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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 1/00 20060101AFI20240214BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20240214BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240214BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20240214BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B60C1/00 A
B60C11/00 B
B60C11/00 F
C08K3/36
C08L7/00
C08K5/54
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021524673
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2020009187
(87)【国際公開番号】W WO2020246087
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2019105363
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土田 剛史
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-177113(JP,A)
【文献】特開2000-016010(JP,A)
【文献】特表2007-506589(JP,A)
【文献】特開2006-062518(JP,A)
【文献】特開2015-124310(JP,A)
【文献】特開2015-124365(JP,A)
【文献】特開2011-132373(JP,A)
【文献】国際公開第2013/058390(WO,A1)
【文献】特開2011-144239(JP,A)
【文献】国際公開第2012/141158(WO,A1)
【文献】特開平10-175403(JP,A)
【文献】特開2015-129238(JP,A)
【文献】特開2011-046299(JP,A)
【文献】特開2009-001672(JP,A)
【文献】国際公開第2018/104671(WO,A1)
【文献】米国特許第06247512(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00
B60C 11/00
C08K 3/36
C08K 5/54
C08K 5/548
C08L 7/00
C08L 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャップトレッドおよびベーストレッドから構成されるトレッドを有する空気入りタイヤであって、該キャップトレッドが、天然ゴムを10質量%以上30質量%未満含むゴム成分100質量部に対して、BET比表面積180~280m2/gのシリカを30~120質量部含有するゴム組成物より構成され、下記式(1)を満たす空気入りタイヤであって、
150≦C/B×100≦900 (1)
(式中、Cはトレッド全体の質量に対する該キャップトレッドの質量の割合(質量%)を示し、Bはトレッド全体の質量に対する該ベーストレッドの質量の割合(質量%)を示す。)
前記ゴム組成物が、さらにシランカップリング剤を含み、
前記シランカップリング剤が、下記式(I)で示される結合単位Aと下記式(II)で示される結合単位Bとを含む化合物である、空気入りタイヤ。
【化1】
【化2】
(式中、xは0以上の整数、yは1以上の整数である。R 1 は水素、ハロゲン、分岐若しくは非分岐の炭素数1~30のアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルケニル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルキニル基、または該アルキル基の末端の水素が水酸基若しくはカルボキシル基で置換されたものを示す。R 2 は分岐若しくは非分岐の炭素数1~30のアルキレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルケニレン基、または分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルキニレン基を示す。R 1 とR 2 とで環構造を形成してもよい。)
【請求項2】
キャップトレッドおよびベーストレッドから構成されるトレッドを有する空気入りタイヤであって、該キャップトレッドが、天然ゴムを10質量%以上30質量%未満含むゴム成分100質量部に対して、BET比表面積180~280m 2 /gのシリカを80~120質量部含有するゴム組成物より構成され、下記式(1)を満たす空気入りタイヤ。
150≦C/B×100≦900 (1)
(式中、Cはトレッド全体の質量に対する該キャップトレッドの質量の割合(質量%)を示し、Bはトレッド全体の質量に対する該ベーストレッドの質量の割合(質量%)を示す。)
【請求項3】
キャップトレッドおよびベーストレッドから構成されるトレッドを有する空気入りタイヤであって、該キャップトレッドが、天然ゴムを10質量%以上30質量%未満含むゴム成分100質量部に対して、BET比表面積180~280m 2 /gのシリカを30~120質量部含有するゴム組成物より構成され、下記式(1)を満たす空気入りタイヤであって、
150≦C/B×100≦900 (1)
(式中、Cはトレッド全体の質量に対する該キャップトレッドの質量の割合(質量%)を示し、Bはトレッド全体の質量に対する該ベーストレッドの質量の割合(質量%)を示す。)
前記天然ゴムが、リン含有量500ppm以下の改質天然ゴムであり、
前記ゴム組成物が、さらにシランカップリング剤を含み、
前記シランカップリング剤が、下記式(I)で示される結合単位Aと下記式(II)で示される結合単位Bとを含む化合物である、空気入りタイヤ。
【化3】
【化4】
(式中、xは0以上の整数、yは1以上の整数である。R 1 は水素、ハロゲン、分岐若しくは非分岐の炭素数1~30のアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルケニル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルキニル基、または該アルキル基の末端の水素が水酸基若しくはカルボキシル基で置換されたものを示す。R 2 は分岐若しくは非分岐の炭素数1~30のアルキレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルケニレン基、または分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルキニレン基を示す。R 1 とR 2 とで環構造を形成してもよい。)
【請求項4】
キャップトレッドおよびベーストレッドから構成されるトレッドを有する空気入りタイヤであって、該キャップトレッドが、天然ゴムを10質量%以上30質量%未満含むゴム成分100質量部に対して、BET比表面積180~280m 2 /gのシリカを80~120質量部含有するゴム組成物より構成され、前記天然ゴムが、リン含有量500ppm以下の改質天然ゴムであり、下記式(1)を満たす空気入りタイヤ。
150≦C/B×100≦900 (1)
(式中、Cはトレッド全体の質量に対する該キャップトレッドの質量の割合(質量%)を示し、Bはトレッド全体の質量に対する該ベーストレッドの質量の割合(質量%)を示す。)
【請求項5】
前記ゴム組成物の70℃における複素弾性率E* 70℃が、1.9~9.5MPaである請求項1~4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ゴム組成物の70℃における損失正接tanδ70℃が0.05~0.17である請求項1~のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記天然ゴムが、窒素含有量0.30質量%以下の改質天然ゴムである請求項1、2、5、または6に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記改質天然ゴムが、天然ゴムをケン化処理したものである請求項3、4、または7記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年市場要求の高まりにより、タイヤの長寿命化、高耐久化が求められており、トレッドゴムとしては耐摩耗性能の向上が求められている。
【0003】
一方で、同時に低燃費化の要求から、タイヤの転がり抵抗の低減も求められており、乗用車用高性能タイヤにおいては、補強フィラーとしてシリカを用いることが一般的となっている。
【0004】
そこで、転がり抵抗や耐摩耗性をバランス良く向上することや成型加工性の確保を目的に、タイヤのトレッドをキャップトレッドおよびベーストレッドの二層構造とし、キャップトレッドに耐摩耗性に優れたゴム組成物を採用し、ベーストレッドに低発熱性を有するゴム組成物を採用することが知られている。
【0005】
特許文献1では、操縦安定性および転がり抵抗特性の性能をバランス良く両立できるベーストレッド用ゴム組成物を用い、トレッドをキャップトレッドとベーストレッドとの二層構造とする空気入りタイヤが記載されている。また、特許文献2では、転がり抵抗特性、ウェット性能および耐摩耗性においてバランス良く優れ、トレッドグルーブクラック(TGC)の発生が抑制された空気入りタイヤを提供することを目的に、シリカとカーボンブラックに離型剤を含有するゴム組成物をキャップトレッドに、カーボンブラックおよび/またはシリカを含有するゴム組成物をベーストレッドに用い、かつ有効接地幅内におけるトレッド全体積に占めるベーストレッドの体積を15~50%とする空気入りタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-1521号公報
【文献】特開2013-177113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような従来技術から、耐摩耗性を向上させるために補強フィラーの比表面積を高め、ポリマーと結合する部位を増やすことによりゴムのタフネスを上げる方法も考えられるが、未だ不十分である。
【0008】
また、特許文献1では、耐摩耗性や成型加工性については特に言及されておらず、なお改善の余地がある。特許文献2でも、低燃費性能と耐摩耗性能と成型加工性との高度なバランスという点ではなお改善の余地がある。
【0009】
そこで、本発明は、低燃費性能と耐摩耗性能と成型加工性との高度なバランスを達成させる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み、本発明者は、タイヤのキャップトレッドとベーストレッドとの質量比を規定し、キャップトレッドを、所定量の天然ゴムを含むゴム成分に、比表面積の高いシリカを所定量含有するゴム組成物で構成することにより、タイヤの低燃費性能と耐摩耗性能と成型加工性との高度なバランスを達成させられることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1]キャップトレッドおよびベーストレッドから構成されるトレッドを有する空気入りタイヤであって、該キャップトレッドが、天然ゴムを10質量%以上30質量%未満、好ましくは15~25質量%、より好ましくは17~23質量%含むゴム成分100質量部に対して、BET比表面積180~280m2/g、好ましくは180~270m2/g、より好ましくは190~270m2/g、より好ましくは195~260m2/g、より好ましくは195~235m2/gのシリカを30~120質量部、好ましくは40~110質量部、より好ましくは50~100質量部、より好ましくは80~100質量部含有するゴム組成物より構成され、下記式(1)を満たす空気入りタイヤ、
150≦C/B×100≦900 (1)
(好ましくは180≦C/B×100≦700、より好ましくは200≦C/B×100≦600、さらに好ましくは220≦C/B×100≦500)
(式中、Cはトレッド全体の質量に対する該キャップトレッドの質量の割合(質量%)を示し、Bはトレッド全体の質量に対する該ベーストレッドの質量の割合(質量%)を示す。)
[2]前記ゴム組成物が、さらにシランカップリング剤を含む上記[1]記載の空気入りタイヤ、
[3]前記ゴム組成物の70℃における複素弾性率E* 70℃が、1.9~9.5MPa、好ましくは2.9~9.5MPa、より好ましくは3.9~9.5MPa、より好ましくは4.9~9.5MPa、または、好ましくは2.9~8.8MPa、より好ましくは3.9~8.8MPa、より好ましくは4.9~8.8MPaである上記[1]または[2]記載の空気入りタイヤ、
[4]前記ゴム組成物の70℃における損失正接tanδ70℃が0.05~0.17、好ましくは0.05~0.16、より好ましくは0.05~0.15、より好ましくは0.05~0.14、または、好ましくは0.10~0.17、より好ましくは0.10~0.16、より好ましくは0.10~0.15、より好ましくは0.10~0.14である上記[1]~[3]のいずれかに記載の空気入りタイヤ、
[5]前記天然ゴムが、リン含有量500ppm以下、好ましくは400ppm以下、より好ましくは300ppm以下、より好ましくは200ppm以下、より好ましくは150ppm以下、より好ましくは100ppm以下の改質天然ゴムである上記[1]~[4]のいずれかに記載の空気入りタイヤ、
[6]前記天然ゴムが、窒素含有量0.30質量%以下、好ましくは0.25質量%以下、より好ましくは0.20質量%以下、より好ましくは0.15質量%以下の改質天然ゴムである上記[1]~[5]のいずれかに記載の空気入りタイヤ、
[7]前記改質天然ゴムが、天然ゴムをケン化処理したものである上記[5]または[6]記載の空気入りタイヤ、
[8]前記シランカップリング剤が、下記式(I)で示される結合単位Aと下記式(II)で示される結合単位Bとを含む化合物である上記[2]記載の空気入りタイヤ
【化1】
【化2】
(式中、xは0以上の整数、yは1以上の整数である。R1は水素、ハロゲン、分岐若しくは非分岐の炭素数1~30のアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルケニル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルキニル基、または該アルキル基の末端の水素が水酸基若しくはカルボキシル基で置換されたものを示す。R2は分岐若しくは非分岐の炭素数1~30のアルキレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルケニレン基、または分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルキニレン基を示す。R1とR2とで環構造を形成してもよい。)
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、キャップトレッドおよびベーストレッドから構成されるトレッドを有し、該キャップトレッドが、天然ゴムを10質量%以上30質量%未満含むゴム成分100質量部に対して、BET比表面積180~280m2/gのシリカを30~120質量部含むゴム組成物より構成され、キャップトレッドとベーストレッドとの質量比が上記式(1)を満たすものとすることにより、低燃費性能と耐摩耗性能と成型加工性との高度なバランスを達成させる空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の空気入りタイヤは、キャップトレッドおよびベーストレッドから構成されるトレッドを有する空気入りタイヤであって、該キャップトレッドが、天然ゴムを10質量%以上30質量%未満含むゴム成分100質量部に対して、BET比表面積180~280m2/gのシリカを30~120質量部含むゴム組成物より構成され、キャップトレッドとベーストレッドとの質量比が下記式(1)を満たすものである。
150≦C/B×100≦900 (1)
(式中、Cはトレッド全体の質量に対する該キャップトレッドの質量の割合(質量%)を示し、Bはトレッド全体の質量に対する該ベーストレッドの質量の割合(質量%)を示す。)
【0014】
本開示の空気入りタイヤは、キャップトレッド用ゴム組成物において、所定量の天然ゴムを含むゴム成分に、所定の比表面積を有する微粒子シリカを所定量用い、さらにキャップトレッドとベーストレッドとの質量比C/Bが上記式(1)を満たすものとすることにより、タイヤ重量を必要以上に増加させることなく高い低燃費性能を維持し、所定の比表面積を有する微粒子シリカの耐摩耗性能を最大化しかつベーストレッドゴムとの粘着性(タッキネス)を向上させることにより成型加工性を向上させることができ、結果として低燃費性能と耐摩耗性能と成型加工性との高度なバランスを達成することができる。
【0015】
一実施態様において、空気入りタイヤのキャップトレッドとベーストレッドとの質量比率指数(C/B比率指数:C/B×100)は、150以上であり、180以上が好ましく、200以上がより好ましく、220以上がさらに好ましい。C/B比率指数が150未満であると、ベーストレッドの割合が多くなり、キャップトレッド成分が少なくなるため、耐摩耗性の極端な低下やキャップとベースゴムの硬度差から生じる操縦安定性の低下を招く。また、C/B比率指数は、900以下であり、700以下が好ましく、600以下がより好ましく、500以下がさらに好ましい。C/B比率指数が900を超えると、ベース配合成分が少なくなり、燃費性能の悪化やキャップとベースゴムの硬度差から生じる操縦安定性の低下を招く。
【0016】
一実施態様において、本開示の空気入りタイヤは、キャップトレッドを構成するゴム組成物の70℃における複素弾性率E* 70℃が、1.9~9.5MPaであることが好ましい。E* 70℃が1.9MPa以上であることにより、剛性が高く、操縦安定性および耐久性にも優れる傾向がある。また、E* 70℃が9.5MPa以下であることにより、乗り心地に優れる傾向がある。E* 70℃は、2.9MPa以上がより好ましく、3.9MPa以上がより好ましく、4.9MPa以上がさらに好ましい。また、E* 70℃は、8.8MPa以下がより好ましい。E* 70℃は、後述する実施例に記載の測定方法により得られる値である。
【0017】
一実施態様において、本開示の空気入りタイヤは、キャップトレッドを構成するゴム組成物の70℃における損失正接tanδ70℃が0.05~0.17であることが好ましい。tanδ70℃が0.05以上であることにより、グリップ性能に優れる傾向がある。また、tanδ70℃が0.17以下であることにより、転がり抵抗が低く、低燃費性能に優れる傾向がある。tanδ70℃は、0.10以上がより好ましい。また、tanδ70℃は、0.16以下がより好ましく、0.15以下がより好ましく、0.14以下がさらに好ましい。tanδ70℃は、後述する実施例に記載の測定方法により得られる値である。
【0018】
なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、特に断りのない限り、その両端の数値を含むものとする。
【0019】
<キャップトレッド用ゴム組成物>
(ゴム成分)
キャップトレッド用ゴム組成物に用いるゴム成分は、天然ゴムを10質量%以上30質量%未満含む。その他のゴム成分としてはジエン系合成ゴム、ブチルゴム(IIR)などを用いることができる。ジエン系合成ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。これらのゴム成分は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。なかでも、低燃費性およびウェットグリップ性能をバランス良く示すことから、BRまたはSBRが好ましく、天然ゴムにBRおよびSBRを併用することがより好ましい。
【0020】
天然ゴム
天然ゴムとしては、天然ゴム(NR)に加え、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム等の改質天然ゴム(改質NR)なども含まれる。なかでも、NRを含むこと、または改質NRを含むことが好ましく、NRのみ、または改質NRのみであることがより好ましい。ここで、天然ゴムとしては、本開示の効果をさらに良好に発揮できるという観点からは、改質NRが好ましい。これら天然ゴムは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
NRとしては特に限定されず、SIR20、RSS#3、TSR20など、ゴム工業において一般的なものを使用することができる。
【0022】
改質NRとは、天然ゴムラテックスに含まれる天然ポリイソプレノイド成分以外の、主にタンパク質を低減、除去した天然ゴム(好ましくは、リン脂質やゲル分などの不純物も除去した天然ゴム)である。天然ゴムラテックスに含まれる天然ゴム粒子は、イソプレノイド成分が、不純物成分に被覆されているような構造となっている。天然ゴム粒子表面の不純物を取り除くことにより、イソプレノイド成分の構造が変化して配合剤との相互作用も変化するため、エネルギーロスが減少する、耐久性が向上するといった効果が得られると推察される。また、天然ゴムラテックスの不純物を取り除くことにより、天然ゴム特有の臭気を低減することもできる。
【0023】
改質処理としては、ケン化処理、酵素処理、超音波や遠心分離などの機械的処理など、公知の方法が限定なく用いられるが、なかでも、生産効率、コスト、白色充填剤の分散性の観点から、ケン化処理が好ましい。
【0024】
天然ゴムラテックスとしては、ヘベア樹をタッピングして採取した生ラテックス(フィールドラテックス)や、生ラテックスを遠心分離法やクリーミング法によって濃縮した濃縮ラテックス(精製ラテックス、常法によりアンモニアを添加したハイアンモニアラテックス、亜鉛華とTMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)とアンモニアとによって安定化させたLATZラテックスなど)などが挙げられる。なかでも、pHコントロールによる改質が容易であるという理由から、フィールドラテックスを用いることが好ましい。
【0025】
天然ゴムラテックス中のゴム成分(固形ゴム分)は、攪拌効率等の観点から、5~40質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましい。
【0026】
ケン化処理の方法としては、例えば、特開2010-138359号公報、特開2010-174169号公報に記載の方法などが挙げられる。具体的には、天然ゴムラテックスに、塩基性化合物と、必要に応じて界面活性剤とを添加し、所定温度で一定時間静置することで実施でき、必要に応じて攪拌などを行ってもよい。
【0027】
前記塩基性化合物としては特に限定されないが、タンパク質などの除去性能の点から、塩基性無機化合物が好適である。塩基性無機化合物としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物などの金属水酸化物;アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩などの金属炭酸塩;アルカリ金属炭酸水素塩などの金属炭酸水素塩;アルカリ金属リン酸塩などの金属リン酸塩;アルカリ金属酢酸塩などの金属酢酸塩;アルカリ金属水素化物などの金属水素化物;アンモニアなどが挙げられる。
【0028】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどが挙げられる。アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属炭酸塩としては、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどが挙げられる。アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどが挙げられる。アルカリ金属リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウムなどが挙げられる。アルカリ金属酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどが挙げられる。アルカリ金属水素化物としては、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどが挙げられる。なかでも、ケン化効率と処理の容易さの観点から、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩、金属リン酸塩、アンモニアが好ましく、アルカリ金属水酸化物である水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがさらに好ましい。これらの塩基性化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記界面活性剤としては特に限定されず、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩などの公知のアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられるが、ゴムを凝固させず良好にケン化できるという点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩などのアニオン系界面活性剤が好適である。なお、ケン化処理において、塩基性化合物および界面活性剤の添加量、ケン化処理の温度および時間は、適宜設定すればよい。
【0030】
凝固乾燥工程は、改質工程で得られた高純度化物を凝固させた後、凝固物を乾燥させることで改質NRを得る工程である。凝固乾燥工程で得られた天然ゴムは、前の改質工程で天然ゴム粒子表面の不純物が取り除かれているため、これを含有するゴム組成物はゴム物性に優れると考えられる。
【0031】
凝固方法としては、特に限定されず、ギ酸、酢酸、硫酸などの酸を添加してpHを4~7に調整し、必要に応じてさらに高分子凝集剤を添加して攪拌する方法などが挙げられる。凝固を行うことにより改質物のゴム分を凝集させ、凝固ゴムを得ることができる。
【0032】
乾燥方法としては特に限定されず、例えば、TSRなど通常の天然ゴムの製造方法の乾燥工程で使用されるトロリー式ドライヤー、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤーなどの通常の乾燥機を用いて実施できる。
【0033】
乾燥は、得られた凝固ゴムを洗浄した後に行うことが好ましい。洗浄方法としては、ゴム全体に含まれる不純物が十分に除去可能な手段であれば特に限定されず、例えば、ゴム分を水で希釈して洗浄後、遠心分離する方法、静置してゴムを浮かせ、水相のみを排出してゴム分を取り出す方法などが挙げられる。またさらに、洗浄を、得られた凝固ゴムを塩基性化合物で処理した後に行うと、凝固時にゴム内に閉じ込められた不純物を再溶解してから洗浄することができ、凝固ゴム中に強く付着した不純物も除去できる。
【0034】
改質NRにおいて、窒素含有量は0.30質量%以下であることが好ましい。このような範囲とすることで、本開示の効果が発揮される。窒素含有量は、0.25質量%以下がより好ましく、0.20質量%以下がより好ましく、0.15質量%以下がさらに好ましい。窒素含有量は、例えばケルダール法等、従来の方法で測定することができる。窒素は、蛋白質に由来するものである。なお、窒素含有量の下限値については、少ない方が好ましい。例えば、0.06質量%や0.01質量%であれば、十分に低い値であると考えられる。
【0035】
改質NRは、リン含有量が500ppm以下であることが好ましい。このような範囲とすることで、低燃費性能などゴム物性が向上する傾向がある。該リン含有量は、400ppm以下がより好ましく、300ppm以下がより好ましく、200ppm以下がより好ましく、150ppm以下がより好ましく、100ppm以下がさらに好ましい。ここで、リン含有量は、例えばICP発光分析等、従来の方法で測定することができる。リンは、リン脂質(リン化合物)に由来するものである。
【0036】
改質NR中のゲル含有率は、20質量%以下であることが好ましい。このような範囲とすることで、低燃費性などのゴム物性が向上する傾向がある。該ゲル含有率は、10質量%以下がより好ましく、7質量%以下がさらに好ましい。ゲル含有率とは、非極性溶媒であるトルエンに対する不溶分として測定した値を意味し、以下においては単に「ゲル含有率」または「ゲル分」と称することがある。ゲル分の含有率の測定方法は次のとおりである。まず、天然ゴム試料を脱水トルエンに浸し、暗所に遮光して1週間放置後、トルエン溶液を1.3×105rpmで30分間遠心分離して、不溶のゲル分とトルエン可溶分とを分離する。不溶のゲル分にメタノールを加えて固形化した後、乾燥し、ゲル分の質量と試料の元の質量との比からゲル含有率が求められる。
【0037】
ゴム成分100質量%中の天然ゴムの含有量は、10質量%以上であり、15質量%以上が好ましく、17質量%以上がより好ましい。天然ゴムの含有量が10質量%未満であると、キャップトレッドに必要な粘着力(成型加工性)が十分に得られず、タイヤ成型時にキャップトレッドゴムとベーストレッドゴムが適切に貼り合わされず、タイヤ成型不良になりやすい。また、ゴム成分100質量%中の天然ゴムの含有量は、30質量%未満であり、25質量%以下がより好ましく、23質量%以下がさらに好ましい。天然ゴムの含有量が30質量%以上であると、成型加工性と、種々のタイヤ性能、特に低燃費性能および耐摩耗性能とのバランスをとることが困難になる。
【0038】
スチレンブタジエンゴム(SBR)
SBRとしては、特に限定されず、乳化重合SBR(E-SBR)、溶液重合SBR(S-SBR)等が挙げられ、これらSBRを変性剤によって変性されたもの(変性SBR)や、これらSBRの水素添加物(水添SBR)等も使用することができる。なかでも、S-SBRが好ましい。これらSBRは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
また、変性SBRは、主鎖および/または末端が変性剤により変性されたものであってもよいし、例えば四塩化スズ、四塩化ケイ素等の多官能型の変性剤により変性されて一部に分岐構造を有するものであってもよい。なかでも特に、SBRにおける主鎖および/または末端がシリカと相互作用する官能基を有する変性剤で変性されたものであることが好ましい。このような変性剤で変性され、シリカと相互作用する官能基を有する変性スチレンブタジエンゴムを用いることで、低燃費性能とウェットグリップ性能とをさらにバランス良く改善できる。
【0040】
S-SBRとしては、JSR(株)、住友化学(株)、宇部興産(株)、旭化成(株)、ZSエラストマー(株)等によって製造販売されるS-SBRが挙げられる。
【0041】
キャップトレッドを構成するゴム組成物がSBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。SBRの含有量を40質量%以上とすることにより、トレッドゴムに必要なウェットグリップ性能を担保しやすい傾向がある。また、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下がさらに好ましく、70質量%以下が特に好ましい。SBRの含有量を85質量%以下とすることにより、耐摩耗性や転がり抵抗性能が良好となる傾向がある。なお、2種以上のSBRを併用する場合は全SBRの合計含有量を、ゴム成分中のSBRの含有量とする。
【0042】
ブタジエンゴム(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス1,4結合含有率が50%未満のBR(ローシスBR)、シス1,4結合含有率が90%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用できる。なかでも、耐摩耗性能の観点からハイシスBRを用いることがより好ましい。
【0043】
ハイシスBRとしては、例えば、JSR(株)、日本ゼオン(株)、宇部興産(株)等によって製造販売されるハイシスBR等が挙げられる。ハイシスBRのなかでも、シス1,4結合含有率が95%以上のものがより好ましく、97%以上のものがさらに好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性を向上させることができる。BR中のシス1,4結合含有率は、赤外吸収スペクトル分析により算出される値である。
【0044】
キャップトレッドを構成するゴム組成物がBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。BRの含有量を5質量%以上とすることにより、耐摩耗性能や転がり抵抗性能のバランスが良好となる傾向がある。また、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。BRの含有量を50質量%以下とすることにより、ウェットグリップ性能が良好となる傾向がある。
【0045】
(シリカ)
シリカとしては、BET比表面積(N2SA)が180~280m2/gのシリカであれば特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多く、シランカップリング剤との反応点が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。シリカは、1種のみを用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。シリカとしては、例えば、エボニック・デグッサ社、ソルベイ社、東ソー・シリカ(株)、(株)トクヤマ等によって製造販売されるシリカが挙げられる。
【0046】
シリカのBET比表面積は180m2/g以上であり、190m2/g以上が好ましく、195m2/g以上がより好ましい。シリカのBET比表面積が180m2/g未満では、タイヤに必要なゴムの補強性が確保できず、耐摩耗性能が確保できない。また、シリカのBET比表面積は280m2/g以下であり、270m2/g以下が好ましく、260m2/g以下がより好ましく、235m2/g以下がさらに好ましい。シリカのBET比表面積が280m2/gを超えると、加工性が悪化し、加工が困難となる。なお、本明細書におけるシリカのBET比表面積は、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0047】
シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は30質量部以上であり、40質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、80質量部以上がさらに好ましい。シリカの含有量が30質量部未満では、タイヤに必要な補強性を得ることができない。また、ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量は120質量部以下であり、110質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましい。シリカの配合量が120質量部をこえると、加工性が悪化し、加工が困難である。
【0048】
(シランカップリング剤)
シリカを含有させるため、シランカップリング剤を用いることが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、後述する下記式(I)で示される結合単位Aと下記式(II)で示される結合単位Bとを含む化合物等のメルカプト系、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエーテル系、ビニルトリエトキシシラン等のビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン等のニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロ系等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、シリカとの反応の温度制御のしやすさおよび、ゴム組成物の補強性改善効果等の点から、スルフィド系のカップリング剤、とりわけビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドが好ましい。ここで、本開示の効果をさらに良好に発揮できるという観点からは、シリカとの反応性が強い、メルカプト系のカップリング剤、とりわけ後述する下記式(I)で示される結合単位Aと下記式(II)で示される結合単位Bとを含む化合物が好ましい。
【0049】
以下、下記式(I)で示される結合単位Aと下記式(II)で示される結合単位Bとを含む化合物について説明する。
【化3】
【化4】
(式中、xは0以上の整数、yは1以上の整数である。R1は水素、ハロゲン、分岐若しくは非分岐の炭素数1~30のアルキル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルケニル基、分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルキニル基、または該アルキル基の末端の水素が水酸基若しくはカルボキシル基で置換されたものを示す。R2は分岐若しくは非分岐の炭素数1~30のアルキレン基、分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルケニレン基、または分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルキニレン基を示す。R1とR2とで環構造を形成してもよい。)
【0050】
式(I)で示される結合単位Aと式(II)で示される結合単位Bとを含む化合物は、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどのポリスルフィドシランに比べ、加工中の粘度上昇が抑制される。これは結合単位Aのスルフィド部分がC-S-C結合であるため、テトラスルフィドやジスルフィドに比べ熱的に安定であることから、ムーニー粘度の上昇が少ないためと考えられる。
【0051】
また、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシランに比べ、スコーチタイムが抑制される。これは、結合単位Bはメルカプトシランの構造を持っているが、結合単位Aの-C715部分が結合単位Bの-SH基を覆うため、ポリマーと反応しにくく、スコーチ(ゴム焼け)が発生しにくいためと考えられる。
【0052】
本開示の効果が良好に得られるという点から、上記構造のシランカップリング剤において、結合単位Aの含有量は、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上であり、好ましくは99モル%以下、より好ましくは90モル%以下である。また、結合単位Bの含有量は、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上であり、好ましくは70モル%以下、より好ましくは65モル%以下、さらに好ましくは55モル%以下である。また、結合単位AおよびBの合計含有量は、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。なお、結合単位A、Bの含有量は、結合単位A、Bがシランカップリング剤の末端に位置する場合も含む量である。結合単位A、Bがシランカップリング剤の末端に位置する場合の形態は特に限定されず、結合単位A、Bを示す式(I)、(II)と対応するユニットを形成していればよい。
【0053】
1のハロゲンとしては、塩素、臭素、フッ素などが挙げられる。
【0054】
1の分岐若しくは非分岐の炭素数1~30のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、へキシル基、へプチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~12である。
【0055】
1の分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、1-オクテニル基等が挙げられる。該アルケニル基の炭素数は、好ましくは2~12である。
【0056】
1の分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、へプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基等が挙げられる。該アルキニル基の炭素数は、好ましくは2~12である。
【0057】
2の分岐若しくは非分岐の炭素数1~30のアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基等が挙げられる。該アルキレン基の炭素数は、好ましくは1~12である。
【0058】
2の分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルケニレン基としては、ビニレン基、1-プロペニレン基、2-プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、1-ペンテニレン基、2-ペンテニレン基、1-ヘキセニレン基、2-ヘキセニレン基、1-オクテニレン基等が挙げられる。該アルケニレン基の炭素数は、好ましくは2~12である。
【0059】
2の分岐若しくは非分岐の炭素数2~30のアルキニレン基としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基、ペンチニレン基、ヘキシニレン基、へプチニレン基、オクチニレン基、ノニニレン基、デシニレン基、ウンデシニレン基、ドデシニレン基等が挙げられる。該アルキニレン基の炭素数は、好ましくは2~12である。
【0060】
上記構造のシランカップリング剤において、結合単位Aの繰り返し数(x)と結合単位Bの繰り返し数(y)の合計の繰り返し数(x+y)は、3~300の範囲が好ましい。この範囲内であると、結合単位Bのメルカプトシランを、結合単位Aの-C715が覆うため、スコーチタイムが短くなることを抑制できるとともに、シリカやゴム成分との良好な反応性を確保することができる。
【0061】
上記構造のシランカップリング剤としては、例えば、モメンティブ社製のものなどを用いることができる。
【0062】
シランカップリング剤を含有する場合、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。シランカップリング剤の含有量を1質量部以上とすることにより、未加硫ゴム組成物の粘度を抑え、加工性の悪化を抑制する傾向がある。また、シリカ100質量部に対するシランカップリング剤の含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。シランカップリング剤の含有量を20質量部以下とすることにより、コストに見合ったシランカップリング剤の配合効果を得ることができる傾向がある。
【0063】
(その他の配合剤)
キャップトレッド用ゴム組成物には、上記成分以外にも、必要に応じて、ジエン系ゴム以外のゴム成分や、従来ゴム工業で一般に使用される配合剤、例えば、シリカ以外の補強用充填剤、各種軟化剤、粘着付与樹脂、各種老化防止剤、ワックス、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0064】
(シリカ以外の補強用充填剤)
シリカ以外の補強用充填剤としては、カーボンブラック、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等、従来タイヤ用ゴム組成物において用いられているものを配合することができる。補強用充填剤として、シリカ以外のものを用いる場合、ゴム強度の観点から、カーボンブラックが好ましい。すなわち補強用充填剤としては、シリカおよびカーボンブラックを含むことがより好ましく、シリカおよびカーボンブラックのみであることがより好ましい。
【0065】
カーボンブラック
カーボンブラックとしては、特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等を、単独または2種以上を組合せて使用することができる。カーボンブラックとしては、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等によって製造販売されるカーボンブラックが挙げられる。
【0066】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、80m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましく、110m2/g以上がさらに好ましい。また、該N2SAは、300m2/g以下が好ましく、250m2/g以下がより好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック-基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に準じて測定することができる。
【0067】
カーボンブラックを含有させる場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。また、ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量は、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。カーボンブラックの含有量を前記の範囲内とすることで、良好な低燃費性および耐候性が得られる。
【0068】
(軟化剤)
軟化剤としては、オイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリン等の石油系軟化剤、大豆油、パーム油、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油等の脂肪油系軟化剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリン等のワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸、液状ポリマー、低温可塑剤等が挙げられる。軟化剤の全配合量は、ゴム成分100質量部に対して、50質量部以下が好ましい。この場合、ウェットグリップ性能を低下させる危険性が少ない。
【0069】
オイル
オイルとしては、例えば、パラフィン系、アロマ系、ナフテン系プロセスオイル等のプロセスオイルが挙げられる。
【0070】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましい。また、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、60質量部以下が好ましく、55質量部以下がより好ましい。オイルの含有量が上記範囲内の場合は、オイルを含有させる効果が十分に得られ、良好な耐摩耗性を得ることができる。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0071】
液状ポリマー
液状ポリマーとしては、例えば、液状SBR、液状BR、液状IR、液状SIR等が挙げられる。なかでも、特に耐久性能とグリップ性能とをバランスよく向上できるという理由から液状SBRを使用することが好ましい。
【0072】
低温可塑剤
低温可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、トリス(2エチルヘキシル)ホスフェート(TOP)、ビス(2エチルヘキシル)セバケート(DOS)等の液状成分が挙げられる。
【0073】
(粘着付与樹脂)
粘着付与樹脂としては、シクロペンタジエン系樹脂、クマロン樹脂、石油系樹脂(脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂等)、フェノール系樹脂、ロジン誘導体等が挙げられる。
【0074】
芳香族系石油樹脂としては、例えば、下記の芳香族ビニル系樹脂および芳香族ビニル系樹脂以外のC9系石油樹脂等が挙げられる。
【0075】
芳香族ビニル系樹脂では、芳香族ビニル単量体(単位)として、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4-シクロヘキシルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン等が使用され、それぞれの単量体の単独重合体、2種以上の単量体の共重合体のいずれであってもよい。また、これらを変性させたものであってもよい。
【0076】
粘着付与樹脂を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点、ドライグリップ性能の観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましい。また、粘着付与樹脂、特に芳香族ビニル系樹脂を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐摩耗性および低燃費性の観点、低温での脆化破壊の観点から30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0077】
(老化防止剤)
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤を適宜選択して配合することができ、これらの老化防止剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、老化防止効果の高さという理由からアミン系老化防止剤が好ましく、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N-4-メチル-2-ペンチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジアリール-p-フェニレンジアミン、ヒンダードジアリール-p-フェニレンジアミン、フェニルヘキシル-p-フェニレンジアミン、フェニルオクチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤がより好ましく、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンが特に好ましい。
【0078】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、老化防止剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましい。老化防止剤の含有量を上記範囲内とすることにより、老化防止効果を十分に得ると共に、老化防止剤がタイヤ表面に析出することによる変色を抑制することができる傾向がある。
【0079】
その他、ステアリン酸、酸化亜鉛、ワックス等は、従来ゴム工業で使用されるものを用いることができる。
【0080】
(加硫剤)
ゴム組成物は、加硫剤を含むことができる。加硫剤としては、有機過酸化物もしくは硫黄系加硫剤を使用できる。有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3あるいは1,3-ビス(t-ブチルパーオキシプロピル)ベンゼン等を使用することができる。また、硫黄系加硫剤としては、例えば、硫黄、モルホリンジスルフィド等を使用することができる。これらの中では硫黄が好ましい。
【0081】
加硫剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加硫剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、5質量部以下であり、3質量部以下が好ましい。加硫剤の含有量が上記範囲内である場合、適度な破壊特性が得られ、耐摩耗性が良好となる傾向がある。
【0082】
(加硫促進剤)
加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系加硫促進剤が挙げられ、なかでも、本開示の効果がより好適に得られる点から、スルフェンアミド系加硫促進剤およびグアニジン系加硫促進剤を含むことが好ましく、スルフェンアミド系加硫促進剤およびグアニジン系加硫促進剤のみであることがより好ましい。
【0083】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBBS(N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等が挙げられる。チアゾール系加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)等が挙げられる。グアニジン系加硫促進剤としては、ジフェニルグアニジン(DPG)、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本開示の効果がより好適に得られる点からCBSおよびDPGを組み合わせて使用することが好ましい。
【0084】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、適度な破壊特性が得られ、耐摩耗性が良好となる傾向がある。
【0085】
<ベーストレッド用ゴム組成物>
(ゴム成分)
ベーストレッド用ゴム組成物に用いるゴム成分としては、特に限定されるものではないが、天然ゴム、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等のジエン系ゴム、ブチルゴム(IIR)が挙げられる。これらのゴム成分は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。なかでも、転がり抵抗特性、耐亀裂成長性および破断時伸びにおいて優れるという点からBRを使用することが好ましく、破断時伸びに優れるという点から天然ゴムを使用することが好ましい。また、転がり抵抗特性、耐亀裂成長性および破断時伸びにおいて優れるという点からBRおよび天然ゴムを併用することがより好ましい。
【0086】
天然ゴム
天然ゴムとしては、天然ゴム(NR)に加え、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム等の改質天然ゴム(改質NR)なども含まれる。
【0087】
NRとしては特に限定されず、SIR20、RSS#3、TSR20など、ゴム工業において一般的なものを使用することができる。
【0088】
ベーストレッドを構成するゴム組成物が天然ゴムを含有する場合、ゴム成分100質量%中の天然ゴムの含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましい。天然ゴムの含有量を50質量%以上とすることにより、十分なゴム強度が得られる傾向がある。また、ゴム成分100質量%中の天然ゴムの含有量は、95質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。天然ゴムの含有量を95質量%以下とすることにより、耐オゾン性が悪化しにくい傾向がある。
【0089】
ブタジエンゴム(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス1,4結合含有率が50%未満のBR(ローシスBR)、シス1,4結合含有率が90%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用できる。なかでも、耐摩耗性能の観点からハイシスBRを用いることがより好ましい。
【0090】
ハイシスBRとしては、例えば、JSR(株)、日本ゼオン(株)、宇部興産(株)等によって製造販売されるハイシスBR等が挙げられる。ハイシスBRのなかでも、シス1,4結合含有率が95%以上のものがより好ましく、97%以上のものがさらに好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性を向上させることができる。BR中のシス1,4結合含有率は、赤外吸収スペクトル分析により算出される値である。
【0091】
ベーストレッドを構成するゴム組成物がBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。BRの含有量を5質量%以上とすることにより、耐摩耗性能や転がり抵抗性能のバランスが良好となる傾向がある。また、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。BRの含有量を50質量%以下とすることにより、ウェットグリップ性能が良好となる傾向がある。
【0092】
(その他の配合剤)
ベーストレッド用ゴム組成物には、上記ゴム成分以外にも、必要に応じて、ジエン系ゴム以外のゴム成分や、従来ゴム工業で一般に使用される配合剤、例えば、補強用充填剤、各種軟化剤、粘着付与樹脂、各種老化防止剤、ワックス、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0093】
(補強用充填剤)
補強用充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等、従来からタイヤ用ゴム組成物において用いられているものを配合することができる。なかでも、本開示の効果がより好適に得られる点から、カーボンブラックが好ましい。
【0094】
カーボンブラック
カーボンブラックとしては、特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等を、単独または2種以上を組合せて使用することができる。カーボンブラックとしては、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等によって製造販売されるカーボンブラックが挙げられる。
【0095】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、80m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましく、110m2/g以上がさらに好ましい。また、該N2SAは、300m2/g以下が好ましく、250m2/g以下がより好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック-基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に準じて測定することができる。
【0096】
カーボンブラックを含有させる場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましい。また、ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量は、80質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましい。カーボンブラックの含有量を前記の範囲内とすることで、良好な低燃費性および耐候性が得られる傾向がある。
【0097】
(軟化剤)
軟化剤としては、オイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリン等の石油系軟化剤、大豆油、パーム油、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油等の脂肪油系軟化剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリン等のワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸、液状ポリマー、低温可塑剤等が挙げられる。軟化剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、100質量部以下が好ましい。
【0098】
オイル
オイルとしては、例えば、パラフィン系、アロマ系、ナフテン系プロセスオイル等のプロセスオイルが挙げられる。
【0099】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、4質量部以上がより好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましい。また、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、60質量部以下が好ましく、55質量部以下がより好ましい。オイルの含有量が上記範囲内の場合は、オイルを含有させる効果が十分に得られ、良好な耐摩耗性を得ることができる。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0100】
液状ポリマー
液状ポリマーとしては、例えば、液状SBR、液状BR、液状IR、液状SIR等が挙げられる。なかでも、特に耐久性能とグリップ性能とをバランスよく向上できるという理由から液状SBRを使用することが好ましい。
【0101】
低温可塑剤
低温可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、トリス(2エチルヘキシル)ホスフェート(TOP)、ビス(2エチルヘキシル)セバケート(DOS)等の液状成分が挙げられる。
【0102】
(粘着付与樹脂)
粘着付与樹脂としては、シクロペンタジエン系樹脂、クマロン樹脂、石油系樹脂(脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂等)、フェノール系樹脂、ロジン誘導体等が挙げられる。
【0103】
芳香族系石油樹脂としては、例えば、下記の芳香族ビニル系樹脂および芳香族ビニル系樹脂以外のC9系石油樹脂等が挙げられる。
【0104】
芳香族ビニル系樹脂では、芳香族ビニル単量体(単位)として、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4-シクロヘキシルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン等が使用され、それぞれの単量体の単独重合体、2種以上の単量体の共重合体のいずれであってもよい。また、これらを変性させたものであってもよい。
【0105】
粘着付与樹脂を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、成型加工性の観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、4質量部以上が特に好ましい。また、粘着付与樹脂、特に芳香族ビニル系樹脂を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐摩耗性および低燃費性の観点、低温での脆化破壊の観点から30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0106】
(老化防止剤)
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤を適宜選択して配合することができ、これらの老化防止剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、老化防止効果の高さという理由からアミン系老化防止剤が好ましく、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N-4-メチル-2-ペンチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジアリール-p-フェニレンジアミン、ヒンダードジアリール-p-フェニレンジアミン、フェニルヘキシル-p-フェニレンジアミン、フェニルオクチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤がより好ましく、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンが特に好ましい。
【0107】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、老化防止剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましい。老化防止剤の含有量を上記範囲内とすることにより、老化防止効果を十分に得ると共に、老化防止剤がタイヤ表面に析出することによる変色を抑制することができる傾向がある。
【0108】
その他、ステアリン酸、酸化亜鉛、ワックス等は、従来ゴム工業で使用されるものを用いることができる。
【0109】
(加硫剤)
ゴム組成物は、加硫剤を含むことができる。加硫剤としては、有機過酸化物もしくは硫黄系加硫剤を使用できる。有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3あるいは1,3-ビス(t-ブチルパーオキシプロピル)ベンゼン等を使用することができる。また、硫黄系加硫剤としては、例えば、硫黄、モルホリンジスルフィド等を使用することができる。これらの中では硫黄が好ましい。
【0110】
加硫剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加硫剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。加硫剤の含有量が上記範囲内である場合、適度な破壊特性が得られ、耐摩耗性が良好となる傾向がある。
【0111】
(加硫促進剤)
加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系加硫促進剤が挙げられ、なかでも、本開示の効果がより好適に得られる点から、スルフェンアミド系加硫促進剤が好ましい。
【0112】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBBS(N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等が挙げられる。チアゾール系加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)等が挙げられる。グアニジン系加硫促進剤としては、ジフェニルグアニジン(DPG)、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本開示の効果がより好適に得られる点からCBSを使用することが好ましい。
【0113】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、適度な破壊特性が得られ、耐摩耗性が良好となる傾向がある。
【0114】
<キャップトレッド用ゴム組成物およびベーストレッド用ゴム組成物の製造方法>
キャップトレッド用ゴム組成物およびベーストレッド用ゴム組成物は、いずれも一般的な方法で製造できる。例えば、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロール等の一般的なゴム工業で使用される公知の混練機で、上記各成分のうち、加硫剤および加硫促進剤以外の成分を混練りし(ベース練り工程)、その後、加硫剤および加硫促進剤を加えてさらに混練りし(仕上げ練り工程)、得られる未加硫ゴム組成物を加硫する方法等により製造できる。
【0115】
混練条件としては特に限定されるものではないが、キャップトレッド用ゴム組成物の場合、ベース練り工程では、排出温度140~160℃で1~5分間混練りし、仕上げ練り工程では、75~100℃になるまで1~5分間混練することが好ましい。ベーストレッドゴム組成物の場合、ベース練り工程では、排出温度140~160℃で1~5分間混練りし、仕上げ練り工程では、75~100℃になるまで1~5分間混練することが好ましい。加硫条件としては、特に限定されるものではないが、通常未加硫状態でトレッドに成型し、その他の部材と共に未加硫タイヤを製造し加硫するものであるから、キャップトレッド用ゴム組成物およびベーストレッド用ゴム組成物はいずれも同じ条件が好ましく、140~180℃で3~20分間加硫することが好ましい。
【0116】
<空気入りタイヤ>
本開示の空気入りタイヤは、上述の通り、キャップトレッドとベーストレッドとから構成される二層構造のトレッドを有し、該キャップトレッドが、天然ゴムを10質量%以上30質量%未満含むゴム成分100質量部に対して、BET比表面積180~280m2/gのシリカを30~120質量部含有するゴム組成物より構成され、キャップトレッドとベーストレッドとの質量比C/Bが式(1):150≦C/B×100≦900(式中、Cはトレッド全体の質量に対する該キャップトレッドの質量の割合(質量%)を示し、Bはトレッド全体の質量に対する該ベーストレッドの質量の割合(質量%)を示す。)を満たすものである。この空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、乗用車用高性能タイヤ、トラックやバス等の重荷重用タイヤ、競技用タイヤ等タイヤ全般に用いることができる。なかでも、シリカを用いた配合である点から、乗用車用高性能タイヤとすることが好ましい。
【0117】
<空気入りタイヤの製造方法>
本開示の空気入りタイヤは、上述のキャップトレッド用未加硫ゴム組成物およびベーストレッド用未加硫ゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、キャップトレッド用未加硫ゴム組成物とベーストレッド用未加硫ゴム組成物の押出し比率を、キャップトレッドとベーストレッドとの質量比C/Bが150≦C/B×100≦900(式中、Cはトレッド全体の質量に対する該キャップトレッドの質量の割合(質量%)を示し、Bはトレッド全体の質量に対する該ベーストレッドの質量の割合(質量%)を示す。)となるように調整してトレッド形状に押出し成型し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱および加圧することにより、タイヤを製造することができる。トレッドの形成は、シート状にしたキャップトレッド用未加硫ゴム組成物とベーストレッド用未加硫ゴム組成物とを、所定の形状に貼り合せる方法によっても作製することができる。
【実施例
【0118】
以下、本開示を実施例に基づいて説明するが、本開示はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0119】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
・SBR:ZSエラストマー(株)製のNipol NS616(スチレン含有率:21質量%)
・BR:日本ゼオン(株)製のNipol BR1220(シス1,4結合含有率:97%)
・NR:RSS#3
・改質NR:下記製造例1で作製したもの
・カーボンブラック:三菱ケミカル(株)製のダイアブラック(登録商標)N220(窒素吸着比表面積(N2SA):115m2/g)
・シリカ1:エボニック・デグッサ社製のULTRASIL(登録商標)9100GR(BET比表面積:235m2/g、平均一次粒子径:15nm)
・シリカ2:エボニック・デグッサ社製のULTRASIL(登録商標)5000GR(BET比表面積:180m2/g、平均一次粒子径:21nm)
・シリカ3:エボニック・デグッサ社製のULTRASIL(登録商標)VN3(BET比表面積:175m2/g、平均一次粒子径:18nm)
・シランカップリング剤1:エボニック・デグッサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
・シランカップリング剤2:モメンティブ社製のNXT-Z45(結合単位Aと結合単位Bとの共重合体(結合単位A:55モル%、結合単位B:45モル%))
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
・ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
・オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX-140
・老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン)
・ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
・硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
・加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
・加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン)
【0120】
製造例1(改質NRの製造)
天然ゴムラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、天然ゴムラテックス1000g(wet状態)に対し、10%Emal-E27C水溶液25gと40%NaOH水溶液50gを加え、室温で48時間ケン化反応を行い、ケン化天然ゴムラテックスを得た。このラテックスに水を添加してDRC15%(w/v)となるまで希釈した後、ゆっくり撹拌しながらギ酸を添加しpHを4.0に調整し、凝集させた。凝集したゴムを粉砕し、水1000mLで洗浄を繰り返し、その後90℃で4時間乾燥して固形ゴム(改質NR)を得た。
【0121】
製造例1により得られた固形ゴム(改質NR)および上記NR(RSS#3)について以下に示す方法により、窒素含有量、リン含有量、ゲル含有率を測定した。結果を表1に示す。
【0122】
(窒素含有量の測定)
窒素含有量は、CHN CORDER MT-5(ヤナコ分析工業(株)製)を用いて測定した。測定には、まずアンチピリンを標準物質として、窒素含有量を求めるための検量線を作製した。次いで、製造例1で得られた改質NRまたはRSS#3のサンプル約10mgを秤量し、3回の測定結果から平均値を求めて、試料の窒素含有量とした。
【0123】
(リン含有量の測定)
ICP発光分析装置(ICPS-8100、(株)島津製作所製)を使用してリン含有量を求めた。また、リンの31P-NMR測定は、NMR分析装置(400MHz、AV400M、日本ブルカー(株)製)を使用し、80%リン酸水溶液のP原子の測定ピークを基準点(0ppm)として、クロロホルムにより生ゴムより抽出した成分を精製し、CDCl3に溶解して測定した。
【0124】
(ゲル含有率の測定)
1mm×1mmに切断した生ゴムのサンプル70.00mgを計り取り、これに35mLのトルエンを加え1週間冷暗所に静置した。次いで、遠心分離に付してトルエンに不溶のゲル分を沈殿させ上澄みの可溶分を除去し、ゲル分のみをメタノールで固めた後、乾燥し質量を測定した。次の式によりゲル含有率(質量%)を求めた。
ゲル含有率(質量%)=[乾燥後の質量mg/最初のサンプル質量mg]×100
【0125】
【表1】
【0126】
実施例1-1~11-4および比較例1~9
(キャップトレッド用未加硫ゴム組成物の作製)
表2に示す配合処方に従い、(株)神戸製鋼所製の16Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤を除く薬品を投入し、排出温度が160℃となるように5分間混練りした。ついで、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を表2に示す配合量で加えた後、(株)神戸製鋼所製の16Lバンバリーミキサーを用いて、80℃になるまで5分間練り込み、キャップ配合A-1~Gに対応するキャップトレッド用未加硫ゴム組成物A-1~Gをそれぞれ得た。
【0127】
(キャップトレッド用加硫ゴム組成物の作製)
上記で得た各キャップトレッド用未加硫ゴム組成物を、170℃の条件下で12分間プレス加硫し、キャップ配合A-1~Gに対応するキャップトレッド用加硫ゴム組成物A-1~Gをそれぞれ得た。
【0128】
【表2】
【0129】
(ベーストレッド用未加硫ゴム組成物の作製)
表3に示す配合処方に従い、(株)神戸製鋼所製の16Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤を除く薬品を投入し、排出温度が160℃となるように3分間混練りした。ついで、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を表3に示す配合量で加えた後、(株)神戸製鋼所製の16Lバンバリーミキサーを用いて、80℃になるまで5分間練り込み、ベース配合Aに対応するベーストレッド用未加硫ゴム組成物Aを得た。
【0130】
【表3】
【0131】
(空気入りタイヤの作製)
得られたキャップトレッド用未加硫ゴム組成物A-1~Gおよびベーストレッド用未加硫ゴム組成物Aを用いて、表4~6に示す配合に従い、押出し比率を表4~6のC/B(キャップ/ベース)比率となるように調整してトレッド形状に押出し成型し、他の部材と貼り合わせ、170℃で12分間加硫することにより、実施例1-1~11-4および比較例1~9の空気入りタイヤ(サイズ195/65R15)を得た。なお、表4~6中、Cは、トレッド全体の質量に対する該キャップトレッドの質量の割合(質量%)を、Bはトレッド全体の質量に対する該ベーストレッドの質量の割合(質量%)を示し、C/B比率指数は、C/Bに100を掛けた値である。
【0132】
評価
各実施例および比較例により得られた空気入りタイヤについて、低燃費指数、耐摩耗性指数およびタイヤ重量指数を以下に示す方法により評価した。また、各キャップトレッド用未加硫ゴム組成物A-1~Gについて、成型加工性指数を以下に示す方法により評価した。さらに、各キャップトレッド用加硫ゴム組成物A-1~Gについて、以下に示す方法により粘弾性試験を行った。すべての結果を表4~6に示す。
【0133】
<低燃費指数>
転がり抵抗試験機を用い、各タイヤを、リム(15×6JJ)、内圧(230kPa)、荷重(3.43kN)、速度(80km/h)で走行させたときの転がり抵抗を測定し、比較例1を100として指数表示した。指数が大きいほど低燃費性が良好であることを示す。低燃費指数は94以上を性能目標値とする。
【0134】
<耐摩耗性指数>
各タイヤ(サイズ195/65R15)を国産FF車に装着し、走行距離8000km後のタイヤトレッド部の溝深さを測定し、タイヤ溝深さが1mm減るときの走行距離を算出し、次の式により指数化した。指数が大きいほど耐摩耗性が良好であり、100より大きい値を目標値とする。
(耐摩耗性指数)=(各タイヤの溝が1mm減るときの走行距離)/(比較例1の溝が1mm減るときの走行距離)×100
【0135】
<タイヤ重量指数>
各タイヤの重量を測定し、比較例1のタイヤの重量を100として指数化した。数値が大きい方が重量が軽いことを示す。
【0136】
<成型加工性(タック力)指数>
キャップトレッド用未加硫ゴム組成物A-1~Gを、ロールを用いて厚み1mmのシート状に押し出し、得られたゴムシートについて、タックテスター((株)東洋精機製作所製「タックテスターII」)を用いて、金属平板センサーとゴム板間の粘着性(タッキネス)を測定し、比較例1の値を100として指数化した。指数が大きい方がタック力が高く、粘着力が高いことを示し、成型加工性に優れることを示す。ただし、この数値は配合組成に依存するため、配合内容が変わらない限り、変動はない。成型加工性指数は90以上を性能目標値とする。
【0137】
<粘弾性試験>
上記で作製したキャップトレッド用加硫ゴム組成物A-1~Gについて、(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪10%、動的歪振幅1%および周波数10Hzの条件下で、70℃における複素弾性率E* 70℃および損失正接tanδ70℃を測定した。E* 70℃が大きいほど、剛性が高く、操縦安定性および耐久性に優れることを示し、tanδ70℃が小さいほど転がり抵抗が低く、低燃費性に優れることを示す。性能目標値は、E* 70℃が1.9~9.5MPa、tanδ70℃が0.05~0.17である。
【0138】
【表4】
【0139】
【表5】
【0140】
【表6】
【0141】
表4~6の結果より、キャップトレッドを構成するゴム成分に所定量の天然ゴムを加え、ゴム組成物に含まれるシリカのBET比表面積および含有量を規定し、さらにキャップトレッドとベーストレッドとの質量比を規定することで、低燃費性能と耐摩耗性能と成型加工性との高度なバランスを達成することができることがわかる。また、微粒子シリカを用いる場合、微粒子シリカの比重が大きいため、ベーストレッドの比重に比べてキャップトレッドの比重が大きくなり、キャップ比率が大きいほどタイヤ重量が重くなり、その分燃費性能が悪化する傾向にあり、キャップ/ベース比率指数(C/B×100)が1900である比較例6では、低燃費性が悪化していることがわかる。さらに、E* 70℃が1.9~9.5MPaの範囲内であり、かつ、tanδ70℃が0.05~0.17の範囲内であると、低燃費性能と耐摩耗性能と成型加工性との高度なバランスがより一層達成できることがわかる。