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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/325 20060101AFI20240214BHJP
   B41J 17/30 20060101ALI20240214BHJP
   B41J 35/04 20060101ALI20240214BHJP
   B41J 31/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B41J2/325 A
B41J17/30 B
B41J35/04 A
B41J31/00 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021555701
(86)(22)【出願日】2019-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2019044573
(87)【国際公開番号】W WO2021095171
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】久保田 正志
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-121676(JP,A)
【文献】特開2012-066488(JP,A)
【文献】特開2013-022797(JP,A)
【文献】特開2010-125803(JP,A)
【文献】特開平08-222837(JP,A)
【文献】特開2015-052719(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0215209(US,A1)
【文献】実開平04-026750(JP,U)
【文献】特開平10-138593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/325
B41J 17/30
B41J 35/04
B41J 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホログラムを含む転写層を有する熱転写リボンから、前記転写層を被転写媒体に転写するように構成された印刷装置であって、
サーマルヘッドを含むヘッド機構と、
前記熱転写リボンの搬送経路を規定して前記熱転写リボンを前記搬送経路に沿って搬送するリボン搬送部と、
前記被転写媒体の搬送経路を規定して前記被転写媒体を前記搬送経路に沿って搬送する媒体搬送部と、を備え、
前記熱転写リボンの搬送経路と前記被転写媒体の搬送経路との各々は、前記被転写媒体に重ねられた前記熱転写リボンが前記サーマルヘッドから熱および圧力を受ける転写位置と、前記転写位置よりも下流にて前記被転写媒体からの前記熱転写リボンの剥離が開始される剥離位置とを含み、
前記剥離位置から前記熱転写リボンが搬送される方向と前記剥離位置から前記被転写媒体が搬送される方向とのなす角である剥離角が、30°以下であり、
前記リボン搬送部は、前記転写位置よりも下流で前記熱転写リボンに当接して前記熱転写リボンが搬送される方向を規定するように構成された経路規定部材を含み、
前記ヘッド機構は、前記サーマルヘッドに対して前記熱転写リボンの搬送経路と反対側で前記サーマルヘッドに接続された可動部であって、前記熱転写リボンと前記サーマルヘッドとの間の距離を変えるように前記熱転写リボンの搬送経路に対する前記サーマルヘッドの位置を変える前記可動部と、前記可動部に対して前記サーマルヘッドと反対側で前記可動部を支持する支持部とを含み、
前記経路規定部材は、前記支持部に接続されており、
前記経路規定部材は、前記剥離位置から下流にて前記熱転写リボンに当接する傾斜面を有し、前記剥離位置から前記傾斜面に沿って前記熱転写リボンが搬送されることにより、前記剥離角が規定される
印刷装置。
【請求項2】
基材と転写層とを有する熱転写リボンから、前記転写層を被転写媒体に転写するように構成された印刷装置であって、前記転写層は、前記基材に接する剥離層と、硬化性樹脂を含み前記剥離層に接する樹脂層とを備え、
前記印刷装置は、
サーマルヘッドを含むヘッド機構と、
前記熱転写リボンの搬送経路を規定して前記熱転写リボンを前記搬送経路に沿って搬送するリボン搬送部と、
前記被転写媒体の搬送経路を規定して前記被転写媒体を前記搬送経路に沿って搬送する媒体搬送部と、を備え、
前記熱転写リボンの搬送経路と前記被転写媒体の搬送経路との各々は、前記被転写媒体に重ねられた前記熱転写リボンが前記サーマルヘッドから熱および圧力を受ける転写位置と、前記転写位置よりも下流にて前記被転写媒体からの前記熱転写リボンの剥離が開始される剥離位置とを含み、
前記剥離位置から前記熱転写リボンが搬送される方向と前記剥離位置から前記被転写媒体が搬送される方向とのなす角である剥離角が、30°以下であり、
前記リボン搬送部は、前記転写位置よりも下流で前記熱転写リボンに当接して前記熱転写リボンが搬送される方向を規定するように構成された経路規定部材を含み、
前記ヘッド機構は、前記サーマルヘッドに対して前記熱転写リボンの搬送経路と反対側で前記サーマルヘッドに接続された可動部であって、前記熱転写リボンと前記サーマルヘッドとの間の距離を変えるように前記熱転写リボンの搬送経路に対する前記サーマルヘッドの位置を変える前記可動部と、前記可動部に対して前記サーマルヘッドと反対側で前記可動部を支持する支持部とを含み、
前記経路規定部材は、前記支持部に接続されており、
前記経路規定部材は、前記剥離位置から下流にて前記熱転写リボンに当接する傾斜面を有し、前記剥離位置から前記傾斜面に沿って前記熱転写リボンが搬送されることにより、前記剥離角が規定される
印刷装置。
【請求項3】
前記剥離位置から前記熱転写リボンが搬送される方向と前記剥離位置から前記被転写媒体が搬送される方向とのなす角が、15°以下である
請求項1または2に記載の印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写リボンを用いる印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱転写方式の印刷装置は、熱転写リボンを用いて文字や画像を被転写媒体に形成する。熱転写リボンは、基材と、基材に支持された転写層とを備える。印刷装置は、熱転写リボンの転写層を被転写媒体に接触させ、熱転写リボンのなかの選択された領域を被転写媒体に向けて押圧するとともに当該領域に熱を加える。これにより、上記選択された領域である転写対象領域の転写層が被転写媒体に転写される。転写対象領域が文字や画像を表すように定められることにより、転写層からなる文字や画像が被転写媒体上に形成される。
【0003】
熱転写リボンの一例は、光学機能層を転写層に含んでいる。光学機能層は、ホログラムを構成する回折構造を有する。回折構造による光の干渉や回折は、光学機能層の色を観察角度に応じて変えるように作用し、これにより、光学機能層が転写された印刷物の偽造防止効果や装飾性が高められる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-66488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱転写リボンにおいて、転写層は、基材に接する剥離層と、被転写媒体に接触させられる接着層とを備えている。転写層が光学機能層を備える場合、光学機能層は、剥離層と接着層とに挟まれている。熱転写リボンのなかで、印刷装置から熱および圧力を受けた転写対象領域では、基材と剥離層との間の密着性が下がる一方で、接着層と被転写媒体との間の密着性が上がる。その結果、転写層が基材から剥がれて被転写媒体に定着する。
【0006】
ここで、熱転写リボンに加えられる熱は、転写対象領域の周辺領域にも伝わりやすく、周辺領域でも、基材と剥離層との間の密着性が下がる。一方で、熱転写リボンに加えられる圧力は、周辺領域に伝わり難く、周辺領域では、接着層と被転写媒体との間の密着性は上がりにくい。すなわち、周辺領域の転写層は、基材から剥がれやすい一方で、被転写媒体には定着しにくい。周辺領域の転写層が基材から剥がれると、被転写媒体上では、転写対象領域の転写層からなる転写部の周囲に、転写部から延びる辺縁部が形成される。辺縁部は、基材から剥がれた周辺領域の転写層であって、被転写媒体から取れやすい。辺縁部が形成されていると、熱転写リボンを用いた転写の後工程において、被転写媒体から取れた辺縁部が工程の円滑な進行を妨げる場合がある。
【0007】
特に、微細な凹凸からなる回折構造が形成された光学機能層は、インクの塗布によって形成される有色の層と比較して硬いため、転写層が光学機能層を含む場合、周辺領域の転写層が転写対象領域の転写層に連なって基材から剥がれやすい。すなわち、辺縁部が形成されやすい。
【0008】
本発明は、辺縁部の形成を抑えることのできる印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する印刷装置は、ホログラムを含む転写層を有する熱転写リボンから、前記転写層を被転写媒体に転写するように構成された印刷装置であって、サーマルヘッドを含むヘッド機構と、前記熱転写リボンの搬送経路を規定して前記熱転写リボンを前記搬送経路に沿って搬送するリボン搬送部と、前記被転写媒体の搬送経路を規定して前記被転写媒体を前記搬送経路に沿って搬送する媒体搬送部と、を備え、前記熱転写リボンの搬送経路と前記被転写媒体の搬送経路との各々は、前記被転写媒体に重ねられた前記熱転写リボンが前記サーマルヘッドから熱および圧力を受ける転写位置と、前記転写位置よりも下流にて前記被転写媒体からの前記熱転写リボンの剥離が開始される剥離位置とを含み、前記剥離位置から前記熱転写リボンが搬送される方向と前記剥離位置から前記被転写媒体が搬送される方向とのなす角が、30°以下である。
【0010】
上記課題を解決する印刷装置は、基材と転写層とを有する熱転写リボンから、前記転写層を被転写媒体に転写するように構成された印刷装置であって、前記転写層は、前記基材に接する剥離層と、硬化性樹脂を含み前記剥離層に接する樹脂層とを備え、前記印刷装置は、サーマルヘッドを含むヘッド機構と、前記熱転写リボンの搬送経路を規定して前記熱転写リボンを前記搬送経路に沿って搬送するリボン搬送部と、前記被転写媒体の搬送経路を規定して前記被転写媒体を前記搬送経路に沿って搬送する媒体搬送部と、を備え、前記熱転写リボンの搬送経路と前記被転写媒体の搬送経路との各々は、前記被転写媒体に重ねられた前記熱転写リボンが前記サーマルヘッドから熱および圧力を受ける転写位置と、前記転写位置よりも下流にて前記被転写媒体からの前記熱転写リボンの剥離が開始される剥離位置とを含み、前記剥離位置から前記熱転写リボンが搬送される方向と前記剥離位置から前記被転写媒体が搬送される方向とのなす角が、30°以下である。
【0011】
上記各構成によれば、上記角度が大きい場合と比較して、熱転写リボンにおける基材と転写層との間での剥離に要する力である密着力が大きくなる。また、熱転写リボンのなかで、サーマルヘッドから熱および圧力を受けた領域よりも、熱のみを受けた領域の方が、上記密着力が大きくなる。したがって、熱および圧力を受けた転写対象領域からその周辺領域へ熱が伝わった場合でも、周辺領域にて転写層が基材から剥離することが抑えられる。それゆえ、辺縁部の形成が抑えられる。
【0012】
上記構成において、前記剥離位置から前記熱転写リボンが搬送される方向と前記剥離位置から前記被転写媒体が搬送される方向とのなす角が、15°以下であってもよい。
上記構成によれば、上記密着力がより大きくなり、また、熱および圧力を受けた領域と、熱のみを受けた領域との上記密着力の差がより大きくなる。したがって、辺縁部の形成がより好適に抑えられる。
【0013】
上記構成において、前記リボン搬送部は、前記転写位置よりも下流で前記熱転写リボンに当接して前記熱転写リボンが搬送される方向を規定するように構成された経路規定部材を含み、前記経路規定部材は、前記ヘッド機構のなかの前記サーマルヘッドとは異なる部分に接続されていてもよい。
【0014】
上記構成において、前記ヘッド機構は、前記熱転写リボンの搬送経路に対する前記サーマルヘッドの位置を変える可動部を含み、前記可動部は、前記サーマルヘッドに対して前記熱転写リボンの搬送経路と反対側で前記サーマルヘッドに接続されており、前記経路規定部材は、前記ヘッド機構のなかの前記可動部に対して前記サーマルヘッドと反対側に位置する部分に接続されていてもよい。
【0015】
上記各構成によれば、経路規定部材がサーマルヘッドに接続されている場合と比較して、経路規定部材が高温になることが抑えられ、その結果、経路規定部材から熱転写リボンに熱が伝わって剥離位置において熱転写リボンが高温になることが抑えられる。そのため、熱転写リボンにおける密着力の低下を抑えることができる。これにより、辺縁部の形成をより好適に抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、熱転写リボンを用いた転写に際して、辺縁部の形成を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】印刷装置の一実施形態について、印刷装置が用いる熱転写リボンの層構造を示す図。
図2】剥離角の一例を示す図。
図3】剥離角の他の例を示す図。
図4】一実施形態の印刷装置の構成を示す図。
図5】転写対象領域と周辺領域との配置を示す図。
図6】剥離角と密着力の関係を示す図。
図7】剥離時の温度と密着力の関係を示す図。
図8】一実施形態の印刷装置の製造対象を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1図8を参照して、印刷装置の一実施形態を説明する。
[熱転写リボンの構成]
本実施形態の印刷装置が用いる熱転写リボンの構成を説明する。
【0019】
図1が示すように、熱転写リボン10は、帯状に延びるシートであり、基材11と転写層12とを備えている。転写層12は、剥離層13と、光学機能層14と、接着層15とを備えている。剥離層13は基材11に接している。接着層15は、熱転写リボン10における基材11と反対側の最外部に位置する。光学機能層14は剥離層13と接着層15とに挟まれている。
【0020】
被転写媒体への転写層12の転写に際しては、接着層15と被転写媒体とが接するように、熱転写リボン10と被転写媒体とが重ねられ、転写層12に対して基材11の位置する側から、熱転写リボン10に熱および圧力が加えられる。熱転写リボン10のなかで、熱および圧力を受ける領域が転写対象領域である。
【0021】
基材11は、樹脂基材である。基材11は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、セルロースを原料とする薄膜であるセロハン、ポリプロピレン等の耐熱性に優れた材料から形成されていることが好ましい。特に、基材11の材料としては、ポリエチレンテレフタレートが好適に用いられる。基材11の厚さは、例えば、4μm以上50μm以下である。
【0022】
剥離層13は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ブチラール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂等を含む。特に、剥離層13の主成分としては、アクリル系材料が好適に用いられる。剥離層13の厚さは、例えば、0.1μm以上5μm以下である。
光学機能層14は、ホログラムを構成する回折構造が形成された回折構造層を含んでいる。回折構造は、レリーフ構造等の微細な凹凸構造である。回折構造層は、樹脂層の一例であって、光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等の硬化性樹脂を主成分として含む。光学機能層14は、回折構造層に加えて、回折構造層から射出される光の強度を高めるための反射層を備えていてもよい。反射層は、例えば、透明誘電体から形成される。光学機能層14の厚さは、例えば、0.1μm以上5μm以下である。
【0023】
接着層15は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等を主成分として含む。接着層15の厚さは、例えば、0.1μm以上10μm以下である。
なお、転写層12は、剥離層13、光学機能層14、接着層15に加えて、剥離層13と光学機能層14との間の密着性を高めるための層等の他の層を備えていてもよい。転写層12の総厚は、例えば、0.3μm以上50μm以下である。なお、各層の主成分とは、それぞれの層において最も高い含有率を有する成分である。
【0024】
辺縁部の形成を抑えるためには、基材11と剥離層13との間の密着性を高めることによって、基材11と転写層12との間での剥離に要する力である密着力Fを大きくし、熱転写リボン10の加熱によって密着力Fが低下したとしても、密着力Fが十分な大きさを保つようにすればよい。密着力Fが十分な大きさであれば、熱転写リボン10を被転写媒体から剥がそうとした場合に、熱圧によって接着層15と被転写媒体との間の密着性が高くなっている転写対象領域でのみ、転写層12が被転写媒体上に保持されて基材11から剥がれる。
【0025】
密着力Fを大きくする手段の1つとして、熱転写リボン10の材料の調整が挙げられる。
例えば、基材11がPETからなる場合、基材11に対する剥離層13の密着性を高めるために、剥離層13の材料に、PETに対して高い密着性を有する材料である高密着性材料を混合することが考えられる。高密着性材料は、PETと親和性の高い樹脂であって、例えば、ポリエステルである。しかしながら、剥離層13の主成分には、剥離層13の硬さや耐薬品性の担保のために、アクリル系材料が用いられる。ポリエステルのようにPETと親和性の高い材料は、アクリル系材料と相分離しやすいため、剥離層13への添加に適していない。
【0026】
また、光学機能層14の回折構造層には、転写時の加熱によって微細な凹凸が変形することを抑えるため、言い換えれば、回折構造の耐熱性を高めるために、主成分の硬化性樹脂に対応する硬化剤、すなわち、イソシアネート等の熱硬化剤や紫外線硬化剤が添加されている。それゆえに、光学機能層14を含む転写層12は、インクの塗布によって形成される有色の層を含む転写層、すなわち、色素による色を呈する領域の形成のために用いられる熱転写リボンの転写層よりも硬い。
【0027】
硬化剤は拡散性を有するため、光学機能層14に硬化剤を含有させると、硬化剤は剥離層13まで拡散される。そのため、剥離層13が、高密着性材料を含んでいると、こうした材料と硬化剤とが反応して基材11と剥離層13との間の密着性が高くなりすぎる場合がある。基材11と剥離層13との間の密着性が高くなりすぎると、転写対象領域でも転写層12が基材11から剥がれにくくなり、転写の精度が低くなってしまう。
【0028】
硬化剤の拡散の程度を制御することは困難であるため、剥離層13への高密着性材料の添加量の調整によって基材11と剥離層13との間の密着性を制御することは困難である。これに対し、基材11の表面に、メラミンからなる膜を形成することで、基材11と剥離層13との間の密着性を制御することも可能ではあるが、メラミンからなる膜の形成には専用の設備が必要であるため、熱転写リボン10の製造に要するコストの増大が生じる。
【0029】
このように、光学機能層14を備える熱転写リボン10においては、材料の調整によって密着力Fを大きくすることが困難である。また、材料の調整による密着力Fの増大が可能であったとしても、使用可能な材料やその配合量が厳しく制限されるため、熱転写リボン10の製造に要する負荷が増大する。そこで、本願の発明者は、被転写媒体から熱転写リボン10を剥離する角度および剥離時の熱転写リボン10の温度に着目して、これらと密着力Fとの関係を分析し、その結果、印刷装置の構成を改良することで、辺縁部の発生を抑えることが可能であることを見出した。
【0030】
[剥離角の定義]
本実施形態の印刷装置の説明に先立ち、剥離角αについて説明する。熱転写方式の印刷装置は、被転写媒体に転写媒体を接触させ、転写対象領域に対して熱および圧力を加えた後に、被転写媒体から転写媒体を剥離する。転写媒体は熱転写リボンであり、被転写媒体はフィルムや紙である。
【0031】
被転写媒体に対する転写媒体の剥離の開始点において、転写媒体と被転写媒体との間に形成される角度が剥離角αである。以下、剥離角αについて、具体的に図面を参照して説明する。
【0032】
図2が示すように、印刷装置においては、サーマルヘッド100によって、加熱および加圧が行われる。転写媒体Maと被転写媒体Mbとの各々は、転写位置Ptと剥離位置Peとを通るように搬送される。
転写位置Ptにおいて、転写媒体Maは、被転写媒体Mbに重ねられ、サーマルヘッド100から熱および圧力を受ける。
【0033】
転写位置Ptよりも搬送経路の下流において、転写媒体Maは被転写媒体Mbから引き剥がされる。被転写媒体Mbから転写媒体Maが離れ始める位置が、剥離位置Peである。すなわち、剥離位置Peから転写媒体Maが搬送される方向と、剥離位置Peから被転写媒体Mbが搬送される方向とは互いに異なる方向となる。この剥離位置Peから転写媒体Maが搬送される方向である第1の方向と、剥離位置Peから被転写媒体Mbが搬送される方向である第2の方向とのなす角が、剥離角αである。言い換えれば、剥離角αは、剥離位置Peにおいて転写媒体Maの搬送経路と被転写媒体Mbの搬送経路との間に形成される角度である。
【0034】
転写媒体Maの搬送経路は、転写媒体Maの搬送機構によって規定され、被転写媒体Mbの搬送経路は、被転写媒体Mbの搬送機構によって規定される。各媒体の搬送機構には、媒体の送り出しや回収を行うローラー等の機構や、搬送経路の途中で媒体を支持する機構が含まれる。
【0035】
例えば、転写媒体Maの搬送される方向が、転写媒体Maの搬送機構が含む経路規定部材110によって規定され、これによって、剥離位置Peや剥離角αが決まる。経路規定部材110は、転写位置Ptよりも下流で転写媒体Maに当接して転写媒体Maの搬送される方向を変える。
【0036】
図2が示す例では、経路規定部材110は、転写位置Ptよりも下流で、被転写媒体Mbに重ねられた転写媒体Maに当接する位置に配置されている。そして、経路規定部材110と転写媒体Maとの当接位置の直後に剥離位置Peが形成される。すなわち、媒体の流れに沿った方向での経路規定部材110の位置によって、剥離位置Peが決まる。剥離位置Peの上流と下流とで、被転写媒体Mbが搬送される方向は変わらない。剥離位置Peよりも下流において、転写媒体Maの通る点が、転写媒体Maを支持する部材や転写媒体Maを巻き取るローラー等の位置によって所定の位置に規定されている場合には、剥離位置Peに応じて剥離角αが変わる。したがって、媒体の流れに沿った方向での経路規定部材110の位置によって、剥離角αが決まる。
【0037】
図3が示す例では、経路規定部材110は、転写位置Ptよりも下流、かつ、剥離位置Peよりも下流で、被転写媒体Mbから剥離された転写媒体Maに当接する位置に配置されている。剥離位置Peは転写位置Ptの付近に形成され、転写媒体Maは、剥離位置Peから経路規定部材110との当接位置に向かう方向に搬送される。剥離位置Peの上流と下流とで、被転写媒体Mbが搬送される方向は変わらない。この場合、剥離位置Peに対する経路規定部材110の位置によって、剥離角αが決まる。言い換えれば、媒体の流れに沿った方向と当該方向に直交する高さ方向での経路規定部材110の位置によって、剥離角αが決まる。
【0038】
上述した例の他にも、経路規定部材110は、例えば、所定の角度の傾斜面を有し、当該傾斜面が、剥離位置Peから下流にて、転写媒体Maに当接されてもよい。この場合、転写媒体Maは、剥離位置Peから傾斜面に沿って搬送される。すなわち、経路規定部材110は、剥離位置Peから転写媒体Maが搬送される方向を規定し、これによって、剥離角αが決まる。
【0039】
いずれの場合であれ、経路規定部材110は、経路規定部材110と転写媒体Maとの当接位置の上流と下流とで、転写媒体Maが搬送される方向を変える機能を有する。そして、経路規定部材110が転写媒体Maの搬送される方向を変えることに起因して、剥離位置Peおよび剥離角αの少なくとも一方が決まる。
【0040】
なお、印刷装置には、経路規定部材110が設けられていなくてもよく、転写媒体Maを巻き取るローラー等の位置によって、剥離位置Peおよび剥離角αが規定されてもよい。また、被転写媒体Mbが搬送される方向が搬送経路の途中で変えられ、このことが、剥離位置Peや剥離角αの規定に寄与してもよい。
【0041】
[印刷装置の構成]
本実施形態の印刷装置の構成を説明する。本実施形態の印刷装置は、剥離角αが30°以下となるように構成されている。
【0042】
図4が示すように、本実施形態の印刷装置20は、サーマルヘッド31を含むヘッド機構30と、サーマルヘッド31と対向するプラテンローラー40と、熱転写リボン10の搬送機構であるリボン搬送部50と、被転写媒体19の搬送機構である媒体搬送部60とを備える。
【0043】
リボン搬送部50は、熱転写リボン10の搬送経路を規定し、熱転写リボン10を当該搬送経路に沿って搬送する。媒体搬送部60は、被転写媒体19の搬送経路を規定し、被転写媒体19を当該搬送経路に沿って搬送する。熱転写リボン10の搬送経路は、第1の搬送経路の一例であり、被転写媒体19の搬送経路は、第2の搬送経路の一例である。プラテンローラー40は、被転写媒体19を支持し、被転写媒体19の搬送経路の幅方向を軸方向として回転する。
【0044】
熱転写リボン10の搬送経路および被転写媒体19の搬送経路の各々は、転写位置Ptと、剥離位置Peとを含む。
転写位置Ptは、被転写媒体19に重ねられた熱転写リボン10がサーマルヘッド31から熱および圧力を受ける位置である。転写位置Ptでは、被転写媒体19と転写層12とが接するように被転写媒体19に熱転写リボン10が接し、熱転写リボン10と被転写媒体19とが、サーマルヘッド31とプラテンローラー40との間に挟まれる。熱および圧力は、転写層12に対して基材11の位置する側から、熱転写リボン10に加えられる。
【0045】
剥離位置Peは、転写位置Ptよりも下流であって、被転写媒体19からの熱転写リボン10の剥離が開始される位置である。被転写媒体19から熱転写リボン10が剥離されるとき、一部の転写層12、すなわち、転写される部分の転写層12は、基材11から剥がれて被転写媒体19上に残る。
【0046】
サーマルヘッド31は、複数の発熱抵抗体を備える。複数の発熱抵抗体は、通電により選択的に発熱可能に構成されており、熱転写リボン10および被転写媒体19の搬送経路の幅方向に沿って並んでいる。熱転写リボン10は、転写位置Ptにおいて、発熱抵抗体と対向する。転写位置Ptでは、発熱した発熱抵抗体が、被転写媒体19に向けて熱転写リボン10を押圧する。熱転写リボン10のなかで、発熱した発熱抵抗体が押し付けられた部分が、転写対象領域である。発熱抵抗体による押圧によって、転写対象領域の転写層12が被転写媒体19に転写され、被転写媒体19上に、ホログラムを含むドットが形成される。1つの発熱抵抗体によって押圧される領域の径、すなわちドット径は、例えば、10μm以上500μm以下である。
【0047】
サーマルヘッド31は、発熱抵抗体への通電を制御する制御部を備え、当該制御部は、印刷対象のデータに応じた位置の発熱抵抗体を発熱させる。プラテンローラー40とリボン搬送部50と媒体搬送部60との協働によって、熱転写リボン10および被転写媒体19が移動されることにより、被転写媒体19上に、ドットの列が順に形成される。これにより、ドットの集合からなる印刷対象の文字や画像が被転写媒体19上に形成される。
【0048】
本実施形態の印刷装置20においては、剥離角αが30°以下となるように、リボン搬送部50と媒体搬送部60とが構成されている。すなわち、剥離角αが30°以下となるように、リボン搬送部50が熱転写リボン10の搬送経路を規定するとともに、媒体搬送部60が被転写媒体19の搬送経路を規定している。
【0049】
熱転写リボン10は、使用前においてロール状に巻かれている。リボン搬送部50は、ロールから熱転写リボン10を転写位置Ptに向けて送り出す送り出しローラー、剥離位置Peよりも下流で使用済みの熱転写リボン10を巻き取る巻き取りローラー、送り出しローラーと巻き取りローラーとの間で熱転写リボン10を支持する複数の支持ローラーを含む。
【0050】
被転写媒体19は、所定の長さに断裁された紙やフィルムであってもよいし、ロールから供給される帯状のフィルムであってもよい。媒体搬送部60は、被転写媒体19を転写位置Ptに向けて送り出す送り出し機構、剥離位置Peよりも下流で被転写媒体19を回収する回収機構、送り出し機構と回収機構との間で、被転写媒体19を支持するローラーや支持体を含む。
【0051】
リボン搬送部50は、さらに、経路規定部材51を含んでいる。経路規定部材51は、転写位置Ptよりも下流で、熱転写リボン10における基材11の位置する側から熱転写リボン10に当接する。そして、経路規定部材51が熱転写リボン10に当接することにより、経路規定部材51と熱転写リボン10との当接位置の上流と下流とで、熱転写リボン10の搬送される方向が変わる。経路規定部材51は、ヘッド機構30に接続されている。
【0052】
図4が示す例では、経路規定部材51は、傾斜面を有し、当該傾斜面が熱転写リボン10に当接する。剥離位置Peは、経路規定部材51と熱転写リボン10とが当接している部分のなかの上流に位置する端部付近に形成される。熱転写リボン10は、剥離位置Peから経路規定部材51の傾斜面に沿って搬送される。このように、経路規定部材51の位置によって剥離位置Peが規定され、傾斜面の角度によって剥離角αが規定される。
【0053】
なお、経路規定部材51が剥離位置Peおよび剥離角αを規定する構成は、図4に示した構成と異なってもよく、印刷装置20においては、上述した経路規定部材110による剥離位置Peや剥離角αの規定の構成のいずれもが採用可能である。要は、経路規定部材51によって、熱転写リボン10の搬送される方向が規定され、このことが、剥離角αを規定する要素の1つになっていればよい。
【0054】
剥離角αが30°以下であれば、密着力Fの増大に起因して、辺縁部の形成を抑えることができる。辺縁部の形成をより抑えるためには、剥離角αは、15°以下であることがより好ましい。また、印刷装置20の製作を容易にするためには、剥離角αは、2°以上であることが好ましい。
【0055】
ヘッド機構30における経路規定部材51の接続位置について説明する。ヘッド機構30は、サーマルヘッド31に加えて、熱転写リボン10の搬送経路に対するサーマルヘッド31の位置を変える可動部32を備えている。言い換えれば、可動部32は、可動部32が動くことで、熱転写リボン10とサーマルヘッド31との間の距離を変える。可動部32は、サーマルヘッド31に対して、熱転写リボン10の搬送経路と反対側で、サーマルヘッド31に接続されている。熱転写リボン10から被転写媒体19への転写の開始に際しては、可動部32がサーマルヘッド31を熱転写リボン10に近接させる。
【0056】
経路規定部材51は、ヘッド機構30のなかで、サーマルヘッド31とは異なる部分に接続されている。詳細には、経路規定部材51は、ヘッド機構30のなかで、可動部32に対してサーマルヘッド31と反対側に位置する部分である支持部33に支持されている。支持部33は、例えば、可動部32およびサーマルヘッド31を支持するフレームとして機能する部分である。
【0057】
経路規定部材51は、剥離位置Peの付近で熱転写リボン10に接するため、経路規定部材51が高温であると、その熱が熱転写リボン10に伝わり、剥離位置Peでの熱転写リボン10の温度が上昇する。しかしながら、熱転写リボン10の密着力Fは、熱転写リボン10の温度が低いほど大きくなるため、剥離位置Peでの熱転写リボン10の温度は低いことが好ましい。
【0058】
本実施形態では、経路規定部材51が、ヘッド機構30のなかで、サーマルヘッド31とは異なる部分に接続されているため、発熱により高温となるサーマルヘッド31に経路規定部材51が接続されている場合と比較して、経路規定部材51が高温になり難い。したがって、経路規定部材51から熱転写リボン10に伝わる熱量を抑えられるため、剥離位置Peでの熱転写リボン10の温度を低く抑えることができる。
【0059】
特に、フレームとして機能する支持部33は、広い表面積を有するため、放熱性が高く、高温になり難い。したがって、経路規定部材51が支持部33に接続されていることで、経路規定部材51の温度がより低く抑えられ、その結果、剥離位置Peでの熱転写リボン10の温度をより低く抑えることができる。
【0060】
なお、印刷装置20には、経路規定部材51が設けられていなくてもよく、熱転写リボン10を巻き取るローラー等の位置によって、剥離角αが規定されてもよい。また、被転写媒体19が搬送される方向が搬送経路の途中で変えられ、このことが、剥離角αを規定する要素の1つになっていてもよい。また、経路規定部材51の冷却機構を設けることによって、経路規定部材51の温度を低下させ、これによって、剥離位置Peでの熱転写リボン10の温度を低く抑えてもよい。
【0061】
[剥離角および剥離時の温度と密着力との関係]
図5図7を参照して、剥離角αおよび剥離時の熱転写リボン10の温度と、熱転写リボン10における基材11と剥離層13との間の密着力Fとの関係の解析結果を説明する。
【0062】
まず、密着力Fの測定試験に用いたサンプルの構成について説明する。
図5が示すように、印刷装置20による転写に際しては、熱転写リボン10に、サーマルヘッド31の発熱抵抗体から直接に熱および圧力を受ける転写対象領域R1と、転写対象領域R1から熱が伝わる周辺領域R2とが生じる。周辺領域R2には圧力が加えられない。周辺領域R2は、転写対象領域R1に隣接する。
【0063】
測定試験に際しては、転写対象領域R1に対応する第1サンプルS1と、周辺領域R2に対応する第2サンプルS2とを作製した。第1サンプルS1は、熱転写リボン10に熱および圧力を加えたサンプルである。第2サンプルS2は、熱転写リボン10に熱のみを加えたサンプルである。第1サンプルS1は、発熱抵抗体アレイを備えるサーマルヘッドを搭載した転写機を用いて作製した。発熱抵抗体アレイの抵抗は3000Ωである。発熱抵抗体アレイに、24Vの電圧,総計3msの電気的エネルギーを与えてサンプルを押圧し、第1サンプルS1を作製した。押圧力は2.5kgfとした。第2サンプルS2には、80℃の熱を、5秒間与えた。
【0064】
各サンプルS1,S2における熱転写リボン10の厚さと材料は下記である。各サンプルS1,S2は、20mmの幅を有する帯状の形状に形成した。
<厚さおよび材料>
基材 厚さ:12μm
材料:ポリエチレンテレフタレート
剥離層 厚さ:0.8μm
材料:アクリル系剥離剤(MCS5041:大日本インキ化学工業社製)
光学機能層 厚さ:0.8μm
材料:[主剤]アクリルポリオール樹脂(MCA4039:DIC社製)
[硬化剤]イソシアネート硬化剤(MCX102:DIC社製)
接着層 厚さ:0.6μm
材料:エポキシ樹脂(EP1001:三菱ケミカル社製),ポリエステル樹脂(Vy300:東洋紡社製)
【0065】
次に、密着力Fの測定試験の試験方法を説明する。測定試験においては、試験機のステージに、ステージ表面に接着層15が接するようにサンプルを固定し、鉛直下方向に対するステージ表面の角度を対象の剥離角αとして、基材11に荷重をかけることにより基材11を鉛直下方向に引いた。基材11にかける荷重を徐々に大きくし、基材11が剥離層13から剥がれた時の荷重を密着力Fとした。また、サンプルの温度を変更して密着力Fの測定を行った。サンプルの加熱は、ステージの加熱によって行った。
【0066】
図6は、第1サンプルS1および第2サンプルS2の各々についての、剥離角αが15°である場合と剥離角αが90°である場合との密着力Fの測定結果を示す。この測定は、サンプルを加熱せずに行った。すなわち、サンプルの温度は室温である。室温は23℃であった。
【0067】
図6が示すように、第1サンプルS1と第2サンプルS2とのいずれについても、剥離角αが15°である場合の密着力Fは、剥離角αが90°である場合の密着力Fと比較して顕著に大きい。さらに、剥離角αが90°である場合には、第1サンプルS1と第2サンプルS2との密着力Fの差がほぼないことに対し、剥離角αが15°である場合には、第2サンプルS2の密着力Fは、第1サンプルS1の密着力Fよりも明らかに大きかった。
【0068】
熱転写リボン10が被転写媒体19から引き剥がされるとき、転写対象領域R1では、転写層12が被転写媒体19に強く密着しているため、密着力Fが大きい場合、すなわち、転写層12と基材11との間の密着性が大きい場合でも、転写層12が基材11から剥がれて被転写媒体19上に残る。一方で、周辺領域R2では、転写層12と被転写媒体19との間の密着性が低いため、密着力Fが大きいと、熱転写リボン10が被転写媒体19から引き剥がされるときに、転写層12が基材11とともに被転写媒体19から剥離される。したがって、密着力Fが大きい方が、辺縁部は形成されにくい。
【0069】
さらに、転写対象領域R1よりも周辺領域R2の密着力Fが大きければ、仮に転写対象領域R1と周辺領域R2とで転写層12と被転写媒体19との間の密着性が同程度であったとしても、転写対象領域R1よりも周辺領域R2において、転写層12が基材11から剥がれ難い。実際には、上述のように、周辺領域R2における転写層12と被転写媒体19との間の密着性は、転写対象領域R1の当該密着性と比較して小さいため、なおさら、周辺領域R2にて、転写層12が基材11から剥がれ難くなる。
【0070】
以上のことから、剥離角αが30°以下であれば、辺縁部の形成が抑えられ、剥離角αが15°以下であれば、辺縁部の形成がより的確に抑えられる。従来の熱転写方式の印刷装置においては、被転写媒体からの熱転写リボンの剥離に要するエネルギーを小さくするために、剥離角αを90°付近の大きな角度に設定していた。これに対し、本実施形態の印刷装置20では、あえて剥離角αを小さくすることで、辺縁部の形成の抑制という従来の印刷装置では想起し得ない効果を得ることを可能としている。
【0071】
図7は、サンプルを加熱しない場合と、サンプルを加熱した場合との各々についての、第1サンプルS1および第2サンプルS2の密着力Fの測定結果を示す。剥離角αは15°であり、室温は23℃であり、サンプルの加熱温度は80℃である。
図7が示すように、サンプルの温度が低い方が、第1サンプルS1と第2サンプルS2とのいずれについても、密着力Fが大きくなる。さらに、サンプルの温度が低い方が、第1サンプルS1と第2サンプルS2との密着力Fの差が大きくなる。したがって、剥離時の熱転写リボン10の温度が低い方が、辺縁部の形成を抑えることができる。
【0072】
なお、剥離角αが90°の場合、サンプルを80℃に加熱すると、第1サンプルS1および第2サンプルS2のいずれにおいても、密着力Fが小さすぎて測定できなかった。図6図7とを比較すると、剥離角αが30°以下であれば、サンプルの温度が高くとも、剥離角αが90°でサンプルが低温である場合、すなわち、剥離角αが90°のなかでは密着力Fが大きい場合よりも、さらに密着力Fが大きくなることがわかる。したがって、剥離角αが30°以下であれば、熱転写リボン10の温度に関わらず、剥離角αが90°である場合と比較して、辺縁部の形成を抑える効果は得られる。そして、剥離角αが30°以下であって、剥離位置Peにおける熱転写リボン10の温度が低ければ、さらに、辺縁部の形成を抑える効果が高められる。
【0073】
また、サーマルヘッド31の発熱抵抗体への印加エネルギーが大きくなるほど、転写対象領域R1の周囲に伝わる熱量が多くなる。そのため、辺縁部も含めて、被転写媒体19上に形成される、転写層12からなる部分である転写体の径は大きくなる。剥離角αが15°の場合と90°の場合との各々について、印加エネルギーに対する転写体の径の変化率を解析したところ、剥離角αが90°の場合の方が、転写体の径の変化率が大きいこと、すなわち、印加エネルギーを所定量だけ大きくした場合に、転写体の径の増加量がより大きくなることが確認された。
【0074】
これは、上述のように、剥離角αが90°の場合は、剥離角αが15°の場合と比較して密着力Fが小さいため、少量の熱に対してより広い範囲で転写層12が基材11から剥離することに因ると考えられる。
【0075】
このことは、サーマルヘッド31の周囲の温度のように転写が行われる環境が変わって、転写対象領域R1の周囲への熱の伝わる程度が変わった場合に、剥離角αが90°の場合よりも、剥離角αが15°の場合の方が、転写体の径の変化が小さいことを意味する。したがって、剥離角αが小さい方が、転写が行われる環境に依らず、安定した転写結果が得られる。すなわち、剥離角αが30°以下であることにより、印刷装置20の使用に際して、転写が行われる環境の整備に要する負担を軽減する効果も得られる。
【0076】
[製造物]
本実施形態の印刷装置20の製造対象の一例について説明する。印刷装置20は、個人情報媒体の製造に用いられる。
【0077】
図8が示すように、個人情報媒体70は、カード状を有する。個人情報媒体70は、例えば、所有者の身分を証明するIDカード等に具体化される。
個人情報媒体70は、支持体71と、ホログラム部72と、着色部73とを備えている。支持体71は、ホログラム部72と着色部73との各々を支持する。支持体71は、複数の層から構成されていてもよい。支持体71は、例えば、樹脂基材を含む。
【0078】
ホログラム部72は、印刷装置20による熱転写リボン10からの転写層12の転写によって形成されている。すなわち、ホログラム部72は、光学機能層14の回折構造が構成するホログラムを含んでいる。
【0079】
着色部73は、色素による色を呈する。すなわち、着色部73において視認される色は、色素による光の吸収に起因する。着色部73は、トナーやインクを用いた印刷によって形成されている。
【0080】
ホログラム部72は、第1個人情報Iaを示す部分を含み、着色部73は、第2個人情報Ibを示す部分を含む。第1個人情報Iaと第2個人情報Ibとは、同一人物についての個人情報であり、具体的には、個人情報媒体70の所有者となる人物の個人情報である。個人情報は、個人の識別に利用可能な情報であって、例えば、氏名、生年月日、住所、顔画像等である。本実施形態にて示す一例では、第1個人情報Iaと第2個人情報Ibとの各々は、カラーの顔画像を含む。
【0081】
カラーの顔画像を示すホログラム部72の形成に用いられる熱転写リボン10において、光学機能層14が含む回折構造層は、赤色領域と緑色領域と青色領域とが、熱転写リボン10の延びる方向に沿って所定の順番で繰り返し並ぶ構造を有している。赤色領域は、所定の方向に赤色の回折光を射出するように構成されており、緑色領域は、所定の方向に緑色の回折光を射出するように構成されており、青色領域は、所定の方向に青色の回折光を射出するように構成されている。被転写媒体19の所定の領域に対し、赤色領域を含む転写層12の転写と、緑色領域を含む転写層12の転写と、青色領域を含む転写層12とが順に行われることによって、被転写媒体19上に、ドットの集合からなるカラーの画像が形成される。
【0082】
なお、印刷装置20は、個人情報媒体70とは異なる印刷物の製造に用いられてもよい。また、印刷装置20は、個人情報媒体70のような最終的な製造物に含まれる基材を被転写媒体19として用い、当該基材に直接に転写層12を転写してもよい。あるいは、印刷装置20は、最終的な製造物に含まれる基材とは異なる基材を被転写媒体19として用い、熱転写リボン10から被転写媒体19に転写層12を転写してもよく、この場合、被転写媒体19に転写された転写層12が、さらに、最終的な製造物に含まれる基材に転写されることにより、上記製造物が形成される。
【0083】
以上説明したように、本実施形態の印刷装置20によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)剥離角αが30°以下であるため、剥離角αが大きい場合と比較して、熱転写リボン10における密着力Fが大きくなる。また、熱転写リボン10のなかで、熱および圧力を受けた領域よりも、熱のみを受けた領域の方が、密着力Fが大きくなる。したがって、転写対象領域R1から周辺領域R2へ熱が伝わった場合でも、周辺領域R2にて転写層12が基材11から剥離することが抑えられる。それゆえ、辺縁部の形成が抑えられる。
【0084】
(2)剥離角αが15°以下であれば、熱転写リボン10における密着力Fがより大きくなる。また、熱転写リボン10のなかで、熱および圧力を受けた領域と、熱のみを受けた領域との密着力Fの差がより大きくなる。したがって、辺縁部の形成がより好適に抑えられる。
【0085】
(3)経路規定部材51がサーマルヘッド31とは異なる部分に接続されているため、経路規定部材51がサーマルヘッド31に接続されている場合と比較して、経路規定部材51が高温になることが抑えられる。その結果、経路規定部材51から熱転写リボン10に熱が伝わることが抑えられるため、剥離位置Peにおいて熱転写リボン10が高温になることが抑えられる。したがって、熱転写リボン10における密着力Fの低下を抑えることが可能であるため、辺縁部の形成がより好適に抑えられる。
【0086】
特に、経路規定部材51が、ヘッド機構30のなかで、サーマルヘッド31を動かす可動部32に対してサーマルヘッド31と反対側に位置する部分に接続されている構成であれば、ヘッド機構30のなかでサーマルヘッド31からより離れた部分に経路規定部材51が接続されるため、経路規定部材51が高温になることが的確に抑えられる。したがって、剥離位置Peでの熱転写リボン10の温度を低く抑えられるため、辺縁部の形成がより好適に抑えられる。
【符号の説明】
【0087】
Ma…転写媒体、Mb…被転写媒体、Pe…剥離位置、Pt…転写位置、R1…転写対象領域、R2…周辺領域、10…熱転写リボン、11…基材、12…転写層、13…剥離層、14…光学機能層、15…接着層、19…被転写媒体、20…印刷装置、30…ヘッド機構、31,100…サーマルヘッド、32…可動部、33…支持部、40…プラテンローラー、50…リボン搬送部、51,110…経路規定部材、60…媒体搬送部、70…個人情報媒体、71…支持体、72…ホログラム部、73…着色部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8