(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂及びその成形体、並びにケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/183 20060101AFI20240214BHJP
C08G 63/87 20060101ALI20240214BHJP
C08J 11/24 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
C08G63/183
C08G63/87
C08J11/24 CFD
(21)【出願番号】P 2023005705
(22)【出願日】2023-01-18
(62)【分割の表示】P 2023005108の分割
【原出願日】2023-01-17
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2022130235
(32)【優先日】2022-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 佑
(72)【発明者】
【氏名】佐々井 珠世
(72)【発明者】
【氏名】木南 万紀
(72)【発明者】
【氏名】柴野 博史
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2001/029110(WO,A1)
【文献】特開2006-143622(JP,A)
【文献】特開2010-111636(JP,A)
【文献】国際公開第2005/075539(WO,A1)
【文献】特開2021-187452(JP,A)
【文献】国際公開第2021/038512(WO,A1)
【文献】特開2000-169623(JP,A)
【文献】特開2011-088972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)~(2)を満足することを特徴とするケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂。
(1)アルミニウム原子及びリン原子を含
み、
前記アルミニウム原子の含有率が、前記ケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂中、5~70質量ppmであり、
前記リン原子の含有率が、前記ケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂中、5~1000質量ppmであり、
前記ケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂中での、アルミニウム原子に対するリン原子のモル比が1.00~5.00である
(2)パーティクルカウンターによる粒子径0.50~0.69μmの異物量が2000個/ml以下である
【請求項2】
前記ケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂中の、前記アルミニウム原子の含有量が、50質量ppm以下であり、前記リン原子の含有量が、100質量ppm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂。
【請求項3】
固有粘度保持率が89%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂。
【請求項4】
カラーb値が10以下である、請求項1に記載のケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂を含む、成形体。
【請求項6】
ポリエステル樹脂を分解することによって得られたケミカルリサイクルビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートを含む原料を用いてポリエチレンテレフタレート樹脂を製造する方法であって、
前記ケミカルリサイクルビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートを構成する全多価アルコール成分100モル%中の遊離エチレングリコール成分量が1.5モル%以下であり、
前記ケミカルリサイクルビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートを含む原料をそのままで、またはそのOH末端をエステル化した後に、
重合触媒であるアルミニウム化合物及びリン化合物の存在下で重縮合反応することを特徴と
し、
前記アルミニウム化合物の添加量は、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂中におけるアルミニウム原子の含有率で5~70質量ppmであり、
前記リン化合物の添加量は、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂中におけるリン原子の含有率で5~1000質量ppmであり、
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂中のアルミニウム原子に対するリン原子のモル比が1.00~5.00である、ケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂及びその成形体、並びにケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的強度、化学的安定性、耐熱性及び耐湿性に優れ、さらに透明性も高くできること、低価格で供給も安定しているという理由から、包装や工業用部材として広くポリエステル樹脂が用いられている。
【0003】
汎用のポリエステル樹脂としてポリエチレンテレフタレートがあり、これはテレフタル酸とエチレングリコールの重縮合物である。テレフタル酸およびエチレングリコールは化石燃料である石油から生産されている。近年、二酸化炭素排出削減等の環境負荷の低減のため、化石燃料由来製品のリサイクルが進んでおり、ポリエステルにおいても、製品を粉砕、再溶融成形するメカニカルリサイクルだけでなく、ポリエステルをモノマーレベルまで分解し、これを原料として再度重縮合したケミカルリサイクルも実用化されつつある。
【0004】
ポリエステル樹脂でも、環境負荷の低減のため、飲料用PETボトルや衣料用ポリエステル繊維などからケミカルリサイクルして得られたポリエチレンテレフタレートを利用することが検討されている。このような環境負荷対応の樹脂であっても、非リサイクル樹脂と同様な用途に用い、同様な特性を有することが求められるようになってきた。
【0005】
ポリエステル樹脂をフィルムや繊維、飲料用ボトルとして用いる場合は、樹脂中に異物が多く存在していると、加工する際に、フィルムの破断や繊維の糸切れなどの操業性悪化による製品歩留まりが低下したり、異物が欠点として製品中に残存し、品位の悪化につながる場合がある。また、中空成形品等の原料として用いた場合には、透明性に優れた中空成形体を得ることが困難である。
【0006】
異物の発生は、特に金属触媒が変性し、樹脂中に不溶化することで、異物となることが知られている。
ポリエステルの重縮合時に用いられるポリエステル重縮合触媒としては、アンチモンやゲルマニウム化合物、チタン化合物が広く用いられている。三酸化アンチモンは、安価で、かつ優れた触媒活性をもつ触媒であるが、これを主成分、即ち、実用的な重合速度が発揮される程度の添加量にて使用すると、重縮合時に金属アンチモンが析出するため、ポリエステルに黒ずみや異物が発生し、フィルムの表面欠点の原因にもなるという問題がある。
【0007】
異物量を低減する重縮合触媒として、アルミニウム化合物とリン化合物とからなる触媒系が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、触媒として用いるアルミニウム化合物やリン化合物のエチレングリコール溶液の調整方法を工夫したり、エステル反応終了後にリン化合物を添加することにより、重縮合触媒に起因する異物の生成を低減するという技術が知られている(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-204557号公報
【文献】WO2005/075539号
【文献】特開2005-187558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記アルミニウム化合物とリン化合物とからなる触媒系においても、フィルターで除去することが難しい触媒異物が発生するという問題がある。
【0010】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものであり、ケミカルリサイクルして得られた原料からケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂を合成し、重合時の触媒としてアルミニウム化合物及びリン化合物を用いることにより、フィルターで除去することが難しい異物(具体的には粒子径が0.5~0.69μmの異物)が少ないケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ケミカルリサイクルビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートを含む原料を重縮合する検討重ね、ケミカルリサイクルビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートを用い、重合時の触媒としてアルミニウム化合物及びリン化合物を用いることにより、バージンのテレフタル酸とバージンのエチレングリコール原料から得られるポリエチレンテレフタレート樹脂と比べて、ケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂中の異物(特に、フィルターで除去することが難しい異物)を少なくできることを見出した。
【0012】
ポリエチレンテレフタレート中に異物が存在すると、異物が結晶核剤として働き、加工時に結晶化が促進され、透明性に優れた成形体を得ることが困難である。透明性向上のために、ポリエチレンテレフタレート樹脂に共重合成分を加え、結晶化速度を低減する手法などもあるが、樹脂物性の低下を招く恐れがある。発明者らは、樹脂中の異物量を少なくすることで、結晶化速度を抑制し透明性の高いポリエステル樹脂ができることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
[1]下記の(1)~(2)を満足することを特徴とするケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂。
(1)アルミニウム原子及びリン原子を含む
(2)パーティクルカウンターによる粒子径0.50~0.69μmの異物量が2000個/ml以下である
[2]前記ケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂中の、前記アルミニウム原子の含有量が、50質量ppm以下であり、前記リン原子の含有量が、100質量ppm以下であることを特徴とする、上記[1]に記載のケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂。
[3]固有粘度保持率が89%以上であることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載のケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂。
[4]カラーb値が10以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載のケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂を含む、成形体。
[6]ポリエステル樹脂を分解することによって得られたケミカルリサイクルビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートを含む原料を用いてポリエチレンテレフタレート樹脂を製造する方法であって、
前記ケミカルリサイクルビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートを含む原料をそのままで、またはそのOH末端をエステル化した後に、アルミニウム化合物及びリン化合物
の存在下で重縮合反応することを特徴とする、ケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
[7]前記ケミカルリサイクルビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートを構成する全多価アルコール成分100モル%中の遊離エチレングリコール成分量が1.5モル%以下である、上記[6]に記載のケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
ケミカルリサイクルビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートを含む原料を用い、重合時の触媒としてアルミニウム化合物及びリン化合物を用いることにより、バージンのテレフタル酸とバージンのエチレングリコール原料から得られるポリエチレンテレフタレート樹脂と比べて、異物(特に、フィルターで除去することが難しい異物)が少ないケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂とすることができる。そのため、本発明のケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂は、フィルムや繊維、飲料用ボトル、光学用途等の各種成形品用の材料として好適に用いることができる。
【0015】
また、本発明のケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂は透明性が高いことが好ましい。また、着色が抑制されていることが好ましい。さらに、高い熱安定性を有することが好ましい。透明性が高く、着色が抑制され、高い熱安定性を有する樹脂は、フィルムや繊維、飲料用ボトル、光学用途等の各種成形品用の材料として特に好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂の製造方法は、ケミカルリサイクルによって得られたビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートを重縮合することを特徴とするものである。
なお、以下ではビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートをBHETと略することがあり、ケミカルリサイクルによって得られたビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレートをケミカルリサイクルBHET、またはCR-BHETと略することがある。
【0017】
また、ケミカルリサイクルBHETを重縮合することによって得られたポリエチレンテレフタレート樹脂は、ケミカルリサイクルPET、またはCR-PETと略することがある。また、ポリエチレンテレフタレートはPETと略することがある。
【0018】
本実施形態に係るケミカルリサイクルPET樹脂は、粒子径0.50~0.69μmの異物量が少ないケミカルリサイクルPET樹脂とすることができる。
本発明者らは、ポリエステル樹脂を分解することによって得られたケミカルリサイクルBHETを原料として、ケミカルリサイクルPETを重合する検討を重ね、ケミカルリサイクルBHETから得られたオリゴマー反応液中には、遊離のエチレングリコールの含有量が少ないことを見出した。一方、テレフタル酸とエチレングリコールをエステル化して得られるオリゴマー反応液中には、遊離エチレングリコールが多量に存在する。そこに重合触媒を添加して重合を行うと、生成される樹脂中に触媒由来の異物が増加する。
【0019】
この理由については、例えば以下のように推察する。遊離エチレングリコールが多量に存在するオリゴマー反応液中に、重合触媒を添加し、内温がエチレングリコールの沸点以上になると、急激にエチレングリコールが揮発する。その揮発速度は速く、また揮発量が多いため、何等かの作用を触媒に与え、触媒の変性が促進される。その結果、生成される樹脂中に触媒由来の異物が増加する。
この異物の増加を抑制するためには、重合触媒添加時点の遊離エチレングリコール含有量を抑制することが重要である。上記重合触媒添加時点において、ケミカルリサイクルBHETから得られたBHETを含むオリゴマー反応液中には、テレフタル酸やエチレング
リコールから得られるオリゴマー反応液中に比べて、遊離のエチレングリコールの含有量が少ないために、上記重合触媒添加時点における、エチレングリコールの揮発する速度や揮発量を小さくすることができ、触媒への作用を小さくすることができ、触媒の変性を抑制することができ、生成される樹脂中に触媒由来の異物を低減できる。また、触媒としてアルミニウム化合物とリン化合物を用いることにより、ケミカルリサイクルPET中の異物を少なくできることができると推察される。
【0020】
(ケミカルリサイクルBHET)
ケミカルリサイクルBHETは、PET樹脂をエチレングリコール存在下で加熱して解重合して得られたものである。元となるPET樹脂は、何らかの形で使用済みとなったものが好ましく、例としては、街中から回収されたPETボトル、トレイなどの容器類、繊維や製品、製造において製品取りする前の放流品、B級品として市場に出荷さなかった製品類、フィルム延伸の際に把持される耳部分、スリットの端材、クレーム等で返品された成形品などが挙げられる。これらの元となるPET樹脂は、テレフタル酸やエチレングリコールが石油由来のものであってもよく、バイオマス由来のものであってもよい。またメカニカルリサイクルの成形品であってもよい。また、これらのPET樹脂の混合物であってもよい。
【0021】
これらの元となるPET樹脂は、一般的に、粉砕、洗浄、異物除去後、解重合工程に利用される。
解重合では、PET樹脂にエチレングリコール、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ化合物を加え、加熱して解重合を進める。得られた反応物は、必要により固形物などを濾過、脱色し、さらに余剰のエチレングリコールなどを留去させてBHET粗製物とする。このBHET粗製物を、蒸留、晶析などで精製することで、重縮合に用いられる純度のケミカルリサイクルBHETとすることができる。
【0022】
ケミカルリサイクルBHET中には、BHET、ビス-2-ヒドロキシエチルイソフタレート等の1分子の多価カルボン酸成分と2分子多価アルコール成分から構成されるジカルボン酸ジエステル;前記カルボン酸ジエステルの線状の2量体やそれ以上の多量体;モノ-2-ヒドロキシエチルテレフタレート等の1分子の多価カルボン酸成分と1分子多価アルコール成分から構成されるカルボン酸モノエステル;遊離テレフタル酸等の遊離多価カルボン酸;遊離エチレングリコール等の遊離多価アルコール;などが含まれていてもよい。ケミカルリサイクルBHET中には、BHETが主成分として含まれており、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上のBHETが含まれている。
【0023】
ケミカルリサイクルBHETの酸価、水酸基価の合計は6500eq/ton以上が好ましく、7000eq/ton以上が好ましく、7500eq/ton以上がさらに好ましい。上限は好ましくは9500eq/tonであり、より好ましくは9000eq/tonであり、さらに好ましくは8500eq/tonである。上記範囲とすることで、十分な純度を保ちながら、生産性を確保することができる。なお、酸価1eq/tonは、対象(ここではケミカルリサイクルBHET)1トン当たりカルボン酸基(-COOH)が1モル含まれることを意味し、水酸基価1eq/tonは、対象(ここではケミカルリサイクルBHET)1トン当たりOH基が1モル含まれることを意味する。以下、他の対象(オリゴマー、樹脂など)で酸価、水酸基価を特定する場合も同様の意味である。
【0024】
上述の通り、ケミカルリサイクルBHET中には、テレフタル酸成分以外の多価カルボン酸成分、エチレングリコール以外の多価アルコール成分が含まれていてもよい。テレフタル酸成分以外の多価カルボン酸成分としては、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、等の成分が
挙げられ、エチレングリコール以外の多価アルコール成分としては、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ビスフェノールAのエチレングリコールまたはプロピレングリコール付加物、ビスフェノールSのエチレングリコールまたはプロピレングリコール付加物、などの成分が挙げられる。ケミカルリサイクルBHET中には、多価カルボン酸成分が1種単独で又は2種以上含有されていてもよく、また、多価アルコール成分が1種単独で又は2種以上含有されていてもよい。
【0025】
ケミカルリサイクルBHETに含まれるテレフタル酸成分量は、全多価カルボン酸成分を100モル%とした場合に、98.0モル%以上(または超えている)が好ましく、次に好ましくは98.3モル%以上であり、より好ましくは98.5モル%以上であり、さらに好ましくは、98.8モル%以上であり、特に好ましくは99.0モル%以上であり、最も好ましくは99.2モル%以上である。
【0026】
上記のように、ケミカルリサイクルBHETは市場からの回収品を含むPET樹脂を解重合したものが好ましく、市場からの回収PETは、結晶性や物性の調整などのためにPET以外の成分が加えられている場合もあるが、回収物から純粋なPETのみを選別したり、BHETをテレフタル酸以外の酸成分を検出されないレベルまで精製したりすることはコスト面では好ましくない。従って、ケミカルリサイクルBHETに含まれるテレフタル酸成分量は、全多価カルボン酸成分を100モル%とした場合に、好ましくは、99.98モル%以下であり、より好ましくは99.95モル%以下であり、さらに好ましくは99.9モル%以下であり、特に好ましくは99.85モル%以下であり、最も好ましくは99.8モル%以下である。
【0027】
ケミカルリサイクルBHETに含まれるテレフタル酸成以外の多価カルボン酸成分としては、イソフタル酸成分が含有されている場合が多く、イソフタル酸成分の含有量は、全多価カルボン酸成分を100モル%とした場合に、好ましくは2.0モル%以下(または未満)であり、次に好ましくは1.7モル%以下であり、より好ましくは1.5モル%以下であり、さらに好ましくは1.2モル%以下であり、特に好ましくは1.0モル%以下であり、最も好ましくは0.8モル%以下である。
イソフタル酸成分の含有量は、好ましくは0.02モル%以上であり、より好ましくは0.05モル%以上であり、さらに好ましくは0.1モル%以上であり、特に好ましくは0.15モル%以上であり、最も好ましくは0.2モル%以上である。
【0028】
ケミカルリサイクルBHETに含まれるエチレングリコール成分量は全多価アルコール成分を100モル%とした場合に、好ましくは98.7モル%以上であり、より好ましくは99.0モル%以上であり、さらに好ましくは99.2モル%以上であり、特に好ましくは99.3モル%以上であり、最も好ましくは99.4モル%以上である。またエチレングリコール成分量は、98.0モル%以上、98.3モル%以上、98.6モル%以上、又は98.8モル%以上であってもよい。
【0029】
ケミカルリサイクルBHETに含まれるエチレングリコール成分中の遊離のエチレングリコールは、全多価アルコール成分を100モル%とした場合に、好ましくは1.5モル%以下であり、より好ましくは1.2モル%以下であり、さらに好ましくは1.0モル%以下であり、特に好ましくは0.8モル%以下であり、最も好ましくは0.6モル%以下である。この場合、ケミカルリサイクルBHETから得られたオリゴマー反応液中には、遊離のエチレングリコールの含有量が少なくなる。
【0030】
上記のように、市場からの回収物から純粋なPETのみを選別したり、BHETをエチレングリコール以外の多価アルコール成分を検出されないレベルまで精製したりすること
はコスト面では好ましくない。また、ジエチレングリコールはPETの製造工程で副反応として発生し、これを避けることは困難である。
従って、全多価アルコール成分中のエチレングリコール成分量は好ましくは99.9モル%以下であり、より好ましくは99.8モル%以下であり、さらに好ましくは99.75モル%以下であり、特に好ましくは99.7モル%以下である。
【0031】
ケミカルリサイクルBHETに含まれるエチレングリコール以外の多価アルコール成分の中でも、ジエチレングリコール成分が含有されている場合が多く、ジエチレングリコール成分の含有量は、全多価アルコール成分を100モル%とした場合に、好ましくは2.0モル%以下であり、より好ましくは1.7モル%以下であり、さらに好ましくは1.4モル%以下であり、特に好ましくは1.2モル%以下である。ジエチレングリコール成分の含有量は、好ましくは0.1モル%以上であり、より好ましくは0.3モル%以上であり、さらに好ましくは0.5モル%以上であり、特に好ましくは0.6モル%以上である。
【0032】
上記のテレフタル酸成分、イソフタル酸成分等の多価カルボン酸成分、エチレングリコール成分、ジエチレングリコール成分等の多価アルコール成分は、ケミカルリサイクルBHETに単体として(すなわち1分子の化合物が遊離して)存在しているものも含んだ値である。
【0033】
ケミカルリサイクルBHETに含まれるジエチレングリコール量を下げるためには、PETの解重合の時に、添加するエチレングリコールの量および時間を適正に調整することも好ましい。エチレングリコール量が少ない場合は、PET中のジエチレングリコールと十分なエステル交換が起こらない場合がある。また、エチレングリコール量が多すぎる場合にはエチレングリコールからジエチレングリコールが生成してケミカルリサイクルBHETに組み込まれる場合がある。添加するエチレングリコールの量は、PETに対して5~7質量倍が好ましい。
解重合の時間が短い場合は、PET中のジエチレングリコールと十分なエステル交換が起こらない場合がある。時間が長い場合は、エチレングリコールからジエチレングリコールが生成してケミカルリサイクルBHETに組み込まれる場合がある。解重合の時間は3~10時間が好ましい。適正な時間で解重合が完了するよう、PET樹脂は適正なサイズに粉砕しておくことが好ましい。
得られたケミカルリサイクルBHETのジエチレングリコール量を更に下げるために、再結晶を行うことが好ましい。
【0034】
ケミカルリサイクルBHETは、元となるPET樹脂が同一ではないことがあり、共重合成分の量が常に同じというわけでない。また、PET樹脂の製造においてジエチレングリコールの生成を完全に避けることは困難であり、製造条件の違いや設備の状態の違いにより、ジエチレングリコールの生成量も異なってくる。これらの要因により、得られるPET樹脂の組成が変動し、一定範囲を超えるとケミカルリサイクルPET樹脂の樹脂特性が低下するおそれがある。ケミカルリサイクルPET樹脂から安定した品質の成形品を得るためには、ケミカルリサイクルPET樹脂の共重合成分を特定範囲内にすることが好ましいため、ケミカルリサイクルPET樹脂の製造条件の選択の幅を広げ、また、生産性よくケミカルリサイクルPET樹脂を得るためにも、ケミカルリサイクルBHETの多価カルボン酸成分および多価アルコール成分を一定範囲になるようにすることが好ましい。
【0035】
例えば、PETボトルではPET樹脂に少量のイソフタル酸やジエチレングリコールが共重合されている場合が多く、ケミカルリサイクルPETの製造に用いるケミカルリサイクルBHETの組成を上記範囲とするためには、ケミカルリサイクルBHETを上記基準で選択するだけでなく、解重合の元となるPET樹脂の使用割合を調整したり、複数のケ
ミカルリサイクルBHETをブレンドして上記範囲に合わせたり、ケミカルリサイクルBHETを適正に精製するなどを行い、(e)、(f)、(g)の範囲内になるよう調整して選択することも好ましい。
【0036】
(e)ケミカルリサイクルビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート中の全多価カルボン酸成分に対するテレフタル酸成分量が98.0モル%以上99.98モル%以下
(f)ケミカルリサイクルビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート中の全多価アルコール成分に対するエチレングリコール成分量が98.0モル%以上99.9モル%以下(好ましくは98.7モル%以上99.9モル%以下)
(g)ケミカルリサイクルビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート中の全多価アルコール成分に対するジエチレングリコール成分量が0.1モル%以上2.0モル%以下
【0037】
さらには、(h)の範囲内になるようにすることが好ましい。
(h)ケミカルリサイクルビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート中の全多価カルボン成分に対するイソフタル酸成分量が0.02モル%以上2.0モル%以下
【0038】
ケミカルリサイクルBHETに含まれる遊離エチレングリコール量を下げるためには、ケミカルリサイクルにより得られた粗製BHETのEG溶液を、精製工程にて適正に精製を行い、(i)の範囲内になるように調整することが好ましい。
(i)ケミカルリサイクルビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート中の全多価アルコール成分に対する遊離エチレングリコール成分量が1.5モル%以下
【0039】
なお、ジエチレングリコールなどの共重合多価アルコール成分はエチレングリコールに比較して沸点が高く、重縮合中に揮発しにくいため、ポリエステル樹脂中に組み込まれやすい。これらのことを考慮して、エチレングリコール以外の多価アルコール成分量の範囲を決めることが好ましい。
上記のケミカルリサイクルビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート中の全多価カルボン酸成分100モル%に対するテレフタル酸成分の量をTPA(b)モル%、ケミカルリサイクルビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート中の全多価アルコール成分100モル%に対するエチレングリコール成分の量をEG(b)モル%とした場合、
(100-TPA(b))+(100-EG(b))×2の値の上限は好ましくは4モル%であり、より好ましくは3.5モル%であり、さらに好ましくは3モル%であり、特に好ましくは2.8モル%である。
(100-TPA(b))+(100-EG(b))×2の値の下限は好ましくは0.15モル%であり、より好ましくは0.3モル%であり、さらに好ましくは0.5モル%である。
上記範囲とすることで、得られたケミカルリサイクルPET樹脂の熱安定性も高く保つことができる。さらに、ケミカルリサイクルPETの製造条件の選択の幅を広げ、また、生産性よくケミカルリサイクルPETを得ることができる。
【0040】
ケミカルリサイクルBHETには、元となるPET樹脂の重合触媒が含まれている場合があり、ケミカルリサイクルBHETからケミカルリサイクルPETを製造する重縮合反応時に触媒として作用する場合もある。ケミカルリサイクルBHET中に、元となるPET樹脂の重合触媒が含まれていない、もしくは検出されないレベルで含まれることが好ましい。ケミカルリサイクルBHETはその精製工程により重合触媒由来の金属成分が検出されないレベルまで精製されているものを使用することが好ましい。
【0041】
(ケミカルリサイクルPET樹脂の製造方法)
本発明のケミカルリサイクルPET樹脂の製造方法としては、原料としてポリエステル樹脂を分解することによって得られたケミカルリサイクルBHETを用いる点、並びに触
媒としてアルミニウム化合物およびリン化合物からなるポリエステル重合触媒を用いる点以外は、公知の工程を備えた方法で行うことができる。
【0042】
本発明のケミカルリサイクルPET樹脂の製造方法としては、ポリエステル樹脂を分解することによって得られたリサイクルBHETを含む原料をそのままで、或いはそのOH末端をエステル化及び/又はエステル交換反応した後に、重縮合する工程を有する。具体的には、反応容器にケミカルリサイクルBHETを加え溶融する、或いは、反応容器にケミカルリサイクルBHET及び必要により共重合成分などを加えて溶融した後ケミカルリサイクルBHETのOH末端をエステル化する第1工程と、前記第1工程で得られた反応物に、さらにアルミニウム化合物およびリン化合物を添加して重縮合反応を行う第2工程とを有することが好ましい。前記第2工程は、減圧下で、生成するグリコールを精留塔で系外に除去しながら行われることが好ましい。前記第1工程における共重合成分としては、前述の多価カルボン酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
【0043】
ケミカルリサイクルPET樹脂を製造する方法は、上記工程を満たす限り、特に限定されない。第1工程としては、例えば、ポリエステル樹脂を分解することによって得られたケミカルリサイクルBHET、および必要により他の共重合成分を直接反応させて、水を留去しエステル化した後、常圧あるいは減圧下で重縮合を行う直接エステル化法が挙げられる。さらに必要に応じて、固有粘度を増大させる為に固相重合を行ってもよい。
【0044】
第1工程は、1段階で行ってもよいし、また多段階に分けて行ってもよい。第2工程での重縮合は、1段階で行ってもよいし、また多段階に分けて行ってもよい。多段階である場合は、2つ以上の重縮合缶をつなげた多缶方式が好ましい。また、第2工程での重縮合は、溶融重合法のみでもよいが、溶融重合法で製造されたケミカルリサイクルPET樹脂を固相重合法で追加重合してもよい。
【0045】
(重合触媒)
本発明のケミカルリサイクルPET樹脂は、アルミニウム化合物とリン化合物からなる重合触媒を用いて製造されており、その結果、本発明のケミカルリサイクルPET樹脂は、アルミニウム化合物由来成分とリン化合物由来成分を触媒量含む。換言すると、本発明のケミカルリサイクルPET樹脂は、アルミニウム原子及びリン原子を含む。
【0046】
アルミニウム化合物とリン化合物としては、以下のものが挙げられる。
【0047】
(アルミニウム化合物)
アルミニウム化合物は溶媒に溶解するものであれば限定されず、公知のアルミニウム化合物が限定なく使用でき、これらのうちカルボン酸塩、無機酸塩、およびキレート化合物から選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらの中でも酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、及びアルミニウムアセチルアセトネートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、及びアルミニウムアセチルアセトネートから選ばれる少なくとも1種がさらに好ましく、酢酸アルミニウム及び塩基性酢酸アルミニウムから選ばれる少なくとも1種が特に好ましく、塩基性酢酸アルミニウムが最も好ましい。
【0048】
アルミニウム化合物の添加量は、ケミカルリサイクルPET中におけるアルミニウム元素の含有率で、5~70質量ppmであることが好ましく、より好ましくは7~55質量ppm、さらに好ましくは8~50質量ppm、よりさらに好ましくは10~40質量ppm、特に好ましくは10~30質量ppmである。アルミニウム元素が5質量ppm未満では、重合活性が十分に発揮されないおそれがある。一方、70質量ppmを超えると
アルミニウム系異物量が増大するおそれがある。特に、アルミニウム系異物量をより低減する観点からは、50質量ppm以下であることが好ましい。なお、本明細書においては、質量ppmとは10-4質量%を意味する。
【0049】
また、コストを重視する場合は、ケミカルリサイクルPET中におけるアルミニウム元素の含有率は、好ましくは9~20質量ppmであり、より好ましくは9~19質量ppm、さらに好ましくは10~17質量ppm、特に好ましくは12~17質量ppmである。アルミニウム元素が9質量ppm未満では、重縮合速度の低下から生産性を確保できないおそれがある。一方、20質量ppmを超えると、後述するリン元素の含有率によっては、アルミニウム系異物量が増大するおそれがあり、加えて触媒のコストが増大する。
【0050】
(リン化合物)
リン化合物としては、特に限定はされないが、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果が大きいため好ましく、これらの中でもホスホン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果が特に大きいためより好ましい。
【0051】
上記リン化合物のうち、同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するリン化合物が好ましい。同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するリン化合物であれば特に限定はされないが、同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するホスホン酸系化合物、同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するホスフィン酸系化合物からなる群より選ばれる一種または二種以上の化合物を用いるとアルミニウム化合物の触媒活性の向上効果と樹脂の熱安定性向上効果の両方が大きいため好ましく、一種または二種以上の同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するホスホン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果と樹脂の熱安定性の向上効果の両方が非常に大きいためより好ましい。その理由は、リン化合物中のフェノール部分(好ましくはヒンダードフェノール部分)がケミカルリサイクルPET樹脂の熱安定性を向上させているためと考えられる。
【0052】
また、同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するリン化合物としては、P(=O)R1(OR2)(OR3)やP(=O)R1R4(OR2)で表される化合物などが挙げられる。R1はフェノール構造を含む炭素数1~50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基
またはアルコキシル基またはアミノ基などの置換基およびフェノール構造を含む炭素数1~50の炭化水素基を表す。R4は、水素原子、炭素数6~50の炭化水素基、水酸基ま
たはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基などの置換基を含む炭素数6~50の炭化水素基を表す。R2、R3はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基などの置換基を含む炭素数1~50の炭化水素基を表す。ただし、炭化水素基は、直鎖構造だけでなく、分岐構造やシクロヘキシル等の脂環構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。R2とR3やR2とR4の末端同士は結合していてもよい。
【0053】
同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するリン化合物としては、例えば、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸ジメチル、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸ジエチル、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸メチル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸フェニル、p-ヒドロキシフェニルホスフィン酸、p-ヒドロキシフェニルホスフィン酸メチル、p-ヒドロキシフェニルホスフィン酸フェニルなどが挙げられる。
【0054】
同一分子内にリン元素とフェノール構造を有するリン化合物としては、上記の例示の他に同一分子内にリン元素とヒンダードフェノール構造(3級炭素を有するアルキル基(好ましくはt-ブチル基、テキシル基などの3級炭素をベンジル位に有するアルキル基;ネ
オペンチル基など)が水酸基の1つ又は2つのオルト位に結合しているフェノール構造など)を有するリン化合物が挙げられ、同一分子内にリン元素と下記(化式A)の構造を有するリン化合物であることが好ましく、中でも、下記(化式B)に示す化合物がより好ましく、下記(化式B)においてX1及びX2が炭素数1~4のアルキル基である3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキルであることがより好ましい。なお、ケミカルリサイクルPET樹脂の製造に用いられるリン化合物としては、下記(化式B)に示す化合物(好ましくは、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキル)であることが好ましいが、それ以外に下記(化式B)に示す化合物(好ましくは、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキル)の変性体も含まれていてもよい。変性体の詳細については後述する。
【0055】
【0056】
((化式A)において、*は結合手を表す。)
【0057】
【0058】
((化式B)において、X1、X2は、それぞれ、水素原子、炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【0059】
本発明のケミカルリサイクルPETは、同一分子内にリン元素とヒンダードフェノール構造とを有するリン化合物を重合触媒として製造されたポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0060】
上記(化式B)において、X1、X2はいずれも炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~2のアルキル基であることがより好ましい。特に、炭素数2のエチルエステル体は、Irganox1222(ビーエーエスエフ社製)として市販されており容易に入手できるので好ましい。
【0061】
リン化合物は溶媒中で熱処理して用いることが好ましい。なお、熱処理の詳細については後述する。リン化合物として、上記(化式B)における3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキルを用いた場合、上記熱処理において、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキルの一部が構造変化する。例えば、t-ブチル基の脱離、アルキルエステル基(好ましくは、エチルエステル基)の加水分解およびヒドロキシエチルエステル交換構造(エチレングリコールとのエステル交換構造)などにより変化する。従って、本発明においては、リン化合物としては、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキル以外にも構造変化したリン化合物も含まれていてもよい。なお、t-ブチル基の脱離は、重合工程の高温下で顕著に起こる。
【0062】
以下では、リン化合物として3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチルを用いた場合に3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチルの一部が構造変化した9つのリン化合物を示している。グリコール溶液中での構造変化した各リン化合物の成分量はP-NMR測定方法により定量できる。
【0063】
【0064】
従って、本発明におけるリン化合物としては、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキル以外にも9つの上記化学式で示されるような3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジアルキルの変性体も含まれていてもよい。
【0065】
リン化合物として上記Irganox1222を用いた場合、ケミカルリサイクルPET樹脂中に下記表1に示した9種のリン化合物残基の少なくとも1種が含まれることが好ましい。P-NMR測定方法により、表1に示した9種のリン化合物残基の中の少なくとも1種が検出された場合、ケミカルリサイクルPET樹脂は、同一分子内にリン元素とヒンダードフェノール構造とを有するリン化合物を重合触媒として製造されたケミカルリサイクルPET樹脂であるといえる。ヒンダードフェノール構造を有するリン化合物を用いることにより、触媒のコストを抑えつつ、十分な重合活性を発揮することができる。
【0066】
【0067】
本発明においては、上記化式1、4、及び7の少なくとも1種が含まれていることが好ましい。
【0068】
ケミカルリサイクルPET中におけるリン元素の含有率は5~1000質量ppmであることが好ましく、10~500質量ppmであることがより好ましく、15~200質量ppmであることがさらに好ましく、15~100質量ppmであることが特に好ましく、15~80質量ppmであることが最も好ましい。リン元素が5質量ppm未満では、重合活性の低下やアルミニウム系異物量が増大するおそれがある。一方、1000質量ppmを超えると逆に重合活性が低下するおそれやリン化合物の添加量が多くなり、触媒コストが増加するおそれがある。
【0069】
コストをより重視する場合、ケミカルリサイクルPET中におけるリン元素の含有率は13~31質量ppmが好ましく、15~29質量ppmがより好ましく、16~28質量ppmがさらに好ましい。リン元素が13質量ppm未満では、重合活性の低下やアルミニウム系異物量が増大するおそれがある。一方、31質量ppmを超えると逆に重合活性が低下するおそれやリン化合物の添加量が多くなり、触媒コストが増加する。
【0070】
ケミカルリサイクルPET中での、アルミニウム元素に対するリン元素のモル比が1.00~5.00であることが好ましく、1.10~4.00であることがより好ましく、1.20~3.50であることがさらに好ましく、1.25~3.00であることが特に好ましい。上述のように、ケミカルリサイクルPET中のアルミニウム元素およびリン元素はそれぞれ、重合触媒として使用するアルミニウム化合物およびリン化合物に由来する。これらアルミニウム化合物とリン化合物を特定の比率で併用することで、重合系中で触媒活性を有する錯体が機能的に形成され、十分な重合活性を発揮することができる。また、アルミニウム化合物とリン化合物とからなる重合触媒を用いて製造された樹脂はアンチモン触媒などの触媒を用いて製造されてなるケミカルリサイクルPET樹脂と比べて触媒のコストが高く(製造コストが高く)なるが、アルミニウム化合物とリン化合物を特定の比率で併用することにより、触媒のコストを抑えつつ、十分な重合活性を発揮することができる。アルミニウム元素に対するリン元素の残存モル比が1.00未満では、熱安定性および熱酸化安定性が低下するおそれや、アルミニウム系異物量が増大するおそれがある。一方、アルミニウム元素に対するリン元素の残存モル比が5.00を超えると、リン化
合物の添加量が多くなりすぎるため、触媒コストが増大するおそれがある。
コストをより重視する場合、アルミニウム元素に対するリン元素の残存モル比が1.32~1.80が好ましく、1.38~1.68がより好ましい。
【0071】
上記のように、アルミニウム元素とリン元素の含有率やアルミニウム元素に対するリン元素のモル比を調整することにより、異物量を抑制することができる。異物は結晶化剤として機能し、ケミカルリサイクルPET樹脂の結晶化速度を速め得る。その場合、加工時に樹脂が容易に結晶化し、樹脂の白化による透明性低下などの品位悪化につながるおそれもある。
異物量を抑制することで、ケミカルリサイクルPET樹脂の結晶化速度を抑制でき、結晶化速度調整することができるため、イソフタル酸などの共重合成分を含有しなくてもよい。
【0072】
(アルミニウム化合物およびリン化合物以外の触媒)
また、本発明では、上述のアルミニウム化合物およびリン化合物に加えて、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物など他の重合触媒を、本発明のケミカルリサイクルPET樹脂の特性、加工性、色調等製品に問題を生じない範囲内において併用してもよい。
【0073】
本発明のケミカルリサイクルPET樹脂中におけるアンチモン原子の含有率は100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、20質量ppm以下であることがさらに好ましく、本発明のケミカルリサイクルPET樹脂中におけるゲルマニウム原子の含有率は40質量ppm以下であることが好ましく、20質量ppm以下であることがより好ましく、本発明のケミカルリサイクルPET樹脂中におけるチタン原子の含有率は10質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがより好ましい。
【0074】
ただし、本発明の目的から、上記他の重合触媒は、極力使用しないことが好ましい。
【0075】
重合触媒としてアルミニウム化合物及びリン化合物を用いることにより重合触媒としてチタン化合物やアンチモン化合物を用いた場合と比べると異物量は低減しているが、さらに異物量を低減するため、重合触媒は、第1工程の終了から、第2工程の開始前までにアルミニウム化合物及びリン化合物を添加するのが好ましい。上述の「第2工程の開始前」とは、減圧して重縮合開始する時点を包含する。
【0076】
また、ケミカルリサイクルBHETは、ロットごとに遊離エチレングリコール成分の量にバラツキが生じるため、ケミカルリサイクルBHET中の遊離エチレングリコール量を一定量以下にするだけではなく、ケミカルリサイクルBHETを用いてケミカルリサイクルPET樹脂を製造する際の、第1工程終了時に反応液中に含まれる遊離エチレングリコール成分量をできるだけ低減させることが好ましい。好ましくは第1工程終了時に反応液中に含まれる全多価アルコール成分の合計量100モル%に対する遊離エチレングリコール成分量が1.5モル%以下である。より好ましくは、1.0モル%以下であり、さらに好ましくは0.7モル%以下であり、特に好ましくは0.5モル%以下である。
【0077】
第1工程終了時に反応液中に含まれる遊離エチレングリコール成分量をできるだけ低減させるためには、例えば、第1工程を短時間で行うことが好ましい。
【0078】
反応温度は、80~285℃であることが好ましく、より好ましくは90~282℃、さらに好ましくは100~280℃であり、特に好ましくは110~278℃である。圧力は0.05~0.60MPaであることが好ましく、より好ましくは、0.055~0
.55MPa、さらに好ましくは0.060~0.50MPa、特に好ましくは0.065~0.45MPaである。反応時間は、200分以下であることが好ましく、より好ましくは195分以下、さらに好ましくは190分以下、特に好ましくは185分以下である。ケミカルリサイクルBHETを含む原料を使用することにより、エステル化反応を経ることなく或いは短時間で行うことが可能であり、この場合、遊離エチレングリコールの生成を抑制できる。
なお、ケミカルリサイクルBHETのみを原料として使用する場合、反応容器にケミカルリサイクルBHETを加えて溶融した時点で、第1工程を終了する場合がある。
【0079】
また、エステル化反応時にアルカリ剤を添加することも好ましい。この場合、第1工程を短時間で行うことができる。アルカリ剤としては、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ベンジルジメチルアミンなどの第3級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウムなどの水酸化第4級アンモニウムおよび炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0080】
アルカリ剤の添加量は、ケミカルリサイクルBHET中の全多価カルボン酸成分100モル%に対して下限は好ましくは0.01モル%であり、より好ましくは0.05モル%であり、さらに好ましくは0.1モル%である。アルカリ剤量の上限は好ましくは2モル%であり、より好ましくは1.5モル%であり、さらに好ましくは1モル%である。
【0081】
本発明のケミカルリサイクルPET樹脂の製造においては、エステル化反応終了後の反応中間体オリゴマーの物性は、酸価が80~2000eq/ton、水酸基価が2800~8000eq/tonであることが好ましい。これにより、重縮合反応の反応速度を高めることができる。反応中間体オリゴマーの物性は、酸価が90~1900eq/ton、水酸基価が3000~7800eq/tonであることがより好ましい。
本発明においてオリゴマーとは、エステル化反応終了後、重縮合反応を行う前の反応中間体である、未反応の原料が存在する場合は、それらも含めた反応中間体を示す。
【0082】
ケミカルリサイクルPET樹脂中の異物量を低減させるためには、例えば、第2工程を短時間で行うことも好ましい。
【0083】
そのためには、第1工程をテレフタル酸の存在下で行うことが好ましい。すなわち、ケミカルリサイクルBHETにテレフタル酸を加え、第1工程をテレフタル酸の存在下で行うことが好ましい。この場合、テレフタル酸の酸基により反応が活性化され、第2工程を短時間で行うことが可能になり、重縮合反応における熱履歴を小さくすることが可能である。酸成分を加える場合には、酸成分のエステル化反応を短時間で行うことが好ましい。
具体的には、例えば、第1工程は、反応によって生成した水またはアルコ-ルを精留塔で系外に除去しながら行う。第1工程の温度は、好ましくは80~285℃、より好ましくは90~282℃、さらに好ましくは100~280℃、特に好ましくは110~278℃である。圧力は0.05~0.60MPaであることが好ましく、より好ましくは、0.055~0.55MPa、さらに好ましくは0.060~0.50MPa、特に好ましくは0.065~0.45MPaで行われる。反応時間は、200分以下が好ましく、より好ましくは195分以内、さらに好ましくは190分以内、特に好ましくは185分以内、最も好ましくは100分以内である。
添加するテレフタル酸(以下、添加テレフタル酸という場合がある)の量は、ケミカルリサイクルBHET中の全多価カルボン酸成分及び添加テレフタル酸の合計100モル%に対し、40モル%以下であることが好ましい。より好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは20モル%以下である。
【0084】
第2工程を短時間で行うには、重縮合を短時間で重合度が上がるよう、温度と減圧度を調整しながら行うのが好ましい。重縮合の初期には、温度が好ましくは260~270℃、圧力が好ましくは0.01~0.001MPaであり、徐々に温度を上げながら圧力を下げ、最終的には温度が好ましくは270~285℃、圧力が好ましくは0.00002~0.000005MPaで行われる。重縮合反応の時間は、上記温度に達してから終了までの間で、200分以内が好ましく、より好ましくは180分以内、さらに好ましくは160分以内、特に好ましくは140分以内、最も好ましくは120分以内である。また、第1工程終了後の反応物を仕込んでから初期の温度までの昇温も速やかに行うことが好ましい。昇温時間を短くするためには、内容物に対して表面積を上げるなど、反応容器の大きさや形状を適正化するとともに、第1工程終了後の反応物の投入量を適正化することが好ましい。また、十分な攪拌を行うことが好ましい。
添加する重縮合触媒の量を高い重合速度が得られるよう適正化すること、触媒表面を更新させるため、十分な攪拌を行うことも重要である。触媒量は多すぎると、異物となりフィルムの透明性が下がったり、欠点が多くなったりする場合がある。フィルムの用途に応じて、これらの問題が許容される範囲内で触媒量を多くすることが好ましい。重縮合反応の時間は、適正な触媒量や攪拌の面から、好ましくは30分以上であり、より好ましくは45分以上である。
【0085】
ケミカルリサイクルPETの原料のうち、ケミカルリサイクルBHETは好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上であり、100質量%であることも好ましい。
【0086】
このようにして得られたケミカルリサイクルPET樹脂中のパーティクルカウンターによる粒子サイズが0.50~0.69μmの異物量が2000個/ml以下であり、好ましくは1500個/ml以下であり、より好ましくは800個/ml以下であり、特に好ましくは300個/ml以下であり、最も好ましくは150個/ml以下である。
異物量が2000個/mlを上回ると、透明性の低下や成形品の品位悪化となるおそれがある。
【0087】
ケミカルリサイクルPET樹脂の降温結晶化温度の下限は175℃以上であり、好ましくは178℃以上であり、より好ましくは180℃以上であり、特に好ましくは183℃以上であり、最も好ましくは185℃以上である。ケミカルリサイクルPET樹脂の降温結晶化温度の上限は202℃以下であり、好ましくは200℃以下、より好ましくは198℃以下であり、特に好ましくは196℃以下であり、最も好ましくは194℃以下である。
【0088】
ケミカルリサイクルPET樹脂中の全多価カルボン酸成分100モル%に対するテレフタル酸成分量の下限は好ましくは98モル%であり、次に好ましくは98.3モル%であり、より好ましくは98.5モル%であり、さらに好ましくは98.8モル%であり、特に好ましくは99モル%であり、最も好ましくは99.2モル%である。テレフタル酸成分量の上限は好ましくは99.98モル%であり、より好ましくは99.95モル%であり、さらに好ましくは99.9モル%であり、特に好ましくは99.85モル%であり、最も好ましくは99.8モル%である。なお、下限が98モル%とは、98モル%以上であってもよく、98モル%超えであってもよいことを指す。
【0089】
ケミカルリサイクルPET樹脂中の全多価カルボン酸成分100モル%に対するイソフタル酸成分量の下限は好ましくは0.02モル%であり、より好ましくは0.05モル%であり、さらに好ましくは0.1モル%であり、特に好ましくは0.15モル%であり、最も好ましくは0.2モル%である。この場合、結晶化速度を最適化することが可能で、
透明性の高い樹脂が得られる。イソフタル酸成分量の上限は好ましくは2モル%であり、次に好ましくは1.7モル%であり、より好ましくは1.5モル%であり、さらに好ましくは1.2モル%であり、特に好ましくは1モル%であり、最も好ましくは0.8モル%である。なお、上限が2モル%とは、2モル%以下であってもよく、2モル%未満であってよいことを指す。
【0090】
ケミカルリサイクルPET樹脂中の全多価アルコール成分100モル%に対するエチレングリコール成分量の下限は好ましくは97.5モル%であり、より好ましくは97.7モル%であり、さらに好ましくは97.8モル%であり、特に好ましくは97.9モル%であり、最も好ましくは98モル%である。エチレングリコール成分量の上限は好ましくは99.3モル%であり、より好ましくは99.1モル%であり、さらに好ましくは99モル%であり、特に好ましくは98.9モル%であり、最も好ましくは98.8モル%である。
【0091】
ケミカルリサイクルPET樹脂中の全多価アルコール成分100モル%に対するジエチレングリコール成分量の下限は、下限は好ましくは0.7モル%であり、より好ましくは0.9モル%であり、さらに好ましくは1モル%であり、特に好ましくは1.1モル%であり、最も好ましくは1.2モル%である。ジエチレングリコール成分量の上限は好ましくは2.5モル%であり、より好ましくは2.3モル%であり、さらに好ましくは2.1モル%であり、特に好ましくは1.9モル%であり、最も好ましくは1.7モル%である。この場合、ケミカルリサイクルPET樹脂は高い熱安定性を有することができ、樹脂の着色を抑制することができる。ジエチレングリコールの含有量が2.5モル%を超えると、ケミカルリサイクルPET樹脂の固有粘度保持率が低くなり、成形品の力学特性が低下する。
【0092】
上記のケミカルリサイクルPET樹脂中の全多価カルボン酸成分100モル%に対するテレフタル酸成分の量をTPA(r)モル%、ケミカルリサイクルPET樹脂中の全多価アルコール成分100モル%に対するエチレングリコール成分の量をEG(r)モル%とした場合、
200-TPA(r)-EG(r)の値の下限は好ましくは0.8モル%であり、より好ましくは0.9モル%であり、さらに好ましくは1モル%であり、特に好ましくは1.2モル%である。200-TPA(r)-EG(r)の値の上限は好ましくは4モル%であり、より好ましくは3.5モル%であり、さらに好ましくは3.2モル%であり、特に好ましくは3.0モル%であり、最も好ましくは2.8モル%である。
【0093】
ケミカルリサイクルPET樹脂の組成を上記範囲とすることで、着色が抑制され、高い熱安定性を有することができる。
【0094】
(ケミカルリサイクルPET樹脂の物性)
ケミカルリサイクルPET樹脂は、固有粘度の下限は好ましくは0.5dL/gであり、より好ましくは0.55dL/gであり、さらに好ましくは0.58dL/gである。固有粘度の上限は好ましくは0.8dL/gであり、より好ましくは0.77dL/gであり、さらに好ましくは0.75dL/gである。上記範囲にすることでフィルムとしての強度と製膜安定性を確保することができる。固有粘度の高いケミカルリサイクルPETを得るためには、溶融重合後に固相重合を行うことが好ましい。
【0095】
ケミカルリサイクルPET樹脂の酸価の下限は好ましくは0当量/tonであり、より好ましくは1当量/tonであり、さらに好ましくは2当量/tonであり、特に好ましくは3当量/tonであり、最も好ましくは4当量/tonである。酸価を低くするためには、固相重合を行うことが好ましいが、固相重合を行わない場合は、PETの酸価の下
限は、好ましくは15当量/tonであり、より好ましくは20当量/tonであり、さらに好ましくは23当量/tonであり、特に好ましくは25当量/tonである。
上限は好ましくは60当量/tonであり、より好ましくは55当量/tonであり、さらに好ましくは50当量/tonであり、特に好ましくは45当量/tonであり、最も好ましくは40当量/tonである。上記範囲とすることでケミカルリサイクルPETの生産性を確保し、得られるフィルムの酸価を適正な範囲にすることができる。酸価を上記範囲とするためには、重縮合中で上記適正温度、減圧状態を維持する、重縮合時に反応容器内を窒素などの不活性ガスで置換して、低酸素状態にするなどの方法を採ることが好ましい。
【0096】
ケミカルリサイクルPETの溶融混練後の固有粘度保持率は好ましくは89%以上であり、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは91%以上であり、特に好ましくは92%以上であることが特に好ましい。固有粘度保持率が89%を下回る場合は、樹脂の熱安定性が低く、成型品の力学特性が不十分となるおそれがある。なお、本明細書では単に「固有粘度保持率」と記載されている場合には、1回溶融混練した混錬後の固有粘度保持率のことを指す。
【0097】
ケミカルリサイクルPET樹脂のカラーb値は、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、5以下であることがさらに好ましく、3以下であることが特に好ましい。カラーb値は黄色/青色座標を示しており、正の値は黄色を示し、負の値は青色を示しており、カラーb値はケミカルリサイクルPET樹脂の異物量や熱安定性に影響を受けると考えられる。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はもとよりこれらの実施例に限定されるものではない。
【0099】
(1)固有粘度(IV)
試料を約3g凍結粉砕して140℃15分間乾燥した後、0.20g計量し、1,1,2,2-テトラクロロエタンとp-クロロフェノールとを1:3(質量比)で混ぜた混合溶媒を20ml用いて100℃で60分間撹拌して完全に溶解して室温まで冷却した後グラスフィルターを通して試料とした。30℃に温調されたウベローデ粘度計((株)離合社製)を用いて試料および溶媒の落下時間を計測し、次式により固有粘度[η]を求めた。
[η]=(-1+√(1+4K’ηSp))/2K’C
ηSp=(τ-τ0)τ0
ここで、
[η]:固有粘度(dl/g)
ηSp:比粘度(-)
K’:ハギンスの恒数(=0.33)
C:濃度(=1g/dl)
τ:試料の落下時間(sec)
τ0:溶媒の落下時間(sec)
【0100】
(2)試料中における所定の金属元素の含有率
白金製るつぼにPET樹脂を秤量し、電気コンロでの炭化の後、マッフル炉で550℃、8時間の条件で灰化した。灰化後のサンプルを1.2M塩酸に溶解し、試料溶液とした。調製した試料溶液を下記の条件で測定し、高周波誘導結合プラズマ発光分析法によりPET樹脂中におけるアンチモン元素、アルミニウム元素、チタン元素の濃度を求めた。
装置:SPECTRO社製 CIROS-120
プラズマ出力:1400W
プラズマガス:13.0L/min
補助ガス:2.0L/min
ネブライザー:クロスフローネブライザー
チャンバー:サイクロンチャンバー
測定波長:167.078nm
【0101】
(3)PET樹脂中におけるリン元素の含有率
PET樹脂を硫酸、硝酸、過塩素酸で湿式分解を行った後、アンモニア水で中和した。調整した溶液にモリブデン酸アンモニウムおよび硫酸ヒドラジンを加えた後、紫外可視吸光光度計(島津製作所社製、UV-1700)を用いて、波長830nmでの吸光度を測定した。あらかじめ作製した検量線から、PET樹脂中のリン元素の濃度を求めた。
【0102】
(4)PET中の多価カルボン酸成分、多価アルコール成分の含有量、ポリマー酸価、及びオリゴマー酸価、オリゴマー水酸基価
・PET樹脂中の多価カルボン酸成分量
全多価カルボン酸成分100モル%に対する各多価カルボン酸成分量(モル%)を求めた。
・PET樹脂中の多価アルコール成分量
全多価アルコール成分100モル%に対する各多価アルコール成分量(モル%)を求めた。
・ポリマー酸価(AV)
PET樹脂1t当たりの酸の当量(単位;eq/ton)を求めた。
・オリゴマー中の酸価(OLG-AV)
オリゴマー1t当たりの酸の当量(単位;eq/ton)を求めた。
・オリゴマー中の水酸基価(OLG-OHV)
オリゴマー1t当たりの水酸基の当量(単位;eq/ton)を求めた。
(測定方法)
PET樹脂20mgを重ヘキサフルオロイソプロパノールと重クロロホルムとを1:9(容量比)で混ぜた混合溶媒0.6mlに溶解し、遠心分離を行った。
その後、上澄み液を採取し、下記の条件でH-NMR測定を行った。
装置:フーリエ変換核磁気共鳴装置(BRUKER製、AVANCE NEO600)
1H共鳴周波数:600.13MHz
ロック溶媒:重クロロホルム
フリップ角:30°
データ取り込み時間:4秒
遅延時間:1秒
測定温度:30℃
積算回数:128回
【0103】
(5)オリゴマーの水酸基の割合算出(OLG-OH%)
水酸基の割合は、上記方法で求めた酸価と水酸基価より、下記式に従って算出した。オリゴマー末端を酸価と水酸基価の合計値としている。
水酸基の割合={水酸基価/(水酸基価+酸価)}×100
【0104】
(6)ケミカルリサイクルBHET中の多価カルボン酸成分および多価アルコール成分の含有量
ケミカルリサイクルBHETを重メタノールに溶解し、下記の条件でH-NMR測定を行った。
装置:フーリエ変換核磁気共鳴装置(BRUKER製)
1H共鳴周波数:500.13MHz
ロック溶媒:重メタノール
フリップ角:45°
データ取り込み時間:4秒
遅延時間:1秒
測定温度:27℃
積算回数:36回
【0105】
(7)異物量
PET樹脂0.06gをHFIP(ヘキサフルオロ-2-プロパノール)100mlに溶解し、パーティクルカウンターで測定し、粒子径0.50~0.69μmの粒子数を評価した。
日本インテグリス合同会社製 個数カウント方式 粒度分布測定装置 AccuSizer A7000/SIS
測定範囲:0.5~400μm
【0106】
(8)降温結晶化温度(Tc2)
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量分析計「DSC220型」にて、試料5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封した。次いで、一度290℃で5分ホールドした後、10℃/minの降温速度で冷却した。降温時に得られた発熱ピークのピークトップの値を降温結晶化温度とした。
【0107】
(9)PET樹脂のカラーb値
試料のPET樹脂のペレット約50gを、測定セルに詰め込み、回転させながら測定を実施し、色の基本的刺激量を表現している三刺激値XYZからカラーb値を測定した。値が高いほど黄色味が強くなる。
装置:東京電色社製 精密型分光光度色彩計TC-1500SX
測定方法:JIS Z8722準拠 透過光 0度、-0度法
検出素子:シリコンフォトダイオードアレー
光源:ハロゲンランプ 12V100W 2000H
測定面積:透過25mmφ
湿温度条件:25℃、RH50%
測定セル:φ35mm、高さ25mm 回転式(ペレット)
測定内容:X,Y,Z3刺激値 CIE色度座標 x=X/X+Y+Z y=Y/X+Y+Z
ハンターLab表色系
【0108】
(10)熱分解試験
試料を真空乾燥140℃、16時間乾燥し、水分率150ppm以下の乾燥結晶化ポリエステルを作製した。この乾燥結晶化ポリエステルを用いて以下の条件で二軸押出機にて溶融混練後の固有粘度(処理後IV)を測定し、下記の式を用いて固有粘度保持率(IV保持率)を算出した。
二軸押出機:テクノベル社製KZW15TW-45/60MG-NH(-2200)
設定温度:300℃
スクリュー回転数:200rpm
吐出量1.7~2.0kg/h
固有粘度保持率(%)=100×混練後の固有粘度/混練前の固有粘度
なお、水分率は、電量滴定法であるカールフィッシャー水分計(株式会社三菱ケミカルアナリテック製、CA-200)を用いて、試料0.6gを230℃,5分間、250m
L/minの窒素気流下の条件で測定した。
【0109】
以下、アルミニウム含有エチレングリコール溶液、リン含有エチレングリコール溶液、及びケミカルリサイクルBHETの調製について説明する。
【0110】
(アルミニウム含有エチレングリコール溶液sの調製)
塩基性酢酸アルミニウムの20g/L水溶液に対して、等量(容量比)のエチレングリコールをともに調合タンクに仕込み、室温(23℃)で数時間撹拌した後、減圧(3kPa)下、50~90℃で数時間撹拌しながら系から水を留去し、アルミニウム化合物が20g/L含まれたアルミニウム含有エチレングリコール溶液sを調製した。
【0111】
(リン含有エチレングリコール溶液tの調製)
リン化合物として、Irganox1222(ビーエーエスエフ社製)を、エチレングリコールとともに調合タンクに仕込み、窒素置換下撹拌しながら175℃で150分熱処理し、リン化合物が50g/L含まれたリン含有エチレングリコール溶液tを調製した。
【0112】
(ケミカルリサイクルBHETの調製)
ケミカルリサイクルBHETが表2に示した組成比となるように、下記(j)~(l)を混合し、CR-BHET1、CR-BHET2、CR-BHET3を調製した。
(j)飲料用ボトルの回収物から得られ、イソフタル酸成分を含むケミカルリサイクルBHET
(k)飲料用ボトルの回収物から得られ、ジエチレングリコール成分を含むケミカルリサイクルBHET
(l)PETフィルムの回収物から得られ、イソフタル酸成分を含むケミカルリサイクルBHET
【0113】
【0114】
実施例1
撹拌機付き5Lステンレス製オートクレーブに、ケミカルリサイクルBHETとして、表2のCR-BHET1を仕込み、アルカリ剤として、トリエチルアミンをケミカルリサイクルBHET中のテレフタル酸成分に対して0.3mol%添加した。その後BHET
を溶融させオリゴマーを得た(第1工程)。第1工程後のオリゴマー特性はOLG-AVが100eq/t、OLG-OHVが7600eq/t、反応液中に含まれる全多価アルコール成分の合計量100モル%とした際の遊離のエチレングリコール含有量は0.1mol%であった。その後、上記方法で調製したアルミニウム含有エチレングリコール溶液sおよびリン含有エチレングリコール溶液tを混合し一液化した混合液を添加し、さらに該混合液は、ケミカルリサイクルPETにおける、アルミニウム元素およびリン元素の量が30質量ppmおよび74質量ppmとなるように作製した。アルミニウム元素に対するリン元素のモル比は(P/Al)=2.15であった。
その後、攪拌しながら、系の温度を278℃まで昇温して、この間に系の圧力を徐々に減じて0.1kPaとし、この条件下で重縮合反応を行いケミカルリサイクルPET樹脂を得た。昇温を開始してから反応終了までの時間は180分であった。
【0115】
実施例2
ケミカルリサイクルBHETとして、表2記載のCR-BHET2を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0116】
実施例3~5
CR-BHET1と共にテレフタル酸(以下、添加テレフタル酸という場合がある)を仕込んだ。CR-BHET1と添加テレフタル酸のモル比、並びに、第1工程時間及び重縮合時間を表3の条件としたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0117】
実施例6
ケミカルリサイクルPET樹脂の質量に対して、アルミニウム元素およびリン元素として15質量ppmおよび38質量ppmとなるように用いた以外は実施例4と同様に行った。アルミニウム元素に対するリン元素のモル比(P/Al)=2.20であった。
【0118】
比較例1
ケミカルリサイクルBHETとして、表2のCR-BHET3を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0119】
比較例2
アルミニウム含有エチレングリコール溶液sおよびリン含有エチレングリコール溶液tを添加する代わりに、ケミカルリサイクルPET樹脂に含まれるアンチモン元素が200質量ppmになるようにアンチモン触媒を添加し、且つ、重縮合時間を表3に記載の時間に変更したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0120】
比較例3
アルミニウム含有エチレングリコール溶液sおよびリン含有エチレングリコール溶液tを添加する代わりに、ケミカルリサイクルPET樹脂に含まれるチタン元素が30質量ppmになるようにチタン触媒を添加し、且つ、重縮合時間を表3に記載の時間に変更したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0121】
参考例1
撹拌機付きの5Lステンレス製オートクレーブに高純度テレフタル酸とその2.0倍モル量のエチレングリコールを仕込み、トリエチルアミンを多価カルボン酸成分に対して0.4mol%加え、0.25Mpaの加圧下245℃にて水を系外に留去しながらエステル化反応を行い、BHETとオリゴマーの混合物を得た。その後は実施例1と同様に行った。
【0122】
参考例2
高純度テレフタル酸に対するエチレングリコールを1.3倍モル量に仕込んだ以外は参考例1と同様に行った。
【0123】
結果を表3に示す。
実施例2は実施例1から遊離のエチレングリコール量が増えた例であり、異物量にわずかな差異が認められたが、問題のないものであった。比較例1は遊離のエチレングリコール量が大幅に増えた例であり、異物量が顕著に増加した。
実施例3~5はCR-BHETと添加テレフタル酸の使用比率を変更した例であるが、異物量にわずかな差異が認められたが、問題のないものであった。
実施例6はAl触媒及びTi触媒量を変更した例であるが、異物量にわずかな差異が認められたが、問題のないものであった。
比較例2、3は触媒の金属種を変更した例であるが、異物量が顕著に増加した。
また、参考例1,2のテレフタル酸とエチレングリコールから製造したオリゴマーの遊離エチレングリコール量は遊離エチレングリコール量が制御されたCR-BHETを用いたオリゴマーに比べて多く、得られたPET樹脂の異物量も多かった。
【0124】
【0125】
なお表3中、実施例及び比較例における原料のCR-BHETの欄に記載のモル比は、CR-BHETが有する全多価カルボン酸成分と添加テレフタル酸の合計を100mol%とした際のCR-BHETが有する全多価カルボン酸成分の割合を示し、原料のTPAの欄に記載のモル比は、CR-BHETが有する全多価カルボン酸成分と添加テレフタル酸の合計を100mol%とした際の添加テレフタル酸の割合を示す。また、表3中、参考例における原料のEGの欄に記載のモル比は、テレフタル酸の量を100mol%とした際のエチレングリコールの割合を示す。
【産業上の利用可能性】
【0126】
原料としてケミカルリサイクルBHETを、重合触媒としてアルミニウム化合物及びリン化合物を用いて得られたケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂は、従来のPET樹脂に比べ、フィルターで除去することが難しい異物の量を低減することができ、PET樹脂の加工適正や透明性を向上させるものである。本発明の樹脂は光学用途やフィルムや繊維、飲料用ボトルなど各種成形品の材料として好適に用いることができる。
【要約】
【課題】フィルターで除去することが難しい異物が少ないケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂を提供する。
【解決手段】下記の(1)~(2)を満足することを特徴とするケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂。
(1)アルミニウム原子及びリン原子を含む
(2)パーティクルカウンターによる粒子径0.50~0.69μmの異物量が2000個/ml以下である
【選択図】なし