(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ソイルセメント柱列壁のソイル欠損部の対策工法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/20 20060101AFI20240214BHJP
E02D 5/18 20060101ALI20240214BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
E02D5/20 101
E02D5/18 101
E02D3/12 102
(21)【出願番号】P 2019238067
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000179915
【氏名又は名称】ジェコス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519043408
【氏名又は名称】株式会社篠原建機
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健治
(72)【発明者】
【氏名】黒田 裕規
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-211422(JP,A)
【文献】特開平08-269939(JP,A)
【文献】特開平07-138938(JP,A)
【文献】特開平08-013495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/20
E02D 5/18
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭打機に据え付けられたオーガスクリューによって原位置土とセメントミルクとを混合・撹拌することにより造成される複数のエレメントからなるソイルセメント柱列壁のソイル欠損部を改良するソイルセメント柱列壁のソイル欠損部の対策工法であって、
前記杭打機に前記オーガスクリューに代えて、先端部に削孔ビット、先端側部に高圧噴射口を備えたソイルセメント柱状改良体造成用の注入管
を据え付け、前記注入管を前記エレメントどうしのラップ部における
前記ソイル欠損部
の近傍に挿入し、かつ前記高圧噴射口
からセメントミルクを噴射させながら
、前記注入管を回転および昇降させることにより、前記エレメントと一体にソイルセメント柱状改良体を造成することを特徴とするソイルセメント柱列壁のソイル欠損部の対策工法。
【請求項2】
請求項1記載のソイルセメント柱列壁のソイル欠損部の対策工法において、
前記注入管は前記エレメントどうしのラップ部の両側部に
挿入することを特徴とするソイルセメント柱列壁のソイル欠損部の対策工法。
【請求項3】
請求項1または2記載のソイルセメント柱列壁のソイル欠損部の対策工法において、前記注入管は、前記
杭打機に据え付けられたオーガスクリューと交換する方式で、前記
杭打機に脱着可能に据え付けられていることを特徴とするソイルセメント柱列壁のソイル欠損部の対策工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメント柱列壁のソイル欠損部の対策工法に関し、ソイルセメント柱列壁の造成時に、主としてエレメントどうしのラップ(重なり)部に形成されやすいエレメントのラップ不足、原位置土とセメントミルクとの撹拌・混合が不十分なことにより発生するソイルセメント柱列壁の未造成や造成不良などのソイル欠損を改善するために実施される。
【背景技術】
【0002】
ソイルセメント柱列壁工法は、原位置土とセメントミルクとを機械的に撹拌・混合して、地中に複数のソイルセメント柱体からなる地中連続壁を造成する工法であり、通常、三点式杭打機に3軸乃至5軸の多軸オーガスクリューを据え付け、両端のオーガスクリューをラップさせて土とセメントミルクとの撹拌・混合を繰り返すことにより複数のソイルセメント柱体を壁状に連続して造成することで、地中に遮水性の高い地中壁を造成することができ、例えば、ビルや道路など、地下構造物築造工事で実施される。
【0003】
ソイルセメント柱列壁工法について、具体的に説明すると(
図7,8参照)、3軸または5軸のオーガスクリュー30を備えた三点式杭打ち機31によって削孔することにより、地中に複数のソイルセメント柱体からなるソイルセメント柱列体を造成し、1回の削孔で造成されるソイルセメント柱列体をソイルセメント柱列壁Aのソイルセメントエレメント(以下「エレメント」)とする。
【0004】
上記の方法によりエレメントa1を造成し、エレメントa1を造成したら、エレメントa1との間にソイルセメント柱体一体分の間隔をあけてエレメントa2を造成する。
【0005】
次に、エレメントa1とエレメントa2との間に、エレメントa1およびエレメントa2の端部にそれぞれラップさせてエレメントa3を造成する。これによりエレメントa1、a2およびエレメントa3からなるソイルセメント柱列壁Aを造成することができる。
【0006】
次に、エレメントa1、a2およびa3の各ソイルセメント柱体にH形鋼などからなる芯材bを挿入することにより山留壁としてのソイルセメント柱列壁Aの造成は完了する。
【0007】
ところで、ソイルセメント柱列壁Aの造成時に各エレメントa1、a2、a3どうしのラップ(重なり)が不足(薄い)したり、あるいは原位置土とセメンミルクとの撹拌・混合が全く行われないか(ソイルセメント柱列壁の未造成)、行われても不十分だったりすると(ソイルセメント柱列壁の造成不良)、それが原因でエレメントどうしのラップ部における止水性が損なわれ、また地中壁としての強度が低下する。
【0008】
ラップ不足や造成不良などのソイル欠損の問題は、隣接するエレメントの造成時期がずれていたり、或いはエレメントの造成方法が異なっている場合も起こることがあり、さらに、障害物ハがあってエレメントを先行エレメントに後行エレメントをラップできない場合もある(
図9(a)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許2826813号公報
【文献】特開2007-063914号公報
【文献】特開2017-057706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
エレメントどうしのラップ部において、特にラップ(重なり)が薄い箇所や造成不良個所は、造成幅が狭くなっていて、地中壁としての強度と遮水性等に問題が生じやすいため、改めて改良するなどの対策を講ずる必要があった。
【0011】
従来、この種のソイル欠損部の対策工法としては、厚みが不足する部分に薬液注入工法を実施して地中壁の厚みを補足したり、掘削後に漏水したときは芯材bに鉄板などの止水板cを溶接し、急結セメントを充填する等の対策を講じていた(
図9(b)参照)。
【0012】
しかし、上記したいずれの対策工も、実施に必要な資材や機材を新たに手配し、搬入する必要があるため、コストが嵩み、また工期が長引き、しかもソイルセメント柱列壁工法とは全く異なる施工方法であるため、きわめて非効率的であった。
【0013】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、特に新たに資材や機材を必要とせず、現地にある資材や機材を用いてきわめて効率的にかつ低コストで、ソイルセメント柱列壁のソイル欠損部を改良できるようにしたソイルセメント柱列壁のソイル欠損部の対策工法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、複数のエレメントからなるソイルセメント柱列壁の造成時に生じたソイルセメント柱列壁の造成不良などのソイル欠損部を改良するソイルセメント柱列壁のソイル欠損部の対策工法の発明であり、前記エレメントどうしのラップ部におけるソイル欠損部の近傍に、ソイルセメント柱状改良体造成用の注入管を、その先端の噴射口よりセメントミルクを噴射させながら、かつ前記注入管を回転させながら挿入することにより、前記エレメントと一体にソイルセメント柱状改良体を造成することを特徴とするものである。
【0015】
前記ソイルセメント柱状改良体は、前記エレメントどうしのラップ部の近傍およびその両側部に造成することで、エレメントどうしのラップ部におけるソイル欠損部の壁厚を厚くして、ラップ部の止水性と強度を著しく向上させることができる。
【0016】
また、前記注入管は、掘削機に据え付けられたオーガスクリューと交換する方式で前記掘削機に据え付けることで、オーガスクリューを注入管に付け替えるだけで、ソイルセメント柱列壁の造成後、直ちにソイル欠損部の改良をきわめて効率的にかつ低コストで行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、ソイルセメント柱列壁のエレメントどうしのラップ部におけるソイル欠損部の近傍に、ソイルセメント柱状改良体造成用の注入管を挿入すると共に、その先端より地盤内にセメントミルクを噴射させながら、前記注入管を前記地盤内で回転させながら昇降させて、前記エレメントどうしのラップ部にソイルセメント柱状改良体を前記エレメントと一体に造成することで、ソイルセメント柱列壁のエレメントどうしのラップ部における造成不良個所などのソイル欠損部をきわめて効率的かつ低コストで改良することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】図(a)は、注入管によって造成される柱状改良体の縦断面図、図(b)は、エレメントどうしのラップ部にト柱状改良体が造成されたソイルセメント柱列壁の一部横断面図である。
【
図2】柱状改良体の施工例を図示したものであり、図(a)はエレメントどうしのラップが薄い箇所に対し、その一側部に複数の柱状改良体が重ねて施工されたソイルセメント柱列壁の一部横断面図、図(b)はエレメント間の隙間を有する個所に対し、その一側部に複数の柱状改良体が重ねて施工されたソイルセメント柱列壁の一部横断面図である。
【
図3】図(a)は、オーガスクリューに替えて注入管が据え付けられた三点式杭打ち機の一部正面図、図(b),(c)は図(a)におけるハ部拡大図である。
【
図4】図(a),(b)は、それぞれソイルセメント柱列壁のエレメントどうしのラップ部に柱状改良体を造成する手順の一手順を示す縦断面図である。
【
図5】図(a),(b)は、それぞれソイルセメント柱列壁のエレメントどうしのラップ部に柱状改良体を造成する手順の一手順を示す縦断面図である。
【
図6】ソイルセメント柱列壁のエレメントどうしのラップ部に柱状改良体を造成する手順の一手順を示す縦断面図である。
【
図7】図(a)は、3軸の多軸オーガスクリューを備えた三点式杭打機の一部正面図、図(b)は、ソイルセメント柱列壁のエレメントの施工手順を示す説明図である。
【
図8】図(a),(b),(c)は、ソイルセメント柱列壁のエレメントの施工手順を示す説明図である。
【
図9】図(a)はエレメントどうしのラップ部に形成される造成不良の一例を示す横断面図、図(b)はエレメントどうしのラップ部に形成された造成不良を改良する一従来例を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1~6は、三点式杭打ち機に3軸の多軸オーガスクリューを据え付け、ソイルセメント柱列壁工法によって造成された山留壁としてのソイルセメント柱列壁と、当該ソイルセメント柱列壁のエレメントどうしのラップ部イにおけるソイル欠損部(以下「造成不良個所」)に対して実施された本発明のソイル欠損部の対策工法を図示したものである。
【0020】
図1において、エレメントどうしのラップ部イにおける造成不良個所を改良するソイルセメント柱状改良体造成用の注入管(以下「注入管」)1は、先端部に地盤を削孔する削孔ビット2と地盤中にセメントミルクを高圧噴射する高圧噴射口3を備え、3点式杭打ち機4にオーガスクリュー(
図7(a)参照)と付け替える方法で脱着可能に据え付けられている。
【0021】
また、セメントミルクには、ソイルセメント柱列壁Aの造成時に用いられたセメントミルクと同じ配合のセメントミルクが用いられ、状況に応じて適切な配合に変更されてもよい。
【0022】
このような構成において、ソイルセメント柱列壁Aのエレメントa1とエレメントa2とのラップ部イの造成不良個所の近傍に、注入管1を挿入する。そして、その先端の高圧噴射口3よりセメントミルクを高圧噴射しつつ、注入管1を一定速度で回転させながら一定速度で複数回昇降させる。
【0023】
これにより、エレメントa1とエレメントa2とのラップ部イの近傍に、セメントミルクaと原位置土とからなるソイルセメント柱状改良体Bをエレメントa1およびエレメントa2と一体に造成することができる。また、ラップ部イの近傍に柱状改良体Bを造成することで、ラップ部イの厚みが増してラップ部イの止水性と強度を著しく向上させることができる。
【0024】
なお、柱状改良体Bは、ラップ部イの両側に造成するのが望ましく、また必要に応じて複数ラップさせて造成することにより全体の厚みをより厚くしてもよく、さらに柱状改良体BにH形鋼などからなる芯材bを挿入してもよい。
【0025】
また、ラップ部イの地盤の状況に応じて、セメントミルクの噴射量と噴射圧および注入管1の回転速度と昇降速度を適切に管理するのが望ましい。
【0026】
図2(a)は、造成されたソイルセメント柱列壁Aのエレメントa
1とエレメントa
2間のラップ部イのラップ量が薄い箇所に対して、ラップ部イの一側部に複数のソイルセメント柱状改良体Bを互いにラップさせて造成することで、ラップ部イを厚くしたものである。
【0027】
また、
図2(b)は、先行エレメントa
1と後行エレメントa
2の施工時期が異なり、エレメントa
1とエレメントa
2との間に隙間ロができている場合に、当該隙間ロの一側部に複数の柱状改良体Bを互いにラップさせて造成することで、隙間ロを埋めると共に、隙間ロにラップ部イを厚く形成したものである。
【0028】
また、
図4~
図6は、エレメントどうしのラップ部イの両側の近傍に柱状改良体Bを造成する手順を図示したものである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、ソイルセメント柱列壁工法による地中連続壁の造成時に、主としてエレメントどうしのラップ部に形成されやすい、ラップ(重なり)が薄い等のソイル欠損部を現地にある資材や機材を用いてきわめて効率的にかつ低コストで改良することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 注入管(ソイルセメント柱状改良体造成用の注入管)
2 削孔ビット
3 高圧噴射口
4 3点式杭打ち機(杭打ち機)
A ソイルセメント柱列壁
B 柱状改良体(ソイルセメント柱状改良体)
イ ラップ(重なり)部
ロ 隙間
ハ 障害物
a1,a2,a3 エレメント