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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】水溶性ポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/38 20060101AFI20240214BHJP
   C08F 20/06 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C08F2/38
C08F20/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022192649
(22)【出願日】2022-12-01
(62)【分割の表示】P 2019008380の分割
【原出願日】2019-01-22
(65)【公開番号】P2023014292
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 智文
(72)【発明者】
【氏名】柴田 晃嗣
(72)【発明者】
【氏名】松崎 英男
(72)【発明者】
【氏名】河合 道弘
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-533586(JP,A)
【文献】特開2018-024573(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102086249(CN,A)
【文献】特開2012-206038(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0057411(US,A1)
【文献】国際公開第2018/066149(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-2/60
C08F 6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポリマーの製造方法であって、
水溶性ビニル系単量体を逆相懸濁重合又は分散重合させて水溶性ポリマーを製造する工程を含み、
水溶性ビニル系単量体が、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の極性基を有する水溶性ビニル系単量体であり、(メタ)アクリル酸又はその塩を含むものであり、
前記逆相懸濁重合又は分散重合を、式(2A):
【化1】
(式中、R3A及びR4Aは、同一又は異なって、エステル基、シアノ基、水酸基、及びアルコキシ基からなる群より選択される少なくとも1個の置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキレン基を示す。)で表される化合物、及び分散安定剤を用いるリビングラジカル重合法により実施することを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記水溶性ポリマーの重量平均分子量が10万~1000万である、請求項1に記載の水溶性ポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記水溶性ポリマーが、平均粒子径が1μm~200μmの微粒子である請求項1又は2に記載の水溶性ポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT重合)は、モノマーの適用範囲の広さ等の点から、最も汎用性の高い制御ラジカル重合法の一つである。RAFT重合で使用される制御剤の構造を適切に選択することで、水溶性モノマーの重合制御も可能であり、分子量及び分子量分布が制御された水溶性ポリマーの製造において有用である。
【0003】
水溶性モノマーをRAFT重合する方法としては、水を媒体に用いた水溶液重合が報告されており、水に可溶な制御剤を使用することで、分子量及び分子量分布の制御された水溶性ポリマーを製造することが可能となっている。
【0004】
特許文献1には、RAFT重合において、比較的低いモノマー濃度条件で水溶液重合させて、分子量数万程度の水溶性ポリマーを製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/182711号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水溶液重合を用いてRAFT重合により水溶性ポリマーを製造する場合、重合の進行とともに反応系の粘度が上昇するため、高モノマー濃度で反応する条件、高分子量ポリマーを製造する条件等においては、反応系の撹拌が困難になることがあった。それに付随し、重合中に発生する反応熱の除去、反応後に反応系からの反応物の抜き出し等が難しくなるため、当該水溶液重合は工業的スケールでの実施が困難であった。
【0007】
以上の点に鑑み、本発明は、工業的スケールで効率的に実施することができる水溶性ポリマーの製造方法を提供することを課題とする。具体的には、高モノマー濃度の条件を採用し高分子量の水溶性ポリマーを製造する場合でも、反応系の撹拌、重合中に発生する反応熱の除去、反応系からの反応物の抜き出し等の操作が容易であり、工業的スケールでの実施が可能な水溶性ポリマーの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、水溶性ビニル系単量体から交換連鎖移動機構型制御剤を用いるリビングラジカル重合によって水溶性ポリマーを製造する反応において、逆相懸濁重合又は分散重合を適用することにより、上記の課題を解決できることを見いだした。さらに検討を加えることにより本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記に示す水溶性ポリマーの製造方法を提供する。
[1] 水溶性ポリマーの製造方法であって、水溶性ビニル系単量体を逆相懸濁重合又は分散重合させて水溶性ポリマーを製造する工程を含み、前記逆相懸濁重合又は分散重合を、交換連鎖移動機構型制御剤を用いるリビングラジカル重合法により実施することを特徴とする、製造方法。
[2] 前記工程が、水溶性ビニル系単量体を逆相懸濁重合させて水溶性ポリマーを製造
する工程である、前記[1]に記載の水溶性ポリマーの製造方法。
[3] 前記交換連鎖移動機構型制御剤が、可逆的付加開裂型連鎖移動剤(RAFT剤)である、前記[1]又は[2]に記載の水溶性ポリマーの製造方法。
[4] 前記可逆的付加開裂連鎖移動剤が、分子内にチオカルボニルチオ基(-CS-S-)及びカルボキシル基を有する化合物及び/又はその塩である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の水溶性ポリマーの製造方法。
[5] 前記水溶性ポリマーの重量平均分子量が10万~1000万である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の水溶性ポリマーの製造方法。
[6] さらに分散安定剤を用い、前記分散安定剤が、水溶性ビニル系単量体由来の重合体の末端にラジカル重合性の不飽和基を有するマクロモノマーである、前記[1]~[5]のいずれかに記載の水溶性ポリマーの製造方法。
[7] 前記水溶性ビニル系単量体が、カルボキシル基、アミド基及びスルホン酸基からなる群より選択される極性基を有するビニル系単量体及び/又はその塩である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の水溶性ポリマーの製造方法。
[8] 前記水溶性ポリマーが平均粒子径1μm~200μmの微粒子である前記[1]~[7]のいずれかに記載の水溶性ポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水溶性ポリマーの製造方法によれば、従来の水溶液重合(均一系重合)と比較して、重合制御性を維持しつつ、重合反応開始から終了まで反応液全体の十分な撹拌及び混合が可能であり、それにより重合反応中の除熱及び重合反応後の抜き出し作業も容易である。
本発明の製造方法(不均一系重合)では、得られる水溶性ポリマーの分子量を容易に制御(特に、ポリマーの高分子量化を達成)することができる。
本発明の製造方法では、逆相懸濁重合又は分散重合を採用するため、逆相乳化重合(逆相ミニエマルション重合)と比べて、重合途中で新たな核形成が生じにくく、分散安定性が高く、分子量分布のより小さい水溶性ポリマー微粒子を製造することができる。また、分散相間のモノマー移動の制御がし易いという利点もある。
さらに、逆相乳化重合(平均粒子径が数十nm~数百nm)では、小粒径化のために多量の乳化剤、補助乳化剤等の分散安定剤が必要であり、かつ分散のために超音波や高圧ホモジナイザー等による高せん断力が必要であるが、逆相懸濁重合又は分散重合(平均粒子径が数μm~数百μm)を行う場合は、分散安定剤の使用量を減らすことができ、撹拌翼により分散することが可能であるため、分散に要するエネルギーを低減できる。
このように、本発明の製造方法は、製造工程の操作を簡便化及び効率化しつつ、高品質なミクロンサイズの水溶性ポリマー微粒子を製造できるため、工業的スケールに適した製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の水溶性ポリマーの製造方法は、水溶性ビニル系単量体を逆相懸濁重合又は分散重合させて水溶性ポリマーを製造する工程を含み、前記逆相懸濁重合又は分散重合を、交換連鎖移動機構型制御剤を用いるリビングラジカル重合法により実施することを特徴とする。
【0013】
1.水溶性ビニル系単量体
【0014】
本発明で用いる水溶性ビニル系単量体としては、ラジカル重合性の水溶性ビニル系単量体であればいずれでもよく、特に制限されない。例えば、カルボキシル基、アミノ基、リン酸基、スルホン酸基、アミド基、水酸基、4級アンモニウム基、又はそれらの塩(一部
及び全部中和物を含む)等の極性基を有する水溶性ビニル系単量体を使用することができる。これらの中でもカルボキシル基、スルホン酸基及びアミド基からなる群より選択される少なくとも1種の極性基を有する水溶性ビニル系単量体が、親水性が高く、吸水性能、保水性能に優れた重合体微粒子が得られるために好ましい。
【0015】
水溶性ビニル系単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、シクロヘキサンジカルボン酸等のカルボキシル基を有するビニル系単量体又はそれらの(部分)アルカリ中和物;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノ基を有するビニル系単量体又はそれらの(部分)酸中和物、若しくは(部分)4級化物;N-ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン;アシッドホスホオキシエチルメタクリレート、アシッドホスホオキシプロピルメタクリレート、3-クロロ-2-アシッドホスホオキシプロピルメタクリレート等のリン酸基を有するビニル系単量体又はそれらの(部分)アルカリ中和物;2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルホスホン酸、ビニルホスホン酸等のスルホン酸基又はホスホン酸基を有するビニル系単量体又はそれらの(部分)アルカリ中和物;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等のノニオン性親水性単量体を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0016】
これらの中でも、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド及び2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の1種又は2種以上を用いて、逆相懸濁重合又は分散重合を行うことが、重合性に優れる点、及び得られた重合体微粒子が吸水特性に優れる点から好ましく、特に好ましくは(メタ)アクリル酸である。
【0017】
また、本発明では、水溶性ビニル系単量体として、上記した単官能のビニル系単量体のうちの1種又は2種以上と共に、ラジカル重合性の不飽和基を2個以上有する多官能ビニル系単量体を使用することができる。即ち、「水溶性ビニル系単量体」は、水溶性単官能ビニル系単量体及び水溶性多官能ビニル系単量体の総称である。
【0018】
逆相懸濁重合又は分散重合において、水溶性多官能ビニル系単量体を用いることは強度や形状保持性が優れる水溶性ポリマー微粒子が得られる点で好ましい。水溶性多官能ビニル系単量体としては、上記水溶性ビニル系単量体とラジカル重合可能な基を2個以上有するビニル系単量体であればいずれでもよく、具体例として、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性物のトリ(メタ)アクリレート等のポリオール類のジ又はトリ(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド等のビスアミド類、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0019】
これらの中でも、水溶性多官能水溶性ビニル系単量体としては、水溶性ビニル系単量体及び水の混合液に対する溶解度に優れ、高架橋密度を得るために使用量を多くする際に有利であることから、ポリエチレングリコールジアクリレート、メチレンビスアクリルアミド等が好ましく用いられる。特に好ましくはポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレ
ートである。
【0020】
水溶性多官能ビニル系単量体の使用割合は、使用する水溶性ビニル系単量体の種類、得られる重合体微粒子の用途等に応じて適宜調節可能であり、通常、使用される水溶性単官能ビニル系単量体の合計100モルに対して0.1~100モルであることが好ましく、0.2~50モルであることがより好ましく、0.5~10モルであることが更に好ましい。
【0021】
2.交換連鎖移動機構型制御剤
本発明の製造方法は、水溶性ビニル系単量体を重合するにあたり、交換連鎖移動機構型制御剤を用いるリビングラジカル重合法を適用することを特徴とする。
【0022】
交換連鎖移動機構型制御剤を用いる重合法の具体例としては、可逆的付加開裂連鎖移動剤(RAFT剤)を用いる可逆的付加開裂連鎖移動重合法(RAFT重合法)、有機テルル化合物を用いる重合法(TERP重合法)、有機アンチモン化合物を用いる重合法(SBPR重合法)、有機ビスマス化合物を用いる重合法(BIRP重合法)、ヨウ素移動重合法等が挙げられる。
【0023】
本発明の典型例であるRAFT重合法について以下説明する。RAFT重合法は、RAFT剤の存在下で水溶性ビニル系単量体を重合する方法である。RAFT重合法については、例えば、非特許文献 Australian journal of Chemistry、2012、65、p.985-1076等を参照することができる。RAFT剤は、広範なものから選択することができその種類は特に限定はない。RAFT剤としては、分子内にチオカルボニルチオ基(-CS-S-)を有する化合物が挙げられる。例えば、その化学構造の特徴で分類すると、ジチオエステル化合物、トリチオカルボネート化合物、ジチオカルバメート化合物、キサンテート化合物等が挙げられる。
【0024】
RAFT剤としては水溶性RAFT剤が好ましく、例えば、分子内にチオカルボニルチオ基(-CS-S-)及び親水性基(例えば、カルボキシル基)を有する化合物及び/又はその塩が挙げられる。
【0025】
RAFT剤としては、例えば、式(1)で表されるジチオエステル化合物又はその塩、式(2)で表されるトリチオカルボネート化合物又はその塩、式(3)で表されるジチオカルバメート化合物又はその塩、式(4)で表されるキサンテート化合物又はその塩等が挙げられる。
【化1】
(式中、R~Rは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を示し、R及びRは互いに結合して隣接する窒素原子と共に環を形成していてもよく、当該環は置換基を有していてもよい。)
【0026】
~Rで示される置換基を有していてもよいアルキル基の「アルキル基」としては、例えば、鎖状又は分岐状の、炭素数1~16(好ましくは炭素数1~12、より好ましくは炭素数1~6、特に好ましくは炭素数1~4)のアルキル基が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。当該アルキル基が置換基を有する場合、当該置換基としては、例えば、カルボキシル基、エステル基(アルコキシカルボニル基等)、シアノ基、水酸基、アルコキシ基等が挙げられる。当該アルキル基は、これらの置換基から選ばれる1~4個の置換基を有していてもよい。
【0027】
~Rで示される置換基を有していてもよいアリール基の「アリール基」としては、例えば、単環又は2環のアリール基が挙げられる。具体的には、フェニル基、トルイル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。当該アリール基が置換基を有する場合、当該置換基としては、例えば、カルボキシル基、エステル基(アルコキシカルボニル基等)、シアノ基、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。当該アリール基は、これらの置換基から選ばれる1~5個の置換基を有していてもよい。
【0028】
~Rで示される置換基を有していてもよいヘテロアリール基の「ヘテロアリール基」としては、例えば、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を環構成原子に含む単環又は2環のヘテロアリール基が挙げられる。具体的には、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラジニル基等が挙げられる。当該ヘテロアリール基が置換基を有する場合、当該置換基としては、例えば、カルボキシル基、エステル基(アルコキシカルボニル基等)、シアノ基、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。当該ヘテロアリール基は、これらの置換基から選ばれる1~4個の置換基を有していてもよい。
【0029】
~Rで示される置換基を有していてもよいアラルキル基の「アラルキル基」とは、アリール基で置換されたアルキル基を意味し、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。当該アラルキル基が置換基を有する場合、当該置換基としては、例えば、カルボキシル基、エステル基(アルコキシカルボニル基等)、シアノ基、水酸基、アルコキ
シ基、ハロゲン原子等が挙げられる。当該アラルキル基中のアリール基は、これらの置換基から選ばれる1~5個の置換基を有していてもよい。
【0030】
さらに、式(3)で表されるR及びRは、互いに結合して隣接する窒素原子と共に環を形成していてもよく、当該環は置換基を有していてもよい。当該環としては、例えば、ピロリジン環、ピペリジン環、モルホリン環等が挙げられる。当該環が置換基を有する場合、当該置換基としては、例えば、アルキル基、オキソ基(=O)等が挙げられる。当該環は、これらの置換基から選ばれる1~3個の置換基を有していてもよい。
【0031】
式(1)~式(4)で表される化合物の塩としては、当該化合物が酸性基を有する場合は、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩等が挙げられ、当該化合物が塩基性基を有する場合は、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸塩;カルボン酸塩(酢酸塩等)、スルホン酸塩(p-トルエンスルホン酸塩等)の有機酸塩が挙げられる。
【0032】
上記RAFT剤のうち好ましくは、式(2)で表される化合物又はその塩である。R及びRは同一又は異なって、置換基を有していてもよいアルキル基が好ましく、さらにカルボキシル基、エステル基(アルコキシカルボニル基等)、シアノ基、水酸基、及びアルコキシ基からなる群より選択される少なくとも1個(特に1~3個)の置換基を有していてもよい炭素数1~12(さらに炭素数1~6)のアルキル基が好ましく、特に1個のカルボキシル基を有していてもよい炭素数1~4のアルキル基が好ましい。
【0033】
式(2)で表される化合物としては、例えば、式(2A):
【化2】
(式中、R3A及びR4Aは、同一又は異なって、エステル基(アルコキシカルボニル基等)、シアノ基、水酸基、及びアルコキシ基からなる群より選択される少なくとも1個(特に1~3個)の置換基を有していてもよい炭素数1~6(特に炭素数1~4)のアルキレン基を示す。)
で表される基が挙げられる。R3A及びR4Aは炭素数1~3のアルキレン基が好ましい。
【0034】
TERP重合法は、通常、有機テルル化合物の存在下で、水溶性ビニル系単量体を重合する方法である。例えば、Chemical Review、2009、109、p.5051-5068等を参照することができる。
【0035】
SBPR重合法は、通常、有機アンチモン化合物の存在下で、水溶性ビニル系単量体を重合する方法である。例えば、Chemical Review、2009、109、p.5051-5068等を参照することができる。
【0036】
BIRP重合法は、通常、有機ビスマス化合物の存在下で、水溶性ビニル系単量体を重合する方法である。例えば、Chemical Review、2009、109、p.5051-5068等を参照することができる。
【0037】
ヨウ素移動重合法は、例えば、Chemical Review、2006、106、p.3936-3962等を参照することができる。
【0038】
3.逆相懸濁重合又は分散重合
本発明の製造方法では、重合反応の条件として逆相懸濁重合又は分散重合を採用する。(1)逆相懸濁重合
本発明の逆相懸濁重合は、油相を分散媒とし水相を分散質とする重合方法であり、油相(疎水性有機溶媒を含む分散媒)中に水相(水溶性ビニル系単量体及び交換連鎖移動機構型制御剤を含む水溶液)を水滴状に分散又は懸濁させて重合する、油中水滴(W/O)型の懸濁重合法である。本発明においては、この逆相懸濁重合において、交換連鎖移動機構型制御剤を用いてリビングラジカル重合させることを特徴とする。本重合反応は、通常、ラジカル重合開始剤を用いて、10~100℃(好ましくは、20~60℃)で重合することにより、水溶性ポリマー微粒子を得ることができる。
【0039】
本発明の逆相懸濁重合で形成される水滴の平均粒子径は、通常、数十μm~数mm程度である。この平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定等の公知の方法により測定できる。
【0040】
逆相懸濁重合で用いられる水相は、水溶性ビニル系単量体、交換連鎖移動機構型制御剤及び必要に応じて他の単量体、重合開始剤等を水に溶解して得られる水溶液である。当該水溶液中における水溶性ビニル系単量体の濃度は、通常、5~80質量%、特に20~60質量%であることが、逆相懸濁重合が円滑に行われ、かつ生産性も良好であることから好ましい。当該水溶液中における交換連鎖移動機構型制御剤の濃度は、用いる水溶性ビニル系単量体、交換連鎖移動機構型制御剤(RAFT剤等)の種類、及び目標とする生成ポリマーの分子量等により適宜調整される。
【0041】
逆相懸濁重合に用いる水溶性ビニル系単量体が、カルボキシル基やスルホン酸基等の酸性基を有するビニル系単量体である場合は、水溶性ビニル系単量体を水に加えた後、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ水溶液でビニル系単量体中の酸性基の一部又は全部を中和すると、水溶性ビニル系単量体を良好に溶解した水溶液を調製することができる。
【0042】
逆相懸濁重合に用いる交換連鎖移動機構型制御剤は上記「2.交換連鎖移動機構型制御剤」の項で記載した通りであり、好ましくはRAFT剤である。
【0043】
交換連鎖移動機構型制御剤の使用量は特に限定はなく、用いる水溶性ビニル系単量体の種類、水溶性ビニル系単量体の量、交換連鎖移動機構型制御剤(RAFT剤等)の種類、及び目標とする生成ポリマーの分子量等により適宜調整される。
【0044】
逆相懸濁重合に用いる油相は疎水性有機溶媒を含む。疎水性有機溶媒は、重合時に、その中に水溶性ビニル系単量体を含む水相を懸濁又は分散させて油中水滴型の懸濁液又は分散液を安定に形成することができ、且つ重合に不活性な溶媒であればよい。疎水性有機溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、脂肪族ケトン、及び脂肪族エステル等が挙げられる。
【0045】
脂肪族炭化水素としては、例えば、炭素数5以上の脂肪族炭化水素、具体的には、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン等が挙げられる。脂環族炭化水素としては、炭素数5以上の脂環族炭化水素、例えばシクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。脂肪族アルコールとしては、炭素数4以上、好ましくは4~6の脂肪族アルコール、具体的には、例えば、n-ブチルアルコール、n-アミルアルコール等が挙げられる。脂肪族ケトンとしては、炭素数4以上、好ましくは4
~6の脂肪族ケトン、具体的には、例えば、メチルエチルケトン等が挙げられる。脂肪族エステルとしては、炭素数4以上、好ましくは4~6の脂肪族エステル、具体的には、例えば、酢酸エチル等が挙げられる。
【0046】
疎水性有機溶媒は、1種単独でもよく、2種以上の混合溶媒でもよい。例えば、上記に列挙した各疎水性有機溶媒1種のみでもよく、2種以上を混合してもよい。
【0047】
疎水性有機溶媒の使用量は特に限定はなく、水溶性ビニル系単量体の量等に応じて適宜設定することができる。疎水性有機溶媒の使用量は、上記水溶性ビニル系単量体100質量部に対して、通常、50~900質量部、好ましくは50~600質量部である。
【0048】
本発明の逆相懸濁重合において、分散安定剤を用いることが好ましい。分散安定剤の具体例としては、マクロモノマー型分散安定剤、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。併用する分散安定剤は、1種又は2種以上であってもよい。
【0049】
これらの中でも、マクロモノマー型分散安定剤を用いることが好ましい。マクロモノマー型分散安定剤は、ビニル系単量体由来の重合体の末端にラジカル重合性の不飽和基を有する化合物である。例えば、特開2008-37971号公報、特開2009-179767号公報、国際公開第2009/096268号(特願2009-551470、特許第5251886号)等の記載を参照することができる。
【0050】
また、マクロモノマー型分散安定剤とともに、ソルビタンモノオレエート及びソルビタンモノパルミテート等の、HLBが3~8である比較的疎水性が高いノニオン性界面活性剤を併用することができる。
【0051】
マクロモノマー型分散安定剤の使用は、多官能ビニル系単量体の使用量を増やして、高架橋度の水溶性ポリマー微粒子を製造する際に、重合時や重合後の凝集、塊化、重合装置への付着を生じることなく、高い分散安定性や重合安定性を維持できる点で好ましい。
【0052】
マクロモノマー型分散安定剤としては、例えば、ビニル系単量体を150~350℃でラジカル重合して得られる、ビニル系単量体由来の重合体の末端に式(5);HC=C(X)-(式中、Xは1価の極性基又は芳香族炭化水素基を示す。)で表されるα置換型ビニル基を有するマクロモノマー、及び/又はビニル系単量体由来の重合体の末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマーが、分散安定剤としての機能に優れていて好適である。
【0053】
上記の式(5)におけるXで示される「1価の極性基」としては、炭素原子及び水素原子以外の原子(特に、酸素原子、窒素原子等)を有する基が挙げられ、具体例としては、-COOR(Rは水素原子又は1価の炭化水素基を示す。)、-CONR(Rは同一又は異なって、水素原子又は1価の炭化水素基を示す。)、-OR(Rは水素原子又は1価の炭化水素基を示す。)、-OCOR(Rは水素原子又は1価の炭化水素基を示す。)、-OCOOR(Rは水素原子又は1価の炭化水素基を示す。)、-NHCOOR(Rは水素原子又は1価の炭化水素基を示す。)、ハロゲン原子、-CN等を挙げることができる。
【0054】
Rで示される1価の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル等が挙げられる。
【0055】
Xで示される「芳香族炭化水素基」としては、例えば、アリール基等が挙げられる。具体例としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基等が挙げられる。
【0056】
そのうちでも、Xは、-COOR、又はCONRであることが、マクロモノマーの製造が効率よく実施でき、かつ得られたマクロモノマーが優れた共重合性を有する点から好ましい。
【0057】
マクロモノマーの重量平均分子量は1000~30000であることが好ましく、2000~20000であることがより好ましい。なお、マクロモノマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により求めたポリスチレン換算の重量平均分子量であり、具体的には実施例に記載された通りである。
【0058】
マクロモノマーは、水溶性ビニル系単量体由来の構造単位と疎水性ビニル系単量体由来の構造単位の両方を有していることが好ましく、その際の疎水性ビニル系単量体由来の構造単位としては、(メタ)アクリル酸の炭素数8以上(特に、炭素数8~15)のアルキルエステルに由来する構造単位が好ましく、水溶性ビニル系単量体由来の構造単位としてはカルボキシル基を有するビニル系単量体に由来する構造単位が好ましい。
【0059】
特に、マクロモノマーを分散安定剤として用いて逆相懸濁重合を行う際には、マクロモノマーの全質量に基づいて、(メタ)アクリル酸の炭素数8以上のアルキルエステルに由来する構造単位(疎水性ビニル系単量体単位)を30~99質量%、特に60~90質量%の割合で有し、且つカルボキシル基を有するビニル系単量体に由来する構造単位(親水性ビニル系単量体単位)を1~70質量%、特に10~40質量%の割合で有するマクロモノマーを分散安定剤として用いることが好ましい。この場合、連続相と分散相の安定化効果が極めて高く、優れた重合安定性を得ることができる。
【0060】
分散安定剤の使用量は、良好な分散安定性を維持しながら、粒径の揃った水溶性ポリマー微粒子を得るために、水溶性ビニル系単量体の合計100質量部に対して、例えば、0.1~50質量部であることが好ましく、0.2~20質量部であることがより好ましく、0.5~10質量部であることが更に好ましい。
【0061】
分散安定剤は分散媒(油相)である疎水性有機溶媒中に溶解、もしくは均一分散させて重合系に加えることが好ましい。
【0062】
本発明の逆相懸濁重合では、通常、重合開始剤を使用することができ、その種類には特に限定はない。重合開始剤としては、例えば、(1)過酸化水素、(2)過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、(3)過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム等の過塩素酸塩、(4)塩素酸カリウム、臭素酸カリウム等のハロゲン酸塩、(5)t‐ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、ジアルキルパーオキシド(ジ‐t‐ブチルパーオキシド、t‐ブチルクミルパーオキシド等)等のパーオキシド類、(6)メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド等のケトンパーオキシド、(7)t‐ブチルパーオキシアセテート、t‐ブチルパーオキシイソブチレート、t‐ブチルパーオキシピバレート等のアルキルパーオキシエステル、並びに(8)アゾビスイソブチロニトリル、2,2’‐アゾビス(N,N’‐ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’‐アゾビス[2-(-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’‐アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩等のアゾ化合物等が挙げることができる。尚、上記重合開始剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
重合開始剤のうち、例えば、過硫酸塩(過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等)及び
ハイドロパーオキシド化合物(t-ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等)等のような酸化性を示す重合開始剤は、例えば、還元性物質(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ハイドロサルファイトナトリウム、L‐アスコルビン酸、及び第一鉄塩等)との組合せて用いることが好ましい。この組合せをレドックス系重合開始剤という。これにより、開始剤の分解(ラジカルの発生)にレドックス反応を利用することができる。レドックス系重合開始剤は、温和な条件(例えば、0~60℃程度)で重合開始が可能であり、重合反応液中のビニル系単量体濃度を高くすること、また重合速度を大きくすることが可能となるため、生産性、及び生成重合体の分子量を高くすることが可能となる。還元性物質は、油相に水相を加えて、分散相(水相)を所望の粒径に分散させた後に水溶液として添加することができる。
【0064】
重合開始剤の使用量は、水溶性ビニル系単量体の種類及び量等の諸条件に応じて適宜設定することができる。重合開始剤の使用量は、水溶性ビニル系単量体100質量部に対して、通常、0.005~20質量部、好ましくは0.01~10質量部、更に好ましくは0.02~5質量部、より好ましくは0.05~1質量部である。尚、重合開始剤の添加方法には特に限定はない。重合開始剤は、水溶性ビニル系単量体とは別に疎水性有機溶媒に添加してもよいが、通常、重合開始剤は、水溶性ビニル系単量体の水溶液に予め添加して重合開始剤含有液を調製し、これを疎水性有機溶媒に添加してもよい。
【0065】
本発明の逆相懸濁重合では、重合系における油相(分散媒):水相(分散質)の質量比が99:1~20:80、特に95:5~30:70になるようにして重合を行うことが、生産性と重合時の分散安定性、及び重合体微粒子の粒子径制御が両立できる点から好ましい。
【0066】
本発明の逆相懸濁重合は撹拌下に行なうことが好ましく、撹拌翼やバッフルを設置した反応槽で反応を行なうことが好ましい。撹拌翼としては、アンカー翼及びパドル翼が好ましく、特にパドル翼が好ましい。一般的に懸濁重合は撹拌動力に左右される。目標とする粒子径の重合体微粒子を得るためには、撹拌動力を十分に高くすることが好ましい。これにより、モノマー水溶液滴同士の合一を抑えて、きれいな球状微粒子を得て、微粒子の凝集の発生を抑制することができる。
【0067】
本発明における反応槽における単位体積当たりの撹拌動力は、例えば、0.5kw/m以上であることが好ましく、特に好ましくは、1.0kw/m以上である。
【0068】
本発明の逆相懸濁重合を用いることにより、高モノマー濃度の条件で水溶性ポリマーを製造する場合でも、重合が進行しても反応系の粘度上昇が小さく十分な均一撹拌が可能である。そのため、重合中に発生する反応熱の除去や、反応後に反応系からの反応物の抜き出しが容易であり、分子量分布の小さい高い重量平均分子量の水溶性ポリマーが得られ、しかも平均粒子径が均一な水溶性ポリマー微粒子が得られる。
【0069】
逆相懸濁重合により、水溶性ポリマー微粒子が液中に分散した分散液が得られる。分散液から水溶性ポリマー微粒子を分取する方法は特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。分散液を、例えば、揮発分(液体媒体等)の留去、再沈殿処理、真空乾燥、加熱乾燥、ろ過、遠心分離、デカンテーション等により、所望の水溶性ポリマーを精製することができる。再沈殿処理は、例えば、メタノール等のアルコールを用いて実施することができる。
【0070】
水溶性ポリマー微粒子の平均粒子径は、通常、1~200μmであり、さらに2~100μmであり、よりさらに15~80μmであり、特に20~60μmである。平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定を用いて測定できる。
【0071】
水溶性ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、通常、10万~1000万であり、特に50万~600万であり、分子量分布(多分散度;Mw/Mn)は、通常、1.1~7であり、特に1.2~5である。これらは、本明細書の実施例の記載に従い測定できる。
【0072】
(2)分散重合
本発明の分散重合は、水溶性ビニル系単量体、重合開始剤、及び交換連鎖移動機構型制御剤が溶媒に溶解した均一溶液で重合を開始し、重合の進行により生成したポリマーが析出又は凝集して粒子を形成し、不均一(コロイド)液状物を得る重合方法である。本発明においては、この分散重合において、交換連鎖移動機構型制御剤を導入してリビングラジカル重合させることを特徴とする。本重合反応は、通常、ラジカル重合開始剤を用いて、10~100℃(好ましくは、20~60℃)で重合することにより、水溶性ポリマー微粒子を得ることができる。
【0073】
分散重合に用いる溶媒は、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール溶媒等が挙げられる。これらのうち1種又は2種以上の混合溶媒を用いることができる。中でも、アルコール溶媒、特にアルコール溶媒及び水の混合溶媒が好ましい。また、アルコール溶媒及び水の比率を調整することにより、粒子径及び粒子径分布を制御することができる。
【0074】
溶媒の使用量は特に限定はなく、水溶性ビニル系単量体の量等に応じて適宜設定することができる。溶媒の使用量は、水溶性ビニル系単量体100質量部に対して、通常、50~900質量部、好ましくは50~600質量部である。
【0075】
分散重合に用いる水溶性ビニル系単量体が、カルボキシル基やスルホン酸基等の酸性基を有するビニル系単量体である場合は、水溶性ビニル系単量体を水に加えた後、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ水溶液でビニル系単量体中の酸性基の一部又は全部を中和すると、水溶性ビニル系単量体を良好に溶解した水溶液を調製することができる。
【0076】
溶液中における水溶性ビニル系単量体の濃度は、通常、5~80質量%、特に20~60質量%であることが、分散重合が円滑に行われ、かつ生産性も良好であることから好ましい。当該水溶液中における交換連鎖移動機構型制御剤の濃度は、用いる水溶性ビニル系単量体、交換連鎖移動機構型制御剤(RAFT剤等)の種類、及び目標とする生成ポリマーの分子量等により適宜調整される。
【0077】
分散重合に用いる交換連鎖移動機構型制御剤は上記「2.交換連鎖移動機構型制御剤」の項で記載した通りであり、好ましくは、RAFT剤である。
【0078】
交換連鎖移動機構型制御剤の使用量は特に限定はなく、用いる水溶性ビニル系単量体の種類、水溶性ビニル系単量体の量、交換連鎖移動機構型制御剤(RAFT剤等)の種類、及び目標とする生成ポリマーの分子量等により適宜調整される。
【0079】
本発明の分散重合において、分散安定剤を用いることが好ましい。分散安定剤の具体例としては、マクロモノマー型分散安定剤、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。これら分散安定剤の種類、用量等は、上記「(1)逆相懸濁重合」の項で記載したものを用いることができる。
【0080】
本発明の分散重合において用いられる重合開始剤の種類、使用量等は、上記「(1)逆
相懸濁重合」の項で記載したものを用いることができる。
【0081】
本発明の分散重合は撹拌下に行なうことが好ましく、撹拌翼やバッフルを設置した反応槽で反応を行なうことが好ましい。撹拌翼としては、アンカー翼及びパドル翼が好ましく、特にパドル翼が好ましい。
【0082】
本発明における反応槽における単位体積当たりの撹拌動力は、例えば、0.5kw/m以上であることが好ましく、特に好ましくは、1.0kw/m以上である。
【0083】
本発明の分散重合を用いることで、高モノマー濃度の条件を採用し高分子量の水溶性ポリマーを製造する場合でも、重合が進行しても反応系の粘度上昇が少なく均一な撹拌が可能である。そのため、重合中に発生する反応熱の除去や、反応後に反応系からの反応物の抜き出しが容易である。
【0084】
分散重合により、水溶性ポリマー微粒子が液中に分散した分散液が得られる。分散液から水溶性ポリマー微粒子を分取する方法は特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。分散液を、例えば、揮発分(液体媒体等)の留去、再沈殿処理、真空乾燥、加熱乾燥、ろ過、遠心分離、デカンテーション等により、所望の水溶性ポリマーを精製することができる。再沈殿処理は、例えば、メタノール等のアルコールを用いて実施することができる。
【0085】
水溶性ポリマー微粒子の平均粒子径は、例えば、100nm~500μmであり、さらに300nm~300μmであり、よりさらに600nm~200μmであり、特に1μm~100μmである。平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定を用いて測定できる。
【0086】
水溶性ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、通常、10万~1000万であり、特に50万~600万であり、分子量分布(多分散度;Mw/Mn)は、通常、1.1~7であり、特に1.2~5である。これらは、本明細書の実施例の記載に従い測定できる。
【0087】
4.水溶性ポリマーの用途
本発明の製造方法により、比較的高分子量で分子量分布(多分散度)の小さい水溶性ポリマーを得ることができる。得られた水溶性ポリマーの用途は特に限定はなく、その水溶性ポリマーの特性に応じて適宜選択することができる。本発明の製造方法により得られる、ミクロンサイズの水溶性ポリマー微粒子は、逆相乳化重合で得られるサブミクロンサイズの水溶性ポリマー微粒子と異なり、粒子としての機能が利用される用途に用いることができる。例えば、化粧品添加剤、各種化学物質の担持体、スペーサー、クロマトグラフィー用のカラム充填剤、光拡散剤、多孔質化剤、軽量化剤、ブロッキング防止剤、記録紙用表面改質剤等が挙げられる。
【0088】
水溶性ポリマーの他の用途として、例えば、家庭用品の分野では、例えば、洗濯洗浄剤(粉末、液体、ジェル等)、柔軟剤(液体、シート等)、スプレー(アイロン用、しわ取り用等)、ドライクリーニング助剤、しみ抜き剤等の衣類ケア製品;便器洗浄用ジェル、浴室洗浄用(バスタブ用、シャワー用等)洗剤、硬水あか落とし、床又はタイル用洗剤、壁用洗剤、光沢剤(床用、クロムめっき備品用等)、大理石又はセラミック用洗剤、空気洗浄ジェル、食器用洗剤(液体、固体)等の水回りに設置される設備又は器具用硬質表面洗剤;便器又はビデ用洗剤、消毒手洗いせっけん、部屋の脱臭剤、強力手洗いせっけん、洗剤又は殺菌剤、自動車用洗剤等の消毒洗浄剤等が挙げられる。
【0089】
水処理用途の分野では、例えば、飲料又は産業用途のためのスケール防止剤、分散剤等
が挙げられる。
【0090】
医薬品又は医薬部外品の分野では、例えば、パップ剤、冷却シート等の材料が挙げられる。
【実施例
【0091】
以下、本発明を実施例及び比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り質量部及び質量%を意味する。
【0092】
製造例、実施例及び比較例で得られた重合体の分析方法について以下に記載する。
【0093】
(1)製造可否判断(撹拌状態の評価)
重合終了時の重合反応器内の撹拌状態を目視により観察して、下記に示す評価基準に従って製造可否を評価した。
○:反応液全体が均一に撹拌されている。
△:反応液全体が撹拌されているが、重合反応器の器壁付近の液が撹拌されにくくなっている。
×:撹拌翼周辺のみ撹拌されており、重合反応器の器壁付近の液が撹拌されていない。
【0094】
(2)分子量測定
得られた重合体について、以下に記載の条件にて、水系ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行い、ポリエチレンオキシド/ポリエチレングリコール換算による数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を求めた。また、得られた値から分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
【0095】
[測定条件]
カラム:東ソー製TSKgel GMPW×1本(推定排除限界:5000万)
ポリエチレンオキシド/ポリエチレングリコール標準物質分子量:
(Mp:ピークトップ分子量、Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)
サンプル1:Mp=969000、Mw=1020000、Mn=884000
サンプル2:Mp=450000、Mw=480000、Mn=398000
サンプル3:Mp=222000、Mw=220000、Mn=197000
サンプル4:Mp=86200、Mw=87800、Mn=75800
サンプル5:Mp=42700、Mw=40100、Mn=30700
サンプル6:Mp=18600、Mw=17900、Mn=14900
サンプル7:Mp=6690、Mw=6550、Mn=6170
サンプル8:Mp=2100、Mw=2090、Mn=2030
サンプル9:Mp=599、Mw=601、Mn=560
サンプル10:Mp=238、Mw=238、Mn=238
検量線:上記ポリエチレンオキシド/ポリエチレングリコール標準物質分子量のMp値を用いて3次式で作成した。
溶媒:0.1M NaNO水溶液
温度:40℃
検出器:RI
流速:0.5mL/min
試料濃度:0.5g/L
【0096】
(3)平均粒子径の測定
試料(重合により得られた分散液より実施例に記載した方法で再沈殿精製して得られた
重合体の乾燥粉末)0.1gを秤量し、これにn-ヘプタン20gを加えて十分に撹拌して均一に分散させ測定試料とした。試料に対して、レーザー回折散乱式粒度分布計(日機装製「マイクロトラックMT-3300」)を使用して粒度分布測定を行った。測定時の循環分散媒にはn-ヘプタンを用いた。循環分散媒に測定試料を投入し、装置に内蔵された超音波ホモジナイザーにより超音波を出力25Wで5分間照射した後に測定を行った。分散媒であるn-ヘプタン及び試料の屈折率は、それぞれ1.39及び1.53とした。体積基準の粒度分布測定より算出されるメジアン径(D50、μm)を平均粒子径とした。また、前記の粒度分布測定により算出される90%粒子径(D90)を10%粒子径(D10)で除した値(D90/D10)を粒度分布とした。
【0097】
製造例1(マクロモノマー組成物(UM-1)及びそのn-ヘプタン溶液(UM-1HP)の製造)
オイルジャケットを備えた容量1000mlの加圧式撹拌槽型反応器のオイルジャケットの温度を240℃に保った。
単量体としてラウリルメタクリレート(以下、LMA)75.0部、アクリル酸(以下、AA)25.0部、重合溶媒としてメチルエチルケトン(以下、MEK)10.0部、重合開始剤としてジターシャリーブチルパーオキサイド(以下、DTBP)0.45部の比率で調製された単量体混合液を原料タンクに仕込んだ。
原料タンクの単量体混合液を反応器に供給を開始し、反応器内の重量が580g、平均滞留時間が12分となるように、単量体混合液の供給と反応混合液の抜き出しを行った。反応器内温度は235℃、反応器内圧は1.1MPaとなるように調整を行った。反応器より抜き出した反応混合液は、20kPaに減圧され、250℃に保たれた薄膜蒸発機に連続的に供給し、単量体や溶剤等が留去されたマクロモノマー組成物として排出された。留去した単量体や溶剤等はコンデンサーで冷却し、留出液として回収した。
単量体混合液の供給開始後、反応器内温が235℃に安定してから60分後を回収開始点とし、これから48分間反応を継続してマクロモノマー組成物(UM-1)を回収した。この間、単量体混合液は反応器に2.34kg供給され、薄膜蒸発機より1.92kgのマクロモノマー組成物が回収された。また留出タンクには0.39kgの留出液が回収された。
【0098】
留出液をガスクロマトグラフにて分析したところ、留出液100部に対して、LMA31.1部、AA16.4部、その他溶剤等が52.5部であった。
単量体混合液の供給量及び組成、マクロモノマー組成物の回収量、留出液の回収量及び組成より、単量体の反応率は90.2質量%、マクロモノマー組成物(UM-1)の構成単量体組成比は、LMA:AA=76.0/24.0(質量比)と計算された。
【0099】
また、溶離液にテトラヒドロフランを用いたゲルパーミションクロマトグラフ(以下、GPC)により、マクロモノマー組成物(UM-1)の分子量を測定したところ、ポリスチレン換算での重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、それぞれ、3800及び1800であった。またマクロモノマー組成物のH-NMR測定より、マクロモノマー組成物中の末端エチレン性不飽和結合の濃度を測定した。H-NMR測定による末端エチレン性不飽和結合の濃度、GPCによるMn、及び構成単量体組成比より、マクロモノマー組成物(UM-1)の末端エチレン性不飽和結合導入率(F値)を計算した結果、97質量%であった。
【0100】
製造したマクロモノマー組成物(UM-1)を適当量のn-ヘプタンに加温溶解した後、固形分30.0±0.5%となるようにn-ヘプタン加え、マクロモノマー組成物(UM-1)のn-ヘプタン溶液(UM-1HP)を製造した。なお、固形分は150℃、1時間加熱後の加熱算分率により測定した。
【0101】
なお、単量体、重合溶剤、及び重合開始剤等の各原料については、市販の工業用製品を精製等の処理を行うことなく、そのまま使用した。
【0102】
実施例1(逆相懸濁重合)
重合反応には、ピッチドパドル型撹拌翼及び2本垂直バッフルからなる撹拌機構を有し、さらに温度計、還流冷却器及び窒素導入管を備えた容量2Lの反応器を用いた。また、反応液の総体積が1.6Lとなるように仕込みを行った。詳細を下記に記載する。
【0103】
反応器内に分散安定剤として、製造例1で製造したUM-1HP 4.7部(UM-1
の純分として1.4部)、及びソルビタンモノオレエート(花王(株)製「レオドールAО-10V」、HLB=4.3) 2.9部、更に重合溶媒としてn-ヘプタン 300.6部を仕込み、溶液の温度を40℃に維持しながら撹拌混合して油相を調製した。油相は、40℃で30分間撹拌した後25℃まで冷却した。
【0104】
一方、別の容器にてAA 50.0部、36%アクリル酸ナトリウム水溶液 181.3部、2-{[(2-カルボキシエチル)スルファニルチオカルボニル]スルファニル}プロパン酸(以下、RAFT剤A) 0.013部、過硫酸ナトリウム 0.24部、イオン交換水 28.5部を仕込み、撹拌して均一溶解させた。
【0105】
さらに、50mlフラスコに、ハイドロサルファイトナトリウム 0.17部、イオン
交換水 7.9部を仕込み、撹拌、均一溶解させた後、三方コックを取り付け、窒素バブ
リングで十分脱気し、ハイドロサルファイトナトリウム水溶液を調製した。
【0106】
撹拌翼の回転数を500rpmに設定した後、調製した単量体混合液を反応器内に仕込み、単量体混合液が油相に分散した分散液を調製した。この時、反応器内温は25℃に保持した。また分散液を窒素バブリングすることで十分脱気した。調製したハイドロサルファイトナトリウム水溶液を反応器上部に設けられた投入口から30分間かけてフィードして重合を開始し、フィード開始から3時間撹拌を行った。途中、反応器内温が上昇し、重合が開始したことが確認された。内温の上昇はフィード開始から26分でピークに達し、その温度は42.5℃であった。3時間撹拌後、反応液を室温まで冷却し、重合体の油中分散液を得た。
【0107】
反応液の撹拌状態を確認したところ、重合反応開始から終了まで、反応液全体が撹拌されており、安定に製造できることが確認された。分散液を反応器より抜き出した後しばらく静置して、沈降した重合体をメタノールから再沈殿精製、真空乾燥し、重合体の分子量を水系GPCで測定した結果、Mn=1482000、Mw=4410000、Mw/Mn=2.98であった。また、平均粒子径及び粒度分布を測定した結果、22.0μm及び2.39であった。
【0108】
比較例1(水溶液重合)
実施例1と同様に、重合反応には、ピッチドパドル型撹拌翼及び2本垂直バッフルからなる撹拌機構を有し、さらに温度計、還流冷却器、窒素導入管を備えた、容量2lの反応器を用いた。また、反応液の総体積が1.6Lとなるように仕込みを行った。詳細を下記に記載する。
【0109】
反応器内にAA50.0部、36%アクリル酸ナトリウム水溶液 181.3部、RA
FT剤A 0.013部、過硫酸ナトリウム 0.24部、イオン交換水 28.5部を仕
込み、撹拌して均一溶解させた。
【0110】
一方、100mlフラスコに、ハイドロサルファイトナトリウム 0.17部、イオン
交換水 7.9部を仕込み、撹拌、均一溶解させた後、三方コックを取り付け、窒素バブ
リングで十分脱気し、ハイドロサルファイトナトリウム水溶液を調製した。
【0111】
撹拌翼の回転数を500rpmに設定し、反応器内温は25℃に保持した。また水溶液を窒素バブリングすることで十分脱気した。調製したハイドロサルファイトナトリウム水溶液を反応器上部に設けられた投入口から30分間かけてフィードして重合を開始し、フィード開始から3時間撹拌を行った。重合反応中の反応液の撹拌状態を観察したところ、重合反応の途中から、反応液の粘度が上昇し、撹拌翼周辺のみ撹拌されており、重合反応器の器壁付近の液が撹拌されていないことを確認した。重合反応終了後の抜き出し作業においても、反応器を傾けただけでは抜き出すことが困難であり、安定に製造することが困難であることが確認された。
【0112】
【表1】
【0113】
以上の結果より、本発明の製造方法は、重合反応開始から終了まで、反応液全体を効率的に撹拌及び混合することが可能であり、反応後の反応液の抜き出し作業も容易であることから、安定した高分子量の水溶性ポリマーを製造できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の水溶性ポリマーの製造方法は、交換連鎖移動機構型制御剤を用いるリビングラ
ジカル重合法により、水溶性ビニル系単量体を逆相懸濁重合又は分散重合することにより、高分子量の水溶性ポリマーを製造することができる。この製造方法は、従来の水溶液重合(均一系重合)と比較して、重合制御性を維持しつつ、重合反応開始から終了まで反応液全体の十分な撹拌及び混合が可能であり、それにより重合反応中の除熱及び重合反応後の抜き出し作業も容易である。そのため、スケールアップも含めて工業的規模で高分子量の水溶性ポリマーを生産性良く製造する方法として適している。