(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】異常検知装置、異常検知方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 17/26 20150101AFI20240214BHJP
H04B 17/309 20150101ALI20240214BHJP
H04W 88/18 20090101ALI20240214BHJP
H04W 24/08 20090101ALI20240214BHJP
【FI】
H04B17/26
H04B17/309
H04W88/18
H04W24/08
(21)【出願番号】P 2022504980
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2020047712
(87)【国際公開番号】W WO2021176805
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2020034621
(32)【優先日】2020-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 海彦
(72)【発明者】
【氏名】河野 健司
(72)【発明者】
【氏名】竹内 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】堺 淳
(72)【発明者】
【氏名】大辻 太一
【審査官】大野 友輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/072045(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/035920(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/229813(WO,A1)
【文献】特開2011-160401(JP,A)
【文献】特開2012-047724(JP,A)
【文献】大辻 太一 et al.,物理層の特徴量を用いた送信機個体識別に対する伝搬損失の影響評価,電子情報通信学会技術研究報告,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2018年07月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/26
H04B 17/309
H04W 88/18
H04W 24/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線電波を受信する受信部と、
受信した無線電波から、所定の周波数帯における複数の特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
抽出された複数の特徴量と周波数帯とを関連付けて蓄積する記録部と、
蓄積された複数の特徴
量を取得し、取得した特徴量があらかじめ設定された正常範囲内に入っているか否かを判定し、判定結果に基づいて、無線電波の異常を検知するための複数の特徴量に関するしきい値を設定した異常判定マスクを生成する処理部と、
を備える、
異常検知装置。
【請求項2】
前記処理部は、複数の特徴量がそれぞれあらかじめ設定された正常範囲内に入っているか否かを判定し、前記異常判定マスクとして、複数の特徴量のしきい値をそれぞれ設定した多元異常判定マスクを生成する、
請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記処理部は、取得した特徴量が、複数の特徴量を1つのベクトルとする多次元ベクトル空間における、正常範囲と異常範囲のしきい値を超えるか否かを判定し、前記異常判定マスクとして、多次元ベクトル空間におけるしきい値を設定した多元特徴量マスクを生成する、
請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項4】
前記正常範囲は、1つのクラス分の正常データの集合を学習させ、識別境界を決定することで設定される、
請求項1~3のいずれか1項に記載の異常検知装置。
【請求項5】
前記異常判定マスクを用いて、受信した無線電波に異常があるか否かの判定を行う判定部をさらに備える、
請求項1~4のいずれか1項に記載の異常検知装置。
【請求項6】
前記判定部は、受信した無線電波から抽出された特徴量が前記異常判定マスクに設定されたしきい値を超えた場合に、受信した無線電波が異常であると判定する、
請求項5に記載の異常検知装置。
【請求項7】
複数の特徴量は、受信レベルと振幅確率分布とを含む、
請求項1~6のいずれか1項に記載の異常検知装置。
【請求項8】
前記振幅確率分布は、無線電波の対象の帯域毎に信号の連続する送信時間を計測し、該送信時間よりも長い時間内に所定の大きさの振幅が発生した割合を算出することによって求められる、
請求項7に記載の異常検知装置。
【請求項9】
無線電波を受信し、
受信した無線電波から、所定の周波数帯における複数の特徴量を抽出し、
抽出された複数の特徴量と周波数帯とを関連付けて蓄積し、
蓄積された複数の特徴
量を取得し、取得した特徴量があらかじめ設定された正常範囲内に入っているか否かを判定し、判定結果に基づいて、無線電波の異常を検知するための複数の特徴量に関するしきい値を設定した異常判定マスクを生成する、
異常検知方法。
【請求項10】
無線電波を受信し、
受信した無線電波から、所定の周波数帯における複数の特徴量を抽出し、
抽出された複数の特徴量と周波数帯とを関連付けて蓄積し、
蓄積された複数の特徴
量を取得し、取得した特徴量があらかじめ設定された正常範囲内に入っているか否かを判定し、判定結果に基づいて、無線電波の異常を検知するための複数の特徴量に関するしきい値を設定した異常判定マスクを生成する、
処理をコンピュータに実行させる、
異常検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検知装置、異常検知方法及び異常検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電波を用いた無線通信は、様々な分野で活用されているが、その中でも特に重要とされる警察無線や鉄道無線等の通信は重要無線通信と呼ばれる。重要無線通信に対して妨害が生じた場合、人命にもかかわる事態に発展する可能性があるため、これらの通信に用いられる電波の発射状況に対して異常検知(監視)を行うことは非常に重要である。
【0003】
特許文献1には、人間及び機械の活動に伴う周期的に繰り返す電波受信障害の原因を推定する技術が開示されている。特許文献1では、過去に蓄積された、周期的異常時及び正常時の電波情報、位置情報、電波情報、空間情報、周辺情報を入力データとして、教師データとしてのその周期的な異常が生じる原因を与えて周期的異常原因推定モデルを構築している。現実の運用においては、周期的異常が検出された時の位置情報、電波情報、空間情報、周辺情報を入力データとして、周期的異常原因推定モデルに基づいて現在の状態の周期的異常の発生原因を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
特許文献1では、周期的に繰り返す電波受信障害の原因を推定するために、過去の電波情報の蓄積情報から、位置情報、電波情報、空間情報、周辺情報が、どういう場合に、どのような原因になるかを推定できるモデルを作成し、異常検出を行っている。これに対し、電波の発射状況の監視においては、異常原因の予測・分類が困難である障害が発生することが多いため、特許文献1のように、教師あり学習による異常の判定を行うことは困難である。
【0006】
通常、電波の発射状況に対して異常検知を行う際には、ある電波の受信レベルに対してしきい値を設定し、受信レベルがしきい値を超えた電波を異常と判定する。電波の周波数ごとに定められた受信レベルのしきい値をスペクトラムマスクと呼ぶ。このスペクトラムマスクの作成方法には決まったアルゴリズムはなく、属人的な要素がその作成に大きく寄与する。このため、電波の異常検知にも属人的な要素が寄与することとなり、画一的な判定を行うことができないという問題がある。
【0007】
また、受信レベルがスペクトラムマスクの値を超えた場合のみを異常と判定しているため、受信レベルが低い場合や受信レベル以外の特徴量に異常が生じた場合には、異常と判定されない。
【0008】
本開示の目的は、上述した問題を鑑み、電波の発射状況の異常を画一的に、多面的に判定することができる、異常検知装置、異常検知方法及び異常検知プログラムを提供することにある。
【0009】
本発明の一態様に係る異常検知装置は、無線電波を受信する受信部と、受信した無線電波から、所定の周波数帯における複数の特徴量を抽出する特徴量抽出部と、抽出された複数の特徴量と周波数帯とを関連付けて蓄積する記録部と、蓄積された複数の特徴量から、所定の範囲の複数の特徴量を取得し、取得した特徴量があらかじめ設定された正常範囲内に入っているか否かを判定し、判定結果に基づいて、無線電波の異常を検知するための複数の特徴量に関するしきい値を設定した異常判定マスクを生成する処理部とを備えるものである。
【0010】
本発明の一態様に係る異常検知方法は、無線電波を受信し、受信した無線電波から、所定の周波数帯における複数の特徴量を抽出し、抽出された複数の特徴量と周波数帯とを関連付けて蓄積し、蓄積された複数の特徴量から、所定の範囲の複数の特徴量を取得し、取得した特徴量があらかじめ設定された正常範囲内に入っているか否かを判定し、判定結果に基づいて、無線電波の異常を検知するための複数の特徴量に関するしきい値を設定した異常判定マスクを生成する。
【0011】
本発明の一態様に係る異常検知プログラムは、無線電波を受信し、受信した無線電波から、所定の周波数帯における複数の特徴量を抽出し、抽出された複数の特徴量と周波数帯とを関連付けて蓄積し、蓄積された複数の特徴量から、所定の範囲の複数の特徴量を取得し、取得した特徴量があらかじめ設定された正常範囲内に入っているか否かを判定し、判定結果に基づいて、無線電波の異常を検知するための複数の特徴量に関するしきい値を設定した異常判定マスクを生成する処理をコンピュータに実行させるものである。
【0012】
本発明によれば、電波の発射状況の異常を画一的に、多面的に判定することができる、異常検知装置、異常検知方法及び異常検知プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態に係る異常検知装置の構成を示す図である。
【
図2】
図1の異常検知装置により実行される、異常判定マスクを生成する処理を説明するフロー図である。
【
図3】実施の形態に係る異常検知装置の構成を示す図である。
【
図4】実施の形態で生成された異常判定マスクを用いて、
図3の異常検知装置により実行される、電波異常を検知する処理を説明するフロー図である。
【
図5】実施の形態で生成された異常判定マスクを説明する図である。
【
図6】実施の形態で生成された異常判定マスクを用いた異常検知例を説明する図である。
【
図7】比較例のスペクトラムマスクを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、様々な処理を行う機能ブロックとして図面に記載される各要素は、ハードウェア的には、CPU、メモリ、その他の回線で構成することができる。また、本発明は、任意の処理を、CPU(Central Processing Unit)にコンピュータプログラムを実行させることにより実現することも可能である。従って、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、又はそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。
【0015】
また、上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-Transitory computer Readable Medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage Medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(Transitory computer Readable Medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0016】
実施の形態は、例えば、電波の発射状況に対する異常検知を行う技術に関する。実施の形態に係る電波異常検知装置は、無線電波を受信する受信部と、受信した無線電波から、所定の周波数帯における複数の特徴量を抽出する特徴量抽出部と、抽出された複数の特徴量と周波数帯とを関連付けて蓄積する記録部と、蓄積された複数の特徴量から、所定の範囲の複数の特徴量を取得し、取得した特徴量があらかじめ設定された正常範囲内に入っているか否かを判定し、判定結果に基づいて、無線電波の異常を検知するための複数の特徴量に関するしきい値を設定した異常判定マスクを生成する処理部とを備えるものである。
【0017】
実施の形態によれば、教師なし機械学習により、電波の異常検知の判定基準として用いる複数の特徴量に関するしきい値を設定した異常判定マスクを生成することができる。電波の発射状況に対して異常検知を行う際に、生成された異常判定マスクを用いることで、属人的な要素を排除して、電波の複数の特徴量を判定基準とした多面的な異常検知を行うことができる。
【0018】
以下、実施の形態に係る異常検知装置の具体的な構成例について説明する。まず、無線電波の異常検知をするための異常判定マスクを生成する異常検知装置の構成について説明する。
図1は、実施の形態に係る異常検知装置の構成を機能ブロックとして示す図である。
図1に示すように、異常検知装置10は、アンテナ1、受信部2、特徴量抽出部3、記録部4、処理部5を備える。
図1に示す例は、電波の強度に関する複数の特徴量から異常判定マスクを生成する処理を実行する。
【0019】
アンテナ1は、無線電波を受信し、電気信号に変換して受信部2に送信する。受信部2は、アンテナ1からの電気信号を適当な大きさまで増幅させる。特徴量抽出部3は、受信部2によって増幅された電気信号から任意の周波数帯における複数の特徴量を抽出し、記録部4に送信する。ここでは、複数の特徴量として、受信レベル、振幅確率分布(Amplitude Probability Distribution、以下APDとする)の電波強度に関する複数の特徴量を抽出するものとする。
【0020】
APDとは、受信した信号の特定の大きさの振幅が、所定時間内に発生した割合である。APD測定では、信号の周波数帯成分を分析して、各周波数帯成分の大きさが所定時間中に所定のしきい値を超える確率(振幅確率、或いは、単に、時間率とも言われる。)が測定され、受信レベルと発生頻度の関係が一つのグラフで示される。
【0021】
なお、APDを算出する対象とする時間は、帯域毎に信号の連続する送信時間を計測し、該送信時間の長さよりも長い時間に設定することができる。例えば、APDを算定する対象とする時間は、対象の帯域で送信されている信号の1回の送信時間の長さの2倍程度に設定できる。また、対象の帯域において、送信時間が異なる複数の信号が計測される場合には、最も長い時間を、APDの算出対象の時間とすることができる。
【0022】
記録部4は、特徴量抽出部3により抽出された電波強度に関する複数の特徴量(周波数スペクトラム、APD等)を記録・蓄積する。処理部5は、記録部4に蓄積された各種特徴量に基づき、異常判定マスクを生成する。ここで、異常判定マスクは、「多元特徴量マスク」と「多元異常判定マスク」の2つの例を含む。
【0023】
多元特徴量マスクとは、電波の異常検知の判定基準として用いる、電波の強度に関する複数の特徴量を1つのベクトルとする多次元ベクトル空間における、正常範囲と異常範囲の境界面(しきい値)を設定したものである。
また、多元異常判定マスクとは、電波の異常検知の判定基準として用いる、電波の強度に関する複数の特徴量のしきい値をそれぞれ個別に設定したマスクである。
【0024】
次に、
図2のフロー図を参照して、
図1の異常検知装置により実行される、異常判定マスクを生成する処理について説明する。ここでは、異常判定マスクとして、多元異常判定マスクと多元特徴量マスクを生成する2つの例についてそれぞれ説明する。まず、アンテナ1により無線電波が受信される(ステップS11)。受信された無線電波は電気信号へ変換され、受信部2に送信される。
【0025】
そして、受信電波から所定の周波数帯における電波強度に関する複数の特徴量(受信レベル、APD)が抽出される(ステップS12)。所定の周波数範囲としては、無線通信に用いられる電波の周波数帯を中心として所定の周波数幅の範囲を選択することができる。例えば、鉄道無線に使用される信号の周波数が400MHzの場合、所定の周波数単位は400MHz±f(fは任意の周波数幅)の範囲が選択される。ステップS12で抽出された複数の特徴量は、周波数帯と関連付けて記録部4に記憶・蓄積される(ステップS13)。
【0026】
そして、蓄積された複数の特徴量から所定の範囲の複数の特徴量を取得する(ステップS14)。実施の形態では、この取得した複数の特徴量を用いて、教師なし機械学習によりしきい値を設定した異常判定マスクが生成される。ここでは、教師なし機械学習のアルゴリズムとして、例えば、外れ値検知の手法である、One-Class SVM(Support Vector Machine)を用いられる。
【0027】
One-Class SVMでは、1つのクラス分の正常データの集合を学習させ、識別境界(しきい値)を決定することで、その境界を基準に外れ値が検出される。具体的には、特徴量が正常か否かを判断するための正常データを用いて、取得した特徴量が正常範囲内か否かが判定される(ステップS15)。正常範囲内であると判定された場合(ステップS15YES)、判定結果に応じてしきい値のレベルの変更が実行され異常判定マスクが生成される(ステップS16)。
【0028】
多元異常判定マスクを生成する場合、複数の特徴量がそれぞれあらかじめ設定された正常範囲内に入っているか否かを判定し、教師なし機械学習によりそれぞれ個別にしきい値を設定したマスクが生成される。
【0029】
これに対し、多元特徴量マスクを生成する場合には、取得した特徴量が、複数の特徴量を1つのベクトルとする多次元ベクトル空間における、正常範囲と異常範囲のしきい値を超えるか否かを判定し、多次元ベクトル空間におけるしきい値が設定される。
【0030】
なお、ステップS15で正常範囲内でないと判定された場合には、しきい値のレベルの変更は実行されず、処理が終了する。
【0031】
次に、電波の発射状況に対して、上述の手法で生成された異常判定マスクを用いて異常検知を行う異常検知装置について説明する。
図3は、実施の形態に係る異常検知装置10の構成を機能ブロックとして示す図である。なお、
図1と
図3に示す異常検知装置10は、重複する構成については共用することができ、1つの装置として構成することも可能である。
【0032】
図3に示すように、異常検知装置10は、アンテナ1、受信部2、特徴量抽出部3、判定部6、表示部7、記録部8を備える。
図3に示す例は、上述した手法で生成された異常判定マスクを用いて、無線電波の異常を検知する。アンテナ1は、無線電波を受信し、電気信号に変換して受信部2に送信する。受信部2は、アンテナ1からの電気信号を適当な大きさまで増幅させる。
【0033】
特徴量抽出部3は、受信部2によって増幅された電気信号から任意の周波数帯における電波強度に関する複数の特徴量(受信レベル、APD)を抽出し、判定部6に送信する。判定部6は、処理部5により生成された異常判定マスクを用いて、受信した無線電波に異常があるか否かの判定を行い、異常の有無を示す検知結果を表示部7、記録部8に送信する。表示部7は、検知結果の表示を行う。記録部8は、検知結果を記録・蓄積する。
【0034】
次に、
図4のフロー図を参照して、
図3の異常検知装置により実行される、異常判定マスクを用いた無線電波の異常検知処理について説明する。ここでは、異常判定マスクとして、多元異常判定マスクと多元特徴量マスクを用いた2つの異常検知処理の例についてそれぞれ説明する。なお、
図4において、ステップS21、S22の処理は、
図2のステップS11、S12の処理と同様であるため、説明を省略する。
【0035】
ステップS23では、抽出された複数の特徴量に対して、異常判定マスクを用いた異常判定を行う。具体的には、今回抽出された特徴量が、異常判定マスクに設定されたしきい値以下であるか否かが判定される(ステップS24)。
【0036】
多元異常判定マスクによる異常判定の場合、今回抽出された複数の特徴量が、多元異常判定マスクに設定された各特徴量のしきい値以下であるか否かがそれぞれ判定される。判定部6は、受信した無線電波から抽出された複数の特徴量の少なくともいずれか1つが多元異常判定マスクに設定されたしきい値を超えた場合、ステップS24「NO」に進む。
【0037】
これに対し、多元特徴量マスクによる異常判定の場合、受信した無線電波から抽出された今回の特徴量が、多元特徴量マスクに設定されたしきい値以下であるか否かが判定される。判定部6は、今回の特徴量が、多元特徴量マスクに設定されたしきい値を超えた場合、ステップS24「NO」に進む。
受信した無線電波が異常であると判定されると、電波異常を示す検知結果が表示部7に表示されるとともに、検知した異常が記録部8に記録される(ステップS25)。
【0038】
一方、今回の特徴量が異常判定マスクに設定されたしきい値を以下である場合(ステップS24YES)、受信した無線電波が正常であると判定され、電波が正常であることを示す検知結果が表示部7に表示される、処理が終了する。
【0039】
ここで、
図5を参照して、実施の形態により生成される異常判定マスクについて説明する。上述の通り、異常判定マスクは多元異常判定マスクと、多元特徴量マスクとを含むが、
図5では、説明のため、無線電波の受信レベルの異常判定に用いられるマスクが示される。
図5は、実施の形態により得られる異常判定マスクにおいて、無線電波の受信レベルの異常判定に用いられるマスクを示す。また、
図7は、比較例として、人為的に無線電波の周波数ごとに受信レベルのしきい値を定めたスペクトラムマスクを示す。
図5、
図7において、横軸は周波数(Hz)、縦軸は受信レベル(dBμV)である。
【0040】
図7には、上段、中段、下段に異なるスペクトラムマスクが示されている。
図7に示すように、マスクの形状は作成者によって異なり、電波の異常検知において画一的な判定を行うことができないという問題がある。これに対し、
図5に示すように、実施の形態では、教師なし機械学習によりしきい値が設定されたマスクが生成される。これにより、属人的な要素を排除した電波の異常検知を行うためのマスクを生成することが可能となる。
【0041】
また、実施の形態によれば、多元異常判定マスクは、無線電波の複数の特徴量のしきい値がそれぞれ設定される。上述の例では、多元異常判定マスクには、受信レベルとAPDそれぞれのしきい値が設定されている。一方、多元特徴量マスクでは、無線電波の複数の特徴量を用いて、多次元ベクトル空間におけるしきい値が設定される。上述の例では、多元特徴量マスクには、受信レベルとAPDを1つのベクトルとする多次元ベクトル空間における、正常範囲と異常範囲の境界面(しきい値)が設定されている。このような異常判定マスクを、電波の発射状況の異常判定に用いることで、複数の特徴量を判定基準として用いることができる。
【0042】
図6は、実施の形態による異常判定マスクを用いた異常検知例を説明する図である。ここでは、説明のため、無線電波の受信レベルの異常判定に用いられるマスクを用いた異常検知例と、APDの異常判定に用いられるマスクを用いた異常検知例を別々に示している。
図6の左列には正常時の検知結果が示されており、右列には異常発生時の検知結果が示されている。
図6の上段は周波数スペクトラムによる検知結果であり、下段は周波数帯AにおけるAPDの検知結果である。
【0043】
図6の上段に示すように、受信レベルのしきい値を規定するマスクでは、しきい値よりも大きい受信レベルの電波のみを異常と判断する。このため、電波の受信レベルがしきい値よりも大きい場合には異常と判定されるが、しきい値以下の場合には異常と判定されない。このため、例えば、周波数帯Aにおいて受信レベルが低下した場合、異常として判定されない。
【0044】
しかしながら、実施の形態の異常判定マスクを用いた電波の異常判定では、受信レベルのみではなく、さらにAPDにより電波の異常が判定される。受信レベルが低下すると、一般的にAPDにおいて小さい受信レベルの発生頻度が増加する。
図6の下段を参照すると、異常発生時には、周波数帯AにおけるAPDがマスクのしきい値を超えるため、異常として判定されることとなる。
【0045】
このように、実施の形態によれば、受信した無線電波から抽出される特徴量が異常判定マスクに設定されたしきい値を超えた場合に、受信した無線電波が異常であると判定することができるため、多面的に無線電波の異常を検知することが可能となる。これにより、受信レベルのみの異常判定では検知不能であった、受信レベルが正常時よりも低い場合や、受信レベル以外の特徴量に異常が発生している場合も、異常として検知することが可能となる。
【0046】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。異常判定マスクの生成手法については、上述した手法に限定されるものではなく、機械学習に関する種々の技術を適宜用いることが可能である。上述した異常検知技術は、例えば、電波監視、ドローン等の電波を発する移動体の接近検知、無線装置の故障検知等に適用され得る。また、無線電波の特徴量としては、到来方位角等、電波強度に関する特徴量以外の特徴量であってもよい。
【0047】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0048】
この出願は、2020年3月2日に出願された日本出願特願2020-034621を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0049】
10 異常検知装置
1 アンテナ
2 受信部
3 特徴量抽出部
4 記録部
5 処理部
6 判定部
7 表示部
8 記録部