(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】深溝玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240214BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240214BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20240214BHJP
C10M 169/02 20060101ALI20240214BHJP
F16C 33/66 20060101ALN20240214BHJP
C10M 115/08 20060101ALN20240214BHJP
C10M 107/02 20060101ALN20240214BHJP
C10M 105/18 20060101ALN20240214BHJP
C10M 129/26 20060101ALN20240214BHJP
C10M 133/12 20060101ALN20240214BHJP
C10M 129/10 20060101ALN20240214BHJP
C10M 133/38 20060101ALN20240214BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20240214BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/06
F16J15/3204 201
C10M169/02
F16C33/66 Z
C10M115/08
C10M107/02
C10M105/18
C10M129/26
C10M133/12
C10M129/10
C10M133/38
C10N50:10
C10N40:02
(21)【出願番号】P 2022576657
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2022001237
(87)【国際公開番号】W WO2022158401
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2021008898
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021008899
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021008900
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021008901
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021008902
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021008903
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 絵里
(72)【発明者】
【氏名】石和田 博
(72)【発明者】
【氏名】竹内 健人
(72)【発明者】
【氏名】前原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】倉持 尚史
(72)【発明者】
【氏名】ビンアブドゥルハリム アハマドフィルダウス
【審査官】中野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/015976(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/007983(WO,A1)
【文献】特開2011-208731(JP,A)
【文献】特開2007-107560(JP,A)
【文献】米国特許第2277810(US,A)
【文献】独国特許出願公開第102017104320(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16C 19/06
F16J 15/3204
C10M 169/02
F16C 33/66
C10M 115/08
C10M 107/02
C10M 105/18
C10M 129/26
C10M 133/12
C10M 129/10
C10M 133/38
C10N 50/10
C10N 40/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径面に外輪軌道溝が設けられた外輪と、
外径面に内輪軌道溝が設けられた内輪と、
前記外輪軌道溝及び前記内輪軌道溝間に転動自在に配設された複数の玉と、
前記外輪に固定され、前記内輪の肩部に形成されたシール溝と接触又は非接触で配置されて前記外輪と前記内輪との間の空間を封止するシール部材と、
を備える深溝玉軸受であって、
軸方向断面幅は、径方向断面高さよりも小さく、
前記内輪の肉厚は、前記外輪の肉厚より大きく、
前記玉のピッチ円直径は、前記内輪の内径と前記外輪の外径との中間径より大きく、且つ、
前記内輪の肩部の外径と前記シール部材の内径との間の径方向寸法は、前記外輪の肉厚より大きい、
深溝玉軸受。
【請求項2】
前記シール部材により封止された空間には低発塵グリースが封入されており、
前記低発塵グリースは、合成炭化水素油及びエーテル油から選ばれる少なくとも1種が配合された基油と、ウレア化合物からなる増ちょう剤と、非金属元素のみからなる添加剤と、を含み、金属元素の混入量が30ppm以下である、
請求項1に記載の深溝玉軸受。
【請求項3】
前記基油は、40℃における動粘度が30~180mm2/secであり、前記添加剤の含有量は、前記低発塵グリース全量の0.1~1重量%であり、かつ、前記低発塵グリースの混和ちょう度は190~230である、
請求項2に記載の深溝玉軸受。
【請求項4】
前記非金属元素のみからなる添加剤が、カルボン酸及びその誘導体、非イオン界面活性剤、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、長鎖脂肪酸系油性剤、ベンゾトリアゾール系金属不活性剤、もしくはこれらを組み合わせてなる混合物である、
請求項2または3に記載の深溝玉軸受。
【請求項5】
前記空間内に封入されるグリースの封入量は、空間容積の15~25%である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。
【請求項6】
前記シール部材は、軸方向内側に向かって突出し、前記内輪の肩部の外径面と前記シール溝の側面との縁部又はその近傍に接触する補助リップ部を有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。
【請求項7】
軸方向一方側にそれぞれ開口し、且つ、前記複数の玉をそれぞれ保持する複数のポケットを有する冠型保持器をさらに備え、
前記空間内のうち、前記軸方向一方側にグリースが封入されている、
請求項1~6のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。
【請求項8】
前記グリースは、前記外輪の内周面側に封入されている、
請求項7に記載の深溝玉軸受。
【請求項9】
前記空間内のうち、軸方向一方側にグリースが封入されており、且つ、
前記外輪の軸方向両側に固定された一対の前記シール部材は、互いに異なる外観を有し、いずれか一方の前記シール部材の外観は、前記軸方向一方側又は他方側を表す識別力を有する、
請求項1~8のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。
【請求項10】
前記シール部材は、芯金と、前記芯金を覆う弾性材料からなるシール部とを備え、
前記芯金は、前記シール部より軸方向外側に配置される、
請求項1~9のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深溝玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコンファン、冷却ファン、換気扇、クリーナー、洗濯機などの家電用モータや、汎用モータ、サーボモータ、ステッピングモータなどの産業用モータ、及び工作機械のスピンドルやエンコーダなどの回転軸は、転がり軸受により回転自在に支承されている。このような用途に使用される転がり軸受では、ラジアル荷重のほかに、両方向のアキシアル荷重を負荷することができ、摩擦トルクが小さく、高速回転する部分や低騒音・低振動が要求される用途に適している深溝玉軸受が多く使用されている。深溝玉軸受は、軌道が円弧状の深い溝になっており、軸方向両側にシール部材が取り付けられ、軸受空間内にグリースが封入されている。
【0003】
また、洗濯機などのモータに使用される単列玉軸受として、内輪の肉厚を外輪の肉厚の1.5倍以上として内輪の剛性を高め、内輪のクリープ発生を防止した深溝玉軸受が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エンコーダでは、スリットが切られたディスクを用いて、位置情報の読み取りを行なっている。また、そのスリットは、幅が年々狭くなっている為、ディスクの汚染により読み取りエラーが生じる場合がある。エンコーダなどに使用される転がり軸受の深溝玉軸受では、グリース漏れの抑制や、塵の発生低下が要求されており、さらなる改良が求められている。
特許文献1に記載の単列玉軸受は、内輪に設けられたシール溝に非接触で近接配置されたシール部材を備えているが、グリース漏れや、発生する塵の抑制に対して考慮したものではない。
また、モータ等においては、小型化や軽量化が求められており、使用される転がり軸受にも幅狭化が要求される。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、幅狭化・軽量化を図りつつ、負荷容量を確保すると共に、グリース漏れを抑制して長寿命化を可能とする深溝玉軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
内径面に外輪軌道溝が設けられた外輪と、
外径面に内輪軌道溝が設けられた内輪と、
前記外輪軌道溝及び前記内輪軌道溝間に転動自在に配設された複数の玉と、
前記外輪に固定され、前記内輪の肩部に形成されたシール溝と接触又は非接触で配置されて前記外輪と前記内輪との間の空間を封止するシール部材と、
を備える深溝玉軸受であって、
軸方向断面幅は、径方向断面高さよりも小さく、
前記内輪の肉厚は、前記外輪の肉厚より大きく、
前記玉のピッチ円直径は、前記内輪の内径と前記外輪の外径との中間径より大きく、且つ、
前記内輪の肩部の外径と前記シール部材の内径との間の径方向寸法は、前記外輪の肉厚より大きい、
深溝玉軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明の深溝玉軸受によれば、軸方向断面幅を径方向断面高さよりも小さくして、幅狭化・軽量化を図ることができる。また、内輪の肉厚が、外輪の肉厚より大きくなり、玉のピッチ円直径は、内輪の内径と外輪の外径との中間径より大きいので、玉の個数を増やすことができ、深溝玉軸受の負荷容量を確保して寿命を長くできる。
さらに、内輪の肩部の外径とシール部材の内径との間の径方向寸法は、外輪の肉厚より大きいので、グリース漏れを効果的に抑制して深溝玉軸受を長寿命化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る深溝玉軸受の要部断面図である。
【
図2】
図1の深溝玉軸受における玉同士の間隔を示す説明図である。
【
図3】軸受空間の空間容積を説明するための要部断面図である。
【
図4】第1変形例に係る深溝玉軸受の要部断面図である。
【
図5】第2変形例に係る深溝玉軸受の要部断面図である。
【
図6】第3変形例に係る深溝玉軸受の要部断面図である。
【
図7】第4変形例に係る深溝玉軸受の要部断面図である。
【
図8】第5変形例に係る深溝玉軸受の要部断面図である。
【
図9】第6変形例に係る深溝玉軸受の要部断面図である。
【
図10】第7変形例に係る深溝玉軸受の要部断面図である。
【
図11】第8変形例に係る深溝玉軸受の要部断面図である。
【
図12】第9変形例に係る深溝玉軸受の要部断面図である。
【
図13】第10変形例に係る深溝玉軸受の要部断面図である。
【
図14】第11変形例に係る深溝玉軸受の要部断面図である。
【
図15】第12変形例に係る深溝玉軸受の要部断面図である。
【
図16】第13変形例に係る深溝玉軸受の要部断面図である。
【
図17】
図16の深溝玉軸受にグリースを封入する過程を説明するための要部断面図である。
【
図18】深溝玉軸受を軸方向一方側から見た要部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る深溝玉軸受の一実施形態及び変形例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
図1に示すように、本実施形態の深溝玉軸受10は、内径面に外輪軌道溝11aを有する外輪11と、外径面に内輪軌道溝12aを有する内輪12と、外輪軌道溝11aと内輪軌道溝12aとの間に転動自在に配置された複数の玉13と、玉13を円周方向に所定の間隔で保持する樹脂製の冠型保持器14と、外輪11の内径面の軸方向両側に固定されて、外輪11と内輪12との間の軸受空間Sを封止する一対のシール部材15と、を備える。軸受空間S内には、予めグリースが封入されている。なお、
図1では、グリースが図示省略されているが、
図16の符号Gは、グリースを示している。
本実施形態では、外輪軌道溝11a及び内輪軌道溝12aは、玉13の軸方向中心線CLが、深溝玉軸受10の軸方向中間位置となるように、外輪11及び内輪12に形成されている。
【0012】
シール部材15は、鋼板などの金属板により略円環状に形成された芯金16と、芯金16に固着されたゴムなどの弾性材料からなるシール部17とを有する。
【0013】
シール部17は、芯金16の外周縁を覆い半径方向外方に突出して形成された外周縁部17aと、芯金16の内周縁から半径方向内方に向かって延出した円環状のリップ部17bと、芯金16の内側面16aに固着され、外周縁部17aとリップ部17bとを連結する側部17cと、を有する。即ち、芯金16は、シール部材15が深溝玉軸受10に取り付けられた状態で、シール部17より軸方向外側に配置されている。これにより、シール部17の弾性材料に染み込んだグリースの油分が染み出した場合でも、芯金16により軸方向外側に漏れるのを抑制できる。
【0014】
外周縁部17aは、外輪11の軸方向端部に形成されたシール取付溝11eに圧入などによって係止されて、シール部材15を外輪11に固定する。
【0015】
リップ部17bは、内輪12の肩部12gに形成されたシール溝12dに軸方向内側から摺接しており、シール部材15は、接触シールを構成している。また、側部17cの径方向中間には、補助リップ部17eが軸方向内側に向かって突出して形成されている。補助リップ部17eは、内輪12の肩部12gの外径面12b及びシール溝12dの側面12fとの縁部12eに非接触で近接配置されている。なお、本実施形態では、縁部12eは、面取りが施されている。
【0016】
これにより、本実施形態のシール部材15は、リップ部17bと補助リップ部17eとによって、外輪11と内輪12との間の軸受空間Sを外部から封止する。
【0017】
ここで、本実施形態の深溝玉軸受10では、軸方向断面幅(即ち、外輪11及び内輪12の軸方向幅)Wを径方向断面高さ(即ち、外輪11の外径と内輪12の内径との径方向距離)Hよりも小さくしている(W<H)。これにより、深溝玉軸受10幅狭化・軽量化を図ることができ、内輪12に嵌合する図示しない軸の短寸化も図られる。
【0018】
また、本実施形態では、深溝玉軸受10におけるシール部材15により封止された空間、すなわち、シール部材15と内輪12、外輪11及び玉13とで囲まれた軸受空間Sに、低発塵グリースが封入されている。この低発塵グリースは、適切に選択された基油、増ちょう剤及び添加剤を含んでいるため、深溝玉軸受10からの発塵量を抑制することができる。特に、深溝玉軸受10を、サーボモータの回転軸に使用した場合には、エンコーダの汚染を防止することができる。
【0019】
本実施形態において使用される低発塵グリースは、合成炭化水素油及びエーテル油から選ばれる少なくとも1種が配合された基油と、ウレア化合物からなる増ちょう剤と、非金属元素のみからなる添加剤と、を含み、金属元素の混入量が30ppm以下である。低発塵グリースについて、さらに詳細に説明する。
【0020】
低発塵グリースに含まれる基油は、優れた潤滑性能、トルク性能を有する合成油が望ましく、中でも優れた発塵性能を備える合成炭化水素油及びエーテル油の少なくとも1種を含むものとする。合成炭化水素油としてはポリαオレフィン油等を、エーテル油としてはジアルキルジフェニルエーテル油、アルキルトリフェニルエーテル油、アルキルテトラフェニルエーテル油等を挙げることができる。
特に高温耐久性を考慮すると、アルキルジフェニルエーテルを必須成分(基油成分の50重量%以上)とすることが望ましい。また、低温流動性の観点からは、基油として合成炭化水素油を用いることが最も望ましい。
また、潤滑特性をより向上させるため、必要ならばエステル油を配合してもよい。配合するエステル油としては、ポリオールエステル油、芳香族エステル油が望ましい。このエステル油は、発塵特性を考慮すると、基油成分の50重量%未満が望ましい。
基油の動粘度は30~180mm2/sであることが好ましく、特に30~150mm2/secであることが望ましい。基油の動粘度が30mm2/sec以上とすることにより、高温で蒸発することを抑制することができ、180mm2/sec以下とすることにより、摩擦トルクの増大及び発塵量の増加を抑制することができるためである。
【0021】
低発塵グリースは、高温特性を改善する作用を有するウレア化合物からなる増ちょう剤を含む。ウレア化合物としては、ジウレア、トリウレア、テトラウレア、ポリウレア等を挙げることができる。これらのウレア化合物は、その分子中に金属元素以外の異元素を含んでいてもよく、また金属原子を含まない置換基を有していてもよい。
このウレア化合物のグリース中の含有量は、グリース形態を形成し得る量であれば特に制限されるものではなく、概ね10~30重量%の範囲とすることが好ましい。このウレア化合物はグリースの高温特性、特に高温での機械的安定性を改善する効果があり、10重量%以上とすることにより、その効果を十分に得ることができる。一方、30重量%以下とすることにより、発塵量を抑制することができるとともに、トルクの上昇、潤滑性能の劣化を防止することができる。また、発塵量を抑制するためには、適切な固さが必要である。このため、グリースの混和ちょう度を190~230とすることがこのましい。
【0022】
また、低発塵グリースは添加剤を含み、この添加剤は非金属元素のみからなるものとする。以下に添加剤の種類とその好的な化合物を例示するが、これらの化合物の中でも、硫黄や塩素、リンを含まないものが望ましい。添加剤は、防錆性の要求に答えるために防錆剤を添加することが好ましい。また、必要なら酸化防止剤、油性剤、金属不活性剤等を添加することができる。以下に本発明に使用することができる添加剤の一例を示す。
防錆剤としてはコハク酸等のカルボン酸及びその誘導体、ソルビタン等の非イオン界面活性剤を用いることができる。また、酸化防止剤としてはアミン系、フェノール系酸化防止剤、油性剤としては長鎖脂肪酸系油性剤、金属不活性剤としてはベンゾトリアゾール系金属不活性剤等を用いることができる。
【0023】
上記の各添加剤はそれぞれ単独で、もしくは適宜組み合わせて使用される。
添加剤の配合量は、配合される各添加剤とも、単体としてグリース全量の0.1重量%以上とすることが好ましく、これにより、添加剤の効果を得ることができる。ただし、単独使用及び併用する場合とも、総量でグリース全量の1重量%以下であることが望ましく、これにより、発塵量の急増を防止することができる。
【0024】
本発明に使用されるグリースは、常法に従い、上記に挙げた基油に増ちょう剤及び添加剤を所定量配合し、混練機により混練することにより得られる。
尚、この混練に際して、グリースには混練機や搬送容器等から金属が混入することがある。また、原料中に不純物として金属元素が含まれる場合もある。しかし、工程中の管理を十分行えばその混入量は極く微量に抑えることができ、本発明の効果を損なうものではない。従って、金属元素のグリース中への混入量は、分析装置の検出限界以下であることが最も望ましいが、30ppm以下とすることが好ましい。但し、Li,Na,Al,Ca,Ni,Zn,Mo,Sn,Sb,Ba,Pbは、本発明の技術分野を考慮すれば5ppm以下であることが好ましい。また、同様の理由でCl,P,Sは、20ppm以下であることが好ましい。
【0025】
また、軸受空間S内に封入されるグリースの封入量としては、空間容積の15~25%としている。ここで、空間容積とは、
図3の網掛け線で示すように、外輪11の内周面と、内輪12の外周面と、一対のシール部材15とで囲われる空間のうち、玉13と保持器14の体積を引いた容積を言う。
【0026】
グリースの封入量が、空間容積の15%未満であると、グリースが軌道面に行き渡らず、グリースの基油が効率良く潤滑できず、また、グリースの消耗が早く、グリース寿命、ひいては、軸受寿命が短くなる可能性がある。一方、グリースの封入量が、空間容積の25%を超えると、グリースの発塵や漏れが多くなる可能性がある。したがって、グリースの封入量は、軸受空間Sの空間容積の15~25%としている。
【0027】
また、内輪12の肉厚cは、外輪11の肉厚dより大きく設定されている(c>d)。内輪12の肉厚cが、外輪11の肉厚dより大きいことで、玉13のピッチ円直径PCDは、内輪12の内径と外輪11の外径との中間径MDより大きい。即ち、前記軸受10の外径と内径を同じ寸法とした場合、内輪12の肉厚cを大きくすることで、外輪11と内輪12の肉厚が同じ標準的な深溝玉軸受と比べて、ピッチ円直径PCDが大きくなり、玉13の個数を増やすことができ、負荷容量を高めて長寿命化が可能となる。また、深溝玉軸受10は、玉13の個数を増やすことで、上述した軸方向断面幅Wを小さくするように直径gが小さい玉13を用いた場合でも、負荷容量を高めることが可能となる。
なお、内輪12の肉厚cは、内輪12の肩部12gの外径面12bと内輪12の内径面12cとの間の径方向寸法であり、外輪11の肉厚dは、外輪11の肩部11fの内径面11bと外輪11の外径面11cとの間の径方向寸法とする。
【0028】
また、内輪12の肩部12gの外径とシール部材15の内径との間の径方向寸法bが外輪11の肉厚dより大きく設定されている(b>d)。これにより、内輪12のシール溝12dの側面12fとシール部材15との径方向における重なり寸法が大きくなる。即ち、シール溝12dの側面12fとシール部17の側部17cとの間に形成されるラビリンス隙間がリップ部17bと補助リップ部17eとの間で径方向に長く形成され、グリースの漏れを抑制できる。また、径方向断面高さHは確保されているので、内輪とシール部材との径方向における重なり寸法を容易に確保できる。
【0029】
また、内輪12の外径とシール部材15の内径との間の径方向寸法bは、内輪12の内径とシール部材15の内径との間の径方向寸法eより大きくなっている(b>e)。したがって、径方向に長い上記ラビリンス隙間を容易に形成することができる。
【0030】
また、内輪軌道溝12aの外径と内輪12の内径との間の径方向寸法をf、玉13の直径をg、外輪軌道溝11aの内径と外輪11の外径との間の径方向寸法をhとしたとき、各寸法間の関係は、f>g>hの関係になっている。これにより、内輪12に嵌合する図示しない軸の慣性を小さくすることができる。
【0031】
さらに、玉13の半径i(=g/2)は、玉13の軸方向端面と外輪11の軸方向端面11dまでの軸方向寸法jより大きく(i>j)、より大きな径の玉13を使用するので、軸方向長さが同じである場合、標準的な深溝玉軸受と比較して負荷容量が増加して、長寿命化が可能となる。
【0032】
また、
図2も参照して、玉13の直径gは、隣接する玉13同士の周方向間隔kより大きくして(g>k)、より多くの玉13を配設しているので、隣接する玉13同士の周方向間隔kより小さいもの(g<k)より、各玉13が受ける荷重が分散されて小さくなるため、各玉13の寿命を延ばすことができる。
【0033】
さらに、内輪12の肩部12gの外径とシール部材15の芯金16の内径との間の径方向寸法pは、シール部材15の芯金16の内径とシール部材15の内径との間の径方向寸法nより大きいので(p>n)、シール部材15を深溝玉軸受10に取付けた際のシール部材15の変形が抑制されて、グリース漏れをさらに減少できる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の深溝玉軸受10は、軸方向断面幅Wを径方向断面高さHよりも小さくして(W<H)、幅狭化・軽量化を図ることができる。また、上記構成は、内輪12の肉厚cが、外輪11の肉厚dより大きいことで与えられ、玉13のピッチ円直径PCDは、内輪12の内径と外輪11の外径との中間径MDより大きいので、玉の個数を増やすことができ、深溝玉軸受の負荷容量を確保して寿命を長くできる。
【0035】
さらに、内輪12の肩部12gの外径とシール部材15の内径との間の径方向寸法bが外輪11の肉厚dより大きく設定されている(b>d)ので、内輪12のシール溝12dの側面12fとシール部材15との径方向における重なり寸法が大きくなり、即ち、シール部材15の側面とシール溝12dの側面12fとの間に形成されるラビリンス隙間が長くなり、封入されたグリースの漏れが抑制される。
【0036】
また、内輪12の肩部12gの外径とシール部材15の内径との間の径方向寸法bが、内輪12の内径とシール部材15の内径との間の径方向寸法eより大きいので(b>e)、グリース漏れがより抑制される。
【0037】
また、内輪12の肉厚cを外輪11の肉厚dに対して大きくすることで(c>d)、内輪12のシール溝12dの側面12fの径方向長さを大きくすることができ、ラビリンス性能が向上してグリース漏れがさらに抑制される。
【0038】
さらに、シール部材15により封止された軸受空間Sに、所定の低発塵グリースが封入されているため、塵の発生を抑制することができる。また、この低発塵グリースは、金属元素の含有が少ないため、金属元素の飛散を減少させることができる。さらに、上記好ましい低発塵グリースは、流動性、潤滑性及び高温特性に優れ、より一層優れた低発塵性も有しているため、高温での機械的安定性及びトルク性能が優れた深溝玉軸受10が得られるとともに、周囲への汚染の低減を実現することができる。
【0039】
以下、本発明の各変形例に係る深溝玉軸受について図面を参照して説明する。なお、各変形例の深溝玉軸受の説明では、上記実施形態のものと異なる部分について主に説明し、寸法関係を含め、上記実施形態と同一部分には同一符号又は相当符号を付して説明を簡略化又は省略する。
【0040】
(第1変形例)
図4に示すように、第1変形例の深溝玉軸受10aでは、シール部材15Aのリップ部17bがシール溝12dと接触しない非接触シールを構成している。したがって、リップ部17b及び補助リップ部17eの両方を非接触シールとすることで、回転トルクを軽減することができる。また、非接触シールにすることによりグリース漏れに関しては不利となるが、ラビリンス隙間が長いので、グリース漏れは、従来のものより少なくなる。
【0041】
(第2変形例)
図5に示すように、第2変形例の深溝玉軸受10bでは、シール部材15Bは、リップ部17bと補助リップ部17eとの間に、シール溝12dの側面12fと非接触な複数の他の補助リップ部17fを備える。これにより、シール部材15Bによる密封性能をさらに向上することができる。
【0042】
(第3変形例)
図6に示すように、第3変形例の深溝玉軸受10cでは、軸方向一方側、好ましくはグリースの漏れにくい保持器の閉口側に、シール部材15C(金属シールド)がシール取付溝11eに固定されている。したがって、内輪12と非接触なシール部材15Cを軸方向一方側に用いることで、回転トルクを軽減し低コストにすることができる。
【0043】
(第4変形例)
図7に示すように、第4変形例の深溝玉軸受10dでは、シール部材15Dは、芯金16がシール部17の軸方向内側に配置されている。この場合、シール部材15Dは、補助リップ部17eが芯金16に別途接合されてもよいし、或いは、補助リップ部17eを有しない構成であってもよい。このような配置とすることにより、リップ部17bを芯金16から外れ難くすることができる。
【0044】
(第5変形例)
図8に示すように、第5変形例の深溝玉軸受10eでは、樹脂製の保持器14の代わりに、鋼製の保持器14Aが使用されている。これにより、保持器14Aの耐久性が向上し、深溝玉軸受10eの寿命が長くなる。
【0045】
(第6変形例)
図9に示すように、第6変形例の深溝玉軸受10fでは、鋼製の玉13の代わりに、セラミック製の玉13Aが使用されており、これにより、玉13Aの長寿命化を図ることや、電食を抑制することができる。
【0046】
(第7変形例)
図10に示すように、第7変形例の深溝玉軸受10gでは、シール部材15Eのリップ部17bが内輪12の側面12fに軸方向外側から摺接する(内当たり)。リップ部17bが内輪12の側面12fに内当たりすることで、深溝玉軸受10gに予圧が付与される方向に応じて、リップ部17bと側面12fとの接触面圧を適切に維持することができる。また、シール部材15Eを用いることで、深溝玉軸受10g内の空気の流れ方向に応じて、シール性に有利に作用させることができる。
なお、シール部材15Eは、軸方向一方側にのみ設け、軸方向他方側には、上記実施形態の外当たりのシール部材15が設けられてもよい。
【0047】
(第8変形例)
図11に示すように、第8変形例の深溝玉軸受10hでは、外輪11の外径面11cに形成されたOリング溝11gに2本のOリング20が装着されている。Oリング20は、外輪11が内嵌する不図示のハウジングとの摩擦力により、外輪11のクリープ発生を防止する。
【0048】
(第9変形例)
図12に示すように、第9変形例の深溝玉軸受10iでは、内輪12のシール溝12d側面12fに、軸方向に突出する複数の突起部12hが環状に設けられている。複数の突起部12hは、シール部17の側部17cとの間に非接触シールを形成してグリース漏れをさらに抑制する。
【0049】
(第10変形例)
図13に示すように、第10変形例の深溝玉軸受10jでは、内輪12のシール溝12dの側面12fが、径方向外方に向かって軸方向幅が次第に狭くなる、断面略台形状に形成されている。これにより、内輪12の加工性を向上することができる。なお、
図12の補助リップ17eを内輪12に近づけるように伸ばすことにより、補助リップ部17eと内輪12の隙間を小さくしてグリース漏れを抑制することが出来るので、好ましい。
【0050】
(第11変形例)
図14に示すように、第11変形例の深溝玉軸受10kでは、玉13が外輪11及び内輪12に対して軸方向にオフセットされて配置されている。具体的には、玉13の軸方向中心線CLから深溝玉軸受10kの一方の端面21aまでの軸方向寸法lが、玉13の軸方向中心線CLから深溝玉軸受10kの他方の端面21bまでの軸方向寸法mより大きく設定されている(l>m)。
【0051】
従って、玉13の軸方向中心線CLから深溝玉軸受10kの一方の端面21aまでの軸方向寸法lが大きく設定された一方の端面21a側では、保持器14とシール部材15との干渉が生じ難くなる。また、保持器14とシール部材15との干渉の虞がない他方の端面21b側では、軸方向寸法を短くすることができ、深溝玉軸受10kの軸方向長さが短くなる。
【0052】
(第12変形例)
図15に示すように、第12変形例の深溝玉軸受10lでは、シール部17の側部17cの径方向中間に、補助リップ部17eが軸方向内側に向かって突出して形成されている。補助リップ部17eは、内輪12の肩部12gの外径面12b及びシール溝12dの側面12fとの縁部12eに接触しており、接触リップを構成している。
【0053】
従って、シール部材15が、ラビリンス隙間の上流側に接触リップである補助リップ部17eを有することになるので、グリースや、グリースの基油の流出や蒸発を抑制でき、グリース寿命を延ばすことができ、また、周囲への汚染を防止することができる。
なお、補助リップ部17eの接触箇所は、内輪12の縁部12eに限らず、該縁部12eの近傍の肩部12gの外径面12bであってもよいし、シール溝12dの側面12fであってもよい。
なお、該変形例では、シール部材15は、シール溝12dと接触するリップ部17bを有しているが、シール溝12dから離れて配置される非接触なリップ部17bを有するものであってもよい。
【0054】
(第13変形例)
図16に示すように、第13変形例の深溝玉軸受10mでは、深溝玉軸受10におけるシール部材15により封止された空間、すなわち、シール部材15と内輪12、外輪11及び玉13とで囲まれた軸受空間Sに、上述した低発塵グリースGが封入されている。
【0055】
特に、グリースGは、軸受空間S内のうち、冠型保持器14のポケットPの開口側となる玉13の軸方向中心線CLに対して軸方向一方側で、好ましくは、外輪11の内周面側に封入されている。
【0056】
具体的には、
図17に示すように、外輪11、内輪12、玉13、保持器14、及び軸方向他方側のシール部材15が組み立てられ、軸方向一方側のシール部材15が組み付けられる前の状態において、軸方向一方側から外輪11の内周面にグリースGを塗布するようにしてグリースGが封入される。その後、軸方向一方側のシール部材15が外輪11のシール取付溝11eに取付けられる。
なお、グリースGが封入される際、軸方向他方側のシール部材15も取り外されていて、グリースGが封入された後に、一対のシール部材15を外輪のシール取付溝11eに取付けてもよい。
【0057】
なお、本実施形態において、グリースGが軸方向一方側で、好ましくは、外輪11の内周面側に封入されているとは、慣らし運転前の状態において、玉13の軸方向中心線CLに対して軸方向一方側、且つ、玉のピッチ円直径PCDに対して外輪11の内周面側の空間領域に封入されている状態である。ただし、封入量に応じて、上記グリースGの封入は、慣らし運転前の状態において、玉13の軸方向中心線CLに対して、軸方向他方側よりも軸方向一方側に多く封入され、且つ、玉のピッチ円直径PCDに対して内輪12の外周面側よりも外輪11の内周面側に多く封入されている状態も含む。
【0058】
これにより、冠型保持器14の円環部14bのない軸方向一方側の空間にグリースGを容易に封入することができる。また、外輪内周面側に、即ち該軸受空間Sと外部とを仕切る、内輪12のシール溝12dとシール部材15との封止位置からグリースGが離れて封入されている場合、グリースの発塵や漏れを抑制することができ、周囲への汚染防止を可能とする。
また、静止輪である外輪11の内周面側にグリースGが封入されている場合、軸受運転時に玉13に付着するなどして撹拌されるグリースの量は少なく、急激な温度上昇が生じるのを抑制できる。
【0059】
また、一対のシール部材15,15は、互いに異なる外観を有し、いずれか一方のシール部材15の外観は、軸方向一方側又は他方側を表す識別力を有する。具体的に、本変形例では、
図18に示すように、軸方向一方側のシール部材15の芯金16の軸方向外側面には、識別マーク30が例えばシール部材15の一部を凸状に形成する形で設けられており、軸方向他方側のシール部材と異なる外観を有している。識別マーク30は、予めグリースが封入される側である軸方向一方側を表すものとして、認識されている。
これにより、軸受外観からグリース封入方向を判別することができ、耐汚染方向を管理しつつエンコーダなどの装置に組み込むことができる。即ち、深溝玉軸受10を該装置に組み込む際には、グリースによって影響を受ける部品、例えばエンコーダの場合におけるスリットを有するディスクが、深溝玉軸受10の軸方向他方側に位置するように深溝玉軸受10が配置される。
また、芯金の軸方向外側面を利用することで、識別力を有する外観を容易に形成できる。
【0060】
なお、シール部材15に識別力を有する外観を与える手法としては、上記の他、シール部材15の軸方向外側面の色を互いに異なる色に指定してもよい。また、一対のシール部材15、15の形状を互いに異なるものとしてもよいし、或いは、いずれか一方のシール部材15が芯金及び弾性材料からなる一方、いずれか他方のシール部材15をシールドによって構成してもよいし、一方側のシールに刻印を付しても良い。
【0061】
なお、本発明は、前述した実施形態及び各変形例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0062】
例えば、上記実施形態及び各変形例では、通常、内輪12及び外輪11は、焼入れ、焼き戻しなどの熱処理が施されて硬度向上が図られている。ただし、本発明の深溝玉軸受は、該熱処理を浸炭窒化処理に変更することで、内輪12及び外輪11の表面硬さをさらに向上させることができ、内輪12及び外輪11の表面(内輪軌道溝12a及び外輪軌道溝11a)の疲労寿命の向上を図ることができる。なお、浸炭窒化処理は、内輪12にのみ施されてもよい。
【0063】
また、本実施形態のように、冠型保持器14を用いる場合、シール部材15が軸方向両側で異なるなど、深溝玉軸受が軸方向において非対称である場合や、深溝玉軸受周囲の部品(例えば、エンコーダ)の配置に応じて、冠型保持器14の組み込み方向は
図1と反対方向としてもよい。即ち、冠型保持器14の円環部が配置される側を玉13に対して反対側にしてもよい。この場合、グリースを封入する方向も、保持器14の組み込み方向の変更に応じて変更される。
【0064】
また、上記実施形態では、保持器として冠型保持器が用いられ、ポケットの開口側である軸方向一方側からグリースが封入される構成としているが、本発明の保持器は、冠型保持器に限定されず、波形保持器など、軸方向両側に円環部を有する保持器であってもよい。この場合、軸方向のいずれか一方を軸方向一方側としてグリースが封入されればよい。
【0065】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 内径面に外輪軌道溝が設けられた外輪と、
外径面に内輪軌道溝が設けられた内輪と、
前記外輪軌道溝及び前記内輪軌道溝間に転動自在に配設された複数の玉と、
前記外輪に固定され、前記内輪の肩部に形成されたシール溝と接触又は非接触で配置されて前記外輪と前記内輪との間の空間を封止するシール部材と、
を備える深溝玉軸受であって、
軸方向断面幅は、径方向断面高さよりも小さく、
前記内輪の肉厚は、前記外輪の肉厚より大きく、
前記玉のピッチ円直径は、前記内輪の内径と前記外輪の外径との中間径より大きく、且つ、
前記内輪の肩部の外径と前記シール部材の内径との間の径方向寸法は、前記外輪の肉厚より大きい、
深溝玉軸受。
この構成によれば、軸方向断面幅を径方向断面高さよりも小さくして、幅狭化・軽量化を図ることができる。また、ピッチ円直径を大きくすることで、玉の個数を増やすことができ、深溝玉軸受の負荷容量を確保して寿命を長くできる。さらに、内輪とシール部材との径方向重なり寸法を大きくすることができ、シール性能が向上してグリース漏れが抑制され、深溝玉軸受を長寿命化することができる。
【0066】
(2) 前記シール部材により封止された空間には低発塵グリースが封入されており、
前記低発塵グリースは、合成炭化水素油及びエーテル油から選ばれる少なくとも1種が配合された基油と、ウレア化合物からなる増ちょう剤と、非金属元素のみからなる添加剤と、を含み、金属元素の混入量が30ppm以下である、
(1)に記載の深溝玉軸受。
この構成によれば、シール部材15により封止された軸受空間Sに、所定の低発塵グリースが封入されているため、塵の発生を抑制することができ、周囲への汚染を防止することができる。また、低発塵グリースが増ちょう剤としてウレア化合物を含有しているため、グリースの高温特性を改善することができる。
【0067】
(3) 前記基油は、40℃における動粘度が30~180mm2/secであり、前記
添加剤の含有量は、前記低発塵グリース全量の0.1~1重量%であり、かつ、前記低発塵グリースの混和ちょう度は190~230である、
(2)に記載の深溝玉軸受。
この構成によれば、上記基油の動粘度を規定することにより、低発塵グリースの流動特性や潤滑性能を向上させることができるとともに、添加剤の含有量及び低発塵グリースの混和ちょう度を制御することにより、より一層優れた低発塵性を得ることができる。
【0068】
(4) 前記非金属元素のみからなる添加剤が、カルボン酸及びその誘導体、非イオン界面活性剤、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、長鎖脂肪酸系油性剤、ベンゾトリアゾール系金属不活性剤、もしくはこれらを組み合わせてなる混合物である、
(2)または(3)に記載の深溝玉軸受。
この構成によれば、上記添加剤を、防錆剤、酸化防止剤、油性剤又は金属不活性剤として作用させることができる。
【0069】
(5) 前記空間内に封入されるグリースの封入量は、空間容積の15~25%である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の深溝玉軸受。
この構成によれば、空間内に封入されるグリースの封入量は、空間容積の15~25%であるので、グリース寿命、ひいては、軸受寿命を確保しつつ、グリースの発塵や漏れを抑制でき、周囲への汚染を防止することができる。
【0070】
(6) 前記シール部材は、軸方向内側に向かって突出し、前記内輪の肩部の外径面と前記シール溝の側面との縁部又はその近傍に接触する補助リップ部を有する、
(1)~(5)のいずれか1つに記載の深溝玉軸受。
この構成によれば、接触シールを構成する補助リップ部を有するので、グリースや、グリースの基油の流出、蒸発を抑制して、周囲への汚染を防止することができる。
【0071】
(7) 軸方向一方側にそれぞれ開口し、且つ、前記複数の玉をそれぞれ保持する複数のポケットを有する冠型保持器をさらに備え、
前記空間内のうち、前記軸方向一方側にグリースが封入されている、
(1)~(6)のいずれか1つに記載の深溝玉軸受。
この構成によれば、グリースが軸方向一方側に封入されているので、軸方向他方側からのグリースの発塵や漏れを抑制することができ、周囲への汚染防止を可能とする。
【0072】
(8)前記グリースは、前記外輪の内周面側に封入されている、
(7)に記載の深溝玉軸受。
この構成によれば、グリースの発塵や漏れをさらに抑制することができる。
【0073】
(9) 前記空間内のうち、軸方向一方側にグリースが封入されており、且つ、
前記一対のシール部材は、互いに異なる外観を有し、いずれか一方の前記シール部材の外観は、前記軸方向一方側又は他方側を表す識別力を有する、
(1)~(8)のいずれか1つに記載の深溝玉軸受。
この構成によれば、いずれか一方のシール部材の外観は、グリースが封入される軸方向一方側又は他方側を表す識別力を有するので、軸受外観からグリース封入方向を判別して、耐汚染方向を管理しつつ装置に組み込むことができる。
【0074】
(10) 前記シール部材は、芯金と、前記芯金を覆う弾性材料からなるシール部とを備え、
前記芯金は、前記シール部より軸方向外側に配置される、
(1)~(9)のいずれか1つに記載の深溝玉軸受。
この構成によれば、封入された低発塵グリースの漏れ出しを、芯金により効果的に防止することができる。
【0075】
本開示を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本開示の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
【0076】
本出願は、2021年1月22日出願の日本特許出願(特願2021-008898)、2021年1月22日出願の日本特許出願(特願2021-008899)、2021年1月22日出願の日本特許出願(特願2021-008900)、2021年1月22日出願の日本特許出願(特願2021-008901)、2021年1月22日出願の日本特許出願(特願2021-008902)及び2021年1月22日出願の日本特許出願(特願2021-008903)に基づくものであり、その内容はここに参照として援用される。
【符号の説明】
【0077】
10 深溝玉軸受
11 外輪
11a 外輪軌道溝
12 内輪
12a 内輪軌道溝
13,13A 玉
15,15A,15B,15C,15D,15E シール部材
16 芯金
17 シール部
17b リップ部
17e 補助リップ部
S 軸受空間
b 内輪の外径とシール部材の内径との間の径方向寸法
c 内輪の肉厚
d 外輪の肉厚
G グリース
MD 内輪の内径と外輪の外径との中間径
PCD ピッチ円直径