(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20240214BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240214BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240214BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240214BHJP
H01M 50/548 20210101ALI20240214BHJP
H01M 50/562 20210101ALI20240214BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/054
H01M10/0585
H01M50/548
H01M50/562
(21)【出願番号】P 2021550633
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2020035565
(87)【国際公開番号】W WO2021070601
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2019187901
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】宮木 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 充
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/099508(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/092370(WO,A1)
【文献】特開2005-078985(JP,A)
【文献】国際公開第2019/139070(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層、負極層、および該正極層と該負極層との間に少なくとも介在する固体電解質を含んで成る電池構成単位を含む固体電池積層体を有して成り、
前記正極層と電気的に接続する正極側の外部電極と、前記負極層と電気的に接続する負極側の外部電極とを外部電極としてさらに有して成り、
前記正極側の外部電極が、該正極側の外部電極の総体積に基づいて、
導電材料として30体積%以上99体積%以下の量でCu元素
を含み、
ガラス成分としてホウケイ酸ガラスを含むことを特徴とする、固体電池。
【請求項2】
前記正極層および前記負極層の電極層は、それぞれ集電層を備えていない集電レス構造である、請求項1に記載の固体電池。
【請求項3】
前記正極側の外部電極は、該正極側の外部電極の総体積に基づいて、1体積%以上70体積%以下の量でガラス成分としてのホウケイ酸ガラスを含む、請求項1又は2に記載の固体電池。
【請求項4】
前記外部電極が焼結体を有して成る、請求項1~3のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項5】
前記固体電池積層体および前記外部電極が一体焼結体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項6】
炭素または導電性酸化物を含んで成る導電層が前記正極層と前記正極側の外部電極との間に介在する、請求項1~5のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項7】
前記負極側の外部電極が、Cu、Ag、Ni、Ti、Cr、PtおよびPdからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項8】
前記負極側の外部電極は、該負極側の外部電極の総体積に基づいて、1体積%以上70体積%以下の量で前記ガラス成分を含む、請求項7に記載の固体電池。
【請求項9】
前記正極層および前記負極層がリチウムイオンまたはナトリウムイオンを吸蔵放出可能な層となっている、請求項1~8のいずれか1項に記載の固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池に関する。より具体的には、本発明は、複数の層が焼結体から成る固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、繰り返しの充放電が可能な二次電池は様々な用途に用いられている。例えば、二次電池は、スマートフォンおよびノートパソコン等の電子機器の電源として用いられたりする。
【0003】
二次電池においては、充放電に寄与するイオン移動のための媒体として液体の電解質が一般に使用されている。つまり、いわゆる“電解液”が二次電池に用いられている。しかしながら、そのような二次電池においては、電解液の漏出防止点で安全性が一般に求められる。また、電解液に用いられる有機溶媒等は可燃性物質ゆえ、その点でも安全性が求められる。
【0004】
そこで、電解液に変えて、固体電解質を用いた固体電池について研究が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-181905号公報
【文献】特開2017-183052号公報
【文献】特開2011-198692号公報
【文献】国際公開(WO)2008/099508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固体電池は、概して、正極層、負極層およびそれらの間の固体電解質を含んで成る固体電池積層体を有して成る(上記の特許文献1~4参照)。固体電池積層体では、例えば、上記の特許文献1~3で開示されるように、正極層および負極層の電極が、集電層および/または集電体(以下では、簡易的に「集電層」と称する)を備えていることが多い。一方、そのような固体電池積層体において、電極層が集電層を備えていない“集電レス”の固体電池も考えられている(上記の特許文献4)。
【0007】
ここで、電極、特に正極に関して、例えば
図1で模式化して示す通り、従来の“電解液”(例えば、有機溶媒とLiPF
6などの電解質を含む)を用いた一般的な二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池)では、アルミ箔(Al)が正極側の集電層(又は導電材料)として使用され、負極側の集電層(又は導電材料)として銅箔(Cu)が使用されている。このような集電層を用いることによって、二次電池として首尾よく機能することが当該分野ではよく知られている。
このような二次電池では、正極側の集電層であるアルミニウム箔(Al)(
図1)を銅箔(Cu)に変更した場合(
図2)、銅(Cu)がイオン化してCu
2+、Cu
+などとして溶出し、負極活物質である黒鉛に析出してショートするため、電池として機能しないと当業者には認識されていた。つまり、“電解液”を用いる二次電池の分野では、正極側の集電層として銅(Cu)の使用は“不適切”または“禁忌”であると考えられていた。
【0008】
上述の“電解液”を用いる二次電池において、正極側の集電層としてアルミニウム(Al)を使用し、負極側の集電層として銅(Cu)を使用することにより電池として機能することが実証されている(
図1参照)。このようなことから、固体電池(例えば、電極層が集電層を備えていない“集電レス”の固体電池)においても、同様に外部電極の導電材料として、正極側にAlを使用し、負極側にCuを使用することを本願発明者らは検討した(例えば、
図3に模式的に示す概念図を参照のこと)。尚、
図3では、正極層、負極層および固体電解質を含んで成る電池構成単位は、通常、このような電池構成単位を2以上含んで成る固体電池積層体であるが、説明の便宜上および記載の簡略化のため、1つ(単層)の電池構成単位で示している。
【0009】
ここで、固体電池は、概して、正極層と、負極層と、この正極層と負極層との間に少なくとも介在する固体電解質とを含んで成る電池構成単位を含む固体電池積層体を有して成ることが一般的であることから、本願発明者らは、このような固体電池積層体を外部電極と共に又は別々に焼成により一体型の焼結体として形成することを考えた。
【0010】
また、アルミニウム(Al)を正極側の外部電極で使用する場合、例えばガラス成分などと一緒に焼結体として形成することも併せて考えた(例えば、
図3の概念図を参照のこと)。
【0011】
しかし、本願発明者らの研究により、例えば、焼結体の焼成工程において、アルミニウムは、融点660℃と低い融点を有するため、焼成の間に融解や、変形することがある。また、アルミニウムと酸化物の混合体は、テルミット反応と呼ばれる非常に大きな発熱反応を起こす場合もあることが知られている。このようなことから、外部電極、特に正極側の外部電極を形成する材料としてアルミニウムは適切でないことがわかった。
【0012】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、本発明の主たる目的は、焼成によってより適切に形成された外部電極を備える固体電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、二次イオン電池の分野、特に“電解液”を用いる二次電池の分野において、これまで正極側の導電材料として“不適切”または“禁忌”であると考えられていた銅(Cu)などの金属を正極側の外部電極の成分として敢えて固体電池の製造に用いることによって、充放電サイクルにおいて電池容量低下の少ない固体電池が製造できることを見出した(例えば、
図4に模式的に示す概念図を参照のこと)。尚、
図4においても、正極層、負極層および固体電解質を含んで成る電池構成単位は、通常、このような電池構成単位を2以上含んで成る固体電池積層体であるが、説明の便宜上および簡略化のため、1つ(単層)の電池構成単位で示している。
その結果、上記の主たる目的が達成された固体電池の発明を完成させるに至った。
【0014】
本発明では、正極層、負極層、および該正極層と該負極層との間に少なくとも介在する固体電解質を含んで成る電池構成単位を含む固体電池積層体を有して成り、前記正極層と電気的に接続する正極側の外部電極と、前記負極層と電気的に接続する負極側の外部電極とを外部電極としてさらに有して成り、前記正極側の外部電極が、Cu、Ag、Ni、Ti、Cr、PtおよびPdからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする固体電池が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、焼成によってより適切に形成された外部電極を備える固体電池を提供することができる。
本開示の固体電池は、充放電サイクルにおいて、電池容量低下が少ない等の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、従来の二次電池の一実施形態(電池として機能する“適切”な形態)を模式的に示す概念図である。
【
図2】
図2は、電池として機能しない“不適切”な二次電池の一実施形態を模式的に示す概念図である。
【
図3】
図3は、固体電池の一実施形態(失敗例)を模式的に示す概念図である。
【
図4】
図4は、本開示に従う固体電池の一実施形態を模式的に示す概念図である。
【
図5】
図5は、本開示に従う固体電池の内部構成を模式的に示した断面図である。
【
図6】
図6は、本開示に従う固体電池の特徴を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の固体電池を詳細に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。
【0018】
本明細書でいう「断面視」とは、固体電池を構成する各層の積層方向に基づく厚み方向に対して略垂直な方向から捉えた場合の形態(端的にいえば、厚み方向に平行な面で切り取った場合の形態)に基づいている。本明細書で直接的または間接的に用いる“上下方向”および“左右方向”は、それぞれ図中における上下方向および左右方向に相当する。特記しない限り、同じ符号または記号は、同じ部材・部位または同じ意味内容を示すものとする。ある好適な態様では、鉛直方向下向き(すなわち、重力が働く方向)が「下方向」/「底面側」に相当し、その逆向きが「上方向」/「頂面側」に相当すると捉えることができる。
【0019】
本発明でいう「固体電池」は、広義にはその構成要素が固体から成る電池を指し、狭義にはその構成要素(特に好ましくは全ての構成要素)が固体から成る全固体電池を指している。ある好適な態様では、本発明における固体電池は、電池構成単位を成す各層が互いに積層するように構成された積層型固体電池であり、好ましくはそのような各層が焼結体から成っている。なお、「固体電池」は、充電および放電の繰り返しが可能な、いわゆる「二次電池」のみならず、放電のみが可能な「一次電池」をも包含する。本発明のある好適な態様に従うと「固体電池」は二次電池である。「二次電池」は、その名称に過度に拘泥されるものではなく、例えば、蓄電デバイスなども包含し得る。
【0020】
以下では、まず、本発明の一実施形態に係る固体電池の基本的構成について説明する。ここで説明される固体電池の構成は、あくまでも発明の理解のための例示にすぎず、発明を限定するものではない。
【0021】
[固体電池の基本的構成]
固体電池は、正極層および負極層の電極層、および正極層と負極層との間に少なくとも介在し得る固体電解質又は固体電解質層とを少なくとも有して成る。具体的には
図5に示すように、固体電池100は、正極層110、負極層120、およびそれらの間に少なくとも介在し得る固体電解質又は固体電解質層130を含んで成る電池構成単位(単数または複数)を含んで成る固体電池積層体を有して成る。
【0022】
好ましくは、固体電池は、それを構成する各層が焼成によって形成されるところ、正極層、負極層および固体電解質などが焼結層を成している。より好ましくは、正極層、負極層および固体電解質層は、それぞれが互いに一体焼成されており、それゆえ固体電池積層体が一体焼結体を成している。
【0023】
正極層110は、少なくとも正極活物質を含んで成る電極層である。従って、正極層110は、主として正極活物質から成る正極活物質層であってもよい。正極層は、必要に応じて、更に固体電解質を含んで成っていてよい。ある態様では、正極層は、正極活物質粒子と固体電解質粒子とを少なくとも含む焼結体から構成されていてよい。
負極層120は、少なくとも負極活物質を含んで成る電極層である。従って、負極層120は、主として負極活物質から成る負極活物質層であってもよい。負極層は、必要に応じて、更に固体電解質を含んで成っていてよい。ある態様では、負極層は、負極活物質粒子と固体電解質粒子とを少なくとも含む焼結体から構成されていてよい。
【0024】
正極活物質および負極活物質は、固体電池において、イオンの吸蔵放出および外部回路との電子の受け渡しに関与する物質である。固体電解質を介して、イオンは、正極層と負極層との間で移動(伝導)する。活物質へのイオンの吸蔵放出は、活物質の酸化もしくは還元を伴うが、このような酸化還元反応のための電子またはホールが、外部回路から外部電極へと、さらには正極層もしくは負極層へと受け渡しが行われることによって充放電が進行する。正極層および負極層は特にリチウムイオンまたはナトリウムイオンを吸蔵放出可能な層であることが好ましい。つまり、固体電池は、固体電解質を介して、リチウムイオンまたはナトリウムイオンが正極層と負極層との間で移動して電池の充放電が行われ得る全固体型二次電池であることが好ましい。
【0025】
(正極活物質)
例えば
図5に示す正極層110に含まれ得る正極活物質としては、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リチウム含有層状酸化物、およびスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li
3V
2(PO
4)
3等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li
3Fe
2(PO
4)
3、LiFePO
4、LiMnPO
4、および/またはLiFe
0.6Mn
0.4PO
4等が挙げられる。リチウム含有層状酸化物の一例としては、LiCoO
2、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、および/またはLiCo
0.8Ni
0.15Al
0.05O
2等が挙げられる。スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の一例としては、LiMn
2O
4、および/またはLiNi
0.5Mn
1.5O
4等が挙げられる。
【0026】
同様にして、ナトリウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質としては、例えば、ナシコン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、ナトリウム含有層状酸化物およびスピネル型構造を有するナトリウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0027】
(負極活物質)
例えば
図5に示す負極層120に含まれ得る負極活物質としては、例えば、Ti、Si、Sn、Cr、Fe、NbおよびMoから成る群から選ばれる少なくとも一種の元素を含む酸化物、黒鉛-リチウム化合物、リチウム合金、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ならびにスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。リチウム合金の一例としては、Li-Al等が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li
3V
2(PO
4)
3、および/またはLiTi
2(PO
4)
3等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li
3Fe
2(PO
4)
3、および/またはLiCuPO
4等が挙げられる。スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の一例としては、Li
4Ti
5O
1
2等が挙げられる。
【0028】
同様にして、ナトリウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質としては、例えば、ナシコン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物およびスピネル型構造を有するナトリウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0029】
正極層および/または負極層は、導電助剤を含んでいてもよい。正極層および負極層に含まれ得る導電助剤として、例えば、銀、パラジウム、金、プラチナ、銅およびニッケル等の金属材料、ならびに炭素などから成る少なくとも1種を挙げることができる。
【0030】
さらに、正極層および/または負極層は、焼結助剤を含んでいてもよい。焼結助剤として、例えば、リチウム酸化物、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化ビスマスおよび酸化リンから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0031】
正極層および負極層の厚みは特に限定されない。例えば、正極層および負極層の厚みは、それぞれ独立して、2μm以上100μm以下であってよく、特に5μm以上50μm以下であってもよい。
【0032】
(固体電解質)
固体電解質は、リチウムイオンまたはナトリウムイオンが伝導可能な材質である。特に固体電池において電池構成単位に含まれ得る固体電解質は、正極層と負極層との間において、リチウムイオンまたはナトリウムイオンが伝導可能な層を形成することができる。
【0033】
具体的な固体電解質として、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ペロブスカイト型構造を有する酸化物、ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物等が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物としては、LixMy(PO4)3(1≦x≦2、1≦y≦2、Mは、Ti、Ge、Al、GaおよびZrから成る群より選ばれた少なくとも一種である)が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、例えば、Li1.2Al0.2Ti1.8(PO4)3等が挙げられる。ペロブスカイト型構造を有する酸化物の一例としては、La0.55Li0.35TiO3等が挙げられる。ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物の一例としては、Li7La3Zr2O12等が挙げられる。
【0034】
同様にして、ナトリウムイオンが伝導可能な固体電解質としては、例えば、ナシコン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、ペロブスカイト型構造を有する酸化物、ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物等が挙げられる。ナシコン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物としては、NaxMy(PO4)3(1≦x≦2、1≦y≦2、Mは、Ti、Ge、Al、GaおよびZrから成る群より選ばれた少なくとも一種である)が挙げられる。
【0035】
固体電解質層は、焼結助剤などを含んでいてもよい。固体電解質層に含まれ得る焼結助剤は、例えば、正極層および/または負極層に含まれ得る焼結助剤と同様の材料から選択されてよい。
【0036】
正極層と負極層との間に位置し得る固体電解質層の厚みは特に限定されない。例えば、固体電解質層の厚みは、1μm以上15μm以下であってよく、特に1μm以上5μm以下であってもよい。
【0037】
(正極集電層および負極集電層)
例えば
図5に示す正極層110および負極層120は、例えば、それぞれ正極集電層および負極集電層を備えていてもよい。正極集電層および負極集電層はそれぞれ箔の形態を有していてもよいが、一体焼成による固体電池の製造コストの低減および固体電池の内部抵抗の低減などの観点から、焼結体の形態を有していてもよい。なお、正極集電層および負極集電層が焼結体の形態を有する場合、例えば、導電助剤および焼結助剤を含む焼結体により構成されてもよい。
【0038】
正極集電層および負極集電層の厚みは特に限定されない。正極集電層および負極集電層の厚みは、例えば、それぞれ独立して、1μm以上10μm以下であってよく、特に1μm以上5μm以下であってもよい。
【0039】
正極集電層および負極集電層に含まれ得る導電助剤は、例えば、正極層および負極層に含まれ得る導電助剤と同様の材料から選択されてよい。正極集電層および負極集電層に含まれ得る焼結助剤は、例えば、正極層および/または負極層に含まれ得る焼結助剤と同様の材料から選択されてよい。なお、固体電池において、正極集電層および負極集電層が必須というわけでなく、そのような正極集電層および負極集電層が設けられていない固体電池も考えられる。つまり、本発明における固体電池は、“集電レス”の固体電池であってよい。
【0040】
固体電池積層体が以下にて詳述する外部電極とともに一体焼結体を形成する場合、本開示の固体電池は、固体電池の製造コストの低減、安全性、固体電池の内部抵抗の低減などの観点から、“集電レス”の固体電池であることが好ましい。金属箔や金属粉末は一般的には低抵抗で知られている。しかしながら、固体電池の正極において、例えばCuなどの金属を導入すると、例えば、焼成条件や含有量、共存材料によっては、焼成時に正極活物質や固体電解質と望ましくない高抵抗反応層を形成する場合や、金属イオンが固体電解質や正極活物質に固溶し、導電性低下や活物質容量の低下を引き起こす場合がある。
【0041】
(外部電極)
例えば
図5に示す固体電池100には、外部電極150が設けられている。特に、固体電池100の側面、好ましくは対向する側面に外部電極150が“端面電極”として設けられていることが好ましい。より具体的には、正極層110と電気的に接続された正極側の外部電極(又は端面電極)150Aと、負極層120と電気的に接続された負極側の外部電極(又は端面電極)150Bとが設けられている(
図5参照)。このような外部電極は、導電率が大きい材料(又は導電材料)を含んで成ることが好ましい。
【0042】
[本開示の固体電池の特徴]
本開示の一実施形態に係る固体電池の特徴を
図6において模式的に示す概念図を参照しながら詳しく説明する。本開示の一実施形態に係る固体電池10は、正極層1、負極層2、および正極層1と負極層2との間に少なくとも介在し得る固体電解質3を含んで成る電池構成単位を含む固体電池積層体を有して成る。尚、正極層1、負極層2および固体電解質3を含んで成る電池構成単位は、通常、このような電池構成単位を2以上含んで成る固体電池積層体であるが、説明の便宜上および記載の簡略化のため、
図6では、1つ(単層)の電池構成単位で示している。固体電池10は、さらに、正極層1と電気的に接続する正極側の外部電極4と、負極層2と電気的に接続する負極側の外部電極5とを固体電池の外部電極として有して成る。尚、固体電池10、正極層1、負極層2、固体電解質3、正極側の外部電極4、負極側の外部電極5は、上述の
図5に示す固体電池100、正極層110、負極層120、固体電解質130、正極側の外部電極150A、負極側の外部電極150Bにそれぞれ対応し得るものである。
【0043】
とりわけ、本開示の一実施形態に係る固体電池10は、正極層1と電気的に接続する正極側の外部電極4に特徴を有する。
【0044】
具体的には、正極側の外部電極4は、Cu(銅)、Ag(銀)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、Cr(クロム)、Pt(プラチナ)およびPd(パラジウム)からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする。
【0045】
正極側の外部電極4が、上記の元素を含むことにより、例えば焼成によって、正極側の外部電極4を焼結体として形成することができ、充放電サイクルおいて、電池容量の低下の少ない固体電池を首尾よく製造することができる。さらに、正極側の外部電極4は、上記の元素を含むことによって、正極層1、負極層2、固体電解質3および後述の負極側の外部電極5と共にまたは別々に一体焼結体として形成することができ、簡便かつ迅速に固体電池を製造することができる。
【0046】
上記の元素は、好ましくはCu、Ag、NiおよびTiからなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくはCuおよびAgからなる群から選択される少なくとも1種であり、特に好ましくはCuである。
【0047】
正極側の外部電極4は、この外部電極4の総体積に基づいて、例えば30体積%以上99体積%以下、好ましくは33体積%以上95体積%以下の量で上記元素の単体または化合物を含む。上記範囲内であると、充放電サイクルにおいて、電池容量の低下の少ない固体電池を首尾よく製造することができる。上記元素の化合物は、上記元素を含む限り、特に制限はない。
【0048】
正極側の外部電極4に含まれ得る上記以外の他の成分として、特に制限はないが、正極側の外部電極4は、ガラス成分をさらに有して成ることが好ましい。外部電極4が上記元素とともにガラス成分を含むことによって、このガラス成分が母材として機能するため、固体電池との接着性が向上し、充放電サイクルをより向上させることができる。
【0049】
また、正極側の外部電極4に含まれ得るガラス成分によって上記元素の単体または化合物を外部電極4中に適切に分散させることができる。
【0050】
このようなガラス成分を含む外部電極4は、焼成によって焼結体として得ることができるため好ましい。
【0051】
ガラス成分は、正極側の外部電極4の総体積に基づいて、例えば1体積%以上70体積%以下、好ましくは5体積%以上67体積%以下の量で外部電極4に含まれてよい(ただし、正極側の外部電極4において、ガラス成分と上記元素の単体または化合物との合計は100体積%を超えない)。上記範囲内であると、充放電サイクルにおいて、電池容量の低下の少ない固体電池を首尾よく製造することができる。
【0052】
ガラス成分は、例えば、ソーダ石灰ガラス、カリガラス、ホウ酸塩系ガラス、ホウケイ酸塩系ガラス、ホウケイ酸バリウム系ガラス、ホウ酸亜鉛系ガラス、ホウ酸バリウム系ガラス、ホウケイ酸ビスマス塩系ガラス、ホウ酸ビスマス亜鉛系ガラス、ビスマスケイ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、アルミノリン酸塩系ガラスおよびリン酸亜鉛系ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を含んで成ってよい。なかでも、ホウケイ酸塩系ガラスを使用することが好ましい。
【0053】
正極側の外部電極4は、必要に応じて、セラミック成分をさらに含んで成るものであってよい。セラミック成分としては、アルミナ、ジルコニア、スピネルおよびフォルステライトから成る群から選択される少なくとも1種を含んで成るものが挙げられる。
【0054】
正極側の外部電極4は、上記元素を含むことから、例えば焼成によって焼結させることができ、好ましくは焼結体を有して成る。より好ましくは、外部電極4は、焼結体として形成されている。
【0055】
外部電極4を焼結体として形成する場合、従来のスパッタリングなどの電極形成工程を省略することができる。また、その焼成工程において、上記元素の融解や強い発熱の恐れがなく、充放電サイクルにおいて、電池容量の低下の少ない固体電池を首尾よく製造することができる。
【0056】
正極側の外部電極4の焼結体は、上記元素のなかでも特にCu成分、具体的にはCuの単体もしくは化合物、またはAg成分、具体的にはAgの単体もしくは化合物と、上記ガラス成分とを含んでなることが好ましい。このような外部電極4の焼結体を使用することにより、充放電サイクルにおいて、電池容量の低下の少ない固体電池を提供することができる。
【0057】
以下、本開示の一実施形態に係る固体電池10の他の特徴について詳しく説明する(
図6参照)。
【0058】
負極側の外部電極5は、Cu(銅)、Ag(銀)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、Cr(クロム)、Pt(プラチナ)およびPd(パラジウム)からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする。
【0059】
負極側の外部電極5が、上記の元素を含むことにより、例えば焼成によって、負極側の外部電極5を焼結体として形成することができ、上記正極側の外部電極4と組み合わせることによって、充放電サイクルにおいて、電池容量の低下の少ない固体電池を首尾よく製造することができる。さらに、負極側の外部電極5は、上記の元素を含むことにより、正極層1、負極層2、固体電解質3および上述の正極側の外部電極4と共にまたは別々に一体焼結体として形成することができ、簡便かつ迅速に固体電池を製造することができる。
【0060】
上記の元素は、好ましくはCu、AgおよびNiからなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくはCuである。
【0061】
負極側の外部電極5は、この外部電極5の総体積に基づいて、例えば30体積%以上99体積%以下の量で上記元素の単体または化合物を含む。上記範囲内であると、上記正極側の外部電極4と組み合わせることによって、充放電サイクルにおいて、電池容量の低下の少ない固体電池を首尾よく製造することができる。上記元素の化合物は、上記元素を含む限り、特に制限はない。
【0062】
負極側の外部電極5に含まれ得る上記以外の他の成分として、特に制限はないが、負極側の外部電極5は、ガラス成分をさらに有して成ることが好ましい。
【0063】
負極側の外部電極5がガラス成分を含むことにより、このガラス成分が母材となって、上記元素の単体または化合物が適切に分散されて成る外部電極5を形成することができる。このようなガラス成分を含む外部電極5は、焼成によって焼結体として得ることができるため好ましい。
【0064】
ガラス成分は、負極側の外部電極5の総体積に基づいて、例えば1体積%以上70体積%以下の量で外部電極5に含まれてよい(ただし、負極側の外部電極5において、ガラス成分と上記元素の単体または化合物との合計は100体積%を超えない)。上記範囲内であると、上記正極側の外部電極4と組み合わせることによって、充放電サイクルにおいて、電池容量の低下の少ない固体電池を首尾よく製造することができる。
【0065】
ガラス成分は、例えば、ソーダ石灰ガラス、カリガラス、ホウ酸塩系ガラス、ホウケイ酸塩系ガラス、ホウケイ酸バリウム系ガラス、ホウ酸亜鉛系ガラス、ホウ酸バリウム系ガラス、ホウケイ酸ビスマス塩系ガラス、ホウ酸ビスマス亜鉛系ガラス、ビスマスケイ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、アルミノリン酸塩系ガラスおよびリン酸亜鉛系ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を含んで成ってよい。なかでも、ホウケイ酸塩系ガラスを使用することが好ましい。
【0066】
負極側の外部電極5は、必要に応じて、セラミック成分をさらに含んで成るものであってよい。セラミック成分としては、アルミナ、ジルコニア、スピネルおよびフォルステライトから成る群から選択される少なくとも1種を含んで成るものが挙げられる。
【0067】
負極側の外部電極5は、上記元素を含むことから、例えば焼成によって焼結させることができ、好ましくは焼結体を有して成る。より好ましくは、外部電極5は、焼結体として形成されている。
【0068】
負極側の外部電極5の焼結体は、Cu成分、具体的にはCuの単体もしくは化合物と、上記ガラス成分とを含んでなることが好ましい。このような外部電極5の焼結体を使用することにより、上記正極側の外部電極4と組み合わせることによって、充放電サイクルにおいて、電池容量の低下の少ない固体電池を提供することができる。
【0069】
正極側の外部電極4と負極側の外部電極5とは任意に組み合わせて使用すればよい。例えば、焼結体から成る正極側の外部電極4と、同じく焼結体から成る負極側の外部電極5とを組み合わせて使用することが好ましい。とりわけ、正極側、負極側の両方が、Cu成分、具体的にはCuの単体または化合物と、上記ガラス成分とを含んで成る焼結体からなる外部電極であることが好ましい。
【0070】
固体電池10は、正極層1、負極層2、および正極層1と負極層2との間に少なくとも介在し得る固体電解質3を含んで成る電池構成単位、特に複数の電池構成単位を含む固体電池積層体、正極側の外部電極4および負極側の外部電極5がいずれも焼結体であることが好ましく、これらが一体焼結体であることが特に好ましい。
【0071】
本発明では、上述の通り、正極側の外部電極4が、Cu(銅)、Ag(銀)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、Cr(クロム)、Pt(プラチナ)およびPd(パラジウム)からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む。それにより、固体電池積層体および外部電極を一体焼結体としても、その焼成工程において、上記元素の金属の融解や強い発熱の恐れがなく、首尾よく簡便かつ迅速に固体電池を製造することができる。また、そのようにして製造した固体電池は、充放電サイクルにおいて、電池容量の低下が少ない等の予想外の格別な効果を奏することができる。
【0072】
ここで、本開示の一実施形態に係る固体電池10は、2つの電極層、つまり正極層1および負極層2が、それぞれ集電層を備えていない集電レス構造であることが望ましい。このような集電レス構造とすることで、固体電池の製造がより簡便となるだけでなく、例えば焼成工程において、金属の融解や強い発熱の恐れをさらに低減することができる。
【0073】
また、固体電池10において、正極層1および負極層2は、リチウムイオンまたはナトリウムイオンを吸蔵放出可能な層となっている。正極層1および負極層2は、それぞれ、上記の正極活物質および負極活物質から成ることが好ましく、少なくとも一方がLi3V2(PO4)3から成ることが特に好ましい。
【0074】
さらに、固体電池10では、正極層1と外部電極4との間に炭素または導電性酸化物を含んで成る導電層が電気的に接続、好ましくは導電的に接触した状態で介在していてもよい。
尚、正極層は充電により強い酸化性を示すことから、接触する外部電極材料との間で好ましくない反応が生じる恐れがある。本開示では、このように外部電極と正極層との接触面積を接合の導電性を損なわない範囲で、できるだけ小面積にする工夫をしている(
図6)。これにより、かかる好ましくない反応を最小限にとどめることができる。さらに、この炭素または導電性酸化物を含んで成る導電層を用いることで、強い酸化性を有する正極層が外部電極と導電性を保ちつつも直接接触しないようにすることができる。すなわち、好ましくない反応を防止することができる。さらに、導電層は、緩衝作用を有し、正極層1および/または外部電極4にかかる応力などの物理的な力を緩和することもできる。このような導電層は、負極層2と外部電極5との間に介在していてもよい。
導電性酸化物としては、導電性を有するものであれば特に制限はない。
【0075】
[固体電池の製造方法]
本開示の固体電池は、例えば、グリーンシートを用いるグリーンシート法、スクリーン印刷などの印刷法によって製造することができる。以下ではグリーンシートを用いるグリーンシート法による製造方法を例示的に説明するが、本開示の固体電池の製造方法は、これに限定されることなく、スクリーン印刷法や、スクリーン印刷法とグリーンシート法とを組み合わせた方法等により所定の積層体などを形成してもよい。
【0076】
(未焼成積層体の形成工程)
まず、支持基材として用いる各基材(例えばPETフィルム)上に固体電解質層用ペースト、正極層(又は正極活物質層)用ペースト、正極集電層用ペースト(任意)、負極層(又は負極活物質層)用ペースト、負極集電層用ペースト(任意)、外装用ペースト(又は保護層又は最外層用ペースト)(任意)、正極側の外部電極用ペースト、および負極側の外部電極用ペーストをそれぞれ塗工する。
【0077】
各ペーストは、例えば、正極活物質、負極活物質、導電性材料、固体電解質材料、絶縁性物質材料、導電助剤および焼結助剤から成る群から適宜選択される各層の所定の構成材料と、有機材料を溶剤に溶解した有機ビヒクルとを湿式混合することによって作製することができる。
正極層用ペーストは、例えば、正極活物質、電子伝導性材料、固体電解質材料、有機材料および溶剤を含む。
負極層用ペーストは、例えば、負極活物質、電子伝導性材料、固体電解質材料、有機材料および溶剤を含む。
固体電解質層用ペーストは、例えば、固体電解質材料、焼結助剤、有機材料および溶剤を含む。
正極集電層用ペースト(任意)/負極集電層用ペースト(任意)としては、例えば、Ag(銀)、Pr(パラジウム)、Au(金)、Pt(プラチナ)、Al(アルミニウム)、Cu(銅)およびNi(ニッケル)から成る群から少なくとも1種が選択されてよい。
外装用ペースト(任意)は、例えば、絶縁性物質材料、有機材料および溶剤を含む。
正極側の外部電極用ペーストは、例えば、導電性材料、ガラス材料、有機材料および溶剤を含む。
負極側の外部電極用ペーストは、例えば、導電性材料、ガラス材料、有機材料および溶剤を含む。
【0078】
湿式混合ではメディアを用いることができ、具体的には、ボールミル法またはビスコミル法等を用いることができる。一方、メディアを用いない湿式混合方法を用いてよく、サンドミル法、高圧ホモジナイザー法またはニーダー分散法等を用いてもよい。
【0079】
支持基材は、未焼成積層体を支持可能な限り特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の高分子材料から成る基材を用いることができる。未焼成積層体を基材上に保持したまま焼成工程に供する場合、基材は焼成温度に対して耐熱性を呈するものを用いてよい。
【0080】
固体電解質層用ペーストに含まれる固体電解質材料としては、上述のように、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ナシコン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、ペロブスカイト型構造を有する酸化物、および/またはガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物からなる粉末を用いてよい。
【0081】
正極層(又は正極活物質層)用ペーストに含まれ得る正極活物質材としては、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リチウム含有層状酸化物、およびスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも1種を用いてよい。また、ナトリウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質材としては、例えば、ナシコン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、ナトリウム含有層状酸化物およびスピネル型構造を有するナトリウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも1種を用いてよい。
【0082】
負極層(又は負極活物質層)用ペーストに含まれ得る負極活物質材としては、例えば、Ti、Si、Sn、Cr、Fe、NbおよびMoから成る群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物、黒鉛-リチウム化合物、リチウム合金、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ならびにスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも1種を用いてよい。また、ナトリウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質材としては、例えば、ナシコン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物およびスピネル型構造を有するナトリウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも1種を用いてよい。
【0083】
正極層用ペーストおよび負極層用ペーストは、かかる正極活物質材および負極活物質材の他、上記の固体電解質ペーストに含まれ得る材料、および/または電子伝導性材料等を含んでいてもよい。
【0084】
外装(又は保護層又は最外層)用ペーストに含まれ得る絶縁性物質材料としては、例えば、ガラス材、セラミック材、熱硬化性樹脂材、および光硬化性樹脂材等から成る群から選択される少なくとも1種を用いてよい。尚、外装用ペーストにより形成され得る外装は、固体電解質層、正極層および/または負極層を覆うことができる。
【0085】
正極側の外部電極用ペーストに含まれ得る導電性材料としては、Cu、Ag、Ni、Ti、Cr、PtおよびPdからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属または合金の粉末を用いてよい。正極側の外部電極用ペーストに含まれ得るガラス材料としては、ソーダ石灰ガラス、カリガラス、ホウ酸塩系ガラス、ホウケイ酸塩系ガラス、ホウケイ酸バリウム系ガラス、ホウ酸亜鉛系ガラス、ホウ酸バリウム系ガラス、ホウケイ酸ビスマス塩系ガラス、ホウ酸ビスマス亜鉛系ガラス、ビスマスケイ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、アルミノリン酸塩系ガラスおよびリン酸亜鉛系ガラスからなる群から選択される少なくとも1種の粉末であってよい。
【0086】
負極側の外部電極用ペーストに含まれ得る導電性材料としては、Cu、Ag、Ni、Ti、Cr、PtおよびPdからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む金属または合金の粉末を用いてよい。負極側の外部電極用ペーストに含まれ得るガラス材料としては、ソーダ石灰ガラス、カリガラス、ホウ酸塩系ガラス、ホウケイ酸塩系ガラス、ホウケイ酸バリウム系ガラス、ホウ酸亜鉛系ガラス、ホウ酸バリウム系ガラス、ホウケイ酸ビスマス塩系ガラス、ホウ酸ビスマス亜鉛系ガラス、ビスマスケイ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、アルミノリン酸塩系ガラスおよびリン酸亜鉛系ガラスからなる群から選択される少なくとも1種の粉末であってよい。
【0087】
固体電池の製造に用いるペーストに含まれ得る有機材料は特に限定されないが、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂およびポリビニルアルコール樹脂などから成る群から選択される少なくとも1種の高分子材料を用いることができる。
【0088】
ペーストには溶剤が含まれていてよい。かかる溶剤は上記有機材料を溶解可能な限り特に限定されず、例えば、トルエンおよび/またはエタノールなどを用いてよい。
【0089】
導電助剤として、例えば、銀、パラジウム、金、プラチナ、銅およびニッケル等の金属材料、ならびに炭素などから成る少なくとも1種を用いてよい。
【0090】
焼結助剤としては、例えば、リチウム酸化物、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化ビスマス、および酸化リンから成る群から選択される少なくとも1種を用いてよい。
【0091】
基材(例えばPETフィルム)に塗工した各ペーストを、30℃以上50℃以下の温度に加熱したホットプレート上で乾燥させることで、基材上に所定厚みを有する固体電解質層シート、正極層シートおよび負極層シート、正極集電層シート(任意)、負極集電層シート(任意)、外装(又は保護層又は最外層)シート(任意)、正極側の外部電極シートおよび負極側の外部電極シートをそれぞれ形成する。
【0092】
次に、各シートを基材から剥離する。剥離後、積層方向に沿って、各電池構成単位の各構成要素のシートを順に積層する。尚、必要に応じて、適切なタイミングで外装(又は保護層又は最外層)シートを適宜積層してもよい(好ましくは第1層および/または最終層として積層してもよい)。次いで、所定圧力(例えば約50MPa以上約100MPa以下)による熱圧着と、これに続く所定圧力(例えば約150MPa以上約300MPa以下)での等方圧プレスを実施してよい。以上により、所定の積層体を形成することができる。
【0093】
上記で形成した所定の積層体は、必要に応じて、適切な寸法にカットされてよい。
【0094】
正極側および負極側の外部電極シートをそれぞれ基材から剥離し、積層体の正極層および負極層が露出した端面に、それぞれに対応する外部電極シートを配置する。
あるいは、上記の正極側および負極側の外部電極用ペーストを用いて、印刷、特にスクリーン印刷により上記積層体に外部電極を前駆体(又は予備成形体)として形成してもよい。
【0095】
(焼成工程)
焼成工程では、未焼成積層体を焼成に付す。あくまでも例示にすぎないが、焼成は、酸素ガスを含む窒素ガス雰囲気中または大気中で、例えば500℃にて有機材料を除去した後、窒素ガス雰囲気中または大気中で例えば550℃以上1000℃以下で加熱することで実施してよい。焼成は、積層方向(場合によっては積層方向および当該積層方向に対する垂直方向)で未焼成積層体を加圧しながら行ってよい。
【0096】
上述の通り、正極側および負極側の外部電極は、固体電池積層体とともに、上記焼成工程によって、一体焼結体として作製することができる。特に、正極側の外部電極が「Cu、Ag、Ni、Ti、Cr、PtおよびPdからなる群から選択される少なくとも1種の元素」を含むことにより、金属の溶融や非所望な反応等を回避しながら、一体焼結体として固体電池を簡便に製造することができる。このような製造方法により、充放電サイクルがより向上した固体電池を提供することができる。
また、
図6に示す通り、正極側および負極側の外部電極と、正極層および負極層との接触面積を小さくすることができるので、抵抗による失活量を低減させることもできる。このとき外装が正極層および負極層の端面を覆っていてもよい。
【0097】
以下、実施例および比較例により本開示の固体電池についてさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0098】
本開示に従って、以下の表1に示す導電材料(元素)と、ガラス成分としてホウケイ酸ガラスとを含む外部電極を正極側及び負極側の両方に有する積層型固体電池を作製した(実施例1~7および比較例1~5)。
【0099】
実験1) 放電容量比の測定
電池を25℃にて1C 2.5V定電圧定電流充電で3時間充電した後、0.5Vまで定電流放電した。
放電を0.1Cで行ったときの容量を0.1C放電容量とし、3Cで行ったときの容量を3C放電容量とした。
0.1C放電容量に対する3C放電容量の%割合(放電容量比 3C/0.1C(%))を以下の表1に示す。
3C/0.1C(%)の値は、高抵抗あるいは電極反応速度に問題のある電池ほど低くなる。
実施例1~7の固体電池は、いずれも放電容量比 3C/0.1C(%)の値が高く(60%以上)、固体電池として優れていることがわかった。
【0100】
実験2)100℃サイクル特性の測定
固体電池の外部電極の長期信頼性を評価するために、100℃にて実験1と同じ充放電条件(放電3C)で500回充放電を行い、2回目の放電容量に対する500回目の放電容量の割合(容量維持率 500回目容量/2回目容量)を以下の表1に示した。この値が100に近いほど長期で放電容量が維持される優れた固体電池であることを示す。
実施例1~7の固体電池は、いずれも長期で放電容量に優れる特性を示した(容量維持率(500回目容量/2回目容量)85%以上)。
【0101】
【0102】
表中、「異常あり」とは、固体電池の表面が変形または変色したことを示す。また、表中の記号「×」は、充放電の試験ができなかったことを示す。
【0103】
上記の実験1、2の結果から、比較例1~5の固体電池では、高抵抗なために3C/0.1C放電容量比の値が低いか、あるいは焼結物の固体電池に対する接着性あるいは構造維持性が不足するため崩落するか、あるいは金属の融点が焼成温度に対して低いために溶融大粒子化して外部電極構造を維持できないことがわかった。また、充放電できたとしても500サイクルの充放電での容量劣化が著しいこともわかった。
【0104】
このように、本開示に従う固体電池では、充電サイクルにおいて電池容量低下が少ないことが実証された。
【0105】
以上、本開示の固体電池について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の態様が考えられることを当業者は容易に理解されよう。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本開示の固体電池は、電池使用や蓄電が想定される様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本開示の固体電池は、エレクトロニクス実装分野で用いることができる。また、電気・電子機器などが使用される電気・情報・通信分野(例えば、携帯電話、スマートフォン、ノートパソコンおよびデジタルカメラ、活動量計、アームコンピューター、電子ペーパー、ウェアラブルデバイス、RFIDタグ、カード型電子マネー、スマートウォッチなどの小型電子機などを含む電気・電子機器分野あるいはモバイル機器分野)、家庭・小型産業用途(例えば、電動工具、ゴルフカート、家庭用・介護用・産業用ロボットの分野)、大型産業用途(例えば、フォークリフト、エレベーター、湾港クレーンの分野)、交通システム分野(例えば、ハイブリッド車、電気自動車、バス、電車、電動アシスト自転車、電動二輪車などの分野)、電力系統用途(例えば、各種発電、ロードコンディショナー、スマートグリッド、一般家庭設置型蓄電システムなどの分野)、医療用途(イヤホン補聴器などの医療用機器分野)、医薬用途(服用管理システムなどの分野)、ならびに、IoT分野、宇宙・深海用途(例えば、宇宙探査機、潜水調査船などの分野)などにも本開示の固体電池を利用することができる。
【符号の説明】
【0107】
1 正極層
2 負極層
3 固体電解質
4 正極側の外部電極
5 負極側の外部電極
6,7 外装(又は保護層又は最外層)
10,100 固体電池
110 正極層
120 負極層
130 固体電解質
150 外部電極(又は端面電極)
150A 正極側の外部電極(又は端面電極)
150B 負極側の外部電極(又は端面電極)