaに相当する。同様に、各電池セル11iのインピーダンスの位相を位相θi(i=1,2,3,4,5,6、以下同じ)と示し、位相θiが、第1ロックインアンプ25の説明における位相θaに相当する。以上により、第2ロックインアンプ34iは、各電池セル11iのインピーダンスの絶対値Zi及び位相θiをそれぞれ検出することとなる。
【0035】
このとき、第2ロックインアンプ34iは、仮信号Tem1を基準(参照信号)として、仮信号Tem1と電池セル11iの電圧変動Viに基づいて、各電池セル11iのインピーダンスの絶対値Zi及び位相θiを検出する。このため、交流信号(第1の基準信号Ref1)を基準として、検出される各電池セル11iのインピーダンス(真のインピーダンス)とは、位相がずれている可能性が高い。そこで、交流信号に基づいて検出される真のインピーダンスと区別するため、第2ロックインアンプ34iが検出する各電池セル11iのインピーダンスの絶対値Zi及び位相θiを、仮インピーダンス(Zi,位相θi)と示す場合がある。また、交流信号(第1の基準信号Ref1)を基準として、検出される各電池セル11iのインピーダンスを、真インピーダンス(Zsi,位相θsi)と示して区別する場合がある。
【0036】
なお、この実施形態では、第2インピーダンス検出装置32において1つの第2正弦波生成回路33が設けられており、第2正弦波生成回路33は、全ての第2ロックインアンプ34iに接続されている。そして、第2正弦波生成回路33は、第2制御装置31からの指示に基づいて、仮信号Tem1を生成し、各第2ロックインアンプ34iに出力する。したがって、各第2ロックインアンプ34iの相互間において、仮信号Tem1を同期させることができる。つまり、各第2ロックインアンプ34iは、振幅Is、周波数fs及び位相θtが同じ仮信号Tem1を入力することとなる。
【0037】
ところで、交流信号の位相θsは時間に関連する情報(タイミングに係る情報)であり、アナログ信号(アナログ情報)でしか送れない。つまり、第1制御装置22と、第2制御装置31との間の配線が長い場合、第1制御装置22から第2制御装置31に対して交流信号の位相θsに関する情報を送信しても、通信遅れやノイズの影響を受けて位相θsを正確に伝えることが困難となっている。つまり、通信中に、位相θsにずれが生じてしまう。なお、電流印加装置21としてインバータを採用した場合、車両において、インバータと組電池10は離れて配置されることが一般的であるため、第1制御装置22と、第2制御装置31との間の配線が長くなる可能性が高い。また、インバータなど車両に搭載されるはずの装置とは別の電流印加装置21を、組電池10の近傍に設けることも考えられるが、この場合、製造費が高くなり、大型化を招くこととなる。
【0038】
また、車載用の組電池10の場合、一般的に補機が接続されていることから、補機に基づくノイズが組電池10に流れていることが多い。このため、組電池10を流れる電流を測定し、電流印加装置21から印加された交流信号(基準電流波形)を抽出することは困難となっている。
【0039】
このため、電池監視装置30の側で、組電池10に流れる交流信号の位相θsを特定し、第1の基準信号Ref1と同じ信号を第2インピーダンス検出装置32に生成させることは困難となっている。つまり、第2ロックインアンプ34iにより検出された仮インピーダンスには、真インピーダンスに対して位相にずれが生じている可能性が高いこととなる。
【0040】
そこで、本実施形態では、次のように処理することにより、第2ロックインアンプ34iにより検出された仮インピーダンスの位相ずれを補正し、真インピーダンスを算出することとしている。以下、詳しく説明する。
【0041】
電流制御装置20は、所定のタイミングで、
図4に示す信号決定処理を実行する。信号決定処理では、まず、電流制御装置20の第1制御装置22が、組電池10に流す基準電流となる交流信号の周波数fsを決定する(ステップS101)。次に、第1制御装置22は、交流信号の振幅Isを決定する(ステップS102)。そして、第1制御装置22は、決定した交流信号の周波数fs及び振幅Isに関するデジタル信号(デジタル情報)を生成し、第2制御装置31に出力(送信)する(ステップS103)。また、第1制御装置22は、交流信号の位相θsを決定する(ステップS104)。そして、第1制御装置22は、組電池10に対して、信号決定処理で決定された振幅Is、周波数fs及び位相θsの交流信号を組電池10に印加(入力)させるように、電流印加装置21に対して指示する(ステップS105)。電流印加装置21がインバータである場合、第1制御装置22は、インバータを構成する各種スイッチのオンオフの指示(制御)を行うこととなる。
【0042】
そして、電流制御装置20は、信号決定処理を終了する。電流制御装置20は、信号決定処理の終了後、
図6に示す補正処理を実行する。補正処理は、信号決定処理の終了後、すぐに実行されてもよいし、予め決められた時間経過後、実行されてもよい。また、補正処理は、所定のタイミングで実行されてもよい。
【0043】
次に、電池監視装置30が実行する仮インピーダンス検出処理について
図5に基づいて説明する。仮インピーダンス検出処理は、電流制御装置20の第1制御装置22からデジタル信号が入力されたタイミングで実行されてもよいし、デジタル信号が入力されてから所定時間経過してから実行されてもよい。また、所定周期ごと実行されてもよい。
【0044】
電池監視装置30の第2制御装置31は、第1制御装置22から交流信号の周波数fs及び振幅Isに関するデジタル信号(デジタル情報)を入力(受信)すると、デジタル信号から交流信号の周波数fs及び振幅Isを取得する(ステップS201)。次に、第2制御装置31は、仮信号Tem1の振幅Is、周波数fs及び位相θtを設定する(ステップS202)。具体的には、ステップS201で取得した周波数fs及び振幅Isに基づいて、交流信号と仮信号Tem1の周波数及び振幅が同じとなるように、仮信号Tem1の周波数及び振幅を設定する。つまり、仮信号Tem1の周波数及び振幅を、それぞれステップS201で取得した周波数fs及び振幅Isとする。また、仮信号Tem1の位相θtを任意の位相に設定する。
【0045】
次に、第2制御装置31は、仮信号Tem1の振幅Is、周波数fs及び位相θtを指示して、各電池セル11iの仮インピーダンス(Zi,θi)の検出を開始する(ステップS203)。つまり、第2制御装置31は、第2インピーダンス検出装置32に対して各電池セル11iの仮インピーダンスを検出させるように指示する。
【0046】
第2インピーダンス検出装置32の第2正弦波生成回路33は、第2制御装置31からの指示を入力すると、指示に従って、仮信号Tem1を生成し、第2ロックインアンプ34iに対して出力する(ステップS204)。このとき、仮信号Tem1の振幅、周波数及び位相が、第2制御装置31から指示された振幅Is、周波数fs及び位相θtとなるように仮信号Tem1を生成する。
【0047】
各第2ロックインアンプ34iは、所定のサンプリング時間Tsが経過するまで、監視対象とする各電池セル11iの電圧変動Viをそれぞれ取得する(ステップS205)。そして、前述したように、各第2ロックインアンプ34iは、各電池セル11iの電圧変動Viと、仮信号Tem1に基づいて、各電池セル11iの仮インピーダンス(Zi,θi)をそれぞれ検出する(ステップS206)。
【0048】
第2制御装置31は、各第2ロックインアンプ34iから検出された仮インピーダンス(Zi,θi)を取得し、電流制御装置20の第1制御装置22に出力(送信)する(ステップS207)。そして、電池監視装置30は、個別インピーダンス検出処理を終了する。
【0049】
次の補正処理について
図6に基づいて説明する。電流制御装置20の第1制御装置22は、電流印加装置21によって交流信号を組電池10に印加させた後、第1の基準信号Ref1の振幅Is、周波数fs及び位相θsを指示し、組電池10のインピーダンス(Za,θa)の検出を開始する(ステップS301)。つまり、第1制御装置22は、第1インピーダンス検出装置23に対して組電池10のインピーダンスを検出するように指示する。このとき、第1の基準信号Ref1の振幅Is、周波数fs及び位相θsは、交流信号の振幅Is、周波数fs及び位相θsと同じである。
【0050】
第1インピーダンス検出装置23の第1正弦波生成回路24は、第1制御装置22からの指示を入力すると、指示に従って、第1の基準信号Ref1を生成し、第1ロックインアンプ25に対して出力する(ステップS302)。
【0051】
第1ロックインアンプ25は、所定のサンプリング時間Tsが経過するまで、組電池10の電圧変動Vaを取得する(ステップS303)。そして、前述したように、第1ロックインアンプ25は、組電池10の電圧変動Vaと、第1の基準信号Ref1に基づいて、組電池10のインピーダンス(Za,θa)を検出する(ステップS304)。第1制御装置22は、第1ロックインアンプ25から検出された組電池10のインピーダンス(Za,θa)を取得する(ステップS305)。また、第1制御装置22は、第2制御装置31から出力された各電池セル11iの仮インピーダンス(Zi,θi)を入力(受信)する(ステップS306)。なお、ステップS306は、ステップS307の実行前において、任意のタイミングに実行されればよい。
【0052】
ここで、電流印加装置21、第1制御装置22、及び第1インピーダンス検出装置23は、電流制御装置20内において閉回路で構成されており、外部からのノイズの影響を受けにくい構成となっている。また、電流印加装置21、第1制御装置22、及び第1インピーダンス検出装置23は、近傍に配置されることとなり、相互を接続する配線が短くなり、位相θsを入出力する際に、ずれが生じにくい。このため、電流印加装置21と第1制御装置22との間、及び第1制御装置22と第1インピーダンス検出装置23との間において、振幅Is、周波数fs及び位相θsを正確に伝達することができる。
【0053】
したがって、組電池10のインピーダンス(Za,θa)をロックインアンプ方式にて検出する際、第1の基準信号Ref1は、組電池10に入力される交流信号に対して振幅Is、周波数fs及び位相θsが同じとなっている。
【0054】
また、第1制御装置22は、第2制御装置31に対して、交流信号の振幅Is及び周波数fsをデジタル情報にて送信しているため、第2制御装置31の設定する仮信号Tem1の振幅及び周波数は、交流信号(及び第1の基準信号Ref1)と同じとなる。一方、仮信号Tem1の位相θtは、第2制御装置31が任意に設定するため、仮信号Tem1の位相θtは、交流信号(及び第1の基準信号Ref1)と異なることとなる。
【0055】
また、第2制御装置31及び第2インピーダンス検出装置32は、電池監視装置30内において閉回路で構成されており、外部からのノイズの影響を受けにくい構成となっている。また、第2制御装置31及び第2インピーダンス検出装置32は、近傍に配置されることとなり、相互を接続する配線が短くなり、位相θtを入出力する際に、ずれが生じにくい。このため、第2制御装置31と第2インピーダンス検出装置32との間において、振幅Is、周波数fs及び位相θtを正確に伝達することができる。
【0056】
そして、組電池10は、電池セル11iが直列に接続されており、また、交流信号、基準信号Ref1、及び仮信号Tem1の振幅及び周波数は同じとされている。以上のことから、組電池10のインピーダンスの絶対値Zaは、仮インピーダンス(Zi,θi)のベクトル合算値の絶対値(大きさ)と同じになる。一方で、第1の基準信号Ref1と仮信号Tem1との位相差(θt-θs)に応じて、組電池10のインピーダンスの位相θaと、仮インピーダンス(Zi,θi)のベクトル合算値の位相とがずれることとなる。
【0057】
ここで、
図7に基づいて、上記原理について詳しく説明する。なお、
図7は、説明を簡単にするため、組電池10を構成する電池セル11iの数を3つにして説明するが、電池セル11iの数をいくつにしても理屈は同じである。以下では、電池セル111の仮インピーダンスを、仮インピーダンス(Z1,θ1)と示し、電池セル112の仮インピーダンスを、仮インピーダンス(Z2,θ2)と示し、電池セル113の仮インピーダンスを、仮インピーダンス(Z3,θ3)と示す。
【0058】
図7(a)に示すように、仮インピーダンス(Z1,θ1)と、仮インピーダンス(Z2,θ2)と、仮インピーダンス(Z3,θ3)と、を合算すると、ベクトル合算値(Zb,θb)となる。ベクトル合算値(Zb,θb)の位相θbは、仮信号Tem1を基準(ゼロ)とした場合の仮信号Tem1に対する位相差である。
【0059】
一方、
図7(b)に示すように、組電池10のインピーダンス(Za,θa)は、第1の基準信号Ref1(=交流信号)を基準(ゼロ)としたものである。つまり、組電池10のインピーダンスの位相θaは、第1の基準信号Ref1を基準(ゼロ)とした場合の第1の基準信号Ref1に対する位相差である。
【0060】
前述したように、第1の基準信号Ref1,仮信号Tem1、及び交流信号の振幅Is及び周波数fsは同じである。このため、組電池10のインピーダンスの絶対値Zaは、ベクトル合算値の絶対値Zbと同じである。したがって、組電池10のインピーダンス(Za,θa)、ベクトル合算値(Zb,θb)、第1の基準信号Ref1及び仮信号Tem1は、
図7のように図示することが可能となる。
【0061】
この
図7によれば、数式(3)に示すように、仮信号Tem1と第1の基準信号Ref1の位相差(θt-θs)は、ベクトル合算値の位相θbと組電池10のインピーダンスの位相θaとの位相差(θa-θb)に相当することがわかる。そして、ベクトル合算値の位相θbは、各電池セル11iの仮インピーダンス(Z1,θ1),(Z2,θ2),(Z3,θ3)及びベクトル合算値の絶対値Zbに基づいて算出可能である。そして、ベクトル合算値の絶対値Zbは、組電池10のインピーダンスの絶対値Zaと同じであることから、数式(4)に示すように算出することができる。
【0062】
そして、数式(5)に示すように、ベクトル合算値と組電池10のインピーダンスとの位相差(θa-θb)に基づいて、各電池セル11iの仮インピーダンスの位相θiを補正して、第1の基準信号Ref1を基準とする各電池セル11iの真インピーダンス(Zsi,θsi)を算出することができる。なお、真インピーダンスの絶対値Zsiは、仮インピーダンスの絶対値Ziと同じ値であることから、仮インピーダンスの絶対値Ziに基づいて算出できる。
【数2】
【0063】
ここで、補正処理についての説明に戻る。第1制御装置22は、各電池セル11iの仮インピーダンス(Zi,θi)を取得すると(ステップS306)、次に、取得した仮インピーダンス(Zi,θi)のベクトル合算値の位相θbを、数式(4)と同様の方法で、算出する(ステップS307)。つまり、第1制御装置22は、各電池セル11iのインピーダンス(Zi,θi)及び組電池10のインピーダンスの絶対値Zaに基づいて、ベクトル合算値の位相θbを算出する。
【0064】
次に、第1制御装置22は、数式(3)に基づいて、仮信号Tem1と第1の基準信号Ref1の位相差(θt-θs)、つまり、ベクトル合算値と組電池10のインピーダンスとの位相差(θa-θb)を算出する(ステップS308)。そして、第1制御装置22は、数式(5)に基づいて、各仮インピーダンスの位相ずれを補正し、第1の基準信号Ref1に対する各電池セル11iの真インピーダンス(Zsi,θsi)を算出する(ステップS308)。そして、補正処理を終了する。
【0065】
その後、算出された各電池セル11iの真インピーダンス(Zsi,θsi)に基づいて、各電池セル11iの状態が監視される。例えば、第1制御装置22は、真インピーダンス(Zsi,θsi)を外部装置に出力し、外部装置によって各電池セル11iの状態が監視される。なお、第1制御装置22や、第2制御装置31によって、各電池セル11iの状態が監視されてもよい。
【0066】
以上、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
【0067】
(1)交流信号の位相θsは、時間に関連する情報(タイミングに係る情報)であり、アナログ信号(アナログ情報)でしか送れない。このため、電流制御装置20と電池監視装置30との間の配線、つまり、第1制御装置22と、第2インピーダンス検出装置32との間の配線が長い場合、交流信号の位相θsに関する情報を送信しても、通信遅れから位相のずれが生じてしまう。また、車載用の組電池10の場合、補機が接続されていることから、補機に基づくノイズが混入することが多い。このため、組電池10を流れる電流を測定して、電流印加装置21から入力された交流信号を特定することも困難となっている。
【0068】
そこで、上記電池測定システム100では、まず、組電池10のインピーダンス(Za,θa)を検出する第1インピーダンス検出装置23を備えた。また、交流信号の振幅Is及び周波数fsに関するデジタル信号(デジタル情報)を入力し、それらに基づいて仮信号Tem1を決定する第2制御装置31と、仮信号Tem1と各電池セル11iの電圧変動Viに基づいて、各電池セル11iの仮インピーダンス(Zi,θi)を検出する第2インピーダンス検出装置32を備えた。
【0069】
そして、第1制御装置22に、各電池セル11iの仮インピーダンス(Zi,θi)を合算したベクトル合算値(Zb,θb)と、組電池10のインピーダンス(Za,θa)と、を比較することにより、交流信号(=第1の基準信号Ref1)と仮信号Tem1の位相差(θt-θs)を特定し、当該位相差に基づいて、仮インピーダンスの位相θiを補正して、真インピーダンスの位相θsiを算出する補正部としての機能を備えた。これにより、各電池セル11iの真インピーダンス(Zsi,θsi)を精度よく検出することが可能となる。
【0070】
(2)電流制御装置20は、第1制御装置22と、電流印加装置21と、第1インピーダンス検出装置23と、を有する。これにより、第1制御装置22と、電流印加装置21と、第1インピーダンス検出装置23を、電流制御装置20内で閉経路とすることが可能となり、第1制御装置22と、電流印加装置21と、第1インピーダンス検出装置23との相互間でノイズが混入することを抑制することができる。
【0071】
一方、電池監視装置30は、第2制御装置31と、第2インピーダンス検出装置32とを備える。第2制御装置31と、第2インピーダンス検出装置32は、電池監視装置30内で閉経路とすることが可能となり、第2制御装置31と第2インピーダンス検出装置32の間でノイズが混入することを抑制することができる。なお、振幅Is及び周波数fsは、デジタル情報で入出力されるため、電流制御装置20と、電池監視装置30との間の配線が長くなっても情報伝達精度が低下することはない。
【0072】
(3)第2正弦波生成回路33は、全ての第2ロックインアンプ34iに接続されており、各第2ロックインアンプ34iに対して仮信号Tem1を同期させて出力することができる。このため、各電池セル11iの仮インピーダンス(Zi,θi)を検出する際に、基準とすべき仮信号Tem1に対して仮インピーダンス(Zi,θi)の相互間で位相差が生じることを抑制することができる。これにより、真インピーダンス(Zsi,θsi)の検出精度を向上させることが可能となる。
【0073】
(第2実施形態)
第1実施形態の電池測定システム100は、その構成の一部を変更してもよい。ここで、第2実施形態の電池測定システム100について説明する。この第2実施形態では、基本構成として、第1実施形態のものを例に説明する。
【0074】
第2実施形態の電池測定システム100では、
図8に示すように、電池セル11iごとに、第2検出部としての第2インピーダンス検出装置32i(i=1,2,3,4,5,6)が設けられている。そして、各第2インピーダンス検出装置32iには、それぞれ第2正弦波生成回路33i(i=1,2,3,4,5,6)と、第2正弦波生成回路33iから信号が入力される第2ロックインアンプ34iが設けられている。
【0075】
各第2インピーダンス検出装置32iは、仮信号Tem1の振幅Is及び周波数fsの指示を入力可能とするため、第2制御装置31に接続されている。また、第2制御装置31は、仮信号Tem1の出力開始タイミングを揃えるために、仮信号Tem1の位相を制御する同期信号を出力するように構成されている。同期信号は、
図9に示すように、仮信号Tem1の振幅Is及び周波数fsの指示が行われた後、所定のタイミングで出力される。
【0076】
そして、この同期信号が伝送される電気経路上に、各第2インピーダンス検出装置32iが直列に接続されるように配置されている。より詳しくは、各第2インピーダンス検出装置32iは、1列に配置されており、隣り合う第2インピーダンス検出装置32i同士が接続されることにより直列に接続されている。
【0077】
そして、第2制御装置31から出力された同期信号は、直列に接続された各第2インピーダンス検出装置32iのうち、第1端側の第2インピーダンス検出装置326に入力される。そして、第1端側の第2インピーダンス検出装置326は、同期信号を入力すると、隣接する第2インピーダンス検出装置325に出力(伝送)する。同様にして、第1端側の第2インピーダンス検出装置32iは、同期信号を入力すると、隣接する第2端側の第2インピーダンス検出装置32(i-1)に出力(伝送)する。これにより、第1端側の第2インピーダンス検出装置326から第2端側の第2インピーダンス検出装置321に至るまで、同期信号が順次伝送されることとなる。
【0078】
各第2インピーダンス検出装置32iは、同期信号を入力すると、
図9に示すように、第2正弦波生成回路33iにより、仮信号Tem1を生成し、第2ロックインアンプ34iに出力する。第2ロックインアンプ34iは、第1実施形態と同様に、仮信号Tem1、及び各電池セル11iの電圧変動Viに基づいて、仮インピーダンス(Zi,θi)を検出し、第2制御装置31に出力する。以上により、第2正弦波生成回路33iの構成を任意に変更することが可能となる。
【0079】
(第3実施形態)
上記実施形態の電池測定システム100は、その構成の一部を変更してもよい。ここで、第3実施形態の電池測定システム100について説明する。この第3実施形態では、基本構成として、第2実施形態のものを例に説明する。
【0080】
図10は、電池監視装置30の第2インピーダンス検出装置32iを拡大して表示した図である。
図10に示すように、第3実施形態の電池測定システム100の電池監視装置30では、第2実施形態と同様に、電池セル11iごとに、第2検出部としての第2インピーダンス検出装置32i(i=1,2,3,4,5,6)が設けられている。
【0081】
ここで、各第2インピーダンス検出装置32iが、隣接する第2インピーダンス検出装置32iに同期信号を伝送する際、伝送遅れなどにより同期信号の入出力タイミングにわずかなずれが生じる可能性がある。このずれを残したままにしておくと、結果として各第2インピーダンス検出装置32iの相互間において仮信号Tem1に位相ずれが生じる虞がある。
【0082】
そこで、第3実施形態の電池測定システム100では、次のように処理することにより、仮信号Tem1の位相を揃えるようにしている。以下、詳しく説明する。なお、隣接する第2インピーダンス検出装置32iの間における伝送遅れ時間tdは、いずれも同じであることを前提とする。
【0083】
図11に示すように、第2制御装置31から第1同期信号が出力されると、第2実施形態と同様に、第1端側の第2インピーダンス検出装置326から第2端側の第2インピーダンス検出装置321に至るまで、第1同期信号が順次伝送される。そして、第2端側の第2インピーダンス検出装置321は、第1同期信号を入力すると、所定の待機時間ta1が経過した後、隣接する第2インピーダンス検出装置322に第2同期信号を出力する。第2インピーダンス検出装置322は、第2同期信号を入力すると、隣接する第1端側の第2インピーダンス検出装置323に第2同期信号を出力する。以降、同様にして、第2端側の第2インピーダンス検出装置321から第1端側の第2インピーダンス検出装置326に至るまで、第2同期信号が順次伝送される。
【0084】
そして、各第2インピーダンス検出装置32iは、第2同期信号の入出力タイミングから、第1同期信号の入出力タイミングを減算する。これにより、各第2インピーダンス検出装置32iは、第2端側に第1同期信号を出力してから、往復の起点となる第2端側より第2同期信号が戻ってくるまでの時間taiをそれぞれ算出する。
【0085】
次に、各第2インピーダンス検出装置32iは、数式(6)に従って待機時間tbiを決定する。なお、予め第2インピーダンス検出装置326において、第1同期信号を入力してから第2同期信号を出力(返信)するまでの時間ta6、及び第2同期信号を出力(返信)してから電流波形トリガを発生させるまでの待機時間tb6は予め定められており、かつ、各第2インピーダンス検出装置32iに記憶されているものとする。
【0086】
そして、各第2インピーダンス検出装置32iは、第2同期信号を入力したときから待機時間tbiの経過後、電流波形トリガを発生させ、それを契機に、第2正弦波生成回路33iにより仮信号Tem1を生成させ、出力させる。これにより、仮インピーダンス(Zi,θi)の検出が開始する。
【数3】
【0087】
これにより、各第2インピーダンス検出装置32iにおいて、伝送遅れ時間tdが補正され、同時に仮信号Tem1を出力させ、各第2インピーダンス検出装置32iの相互間において、仮信号Tem1に位相がずれないようにすることができる。よって、仮インピーダンス(Zi,θi)の検出精度を向上させることができる。
【0088】
(上記実施形態の変形例)
・上記実施形態において、
図12~
図14に示すように電池測定システム100の構成の一部を変更してもよい。すなわち、
図12の電池測定システム100では、複数(
図12では3つ)の電池セル11iを監視対象として複数の第2インピーダンス検出装置32a,32bが設けられている。そして、各第2インピーダンス検出装置32a,32bには、それぞれ電池セル11iごとに第2ロックインアンプ34iが設けられている。なお、各第2インピーダンス検出装置32a,32bには、それぞれ1つの第2正弦波生成回路33a,33bが設けられている。各第2正弦波生成回路33a,33bは、複数の第2ロックインアンプ34iに対して仮信号Tem1を出力するように構成されている。なお、仮信号Tem1の位相を同期させるために、第2実施形態や第3実施形態と同様に、同期信号が入出力されるように構成されている。
【0089】
また、
図13の電池測定システム100では、直列に接続された複数(
図13では3つ)の電池セル11iを監視対象として複数の第2インピーダンス検出装置32a,32bが設けられている。この
図13の電池測定システム100では、第2インピーダンス検出装置32aは、直列に接続された複数の電池セル111~113から構成されるセルモジュールを1つの監視対象とし、当該セルモジュールの仮インピーダンス(Z10,θ10)を検出する。また、第2インピーダンス検出装置32bは、直列に接続された複数の電池セル114~116から構成されるセルモジュールを1つの監視対象とし、当該セルモジュールの仮インピーダンス(Z20,θ20)を検出する。このため、各第2インピーダンス検出装置32a,32bには、それぞれセルモジュールごとに第2ロックインアンプ34a,34bが設けられている。
【0090】
各第2インピーダンス検出装置32a,32bには、それぞれ1つの第2正弦波生成回路33a,33bが設けられている。各第2正弦波生成回路33a,33bは、第2ロックインアンプ34a,34bに対してそれぞれ仮信号Tem1を出力するように構成されている。なお、仮信号Tem1の位相を同期させるために、第2実施形態や第3実施形態と同様に、同期信号が入出力されるように構成されている。
【0091】
図13の電池測定システム100では、上記実施形態と同様に位相ずれを補正し、最終的にセルモジュールの真インピーダンスを算出することとなる。
【0092】
図14の電池測定システム100では、1つの第2インピーダンス検出装置32が設けられている。この第2インピーダンス検出装置32では、複数の第2ロックインアンプ3412,343,344,3456が設けられている。各第2ロックインアンプ3412,343,344,3456は、1又は複数の電池セル11iを監視対象として構成されている。具体的には、第2ロックインアンプ3412,3456は、複数の電池セル111,112,115,116から構成されるセルモジュールを監視対象とし、それぞれセルモジュールの仮インピーダンス(Z12,θ12)(Z56,θ56)を検出する。一方、第2ロックインアンプ343,344は、1の電池セル113,114を監視対象とし、それぞれ電池セル113,114の仮インピーダンス(Z3,θ3)(Z4,θ4)を検出する。
【0093】
図14の電池測定システム100では、上記実施形態と同様に位相ずれを補正し、最終的に電池セル113,114の真インピーダンスと、電池セル111,112から構成されるセルモジュールの真インピーダンスと、電池セル115,116から構成されるセルモジュールの真インピーダンスを算出することとなる。
【0094】
なお、電池セル11iの中で平均温度が高くなりやすい電池セル113,114に対しては、それぞれ1つの第2ロックインアンプ343,344が仮インピーダンスを検出するように構成されている。一方、他の第2ロックインアンプ3412,3456は、平均温度が低くなりやすい複数の電池セル11iを監視対象としている。
【0095】
すなわち、
図14の電池測定システム100では、電池セル11iの中で平均温度が高くなりやすい電池セル113,114に対しては、精度よく仮インピーダンスを検出するように構成されている。その一方で、平均温度が低くなりやすい他の電池セル11iに対しては、精度が悪くなるのを許容して、1つの第2ロックインアンプ3412,3456が、複数の電池セル11iを監視対象としている。これにより、製造コストを抑制することができる。
【0096】
・上記実施形態において、
図15~
図16に示すように電池測定システム100の構成の一部を変更してもよい。すなわち、
図15の電池測定システム100では、複数の第1インピーダンス検出装置23a,23bが設けられている。各第1インピーダンス検出装置23a,23bは、それぞれ直列に接続された複数の電池セル11iから構成されるセルモジュールのインピーダンスを検出するように構成されている。組電池10のインピーダンス(Za,θa)は、各第1インピーダンス検出装置23a,23bが検出したセルモジュールのインピーダンスを合算すればよい。
【0097】
図16の電池測定システム100では、
図15と同様に、複数の第1インピーダンス検出装置23a,23bが設けられている。なお、組電池10のインピーダンス(Za,θa)は、各第1インピーダンス検出装置23a,23bが検出したセルモジュールのインピーダンスを合算すればよい。
【0098】
図16の第2インピーダンス検出装置32では、複数の第2ロックインアンプ3412,3434,3456が設けられている。各第2ロックインアンプ3412,3434,3456は、複数の電池セル11iから構成されるセルモジュールを監視対象として構成されている。そして、それぞれセルモジュールの仮インピーダンス(Z12,θ12)(Z34,θ34)(Z56,θ56)を検出する。
【0099】
図15の電池測定システム100では、上記実施形態と同様に位相ずれを補正し、最終的に電池セル111,112から構成されるセルモジュールの真インピーダンスと、電池セル113,114から構成されるセルモジュールの真インピーダンスと、電池セル115,116から構成されるセルモジュールの真インピーダンスを算出することとなる。
【0100】
・上記実施形態及び変形例において、交流信号は、正弦波電流に限らず、任意の交流電流に変更してもよい。例えば、矩形波電流であってもよい。
【0101】
・上記実施形態及び変形例において、第1制御装置22が、位相差を補正する補正部としての機能を備えたが、第2制御装置31や、他の外部装置に補正部としての機能を備えてもよい。
【0102】
・上記実施形態では、電池セル11iごとにインピーダンスを検出したが、インピーダンスを検出する電池セル11iの単位は任意に変更してもよい。例えば、組電池10を構成する電池セル11iを、直列に接続された複数の電池セル11iからなるセルブロックに予め分けて、セルブロックごとにインピーダンスを検出するようにしてもよい。
【0103】
・上記実施形態及び変形例において、
図17に示すように電流制御装置20に、組電池10を流れる交流信号を検出する電流センサ90を設けてもよい。そして、第1制御装置22は、電流センサ90により検出された交流信号の振幅Isを取得し、交流信号を指示する際にフィードバック情報として利用してもよい。また、第1インピーダンス検出装置23に出力してもよい。これにより、より精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0104】
10…組電池、21…電流印加装置、22…第1制御装置、23,23a,23b…第1インピーダンス検出装置、30…電池監視装置、32,32a,32b,321~326…第2インピーダンス検出装置、90…電流センサ、100…電池測定システム、111~116…電池セル。