(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】固形粉末化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/19 20060101AFI20240214BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20240214BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20240214BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240214BHJP
A61Q 1/12 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
A61K8/19
A61K8/02
A61K8/25
A61K8/73
A61Q1/12
(21)【出願番号】P 2019124151
(22)【出願日】2019-07-03
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591275665
【氏名又は名称】三信鉱工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】豊田 直晃
(72)【発明者】
【氏名】岡寺 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】浅野 浩志
(72)【発明者】
【氏名】浅井 巌
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-064913(JP,A)
【文献】特開昭63-066111(JP,A)
【文献】特開昭59-181205(JP,A)
【文献】特開平06-122612(JP,A)
【文献】特開2003-012461(JP,A)
【文献】特開2006-282510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成成分として、下記成分(A)を含有する固形粉末化粧料。
(A)構成成分として下記成分(a)、及び(b)を含有する化粧料用球状複合粉体
(a)メディアン径が0.5~2.1μmのタルクであり、その40重量%水分散体をE型粘度計で測定したときのせん断粘度(せん断速度10/sec)が10,000mPa・s以上となる物理特性を有するもの
(b)孔を有さない水溶性多糖類
【請求項2】
構成成分(b)が、孔を有さない澱粉であることを特徴とする請求項1記載の固形粉末化粧料。
【請求項3】
構成成分(b)が、孔を有さない種実澱粉であることを特徴とする請求項1又は2記載の固形粉末化粧料。
【請求項4】
構成成分(A)の構成成分(a)と構成成分(b)の重量比が、98:2~80:20であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の固形粉末化粧料。
【請求項5】
請求項1記載の成分(A)に加えて、さらに下記成分を含有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項記載の固形粉末化粧料。
(B)疎水化セルロース
【請求項6】
成分(B)が、酢酸セルロースであることを特徴とする請求項5記載の固形粉末化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、球形性が高く、柔らかい感触特性を有する環境適合性の化粧料用球状複合粉体を含有する固形粉末化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックごみの海洋流出に伴う環境、及び生態系への悪影響が表面化し、世界的に関心が寄せられている(非特許文献1)。特に粒子径5mm以下の合成ポリマー粒子は、通称プラスチックマイクロビーズ(以下PMB)と呼称され、各国で規制対象となりつつある。
【0003】
化粧品分野においては、洗顔料等に配合されるスクラブ剤(メディアン径数百μmのPMB)がまず規制対象とされ、国内各社でセルロース等の天然由来粒子へと代替されている(非特許文献2)。
【0004】
一方、プレストファンデーション(以下PF)には、感触改良を目的としてメディアン径10μm前後のナイロンやポリウレタンといった合成ポリマーからなる球状粉体が含有される。このPMBは、独特の転がり性や柔らかさを有することから、PF製剤の感触特性に及ぼす影響は大きく、他の原料への代替が非常に難しいという現状がある。
【0005】
PFに含有されるPMBの代替候補原料としては、球状シリカや球状セルロースが挙げられる。粒子形態制御によって多孔質構造を有する球状セルロースが開示されている(特許文献1、2)。しかしながら、いずれも上記合成ポリマーと比較して感触は硬く、代替原料として満足できるものではなかった。
【0006】
このような背景のもと、環境適合性で、かつ感触の柔らかい従来の合成ポリマー(PMB)に代替しうる化粧料用球状粉体の開発が潜在的に望まれており、ひいてはPMBを実質的に排除した固形粉末化粧料の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開1994-136175号公報
【文献】特開1985-197746号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】甲子園大学紀要 No.45、p37-44(2018) プラスチックによる海洋汚染の現状と課題、とくにマイクロプラスチックについて
【文献】日本化粧品工業連合会自主基準通知文書 2016年3月17日発表 洗い流しのスクラブ製品におけるマイクロプラスチックビーズの使用について
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、球形性が高く、感触の柔らかい環境適合性の化粧料用球状複合粉体を含有することで、PMBを含有せずとも柔らかい感触を有し、かつ耐衝撃性にも優れた固形粉末化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる実情において、本願発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の鉱物、及び水溶性多糖類から構成される凝集粒子が、球形性が高く、感触の柔らかい化粧料用球状複合粉体として利用でき、当該球状複合粉体を含有する固形粉末化粧料が、PMBを含有せずとも柔らかい感触で、かつ優れた耐衝撃性を示すことを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0011】
本願発明は、特定のメディアン径を有する鉱物と、水溶性多糖類とを含有する化粧料用球状複合粉体を含有することを特徴とする固形粉末化粧料を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本願発明は、球形性が高く、感触の柔らかい環境適合性の化粧料用球状複合粉体を含有する固形粉末化粧料を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】粒子製造実施例1で得られた化粧料用球状複合粉体の電子顕微鏡像
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本願発明の、球形性が高く、感触の柔らかい環境適合性の化粧料用球状複合粉体を含有する固形粉末化粧料を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。本願発明によれば、感触の柔らかい従来の合成ポリマー(PMB)を含有せずとも、柔らかい感触を有し、かつ耐衝撃性にも優れた固形粉末化粧料を得ることができる。
【0015】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)の構成成分(a)は、Si、Al、Mg、及びKのうち2種類以上を構成元素とする天然鉱物、あるいは合成鉱物であり、通常、化粧料に用いられる鉱物であれば特に限定されない。例えば、構成元素としてSi、Mgを含有するタルク、構成元素としてSi、Al、Kを含有するセリサイト、構成元素としてSi、Alを含有するカオリン等が挙げられる。
【0016】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)の構成成分(a)のメディアン径は、0.5~2.1μmである。より好ましくは0.6~1.5μmである。2.1μmよりも大きいと、得られる化粧料用球状複合粉体の球形性が低下する。0.5μm以上であれば、良好な球形性を有する化粧料用球状複合粉体を得ることができる。
【0017】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)の構成成分(a)のメディアン径は、汎用の粒度分布測定装置によって特定することができる。例えば、レーザー回折方式、光散乱方式、画像解析方式のいずれを用いても良い。これらの中で、本願発明の粒子径範囲を測定することを考慮すると、レーザー回折方式が好ましく、具体的には、Partica LA-950V2(HORIBA社製)等を用いてメディアン径を測定することができる。
【0018】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)の構成成分(a)としては、市販品を用いることができる。例えば、ナノエース D-600(成分:タルク、メディアン径:0.6μm、日本タルク社製)や、ナノエース D-1000F(成分:タルク、メディアン径1.0μm:日本タルク社製)等を用いることができる。また、目的とするメディアン径を有する鉱物を得るために、2.1μmよりも大きいメディアン径の鉱物に機械的粉砕処理を加えて別途調製しても良い。
【0019】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)の構成成分(a)の物理特性として、さらに重要なのは、構成成分(a)の分散状態の指標となるせん断粘度である。分散状態により球状複合粉体の球形性が変化する。本願発明では、構成成分(a)の40重量%水分散体をE型粘度計で測定したときに得られるせん断粘度(せん断速度10/sec)は、100mPa・s以上である。より好ましくは1,000mPa・s以上、最も好ましくは10,000mPa・s以上である。40重量%水分散体のせん断粘度が100mPa・sよりも小さい天然鉱物、あるいは合成鉱物では、得られる化粧料用球状複合粉体の球形性が低下する恐れがある。40重量%水分散体のせん断粘度が100mPa・s以上の天然鉱物、あるいは合成鉱物であれば、球形性の良好な化粧料用球状複合粉体を得ることができる。
【0020】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)を構成する天然鉱物、あるいは合成鉱物の40重量%水分散体のせん断粘度は、汎用のE型粘度計を用いて一定せん断速度下でのせん断粘度として特定することができる。具体的には、Physica MCR 301(アントンパール社製)を用いてせん断粘度を測定することができる。
【0021】
上記物理的特性を考慮すると、本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)の構成成分(a)として、より好ましくはタルク、カオリンであり、最も好ましくはタルクである。
【0022】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)の構成成分(b)水溶性多糖類は、通常、化粧料に用いられる水溶性多糖類であれば特に限定されない。具体的には、例えば、澱粉、水溶性セルロース誘導体、及びその塩等が挙げられる。澱粉としては、例えば、米澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ等の種実澱粉や、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉等の根茎澱粉が挙げられる。水溶性セルロース誘導体、及びその塩としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられる。
【0023】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)の構成成分(b)として、好ましくは澱粉である。より好ましくは種実澱粉であり、最も好ましくは米澱粉である。種実澱粉は、根茎澱粉と比較して水膨潤性が低いため、水溶液粘度が比較的低く、ハンドリング性が良い。
【0024】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)の複合化工程における、構成成分の水分散体濃度(構成成分(a)と構成成分(b)の含有量を合計した水中濃度)は2~40重量%である。より好ましくは5~20重量%である。40重量%よりも大きいと、構成成分(a)と構成成分(b)を含有する水分散体の粘度が高くなり、ハンドリング性が低下する。2重量%よりも小さいと、固形分濃度が少なくなることで、化粧料用球状複合粉体の収率が低下する。
【0025】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)のメディアン径は、3~30μmである。より好ましくは5~20μmである。30μmよりも大きいと粒感を生じ、柔らかい感触特性に劣る。
【0026】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)の固形分重量比(鉱物の含有量:水溶性多糖類の含有量)は、98:2~80:20である。より好ましくは95:5~85:15である。水溶性多糖類の構成割合が20重量%よりも大きいと、複合化工程における水分散体の粘度が高くなり、ハンドリング性が低下する。一方、2重量%よりも小さいと、鉱物間のつなぎ成分が少なくなることで、化粧料用球状複合粉体の収率が低下する。
【0027】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)は、未処理で使用することもできるが、適宜、表面処理を施して使用しても良い。表面処理剤としては、通常、化粧料用粉体に用いられる表面処理剤であれば特に限定されない。具体的な表面処理剤として、例えば、フッ素化合物、シリコーン化合物、エステル化合物、金属石鹸、ロウ、油脂、炭化水素等が挙げられる。
【0028】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)は、以下に示す水分散体調製工程(1)、(2)、及び複合化工程(3)を経て調製される。
(1)機械式撹拌機を用いて、水溶性多糖類の水溶液を得る。この際、水溶性多糖類を水中へ溶解させるために、適宜加熱して溶解させることができる。
(2)工程(1)で得られた水溶性多糖類の水溶液に鉱物を添加し、機械式撹拌機を用いて、水分散体を得る。
(3)工程(2)で得られた分散体を噴霧乾燥機に供し、高温場における微細液滴の急速固化により、鉱物と水溶性多糖類からなる化粧料用球状複合粉体を得る。
【0029】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)の製造工程(1)、及び(2)において使用される機械式撹拌機は、通常、液中分散操作に用いられる撹拌機であれば特に限定されない。例えば、ディスパーミキサー、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー等が挙げられる。
【0030】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)の製造工程(2)において、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)やポリ塩化アルミニウム(PAC)等の凝集剤や、その他、無機塩等を用いて水分散体の粘度を適宜調整しても良い。
【0031】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)の製造工程(3)において使用される噴霧乾燥機は、通常、造粒体製造に用いられる噴霧乾燥機であれば特に限定されない。噴霧乾燥機は、噴霧機構の違いにより、大きくノズル方式と回転ディスク方式に分類できるが、いずれの噴霧機構を備える噴霧乾燥機も用いることができる。
【0032】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)の製造において、好ましいメディアン径を有する化粧料用球状複合粉体を得るためには、上記噴霧乾燥機のなかでも、特に2流体以上のノズル方式、又は回転ディスク方式噴霧機構を備える噴霧乾燥機を用いることが好ましい。
【0033】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)化粧料用球状複合粉体の含有量は、0.1~20重量%である。より好ましくは1~15重量%であり、最も好ましくは3~10重量%である。0.1重量%より少ないと、感触特性としての柔らかさが不十分であり、20重量%よりも多いと固形粉末化粧料中の球状粒子比率が高くなり、耐衝撃性を低下させる恐れがある。
【0034】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(B)疎水化セルロースは、結晶セルロースを、シリコーン化合物、界面活性剤、脂肪酸、ワックス等の通常公知の処理剤で表面処理して疎水化した粒子、又は、結晶セルロースのグルコース単位の3つのヒドロキシ基を一部、又は全て化学修飾することで疎水化したセルロースで構成される粒子であるが、本願発明では、これらのなかでも、グルコース単位の3つのヒドロキシ基を一部、又は全て化学修飾することで疎水化したセルロースで構成される粒子であることが好ましい。
【0035】
セルロース自体は分子内水素結合の影響により結晶性が高く疎水的であるが、本願発明で好ましいとした疎水化セルロースは、グルコース単位の3つのヒドロキシ基を一部、又は全て化学修飾することで結晶性を解消しつつ疎水化したものを言う。つまり、ファンデルワールス力やクーロン力といった物理的な相互作用に基づく疎水化セルロースとは明確に区別されるものである。
【0036】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(B)疎水化セルロースの含有量は、1~10重量%であり、より好ましくは3~8重量%である。
【0037】
さらに、本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(B)疎水化セルロースとしては、グルコース単位の3つのヒドロキシ基を一部、又は全て化学修飾することで疎水化したセルロースのなかでも、特に酢酸セルロース(アセチルセルロース)であることが好ましい。
【0038】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する上記以外の粉末としては、例えば、タルク、セリサイト、マイカ、合成マイカ、シリカ、硫酸バリウム、アルミナ、窒化ホウ素、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛等の無機粉末、シルクパウダー、結晶セルロースパウダー等の有機粉末等が挙げられ、これらより1種又は2種以上を用いることができる。また、これら粉末はフッ素化合物、シリコーン化合物、界面活性剤、脂肪酸、ワックス等の通常公知の処理剤により表面処理を施して用いてもよい。
【0039】
本願発明の固形粉末化粧料に含有する上記以外の構成成分として、化粧料において一般的に用いられる油剤を含有することができる。油剤としては、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、セチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、2-ヘキシルデカノール、2-エチルヘキサン酸セチル、イソノナン酸イソトリデシル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、ジ2-エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、ジカプリル酸ネオペンチルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリン、トリイソステアリン酸グリセリン、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル類、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、オリーブ油、マカデミアナッツ油、ヒマワリ油、ラノリン、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ビーズワックス、キャンデリラロウ、カルナウバロウ、鎖状又は環状のジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等が挙げられる。
【0040】
また、本願発明の固形粉末化粧料に含有する上記成分に加えて、化粧料において一般的に用いられるその他の成分を含有してもよく、例えば、界面活性剤、香料、薬効成分、清涼剤、紫外線吸収剤、安定化剤、酸化防止剤、防腐剤、pH調整剤、粘度調整剤、防腐剤、美容成分等が挙げられる。
【0041】
本願発明の固形粉末化粧料基材は、通常の粉末化粧料を製造する装置を使用し、構成成分を撹拌混合して調製される。具体的には、成分(A)を含む粉末を均一に混合する。この粉末に油剤を加えて均一に分散させ、粉砕することにより調製される。このようにして得られる粉末化粧料基材を容器に充填、成型して固形粉末化粧料を得る。
【実施例】
【0042】
以下、本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)の粒子製造実施例、及び成分(A)を含有する固形粉末化粧料の実施例により本願発明をさらに詳細に説明するが、本願発明はこれにより何ら制限されるものではない。尚、表中の数値は含有量(重量%)を意味する。まず、本願発明の固形粉末化粧料に含有する成分(A)化粧料用球状複合粉体の粒子製造実施例を挙げる。
【0043】
(製造方法)粒子製造実施例1~8、粒子製造比較例1
工程(1):下記表1の成分8~10(水溶性多糖類)を成分11(蒸留水)中に添加し、ホモミキサー(T.K.ロボミックス;プライミクス社製)を用いて水溶液を調製した。成分8、及び9の溶解には、予め90℃に加温した蒸留水を用いた。
工程(2):下記表1の成分1~7(鉱物)を、工程(1)で得た水溶性多糖類の水溶液中に添加し、ホモミキサーを用いて、下記条件により鉱物と水溶性多糖類の水分散体を調製した。この際、水分散体濃度が9.2重量%、及び鉱物と水溶性多糖類の固形分重量比が87:13となるようにそれぞれ調整した。
ホモミキサー回転速度:5000rpm
分散処理時間:30分
工程(3):工程(2)で得られた水分散体を、下記条件のもと噴霧乾燥機(L-12型;大川原化工機社製)に供し、成分1~10からなる化粧料用球状複合粉体を得た。
噴霧方式:回転ディスク
ディスク回転速度:25,000rpm
水分散体流量:160mL/分
給気温度:220℃
排気温度:105℃
【0044】
(球形性評価方法)
上記粒子製造例、及び粒子製造比較例の化粧料用球状複合粉体の球形性について、走査型電子顕微鏡を用いて拡大倍率500倍で観察するときに、その観察視野に当該複合粉体が100個以上存在する条件で、円形度が0.95以上の複合粉体を球形とみなし、その球状と認められる複合粉体の個数割合を、以下に示す判定基準に従って判定した。(円形度の計算は、画像解析から複合粉体の投影面積と周長を求め算出した。)
<判定基準>
〔球形と認められる複合粉体の個数割合〕 〔判定〕
75%以上 ◎
50%以上 ○
50%未満 △
25%未満 ×
【0045】
(柔らかさ評価方法)
20~40代の化粧品専門パネル5名に、上記粒子製造実施例、及び粒子製造比較例の化粧料用球状複合粉体を指先、あるいは手の甲に伸ばして柔らかさについて、以下の評価基準により評点を付し、化粧料用球状複合粉体ごとに評点の平均点を算出して、以下に示す判定基準に従って判定した。
<評価基準>
〔使用性〕 〔評点〕
非常に良好 :5
良好 :4
普通 :3
やや不良 :2
不良 :1
<判定基準>
〔評点の平均点〕 〔判定〕
4.5以上 ◎
3.5以上4.5未満 ○
2以上3.5未満 △
2未満 ×
【0046】
【表1】
※1 ナノエース D-1000F(日本タルク社製)
※2 ナノエース D-600(日本タルク社製)
※3 FG-15F(日本タルク社製)
※4 SG-95(日本タルク社製)
※5 P-3(日本タルク社製)
※6 セリサイト FSE(三信鉱工社製)を、機械的粉砕工程により微粒化
※7 ASP-170(BASF社製)を、機械的粉砕工程により微粒化
【0047】
表1の粒子製造実施例1~3で用いた各鉱物(タルク、セリサイト、カオリン)の、40重量%水分散体におけるせん断粘度(せん断速度10/sec)は、それぞれ、81,650、340、2,920mPa・sである。
【0048】
図1に、粒子製造実施例1で得られた化粧料用球状複合粉体の電子顕微鏡像を示す。非常に球形性の高い球状複合粉体が得られた。
【0049】
同等のメディアン径を有する鉱物の種類を変えて化粧料用球状複合粉体の製造を実施した結果、いずれも良好な球状複合粉体が得られ、特に鉱物としてタルクを用いた系で最も良好な球形性を有する球状複合粉体が得られた(粒子製造実施例1~3)。
【0050】
メディアン径の異なるタルクを用いて化粧料用球状複合粉体の製造を実施した結果、メディアン径2.1μm以下のタルクを用いた系では、良好な球形性を有する球状複合粉体が得られたが、メディアン径5μmのタルクを用いた系では球形性が低下した(粒子製造実施例1、6~8、粒子製造比較例1)。
【0051】
水溶性多糖類の種類を変えて化粧料用球状複合粉体の製造を実施した結果、いずれも良好な球状複合粉体が得られ、特に水溶性多糖類として米澱粉、カルボキシメチルセルロースNaを用いた系で最も良好な球形性を有する球状複合粉体が得られた(粒子製造実施例1、4、5)。
【0052】
(製造方法)粒子製造実施例9~14
工程(1):下記表2の成分2を予め90℃に加温した成分3中に添加し、ホモミキサー(T.K.ロボミックス;プライミクス社製)を用いて水溶液を調製した。
工程(2):下記表2の成分1を、工程(1)で得た成分2の水溶液中に添加し、ホモミキサーを用いて、下記条件により鉱物と水溶性多糖類の水分散体を調製した。この際、水分散体濃度が1~45重量%となるように、それぞれ調整した。また、鉱物と水溶性多糖類の固形分重量比が87:13となるように調整した。
ホモミキサー回転速度:5000rpm
分散処理時間:30分
工程(3):工程(2)で得られた水分散体を噴霧乾燥機(MDL-050B型;藤崎電機社製)に供し、成分1、及び2からなる化粧料用球状複合粉体を得た。
噴霧方式:3流体ノズルPN3005
水分散体流量:45mL/分
給気温度:250℃
排気温度:105℃
【0053】
【0054】
表2の粒子製造実施例9~14では、タルクと米澱粉の固形分重量比を87:13に固定し、水分散体濃度を変えて化粧料用球状複合粉体の製造を実施した。構成成分の水分散体濃度が2~40重量%の系では、良好な球形性、及び柔らかさを有する球状複合粉体が得られ、特に構成成分の水分散体濃度が5重量%、及び20重量%の系で、最も良好な球形性、及び柔らかさを有する球状複合粉体が得られた(粒子製造実施例9~12)。構成成分の水分散体濃度が1重量%の系では、粒子製造実施例9~12と比較して球状複合粉体の収率が低く、球形性、及び柔らかさも劣る結果であった(粒子製造実施例13)。また構成成分の水分散体濃度が45重量%の系では、球状複合粉体の収率は高かったが、粒子製造実施例9~12と比較して球形性、及び柔らかさで劣る結果であった(粒子製造実施例14)。
【0055】
(製造方法)粒子製造実施例15~20
工程(1):下記表3の成分2を予め90℃に加温した成分3中に添加し、ホモミキサー(T.K.ロボミックス;プライミクス社製)を用いて水溶液を調製した。
工程(2):下記表3の成分1を、工程(1)で得た成分2の水溶液中に添加し、ホモミキサーを用いて、下記条件により鉱物と水溶性多糖類の水分散体を調製した。この際、鉱物と水溶性多糖類の固形分重量比が1:99~75:25となるように、それぞれ調整した。また、水分散体濃度が9.2重量%となるように調整した。
ホモミキサー回転速度:5000rpm
分散処理時間:30分
工程(3):工程(2)で得られた水分散体を噴霧乾燥機(MDL-050B型;藤崎電機社製)に供し、成分1、及び2からなる化粧料用球状複合粉体を得た。
噴霧方式:4流体ノズルSE4003
水分散体流量:45mL/分
給気温度:250℃
排気温度:105℃
【0056】
【0057】
表3の粒子製造実施例15~20では、タルクと米澱粉の水分散体濃度を9.2重量%に固定し、固形分重量比を変えて化粧料用球状複合粉体の製造を実施した。構成成分の固形分重量比が98:2~80:20の系では、良好な球形性、及び柔らかさを有する球状複合粉体が得られ、特に構成成分の固形分重量比が95:5、及び85:15の系で、最も良好な球形性、及び柔らかさを有する球状複合粉体が得られた(粒子製造実施例15~18)。構成成分の固形分重量比が99:1、及び75:25の系では、粒子製造実施例15~18と比較して、いずれも球状複合粉体の球形性、及び柔らかさで劣る結果であった(粒子製造実施例19、20)。
【0058】
続いて以下に、本願発明の固形粉末化粧料の実施例を挙げる。尚、表中の数値は含有量(重量%)を意味する。
【0059】
【表4】
※8 顔料級酸化チタン(平均一次粒子径250nm)
【0060】
(製造方法)実施例1~10、比較例1、2
成分1~12(粉体部)をヘンシェルミキサーにて均一に混合し、アトマイザーにて粉砕を行った。さらに、粉体部の混合粉砕物と、予め混合した成分13、及び14(油剤部)をヘンシェルミキサーに加えて均一に混合し、アトマイザー粉砕後、ふるいを通して粉末化粧料基材を得た。得られた粉末化粧料基材を中皿に充填し、圧縮成型することでパウダーファンデーションを得た。
【0061】
(評価方法1:使用感)
20~40代の化粧品専門パネル5名に、本願発明の実施例、及び比較例の固形粉末化粧料を使用してもらい、肌に塗布する際の柔らかさについて、以下の評価基準により評点を付し、固形粉末化粧料ごとに評点の平均点を算出して、以下に示す判定基準に従って判定した。
<評価基準>
〔使用感〕 〔評点〕
非常に良好 :5
良好 :4
普通 :3
やや不良 :2
不良 :1
<判定基準>
〔評点の平均点〕 〔判定〕
4.5以上 ◎
3.5以上4.5未満 ○
2以上3.5未満 △
2未満 ×
【0062】
(評価方法2:耐衝撃性)
本願発明の実施例、及び比較例の固形粉末化粧料をそれぞれ5個用意し、樹脂皿に充填した状態のまま、1mの高さからアクリル板上に正立方向で自由落下させ、落下後の表面状態を観察し、以下の評価基準により評点を付し、固形粉末化粧料ごとに評点の平均点を算出して、以下に示す判定基準に従って判定した。
<評価基準>
〔耐衝撃性〕 〔評点〕
変化なし :4
僅かにヒビ割れがあるが、使用性に問題なし :3
ヒビ割れ、浮き有り :2
大きなヒビ割れや浮き有り :1
<判定基準>
〔評点の平均点〕 〔判定〕
3.5以上 ◎
3以上3.5未満 ○
2以上3未満 △
2未満 ×
【0063】
本願発明の実施例1~10は、いずれも合成ポリマー(PMB)を含有せずとも、感触特性としての柔らかさ、及び耐衝撃性に優れたパウダーファンデーションであった。
【0064】
成分(A)化粧料用球状複合粉体を含有しない系、又は含有量が0.1重量%未満の系では、柔らかさが不十分であり(比較例1、実施例2)、20重量%よりも多く配合した系では、使用感は十分であったが耐衝撃性が低下する傾向であった(実施例7)。本結果から、成分(A)の含有量が0.1~20重量%である固形粉末化粧料において、本願発明の効果が十分に発揮されることを確認した。成分(B)に該当する酢酸セルロースを単独で含有した系では、使用感、及び耐衝撃性ともに不十分であった(比較例2)。一方、成分(A)と成分(B)を併用した系(実施例8~10)では、それぞれ単独で含有した系(実施例3、6、比較例2)と比較して、感触特性としての柔らかさ、及び耐衝撃性が良好であり、相乗効果が認められた。
【0065】
実施例11:パウダーファンデーション
成分名 含有量(重量%)
1.シリコーン処理合成マイカ 残量
2.シリコーン処理セリサイト 10.00
3.シリコーン処理タルク 15.00
4.シリコーン処理顔料級酸化チタン 10.00
5.シリコーン処理黄酸化鉄 3.30
6.シリコーン処理弁柄 0.40
7.シリコーン処理黒酸化鉄 0.19
8.粒子製造実施例1記載の球状複合粉体
(3重量%ステアリン酸処理) 5.00
9.無水ケイ酸 5.00
10.酢酸セルロース 5.00
11.メチルパラベン 0.20
12.エチルパラベン 0.10
13.塩化ナトリウム 0.10
14.アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム 1.00
15.ジメチコン 2.00
16.ジイソノナン酸ネオペンチルグリコール 5.00
17.メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 4.00
18.(イソステアリン酸/ベヘン酸)
(グリセリル/ポリグリセリル-6)エステルズ 0.80
19.トコフェロール 0.05
20.香料 0.05
合計100.00
【0066】
(製造方法)実施例11
成分1~14(粉体部)をヘンシェルミキサーにて均一に混合し、アトマイザーにて粉砕を行った。さらに、粉体部の混合粉砕物と、予め加熱混合しておいた成分15~19(油剤部)をヘンシェルミキサーに加えて均一に混合し、アトマイザー粉砕後、ふるいを通して粉末化粧料基材を得た。得られた粉末化粧料基材を中皿に充填し、圧縮成型することでパウダーファンデーションを得た。
【0067】
実施例12:パウダーファンデーション
成分名 含有量(重量%)
1.シリコーン処理合成マイカ 残量
2.シリコーン処理セリサイト 10.00
3.シリコーン処理タルク 15.00
4.シリコーン処理顔料級酸化チタン 10.00
5.シリコーン処理黄酸化鉄 3.30
6.シリコーン処理弁柄 0.40
7.シリコーン処理黒酸化鉄 0.19
8.粒子製造実施例1記載の球状複合粉体
(3重量%ジステアリン酸スクロース処理) 10.00
9.窒化ホウ素 5.00
10.酢酸セルロース 1.00
11.メチルパラベン 0.20
12.エチルパラベン 0.10
13.塩化ナトリウム 0.10
14.アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム 1.00
15.ジメチコン 2.00
16.コハク酸ジエチルヘキシル 5.00
17.メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 4.00
18.トコフェロール 0.05
19.香料 0.05
合計100.00
【0068】
(製造方法)実施例12
成分1~14(粉体部)をヘンシェルミキサーにて均一に混合し、アトマイザーにて粉砕を行った。さらに、粉体部の混合粉砕物と、予め加熱混合しておいた成分15~19(油剤部)をヘンシェルミキサーに加えて均一に混合し、アトマイザー粉砕後、ふるいを通して粉末化粧料基材を得た。得られた粉末化粧料基材を中皿に充填し、圧縮成型することでパウダーファンデーションを得た。
【0069】
実施例13:プレストパウダー
成分名 含有量(重量%)
1.タルク 残量
2.シリコーン処理合成セリサイト 5.00
3.シリコーン処理合成マイカ 20.00
4.シリコーン処理黄酸化鉄 0.24
5.シリコーン処理弁柄 0.12
6.シリコーン処理黒酸化鉄 0.03
7.粒子製造実施例1記載の球状複合粉体
(5重量%アモジメチコン処理) 7.00
8.酢酸セルロース 3.00
9.メチルパラベン 0.20
10.ジメチコン 1.50
11.ワセリン 0.50
12.スクワラン 1.50
13.メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 2.00
14.トコフェロール 0.05
15.香料 0.05
合計100.00
【0070】
(製造方法)実施例13
成分1~9(粉体部)をヘンシェルミキサーにて均一に混合し、アトマイザーにて粉砕を行った。さらに、粉体部の混合粉砕物と、予め加熱混合しておいた成分10~15(油剤部)をヘンシェルミキサーに加えて均一に混合し、アトマイザー粉砕後、ふるいを通して粉末化粧料基材を得た。得られた粉末化粧料基材を中皿に充填し、圧縮成型することでプレストパウダーを得た。
【0071】
実施例11~13に含有した成分(A)は、いずれも表面処理を施した球状複合粉体であり、特に柔らかい感触、及び耐衝撃性に優れた固形粉末化粧料であった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本願発明は、柔らかい感触を有する従来の合成ポリマー(PMB)を含有せずとも、柔らかい感触を有し、かつ耐衝撃性にも優れた固形粉末化粧料を提供するものである。本願発明によれば、環境に配慮した化粧品製剤を開発することができる。