(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】正極活物質、正極および二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/48 20100101AFI20240214BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H01M4/48
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2021537356
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2020030072
(87)【国際公開番号】W WO2021025079
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2019144895
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】久保田 博信
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 一顕
(72)【発明者】
【氏名】林 剛司
(72)【発明者】
【氏名】笠嶋 貴
【審査官】村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-169249(JP,A)
【文献】特開2010-272477(JP,A)
【文献】特開2010-015895(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0122950(US,A1)
【文献】特表2012-531516(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110071293(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質芯材;および
該正極活物質芯材の表面に形成された被膜を有し、
前記被膜は、
金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つも含まない第1金属アルコキシド;および
金属原子-炭素原子結合を1分子中、2つ以上含む第2金属アルコキシド
を少なくとも含む反応物からなる有機無機ハイブリッド被膜である、電池用正極活物質の製造方法であって、
前記正極活物質芯材を、アルカリ性溶媒中、
前記第1金属アルコキシドおよび
前記第2金属アルコキシドとともに、撹拌することを含
み、
前記第1金属アルコキシドは以下の一般式(1)で表される化合物であり、
【化1】
(式(1)中、M
1
は、Si、Ti、AlまたはZrである;
xはM
1
の価数であって、3または4の整数である;
R
1
は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基または-C(R
2
)=CH-CO-R
3
(式中、R
2
は炭素原子数1~10のアルキル基であり、R
3
は炭素原子数1~30のアルキル基、炭素原子数1~30のアルキルオキシ基または炭素原子数1~30のアルケニルオキシ基である)である;R
1
のうち、隣接する2つのR
1
は、前記アルキル基のとき、互いに結合して、該2つのR
1
が結合する酸素原子および該酸素原子が結合するM
1
原子とともに、1つの環を形成してもよい。)
前記第2金属アルコキシドは、Si原子-炭素原子結合を1分子中、2つ以上有する化合物であって、かつ、以下の一般式(2A)、(2B)、(2C)、(2D)、(2E)もしくは(2F)で表される化合物、またはこれらの混合物であり、
【化2A】
(式(2A)中、R
211
およびR
212
は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基である;
R
31
は、炭素原子数1~20の2価の炭化水素基である)
【化2B】
(式(2B)中、R
211
、R
212
、R
213
およびR
214
は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基である;
R
32
は、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の2価の炭化水素基である;
R
33
は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の1価の炭化水素基である)
【化2C】
(式(2C)中、R
211
およびR
212
は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基である;
R
34
、R
35
、およびR
36
は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の2価の炭化水素基である)
【化2D】
(式(2D)中、R
211
およびR
212
は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基である)
【化2E】
(式(2E)中、R
212
およびR
213
は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基である;
R
32
は、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の2価の炭化水素基である;
R
33
は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の1価の炭化水素基である;
R
34
は、それぞれ独立して、炭素原子数8~30の1価の炭化水素基である)
【化2F】
(式(2F)中、R
212
、R
213
およびR
214
は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基である;
R
32
は、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の2価の炭化水素基である)
前記被膜は、その全重量に対して、前記第1金属アルコキシドを5重量%以上60重量%以下、および前記第2金属アルコキシドを1重量%以上80重量%以下で含む、正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記被膜は、
金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つ含む第3金属アルコキシド
をさらに含む反応物からなる有機無機ハイブリッド被膜である、請求項
1に記載の正極活物質
の製造方法。
【請求項3】
前記第3金属アルコキシドは以下の一般式(3)で表される化合物である、請求項
2に記載の正極活物質
の製造方法:
【化3】
(式(3)中、R
11は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基である;
R
12は、炭素原子数8~30の1価の炭化水素基である)。
【請求項4】
前記被膜は、その全重量に対して、前記第1金属アルコキシドを5重量%以上
60重量%以下、前記第2金属アルコキシドを1重量%以上
80重量%以下、および前記第3金属アルコキシドを5重量%以上90重量%以下で含む、請求項
2または
3に記載の正極活物質
の製造方法。
【請求項5】
前記被膜の含有量は、前記正極活物質の全重量に対して、0.010重量%以上2.000重量%以下である、請求項1~
4のいずれかに記載の正極活物質
の製造方法。
【請求項6】
前記正極活物質芯材は少なくともLiを含む、請求項1~
5のいずれかに記載の正極活物質
の製造方法。
【請求項7】
前記正極活物質芯材はリチウム遷移金属複合酸化物である、請求項1~
6のいずれかに記載の正極活物質
の製造方法。
【請求項8】
前記電池はリチウムイオン二次電池である、請求項1~
7のいずれかに記載の正極活物質
の製造方法。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれかに記載の正極活物質
の製造方法を含む
、正極
層およ
び正極集電
体を含
む正極
の製造方法。
【請求項10】
請求項
9に記載の正極
の製造方法を含む、
正極、負極および該正極と該負極との間に配置されたセパレータ、ならびに電解質が外装体に封入されてい
る二次電池
の製造方法。
【請求項11】
前記電解質は非水電解質である、請求項
10に記載の二次電池
の製造方法。
【請求項12】
前記正極および前記負極はリチウムイオンを吸蔵放出可能な電極である、請求項
10または
11に記載の二次電池
の製造方法。
【請求項13】
前記第1金属アルコキシドおよび前記第2金属アルコキシドとともに、金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つ含む第3金属アルコキシドを用いることを含む、請求項
1~8のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は正極活物質、正極および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の電子機器の電源として、二次電池が用いられている。二次電池は一般的に外装体(ケース)内に電極組立体(電極体)および電解質が収容された構造を有し、さらに二次電池の電気的接続を達成するための外部端子(または電極リード)を具備している。電極組立体は、正極と負極とがセパレータを介して配置された構造を有している。
【0003】
正極および負極はそれぞれ正極活物質を含む正極層および負極活物質を含む負極層を有している。二次電池においては、「正極層に含まれる正極活物質」および「負極層に含まれる負極活物質」に起因して電解質にイオンがもたらされ、かかるイオンが正極と負極との間で移動して電子の受け渡しが行われて充放電がなされる。近年においては、イオンとしてリチウムイオンを用いたリチウムイオン二次電池が、その電池容量の大きさから、特に注目されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池に用いられる正極は、正極活物質としてコバルト酸リチウムなどを用いて、次のように製造される。はじめに、正極活物質とバインダーとを分散媒に混合して正極層スラリーを調製する。次いで、正極層スラリーをアルミ箔などの正極集電体に塗布した後、乾燥することにより正極活物質の塗膜を形成する。そして、正極活物質の塗膜を圧延ロール等で圧延することにより正極層が形成される。最後に、このようにして形成された正極層を担持する正極集電体を所定形状に裁断することにより正極が得られる。正極の製造に際し、正極層塗膜の圧延は、電池容量の増大の観点から、正極活物質の充填性を向上させる等のために、行われる。
【0005】
一方、金属アルコキシドを用いて正極活物質を表面処理することにより、正極の諸特性を向上させる試みがなされている(例えば、特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-199101号公報
【文献】特開2012-169249号公報
【文献】特開2011-49161号公報
【文献】特開2013-191539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の発明者等は、従来技術における金属アルコキシドによる正極活物質の表面処理技術では、以下のように、サイクル特性に問題が生じることを見出した。従来技術において、正極活物質表面に形成される金属アルコキシドに基づく被膜は、十分な柔軟性を有さなかったり、かつ/または正極活物質との間に十分な密着性を有さなかったりした。このため、被膜は十分な強度を有さず、繰り返しの充放電により、比較的容易に剥がれ、サイクル特性が低下した。被膜の剥がれは、電解質(または電解液)の劣化を引き起こし、サイクル特性のさらなる低下をもたらした。
【0008】
本発明の発明者等はまた、正極の製造に際し、以下の問題が生じることも見出した。正極層における正極活物質の充填性のさらなる向上の観点から、圧力を上げて圧延を行うと、正極活物質の粒界に沿った割れに起因してレート特性が低下した。また、集電体に凹凸や破れが発生したり、かつ/または正極層の集電体からの剥離が発生したりした。このような問題は、サイクル特性のさらなる低下を引き起こす原因になった。
【0009】
そこで、本発明の発明者等は、金属アルコキシドを用いて正極活物質を表面処理することにより、正極活物質の充填性を向上させることを試みたところ、得られる正極において負荷特性等の電池特性が低下するという新たな問題が生じることを見い出した。詳しくは、正極活物質の充填性がより十分に向上しても、正極活物質表面のイオン伝導性(特にLiイオン伝導性)が低下するため、負荷特性等の電池特性が低下するという新たな問題が生じた。
【0010】
本発明は、金属アルコキシドに基づく被膜を表面に有していても、サイクル特性の低下をより十分に防止できる正極活物質を提供することを目的とする。以下、当該目的を解決する本発明を「本発明A」ということがある。
【0011】
本発明はまた、金属アルコキシドに基づく被膜を表面に有していても、サイクル特性の低下をより十分に防止できるだけでなく、充填性および負荷特性等の電池特性により十分に優れた正極活物質を提供することを目的とする。以下、当該目的を解決する本発明を「本発明B」ということがある。
【0012】
サイクル特性に関する課題は本発明によって解決される課題である。
充填性および電池特性(例えば負荷特性)に関する課題は、本発明が必ずしも解決しなければならない課題というわけではなく、解決されなくてもよい課題であって、解決されることが好ましい課題である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明Aは、
正極活物質芯材;および
該正極活物質芯材の表面に形成された被膜を有する、電池用正極活物質であって、
前記被膜は、
金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つも含まない第1金属アルコキシド;および
金属原子-炭素原子結合を1分子中、2つ以上含む第2金属アルコキシド
を少なくとも含む反応物からなる有機無機ハイブリッド被膜である、正極活物質に関する。
【0014】
本発明Bは、
正極活物質芯材;および
該正極活物質芯材の表面に形成された被膜を有する、電池用正極活物質であって、
前記被膜は、
金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つも含まない第1金属アルコキシド;
金属原子-炭素原子結合を1分子中、2つ以上含む第2金属アルコキシド;および
金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つ含む第3金属アルコキシド
を少なくとも含む反応物からなる有機無機ハイブリッド被膜である、正極活物質に関する。
【0015】
本明細書中、特記しない限り、「本発明」は本発明Aおよび本発明Bを包含する。本発明Aは本発明Bを包含する。
【発明の効果】
【0016】
本発明Aの正極活物質は、金属アルコキシドに基づく被膜を表面に有していても、サイクル特性の低下をより十分に防止できる正極を構成することができる。
本発明Bの正極活物質は、金属アルコキシドに基づく被膜を表面に有していても、サイクル特性の低下をより十分に防止できるだけでなく、充填性および負荷特性等の電池特性により十分に優れた正極を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明(特に本発明AおよびB)に係る正極活物質の模式的断面図である。
【
図2】本発明(特に本発明AおよびB)に係る正極活物質における有機無機ハイブリッド被膜と正極活物質芯材との界面の主たる結合状態を示す模式的概念図である。
【
図3】本発明(特に本発明AおよびB)に係る正極活物質における有機無機ハイブリッド被膜の主たる構造を示す模式的概念図である。
【
図4】本発明(特に本発明B)に係る正極活物質における有機無機ハイブリッド被膜の主たる表面状態を示す模式的概念図である。
【
図5】従来の正極活物質表面における被膜の主たる構造を示す模式的概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[正極活物質]
本発明の正極活物質10は、
図1に示すように、正極活物質芯材1および当該正極活物質芯材1の表面に形成された被膜2を有する。
図1は、本発明に係る正極活物質の模式的断面図である。
【0019】
正極活物質芯材は、正極と負極との間で移動して電子の受け渡しを担うイオンの吸蔵放出に資する物質であり、電池容量の増大の観点から、リチウムイオンの吸蔵放出に資する物質であることが好ましい。かかる観点でいえば、正極活物質芯材は例えばリチウム含有複合酸化物であることが好ましい。より具体的には、正極活物質芯材は、リチウムと、コバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄から成る群から選択される少なくとも1種の遷移金属とを含むリチウム遷移金属複合酸化物であることが好ましい。つまり、本発明の正極活物質においては、そのようなリチウム遷移金属複合酸化物が正極活物質芯材として好ましく含まれている。例えば、正極活物質芯材はコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、または、それらの遷移金属の一部を別の金属で置き換えたものであってよい。このような正極活物質芯材は、単独種として含まれてよいものの、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。より好適な態様では正極活物質に含まれる正極活物質芯材がコバルト酸リチウムとなっている。
【0020】
正極活物質芯材の平均一次粒径は特に限定されず、例えば、1μm以上、50μm以下、特に3μm以上、30μm以下であってもよい。
【0021】
本明細書中、平均一次粒径は、正極活物質芯材を光学顕微鏡もしくは電子顕微鏡で観察し、無作為に選んだ50個の粒子を測長して算出される平均値を用いている。顕微鏡画像において、各粒子の端部から端部に線を引き、最大長さとなる2点間の距離を粒径とする。
【0022】
被膜2は、有機無機ハイブリッド被膜であり、有機成分と無機成分との複合物から形成されている。
【0023】
本発明において、被膜2は、第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドをモノマー成分として少なくとも含む反応物から形成されている。このような本発明は本発明Aに対応する。詳しくは、本発明(特に本発明A)において、被膜2は、上記金属アルコキシドの各々から形成された複数の層が積層されたものではなく、上記金属アルコキシドの混合物の反応物からなる網の目構造(単層構造)を有している。本発明Aの被膜2は、適度に粗な網の目構造を有するため、より十分な柔軟性を有する。当該被膜2はさらに、正極活物質芯材1に対してより十分な密着性を有する。このため、被膜2はより十分な強度を有し、結果として、繰り返しの充放電によっても、被膜の剥がれがより十分に防止され、サイクル特性が向上するものと考えられる。被膜が第1金属アルコキシドまたは第2金属アルコキシドの少なくとも一方を含まない場合、被膜は、十分な柔軟性を有さなかったり、かつ/または正極活物質芯材に対して十分な密着性を有さなかったりする。このため、被膜は十分な強度を有さず、繰り返しの充放電により、比較的容易に剥がれ、サイクル特性が低下する。サイクル特性は、繰り返しの充放電によっても、放電容量の低下を防止し得る特性のことである。
【0024】
本発明においては、被膜2が第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドだけでなく、さらに第3金属アルコキシドをモノマー成分として少なくとも含む反応物から形成されていることにより、充填性および電池特性(例えば、負荷特性)の向上効果がさらに得られる。このような本発明は本発明Bに対応する。本発明(特に本発明B)において、詳しくは、被膜2は、第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシドおよび第3金属アルコキシドをモノマー成分として少なくとも含む反応物から形成されている。本発明Bにおいて、第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドはそれぞれ、本発明Aにおける第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドと同様である。詳しくは、本発明Bにおいて、被膜2は、上記金属アルコキシドの各々から形成された複数の層が積層されたものではなく、上記金属アルコキシドの混合物の反応物からなる網の目構造(単層構造)を有している。本発明Bにおいては、被膜が第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドを含むため、本発明Aと同様のサイクル特性の向上効果を奏する。本発明Bにおいては、被膜2は、さらに第3アルコキシドを含むため、適度に粗な網の目構造を有するだけでなく、より十分な滑り性が表面に付与されている。このため、本発明Bの正極活物質は、より十分に優れた充填性を有するとともに、電子の受け渡しを担うイオン(特にリチウムイオン)が当該被膜を透過する際のイオン伝導性が十分に向上し、負荷特性等の電池特性に十分に優れているものと考えられる。被膜が第3金属アルコキシドを含まない場合、正極活物質の充填性が低下し、体積密度が低下する。被膜が第2金属アルコキシドを含まない場合、被膜が有する網の目構造において網の目が比較的小さくなるため、イオン伝導性が低下し、負荷特性が低下する。被膜が第1金属アルコキシドを含まない場合、被膜が正極活物質芯材表面に十分に定着しないため、正極活物質の充填性が低下し、体積密度が低下する。
【0025】
被膜2は通常、例えば、0.1nm以上20nm以下(特に0.5nm以上15nm以下)の平均膜厚を有している。
【0026】
第1金属アルコキシドは、金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つも含まない金属アルコキシドであり、当該金属が有する全ての手がアルコキシ基(-OR
1)と結合した金属アルコキシドである。第1金属アルコキシドにおいて、金属原子-炭素原子結合は金属原子と炭素原子との直接的な共有結合のことである。第1金属アルコキシドにおいて、金属原子-炭素原子結合を構成する炭素原子は、1価の炭化水素基(例えば、アルキル基およびアルケニル基)を構成する炭素原子または2価の炭化水素基(例えば、アルキレン基)を構成する炭素原子のことである。第1金属アルコキシドはこのような金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つも有さない。このため、第1金属アルコキシドは、反応性が比較的高く、
図2に示すように、被膜2と正極活物質芯材1との界面において、主として、被膜2を正極活物質芯材1と比較的強固な結合により定着させる。
図2は、本発明(特に本発明AおよびB)に係る正極活物質における有機無機ハイブリッド被膜と正極活物質芯材との界面の主たる結合状態を示す模式的概念図である。
【0027】
第1金属アルコキシドは、詳しくは、以下の一般式(1)で表される化合物である。
【0028】
【0029】
式(1)中、M1は、金属原子であって、Si、Ti、AlまたはZrであり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくはSiまたはTiであり、より好ましくはSiである。
xはM1の価数である。M1がSi、TiまたはZrのとき、xは4である。M1がAlのとき、xは3である。
R1は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基または一般式:-C(R2)=CH-CO-R3で表される基(式中、R2およびR3は、後述の通りである)であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基である。R1としてのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。xの数に応じた複数のR1について、全てのR1は、それぞれ独立して、上記アルキル基から選択されてもよいし、または全てのR1は、上記アルキル基から選択された相互に同じ基であってもよい。
R2は、炭素原子数1~10のアルキル基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基である。R2としてのアルキル基としては、R1としてのアルキル基と同様のアルキル基が挙げられる。
R3は炭素原子数1~30のアルキル基、炭素原子数1~30のアルキルオキシ基または炭素原子数1~30のアルケニルオキシ基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~20(より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~5)のアルキル基、炭素原子数10~30(特に14~24)のアルキルオキシ基、または炭素原子数10~30(特に14~24)のアルケニルオキシ基である。R3としての好ましいアルキル基としては、R1としてのアルキル基と同様のアルキル基、ならびにウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、セチル基、ヘプタデシル基、ステアリル基、ノナデシル基、エイコシル基等が挙げられる。R3としてのアルキルオキシ基としては、例えば、式:-O-CpH2p+1(式中、pは1~30の整数である)で表される基が挙げられる。R3としてのアルケニルオキシ基としては、例えば、式:-O-CqH2q-1(式中、qは1~30の整数である)で表される基が挙げられる。
【0030】
式(1)中、複数のR1のうち、隣接する2つのR1は、アルキル基のとき、互いに結合して、当該2つのR1が結合する酸素原子および該酸素原子が結合するM1原子とともに、1つの環(例えば5~8員環、特に6員環)を形成してもよい。隣接する2つのR1が互いに結合してなる1つの環として、例えば、一般式(1X)で表される6員環が挙げられる。
【0031】
【0032】
式(1X)中、R4、R5およびR6は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~10のアルキル基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは水素原子または炭素原子数1~5のアルキル基である。R4、R5およびR6の合計炭素原子数は通常、0~12であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは2~8である。式(1X)中、R4、R5およびR6としてのアルキル基としては、R1としてのアルキル基と同様のアルキル基が挙げられる。
【0033】
第1金属アルコキシドとして、例えば、以下の一般式(1A)、(1B)、(1B')、(1C)および(1D)で表される化合物が挙げられる。第1金属アルコキシドは、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、一般式(1A)、(1B)、(1C)または(1D)で表される化合物またはそれらの混合物であること好ましく、一般式(1A)または(1B)で表される化合物またはそれらの混合物であることがより好ましく、一般式(1A)で表される化合物またはそれらの混合物であることがさらに好ましい。
【0034】
【0035】
式(1A)中、R1は、それぞれ独立して、式(1)におけるR1と同様のR1である。R1は、それぞれ独立して、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~10、より好ましくは1~5のアルキル基である。
【0036】
このような一般式で表される化合物(1A)の具体例を以下の表に示す。
【表1A】
【0037】
【0038】
式(1B)中、R1は、それぞれ独立して、式(1)におけるR1と同様のR1である。R1は、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、それぞれ独立して、好ましくは炭素原子数1~10のアルキル基または前記した一般式:-C(R2)=CH-CO-R3で表される基(式中、R2およびR3はそれぞれ、一般式(1)で説明したR2およびR3と同様である)であり、より好ましくは炭素原子数1~10(特に1~5)のアルキル基である。
式(1B)において、R2およびR3はそれぞれ、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、以下の基であることが好ましい。R2は、炭素原子数1~10のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基である。R2としてのアルキル基としては、R1としてのアルキル基と同様のアルキル基が挙げられる。R3は炭素原子数1~30のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1~20(より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~5)のアルキル基である。R3としての好ましいアルキル基としては、R1としてのアルキル基と同様のアルキル基、ならびにウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、セチル基、ヘプタデシル基、ステアリル基、ノナデシル基、エイコシル基等が挙げられる。
【0039】
このような一般式で表される化合物(1B)の具体例を以下の表に示す。
【表1B1】
【0040】
【0041】
式(1B’)中、Ra1、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5およびRa6は、それぞれ独立して、水素原子、または炭素原子数1~10のアルキル基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基である。Ra1、Ra2、Ra3、Ra4、Ra5およびRa6としてのアルキル基は、R1としてのアルキル基と同様である。
【0042】
このような一般式で表される化合物(1B’)の具体例を以下の表に示す。
【表1B2】
【0043】
【0044】
式(1C)中、R1は、それぞれ独立して、式(1)におけるR1と同様のR1である。R1は、正極活物質サイクル特性、の充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、それぞれ独立して、好ましくは炭素原子数1~10のアルキル基または前記した一般式:-C(R2)=CH-CO-R3で表される基(式中、R2およびR3はそれぞれ、一般式(1)で説明したR2およびR3と同様である)であり、より好ましくは炭素原子数1~10(特に1~5)のアルキル基である。
式(1C)において、R2およびR3はそれぞれ、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、以下の基であることが好ましい。R2は、炭素原子数1~10のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基である。R2としてのアルキル基としては、R1としてのアルキル基と同様のアルキル基が挙げられる。R3は炭素原子数1~30のアルキルオキシ基または炭素原子数1~30のアルケニルオキシ基であり、好ましくは炭素原子数10~30(特に14~24)のアルキルオキシ基、または炭素原子数10~30(特に14~24)のアルケニルオキシ基である。R3としてのアルキルオキシ基としては、例えば、式:-O-CpH2p+1(式中、pは1~30の整数である)で表される基が挙げられる。R3としてのアルケニルオキシ基としては、例えば、式:-O-CqH2q-1(式中、qは1~30の整数である)で表される基が挙げられる。
【0045】
このような一般式で表される化合物(1C)の具体例を以下の表に示す。
【0046】
【0047】
【0048】
式(1D)中、R1は、それぞれ独立して、式(1)におけるR1と同様のR1である。R1は、それぞれ独立して、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~10、より好ましくは1~5のアルキル基である。
【0049】
このような一般式で表される化合物(1D)の具体例を以下の表に示す。
【0050】
【0051】
一般式(1)で表される化合物(1)は、市販品として入手することもできるし、または公知の方法により製造することもできる。
例えば、化合物(1A)は、市販品であるオルトケイ酸テトラエチル(東京化成工業社製)として入手することができる。
また例えば、化合物(1B)は、市販品であるオルトチタン酸テトラブチル(東京化成工業社製)、T-50(日本曹達社製)として入手することができる。
また例えば、化合物(1B’)は、市販品であるTOG(日本曹達社製)として入手することができる。
また例えば、化合物(1C)は、市販品であるアルミニウムトリイソプロポキシド(関東化学社製)として入手することができる。
また例えば、化合物(1D)は、市販品であるジルコニウム(IV)テトラブトキシド(商品名TBZR、日本曹達社製)、ZR-181(日本曹達社製)として入手することができる。
【0052】
被膜2(すなわち当該被膜を構成する反応物)における第1金属アルコキシドの含有量は通常、その全重量(例えば第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシドおよび第3金属アルコキシドの全重量)に対して、5重量%以上85重量%以下であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは5重量%以上70重量%以下であり、より好ましくは5重量%以上60重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以上55重量%以下である。被膜は2種以上の第1金属アルコキシドを含んでもよく、その場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。被膜2における第1金属アルコキシドの含有量は、第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシドおよび第3金属アルコキシドの総配合量に対する第1金属アルコキシドの配合量の割合であってもよい。
【0053】
第2金属アルコキシドは、金属原子-炭素原子結合を1分子中、2つ以上(例えば2つ以上20以下、特に2つ以上12以下含む金属アルコキシドである。第2金属アルコキシドにおいて、2つ以上の金属原子-炭素原子結合を構成する炭素原子は、1価の炭化水素基(例えば、アルキル基およびアルケニル基)を構成する炭素原子および/または2価の炭化水素基(例えば、アルキレン基)を構成する炭素原子である。第2金属アルコキシドにおいて、2つ以上の全ての金属原子-炭素原子結合を構成する炭素原子は、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは2価の炭化水素基(例えば、アルキレン基)を構成する炭素原子である。第2金属アルコキシドの金属原子はケイ素である。第2金属アルコキシドはこのような金属原子-炭素原子結合を1分子中、2つ以上含む。このため、第2金属アルコキシドは、密な網の目構造の形成を防止し、被膜2を柔軟性を有する適度に粗な網の目構造にて形成する。詳しくは、例えば、第2金属アルコキシドにおいて、金属原子-炭素原子結合を構成する炭素原子が2価の炭化水素基(例えば、アルキレン基)を構成する炭素原子である場合、被膜2の「柔軟性」および「適度な粗」は、
図3に示すように、第2金属アルコキシドが有する2価の炭化水素基30に基づくものと考えられる。また例えば、第2金属アルコキシドにおいて、金属原子-炭素原子結合を構成する炭素原子が1価の炭化水素基(例えば、アルキル基およびアルケニル基)を構成する炭素原子である場合、当該第2金属アルコキシドは金属原子-酸素原子骨格(例えばポリシロキサン骨格)末端の形成を促進するため、被膜2の「適度な粗」は第2金属アルコキシドが有する1価の炭化水素基に基づくものと考えられる。これらの結果、本発明の正極活物質は、電子の受け渡しを担うイオン(特にリチウムイオン)が当該被膜を透過する際のイオン伝導性が十分に向上するものと考えられる。被膜が第2金属アルコキシドを含まない場合、例えば
図5に示すように、被膜は、比較的密な網の目構造となり、サイクル特性およびイオン伝導性が低下する。
図3は、本発明(特に本発明AおよびB)に係る正極活物質における有機無機ハイブリッド被膜の主たる構造を示す模式的概念図の一例である。
図3は、特に、第2金属アルコキシドとして1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(BTESE)を用いたときの、有機無機ハイブリッド被膜の主たる構造を示す模式的概念図である。
図5は、従来の正極活物質表面における被膜の主たる構造を示す模式的概念図である。
【0054】
第2金属アルコキシドにおける金属原子-炭素原子結合を構成する炭素原子が2価の炭化水素基を構成する炭素原子である場合において、第2金属アルコキシドは、1分子中、以下の一般式(2)で表されるトリアルコキシシリル基を2つ以上有する化合物である。
【0055】
【0056】
式(2)中、R21は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。このようなアルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。複数のR21について、全てのR21は、それぞれ独立して、上記アルキル基から選択されてもよいし、または全てのR21は、上記アルキル基から選択された相互に同じ基であってもよい。
【0057】
第2金属アルコキシドが有するトリアルコキシシリル基は、それぞれ独立して、上記一般式(2)のトリアルコキシシリル基から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
【0058】
このような一般式(2)で表されるトリアルコキシシリル基の具体例を以下の表に示す。
【0059】
【0060】
第2金属アルコキシドにおける2つ以上の全ての金属原子-炭素原子結合を構成する炭素原子が2価の炭化水素基を構成する炭素原子である場合において、第2金属アルコキシドは、例えば、以下の一般式(2A)、(2B)、(2C)、(2E)もしくは(2F)で表される化合物またはこれらの混合物であってもよい。これらのうち、第2金属アルコキシドは、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは一般式(2A)、(2B)もしくは(2C)で表される化合物またはこれらの混合物、より好ましくは一般式(2A)もしくは(2B)で表される化合物またはこれらの混合物、さらに好ましくは、一般式(2A)で表される化合物である。
【0061】
第2金属アルコキシドにおける2つ以上の全ての金属原子-炭素原子結合を構成する炭素原子が1価の炭化水素基を構成する炭素原子である場合において、第2金属アルコキシドは、例えば、以下の一般式(2D)で表される化合物、またはこれらの混合物であってもよい。
【0062】
【0063】
式(2A)中、R211およびR212は、それぞれ独立して、式(2)におけるR21と同様の基である。詳しくは、3つのR211および3つのR212は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。3つのR211および3つのR212は、それぞれ独立して、上記一般式(2)のR21から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
R31は、炭素原子数1~20の2価の炭化水素基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~10の2価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数2~8の2価の炭化水素基である。R31としての2価の炭化水素基は、2価飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキレン基)であってもよいし、または2価不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニレン基)であってもよい。R31としての2価の炭化水素基は、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは2価飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)である。R31としての2価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)として、例えば、-(CH2)p-(式中、pは1~10、より好ましくは2~8の整数である)で表される基等が挙げられる。
【0064】
このような一般式で表される化合物(2A)の具体例を以下の表に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
式(2B)中、R211、R212、R213およびR214は、式(2)におけるR21と同様の基である。詳しくは、3つのR211, 3つのR212, 3つのR213および3つのR214は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。3つのR211, 3つのR212, 3つ のR213および3つのR214は、それぞれ独立して、上記一般式(2)のR21から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
R32は、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の2価の炭化水素基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~10の2価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数6~10の2価の炭化水素基である。R32としての2価の炭化水素基は、2価飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキレン基)であってもよいし、または2価不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニレン基)であってもよい。R32としての2価の炭化水素基は、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは2価飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)である。R32としての2価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)として、例えば、-(CH2)q-(式中、qは1~10、より好ましくは6~10の整数である)で表される基等が挙げられる。全てのR32は、それぞれ独立して、当該R32から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
R33は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の1価の炭化水素基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~5の1価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数1~3の1価の炭化水素基である。R33としての1価の炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキル基)であってもよいし、または不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニル基)であってもよい。R33としての1価の炭化水素基は、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキル基)である。R33としての1価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキル基)として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。全てのR33は、それぞれ独立して、当該R33から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
【0068】
このような一般式で表される化合物(2B)の具体例を以下の表に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
式(2C)中、R211およびR212は、式(2)におけるR21と同様の基である。詳しくは、3つのR211,および3つのR212は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。3つのR211および3つのR212は、それぞれ独立して、上記一般式(2)のR21から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
R34、R35、およびR36は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の2価の炭化水素基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~5の2価の炭化水素基である。R34、R35、およびR36としての2価の炭化水素基は、2価飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキレン基)であってもよいし、または2価不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニレン基)であってもよい。R34、R35、およびR36としての2価の炭化水素基は、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは2価飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)である。R34、R35、およびR36としての2価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)として、例えば、-(CH2)r-(式中、rは1~10、より好ましくは1~5の整数である)で表される基等が挙げられる。全てのR34、R35、およびR36は、それぞれ独立して、上記2価の炭化水素基から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。R34、R35、およびR36の総炭素原子数は、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは3~20、より好ましくは6~10である。
【0072】
このような一般式で表される化合物(2C)の具体例を以下の表に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
式(2D)中、R211およびR212は、それぞれ独立して、式(2)におけるR21と同様の基である。詳しくは、2つのR211および2つのR212は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。2つのR211および2つのR212は、それぞれ独立して、上記一般式(2)のR21から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
【0076】
このような一般式で表される化合物(2D)の具体例を以下の表に示す。
【0077】
【0078】
【0079】
式(2E)中、R212およびR213は、式(2)におけるR21と同様の基である。詳しくは、3つのR212および 3つのR213は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。3つのR212および3つのR213は、それぞれ独立して、上記一般式(2)のR21から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
R32は、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の2価の炭化水素基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~10の2価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数4~8の2価の炭化水素基である。R32としての2価の炭化水素基は、2価飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキレン基)であってもよいし、または2価不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニレン基)であってもよい。R32としての2価の炭化水素基は、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは2価飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)である。R32としての2価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)として、例えば、-(CH2)q-(式中、qは1~20、好ましくは1~10、より好ましくは4~8の整数である)で表される基等が挙げられる。全てのR32は、それぞれ独立して、当該R32から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
R33は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の1価の炭化水素基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~5の1価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数1~3の1価の炭化水素基である。R33としての1価の炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキル基)であってもよいし、または不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニル基)であってもよい。R33としての1価の炭化水素基は、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキル基)である。R33としての1価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキル基)として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。全てのR33は、それぞれ独立して、当該R33から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
R34は、それぞれ独立して、炭素原子数1~30の1価の炭化水素基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~10の1価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数1~5の1価の炭化水素基である。R34としての1価の炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキル基)であってもよいし、または不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニル基)であってもよい。R34としての1価の炭化水素基は、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキル基)である。R34としての1価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキル基)として、例えば、メチル基、エチル基、-プロピル、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等が挙げられる。全てのR34は、それぞれ独立して、当該R34から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
【0080】
このような一般式で表される化合物(2E)の具体例を以下の表に示す。
【0081】
【0082】
【0083】
式(2F)中、R212、R213およびR214は、それぞれ独立して、式(2)におけるR21と同様の基である。詳しくは、3つのR212、3つのR213および3つのR214は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。3つのR212、3つのR213および3つのR214は、それぞれ独立して、上記一般式(2)のR21から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
R32は、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の2価の炭化水素基であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~10の2価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数1~5の2価の炭化水素基である。R32としての2価の炭化水素基は、2価飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキレン基)であってもよいし、または2価不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニレン基)であってもよい。R32としての2価の炭化水素基は、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは2価飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)である。R32としての2価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)として、例えば、-(CH2)q-(式中、qは1~10、より好ましくは1~5の整数である)で表される基等が挙げられる。全てのR32は、それぞれ独立して、当該R32から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
【0084】
このような一般式で表される化合物(2F)の具体例を以下の表に示す。
【0085】
【0086】
一般式(2A)で表される化合物(2A)、一般式(2B)で表される化合物(2B)、一般式(2C)で表される化合物(2C)、一般式(2D)で表される化合物(2D)、一般式(2E)で表される化合物(2E)および一般式(2F)で表される化合物(2F)は、市販品として入手することもできるし、または公知の方法により製造することもできる。
例えば、化合物(2A)は、市販品である1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン(東京化成工業社製)、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン(東京化成工業社製)として入手することができる。
また例えば、化合物(2C)は、市販品であるX―12―5263HP(信越化学工業社製)として入手することができる。
また例えば、化合物(2D)は、市販品であるジメチルジメトキシシラン(東京化成社製)として入手することができる。
また例えば、化合物(2F)は、市販品であるトリス[3―(トリメトキシシリル)―プロピル]イソシアヌレート(東京化成社製)として入手することができる。
【0087】
第2金属アルコキシドは、例えば、一般式(2A)、(2B)、(2C)、(2D)、(2E)もしくは(2F)で表される化合物、またはこれらの混合物であってもよい。第2金属アルコキシドは、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは一般式(2A)、(2B)、(2C)もしくは(2D)で表される化合物、またはこれらの混合物であり、より好ましくは一般式(2A)もしくは(2D)で表される化合物、またはこれらの混合物である。
【0088】
被膜2(すなわち当該被膜を構成する反応物)における第2金属アルコキシドの含有量は通常、その全重量(例えば第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシドおよび第3金属アルコキシドの全重量)に対して、1重量%以上85重量%以下であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは1重量%以上80重量%以下であり、より好ましくは1重量%以上60重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以上50重量%以下であり、特に好ましくは7重量%以上36重量%以下である。被膜は2種以上の第2金属アルコキシドを含んでもよく、その場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。被膜2における第2金属アルコキシドの含有量は、第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシドおよび第3金属アルコキシドの全配重量に対する第2金属アルコキシドの配合量の割合であってもよい。
【0089】
第3金属アルコキシドは、金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つのみ含む金属アルコキシドであり、例えば、当該金属が有する手のうち、1つの手は1価の炭化水素基(-R
12)と結合し、かつ残りの全ての手はアルコキシ基(-OR
11)と結合したアルコキシド化合物である。第3金属アルコキシドにおいて、金属原子-炭素原子結合は金属原子と炭素原子との直接的な共有結合のことである。第3金属アルコキシドにおいて、金属原子-炭素原子結合を構成する炭素原子は、1価の炭化水素基(例えば、アルキル基およびアルケニル基)を構成する炭素原子である。第3金属アルコキシドはこのような金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つのみ含む。第3金属アルコキシドの金属原子はケイ素である。第3金属アルコキシドは、被膜2の表面自由エネルギーを低減させ、被膜2の表面に、より十分な滑り性を付与する。このような十分な滑り性は、
図4に示すように、第3金属アルコキシドが有する1価の炭化水素基20に基づくものと考えられる。このため、本発明の正極活物質は、より十分に優れた充填性を有するとともに、電子の受け渡しを担うイオン(特にリチウムイオン)が当該被膜を透過する際のイオン伝導性が十分に向上するものと考えられる。
図4は、本発明に係る正極活物質における有機無機ハイブリッド被膜の主たる表面状態を示す模式的概念図である。
【0090】
第3金属アルコキシドは、詳しくは、以下の一般式(3)で表される化合物である。
【0091】
【0092】
式(3)中、R11は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基であり、正極活物質の充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。このようなアルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。全てのR11は、それぞれ独立して、上記アルキル基から選択されてもよいし、または全てのR11は、上記アルキル基から選択された相互に同じ基であってもよい。
R12は、炭素原子数8~30の1価の炭化水素基であり、正極活物質の充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは炭素原子数12~24の1価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数14~20の1価の炭化水素基である。R12としての1価の炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキル基)であってもよいし、または不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニル基)であってもよい。R12としての1価の炭化水素基は、正極活物質の充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキル基)である。R12としての1価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキル基)として、例えば、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等が挙げられる。
【0093】
このような一般式で表される化合物(3)の具体例を以下の表に示す。
【0094】
【0095】
一般式(3)で表される化合物(3)は、市販品として入手することもできるし、または公知の方法により製造することもできる。
例えば、化合物(3)は、市販品であるオクタデシルトリメトキシシラン(東京化成工業社製)、ヘキサデシルトリメトキシシラン(東京化成工業社製)、デシルトリメトキシシラン(東京化成工業社製)として入手することができる。
【0096】
被膜2(すなわち当該被膜を構成する反応物)における第3金属アルコキシドの含有量は通常、その全重量(例えば第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシドおよび第3金属アルコキシドの全重量)に対して、0重量%以上90重量%以下であり、正極活物質の充填性および負荷特性の向上の観点から、好ましくは5重量%以上90重量%以下である。第3金属アルコキシドの含有量は、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、その全重量に対して、好ましくは20重量%以上90重量%以下であり、より好ましくは25重量%以上90重量%以下であり、さらに好ましくは28重量%以上90重量%以下、特に好ましくは28重量%以上80重量%以下である。被膜は2種以上の第3金属アルコキシドを含んでもよく、その場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。第3金属アルコキシドの含有量は0重量%であってもよい。このことは、本発明(特に本発明A)が第3金属アルコキシドを含んでもよいし、または含まなくてもよいことを意味する。被膜2における第3金属アルコキシドの含有量は、第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシドおよび第3金属アルコキシドの総配合量に対する第3金属アルコキシドの配合量の割合であってもよい。
【0097】
正極活物質10における被膜2の含有量は通常、正極活物質10の全重量(すなわち正極活物質芯材および被膜の合計量)に対して、0.010重量%以上2.000重量%以下であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは0.020重量%以上1.500重量%以下、より好ましくは0.080重量%以上1.000重量%以下、さらに好ましくは0.050重量%以上0.400重量%以下、特に好ましくは0.070重量%以上0.400重量%以下である。なお、含有量の算出にあたり、金属アルコキシドに含まれるアルコキシドが全量脱水縮合反応し、それ以外の構造に変化がない反応物が得られるものとして計算した。例えば、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン1gに含まれるアルコキシドが全量脱水縮合反応して得られる反応物の重量は、0.49gとなる。被膜2の含有量は被膜2を構成する第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシドおよび第3金属アルコキシドの総配合量の、正極活物質の全重量(すなわち、正極活物質芯材重量と当該総配合量との合計量)に対する割合であってもよい。
【0098】
本発明の正極活物質は、正極活物質芯材を、アルカリ性溶媒中、所定の金属アルコキシドとともに、撹拌することを含む方法により、製造することができる。所定の金属アルコキシドとは、本発明Aにおいては少なくとも第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドを含む金属アルコキシド混合物のことであり、本発明Bにおいては少なくとも第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシドおよび第3金属アルコキシドを含む金属アルコキシド混合物のことである。撹拌後、詳しくは、正極活物質芯材を濾別および洗浄し、加熱乾燥することにより、正極活物質芯材の表面に、網の目構造の被膜が形成されてなる正極活物質を得ることができる。なお、被覆する方法は活物質芯材に被覆できれば前記方法に限ったものでなく、スプレーや乾式混合などの塗布法によりなされてもよい。
【0099】
第1金属アルコキシド、第3金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドの配合比(すなわち使用量比)は通常、そのまま、被膜における各金属アルコキシドの含有量比となるため、所望の含有量比に応じた配合比とすればよい。
【0100】
第1金属アルコキシドの配合量は通常、正極活物質芯材100重量部に対して、0.001重量部以上8重量部以下であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは0.005重量部以上5重量部以下、より好ましくは0.015重量部以上0.80重量部以下であり、さらに好ましくは0.015重量部以上0.50重量部以下である。
【0101】
第2金属アルコキシドの配合量は通常、正極活物質芯材100重量部に対して、0.001重量部以上5重量部以下であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは0.005重量部以上3重量部以下、より好ましくは0.015重量部以上1.00重量部以下であり、さらに好ましくは0.015重量部以上0.50重量部以下である。
【0102】
第3金属アルコキシドの配合量は通常、正極活物質芯材100重量部に対して、0重量部以上10重量部以下であり、正極活物質の充填性および負荷特性の向上の観点から、好ましくは0.001重量部以上10重量部以下であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは0.01重量部以上10重量部以下、より好ましくは0.015重量部以上5重量部以下、さらに好ましくは0.05重量部以上1.00重量部以下であり、さらに好ましくは0.05重量部以上0.50重量部以下である。第3金属アルコキシドの配合量は0重量部であってもよい。このことは、本発明(特に本発明A)が第3金属アルコキシドを含んでもよいし、または含まなくてもよいことを意味する。
【0103】
第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシドおよび第3金属アルコキシドの合計配合量は、正極活物質芯材の表面に被膜が形成される限り特に限定されず、例えば、正極活物質芯材100重量部に対して、0.02重量部以上15重量部以下であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは0.02重量部以上5重量部以下、より好ましくは0.05重量部以上2重量部以下である。当該合計配合量を調整することにより、正極活物質10における被膜2のコート量を制御することができる。当該合計配合量が多いほど、コート量は多くなる。
【0104】
溶媒としては、第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシドおよび第3金属アルコキシド等の各金属アルコキシドの反応を阻害しなければ特に限定されず、例えば、モノアルコール類、エーテル類、グリコール類またはグリコールエーテル類が好ましい。好ましい態様において、溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソ-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール等のモノアルコール類;2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール等のエーテル類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、またはジエチレングリコールモノヘキシルエーテル等のグリコールエーテル類であり得る。好ましい溶媒はモノアルコール類である。また、水を必要に応じて含んでいても良い。上記溶媒は、1種のみを用いても、または2種以上を用いてもよい。溶媒は種々の添加剤、例えば触媒、pH調整剤、安定化剤、増粘剤等を含んでいてもよい。上記添加剤としては、例えば、ホウ酸化合物等の酸化合物、アンモニア化合物等の塩基化合物が挙げられる。溶媒の配合量は、正極活物質芯材の表面に各金属アルコキシドを均一に存在させ得る限り特に限定されず、例えば、正極活物質芯材100重量部に対して、20重量部以上200重量部以下、特に30重量部以上150重量部以下であってよい。
【0105】
撹拌時の混合物の温度は、正極活物質芯材の表面に各金属アルコキシドが均一に存在し得る限り特に限定されず、例えば、10℃以上70℃以下であり、好ましくは15℃以上35℃以下である。
撹拌時間もまた、正極活物質芯材の表面に各金属アルコキシドが均一に存在し得る限り特に限定されず、例えば、10分以上5時間以下であり、好ましくは30分以上3時間以下である。
【0106】
洗浄は、残存する触媒除去のために行う。例えば、濾過による残渣を洗浄溶媒と接触させることにより行う。洗浄溶媒は特に限定されず、例えば、アセトンであってもよい。
【0107】
加熱乾燥により、洗浄で使用した溶媒が除去される。加熱温度は通常、15℃以上(特に15℃以上250℃以下)であり、溶媒除去の観点から、好ましくは15℃以上200℃以下である。加熱時間は通常、30分以上(特に30分以上24時間以下)であり、溶媒除去の観点から、好ましくは60分以上12時間以下である。
【0108】
[正極]
本発明の正極は、少なくとも正極層および正極集電体(箔)から構成されており、正極層は上記した被覆型正極活物質を含む。正極層の上記した被覆型正極活物質は例えば粒状体から成るところ、粒子同士の十分な接触と形状保持のためにバインダーが正極層に含まれていることが好ましい。正極層は、更には、電池反応を推進する電子の伝達を円滑にするために導電助剤を含むことが好ましい。このように、複数の成分が含有されて成る形態ゆえ、正極層は“正極合材層”などと称すこともできる。
【0109】
正極層における正極活物質の含有量は通常、正極層全重量に対して、50重量%以上95重量%以下であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは70重量%以上95重量%以下、より好ましくは85重量%以上98重量%以下、さらに好ましくは85重量%以上95重量%以下である。
【0110】
正極層は、上記した被覆型正極活物質とともに、従来の正極活物質を含んでもよい。正極層が上記した被覆型正極活物質とともに従来の正極活物質を含む場合、上記した正極活物質の含有量は、全正極活物質の含有量である。この場合、被覆型正極活物質は全正極活物質に対して通常は、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上で含まれる。従来の正極活物質は、例えば、リチウムイオンの吸蔵放出に資する物質である。かかる観点でいえば、従来の正極活物質は例えばリチウム含有複合酸化物であることが好ましい。より具体的には、従来の正極活物質は、リチウムと、コバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄から成る群から選択される少なくとも1種の遷移金属とを含むリチウム遷移金属複合酸化物であることが好ましい。例えば、従来の正極活物質はコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、または、それらの遷移金属の一部を別の金属で置き換えたものであってよい。
【0111】
正極層に含まれる得るバインダーとしては、特に制限されるわけではないが、ポリフッ化ビリニデン、ビリニデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビリニデンフルオライド-テトラフルオロチレン共重合体およびポリテトラフルオロチレンなどから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。より好適な態様では正極層のバインダーはポリフッ化ビニリデンである。
【0112】
正極層におけるバインダーの含有量は通常、正極層全重量に対して、1重量%以上20重量%以下であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは1重量%以上10重量%以下、より好ましくは1重量%以上8重量%以下、さらに好ましくは2重量%以上8重量%以下である。
【0113】
正極層に含まれる得る導電助剤としては、特に制限されるわけではないが、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックおよびアセチレンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブおよび気相成長炭素繊維等の炭素繊維、銅、ニッケル、アルミニウムおよび銀等の金属粉末、ならびに、ポリフェニレン誘導体などから選択される少なくとも1種を挙げることができる。より好適な態様では正極層の導電助剤はカーボンブラック(特にケッチェンブラック)である。
【0114】
さらに好適な態様では、正極層のバインダーおよび導電助剤が、ポリフッ化ビニリデンとカーボンブラック(特にケッチェンブラック)との組合せとなっている。
【0115】
正極層における導電助剤の含有量は通常、正極層全重量に対して、1重量%以上20重量%以下であり、正極活物質のサイクル特性、充填性および負荷特性のさらなる向上の観点から、好ましくは1重量%以上10重量%以下、より好ましくは1重量%以上8重量%以下、さらに好ましくは2重量%以上8重量%以下である。
【0116】
正極層の厚みは特に限定されず、例えば、1μm以上300μm以下、特に5μm以上200μm以下であってよい。正極層の厚みは電池(特に二次電池)内部での厚みであって、任意の50箇所における測定値の平均値を用いている。
【0117】
正極集電体は電池反応に起因して活物質で発生した電子を集めたり供給したりするのに資する部材である。このような集電体は、シート状の金属部材であってよく、多孔または穿孔の形態を有していてよい。例えば、集電体は金属箔、パンチングメタル、網またはエキスパンドメタル等であってよい。正極に用いられる正極集電体は、アルミニウム、ステンレスおよびニッケル等から成る群から選択される少なくとも1種を含んだ金属箔から成るものが好ましく、例えばアルミニウム箔であってよい。
【0118】
正極においては、正極集電体の少なくとも片面に正極層が設けられていればよい。例えば、正極は、正極集電体の両面に正極層が設けられていてもよいし、または正極集電体の片面に正極層が設けられていてもよい。電池(特に二次電池)のさらなる高容量化の観点から好ましい正極は正極集電体の両面に正極層が設けられている。
【0119】
正極は、例えば、正極活物質とバインダーとを分散媒に混合して調製された正極層スラリーを正極集電体に塗布し、乾燥した後、乾燥塗膜をロールプレス機等で圧延することにより得ることができる。
【0120】
本発明において圧延は比較的低圧力で行っても、正極層において正極活物質は比較的高い体積密度で充填され得る。圧延時の線圧は例えば0.1t/cm以上1.0t/cm以下であってもよく、正極活物質のサイクル特性、充填性のさらなる向上ならびに正極活物質の割れ、正極集電体における凹凸や破れの発生および正極層の集電体からの剥離の防止の観点から、好ましくは0.5t/cm以上1.0t/cm以下である。ロール温度は通常、100℃以上200℃以下であり、正極活物質のサイクル特性、充填性のさらなる向上ならびに正極活物質の割れ、正極集電体における凹凸や破れの発生および正極層の集電体からの剥離の防止の観点から、好ましくは110℃以上150℃以下である。プレス速度は通常、1m/分以上20m/分以下であり、正極活物質のサイクル特性、充填性のさらなる向上ならびに正極活物質の割れ、正極集電体における凹凸や破れの発生および正極層の集電体からの剥離の防止の観点から、好ましくは5m/分以上15m/分以下である。
【0121】
[電池]
本発明は二次電池および一次電池等の電池を提供する。本明細書中、「二次電池」という用語は充電・放電の繰り返しが可能な電池のことを指している。「二次電池」は、その名称に過度に拘泥されるものではなく、例えば、「蓄電デバイス」などの「電気化学デバイス」も包含し得る。「一次電池」という用語は放電のみが可能な電池のことを指している。本発明の電池は二次電池であることが好ましい。
【0122】
本発明の二次電池は、上記した正極を含む。本発明の二次電池は通常、上記した正極の他、負極、正極と負極との間に配置されたセパレータ、ならびに電解質が外装体に封入されている。
【0123】
本発明の二次電池においては、正極、負極、および正極と負極との間に配置されたセパレータは電極組立体を構成する。本発明の二次電池においては、上記した正極(特に上記した正極活物質)が含まれる限り、電極組立体はいかなる構造を有していてもよい。電極組立体がいかなる構造を有していても、正極活物質による充填性および負荷特性の向上効果は得られるためである。電極組立体が有し得る構造として、例えば、積層構造(平面積層構造)、巻回構造(ジェリーロール構造)、またはスタックアンドフォールディング構造が挙げられる。詳しくは、例えば、電極組立体は、1つ以上の正極と1つ以上の負極とがセパレータを介して平面状に積層されている平面積層構造を有していてもよい。また例えば、電極組立体は、正極、負極および正極と負極との間に配置されたセパレータがロール状に巻回されている巻回構造(ジェリーロール型)を有していてもよい。また例えば、電極組立体は、正極、セパレータ、負極を長いフィルム上に積層してから折りたたんだ、いわゆるスタックアンドフォールディング構造を有していてもよい。
【0124】
負極は少なくとも負極層および負極集電体(箔)から構成されており、負極集電体の少なくとも片面に負極層が設けられていればよい。例えば、負極は、負極集電体の両面に負極層が設けられていてもよいし、または負極集電体の片面に負極層が設けられていてもよい。二次電池のさらなる高容量化の観点から好ましい負極は負極集電体の両面に負極層が設けられている。
【0125】
負極層には負極活物質が含まれている。上記した正極層に含まれる正極活物質および負極層に含まれる負極活物質は、二次電池において電子の受け渡しに直接関与する物質であり、充放電、すなわち電池反応を担う正負極の主物質である。より具体的には、「正極層に含まれる正極活物質」および「負極層に含まれる負極活物質」に起因して電解質にイオンがもたらされ、かかるイオンが正極と負極との間で移動して電子の受け渡しが行われて充放電がなされる。正極および負極はリチウムイオンを吸蔵放出可能な電極であることが好ましく、すなわち正極層および負極層はリチウムイオンを吸蔵放出可能な層であることが好ましい。つまり、電解質を介してリチウムイオンが正極と負極との間で移動して電池の充放電が行われる二次電池が好ましい。充放電にリチウムイオンが関与する場合、本実施態様に係る二次電池は、いわゆる“リチウムイオン電池”に相当する。
【0126】
負極層の負極活物質は例えば粒状体から成るところ、粒子同士の十分な接触と形状保持のためにバインダーが含まれることが好ましく、電池反応を推進する電子の伝達を円滑にするために導電助剤が負極層に含まれていてもよい。このように、複数の成分が含有されて成る形態ゆえ、負極層は “負極合材層”などと称すこともできる。
【0127】
負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵放出に資する物質であることが好ましい。かかる観点でいえば、負極活物質は例えば各種の炭素材料、酸化物、または、リチウム合金などであることが好ましい。
【0128】
負極活物質の各種の炭素材料としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、ハードカーボン、ソフトカーボン、ダイヤモンド状炭素などを挙げることができる。特に、黒鉛は電子伝導性が高く、負極集電体との接着性が優れる点などで好ましい。負極活物質の酸化物としては、酸化シリコン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛および酸化リチウムなどから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。負極活物質のリチウム合金は、リチウムと合金形成され得る金属であればよく、例えば、Al、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、Laなどの金属とリチウムとの2元、3元またはそれ以上の合金であってよい。このような酸化物は、その構造形態としてアモルファスとなっていることが好ましい。結晶粒界または欠陥といった不均一性に起因する劣化が引き起こされにくくなるからである。より好適な態様では負極層の負極活物質が人造黒鉛となっている。
【0129】
負極層に含まれる得るバインダーとしては、特に制限されるわけではないが、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド系樹脂およびポリアミドイミド系樹脂から成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。より好適な実施態様では負極層に含まれるバインダーはスチレンブタジエンゴムとなっている。負極層に含まれる得る導電助剤としては、特に制限されるわけではないが、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックおよびアセチレンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブおよび気相成長炭素繊維等の炭素繊維、銅、ニッケル、アルミニウムおよび銀等の金属粉末、ならびに、ポリフェニレン誘導体などから選択される少なくとも1種を挙げることができる。なお、負極層には、電池製造時に使用された増粘剤成分(例えばカルボキシルメチルセルロース)に起因する成分が含まれていてもよい。
【0130】
さらに好適な態様では、負極層における負極活物質およびバインダーが黒鉛とポリイミドとの組合せとなっている。
【0131】
負極層の厚みは特に限定されず、例えば、1μm以上300μm以下、特に5μm以上200μm以下であってよい。負極層の厚みは二次電池内部での厚みであって、任意の50箇所における測定値の平均値を用いている。
【0132】
負極に用いられる負極集電体は電池反応に起因して活物質で発生した電子を集めたり供給したりするのに資する部材である。負極集電体は、正極集電体と同様に、シート状の金属部材であってよく、多孔または穿孔の形態を有していてよい。例えば、負極集電体は金属箔、パンチングメタル、網またはエキスパンドメタル等であってよい。負極に用いられる負極集電体は、銅、ステンレスおよびニッケル等から成る群から選択される少なくとも1種を含んだ金属箔から成るものが好ましく、例えば銅箔であってよい。
【0133】
セパレータは、正負極の接触による短絡防止および電解質保持などの観点から設けられる部材である。換言すれば、セパレータは、正極と負極との間の電子的接触を防止しつつイオンを通過させる部材であるといえる。好ましくは、セパレータは多孔性または微多孔性の絶縁性部材であり、その小さい厚みに起因して膜形態を有している。あくまでも例示にすぎないが、ポリオレフィン製の微多孔膜がセパレータとして用いられてよい。この点、セパレータとして用いられる微多孔膜は、例えば、ポリオレフィンとしてポリエチレン(PE)のみ又はポリプロピレン(PP)のみを含んだものであってよい。更にいえば、セパレータは、“PE製の微多孔膜”と“PP製の微多孔膜”とから構成される積層体であってもよい。セパレータの表面は無機粒子コート層および/または接着層等により覆われていてもよい。セパレータの表面は接着性を有していてもよい。
【0134】
セパレータの厚みは特に限定されず、例えば、1μm以上100μm以下、特に5μm以上20μm以下であってよい。セパレータの厚みは二次電池内部での厚み(特に正極と負極との間での厚み)であって、任意の50箇所における測定値の平均値を用いている。
【0135】
電解質は電極(正極・負極)から放出された金属イオンの移動を助力する。電解質は有機電解質および有機溶媒などの“非水系”の電解質であっても、または水を含む“水系”の電解質であってもよい。本発明の二次電池は、電解質として“非水系”の溶媒と、溶質とを含む電解質が用いられた非水電解質二次電池が好ましい。電解質は液体状またはゲル状などの形態を有し得る(なお、本明細書において“液体状”の非水電解質は「非水電解質液」とも称される)。
【0136】
具体的な非水電解質の溶媒としては、少なくともカーボネートを含んで成るものが好ましい。かかるカーボネートは、環状カーボネート類および/または鎖状カーボネート類であってもよい。特に制限されるわけではないが、環状カーボネート類としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)およびビニレンカーボネート(VC)から成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。鎖状カーボネート類としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジプロピルカーボネート(DPC)から成る群から選択される少なくも1種を挙げることができる。本発明の1つの好適な実施態様では、非水電解質として環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組合せが用いられ、例えばエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合物が用いられる。
具体的な非水電解質の溶質としては、例えば、LiPF6およびLiBF4などのLi塩が好ましく用いられる。
【0137】
外装体は特に限定されず、例えば、フレキシブルパウチ(軟質袋体)であってよいし、またはハードケース(硬質筐体)であってもよい。
【0138】
外装体がフレキシブルパウチである場合、フレキシブルパウチは通常、ラミネートフィルムから形成され、周縁部をヒートシールすることにより、封止が達成される。ラミネートフィルムとしては、金属箔とポリマーフィルムを積層したフィルムが一般的であり、具体的には、外層ポリマーフィルム/金属箔/内層ポリマーフィルムからなる3層構成のものが例示される。外層ポリマーフィルムは水分等の透過および接触等による金属箔の損傷を防止するためのものであり、ポリアミドおよびポリエステル等のポリマーが好適に使用できる。金属箔は水分およびガスの透過を防止するためのものであり、銅、アルミニウム、ステンレス等の箔が好適に使用できる。内層ポリマーフィルムは、内部に収納する電解質から金属箔を保護するとともに、ヒートシール時に溶融封口させるためのものであり、ポリオレフィン(例えばポリプロピレン)または酸変性ポリオレフィンが好適に使用できる。ラミネートフィルムの厚さは特に限定されず、例えば、1μm以上1mm以下が好ましい。
【0139】
外装体がハードケースである場合、ハードケースは通常、金属板から形成され、周縁部をレーザー照射することにより、封止が達成される。金属板としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレス等からなる金属材料が一般的である。金属板の厚さは特に限定されず、例えば、1μm以上1mm以下が好ましい。
【実施例】
【0140】
<正極活物質芯材>
正極活物質芯材としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)を準備した。
【0141】
<第1金属アルコキシド>
第1金属アルコキシドとして、下記化合物を準備した。
・テトラエトキシシラン(前記化合物(1A-1)に対応する)
・テトラブトキシチタン(前記化合物(1B-1)に対応する)
・トリイソプロポキシアルミニウム(前記化合物(1C-1)に対応する)
・ジルコニウム(IV)テトラブトキシド(前記化合物(1D-2)に対応する)
【0142】
<第2金属アルコキシド>
第2金属アルコキシドとして、下記化合物を準備した。
・前記化合物(2A-1)
・前記化合物(2A-2)
・前記化合物(2B-1)
・前記化合物(2C-1)
・前記化合物(2D-1)
【0143】
<第3金属アルコキシド>
第3金属アルコキシドとして、下記化合物を準備した。
・オクタデシルトリメトキシシラン(前記化合物(3A-1)に対応する)
・ヘキサデシルトリメトキシシラン(前記化合物(3A-2)に対応する)
・デシルトリメトキシシラン(前記化合物(3A-3)に対応する)
・ヘキシルトリメトキシシラン(比較例)
【0144】
<正極活物質の製造>
(実施例1A)
28重量%アンモニア水6gを溶解した25gのエタノールを準備した。この溶液に、コバルト酸リチウム(平均一次粒径20μm)を35g加えた。次に、加えたコバルト酸リチウム100重量部に対する使用量が表4の比率になるように、第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシドおよび第3金属アルコキシドを加えた。その後、室温(20℃)で120分間撹拌した。反応溶液を濾別し、アセトンで洗浄を行い、被覆した粉体を80℃で120分間乾燥させ、コバルト酸リチウムの表面に被膜(厚み10nm)を形成した。これで有機無機ハイブリッド膜を被覆したコバルト酸リチウム(正極活物質)の作製を完了した。
【0145】
(実施例2A~5A、実施例1B~16Bおよび比較例1~5)
正極活物質の製造に際し、第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシドおよび第3金属アルコキシドの種類および配合量を表4に記載のように変更したこと以外、実施例1Aと同様の方法により、正極活物質の製造を行った。
【0146】
<電池の製造>
・正極の作製工程
正極を以下のようにして作製した。まず、正極活物質90重量%、アモルファス性炭素粉(ケッチェンブラック)5重量%と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)5重量%とを混合して正極合剤を調製した。この正極合剤をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させて正極層スラリーを作製した後、この正極層スラリーを15μm厚の帯状アルミニウム箔(正極集電体)の両面に均一に塗布して、塗膜を形成した。次に、この塗膜を温風乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成型(ロール温度130℃、線圧0.7t/cm、プレス速度10m/分)し、正極層を有する正極シートを形成した。次に、この正極シートを48mm×300mmの帯状に切り出して、正極を作製した。次に、正極の正極集電体露出部分に正極リードを取り付けた。
【0147】
・負極の作製工程
負極を以下のようにして作製した。まず、負極活物質としての黒鉛粒子(平均一次粒径20μm)とポリイミドバインダーを20重量%含むNMP溶液とを重量比(黒鉛粒子:NMP溶液)で9:1となるように混合して、負極層スラリーを作製した。次に、負極層スラリーをギャップ35μmのバーコーターを用いて15μm厚の銅箔(負極集電体)の両面に塗布して塗膜を形成し、この塗膜を80℃で乾燥させた。次に、ロールプレス機で塗膜を圧縮成型した後、700℃で3時間加熱し、負極層を有する負極シートを形成した。この負極シートを50mm×310mmの帯状に切り出して、負極を作製した。次に、負極の負極集電体露出部分に負極リードを取り付けた。
【0148】
・ラミネートセルの作製工程
作製した正極および負極を、厚み25μmの微孔性ポリエチレンフィルムよりなるセパレータを介して密着させ、長手方向に巻回して、最外周部に保護テープを貼り付けて圧縮することにより、扁平形状の巻回電極体を作製した。次に、この巻回電極体を外装部材の間に装填し、外装部材の3辺を熱融着し、一辺は熱融着せずに開口を有するようにした。外装部材としては、最外層から順に25μm厚のナイロンフィルムと、40μm厚のアルミニウム箔と、30μm厚のポリプロピレンフィルムとが積層された防湿性のアルミラミネートフィルムを用いた。
【0149】
・電解液の調製および注液工程
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、質量比がEC:EMC=5:5となるようにして混合した混合溶媒を調製した。次に、この混合溶媒に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1mol/lとなるように溶解させて電解液を調製した。この電解液を外装部材の開口から注入し、外装部材の残りの1辺を減圧下において熱融着し、密封した。これにより、目的とする非水電解質二次電池が得られた。
【0150】
<電池特性の評価>
・サイクル特性
以下の条件で第1~第105サイクルの充放電を行い、「第101サイクル後の放電容量」の「第1サイクル後の放電容量」に対する割合として容量維持率を求め、評価した。
◎;79%以上(最良);
○;70%以上79%未満(良好);
×;70%未満(問題あり)。
【0151】
第1サイクル
充電条件:45℃/0.5Cにて4.50Vになるまで定電流充電した後、45℃/4.50Vにて0.025Cになるまで定電圧充電した。その後、10分間の休止を行った。
放電条件:45℃/0.1Cにて3.00Vになるまで定電流放電した。その後、10分間の休止を行った。
第2サイクル
充電条件:45℃/0.5Cにて4.50Vになるまで定電流充電した後、45℃/4.50Vにて0.025Cになるまで定電圧充電した。その後、10分間の休止を行った。
放電条件:45℃/0.2Cにて3.00Vになるまで定電流放電した。その後、10分間の休止を行った。
第3サイクル
充電条件:45℃/0.5Cにて4.50Vになるまで定電流充電した後、45℃/4.50Vにて0.025Cになるまで定電圧充電した。その後、10分間の休止を行った。
放電条件:45℃/0.5Cにて3.00Vになるまで定電流放電した。その後、10分間の休止を行った。
第4サイクル
充電条件:45℃/0.5Cにて4.50Vになるまで定電流充電した後、45℃/4.50Vにて0.025Cになるまで定電圧充電した。その後、10分間の休止を行った。
放電条件:45℃/1.0Cにて3.00Vになるまで定電流放電した。その後、10分間の休止を行った。
第5サイクル
充電条件:45℃/0.5Cにて4.50Vになるまで定電流充電した後、45℃/4.50Vにて0.025Cになるまで定電圧充電した。その後、10分間の休止を行った。
放電条件:45℃/2.0Cにて3.00Vになるまで定電流放電した。その後、10分間の休止を行った。
第6~第50サイクル
充電条件:第1~第5サイクルの充電条件と同条件にて、充電および休止を行った。
放電条件:45℃/0.5Cにて3.00Vになるまで定電流放電した。その後、10分間の休止を行った。
第51~第55サイクル
充電条件:第1~第5サイクルの充電条件および放電条件と同条件にて、充電および休止を行った。
第56~第100サイクル
充電条件および放電条件:第6~第50サイクルの充電条件および放電条件と同条件にて、充電、放電および休止を行った。
第101~第105サイクル
充電条件:第1~第5サイクルの充電条件および放電条件と同条件にて、充電および休止を行った。
【0152】
・充填性(体積密度)
電極の体積密度を以下のようにして求めた。
上記ロールプレス後の正極について、ハイト計を用いて、電極の厚みを測定し、そこから集電箔分の厚みを差し引くことで正極層の厚みを算出し、正極層の体積密度(g/cc)を算出した。
◎;4.01g/cc以上(最良);
○;3.96g/cc以上4.01g/cc未満(良好);
×;3.96g/cc未満(問題あり)。)
【0153】
・負荷特性
負荷特性を以下のようにして評価した。
まず、充電電流0.5Aで定電流充電したのち、電流値が1/10に絞られるまで定電圧充電した。その後、放電電流0.2Aでの放電容量を測定した。ここで得られた放電容量を1Cとし、次に、上述の充電条件にて充電を行い、その後放電電流0.1C、終止電圧3.0Vの条件で放電を行い、放電容量を求めた。次に上述の充電条件にて充電を行い、その後放電電流2.0C、終止電圧3.0Vの条件で放電を行った。次に、測定した放電電流0.1Cでの放電容量および放電電流値2.0Cでの放電容量を以下の式に代入して、負荷特性を求めた。
◎;79%以上(最良);
○;77%以上79%未満(良好);
×;77%未満(問題あり)。
【0154】
【0155】
【0156】
実施例1A~5Aの各実施例で製造された正極を分解し、顕微鏡により観察したところ、被膜の正極活物質芯材からの剥がれは全く生じていなかった。
【0157】
実施例1B~16Bの各実施例で製造された正極を分解し、顕微鏡により観察したところ、正極活物質の粒界に沿った割れも、集電体における凹凸や破れも、正極層の集電体からの剥離も全く生じていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明に係る二次電池は、蓄電が想定される様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本発明に係る二次電池、特に非水電解質二次電池は、モバイル機器などが使用される電気・情報・通信分野(例えば、携帯電話、スマートフォン、スマートウォッチ、ノートパソコン、デジタルカメラ、活動量計、アームコンピューター、電子ペーパーなどのモバイル機器分野)、家庭・小型産業用途(例えば、電動工具、ゴルフカート、家庭用・介護用・産業用ロボットの分野)、大型産業用途(例えば、フォークリフト、エレベーター、湾港クレーンの分野)、交通システム分野(例えば、ハイブリッド車、電気自動車、バス、電車、電動アシスト自転車、電動二輪車などの分野)、電力系統用途(例えば、各種発電、ロードコンディショナー、スマートグリッド、一般家庭設置型蓄電システムなどの分野)、医療用途(イヤホン補聴器などの医療用機器分野)、医薬用途(服用管理システムなどの分野)、ならびに、IoT分野、宇宙・深海用途(例えば、宇宙探査機、潜水調査船などの分野)などに利用することができる。
【符号の説明】
【0159】
1:正極活物質芯材
2:有機無機ハイブリッド被膜
10:正極活物質