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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】薬物キャリア剤及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/40 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
A61K47/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019234202
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021102569
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】本山 敬一
(72)【発明者】
【氏名】東 大志
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 理沙子
(72)【発明者】
【氏名】横山 龍馬
(72)【発明者】
【氏名】石倉 幹大
(72)【発明者】
【氏名】柳原 和典
(72)【発明者】
【氏名】高木 宏基
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-037673(JP,A)
【文献】Macromolecules,2001,Vol.34, No.11,pp.3574-3580
【文献】Carbohydrate Polymers,2013年,Vol.92, No.2,pp.1308-1314
【文献】Carbohydrate Research,2013年,Vol.380,pp.149-155
【文献】Cyclodextrin: From Basic Research to Market,International Cyclodextrin Symposium,米国,2000年,10th, May21-24,pp.71-75
【文献】Polymer Journal,1997年,Vol.29, No.7,pp.563-567
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,1997年,Vol.7, No.2,pp.109-112
【文献】Journal of Inclusion Phenomena and Molecular Recognition in Chemistry,1996年,Vol.25, No.1-3,pp.69-72
【文献】Journal ofInclusion Phenomena and Macrocyclic Chemistry,2003年,Vol.44, No.1-4,pp.39-47
【文献】Journal of DrugDelivery Science and Technology,2006年,Vol.16, No.1,pp.45-48
【文献】Advanced Materials,2011年,Vol.23, No.31,pp.3526-3530
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00- 47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるシクロデキストリン誘導体を含み、脳移行用である薬物キャリア剤。
【化1】
[上記一般式(1)において、mは0~7、nは1~8、かつm+n=6~8であり、R 又はRのいずれかは-Hで表される基を示しもう一方は-OH又は下記式(a)で表される基を示し、R又はRのいずれかは-Hで表される基を示しもう一方は-OH又は下記式(a)で表される基を示し、Rは-OH又は下記式(a)で表される基を示し、下記式(a)は少なくとも1つ存在する。]
-NH-Z ・・・(a)
[式中、Zは、グルクロン酸のカルボキシル基がアミノ基と縮合して形成される単糖の残基を示す。]
【請求項2】
前記一般式(1)中、R及びRは-Hで表わされる基を示す、請求項1に記載の薬物キャリア剤。
【請求項3】
前記一般式(1)中、m+n=7である、請求項1又は2に記載の薬物キャリア剤。
【請求項4】
前記一般式(1)中、Rは前記式(a)で表される基を示し、R、R、R及びRは-H又は-OHで表される基を示す、請求項1~のいずれか1項に記載の薬物キャリア剤。
【請求項5】
前記一般式(1)中、Rは前記式(a)で表される基を示し、R及びRは-OHで表わされる基を示し、R及びRは-Hで表わされる基を示す、請求項1~のいずれか1項に記載の薬物キャリア剤。
【請求項6】
前記一般式(1)中、nは1である、請求項1~のいずれか1項に記載の薬物キャリア剤。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の薬物キャリア剤と、薬物とを、1剤に又は別々に含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的とする臓器、組織、細胞等への薬物送達のための薬物キャリア剤、及びその薬物キャリア剤を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血液と脳との間には、物質の移行を制限する血液脳関門(Blood-Brain Barrier;BBB)が存在することが知られている。これは、脳血管内皮細胞が密着結合することにより細胞同士の間隙が物理的に狭くなっていること、並びに細胞自体の物質の取り込み及び排出が選択的であることによると考えられている。血液脳関門の透過選択性は非常に高く、中枢神経系に障害が生じても、薬物を中枢神経系の目的領域に送達することができないのが現状である。
【0003】
これまでに脳への薬物送達方法はいくつか報告されており、例えば、特許文献1には、グリコシル化により抗体を脳へ送達する技術が記載されている。特許文献2には、高分子ポリマーが溶液中で自己組織化することで形成されるナノキャリアの表面をグルコースにより修飾することで、薬物を脳へ送達できる技術が記載されている。特許文献3には、BBBを通過することのできるペプチドを付与することにより、薬物を脳へ輸送する技術が記載されている。
【0004】
一方、シクロデキストリン(Cyclodextrin;以下、単に「CD」という場合がある。)はグルコース残基がα-1,4結合した環状のオリゴ糖であり、立体的に見れば、いわば底のないバケツ様の構造で、空洞外部が親水性であるのに対し、空洞内部が疎水性を示すという特徴を有する。この特徴により、CDは空洞内部に特定の有機分子(ゲスト分子)を包み込むように取り込む現象(包接)を示すことが知られている。
【0005】
このCDの包接作用により、医薬品分野においては、薬物の可溶化、安定化、バイオアベイラビリティの改善、呈味改善等のさまざまな用途で利用されている。また、糖やアミノ酸、官能基等をCDに付与することにより、生体適合性や指向性を向上させたCD誘導体が開発されており、薬物送達システム(Drug Delivery System;DDS)や医薬品原薬(Active Pharmaceutical Ingredients;API)への応用に関する研究が進められている。例えば、非特許文献1には、β-CDの1級水酸基にカプロン酸2分子をスペーサーとして葉酸修飾することにより、葉酸レセプターを介するがん細胞を標的としたDDSキャリアが記載されている。非特許文献2には、メチル化β-CDに葉酸を修飾することにより、葉酸レセプターを介してがん細胞を標的とした抗がん剤として利用することが記載されている。非特許文献3には、CDにリガンドとなる糖鎖を修飾することにより、各種レクチンとの相互作用を向上させることができることから、特定組織への薬物送達を目的としたDDSキャリアとして利用できる可能性があることが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2009-520691
【文献】WO2017/002979
【文献】特開2018-165253
【非特許文献】
【0007】
【文献】シクロデキストリンの科学と技術、株式会社シーエムシー出版発行、2013年12月、P.153~169
【文献】シクロデキストリンの科学と技術、株式会社シーエムシー出版発行、2013年12月、P.145~146
【文献】シクロデキストリンの科学と技術、株式会社シーエムシー出版発行、2013年12月、P.70~78
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、脳移行用のシクロデキストリン誘導体について報告は少なく、その新規開発が望まれている。
【0009】
本発明の目的は、シクロデキストリンを利用して、薬物送達システムに有用な薬物キャリア剤を提供することにある。また、その薬物キャリア剤を含む医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため検討を重ねた結果、還元末端を有する糖修飾シクロデキストリンが薬物キャリア剤として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の構成を有するものである。
【0012】
[1] 下記一般式(1)で表されるシクロデキストリン誘導体を含む薬物キャリア剤。
【0013】
【化1】
[上記一般式(1)において、mは0~7、nは1~8、かつm+n=6~8であり、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して、R又はRのいずれかは-Hで表される基を示しもう一方は-OH又は下記式(a)で表される基を示し、R又はRのいずれかは-Hで表される基を示しもう一方は-OH又は下記式(a)で表される基を示し、Rは-OH又は下記式(a)で表される基を示し、下記式(a)は少なくとも1つ存在する。]
-NH-Z ・・・(a)
[式中、Zは、ウロン酸又はウロン酸を含むオリゴ糖のカルボキシル基がアミノ基と縮合して形成される、還元性基を有する単糖又はオリゴ糖の残基を示す。]
[2] 前記一般式(1)中、R及びRは-Hで表わされる基を示す、[1]に記載の薬物キャリア剤。
[3] 前記式(a)中、Zは、ウロン酸のカルボキシル基がアミノ基と縮合して形成される、還元性基を有する単糖の残基である、[1]又は[2]に記載の薬物キャリア剤。
[4] 前記ウロン酸が、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、アラビノン酸、フルクツロン酸、タガツロン酸、イズロン酸、グルロン酸から選ばれた1種又は2種以上である、[3]に記載の薬物キャリア剤。
[5] 前記一般式(1)中、m+n=7である、[1]~[4]のいずれかに記載の薬物キャリア剤。
[6] 前記一般式(1)中、Rは前記式(a)で表される基を示し、R、R、R及びRは-H又は-OHで表される基を示す、[1]~[5]のいずれかに記載の薬物キャリア剤。
[7] 前記一般式(1)中、Rは前記式(a)で表される基を示し、R及びRは-OHで表わされる基を示し、R及びRは-Hで表わされる基を示す、[1]~[5]のいずれかに記載の薬物キャリア剤。
[8] 前記一般式(1)中、nは1である、[1]~[7]のいずれかに記載の薬物キャリア剤。
[9] 脳移行用である、[1]~[8]のいずれかに記載の薬物キャリア剤。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の薬物キャリア剤と、薬物とを、1剤に又は別々に含む医薬組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シクロデキストリンを利用して、薬物送達システムに有用な薬物キャリア剤を提供することができる。また、その薬物キャリア剤を含む医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】還元末端を有するグルコース修飾β-CD(調製例1)の構造式を示す図である。
図2】還元末端を有していないグルコース修飾β-CD(調製例2)の代表的な構造を示す図である。
図3】試験例2において、未修飾のβ-CD又は各修飾β-CDとの複合体を形成させた蛍光物質TPPSのヒト脳血管内皮細胞(hCMEC/D3細胞)への取り込みを共焦点顕微鏡により観察した結果を示す図表である。
図4】試験例2において、未修飾のβ-CD又は各修飾β-CDとの複合体を形成させた蛍光物質TPPSのヒト脳血管内皮細胞(hCMEC/D3細胞)への取り込みを相対蛍光強度により調べた結果を示す図表である。
図5】試験例3において、蛍光ラベル化した還元末端を有するグルコース修飾β-CDのグルコース存在・非存在下におけるヒト脳血管内皮細胞(hCMEC/D3細胞)への取り込みを共焦点顕微鏡により観察した結果を示す図表である。
図6】試験例3において、蛍光ラベル化した還元末端を有するグルコース修飾β-CDのグルコース存在・非存在下におけるヒト脳血管内皮細胞(hCMEC/D3細胞)への取り込みを相対蛍光強度により調べた結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、シクロデキストリン誘導体、より具体的には還元末端(還元性基)を有する糖修飾シクロデキストリンを用いて、薬物キャリアとして利用するものである。
【0017】
本明細書において「シクロデキストリン」は、当業者に周知の物質であり、これと同義である。すなわち、例えば、澱粉などのα-1,4-グルカンにシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させることにより、その分子内転移反応によって生成する環状のα-1,4-グルカンが挙げられる。このように生成する環状グルカンの重合度としては主として6~8であり、それぞれα-シクロデキストリン(α-CD)、β-シクロデキストリン(β-CD)、γ-シクロデキストリン(γ-CD)と呼ばれている。シクロデキストリンは、立体的にみれば、いわば底のないバケツ様の構造をしており、空洞外部が親水性であるのに対し、空洞内部が疎水性を示すという特徴を有する。この特徴により、シクロデキストリンは空洞内部に特定の有機分子など(ゲスト分子)を包み込むように取込む現象(包接)を示し、包接複合体が形成される。一般にシクロデキストリンによるゲスト分子の包接は、シクロデキストリンの空洞のサイズ及びゲスト分子のサイズ又はゲスト分子の構造の一部のサイズが一致する場合に起こり得る。また、シクロデキストリン空洞内部は疎水性であるため、ゲスト分子が疎水性である場合の方が比較的包接されやすい傾向がある。
【0018】
本発明に用いられるCD誘導体は、シクロデキストリンにアミノ基を修飾させ、そのアミノ基とウロン酸(例えばグルクロン酸)の6位炭素のカルボキシル基がアミド結合により結合した構造を有している。具体的には、下記一般式(1)で表される構造を有しており、この構造により、分岐(糖修飾)構造を形成するウロン酸(例えばグルクロン酸)の1位炭素がアルデヒド基となり還元性を示す。なお、本明細書において、当該構造を有するシクロデキストリン誘導体を、「還元末端を有する糖修飾シクロデキストリン」などと記載する場合がある。上記分岐構造は、例えば、α-CD、β-CD、γ-CDのいずれに付与されたものでもよい。各CDはそれぞれ性質が異なるため、求められる性質に応じていずれかを適宜選択すればよい。
【0019】
ウロン酸は、単糖を酸化して得られ、単糖のアルデヒド基またはカルボニル基と共にカルボキシル基1個を有するカルボン酸である。特に制限はないが、例えば、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、アラビノン酸、フルクツロン酸、タガツロン酸、イズロン酸、グルロン酸などを用いることができ、これらウロン酸から選ばれた1種又は2種以上のものを用いることができる。また、ウロン酸を含むオリゴ糖なども、上記還元性を示す分岐構造を形成するために用いることができる。ウロン酸を含むオリゴ糖としては、例えばヒアルロン酸オリゴ糖が挙げられる。
【0020】
また、本明細書において「ウロン酸」又は「ウロン酸オリゴ糖」とは、ウロン酸ナトリウムなどのウロン酸塩、ウロン酸オリゴ糖塩等、塩の形態のものも含む意味である。塩の形態ではないもの、塩の形態のもののいずれを用いるかは、所望とするCD誘導体の種類によって適宜選択すればよいが、塩の形態のものを用いると、反応時に水等の溶媒に溶解しやすく、かつ、安価に入手できるというメリットが得られる場合がある。
【0021】
具体的には、本発明に用いるCD誘導体は、下記一般式(1)で表される化合物からなる。
【0022】
【化2】
[上記一般式(1)において、mは0~7、nは1~8、かつm+n=6~8であり、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して、R又はRのいずれかは-Hで表される基を示しもう一方は-OH又は下記式(a)で表される基を示し、R又はRのいずれかは-Hで表される基を示しもう一方は-OH又は下記式(a)で表される基を示し、Rは-OH又は下記式(a)で表される基を示し、下記式(a)は少なくとも1つ存在する。]
-NH-Z ・・・(a)
[式中、Zは、ウロン酸又はウロン酸を含むオリゴ糖と、アミノ基とが縮合して形成される、還元性基を有する単糖又はオリゴ糖の残基を示す。]
【0023】
なお、上記シクロデキストリン誘導体は、シクロデキストリン中の糖修飾されたグルコース残基が、例えば、その2位炭素及び/又は3位炭素がエピマー化して、マンノース残基、アロース残基、アルトロース残基等の構造になる場合があるが、当該構造を有するCD誘導体も本発明に用いられるCD誘導体に含まれる。
【0024】
上記一般式(1)で表されるシクロデキストリン誘導体は、出発物質として下記構造を有するアミノ化CDと、ウロン酸又はウロン酸を含むオリゴ糖とを、縮合剤の存在下で縮合反応させることにより得ることができる。
【0025】
【化3】
[上記一般式(2)において、mは0~7、nは1~8、かつm+n=6~8であり、RN1、RN2、RN3、RN4、RN5は、それぞれ独立して、RN2又はRN4のいずれかは水素原子もう一方は水酸基又はアミノ基を示し、RN3又はRN5のいずれかは水素原子もう一方は水酸基又はアミノ基を示し、RN1は水酸基又はアミノ基を示し、アミノ基は少なくとも1つ存在する。]
【0026】
すなわち、シクロデキストリンを構成するいずれか1つ以上の糖の、6位、2位、3位のいずれか1以上の水酸基をアミノ化してなるアミノ化シクロデキストリンと、ウロン酸又はウロン酸を含むオリゴ糖とを、縮合剤の存在下で縮合反応させることにより、アミノ化CDのアミノ基とウロン酸の6位炭素のカルボキシル基がアミド結合により結合した構造のCD誘導体を得ることができる。
【0027】
上記アミノ化CDとしては、シクロデキストリンにアミノ基が付与されたものであればよく、α-CD、β-CD、γ-CDのいずれにアミノ基が付与されたものでもよく、6位炭素にアミノ基が付与されたものや3位炭素にアミノ基が付与されたもの、2位炭素にアミノ基が付与されたもの、更にはグルコース残基(糖残基)中の複数の炭素にアミノ基が付与されたものも用いることができる。アミノ基を付与するグルコース残基(糖残基)の数も特に制限はなく、CD分子中の1つのグルコース残基(糖残基)にアミノ基が付与されたものや複数のグルコース残基(糖残基)にアミノ基が付与されたものを用いることができる。
【0028】
なお、シクロデキストリンにアミノ基を付与する段階において、当該アミノ化修飾を受けるシクロデキストリン中のグルコース残基は、例えば、その2位炭素及び/又は3位炭素がエピマー化して、マンノース残基、アロース残基、アルトロース残基等の構造となる場合がある。
【0029】
上記アミノ化CDは、CDをトシル化し、得られたトシル化CDをアジド化し、得られたアジド化CDをアミノ化することにより調製することが可能である。例えば、CDの6位の水酸基のアミノ基への変換は、水酸基を例えば、塩化p-トルエンスルホニル(塩化トシル)でトシル化する。その後、トシル化された水酸基をナトリウムアミドでアジド基へ変換し、最後にアジド基をトリフェニルホスフィンで還元することによりアミノ化CDを得ることができる。また、トシル化された水酸基は、アンモニア水と反応させることでより簡便にアミノ基へ変換してアミノ化CDを得ることもできるが、他の方法で合成してもよい。更に、アミノ化CDは、CDを塩素化し、得られた塩素化CDをアジド化し、得られたアジド化CDをアミノ化することによっても調製することができる。また、トシル化又は塩素化の後に特定の置換度のトシル化CD又は塩素化CDを液体クロマトグラフィーにより分取してアジド化及びアミノ化することにより、特定の置換度を持つアミノ化CDを合成することができる。更に、試薬として販売されている種々のアミノ化CDを購入して用いることもできる。また、アミノ化CDを塩酸等の酸により塩の状態としたアミノ化CD塩も用いることができる。すなわち、上記アミノ化CDとは、アミノ化CD塩も含む意味であり、上記調製においてはアミノ化CD、アミノ化CD塩のいずれを用いても可能である。所望とするCD誘導体の種類により適宜選択すればよいが、アミノ化CD塩を用いると、反応時に水等の溶媒に溶解しやすく、かつ、安価に入手できるといったメリットが得られる場合がある。
【0030】
上記アミノ化CDとウロン酸又はウロン酸を含むオリゴ糖とを縮合反応させるための縮合剤としては、通常当業者に周知の縮合剤を使用すればよく、例えば、アミノ酸を縮合させペプチド結合を形成させる反応に用いる触媒等を用いることが可能である。具体的には、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロりん酸塩(BOP試薬)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt試薬)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホ二ウムヘキサフルオロりん酸(PyBOP試薬)、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC試薬)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(WSC試薬)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC試薬)、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM試薬)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’)-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸(HBTU試薬)などを用いることができる。縮合剤は、1種類を単品で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
縮合反応の条件は、用いる縮合剤の性質などに応じて適宜調整すればよい。典型的に、例えば、BOP試薬の場合は、室温においてN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中で3時間反応させるなどである。
【0032】
上記のようにして調製されるシクロデキストリン誘導体は、シクロデキストリンにアミド結合を介して結合させるウロン酸が、例えばグルクロン酸の場合、結果物として得られる糖修飾の構造は、還元末端を有するグルコース修飾とみることができる。また、ウロン酸が例えばマンヌロン酸の場合は、還元性を有するマンノース修飾とみることができ、ウロン酸が例えばガラクツロン酸の場合、還元性を有するガラクトース修飾とみることができる。
【0033】
上記に説明した糖修飾CD誘導体は、薬物送達のための薬物キャリア剤として有用である。そのメカニズムの1つには、これに限定されないが、生体内において普遍的に細胞へのグルコース取り込みに関与しているグルコーストランスポーター1(GLUT1)を介した機構が挙げられる。すなわち、糖修飾CD誘導体がGLUT1のリガンドとして認識されることで、当該CD誘導体に包接等させた薬物を、組織、臓器、細胞等に効率的に到達させたり、その細胞内に効率的に到達させたりすることができる。より具体的に、例えば、血液脳関門を効率的に通過させたり、あるいは、血液脳関門を構成する脳血管内皮細胞に効率的に吸収させたりすることができる。ここで、GLUT1の本来のリガンドはグルコースであるが、グルコース以外のマンノースやガラクトース等の単糖類、マルトースやセロビオース等の二糖類を認識することが報告されている(Barnettら、Biochem.J.、131、211-221、1973)。よって、これらのグルコース以外の単糖類ないし二糖類以上のオリゴ糖に対しても、認識能はグルコースに比べると低いものの、必要なリガンドとしての性能を備えている。ただし、本発明は上記記載に拘束されるものではない。
【0034】
本発明により提供される薬物キャリア剤は、任意の薬物と組み合わせて使用して、その薬物の生体内の組織、臓器、細胞等への効率的な送達のために好適に用いられる。具体的には、例えば、血液脳関門を通過させて脳内に薬物を効率的に送達させるために好適に用いられる。あるいは、血液脳関門を構成する脳血管内皮細胞に薬物を効率的に吸収させるために好適に用いられる。
【0035】
適用される薬物は任意であり、還元末端を有する糖修飾シクロデキストリンと包接複合体を形成するものであれば特に制限はないが、脳移行用とする観点からは、例えば、分子そのものが脳内において生理活性を有する物質(以下、単に「生理活性物質」という場合がある。)、あるいは脳内の生理機能を発揮させる物質(以下、単に「脳内機能物質」という場合がある。)等を例示することができる。
【0036】
生理活性物質としては、これに限定されないが、例えば、低分子化合物、ポリペプチド、オリゴペプチド、タンパク質、核酸などを挙げることができる。
【0037】
生理活性物質として低分子化合物は、これに限定されないが、脳や中枢神経に関連する種々の疾患の治療及び/又は予防のために用いられる医薬品に有効成分として含まれている化合物、例えば、中枢神経疾患治療剤の有効成分、あるいは脳の疾患の治療及び/又は予防のために用いられる化合物、例えば、脳内の炎症を抑えるための抗炎症作用を有する化合物、抗がん作用を示す化合物、脳内感染症治療のための抗菌薬や抗ウィルス薬の有効成分である化合物などを挙げることができる。
【0038】
生理活性物質としてペプチド(ポリペプチドやオリゴペプチド)は、例えば、生理活性ペプチドを挙げることができ、脳や中枢神経に関連する疾患の治療及び/又は予防のために用いられるペプチドなどを挙げることができる。具体的には、これに限定されないが、脳内アミロイドベータペプチド分解に関わる酵素発現を調節するソマトスタチン、脳内神経細胞機能を制御するインスリン、又はその他の脳や中枢神経の機能に関連するペプチド、それらの誘導体などを挙げることができる。
【0039】
生理活性物質としてタンパク質は、これに限定されないが、脳内で生理活性を有するタンパク質を挙げることができ、疾患の治療及び/又は予防のために用いられるタンパク質等を挙げることができる。例えば、酵素、抗体、転写因子、あるいはそれらを構成する特定の部分などを挙げることができる。
【0040】
生理活性物質として核酸は、脳や中枢神経に関連する疾患の治療及び/又は予防のために用いられる核酸を挙げることができる。これに限定されないが、例えば、遺伝子ノックダウン法による又はRNA干渉を用いた各種疾患の治療のための核酸、例えば、アンチセンス核酸(DNAやRNA)、ヘテロ2本鎖核酸、siRNAやshRNAなどを挙げることができる。具体的には、これに限定されないが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病に対する遺伝子治療のためのものなどを挙げることができる。
【0041】
また、上記生理活性物質等を有効成分とする公知の薬物であってよく、これに限定されないが、例えば、抗癌剤、抗パーキンソン病薬、抗痴呆薬、向精神薬などを挙げることができる。
【0042】
脳内機能物質としては、これに限定されないが、例えば、脳内においてマーカーとなるような分子、脳又は脳内の標的をイメージングするために用いることができる分子などを挙げることができる。脳内イメージング分子としては特に制限はないが、蛍光色素、量子ドット、ナノ磁性体、ナノゴールド、細胞内分子可視化試薬、PETで検出できる標識分子、等の生体内で標的を可視化できる化合物などを例示することができる。
【0043】
本発明において限定されない任意の態様においては、上記した還元末端を有する糖修飾シクロデキストリンを含む薬物キャリア剤は、任意の薬物との組み合わせにより、医薬組成物と成してもよい。その場合、公知の方法を用いて、任意の薬物を、上記した還元末端を有する糖修飾シクロデキストリンとの包接複合体を形成させる等して、それらを1剤として含む医薬組成物を提供することができる。あるいは、使用時に混合して用いるような別剤の形態として含む医薬組成物と成してもよい。
【0044】
本発明により提供される薬物キャリア剤、又はこれを用いる医薬組成物においては、脳内への移行を目的とする薬物に応じて、また、移行目的、例えば、移行速度や移行量等の各種条件に応じて、シクロデキストリンの種類、還元末端を有する糖による置換度、薬物に対する配合量等を適宜選択して用いることができる。また、公知の方法に従って製剤化し、例えば、液剤等の適当な剤型の法上許容される医薬品として、ヒトを含む哺乳動物に対して非経口的または経口的に投与することができる。非経口的投与方法としては、例えば、注射剤又は貼付剤(経皮投与)が例示できる。本発明により提供される薬物キャリア剤、又はこれを用いる医薬組成物は、好ましくは非経口的に投与される。
【0045】
本発明により提供さる薬物キャリア剤、又はこれを用いる医薬組成物には、その効果を損なわない範囲で任意の成分を適宜配合できる。任意成分としては、これに限定されないが、例えば、架橋剤、溶解剤、乳化剤、保湿剤、清涼化剤、無機粉体、酸化防止剤、防腐剤、着色剤、香味剤、pH調整剤、安定化剤などを挙げることができる。
【0046】
本発明により提供さる薬物キャリア、又はこれを用いる医薬組成物は、例えば、脳神経系疾患又は障害を予防又は治療するための医薬品として好適に用いられ得る。脳神経系疾患又は障害は、これに限定されないが、例えば、アルツハイマー病、悪性脳腫瘍、パーキンソン病、ニーマン・ピック病C型、脳卒中、脳血、認知症、筋ジストロフィー、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、重症筋無力症、脊髄性筋萎縮症、ダウン症候群、ハンチントン病、統合失調症,うつ症,タウパチー病、ピック病、ページェット病、脳障害を伴うリソソーム病、癌、プリオン病、外傷性脳損傷、ウィルス性及び細菌性の中枢神経系疾患などを挙げることができる。
【実施例
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0048】
<調製例1> 還元末端を有するグルコース修飾β-CDの調製
〔1.モノ-6-O-p-トルエンスルホニル-β-CDの調製〕
β-CD(セルデックスB-100、日本食品化工)30gを1M NaOH水溶液500mLに溶解させ、氷上にて冷却した。上記溶液にp-トルエンスルホニルクロリド15gを添加し、氷上にて5時間反応させた。反応液中の沈殿物を除去した後、溶液をpH7に調整し、生じた析出物を回収した。回収した析出物を沸騰水に溶解して冷却し、再結晶を行った後、減圧乾燥して白色粉末13.6gを得た。FT-IR及びNMRにより、上記白色粉末がモノ-6-O-p-トルエンスルホニル-β-CDであることを確認した。
【0049】
〔2.モノ-6-アミノ-β-CDの調製〕
上記に調製したトシル化β-CD10gに28%アンモニア水溶液120mLを添加して50℃にて17時間反応させた。反応液をエバポレーターにて濃縮した後、濃縮溶液の10倍量のアセトンを添加し、生じた沈澱を回収した。沈澱をアセトンで洗浄後、減圧乾燥して白色粉末10gを得た。FT-IR及びNMRにより、上記白色粉末がモノ-6-アミノ-β-CDであることを確認した。
【0050】
〔3.還元末端を有するグルコース修飾β-CDの調製〕
上記に調製したモノ-6-アミノ-β-CD300mgをジメチルホルムアミド(DMF)25mLに溶解し、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスファート1170mg、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物405mg及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン1385μLを添加した。上記溶液にグルクロン酸を171mg溶解したDMF溶液10mLを添加し、Arガスにより封入して常温にて3時間反応させた。反応液の10倍量のアセトン添加し、生じた沈澱を回収した。沈澱をアセトン及びメタノールで洗浄し、減圧乾燥して白色粉末を得た。更に、ODSカラムを用いた分取用高速液体クロマトグラフィーにて精製後、凍結乾燥して白色粉末166mgを得た。NMRにより、上記白色粉末が、図1に示す還元末端を有するグルコース修飾β-CDであることを確認した。
【0051】
<調製例2> 還元末端を有していないグルコース修飾β-CDの調製
β-CD100質量に対して、グルコース100質量及び活性炭3質量を均質になるまで混合してステンレスバットに入れ、熱風乾燥機にて180℃で1時間加熱した。得られた加熱反応物を超純水に溶解してフィルターろ過により活性炭を除去した溶液を、活性炭及びセライトを混合して作製した活性炭カラムに供し、超純水及び10%エタノール水溶液を通液することで不純物を溶出させた。続いて、25%エタノール水溶液を通液することで、グルコース修飾β-CD粗精製画分を得た。グルコース修飾β-CD粗精製画分をODSカラムを用いた分取用高速液体クロマトグラフィーに複数回供することで、残存する不純物及びβ-CDを除去し、グルコース修飾β-CDとして以降の試験に用いた。1H-NMR解析結果より、グルコース修飾β-CD(グルコース置換度が3.3)であることを確認した。調製されたグルコース修飾β-CDの代表的な構造を図2に示す。
【0052】
[試験例1]還元末端の有無の確認
β-CD、調製例1にて調製した還元末端を有するグルコース修飾β-CD、及び調製例2にて調製した還元末端を有していないグルコース修飾β-CDについて、還元末端の有無を確認した。還元末端の有無は、常法であるPark-Johnson法(中村ら、「生物化学実験法19 澱粉・関連糖質実験法」、1986年、p.42)に供することで確認した。
【0053】
その結果、調製例1にて調製した還元末端を有するグルコース修飾β-CDのみが還元性を有していた。また、このときのグルコース当量は11.4であり、理論値である12.4に近い値であった。
【0054】
[試験例2]糖修飾β-CD/蛍蛍光物質複合体の細胞内取り込み
ヒト脳血管内皮細胞(hCMEC/D3細胞)への取り込みを、各種糖修飾β-CD及び蛍光物質であるテトラフェニルポルフィンテトラスルホン酸(TPPS)の複合体を用いることで確認した。また、対照として、β-CDとの複合体を用いて確認した。
【0055】
hCMEC/D3細胞を、ガラス底面培養容器1枚あたり1×10細胞となるよう播種し、EBM-2培地中で37℃にて24時間インキュベートした。β-CD、調製例1にて調製した還元末端を有するグルコース修飾β-CD又は調製例2にて調製した還元末端を有していないグルコース修飾β-CD(125μM)、及びTPPS(10μM)の複合体溶液200μLを添加し、37℃にて3時間インキュベートした。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3回洗浄した後、4%パラホルムアルデヒド150μLで10分間処理して固定化した。PBSで3回洗浄した後、Hoechst染色溶液200μLを添加し、37℃にて30分間インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、共焦点顕微鏡にて蛍光を観察した。蛍光強度は、BZ-II解析アプリケーション(KEYENCE)により算出した。
【0056】
図3には、各例について、共焦点顕微鏡により撮像した画像の一例を示す。
【0057】
図4には、相対蛍光強度の結果を示す。解析結果は平均値±標準誤差で表し、標準誤差は4~5回の実験を繰り返すことで求めた。図中の「*」又は「†」は、それぞれ未修飾のβ-CD又は調製例2にて調製した還元末端を有していないグルコース修飾β-CDを添加した場合の蛍光強度に対して有意差(p<0.05)があることを示す。
【0058】
その結果、図3、4に示されるように、還元末端を有するグルコース修飾β-CD/TPPS複合体は、未修飾のβ-CDとの複合体及び還元末端を有していないグルコース修飾β-CDとの複合体に比べ、hCMEC/D3細胞への取り込み量が有意に増加した。
還元末端を有していないグルコース修飾β-CDに関しては、GLUT1のリガンド認識に必要な修飾グルコースの1位炭素に結合する水酸基がシクロデキストリンのグルコース残基とグリコシド結合を形成しているため、GLUT1にリガンドとして認識されずhCMEC/D3細胞への取り込み量が増加しなかったものと推察される。
【0059】
[試験例3]蛍光ラベル化した糖修飾β-CDの細胞内取り込み及び糖の存在の影響
hCMEC/D3細胞への取り込みを、5-(4,6-ジクロロトリアジニル)アミノフルオレセイン(5-DTAF)により蛍光ラベル化した還元末端を有するグルコース修飾β-CDを用いることで確認した。
【0060】
調製例1にて調製した還元末端を有するグルコース修飾β-CD及び5-DTAFを炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH9.0)に溶解し、室温にて24時間インキュベートした後、アセトンで3回洗浄することにより、還元末端を有するグルコース修飾β-CDを蛍光ラベル化した。
【0061】
hCMEC/D3細胞を、ガラス底面培養容器1枚あたり1×10細胞となるよう播種し、EBM-2培地中で37℃にて24時間インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、蛍光ラベル化した還元末端を有するグルコース修飾β-CD(10μM)及びグルコース(0-40mM)の混合溶液150μLを添加し、37℃にて3時間インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、4%パラホルムアルデヒド150μLで10分間処理して固定化した。PBSで3回洗浄した後、Hoechst染色溶液200μLを添加し、37℃にて30分間インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、共焦点顕微鏡にて蛍光を観察した。蛍光強度は、BZ-II解析アプリケーション(KEYENCE)により算出した。
【0062】
図5には、各例について、共焦点顕微鏡により撮像した画像の一例を示す。
【0063】
図6には、相対蛍光強度の結果を示す。解析結果は平均値±標準誤差で表し、標準誤差は3回の実験を繰り返すことで求めた。図中の「*」はグルコース添加しない場合の蛍光強度に対して有意差(p<0.05)があることを示す。
【0064】
その結果、図5、6に示されるように、蛍光ラベル化した還元末端を有するグルコース修飾β-CDが、hCMEC/D3細胞へ取り込まれることが確認された。また、競合して存在するグルコース量が多くなるにつれて蛍光ラベル化した還元末端を有するグルコース修飾β-CDの取り込み量が減少した。よって、hCMEC/D3細胞への取り込みが、還元末端を有するグルコース残基に依存的な機構によりが起こることが明らかとなった。
【0065】
なお、グルコースの替わりにラクトースを添加して同様の試験を行ったところ、蛍光ラベル化した還元末端を有するグルコース修飾β-CDの取り込み量に変化は見られなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6