(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】三次元歯列矯正保定装置および三次元歯列矯正保定装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61C 7/00 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
A61C7/00
(21)【出願番号】P 2019547796
(86)(22)【出願日】2017-11-16
(86)【国際出願番号】 IB2017057161
(87)【国際公開番号】W WO2018092052
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-08-26
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-31
(32)【優先日】2016-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】519181009
【氏名又は名称】ホステットラー、ユルク
【氏名又は名称原語表記】HOSTETTLER,Juerg
(73)【特許権者】
【識別番号】519181010
【氏名又は名称】ホステットラー、ヨナス
【氏名又は名称原語表記】HOSTETTLER,Jonas
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ホステットラー、ユルク
(72)【発明者】
【氏名】ホステットラー、ヨナス
【合議体】
【審判長】佐々木 正章
【審判官】倉橋 紀夫
【審判官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-509907(JP,A)
【文献】国際公開第2015/177235(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0181332(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0256243(US,A1)
【文献】国際公開第2014/008583(WO,A1)
【文献】米国特許第6132209(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の隣接する歯(3)の厳密な形状に合わせられた少なくとも1本の細長いワイヤ(21)を有し、かつ原材料(1)から製造された三次元歯列矯正保定装置(2)であって、
前記保定装置は、エナメル質の基部と先端との間の特定の高さに
固定され、前記保定装置は、少なくとも部分的に前記基部から離れて
おり、
前記保定装置(2)における前記ワイヤ(21)の長手方向と直交する断面の外形は、歯に面する平坦な側面に対応する
直線である直線部と、前記直線部における
両端から前記直線部の中央に向かって延びるとともに前記直線部から徐々に離間する縁部と、
前記縁部を互いに連結する頂部と、を備え、
前記頂部は、前記直線部
から見て丸みを帯びた凸状をなし、
前記各縁部は、前記頂部に近づくほど前記直線部に対する傾斜角が徐々に大きくなるように傾斜して前記頂部に連続
し、
前記傾斜角は、前記各縁部に対する接線と前記直線とがなす角度である、三次元歯列矯正保定装置(2)。
【請求項2】
前記保定装置(2)は、前記ワイヤ(21)に沿った各歯に対して、前記ワイヤ(21)を歯に固定するように機能する1つの固定要素(22)を備え、
前記固定要素(22)は、隣接する歯(3)とのより大きな接触面を有する前記細長いワイヤ(21)の部分である、請求項1に記載の三次元歯列矯正保定装置(2)。
【請求項3】
前記保定装置(2)は着色されている、請求項1に記載の三次元歯列矯正保定装置(2)。
【請求項4】
複数の隣接する歯(3)の厳密な形状に合わせられた少なくとも1本の細長いワイヤ(21)を有する三次元歯列矯正保定装置(2)を原材料(1)から製造する方法であって、
前記保定装置は、エナメル質の基部と先端との間の特定の高さに
固定され、前記保定装置は、少なくとも部分的に前記基部から離れて
おり、
前記保定装置(2)における前記ワイヤ(21)の長手方向と直交する断面の外形は、歯に面する平坦な側面に対応する
直線である直線部と、前記直線部における
両端から前記直線部の中央に向かって延びるとともに前記直線部から徐々に離間する縁部と、
前記縁部を互いに連結する頂部と、を備え、
前記頂部は、前記直線部
から見て丸みを帯びた凸状をなし、
前記各縁部は、前記頂部に近づくほど前記直線部に対する傾斜角が徐々に大きくなるように傾斜して前記頂部に連続
し、
前記傾斜角は、前記各縁部に対する接線と前記直線とがなす角度であって、
前記方法は、塑性変形を伴うことなく前記原材料(1)を前記保定装置(2)の最終形態に直接加工することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求項1の前提部に記載の三次元歯列矯正保定装置、および請求項7または10に記載の三次元歯列矯正保定装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯列矯正保定装置は、従来技術でよく知られている。歯列矯正保定装置は、多くの場合、矯正治療の完了後に歯を正しい位置に維持すると共に歯の位置を安定させるために用いられる。保定装置は、通常は金属製であり、多くの場合にはワイヤからなる長尺状のロッドである。この場合、特許文献1に示されるように、2本以上の隣接した歯が互いに接続される。保定装置の必須条件は、隣接した歯の形状に可能な限り合わせることである。一方では、不正確な形状のワイヤによって、保定装置が歯に取り付けられたときにワイヤが弾性的に曲がるおそれがある。ワイヤのその静止位置からの屈曲は、機械的応力をもたらすことから、歯の望ましくない移動を引き起こすおそれがある。そのような歪みの別の影響として、永久張力がある。永久張力は、顎部および歯が移動するときに、保定装置の脱離や破損を引き起こすおそれがある。それにより、保定装置の交換が必要となる。他方では、保定装置の装着者の快適さのためには、ワイヤがその全長に亘ってできるだけ歯から突出しないで、かつできるだけ歯に近接していることが、特に重要となっている。従来の歯列矯正の保定装置は、歯科技工士によって手で曲げられて患者の歯の個々の形状にフィットするように調整された一重または多重スプリング網組線(einfachen oder mehrfach gefederten geflochtenen Draht)からなる。これは、熟練歯科技工士によっても、限られた精密さでしか作製できない複雑な作業である。具体的には、ワイヤはあまり正確に歯間隙内で曲げることができず、このことが歯間隙を壊すおそれがあるためである。さらに悪いことに、ワイヤの任意の塑性変形により残留応力が生じて、材料を脆弱にしかつ保定装置の早期破損をもたらすナノスケールまたはマイクロスケールの構造欠陥および微小クラックが材料内に生成される。これらの欠陥を除去するために熱処理を用いることができる。しかしながら、これには、余分な時間およびエネルギーが必要となり、別の機械を必要とすることもある。さらに、そのような熱処理は、変形前の材料の本来の状態を概ね回復することしかできない。特許文献2は、三次元の口内構造が走査装置を用いて検出される歯列矯正保定装置の製造方法を記載している。収集されたデータは3D CADモデルに移行され、それに基づいて、輪郭が精密なワイヤ(konturgenaue Stang)が設計されると共に、ワイヤ曲げ機によって製造される。保定装置の高い適合精度はコンピュータ化された方法により得られるが、材料の塑性変形の不都合は排除されない。特許文献3では、歯列矯正保定装置の別の製造方法が紹介されている。その方法では、歯の3Dモデルを作製するために、口内構造を走査装置によって検出する。保定装置を製造するために、ワイヤは、レーザー切断またはワイヤ侵食によって、金属シートから切断される。この保定装置について、得られた保定装置の少なくとも1つの側面は、元の金属シートの平面に一致している。従って、平坦なシートからは、平坦な側面を有する保定装置しか作製できない。このことは、保定装置の機能にも着用者の快適さにも理想的ではない。第1に、シートを切断して生じた縁は突出しており、その後、その縁を研磨して仕上げなければならない。第2に、ワイヤがエナメル質の基部と先端との間の特定の高さに固定されることが理想的であるが、この高さが各歯について異なるため、同一平面上に位置しない。例えば、ワイヤが装着者の邪魔をしないように、ワイヤが歯からできるだけ突出していないのであれば、有利となる。これは、ワイヤが、突出した区域の上ではなく、各歯の表面上における局所的凹部に沿って延びる場合に達成することができる。加えて、保定装置を噛まないようにするために、保定装置は、咬合接触点をできるだけ避けるべきである。また前歯および犬歯に対して、保定装置は、上顎歯と下顎歯との間の歯当たりの邪魔になることを避けなければならない。顎部の極端な動きでさえ、保定装置が任意の物理的に可能な歯列の移動に干渉できないことを保証するものと考えられなければならない。従って、対応する接触点は、保定装置によってできるだけ避けられなければならない。ワイヤを装着するための最も好都合な位置は同じ高さにはないため、シートから製造された平坦な保定装置は最適ではない。保定装置を歯の表面に全方向で最適に合わせるように、保定装置が三次元のすべてで設計されていれば、遥かにより有利となる。この理由で、特許文献3は、保定装置が三次元で形成されるように、保定装置を湾曲したシートから切断することを示唆している。しかしながら、シートを最初に曲げることは、プロセス内において付加的な機械を必要とする付加的なステップであり、加えて、湾曲したシートから切断するには特別な方法を用いなければならない。最後に、シートを最初に曲げることにより、材料の変形による材料の脆弱化の問題も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】独国実用新案第20202004419号明細書
【文献】米国特許出願公開第2004/0072120号明細書
【文献】国際公開第2014/140013号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、既知の保定装置およびそれらの製造方法の利点が維持されるように、三次元歯列矯正保定装置および三次元歯列矯正保定装置の改良された製造方法を提供することにある。三次元歯列矯正保定装置の出発材料は、変形または他の材料特性の変化を伴うことなく、所望の最終形態に直接加工される。同時に、保定装置は、食べたり、笑ったりといった顎部を用いる機能および歯の審美性に対する影響をできるだけ小さくしなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、特許請求項1に記載の三次元歯列矯正保定装置、および請求項7または10の特徴を有する三次元歯列矯正保定装置の製造方法によって達成される。さらなる特徴および実施形態は従属請求項に示し、それらの利点については以下の記載中で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図2a】上顎上において製造された三次元歯列矯正保定装置を示す図。
【
図2b】上顎上において製造された三次元歯列矯正保定装置を示す図。
【
図3b】細長いテーパー状の外形を有する保定装置を示す図。
【
図4b】想像に富んだ固定具を備えた保定装置を示す図。
【
図6】未加工片内に精巧に製作された三次元歯列矯正保定装置。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明に従った三次元歯列矯正保定装置(2)の製造に対して、アレルゲンをできる限り含有しない生体適合性材料が出発材料として好ましい。適当な材料は、金属、Ti-MoまたはTi-6AL-4V(医療技術で用いられるチタングレード5ELI)等の金属合金、セラミック材料(ジルコンなど)、プラスチック(Kunststoffe)、またはそのような材料の任意の組み合わせである。装着者に対する問題を回避するために、出発材料がアレルギー反応を引き起こすことが知られているニッケルのような物質を含有していないと有用である。本保定装置(2)は、未加工片(1)の形態にある原材料(1)から製造される。未加工片(1)は、保定装置(2)を加工できるほど十分に大きければ、いかなる形状であってもよい。製造プロセスだけで保定装置(2)の厳密な適合を得ることができるので、未加工片(1)の表面が製造された保定装置(2)の側面に一致する必要はない。好ましくは、未加工片(1)は、所定の厚さ、および完成した保定装置(2)よりも大きな側方方向の大きさを有する標準的なプレートである(
図1)。未加工片(1)から製造された三次元歯列矯正保定装置(2)は、2本以上の隣接した歯(3)(
図2a~
図2b)を接続して安定させる少なくとも1本の細長いワイヤ(21)を有する。本発明によれば、保定装置(2)の形状および直径は各々の場合について個々に特別に形成されて、保定装置(2)を患者の隣接した歯(3)の厳密な形状に少なくとも局所的に合わせることを可能にする。好ましい実施形態において、保定装置(2)は任意の3次元形状を有し、かつ各歯(3)の表面の局所的凹部に沿って延びている。これにより、保定装置(2)の機能および装着者の快適さの双方に重要である歯(Gebiss)における保定装置(2)の最適な配置を可能にする。一方で、保定装置(2)の有効性のためには、細長いワイヤ(21)は、歯科医によって決められた歯(3)の特定の区域に正確に影響を与えなければならず、同時に、顎の極端な動きを考慮に入れる場合には咬合接触点を避けるべきである。他方で、保定装置(2)が全長にわたって、歯(3)からできるだけ突出せず、かつできるだけ近接して適合することが、着用者の快適さにとって重要である。
【0008】
本保定装置(2)の付加的な本質的特徴は、未加工片(1)のナノ構造またはミクロ構造と同一であるそのナノ構造またはミクロ構造である。保定装置(2)は、通常、1ミリメートルよりも細く、かつ依然として口腔内における化学的および物理的ストレスに何年も耐えなければならない。口腔内環境は湿っていて暖かく、咀嚼中に、保定装置(2)は多くの圧力および張力サイクルを受ける。材料の特性、特に疲労強度は、そのナノ構造またはミクロ構造に強く依存する。そのため、未加工片(1)の製造業者によって得られた理想的なナノ構造またはミクロ構造が製造工程中に保持されることは、保定装置(2)の耐久性にとって重要である。このことは、形状記憶合金のような先端材料についても同様である。形状記憶特性は、規則的なパターンでの原子の特定の配列に基づいており、その場合、結晶格子の転位および双晶形成のような欠陥は重大な影響を有する。従って、本発明によれば、本保定装置(2)の製造プロセスでは、付加的な欠陥が生じないように、ナノ構造またはミクロ構造は影響を受けないままとなる。
【0009】
可能な実施形態において、保定装置(2)の細長いワイヤ(21)は本質的に半円形の外形を有し、その外形のほぼ平坦な側面は各歯(3)に面し、丸味を帯びた側面は(唇側の保定装置(2)については)唇または(舌側の保定装置(2)については)舌に面する(
図3a)。よって、保定装置(2)は、歯(3)との安定した接触面を有する一方で、歯への最適な取付けを可能にし、他方では、舌または唇を保護する外面を有する。別の実施形態では、保定装置(2)の細長いワイヤ(21)は、テーパー状の案内面を形成する細長い外形を有する(
図3b)。よって、保定装置(2)と歯(3)との間の接触面積は更に大きくなり、保定装置(2)は歯(3)に対してより堅固に固着される。扁平な外形により、保定装置(2)は、装着者がより快適に感じかつ保定装置(2)と歯(3)との間の角部に食物が付着する可能性が低くなるように、あまり突出しない。この外形形状は、犬歯上において漸減する案内面を形成するのに適している。
【0010】
保定装置(2)の1つの可能な実施形態において、少なくとも1本の細長いワイヤ(21)は、更に、ワイヤ(21)を歯列に堅固に固着するための1つ以上の固定要素(22)を備えている(
図4a)。顧客の要望または状況の要件に応じて、これらの固定具(22)は、任意に設計される。保定装置(2)の特定の実施形態において、固定要素(22)は環状であり、臼歯のまわりに配列される。別の実施形態では、固定要素(22)は、隣接する歯(3)とのより大きな接触面を有する細長いワイヤ(21)の部分である。これにより、ワイヤ(21)の歯へのより良好な取り付けを可能にする。更に別の実施形態では、固定要素(22)は、例えば、子供用として、装飾または遊びを目的として、独創的な形にすることもできる(
図4b)。
【0011】
有利には、本保定装置(2)は、患者がデンタルフロスで歯間を簡単に掃除できるようにするループを有することができる。これにより、結合のための付加的な保持をもたらすこともできる。
【0012】
また、保定装置(2)を顧客の要望により個々に着色することもできる。また、子供を喜ばせ、保定装置(2)の挿入をそれほど「悲壮な」ものではなくする変形例および「付属物」が可能である。
【0013】
本発明の基礎は、任意かつ個別の三次元形状を備えた上述した三次元歯列矯正保定装置(2)を製造することを可能にする方法であり、未加工片(1)は変化しない、すなわち、未加工片(1)中のナノ構造またはミクロ構造は、製造された保定装置(2)中において不変のままである。本発明の方法は、本質的に3つのステップ、すなわち、
(1)患者の歯(3)の構造の三次元モデルの生成と、
(2)保定装置(2)について個々の正確に適合したモデルの設計と、
(3)設計した3Dモデルに基づいた保定装置(2)の製造とからなる(
図5)。
【0014】
本発明の可能な実施形態において、各ステップの方法は、1つ以上のサブタスクを含んでもよい。ステップ(1)、すなわち、
(1)患者の歯(3)の構造の三次元モデルの生成、について可能な1つの方法は、
(a)三次元口内構造の取得、
(b)歯列の3Dモデルの生成
である。
【0015】
ステップ(2)、すなわち、
(2)保定装置(2)の個々の正確に適合したモデルの設計、は以下のサブタスク、
(a)歯列の3DモデルのCADソフトウェアへのインポート、
(b)歯列の3Dモデルに基づいた保定装置(2)の3Dモデルの設計、
(c)保定装置(2)の設計した3Dモデルの個別化
の1つ以上を含んでいてもよい。
【0016】
ステップ(3)、すなわち、
(3)設計した3Dモデルに基づいた保定装置(2)の製造、は以下のサブタスク、
(a)未加工片(1)の加工戦略の定義、
(b)未加工片(1)からの保定装置(2)のコンピュータ制御による製造、
(c)仕上げ
の1つ以上を含んでいてもよい。
【0017】
第1ステップ(1)において、三次元口内構造は、好ましくは、非接触式光学的撮像法によって検出される(ステップ1a、
図5)。これは、方法の実施形態に応じて、口腔外走査装置または口内走査装置を用いて行うことができる。X線撮影装置のような口外走査装置では、歯列の三次元構造は、デジタルボリュームトモグラフィーによって測定される。口内走査装置は、患者の口腔内に直接挿入することができる手持ちプローブを有し、その手持ちプローブにより、歯列の空間的構造は、例えば、共焦点顕微鏡法、写真測量法または干渉分光法によって検出される。印象用トレーによる従来の歯科印象採得と比較して、これらの光学的手法は、非接触式であり、はるかに速く、有意により正確であるといった有意な利点を提供することができる。光学的歯科印象は、マイクロメーター領域の正確さで、数秒の内に検出される。口内走査装置を使用できない場合は、最初に印象用トレーによって従来の印象をとり、次にこの陰型を直接走査するか、例えば石膏から作製した陽原型を介して走査することが可能である。その後、このデータは、多くの場合、含まれている3D可視化ソフトウェアにより、患者の歯の構造(3)の3Dモデルに変換される(ステップ1b、
図5)。
【0018】
第2ステップ(2)では、作製した3Dモデルは、CADソフトウェアにインポートされ(ステップ2a、
図5)、外形が合った適合、各歯(3)の表面上の凹部を利用することによるわずかな突出、なるべくいかなる咬合接触点にも影響を与えないなど、上述した有利な特徴を有する歯の構造および歯科適応に従った保定装置(2)の3Dモデルのコンピュータ支援による設計の基礎となる(ステップ2b、
図5)。任意で、保定装置(2)の基本構造が決定されると、設計された保定装置(2)は、顧客の要望に従って、例えばワイヤ(21)または可能な固定要素(22)の独創的な設計により、さらに個別化することができる(ステップ2c、
図5)。
【0019】
第3ステップ(3)では、設計されたCADモデルに基づいて保定装置(2)が製造される。本発明によれば、保定装置(2)は、金属、高機能セラミックスもしくはプラスチック、または別の生体適合性材料から製造された未加工片(1)からの材料のコンピュータ制御による除去によって、最終形態に機械加工される。これに代わって、最終形状の保定装置も、同一の材料を使用したレーザー焼結または3Dプリンティング等の適当な適応的手法を用いて、原材料(1)のコンピュータ制御による付与によって形成されてもよい。また材料の組み合わせ、いわゆる複合材を、例えばPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)で用いることができ、その結果、原材料に応じて異なる加工用具が選択される。
【0020】
本方法の特に有利な実施形態において、材料の除去は、例えば、多軸フライス盤、ウォータージェット切断機、またはレーザー切断機の支援により、材料の多軸機械加工によって行なわれる。この目的のために、未加工片(1)の機械加工戦略が最初に決定される(ステップ3a。
図5)。一方で、周囲の材料が除去される一方で未加工片(1)のどの部分がCADモデルによる保定装置(2)の形成に適しているかを判定する場合、未加工片(1)の幾何学的形状が考慮に入れられる(
図6)。未加工片(1)の幾何学的形状は、保定装置(2)の製作の間に材料をできるだけ損失しないように、理想的に選択される。他方では、精巧な製作の厳密なプロセスが定義され、機械は、特にフライス加工または切断の速度、用いられる用具の順番、保定装置(2)と未加工片(1)との間の保持点および残った接続点(12)の位置に従ってプログラムされる(
図6)。材料を機械加工する場合、残留応力、結晶格子の転位および双晶形成のような欠陥、並びに材料中の微小クラックを回避するために、残存する材料は変化しないことが重要である。完成した保定装置(2)の厚みが小さいため、これは従来のフライス加工または切断戦略で達成することは困難である。従って、薄肉の電子部品を製造するために開発されたもののような特殊なフライス加工および切断戦略が用いられる。そのような戦略の原理は、ミハエル ヘイスブレヒツ ローランド ポプマ(Michiel Gijsbrecht Roeland Popma)の博士号論文に記載されている(「Computer aided process planning for high-speed milling of thin-walled parts」、トゥウェンテ大学(Universiteit Twente)、2010年6月2日)。
【0021】
本発明によれば、材料の付与は、3Dプリンティングまたは焼結またはレーザー溶融のような適応的手法によって実施される。これらの方法では、特定のナノ構造またはミクロ構造を有する粉末または顆粒の形態にある原材料(1)を、3Dプリンティングまたは焼結またはレーザー溶融プロセスによって、完全にまたは部分的に溶融する。液相の冷却硬化時に、材料は、固体状態の本来のナノ構造またはミクロ構造を回復する。これらの方法は、材料が単に除去される場合のように、保定装置(2)が最終形態に直接製造されるという利点を有する。保定装置(2)の材料は、残留応力や、結晶格子の転位および双晶形成のような欠陥、並びに材料内の微小クラックを回避するために、製造プロセス中に変化しないことが特に重要である。選択的レーザー溶融法は、厚みが小さい複雑な物体の製造によく適しているため、特に有利である。この方法の原理は、独国特許第19649865号で説明されている。
【0022】
未加工片(1)からの保定装置(2)のコンピュータ制御による製作(ステップ3b、
図5)の後、付加的な仕上げが必要なことがある(ステップ3c、
図5)。精巧に製作された保定装置(2)が依然として未加工片(1)との接続点(12)を有する場合(
図6)、最初にこれらを破断し、これらの点において保定装置(2)を研磨しなければならない。これには、ある程度の手作業を必要とする。本方法の1つの可能な別例において、保定装置(2)の鋭い縁を丸く加工するには、保定装置(2)全体を手動で研磨するか、保定装置を電解槽内に配置して電気化学的に研摩する。本方法のさらなる別例において、保定装置(2)がチタン合金からなる場合には、保定装置(2)を着色するために電解槽を用いることもできる。浸漬時間および電流の強さを調整することにより、任意の所望の色を得ることができる。
【0023】
本方法の一実施形態では、仕上げ後に、製造した保定装置が設計した3Dモデルに一致し、よって必要とされる精度と合致することを保証するために、製造した保定装置の付加的なチェックが実施される。これを行うために、製造した保定装置の幾何学的形状を、走査装置を用いて、設計した3Dモデルと比較して、検出することができる。これに代わって、印象用トレーによって歯の従来の印象を作製することができ、その印象から石膏によって歯のモデル(3)を作製して、保定装置を患者の口腔内で使用する前に保定装置の適合を確認することが可能となる。
【0024】
本発明に従った製造方法は、多くの利点を有する。第一に、任意の三次元構造の保定装置(2)は、単一の工程ステップにおいて材料片から製造され、これは既知の方法よりも遥かに簡単であり、より速く、より経済的である。第二に、この方法は、未加工片(1)を変化させることなく、三次元保定装置(2)の製造を可能にする。保定装置(2)は、このように純粋に受動的な方法で製造される。すなわち、保定装置(2)は、本来のナノ構造またはミクロ構造が不変である影響を受けない材料のみからなる。結果として、保定装置(2)内の残留応力およびナノ構造欠陥またはミクロ構造欠陥が回避され、そのため、得られた保定装置(2)はより安定的であり、より長い寿命サイクルを有する。第三に、本発明の方法は、装着者に対する高精度な適合および快適さを備えた保定装置を製造することを可能にする。第四に、保定装置を顧客の希望に従ってカスタマイズしたり、独創的な形を作製したりする可能性もある。