(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20240214BHJP
C09D 11/326 20140101ALI20240214BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B41M5/00 110
B41M5/00 120
C09D11/326
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2022094826
(22)【出願日】2022-06-13
(62)【分割の表示】P 2018076445の分割
【原出願日】2018-04-11
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【氏名又は名称】丸山 英一
(72)【発明者】
【氏名】宮野 雅士
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-214469(JP,A)
【文献】特開2017-080955(JP,A)
【文献】特開2015-206004(JP,A)
【文献】特開2007-145887(JP,A)
【文献】特開2014-224215(JP,A)
【文献】特開2006-027194(JP,A)
【文献】特開2017-159471(JP,A)
【文献】特開2003-011145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
C09D 11/326
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材、樹脂、両親媒性溶剤及び水を少なくとも含有する水系インクジェットインクを用いてインクジェット法によりチタン紙上に画像記録するインクジェット記録方法であって、
前記樹脂として、酸価を有するブロック共重合体を用い、
前記ブロック共重合体は、ポリマー中に、アニオン性基を有する領域と、アニオン性基を有しない領域とが形成され、
前記両親媒性溶剤は、グリコール系溶剤、グリコールモノエーテル系溶剤及びグリコールジエーテル系溶剤から選択され、且つアルキル基を有しないか又は1分子中に含まれるアルキル基の合計炭素数が2以下であり、
前記水系インクジェットインクの全量に対して前記両親媒性溶剤を35質量%以上含有することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記樹脂として、酸価が1~80mgKOH/gであるブロック共重合体を用いることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記樹脂として、酸価が1~40mgKOH/gであるブロック共重合体を用いることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記水系インクジェットインクの全量に対して前記両親媒性溶剤を45~90質量%含有することを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記水系インクジェットインクの全量に対して、グリコールモノエーテル系溶剤である前記両親媒性溶剤の含有量をA質量%、グリコール系溶剤である前記両親媒性溶剤の含有量をB質量%、グリコールジエーテル系溶剤である前記両親媒性溶剤の含有量をC質量%としたときに、A≧B、且つA≧Cの条件を満たすことを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記水系インクジェットインクの全量に対して、グリコールモノエーテル系溶剤である前記両親媒性溶剤の含有量が45質量%以上であることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記水性インクジェットインクの全量に対して、水の含有量が10~50質量%であることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法に関し、より詳しくは、チタン紙上に画像記録する際に寸法安定性、密着性及び画質を向上できるインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧板を構成するための化粧紙としてチタン紙が使用されている。このような技術においては、チタン紙上に絵柄を印刷した後、該チタン紙に樹脂を含浸させて化粧紙を得る。かかる化粧紙によって化粧板の表面に所望の絵柄を付与でき、化粧紙の裏面に配置される基材の色を隠蔽できる。
【0003】
特許文献1には、インクジェット印刷用のチタン紙が開示されている。また、特許文献2には、チタン紙上にインクジェット法により印刷された印刷層を有する化粧板原紙が開示されている。
【0004】
一方、特許文献3~5には、インクジェット法に用いられるインクジェットインクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-080955号公報
【文献】特開2017-081004号公報
【文献】特開2005-220296号公報
【文献】特開2005-220297号公報
【文献】特開2008-303380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者が、インクジェット法によってチタン紙上に画像記録するインクジェット記録方法について検討したところ、寸法安定性、密着性及び画質を向上する観点で更なる改善の余地が見出された。
【0007】
そこで本発明の課題は、チタン紙上に画像記録する際に寸法安定性、密着性及び画質を向上できるインクジェット記録方法を提供することにある。
【0008】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0010】
1.
色材、樹脂、両親媒性溶剤及び水を少なくとも含有する水系インクジェットインクを用いてインクジェット法によりチタン紙上に画像記録するインクジェット記録方法であって、
前記樹脂として、酸価を有するブロック共重合体を用い、
前記両親媒性溶剤は、グリコール系溶剤、グリコールモノエーテル系溶剤及びグリコールジエーテル系溶剤から選択され、且つアルキル基を有しないか又は1分子中に含まれるアルキル基の合計炭素数が2以下であり、
前記水系インクジェットインクの全量に対して前記両親媒性溶剤を35質量%以上含有することを特徴とするインクジェット記録方法。
2.
前記樹脂として、酸価が1~80mgKOH/gであるブロック共重合体を用いることを特徴とする前記1記載のインクジェット記録方法。
3.
前記樹脂として、酸価が1~40mgKOH/gであるブロック共重合体を用いることを特徴とする前記1記載のインクジェット記録方法。
4.
前記水系インクジェットインクの全量に対して前記両親媒性溶剤を45~90質量%含有することを特徴とする前記1~3の何れかに記載のインクジェット記録方法。
5.
前記水系インクジェットインクの全量に対して、グリコールモノエーテル系溶剤である前記両親媒性溶剤の含有量をA質量%、グリコール系溶剤である前記両親媒性溶剤の含有量をB質量%、グリコールジエーテル系溶剤である前記両親媒性溶剤の含有量をC質量%としたときに、A≧B、且つA≧Cの条件を満たすことを特徴とする前記1~4の何れかに記載のインクジェット記録方法。
6.
前記水系インクジェットインクの全量に対して、グリコールモノエーテル系溶剤である前記両親媒性溶剤の含有量が45質量%以上であることを特徴とする前記1~5の何れかに記載のインクジェット記録方法。
7.
前記水性インクジェットインクの全量に対して、水の含有量が10~50質量%であることを特徴とする前記1~6の何れかに記載のインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、チタン紙上に画像記録する際に寸法安定性、密着性及び画質を向上できるインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について詳しく説明する。
【0013】
1.基本構成
本発明のインクジェット記録方法は、色材、樹脂、両親媒性溶剤及び水を少なくとも含有する水系インクジェットインクをインクジェット記録ヘッドから吐出してチタン紙上に画像記録する。ここで、前記樹脂は、ブロック共重合体又はグラフト共重合体であり、且つ酸価を有する。また、前記両親媒性溶剤は、グリコール系溶剤、グリコールモノエーテル系溶剤及びグリコールジエーテル系溶剤から選択され、且つアルキル基を有しないか又は1分子中に含まれるアルキル基の合計炭素数が2以下である。更に、前記水系インクジェットインクの全量に対して前記両親媒性溶剤を35質量%以上含有する。
【0014】
かかる本発明のインクジェット記録方法によれば、チタン紙上に画像記録する際に寸法安定性、密着性及び画質を向上できる効果が得られる。
【0015】
ここで、寸法安定性の向上は、画像記録に伴うチタン紙の変形が抑制されることによって達成される。また、密着性の向上は、記録された画像(塗膜)のチタン紙に対する密着性が向上することによって達成される。更に、画質の向上は、画像を十分な高濃度で表現でき、画像の面内ムラ(濃度ムラ)が防止され、且つ画像の滲みが防止されることによって達成される。
【0016】
上記のような効果が得られる機構については、以下のように推定される。
【0017】
まず、酸化チタンを含むチタン紙上に、酸価を有する樹脂を含む水系インクジェットインク(以下、単にインクともいう。)からなるインク塗膜が形成される。
【0018】
インクに含有される酸価を有する樹脂は、カルボキシ基等のアニオン性基を有する。このとき、該樹脂の構造が精密に制御されていること(具体的にはブロック共重合体又はグラフト共重合体であること)によって、該樹脂を構成するポリマー中には、アニオン性基を有する領域と、アニオン性基を有しない領域とが形成されている。
【0019】
樹脂を構成するポリマー中のアニオン性基を有する領域は、チタン紙に含まれる酸化チタンに対して水素結合又は配位結合を形成し、酸化チタンに吸着する。金属元素の中でも特にチタンは高周期元素でありf軌道などの空の軌道が多く、且つ亜鉛等と比べてf軌道にほとんど電子が収容されていないため、上記のような吸着が効率的に進行する。
【0020】
一方、樹脂を構成するポリマー中のアニオン性基を有しない領域は、インク中へ配向し易くなる。このような配向は、インクが両親媒性溶剤を多く(具体的には35質量%以上)含有することによって効率的に進行する。両親媒性溶剤は、インク中の水に対して親和性を示すと共に、アニオン性基を有しない領域に対しても親和性を示すからである。
【0021】
これらの結果、チタン紙とインクとの界面近傍に樹脂を介在させることができる。界面近傍において樹脂がクッションとして働くことによって、画像記録に伴うチタン紙の変形が抑制される。
【0022】
また、樹脂が酸化チタンに吸着することによって、インクによって記録される画像(印刷層)のチタン紙に対する密着性が向上する。
【0023】
更に、樹脂が酸化チタンに吸着することによって、インクがチタン紙の内部に過剰に浸透することが防止され、インクをチタン紙の表面側にとどめることができる。これにより、画像を十分な高濃度で表現できる。また、樹脂は酸化チタンに効率的に(均一に)吸着されるため、画像の面内ムラ(濃度ムラ)が防止される。更に、樹脂によってインクの縁部が固定(ピニング)されるため、画像の滲みが防止される。これらが相乗的に作用して、画質が向上する。
【0024】
以下に、本発明について更に詳しく説明する。
【0025】
2.インク
インクは、色材、樹脂、両親媒性溶剤及び水を少なくとも含有する。
【0026】
(1)色材
色材としては、例えば、顔料、染料等が挙げられる。
【0027】
顔料としては、例えば、公知の無機顔料、有機顔料又はカーボンブラック等が挙げられる。
【0028】
カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等(C.I.ピグメントブラック7)が挙げられる。
【0029】
有機顔料としては、例えば、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料、アゾ系顔料等が挙げられる。
【0030】
有機顔料の具体例として、以下のものが挙げられる。
【0031】
シアンインクに使用される顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60等;C.I.バットブルー4、60等が挙げられる。
【0032】
マゼンタインクに使用される顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0033】
イエローインクに使用される顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14C、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、128、129、138、150、151、154、155、180、185等が挙げられる。
【0034】
顔料の含有量は格別限定されず、インク全体に対して、例えば1質量%~10質量%程度とすることができ、好ましくは2質量%~5質量%程度とすることができる。
【0035】
染料としては、例えば、水溶性染料、分散染料等が挙げられる。水溶性染料としては、例えば、酸性染料、直接染料、塩基性染料等が挙げられる。分散染料としては、例えば、着色ポリマー、着色ワックス等が挙げられる。
【0036】
染料の含有量は格別限定されず、インク全体に対して、例えば1質量%~10質量%程度とすることができ、好ましくは2質量%~4.5質量%程度とすることができる。
【0037】
(2)樹脂
樹脂として、酸価を有するブロック共重合体、及び、酸価を有するグラフト共重合体の一方を用いるか、又は両方を併用する。
【0038】
酸価を有するブロック共重合体、及び、酸価を有するグラフト共重合体は、何れもポリマー中に、アニオン性基を有する領域と、アニオン性基を有しない領域とが良好に形成される。
【0039】
ブロック共重合体である樹脂は、例えば、アニオン性基を有するモノマーが連続的に重合されている領域と、アニオン性基を有しないモノマーが連続的に重合されている領域とが連結されることによって構成され得る。
【0040】
グラフト共重合体である樹脂は、例えば、アニオン性基を有するモノマーが連続的に重合されている幹と、アニオン性基を有しないモノマーが連続的に重合されている枝とによって構成されてもよいし、アニオン性基を有しないモノマーが連続的に重合されている幹と、アニオン性基を有するモノマーが連続的に重合されている枝とによって構成されてもよい。
【0041】
樹脂はグラフト共重合体であることが特に好ましい。これにより、画質を更に向上することができる。
【0042】
樹脂の酸価は、電位差滴定法により求めることができ、例えば色材協会誌61,[12]692-698(1988)に記載の方法で測定できる。「酸価を有する」というのは、酸価の値がゼロではないことを意味する。
【0043】
樹脂の酸価は1~80mgKOH/gであることが好ましい。即ち、樹脂として、酸価が1~80mgKOH/gであるブロック共重合体、及び、酸価が1~80mgKOH/gであるグラフト共重合体の一方を用いるか、又は両方を併用することが好ましい。これにより本発明の効果がより良好に発揮される。特に、酸価が1以上であることによって、アニオン性基を有する領域を酸化チタンに対して良好な強さで吸着することができ、密着性が更に向上する。また、酸価が80以下であることによって、吸着の強さが過剰になることが防止され、その結果、吸着が局所的に生じることが防止され、チタン紙上に樹脂がより均一に広がる。これにより、画像の面内ムラがより確実に防止され、画質が更に向上する。これらの効果をより好適に発揮する観点で、樹脂の酸価は1~40mgKOH/gであることがより好ましい。
【0044】
樹脂が有するアニオン性基は格別限定されず、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられ、中でもカルボキシル基が好ましい。カルボキシル基は、例えば(メタ)アクリル酸等のようなカルボキシル基を有するモノマーを重合することによって、樹脂中に導入することができる。
【0045】
樹脂が有するアニオン性基は、例えばアルカリ中和されていてもよい。アニオン性基を中和するアルカリは格別限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム等の金属塩基化合物や、アンモニアや、トリエチルアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミンや、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。
【0046】
樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。インクは、例えば、酸価を有するブロック共重合体として1種又は複数種を含有することができる。また、インクは、例えば、酸価を有するグラフト共重合体として1種又は複数種を含有することができる。
【0047】
インクの全量に対して、上述した樹脂の含有量は、格別限定されないが、例えば0.5質量%~5質量%程度とすることができ、好ましくは1質量%~2.5質量%とすることができる。
【0048】
(3)両親媒性溶剤
両親媒性溶剤としては、グリコール系溶剤、グリコールモノエーテル系溶剤及びグリコールジエーテル系溶剤から選択され、且つアルキル基を有しないか又は1分子中に含まれるアルキル基の合計炭素数が2以下である溶剤が用いられる。
【0049】
ここで、「1分子中に含まれるアルキル基の合計炭素数」(以下、「アルキル炭素数」ともいう。)は、1分子中に1つのアルキル基を有する場合は、該アルキル基の炭素数であり、1分子中に複数のアルキル基を有する場合には、該複数のアルキル基の合計の炭素数である。なお、アルキレン基(例えば2つの酸素原子間を連結する炭素鎖)は、ここでいうアルキル基に含まれないが、該アルキレン基からアルキル基が分岐している場合は、該アルキル基の炭素数を合計炭素数に加算する。
【0050】
グリコール系溶剤である両親媒性溶剤としては、例えば、アルキレングリコール、ジアルキレングリコール、トリアルキレングリコール、テトラアルキレングリコール、ペンタアルキレングリコール等が挙げられる。これらの化合物が有する各アルキレン基の炭素数は例えば1~4、更には1~3である。このような化合物の具体例として、例えば、トリプロピレングリコール(アルキル基なし(アルキル炭素数0))等のようなジオールが挙げられる。
【0051】
グリコールモノエーテル系溶剤である両親媒性溶剤としては、例えば、アルキレングリコールモノエーテル、ジアルキレングリコールモノエーテル、トリアルキレングリコールモノエーテル、テトラアルキレングリコールモノエーテル、ペンタアルキレングリコールモノエーテル等が挙げられる。これらの化合物が有する各アルキレン基の炭素数は例えば1~4、更には1~3である。これらの化合物が有するアルキル基(エーテル結合されているアルキル基)の合計炭素数は1又は2である。このような化合物の具体例として、例えば、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(アルキル炭素数1)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(アルキル炭素数1)、トリエチレングリコールモノメチルエテール(アルキル炭素数1)等のようなモノアルキルが挙げられる。
【0052】
グリコールジエーテル系溶剤である両親媒性溶剤としては、アルキレングリコールジメチルエーテル、ジアルキレングリコールジメチルエーテル、トリアルキレングリコールジメチルエーテル、テトラアルキレングリコールジメチルエーテル、ペンタアルキレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。これらの化合物が有する各アルキレン基の炭素数は例えば1~4、更には1~3である。このような化合物の具体例として、例えば、トリエチレングリコールジメチルエーテル(アルキル炭素数2)等のようなジアルキルが挙げられる。
【0053】
両親媒性溶剤は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0054】
インクの全量に対して、両親媒性溶剤は、35質量%以上含有され、好ましくは45~90質量%含有される。
【0055】
インクの全量に対して、グリコールモノエーテル系溶剤である両親媒性溶剤の含有量をA質量%、グリコール系溶剤である両親媒性溶剤の含有量をB質量%、グリコールジエーテル系溶剤である両親媒性溶剤の含有量をC質量%としたときに、A≧B、且つA≧Cの条件を満たすことが好ましい。これにより、密着性を更に向上することができる。
【0056】
また、インクの全量に対して、グリコールモノエーテル系溶剤である両親媒性溶剤の含有量が45質量%以上であることが好ましい。これにより、寸法安定性を更に向上することができる。
【0057】
(4)水
インクの全量に対して、水の含有量は10~50質量%であることが好ましい。これにより、酸化チタンに樹脂が吸着する一方で、インク側にも樹脂鎖の広がりを生じさせることができ、基材密着性や用紙変形が抑制できるという効果が得られる。
【0058】
(5)その他
インクは、本発明の効果を損なわない範囲で、以上に説明した成分に加えて、他の成分を適宜含むことができる。他の成分としては、例えば、防腐剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0059】
〔チタン紙〕
画像が記録される記録媒体として、チタン紙が好適に用いられる。チタン紙としては、パルプに二酸化チタンを抄きこんでなる紙を用いることができる。チタン紙は、二酸化チタンに由来して隠蔽力に優れる。そのため、印刷層が形成されたチタン紙を化粧板に用いた場合には、下地や基材の影響が軽減され、印刷層が良好に視認される。
【0060】
〔インクジェット法〕
インクをチタン紙上に付与する際に用いるインクジェット法は格別限定されず、インクを装填したインクジェットヘッド(インクジェット記録ヘッドともいう)を備えるプリンターを用いることができる。具体的には、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドのノズルからインクを液滴として吐出させ、これをチタン紙上に着弾させて印字を行うことができる。
【0061】
インクジェットヘッドからのインク吐出方式は、オンデマンド方式とコンティニュアス方式のいずれでもよい。オンデマンド方式のインクジェットヘッドは、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型及びシェアードウォール型等の電気-機械変換方式、並びにサーマルインクジェット型及びバブルジェット(登録商標)(バブルジェットはキヤノン社の登録商標)型等の電気-熱変換方式等のいずれでもよい。
【0062】
また、インクジェット記録装置として、ライン記録方式(シングルパス記録方式)のものと、シリアル記録方式のものとがあり、求められる画像の解像度や記録速度に応じて適宜選択できる。
【0063】
〔その他〕
インクジェット記録方法によって画像(印刷層)が形成されたチタン紙の用途は格別限定されないが、例えば、化粧板を構成するための化粧紙等として使用することができる。この場合、印刷層が形成されたチタン紙に樹脂を含浸させて化粧紙(樹脂含浸化粧紙)が得られる。
【0064】
化粧紙の裏面(印刷層が形成された面に対して反対側の面)には、基材を積層することができる。基材は格別限定されず、例えばパーティクルボード等のような板状の部材等が挙げられる。
【0065】
また、化粧紙の印刷層上には表面紙を積層することができる。表面紙は、樹脂を含浸させて透明化されたものであり得る。
【0066】
チタン紙や表面紙に含浸させる樹脂は格別限定されず、例えば、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ダップ樹脂等のような熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0067】
樹脂含浸化粧紙に基材や表面紙を積層してなる積層体を、加熱下において積層方向に加圧することによって、HPL(High Pressure Laminate)と称される化粧板合板を製造することができる。
【実施例】
【0068】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はかかる実施例により限定されない。
【0069】
1.分散液(顔料分散液)の調製
〔分散液1〕
シアン顔料65質量部に、樹脂(ビックケミー社製「DISPERSE184」;グラフト共重合体、酸価0mgKOH/g)26質量部と、溶剤としてトリプロピレングリコールモノメチルエーテルを285質量部と、イオン交換水を96質量部加えた混合液をプレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、分散液1を調製した。
【0070】
〔分散液2〕
分散液1において、樹脂(ビックケミー社製「DISPERSE184」;グラフト共重合体、酸価0mgKOH/g)に代えて、樹脂(ビックケミー社製「BYKJET9152」;グラフト共重合体、酸価6mgKOH/g)を用いたこと以外は、分散液1と同様にして、分散液2を調製した。
【0071】
2.インクの調製
上記の分散液を下記のインク成分と共に表1、2に示す処方(インク組成)で配合し、攪拌、混合した。その後、この混合液を1μmのフィルターにより濾過してインクを得た。なお、濾過前後でインク組成は実質的に変化していない。
【0072】
〔溶剤〕
・トリプロピレングリコール(TPG、ジオール)
・トリエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME、ジアルキル)
・トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(TPGME、モノアルキル)
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPGME、モノアルキル)
・トリエチレングリコールモノメチルエテール(TEGME、モノアルキル)
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGBE、モノアルキル)
〔樹脂〕
・ビックケミー社製「DISPERBYK180」、ブロック共重合体、酸価94mgKOH/g
・Lubrizol社製「solsperse32000」、ブロック共重合体、酸価15mgKOH/g
・ビックケミー社製「DISPERBYK194」、グラフト共重合体、酸価70mgKOH/g
・ビックケミー社製「BYKJET9152」、グラフト共重合体、酸価6mgKOH/g
・ビックケミー社製「BYKJET9151」、グラフト共重合体、酸価7mgKOH/g
・ビックケミー社製「DISPERBYK190」、グラフト共重合体、酸価10mgKOH/g
・ビックケミー社製「DISPERBYK2010」、グラフト共重合体、酸価20mgKOH/g
・ビックケミー社製「DISPERBYK2015」、グラフト共重合体、酸価15mgKOH/g
・共栄社化学社製「フローレンTG-750W」、グラフト共重合体、酸価40mgKOH/g
・Lubrizol社製「solsperse43000」、グラフト共重合体、酸価8mgKOH/g
・Lubrizol社製「solsperse44000」、グラフト共重合体、酸価12mgKOH/g
・Lubrizol社製「solsperse46000」、グラフト共重合体、酸価12mgKOH/g
・Lubrizol社製「solsperse47000」、グラフト共重合体、酸価8mgKOH/g
・ビックケミー社製「DISPERBYK184」、グラフト共重合体、酸価0mgKOH/g
・ビックケミー社製「DISPERBYK185」、ブロック共重合体、酸価0mgKOH/g
・Lubrizol社製「solsperse54000」、ランダム共重合体、酸価35mgKOH/g
〔防腐剤〕
・ロンザ社製「Proxel GXL(S)」
〔水〕
・イオン交換水
【0073】
3.画像記録(インクジェット記録)
ピエゾ型インクジェットノズルを備えたインクジェット記録ヘッドを有するインクジェット記録装置に、上記調製した各試料を装填し、チタン紙に画像記録を連続して行った。記録材料の搬送速度は、30m/sで行った。
【0074】
インク供給系は、図示しないが、インクタンク、供給パイプ、ヘッド直前のサブインクタンク、フィルター付き配管、ピエゾヘッドからなり、ピエゾヘッドは、10pLの液滴になるように電圧を印加し、解像度720dpi×720dpiのベタ画像(10cm×30cm)または3pt明朝文字を印刷した。
【0075】
4.評価方法
(1)用紙変形(寸法安定性)
上記画像形成方法で記録したベタ画像について、下記の評価基準に従って目視評価により用紙変形の評価を行った。
〔評価基準〕
◎:印刷物に反りなし
〇:印刷物に若干の反りが見られるが、問題ない範囲
△:印刷物に反りが見られるが、許容範囲内
×:硬化物に反りが大きく、NGレベル
【0076】
(2)密着性(記録材料への密着性評価)
画像ベタ印字部において、碁盤目テープ剥離残留付着試験(JIS K 5400の碁盤目試験)で得た硬化組成物試料に粘着テープ(スコッチ#250、住友スリーエム社製)を張り合わせて2kgのローラーで一往復圧着した後、一気に剥がし、残留している碁盤目状の試料の数を調査し、付着率を下記評価基準で評価し、密着性の指標の一つとした。△以上が実用上良好な範囲である。
〔評価基準〕
◎:付着残留率95%以上100%
○:付着残留率80%以上95%
△:付着残留率60%以上80%未満
×:付着残留率60%未満
【0077】
(3)画質:濃度(裏抜け評価)
上記画像形成方法で記録したベタ画像について、光学濃度計(X-Rite社製938分光濃度計)を用いて、ベタ画像部の裏面濃度と同紙の非記録部の濃度も同様に測定し、
(ベタ画像部の裏面濃度)-(非画像部の濃度)を求め、下記の評価基準に従って濃度の評価を行った。
〔評価基準〕
◎:濃度差が0.05未満である
○:濃度差が0.05以上、0.08未満である
△:濃度差が0.08以上、0.15未満である
×:濃度差が0.15以上である
【0078】
(4)画質:面内ムラ防止性
上記画像形成方法で記録したベタ画像について、下記の評価基準に従って目視評価により濃度ムラの評価を行った。
〔評価基準〕
◎:10cm離れた位置から観測して、画像に濃度ムラが認められない
○:15cm離れた位置から観測して、画像に濃度ムラが認められない
△:15cm離れた位置から観測すると、画像の一部において濃度ムラが認められるが、30cm離した位置からは、濃度ムラが認められない
×:30cm離した位置から観測して、濃度ムラが認められる
【0079】
(5)画質:滲み防止性
上記画像形成方法で記録した3pt明朝文字について、下記の評価基準に従って目視評価によりにじみ防止性の評価を行った。
〔評価基準〕
◎:文字ににじみがなくはっきり再現されている。
○:ほぼ文字につぶれがなく再現されている。
△:一部の文字のつぶれがみられるが許容範囲内。
×:文字がつぶれている。
【0080】
以上の結果を表1、2に示す。
【0081】
【0082】
【0083】
5.評価
表1、2より、実施例1~21は、比較例1~4との対比で、チタン紙上に画像記録する際に寸法安定性、密着性及び画質を向上できることがわかる。