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特許7435770光送信機および変調タイミング正誤判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】光送信機および変調タイミング正誤判定方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 9/12 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
H04L9/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022530440
(86)(22)【出願日】2020-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2020022912
(87)【国際公開番号】W WO2021250829
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-11-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「光・量子を活用したSociety5.0実現化技術/社会実装に向けた量子暗号装置の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124811
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 資博
(74)【代理人】
【識別番号】100088959
【弁理士】
【氏名又は名称】境 廣巳
(74)【代理人】
【識別番号】100097157
【弁理士】
【氏名又は名称】桂木 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100187724
【弁理士】
【氏名又は名称】唐鎌 睦
(72)【発明者】
【氏名】吉野 健一郎
【審査官】行田 悦資
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/047716(WO,A1)
【文献】特開2016-001868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周期の光パルス列を変調してデータ送信を行う光送信機であって、
前記光パルス列を少なくとも基準強度とゼロ強度との間で強度変調して第1光パルス列を出力する第1変調器と、
前記第1光パルス列を入力し、その各光パルスを時間的に分離した2連パルスからなる第2光パルス列を出力する非対称干渉計と、
前記第2光パルス列をパルスペア毎に送信データ変調して第3光パルス列を出力する第2変調器と、
前記第3光パルス列の光強度を測定する光強度測定器と、
前記第1変調器の強度変調および前記第2変調器の送信データ変調を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部が、
強度変調パターンに従った前記強度変調により、前記第2光パルス列の前記2連パルスを基準強度あるいはゼロ強度とし、
送信データ変調パターンに従った前記送信データ変調により、前記第2光パルス列の前記パルスペアのいずれか一方のパルスをゼロ強度とし、
前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンのいずれかを変化させた時の前記第3光パルス列の光強度に基づいて前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする光送信機。
【請求項2】
前記光強度測定器が前記第3光パルス列の平均光強度を測定することを特徴とする請求項1に記載の光送信機。
【請求項3】
前記制御部が、
前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンのいずれかを変化させ、
前記変化の前の前記第3光パルス列の第1の光強度と前記変化の後の前記第3光パルス列の第2の光強度との比較結果に基づいて、前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光送信機。
【請求項4】
前記強度変調パターンは、前記光パルス列を基準強度とし前記第2光パルス列が基準強度の2連パルスを繰り返す第1強度変調パターンと、前記光パルス列がパルス毎に基準強度とゼロ強度とを交互に繰り返すことで前記第2光パルス列が2連パルスおきに基準強度とゼロ強度とを繰り返す第2強度変調パターンとを有し、
前記送信データ変調パターンは、前記パルスペアの一方のパルスがゼロ強度、他方のパルスが基準強度の第1送信データ変調と、前記一方のパルスが基準強度、前記他方のパルスがゼロ強度の第2送信データ変調とを交互に繰り返し、
前記制御部が、
前記送信データ変調パターンを固定した状態で、前記強度変調パターンを前記第1強度変調パターンに設定した時の前記第3光パルス列の第1の光強度と、前記強度変調パターンを前記第2強度変調パターンへ変化させたときの前記第3光パルス列の第2の光強度と、を比較することで前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項1-3のいずれか1項に記載の光送信機。
【請求項5】
前記強度変調パターンは、前記光パルス列がパルス毎に基準強度とゼロ強度とを交互に繰り返すことで前記第2光パルス列が2連パルスおきに基準強度とゼロ強度とを繰り返し、
前記送信データ変調パターンは、前記パルスペアの一方のパルスがゼロ強度、他方のパルスが基準強度の第1送信データ変調と、前記一方のパルスが基準強度、前記他方のパルスがゼロ強度の第2送信データ変調とを交互に繰り返し、
前記制御部が、
前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンの一方のパターンを固定し他方のパターンを所定パターンとした時の前記第3光パルス列の第1の光強度と、前記他方のパターンを反転させたときの前記第3光パルス列の第2の光強度と、を比較することで前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項1-3のいずれか1項に記載の光送信機。
【請求項6】
前記第1変調器がデコイ法に従った強度変調を行う強度変調器であり、
前記第2変調器が送信データに従って前記パルスペアに対して位相変調あるいは前記パルスペアのいずれか一方のパルスをゼロ強度とする強度変調を行う強度・位相変調器であり、
前記光強度測定器は前記第3光パルス列の光強度をモニタするための光検出器を利用し、
前記制御部は、前記パルスペアが前記2連パルスとなるように前記第2変調器の変調タイミングを調整することを特徴とする請求項1-5のいずれか1項に記載の光送信機。
【請求項7】
所定周期の光パルス列を変調してデータ送信を行う光送信機における変調タイミング正誤判定方法であって、
第1変調器が前記光パルス列を少なくとも基準強度とゼロ強度との間で強度変調して第1光パルス列を出力し、
非対称干渉計が前記第1光パルス列を入力し、その各光パルスを時間的に分離した2連パルスからなる第2光パルス列を出力し、
第2変調器が前記第2光パルス列をパルスペア毎に送信データ変調して第3光パルス列を出力し、
光強度測定器が前記第3光パルス列の光強度を測定し、
制御部が、前記第1変調器の強度変調および前記第2変調器の送信データ変調を制御することで、
強度変調パターンに従った前記強度変調により、前記第2光パルス列の前記2連パルスを基準強度あるいはゼロ強度とし、
送信データ変調パターンに従った前記送信データ変調により、前記第2光パルス列の前記パルスペアのいずれか一方のパルスをゼロ強度とし、
前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンのいずれかを変化させた時の前記第3光パルス列の光強度に基づいて前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする変調タイミング正誤判定方法。
【請求項8】
前記光強度測定器が前記第3光パルス列の平均光強度を測定することを特徴とする請求項7に記載の変調タイミング正誤判定方法。
【請求項9】
前記制御部が、
前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンのいずれかを変化させ、
前記変化の前の前記第3光パルス列の第1の光強度と前記変化の後の前記第3光パルス列の第2の光強度との比較結果に基づいて、前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項7または8に記載の変調タイミング正誤判定方法。
【請求項10】
所定周期の光パルス列を少なくとも基準強度とゼロ強度との間で強度変調して第1光パルス列を出力する第1変調器と、前記第1光パルス列を入力し、その各光パルスを時間的に分離した2連パルスからなる第2光パルス列を出力する非対称干渉計と、前記第2光パルス列をパルスペア毎に送信データ変調して第3光パルス列を出力する第2変調器と、前記第3光パルス列の光強度を測定する光強度測定器と、を有する光送信機の制御部としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、
強度変調パターンに従った前記強度変調により、前記第2光パルス列の前記2連パルスを基準強度あるいはゼロ強度とする機能と、
送信データ変調パターンに従った前記送信データ変調により、前記第2光パルス列の前記パルスペアのいずれか一方のパルスをゼロ強度とする機能と、
前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンのいずれかを変化させた時の前記第3光パルス列の光強度に基づいて前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する機能と、
を前記コンピュータに実現させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光変調された2連パルスの変調タイミングの正誤を判定する方法およびそれを用いた光送信機に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の分野において、量子暗号鍵配送(QKD:Quantum Key Distribution)は伝送路の高秘匿性を実現するものとして期待されており、実用化に向けた研究開発が盛んに行われている。以下、QKDシステムの送信機(Alice)の一例として、2連光パルスを利用した位相・時間コーディング方式について図1を参照しながら説明する。このような送信機は特許文献1等に記載されている一般的なものである。
【0003】
図1において、レーザ光源は一定周期Tで光パルスを出力し、非対称干渉計を通して各光パルスPを所定時間差ΔTの2連パルスP1およびP2に分離する。2連パルスは位相変調または強度変調によって符号化(位相・時間コーディング)され、図1に示す位相基底(Y基底)の2状態Y0、Y1と時間基底の2状態Z0、Z1からなる4状態がランダムに生成される。こうして4状態のいずれかに設定された2連パルスは、その強度が単一光子レベルに減衰された後、光伝送路を通して受信機(Bob)へ送信される。
【0004】
しかしながら、このように減衰して送信される光パルスは真の単一光子パルスではなく、実際には複数個の光子が含まれうる。このような単一光子パルスの疑似性を突いて光子数分割攻撃(PNS攻撃:Photon Number Splitting Attack)と呼ばれる盗聴攻撃が可能となる。そこでPNS攻撃を回避する手段として、光パルスの強度を適宜変化させることでPNS攻撃の有無を検知するデコイ(decoy)方式が提案された。QKDシステムにおいてデコイ方式の採用は必須であると考えられている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-028528号公報
【文献】特開2015-018109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
QKDシステムの高速化に伴いレーザ光源から出力される光パルス列の周期Tは短くなるが、2連パルスの時間差ΔTを考慮するとΔT=T/2を満たす設定が最も効率が高くなる。ところがΔT=T/2になると2連パルスの列は等間隔で連続するために、隣接するパルスペアが同じ元パルスPを分岐した2連パルス(以下、正しいパルスペアという。)であるか否かを区別することができない。そこで、図2に示すように、変調が正しいパルスペアに対して行われた場合と誤ったパルスペアに対して行われた場合とで受信機での誤り率が異なることを利用し、最も誤り率が低くなる変調タイミングを正しいパルスペアでの変調と判定することができる。
【0007】
しかしながら、図2に示すような方法では、受信機と送信機とをセットで使用する必要があり、送信機単体で変調タイミングの調整を行うことができない。また、受信機側での誤り率は変調タイミング以外の種々の要因で変動しうるために、誤り率が高いからといって必ずしも変調タイミングが不備であるとは限らず、判定方法として不確実である。
【0008】
そこで本発明の目的は、送信機単体で変調タイミングの正誤を確実に判定でき、変調タイミングの調整を可能にする変調タイミング正誤判定方法およびそれを用いた光送信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様による光送信機は、所定周期の光パルス列を変調してデータ送信を行う光送信機であって、前記光パルス列を少なくとも基準強度とゼロ強度との間で強度変調して第1光パルス列を出力する第1変調器と、前記第1光パルス列を入力し、その各光パルスを時間的に分離した2連パルスからなる第2光パルス列を出力する非対称干渉計と、前記第2光パルス列をパルスペア毎に送信データ変調して第3光パルス列を出力する第2変調器と、前記第3光パルス列の光強度を測定する光強度測定器と、前記第1変調器の強度変調および前記第2変調器の送信データ変調を制御する制御部と、を有し、前記制御部が、強度変調パターンに従った前記第1光パルス列の強度変調により、前記第2光パルス列の前記2連パルスを基準強度あるいはゼロ強度とし、送信データ変調パターンに従った前記送信データ変調により、前記第2光パルス列の前記パルスペアのいずれか一方のパルスをゼロ強度とし、前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンのいずれかを変化させた時の前記第3光パルス列の光強度に基づいて前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する。
本発明の第二の態様による変調タイミング正誤判定方法は、所定周期の光パルス列を変調してデータ送信を行う光送信機における変調タイミング正誤判定方法であって、第1変調器が前記光パルス列を少なくとも基準強度とゼロ強度との間で強度変調して第1光パルス列を出力し、非対称干渉計が前記第1光パルス列を入力し、その各光パルスを時間的に分離した2連パルスからなる第2光パルス列を出力し、第2変調器が前記第2光パルス列をパルスペア毎に送信データ変調して第3光パルス列を出力し、光強度測定器が前記第3光パルス列の光強度を測定し、制御部が、前記第1変調器の強度変調および前記第2変調器の送信データ変調を制御することで、強度変調パターンに従った前記第1光パルス列の強度変調により、前記第2光パルス列の前記2連パルスを基準強度あるいはゼロ強度とし、送信データ変調パターンに従った前記送信データ変調により、前記第2光パルス列の前記パルスペアのいずれか一方のパルスをゼロ強度とし、前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンのいずれかを変化させた時の前記第3光パルス列の光強度に基づいて前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する。
本発明の第三の態様によるプログラムは、所定周期の光パルス列を少なくとも基準強度とゼロ強度との間で強度変調して第1光パルス列を出力する第1変調器と、前記第1光パルス列を入力し、その各光パルスを時間的に分離した2連パルスからなる第2光パルス列を出力する非対称干渉計と、前記第2光パルス列をパルスペア毎に送信データ変調して第3光パルス列を出力する第2変調器と、前記第3光パルス列の光強度を測定する光強度測定器と、を有する光送信機の制御部としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、強度変調パターンに従った前記第1光パルス列の強度変調により、前記第2光パルス列の前記2連パルスを基準強度あるいはゼロ強度とする機能と、送信データ変調パターンに従った前記送信データ変調により、前記第2光パルス列の前記パルスペアのいずれか一方のパルスをゼロ強度とする機能と、前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンのいずれかを変化させた時の前記第3光パルス列の光強度に基づいて前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する機能と、を前記コンピュータに実現させる。
【発明の効果】
【0010】
上述したように、本発明によれば、送信機単体で変調タイミングの正誤を確実に判定でき変調タイミングの調整が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】背景技術としての量子鍵配送システムにおける送信機の一例を示す模式的構成図である。
図2】背景技術としての変調タイミングの正誤判定を説明するための模式図である。
図3】本発明の一実施形態による光送信機の概略的構成を示すブロック図である。
図4】本実施形態で使用されるデコイ法の一例を説明するための模式図である。
図5】本発明の第1実施例による変調タイミング正誤判定方法を示すフローチャートである。
図6図5に示す変調タイミング正誤判定方法を適用した光パルス列の一例を示すパルス波形図である。
図7】本発明の第2実施例による変調タイミング正誤判定方法を示すフローチャートである。
図8図7に示す変調タイミング正誤判定方法を適用した光パルス列の一例を示すパルス波形図である。
図9】本発明の第3実施例による変調タイミング正誤判定方法を示すフローチャートである。
図10図9に示す変調タイミング正誤判定方法を適用した光パルス列の一例を示すパルス波形図である。
図11】本発明の一実施形態による変調タイミング正誤判定方法を適用した光送信機の概略的構成を示すブロック図である。
図12図11の光送信機の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態の概要>
非対称干渉計の出力光パルス列は2連パルスから構成されるが、どのパルスペアが2連パルス(正しいパルスペア)であるか判別できない。そこで、本発明の実施形態によれば、非対称干渉計の入力側の強度変調と非対称干渉計の出力側の送信データ変調とをそれぞれ特定パターンに設定する。このパターンのいずれかを変化させ、送信データ変調後の光パルス列の光強度を測定することで変調タイミングの正誤を判定する。
【0013】
より詳しくは、非対称干渉計の入力光パルス列を第1のパターンで強度変調し、非対称干渉計の出力光パルス列を第2のパターンでパルスペアのいずれか一方のパルスをゼロ強度にする送信データ変調を行う。第1および第2のパターンのいずれかを変化させ、それによる送信データ変調後の光パルス列の光強度の変化を監視する。この光強度が変化する、あるいは変化しないことを検出するだけで、送信データ変調が正しいパルスペアに対して行われたか否か、すなわち変調タイミングの正誤を判定することができる。
【0014】
位相・時間基底コーディングを採用したデコイ方式の光送信機であれば、デコイ強度変調と時間基底とを所定パターンで設定することにより送信機内の光強度測定だけで変調タイミングの正誤を判定することができる。送信機単体で変調タイミングの正誤を判定できるので、別の変動要因を排除でき、確実な変調タイミング調整が可能となる。
【0015】
以下、一方向型干渉計システムを一例として、本発明の実施形態および実施例について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
<実施形態>
図3において、光送信機10は、レーザ光源101、強度変調器102、非対称干渉計103、強度・位相変調器104、光分岐部105および減衰器106を有する。強度変調器102はデコイ用として、強度・位相変調器104は位相・時間基底コーディング用として使用されるが、本実施形態では後述する変調タイミング正誤判定に利用される。
【0017】
非対称干渉計103は光路長が異なる2つの光導波路からなり、レーザ光源101から出力された周期T(たとえば800ps)の光パルスごとに所定遅延時間Δt=T/2だけ分離した2連パルスを生成する。
【0018】
強度・位相変調器104は、図1で説明したように、非対称干渉計103の出力光パルス列に対して、パルスペア毎に位相変調または強度変調(位相・時間コーディング)を実行する。強度・位相変調器104の出力光パルス列は光分岐部105を通して減衰器106へ出力され、光分岐部105で分岐した一部が光強度測定器107へ入射する。減衰器106は、強度・位相変調器104の出力光パルス列の光強度を単一光子レベルまで減衰させ送信する。
【0019】
光強度測定器107は光分岐部105で分岐した出力光パルス列を入力し、出力光パルスの平均光強度を測定する。一般に、光送信機には変調後の出力レベル(直流ドリフト成分)を監視する光センサが設けられており(たとえば特許文献1参照)、この光センサを本実施形態における光強度測定器107として利用することができる。
【0020】
光送信機10に設けられたプロセッサ200は、プログラムメモリ201に格納されたプログラムを実行することで、通信のためのデータ処理に加えて、本実施形態による変調タイミング正誤判定機能を実装できる。本実施形態では、プロセッサ200に変調タイミング正誤判定部202の機能が実装される。変調器ドライバ203は、変調タイミング正誤判定部202の制御の下で、強度変調器102をデコイ用に、強度・位相変調器104を位相・時間基底コーディング用にそれぞれ駆動する。変調タイミング正誤判定部202は変調器ドライバ203を後述するように制御し、光強度測定器107から入力した光強度データを用いて変調タイミング正誤を判定する。なおメモリ204は光強度データの格納等に用いる作業用メモリである。
【0021】
図4に例示するように、デコイ法は、送信光パルスの一部に強度の異なるパルスをおとり(decoy)としてランダムに混ぜる方式であり、多くの場合、信号光S(基準強度)、デコイ光D(0.4x基準強度)、真空V(ゼロ強度)の3種類を使用し、たとえばそれぞれ90%、5%、5%程度の割合で混合される。これに対して本実施形態による変調タイミング正誤判定方法では、強度変調器102がレーザ光源101からの光パルス列に対して信号光S/真空Vの強度変調を行う。以下、強度変調器102による強度変調(S/V)をデコイ変調という。
【0022】
強度・位相変調器104は、通常の光通信では、非対称干渉計103からのパルスペアに対して、図1に示すような送信データビット0/1に応じた位相変調あるいは強度変調(Y0/Y1/Z0/Z1)を行う。これに対して本実施形態による変調タイミング正誤判定方法では、強度・位相変調器104が時間基底コーディング(Z0/Z1)の強度変調を行う。時間基底コーディング(Z0/Z1)とは、図1に示すように、送信データに応じてパルスペアのいずれか一方のパルスをゼロ強度にする強度変調である。以下、強度・位相変調器104による時間基底コーディング(Z0/Z1)の強度変調を送信データ変調という。
【0023】
本実施形態によれば、強度変調器102がレーザ光源101からの入力光パルス列をS/Vパターンでデコイ変調し、非対称干渉計103の出力光パルス列をZ0/Z1パターンで送信データ変調を行う。S/VパターンおよびZ0/Z1パターンのいずれかを変化させ、それによる強度・位相変調器104からの出力光パルス列の光強度を光強度測定器107により監視する。変調タイミング正誤判定部202は、パターン変化の前後で光強度が変化する、あるいは変化しないことを検出し、強度・位相変調器104による送信データ変調が正しいパルスペアに対して行われたか否か、すなわち変調タイミングの正誤を判定することができる。
【0024】
以下、プロセッサ200の変調タイミング正誤判定部202による変調タイミング正誤判定方法について、図5図10を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
1.第1実施例
本発明の第1実施例によれば、送信データ変調パターンを固定し、デコイ変調パターンを変化させることで変調タイミングの正誤を判定する。図5は本実施例の動作フローを示し、図6は当該動作フローに対応した具体的な光パルス列の一例を示す。
【0026】
図5において、変調タイミング正誤判定部202は変調器ドライバ203により強度・位相変調器104の送信データ変調パターンを「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」に固定する(動作S301)。続いて、変調タイミング正誤判定部202は変調器ドライバ203により強度変調器102のデコイ変調パターンを「SSSS・・・」に設定し、そのときの強度・位相変調器104の出力光パルス列の平均光強度Aを光強度測定器107から入力してメモリ204に保持する(動作S302)。
【0027】
続いて、変調タイミング正誤判定部202は変調器ドライバ203により強度変調器102のデコイ変調パターンを「SSSS・・・」から「SVSV・・・」に変更し、そのときの強度・位相変調器104の出力光パルス列の平均光強度Bを光強度測定器107から入力してメモリ204に保持する(動作S303)。
【0028】
続いて、変調タイミング正誤判定部202はメモリ204に格納した光強度AとBを比較し(動作S304)、光強度Bが光強度Aのほぼ半分の大きさであれば(B=~A/2)、送信データ変調を行ったパルスペアが2連パルス(正しいパルスペア)であると判定して処理を終了する(動作S305)。
【0029】
他方、光強度Bが光強度Aとほぼ等しいか、ほぼゼロであれば(B=~A or 0)、送信データ変調を行ったパルスペアが2連パルスではない、すなわち誤ったパルスペアであると判定する。送信データ変調が誤ったパルスペアに対して行われた場合、変調タイミング正誤判定部202は変調器ドライバ203により強度・位相変調器104の送信データ変調のタイミングをT/2だけシフトさせ(動作S306)、上記動作S302~S304を再度実行する。これにより光強度Bが光強度Aのほぼ半分の大きさになれば(B=~A/2)、送信データ変調を行ったパルスペアが正しいパルスペアになったと判定して処理を終了する(動作S305)。次に図6を参照しながら、上記動作S301~S306を光パルス列の一例を参照しながら説明する。
【0030】
図6の(S301)で示すように、送信データ変調パターンを「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」に固定することで、非対称干渉計103の出力光パルス列に対してZ0,Z1の強度変調が繰り返される。
【0031】
次に、図6の(S302)で示すように、デコイ変調パターンを「SSSS・・・」に設定すると、レーザ光源101の出力パルス列でゼロ強度になる光パルスはないので、強度・位相変調器104は送信データ変調パターン「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」の光パルス列を出力し、その平均光強度Aがメモリ204に保持される。
【0032】
続いて、図6の(S303、S305)に示すように、デコイ変調パターンを「SSSS・・・」から「SVSV・・・」に変更すると、デコイ変調パターンの「V」となる光パルスに対応する2連パルスだけがゼロ強度となる。言い換えれば、デコイ変調パターンの「S」と「V」は2連パルスの位置を示す指標となり得る。送信データ変調パターン「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」が変調するパルスペアが正しく2連パルスであれば、送信データ変調パターン「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」のうち「Z1」のパルスペアだけがゼロ強度となり、「Z0」のパルスペアはそのまま出力され、その平均光強度Bがメモリ204に保持される。したがって、送信データ変調パターン「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」が2連パルス(正しいパルスペア)を変調していれば、光強度Bは光強度Aの1/2となるはずである。
【0033】
これに対して、図6の(S303、S304)に示すように、送信データ変調パターン「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」により変調されるパルスペアが2連パルスより1パルス分(T/2)後方にずれていれば、すべてのパルスがゼロ強度となり、平均光強度Bはほぼゼロとなる。また、送信データ変調パターン「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」により変調されるパルスペアが2連パルスより1パルス分(T/2)前方にずれていれば、デコイ変調パターンの「S」の位置で2つの光パルスが基準強度となり、平均光強度BはAとほぼ等しくなる。
【0034】
送信データ変調されるパルスペアは2連パルスよりT/2前方にずれるか後方にずれる場合だけであるから、平均光強度Bの値はA/2、0あるいはAのいずれかであり、この3つの値に限られる。よって、平均光強度B=A/2であれば「正しいパルスペア」、平均光強度Bがそれ以外であれば「誤ったパルスペア」であると判定できる。誤ったパルスペアで送信データ変調している場合には、送信データ変調タイミングをT/2だけ前方あるいは後方にシフトするだけで正しいパルスペアでの送信データ変調が可能となる。
【0035】
2.第2実施例
本発明の第2実施例によれば、デコイ変調パターンを固定し、送信データ変調パターンを変化させることで変調タイミングの正誤を判定する。図7は本実施例の動作フローを示し、図8は当該動作フローに対応した具体的な光パルス列の一例を示す。
【0036】
図7において、変調タイミング正誤判定部202は変調器ドライバ203により強度変調器102のデコイ変調パターンを「SVSV・・・」に固定する(動作S401)。続いて、変調タイミング正誤判定部202は変調器ドライバ203により強度・位相変調器104の送信データ変調パターンを「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」に設定し、そのときの強度・位相変調器104の出力光パルス列の平均光強度Aを光強度測定器107から入力してメモリ204に保持する(動作S402)。
【0037】
続いて、変調タイミング正誤判定部202は変調器ドライバ203により強度・位相変調器104の送信データ変調パターンを「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」から「Z1,Z0,Z1,Z0・・・」に反転させ、そのときの強度・位相変調器104の出力光パルス列の平均光強度Bを光強度測定器107から入力してメモリ204に保持する(動作S403)。
【0038】
続いて、変調タイミング正誤判定部202はメモリ204に格納した光強度AとBを比較し(動作S404)、光強度Bが光強度Aとほぼ等しい場合(B=~A)、送信データ変調を行ったパルスペアが2連パルス(正しいパルスペア)であると判定して処理を終了する(動作S405)。
【0039】
他方、光強度Bがほぼゼロあるいは光強度Aのほぼ2倍であれば(B=~0 or ~2A)、送信データ変調を行ったパルスペアが2連パルスではない、すなわち誤ったパルスペアであると判定する。送信データ変調が誤ったパルスペアに対して行われた場合、変調タイミング正誤判定部202は変調器ドライバ203により強度・位相変調器104の送信データ変調のタイミングをT/2だけシフトさせ(動作S406)、上記動作S402~S404を再度実行する。これにより光強度Bが光強度Aとほぼ等しくなれば(B=~A)、送信データ変調を行ったパルスペアが正しいパルスペアになったと判定して処理を終了する(動作S405)。次に図8を参照しながら、上記動作S401~S406を光パルス列の一例を参照しながら説明する。
【0040】
図8の(S401)で示すように、デコイ変調パターンを「SVSV・・・」に固定することで、非対称干渉計103の出力光パルス列は、Sに対応する光パルスの2連パルスが基準強度、Vに対応する光パルスの2連パルスがゼロ強度となる強度変調が繰り返される。
【0041】
次に、図8の(S402)で示すように、送信データ変調パターンをあるタイミングで「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」に設定し、Sに対応する光パルスの2連パルスがZ0で変調されたものとする。この場合、強度・位相変調器104の出力光パルス列の平均光強度Aがメモリ204に保持される。
【0042】
続いて、図8の(S403、S405)に示すように、送信データ変調パターンを「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」から「Z1,Z0,Z1,Z0・・・」に反転させ、そのときの強度・位相変調器104の出力光パルス列の平均光強度Bを光強度測定器107から入力してメモリ204に保持する。送信データ変調されるパルスペアが正しく2連パルスであれば、Sに対応する光パルスの2連パルスがZ0からZ1に変わるだけであるから、平均光強度Bは光強度Aと同じはずである。
【0043】
これに対して、図8の(S403、S404)に示すように、送信データ変調パターン「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」により変調されるパルスペアが2連パルスより1パルス分(T/2)後方にずれていれば、すべてのパルスがゼロ強度となり、平均光強度Bはほぼゼロとなる。また、送信データ変調パターン「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」により変調されるパルスペアが2連パルスより1パルス分(T/2)前方にずれていれば、デコイ変調パターンの「S」の位置で2つの光パルスが基準強度となり、平均光強度BはAのほぼ2倍になる。
【0044】
送信データ変調されるパルスペアは2連パルスよりT/2前方にずれるか後方にずれる場合だけであるから、平均光強度Bの値は~A、~0あるいは~2Aのいずれかであり、この3つの値に限られる。よって、平均光強度B=~Aであれば「正しいパルスペア」、平均光強度Bがそれ以外であれば「誤ったパルスペア」であると判定できる。誤ったパルスペアで送信データ変調している場合には、送信データ変調タイミングをT/2だけ前方あるいは後方にシフトするだけで正しいパルスペアでの送信データ変調が可能となる。
【0045】
3.第3実施例
本発明の第3実施例によれば、送信データ変調パターンを固定し、デコイ変調パターンを変化させることで変調タイミングの正誤を判定する。図9は本実施例の動作フローを示し、図10は当該動作フローに対応した具体的な光パルス列の一例を示す。
【0046】
図9において、変調タイミング正誤判定部202は変調器ドライバ203により強度・位相変調器104の送信データ変調パターンを「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」に固定する(動作S501)。続いて、変調タイミング正誤判定部202は変調器ドライバ203により強度変調器102のデコイ変調パターンを「SVSV・・・」に設定し、そのときの強度・位相変調器104の出力光パルス列の平均光強度Aを光強度測定器107から入力してメモリ204に保持する(動作S502)。
【0047】
続いて、変調タイミング正誤判定部202は変調器ドライバ203により強度変調器102のデコイ変調パターンを「SVSV・・・」から「VSVS・・・」に反転させ、そのときの強度・位相変調器104の出力光パルス列の平均光強度Bを光強度測定器107から入力してメモリ204に保持する(動作S503)。
【0048】
続いて、変調タイミング正誤判定部202はメモリ204に格納した光強度AとBを比較し(動作S504)、光強度Bが光強度Aとほぼ等しい大きさであれば(B=~A)、送信データ変調を行ったパルスペアが2連パルス(正しいパルスペア)であると判定して処理を終了する(動作S505)。
【0049】
他方、光強度Bがほぼ0あるいは光強度Aのほぼ2倍の場合(B=~0 or ~2A)、送信データ変調を行ったパルスペアが2連パルスではない、すなわち誤ったパルスペアであると判定する。送信データ変調が誤ったパルスペアに対して行われた場合、変調タイミング正誤判定部202は変調器ドライバ203により強度・位相変調器104の送信データ変調のタイミングをT/2だけシフトさせ(動作S506)、上記動作S502~S504を再度実行する。これにより光強度Bが光強度Aとほぼ同じ値になれば(B=~A)、送信データ変調を行ったパルスペアが正しいパルスペアになったと判定して処理を終了する(動作S505)。次に図10を参照しながら、上記動作S501~S506を光パルス列の一例を参照しながら説明する。
【0050】
図10の(S501)で示すように、送信データ変調パターンを「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」に固定することで、非対称干渉計103の出力光パルス列に対してZ0,Z1の強度変調が繰り返される。
【0051】
次に、図10の(S502)で示すように、デコイ変調パターンを「SVSV・・・」に設定すると、レーザ光源101の出力パルス列は1パルス毎にゼロ強度となる。強度・位相変調器104は、このSに対応する光パルスの2連パルスをパルスペアとしてZ0の送信データ変調を行うものとし、その時の平均光強度Aがメモリ204に保持される。
【0052】
続いて、図10の(S503、S505)に示すように、デコイ変調パターンを「SVSV・・・」から「VSVS・・・」に反転させると、デコイ変調パターンの「V」となる光パルスに対応する2連パルスだけがゼロ強度となる。送信データ変調パターン「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」により変調されるパルスペアが正しく2連パルスであれば、送信データ変調パターン「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」のうち「Z0」のパルスペアだけがゼロ強度となり、「Z1」のパルスペアはそのまま出力され、その平均光強度Bがメモリ204に保持される。したがって、送信データ変調パターン「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」が2連パルス(正しいパルスペア)を変調していれば、光強度Bは光強度Aにほぼ等しくなるはずである。
【0053】
これに対して、図10の(S503、S504)に示すように、送信データ変調パターン「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」により変調されるパルスペアが2連パルスより1パルス分(T/2)後方にずれていれば、すべてのパルスがゼロ強度となり、平均光強度Bはほぼゼロとなる。また、送信データ変調パターン「Z0,Z1,Z0,Z1・・・」により変調されパルスペアが2連パルスより1パルス分(T/2)前方にずれていれば、デコイ変調パターンの「S」の位置で2つの光パルスが基準強度となり、平均光強度BはAのほぼ2倍となる。
【0054】
送信データ変調されるパルスペアは2連パルスよりT/2前方にずれるか後方にずれる場合だけであるから、平均光強度Bの値は~A、~0あるいは~2Aのいずれかであり、この3つの値に限られる。よって、平均光強度B=~Aであれば「正しいパルスペア」、平均光強度Bがそれ以外であれば「誤ったパルスペア」であると判定できる。誤ったパルスペアで送信データ変調している場合には、送信データ変調タイミングをT/2だけ前方あるいは後方にシフトするだけで正しいパルスペアでの送信データ変調が可能となる。
【0055】
4.QKDシステムへの適用例
上述した変調タイミング正誤判定機能を有する光送信機10は、QKDシステムの光送信機(ALICE)に適用される。
【0056】
図11に例示するように、QKDシステムのALICE100は、図3に示す光送信機10の基本的構成とほぼ同じであるから、同一参照番号を付して詳細な説明は省略する。ALICE100では、プロセッサ200が上述した変調タイミング正誤判定機能を有し、さらに強度・位相変調器104を駆動し、非対称干渉計103から出力される2連光パルス列に対して、図1に示す位相・時間基底コーディングに従った送信データ変調を実行する。このように送信データに従って変調された2連パルス列が減衰器106により単一光子レベルに減衰された後、光伝送路を通してBOB(光受信機)へ送信される。
【0057】
図12に示すように、ALICE100では、プロセッサ200が強度変調器102により強度変調(S/V)を、強度・位相変調器104により送信データ変調(Z0/Z1)を実行し、光強度測定器107からの光強度測定値をモニタしながら上述した変調タイミング正誤判定を実行し、誤ったパルスペアで変調を行った場合にはタイミングをシフトさせて調整する(動作S601)。
【0058】
こうして変調タイミングを正しく設定した後で、プロセッサ200は、強度変調器102により強度変調(S/V/D)を、強度・位相変調器104により量子暗号鍵(乱数)に従った送信データ変調(Y0/Y1/Z0/Z1)を実行することで、量子暗号鍵(乱数)を配送する(動作S602)。本実施形態によれば、ALICE100だけで変調タイミングの調整(動作S601)が可能となり、送信側の装置を初期調整する時あるいは障害発生時に送信機単体で変調タイミングを正しく調整することができる。
【0059】
5.付記
上述した実施形態の一部あるいは全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、これらに限定されるものではない。
(付記1)
所定周期の光パルス列を変調してデータ送信を行う光送信機であって、
前記光パルス列を少なくとも基準強度とゼロ強度との間で強度変調して第1光パルス列を出力する第1変調器と、
前記第1光パルス列を入力し、その各光パルスを時間的に分離した2連パルスからなる第2光パルス列を出力する非対称干渉計と、
前記第2光パルス列をパルスペア毎に送信データ変調して第3光パルス列を出力する第2変調器と、
前記第3光パルス列の光強度を測定する光強度測定器と、
前記第1変調器の強度変調および前記第2変調器の送信データ変調を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部が、
強度変調パターンに従った前記第1光パルス列の強度変調により、前記第2光パルス列の前記2連パルスを基準強度あるいはゼロ強度とし、
送信データ変調パターンに従った前記送信データ変調により、前記第2光パルス列の前記パルスペアのいずれか一方のパルスをゼロ強度とし、
前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンのいずれかを変化させた時の前記第3光パルス列の光強度に基づいて前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする光送信機。
(付記2)
前記光強度測定器は前記第3光パルス列の平均光強度を測定することを特徴とする付記1に記載の光送信機。
(付記3)
前記制御部が、
前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンのいずれかを変化させ、
前記パターン変化前の前記第3光パルス列の第1の光強度と前記パターン変化後の前記第3光パルス列の第2の光強度との比較結果に基づいて、前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする付記1または2に記載の光送信機。
(付記4)
前記強度変調パターンは、前記光パルス列を基準強度とし前記第2光パルス列が基準強度の2連パルスを繰り返す第1強度変調パターンと、前記光パルス列がパルス毎に基準強度とゼロ強度とを交互に繰り返すことで前記第2光パルス列が2連パルスおきに基準強度とゼロ強度とを繰り返す第2強度変調パターンとを有し、
前記送信データ変調パターンは、前記パルスペアの一方のパルスがゼロ強度、他方のパルスが基準強度の第1送信データ変調と、前記一方のパルスが基準強度、前記他方のパルスがゼロ強度の第2送信データ変調とを交互に繰り返し、
前記制御部が、
前記送信データ変調パターンを固定した状態で、前記強度変調パターンを前記第1強度変調パターンに設定した時の前記第3光パルス列の第1の光強度と、前記強度変調パターンを前記第2強度変調パターンへ変化させたときの前記第3光パルス列の第2の光強度と、を比較することで前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする付記1-3のいずれか1項に記載の光送信機。
(付記5)
前記強度変調パターンは、前記光パルス列がパルス毎に基準強度とゼロ強度とを交互に繰り返すことで前記第2光パルス列が2連パルスおきに基準強度とゼロ強度とを繰り返し、
前記送信データ変調パターンは、前記パルスペアの一方のパルスがゼロ強度、他方のパルスが基準強度の第1送信データ変調と、前記一方のパルスが基準強度、前記他方のパルスがゼロ強度の第2送信データ変調とを交互に繰り返し、
前記制御部が、
前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンの一方のパターンを固定し他方のパターンを所定パターンとした時の前記第3光パルス列の第1の光強度と、前記他方のパターンを反転させたときの前記第3光パルス列の第2の光強度と、を比較することで前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする付記1-3のいずれか1項に記載の光送信機。
(付記6)
前記第1変調器がデコイ法に従った強度変調を行う強度変調器であり、
前記第2変調器が前記送信データに従って前記パルスペアに対して位相変調あるいは前記パルスペアのいずれか一方のパルスをゼロ強度とする強度変調を行う強度・位相変調器であり、
前記光強度測定器は前記第3光パルス列の光強度をモニタするための光検出器を利用し、
前記制御部は、前記パルスペアが前記2連パルスとなるように前記第2変調器の変調タイミングを調整することを特徴とする付記1-5のいずれか1項に記載の光送信機。
(付記7)
所定周期の光パルス列を変調してデータ送信を行う光送信機における変調タイミング正誤判定方法であって、
第1変調器が前記光パルス列を少なくとも基準強度とゼロ強度との間で強度変調して第1光パルス列を出力し、
非対称干渉計が前記第1光パルス列を入力し、その各光パルスを時間的に分離した2連パルスからなる第2光パルス列を出力し、
第2変調器が前記第2光パルス列をパルスペア毎に送信データ変調して第3光パルス列を出力し、
光強度測定器が前記第3光パルス列の光強度を測定し、
制御部が前記前記第1変調器の強度変調および前記第2変調器の送信データ変調を制御して、
強度変調パターンに従った前記第1光パルス列の強度変調により、前記第2光パルス列の前記2連パルスを基準強度あるいはゼロ強度とし、
送信データ変調パターンに従った前記送信データ変調により、前記第2光パルス列の前記パルスペアのいずれか一方のパルスをゼロ強度とし、
前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンのいずれかを変化させた時の前記第3光パルス列の光強度に基づいて前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする変調タイミング正誤判定方法。
(付記8)
前記光強度測定器は前記第3光パルス列の平均光強度を測定することを特徴とする付記7に記載の変調タイミング正誤判定方法。
(付記9)
前記制御部が、
前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンのいずれかを変化させ、
前記パターン変化前の前記第3光パルス列の第1の光強度と前記パターン変化後の前記第3光パルス列の第2の光強度との比較結果に基づいて、前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする付記7または8に記載の変調タイミング正誤判定方法。
(付記10)
前記強度変調パターンは、前記光パルス列を基準強度とし前記第2光パルス列が基準強度の2連パルスを繰り返す第1強度変調パターンと、前記光パルス列がパルス毎に基準強度とゼロ強度とを交互に繰り返すことで前記第2光パルス列が2連パルスおきに基準強度とゼロ強度とを繰り返す第2強度変調パターンとを有し、
前記送信データ変調パターンは、前記パルスペアの一方のパルスがゼロ強度、他方のパルスが基準強度の第1送信データ変調と、前記一方のパルスが基準強度、前記他方のパルスがゼロ強度の第2送信データ変調とを交互に繰り返し、
前記制御部が、
前記送信データ変調パターンを固定した状態で、前記強度変調パターンを前記第1強度変調パターンに設定した時の前記第3光パルス列の第1の光強度と、前記強度変調パターンを前記第2強度変調パターンへ変化させたときの前記第3光パルス列の第2の光強度と、を比較することで前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする付記7-9のいずれか1項に記載の変調タイミング正誤判定方法。
(付記11)
前記強度変調パターンは、前記光パルス列がパルス毎に基準強度とゼロ強度とを交互に繰り返すことで前記第2光パルス列が2連パルスおきに基準強度とゼロ強度とを繰り返し、
前記送信データ変調パターンは、前記パルスペアの一方のパルスがゼロ強度、他方のパルスが基準強度の第1送信データ変調と、前記一方のパルスが基準強度、前記他方のパルスがゼロ強度の第2送信データ変調とを交互に繰り返し、
前記制御部が、
前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンの一方のパターンを固定し他方のパターンを所定パターンとした時の前記第3光パルス列の第1の光強度と、前記他方のパターンを反転させたときの前記第3光パルス列の第2の光強度と、を比較することで前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする付記7-9のいずれか1項に記載の変調タイミング正誤判定方法。
(付記12)
所定周期の光パルス列を少なくとも基準強度とゼロ強度との間で強度変調して第1光パルス列を出力する第1変調器と、前記第1光パルス列を入力し、その各光パルスを時間的に分離した2連パルスからなる第2光パルス列を出力する非対称干渉計と、前記第2光パルス列をパルスペア毎に送信データ変調して第3光パルス列を出力する第2変調器と、前記第3光パルス列の光強度を測定する光強度測定器と、を有する光送信機の制御部としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、
強度変調パターンに従った前記第1光パルス列の強度変調により、前記第2光パルス列の前記2連パルスを基準強度あるいはゼロ強度とする機能と、
送信データ変調パターンに従った前記送信データ変調により、前記第2光パルス列の前記パルスペアのいずれか一方のパルスをゼロ強度とする機能と、
前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンのいずれかを変化させた時の前記第3光パルス列の光強度に基づいて前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する機能と、
を前記コンピュータに実現させることを特徴とするプログラム。
(付記13)
前記光強度測定器は前記第3光パルス列の平均光強度を測定することを特徴とする付記12に記載のプログラム。
(付記14)
前記制御部が、
前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンのいずれかを変化させ、
前記パターン変化前の前記第3光パルス列の第1の光強度と前記パターン変化後の前記第3光パルス列の第2の光強度との比較結果に基づいて、前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする付記12または13に記載のプログラム。
(付記15)
前記強度変調パターンは、前記光パルス列を基準強度とし前記第2光パルス列が基準強度の2連パルスを繰り返す第1強度変調パターンと、前記光パルス列がパルス毎に基準強度とゼロ強度とを交互に繰り返すことで前記第2光パルス列が2連パルスおきに基準強度とゼロ強度とを繰り返す第2強度変調パターンとを有し、
前記送信データ変調パターンは、前記パルスペアの一方のパルスがゼロ強度、他方のパルスが基準強度の第1送信データ変調と、前記一方のパルスが基準強度、前記他方のパルスがゼロ強度の第2送信データ変調とを交互に繰り返し、
前記送信データ変調パターンを固定した状態で、前記強度変調パターンを前記第1強度変調パターンに設定した時の前記第3光パルス列の第1の光強度を取得し、
前記強度変調パターンを前記第2強度変調パターンへ変化させたときの前記第3光パルス列の第2の光強度を取得し、
前記第1の光強度と前記第2の光強度とを比較することで前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする付記12-14のいずれか1項に記載のプログラム。
(付記16)
前記強度変調パターンは、前記光パルス列がパルス毎に基準強度とゼロ強度とを交互に繰り返すことで前記第2光パルス列が2連パルスおきに基準強度とゼロ強度とを繰り返し、
前記送信データ変調パターンは、前記パルスペアの一方のパルスがゼロ強度、他方のパルスが基準強度の第1送信データ変調と、前記一方のパルスが基準強度、前記他方のパルスがゼロ強度の第2送信データ変調とを交互に繰り返し、
前記強度変調パターンおよび前記送信データ変調パターンの一方のパターンを固定し他方のパターンを所定パターンとした時の前記第3光パルス列の第1の光強度を取得し、
前記他方のパターンを反転させたときの前記第3光パルス列の第2の光強度を取得し、
前記第1の光強度と前記第2の光強度とを比較することで前記パルスペアが前記2連パルスであるか否かを判定する、
ことを特徴とする付記12-14のいずれか1項に記載のプログラム。
(付記17)
付記1-7のいずれか1項に記載の光送信機からなる量子鍵配送(QKD)システム。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は非対称干渉計からなるQKDシステムに適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 光送信機
101 レーザ光源
102 強度変調器(デコイ)
103 非対称干渉計
104 強度・位相変調器(基底、ビット)
105 光分岐器
106 減衰器
107 光強度測定器
200 プロセッサ
201 プログラムメモリ
202 変調タイミング正誤判定部
203 変調器ドライバ
204 メモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12