(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/455 20060101AFI20240214BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20240214BHJP
B01D 67/00 20060101ALI20240214BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240214BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C23C16/455
C23C16/44 B
B01D67/00
B01D69/10
B01D69/12
(21)【出願番号】P 2020113425
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2023-04-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(73)【特許権者】
【識別番号】513056835
【氏名又は名称】人工光合成化学プロセス技術研究組合
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】永野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功二
(72)【発明者】
【氏名】山田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】川原 浩一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅也
(72)【発明者】
【氏名】久保 美和子
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-179431(JP,A)
【文献】特開2012-250183(JP,A)
【文献】特開2020-124656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/44ー16/54
B01D 67/00
B01D 69/10
B01D 69/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細孔を有する多孔質部からなる被成膜部の該細孔の両端側よりそれぞれ対向拡散させた原料ガスと対向ガスとを反応させて、化学蒸着により該細孔に膜を形成する成膜装置であって、
前記被成膜部を有する基材を、前記原料ガスが供給される原料ガス供給部と前記対向ガスが供給される対向ガス供給部とを区画する位置に収容する成膜チャンバーと、
前記成膜チャンバーに接続され、前記原料ガスを前記原料ガス供給部に供給する原料ガス供給機構と、
前記成膜チャンバーに接続され、前記対向ガスを前記対向ガス供給部に供給する対向ガス供給機構と、
前記成膜チャンバーに接続され、前記成膜チャンバー内を排気する排気機構と、
前記原料ガス供給部に供給される前記原料ガスにエネルギーを付与するエネルギー付与機構と、を備え、
前記排気機構は、前記対向ガス供給部から前記対向ガスを排気する対向ガス排気口に一端が接続され他端が大気に開放された対向ガス排気配管と、前記対向ガス排気配管に配置された開閉バルブと、前記開閉バルブよりも前記対向ガス排気口側の前記対向ガス排気配管から分岐された第1分岐対向ガス排気配管と、前記第1分岐対向ガス排気配管に配置された第1流量調整バルブと、前記第1分岐対向ガス排気配管に接続された真空ポンプと、を具備する対向ガス排気機構を有する成膜装置。
【請求項2】
前記対向ガス排気機構は、さらに、前記開閉バルブよりも前記対向ガス排気口側の前記対向ガス排気配管から分岐され大気に開放された第2分岐対向ガス排気配管と、前記第2分岐対向ガス排気配管に配置された第2流量調整バルブと、を具備する請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記対向ガス供給機構は、前記対向ガス供給部に前記対向ガスを供給する対向ガス供給口に一端が接続され他端が対向ガス供給源に接続された対向ガス供給配管と、前記対向ガス供給配管に配置された三方バルブと、を具備し、
前記三方バルブは、前記対向ガス供給源を対向ガス供給口側と大気開放側とに択一的に連通させる請求項1又は2に記載の成膜装置。
【請求項4】
複数の細孔を有する多孔質部からなる被成膜部の該細孔の両端側よりそれぞれ対向拡散させた原料ガスと対向ガスとを反応させて、化学蒸着により該細孔に膜を形成する成膜方法であって、
原料ガス供給部から前記細孔の一端側に前記原料ガスを供給するとともに、対向ガス供給部から前記細孔の他端側に前記対向ガスを供給して、前記原料ガスと前記対向ガスとを反応させる反応工程を具備し、
前記反応工程では、前記対向ガス供給部を大気圧未満に減圧して前記原料ガス供給部及び前記対向ガス供給部間に圧力差を生じさせる成膜方法。
【請求項5】
前記圧力差が20kPa以下である請求項4に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向拡散CVDに好適な成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸発した物質を被処理材の表面に付着させて薄膜などを形成する技術として、化学蒸着(CVD)が知られている。特に、対向拡散CVDは、混合ガスから水素ガスなどの特定のガス成分を分離精製するために用いられるガス分離用セラミックス膜の製造に多用されている。
【0003】
対向拡散CVDでは、有機ケイ素化合物ガス等の原料ガスと、原料ガスと反応する酸素ガス等の対向ガスと、を多孔質基材の細孔の両端よりそれぞれ対向拡散させ、細孔内で反応させる。反応生成物は細孔の内壁に蒸着されるので、反応が進行すると細孔は反応生成物で閉塞される。この細孔の閉塞により、両ガスの接触が妨げられ、反応が終了する。その結果、細孔内に形成された閉塞部は、極薄い膜となる。
【0004】
セラミックス系のガス分離材には、材料自体が有するサブナノサイズの細孔によるガス分離が可能な、シリカなどの分離活性層が利用されている。分離活性層として用いられるシリカ膜を対向拡散CVDにより製造するには、たとえば、テトラメトキシシランを含むガスと酸素ガスとを多孔質基材の細孔の両端よりそれぞれ対向拡散させた状態で加熱する。これにより、細孔を閉塞するシリカ膜が形成される。このシリカ膜は50~500nm程度の極薄い膜となる。ガス透過速度が膜厚に反比例することから、極薄いシリカ膜を分離活性層に用いると、ガス分離の際の透過速度が増大し、分離処理能力が高まるため有効である。
【0005】
特許文献1、特許文献2および特許文献3には、対向拡散CVDを用いたガス分離用セラミックス膜の製造方法が開示されている。対向拡散CVDでは、通常、成膜チャンバー内に円筒形状の多孔質基材を配置し、多孔質基材の内周面側である対向ガス供給部に対向ガスとしての酸素含有ガスを、多孔質基材の外周面側に原料ガス供給部に原料ガスとしての有機ケイ素化合物ガスを供給した状態で、所定の温度で加熱することで、多孔質基材の細孔内部にシリカ膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-216106号公報
【文献】特開2009-202096号公報
【文献】国際公開第2014/007140号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の各特許文献に開示されている従来型の装置では、多孔質基材の全長が長くなって成膜面積が増大するほど、成膜が不十分になることがわかった。これは、成膜面積が増大すれば、成膜チャンバー内の原料ガス供給部において原料ガス濃度に不均一性が生じるため、特に原料ガス濃度が薄い部位で細孔内に導入される原料ガスが不足するためと考えられる。
【0008】
前記特許文献1では、成膜チャンバーの原料ガス排出口に接続された原料ガス排出配管に流量調整バルブを配置した成膜装置が開示されている。この成膜装置を利用すれば、原料排出配管に配置された流量調整バルブを絞ることで成膜チャンバーの原料ガス供給部の原料ガスを大気圧以上に加圧することにより、細孔の一端側の原料ガス供給部と細孔の他端側の対向ガス供給部との間に差圧を生じさせて、細孔内への原料ガスの導入を促進させることができると考えられる。
【0009】
しかし、この対策では致命的な問題がある。すなわち、原料ガスはマスフローコントローラで流速制御されたキャリアガスを用いるバブリング方式で成膜チャンバー内に供給されるが、成膜チャンバーの原料ガス供給部内が高圧になることで、成膜チャンバーから原料ガス供給配管やマスフローコントローラへの原料ガスの逆流が生じる。そうすると、配管洗浄や配管交換などが必要となり、成膜装置のメンテナンスに多大な時間と費用がかかる。
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、成膜装置のメンテナンスにかかる時間や費用の削減を可能とし、しかも安定した成膜を可能とすることを解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の成膜装置は、
複数の細孔を有する多孔質部からなる被成膜部の該細孔の両端側よりそれぞれ対向拡散させた原料ガスと対向ガスとを反応させて、化学蒸着により該細孔に膜を形成する成膜装置であって、
前記被成膜部を有する基材を、前記原料ガスが供給される原料ガス供給部と前記対向ガスが供給される対向ガス供給部とを区画する位置に収容する成膜チャンバーと、
前記成膜チャンバーに接続され、前記原料ガスを前記原料ガス供給部に供給する原料ガス供給機構と、
前記成膜チャンバーに接続され、前記対向ガスを前記対向ガス供給部に供給する対向ガス供給機構と、
前記成膜チャンバーに接続され、前記成膜チャンバー内を排気する排気機構と、
前記原料ガス供給部に供給される前記原料ガスにエネルギーを付与するエネルギー付与機構と、を備え、
前記排気機構は、前記対向ガス供給部から前記対向ガスを排気する対向ガス排気口に一端が接続され他端が大気に開放された対向ガス排気配管と、前記対向ガス排気配管に配置された開閉バルブと、前記開閉バルブよりも前記対向ガス排気口側の前記対向ガス排気配管から分岐された第1分岐対向ガス排気配管と、前記第1分岐対向ガス排気配管に配置された第1流量調整バルブと、前記第1分岐対向ガス排気配管に接続された真空ポンプと、を具備する対向ガス排気機構を有することを特徴とする。
【0012】
また、上記課題を解決する本発明の成膜方法は、
複数の細孔を有する多孔質部からなる被成膜部の該細孔の両端側よりそれぞれ対向拡散させた原料ガスと対向ガスとを反応させて、化学蒸着により該細孔に膜を形成する成膜方法であって、
原料ガス供給部から前記細孔の一端側に前記原料ガスを供給するとともに、対向ガス供給部から前記細孔の他端側に前記対向ガスを供給して、前記原料ガスと前記対向ガスとを反応させる反応工程を具備し、
前記反応工程では、前記対向ガス供給部を大気圧未満に減圧して前記原料ガス供給部及び前記対向ガス供給部間に圧力差を生じさせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の成膜装置及び成膜方法によれば、成膜装置のメンテナンスにかかる時間や費用の削減が可能となし、しかも安定した成膜が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例で用いた成膜装置を示す模式図である。
【
図2】実施例1及び比較例1で成膜された膜のガス透過性を示すグラフである。
【
図3】実施例2-1、実施例2-2及び比較例2で成膜された膜のガス透過性を示すグラフである。
【
図4】実施例3-1、実施例3-2及び比較例3で成膜された膜のガス透過性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態に係る成膜装置及び成膜方法を説明する。なお、本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。
【0016】
本発明の成膜装置及び成膜方法は、対向拡散CVDを利用して、複数の細孔を有する多孔質体からなる被成膜部に膜を形成する。すなわち、被成膜部の細孔の両側よりそれぞれ対向拡散させた原料ガスと対向ガスとを反応させて、化学蒸着により細孔の内壁に膜を形成する。
【0017】
本発明の成膜装置及び成膜方法について以下に説明する。
【0018】
本発明の成膜装置は、主な構成要素として、成膜チャンバー、原料ガス供給機構、対向ガス供給機構、排気機構、エネルギー付与機構を備える。
【0019】
<成膜チャンバー>
成膜チャンバーは、原料ガスが供給される原料ガス供給部と対向ガスが供給される対向ガス供給部とを区画する位置に、多孔質部よりなる被成膜部を有する基材を収容する。
【0020】
成膜チャンバーは、化学蒸着による成膜処理に必要な気密性を維持できる容器であれば特に限定はない。容器の材質にも特に限定はないが、原料ガスとの反応性が低い材質、たとえば石英ガラスなどのセラミックス、各種金属などが望まれる。さらに、後述のエネルギー付与機構が、成膜チャンバーの外部から加温する類の構成であれば、熱伝導に優れた金属製であるのが好ましい。具体的には、ステンレス鋼製の他、インコネル(登録商標)、ハステロイ(登録商標)などのニッケル基合金製などが挙げられる。
【0021】
成膜チャンバーを構成する容器の形状は、被成膜部を有する基材を所定の位置に収容できれば特に限定はなく、基材の形状に応じて適宜選択すればよい。収容される基材の数にも限定はなく、成膜チャンバーの内部を、被成膜部の一方の表面と接する原料ガス供給部と、背向する他方の表面と接する対向ガス供給部と、に区画することができればよい。成膜チャンバーの内部を区画する方向にも限定はなく、水平方向に区画しても、鉛直方向に区画しても、その他の方向に区画してもよい。
【0022】
基材を所定の位置に収容する方法にも特に限定はないが、成膜チャンバー内の気密性を維持しつつ成膜チャンバー内を原料ガス供給部と対向ガス供給部とに区画する必要があるため、少なくとも被成膜部が密閉状態になるように保持することが望まれる。たとえば、基材をシール部材で挟持して収容するとよい。シール部材は、成膜チャンバー及び基材の形状や寸法に応じて適宜選択すればよいが、Oリングなどに代表されるスクイーズタイプの各種ガスケットを使用するとよい。また、シール部材の材質は、使用条件に応じて無機材料または有機材料から適宜選択すればよい。有機シール部材としては、各種樹脂、天然ゴム、合成ゴムなどが挙げられる。具体的には、フッ素ゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、パーフルオロエラストマー、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。シール部材が高温となる使用条件下では、耐熱性の観点から、セラミックス、各種金属などの無機シール部材を用いるのが望ましい。無機シール部材として具体的には、黒鉛シート、ステンレス鋼やニッケル基合金などの金属製の中空Oリング、Cリング、Eリング、Uリングが使用可能である。
【0023】
ただし、被成膜部の細孔において原料ガスおよび対向ガスの対向拡散を良好に行うためには、基材のうち被成膜部を除く部分、つまり化学蒸着による成膜処理を行わない部分は、原料ガスおよび/または対向ガスを通さないようにするとよい。基材全体が多孔質体からなる場合であっても、細孔を封止して成膜処理が不要な部分にガスシール性を付与することで、被成膜部の細孔内での対向拡散を効率よく行わせることができる。たとえば、ホウケイ酸塩ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、石英、バナジウム系ガラスなどのガラス、タルク、クレーなどの粘土、チタン、アルミニウムなどの金属、アルミナなどのセラミックス、カーボンのうちの一種以上を主成分とする無機系の封止材を用いて不要な細孔を封止するとよい。封止材は、シール部材と同様に、使用条件に応じて適宜選択することが望まれる。
【0024】
<原料ガス供給機構>
原料ガス供給機構は、原料ガスを成膜チャンバーの原料ガス供給部に供給する。原料ガス供給機構は、複数個の原料ガス供給口を有するのが好ましく、複数箇所から原料ガス供給部に原料ガスを供給できるとよい。原料ガス供給口は、成膜チャンバーに形成された複数の開口であってもよいし、成膜チャンバー内で複数の流路に分岐するように形成された配管が有する複数の穴や複数のノズルであってもよい。また、原料ガス供給機構は、原料ガスを貯留する原料ガス供給源としての原料ガス槽と成膜チャンバーの原料ガス供給口とを接続する原料ガス供給配管を有するのが望ましい。原料ガス槽および原料ガス供給配管は、原料ガスの供給箇所の数に応じて複数個備えてもよいし、複数の供給箇所に対して原料ガス槽を共用してもよい。原料ガス槽を共用する場合には、接続される原料ガス供給口の数に応じて、原料ガス供給配管を分岐させて用いればよい。なお、配管の材質に特に限定はなく、前述の成膜チャンバーを構成する容器と同等の材質を使用可能である。
【0025】
成膜チャンバーに長尺状の被成膜部を有する基材を収容する場合には、原料ガス供給機構は、被成膜部の長手方向に間隔をもって配置される複数個で構成される原料ガス供給口を有するのが望ましい。このとき、隣接する個々の原料ガス供給口は、長手方向の同一直線上に配置されてもよいし、長手方向と交差する方向に意図的に位置を変えてもよい。特に、成膜チャンバーに筒状の被成膜部を有する基材を収容する場合には、被成膜部の長手方向で隣接する個々の原料ガス供給口が、互いに被成膜部の周方向の異なる位置に配置されてもよい。つまり、個々の原料ガス供給口は、軸方向に所定の間隔かつ周方向に所定の角度をもって配置されてもよい。また、個々の原料ガス供給口は、少なくとも被成膜部の長手方向の両端部に配置するのが望ましい。
【0026】
<対向ガス供給機構>
対向ガス供給機構は、対向ガスを成膜チャンバーの対向ガス供給部に供給する。対向ガス供給機構の形態に特に限定はないが、成膜チャンバーおよび被成膜部の形状によっては、原料ガス供給機構と同様に複数箇所から対向ガスを供給してもよい。対向ガス供給機構は、対向ガス供給部に対向ガスを供給する対向ガス供給口と、対向ガスを貯留する対向ガス供給源としての対向ガス槽と、対向ガス供給口と対向ガス槽とを接続する対向ガス供給配管と、を有するのが好ましい。
【0027】
対向ガス供給機構は、さらに、対向ガス供給配管に配置された三方バルブを有するのが好ましい。この三方バルブは、対向ガス供給源としての対向ガス槽を対向ガス供給口側と大気開放側とに択一的に連通させるとよい。成膜チャンバー内に対向ガスを供給し始める時、対向ガス供給部への供給流量が設定値を超えることがある。対向ガス供給部への対向ガスの供給流量は、対向ガス供給部と原料ガス供給部との差圧制御に大きく影響する。また、対向ガス供給流量は、対向ガス供給部から外部への対向ガスの流出にも影響する。そこで、対向ガス供給源から供給される対向ガス流量が安定するまでは、三方バルブを制御して対向ガス供給源を大気開放側に連通させる。そして、対向ガス供給源から供給される対向ガス流量が安定したら、三方バルブを制御して対向ガス供給源を対向ガス供給口側に連通させる。こうすることで、対向ガスを安定した供給流量で対向ガス供給部に供給することができる。
【0028】
成膜チャンバーに筒状の被成膜部を有する基材を収容する場合には、原料ガス供給機構は被成膜部の外周側に原料ガスを供給し、対向ガス供給機構は被成膜部の内周側に対向ガスを供給するのが望ましい。
【0029】
<排気機構>
排気機構は、成膜チャンバー内を排気する。排気機構は、成膜チャンバーの対向ガス供給部を排気する対向ガス排気機構を有する。対向ガス排気機構は、対向ガス供給部から対向ガスを排気する対向ガス排気口に一端が接続され他端が大気に開放された対向ガス排気配管と、対向ガス排気配管に配置された開閉バルブと、を具備する。また、対向ガス排気機構は、開閉バルブよりも対向ガス排気口側の対向ガス排気配管から分岐された第1分岐対向ガス排気配管と、第1分岐対向ガス排気配管に配置された第1流量調整バルブと、第1分岐対向ガス排気配管に接続された真空ポンプと、を具備する。対向ガス排気機構は、さらに、開閉バルブよりも対向ガス排気口側の対向ガス排気配管から分岐され大気に開放された第2分岐対向ガス排気配管と、第2分岐対向ガス排気配管に配置された第2流量調整バルブと、を具備することが好ましい。
【0030】
成膜チャンバーの対向ガス供給部に対向ガスを供給するとともに原料ガス供給部に原料ガスを供給して、対向拡散により両ガスを反応させる際に、第1流量調整バルブで第1分岐対向ガス排気配管のガス流量を調整しつつ真空ポンプを作動させて、対向ガス供給部内を大気圧未満に減圧する。このとき、第2流量調整バルブで第2分岐対向ガス排気配管のガス流量を調整しつつ第2分岐対向ガス排気配管を大気に開放することにより、真空ポンプによる対向ガス供給部内の減圧度合いを微調整して、対向ガス供給部の圧力を微調整するとよい。
【0031】
真空ポンプとしては、特に限定されず、ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプ、メカニカルブースターポンプ、クライオポンプ、ダイヤフラムポンプなどを用いることができる。対向部供給部の減圧度合いを微調整する観点より、ロータリーポンプやメカニカルブースターポンプを用いることが好ましい。
【0032】
排気機構は、さらに、成膜チャンバーの原料ガス供給部に供給された原料ガスを排気する原料ガス排気機構を有するのが好ましい。原料ガス排気機構は、原料ガス供給部から原料ガスを排気する原料ガス排気口に一端が接続され他端が大気に開放された原料ガス排気配管と、原料ガス排気配管に配置された開閉バルブと、を有するのが好ましい。また、原料ガス排気配管は、排気側が大気に開放されたコールドトラップに接続させることが好ましい。未反応の原料ガスをコールドトラップで回収することができる。
【0033】
成膜チャンバーに長尺状の被成膜部を有する基材を収容する場合には、原料ガス排気機構は、少なくとも被成膜部の長手方向の一端部に位置する原料ガス排気口を有するのが望ましい。特に、原料ガス排気口及び原料ガス排気配管がそれぞれ複数個で構成される場合には、仮に粉末化した反応生成物が原料ガスと共に排気されたとしても、原料ガス排気配管に堆積する粉末が複数に分配され、粉末による原料ガス排気配管の詰まりが低減され、成膜チャンバー内の原料ガス供給部内における原料ガス濃度の均衡が維持されるため望ましい。複数個の原料ガス排気口は、原料ガス供給口を挟んで被成膜部の長手方向の両端部に位置するのが望ましい。
【0034】
<エネルギー付与機構>
エネルギー付与機構は、少なくとも成膜チャンバーに供給された原料ガスにエネルギーを付与する。少なくとも原料ガスに化学反応のためのエネルギーが付与されれば、その手段に特に限定はないが、少なくとも成膜チャンバーに供給された原料ガスを加熱する加熱手段であるのが望ましい。たとえば、ヒーターなどを用いて処理室を外部から加熱する方法が簡便である。その他の方法としては、高周波、マイクロ波などの電波照射、紫外線などの光照射、レーザ照射などの電磁波を用いる他、プラズマ照射などが挙げられる。長尺状の被成膜部を有する基材を収容する場合には、管状炉を使用するとよい。
【0035】
<成膜装置を用いた成膜方法>
以下に、本発明の成膜装置を用いた成膜方法を説明する。
【0036】
被成膜材としての基材は、複数の細孔を有する多孔質部からなる被成膜部を有するものであれば、特に限定はない。被成膜部は、原料ガスと対向ガスとを対向拡散させるため、線状または網目状に貫通する細孔、換言すれば連通孔を有する多孔質体が好ましい。ただし、化学蒸着では原料ガスと対向ガスとを反応させる際に基材の周辺も高温になることがあることから、熱的に安定な無機多孔質材料を用いるとよい。
【0037】
無機多孔質材料としては、α-アルミナ、ムライト、コージェライト、炭化ケイ素などが挙げられる。これらの無機多孔質材料は、通常、連通孔の平均細孔径が50~1000nmであるため、対向拡散CVDを用いて細孔を反応生成物で閉塞させて細孔内部に薄膜を形成するには不向きである。細孔内部に薄膜を形成する場合には、4~8nm程度の平均細孔径をもつ無機多孔質膜を中間層として用いるのが好ましい。
【0038】
特に、シリカを主成分とする分離活性層を形成する場合には、好ましくは12nm以下、より好ましくは10nm以下、特に好ましくは8nm以下の平均細孔径の細孔を有するγ-アルミナ中間層からなる被成膜部が表面に形成された基材を用いるのがよい。なかでも、ニッケル(Ni)元素を含むγ-アルミナ中間層は、ガス分離材に必要とされる耐湿性の観点から好適である。γ-アルミナ中間層における細孔の平均細孔径の下限を規定するのであれば、好ましくは1nm、より好ましくは2nm、特に好ましくは3nmである。このようなγ-アルミナ中間層は、好ましくは40~200nm、より好ましくは60~150nmの平均細孔径の細孔を有する無機多孔質材料の表面に形成されるのが好ましい。中間層の膜厚に限定はないが、1~6μmが好ましく、2~5μmがより好ましい。
【0039】
なお、本明細書において、無機多孔質材料の平均細孔径は、市販の細孔分布測定装置を用いてバブルポイント法およびハーフドライ法により測定された細孔分布における50%透過流束径である。また、中間層の平均細孔径は、西華産業株式会社製細孔径分布測定装置「ナノパームポロメーター」により測定された細孔分布における50%透過流束径である。
【0040】
被成膜部の形状は、目的や用途に応じて選択されるが、板状、柱状、筒状、半筒状、棒状、塊状などのいずれであってもよい。被成膜部の大きさも、目的や用途に応じて選択されるが、特に、角筒や円筒などの筒状、曲板や平板などの板状であって、200mm以上の長尺部を含む被成膜部を有する基材は、本発明の成膜装置を用いる効果が顕著であるため好適である。また、被成膜部の形状が、ガス分離材に好適な円筒形状である場合は、その外径をφ3~16mmとするのが好ましく、φ6~12mmとするのがより好ましい。
【0041】
原料ガスおよび対向ガスの種類は、被成膜部に蒸着される材料(つまり反応生成物)に応じて決定される。反応生成物に限定はなく、従来の化学蒸着法により蒸着可能な材料であれば成膜処理可能である。原料ガスとしては、一般的に用いられる金属化合物を含むガスを使用すればよく、目的の反応生成物に応じて、金属化合物と反応する元素を含む対向ガスを使用すればよい。金属化合物としては、有機金属化合物、金属ハロゲン化物、金属水素化物などが挙げられる。対向ガスとしては、酸素ガス、オゾンガス、水素ガス、アンモニアガス、炭化水素ガスなどを目的に応じて使用すればよい。原料ガスは、金属化合物とともにキャリアガスとして、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガスなどの不活性ガスから選ばれる一種以上をさらに含んでもよい。キャリアガスは、原料ガス全体を100体積%としたとき、30%以下さらには10~20%含まれるのが実用的である。以下に、シリカを蒸着する場合に好適な原料ガスおよび対向ガスを詳説する。
【0042】
細孔の内壁にシリカを蒸着する場合には、少なくともシリカ前駆体を含む原料ガスおよび酸素元素を含む対向ガスを用いるのが好適である。シリカ前駆体は、有機ケイ素化合物、無機ケイ素化合物のいずれも使用可能であるが、特に好適であるのは有機ケイ素化合物である。無機ケイ素化合物としては、モノシラン、ジシラン、SiH2Cl2、SiF4などの無機シラン化合物が挙げられる。有機ケイ素化合物としては、CH3SiH3、ジメチルシラン、トリプロピルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシランなどのシラン化合物、テトラエチルシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリメチルジシロキサン等のシロキサン化合物が挙げられる。これらのうちの一種以上を気体状態で使用するのが望ましい。上記の化合物は常温で液体のものが多いため、恒温状態に維持されたバブラーに液体を収容し、キャリアガスを作用させることで液体を気化させるバブリング方式を用いてガス化するとよい。また、ガス混合器を用いて複数種類のガスを混合したり、添加元素を含むガスを混合したりしてもよい。酸素元素を含むガスとしては、酸素ガス、オゾンガス等が挙げられる。反応温度は、200~700℃さらには500~650℃が望ましい。
【0043】
反応生成物の形成位置は、原料ガスおよび対向ガスの流量バランスに依存する。被成膜部の原料ガス供給部側の表層に反応生成物を蒸着させたい場合には、原料ガスと対向ガスとの流量(sccm)の比を1:1~1:10とするのが好ましく、1:2~1:8とするのがより好ましい。原料ガスは、成膜チャンバーの原料ガス供給部において被成膜部の表面近傍に滞留させておいてもよいし、一定量が存在するように連続的または間欠的に流してもよい。また、対向ガスは、対向ガス供給部に連続的に送気してもよいし、間欠的に送気してもよい。いずれにおいても、化学蒸着による成膜処理に十分な原料ガスが原料ガス供給部に存在することで、良好な成膜処理が継続的に行われる。原料ガスおよび対向ガスが被成膜部の細孔内で接触する体積割合は、両者の合計を100体積%とした場合に、原料ガスの体積%が20~80体積%、さらには30~70体積%が望ましい。
【0044】
本発明の成膜方法では、反応工程で、原料ガス供給部から細孔の一端側に原料ガスを供給するとともに、対向ガス供給部から細孔の他端側に対向ガスを供給して、原料ガスと対向ガスとを反応させる。そして、この反応工程では、対向ガス供給部を大気圧未満に減圧して原料ガス供給部及び対向ガス供給部間に圧力差を生じさせる。両ガス供給部間に圧力差を生じさせることにより、原料ガス供給部から被成膜部の細孔内への原料ガスの導入を促進させることができる。これにより、両ガスを被成膜部の細孔内で確実に反応させることができ、細孔内でより良質な膜を形成することが可能となる。このときの圧力差が大きくなると、被成膜部の細孔内における成膜位置が対向ガス供給部側に徐々に移動する。このため圧力差が大きすぎると、被成膜部の細孔内での成膜が困難となる。したがって、圧力差は20kPa以下であることが好ましく、15kPa以下であることがより好ましく、10kPa以下であることが特に好ましい。一方、細孔内への原料ガス導入を促進させる観点より、圧力差は3kPa以上が好ましく、5kPa以上がより好ましく、7kPa以上が特に好ましい。
【0045】
本発明の成膜装置を用いて反応工程を実施する一形態について説明する。成膜チャンバー内を反応温度に昇温、維持し、必要に応じて、成膜チャンバー内を水素還元処理する。そして、原料ガス排気配管の開閉バルブを開放して余剰の原料ガスが成膜チャンバー外に排出されるようにした状態で、成膜チャンバーの原料ガス供給部に原料ガスを供給する。また、対向ガス排気配管の開閉バルブを開放して余剰の対向ガスが成膜チャンバー外に排出されるようにした状態で、成膜チャンバーの対向ガス供給部に対向ガスを供給する。
【0046】
成膜チャンバーの対向ガス供給部に対向ガスを供給する際には、対向ガス供給機構における三方バルブを操作することにより、対向ガスの供給流量を安定化させてから、対向ガス供給部に対向ガスを供給することが好ましい。すなわち、三方バルブの操作により、対向ガス供給源を大気開放側に連通させた状態で、対向ガス供給源を作動させる。このため、対向ガス供給源の作動開始直後は、対向ガス供給源からの対向ガスは三方バルブを介して大気開放側に放出される。そして、対向ガス供給源からの対向ガスの供給流量が安定した後に、三方バルブの操作により、対向ガス供給源を成膜チャンバーの対向ガス供給口側に連通させる。これにより、対向ガス供給源から成膜チャンバーの対向ガス供給部へ対向ガスを所定の設定流量で供給することができる。
【0047】
こうして、所定時間、原料ガスと対向ガスとを対向拡散させる反応工程を実施する。
【0048】
この反応工程では、排気ガス排気機構を用いて成膜チャンバーの対向ガス供給部を大気圧未満に減圧する。すなわち、第1分岐対向ガス排気配管の第1流量調整バルブを調整しながら真空ポンプを作動させて、対向ガス供給部を大気圧未満に減圧する。このとき、大気開放された第2分岐対向ガス排気配管の第2流量調整バルブを調整することで、真空ポンプによる対向ガス供給部の減圧度合いを微調整するとよい。
【0049】
これにより、被成膜部の細孔内への原料ガスの導入を促進させて、原料ガスと対向ガスとを被成膜部の細孔内で確実に反応させることができ、安定した成膜を行うことが可能となる。したがって、膜欠陥の生成を抑制して、膜性能を向上させることができる。
【0050】
また、この反応工程においては、原料ガス供給部の圧力が加圧されることがない。このため、原料ガス供給部内が高圧になることで発生する不都合をなくすことができる。すなわち、原料ガス供給部が高圧になると、原料ガス供給源側に原料ガスの逆流が発生し、原料ガス配管等の洗浄や交換が必要となり、成膜装置のメンテナンスに多大な時間や費用がかかることになる。その点、本発明によれば、原料ガス供給部内が高圧になることがないので、そのような成膜装置のメンテナンスにかかる時間や費用の削減が可能となる。
【0051】
以上、本発明の成膜装置及び成膜方法の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。いずれの実施形態が最良であるかは、要求性能、利用対象などによって異なるが、本発明の要旨を逸脱しない範囲において当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明の成膜装置及び成膜方法の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
図1に実施例の成膜装置を模式的に示す。
【0053】
<成膜装置>
実施例の成膜装置は、成膜チャンバー10と、原料ガス供給機構20と、対向ガス供給機構30と、原料ガス排気機構40と、対向ガス排気機構50と、エネルギー付与機構60と、を備える。
【0054】
成膜チャンバー10は、円筒形状でステンレス鋼製の反応器よりなる。成膜チャンバー10の軸方向の両端部には、それぞれ一対のOリングを介して真空継手が固定されている。成膜チャンバー10の軸方向一端側の対向ガス供給口11には対向ガス供給機構30が接続され、成膜チャンバー10の軸方向他端側の対向ガス排気口12には対向ガス排気機構50が接続されている。また、成膜チャンバー10の外周面には、原料ガス供給口13となる原料ガス供給管と、原料ガス排気口14となる原料ガス排気管が設けられている。原料ガス供給口13には原料ガス供給機構20が接続され、原料ガス排気口14には原料ガス排気機構40が接続されている。
【0055】
成膜チャンバー10は、被処理材としての基材Sを収容する収容空間を有している。この収容空間は、内径:φ30mm、軸方向長さ:460mmとされている。
【0056】
原料ガス供給機構20は、ステンレス鋼製の原料ガス供給配管21と、第1バブラー22aと、第1マスフローコントローラ(以下、マスフローコントローラを「MFC」と略記する。)23aと、第1ガスボンベ24aと、第2バブラー22bと、第2MFC23bと、第2ガスボンベ24bと、第1~第4開閉バルブ71~74と及び第10開閉バルブ80と、を有している。原料ガス供給配管21の一端は成膜チャンバー10の原料ガス供給口13に接続され、原料ガス供給配管21の他端側は分岐して第1バブラー22aと第2バブラー22bとにそれぞれ接続されている。第1バブラー22a及び第2バブラー22bはバブラー内を恒温状態に維持するマントルヒータを有している。原料ガス供給口13と第1バブラー22aとを接続する原料ガス供給配管21の一方の分岐部分には第1開閉バルブ71が配置され、原料ガス供給口13と第2バブラー22bとを接続する原料ガス供給配管21の他方の分岐部分には第2開閉バルブ72が配置されている。第1バブラー22aは第1配管25aを介して第1ガスボンベ24aに接続されている。第1バブラー22aと第1ガスボンベ24aとを接続する第1配管25aには、第1バブラー22a側から順に第3開閉バルブ73及び第1MFC23aが配置されている。第2バブラー22bは第2配管25bを介して第2ガスボンベ24bに接続されている。第2バブラー22bと第2ガスボンベ24bとを接続する第2配管25bには、第2バブラー22b側から順に第4開閉バルブ74及び第2MFC23bが配置されている。また、原料ガス供給配管21と第1配管25aとは第3配管25cにより接続され、第3配管25cには第10開閉バルブ80が配置されている。
【0057】
対向ガス供給機構30は、ステンレス鋼製の対向ガス供給配管31と、三方バルブ32と、第3MFC33と、第3ガスボンベ34と、第5開閉バルブ75と、を有している。対向ガス供給配管31の一端は成膜チャンバー10の対向ガス供給口11に接続され、対向ガス供給配管31の他端は第3ガスボンベ34に接続されている。対向ガス供給配管31には、対向ガス供給口11側から順に、三方バルブ32、第5開閉バルブ75及び第3MFC33が配置されている。
【0058】
成膜チャンバー10内を排気する排気機構としての原料ガス排気機構40は、ステンレス鋼製の原料ガス排気配管41と、コールドトラップ42と、第1圧力計43と、第6開閉バルブ76と、を有している。原料ガス排気配管41の一端は成膜チャンバー10の原料ガス排気口14に接続され、原料ガス排気配管41の他端はコールドトラップ42に接続されている。コールドトラップ42の排気側は大気に開放されている。原料ガス排気配管41には、原料ガス排気口14側から順に、圧力計43及び第6開閉バルブ76が配置されている。
【0059】
成膜チャンバー10内を排気する排気機構としての対向ガス排気機構50は、ステンレス鋼製の対向ガス排気配管51と、第2圧力計52と、真空ポンプとしてのロータリーポンプ53と、第1及び第2流量調整バルブ54a及び54bと、第7~第9開閉バルブ77~79と、を有している。対向ガス排気配管51の一端は成膜チャンバー10の対向ガス排気口12に接続され、対向ガス排気配管51の他端は第9開閉バルブ79を介して大気に開放されている。対向ガス排気配管51の対向ガス排気口12側には第2圧力計52が配置され、第9開閉バルブ79と第2圧力計52との間における対向ガス排気配管51からは、第1分岐対向ガス排気配管51a及び第2分岐対向ガス排気配管51bが分岐している。第1分岐対向ガス排気配管51はロータリーポンプ53に接続されている。第1分岐対向ガス排気配管51には、対向ガス排気配管51からの分岐点側から順に、第1流量調整バルブ54a及び第7開閉バルブ77が配置されている。第2分岐対向ガス排気配管51bは第2流量調整バルブ54b及び第8開閉バルブ78を介して大気に開放されている。
【0060】
エネルギー付与機構60としては、円筒形状のモジュールヒータからなる発熱体とAl2O3-SiO2セラミックスファイバ製の断熱材とがアルミニウム製の筐体に収容されてなる、電気管状炉を用いる。電気管状炉は、軸方向に二分割開閉可能に構成されており、断面には、原料ガス供給口13となる原料ガス供給管及び原料ガス排気口14となる原料ガス排気管を挟持する2組の半円形状溝を有する。また、発熱体の中空部分に成膜チャンバー10が互いに同軸的になるように収容されている。
【0061】
<被処理材>
外径φ12mm、軸方向長さ500mm、厚さ1.6mmで170nmの平均細孔径の連通孔を有する非対称型α-アルミナ製多孔質チューブを準備した。この多孔質チューブの外表面の両端部をガラスシールした後、中央部にNi添加γ-アルミナをコートし、大気中、800℃で焼成した。これにより、軸方向両端部の外表面にガラスシール部S1が形成され、軸方向中央部の外表面にNi添加γ-アルミナ中間層よりなる被成膜部S2が形成された、被処理材としての基材Sを準備した。被成膜部S2は、軸方向長さ50mm、厚さ2.5μm、平均細孔径8nmであった。
【0062】
<シリカ膜の成膜>
(実施例1)
上記成膜装置を用いて、以下のようにして、上記基材Sの被成膜部S2にシリカ膜を形成した。
【0063】
まず、基材Sを、成膜チャンバー10の一端部から他端部へ挿入した。そして、基材Sの両端部を2つ一組のOリングを介して真空継手で固定し、成膜チャンバー10の内部が気密になるようにした。成膜チャンバー10の内部は、基材Sにより、外周面側に位置する原料ガス供給部15と、内周面側に位置する対向ガス供給部16と、に区画された。なお、原料ガス排気口14は、被成膜部S2の一端側付近に位置し、原料ガス供給口13は被成膜部S2の他端側付近に位置する。
【0064】
次に、成膜チャンバー10をエネルギー付与機構60としての電気管状炉の発熱体内に収容した。この状態で、対向ガス供給口11側の真空継手と対向ガス供給配管31、対向ガス排気口12側の真空継手と対向ガス排気配管51、原料ガス供給口13となる原料ガス供給管と原料ガス供給配管21、原料ガス排気口14となる原料ガス排気管と排気ガス排気配管41と、をそれぞれ接続した。
【0065】
第1ガスボンベ24aにはキャリアガスとしての窒素を、第1バブラー22aには原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDS)を、それぞれ準備した。また、第3ガスボンベ34には対向ガスとしての酸素ガスを準備した。
【0066】
初期状態で、第1~第10開閉バルブ71~80をすべて閉じた。はじめに、ロータリーポンプ53を作動させて第1分岐対向ガス排気配管51aに配置された第7開閉バルブ77を開き、成膜チャンバー10を減圧した。成膜チャンバー10内の圧力が20Paに到達したら、エネルギー付与機構60を作動させて、成膜チャンバー10内の温度を625℃まで昇温させた。このとき、成膜チャンバー10の両端部は、冷却ファン(図示せず)により冷却した。
【0067】
次に、第7開閉バルブ77を閉じてロータリーポンプ53を停止し、第1配管25aに配置された第3開閉バブル73及び第3配管25cに配置された第10開閉バルブ80を開き、成膜チャンバー10内に第1ガスボンベ24aから窒素ガスを導入し、成膜チャンバー10内を窒素ガスで置換した。成膜チャンバー10内の温度(反応温度)を625℃に維持しつつ、第10開閉バルブ80を閉じ、原料ガス供給配管21に配置された第1開閉バルブ71を開け、第1バブラー22a内のHMDSを窒素ガスでバブリングして気化させ、成膜チャンバー10の原料ガス供給部15に原料ガスを導入した。余剰の原料ガスが成膜チャンバー10外に放出されるように、原料ガス排気配管41に配置された第6開閉バルブ76を開放した。
【0068】
次いで、三方バルブ30の作動により対向ガス供給源側を大気開放側に連通させた。そして対向ガス供給配管31に配置された第5開閉バルブ75を開放し、第3ガスボンベ34からの対向ガス供給を開始した。そして、第3MFC33による対向ガス流量の調整が安定し、対向ガスの供給流量が所定値に達した時点で、三方バルブ30の作動により、対向ガス供給源としての第3MFC33及び第3ガスボンベ34を成膜チャンバー10の対向ガス供給口11側に連通させた。これにより、第3ガスボンベ34及び第3MFC33から成膜チャンバー10の対向ガス供給部16へ対向ガスを所定の設定流量で供給した。余剰の対向ガスが成膜チャンバー10外に放出されるように、対向ガス排気配管51に配置された第9開閉バルブ79を開放した。こうして、原料ガスと対向ガスとを対向拡散させて、化学蒸着による成膜処理を実施する反応工程を5分間行った。すなわち、反応工程における成膜時間は5分であった。このときの原料ガスと対向ガスとのガス流量比(sccm)は1:5とした。
【0069】
また本実施例では、この反応工程の間、第1分岐対向ガス排気配管51aに配置された第7開閉バルブ77を開くとともに、第1分岐対向ガス排気配管51aに配置された第1流量調整バルブ54aを調整しつつ、真空ポンプ53を作動させた。これにより、成膜チャンバー10の対向ガス供給部16内を減圧した。また、必要に応じて、第2分岐対向ガス排気配管51bに配置された第8開閉バルブ78を開くとともに、第2分岐対向ガス排気配管51bに配置された第2流量調整バルブ54bを調整することで、対向ガス供給部16内の減圧度合いを微調整した。この第1流量調整バルブ54a及び第2流量調整バルブ54bによる対向ガス供給部16内の減圧度合いの調整は、対向ガス排気配管51に配置された第2圧力計52の表示を確認しながら行った。こうして、反応工程の間、成膜チャンバー10の対向ガス供給部16内を減圧して、(大気圧-10kPa)の圧力、すなわち約91kPaの圧力とした。原料ガス供給部15内の圧力はほぼ大気圧なので、原料ガス供給部15及び対向ガス供給部16間の差圧は10kPaとした。
【0070】
これにより、原料ガスと対向ガスとを被成膜部S2の細孔内で確実に反応させて、安定した成膜を行った。
【0071】
(比較例1)
反応工程で成膜チャンバー10の対向ガス供給部16内を減圧しなかったこと以外は、実施例1と同様にシリカ膜を成膜した。
【0072】
比較例1の反応工程では、成膜チャンバー10の対向ガス供給部16内における大気圧からの減圧を0kPaとし、原料ガス供給部15及び対向ガス供給部16間の差圧は0kPaとした。反応工程における成膜時間は5分であった。
【0073】
(評価1)
実施例1及び比較例1で得られたシリカ膜について、純ガスを用いた減圧式透過率測定を行った。減圧式透過率測定とは、シリカ膜を透過したガスを容積一定の容器に溜めた際に生じる圧力変化に要する時間から透過量を測定し、シリカ膜のガス透過率を算出する方法である。測定には、ガス透過試験装置を用い、定容積圧力変化法に基づき、50℃における単成分ガス透過試験を行った。単成分ガスは、ヘリウム、水素、二酸化炭素、アルゴンおよび窒素を用いた。
【0074】
圧力変化量および計測した変化時間から透過量[mol・s
-1・Pa
-1]を算出してから、単位面積あたりの透過率[mol・m
-2・s
-1・Pa
-1]を算出した。結果を
図2に示す。また、窒素ガスおよび水素ガスの透過率の値から、水素/窒素透過率比(H
2/N
2)を求めた。結果を
図2に合わせて示す。
【0075】
対向ガス供給部16内の圧力を大気圧から10kPa減圧した圧力にすると、減圧しない場合と比較して、ヘリウム、水素、二酸化炭素の透過率は増加する一方、アルゴン、窒素の透過率は減少した。また、水素/窒素透過率比も2倍以上に増加した。
【0076】
ヘリウム、水素、二酸化炭素は主にシリカのネットワーク内を透過し、アルゴン、窒素は膜欠陥を透過する。したがって、反応工程において、対向ガス供給部16内、すなわち対向ガスラインを連続的に減圧することにより、シリカ膜のガス分離性能が向上した。これは、反応工程において、原料ガス供給部15及び対向ガス供給部16間で圧力差を発生させることにより、原料ガスの被成膜部S2の細孔内への導入が促進され、短時間で細孔の封孔が完了することにより、薄膜化と膜欠陥の抑制とが同時に達成されたためと考えられる。
【0077】
(実施例2-1)
原料ガスとしてヘキサメチルジシロキサン(HMDS)とジルコニウムイソポロポキシドを用いること、および反応工程における反応温度及び成膜時間を変更すること以外は、実施例1と同様である。
【0078】
本実施例では、第1ガスボンベ24aにはキャリアガスとしての窒素を、第1バブラー22aには原料ガスとしてのHMDSを、それぞれ準備した。また、第2ガスボンベ24bにはキャリアガスとしての窒素を、第2バブラー22bには原料ガスとしてのジルコニウムイソポロポキシドを、それぞれ準備した。
【0079】
そして、反応工程において、反応温度を700℃とし、また実施例1と同様に対向ガス供給部16内を(大気圧-10kPa)の圧力まで減圧して約91kPaの圧力として、シリカ膜を成膜した。反応工程における成膜時間は4分であった。
【0080】
(実施例2-2)
実施例2-1と同様に、原料ガスとしてヘキサメチルジシロキサン(HMDS)とジルコニウムイソポロポキシドを用いること、および反応工程における反応温度及び成膜時間を変更すること以外は、実施例1と同様である。
【0081】
本実施例では、反応工程において、反応温度を700℃とし、また対向ガス供給部16内を(大気圧-5kPa)の圧力まで減圧して約96kPaの圧力としてシリカ膜を成膜した。原料ガス供給部15及び対向ガス供給部16間の差圧は5kPaとした。反応工程における成膜時間は4分であった。
【0082】
(比較例2)
反応工程で成膜チャンバー10の対向ガス供給部16内を減圧しなかったこと以外は、実施例2-1と同様にシリカ膜を成膜した。
【0083】
比較例2の反応工程では、成膜チャンバー10の対向ガス供給部16内における大気圧からの減圧を0kPaとし、原料ガス供給部15及び対向ガス供給部16間の差圧は0kPaとした。反応工程における成膜時間は4分であった。
【0084】
(評価2)
実施例2-1、実施例2-2及び比較例2で得られたシリカ膜について、評価1と同様に純ガスを用いた減圧式透過率測定を行った。この評価2では、単成分ガスとして、アルゴンの代わりに酸素を用いた。
【0085】
評価1と同様に、単位面積あたりの透過率[mol・m
-2・s
-1・Pa
-1]及び水素/窒素透過率比(H
2/N
2)を求めた結果を
図3に示す。
【0086】
対向ガスラインの圧力を大気圧から10kPa減圧した圧力にすると、水素ガス透過率:1.4×10-7mol・m-2・s-1・Pa-1、水素/窒素透過率比:301が得られた。
【0087】
また、対向ガスラインの圧力を大気圧から5kPa減圧した圧力にすると、減圧しない場合と比較して、水素ガス透過率が増加し、水素/窒素透過率比も2倍以上に増加した。
【0088】
(実施例3-1)
原料ガスとしてヘキサメチルジシロキサン(HMDS)とジルコニウムイソポロポキシドを用いること、および反応工程における反応温度及び成膜時間を変更すること以外は、実施例1と同様である。
【0089】
本実施例では、第1ガスボンベ24aにはキャリアガスとしての窒素を、第1バブラー22aには原料ガスとしてのHMDSを、それぞれ準備した。また、第2ガスボンベ24bにはキャリアガスとしての窒素を、第2バブラー22bには原料ガスとしてのジルコニウムイソポロポキシドを、それぞれ準備した。
【0090】
そして、反応工程において、反応温度を720℃とし、また実施例1と同様に対向ガス供給部16内を(大気圧-10kPa)の圧力まで減圧して約91kPaの圧力として、シリカ膜を成膜した。反応工程における成膜時間は3分であった。
【0091】
(実施例3-2)
実施例3-1と同様に、原料ガスとしてヘキサメチルジシロキサン(HMDS)とジルコニウムイソポロポキシドを用いること、および反応工程における反応温度及び成膜時間を変更すること以外は、実施例1と同様である。
【0092】
本実施例では、反応工程において、反応温度を720℃とし、また対向ガス供給部16内を(大気圧-20kPa)の圧力まで減圧して約81kPaの圧力としてシリカ膜を成膜した。原料ガス供給部1及び対向ガス供給部16間の差圧は20kPaとした。反応工程における成膜時間は3分であった。
【0093】
(比較例3)
反応工程で成膜チャンバー10の対向ガス供給部16内を減圧しなかったこと以外は、実施例3-1と同様にシリカ膜を成膜した。
【0094】
比較例3の反応工程では、成膜チャンバー10の対向ガス供給部16内における大気圧からの減圧を0kPaとし、原料ガス供給部15及び対向ガス供給部16間の差圧は0kPaとした。反応工程における成膜時間は3分であった。
【0095】
(評価3)
実施例3-1、実施例3-2及び比較例3で得られたシリカ膜について、評価1と同様に純ガスを用いた減圧式透過率測定を行った。
【0096】
評価1と同様に、単位面積あたりの透過率[mol・m
-2・s
-1・Pa
-1]及び水素/窒素透過率比(H
2/N
2)を求めた結果を
図4に示す。
【0097】
対向ガスラインの圧力を大気圧から10kPa減圧した圧力にすると、水素ガス透過率:5.57×10-8mol・m-2・s-1・Pa-1、水素/窒素透過率比:276が得られた。
【0098】
対向ガスラインの圧力を大気圧から20kPa減圧した圧力にすると、減圧しない場合と比較して、水素ガス透過率がやや増加し、水素/窒素透過率比もやや増加した。原料ガス供給部15及び対向ガス供給部16間の圧力差の増大に伴い、原料ガスの細孔内への導入が促進される。そうすると、Ni添加γ-アルミナ中間層よりなる被成膜部Sよりも細孔奥側で細孔径の大きな多孔質チューブの細孔部分で、原料ガスと対向ガスとの衝突、反応が生じることになる。これにより、膜欠陥の増加と封孔分の膜厚増加が生じたものと考えられる。
【符号の説明】
【0099】
10:成膜チャンバー 20:原料ガス供給機構
30:対向ガス供給機構 40:原料ガス排気機構
50:対向ガス排気機構 60:エネルギー付与機構
15:原料ガス供給部 16:対向ガス供給部
11:対向ガス供給口 12:対向ガス排気口
13:原料ガス供給口 14:原料ガス排気口
30:三方バルブ 31:対向ガス供給配管
51:対向ガス排気配管 51a:第1分岐対向ガス排気配管
51b:第2分岐対向ガス排気配管 53:ロータリーポンプ(真空ポンプ)
54a:第1流量調整バルブ 54b:第2流量調整バルブ
71~80:第1~第10開閉バルブ S:基材
S2:被成膜部