(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】トウプレグの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20240214BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20240214BHJP
B29K 307/04 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
B29B11/16
B29K105:08
B29K307:04
(21)【出願番号】P 2021529759
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 IB2019001383
(87)【国際公開番号】W WO2020161516
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-11-14
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武田 一朗
(72)【発明者】
【氏名】高岩 玲生
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-061140(JP,A)
【文献】米国特許第5094883(US,A)
【文献】国際公開第2016/002777(WO,A1)
【文献】特開2012-184279(JP,A)
【文献】特開2018-171772(JP,A)
【文献】特開2012-167252(JP,A)
【文献】特開2019-210586(JP,A)
【文献】特開2013-203942(JP,A)
【文献】特開平09-136976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08-15/14
C08J 5/04-5/10
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の繊維束に樹脂を含浸して1本のトウプレグとするトウプレグの製造方法であって、前記方法が:
トウプレグを製造するための繊維束のストックを提供すること;
樹脂による含浸前に前記ストックの前記繊維束ごとの目付を測定すること;
前記繊維目付に基づいて前記ストックから繊維束の群を定めることによって、画定された繊維束を得ること;
前記複数本の繊維束を組み合わせて前記トウプレグとした際のトウプレグの繊維目付を予測することによって、トウプレグの予測される繊維目付を得ること;および
前記トウプレグの前記予測される繊維目付がトウプレグの目付のターゲット値から決定された範囲内に入る画定された繊維束の群全てからの繊維束の組み合わせを用いて前記トウプレグを製造すること、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
画定された繊維束の群全てを用いて前記トウプレグを製造する際に、予測される前記トウプレグの前記繊維目付と前記ターゲット値との差の二乗の積算が最小となる繊維束の組み合わせを用いることを特徴とする、請求項1に記載のトウプレグの製造方法。
【請求項3】
画定された繊維束の群全てを用いて前記トウプレグを製造する際に、以下の手順:
[A]繊維束の前記群を前記繊維束の目付順にソートする、
[B]目付の高い順に選択した繊維束と、目付の低い順に選択した繊維束とを順に組み合わせていく、および
[C]前記組み合わせた繊維束の前記目付の和を、前記繊維束の目付として新たに定め、繊維束の新たな群を定める、
を繰り返して前記複数本の繊維束を組み合わせることを特徴とする、請求項1に記載のトウプレグの製造方法。
【請求項4】
画定された繊維束の群全てを用いて前記トウプレグを製造する際に、繊維束の前記群を前記繊維束の目付順にソートした後、繊維束の前記群を、前記トウプレグに必要な繊維束の本数分のユニットに目付順に等分割し、それぞれの前記ユニットから1本ずつ選択して繊維束を組み合わせることを特徴とする、請求項1に記載のトウプレグの製造方法。
【請求項5】
繊維束を厚み方向に2本重ねて1本のトウプレグとすることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のトウプレグの製造方法。
【請求項6】
前記トウプレグに含浸する前記樹脂の粘度が、40℃で100Pa・s以上であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のトウプレグの製造方法。
【請求項7】
前記繊維束のそれぞれが、炭素繊維を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のトウプレグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維に予め樹脂が含浸されたテープ状の一方向プリプレグを、再現性良く均質に製造することができる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(FRP)は、強化繊維とマトリックス樹脂とから成る。FRPは、力学特性、特に比弾性率および比強度に優れ、航空および自動車などの構造材、スポーツ用品、電気器具筐体などに広く用いられている。FRPの成形方法には様々なものがあるが、成形方法の中でも、強化繊維に予めマトリックス樹脂を一部または完全に含浸させたプリプレグを用いることが多い。引き揃えた強化繊維に樹脂を含浸してプリプレグを製造する際に、マトリックス樹脂の目付を制御することができ、FRPの成形時に、FRPに含まれるマトリックス樹脂量のばらつきを低減できるという利点がある。
【0003】
一般的に、プリプレグは1mなど広幅であり、二方向以上に曲面を有する型に沿いにくく、複雑形状のFRPを成形することが困難である。そこで、特許文献の欧州特許第3162842(A1)号に開示されているように、1本の繊維束に樹脂を含浸して得たテープ状の一方向プリプレグを型に巻き付けてタンクのような複雑形状のFRPを成形する手法、フィラメントワインディング法が従来より知られている。また、特許文献の欧州特許第2841369(A1)号に開示されているように、一旦広幅のプリプレグを製造した後、このプリプレグを繊維方向にスリットしてテープ状の一方向プリプレグに加工し、そのテープ状一方向プリプレグをロボットを用いて1本ずつ型に沿わせることで複雑形状のFRPを成形する手法、自動積層法も拡がりを見せている。
【0004】
一方で、フィラメントワインディング法や自動積層法では、1本または限られた数のテープ状の一方向プリプレグを用いてFRPを製造するため、テープ状の一方向プリプレグ間の目付のばらつきが大きいと、テープ状の一方向プリプレグをFRPとした時の総重量がばらつくこと、各部位の厚みが設計厚みからずれること、という問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記問題を解決するために、テープ状の一方向プリプレグの目付のばらつきを再現性良く低減させることができる、テープ状の一方向プリプレグの製造方法を提供することである。中でも、本発明の目的は、フィラメントワインディング法や自動積層法に用いることができるテープ状の一方向プリプレグを低コストで製造するために、繊維束に直接樹脂を含浸して、得られる材料をより少ない工程数でテープ状の一方向プリプレグに加工する、トウプレグの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数本の繊維束に樹脂を含浸して1本のトウプレグとするトウプレグの製造方法に関するものであって、この方法は、含浸前に繊維束ごとの目付を測定すること、複数本の繊維束を組み合わせてトウプレグとした際のトウプレグの繊維目付を予測すること、および予測されるトウプレグの繊維目付がターゲット値から決定された範囲内に入る繊維束の組み合わせを用いてトウプレグを製造すること、を含む。
【0007】
典型的には、トウプレグは、熱硬化性樹脂を含浸した、数千~数万本のフィラメントが一方向に配列した強化繊維束を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0010】
トウプレグの製造時に樹脂量を制御しながら繊維束に樹脂を含浸することができるため、トウプレグ内の樹脂量を再現性良く制御してトウプレグを製造することができる。一方、繊維束の目付自体にばらつきがある場合、トウプレグの目付が安定することはない。一般的に、1本の繊維束に樹脂を含浸することによって1本のトウプレグが製造されるため、繊維束自体の目付のばらつきが、トウプレグに含まれる繊維目付のばらつきにそのまま反映される。繊維束の目付は、繊維束生産バッチの抜き取りサンプルの測定値で一括りにされているのが一般的であることから、個別の繊維束の目付のばらつきの情報は存在しない。
【0011】
そこで本発明では、複数本の繊維束に樹脂を含浸して1本のトウプレグとし、かつ含浸前に繊維束ごとの目付を測定し、複数本の繊維束を組み合わせてトウプレグとした際のトウプレグの繊維目付を予測する。予め繊維束ごとの目付を測定しておけば、組み合わせる繊維束の目付の和を、複数本の繊維束を組み合わせてトウプレグとした際の繊維目付として予測することができる。ここで、繊維束の目付の測定方法としては、それぞれの繊維束を表す目付を論理的に推定することができればいかなる方法であってもよく、例えば、1mなど一定長さで解舒した繊維束の重量を、3回もしくは5回などの複数回測定してその平均値を用いてもよく、または例えば、繊維束の製造時にボビンに巻き付けた長さが分かっている場合には、それぞれのボビンについて全体重量を測定してその長さで割り返してもよい。
【0012】
本発明では、予測されるトウプレグの繊維目付がターゲット値から決定された範囲内に入る繊維束の組み合わせを用いる。したがって、1つの実施形態では、本発明の方法は、トウプレグの繊維目付に対するターゲット値を決定することを含む。ターゲット値として決定される範囲は、典型的には製品仕様によって指定される。ターゲット値は、使用する繊維束の群の目付の平均値、中央値、最頻値であってよい。目付が決定された範囲内に入る繊維束の組み合わせだけを採用することによって、トウプレグの繊維目付を所望される範囲内に制御することができる。
【0013】
1つの実施形態では、群は、繊維の目付順に繊維束をソートすることによって定め、それによって画定された繊維束を得る。
【0014】
1つの実施形態では、N本の繊維束が元のストックにあり、繊維束を目付順に2つ以上の群にソートした後、異なる群からの繊維束を組み合わせて繊維束の第一の組み合わせとし、続いて繊維束の第一の組み合わせを目付順にソートして、繊維束の第一の組み合わせの1または複数の群とし、次に第一の組み合わせの繊維束を、別の第一の組み合わせの繊維束または元の群の繊維束のいずれかと組み合わせて繊維束の第二の組み合わせとし、その後繊維束のソートと組み合わせとの手順を繰り返して、必要数の繊維束を有するトウプレグを得る。
【0015】
本発明の好ましい態様1では、画定された繊維束の群全てを用いてトウプレグを製造する際に、予測されるトウプレグの繊維目付とターゲット値との差の二乗の積算が最小となる繊維束の組み合わせを用いることが好ましい。これにより、ターゲット値からのずれの大きなトウプレグを製造する可能性を大幅に低減することができる。繊維束の群を、トウプレグを構成する繊維束の本数ごとに分割して、製造され得るトウプレグの繊維目付を予測する。全ての製造され得るトウプレグについてのトウプレグの繊維目付とターゲット値との差の二乗の積算が最小となる分割方法を、シミュレーションにより導出する。あらゆる繊維束の組み合わせについて計算してもよく、または繊維束の群をランダムに所定の回数分割し、それらの中で製造され得るトウプレグの繊維目付とターゲット値との差の二乗の積算が最小となる分割方法を選定してもよい。
【0016】
本発明の好ましい態様2では、画定された繊維束の群全てを用いてトウプレグを製造する際に、以下の手順を繰り返して複数本の繊維束を組み合わせることが好ましい。
【0017】
[A]繊維束の群を繊維束の目付順にソートする、
[B]目付の高い順に選択した繊維束と、目付の低い順に選択した繊維束とを順に組み合わせていく、および
[C]組み合わせた繊維束の目付の和を、繊維束の目付として新たに定め、繊維束の新たな群を定める。
【0018】
これにより、効率的に製造されるトウプレグ群内で繊維目付を平均化させることが可能となり、トウプレグ製造に使用する繊維束群の中で繊維束間に目付のばらつきがあっても、少なくとも同じ繊維束群を用いて製造したトウプレグは、ほぼ同一の繊維目付を実現することができる。
【0019】
具体例を参照して、好ましい態様2の効果を定量的に示す。100本の繊維束群をトウプレグの製造に使用し、繊維束を2本ずつ組み合わせて、樹脂含浸後に1本のトウプレグとする。1つの実施形態では、繊維束群の目付の平均を100に正規化し、ばらつきを標準偏差(以下SD)として表す。1つの実施形態では、100本の繊維束間の目付のばらつきが正規分布に従うと仮定して、SDが5となるように、乱数を利用して100本の繊維束の目付を人為的に算出する。例えば、5回の計算結果の平均値を条件1として表1にまとめた。5回の計算における繊維束の最大値の平均値は、111.8であり、最小値の平均値は、87.2であった。すなわち、1本の繊維束から1本のトウプレグを製造する場合では、100本のトウプレグを製造した際に、トウプレグ間で約±12%の繊維目付のばらつきを含むことになる。加えて、樹脂量のばらつきを加えると、トウプレグとしての目付のばらつきは、±15%を超える可能性がある。そのことは、1本または限られた数のトウプレグを用いてFRPを成形した場合、同じ長さのトウプレグを投入したとしても、FRPの総重量が用いるトウプレグに応じて大きく変動することを意味する。
【0020】
次に、1つの実施形態では、繊維束を2本組み合わせて1本のトウプレグとした場合の計算を行う。条件1の場合において、100本の繊維束から2本の繊維束をランダムに組み合わせることによってトウプレグを製造した際のトウプレグの繊維目付を、繊維束を2本組み合わせた際の期待値を100として正規化した。SDによってばらつきを計算した結果を表2にまとめた。2本の繊維束を組み合わせることで、ばらつきは若干低減するものの、5回の計算におけるトウプレグの繊維目付の最大値の平均値は106.7、最小値の平均値は92.0となり、50本のトウプレグを製造した場合、トウプレグ間での繊維目付のばらつきは、依然として約±8%である。この場合では、FRP成形時の重量のばらつきを軽減することは困難である(比較例1)。
【0021】
ここで、条件1の場合において、好ましい態様2に基づいて繊維束を2本組み合わせて1本のトウプレグとする際、100本の繊維束を目付順にソートし、N番目に軽い繊維束とN番目に重い繊維束とを組み合わせることによって50本のトウプレグを製造した場合の繊維目付を、繊維束を2本組み合わせた際の期待値を100として正規化した。SDによってばらつきを計算した結果を表3にまとめた。ばらつきは、繊維束の目付のばらつきSD4.9から、トウプレグとした際の繊維目付のばらつきSD0.29へ、1/10以下に大幅に低減した。この例では、5回の計算におけるトウプレグの繊維目付の最大値の平均値は、100.5、最小値の平均値は、99.0となり、50本のトウプレグを製造した場合、繊維目付のばらつきを、トウプレグ間で±1%以下に制御することができた(実施例1)。本発明の製造方法によって製造されたトウプレグを用いることで、FRP成形時の重量ばらつきの大幅な低減が期待できる。
【0022】
N個ある群の中で「より軽い」の用語は、群Nよりも群N-1の方が軽い目付を有することを指す。N個ある群の中で「より重い」の用語は、群N-1よりも群Nの方が重い目付を有することを指す。1つの好ましい実施形態では、「より軽い」は、「最も軽い」を指し、「より重い」は、「最も重い」を指す。そのような実施形態では、本発明における「より軽い」の用語は、「最も軽い」を、「より重い」の用語は、「最も重い」を意味する(またはそれで置き換えることが可能である)。
【0023】
続いて、別の例は、99本の繊維束群をトウプレグの製造に使用し、繊維束を3本ずつ組み合わせて樹脂含浸後に1本のトウプレグとする場合である。同様に、99本の繊維束間の目付のばらつきが正規分布に従うと仮定して、SDが5となるように、乱数を利用して99本の繊維束の目付を人為的に算出する。5回の計算結果の平均値を条件2として表1にまとめた。次に、99本の繊維束から3本の繊維束をランダムに組み合わせることによってトウプレグを製造した際のトウプレグの繊維目付平均を100に正規化し、SDによってばらつきを計算した結果を表2にまとめた(比較例2)。ここで、例示の目的としての
図1を参照して、本発明に基づいて繊維束を3本組み合わせて1本のトウプレグとする際、99本の異なる繊維束を提供して目付順にソートし、33本の繊維束の3つの群を得る。次に、より軽い群からの繊維束、好ましくはこのより軽い群の最も軽い繊維束が、より重い群からの繊維束、好ましくはこのより重い群の最も重い繊維束と組み合わされるように、繊維束を組み合わせる。好ましくは、組み合わせは、最も軽い群と最も重い群との間で行う。2本の繊維束の組み合わせによって、新たな繊維束の群が形成される。組み合わせた後、2本の繊維束を組み合わせることによって形成された群を、続いて再度目付順にソートする。この例では、繊維束の群2つが提供され、一方は、2本の繊維束の複数の組み合わせによるものであり、もう一方は、元の繊維束の群の33番目から66番目に重い(または最も重い)繊維束に相当するものである。次に、より軽い群からの繊維束、好ましくはこのより軽い群の最も軽い繊維束が、より重い群からの繊維束、好ましくはこのより重い群の最も重い繊維束と組み合わされるように、繊維束を再度組み合わせる。これにより、3本の繊維束の組み合わせが得られる。この例では、典型的には、1番目から33番目に軽い繊維束および1番目から33番目に重い繊維束に関してのN番目に重い繊維束をまず組み合わせることで、新たな群を得る。この新たな群は、繊維束の組み合わせを33本含んでいる。次に、繊維束の33本の組み合わせの新たな群内で目付順にソートし、新たな繊維束の群のN番目に軽い繊維束と、元の繊維束の群のN番目に重い繊維束とを組み合わせることによって33本のトウプレグを製造し、ここで、繊維目付を、期待値(繊維束を3本組み合わせた際)を100として正規化し、SDによってばらつきを計算した結果を表3にまとめた(実施例2)。
【0024】
続いて、別の例は、100本の繊維束群をトウプレグの製造に使用し、繊維束を4本ずつ組み合わせて樹脂含浸後1本のトウプレグとする場合である。同様に、100本の繊維束間の目付ばらつきが正規分布に従うと仮定して、SDが5となるように、乱数を利用して100本の繊維束の目付を人為的に算出する。5回の計算結果の平均値を条件3として表1にまとめた。次に、100本の繊維束から4本の繊維束をランダムに組み合わせることによってトウプレグを製造した際のトウプレグの繊維目付を、繊維束を4本組み合わせた際の期待値を100として正規化し、SDによってばらつきを計算した結果を表2にまとめた(比較例3)。ここで、例示の目的としての
図2を参照して、好ましい態様2に基づいて繊維束を4本組み合わせて1本のトウプレグとする際、100本の繊維束を目付順にソートし、N番目に軽い繊維束とN番目に重い繊維束とを組み合わせることによって、好ましくはN番目の最も軽い繊維束とN番目の最も重い繊維束とを組み合わせることによって、新たな50本の繊維束の群を定める。この新たな50本の繊維束の群内で、目付順にソートし、新たな繊維束の群のN番目に重い繊維束とN番目に軽い繊維束とを組み合わせて25本のトウプレグを製造し、その場合の繊維目付を、繊維束を4本組み合わせた際の期待値を100として正規化した。SDによってばらつきを計算した結果を表3にまとめた(実施例4)。
【0025】
続いて、他の例は、100本の繊維束群をトウプレグの製造に使用し、繊維束を5本ずつ組み合わせて樹脂含浸後1本のトウプレグとする場合(条件4)、120本の繊維束群をトウプレグの製造に使用し、繊維束を6本ずつ組み合わせて樹脂含浸後1本のトウプレグとする場合(条件5)、140本の繊維束群をトウプレグの製造に使用し、繊維束を7本ずつ組み合わせて樹脂含浸後1本のトウプレグとする場合(条件6)であり、同じ手順で計算を行い、表1、2、および3に計算結果をまとめた。好ましい態様2の手法を用いて計算した実施例1~6のいずれの場合においても、必要な本数の繊維束をランダムに組み合わせた比較例1から6と比較すると、トウプレグの繊維目付のばらつきおよびターゲット値からのばらつき範囲のいずれも大幅に低減されていることが分かる。
【0026】
本発明の好ましい態様3では、画定された繊維束の群全てを用いてトウプレグを製造する際に、繊維束の群を繊維束の目付順にソートした後、繊維束の群を、トウプレグに必要な繊維束の本数分のユニットに目付順に等分割し、それぞれのユニットから1本ずつ選択して繊維束を組み合わせる。繊維束のユニットからの選択は、ランダムに行ってよいが、さらに好ましくは、繊維束を2本ずつ組み合わせる次の手順を繰り返して、全ユニットから1本ずつ選択する。
【0027】
[a]ユニットから繊維束の目付の高い順に選択した1本と、他のユニットにおいて繊維束の目付の低い順に選択した1本とを順に組み合わせていく、および
[b]組み合わせた繊維束の目付の和を、繊維束の目付として新たに定め、繊維束の新たなユニットを定める。
【0028】
具体例を参照して、好ましい態様3の効果を定量的に示す。繊維束を2本または3本組み合わせてトウプレグとする場合には、好ましい態様2と同じ手順を行う。ここでの例は、100本の繊維束群をトウプレグの製造に使用し、繊維束を4本ずつ組み合わせて樹脂含浸後1本のトウプレグとする条件3の場合である。まず、100本の繊維束を目付順にソートし、目付順に4つのユニット(目付の高い順に、1番目~25番目、26番目~50番目、51番目~75番目、および76番目~100番目)に分割する。1番目~25番目のユニットから目付の高い順に選択した1本と、76番目~100番目のユニットから目付の低い順に選択した1本とを組み合わせていき、組み合わせた繊維束の目付の和を、繊維束の目付として新たに定め、25本の繊維束の新たな群(新たなユニット1)を定める。新たなユニット1から目付の高い順に選択した1本と、51番目~75番目のユニットから目付の低い順に選択した1本とを組み合わせていき、組み合わせた繊維束の目付の和を、繊維束の目付として新たに定め、25本の繊維束の新たな群(新たなユニット2)を定める。新たなユニット2から目付の高い順に選択した1本と、26番目~50番目のユニットから目付の低い順に選択した1本とを組み合わせていき、組み合わせた繊維束の目付の和が、繊維束4本を組み合わせたトウプレグの目付となる。このトウプレグの繊維目付を、繊維束を4本組み合わせた際の目付の期待値を100として正規化し、SDによってばらつきを計算した結果を表3にまとめた(実施例7)。100本の繊維束からランダムに4本の繊維束を選択した場合(比較例3)では、トウプレグとした際の繊維束の目付のばらつきは、SD2.4であり、一方好ましい態様3の場合では、ばらつきはSD0.13へ、1/10以下に大幅に低減した。5回の計算におけるトウプレグの繊維目付の最大値の平均値は100.2、最小値の平均値は99.8であり、25本のトウプレグを製造した場合、繊維目付のばらつきを、トウプレグ間でわずか±0.2%に制御することができた。
【0029】
続いて、他の例は、100本の繊維束群をトウプレグの製造に使用し、繊維束を5本ずつ組み合わせて樹脂含浸後1本のトウプレグとする場合(条件4)、120本の繊維束群をトウプレグの製造に使用し、繊維束を6本ずつ組み合わせて樹脂含浸後1本のトウプレグとする場合(条件5)、および140本の繊維束群をトウプレグの製造に使用し、繊維束を7本ずつ組み合わせて樹脂含浸後1本のトウプレグとする場合(条件6)であり、同じ手順で計算を行い、表1、2、および3に計算結果をまとめた。好ましい態様3の手法を用いて計算した実施例7~10のいずれの場合においても、必要な本数の繊維束をランダムに組み合わせた比較例3から6と比較すると、トウプレグの繊維目付のばらつきおよびターゲット値からのばらつき範囲のいずれも大幅に低減されていることが分かる。
【0030】
本発明の好ましい態様1から3は、画定された繊維束の群全てを用いてトウプレグを製造する場合のトウプレグの製造方法を提供するものであるが、画定された繊維束の群は、繊維束のストックから選択されてもよい。
【0031】
したがって、本発明は、繊維束のストックから繊維束の群を定め、それによって画定された繊維束を得る工程を含む。
【0032】
より好ましくは、繊維束を厚み方向に2本重ねて1本のトウプレグとする。2本の繊維束を組み合わせる際、繊維束同士を幅方向に隣り合わせとするよりも厚み方向に重ねた場合の方が繊維束同士の接触面が大きく、1本のトウプレグに一体化した後に分離しにくい。いくつかの場合では、繊維束によっては撚りが掛かっており、1本の繊維束から1本のトウプレグを製造する場合は、撚りが掛かっている部分で幅が大きく狭まる。一方で、1本の繊維束に撚りが掛かっている場合であっても、2本の繊維束を厚み方向に重ねることによって、もう1本の繊維束も同じ場所に撚りが掛かっている可能性はほとんどないため、均一なトウプレグ幅を実現することができる。したがって、このことは、トウプレグを再現性良く均質に製造することに貢献する。特に、自動積層法によってFRPを製造する場合には、高い幅精度のトウプレグが要求されるため、本発明の製造方法によって製造したトウプレグが適している。
【0033】
繊維束に含浸する樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよいが、好ましくは熱硬化性樹脂である。トウプレグをFRPとした際に、高い耐化学薬品性および耐熱性を容易に得ることができる。加えて、特段の加熱源がなくても、タックによってトウプレグの積層および一体化が可能であり、取り扱いも容易である。より好ましくは、エポキシ樹脂が、力学特性と耐熱性とのバランスに優れている。トウプレグに含浸する樹脂の粘度が、例えば40℃で1Pa・s以下と低い程、樹脂の含浸が容易であり、トウプレグの製造効率が高まる。一方で、高品位の、特に自動積層法で用いられるような高い幅精度のトウプレグを実現するためには、樹脂の粘度が40℃で100Pa・s以上であることが好ましい。室温での粘度が高いため、保管時にトウプレグが変形しにくく、製造時にトウプレグの幅精度を維持しやすい。トウプレグの目付だけでなく幾何形状も均質とすることができ、再現性の良い製造方法に貢献する。より好ましくは、樹脂の粘度は、40℃で1000Pa・s以上である。本発明において、樹脂の粘度は、直径25mmのパラレルプレートの上下間隔が1mmとなるように樹脂をセットし、周波数1Hzのねじりモードで測定することによって特定するものである。
【0034】
繊維束に用いる繊維の種類は、ポリマー繊維、セラミック繊維、または金属繊維であってよいが、アラミド繊維、バサルト繊維、ガラス繊維、または炭素繊維などの比強度および比弾性率に優れた繊維が好ましい。中でも、軽量性、高力学特性、および耐化学薬品性などの優れた特性を有する炭素繊維を用いることで、FRPの性能向上に貢献することができる。溶融紡糸によって製造される繊維と比較すると、焼成などの複雑な工程を介して製造される炭素繊維は、目付のばらつきが大きくなりやすい。目付のばらつきが大きい繊維であっても、本発明の製造方法を用いることによって、トウプレグとした際の繊維目付を安定化させることができるため、特に炭素繊維を用いる場合に、本発明の効果は強く発揮される。例えば、炭素繊維は、トレカ炭素繊維T300-3K-50A、T700S-12K-31E、T700S-24K-60E、T800S-24K-10E、T1100G-12K-71E、M46J-12K-50A、M55J-6K-50B(東レ株式会社)、PANEX 35(Zoltek)から成る群より選択される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に関するトウプレグの製造方法は、繊維強化プラスチックのための成形材料として用いられる、繊維に予め樹脂を含浸させたテープ状一方向プリプレグの製造に適用することができる。
【0036】
典型的には、テープ状一方向プリプレグの寸法(幅)は、1mm~100mm、好ましくは3mm~50mmの範囲内である。
【0037】
典型的には、テープ状一方向プリプレグを製造するための当業者に公知の方法は、複数本の繊維束を繊維束含浸のための樹脂で湿潤してはならないこと以外は、本発明に関して制限されない。好ましくは、その量の樹脂を、繊維束上に直接添加するか、または一度ローラー上に添加した後、樹脂がローラーから繊維束に移される。樹脂は、繊維束の片側から適用しても、または両側から適用してもよい。典型的には、樹脂を繊維束に適用した後、繊維束をローラーに通すか、またはカレンダー処理して、含浸を高めることができる。繊維束を含浸前に組み合わせてよく、またはまず含浸した後に含浸した繊維束を組み合わせてもよい。好ましくは、繊維束に樹脂を適用した後、繊維束を組み合わせ、ローラーに通して含浸させ、1本のトウプレグに一体化する。
【0038】
【0039】
【0040】