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特許7435759障害検知システム、障害復旧システム、障害検知方法および障害検知プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】障害検知システム、障害復旧システム、障害検知方法および障害検知プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04L 43/026 20220101AFI20240214BHJP
   H04L 41/149 20220101ALI20240214BHJP
【FI】
H04L43/026
H04L41/149
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022526999
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2021019422
(87)【国際公開番号】W WO2021241454
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2020092028
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】増田 知崇
【審査官】前田 健人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-250234(JP,A)
【文献】国際公開第2019/244966(WO,A1)
【文献】特開2014-107825(JP,A)
【文献】特開2002-271392(JP,A)
【文献】特開2011-146982(JP,A)
【文献】特開2019-022187(JP,A)
【文献】特開2018-029219(JP,A)
【文献】大岸智彦 ほか,パッシブなトラヒック収集に基づく集約経路別ネットワーク品質解析法の提案,電子情報通信学会技術研究報告,2001年,第101巻, 第186号,pp. 75-82
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 43/00
H04L 41/149
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TCP(Transmission Control Protocol)通信を終端する中継装置から、通信品質情報を含む通信ログを収集するログ収集手段と、
収集された前記通信ログの前記通信品質情報を用いて、前記中継装置を経由する通信経路において、通信品質の劣化要因が存在するポイントを示す劣化ポイントを推定する劣化推定手段と
を備え
前記通信ログは、送信元のアドレス情報またはあて先のアドレス情報である通信対象のアドレス情報を少なくとも含む通信付加情報をさらに含み、
前記劣化推定手段は、通信対象のアドレス情報の間で前記通信品質情報の統計量の偏りがあるか否かを判定し、前記偏りがあり、かつ、前記偏りが特定の複数のユーザによるものである場合、前記複数のユーザが利用する無線アクセスネットワークが劣化ポイントであると推定し、前記偏りがあり、かつ、前記偏りが不特定のユーザによるものである場合、アクセス制御プロトコルの障害が発生していると推定する
障害検知システム。
【請求項2】
前記通信品質情報は、再送発生情報、パケットロス発生情報およびスループット情報のうちの少なくとも1つを含む
請求項1に記載の障害検知システム。
【請求項3】
前記通信付加情報は、アクセスしたサイトの識別情報をさらにみ、
前記劣化推定手段は、前記サイトの間で前記通信品質情報の統計量の偏りがあるか否かを判定し、特定種別のサイトに前記偏りがある場合、前記特定種別のサイトに対応する障害が発生していると推定し、種別が不特定のサイトに前記偏りがある場合、インターネットサービスプロバイダ装置が劣化ポイントであると推定する
請求項1又は2に記載の障害検知システム。
【請求項4】
前記ログ収集手段は、複数の前記中継装置から前記通信ログを収集し、
前記劣化推定手段は、
複数の前記中継装置から収集された前記通信ログを用いて、通信品質の劣化状態を有する中継装置を特定し、
特定された前記中継装置から収集された通信ログを用いて、特定された前記中継装置を経由する通信経路において劣化ポイントを推定する
請求項1からのいずれか一項に記載の障害検知システム。
【請求項5】
前記劣化推定手段は、
複数種類の分析処理から少なくとも1つの分析処理を選択する分析選択手段を有し、
選択された前記少なくとも1つの分析処理を実行することで、前記通信品質の劣化状態を有する中継装置を特定する
請求項に記載の障害検知システム。
【請求項6】
TCP(Transmission Control Protocol)通信を終端する中継装置から、通信品質情報を含む通信ログを収集するログ収集手段と、収集された前記通信ログの前記通信品質情報を用いて、前記中継装置を経由する通信経路において、通信品質の劣化要因が存在するポイントを示す劣化ポイントを推定する劣化推定手段とを有する障害検知装置と、
前記通信経路を、推定された前記劣化ポイントを経由しない迂回経路に切り替える障害復旧装置と
を備え
前記通信ログは、送信元のアドレス情報またはあて先のアドレス情報である通信対象のアドレス情報を少なくとも含む通信付加情報をさらに含み、
前記劣化推定手段は、通信対象のアドレス情報の間で前記通信品質情報の統計量の偏りがあるか否かを判定し、前記偏りがあり、かつ、前記偏りが特定の複数のユーザによるものである場合、前記複数のユーザが利用する無線アクセスネットワークが劣化ポイントであると推定し、前記偏りがあり、かつ、前記偏りが不特定のユーザによるものである場合、アクセス制御プロトコルの障害が発生していると推定する
障害復旧システム。
【請求項7】
前記通信品質情報は、再送発生情報、パケットロス発生情報およびスループット情報のうちの少なくとも1つを含む
請求項に記載の障害復旧システム。
【請求項8】
TCP(Transmission Control Protocol)通信を終端する中継装置から、通信品質情報を含む通信ログを収集し、
収集された前記通信ログの前記通信品質情報を用いて、前記中継装置を経由する通信経路において、通信品質の劣化要因が存在するポイントを示す劣化ポイントを推定し、
前記通信ログは、送信元のアドレス情報またはあて先のアドレス情報である通信対象のアドレス情報を少なくとも含む通信付加情報をさらに含み、
前記推定では、通信対象のアドレス情報の間で前記通信品質情報の統計量の偏りがあるか否かを判定し、前記偏りがあり、かつ、前記偏りが特定の複数のユーザによるものである場合、前記複数のユーザが利用する無線アクセスネットワークが劣化ポイントであると推定し、前記偏りがあり、かつ、前記偏りが不特定のユーザによるものである場合、アクセス制御プロトコルの障害が発生していると推定する
障害検知方法。
【請求項9】
TCP(Transmission Control Protocol)通信を終端する中継装置から、通信品質情報を含む通信ログを収集し、
収集された前記通信ログの前記通信品質情報を用いて、前記中継装置を経由する通信経路において、通信品質の劣化要因が存在するポイントを示す劣化ポイントを推定し、
前記通信ログは、送信元のアドレス情報またはあて先のアドレス情報である通信対象のアドレス情報を少なくとも含む通信付加情報をさらに含み、
前記推定では、通信対象のアドレス情報の間で前記通信品質情報の統計量の偏りがあるか否かを判定し、前記偏りがあり、かつ、前記偏りが特定の複数のユーザによるものである場合、前記複数のユーザが利用する無線アクセスネットワークが劣化ポイントであると推定し、前記偏りがあり、かつ、前記偏りが不特定のユーザによるものである場合、アクセス制御プロトコルの障害が発生していると推定する
障害検知方法をコンピュータに実行させる障害検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、障害検知システム、障害復旧システム、障害検知方法および非一時的なコンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ネットワーク内の障害を検知し、劣化箇所を特定する方法が知られている。たとえば、障害ログを用いて障害の存在を確認すること、あるいはping等のソフトウェアによる死活監視または障害検出用のプローブを用いて疑似通信の通信状態を確認することで、障害箇所を検知することが知られている。しかしこのような方法では、明確な障害状態に至っていない場合、場所、電波状況および端末等の様々な条件に左右されるユーザ通信におけるサービス品質(QoE;Quality of Experience)の劣化状態を検知することができない。また、ルータ等のL3以下の層のトラフィックを監視する方式もあるが、このような方式では通信の流れは確認できるものの、QoEの劣化状態については確認することができない。しかしQoEが劣化すると、明確な障害状態ではないもののユーザ通信に大きな影響を及ぼすため、QoEの劣化状態を検知し、劣化箇所を特定することが求められている。
【0003】
そこで特許文献1には、端末間の制御単位である通信フローのフロー情報に基づいて、その通信フローが経由する通信経路上の通信品質の劣化箇所を特定するネットワークシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-046108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし上述の特許文献1に記載のネットワークシステムでは、通信フローに属するパケットのヘッダ情報を通信フローごとに解析し、解析結果に基づいてフロー情報を生成し、フロー情報に基づいて劣化箇所を特定するために必要な指標を算出する。したがって劣化箇所を特定する処理が煩雑であるという問題があった。
【0006】
本開示の目的は、上述した課題に鑑み、QoEの劣化箇所をより容易に推定することができる障害検知システム、障害復旧システム、障害検知方法および非一時的なコンピュータ可読媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様における障害検知システムは、TCP(Transmission Control Protocol)通信を終端する中継装置から、通信品質情報を含む通信ログを収集するログ収集手段と、収集された前記通信ログの前記通信品質情報を用いて、前記中継装置を経由する通信経路において、通信品質の劣化要因が存在するポイントを示す劣化ポイントを推定する劣化推定手段とを備える。
【0008】
本開示の一態様における障害復旧システムは、TCP通信を終端する中継装置から、通信品質情報を含む通信ログを収集するログ収集手段と、収集された前記通信ログの前記通信品質情報を用いて、前記中継装置を経由する通信経路において、通信品質の劣化要因が存在するポイントを示す劣化ポイントを推定する劣化推定手段とを有する障害検知装置と、前記通信経路を、推定された前記劣化ポイントを経由しない迂回経路に切り替える障害復旧装置とを備える。
【0009】
本開示の一態様における障害検知方法は、TCP通信を終端する中継装置から、通信品質情報を含む通信ログを収集し、収集された前記通信ログの前記通信品質情報を用いて、前記中継装置を経由する通信経路において、通信品質の劣化要因が存在するポイントを示す劣化ポイントを推定する。
【0010】
本開示の一態様における非一時的なコンピュータ可読媒体は、障害検知方法をコンピュータに実行させる障害検知プログラムが格納される。前記障害検知方法は、TCP通信を終端する中継装置から、通信品質情報を含む通信ログを収集し、収集された前記通信ログの前記通信品質情報を用いて、前記中継装置を経由する通信経路において、通信品質の劣化要因が存在するポイントを示す劣化ポイントを推定する。
【発明の効果】
【0011】
本開示により、QoEの劣化箇所をより容易に推定することができる障害検知システム、障害復旧システム、障害検知方法および非一時的なコンピュータ可読媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1にかかる障害検知システムの構成を示すブロック図である。
図2】実施形態2にかかる障害復旧システムが適用される通信システムの構成の一例を示す図である。
図3】実施形態2にかかる障害復旧システムの構成の一例を示すブロック図である。
図4】実施形態2にかかる通信ログのデータ構造の一例を示す図である。
図5】実施形態2にかかる通信システムの動作の一例を示すシーケンス図である。
図6】実施形態2にかかる障害検知装置の第1通信ログ分析処理の一例を示すフローチャートである。
図7】実施形態2にかかる第1通信ログ分析処理を説明するための図である。
図8】実施形態2にかかる障害検知装置の第2通信ログ分析処理の一例を示すフローチャートである。
図9】実施形態2にかかる通信付加情報に関連する項目ごとの通信品質統計量を示す図である。
図10】実施形態2にかかる通信付加情報に関連する項目ごとの通信品質統計量を示す図である。
図11】実施形態3にかかる障害復旧システムの構成の一例を示すブロック図である。
図12】実施形態3にかかる第1通信ログ分析処理の一例を説明するための図である。
図13】実施形態3にかかる第1通信ログ分析処理の一例を説明するための図である。
図14】実施形態1~3にかかるコンピュータの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を通じて本開示を説明するが、請求の範囲にかかる開示を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0014】
<実施形態1>
まず図1を用いて、本開示の実施形態1について説明する。図1は、実施形態1にかかる障害検知システム10の構成を示すブロック図である。障害検知システム10は、ログ収集部12と、劣化推定部16とを備える。
【0015】
ログ収集部12は、ログ収集手段とも呼ばれる。ログ収集部12は、TCP(Transmission Control Protocol)通信を終端する中継装置から、通信品質情報を含む通信ログを収集する。
劣化推定部16は、劣化推定手段とも呼ばれる。劣化推定部16は、ログ収集部12によって収集された通信ログの通信品質情報を用いて、中継装置を経由する通信経路において劣化ポイントを推定する。ここで劣化ポイントは、通信品質の劣化要因が存在するポイントを示す。
【0016】
このように実施形態1によれば、障害検知システム10は、TCP通信を終端する中継装置が有する通信ログの通信品質情報を用いて、通信品質の劣化ポイントを容易に推定することができる。
【0017】
<実施形態2>
次に図2図10を用いて、本開示の実施形態2について説明する。図2は、実施形態2にかかる障害復旧システム6が適用される通信システムの構成の一例を示す図である。実施形態2にかかる通信システムは、ユーザ端末がインターネットを介して各種サービスを利用することを可能にするシステムである。通信システムは、ユーザ端末1と、サービス提供装置2と、中継装置4と、インターネットサービスプロバイダ(ISP)装置5と、障害復旧システム6とを備える。
【0018】
そして通信システムは、ユーザ端末1と中継装置4とが無線アクセスネットワーク(RAN)8およびコアネットワーク(CN)9を介して通信可能に接続される構成をとる。ここで実施形態2では、RAN8およびCN9は、移動体通信事業者(MNO)により提供される。なおRAN8は、基地局により構築される。
また通信システムは、サービス提供装置2と中継装置4およびISP5とは、インターネット7を介して通信可能に接続される構成をとる。
【0019】
ユーザ端末1は、パーソナルコンピュータ、ノート型コンピュータ、携帯電話、スマートフォン、またはデータ入出力可能なその他の通信端末等である。実施形態2では、ユーザ端末1は、無線通信が可能な移動体通信端末である。ユーザ端末1は、基地局と無線通信し、RAN8、CN9およびインターネット7を介してサービス提供装置2にサービスの提供を要求し、サービス提供装置2からサービスにかかるデータを受信する。
【0020】
たとえば本図に示すように、1または複数のユーザ端末1-1は、RAN8-1またはRAN8-2を構築する基地局と無線通信する。また、1または複数のユーザ端末1-2は、RAN8-3またはRAN8-4を構築する基地局と無線通信する。また、1または複数のユーザ端末1-3は、RAN8-5を構築する基地局と無線通信する。
【0021】
サービス提供装置2は、ユーザ端末1にサービスを提供するサーバ・コンピュータ等のコンピュータである。たとえばサービス提供装置2は、ユーザ端末1からの要求に応じて、動画および音声等のウェブコンテンツサービス、音声通話サービスまたはビデオ通話サービス等を提供する。実施形態2では、サービス提供装置2は、1または複数の第1サービス提供装置2aと、1または複数の第2サービス提供装置2bとを有する。
【0022】
第1サービス提供装置2aは、ISPおよび通信事業者とは異なる事業者が運営するOTT(Over-The-Top)を提供する装置である。OTTは、通信容量を大量に使用することが知られている。
第2サービス提供装置2bは、図示しないCDN(content delivery network)に接続され、ウェブコンテンツサービスを提供する装置である。
なお、サービス提供装置2の種類は、2に限らず、1であってもよく、2以上であってもよい。
【0023】
中継装置4は、スイッチまたはゲートウェイ等の中継装置である。中継装置4は、インターネット7およびCN9を介して、ユーザ端末1およびサービス提供装置2のデータ通信を中継する。中継装置4は、CN9に接続され、またISP装置5に通信可能に接続される。ここで、中継装置4は、ユーザ端末1側およびサービス提供装置2側のTCP通信を終端する処理を行い、TCP通信に関する通信ログを出力する。中継装置4が出力する通信ログは、ルータ等のL3スイッチが出力する通信ログとは異なり、QoEに関連する通信品質情報を含む。通信ログおよび通信品質情報は、後述する。
【0024】
ISP装置5は、ISP事業者により管理される装置である。ISP装置5は、インターネット7に接続され、また中継装置4に通信可能に接続され、これらの通信を中継する。
【0025】
障害復旧システム6は、通信システムの通信品質の劣化を検知し、ユーザ端末1が利用する通信経路を、劣化ポイントを経由しない通信経路に切り替えるシステムである。障害復旧システム6は、障害検知システム(以下、障害検知装置と呼ぶ)20と、復旧装置30とを備える。
【0026】
障害検知装置20は、中継装置4に接続されるサーバ・コンピュータ等のコンピュータである。障害検知装置20は、中継装置4の通信ログを用いてユーザのQoEの状態を分析し、通信品質の劣化を検知し、通信システムにおける劣化ポイントを推定する。なお本図では、便宜上、障害検知装置20は1つの中継装置4と接続されるように示したが、障害検知装置20は、複数の中継装置4に接続されているものとする。
【0027】
復旧装置30は、障害復旧装置とも呼ばれる。復旧装置30は、障害検知装置20に接続されるサーバ・コンピュータ等のコンピュータである。復旧装置30は、ユーザ端末1が利用する通信経路が劣化ポイントを経由する場合、その通信経路を、推定した劣化ポイントを経由しない迂回経路に切り替える。
【0028】
ここで、障害発生の一例について説明する。たとえば、CN9内のルータがインターフェース部分の経年劣化により、通信接続されにくい障害が発生した場合を考える。このルータは、特定の地域で払い出されるIPの経路上にあるものとする。このような障害は、ユーザ端末1とサービス提供装置2との間の通信接続を完全に遮断するわけではないが、まれにパケットロス状態を引き起こすため、通信において再送を発生させる。たとえば、ユーザがオンラインゲームを行っている場合、パケットロス状態は、オンラインゲーム上でも状態異常を引き起こすため、ユーザは快適にオンラインゲームができなくなる等の影響を受ける。またこのような障害は、伝送効率の劣化を引き起こす。しかし、通信システム上の装置内で障害ログは出力されないため、システム保守者は障害ログを通じてこのような異常に気づくことができない。また通信自体は成功しており、パケットロスは連続して発生しないため、プローブによる経路監視によっても、異常を検知することができない。
【0029】
このような場合、通常、システム保守者は、ユーザからの申告により異常が発生していることを認識する。そしてシステム保守者は、複数のユーザの申告に基づいて、異常が発生している地域および対象のオンラインゲーム等の異常が発生している箇所をマッピングして絞り込み、劣化ポイントの切り分けを行っていく。ここで、精度よく絞り込みを行うためには、異常が発生しているユーザのうちの多数が申告することが求められる。しかし実際は、多数のユーザが申告する可能性は低く、異常発生箇所の明確な絞り込みは困難であるため、1つ1つの装置のログを確認し異常がないことを確認した後、機器を一つ一つ切り離すことで、劣化ポイントの特定を実施する。このような方法では、劣化ポイントの特定に非常に時間がかかり、また復旧時間も長くなってしまう。さらに近年のネットワークの複雑化に伴って、対応工数および復旧時間の双方で、問題の深刻化が予想されている。
【0030】
しかし実施形態2によれば、まず障害復旧システム6の障害検知装置20は、中継装置4で取得した通信品質情報を含む通信ログを収集し、一例として特定のIPアドレスによる通信で、通信品質が劣化していることを検知する。そして障害復旧システム6の復旧装置30は、そのIPパケットが通るネットワーク経路に異常がある可能性があるため、対象のIPアドレスの払い出しを抑止し、別のIPアドレスを割り当て、経路変更を実施する。これにより、障害復旧システム6は、ユーザ申告が発生する前に自動で経路切り替えを行うため、ユーザへの影響を最小限に抑えることができる。なおシステム保守者は、その後、切り離された機器の異常確認を行う。
【0031】
図3は、実施形態2にかかる障害復旧システム6の構成の一例を示すブロック図である。上述の通り、障害復旧システム6は、障害検知装置20と復旧装置30とを備える。
障害検知装置20は、ログ収集部22と、ログ記憶部24と、劣化推定部26と、通知部28とを有する。
【0032】
ログ収集部22は、ログ収集部12の一例である。ログ収集部22は、複数の中継装置4の各々から通信ログ200を受信し、収集する。ログ収集部22は、ログ記憶部24に通信ログ200を格納する。
【0033】
ログ記憶部24は、ログ記憶手段とも呼ばれる。ログ記憶部24は、ログ収集部22が収集した通信ログ200を記憶する記憶媒体である。
【0034】
劣化推定部26は、劣化推定部16の一例である。劣化推定部26は、ログ収集部22により収集され、かつログ記憶部24が記憶する通信ログ200の通信品質情報を分析し、通信品質の劣化状態を有する中継装置4を特定する。そして劣化推定部26は、特定された中継装置4から収集された通信ログ200を用いて、特定された中継装置4を経由する通信経路において、劣化ポイントを推定する。
【0035】
通知部28は、通知手段とも呼ばれる。通知部28は、劣化ポイントが推定されたことに応じて、劣化ポイントに関する劣化情報を、復旧装置30の迂回経路選択部32に通知する。
【0036】
復旧装置30は、迂回経路選択部32と、復旧処理部34とを有する。
迂回経路選択部32は、迂回経路選択手段とも呼ばれる。迂回経路選択部32は、通知部28から劣化情報を受信したことに応じて、劣化ポイントを経由する通信経路を有する対象通信について、劣化ポイントを経由しない迂回経路を算出する。
復旧処理部34は、復旧処理手段とも呼ばれる。復旧処理部34は、対象通信の通信経路を、迂回経路選択部32により算出された迂回経路に切り替える処理を行う。たとえば復旧処理部34は、ユーザ端末1のアクセスポイント名(APN)の変更またはCN9内の経路変更等を行う。
【0037】
図4は、実施形態2にかかる通信ログ200のデータ構造の一例を示す図である。通信ログ200は、通信付加情報210と、通信品質情報220とを含む。
【0038】
通信付加情報210は、データの送受信に関する、複数の種別の制御情報を含む。例えば通信付加情報210は、送信元のアドレス情報、あて先のアドレス情報およびアクセスしたサイトの識別情報のうち少なくとも2つを含む。なお実施形態2では一例として、通信付加情報210は、本図に示すように、送信元のIPアドレス、宛先のIPアドレス、送信時刻情報およびサイトのURL(Uniform Resource Locator)を含む。
【0039】
通信品質情報220は、通信品質に関する情報である。通信品質情報220は、再送発生情報、パケットロス発生情報およびスループット情報のうちの少なくとも1つを含む。通信品質情報220は、ラウンドトリップタイム(RTT)情報を含んでもよい。なお本実施形態2では、通信品質情報220は、再送発生情報、パケットロス発生情報およびスループット情報に加えて、通信ステータス情報を含む。
【0040】
通信ステータス情報は、サイト通信におけるステータスコードであり、エラーが発生した場合にはエラーコードを含む。
【0041】
なおスループット情報またはRTT情報などのend-to-endの性能指標情報は、中継装置4がTCP通信を終端することにより取得される情報である。
【0042】
次に図5~10を用いて、実施形態2にかかる通信システムの動作について説明する。図5は、実施形態2にかかる通信システムの動作の一例を示すシーケンス図である。
【0043】
まず中継装置4-1,4-2はそれぞれ、自己が終端させたTCP通信の通信ログ200を障害復旧システム6の障害検知装置20に送信する(S10)。これにより、障害検知装置20のログ収集部22は、中継装置4-1,4-2から通信ログ200を受信しログ記憶部24に格納することで、通信ログ200を収集する(S11)。
【0044】
次に障害検知装置20の劣化推定部26は、ログ記憶部24に格納される通信ログ200に対して、第1通信ログ分析を実施する(S12)。これにより障害検知装置20は、通信システムに含まれる中継装置4の各々に対して、その中継装置4が中継する通信のQoEの劣化を検知する。
【0045】
次に障害検知装置20の劣化推定部26は、通信システムに含まれる中継装置4のうち、QoEが劣化している通信を中継する中継装置4(対象中継装置)があるか否かを判定する(S13)。劣化推定部26は、対象中継装置があると判定する場合(S13でYes)、処理をS14に進め、そうでない場合(S13でNo)、処理をS11に戻す。
なおS12~S13に示す処理は、定期的に実施されてよい。
【0046】
劣化推定部26は、対象中継装置があると判定したことに応じて、対象中継装置から収集された通信ログ200に対して第2通信ログ分析を実施する(S14)。これにより劣化推定部26は、対象中継装置が中継する通信の通信経路上の劣化ポイントを推定する(S15)。そして障害検知装置20の通知部28は、劣化ポイントに関する劣化情報を、復旧装置30の迂回経路選択部32に通知する(S16)。通知部28は、これに加えて、システム保守者に劣化情報を通知してよい。
【0047】
復旧装置30の迂回経路選択部32は、劣化情報を受信したことに応じて、劣化ポイントを経由する通信経路を有する対象通信について、劣化ポイントを経由しない迂回経路を算出し、選択する(S17)。
【0048】
復旧装置30の復旧処理部34は、対象通信の通信経路を、選択された迂回経路に変更し、異常の復旧処理を行う(S18)。たとえば障害検知装置20において、図2に示すRAN8-1(APN:IP_1)を利用する通信が他のRAN8を利用する通信に比べて、パケットロス率がわずかに高く、またスループットも低くなっていると検知された場合を考える。この場合、復旧処理部34は、そのRAN8-1を利用するユーザ端末1のAPNを変更することで(IP_1→IP_2)、そのユーザ端末1の通信が別の基地局に収容されるようにする。これにより、ユーザ端末1は、劣化ポイントを経由しない別の通信経路により、サービス提供装置2からのサービスを利用することができる。
【0049】
次に図6を用いて、図7を参照しながら、実施形態2にかかる障害検知装置20の第1通信ログ分析処理について説明する。図6は、実施形態2にかかる障害検知装置20の第1通信ログ分析処理の一例を示すフローチャートである。図7は、実施形態2にかかる第1通信ログ分析処理を説明するための図である。
【0050】
まず障害検知装置20の劣化推定部26は、分析対象となる期間を示す分析対象期間Tを指定する(S20)。たとえば劣化推定部26は、直近一時間の期間を分析対象期間Tとして指定してよい。なお、分析対象期間Tは、予め定められてよい。また分析対象期間Tは、障害検知装置20がシステム保守者による入力を受け付けることで決定されてもよい。
【0051】
次に劣化推定部26は、通信システム上の中継装置4の各々について、その中継装置4から収集した通信ログ200の分析対象期間Tにおけるエラー割合を算出する(S22)。ここでエラー割合は、サイト通信においてエラーが発生した通信の割合を示す。実施形態2でエラー割合は、その中継装置4が中継する通信のデータ量のうち、通信品質情報220の通信ステータス情報にエラーコードが含まれる通信ログ200に対応する通信のデータ量の割合を示してよい。
【0052】
次に劣化推定部26は、エラー割合が予め定められた閾値以上である中継装置4があるか否かを判定する(S24)。劣化推定部26は、エラー割合が閾値以上である中継装置4があると判定する場合(S24でYes)、その中継装置4を対象中継装置として特定する(S26)。そして劣化推定部26は、処理を図5に示すS13に進める。一方、劣化推定部26は、エラー割合が閾値以上である中継装置4がないと判定する場合(S24でNo)、処理を図5に示すS13に進める。
【0053】
ここで図7に示すように、障害検知装置20が中継装置4-1~4-4から通信ログ200を収集する場合を考える。たとえば劣化推定部26は、所定の日の10時から11時までの期間を分析対象期間Tに指定する。劣化推定部26は、通信ログ200の通信付加情報210の送信時刻情報と通信品質情報220の通信ステータス情報とを用いて、中継装置4ごとに分析対象期間Tのエラー割合を算出する。ここで、劣化推定部26は、エラー割合が閾値θ以上である中継装置4-2を対象中継装置として特定する。
【0054】
なお実施形態2では、劣化推定部26は第1通信ログ分析処理にエラー割合を用いたが、これに代えて、サイト通信において何らかのエラーが発生した通信データ量を示すエラーデータ量を用いてもよい。エラーデータ量は、通信品質情報220の通信ステータス情報にエラーコードが含まれる通信ログ200に対応する通信のデータ量であってよい。
【0055】
また、劣化推定部26は、中継装置4間の分析対象期間Tのエラー割合を比較することに代えて、分析対象期間Tと同じ時間帯の過去のエラー割合の平均と分析対象期間Tのエラー割合とを中継装置4ごとに比較してよい。そして劣化推定部26は、過去平均と著しく乖離している中継装置4がある場合、その中継装置4を対象中継装置として特定してよい。
【0056】
次に図8を用いて、図9~10を参照しながら、実施形態2にかかる障害検知装置20の第2通信ログ分析処理について説明する。図8は、実施形態2にかかる障害検知装置20の第2通信ログ分析処理の一例を示すフローチャートである。図9および10は、実施形態2にかかる通信付加情報210に関連する項目ごとの通信品質統計量を示す図である。なお項目とは、通信付加情報210にアドレス情報が含まれる場合は、IPアドレスまたはユーザを示し、通信付加情報210にサイト識別情報が含まれる場合は、サイトを示してよい。
【0057】
まず障害検知装置20の劣化推定部26は、対象中継装置から収集した通信ログ200を母集団として、通信対象のIPアドレスごとに通信ログ200の通信品質情報220の統計量である通信品質統計量を算出する(S30)。ここで通信品質統計量は、通信ログ200の通信品質情報220の再送発生情報、パケットロス発生情報およびスループット情報の少なくとも1つに関する統計量であってよい。統計量は、その情報が示す性能指標の合計または平均であってよい。また通信対象のIPアドレスは、送信元IPアドレスまたは宛先IPアドレスであってよい。
【0058】
次に劣化推定部26は、通信対象のIPアドレスの間で通信品質統計量を比較し、通信対象のIPアドレスの間で通信品質統計量の偏りがあるか否かを判定する(S31)。偏りがあるか否かは、他の通信品質統計量との間の差が所定閾値以上であるか否かで判定されてよい。
【0059】
劣化推定部26は、通信対象のIPアドレスの間で通信品質統計量の偏りがあると判定した場合(S31でYes)、その偏りが特定のユーザによるものであるか否かを判定する(S32)。一例として劣化推定部26は、偏りを生じさせているIPアドレスが、特定のアクセスポイントを経由しているか否かを判定してよい。
【0060】
劣化推定部26は、偏りが特定のユーザによるものであると判定した場合(S32でYes)、その特定のユーザが単独のユーザであるか否かを判定する(S33)。劣化推定部26は、単独のユーザであると判定した場合(S33でYes)、端末障害が発生していると推定する(S34)。すなわち、劣化推定部26は、その単独のユーザのユーザ端末1自体が劣化ポイントであると推定する。一方、劣化推定部26は、特定のユーザが複数のユーザであると判定した場合(S33でNo)、RAN障害が発生していると推定する(S35)。すなわち、劣化推定部26は、複数のユーザが利用するRAN8が劣化ポイントであると推定する。
【0061】
また劣化推定部26は、偏りが特定のユーザによるものでない、つまり不特定のユーザによるものであると判定した場合(S32でNo)、GTP(GPRS Tunneling Protocol)などのアクセス制御プロトコルの障害が発生していると推定する(S36)。
【0062】
たとえば図9に示す例においては、劣化推定部26は、対象中継装置の通信ログ200の通信付加情報210の送信元IPアドレス(IP001,002,003,004,005)ごとの通信品質統計量を算出する。IP002およびIP003に関する通信品質統計量は、他のIPアドレスよりも著しく小さい値を有する。したがって劣化推定部26は、IP002およびIP003から送信される通信の通信経路のどこかに異常が発生していることを認識することができる。ここで、IP002およびIP003は、たとえば同じRAN8-1の基地局と通信しているものとする。このような場合、劣化推定部26は、RAN8-1を劣化ポイントとしてRAN障害を推定する。
【0063】
一方、劣化推定部26は、通信対象のIPアドレスの間で偏りがないと判定した場合(S31でNo)、対象中継装置から収集した通信ログ200を母集団として、アクセスしたサイトごとに通信品質統計量を算出・比較し、偏りがあるか否かを判定する(S37)。このとき劣化推定部26は、通信ログ200の通信付加情報210のサイトのURLを用いて、当該判定を行ってよい。
【0064】
劣化推定部26は、サイト間の偏りがあると判定した場合(S37でYes)、特定種別のサイトに偏りがあるか否かを判定する(S38)。たとえば劣化推定部26は、アクセスされるサイトが、特定のサービス形態のサイト、つまり第1サービス提供装置2aまたは第2サービス提供装置2b等が提供するサイトに集中しているか否かを判定する。
【0065】
劣化推定部26は、特定種別のサイトに偏りがあると判定する場合(S38でYes)、その特定のサイトをサービス形態の種別で分類する(S39)。劣化推定部26は、特定種別のサイトがCDNを通じたサービスである、つまり第2サービス提供装置2bから提供されたものであると判定する場合、CDN障害が発生していると推定する(S40)。一方、劣化推定部26は、特定種別のサイトがOTTを通じたサービスである、つまり第1サービス提供装置2aから提供されたものであると判定する場合、OTT障害が発生していると推定する(S41)。
【0066】
一方、劣化推定部26は、特定種別のサイトに偏りがない、つまり種別が不特定のサイトに偏りがあると判定する場合(S38でNo)、ISP装置5において障害が発生していると推定する(S42)。
【0067】
一方、劣化推定部26は、サイト間の偏りがないと判定した場合(S37でNo)、劣化ポイントの推定のエラーをシステム保守者に通知してよい(S43)。
【0068】
ここで、図10に示す例においては、劣化推定部26は、対象中継装置の通信ログ200の通信付加情報210のサイトのURLおよび通信品質情報220を用いて、サイト(サイト1,2,3,4,5)ごとの通信品質統計量を算出する。サイト2およびサイト4に関する通信品質統計量は、他のサイトよりも著しく小さい値を有する。劣化推定部26は、サイト2およびサイト4と中継装置4との間の通信経路のどこかに異常が発生していることを認識することができる。ここで、サイト2およびサイト4はそれぞれOTTおよびCDNを通じたサービスのサイトであるものとする。このような場合、劣化推定部26は、ISP装置5を劣化ポイントとしてISP障害を推定する。
【0069】
このように、劣化推定部26は、第1通信ログ分析により、全体の中継装置4が扱う通信から対象中継装置が扱う通信に劣化ポイントを絞り込む。そして劣化推定部26は、第2通信ログ分析により、通信付加情報210の複数の種別の各々について、その種別に関連する項目間で通信品質統計量を比較する。これにより、劣化推定部26は、対象中継装置が扱う通信の中で、劣化ポイントがユーザ側およびインターネット側のいずれの通信に起因するものであるかを特定し、さらにその中で個別の要因を特定することができる。なお本実施形態2では、劣化推定部26は、IPアドレスごと、およびサイトごとの順に通信品質統計量を算出し、項目間の比較をしたが、通信付加情報210に含まれる情報の種別ごとに予め通信品質統計量を算出し、各種別についての項目間の比較を並行して行ってよい。
【0070】
このように実施形態2によれば、障害復旧システム6は、TCP通信を終端する中継装置4が有する通信ログ200の通信品質情報220を用いて、通信品質の劣化ポイントを容易に推定することができる。通信品質情報220はend-to-endの性能指標であるため、障害復旧システム6は、明確な障害には至ってはいないもののユーザ体感に影響を与える劣化状態を検知することが可能となる。このとき障害復旧システム6は、大量に流れるユーザ通信のIPアドレス情報やサイト情報を組み合わせて利用することで、劣化ポイントの推定が容易となる。そして障害復旧システム6は、障害の予兆を認識し、障害として顕在化する前に、またはユーザからの申告を受ける前に、復旧対応をすることが可能となる。
【0071】
また実施形態2によれば、障害復旧システム6は通信システム上の複数の中継装置4から通信ログ200を収集するため、通信システム全体の状態を一括で管理することができる。これにより、通信システム全体の状態を確認した後、個別箇所について異常状態の有無を確認することが可能となる。
【0072】
なお、障害復旧システム6は、通信ログ200を劣化ポイントの推定に加えて、ユーザ嗜好の分析に用いてもよい。これにより、より効果的なサービスの提供が可能となる。
【0073】
<実施形態3>
次に図11~13を用いて、本開示の実施形態3について説明する。実施形態3は、障害復旧システムの障害検知装置が、複数種類の分析処理から分析処理を選択することに特徴を有する。
【0074】
図11は、実施形態3にかかる障害復旧システム6aの構成の一例を示すブロック図である。障害復旧システム6aは、実施形態2にかかる障害復旧システム6と基本的に同様の構成および機能を有する。ただし障害復旧システム6aは、障害検知装置20に代えて障害検知装置20aを備える点で相違する。
【0075】
障害検知装置20aは、劣化推定部26に代えて、劣化推定部26aを有する。
劣化推定部26aは、劣化推定部26の構成および機能に加えて、分析選択部27を含む。
分析選択部27は、分析選択手段とも呼ばれる。分析選択部27は、複数種類の第1通信ログ分析処理から、少なくとも1つの第1通信ログ分析処理を選択する。本実施形態3で第1通信ログ分析処理は、実施形態2において説明した第1通信ログ分析処理に加えて、後述する第1通信ログ分析処理を含む。
【0076】
図12~13は、実施形態3にかかる第1通信ログ分析処理の一例を説明するための図である。図12は、指定期間における時間帯ごとの中継装置4-1が扱う通信のデータ量(トラフィック)を棒グラフで示し、時間帯ごとの過去のトラフィックを実線で示す。図12に示す例においては、劣化推定部26aは、通信システム上の中継装置4の各々について、指定期間においてその中継装置4を経由するトラフィックを時間帯ごとに算出し、同時間帯の過去のトラフィックとの比較を行う。そして劣化推定部26aは、指定期間におけるトラフィックが過去のトラフィックから著しく乖離している時間帯がある場合、その中継装置4を対象中継装置として特定し、その時間帯を分析対象期間Tとして特定する。
【0077】
図13は、中継装置4を経由するトラフィックを中継装置4ごとに示したものである。図13に示す例においては、劣化推定部26aは、中継装置4ごとに分析対象期間Tのトラフィックを算出し、中継装置4の間でトラフィックを比較する。そして劣化推定部26aは、他の中継装置4と著しく乖離する中継装置4がある場合、その中継装置4を対象中継装置として特定する。
【0078】
このように劣化推定部26aは、第1通信ログ分析処理として複数種類の処理を有する。分析選択部27は、その中で少なくとも1つの第1通信ログ分析処理を選択する。そして劣化推定部26aは、選択された第1通信ログ分析処理を実行することで、通信品質の劣化状態を有する中継装置4を特定する。これにより劣化推定部26aは、状況に合わせて最適な分析処理を実行することができる。また劣化推定部26aは、複数の分析処理を組み合わせて、多角的な視点から劣化状態の分析をすることができる。
【0079】
なお実施形態2~3では、障害復旧システム6,6aは中継装置4に接続されていたが、送信元のユーザ端末1またはサービス提供装置2、中継装置4自体、またはそのほかのデータの中継装置に組み込まれてもよい。この場合、障害復旧システム6,6aは、分析結果に基づいて、通信先の装置との通信に合わせて最適なデータ量の送信を行ってよい。これにより、必要帯域を有効に使用した通信が可能となる。
【0080】
上述の実施形態1~3ではコンピュータは、パーソナルコンピュータやワードプロセッサ等を含むコンピュータシステムで構成される。しかしこれに限らず、コンピュータは、LAN(ローカル・エリア・ネットワーク)のサーバ、コンピュータ(パソコン)通信のホスト、インターネット上に接続されたコンピュータシステム等によって構成されることも可能である。また、ネットワーク上の各機器に機能分散させ、ネットワーク全体でコンピュータを構成することも可能である。
【0081】
なお上述の実施形態1~3では、この開示をハードウェアの構成として説明したが、この開示は、これに限定されるものではない。この開示は、上述の障害検知処理および復旧処理等の各種処理を、後述するプロセッサ1010にコンピュータプログラムを実行させることにより実現することも可能である。
【0082】
図14は、実施形態1~3にかかるコンピュータ1900の構成図の一例である。図14に示すように、コンピュータ1900は、システム全体を制御するための制御部1000を備えている。この制御部1000には、データバス等のバスラインを介して、入力装置1050、表示装置1100、記憶装置1200、記憶媒体駆動装置1300、通信制御装置1400、および入出力I/F1500が接続されている。
【0083】
制御部1000は、プロセッサ1010と、ROM1020と、RAM1030とを備えている。
プロセッサ1010は、ROM1020や記憶装置1200等の各種記憶部に記憶されたプログラムに従って、各種の情報処理や制御を行う。
ROM1020は、プロセッサ1010が各種制御や演算を行うための各種プログラムやデータが予め格納されたリードオンリーメモリである。
【0084】
RAM1030は、プロセッサ1010にワーキングメモリとして使用されるランダムアクセスメモリである。このRAM1030には、本実施形態1~3による各種処理を行うための各種エリアが確保可能になっている。
【0085】
入力装置1050は、キーボード、マウスおよびタッチパネル等のユーザからの入力を受け付ける入力装置である。たとえばキーボードは、テンキー、各種機能を実行するための機能キーおよびカーソルキー等の各種キーが配置されている。マウスは、ポインティングデバイスであり、表示装置1100に表示されたキーやアイコン等をクリックすることで対応する機能の指定を行う入力装置である。タッチパネルは、表示装置1100の表面に配置される入力機器で、表示装置1100に画面表示された各種操作キーに対応した、ユーザのタッチ位置を特定し、当該タッチ位置に対応して表示された操作キーの入力を受け付ける。
【0086】
表示装置1100は、例えばCRTや液晶ディスプレイ等が使用される。この表示装置には、キーボードやマウスによる入力結果が表示されたり、最終的に検索されたイメージ情報が表示されたりするようになっている。また表示装置1100は、コンピュータ1900の各種機能に応じて、タッチパネルから必要な各種操作を行うための操作キーを画像表示する。
【0087】
記憶装置1200は、読み書き可能な記憶媒体と、その記憶媒体に対してプログラムやデータ等の各種情報を読み書きするための駆動装置で構成されている。
この記憶装置1200に使用される記憶媒体は、主としてハードディスク等が使用されるが、後述の記憶媒体駆動装置1300で使用される非一時的なコンピュータ可読媒体を使用するようにしてもよい。
記憶装置1200は、データ格納部1210、プログラム格納部1220および図示しないその他の格納部(例えば、この記憶装置1200内に格納されているプログラムやデータ等をバックアップするための格納部)等を有している。プログラム格納部1220には、本実施形態1~3における各種処理を実現するためのプログラムが格納されている。データ格納部1210には、本実施形態1~3にかかる各種データベースの各種データを格納する。
【0088】
記憶媒体駆動装置1300は、プロセッサ1010が外部の記憶媒体(外部記憶媒体)からコンピュータプログラムや文書を含むデータ等を読み込むための駆動装置である。
ここで、外部記憶媒体とは、コンピュータプログラムやデータ等が記憶される非一時的なコンピュータ可読媒体をいう。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(random access memory))を含む。また各種プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路並びに記憶媒体駆動装置1300を介して、各種プログラムをコンピュータに供給できる。
【0089】
つまりコンピュータ1900は、制御部1000のプロセッサ1010が、記憶媒体駆動装置1300にセットされた外部の記憶媒体から各種プログラムを読み込んで、記憶装置1200の各部に格納する。
【0090】
そして、コンピュータ1900が各種処理を実行する場合、記憶装置1200から該当プログラムをRAM1030に読み込み、実行するようになっている。但しコンピュータ1900は、記憶装置1200からではなく、記憶媒体駆動装置1300により外部の記憶媒体からRAM1030に直接プログラムを読み込んで実行することも可能である。また、コンピュータによっては各種プログラム等を予めROM1020に記憶させておき、これをプロセッサ1010が実行するようにしてもよい。さらに、コンピュータ1900は、各種プログラムやデータを、通信制御装置1400を介して他の記憶媒体からダウンロードし、実行するようにしてもよい。
【0091】
通信制御装置1400は、コンピュータ1900と他のパーソナルコンピュータやワードプロセッサ等の各種外部電子機器との間をネットワーク接続するための制御装置である。通信制御装置1400は、これら各種外部電子機器からコンピュータ1900にアクセスすることを可能とする。
【0092】
入出力I/F1500は、パラレル・ポート、シリアル・ポート、キーボード・ポート、マウス・ポート等を介して各種の入出力装置を接続するためのインターフェースである。
【0093】
なお、プロセッサ1010として、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(field-programmable gate array)、DSP(digital signal processor)およびASIC(application specific integrated circuit)等が用いられてもよい。また、これらのうち複数個を並列に用いてもよい。
【0094】
請求の範囲、明細書、および図面中において示したシステムおよび方法における各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのではない限り、任意の順序で実現しうる。請求の範囲、明細書および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須であることを意味するものではない。
【0095】
以上、実施形態を参照して本開示を説明したが、本開示は上記によって限定されるものではない。本開示の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0096】
この出願は、2020年5月27日に出願された日本出願特願2020-092028を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本開示にかかる障害検知装置は、ネットワーク内の障害を検知するために利用可能である。
【符号の説明】
【0098】
1 ユーザ端末
2 サービス提供装置
2a 第1サービス提供装置
2b 第2サービス提供装置
4 中継装置
6 障害復旧システム
5 インターネットサービスプロバイダ(ISP)装置
7 インターネット
8 無線アクセスネットワーク(RAN)
9 コアネットワーク(CN)
10,20,20a 障害検知システム(障害検知装置)
12,22 ログ収集部
16,26,26a 劣化推定部
24 ログ記憶部
27 分析選択部
28 通知部
30 復旧装置
32 迂回経路選択部
34 復旧処理部
200 通信ログ
210 通信付加情報
220 通信品質情報
1000 制御部
1010 プロセッサ
1020 ROM
1030 RAM
1050 入力装置
1100 表示装置
1200 記憶装置
1210 データ格納部
1220 プログラム格納部
1300 記憶媒体駆動装置
1400 通信制御装置
1500 入出力I/F
1900 コンピュータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14