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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ハニカム構造成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/00 20060101AFI20240214BHJP
   C04B 35/195 20060101ALI20240214BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240214BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20240214BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20240214BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20240214BHJP
   B01J 35/57 20240101ALI20240214BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20240214BHJP
   B01D 46/00 20220101ALI20240214BHJP
【FI】
C04B38/00 304Z
C04B35/195
B01J37/08
B01J37/00 D
B01J32/00
B01J37/04 102
B01J35/04 301E
B01J35/04 301N
B01D39/20 D
B01D46/00 302
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023517446
(86)(22)【出願日】2022-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2022017926
(87)【国際公開番号】W WO2022230692
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2021074507
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 幹男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩平
(72)【発明者】
【氏名】冨田 慎二
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154913(JP,A)
【文献】特開2020-054985(JP,A)
【文献】特開2008-037722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00
C04B 35/195
B01D 39/20
B01D 46/00
B01J 32/00
B01J 35/04
B01J 37/00 - 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の吸水特性を有する多孔質シリカと、該多孔質シリカ以外のコージェライト化原料と、水を含む液体とを混合し、坏土を作製する混合工程(S1)と、
上記坏土をハニカム構造に成形し、乾燥することにより、ハニカム構造成形体(3)を作製する成形工程(S2)と、を有し、
上記吸水特性は、上記多孔質シリカの付着水分率の上昇値が10wt%となる時間A[hr]であり、
上記混合工程において上記多孔質シリカが大気と接触するときt0から上記液体と接触するときt1までの時間t1-t0が上記時間A[hr]以内となるように混合を行い、
上記混合工程の前に、上記多孔質シリカが封入された未開封状態の容器(7)から上記多孔質シリカの評価試料を採取し、該評価試料の付着水分率と経過時間との関係から上記時間Aを求める予備評価工程(S0)を行う、ハニカム構造成形体の製造方法。
【請求項2】
上記混合工程は、上記多孔質シリカを原料タンク(61)へ輸送し、該原料タンク内の上記多孔質シリカと、該多孔質シリカ以外のコージェライト化原料と、バインダと、上記液体とを、混合タンク(66)内で混合することにより行われ、
上記多孔質シリカが大気と接触したときは、上記原料タンクへ上記多孔質シリカの輸送を開始したときである、請求項1に記載のハニカム構造成形体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により得られるハニカム構造成形体(3)を焼成する、ハニカム構造体(10)の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の製造方法により得られるハニカム構造成形体(3)は、筒状のスキン部(32)と、該スキン部内の空間(S)を、上記スキン部の軸方向(X)に延びる複数のセル(41)に区画する隔壁(42)から形成されたハニカム構造部(4)とを有し、
上記成形工程後に行われ、上記ハニカム構造成形体を焼成することによりハニカム構造体(10)を得る、第1焼成工程(S3)と、
該第1焼成工程後に行われ、上記ハニカム構造体のセルの上記軸方向における両端面(18、19)を互い違いに閉塞する封止部(11)を形成する封止工程(S4)と、
該封止工程後に行われ、上記封止部を焼成する、第2焼成工程(S5)と、を有する、排ガス浄化フィルタ(1)の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の製造方法により得られるハニカム構造成形体(3)は、筒状のスキン部(32)と、該スキン部内の空間(S)を、上記スキン部の軸方向(X)に延びる複数のセル(41)に区画する隔壁(42)から形成されたハニカム構造部(4)とを有し、
上記成形工程後に行われ、上記セルの上記軸方向における両端面(18、19)を互い違いに閉塞する封止部(11)を形成する封止工程(S4)と、
該封止工程後に行われ、上記ハニカム構造成形体及び上記封止部を焼成する、焼成工程(S6)と、を有する、排ガス浄化フィルタ(1)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年4月26日に出願された日本出願番号2021-74507号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、例えば排ガス浄化フィルタの製造に用いられるハニカム構造成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、パティキュレートと呼ばれる粒子状物質(以下、適宜「PM」という。)が含まれる。この排ガス中のPMを捕集して排ガスの浄化を行うため、内燃機関の排気通路には排ガス浄化フィルタが配置される。
【0004】
排ガス浄化フィルタは、一般に、断面が四角形状等の多角形状の複数のセルが多孔質のセル壁を挟んで格子状に配列されたセル構造を有するハニカム構造体と、ハニカム構造体における排ガスが流入する側の流入端面及び排ガスが流出する側の流出端面においてセル端部を互い違いに閉塞する栓部と、を有している。
【0005】
コージェライト組成のハニカム構造体は、例えば次のようにして製造される。まず、Si源、Mg源、及びAl源を含むコージェライト化原料、水、及びバインダ等を混合して得られる坏土を押出成形し、乾燥し、ハニカム構造の成形体を得る。次いで、成形体を焼成し、栓部形成することにより、排ガス浄化フィルタが得られる。
【0006】
排ガス浄化フィルタには、高捕集率と低圧力損失の両立が求められている。高気孔率と、低圧力損失に寄与する高連通性を兼ね備えた排ガス浄化フィルタを製造するために、コージェライト原料のSi源として多孔質シリカを用いる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-37722号公報
【発明の概要】
【0008】
多孔質シリカは、吸湿性が高く、大気中の水分も吸着する。多孔質シリカの吸水は、例えば原料袋の開封後から始まるため、多孔質シリカは取り扱いが困難である。具体的には、例えばコージェライトから構成された排ガス浄化フィルタを製造するためのSi源として多孔質シリカを用いると、多孔質シリカに吸着した水分量分だけ、多孔質シリカの仕込み量が想定よりも少なくなる。その結果、気孔を作るSi源の原料が少なくなり、気孔径の変動幅が大きくなるおそれがある。
【0009】
本開示は、焼成後に得られる焼成体の気孔径のばらつきを小さくすることができるハニカム構造成形体、上記ハニカム構造成形体を用いたハニカム構造体の製造方法、排ガス浄化フィルタの製造方法を提供しようとするものである。
【0010】
本開示の第1の態様は、所定の吸水特性を有する多孔質シリカと、該多孔質シリカ以外のコージェライト化原料と、水を含む液体とを混合し、坏土を作製する混合工程(S1)と、
上記坏土をハニカム構造に成形し、乾燥することにより、ハニカム構造成形体(3)を作製する成形工程(S2)と、を有し、
上記吸水特性は、上記多孔質シリカの付着水分率の上昇値が10wt%となる時間A[hr]であり、
上記混合工程において上記多孔質シリカが大気と接触するときt0から上記液体と接触するときt1までの時間t1-t0が上記時間A[hr]以内となるように混合を行い、
上記混合工程の前に、上記多孔質シリカが封入された未開封状態の容器(7)から上記多孔質シリカの評価試料を採取し、該評価試料の付着水分率と経過時間との関係から上記時間Aを求める予備評価工程(S0)を行う、ハニカム構造成形体の製造方法にある。
【0011】
本開示の第2態様は、上記第1の態様の製造方法により得られるハニカム構造成形体を焼成する、ハニカム構造体の製造方法にある。
【0012】
本開示の第3態様は、上記第1の態様の製造方法により得られるハニカム構造成形体は、筒状のスキン部と、該スキン部内の空間を、上記スキン部の軸方向に延びる複数のセルに区画する隔壁から形成されたハニカム構造部とを有し、
上記成形工程後に行われ、上記ハニカム構造成形体を焼成することによりハニカム構造体を得る、第1焼成工程と、
該第1焼成工程後に行われ、上記ハニカム構造体のセルの上記軸方向における両端面を互い違いに閉塞する封止部を形成する封止工程と、
該封止工程後に行われ、上記封止部を焼成する、第2焼成工程と、を有する、排ガス浄化フィルタの製造方法にある。
【0013】
本開示の第4態様は、上記製造方法により得られるハニカム構造成形体は、筒状のスキン部と、該スキン部内の空間を、上記スキン部の軸方向に延びる複数のセルに区画する隔壁から形成されたハニカム構造部とを有し、
上記成形工程後に行われ、上記セルの上記軸方向における両端面を互い違いに閉塞する封止部を形成する封止工程と、
該封止工程後に行われ、上記ハニカム構造成形体及び上記封止部を焼成する、焼成工程と、を有する、排ガス浄化フィルタの製造方法にある。
【0014】
上記第1の態様の製造方法では、上記のように混合工程と成形工程とを行うことにより、ハニカム構造成形体を製造している。混合工程では、多孔質シリカが大気と接触するときt0から液体と接触するときt1までの時間t1-t0が上記多孔質シリカの吸水特性の上記時間A[hr]以内となるように混合を行う。これにより、ハニカム構造成形体の焼成後に得られる焼成体の気孔径のばらつきを小さくすることができる。
【0015】
第2の態様の製造方法では、第1の態様のハニカム構造成形体を焼成することにより、ハニカム構造体を製造しているため、ハニカム構造体の気孔径のばらつきを小さくすることができる。また、第3の態様及び第4の態様の製造方法では、焼成後の気孔径のばらつきを小さくすることができる第1の態様のハニカム構造成形体の焼成を行っているため、排ガス浄化フィルタの気孔径のばらつきを小さくすることができる。
【0016】
以上のごとく、上記態様によれば、焼成後に得られる焼成体の気孔径のばらつきを小さくすることができるハニカム構造成形体、上記ハニカム構造成形体を用いたハニカム構造体の製造方法、排ガス浄化フィルタの製造方法を提供することができる。
なお、請求の範囲に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本開示についての上記目的およびその他の目的、特徴や利点は、添付の図面を参照しながら下記の詳細な記述により、より明確になる。その図面は、
図1図1は、焼成を2回に分けて排ガス浄化フィルタを製造するための工程の説明図である。
図2図2は、ハニカム構造成形体、ハニカム構造体の模式図であり、
図3図3は、排ガス浄化フィルタの模式図であり、
図4図4は、排ガス浄化フィルタの断面図であり、
図5図5は、排気通路に配置された排ガス浄化フィルタの模式図であり、
図6図6は、ハニカム構造成形体の製造装置の模式図であり、
図7図7は、1度の焼成により排ガス浄化フィルタを製造するための工程の説明図であり、
図8図8は、多孔質シリカの付着水分率の経時変化を示すグラフであり、
図9図9は、多孔質シリカの付着水分増加率の経時変化を示すグラフであり、
図10図10は、ハニカム構造体の直径の測定位置を示す模式図であり、
図11図11は、多孔質シリカの付着水分増加率と焼成体の収縮率との関係を示すグラフであり、
図12図12は、多孔質シリカの付着水分増加率と焼成体の平均気孔径との関係を示すグラフであり、
図13図13は、多孔質シリカの付着水分増加率と焼成体の気孔率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態1)
排ガス浄化フィルタの製造に用いられるハニカム構造成形体3に係る実施形態について、図1図7を参照して説明する。図2に示すように、ハニカム構造成形体3は、スキン部32と、ハニカム構造部4とを有する。スキン部32は、例えば円筒状のような筒状である。ハニカム構造部4は、スキン部32内の空間Sを区画している。ハニカム構造部4は、空間Sを軸方向Xに延びる多数のセル41に区画する隔壁から形成されている。隔壁は、セル41を囲むため、セル壁とも呼ばれる。セル41の伸長方向は、通常スキン部32の軸方向Xと一致する。
【0019】
軸方向Xと直交方向の成形体断面におけるセル形状は、例えば、図2に示されるように例えば四角形であるが、これに限定されない。セル形状は、三角形、四角形、六角形、八角形などの多角形や円形などであってもよい。また、セル形状は、2種以上の異なる形状の組み合わせであってもよい。なお、多角形のセル形状の頂点が丸みを帯びている場合であっても、外観上は多角形であると言えるため、そのセル形状は、多角形であるとする。
【0020】
スキン部32は、例えば、円筒状のような筒状である。スキン部32は、ハニカム構造部4の外周に一体形成されている。隔壁42は、スキン部32の内側を格子状に区画し、多数のセル41を形成する。
【0021】
ハニカム構造成形体3は、ハニカム構造体10や排ガス浄化フィルタ1の製造に用いられる。ハニカム構造体10は、ハニカム構造成形体3を焼成して得られる焼成体である。
【0022】
図3図4に示されるように、排ガス浄化フィルタ1は、ハニカム構造体10と、その軸方向Xにおける両端に形成された封止部11とを有する。なお、ハニカム構造体10は、多孔質であるが、焼成前のハニカム構造成形体3と同様の外観を有し、ハニカム構造体10とハニカム構造成形体3の各構成とは通常同じ名称で呼ばれる。例えばハニカム構造成形体3とハニカム構造体10との各構成を区別するために、ハニカム構造成形体3のスキン部32のことを成形スキン部、セル41のことを成形セル、隔壁42のことを成形隔壁、ハニカム構造部4のことを成形構造部ということができる。
【0023】
排ガス浄化フィルタ1は、多孔質であり、隔壁22には、多数の細孔が形成されている。排ガス浄化フィルタ1は、隔壁22の表面や細孔内に、排ガス中に含まれるPMを堆積させて捕集することができる。細孔は気孔と呼ばれることもある。PMは、粒子状物質、パティキュレートマター、パティキュレート等と呼ばれる微小粒子である。ハニカム構造体10のハニカム構造部2、スキン部12は、コージェライトなどのセラミックスから構成される。
【0024】
排ガス浄化フィルタ1は、例えば、円柱状等の柱状体であり、その寸法は適宜変更可能である。排ガス浄化フィルタ1が円柱状の場合には、軸方向Xの長さLを50~200mm、直径Φを100~165mmの範囲に調整することができる。排ガス浄化フィルタ1は、軸方向Xの両端に流入端面18、流出端面19を有する。流入端面18は、排ガスが流入する側の端面であり、流出端面19は、排ガスが流出する側の端面である。排気管内などの排ガスの流れに配置されていない状態では、流入端面18及び流出端面19は、相互に相対的な面を意味する。つまり、いずれか一方の端面が流入端面18である場合に、他方が流出端面19となる。例えば、流入端面18を軸方向Xの第1端面、流出端面19を軸方向Xの第2端面ということもできる。
【0025】
ハニカム構造体10は、セル21として、第1セル21aと第2セル21bとを有することができる。図4に示されるように、第1セル21aは、例えば、流入端面18に開口し、流出端面19においては封止部11により閉塞されている。第2セル21bは、例えば、流出端面19に開口し、流入端面18においては封止部11により閉塞されている。
【0026】
封止部11は、軸方向Xにおけるセル21を両端面18、19において互い違いに閉塞する。換言すれば、封止部11は、セル21を、流入端面18又は流出端面19において互い違いに閉塞する。封止部11は、例えば、コージェライト等のセラミックスにより形成できるが、その他の材質であってもよい。図4では、プラグ状の封止部11が形成されているが、封止部11の形状は、セル21の端部を封止できれば特に限定されない。なお、構成の図示を省略するが、例えば流入端面18又は流出端面19において隔壁22の一部を変形させることにより、封止部11を形成することも可能である。この場合には、隔壁22の一部によって封止部11が形成されるため、隔壁22と封止部11とが一体的、連続的に形成される。
【0027】
第1セル21aと第2セル21bとは、軸方向Xに直交する横方向Y(なお、横方向Yは、軸方向Xと縦方向の双方に直交する方向である)においても、軸方向Xおよび横方向Yの双方に直交する縦方向(縦方向は、例えば図3及び図4における紙面と直交方向)においても、例えば、互いに隣り合うよう、交互に並んで形成される。つまり、軸方向Xから排ガス浄化フィルタ1の流入端面18または流出端面19を見たとき、第1セル21aと第2セル21bとが、例えば、チェック模様状に配される。隔壁22は、第1セル21aと第2セル21bとを隔てている。
【0028】
隔壁22の気孔率は、例えば50~70%であることが好ましい。気孔率が50%未満の場合には、圧損が高くなるおそれがある。気孔率が70%を超える場合には、フィルタ強度が低下するおそれがある。圧損を低減しつつ、フィルタ強度を向上させるという観点から、気孔率は、55~67%であることが好ましく、57%~67%であることがより好ましく、60%~66%であることがさらに好ましい。気孔率は、例えば水銀圧入法の原理に基づいて測定される。気孔率は、多孔質シリカの配合割合や平均粒径を調整したり、造孔材の配合割合や平均粒径を調整することにより、制御できる。
【0029】
図5に示されるように、排ガス浄化フィルタ1は、ガソリンエンジンEの排気通路Aに配置されて使用される。具体的には、例えば、排ガス浄化フィルタ1を内部に収容するフィルタケースCに排気通路Aが連結される。排ガス浄化フィルタ1は、スキン部12の外周にセラミックマットMが巻回された状態でフィルタケースC内に収容されて使用される。使用中の位置ずれを防ぐため、フィルタケースC内の排ガス浄化フィルタ1には、フィルタ軸方向Yと直交する方向から内方に向けて外圧が付与される。
【0030】
ハニカム構造成形体3は、図1に示すように、混合工程S1と成形工程S2とを少なくとも行うことにより製造される。混合工程S1では、多孔質シリカと、多孔質シリカ以外のコージェライト化原料と、水を含む液体とを少なくとも混合し、坏土を作製する。多孔質シリカとしては、所定の吸水特性を有するもの用いる。
【0031】
吸水特性は、具体的には、多孔質シリカの付着水分率の上昇値が10wt%となる時間A[hr]によって定められる。多孔質シリカは、保管条件(具体的には、保管時間、湿度、温度等)、平均粒径、粒子内の気孔容積の他に、製品ロット毎に異なる吸水特性を有する。そして、この吸水特性により、混合工程におけるシリカとしての絶対量が変化し、ハニカム構造成形体3の焼成体(具体的には、ハニカム構造体10、排ガス浄化フィルタ1の気孔径に影響を及ぼす。
【0032】
混合工程においては、多孔質シリカが大気と接触するときt0から液体と接触するときt1までの時間t1-t0が時間A[hr]以内となるように混合を行う。これにより、多孔質シリカの吸水特性が気孔径に及ぼす影響が小さくなり、気孔径のばらつきを小さくすることができる。ばらつきをより小さくするという観点から、A-(t1-t0)≧0が好ましく、A-(t1-t0)≧2がより好ましい。
【0033】
吸水特性は、例えば多孔質シリカについて予め予備評価工程を行うことにより調べることができる。予備評価工程は、具体的には、混合工程の前に、多孔質シリカが封入された未開封状態の容器から、例えば微量の多孔質シリカの評価試料を採取し、評価試料の付着水分率と経過時間との関係からから時間Aを求める工程である。なお、ここでいう「微量」とは、吸水特性を評価するために十分な量を意味する。また、評価試料は、容器内の残りの多孔質シリカの吸水特性を変化させない程度の量であることが好ましい。予備評価工程では、可能な限り容器内の多孔質シリカが吸水しないように、評価試料を採取する。容器は、定型のものでも、不定型ものであってもよく、袋であってもよい。具体的には、多孔質シリカが封入された原料袋が挙げられる。予備評価工程は、例えば多孔質シリカの原料変更時に行うことができ、混合工程の前に毎回行うことは要求されない。
【0034】
コージェライト化原料としては、Si源、Mg源、Al源等が用いられる。Si源としては、多孔質シリカの他に、溶融シリカ、シリカゾル、中空シリカ等の非多孔質シリカ、カオリン等が用いられる。Mg源としては、タルク、酸化マグネシウム、等が用いられる。Al源としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、アルミナゾル等が用いられる。必要に応じて、造孔材をさらに添加してもよい。造孔材としては、グラファイト、カーボン、樹脂等が用いられる。
【0035】
多孔質シリカの吸油量は、200~400mL/100gであることが好ましい。この場合には、ハニカム構造成形体の焼成体(例えば、ハニカム構造体、排ガス浄化フィルタ)の気孔率を増加させることができる。この効果が向上するという観点から、多孔質シリカの吸油量は、270~400mL/100gであることがより好ましく、300~400mL/100gであることがさらに好ましい。
【0036】
多孔質シリカの嵩密度は、0.1~0.4g/cm3であることが好ましい。この場合には、ハニカム構造成形体の焼成体(例えば、ハニカム構造体、排ガス浄化フィルタ)の気孔率を増加させることができる。この効果が向上するという観点から、多孔質シリカの嵩密度は、0.1~0.3g/cm3であることがより好ましく、0.1~0.25g/cm3であることがさらに好ましい。
【0037】
多孔質シリカのBET比表面積は、250~800m2/gであることが好ましい。この場合には、焼成体の気孔率を増加させることができる。この効果が向上するという観点から、多孔質シリカのBET比表面積は、250~700m2/gであることがより好ましく、250~600m2/gであることがさらに好ましい。
【0038】
また、混合工程S1においては、分散剤、バインダをさらに添加することができる。分散剤としては、油、ワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸塩、グリセリルエーテル等が用いられる。バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、セルロースナノファイバー等が用いられる。
【0039】
成形工程S2では、坏土をハニカム構造に成形し、乾燥することにより、ハニカム構造成形体3を作製する。成形工程S2は、例えば押出成形により行われる。押出成形には、例えば金型が用いられる。つまり、金型を用いて坏土を押出成形し、切断、乾燥によりハニカム構造成形体3が得られる。
【0040】
混合工程、成形工程は、例えば、図6に示される製造装置により行われる。図6に示すように、ハニカム構造成形体3の製造装置6は、例えば、原料タンク61、計量装置62、混合原料タンク63、分散剤槽64、水槽65、混合部(つまり、混合タンク)66、混練機67、及び成形機68を備える。
【0041】
原料タンク61は、多孔質シリカ等の各粉体原料を収容するタンクである。原料タンク61の数は、粉体原料の種類に応じて増減でき、図6では、例えば5つの原料タンク61a~61eが示されている。
【0042】
計量装置62は、原料タンク61内の各原料を計量する装置である。例えば、コージェライト組成となるように、原料タンク61内の各原料を計量することができる。
【0043】
混合原料タンク63は計量された原料を収容するタンクである。この混合原料タンク63内には、例えば焼成後にコージェライト組成となるように調製された粉体原料の混合粉が収容される。また、分散剤槽64には、液体の分散剤(例えば潤滑油)が収容され、水槽65には、液体の水が収容される。なお、分散剤は通常添加されるが、その添加を省略することを可能である。
【0044】
混合部66では、粉体原料と液体原料とが混合される。具体的には、混合粉と分散剤と水とが混合される。
【0045】
混練機67では、混合部66において混合された、多孔質シリカを含む混合粉と分散剤と水との混合物が混練される。これにより、坏土が得られる。混練機は、一台でもよいが、図6に示すように、第1混練機、第2混練機の2台設けることができる。つまり、2段階に分けて混練を行うことができる。これにより、坏土内の粉体原料や液体原料の分散性が向上するという効果が得られる。
【0046】
成形機68は、例えば押出成形機である。成形機において、坏土が押し出され、成形機の出口に設けられた金型により、ハニカム構造に成形される。金型は、具体的には、ハニカム構造を形成するための格子状部と、スキン部を形成するための治具とか構成されている。
【0047】
多孔質シリカを封入する容器7は、開封後、原料タンク61(例えば原料タンク61a)に輸送される。例えば原料タンク61へ多孔質シリカの輸送を開始したときが、多孔質シリカと大気とが接触したときt0となる。また、タルク、水酸化アルミニウムなどの、多孔質シリカ以外のコージェライト化原料も同様に原料タンク61(例えば、原料タンク61b、原料タンク61c)に輸送される。
【0048】
多孔質シリカ等の粉体原料は、計量装置62において計量された後、混合原料タンク63に輸送される。次いで、混合原料タンク63から混合部64に粉体原料が輸送され、分散剤槽64から混合部64へ分散剤が輸送され、水槽65から混合部64へ水が輸送され、混合部66において、液体原料(具体的には、分散剤と水)と粉体原料(具体的には、コージェライト化原料)が混合される。そして、混合部66において、多孔質シリカと液体(具体的には水)とが接触するため、例えばこのときが多孔質シリカと液体とが接触するときt1となる。したがって、例えば図6に示される製造装置6においては、時間t1-t0は、容器7から多孔質シリカの輸送を開始したときから混合部66において液体と接触するときまでの時間となる。
【0049】
混合物は、混合部66から混練機67に輸送される。混練機67では、上記のごとく混合物が混練されて坏土が形成される。坏土は、混練機67から成形機68に輸送され、成形機68において、上述のごとくハニカム構造に成形され、ハニカム構造成形体3が得られる。
【0050】
また、混合部66と混練機67との間に、図示を省略する坏土タンクを設けることができる。坏土タンクは、坏土の状態で一定の時間保管するためのタンクである。坏土タンクでは、時間の経過により液体が粉体原料の粒子表面に濡れる反応や水の蒸発による変化が起こるため、一定の時間保管することにより、坏土を安定にできる。
【0051】
ハニカム構造成形体3を用いて、焼成を行うことにより、その焼成体、つまり、ハニカム構造体10を得ることができる。焼成時には、成形体の少なくとも隔壁42に細孔が形成され、多孔質のハニカム構造体10を得ることができる。多孔質シリカは、焼成時にコージェライトを生成する原料であるが、焼成時には、周囲の原料と反応することにより細孔を形成する細孔形成材料としての役割も担う。上記のように、混合工程において、時間t1-t0が時間A[hr]以内となるように混合を行うことにより、多孔質シリカ量が水分により変化することを抑制でき、気孔径のばらつきを抑制することができる。
【0052】
また、ハニカム構造成形体3を用いて、排ガス浄化フィルタ1を製造することができる。図1に示すように、例えば、成形工程S2後に、第1焼成工程S3、封止工程S4、第2焼成工程S5を行うことにより、排ガス浄化フィルタ1を製造することができる。
【0053】
第1焼成工程S3では、ハニカム構造成形体3を焼成することによりハニカム構造体10を得る。封止工程S4では、ハニカム構造体10のセル41の軸方向Xにおける両端面18、19を互い違いに閉塞する封止部11を形成する。
【0054】
封止工程S4では、封止部形成用のスラリーを用いて、ハニカム構造体10のセル21の端面18、19を交互に封止する。次いで、第2焼成工程S5では、スラリーによって封止された封止部11を焼成する。このようにして、排ガス浄化フィルタ1が製造される。
【0055】
また、ハニカム構造成形体3と封止部11との焼成を、一度の焼成により行うこともできる。図7に示すように、例えば、成形工程S2後に、封止工程S4、焼成工程S6を行うことにより、一度の焼成により排ガス浄化フィルタ1を製造することができる。封止工程S4では、成形工程後に得られるハニカム構造成形体3に、ハニカム構造成形体3のセル41の軸方向における両端面18、19を互い違いに閉塞する封止部11を形成する。封止部11の形成には、上述の封止部形成用のスラリーを用いる。
【0056】
焼成工程S6は、封止工程S4後に行われ、焼成工程S6では、ハニカム構造成形体3及び封止部11を焼成する。これにより、排ガス浄化フィルタ1を製造することができる。
【0057】
このように、本実施形態によれば、焼成後の気孔径のばらつきを小さくすることができるハニカム構造成形体3、これを用いたハニカム構造体10、排ガス浄化フィルタ1を製造することができる。
【0058】
(実験例1)
本例では、多孔質シリカの付着水分率の経時変化を調べる。なお、実験例以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0059】
まず、原料袋から採取した多孔質シリカ1.0gを、直径φ50mm、高さ30mmの秤量瓶にg入れた。次いで、温度110℃の乾燥機内で秤量瓶内の多孔質シリカを2時間乾燥させた。乾燥後の多孔質シリカの質量Xを測定した。そして、多孔質シリカの付着水分率α(具体的には、初期の付着水分率α)を下記式(1)から算出した。水分率の単位はwt%である。
α=(1-X)×100 ・・・(1)
【0060】
初期水分率の測定に用いた多孔質シリカとは別に採取した多孔質シリカを秤量瓶に入れ、多孔質シリカの質量(具体的には、初期質量A)を測定した。次いで、所定時間経過後の多孔質シリカの質量(具体的には、吸水質量B)を測定した。そして、下記式(2)から、付着水分の増加率C(単位:wt%)を算出した。なお、水分率、増加率の測定は、湿度43%、温度25%の環境条件で行った。好ましくは、原料の開封場所や、混合工程の実施場所と同様の環境条件で測定を行う。なお、増加率の測定では、秤量瓶の蓋をせずに、上記環境条件下に放置した。
C=(B-A)×100/A ・・・(2)
【0061】
初期の付着水分率αに経過時間毎の増加率Cの値を加算することにより、多孔質シリカの付着水分率の経時変化(図8参照)、及び、付着水分の増加率の経時変化(図9参照)を得た。図8及び図9より理解されるように、多孔質シリカは、大気中の水分を経時的に吸着し、多孔質シリカの粉体としての質量が増大する。
【0062】
次に、多孔質シリカの付着水分の増加率がハニカム構造成形体3の焼成体に及ぼす影響を評価した。具体的には、付着水分の増加率がハニカム構造体の収縮率、平均気孔径、気孔率に及ぼす影響を調べた。
【0063】
評価用のハニカム構造体は、次のようにして製造した。まず、コージェライト化原料として、多孔質シリカ、タルク、水酸化アルミニウムを準備した。また、バインダとして、メチルセルロースを準備し、液体原料として、潤滑油(つまり、分散剤)と水を準備した。これらの表1に示す配合割合で混合し、坏土を作製した。これにより、コージェライトの組成が、これにより、焼成後のコージェライト組成がAl23:36wt%、MgO:14wt%、SiO2:50wt%となるように調整した。
【0064】
【表1】
【0065】
多孔質シリカとしては、平均粒径14μm、嵩密度(具体的には、加圧嵩密度)0.22g/cm3、吸油量270mL/100g、比表面積593mL/gの粉体を用いた。なお、本明細書における平均粒径は、所謂メジアン径であり、レーザ回折・散乱法によって求められた粒度分布における体積積算値50%での粒径のことである。タルクとしては平均粒径14μmの粉体を用い、水酸化アルミニウムとしては平均粒径8μmの粉体を用いた。
【0066】
多孔質シリカの嵩密度は次のようにして測定した。まず、(株)島津製作所製の加圧測定機「オートグラフ」における直径25mm、長さ20mmの測定器内に多孔質シリカの粉体を投入し、粉体の加圧を開始した。加圧速度は1mm/minである。圧力15MPaに相当する荷重7kNに到達した際に、リミット制御で加圧を停止した。この加圧により、粉体からなる円柱状のペレットが得られる。このペレットの重量及び高さを測定した。
【0067】
ペレットの高さの測定は、ノギス、マイクロメータ、三次元測定機などによって行うことができる。本例では、マイクロメータを用いて測定を行った。ペレットの直径は25mmとなるため、直径と高さとの積からペレットの体積を算出した。そして、ペレットの体積と重量から密度を算出した。密度は、重量を体積で割ることにより算出される。この密度を加圧嵩密度とした。
【0068】
多孔質シリカの吸油量とは、下記JIS規格に記載の一定の条件において粉体(具体的には、多孔質シリカ)に吸収される油量を規定したものであり、100g当たりの粉体に対する油量を容積(単位:ml)で表したものである。多孔質シリカの吸油量は、JIS K5101-13-1:2004(または、JIS K5101-13-2:2004)に規定された測定方法に基づいて算出した。
【0069】
多孔質シリカの比表面積は、所謂BET比表面積を表す。比表面積は、例えば、JISR1626:1996におけるファインセラミックス粉体の気体吸着BET吸着法による比表面積の測定方法の記載に準拠して測定された値とすることができる。具体的には、多孔質シリカの粉体試料を吸着セルに入れ、加熱しながらセル内を真空にすることで、試料表面に吸着しているガス分子を除去し、その後試料の重量を計測した。
【0070】
次いで、試料を封入した状態の吸着セル内に窒素ガスを流した。その結果、試料表面に窒素を吸着させ、更に窒素ガスの流入量を増加させることにより、試料表面にガス分子からなる複数の層を形成させた。このとき、上記の過程を圧力変化に対する吸着量の変化としてプロットしたグラフを作成し、得られたグラフから試料表面だけに吸着したガス分子の吸着量をBET吸着等温式より求めた。窒素分子に関しては、予め吸着占有面積が既知であるため、ガス分子の吸着量に基づいて試料の表面積が求められる。
【0071】
次いで、坏土を成形し、ハニカム構造成形体3を作製した。成形時にハニカム構造成形体3のスキン部32の外径を形成する治具の内径は、φ127.9mmである。成形により、軸方向の長さ:100mm、直径127.9mm、隔壁42の厚さ:0.23mm、セルピッチ:1.57mmのハニカム構造成形体3を作製した。
【0072】
次いで、ハニカム構造成形体3を焼成し、その焼成体(つまり、ハニカム構造体)を作製した。焼成は、焼成炉内にハニカム構造成形体3を配置し、炉内の温度を1430℃まで昇温させ、この1430℃にて16時間保持することにより行った。
【0073】
次に、ハニカム構造体10の収縮率、平均気孔径、気孔率を次のようにして測定した。
収縮率は、ハニカム構造成形体3及びハニカム構造体10の直径から算出される。成形体の直径D0は、直接測定する代わりに、スキン部32を形成するための治具の内径の寸法を測定し、その測定値を代用した。具体的には、治具の4点(0°、45°90°135°方向における位置)の内径をノギス等で測定し、その算術平均値を成形体の直径D0とした。
【0074】
一方、ハニカム構造体10の直径は、次のようにして測定した。まず、ハニカム構造体10の第1端面18から軸方向Xに10mm内側位置であって、かつスキン部12上の4点(具体的には、周方向に0、45°、95°、135°の位置における点)において、ハニカム構造体10の直径を測定した(図10参照)。同様に、ハニカム構造体10の第2端面19から軸方向Xに10mm内側の位置であって、かつスキン部12上の4点(具体的には、周方向に0、45°、95°、135°の位置における点)において、ハニカム構造体の直径を測定した。また、ハニカム構造体10の軸方向Xにおける中央位置であって、かつスキン部12上の4点(具体的には、周方向に0、45°、95°、135°の位置における点)において、ハニカム構造体10の直径を測定した。これらの合計12箇所での直径の測定結果の算術平均値をハニカム構造体10の直径の測定値D1とした。収縮率Sは、下記の式(3)から算出される。
S=(D0/D1-1)×100 ・・・(3)
【0075】
平均気孔径及び気孔率は、水銀圧入法の原理を用いた水銀ポロシメータにより測定した。水銀ポロシメータとしては、(株)島津製作所製のオートポアIV9500を用いた。測定方法、測定条件は、以下の通りである。
【0076】
まず、ハニカム構造体10から測定用の試験片を切り出した。試験片は、軸方向と直交方向の寸法が縦15mm×横15mmであり、軸方向の長さが20mmである直方体である。次いで、水銀ポロシメータの測定セル内に試験片を収納し、測定セル内を減圧した。その後、測定セル内に水銀を導入して加圧し、加圧時の圧力と試験片の気孔内に導入された水銀の体積より、気孔径と気孔容積を測定した。
【0077】
測定は、圧力0.5~20000psiaの範囲で行った。なお、0.5psiaは、0.35×10-3kg/mm2に相当し、20000psiaは14kg/mm2に相当する。この圧力範囲に相当する気孔径の範囲は0.01~420μmである。圧力から気孔径を算出する際の常数として、接触角140°及び表面張力480dyn/cmを使用した。平均気孔径は、気孔容積の積算値50%での気孔径のことである。気孔率は、次の関係式より算出した。なお、コージェライトの真比重は2.52である。
気孔率(%)=総気孔容積/(総気孔容積+1/コージェライトの真比重)×100
【0078】
多孔質シリカの付着水分増加率と焼成体の収縮率、多孔質シリカの付着水分増加率と焼成体の平均気孔径、多孔質シリカの付着水分増加率と焼成体の気孔率との関係をそれぞれ図11図13に示す。
【0079】
図11図13より理解されるように、付着水分増加率と収縮率、付着水分増加率と平均気孔径、付着水分増加率と気孔率には、相関がある。図11に示されるように、多孔質シリカの付着水分率が増加すると収縮率が大きくなる。また、図12及び図13に示されるように、多孔質シリカの付着水分率が増加すると、平均気孔径、気孔率が高くなっている。これは、混合工程において添加された水だけでなく、多孔質シリカに付着して状態で坏土に持ち込まれた水が増えることにより、成形体の乾燥時や焼成時に蒸発する水分量が増えるためであると考えられる。
【0080】
また、図8図9に示されるように、多孔質シリカの付着水分率は、時間と共に増加する特性を持つ。そのため、多孔質シリカを原料タンクに保管する時間によって、多孔質シリカの付着水分率が変化する。また、混合粉と液体とを混合した後の混合物や坏土の状態で保管することもあり、この場合には、混合物や坏土を保管する時間によって、多孔質シリカの付着水分率が変化する。多孔質シリカと水分(具体的には、大気中の水分、混合工程において液体として供給される水分)との接触時間を管理せず、つまり、付着水分率を制御せずにハニカム構造成形体を製造すると、平均気孔径、気孔率などの気孔特性や収縮率にバラツキが生じる。
【0081】
収縮率が大きくなると、例えば排ガス浄化フィルタの直径が小さくなる。この場合には、フィルタケースC内にセラミックマットMを巻回させた排ガス浄化フィルタ1を配置した際に、フィルタケースCと排ガス浄化フィルタ1との間に隙間が形成されたり、隙間が形成されなくとも、排ガス浄化フィルタにかかる外圧(つまり保持力)が低下するおそれがある(図5参照)。これにより、排ガス浄化フィルタ1が振動などによりスライドし、破損するおそれがある。例えば車両用途では、車両の前進方向とは反対方向にスライドするおそれがある。具体的には、排ガス浄化フィルタが割れたり、部分的に欠けたりするおそれがある。したがって、製造上の収縮率の変動は小さいことが好ましい。
【0082】
平均気孔径が大きくなると、PMの捕集率が低下する。今後の排ガス浄化に対する規制強化を想定すると、平均気孔径の変動は小さいことが好ましい。
【0083】
気孔率が高くなると、ハニカム構造体(より具体的には、排ガス浄化フィルタ)の材料強度が低下する。これにより、アイソスタティック強度が低下するため、上述のフィルタケースに排ガス浄化フィルタ1を収容する際に、外圧によって、排ガス浄化フィルタが割れたりするおそれがある。
【0084】
収縮率、平均気孔径、気孔率の中で、最も重要な特性は、排ガス浄化規制に関わる平均気孔径である。平均気孔径は、原料の粒子径や、焼成時の昇温速度、最高温度等の焼成条件によっても変動する。つまり、平均気孔径は、最もバラツキが大きい特性であるといえる。原料の粒子径や焼成条件以外の方法によって、例えば原料投入から成形までの製造工程内における製造条件によって、平均気孔径の変動を極力小さくすることが望まれる。排ガス浄化規制の観点に基づき、原料の粒子径や焼成条件等のばらつき要因を考慮すると、多孔質シリカの付着水分率による平均気孔径の変動は、1μm以内とすることが好ましい。また、多孔質シリカの付着水分率による平均気孔径の変動を1μm以内にするためには、図12に示すように、多孔質シリカの水分付着増加率は、10wt%以下に抑えることが好ましいといえる。図9より理解されるように、本例の多孔質シリカの水分付着増加率が10wt%となる時間は、300分、つまり、5時間であることがわかる。
【0085】
(実験例2)
本例では、多孔質シリカが大気と接触するときt0から液体と接触するときt1までの時間t1-t0を変えながらハニカム構造成形体を作製し、その焼成体(つまり、ハニカム構造体)について、平均気孔径のばらつきを調べる。
【0086】
まず、実験例1と同様の配合で、坏土を作製し、この坏土を成形することによりハニカム構造成形体を作製した。その後、さらに実験例1同様にして焼成を行い、ハニカム構造体10を製造した。本例では、各t1-t0でハニカム構造体を100個ずつ作製した。そして、ランダムに10個のハニカム構造体10を選択し、その平均気孔径を測定した。10個の平均気孔径のうちの最大値を求め、さらにこれら10個の平均気孔径の算術平均値を算出した。最大値と算術平均値との差分が1μm以下の場合を「○」と評価し、1μmを超える場合を「×」と評価した。その結果を表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
表2より理解されるように、t1-t0≦Aの場合には、平均気孔径の変動幅が小さく、ばらつきが十分に抑制されている。一方、t1-t0>Aの場合には、平均気孔径の変動幅が大きく、ばらつきが大きい。
【0089】
このように、時間t1-t0がA[hr]以内となるように混合工程を行うことにより、焼成体の平均気孔径のばらつきを小さくできるハニカム構造成形体を製造することができる。
【0090】
本開示は上記実施形態、実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【0091】
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13