(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04746 20160101AFI20240214BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20240214BHJP
H01M 8/04029 20160101ALI20240214BHJP
H01M 8/04694 20160101ALI20240214BHJP
H01M 8/04701 20160101ALI20240214BHJP
B60H 1/22 20060101ALI20240214BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240214BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/04 J
H01M8/04029
H01M8/04694
H01M8/04701
B60H1/22 611D
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2023068051
(22)【出願日】2023-04-18
(62)【分割の表示】P 2019092391の分割
【原出願日】2019-05-15
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴史
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-243537(JP,A)
【文献】特開2005-093185(JP,A)
【文献】特開2015-065718(JP,A)
【文献】特開2015-064939(JP,A)
【文献】国際公開第2011/135610(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0040219(US,A1)
【文献】特開2013-119272(JP,A)
【文献】特開2002-127734(JP,A)
【文献】特開2012-250611(JP,A)
【文献】特開2010-282808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00-3/06
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却用熱媒体との熱交換により冷却される燃料電池(11)と、
前記冷却用熱媒体を循環させる熱媒体ポンプ(61)と、
前記冷却用熱媒体と空気とを熱交換させて前記冷却用熱媒体を冷却するラジエータ(64)と、
前記燃料電池と前記熱媒体ポンプと前記ラジエータとを接続して前記冷却用熱媒体が循環する流路部をなす冷却流路部(69)と、
暖房運転を行う際の熱源として利用可能な暖房用熱交換器(75)と、
前記冷却流路部における前記燃料電池から前記ラジエータに向かう部分である高温流路部(69h)に接続して設けられ、前記冷却用熱媒体が前記暖房用熱交換器に流れる流路部をなす暖房用流路部(79)と、
前記暖房用流路部に流れる前記冷却用熱媒体の量を制御する暖房調整部(71、72)と、
前記燃料電池で発電した電力を消費する補機であって、前記ラジエータに空気を流すための送風機(66)と、
前記燃料電池と前記暖房調整部と
前記送風機とを制御する制御部(90)とを備え、
前記制御部は、
前記燃料電池からの排熱を暖房運転に利用するモードである熱利用モードにおいて、前記冷却流路部から前記暖房用流路部に前記冷却用熱媒体を流すように前記暖房調整部を制御し、前記燃料電池からの排熱を暖房運転に利用しないモードである待機モードにおいて、前記冷却流路部から前記暖房用流路部に前記冷却用熱媒体を流さないように前記暖房調整部を制御する熱利用制御部(91)と、
前記熱利用モードにおける前記燃料電池の目標温度が、前記待機モードにおける前記燃料電池の目標温度よりも高くなるように前記燃料電池の発電を制御する発電制御部(93)とを備え、
前記制御部は、前記熱利用モードにおいては、前記冷却用熱媒体を前記冷却流路部に循環させる前記燃料電池の冷却と前記暖房用熱交換器を熱源とする暖房運転とを独立した循環回路によって行うモードに対して、前記送風機の駆動時間を長くするように前記送風機を制御する燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、燃料電池の発熱を熱源として用いる燃料電池システムを開示している。この燃料電池システムにおいては、燃料電池の電流目標値と電圧目標値とを制御することで発熱量を制御して、冷却媒体を介して燃料電池で発生した熱を暖房装置の熱源に利用している。また、この燃料電池システムにおいては、発電効率の異なる複数のモードを有している。先行技術文献の記載内容は、この明細書における技術的要素の説明として、参照により援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術文献の構成では、算出された必要熱量を発熱するように燃料電池の発熱量を制御している。ここで、燃料電池が周囲から熱を奪われると、燃料電池自身の温度や冷却媒体の温度が想定通りには上昇していない場合がある。このため、燃料電池の周囲の状況によっては、燃料電池からの発熱量は適切であっても、暖房装置の熱源に必要な熱を供給できない場合がある。上述の観点において、または言及されていない他の観点において、燃料電池システムにはさらなる改良が求められている。
【0005】
開示される1つの目的は、燃料電池の排熱を暖房運転に利用可能な燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示された燃料電池システムは、冷却用熱媒体との熱交換により冷却される燃料電池(11)と、冷却用熱媒体を循環させる熱媒体ポンプ(61)と、冷却用熱媒体と空気とを熱交換させて冷却用熱媒体を冷却するラジエータ(64)と、燃料電池と熱媒体ポンプとラジエータとを接続して冷却用熱媒体が循環する流路部をなす冷却流路部(69)と、暖房運転を行う際の熱源として利用可能な暖房用熱交換器(75)と、冷却流路部における燃料電池からラジエータに向かう部分である高温流路部(69h)に接続して設けられ、冷却用熱媒体が暖房用熱交換器に流れる流路部をなす暖房用流路部(79)と、暖房用流路部に流れる冷却用熱媒体の量を制御する暖房調整部(71、72)と、燃料電池で発電した電力を消費する補機であって、ラジエータに空気を流すための送風機(66)と、燃料電池と暖房調整部と送風機とを制御する制御部(90)とを備え、制御部は、燃料電池からの排熱を暖房運転に利用するモードである熱利用モードにおいて、冷却流路部から暖房用流路部に冷却用熱媒体を流すように暖房調整部を制御し、燃料電池からの排熱を暖房運転に利用しないモードである待機モードにおいて、冷却流路部から暖房用流路部に冷却用熱媒体を流さないように暖房調整部を制御する熱利用制御部(91)と、熱利用モードにおける燃料電池の目標温度が、待機モードにおける燃料電池の目標温度よりも高くなるように燃料電池の発電を制御する発電制御部(93)とを備えている。制御部は、熱利用モードにおいては、冷却用熱媒体を冷却流路部に循環させる燃料電池の冷却と暖房用熱交換器を熱源とする暖房運転とを独立した循環回路によって行うモードに対して、送風機の駆動時間を長くするように送風機を制御する。
【0007】
開示された燃料電池システムによると、熱利用モードにおける燃料電池の目標温度が、待機モードにおける燃料電池の目標温度よりも高くなるように燃料電池の発電を制御する発電制御部を備えている。このため、熱利用モードにおける燃料電池の温度を待機モードにおける燃料電池の温度よりも高くすることができる。したがって、熱利用モードにおいて、待機モードよりも温度の高い燃料電池の排熱を、冷却用熱媒体を介して暖房用熱交換器に供給できる。よって、燃料電池の排熱を暖房運転に利用可能な燃料電池システムを提供できる。
【0008】
この明細書における開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】燃料電池システムの制御に関するブロック図である。
【
図3】燃料電池システムの暖房運転に関するフローチャートである。
【
図4】電池冷却を行わない場合の待機モードでの冷却水の流れを説明するための説明図である。
【
図5】電池冷却を行う場合の待機モードでの冷却水の流れを説明するための説明図である。
【
図6】
図3のステップS110のフローチャートである。
【
図7】電池冷却を行わない場合の熱利用モードでの冷却水の流れを説明するための説明図である。
【
図8】電池冷却を行う場合の熱利用モードでの冷却水の流れを説明するための説明図である。
【
図9】第2実施形態における燃料電池システムの暖房運転に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的におよび/または構造的に対応する部分および/または関連付けられる部分には同一の参照符号、または百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分および/または関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。
【0011】
第1実施形態
燃料電池システム1は、例えば燃料電池ハイブリッド車(FCHV)に搭載されて走行用モータへ供給する電力を発電する。また、定置型燃料電池システムとして、電気と熱を同時に取り出して給湯や暖房などを行う。以下では、燃料電池システム1が車両に搭載されている車両用の燃料電池システム1として利用される場合を例に説明を行う。
【0012】
燃料電池システム1は、燃料電池セルにおいて、燃料ガスと酸化剤ガスとの化学反応によって、発電を行うシステムである。以下では、燃料ガスとして水素を用い、酸化剤ガスとして酸素を含む空気を用いる場合を例に説明を行う。
【0013】
図1において、燃料電池システム1は、燃料電池11と、水素供給部20と、水素減圧部30と、空気供給部50と、FC冷却部60と、暖房利用部70とを備えている。燃料電池11は、燃料電池セルを備えている。燃料電池セルは、水素イオンを透過可能な電解質膜の一方の面に正極を備え、他方の面に負極を備えて構成されている。燃料電池セルは、正極に酸化剤として機能する酸素を含む空気が供給され、負極に還元剤として機能する水素が供給されることで、化学反応によって発電を行う固体高分子形燃料電池である。燃料電池11は、複数の燃料電池セルがセパレータを介して重なるように構成されている。燃料電池11は、FCあるいはFCスタックとも呼ばれる。
【0014】
水素供給部20は、燃料電池システム1において、燃料電池11に燃料である水素を供給するための部分である。水素供給部20は、充填部21と水素貯蔵部25とを備えている。充填部21は、水素ステーションから燃料電池システム1に水素を充填する際に、水素の入口として機能する開口である充填口を形成している部分である。水素貯蔵部25は、高圧の水素を貯蔵するための装置である。水素貯蔵部25は、複数のタンクを有している。
【0015】
水素供給部20は、充填部21と水素貯蔵部25とを接続して、水素の流路部を提供する充填流路部29uを備えている。充填流路部29uは、複数のタンクそれぞれに水素を分配して流入させる分配部22を備えている。分配部22には、水素の圧力を計測するための充填側圧力センサ22pが設けられている。
【0016】
水素供給部20は、水素貯蔵部25から燃料電池11に向かって水素を供給するための流路部の一部を構成する高圧流路部29dを備えている。高圧流路部29dは、水素貯蔵部25と燃料電池11との間での水素の流れを制御するためのタンク開閉弁26を備えている。タンク開閉弁26は、開度を電気的に制御可能な電気的駆動弁である。タンク開閉弁26は、タンクシャットバルブとも呼ばれる。高圧流路部29dは、複数のタンクから燃料電池11に向かって流出した水素を合流させる合流部28を備えている。合流部28には、水素の圧力を計測するための高圧センサ28pが設けられている。
【0017】
水素減圧部30は、水素供給部20と燃料電池11との間に設けられている。水素減圧部30は、燃料電池システム1において、燃料電池11に水素を供給する過程で水素の圧力を減圧するための部分である。水素減圧部30は、レギュレータ31とインジェクタ35との2つの減圧装置を備えている。
【0018】
レギュレータ31は、高圧流路部29dを流れてきた高圧の水素を高圧よりも低い圧力である中圧に減圧する装置である。レギュレータ31は、レギュレータ31の上流側と下流側との圧力差を所定の値に保つ機械式の駆動弁である。ただし、レギュレータ31として、開度を電気的に制御可能な電気的駆動弁を用いて、上流側と下流側との圧力差を電気的に制御してもよい。
【0019】
インジェクタ35は、レギュレータ31で減圧され、中圧となった水素を中圧よりも低い圧力である低圧に減圧する装置である。インジェクタ35は、開度を電気的に制御可能な電気的駆動弁を複数並列に配置して構成されている。インジェクタ35は、例えば3つの電気的駆動弁で構成されている。インジェクタ35は、燃料電池11に流す水素の量を制御するための装置として機能する。言い換えると、燃料電池11で消費する水素の量が少ない場合には、インジェクタ35を構成する弁のうち、開状態とする弁の数を少なくする。一方、燃料電池11で消費する水素の量が多い場合には、インジェクタ35を構成する弁のうち、開状態とする弁の数を多くする。このように、インジェクタ35を構成する複数の弁のうち、開状態とする弁の数を制御することで燃料電池11に流す水素の量を制御する。
【0020】
水素減圧部30は、高圧流路部29dとインジェクタ35とを接続して、水素の流路部を提供する中圧流路部39uを備えている。レギュレータ31は、高圧流路部29dと中圧流路部39uとの境界上に位置することとなる。中圧流路部39uには、水素の圧力を計測するための中圧センサ33pが設けられている。
【0021】
水素減圧部30は、中圧流路部39uと燃料電池11とを接続して、水素の流路部を提供する低圧流路部39dを備えている。インジェクタ35は、中圧流路部39uと低圧流路部39dとの境界上に位置することとなる。低圧流路部39dには、水素の圧力を計測するための低圧センサ36pが設けられている。
【0022】
燃料電池システム1において、水素は、高圧流路部29d、中圧流路部39u、低圧流路部39dの順に燃料電池11に向かって段階的に圧力を低下させながら流れることとなる。ただし、水素の圧力は、高圧と中圧と低圧との3段階に低下する場合に限られない。
【0023】
燃料電池システム1は、燃料電池11での化学反応に使用されなかった水素を循環させる水素循環部を備えている。水素循環部は、水素ポンプ41と排水弁43とを備えている。水素ポンプ41は、燃料電池11から流出した水素を吸い込んで低圧流路部39dに戻すための流体輸送装置である。水素ポンプ41は、出力の大きさを電気的に制御可能な電動ポンプである。排水弁43は、燃料電池11において水素と酸素との化学反応によって生じた水を排水するための装置である。排水弁43は、水を排水する際に一部の水素も排水と同時に排気することがある。水素ポンプ41は、補機の一例を提供する。
【0024】
水素循環部は、燃料電池11と水素ポンプ41と排水弁43とを接続して水素などの流体が流れる水素循環流路部49を備えている。水素循環流路部49は、燃料電池11における水素と水の流出部分から低圧流路部39dまでを接続して流体の循環する流路部を構成している。
【0025】
空気供給部50は、燃料電池システム1において、燃料電池11に酸化剤である酸素を含む空気を供給するための部分である。空気供給部50は、エアクリーナ51とエアコンプレッサ52とを備えている。エアクリーナ51は、空気に含まれる異物を除去するための装置である。エアクリーナ51の内部には、フィルタが設けられており、エアクリーナ51を通過する空気から異物を除去する。エアコンプレッサ52は、吸い込んだ空気を圧縮して燃料電池11に送る装置である。エアコンプレッサ52は、運転制御を電気的に制御可能な電動コンプレッサである。エアコンプレッサ52は、補機の一例を提供する。
【0026】
空気供給部50は、燃料電池11とエアクリーナ51とエアコンプレッサ52とを接続して空気などの流体が流れる空気流路部59を備えている。空気流路部59は、燃料電池11に空気を供給するまでの流路部と、燃料電池11を流れた空気を外部に排出するまでの流路部とを備えている。空気流路部59のうち、燃料電池11を流れた空気を外部に排出するまでの部分には、マフラー58が設けられている。マフラー58は、燃料電池システム1の内部から外部に流体を適切に排出するための装置である。
【0027】
空気流路部59のうち、燃料電池11を流れた空気を外部に排出するまでの部分は、排水弁43と接続している。このため、排水弁43から排水された水および水素と燃料電池11を流れた空気とが合流した後に、マフラー58を通過して外部へと排出されることとなる。
【0028】
空気流路部59は、燃料電池11を経由せずにマフラー58に空気を流す水素希釈用流路部を備えている。空気流路部59には、水素希釈用流路部に流す空気の量を制御する分流バルブ53が設けられている。分流バルブ53は、排水弁43から排出される水素の量が多い場合に、水素希釈用流路部に流れる空気の量を多くする。これにより、マフラー58から外部に排出される水素を希釈して、外部に排出される水素濃度が高くなり過ぎることを抑制している。空気流路部59には、調圧バルブ54が設けられている。調圧バルブ54の開度制御によって、燃料電池11に供給される空気の量が調整される。分流バルブ53と調圧バルブ54とは、開度を電気的に制御可能な電気的駆動弁である。分流バルブ53は、補機の一例を提供する。調圧バルブ54は、補機の一例を提供する。
【0029】
空気流路部59には、エアコンプレッサ52で圧縮する空気である吸気の温度を計測する吸気温度センサ51tが設けられている。吸気温度センサ51tは、エアクリーナ51よりも空気の流れの上流側に設けられている。空気流路部59には、吸気の流れる量を計測するためのエアフロメータ51sが設けられている。エアフロメータ51sは、エアクリーナ51とエアコンプレッサ52との間に設けられている。
【0030】
FC冷却部60は、燃料電池システム1において、発電にともなって発熱する燃料電池11を冷却するための部分である。FC冷却部60は、冷却水ポンプ61とラジエータ64と送風機66とを備えている。冷却水ポンプ61は、燃料電池11に冷却水を流すためのポンプである。冷却水ポンプ61は、出力の大きさを電気的に制御可能な電動ポンプである。冷却水は、冷却用熱媒体の一例を提供する。冷却水に代えて、気相と液相の間での相変化を利用して燃料電池11を冷却する冷媒を冷却用熱媒体としてもよい。また、冷却用熱媒体としては、冷却水のような液体に限られず気体を用いてもよい。冷却水ポンプ61は、熱媒体ポンプの一例を提供する。冷却水ポンプ61は、補機の一例を提供する。
【0031】
ラジエータ64は、冷却水と空気とを熱交換させて冷却水を冷却するための装置である。送風機66は、ラジエータ64を流れる空気の量を制御して、ラジエータ64による冷却水の冷却効果を制御する装置である。送風機66は、回転数を電気的に制御可能な電動送風機である。送風機66は、補機の一例を提供する。
【0032】
FC冷却部60は、燃料電池11と冷却水ポンプ61とラジエータ64とを環状に接続する冷却流路部69を備えている。冷却流路部69は、ラジエータ64を経由せずに冷却水を燃料電池11に循環させるためのバイパス流路部69iを備えている。バイパス流路部69iには、バイパス流路部69iに流れる冷却水の量を制御するバイパス弁63が設けられている。バイパス弁63は、補機の一例を提供する。
【0033】
冷却流路部69には、燃料電池11よりも冷却水の流れの下流側であって、バイパス弁63よりも上流側に高温温度センサ62tが設けられている。高温温度センサ62tは、発熱部品である燃料電池11との熱交換によって加熱され、高温になった冷却水の温度を計測するセンサである。高温温度センサ62tで計測した温度から燃料電池11の温度を推定できる。冷却流路部69には、ラジエータ64よりも冷却水の流れの下流側であって、冷却流路部69におけるバイパス流路部69iとの接続部分よりも上流側に低温温度センサ65tが設けられている。低温温度センサ65tは、ラジエータ64との熱交換によって冷却され、低温になった冷却水の温度を計測するセンサである。低温温度センサ65tで計測した温度からラジエータ64の温度を推定できる。
【0034】
暖房利用部70は、燃料電池システム1において、発電にともなって発熱する燃料電池11の排熱を暖房運転に利用するための部分である。暖房利用部70は、暖房用ポンプ72と電気ヒータ73と暖房用熱交換器75とを備えている。暖房用ポンプ72は、暖房用熱交換器75に冷却水を流すためのポンプである。暖房用ポンプ72は、出力の大きさを電気的に制御可能な電動ポンプである。電気ヒータ73は、冷却水を加熱するための加熱装置である。電気ヒータ73は、電流の大きさを制御することで出力の大きさを制御可能である。暖房用ポンプ72は、補機の一例を提供する。暖房用ポンプ72は、暖房調整部の一例を提供する。電気ヒータ73は、補機の一例を提供する。
【0035】
暖房用熱交換器75は、冷却水と室内に向かう送風空気とを熱交換させて送風空気を加熱するための装置である。ただし、暖房用熱交換器75が直接送風空気を加熱しなくてもよい。例えば、燃料電池システム1とは別に、エンジン冷却水が内部を流れる暖房用のヒータコアなどを有する暖房システムを備えている場合には、暖房用熱交換器75を液体同士の熱交換を行う熱交換器として利用できる。この場合、暖房用熱交換器75は、エンジンを冷却したエンジン冷却水と燃料電池11を冷却した冷却水とを熱交換させる熱交換器として機能することになる。
【0036】
暖房利用部70は、暖房用ポンプ72と電気ヒータ73と暖房用熱交換器75とを接続する暖房用流路部79を備えている。暖房用流路部79は、冷却流路部69における燃料電池11からラジエータ64に向かう部分である高温流路部69hと接続している。言い換えると、冷却水は高温流路部69hから暖房用流路部79に流れ込み、暖房用流路部79を流れた冷却水は、再び高温流路部69hに流れ込むことができる。暖房用流路部79は、暖房用流路部79を環状に接続する環状接続流路部79rを備えている。環状接続流路部79rには、環状接続流路部79rに流れる冷却水の量を制御する暖房用弁71が設けられている。言い換えると、暖房用弁71は、環状接続流路部79rに冷却水を流すか否かを切り替える弁装置である。暖房用弁71は、冷却流路部69を流れている冷却水を暖房用流路部79に導くか否かを切り替える弁装置である。暖房用弁71は、補機の一例を提供する。暖房用弁71は、暖房調整部の一例を提供する。
【0037】
冷却流路部69には、電気ヒータ73よりも冷却水の流れの下流側であって、暖房用熱交換器75よりも上流側に暖房用温度センサ74tが設けられている。暖房用温度センサ74tは、燃料電池11や電気ヒータ73で加熱され、高温になった冷却水の温度を計測するセンサである。暖房用温度センサ74tは、暖房用熱交換器75に流入する直前の冷却水の温度を計測するセンサである。
【0038】
燃料電池システム1における発電の流れについて以下に説明する。燃料電池11での発電を開始する際、タンク開閉弁26を開いて水素貯蔵部25に貯蔵されている水素を水素貯蔵部25から流出可能な状態とする。水素貯蔵部25から流出した高圧の水素は、レギュレータ31で減圧されて中圧の状態となる。その後、中圧の水素は、インジェクタ35で減圧されて低圧の状態となる。低圧の水素は、燃料電池11の負極に供給される。
【0039】
また、燃料電池11での発電を開始する際、エアコンプレッサ52を駆動して、圧縮した空気を燃料電池11の正極に供給する。燃料電池11の内部では、供給された水素と空気によって、水素と酸素の化学反応が引き起こされて発電する。この時、燃料電池11では、電気の発生に伴って熱も発生することとなる。
【0040】
燃料電池11に流入した水素の一部は、燃料電池11での化学反応に使用されて、水が生成される。燃料電池11に流入した水素のうち燃料電池11での化学反応に使用されなかった水素は、水素循環流路部49を循環して、再び燃料電池11に流入する。化学反応によって生じた水や反応に使用されなかった水素などを含む流体は、マフラー58を通過して燃料電池システム1の外部へと流出する。
【0041】
発電を行わない場合には、タンク開閉弁26やインジェクタ35を閉状態として、水素貯蔵部25からの水素供給を停止する。さらに、水素ポンプ41とエアコンプレッサ52との駆動を停止する。これにより、燃料電池11への水素の再循環や酸素の供給を停止する。
【0042】
燃料電池11の温度が冷却開始温度を超えた場合には、冷却水ポンプ61を駆動して燃料電池11の冷却を開始する。この時、ラジエータ64に冷却水が流れるようにバイパス弁63を制御する。さらに、送風機66を制御してラジエータ64に空気を流す。これにより、燃料電池11を冷却して温度の上昇した冷却水を、ラジエータ64で冷却して温度を低下させてから再び燃料電池11に流すことができる。
【0043】
図2は、制御システムを示す図である。この明細書における制御装置(ECU)は、電子制御装置(Electronic Control Unit)とも呼ばれる場合がある。制御装置は、(a)if-then-else形式と呼ばれる複数の論理としてのアルゴリズム、または(b)機械学習によってチューニングされた学習済みモデル、例えばニューラルネットワークとしてのアルゴリズムによって提供される。
【0044】
制御装置は、少なくとも1つのコンピュータを含む制御システムによって提供される。制御システムは、データ通信装置によってリンクされた複数のコンピュータを含む場合がある。コンピュータは、ハードウェアのプロセッサである少なくとも1つのハードウェアプロセッサを含む。ハードウェアプロセッサは、以下の(i)、(ii)、または(iii)により提供することができる。
【0045】
(i)ハードウェアプロセッサは、少なくとも1つのメモリに格納されたプログラムを実行する少なくとも1つのプロセッサコアである場合がある。この場合、コンピュータは、少なくとも1つのメモリと、少なくとも1つのプロセッサコアとによって提供される。プロセッサコアは、CPU:Central Processing Unit、GPU:Graphics Processing Unit、RISC-CPUなどと呼ばれる。メモリは、記憶媒体とも呼ばれる。メモリは、プロセッサによって読み取り可能な「プログラムおよび/またはデータ」を非一時的に格納する非遷移的かつ実体的な記憶媒体である。記憶媒体は、半導体メモリ、磁気ディスク、または光学ディスクなどによって提供される。プログラムは、それ単体で、またはプログラムが格納された記憶媒体として流通する場合がある。
【0046】
(ii)ハードウェアプロセッサは、ハードウェア論理回路である場合がある。この場合、コンピュータは、プログラムされた多数の論理ユニット(ゲート回路)を含むデジタル回路によって提供される。デジタル回路は、ロジック回路アレイ、例えば、ASIC:Application-Specific Integrated Circuit、FPGA:Field Programmable Gate Array、PGA:Programmable Gate Array、CPLD:Complex Programmable Logic Deviceなどとも呼ばれる。デジタル回路は、プログラムおよび/またはデータを格納したメモリを備える場合がある。コンピュータは、アナログ回路によって提供される場合がある。コンピュータは、デジタル回路とアナログ回路との組み合わせによって提供される場合がある。
【0047】
(iii)ハードウェアプロセッサは、上記(i)と上記(ii)との組み合わせである場合がある。(i)と(ii)とは、異なるチップの上、または共通のチップの上に配置される。これらの場合、(ii)の部分は、アクセラレータとも呼ばれる。
【0048】
制御装置と信号源と制御対象物とは、多様な要素を提供する。それらの要素の少なくとも一部は、ブロック、モジュール、またはセクションと呼ぶことができる。さらに、制御システムに含まれる要素は、意図的な場合にのみ、機能的な手段と呼ばれる。
【0049】
この開示に記載の制御部およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つまたは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。代替的に、この開示に記載の制御部およびその手法は、1つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。代替的に、この開示に記載の制御部およびその手法は、1つまたは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと1つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された1つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0050】
図2において、制御部90には、各圧力センサ22p、28p、33p、36p、各温度センサ51t、62t、65t、74t、エアフロメータ51sが接続されている。制御部90は、充填側圧力センサ22pで計測した充填側圧力を取得する。制御部90は、高圧センサ28pで計測した高圧の供給側圧力を取得する。制御部90は、中圧センサ33pで計測した中圧の供給側圧力を取得する。制御部90は、低圧センサ36pで計測した低圧の供給側圧力を取得する。制御部90は、吸気温度センサ51tで計測した吸気温度を取得する。制御部90は、高温温度センサ62tで計測した燃料電池11を流出した直後の冷却水温度を取得する。制御部90は、低温温度センサ65tで計測したラジエータ64を流出した直後の冷却水温度を取得する。制御部90は、暖房用温度センサ74tで計測した暖房用熱交換器75に流入する直前の冷却水温度を取得する。制御部90は、エアフロメータ51sで計測した吸気流量を取得する。
【0051】
制御部90には、冷却水ポンプ61、72とバイパス弁63と送風機66と暖房用弁71と電気ヒータ73とが接続されている。制御部90は、冷却水ポンプ61を制御して冷却流路部69を流れる冷却水の量を制御する。制御部90は、暖房用ポンプ72を制御して暖房用流路部79を流れる冷却水の量を制御する。制御部90は、バイパス弁63の開度を制御してバイパス流路部69iを流れる冷却水の量を制御する。制御部90は、送風機66を制御してラジエータ64を流れる空気の量を制御する。制御部90は、暖房用弁71の開度を制御して暖房用流路部79を流れる冷却水の量を制御する。制御部90は、電気ヒータ73の出力を制御して暖房用流路部79を流れる冷却水の温度を制御する。
【0052】
制御部90には、空調用センサ81と空調用スイッチ82とが接続されている。空調用センサ81は、空調運転に必要な情報を取得するセンサである。空調用センサ81は、例えば外気温度を計測する外気温度センサを含んでいる。空調用センサ81は、例えば空調対象空間である車室内の温度を計測する室内温度センサを含んでいる。空調用センサ81は、例えば日射量を計測する日射量センサを含んでいる。空調用スイッチ82は、ユーザが空調運転の設定を行うためのスイッチである。空調用スイッチ82は、例えば空調運転要求のオンオフを切り替えるためのスイッチを含んでいる。空調用スイッチ82は、例えば空調運転における設定温度を切り替えるためのスイッチを含んでいる。空調用スイッチ82は、例えば空調運転における風量を切り替えるためのスイッチを含んでいる。空調用スイッチ82は、例えば空調運転における内気循環モードと外気導入モードとを切り替えるためのスイッチを含んでいる。
【0053】
制御部90には、燃料電池11とタンク開閉弁26とインジェクタ35と水素ポンプ41とが接続されている。制御部90は、燃料電池11を制御して発電量や発熱量を制御する。制御部90は、タンク開閉弁26の開度を制御して燃料電池11に供給する水素の量を制御する。制御部90は、インジェクタ35を制御して燃料電池11に供給する水素の量を制御する。制御部90は、水素ポンプ41を制御して水素循環流路部49を循環する水素の量を制御する。
【0054】
制御部90には、エアコンプレッサ52と分流バルブ53と調圧バルブ54とが接続されている。制御部90は、エアコンプレッサ52を制御して燃料電池11に供給する空気の量を制御する。制御部90は、分流バルブ53を制御して燃料電池11に供給する空気の量を制御する。制御部90は、調圧バルブ54を制御して燃料電池11に供給する空気の量を制御する。
【0055】
制御部90には、バッテリ88が接続されている。バッテリ88は、燃料電池11で発電した電気エネルギーや車両が減速する際に生じる回生エネルギーを蓄えるための装置である。制御部90は、バッテリ88に蓄えられている残存容量を取得する。また、制御部90は、バッテリ88からの放電やバッテリ88への充電を行う。ここで残存容量とは、バッテリ88が蓄電可能な電池容量に対して、現在蓄電されている充電量の割合を示している。例えば、残存容量が50%である場合には、バッテリ88の電池容量の半分の電力が蓄電されていることとなる。残存容量が目標残存容量よりも少ない場合には、燃料電池11で発電して、バッテリ88を充電する。一方、残存容量が目標残存容量以上である場合には、基本的に燃料電池11で発電させず、バッテリ88では走行用モータなどへの放電と回生エネルギーの充電とを行う。残存容量は、SOC(State Of Charge)とも呼ばれる。
【0056】
制御部90は、熱利用制御部91と判定部92と発電制御部93とを備えている。制御部90は、熱利用制御部91と判定部92と発電制御部93とを用いて、燃料電池11からの排熱を利用する熱利用モードでの暖房運転を実行可能である。熱利用制御部91は、暖房用弁71の開度や暖房用ポンプ72の駆動などを制御する。判定部92は、各センサで取得した情報や算出した情報に基づいて、制御内容を判断するための判定を行う。発電制御部93は、燃料電池11の発電の有無や発電量を制御する。
【0057】
燃料電池システム1における暖房運転について以下に説明する。
図3において、燃料電池11を熱源に利用した暖房運転を行う要求があると判断された場合に、燃料電池11を用いた暖房運転を開始する。暖房運転を開始すると、ステップS101で、各センサの値を取得する。より詳細には、燃料電池11の発電量や燃料電池11の温度を把握するために、燃料電池11に関する情報を取得する。さらに、暖房運転の状況を把握するために、空調用センサ81を用いて、車室内の温度などの情報を取得する。各センサの値を取得した後、ステップS102に進む。
【0058】
ステップS102では、燃料電池11の排熱を暖房に利用可能か否かを判定する。燃料電池11の排熱の利用可否は、様々な停止条件を満たすか否かによって判定する。停止条件の一例は、燃料電池11のインピーダンスが所定値以上か否かである。燃料電池11のインピーダンスが所定値以上である場合には、燃料電池11に適切な量の水分がなく、乾いた状態であると判断できる。燃料電池11が乾いた状態で発電を継続すると、燃料電池11の劣化が激しくなる。このため、燃料電池11のインピーダンスが所定値以上である場合には、発電を停止する必要があり、停止条件を満たしていると判断する。
【0059】
停止条件の一例は、燃料電池11の発熱量が所定値以上である高負荷状態が連続して所定時間継続しているか否かである。燃料電池11の高負荷状態が連続して所定時間継続している場合には、燃料電池11の温度が上昇し過ぎて、燃料電池11を適切に駆動できない可能性があると判断できる。このため、燃料電池11の高負荷状態が連続して所定時間継続している場合には、発電を停止する必要があり、停止条件を満たしていると判断する。
【0060】
停止条件の一例は、ラジエータ64の温度が所定温度以上か否かである。ラジエータ64の温度が高い場合には、燃料電池11を冷却する能力が不足してしまうと判断できる。このため、ラジエータ64の温度が所定温度以上である場合には、発電を停止する必要があり、停止条件を満たしていると判断する。ラジエータ64の温度は、低温温度センサ65tを用いて計測する。
【0061】
停止条件の一例は、外気温度が所定温度以上か否かである。外気温度が高い場合には、燃料電池11の排熱を利用する熱利用モードを実行するまでもなく、必要な暖房能力が得られると判断できる。このため、外気温度が所定温度以上である場合には、停止条件を満たしていると判断する。燃料電池11の排熱を暖房に利用可能と判定した場合には、ステップS110に進む。一方、燃料電池11の排熱を暖房に利用できないと判定した場合には、ステップS130に進む。言い換えると、停止条件を満たしていないと判定した場合には、ステップS110に進み、停止条件を満たしていると判定した場合には、ステップS130に進む。
【0062】
ステップS130では、待機モードを実行する。待機モードは、暖房運転に燃料電池11の排熱を利用しないモードである。
図4は、燃料電池11が低温の場合の待機モードにおいて、FC冷却部60と暖房利用部70とにおける冷却水の流れを示している。言い換えると、電池冷却を行わない場合の待機モードを説明するための図である。図の冷却流路部69および暖房用流路部79において、実線で示した部分は、冷却水の流れている部分を示している。一方、破線で示した部分は、冷却水の流れていない部分を示している。
【0063】
燃料電池11の温度が低温であるため、FC冷却部60で冷却を行う必要がなく、冷却水ポンプ61が駆動していない。言い換えると、冷却流路部69に冷却水が流れていない状態である。一方、暖房運転を行うため、暖房用弁71は、環状接続流路部79rに冷却水が流れるように開度が制御されている。さらに、暖房用ポンプ72と電気ヒータ73とが駆動している。これにより、暖房用流路部79に電気ヒータ73で加熱された高温の冷却水を循環させ、暖房用熱交換器75を暖房運転用の熱源として機能させることができる。
【0064】
燃料電池11が低温の場合の待機モードは、例えば、外気温度が所定温度以上であるなどの停止条件が成立している場合に実行されることがある。燃料電池11が低温の場合の待機モードは、燃料電池11を冷却していないため、暖房運転を行いながら燃料電池11の暖機を行うことができる。
【0065】
図5は、燃料電池11が高温の場合の待機モードにおいて、FC冷却部60と暖房利用部70とにおける冷却水の流れを示している。言い換えると、電池冷却を行う場合の待機モードを説明するための図である。図の冷却流路部69および暖房用流路部79において、実線で示した部分は、冷却水の流れている部分を示している。一方、破線で示した部分は、冷却水の流れていない部分を示している。
【0066】
燃料電池11の温度が高温であるため、FC冷却部60で冷却を行う必要があり、冷却水ポンプ61が駆動している。さらに、バイパス弁63は、バイパス流路部69iに冷却水が流れないように開度が制御されている。これにより、冷却水が燃料電池11を冷却した後にラジエータ64で冷やされるサイクルを繰り返して、燃料電池11の冷却を継続可能な状態である。一方、暖房用弁71は、冷却流路部69から冷却水を導くことなく環状接続流路部79rに冷却水が流れるように開度が制御されている。さらに、暖房用ポンプ72と電気ヒータ73とを駆動することで、暖房用流路部79に電気ヒータ73で加熱された高温の冷却水を循環させ、暖房用熱交換器75を暖房運転用の熱源として機能させることができる。
【0067】
燃料電池11が高温の場合の待機モードは、例えば、燃料電池11のインピーダンスが所定値以上であるなどの停止条件が成立している場合に実行されることがある。燃料電池11が高温の場合の待機モードは、燃料電池11の冷却と暖房用熱交換器75を熱源とする暖房運転を独立して行うことになる。このため、燃料電池11の冷却能力が暖房運転によって影響されにくい。言い換えると、冷却水ポンプ61の出力と送風機66の回転数の制御によって、FC冷却部60が燃料電池11に必要な冷却能力を適正に発揮しやすい。待機モードを実行した後、ステップS131に進む。
【0068】
図3のステップS110では、熱利用モードを実行する。熱利用モードは、燃料電池11を駆動することで発生した排熱を暖房運転に利用するモードである。熱利用モードの詳細については後に詳述する。熱利用モードを実行した後、ステップS121に進む。
【0069】
ステップS121では、燃料電池11の発電量を取得する。熱利用モードでは、燃料電池11の発電に伴って発生する熱を暖房運転に利用するため、燃料電池11が発電している状態である。発電量を取得した後、ステップS122に進む。
【0070】
ステップS122では、発電量が過剰であるか否かを判定する。発電量が過剰であるか否かの判定は、燃料電池11の発電量と、バッテリ88に蓄えられている電力の残存容量と、車両全体で消費している消費電力量とを考慮して判定する。より具体的には、バッテリ88の残存容量が目標残存容量に到達しており、かつ、発電量が消費電力量を上回っている場合には、現在の発電量を継続すると適切に電力を消費できないと判断できる。この場合には、発電量が過剰であると判定して、ステップS123に進む。一方、発電量が消費電力量を下回っている場合などには、現在の発電量を継続しても適切に電力を消費できると判断できる。この場合には、発電量が過剰ではないと判定して、ステップS131に進む。
【0071】
ステップS123では、補機消費電力を増加させる。補機消費電力の増加方法の一例は、電気ヒータ73の出力を増加させることである。この場合、電気ヒータ73に流す電流を待機モードにおいて電気ヒータ73に流す電流よりも大きくし、電気ヒータ73の消費電力を増加させる。あるいは、電気ヒータ73を複数備えている場合には、電流を流す電気ヒータ73の数を増やすことで消費電力を増加させてもよい。これによると、消費電力を増加させるとともに、暖房用熱交換器75に流れる冷却水の温度をより高くして暖房能力を高めることができる。
【0072】
補機消費電力の増加方法の一例は、送風機66の出力を増加させることである。この場合、送風機66の回転数や駆動時間を長くすることで送風機66の消費電力を増加させる。これによると、消費電力を増加させるとともに、ラジエータ64に流れる空気の量を増やして、ラジエータ64内部の冷却水の温度をより素早く低下させることができる。この時、補機消費電力を増加させていない通常時に比べて、送風機66の上限回転数を高く設定してもよい。送風機66の上限回転数を通常時に比べて高く設定する場合には、空調運転時に室内に風を送るための電動ブロワの出力を増加させることが好ましい。これによると、送風機66の高回転による大きな駆動音を、室内に吹き出される空調風の吹き出し音によってマスキングできる。このため、送風機66の駆動音によって室内の快適性が低下することを抑制できる。
【0073】
補機消費電力の増加方法の一例は、冷却水ポンプ61の出力を増加させることである。この場合、冷却水ポンプ61の吐き出し量を多くして、冷却水ポンプ61の消費電力を増加させる。これによると、電池冷却を行っている状態であれば、電池冷却をより効果的に行うことができる。電池冷却を行っていない場合には、バイパス流路部69iを流れるようにバイパス弁63の開度を制御しておくことで、ラジエータ64の冷却水が冷えた状態を維持したまま、冷却水ポンプ61での消費電力を増加させることができる。
【0074】
補機消費電力の増加方法の一例は、水素ポンプ41の出力やエアコンプレッサ52の出力を増加させることである。あるいは、分流バルブ53や調圧バルブ54やバイパス弁63を開閉駆動させることである。あるいは、ヘッドライトや室内灯などの光源の出力を増加させることである。あるいは、空調運転時に室内に風を送るための電動ファンの出力を増加させることである。この場合、ヘッドライトや室内灯や電動ファンなどは、補機の一例を提供する。補機消費電力を増加させた後、ステップS131に進む。
【0075】
ステップS131では、暖房要求のオンオフを判定する。ユーザによる空調用スイッチ82の操作によって、暖房運転がオフとなった場合には暖房要求がオフであると判定できる。あるいは、ユーザによるキースイッチの操作によって、車両が走行できない状態となった場合には、暖房要求がオフであると判定できる。あるいは、暖房運転の結果、目標温度に到達するなどして、これ以上暖房運転を継続する必要がないと判断した場合には、暖房要求がオフであると判定できる。暖房要求がオフであると判定した場合には、暖房運転を終了する。
【0076】
ユーザによる空調用スイッチ82の操作によって、暖房運転がオンとなっている場合には、暖房要求がオンであると判定できる。また、自動空調モードなどにおいて、ユーザの操作によらず設定温度を維持するために暖房運転が必要であると判断した場合には、暖房要求がオンであると判定できる。暖房要求がオンであると判定した場合には、ステップS101に戻って一連の暖房運転を継続する。
【0077】
熱利用モードにおける制御について以下に説明する。
図6において、熱利用モードが実行されると、ステップS111で発電を開始する。すなわち、燃料電池11に水素と酸素を供給して化学反応を引き起こし、電気エネルギーを得る。熱利用モードにおける燃料電池11の目標温度は、少なくとも待機モードにおける燃料電池11の目標温度よりも高い温度である。例えば、待機モードにおける燃料電池11の目標温度が60℃である場合、熱利用モードにおける燃料電池11の目標温度は60℃よりも高い65℃に設定する。
【0078】
また、熱利用モードにおける燃料電池11の目標温度は、暖房用熱交換器75の目標温度よりも高い温度である。例えば、暖房用熱交換器75の目標温度が60℃である場合、燃料電池11の目標温度は60℃よりも高い65℃に設定する。ここで、目標温度の具体値は、暖房運転の設定温度や、室内温度や、外気温度や、日射量などによって変化する値であり、上述の具体値に限られない。また、電気ヒータ73による加熱を考慮して、燃料電池11の目標温度を暖房用熱交換器75の目標温度よりも低い温度に設定してもよい。
【0079】
燃料電池11の発熱量は、暖房用熱交換器75による暖房運転を完了させるのに必要な熱量以上になるように設定されている。ここで、暖房運転を完了させるのに必要な熱量は、目標温度と現在の室内温度と暖房対象空間となる室内の熱容量などの情報から算出することができる。暖房運転を完了させるのに必要な熱量を超える熱量であるオーバーシュート量を多く確保することで、短時間に暖房を完了させやすい。ただし、電気ヒータ73による加熱を考慮して、暖房運転を完了させるのに必要な熱量未満の値に燃料電池11の発熱量を設定してもよい。発電を開始した後、ステップS112に進む。
【0080】
ステップS112では、電池温度を取得する。燃料電池11は、発電を開始しているため、発電にともなう発熱により燃料電池11の温度が変化することとなる。この変化する電池温度を取得した後、ステップS113に進む。
【0081】
ステップS113では、電池温度が所定温度未満であるか否かを判定する。電池温度が所定温度未満であれば、燃料電池11が電池冷却の必要ない低温状態であると判断してステップS114に進む。一方、電池温度が所定温度以上であれば、燃料電池11が電池冷却の必要な高温状態であると判断してステップS115に進む。
【0082】
ステップS114では、暖房接続を実行する。暖房接続では、冷却流路部69を流れる冷却水を暖房用流路部79に導くように暖房用弁71の開度を制御する。また、冷却運転を行わないため、バイパス流路部69iに冷却水が流れるようにバイパス弁63の開度を制御する。この状態で、冷却水ポンプ61と暖房用ポンプ72を駆動する。ただし、冷却水ポンプ61と暖房用ポンプ72のどちらか一方の駆動のみで十分な冷却水の循環量を確保できる場合には、どちらか一方のみを駆動してもよい。
【0083】
図7は、暖房接続された状態において、FC冷却部60と暖房利用部70とにおける冷却水の流れを示している。言い換えると、電池冷却を行わない場合の熱利用モードを説明するための図である。図の冷却流路部69および暖房用流路部79において、実線で示した部分は、冷却水の流れている部分を示している。一方、破線で示した部分は、冷却水の流れていない部分を示している。
【0084】
冷却水ポンプ61から送られた冷却水は、燃料電池11の排熱で加熱された後、暖房用流路部79に流れ込む。冷却水は、暖房用流路部79を流れる過程で、電気ヒータ73によって加熱されてさらに温度が上昇する。ただし、燃料電池11の排熱による加熱のみで暖房運転に必要な熱量が賄える場合には、電気ヒータ73で加熱を行う必要がない。電気ヒータ73を通過した高温の冷却水は、暖房用熱交換器75を流れる過程で室内に送られる空気と熱交換することで暖房用の温風を生成する。空気と熱交換することで温度の低下した冷却水は、冷却流路部69に戻って、バイパス流路部69iを流れて再び冷却水ポンプ61に吸い込まれ、燃料電池11に向かって送られる。冷却水は、流路部を流れる過程で暖房用熱交換器75によって冷却されるが、比較的温度が高くなりやすい。言い換えると、暖房用熱交換器75で効果的に暖房を行いやすい。暖房接続を実行した後、ステップS116に進む。
【0085】
図6のステップS115では、電池冷却と暖房接続との両方を行う。この場合、冷却流路部69を流れる冷却水を暖房用流路部79に導くように暖房用弁71の開度を制御する。また、冷却運転を行うため、バイパス流路部69iに冷却水が流れないようにバイパス弁63の開度を制御する。この状態で、冷却水ポンプ61と暖房用ポンプ72とを駆動する。ただし、冷却水ポンプ61と暖房用ポンプ72とのどちらか一方の駆動のみで十分な冷却水の循環量を確保できる場合には、どちらか一方のみを駆動してもよい。
【0086】
図8は、電池冷却と暖房接続とが同時になされている状態において、FC冷却部60と暖房利用部70とにおける冷却水の流れを示している。言い換えると、電池冷却を行う場合の熱利用モードを説明するための図である。図の冷却流路部69および暖房用流路部79において、実線で示した部分は、冷却水の流れている部分を示している。一方、破線で示した部分は、冷却水の流れていない部分を示している。
【0087】
冷却水ポンプ61から送られた冷却水は、燃料電池11の排熱で加熱された後、暖房用流路部79に向かって流れる。冷却水は、暖房用流路部79を流れる過程で、電気ヒータ73によって加熱されて温度がさらに上昇する。ただし、燃料電池11の排熱による加熱のみで暖房運転に必要な熱量が賄える場合には、電気ヒータ73で加熱を行わなくてもよい。電気ヒータ73を通過した高温の冷却水は、暖房用熱交換器75を流れる過程で室内に送られる空気と熱交換して暖房用の温風を生成する。空気と熱交換することで温度の低下した冷却水は、冷却流路部69に戻って、ラジエータ64で冷却されてから再び冷却水ポンプ61に吸い込まれ、燃料電池11に向かって送られる。冷却水は、流路部を流れる過程で暖房用熱交換器75とラジエータ64とによって冷却されるため、電池冷却を行わない場合に比べて、温度が低くなりやすい。言い換えると、燃料電池11を適切に冷却しやすい。電池冷却と暖房接続を実行した後、ステップS116に進む。
【0088】
図6のステップS116では、高発熱条件が成立しているか否かを判定する。ここで、高発熱条件とは、燃料電池11の発電効率を低下させて発熱量を多く確保するか否かを判定するための条件である。高発熱条件の一例は、燃料電池11から流出した直後の冷却水の温度である熱源側温度と、暖房用熱交換器75に流入する直前の冷却水の温度である利用側温度との温度差が所定温度差以上か否かである。熱源側温度と利用側温度との温度差が所定温度差以上である場合には、燃料電池11での発熱を多く確保する必要があると判断して、高発熱条件が成立していると判定する。一方、熱源側温度と利用側温度との温度差が所定温度差未満である場合には、燃料電池11での発熱を多く確保する必要がないと判断して、高発熱条件が成立していないと判定する。
【0089】
高発熱条件の一例は、燃料電池11の温度が目標温度以下に設定された高発熱許可温度未満であるか否かである。高発熱許可温度は、例えば、燃料電池11の目標温度よりも5℃程度低く設定された温度である。燃料電池11の温度が高発熱許可温度未満であれば、燃料電池11の温度を現在よりも高める余地が残っていると判断して、高発熱条件が成立していると判定する。一方、燃料電池11の温度が高発熱許可温度以上であれば、燃料電池11の温度を現在よりも高める余地があまり残っていないと判断して、高発熱条件が成立していないと判定する。ここで、高発熱許可温度を目標温度と同じ温度に設定してもよい。
【0090】
高発熱条件の一例は、バッテリ88の残存容量が所定残存容量以上か否かである。ここで、所定残存容量とは、目標残存容量以下に設定された値である。残存容量が所定残存容量以上であれば、現在の残存容量がすでに目標残存容量に近い値であると考えられる。したがって、少ない発電量で多くの熱を発生させる必要があると判断して、高発熱条件が成立していると判定する。一方、バッテリ88の残存容量が所定残存容量未満であれば、現在の残存容量から目標残存容量に達するまでには、まだ余裕があると考えられる。したがって、高効率の発電を継続する方が好ましいと判断して、高発熱条件が成立していないと判定する。高発熱条件が成立していると判定した場合には、ステップS117に進む。一方、高発熱条件が成立していないと判定した場合には、ステップS118に進む。
【0091】
ステップS117では、高発熱モードを実行する。高発熱モードは、燃料電池11における発電効率を低く維持する代わりに発熱量を高く維持するモードである。言い換えると、高発熱モードは、発熱量に対して得られる電力の少ない低効率発電モードである。具体的には、調圧バルブ54の開度を制御して、燃料電池11に供給する空気の量を減らす。これにより、水素と酸素との化学反応に必要な酸素の供給量を低下させて化学反応を阻害できる。言い換えると、所定の電圧値における電流値が低下することになるため、発電効率が低下する。燃料電池11に供給する空気の量を減らす方法は、調圧バルブ54の開度制御に限られない。例えば、エアコンプレッサ52の吐き出し量を低減することで、燃料電池11に供給する空気の量を減らしてもよい。
【0092】
発熱量の多い高発熱モードで発電を行うことで、低発熱モードで発電を行う場合に比べて、短時間に多くの熱を得ることができる。このため、目標温度に到達するまでに必要な暖房時間を短くし、ユーザの快適性を高めやすい。高発熱モードを実行した後、高発熱モードを維持したまま、熱利用モードの制御を終了する。
【0093】
ステップS118では、低発熱モードを実行する。低発熱モードは、燃料電池11における発電効率を高く維持することで発熱量を低く抑えるモードである。言い換えると、低発熱モードは、発熱量に対して得られる電力の多い高効率発電モードである。具体的には、燃料電池11に供給する空気の量と水素の量とを最適な量とする。言い換えると、高発熱モードに比べて発電効率を高くした状態である。
【0094】
発電効率の高い低発熱モードで発電を行うことで、燃料である水素の消費量を少なく抑えられる。このため、高発熱モードを実行する時間を短く、低発熱モードを実行する時間を長く確保することで、車両が長い距離を走行可能となる。低発熱モードを実行した後、低発熱モードを維持したまま、熱利用モードの制御を終了する。
【0095】
上述した実施形態によると、熱利用モードにおける燃料電池11の目標温度が、待機モードにおける燃料電池11の目標温度よりも高くなるように燃料電池11の発電を制御する発電制御部93を備えている。このため、燃料電池11の排熱を利用して暖房を行う際に、燃料電池11の排熱を多く利用して暖房運転を行いやすい。したがって、空調対象空間の温度を目標温度に素早く近づけることができる。特に、燃料電池11の目標温度を制御しているため、燃料電池11の発熱量を制御する場合に比べて、燃料電池11の排熱を暖房運転に利用しやすい。
【0096】
熱利用モードにおいて、冷却流路部69から暖房用流路部79に冷却水を流すように暖房用弁71を制御し、待機モードにおいて、冷却流路部69から暖房用流路部79に冷却水を流さないように暖房用弁71や暖房用ポンプ72を制御する熱利用制御部91を備えている。このため、燃料電池11の排熱を利用して暖房を行う場合と、燃料電池11の排熱を利用せずに暖房を行う場合とを使い分けて、暖房運転を実行できる。燃料電池11の排熱を利用して暖房を行うことで、排熱として捨てられる熱を暖房運転に有効活用できる。一方、燃料電池11の排熱を利用せずに暖房を行うことで、燃料電池11が暖房運転によって熱的な影響を受けて、燃料電池11の冷却能力が不足して燃料電池11の温度制御を適切に行えないといった事態を抑制できる。
【0097】
熱利用モードにおける燃料電池11の目標温度が、暖房用熱交換器75の目標温度よりも高い。このため、燃料電池11を目標温度まで温度上昇させることで、燃料電池11で加熱された冷却水の温度が、暖房用熱交換器75に到達した時点で必要な温度以上の高温になりやすい。したがって、電気ヒータ73などによって燃料電池11の排熱以外の熱を発生させる量を低減できる。また、燃料電池11の排熱の大きさを変えることで暖房能力を変えることができるため、電気ヒータ73などの暖房運転に用いる専用部品を小型化あるいは削減できる。
【0098】
熱利用モードにおける燃料電池11の発熱量が、暖房用熱交換器75による暖房運転を完了させるのに必要な熱量以上の熱量である。このため、燃料電池11の排熱以外の熱を発生させる量を低減できる。燃料電池11で多くの熱を発生させ、短時間で空調対象空間の温度を目標温度に到達させることができる。特に高発熱モードと低発熱モードとを切り替えて熱利用モードを実行可能な場合には、高発熱モードを用いて短時間に多くの熱を発生させることで、暖房に必要な熱を確保できる。したがって、高発熱モードの後に素早く発電効率の高い低発熱モードに切り替えることができる。よって、発電効率の低い高発熱モードを実行する時間を短く、発電効率の高い低発熱モードを実行する時間を長く確保しやすい。
【0099】
制御部90は、熱利用モードにおける補機の消費電力量が、待機モードにおける補機の消費電力量よりも多くなるように補機を制御する。このため、燃料電池11で発熱に伴って発生した電力を補機で適切に利用しやすい。したがって、燃料電池11で発電した電力を消費しきれないことで、燃料電池11の発熱が制限されることを抑制できる。
【0100】
制御部90は、熱利用モードにおける電気ヒータ73の出力が、待機モードにおける電気ヒータ73の出力よりも多くなるように電気ヒータ73を制御する。このため、暖房のために燃料電池11で発熱しながら、発生した電力を用いて暖房を促進することができる。したがって、目標温度まで素早く暖房を行うことができる。
【0101】
制御部90は、熱利用モードにおける送風機66の出力が、待機モードにおける送風機66の出力よりも多くなるように送風機66を制御する。このため、暖房のために燃料電池11で発熱しながら、発生した電力を用いてラジエータ64の内部の冷却水の温度を低下させることができる。したがって、燃料電池11での発熱を行いながら、燃料電池11の冷却を行うことができる。特に、車両の急発進や急加速などの一時的に多くの電力を消費する制御がなされた場合には、燃料電池11での発電量が多くなり、燃料電池11の温度が急上昇することがある。このため、ラジエータ64の内部に燃料電池11を素早く冷却可能な低温の冷却水を蓄えておくことは、燃料電池システム1を車両に搭載する場合に非常に重要である。
【0102】
制御部90は、熱利用モードにおいてバイパス流路部69iを流れる冷却水の量が、待機モードにおいてバイパス流路部69iを流れる冷却水の量よりも多くなるようにバイパス弁63の開度を制御する。このため、熱利用モードにおいて、燃料電池11で発生した熱のうち、ラジエータ64から放熱されてしまう熱を少なくすることができる。したがって、燃料電池11で発生した熱の多くを暖房運転に利用することができる。
【0103】
制御部90は、熱利用モードにおいて、高発熱条件が成立していると判定した場合には、高発熱モードで燃料電池11を制御し、高発熱条件が成立していないと判定した場合には、低発熱モードで燃料電池11を制御する。このため、高発熱モードと低発熱モードとを、適切に使い分けて、素早くかつ効率的に熱利用モードでの暖房運転を行うことができる。
【0104】
制御部90は、熱利用モードにおいて、燃料電池11の温度が高発熱許可温度未満である場合には、高発熱モードで燃料電池11を制御し、燃料電池11の温度が高発熱許可温度以上である場合には、低発熱モードで燃料電池11を制御する。このため、高発熱モードを用いて素早く暖房運転を完了させることができる。また、発電効率の高いモードである低発熱モードを用いて、高効率な発電を維持しながら暖房運転を行うことができる。特に、燃料電池11の温度が高発熱許可温度未満であれば、燃料電池11の温度上昇可能な余地が大きいため、高発熱モードを用いることで、短時間で燃料電池11の温度を上昇させて、暖房能力を素早く増加させやすい。
【0105】
制御部90は、判定部92にて停止条件が成立していると判定された場合に、待機モードを実行する。このため、熱利用モードを実行すべきでない場合には、待機モードを実行することで、燃料電池11の故障や、燃料電池11における無用な発電効率の悪化を抑制することができる。
【0106】
第2実施形態
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例である。この実施形態では、発電量が過剰と判定された場合に、バッテリ88の目標残存容量を増加させる。
図9を用いて、前述の実施形態とは異なる部分について説明する。
図9において、前述の実施形態の
図3と同様の処理には、同じステップ番号を付与している。このため、前述の実施形態を参照して適用できる。
【0107】
暖房運転を開始した後、各ステップでの制御を実行する。熱利用モードを実行中であって、ステップS122で、燃料電池11の発電量が過剰であると判定した場合に、ステップS223に進む。
【0108】
ステップS223では、バッテリ88の充電制御を変更する。より具体的には、バッテリ88の残存容量の目標値である目標残存容量を増加させる。例えば、発電量が過剰でない場合や待機モードである場合の目標残存容量が50%である場合に、目標残存容量を70%まで増加させる。目標残存容量を増加させることで、燃料電池11で発生した電力をバッテリ88に多く蓄えることができる。ただし、目標残存容量を増加させる具体値は、上述の値に限られない。目標残存容量を増加させた後、ステップS131に進んで、暖房要求のオンオフを判定する。
【0109】
ステップS223で、バッテリ88の目標残存容量を増加させるとともに、補機消費電力を増加させてもよい。これによると、燃料電池11で発生した電力をバッテリ88で蓄える量を増やすとともに、補機での電力消費量を増加させることができる。このため、燃料電池11による発電と発熱を継続して、暖房に用いるエネルギーを確保しやすい。
【0110】
上述した実施形態によると、制御部90は、熱利用モードにおけるバッテリ88の目標残存容量が、待機モードにおけるバッテリ88の目標残存容量よりも多くなるようにバッテリ88を制御する。このため、燃料電池11で発生した電力をバッテリ88でより多く蓄えることができる。したがって、燃料電池11で発生した電力をバッテリ88で適切に蓄えることで、燃料電池11での発電と発熱を継続させやすい。よって、熱利用モードを実行可能な時間を長く確保しやすい。
【0111】
ステップS223で、バッテリ88の目標残存容量を増加させるのではなく、バッテリ88への充電出力を大きくしてもよい。ここで、充電出力とは、バッテリ88を充電する際にバッテリ88に対して電力を供給する機器である燃料電池11の出力である。例えば、発電量が過剰でない場合や待機モードである場合の充電出力が5kWである場合に、充電出力を10kWまで増加させる。充電出力を大きくすることで、バッテリ88への充電における充電速度は速くなる。バッテリ88への充電出力を増加させることで、一時的に大きな電力を燃料電池11が出力できることとなる。このため、燃料電池11の発電量と発熱量とを増やして、素早く暖房を実行しやすい。ただし、充電出力の具体値は、上述の値に限られない。
【0112】
他の実施形態
空気流路部59において、エアコンプレッサ52と燃料電池11との間にインタークーラなどの空気冷却装置を備えてもよい。これによると、エアコンプレッサ52で圧縮されて温度の上昇した空気を冷却してから燃料電池11に流すことができる。このため、燃料電池11の温度上昇を抑制しやすい。したがって、燃料電池11の劣化を抑制して、発電効率が高い状態を維持しやすい。
【0113】
バイパス流路部69iに、イオン交換器を備えてもよい。これによると、燃料電池11を冷却するための冷却水の絶縁性を安定して確保することができる。したがって、燃料電池システム1の安全性を高めやすい。
【0114】
この明細書および図面等における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、1つの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0115】
明細書および図面等における開示は、請求の範囲の記載によって限定されない。明細書および図面等における開示は、請求の範囲に記載された技術的思想を包含し、さらに請求の範囲に記載された技術的思想より多様で広範な技術的思想に及んでいる。よって、請求の範囲の記載に拘束されることなく、明細書および図面等の開示から、多様な技術的思想を抽出することができる。
【符号の説明】
【0116】
1 燃料電池システム、 11 燃料電池、 41 水素ポンプ(補機)、 52 エアコンプレッサ(補機)、 53 分流バルブ(補機)、 54 調圧バルブ(補機)、 60 FC冷却部、 61 冷却水ポンプ(熱媒体ポンプ、補機)、 63 バイパス弁(補機)、 64 ラジエータ、 66 送風機(補機)、 69 冷却流路部、 69i バイパス流路部、 69h 高温流路部、 70 暖房利用部、 71 暖房用弁(補機、暖房調整部)、 72 暖房用ポンプ(補機、暖房調整部)、 73 電気ヒータ(補機)、 75 暖房用熱交換器、 79 暖房用流路部、 79r 環状接続流路部、 88 バッテリ、 90 制御部、 91 熱利用制御部、 92 判定部、 93 発電制御部