(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】インナートラップ、及び既設排水トラップの補修方法
(51)【国際特許分類】
E03C 1/29 20060101AFI20240214BHJP
E03C 1/28 20060101ALI20240214BHJP
F16L 55/24 20060101ALI20240214BHJP
F16L 1/00 20060101ALI20240214BHJP
F16L 5/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
E03C1/29
E03C1/28 Z
F16L55/24 Z
F16L1/00 D
F16L5/00 N
(21)【出願番号】P 2020106061
(22)【出願日】2020-06-19
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390013516
【氏名又は名称】株式会社小島製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】395017368
【氏名又は名称】京浜管鉄工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 誠造
(72)【発明者】
【氏名】加古 洋三
(72)【発明者】
【氏名】平松 拓也
(72)【発明者】
【氏名】木村 章一
【審査官】村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3160407(JP,U)
【文献】特開2004-316422(JP,A)
【文献】特開2018-031196(JP,A)
【文献】特開2012-082579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/12 - 1/33
F16L 55/24
F16L 1/00
F16L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の床スラブに埋設されて上端の開口により床面上の排水を受ける有底円筒状の既設ハウジング部と、前記既設ハウジング部の内側に同軸に設けられて封水部を形成しており、釣り鐘状の封水キャップが流路を確保した状態で被せられる既設立て管部と、前記既設ハウジング部の底部の下側で前記既設立て管部と同軸に設けられており、前記既設立て管部と下階の排水管とを接続する既設下端接続部とを備える既設排水トラップの補修に使用される樹脂製のインナートラップであって、
上端が開口している有底円筒形のハウジング部と、
前記ハウジング部の内側に同軸に設けられて封水部を形成しており、釣り鐘状の封水キャップが流路を確保した状態で被せられる円筒形の立て管部と、
前記ハウジング部の底部の下側で前記立て管部と連通した状態で同軸に設けられており、前記立て管部と下階の排水管とを接続する下端接続部とを備えており、
前記立て管部の外径寸法は、前記下端接続部に挿入される前記下階の排水管の外径寸法と等しい値に設定されており、
前記ハウジング部は、前記既設排水トラップの既設立て管部と既設下端接続部とが除去された状態で、既設ハウジング部内に上端の前記開口から収納できるように構成されているインナートラップ。
【請求項2】
請求項1に記載のインナートラップであって、
前記樹脂には、硬質塩化ビニルが使用されており、
前記ハウジング部の外径寸法が前記既設排水トラップの既設ハウジング部の内径寸法よりも小さく設定されているインナートラップ。
【請求項3】
建物の床スラブに埋設されて上端の開口により床面上の排水を受ける有底円筒状の既設ハウジング部と、前記既設ハウジング部の内側に同軸に設けられて封水部を形成しており、釣り鐘状の封水キャップが流路を確保した状態で被せられる既設立て管部と、前記既設ハウジング部の底部の下側で前記既設立て管部と同軸に設けられており、前記既設立て管部と下階の排水管とを接続する既設下端接続部とを備える既設排水トラップの補修に使用される樹脂製のインナートラップであって、
上端が開口している有底円筒形のハウジング部と、
前記ハウジング部の内側に同軸に設けられて封水部を形成しており、釣り鐘状の封水キャップが流路を確保した状態で被せられる円筒形の立て管部と、
前記ハウジング部の底部の下側で前記立て管部と連通した状態で同軸に設けられており、前記立て管部と下階の排水管とを接続する下端接続部とを備えており、
前記ハウジング部は、前記既設排水トラップの既設立て管部と既設下端接続部とが除去された状態で、既設ハウジング部内に上端の前記開口から収納できるように構成されており、
前記樹脂には、軟質塩化ビニルが使用されており、
前記ハウジング部の外径寸法が前記既設排水トラップの既設ハウジング部の内径寸法よりも大きく設定されて、前記ハウジング部が半径方向に内側に弾性変形することで、前記既設ハウジング部内に収納される構成であるインナートラップ。
【請求項4】
請求項3に記載のインナートラップであって、
前記立て管部の外径寸法は、前記下端接続部に挿入される前記下階の排水管の外径寸法と等しい値に設定されているインナートラップ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のインナートラップを使用した既設排水トラップの補修方法であって、
前記既設排水トラップの既設立て管部に被せられている釣り鐘状の封水キャップを外す準備工程と、
前記準備工程の後、内径寸法が前記既設排水トラップの既設下端接続部の外径寸法よりも大きな径寸法の円筒状ホルソーを前記既設排水トラップの既設ハウジング部内に同軸に挿入するホルソーセット工程と、
前記ホルソーセット工程の後、前記円筒状ホルソーを回転駆動させて、前記既設排水トラップの既設ハウジング部の底部と、その底部に重なる床スラブとを平面円形に切断して貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
前記貫通孔形成工程の後、前記既設排水トラップの既設ハウジングの内壁面に接着剤をセットする接着剤セット工程と、
前記接着剤セット工程の後、前記インナートラップを前記既設排水トラップの既設ハウジング部内に収納し、前記インナートラップのハウジング部の外周面を前記既設排水トラップの既設ハウジングの内壁面に接着するトラップ固定工程と、
を有する既設排水トラップの補修方法。
【請求項6】
請求項5に記載の既設排水トラップの補修方法であって、
前記接着剤には、エポキシ系粘土状の接着剤が使用される既設排水トラップの補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設排水トラップの補修に使用される樹脂製のインナートラップ、及びそのインナートラップを使用した既設排水トラップの補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の床部に設置された排水トラップの補修方法に関する技術が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の補修方法により補修された既設排水トラップ100が
図13に示されている。特許文献1の記載された補修方法では、既設排水トラップ100の釣り鐘状の封水キャップ102が外された後、既設排水トラップ100の内側、即ち、ハウジング部104の内壁面、及び底面と、立て管部106の内側、外側とが清掃される。ここで、既設排水トラップ100は鋳鉄製であるため、長期間(数十年)の使用により錆が大量に付着している。さらに、既設排水トラップ100には、ハウジング部104の内側に封水部を構成する立て管部106が存在しているため形状が複雑である。このため、既設排水トラップ100における内側の清掃では、錆を除去するため、一般的にサンドブラスト等が使用されている。そして、既設排水トラップ100の内側が清掃された後、ハウジング部104の内壁面、底面、及び立て管部106の外側に防食塗料が塗布され、さらに、
図13に示すように、前記立て管部106の内側、外側に筒状のゴム製被覆材108が被せられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した排水トラップの補修方法では、既設排水トラップ100の内側の錆を除去するためにサンドブラストが使用される。ここで、サンドブラストは、既設排水トラップ100の内側に研磨材である砂を高圧で吹き付ける方法であるため、砂や錆等が外に飛び散らないようにするための対策に手間が掛かる。さらに、既設排水トラップ100の立て管部106は、錆が除去されることで薄肉になるため、ゴム製被覆材108を被せたとしても耐久性は低い。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明の技術的課題は、既設排水トラップの補修工事を容易化するとともに、補修後の既設排水トラップの耐久性の向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題は、各発明によって解決される。第1の発明は、建物の床スラブに埋設されて上端の開口により床面上の排水を受ける有底円筒状の既設ハウジング部と、前記既設ハウジング部の内側に同軸に設けられて封水部を形成しており、釣り鐘状の封水キャップが流路を確保した状態で被せられる既設立て管部と、前記既設ハウジング部の底部の下側で前記既設立て管部と同軸に設けられており、前記既設立て管部と下階の排水管とを接続する既設下端接続部とを備える既設排水トラップの補修に使用される樹脂製のインナートラップであって、上端が開口している有底円筒形のハウジング部と、前記ハウジング部の内側に同軸に設けられて封水部を形成しており、釣り鐘状の封水キャップが流路を確保した状態で被せられる円筒形の立て管部と、前記ハウジング部の底部の下側で前記立て管部と連通した状態で同軸に設けられており、前記立て管部と下階の排水管とを接続する下端接続部とを備えており、前記立て管部の外径寸法は、前記下端接続部に挿入される前記下階の排水管の外径寸法と等しい値に設定されており、前記ハウジング部は、前記既設排水トラップの既設立て管部と既設下端接続部とが除去された状態で、既設ハウジング部内に上端の前記開口から収納できるように構成されている。
【0007】
本発明によると、インナートラップのハウジング部は、既設排水トラップの既設立て管部と既設下端接続部とが除去された状態で、既設ハウジング部内に上端の開口から収納できるように構成されている。このため、既設排水トラップの既設立て管部、及び既設下端接続部等を除去し、既設ハウジング部内に本発明のインナートラップをセットすることで、既設排水トラップの補修を行なうことができる。ここで、既設排水トラップの既設立て管部、及び既設下端接続部を除去する方法としては、例えば、建物の床スラブに貫通孔を形成する円筒状ホルソー(ダイヤモンドホルソー)を使用する。即ち、円筒状ホルソーを既設排水トラップの既設ハウジング部の内側に同軸に通し、既設ハウジング部の底部の位置で床スラブに貫通孔を開けることで、既設排水トラップの既設立て管部、及び既設下端接続部を同時に除去できる。そして、貫通孔を開けた後、既設排水トラップの既設ハウジング部内に本発明のインナートラップをセットして固定することで、前記既設排水トラップの補修が完了する。このため、既設排水トラップの内側をサンドブラストして補修する方法等と比較して既設排水トラップの補修の手間が大幅に低減される。また、インナートラップは樹脂製で新設のため、サンドブラスト後の金属を塗装して被覆する方法と比較して、耐久性が向上する。
【0008】
第2の発明によると、樹脂には、硬質塩化ビニルが使用されており、ハウジング部の外径寸法が既設排水トラップの既設ハウジング部の内径寸法よりも小さく設定されている。このため、インナートラップを確実に既設排水トラップの既設ハウジング部の内側に収納できるようになる。また、インナートラップに硬質塩化ビニルを使用することで、腐食に強くインナートラップの耐久性が向上する。
【0009】
建物の床スラブに埋設されて上端の開口により床面上の排水を受ける有底円筒状の既設ハウジング部と、前記既設ハウジング部の内側に同軸に設けられて封水部を形成しており、釣り鐘状の封水キャップが流路を確保した状態で被せられる既設立て管部と、前記既設ハウジング部の底部の下側で前記既設立て管部と同軸に設けられており、前記既設立て管部と下階の排水管とを接続する既設下端接続部とを備える既設排水トラップの補修に使用される樹脂製のインナートラップであって、上端が開口している有底円筒形のハウジング部と、前記ハウジング部の内側に同軸に設けられて封水部を形成しており、釣り鐘状の封水キャップが流路を確保した状態で被せられる円筒形の立て管部と、前記ハウジング部の底部の下側で前記立て管部と連通した状態で同軸に設けられており、前記立て管部と下階の排水管とを接続する下端接続部とを備えており、前記ハウジング部は、前記既設排水トラップの既設立て管部と既設下端接続部とが除去された状態で、既設ハウジング部内に上端の前記開口から収納できるように構成されており、前記樹脂には、軟質塩化ビニルが使用されており、前記ハウジング部の外径寸法が前記既設排水トラップの既設ハウジング部の内径寸法よりも大きく設定されて、前記ハウジング部が半径方向に内側に弾性変形することで、前記既設ハウジング部内に収納される構成である。
【0010】
第4の発明によると、立て管部の外径寸法は、下端接続部に挿入される排水管の外径寸法と等しい値に設定されている。
【0012】
第5の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載のインナートラップを使用した既設排水トラップの補修方法であって、既設排水トラップの既設立て管部に被せられている釣り鐘状の封水キャップを外す準備工程と、準備工程の後、内径寸法が前記既設排水トラップの既設下端接続部の外径寸法よりも大きな径寸法の円筒状ホルソーを既設排水トラップの既設ハウジング部内に同軸に挿入するホルソーセット工程と、ホルソーセット工程の後、前記円筒状ホルソーを回転駆動させて、既設排水トラップの既設ハウジング部の底部と、その底部に重なる床スラブとを平面円形に切断して貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、貫通孔形成工程の後、既設排水トラップの既設ハウジングの内壁面に接着剤をセットする接着剤セット工程と、接着剤セット工程の後、前記インナートラップを前記既設排水トラップの既設ハウジング部内に収納し、前記インナートラップのハウジング部の外周面を前記既設排水トラップの既設ハウジングの内壁面に接着するトラップ固定工程と、を有する。
【0013】
第6の発明によると、接着剤には、エポキシ系粘土状の接着剤が使用される。このため、樹脂製のインナートラップを既設の鋳鉄製の既設排水トラップの既設ハウジング部の内壁面、及び底部に強固に接着できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、既設排水トラップの補修工事を容易化できるとともに、補修後の既設排水トラップの耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るインナートラップの縦断面図である。
【
図2】本実施形態に係るインナートラップを使用して既設排水トラップを補修した状態を表す縦断面図である
【
図3】建物の床スラブに埋設された既設排水トラップを表す縦断面図である。
【
図4】既設排水トラップの補修工事の一工程を表す縦断面図である。
【
図5】既設排水トラップの補修工事の一工程を表す縦断面図である。
【
図6】既設排水トラップの補修工事の一工程を表す縦断面図である。
【
図7】既設排水トラップの補修工事の一工程を表す縦断面図である。
【
図8】既設排水トラップの補修工事の一工程を表す縦断面図である。
【
図9】補修後の既設排水トラップに対して下階の排水管を接続した様子を表す縦断面図である。
【
図10】前記インナートラップの変形例を表す縦断面図である。
【
図11】補修後の既設排水トラップの使用変形例を表す縦断面図である。
【
図12】既設排水トラップの補修工事の変更例を表す縦断面図である。
【
図13】従来の補修方法により既設排水トラップを補修した様子を表す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施形態1]
以下、
図1~
図12に基づいて本発明の実施形態1に係る既設排水トラップ10の補修に使用される樹脂製のインナートラップ20、及びそのインナートラップ20を使用した既設排水トラップ10の補修方法について説明する。ここで、本実施形態に係る既設排水トラップ10は、集合住宅の浴室の床部において使用されている鋳鉄製の排水トラップである。
【0017】
<既設排水トラップ10について>
図3に基づいて、既設排水トラップ10の設置状態について説明する。既設排水トラップ10は、集合住宅の浴室の床面F上の水を下階の排水管に導く鋳鉄製のトラップであり、
図3に示すように、排水を貯留する封水部Wを備えている。そして、既設排水トラップ10の封水部Wに貯留されている水の働きで下階の排水管の異臭が浴室内に流れ込まないように構成されている。既設排水トラップ10は、円筒形の上ハウジング部13と、上ハウジング部13の下に設けられた有底円筒形の下ハウジング部14と、上ハウジング部13の上端に被せられ、円板形のストレーナ11がセットされる環状のストレーナ支持部12とを備えている。
【0018】
下ハウジング部14は、
図3に示すように、上ハウジング部13の下部を同軸に収納できるサイズで形成されている。下ハウジング部14の上部には、その下ハウジング部14の側壁を半径方向に貫通する雌ネジ孔(図番省略)が円周方向に複数個形成されており、各々の雌ネジ孔に固定ボルト14sが螺合されている。これにより、下ハウジング部14に対して上ハウジング部13の下部を収納し、下ハウジング部14に対する上ハウジング部13の挿入寸法を調整後、固定ボルト14sを締付けることで、下ハウジング部14に対して上ハウジング部13を固定することができる。また、下ハウジング部14には、固定ボルト14sの下方で半径方向に外側に張り出すように形成された集水フランジ14fが設けられている。さらに、下ハウジング部14の側壁には、集水フランジ14fの上側に、その集水フランジ14fにより集められた水を下ハウジング部14内に導く斜め通路14x(いわゆる水抜穴)が形成されている。
【0019】
下ハウジング部14の底部14bには、
図3に示すように、下ハウジング部14と同軸に立て管部16が設けられている。立て管部16は、下ハウジング部14の内側に封水部Wを形成するための立ち上がり管であり、立て管部16の上端位置まで封水部W内に水が貯留される(
図2、
図3の点線参照)。立て管部16には、釣り鐘状の封水キャップ18(いわゆる「わん」)が流路Rを確保した状態で被せられている。また、下ハウジング部14の底部14bの下側には、下端接続部17が立て管部16と連通した状態で同軸に形成されている。そして、既設排水トラップ10の下端接続部17に対して、下階の排水管(図示省略)が接続されている。これにより、浴室内の排水は、ストレーナ11を介して上ハウジング部13、下ハウジング部14内に流入し、封水部W、及び封水キャップ18と立て管部16間の流路Rを介して立て管部16の内側に導かれる。そして、立て管部16内の排水は、下階の排水管に流入する。
【0020】
<排水トラップ10の設置について>
排水トラップ10の設置では、
図3に示すように、先ず、下ハウジング部14が床スラブKSの貫通部KSHに収納され、その下ハウジング部14の集水フランジ14fが床スラブKSの上面にセットされる。この状態で、床スラブKSの上面、及び集水フランジ14fの上面が防水シートSにより覆われる。次に、防水シートSの上に押えモルタルMSが流し込まれ、排水トラップ10は、ストレーナ支持部12の近傍までが押えモルタルMSに埋められる。そして、押えモルタルMSの表面にタイルTが張られることで浴室の床面Fが完成し、排水トラップ10のストレーナ11の上面が床面Fと面一になる。そして、浴室の使用により経時的にタイルTの目地や押えモルタルMSのひび割れ等から水が漏れると、その水は排水トラップ10の集水フランジ14fにより中央に集められ、下ハウジング部14の斜め通路14xにより、下ハウジング部14の内側に導かれる。
【0021】
<既設排水トラップ10の補修に使用されるインナートラップ20について>
インナートラップ20は、
図1、
図2に示すように、既設排水トラップ10のストレーナ支持部12、上ハウジング部13、及び下ハウジング部14の側壁部を除く部分、即ち、既設排水トラップ10の内側を全て更新するための部品である。インナートラップ20は、硬質塩化ビニル製であり、
図1に示すように、上端に開口22uを備える有底円筒形のハウジング部22を備えている。ハウジング部22の外径寸法は、既設排水トラップ10の上ハウジング部13の内径寸法より若干小さく設定されている。即ち、ハウジング部22の外径寸法が制限されている状態でそのハウジング部22内の容積を確保するため、ハウジング部22の側壁の肉厚寸法は他の部位よりも小さく設定されている。また、ハウジング部22の軸方向の長さ寸法(高さ寸法)は、既設排水トラップ10の下ハウジング部14の底部14bの上面から上ハウジング部13の上端までの寸法とほぼ等しい値に設定されている。
【0022】
インナートラップ20は、
図1に示すように、ハウジング部22の底部22bの位置から立ち上がるようにそのハウジング部22と同軸に設けられた立て管部24を備えている。立て管部24は、ハウジング部22の内側に封水部Wを形成するための立ち上がり管であり、釣り鐘状の封水キャップ18が流路を確保した状態で被せられるようになっている。また、インナートラップ20は、ハウジング部22の底部22bの下側位置で、立て管部16と連通した状態で同軸に形成されている下端接続部26を備えている。下端接続部26は、
図9に示すように、インナートラップ20の立て管部24と下階の排水管5とを接続するための受け口である。ここで、立て管部24の外径寸法は、下端接続部26に挿入される排水管5の立て管5sの外径寸法と等しい値に設定されている。
【0023】
<インナートラップ20を使用した既設排水トラップ10の補修の手順について>
既設排水トラップ10を補修する際には、
図3において、先ず、円板形のストレーナ11が外され、次に、封水キャップ18が外される。なお、ストレーナ11、及び封水キャップ18は再利用が可能な場合には、洗浄後、再利用される。次に、
図4に示すように、床スラブKSに貫通孔H(
図5等参照)を形成する円筒状ホルソー30(ダイヤモンドホルソー)が既設排水トラップ10の上ハウジング部13、下ハウジング部14と同軸にセットされる。ここで、円筒状ホルソー30の外径寸法は、インナートラップ20の外径寸法よりも小さく設定されている。また、円筒状ホルソー30の内径寸法は、既設排水トラップ10の下端接続部17の外径寸法よりも大きく設定されている。円筒状ホルソー30は、既設排水トラップ10の上ハウジング部13、下ハウジング部14に挿入される。そして、円筒状ホルソー30が回転駆動されることにより、
図4、
図5に示すように、下ハウジング部14の底部14bと、その底部14bに重なる床スラブKSが平面円形に切断され、貫通孔Hが形成される。これにより、
図6に示すように、既設排水トラップ10の立て管部16と下端接続部17とが貫通孔Hの内側部分と共に除去される。
【0024】
次に、
図6に示すように、既設排水トラップ10の下ハウジング部14の底部14bの残部上面にエポキシ系粘土状の接着剤Bが環状にセットされる。また、上ハウジング部13の内壁面、及び上ハウジング部13の下端と下ハウジング部14との境界位置に接着剤Bが環状にセットされる。この状態で、
図6~
図8に示すように、インナートラップ20が既設排水トラップ10の上端開口から上ハウジング部13、下ハウジング部14内に挿入される。これにより、
図8に示すように、インナートラップ20のハウジング部22の底部22bの下角部が接着剤Bにより下ハウジング部14の底部14bの残部上面、及び下ハウジング部14の内壁面下部に固定される。また、インナートラップ20のハウジング部22の外周面が同じく接着剤Bにより上ハウジング部13の内壁面、及び下ハウジング部14の内壁面上部に固定される。このようにして、インナートラップ20が既設排水トラップ10の上ハウジング部13、下ハウジング部14に固定されると、インナートラップ20の立て管部24に封水キャップ18が被せられる。さらに、既設排水トラップ10のストレーナ支持部12にストレーナ11がセットされて、既設排水トラップ10の補修が完了する。
【0025】
既設排水トラップ10の補修が完了すると、
図9に示すように、下階の排水管5の施工が行われる。即ち、下階の排水管5を構成する立て管5sが既設排水トラップ10のインナートラップ20の下端接続部26に挿入接続される。次に、立て管5sの下端部がエルボー継手5eを介して吊り支持金具36に支持された排水管5の水平部に接続される。そして、下階の排水管5の施工後に床スラブKSの貫通孔Hの内側に下方からモルタルMDが詰められ、貫通孔Hの下端開口が閉塞板34により塞がれて、配管工事が終了する。
【0026】
<本実施形態に係る既設排水トラップと本発明に係る既設排水トラップとの用語の対応>
本実施形態に係る既設排水トラップ10の上ハウジング部13と下ハウジング部14とが本発明の既設ハウジング部に相当し、立て管部16が本発明の既設立て管部に相当し、下端接続部17が本発明の既設下端接続部に相当する。
【0027】
<本実施形態に係るインナートラップ20の長所について>
本実施形態に係るインナートラップ20は、既設排水トラップ10の立て管部16(既設立て管部)、及び下端接続部17(既設下端接続部)を除去した後、上ハウジング部13、下ハウジング部14内にセットできるように構成されている。ここで、既設排水トラップ10の立て管部16(既設立て管部)、及び下端接続部17(既設下端接続部)を除去する方法として、円筒状ホルソー30を使用できる。即ち、円筒状ホルソー30を既設排水トラップ10の上ハウジング部13、下ハウジング部14の内側に同軸に通し、下ハウジング部14の底部14bの位置で床スラブKSに貫通孔Hを開けることで、既設排水トラップ10の立て管部16(既設立て管部)、及び下端接続部17(既設下端接続部)を除去できる。そして、貫通孔Hを開けた後、既設排水トラップ10の上ハウジング部13、下ハウジング部14内にインナートラップ20を上方から挿入して固定することで、既設排水トラップ10の補修が完了する。このため、既設排水トラップ10の内側をサンドブラストして補修する方法等と比較して既設排水トラップ10の補修の手間が大幅に低減される。また、インナートラップ20は樹脂製で新設のため、サンドブラスト後の金属を塗装して被覆する方法と比較して、耐久性が向上する。
【0028】
また、インナートラップ20は、硬質塩化ビニルにより形成されているため、腐食に強く耐久性が高い。また、インナートラップ20のハウジング部22の外径寸法が既設排水トラップ10の上ハウジング部13、下ハウジング部14の内径寸法よりも小さく設定されている。このため、インナートラップ20を確実に既設排水トラップ10の上ハウジング部13、下ハウジング部14の内側に収納できるようになる。
【0029】
<変更例>
ここで、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本実施形態では、インナートラップ20の材料として硬質塩化ビニルを使用する例を示した。しかし、インナートラップ20の材料として軟質塩化ビニルを使用し、インナートラップ20のハウジング部22の外径寸法を既設排水トラップ10の上ハウジング部13の内径寸法よりも大きく設定することも可能である。これにより、インナートラップ20のハウジング部22を半径方向に内側に弾性変形させて、既設排水トラップ10の上ハウジング部13、下ハウジング部14に挿入することで、インナートラップ20のハウジング部22と既設排水トラップ10の上ハウジング部13、下ハウジング部14間の隙間を小さくできる。また、インナートラップ20のハウジング部22の側壁のみ軟質塩化ビニルを使用することも可能である。
【0030】
また、本実施形態では、
図1に示すように、インナートラップ20のハウジング部22の側壁の肉厚寸法を他の部位よりも小さく設定し、さらに立て管部24の外径寸法を下端接続部26に挿入される排水管5の立て管5sの外径寸法と等しい値に設定する例を示した。しかし、
図10に示すように、インナートラップ20の立て管部24の外径寸法を下端接続部26に挿入される排水管5の立て管5sの外径寸法よりも小さく設定することも可能である。これにより、インナートラップ20の立て管部24に被せる封水キャップ18の外径寸法も小さくできる。この結果、インナートラップ20のハウジング部22の側壁の肉厚寸法を他の部位と同じ肉厚寸法にしても、ハウジング部22の内壁面と封水キャップ18間の流路を十分に確保できる。
【0031】
また、本実施形態では、
図9に示すように、浴室の既設排水トラップ10を補修後もそのまま浴室の排水トラップとして使用する例を示した。しかし、インナートラップ20の
立て管部24の外径寸法を排水管5の立て管5sの外径寸法と等しくすることで、
図11に示すように、補修後の排水トラップを排水管5,7の継手として使用可能である。即ち、旧浴室内にユニットバス(図示省略)を設置した場合、ユニットバスの排水管7を直線継手25によりインナートラップ20の立て管部24に接続することにより、ユニットバスの排水を下階の排水管5に導くことが可能になる。また、
図12に示すように、大径の円筒状ホルソー30を使用して下ハウジング14の内側に上ハウジング部13の径寸法とほぼ等しい貫通孔を形成し、それに合わせて大径のインナートラップ20をセットする構成でも可能である。
【符号の説明】
【0032】
5・・・・・排水管
10・・・・既設排水トラップ
13・・・・上ハウジング部(既設ハウジング部)
14・・・・下ハウジング部(既設ハウジング部)
14b・・・底部
16・・・・立て管部(既設立て管部)
17・・・・下端接続部(既設下端接続部)
18・・・・封水キャップ
20・・・・インナートラップ
22・・・・ハウジング部
22u・・・開口
22b・・・底部
24・・・・立て管部
26・・・・下端接続部
30・・・・円筒状ホルソー
F・・・・・床面
H・・・・・貫通孔
KS・・・・床スラブ
R・・・・・流路
W・・・・・封水部