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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】二次電池用電解液および二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240214BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240214BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20240214BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240214BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M10/054
H01M10/0569
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022503092
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2020042441
(87)【国際公開番号】W WO2021171711
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2020029595
(32)【優先日】2020-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 緑
(72)【発明者】
【氏名】橋本 拓樹
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-026180(JP,A)
【文献】特開2008-288126(JP,A)
【文献】特開2002-083629(JP,A)
【文献】特開2001-052743(JP,A)
【文献】特開2001-210373(JP,A)
【文献】TAKEDA, Sahori et al.,Rapid Communications in Mass Spectrometry,2016年,30,1754-1762
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/052
H01M 10/054
H01M 10/0569
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極と、
式(1)で表される炭酸エステル化合物を含む電解液と
を備え
前記電解液中における前記炭酸エステル化合物の含有量は、0.001重量%以上3重量%以下である、
二次電池。
【化1】
(R1およびR2のそれぞれは、炭素数が1以上4以下のアルキル基、炭素数が1以上4以下のアルコキシ基、炭素数が2以上4以下のアルコキシアルコキシ基、炭素数が1以上4以下のヒドロキシアルコキシ基、ビニル基、ビニロキシ基、ハロゲン基および水酸基のうちのいずれかである。
ただし、R1がアルコキシ基である場合、R2は、アルキル基、アルコキシアルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、ビニル基、ビニロキシ基、ハロゲン基および水酸基のうちのいずれかである。R1が水酸基である場合、R2は、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、ビニル基、ビニロキシ基およびハロゲン基のうちのいずれかである。
R3、R4、R5およびR6のそれぞれは、水素基、炭素数が1以上4以下のアルキル基およびハロゲン基のうちのいずれかである。
mおよびnのそれぞれは、2または3である。)
【請求項2】
前記R1および前記R2のそれぞれに関して、前記アルキル基および前記アルコキシ基のそれぞれの炭素数は、3以下である、
請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記mおよびnのそれぞれは、2である、
請求項1または請求項2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記R1および前記R2のそれぞれは、前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記ビニル基、前記ビニロキシ基、前記ハロゲン基および前記水酸基のうちのいずれかである、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記R3、前記R4、前記R5および前記R6のそれぞれは、前記水素基および前記アルキル基のうちのいずれかである、
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記電解液は、さらに、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステルおよび鎖状カルボン酸エステルを含む、
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
リチウムイオン二次電池である、
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項8】
式(1)で表される炭酸エステル化合物を含み、
前記炭酸エステル化合物の含有量は、0.001重量%以上3重量%以下である、
二次電池用電解液。
【化2】
(R1およびR2のそれぞれは、炭素数が1以上4以下のアルキル基、炭素数が1以上4以下のアルコキシ基、炭素数が2以上4以下のアルコキシアルコキシ基、炭素数が1以上4以下のヒドロキシアルコキシ基、ビニル基、ビニロキシ基、ハロゲン基および水酸基のうちのいずれかである。
ただし、R1がアルコキシ基である場合、R2は、アルキル基、アルコキシアルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、ビニル基、ビニロキシ基、ハロゲン基および水酸基のうちのいずれかである。R1が水酸基である場合、R2は、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、ビニル基、ビニロキシ基およびハロゲン基のうちのいずれかである。
R3、R4、R5およびR6のそれぞれは、水素基、炭素数が1以上4以下のアルキル基およびハロゲン基のうちのいずれかである。
mおよびnのそれぞれは、2または3である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、二次電池用電解液および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの多様な電子機器が普及しているため、小型かつ軽量であると共に高エネルギー密度を得ることが可能である電源として、二次電池の開発が進められている。この二次電池は、正極および負極と共に電解液(二次電池用電解液)を備えており、その二次電池の構成に関しては、様々な検討がなされている。
【0003】
具体的には、優れた高温寿命性能および優れた低温放電特性を得るために、電解液にカルボニロキシエステル化合物が含有されている(例えば、特許文献1参照。)。また、優れたサイクル特性を得るために、電解液にアルキレンビスカーボネート化合物が含有されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
この他、鎖状炭酸エステルの形態として、その鎖状炭酸エステルの三量体が報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-220313号公報
【文献】特開平07-282849号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Yi-Hung Liu et.al.,J.Phys.Chem.C 2018,122 ,5864-5870
【発明の概要】
【0007】
二次電池の性能に関する様々な検討がなされているが、サイクル特性は未だ十分でないため、改善の余地がある。
【0008】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、優れたサイクル特性を得ることが可能である二次電池用電解液および二次電池を提供することにある。
【0009】
本技術の一実施形態の二次電池用電解液は、式(1)で表される炭酸エステル化合物を含むものである。
【0010】
【化1】
(R1およびR2のそれぞれは、炭素数が1以上4以下のアルキル基、炭素数が1以上4以下のアルコキシ基、炭素数が2以上4以下のアルコキシアルコキシ基、炭素数が1以上4以下のヒドロキシアルコキシ基、ビニル基、ビニロキシ基、ハロゲン基および水酸基のうちのいずれかである。
ただし、R1がアルコキシ基である場合、R2は、アルキル基、アルコキシアルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、ビニル基、ビニロキシ基、ハロゲン基および水酸基のうちのいずれかである。R1が水酸基である場合、R2は、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、ビニル基、ビニロキシ基およびハロゲン基のうちのいずれかである。
R3、R4、R5およびR6のそれぞれは、水素基、炭素数が1以上4以下のアルキル基およびハロゲン基のうちのいずれかである。
mおよびnのそれぞれは、2または3である。)
【0011】
本技術の一実施形態の二次電池は、正極と負極と電解液とを備え、その電解液が上記した本技術の一実施形態の二次電池用電解液の構成と同様の構成を有するものである。
【0012】
本技術の一実施形態の二次電池用電解液または二次電池によれば、その二次電池用電解液(または電解液)が上記した炭酸エステル化合物を含んでいるので、優れたサイクル特性を得ることができる。
【0013】
なお、本技術の効果は、必ずしもここで説明された効果に限定されるわけではなく、後述する本技術に関連する一連の効果のうちのいずれの効果でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本技術の一実施形態における二次電池の構成を表す斜視図である。
図2図1に示した電池素子の構成を表す断面図である。
図3】二次電池の適用例の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本技術の一実施形態に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.二次電池(二次電池用電解液)
1-1.構成
1-2.動作
1-3.製造方法
1-4.作用および効果
2.変形例
3.二次電池の用途
【0016】
<1.二次電池(二次電池用電解液)>
まず、本技術の一実施形態の二次電池に関して説明する。なお、本技術の一実施形態の二次電池用電解液(以下、単に「電解液」と呼称する。)は、二次電池の一部(一構成要素)であるため、その電解液に関しては、以下で併せて説明する。
【0017】
ここで説明する二次電池は、電極反応物質の吸蔵放出を利用して電池容量が得られる二次電池であり、正極および負極と共に、液状の電解質である電解液を備えている。この二次電池では、充電途中において負極の表面に電極反応物質が析出することを防止するために、その負極の充電容量は、正極の放電容量よりも大きくなっている。すなわち、負極の単位面積当たりの電気化学容量は、正極の単位面積当たりの電気化学容量よりも大きくなるように設定されている。
【0018】
電極反応物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、アルカリ金属およびアルカリ土類金属などの軽金属である。アルカリ金属は、リチウム、ナトリウムおよびカリウムなどであると共に、アルカリ土類金属は、ベリリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどである。
【0019】
以下では、電極反応物質がリチウムである場合を例に挙げる。リチウムの吸蔵放出を利用して電池容量が得られる二次電池は、いわゆるリチウムイオン二次電池である。このリチウムイオン二次電池では、リチウムがイオン状態で吸蔵放出される。
【0020】
<1-1.構成>
図1は、二次電池の斜視構成を表していると共に、図2は、図1に示した電池素子10の断面構成を表している。ただし、図1では、電池素子10と外装フィルム20とが互いに分離された状態を示していると共に、図2では、電池素子10の一部だけを示している。
【0021】
この二次電池は、図1に示したように、電池素子10と、外装フィルム20と、正極リード14と、負極リード15とを備えている。ここで説明する二次電池は、電池素子10を収納するための外装部材として、可撓性(または柔軟性)を有する外装部材(外装フィルム20)を用いたラミネートフィルム型の二次電池である。
【0022】
[外装フィルム]
外装フィルム20は、図1に示したように、1枚のフィルム状の部材であり、矢印R(一点鎖線)の方向に折り畳み可能である。この外装フィルム20は、上記したように、電池素子10を収納しているため、後述する正極11および負極12と共に電解液を収納している。なお、外装フィルム20には、電池素子10を収容するための窪み部20U(いわゆる深絞り部)が設けられている。
【0023】
具体的には、外装フィルム20は、融着層、金属層および表面保護層が内側からこの順に積層された3層のラミネートフィルムであり、その外装フィルム20が折り畳まれた状態では、互いに対向する融着層のうちの外周縁部同士が互いに接着(融着)されている。融着層は、ポリプロピレンなどの高分子化合物を含んでいる。金属層は、アルミニウムなどの金属材料を含んでいる。表面保護層は、ナイロンなどの高分子化合物を含んでいる。
【0024】
ただし、外装フィルム20の構成(層数)は、特に、限定されないため、1層または2層でもよいし、4層以上でもよい。
【0025】
外装フィルム20と正極リード14との間には、密着フィルム21が挿入されていると共に、外装フィルム20と負極リード15との間には、密着フィルム22が挿入されている。密着フィルム21,22のそれぞれは、外装フィルム20の内部に外気が侵入することを防止する部材であり、正極リード14および負極リード15のそれぞれに対して密着性を有するポリオレフィンなどの高分子化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。このポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンおよび変性ポリプロピレンなどである。ただし、密着フィルム21,22のうちの一方または双方は、省略されてもよい。
【0026】
[電池素子]
電池素子10は、図1および図2に示したように、外装フィルム20の内部に収納されており、正極11と、負極12と、セパレータ13と、電解液(図示せず)とを備えている。この電解液は、正極11、負極12およびセパレータ13のそれぞれに含浸されている。
【0027】
この電池素子10は、正極11および負極12がセパレータ13を介して互いに積層されると共に、その正極11、負極12およびセパレータ13が巻回軸を中心として巻回された構造体(巻回電極体)である。このため、正極11および負極12は、セパレータ13を介して互いに対向している。なお、上記した巻回軸は、Y軸方向に延在する仮想軸である。
【0028】
ここでは、電池素子10の立体的形状は、扁平形状である。すなわち、巻回軸と交差する電池素子10の断面(XZ面に沿った断面)の形状は、長軸および短軸により規定される扁平形状であり、より具体的には、扁平な略楕円形である。この長軸は、X軸方向に延在すると共に相対的に大きい長さを有する仮想軸であると共に、短軸は、X軸方向と交差するZ軸方向に延在すると共に相対的に小さい長さを有する仮想軸である。
【0029】
(正極)
正極11は、図2に示したように、一対の面を有する正極集電体11Aと、その正極集電体11Aの両面に配置された2個の正極活物質層11Bとを含んでいる。ただし、正極活物質層11Bは、正極11が負極12に対向する側における正極集電体11Aの片面だけに配置されていてもよい。
【0030】
正極集電体11Aは、金属材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その金属材料は、アルミニウム、ニッケルおよびステンレスなどである。正極活物質層11Bは、リチウムを吸蔵放出可能である正極活物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、さらに、正極結着剤および正極導電剤などを含んでいてもよい。
【0031】
正極活物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、リチウム遷移金属化合物などのリチウム含有化合物である。このリチウム遷移金属化合物は、リチウムと共に1種類または2種類以上の遷移金属元素を含む化合物であり、さらに、1種類または2種類以上の他元素を含んでいてもよい。他元素の種類は、遷移金属元素以外の元素であれば、特に限定されないが、具体的には、長周期型周期表中の2族~15族に属する元素である。リチウム遷移金属化合物の種類は、特に限定されないが、具体的には、酸化物、リン酸化合物、ケイ酸化合物およびホウ酸化合物などである。
【0032】
酸化物の具体例は、LiNiO2 、LiCoO2 、LiCo0.98Al0.01Mg0.012 、LiNi0.5 Co0.2 Mn0.3 2 、LiNi0.8 Co0.15Al0.052 、LiNi0.33Co0.33Mn0.332 、Li1.2 Mn0.52Co0.175 Ni0.1 2 、Li1.15(Mn0.65Ni0.22Co0.13)O2 およびLiMn2 4 などである。リン酸化合物の具体例は、LiFePO4 、LiMnPO4 、LiFe0.5 Mn0.5 PO4 およびLiFe0.3 Mn0.7 PO4 などである。
【0033】
正極結着剤は、合成ゴムおよび高分子化合物などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムは、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムおよびエチレンプロピレンジエンなどである。高分子化合物は、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミドおよびカルボキシメチルセルロースなどである。
【0034】
正極導電剤は、炭素材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その炭素材料は、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックなどである。ただし、導電性材料は、金属材料および高分子化合物などでもよい。
【0035】
正極活物質層11Bの形成方法は、特に限定されないが、具体的には、塗布法などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0036】
(負極)
負極12は、図2に示したように、一対の面を有する負極集電体12Aと、その負極集電体12Aの両面に配置された2個の負極活物質層12Bとを含んでいる。ただし、負極活物質層12Bは、負極12が正極11に対向する側における負極集電体12Aの片面だけに配置されていてもよい。
【0037】
負極集電体12Aは、金属材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その金属材料は、銅、アルミニウム、ニッケルおよびステンレスなどである。負極活物質層12Bは、リチウムを吸蔵放出可能である負極活物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、さらに、負極結着剤および負極導電剤などを含んでいてもよい。負極結着剤に関する詳細は、正極結着剤に関する詳細と同様であると共に、負極導電剤に関する詳細は、正極導電剤に関する詳細と同様である。
【0038】
負極活物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、炭素材料および金属系材料などである。炭素材料は、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素および黒鉛などであり、その黒鉛は、天然黒鉛および人造黒鉛などである。金属系材料は、リチウムと合金を形成可能である金属元素および半金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を含む材料であり、その金属元素および半金属元素は、ケイ素およびスズなどである。ただし、金属系材料は、単体でもよいし、合金でもよいし、化合物でもよいし、それらの2種類以上の混合物でもよい、それらの2種類以上の相を含む材料でもよい。
【0039】
金属系材料の具体例は、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 4 、Si2 2 O、SiOv (0<v≦2)、LiSiO、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 、LiSnOおよびMg2 Snなどである。ただし、SiOv のvは、0.2<v<1.4を満たしていてもよい。
【0040】
負極活物質層12Bの形成方法は、特に限定されないが、具体的には、塗布法、気相法、液相法、溶射法および焼成法(焼結法)などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0041】
(セパレータ)
セパレータ13は、図2に示したように、正極11と負極12との間に介在している絶縁性の多孔質膜であり、その正極11と負極12との接触を防止しながらリチウムイオンを通過させる。このセパレータ13は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンおよびポリエチレンなどの高分子化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0042】
(電解液)
電解液は、式(1)で表される炭酸エステル化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。
【0043】
【化2】
(R1およびR2のそれぞれは、炭素数が1以上4以下のアルキル基、炭素数が1以上4以下のアルコキシ基、炭素数が2以上4以下のアルコキシアルコキシ基、炭素数が1以上4以下のヒドロキシアルコキシ基、ビニル基、ビニロキシ基、ハロゲン基および水酸基のうちのいずれかである。
ただし、R1がアルコキシ基である場合、R2は、アルキル基、アルコキシアルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、ビニル基、ビニロキシ基、ハロゲン基および水酸基のうちのいずれかである。R1が水酸基である場合、R2は、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、ビニル基、ビニロキシ基およびハロゲン基のうちのいずれかである。
R3、R4、R5およびR6のそれぞれは、水素基、炭素数が1以上4以下のアルキル基およびハロゲン基のうちのいずれかである。
mおよびnのそれぞれは、2または3である。)
【0044】
この炭酸エステル化合物は、1個の炭酸エステル型の中心基(-O-C(=O)-O-)と、2個のエステル型の末端基(-O-C(=O)-R1および-O-C(=O)-R2)とを含む化合物である。この中心基は、連結基([-CR3R4-]m )を介して一方の末端基(-O-C(=O)-R1)に連結されていると共に、連結基([-CR5R6-]n )を介して他方の末端基(-O-C(=O)-R2)に連結されている。
【0045】
電解液が炭酸エステル化合物を含んでいるのは、充放電時において炭酸エステル化合物に由来する被膜が負極12の表面などに形成されるため、その負極12の表面などにおける電解液の分解反応が抑制されるからである。なお、電解液が炭酸エステル化合物を含んでいる理由の詳細に関しては、後述する。
【0046】
ここで、炭酸エステル化合物の構成、すなわち式(1)に関する詳細は、以下で説明する通りである。
【0047】
R1は、上記したように、アルキル基(炭素数=1~4)、アルコキシ基(炭素数=1~4)、アルコキシアルコキシ基(炭素数=2~4)、ヒドロキシアルコキシ基(炭素数=1~4)、ビニル基(-CH=CH2 )、ビニロキシ基(-OCH=CH2 )、ハロゲン基および水酸基(-OH)のうちのいずれかであれば、特に限定されない。
【0048】
アルキル基は、炭素および水素により構成される1価の基であり、直鎖状でもよいし、1個または2個以上の側鎖を有する分岐状でもよい。アルキル基の具体例は、炭素数が1~4であるため、メチル基、エチル基、プロピル基およびブチル基である。ただし、プロピル基は、n-プロピル基およびイソプロピル基のうちのいずれでもよい。また、ブチル基は、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基のうちのいずれでもよい。
【0049】
アルキル基の炭素数が1~4であるのは、アルキル基の炭素数が5以上である場合と比較して、炭酸エステル化合物の溶解性および相溶性などが向上するからである。中でも、アルキル基の炭素数は、3以下であることが好ましい。炭酸エステル化合物の溶解性および相溶性などがより向上するからである。
【0050】
アルコキシ基は、アルキル基とオキシ基(-O-)とが互いに結合された1価の基である。アルキル基に関する詳細は、上記した通りであるため、そのアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。アルコキシ基の具体例は、炭素数が1~4であるため、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ基である。
【0051】
アルコキシ基の炭素数が1~4である理由は、アルキル基の炭素数が1~4である理由と同様であり、炭酸エステル化合物の溶解性および相溶性などが向上するからである。中でも、アルコキシ基の炭素数は、3以下であることが好ましい。炭酸エステル化合物の溶解性および相溶性などがより向上するからである。
【0052】
アルコキシアルコキシ基は、アルコキシ基に含まれている複数の水素基のうちの1個の水素基が1個のアルコキシ基により置換された基である。アルコキシ基に関する詳細は、上記した通りであるため、そのアルコキシ基のうちのアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。アルコキシアルコキシ基の具体例は、炭素数が2~4であるため、メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、プロポキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基およびメトキシプロポキシ基である。
【0053】
アルコキシアルコキシ基の炭素数が2~4である理由は、アルキル基の炭素数が1~4である理由と同様であり、炭酸エステル化合物の溶解性および相溶性などが向上するからである。
【0054】
ヒドロキシアルコキシ基は、アルコキシ基に含まれている複数の水素基のうちの1個の水素基が1個の水酸基により置換された基である。アルコキシ基に関する詳細は、上記した通りであるため、そのアルコキシのうちのアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。ヒドロキシアルコキシ基の具体例は、炭素数が1~4であるため、ヒドロキシメトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、ヒドロキシプロポキシ基およびヒドロキシブトキシ基である。
【0055】
ヒドロキシアルコキシ基の炭素数が1~4である理由は、アルキル基の炭素数が1~4である理由と同様であり、炭酸エステル化合物の溶解性および相溶性などが向上するからである。
【0056】
ハロゲン基は、長周期型周期表の17族に属する元素からなる基である。ハロゲン基の具体例は、フッ素基、塩素基、臭素基およびヨウ素基などであり、中でも、フッ素基が好ましい。炭酸エステル化合物に由来する被膜が形成されやすくなるからである。
【0057】
中でも、R1は、アルコキシアルコキシ基およびヒドロキシアルコキシ基以外の基であることが好ましい。すなわち、R1は、アルキル基(炭素数=1~4)、アルコキシ基(炭素数=1~4)、ビニル基、ビニロキシ基、ハロゲン基および水酸基のうちのいずれかであることが好ましい。R1がアルコキシアルコキシ基およびヒドロキシアルコキシ基のうちのいずれかである場合と比較して、炭酸エステル化合物に由来する被膜が形成されやすくなるからである。
【0058】
ここで説明したR1に関する詳細は、R2に関しても同様である。すなわち、R2は、アルキル基(炭素数=1~4)、アルコキシ基(炭素数=1~4)、アルコキシアルコキシ基(炭素数=2~4)、ヒドロキシアルコキシ基(炭素数=1~4)、ビニル基、ビニロキシ基、ハロゲン基および水酸基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。なお、R1の種類とびR2の種類とは、互いに同じでもよいし、互いに異なってもよい。
【0059】
ただし、R1がアルコキシ基である場合には、R2はアルコキシ基以外の基である。すなわち、R2は、アルキル基(炭素数=1~4)、アルコキシアルコキシ基(炭素数=2~4)、ヒドロキシアルコキシ基(炭素数=1~4)、ビニル基、ビニロキシ基、ハロゲン基および水酸基のうちのいずれかである。このため、R1およびR2の双方がアルコキシ基である化合物は、ここで説明する炭酸エステル化合物から除かれる。炭酸エステル化合物に由来する被膜が形成されやすくなるからである。
【0060】
また、R1が水酸基である場合には、R2は水酸基以外の基である。すなわち、R2は、アルキル基(炭素数=1~4)、アルコキシ基(炭素数=1~4)、アルコキシアルコキシ基(炭素数=2~4)、ヒドロキシアルコキシ基(炭素数=1~4)、ビニル基、ビニルオキシ基およびハロゲン基のうちのいずれかである。このため、R1およびR2の双方が水酸基である化合物は、ここで説明する炭酸エステル化合物から除かれる。炭酸エステル化合物に由来する被膜が形成されやすくなるからである。
【0061】
R3~R6のそれぞれは、上記したように、水素基、アルキル基(炭素数=1~4)およびハロゲン基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。アルキル基(炭素数=1~4)およびハロゲン基のそれぞれに関する詳細は、上記した通りである。なお、R3~R6のそれぞれの種類は、互いに同じでもよいし、互いに異なってもよい。もちろん、R3~R6のうちの一部(任意の2個または3個)の種類だけが互いに同じでもよい。
【0062】
中でも、R3~R6のそれぞれは、ハロゲン基以外の基であることが好ましい。すなわち、R3~R6のそれぞれは、水素基およびアルキル基(炭素数=1~4)のうちのいずれかであることが好ましい。炭酸エステル化合物に由来する被膜が形成されやすくなるからである。
【0063】
mおよびnのそれぞれは、上記したように、2または3であれば、特に限定されない。mおよびnのそれぞれが1である場合と比較して、炭酸エステル化合物に由来する被膜が形成されやすくなるからである。また、mおよびnのそれぞれが4以上である場合と比較して、炭酸エステル化合物の溶解性および相溶性などが向上するからである。
【0064】
中でも、mおよびnのそれぞれは、2であることが好ましい。炭酸エステル化合物に由来する被膜がより形成されやすくなると共に、その炭酸エステル化合物の溶解性および相溶性などがより向上するからである。
【0065】
炭酸エステル化合物の具体例は、式(1)に示した条件を満たしている化合物であれば、特に限定されない。一例を挙げると、炭酸エステル化合物は、式(1-1)~式(1-42)のそれぞれで表される化合物などである。
【0066】
【化3】
【0067】
【化4】
【0068】
【化5】
【0069】
【化6】
【0070】
電解液中における炭酸エステル化合物の含有量は、特に限定されないが、中でも、3重量%以下であることが好ましく、0.01重量%~3重量%であることがより好ましい。強固な被膜が安定に形成されやすくなるため、電解液の分解反応が十分に抑制されるからである。ただし、ここで説明した炭酸エステル化合物の含有量は、後述する二次電池の安定化処理後の値である。
【0071】
なお、電解液は、さらに、溶媒および電解質塩を含んでいてもよい。溶媒の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよいと共に、電解質塩の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。ただし、上記した炭酸エステル化合物は、ここで説明した溶媒から除かれる。
【0072】
溶媒は、非水溶媒(有機溶剤)を含んでおり、その非水溶媒を含んでいる電解液は、いわゆる非水電解液である。この非水溶媒は、エステル類およびエーテル類などであり、より具体的には、炭酸エステル系化合物、カルボン酸エステル系化合物およびラクトン系化合物などである。
【0073】
炭酸エステル系化合物は、環状炭酸エステルおよび鎖状炭酸エステルなどである。具体的には、環状炭酸エステルは、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンなどであると共に、鎖状炭酸エステルは、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸メチルエチルなどである。カルボン酸エステル系化合物は、鎖状カルボン酸エステルなどである。具体的には、鎖状カルボン酸エステルは、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルおよびトリメチル酢酸エチルなどである。ラクトン系化合物は、ラクトンなどである。具体的には、ラクトンは、γ-ブチロラクトンおよびγ-バレロラクトンなどである。なお、エーテル類は、上記したラクトン系化合物の他、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソランおよび1,4-ジオキサンなどでもよい。
【0074】
また、非水溶媒は、不飽和環状炭酸エステル、ハロゲン化炭酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステル、酸無水物、ニトリル化合物およびイソシアネート化合物などである。電解液の化学的安定性が向上するからである。
【0075】
具体的には、不飽和環状炭酸エステルは、炭酸ビニレン(1,3-ジオキソール-2-オン)、炭酸ビニルエチレン(4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン)および炭酸メチレンエチレン(4-メチレン-1,3-ジオキソラン-2-オン)などである。ハロゲン化炭酸エステルは、フルオロ炭酸エチレン(4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン)およびジフルオロ炭酸エチレン(4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン)などである。スルホン酸エステルは、1,3-プロパンスルトンおよび1,3-プロペンスルトンなどである。リン酸エステルは、リン酸トリメチルおよびリン酸トリエチルなどである。
【0076】
酸無水物は、環状ジカルボン酸無水物、環状ジスルホン酸無水物および環状カルボン酸スルホン酸無水物などである。環状ジカルボンン酸無水物は、無水コハク酸、無水グルタル酸および無水マレイン酸などである。環状ジスルホン酸無水物は、無水エタンジスルホン酸および無水プロパンジスルホン酸などである。環状カルボン酸スルホン酸無水物は、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸および無水スルホ酪酸などである。
【0077】
ニトリル化合物は、アセトニトリル、スクシノニトリルおよびアジポニトリルなどである。イソシアネート化合物は、ヘキサメチレンジイソシアネートなどである。
【0078】
中でも、非水溶媒は、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステルおよび鎖状カルボン酸エステルを含んでいることが好ましい。炭酸エステル化合物の溶解性および相溶性などが十分に向上すると共に、その炭酸エステル化合物に由来する被膜が十分に形成されやすくなるからである。
【0079】
電解質塩は、リチウム塩などの軽金属塩である。このリチウム塩は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiN(FSO2 2 )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 2 )、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 3 )およびビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiB(C2 4 2 )などである。電解質塩の含有量は、特に限定されないが、溶媒に対して0.3mol/kg~3.0mol/kgである。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0080】
[正極リードおよび負極リード]
正極リード14は、正極11(正極集電体11A)に接続された正極端子であり、アルミニウムなどの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。負極リード15は、負極12(負極集電体12A)に接続された負極端子であり、銅、ニッケルおよびステンレスなどの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。正極リード14および負極リード15のそれぞれの形状は、薄板状および網目状などである。
【0081】
ここでは、正極リード14および負極リード15のそれぞれは、図1に示したように、外装フィルム20の内部から外部に向かって互いに共通する方向に導出されている。ただし、正極リード14および負極リード15のそれぞれは、互いに異なる方向に導出されていてもよい。
【0082】
また、ここでは、正極リード14の本数は、1本である。ただし、正極リード14の本数は、特に限定されないため、2本以上でもよい。特に、正極リード14の本数が2本以上であると、二次電池の電気抵抗が低下する。ここで正極リード14の本数に関して説明したことは、負極リード15の本数に関しても同様であるため、その負極リード15の本数は、1本に限らず、2本以上でもよい。
【0083】
<1-2.動作>
二次電池の充電時には、正極11からリチウムが放出されると共に、そのリチウムが電解液を介して負極12に吸蔵される。また、二次電池の放電時には、負極12からリチウムが放出されると共に、そのリチウムが電解液を介して正極11に吸蔵される。これらの充放電時には、リチウムがイオン状態で吸蔵および放出される。
【0084】
<1-3.製造方法>
二次電池を製造する場合には、以下で説明する手順により、正極11および負極12を作製すると共に電解液を調製したのち、その正極11、負極12および電解液を用いて二次電池を作製する。
【0085】
[正極の作製]
最初に、正極活物質と、正極結着剤および正極導電剤などとを混合することにより、正極合剤とする。続いて、有機溶剤などに正極合剤を投入することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製する。最後に、正極集電体11Aの両面に正極合剤スラリーを塗布することにより、正極活物質層11Bを形成する。こののち、ロールプレス機などを用いて正極活物質層11Bを圧縮成型してもよい。この場合には、正極活物質層11Bを加熱してもよいし、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。これにより、正極集電体11Aの両面に正極活物質層11Bが形成されるため、正極11が作製される。
【0086】
[負極の作製]
上記した正極11の作製手順と同様の手順により、負極集電体12Aの両面に負極活物質層12Bを形成する。具体的には、負極活物質と、必要に応じて負極結着剤および負極導電剤などとを混合することにより、負極合剤としたのち、有機溶剤などに負極合剤を投入することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製する。続いて、負極集電体12Aの両面に負極合剤スラリーを塗布することにより、負極活物質層12Bを形成する。こののち、負極活物質層12Bを圧縮成型してもよい。これにより、負極集電体12Aの両面に負極活物質層12Bが形成されるため、負極12が作製される。
【0087】
[電解液の調製]
溶媒に電解質塩を投入したのち、その溶媒に炭酸エステル化合物を添加する。これにより、溶媒中において電解質塩および炭酸エステル化合物のそれぞれが分散または溶解されるため、電解液が調製される。
【0088】
[二次電池の組み立て]
最初に、溶接法などを用いて正極11(正極集電体11A)に正極リード14を接続させると共に、溶接法などを用いて負極12(負極集電体12A)に負極リード15を接続させる。
【0089】
続いて、セパレータ13を介して正極11および負極12を互いに積層させたのち、その正極11、負極12およびセパレータ13を巻回させることにより、巻回体を作製する。この巻回体は、正極11、負極12およびセパレータ13のそれぞれに電解液が含浸されていないことを除いて、電池素子10の構成と同様の構成を有している。続いて、プレス機などを用いて巻回体を押圧することにより、扁平形状となるように巻回体を成型する。
【0090】
続いて、窪み部20Uの内部に巻回体を収容したのち、外装フィルム20を折り畳むことにより、その外装フィルム20同士を互いに対向させる。続いて、熱融着法などを用いて互いに対向する外装フィルム20(融着層)のうちの2辺の外周縁部同士を互いに接着させることにより、袋状の外装フィルム20の内部に巻回体を収納する。
【0091】
最後に、袋状の外装フィルム20の内部に電解液を注入したのち、熱融着法などを用いて外装フィルム20(融着層)のうちの残りの1辺の外周縁部同士を互いに接着させる。この場合には、外装フィルム20と正極リード14との間に密着フィルム21を挿入すると共に、外装フィルム20と負極リード15との間に密着フィルム22を挿入する。これにより、巻回体に電解液が含浸されるため、巻回電極体である電池素子10が作製される。よって、袋状の外装フィルム20の内部に電池素子10が封入されるため、二次電池が組み立てられる。
【0092】
[二次電池の安定化]
組み立て後の二次電池を充放電させる。環境温度、充放電回数(サイクル数)および充放電条件などの各種条件は、任意に設定可能である。これにより、負極12などの表面に被膜が形成されるため、二次電池の状態が電気化学的に安定化する。よって、外装フィルム20を用いた二次電池、すなわちラミネートフィルム型の二次電池が完成する。
【0093】
<1-4.作用および効果>
この二次電池によれば、電解液が炭酸エステル化合物を含んでいる。これにより、上記したように、充放電時において炭酸エステル化合物に由来する被膜が負極12の表面などに形成されるため、その負極12の表面などにおける電解液の分解反応が抑制される。
【0094】
この場合には、特に、式(1)に示したように、炭酸エステル化合物が鎖状炭酸エステルの三量体の構成に類似した構成を有しているため、その炭酸エステル化合物の分子量が単量体の分子量および二量体の分子量のそれぞれよりも大きくなる。これにより、十分に大きな分子量を有する炭酸エステル化合物により、均一な被膜が形成されやすくなる。
【0095】
また、炭酸エステル化合物が2個のエステル型の末端基(-O-C(=O)-R1および-O-C(=O)-R2)を有しているため、その炭酸エステル化合物の還元反応が進行しやすくなる。これにより、充放電時において炭酸エステル化合物の還元反応を利用して被膜が形成されやすくなる。
【0096】
よって、電解液が炭酸エステル化合物を含んでいない場合および電解液が炭酸エステル化合物以外の他の化合物を含んでいる場合と比較して、充放電を繰り返しても放電容量が低下しにくくなるため、優れたサイクル特性を得ることができる。
【0097】
なお、上記した他の化合物は、式(1)に示した条件を満たしていない化合物であり、具体的には、式(1-51)~式(1-67)のそれぞれで表される化合物などである。
【0098】
【化7】
【0099】
【化8】
【0100】
他の化合物の主な構成は、以下で説明する通りである。式(1-51)~式(1-59)のそれぞれに示した化合物では、R1およびR2のうちの一方または双方は、炭素数が5以上のアルキル基または炭素数が5以上のアルコキシ基である。式(1-60)に示した化合物では、R1およびR2の双方がアルコキシ基であると共に、式(1-61)に示した化合物では、R1およびR2の双方が水酸基である。式(1-62)~式(1-65)のそれぞれに示した化合物は、炭酸エステル型の中心基(-O-C(=O)-O-)を含んでいない。式(1-66)および式(1-67)のそれぞれに示した化合物では、mおよびnの双方が1である。
【0101】
特に、R1およびR2のそれぞれに関して、アルキル基およびアルコキシ基のそれぞれの炭素数が3以下であれば、炭酸エステル化合物の溶解性および相溶性などがより向上するため、より高い効果を得ることができる。
【0102】
また、mおよびnのそれぞれが2であれば、炭酸エステル化合物に由来する被膜がより形成されやすくなると共に、その炭酸エステル化合物の溶解性および相溶性などがより向上するため、より高い効果を得ることができる。
【0103】
また、R1およびR2のそれぞれがアルキル基、アルコキシ基、ビニル基、ビニロキシ基、ハロゲン基および水酸基のうちのいずれかであれば、炭酸エステル化合物に由来する被膜が形成されやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0104】
また、R3~R6のそれぞれが水素基およびアルキル基のうちのいずれかであれば、炭酸エステル化合物に由来する被膜が形成されやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0105】
また、電解液中における炭酸エステル化合物の含有量が3重量%以下であり、好ましくは0.01重量%~3重量%であれば、強固な被膜が安定に形成されやすくなることにより、電解液の分解反応が十分に抑制されるため、より高い効果を得ることができる。
【0106】
また、電解液がさらに環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステルおよび鎖状カルボン酸エステルを含んでいれば、炭酸エステル化合物の溶解性および相溶性などが十分に向上すると共に、その炭酸エステル化合物に由来する被膜が十分に形成されやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0107】
また、二次電池がリチウムイオン二次電池であれば、リチウムの吸蔵放出を利用して十分な電池容量が安定に得られるため、より高い効果を得ることができる。
【0108】
<2.変形例>
次に、上記した二次電池の変形例に関して説明する。二次電池の構成は、以下で説明するように、適宜、変更可能である。ただし、以下で説明する一連の変形例のうちの任意の2種類以上は、互いに組み合わされてもよい。
【0109】
[変形例1]
多孔質膜であるセパレータ13を用いた。しかしながら、ここでは具体的に図示しないが、多孔質膜であるセパレータ13の代わりに、高分子化合物層を含む積層型のセパレータを用いてもよい。
【0110】
具体的には、積層型のセパレータは、一対の面を有する多孔質膜と、その多孔質膜の片面または両面に配置された高分子化合物層とを含んでいる。正極11および負極12のそれぞれに対するセパレータの密着性が向上するため、電池素子10の位置ずれが発生しにくくなるからである。これにより、電解液の分解反応などが発生しても、二次電池が膨れにくくなる。高分子化合物層は、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子化合物を含んでいる。ポリフッ化ビニリデンなどは、物理的強度に優れていると共に、電気化学的に安定だからである。
【0111】
なお、多孔質膜および高分子化合物層のうちの一方または双方は、複数の絶縁性粒子のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。二次電池の発熱時において複数の絶縁性粒子が放熱するため、その二次電池の安全性(耐熱性)が向上するからである。絶縁性粒子は、無機粒子および樹脂粒子などである。無機粒子の具体例は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ベーマイト、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ジルコニウムなどの粒子である。樹脂粒子の具体例は、アクリル樹脂およびスチレン樹脂などの粒子である。
【0112】
積層型のセパレータを作製する場合には、高分子化合物および有機溶剤などを含む前駆溶液を調製したのち、多孔質膜の片面または両面に前駆溶液を塗布する。この場合には、必要に応じて前駆溶液に複数の絶縁性粒子を添加してもよい。
【0113】
この積層型のセパレータを用いた場合においても、正極11と負極12との間においてリチウムイオンが移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。
【0114】
[変形例2]
液状の電解質である電解液を用いた。しかしながら、ここでは具体的に図示しないが、電解液の代わりに、ゲル状の電解質である電解質層を用いてもよい。
【0115】
電解質層を用いた電池素子10では、セパレータ13および電解質層を介して正極11および負極12が互いに積層されたのち、その正極11、負極12、セパレータ13および電解質層が巻回されている。この電解質層は、正極11とセパレータ13との間に介在していると共に、負極12とセパレータ13との間に介在している。
【0116】
具体的には、電解質層は、電解液と共に高分子化合物を含んでおり、その電解質層中では、電解液が高分子化合物により保持されている。漏液が防止されるからである。電解液の構成は、上記した通りである。高分子化合物は、ポリフッ化ビニリデンなどを含んでいる。電解質層を形成する場合には、電解液、高分子化合物および有機溶剤などを含む前駆溶液を調製したのち、正極11および負極12のそれぞれの片面または両面に前駆溶液を塗布する。
【0117】
この電解質層を用いた場合においても、正極11と負極12との間において電解質層を介してリチウムイオンが移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。
【0118】
<3.二次電池の用途>
次に、上記した二次電池の用途(適用例)に関して説明する。
【0119】
二次電池の用途は、主に、駆動用の電源または電力蓄積用の電力貯蔵源などとして二次電池を利用可能である機械、機器、器具、装置およびシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。電源として用いられる二次電池は、主電源でもよいし、補助電源でもよい。主電源とは、他の電源の有無に関係なく、優先的に用いられる電源である。補助電源は、主電源の代わりに用いられる電源でもよいし、必要に応じて主電源から切り替えられる電源でもよい。二次電池を補助電源として用いる場合には、主電源の種類は二次電池に限られない。
【0120】
二次電池の用途の具体例は、以下の通りである。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビおよび携帯用情報端末などの電子機器(携帯用電子機器を含む。)である。電気シェーバなどの携帯用生活器具である。バックアップ電源およびメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルおよび電動鋸などの電動工具である。着脱可能な電源としてノート型パソコンなどに搭載される電池パックである。ペースメーカおよび補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む。)などの電動車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。なお、二次電池の電池構造は、上記したラミネートフィルム型および円筒型でもよいし、それら以外の他の電池構造でもよい。また、電池パックおよび電池モジュールなどとして、複数の二次電池が用いられてもよい。
【0121】
中でも、電池パックおよび電池モジュールは、電動車両、電力貯蔵システムおよび電動工具などの比較的大型の機器などに適用されることが有効である。電池パックは、後述するように、単電池を用いてもよいし、組電池を用いてもよい。電動車両は、二次電池を駆動用電源として作動(走行)する車両であり、上記したように、二次電池以外の駆動源を併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車など)でもよい。電力貯蔵システムは、二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に電力が蓄積されているため、その電力を利用して家庭用の電気製品などを使用可能である。
【0122】
ここで、二次電池の適用例の一例に関して具体的に説明する。以下で説明する適用例の構成は、あくまで一例であるため、適宜、変更可能である。
【0123】
図3は、電池パックのブロック構成を表している。ここで説明する電池パックは、1個の二次電池を用いた簡易型の電池パック(いわゆるソフトパック)であり、スマートフォンに代表される電子機器などに搭載される。
【0124】
この電池パックは、図3に示したように、電源41と、回路基板42とを備えている。この回路基板42は、電源41に接続されていると共に、正極端子43、負極端子44および温度検出端子45を含んでいる。この温度検出端子45は、いわゆるT端子である。
【0125】
電源41は、1個の二次電池を含んでいる。この二次電池では、正極リードが正極端子43に接続されていると共に、負極リードが負極端子44に接続されている。この電源41は、正極端子43および負極端子44を介して外部と接続可能であるため、その正極端子43および負極端子44を介して充放電可能である。回路基板42は、制御部46と、スイッチ47と、熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient(PTC)素子)48と、温度検出部49とを含んでいる。ただし、PTC素子48は省略されてもよい。
【0126】
制御部46は、中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit )およびメモリなどを含んでおり、電池パック全体の動作を制御する。この制御部46は、必要に応じて電源41の使用状態の検出および制御を行う。
【0127】
なお、制御部46は、電源41(二次電池)の電池電圧が過充電検出電圧または過放電検出電圧に到達すると、スイッチ47を切断することにより、電源41の電流経路に充電電流が流れないようにする。また、制御部46は、充電時または放電時において大電流が流れると、スイッチ47を切断することにより、充電電流を遮断する。過充電検出電圧および過放電検出電圧は、特に限定されない。一例を挙げると、過充電検出電圧は、4.2V±0.05Vであると共に、過放電検出電圧は、2.4V±0.1Vである。
【0128】
スイッチ47は、充電制御スイッチ、放電制御スイッチ、充電用ダイオードおよび放電用ダイオードなどを含んでおり、制御部46の指示に応じて電源41と外部機器との接続の有無を切り換える。このスイッチ47は、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor (MOSFET))などを含んでおり、充放電電流は、スイッチ47のON抵抗に基づいて検出される。
【0129】
温度検出部49は、サーミスタなどの温度検出素子を含んでおり、温度検出端子45を用いて電源41の温度を測定すると共に、その温度の測定結果を制御部46に出力する。温度検出部49により測定される温度の測定結果は、異常発熱時において制御部46が充放電制御を行う場合および残容量の算出時において制御部46が補正処理を行う場合などに用いられる。
【実施例
【0130】
本技術の実施例に関して説明する。
【0131】
(実験例1~72)
以下で説明するように、図1および図2に示したラミネートフィルム型の二次電池(リチウムイオン二次電池)を作製したのち、その二次電池の性能を評価した。
【0132】
[二次電池の作製]
以下の手順により、二次電池を作製した。
【0133】
(正極の作製)
最初に、正極活物質(コバルト酸リチウム(LiCoO2 ))91質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)3質量部と、正極導電剤(黒鉛)6質量部とを混合することにより、正極合剤とした。続いて、有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン)に正極合剤を投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体11A(厚さ=12μmである帯状のアルミニウム箔)の両面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させることにより、正極活物質層11Bを形成した。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層11Bを圧縮成型した。これにより、正極集電体11Aの両面に正極活物質層11Bが形成されたため、正極11が作製された。
【0134】
(負極の作製)
最初に、負極活物質(炭素材料である人造黒鉛)93質量部と、負極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)7質量部とを混合することにより、負極合剤とした。続いて、有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン)に負極合剤を投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体12A(厚さ=15μmである帯状の銅箔)の両面に負極合剤スラリーを塗布したのち、その負極合剤スラリーを乾燥させることにより、負極活物質層12Bを形成した。最後に、ロールプレス機を用いて負極活物質層12Bを圧縮成型した。これにより、負極集電体12Aの両面に負極活物質層12Bが形成されたため、負極12が作製された。
【0135】
(電解液の調製)
最初に、溶媒を準備した。この溶媒としては、炭酸エステル系化合物(環状炭酸エステルおよび鎖状炭酸エステル)である炭酸エチレンおよび炭酸ジエチルと、カルボン酸エステル系化合物(鎖状カルボン酸エステル)であるプロピオン酸プロピルおよびプロピオン酸エチルとを用いた。溶媒の混合比(重量比)は、炭酸エチレン:炭酸ジエチル:プロピオン酸プロピル:プロピオン酸エチル=3:1:3:3とした。
【0136】
続いて、溶媒に電解質塩(六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 ))を添加したのち、その溶媒を撹拌した。電解質塩の含有量は、溶媒に対して1mol/kgとした。
【0137】
続いて、溶媒(電解質塩を含む。)に他の溶媒を添加したのち、その溶媒を撹拌した。他の溶媒としては、不飽和環状炭酸エステルである炭酸ビニレンと、ハロゲン化炭酸エステルであるフルオロ炭酸エチレンとを用いた。不飽和環状炭酸エステルの添加量は、溶媒に対して1重量%としたと共に、ハロゲン化炭酸エステルの含有量は、溶媒に対して1重量%とした。
【0138】
最後に、溶媒(電解質塩および他の溶媒を含む。)に炭酸エステル化合物を添加したのち、その溶媒を撹拌した。炭酸エステル化合物の種類は、表1~表3に示した通りである。これにより、溶媒(他の溶媒を含む。)中において電解質塩および炭酸エステル化合物のそれぞれ分散または溶解されたため、電解液が調製された。
【0139】
なお、比較のために、炭酸エステル化合物の代わりに他の化合物を用いたことを除いて同様の手順により、電解液を調製した。他の化合物の種類は、表3に示した通りである。
【0140】
(二次電池の組み立て)
最初に、正極11(正極集電体11A)にアルミニウム製の正極リード14を溶接したと共に、負極12(負極集電体12A)に銅製の負極リード15を溶接した。
【0141】
続いて、セパレータ13(厚さ=15μmである微多孔性ポリエチレンフィルム)を介して正極11および負極12を互いに積層させたのち、その正極11、負極12およびセパレータ13を巻回させることにより、巻回体を作製した。続いて、プレス機を用いて巻回体をプレスすることにより、扁平形状となるように巻回体を成型した。
【0142】
続いて、窪み部20Uに収容された巻回体を挟むように外装フィルム20を折り畳んだのち、その外装フィルム20(融着層)のうちの2辺の外周縁部同士を互いに熱融着することにより、袋状の外装フィルム20の内部に巻回体を収納した。外装フィルム20としては、融着層(厚さ=30μmであるポリプロピレンフィルム)と、金属層(厚さ=40μmであるアルミニウム箔)と、表面保護層(厚さ=25μmであるナイロンフィルム)とが内側からこの順に積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。
【0143】
最後に、袋状の外装フィルム20の内部に電解液を注入したのち、減圧環境中において外装フィルム20(融着層)のうちの残りの1辺の外周縁部同士を互いに熱融着した。この場合には、外装フィルム20と正極リード14との間に密着フィルム21(厚さ=5μmであるポリプロピレンフィルム)を挿入したと共に、外装フィルム20と負極リード15との間に密着フィルム22(厚さ=5μmであるポリプロピレンフィルム)を挿入した。これにより、巻回体に電解液が含浸されたため、電池素子10が作製された。よって、外装フィルム20の内部に電池素子が封入されたため、二次電池が組み立てられた。
【0144】
(二次電池の安定化)
常温環境中(温度=23℃)において二次電池を1サイクル充放電させた。充電時には、0.1Cの電流で電圧が4.2Vに到達するまで定電流充電したのち、その4.2Vの電圧で電流が0.05Cに到達するまで定電圧充電した。放電時には、0.1Cの電流で電圧が3.0Vに到達するまで定電流放電した。0.1Cとは、電池容量(理論容量)を10時間で放電しきる電流値であると共に、0.05Cとは、電池容量を20時間で放電しきる電流値である。
【0145】
これにより、負極12などの表面に被膜が形成されたため、二次電池の状態が安定化した。よって、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。
【0146】
なお、二次電池の完成後、高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma(ICP))発光分光分析法を用いて、電解液中における炭酸エステル化合物の含有量(重量%)および電解液中における他の化合物の含有量(重量%)を測定した結果は、表1~表3に示した通りである。
【0147】
[性能の評価]
二次電池の性能(サイクル特性)を評価したところ、表1~表3に示した結果が得られた。
【0148】
サイクル特性を調べる場合には、最初に、常温環境中において二次電池を充放電させることにより、放電容量(1サイクル目の放電容量)を測定した。続いて、同環境中においてサイクル数の総数が300サイクルに到達するまで二次電池を繰り返して充放電させることにより、放電容量(300サイクル目の放電容量)を測定した。なお、充放電条件は、上記した二次電池の安定化時の充放電条件と同様にした。最後に、容量維持率(%)=(300サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100を算出した。
【0149】
【表1】
【0150】
【表2】
【0151】
【表3】
【0152】
[考察]
表1~表3に示したように、容量維持率は、電解液の構成に応じて大きく変動した。以下では、電解液が炭酸エステル化合物も他の化合物も含んでいない場合(実験例55)の容量維持率を比較基準とする。
【0153】
具体的には、電解液が他の化合物を含んでいる場合(実験例56~72)には、容量維持率が増加したものの、その容量維持率が十分に高くならなかった。これに対して、電解液が炭酸エステル化合物を含んでいる場合(実験例1~54)には、容量維持率が大幅に増加したため、その容量維持率が十分に高くなった。
【0154】
特に、電解液が炭酸エステル化合物を含んでいる場合には、以下の傾向が得られた。
【0155】
第1に、アルキル基およびアルコキシ基のそれぞれの炭素数が3以下であると、アルキル基およびアルコキシ基のそれぞれの炭素数が4以上である場合と比較して、容量維持率がより増加した。
【0156】
第2に、mおよびnのそれぞれが2であると、mおよびnのそれぞれが3である場合と比較して、容量維持率がより増加した。
【0157】
第3に、R1およびR2のそれぞれがアルコキシアルコキシ基およびヒドロキシアルコキシ以外の基であると、R1およびR2のそれぞれがアルコキシアルコキシ基およびヒドロキシアルコキシ基のうちのいずれかである場合と比較して、容量維持率がより増加した。
【0158】
第4に、R3~R6のそれぞれがハロゲン基以外の基であると、R3~R6のそれぞれがハロゲン基である場合と比較して、容量維持率がより増加した。
【0159】
第5に、電解液中における炭酸エステル化合物の含有量が3重量%以下であると、容量維持率がより増加した。この場合には、炭酸エステルの含有量が0.001重量%以上であると、容量維持率がさらに増加した。
【0160】
第6に、電解液が炭酸エステル化合物と共に環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステルおよび鎖状カルボン酸エステルを含んでいると、十分に高い容量維持率が得られた。
【0161】
[まとめ]
表1~表3に示した結果から、電解液が炭酸エステル化合物を含んでいると、容量維持率が十分に高くなった。よって、二次電池において優れたサイクル特性が得られた。
【0162】
以上、一実施形態および実施例を挙げながら本技術に関して説明したが、その本技術の構成は、一実施形態および実施例において説明された構成に限定されないため、種々に変形可能である。
【0163】
具体的には、二次電池の電池構造がラミネートフィルム型である場合に関して説明したが、その電池構造は、特に限定されないため、円筒型、角型、コイン型およびボタン型などの他の電池構造でもよい。
【0164】
また、電池素子の素子構造が巻回型である場合に関して説明したが、その電池素子の素子構造は、特に限定されないため、電極(正極および負極)が積層された積層型および電極(正極および負極)がジグザグに折り畳まれた九十九折り型などの他の素子構造でもよい。
【0165】
さらに、電極反応物質がリチウムである場合に関して説明したが、その電極反応物質は、特に限定されない。具体的には、電極反応物質は、上記したように、ナトリウムおよびカリウムなどの他のアルカリ金属でもよいし、ベリリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどのアルカリ土類金属でもよい。この他、電極反応物質は、アルミニウムなどの他の軽金属でもよい。
【0166】
なお、上記した電解液の用途は、二次電池に限られないため、その電解液は、キャパシタなどの他の電気化学デバイスに適用されてもよい
【0167】
本明細書中に記載された効果は、あくまで例示であるため、本技術の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されない。よって、本技術に関して、他の効果が得られてもよい。
図1
図2
図3