(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】駆動機構及びこれを備えた車両搬送装置
(51)【国際特許分類】
B62D 9/00 20060101AFI20240214BHJP
B60P 3/07 20060101ALI20240214BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240214BHJP
B62D 7/08 20060101ALI20240214BHJP
B62D 7/22 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B62D9/00
B60P3/07 Z
B62D5/04
B62D7/08 A
B62D7/22
(21)【出願番号】P 2020061927
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】518316114
【氏名又は名称】株式会社アーミス
(73)【特許権者】
【識別番号】520112737
【氏名又は名称】株式会社ブルーヘイズ
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】竹内 学
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真一
(72)【発明者】
【氏名】田中 孔明
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-083660(JP,A)
【文献】特開2011-174500(JP,A)
【文献】特開2016-049921(JP,A)
【文献】特開平10-316009(JP,A)
【文献】特開平07-172340(JP,A)
【文献】特開2004-306913(JP,A)
【文献】特開平7-236661(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/257461(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 9/00
B62D 5/04
B62D 7/08
B62D 7/22
B60P 3/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、前記基部に回転可能な状態で取り付けられた転舵軸と、前記転舵軸の水平方向両側に設けられ、前記転舵軸と一体に回転可能な一対の駆動輪と、各駆動輪のトルクを個別に制御可能な駆動手段と、前記基部に回転可能な状態で取り付けられた補助回転軸と、前記転舵軸の回転を増速して前記補助回転軸に伝達する増速手段と、前記補助回転軸に取り付けられ
たロータリーダンパとを有する駆動機構。
【請求項2】
前記駆動手段が駆動モータであり、
前記転舵軸が中空であり、その内周に前記駆動モータから延びる配線が通っている請求項1に記載の駆動機構。
【請求項3】
前記増速手段が、前記転舵軸に固定された転舵軸ギヤと、前記補助回転軸に固定された補助ギヤとで構成された請求項1又は2に記載の駆動機構。
【請求項4】
請求項1
~3の何れか1項に記載の駆動機構と、車両が搭載される本体とを備えた車両搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動機構及びこれを備えた車両搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工場で製造した車両は、通常、複数の車両を搭載可能なトレーラーを用いて車両待機場まで搬送される。この場合、トレーラーを運転する作業者が必要になるため、コストアップを招く。そこで、下記の特許文献1には、車両を自動で搬送する自走式の車両搬送装置が示されている。このような車両搬送装置を用いれば、トレーラーを運転する作業者が不要となるため、低コスト化が図られる。
【0003】
上記のような自走式の車両搬送装置には、車輪を転舵する駆動機構を設ける必要がある。例えば、下記の特許文献2に示されている駆動機構は、回転板を有する転舵軸と、回転板を回転させる転舵用モータ(転舵軸駆動用モータ)と、回転板に取り付けられた駆動輪を駆動する走行用モータ(駆動輪軸駆動用モータ)とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-78099号公報
【文献】特開2001-199356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、駆動機構に転舵用モータ及び走行用モータを設けると、駆動機構の大型化及び高コスト化を招く。特に、車両搬送装置では、重量物である車両が搭載された状態で車輪を操舵する必要があるため、出力が大きい操舵用モータが必要となり、駆動機構のさらなる大型化及び高コスト化を招く。
【0006】
例えば、転舵軸を中心に一体に回転可能な一対の駆動輪を設け、各駆動輪のトルクを独立して制御可能とすれば、各駆動輪のトルクを異ならせることで、転舵軸を回転させて駆動輪を転舵させることができる。この場合、転舵用モータを省略できるため、駆動機構の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0007】
上記のような駆動機構が走行しているときに、一対の駆動輪の一方が床面から浮いたり滑ったりすると、転舵軸が急激に回転する恐れがある。例えば、転舵軸にロータリーダンパを設けて回転抵抗を付与すれば、転舵軸の急激な回転を抑えることができる。しかし、転舵軸の急激な回転を抑えるためには、比較的大型のロータリーダンパが必要となるため、駆動機構の大型化を招く。
【0008】
また、上記の駆動機構には、転舵軸の回転角度を検知するための角度センサを設けることが多い。しかし、駆動輪の走行方向を正確に設定するためには、転舵軸の回転角度を高精度に検知する必要があるため、検知能の高い高価な角度センサが必要となって駆動機構の高コスト化を招く。
【0009】
以上のような問題は、車両搬送装置の駆動機構に限らず、一対の駆動輪のトルクを個別に制御して転舵を行う駆動機構全般に生じる。
【0010】
そこで、本発明は、一対の駆動輪のトルクを個別に制御して転舵を行う駆動機構の小型化及び低コスト化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、基部と、前記基部に回転可能な状態で取り付けられた転舵軸と、前記転舵軸の水平方向両側に設けられ、前記転舵軸と一体に回転可能な一対の駆動輪と、各駆動輪のトルクを個別に制御可能な駆動手段と、前記基部に回転可能な状態で取り付けられた補助回転軸と、前記転舵軸の回転を増速して前記補助回転軸に伝達する増速手段と、前記補助回転軸に取り付けられ、前記補助回転軸の回転を利用して機能を発揮する部品とを有する駆動機構を提供する。
【0012】
このように、転舵軸の回転を増速して補助回転軸に伝達することで、補助回転軸のトルクが転舵軸のトルクよりも小さくなる。この補助回転軸にロータリーダンパを取り付ければ、転舵軸にロータリーダンパを取り付けた場合と比べて、ロータリーダンパで吸収するトルクが小さくて済むため、小型のロータリーダンパを使用することができる。
【0013】
また、転舵軸の回転を増速して補助回転軸に伝達することで、転舵軸の回転角度が増幅されて補助回転軸の回転角度に表れる。こうして増幅された補助回転軸の回転角度を角度センサで検知することにより、検知精度の比較的低い安価な角度センサを用いた場合でも、転舵軸の回転角度を高精度に検知することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、一対の駆動輪のトルクを個別に制御して転舵を行う駆動機構の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】車両搬送装置で車両を自動で搬送する自動搬送システムを示す平面図である。
【
図5】上記車両搬送装置の駆動輪ユニット(本発明の一実施形態に係る駆動機構)の断面図である。
【
図6】上記駆動輪ユニットの転舵軸の拡大断面図である。
【
図7】上記車両搬送装置がカーブしながら走行する様子を示す平面図である。
【
図8】コンテナヤードに配された車両及び上記車両搬送装置の平面図である。
【
図9】コンテナヤードに配された車両及び上記車両搬送装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1に示す車両搬送装置1は、工場Fで完成した車両Cを、車両待機場であるコンテナヤードYに搬送するものである。車両搬送装置1は、システム制御部Sからの無線指令(点線矢印)に従って、工場FとコンテナヤードYとの間を往復する。本実施形態では、車両Cが前輪駆動車であり、車両Cの左右の前輪を車両搬送装置1に搭載し、車両の左右の前輪を接地した状態で車両Cを搬送する場合を示す。
【0018】
車両搬送装置1は、
図2~4に示すように、車両Cの左右の前輪W1が搭載される本体2と、本発明の一実施形態に係る駆動機構としての駆動輪ユニット3と、本体2に設けられた補助輪4と、システム制御部Sとの間で無線指令を送受信する送受信器8とを有する。尚、以下では、車両搬送装置1の各部を説明するにあたり、車両搬送装置1に車両Cを搭載した状態で、当該車両Cの車幅方向(
図3及び
図4の左右方向)を「幅方向」と言い、当該車両Cの前方(
図2の左側、
図4の下側)及び後方(
図2の右側、
図4の上側)をそれぞれ「前方」及び「後方」と言う。
【0019】
本体2には、車両Cの前輪W1の転がりを防止する車輪止め5と、駆動輪ユニット3に電力を供給するバッテリー6と、駆動輪ユニット3を制御する制御部7とが搭載される。
【0020】
駆動輪ユニット3は、本体2の幅方向両端付近に設けられる。各駆動輪ユニット3は、
図5に示すように、転舵軸9と、転舵軸9に取り付けられた一対の駆動輪10(以下、「駆動輪対10’」という。)と、各駆動輪10を回転駆動する駆動手段と、これらを収容するケーシング13とを備える。
【0021】
転舵軸9は、本体2に固定された基部としてのフレーム14に、軸受15を介して回転自在に取り付けられる。図示例では、転舵軸9が鉛直方向に延びている。転舵軸9を支持する軸受15は、ラジアル方向及びスラスト方向の荷重を支持するものであることが好ましく、例えば円すいころ軸受が使用される(
図6参照)。
【0022】
各駆動輪対10’を構成する一対の駆動輪10は、同軸上に並べて配される(
図5参照)。一対の駆動輪10の外径は等しく、図示例では、同一の駆動輪10を軸心方向に対向させて使用している。
【0023】
駆動手段は、例えば、駆動輪10ごとに設けられた駆動モータ11で構成される。本実施形態の駆動モータ11は、各駆動輪10の内周に配された、いわゆるインホイールモータである。駆動モータ11は、転舵軸9の水平方向両側に設けられる。図示例では、両駆動モータ11の本体11bが、転舵軸9の直径方向両側に固定され、両駆動モータ11の回転軸11aが、転舵軸9の直径方向の同軸上に配される。各駆動モータ11の回転軸11aは、それぞれ駆動輪10の軸心に固定される。各駆動モータ11は、バッテリー6及び制御部7(
図4参照)と接続され、制御部7からの指令に基づいて回転駆動される。以上により、一対の駆動輪10からなる各駆動輪対10’が、本体2に対して転舵軸9を中心に一体に回転可能とされる。本実施形態では、駆動輪対10’が、転舵軸9を中心に360°回転可能とされる。
【0024】
駆動輪ユニット3には、本発明の特徴的構成である補助回転軸21及び増速手段が設けられる。以下、補助回転軸21及びその周辺の機構を
図6に基づいて詳しく説明する。
【0025】
補助回転軸21は、軸受22を介して回転可能な状態でフレーム14に取り付けられる。補助回転軸21は、転舵軸9と平行に設けられる。転舵軸9の回転は、増速手段により増速されて補助回転軸21に伝達される。本実施形態では、転舵軸9に固定された転舵軸ギヤ16と、補助回転軸21に固定された補助ギヤ23とで、増速手段が構成される。補助ギヤ23は、転舵軸ギヤ16よりも小径である(歯数が少ない)。増速手段はこれに限らず、例えばチェーンやベルトを用いたものであってもよい。
【0026】
補助回転軸21には、ロータリーダンパ24が取り付けられる。ロータリーダンパ24は、補助回転軸21に固定されたロータ24aと、フレーム14に固定されたハウジング24bと、ロータ24aとハウジング24bとの間の密閉空間に封入された粘性流体(例えばオイル)とを有する。補助回転軸21は、転舵軸12の回転が増速して伝達されるため、補助回転軸21のトルクは転舵軸9のトルクよりも小さい。このようにトルクの小さい補助回転軸21にロータリーダンパ24を設けることで、転舵軸9に設ける場合と比べて、ロータリーダンパ24を小型化することができる。
【0027】
補助回転軸21には、角度センサ25が取り付けられる。角度センサ25としては、例えば、回転角を電圧に変換して検知するポテンショメータが用いられる。角度センサ25は、フレーム14に固定された本体25aと、本体25aから突出した回転軸25bとを有する。角度センサ25の回転軸25aは補助回転軸21に固定され、一体回転可能とされる。図示例では、角度センサ25の回転軸25aが、補助回転軸21の延長線上に同軸に配され、補助回転軸21の上端に固定される。補助回転軸21は、転舵軸9の回転が増速して伝達されるため、補助回転軸21の回転角度は、転舵軸9の回転角度よりも大きくなる。このように増幅された補助回転軸21の回転角度を角度センサ25で検知することで、転舵軸9の回転角度の検知精度が高められる。言い換えると、検知精度が比較的低い安価な角度センサ25を用いた場合でも、転舵軸9の回転角度の検知精度を維持することができる。
【0028】
また、車両搬送装置1の走行中は、路面からの衝撃が駆動輪10を介して転舵軸9に伝わる。このため、ロータリーダンパ24や角度センサ25を転舵軸9に直接取り付けると、これらの部品に路面からの衝撃が加わるため、これらの部品が故障しやすくなる。本実施形態では、上記のように、増速手段を介して駆動軸9と連動する補助回転軸21にロータリーダンパ24や角度センサ25を取り付けることで、これらの部品に路面からの衝撃が伝わりにくくなるため、これらの部品の故障を防止できる。特に、増速手段が、転舵軸ギヤ16と補助ギヤ23のように、駆動軸9と補助回転軸21との上下方向の相対移動を許容する構成であることで、駆動軸9の上下方向の振動を変速手段で吸収できるため、補助回転軸21の振動が抑えられ、ロータリーダンパ24や角度センサ25の故障をより確実に防止できる。
【0029】
ところで、本実施形態では、転舵軸9が中空の円筒状であり、各駆動モータ11から延びる配線17が転舵軸9の内周を通っている(
図5参照)。これにより、駆動モータ11を駆動輪対10’とともに転舵させたときに、各駆動モータ11から延びる配線17とフレーム14との干渉を回避できる。特に、本実施形態では、重量物である車両を搬送するため、駆動モータ11に大きな電力を供給する必要があり、配線17が太くなる。このような太い配線17を転舵軸12の周囲に配すると、配線17を屈曲させてフレーム14との干渉を回避することが難しい。特に、本実施形態では、駆動モータ11が駆動輪対10’と共に360°回転可能であるため、配線17とフレーム14とが干渉しやすい。従って、上記のように、転舵軸9の内周に配線17を通すことが好ましい。
【0030】
このように転舵軸9の内周に配線17を通すと、転舵軸9の上端開口部から配線17が突出するため、転舵軸9の上端に角度センサ25を取り付けることができない。そこで、上記のように、転舵軸9と連動して回転する補助回転軸21を設けることで、補助回転軸21の端部に角度センサ25を取り付けることが可能となる。
【0031】
補助輪4は、駆動輪10の軸心よりも前方又は後方あるいはこれらの双方に設けられ、本実施形態では、駆動輪10の軸心よりも前方に設けられる。補助輪4の数は特に限定されず、例えば幅方向に離隔した2箇所に設けられる。各補助輪4は、駆動輪10よりも外径が小さい車輪で構成される。各補助輪4は、自身の軸心周りに回転自在で、且つ、鉛直方向の回転軸周りに回転自在な状態で、本体2に取り付けられる。
【0032】
送受信器8は、システム制御部S(
図1参照)からの電波を送受信可能な位置に設けられ、制御部7と接続される。本実施形態では、
図2及び
図3に示すように、搭載される車両Cの上面と略同じ高さに送受信器8が設けられる。図示例では、駆動輪ユニット3のケーシング13から上方に延びた支柱18の上端に送受信器8が取り付けられる。送受信器8は、例えば、各駆動輪ユニット3の上方に一個ずつ設けられる。
【0033】
以下、上記の車両搬送装置1により車両Cを搬送する手順を説明する。
【0034】
まず、工場F(
図1参照)で、車両Cの前部を図示しないリフト手段で上昇させ、この状態で、車両Cの前部の下方に車両搬送装置1の本体2を潜り込ませる。そして、リフト手段で車両Cの前部を降下させ、左右の前輪W1を車両搬送装置1の本体2の上に搭載する。このとき、前輪W1を、車輪止め5の間に嵌まり込ませることで、前輪W1の前後移動が規制される(
図2参照)。
【0035】
こうして、車両Cの前輪W1(駆動輪)を車両搬送装置1に搭載し、後輪W2(従動輪)を接地した状態で、車両搬送装置1を駆動して車両Cを搬送する(
図1の矢印P1参照)。具体的には、システム制御部Sからの指令を車両搬送装置1の送受信器8(
図2及び
図3参照)が受信し、この指令が制御部7に伝達され、この指令に従って制御部7が各駆動輪10の駆動モータ11を駆動する。
【0036】
ここで、車両搬送装置1を走行させる際の駆動輪10の制御を、
図7を用いて詳しく説明する。尚、
図7では、車両搬送装置1を簡略化して示している。また、ここでは、各駆動輪対10’の左側の駆動輪を「10L」、右側の駆動輪を「10R」と言う。また、
図7において、四角で囲んだ数字は、各駆動輪10L、10Rのトルクの大きさを表している。
【0037】
車両搬送装置1を直進させるときは、
図7(A)に示すように、全ての駆動輪10L、10Rが同じトルクで駆動されるように、各駆動モータ11が制御される。図示例では、全ての駆動輪10L、10Rのトルクが「8」に設定される。
【0038】
そして、
図7(B)に示すように、車両搬送装置1がカーブの入口に差し掛かったら、各駆動輪対10’の右側の駆動輪10Rのトルクが左側の駆動輪10Lのトルクよりも大きくなるように、各駆動モータ11が制御される。図示例では、各駆動輪対10’の右側の駆動輪10Rのトルクが「8」、左側の駆動輪10Lのトルクが「7」に設定される。これにより、
図7(B)に矢印で示すように、各駆動輪対10’が本体2に対して転舵軸9(
図5参照)を中心に回転し、直進方向から左側に操舵される(点線参照)。
【0039】
そして、カーブの途中では、
図7(C)に示すように、右側の駆動輪対10’のトルクを左側の駆動輪対10’のトルクよりも大きくすることで、車両搬送装置1が左側にカーブしながらスムーズに走行する。このとき、各駆動輪対10’の両駆動輪10L、10Rのトルクを略等しくすることで、各駆動輪対10’の操舵角が固定される。図示例では、左側の駆動輪対10’の駆動輪10L、10Rのトルクが「7」、右側の駆動輪対10’の駆動輪10L、10Rのトルクが「8」に設定される。尚、車両搬送装置1がカーブすると、補助輪4が地面との摩擦により鉛直方向の回転軸周りに回転して、車両搬送装置1の走行方向に追従する。
【0040】
そして、カーブの出口に差し掛かったら、
図7(D)に示すように、各駆動輪対10’の左側の駆動輪10Lのトルクが右側の駆動輪10Rのトルクよりも大きくなるように、各駆動モータ11のトルクが制御される。図示例では、各駆動輪対10’の左側の駆動輪10Lのトルクが「8」、右側の駆動輪10Rのトルクが「7」に設定される。これにより、
図7(D)に矢印で示すように、各駆動輪対10’が右側に操舵されて、直進方向に戻る(点線参照)。
【0041】
その後、
図7(E)に示すように、全ての駆動輪10L、10Rのトルクを等しくすることで、車両搬送装置1が直進する。図示例では、全ての駆動輪10L、10Rのトルクが「8」に設定される。
【0042】
以上のように、各転舵軸9に一対の駆動輪10を取り付け、各駆動輪10のトルクを駆動モータ11で個別に制御することで、駆動輪10を操舵するための専用のモータを設ける必要が無くなるため、駆動機構の小型化及び低コスト化が図られる。また、駆動輪10は車両Cの重量により地面に強く押し付けられているため、駆動輪10を転舵するためには大きな駆動力が必要となるが、上記のように、駆動モータ11により一対の駆動輪10のトルクを異ならせて転舵することで、例えば転舵軸9をモータで直接回転駆動する場合と比べて、モータの負荷が軽減される。
【0043】
上記の車両搬送装置1では、転舵軸9が軸受15のみで本体2に支持されているため、車両搬送装置1の走行中は、各駆動輪10と地面との摩擦により、各転舵軸9が所定の位置(回転角度)で維持される。例えば、車両搬送装置1を直進走行させている場合(
図7(A)(E)参照)、各駆動輪対10’の左側の駆動輪10Lと地面との摩擦により転舵軸9に加わるトルクと、各駆動輪対10’の右側の駆動輪10Rと地面との摩擦により転舵軸9に加わるトルクとが相殺し、その結果各転舵軸9が直進位置で保持される。
【0044】
例えば、駆動輪対10’の一方の駆動輪10(例えば左側の駆動輪10L)が地面から浮き上がったり、地面に対して滑ったりすると、当該駆動輪10Lと地面との摩擦によるトルクが0になり、他方の駆動輪10(例えば右側の駆動輪10R)と地面との摩擦によるトルクのみが転舵軸9に加わる。この転舵軸9のトルクが、増速手段(転舵軸ギヤ16及び補助ギヤ23)を介して補助回転軸21に伝達される。この補助回転軸21のトルクを、補助回転軸21に設けたロータリーダンパ24で吸収することにより、補助回転軸21及びこれと連動した転舵軸9の急激な回転を防止できる。
【0045】
また、上記の車両搬送装置1の走行中は、角度センサ25で補助回転軸21の回転角度を検知することで、転舵軸9の回転角度、すなわち駆動輪10の走行方向を検知している。図示例では、転舵軸9の回転が増速手段で増速されて補助回転軸21に伝達されるため、転舵軸9の回転角度よりも補助回転軸21の回転角度が大きくなる。このように増幅された補助回転軸21を角度センサ25で検知し、この回転角度と、増速手段の増速比(すなわち、転舵軸ギヤ16と補助ギヤ23のギヤ比)とから、転舵軸9の回転角度が検知される。この転舵軸9の回転角度に基づいて、車両搬送装置1が所定の方向に走行しているか否かが監視される。
【0046】
そして、システム制御部Sからの指令に従って車両搬送装置1を所定の経路に沿って走行させ、コンテナヤードY内の所定位置まで車両Cを搬送する(
図8の矢印Q1参照)。そして、図示しないリフト手段で車両Cの前部を上昇させ、この状態で車両搬送装置1を前方に走行させて車両Cの下方から退避させる(
図8の矢印Q2参照)。その後、リフト手段で車両Cの前部を降下させ、前輪W1を接地させる。
【0047】
こうして車両Cから分離された車両搬送装置1は、コンテナヤードY内に配置された多数の車両Cの前後方向間に配置される。本実施形態では、車両搬送装置1が、車両Cの前輪W1のみを搭載するものであるため、車両搬送装置1の前後方向寸法D1は車両Cのホイールベースよりも短くて済み、例えば車両Cのホイールベースの1/2以下とすることができる。このため、コンテナヤードYの車両Cの前後方向間隔D2を小さくすることができ、コンテナヤードY内に車両Cを密に配置することが可能となる。
【0048】
その後、車両搬送装置1をその場に停止させた状態で、駆動モータ11により各駆動輪対10’の一対の駆動輪10を互いに逆向きに同トルクで回転駆動することにより、各駆動輪対10’をその場で90°転舵させる(
図9参照)。その後、各駆動輪10を同方向に同トルクで回転させることにより、車両搬送装置1を幅方向(
図9の左右方向)に走行させる。車両搬送装置1が幅方向に走行し始めると、補助輪4が地面との摩擦により鉛直方向の回転軸周りに90°回転し、走行方向が幅方向となる。以上により、車両搬送装置1が車両Cの前後方向間から退避される(
図1及び
図9の矢印P2参照)。
【0049】
車両搬送装置1が車両Cの間から抜け出したら、各駆動輪対10’を90°転舵して前後方向とした後、それぞれ逆向きに回転駆動して、車両搬送装置1をその場で90°回転させる(
図1の点線参照)。その後、各駆動輪対10’を90°転舵して幅方向とした後、各駆動輪10を駆動して車両搬送装置1を幅方向に走行させて、工場Fまで返送する(
図1の矢印P3参照)。そして、工場Fに戻ってきた車両搬送装置1に新たな車両Cを搭載して、コンテナヤードYまで搬送する。以上を繰り返すことにより、工場FからコンテナヤードYまで車両Cを自動で搬送することができる。
【0050】
本発明は上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0051】
上記の実施形態では、補助回転軸21にロータリーダンパ24及び角度センサ25の双方を取り付けた場合を示したが、特に必要が無ければこれらのうちの一方を省略してもよい。
【0052】
また、以上の実施形態では、前輪駆動車の前輪のみを車両搬送装置1に搭載して搬送する場合を示したが、これに限られない。例えば、後輪駆動車を搬送する場合は、車両の後輪のみを車両搬送装置1に搭載し、前輪を接地させた状態で、車両を搬送してもよい。また、四輪駆動車を搬送する場合は、2台の車両搬送装置1を用いて、一方の車両搬送装置1に前輪を搭載し、他方の車両搬送装置1に後輪を搭載してもよい。
【0053】
また、上記の実施形態では、2組の駆動輪対10’と2個の補助輪4を設けた車両搬送装置1を示したが、これに限られない。例えば、本体2の幅方向中央に補助輪4を1個だけ設けたり、駆動輪対10’の前方及び後方に補助輪4を設けたりしてもよい。あるいは、2組の駆動輪対10’と、それよりも前方又は後方にさらに駆動輪10を設けてもよい。あるいは、駆動輪対10’を1組としてもよく、例えば、本体2の幅方向中央に1組の駆動輪対10’を設け、その後方の幅方向両端付近に一対の補助輪4を設けてもよい。
【0054】
また、上記の車両搬送装置で搬送する車両は、完成車両に限らず、例えば、荷台を搭載する前のトラック等(いわゆる、架装前車両)を含む。また、本発明は、車両搬送装置に限らず、他の搬送物(例えば、自動車の部品等)を搬送する自動搬送装置や、他の自走式車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 車両搬送装置
2 本体
3 駆動輪ユニット(駆動機構)
9 転舵軸
10 駆動輪
10’ 駆動輪対
11 駆動モータ
12 転舵軸
14 フレーム(基部)
16 転舵軸ギヤ(増速手段)
21 補助回転軸
23 補助ギヤ(増速手段)
24 ロータリーダンパ
25 角度センサ
C 車両
W1 前輪
W2 後輪
S システム制御部
F 工場
Y コンテナヤード