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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】熱交換器及び冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F28F 13/18 20060101AFI20240214BHJP
   F25B 39/02 20060101ALI20240214BHJP
   F28F 1/12 20060101ALI20240214BHJP
   F28F 19/04 20060101ALI20240214BHJP
   F28D 1/053 20060101ALI20240214BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
F28F13/18 Z
F25B39/02 V
F28F1/12 G
F28F19/04 Z
F28D1/053 Z
C09D201/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020123987
(22)【出願日】2020-07-20
(65)【公開番号】P2022020472
(43)【公開日】2022-02-01
【審査請求日】2023-01-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(ACCEL)「濃厚ポリマーブラシのレジリエンシー強化とトライボロジー応用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平山 卓也
(72)【発明者】
【氏名】辻井 敬亘
(72)【発明者】
【氏名】榊原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴哉
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-158247(JP,A)
【文献】特表2020-508727(JP,A)
【文献】特開2019-138522(JP,A)
【文献】特開2017-013491(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0181004(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108917450(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 13/18
F25B 39/02
F28F 1/12
F28F 19/04
F28D 1/053
C09D 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部に被膜層が形成された熱交換器であって、
前記被膜層が、複数の高分子鎖が集合して構成されたブラシ状の高分子鎖集合体を含み、
前記被膜層に液状物質が保持されたときに、前記液状物質が氷点より低い温度でも液体状態に保持される、熱交換器。
【請求項2】
前記液状物質が水である、請求項に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記液状物質が不揮発性のイオン液体である、請求項に記載の熱交換器。
【請求項4】
前記複数の高分子鎖の片側又は両側の末端が前記熱交換器の表面上に固定されて前記高分子鎖集合体が形成され、前記高分子鎖の密度が0.01鎖/nm以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の熱交換器。
【請求項5】
前記高分子鎖集合体が、前記複数の高分子鎖が側鎖として主鎖に結合したボトルブラシ構造を有するポリマーである、請求項1~のいずれか一項に記載の熱交換器。
【請求項6】
前記ポリマーの側鎖の密度が、0.01鎖/nm以上である、請求項に記載の熱交換器。
【請求項7】
前記被膜層の膜厚が350nm以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の熱交換器。
【請求項8】
前記被膜層の表面の25℃の水に対する接触角θ1が、10°≦θ1≦90°を満たす、請求項1~のいずれか一項に記載の熱交換器。
【請求項9】
前記被膜層の表面の水平面に対する角度θ2と前記接触角θ1とが、10°≦θ1≦75°、かつ90°≧θ2>90-θ1の関係を満たす、請求項に記載の熱交換器。
【請求項10】
前記熱交換器が、複数の伝熱フィンと、前記複数の伝熱フィンに固定され、内部を冷媒が流れる伝熱管とを備え、前記被膜層が前記伝熱フィンの表面の少なくとも一部に形成されている、請求項1~のいずれか一項に記載の熱交換器。
【請求項11】
前記伝熱フィンの表面における高さ方向の中間から底側の半分の領域に部分的に前記被膜層が形成されている、請求項10のいずれか一項に記載の熱交換器。
【請求項12】
前記伝熱フィンの表面全体に前記被膜層が形成されている、請求項10に記載の熱交換器。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項の熱交換器と、前記熱交換器に接続された圧縮機と、前記圧縮機に接続された放熱器と、前記放熱器に接続された膨張装置と、を備えている、冷凍サイクル装置。
【請求項14】
前記熱交換器が室外機に設けられている、請求項13に記載の冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器及び冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調整機、冷凍機等の冷凍サイクル装置に用いられる熱交換器においては、運転時に大気中の水分が凝結し、フィン表面で結露して水滴が付着したり、フィン表面に霜が形成されたりして、熱交換器の伝熱フィン間が目詰まりすることがある。このような目詰まりは、伝熱フィン間の通風抵抗を増大させ、熱交換器の熱交換効率を低下させる。
【0003】
フィン間が水滴で目詰まりすることを抑制する熱交換器としては、フィン表面に親水性に優れた樹脂膜を形成した熱交換器が知られている。例えば、特許文献1には、ポリビニルアルコールにビニルピロリドンをグラフト重合したグラフト重合体と、スルホン酸(塩)及びカルボン酸(塩)の少なくとも一つを重合成分として含むアニオン性重合体と、架橋剤とを含む組成物によって、フィン表面に樹脂被膜層を形成することが開示されている。しかし、特許文献1では、フィン表面における水滴の付着や着氷、氷核の形成や成長を十分に抑制することはできず、さらなる改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6250405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、伝熱フィンの表面等での水滴の付着、着氷、氷核の形成による熱交換効率の低下を抑制できる熱交換器、及び前記熱交換器を備える冷凍サイクル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の熱交換器は、表面の少なくとも一部に被膜層が形成されている。被膜層は、複数の高分子鎖が集合して構成されたブラシ状の高分子鎖集合体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態の冷凍サイクル装置の一例を示した概略構成図。
図2】実施形態の冷凍サイクル装置における熱交換器の正面図である。
図3図2の熱交換器の伝熱フィン及び伝熱管の底側を拡大して示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において「~」という記号を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方、又は、いずれかを意味する。
「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び「メタクリル」の両方、又は、いずれかを意味する。
【0009】
実施形態の熱交換器は、表面の少なくとも一部に被膜層が形成されている。被膜層は、複数の高分子鎖が集合して構成されたブラシ状の高分子鎖集合体を含む層である。実施形態の熱交換器は、例えば、複数の伝熱フィンと、前記複数の伝熱フィンに固定され、内部を冷媒が流れる伝熱管と、を備えている。
【0010】
実施形態の冷凍サイクル装置は、熱交換器と、前記熱交換器に接続された圧縮機と、前記圧縮機に接続された放熱器と、前記放熱器に接続された膨張装置と、を備えるものであり、前記の実施形態の熱交換器を備える以外は公知の態様を採用できる。実施形態の冷凍サイクル装置の具体例としては、例えば、空気調和機、冷凍機等が挙げられる。
【0011】
以下、実施形態の熱交換器及び冷凍サイクル装置の一例を示して説明する。
図1は、実施形態の一例である冷凍サイクル装置1を示した概略構成図である。冷凍サイクル装置1は、圧縮機2と、四方切換弁3と、室外熱交換器4と、膨張装置5と、室内熱交換器6とが冷媒配管7を介して順次接続されている、ヒートポンプ式の冷凍サイクル装置である。
【0012】
圧縮機2、四方切換弁3、室外熱交換器4及び膨張装置5は、室外機1Aに設けられている。室内熱交換器6は、室内機1Bに設けられている。全ての冷媒配管7は、銅管からなる。
【0013】
図2は、室外機1A内に収容される室外熱交換器4の正面図である。
室外熱交換器4は、複数の伝熱フィン10と、複数本の伝熱管12と、複数本のUベンド管13とから組み立てられている。
【0014】
複数の伝熱フィン10は、それぞれ伝熱管挿通孔11を有していて、互いの面が向き合うように所定の間隔をあけて並設されている。伝熱フィン10の互いの隙間には、熱交換空気が流通するようになっている。
伝熱フィン10の材質としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられる。
【0015】
伝熱管12は、略U字状に曲成された長尺のU字管である。伝熱管12は、各伝熱フィン10の伝熱管挿通孔11に挿通され、複数の伝熱フィン10の全てを貫通するように設けられている。最下部に位置する伝熱管12は、ドレンパン8に直接接触するか、もしくはわずかの間隙をあけて載置されている。暖房運転時は、室外熱交換器4で冷媒が蒸発し、それに伴ってドレン水が生成される。ドレン水は室外熱交換器4に沿って流下し、ドレンパン8に集溜される。室外熱交換器4の最下部の伝熱管12は、集溜されたドレン水に浸漬する位置にあり、冷媒配管7と接続されている。
【0016】
Uベンド管13は、略U字状に曲成された短尺のU字管である。Uベンド管13の両端部が、伝熱フィン10から突出し、かつ上下に隣接している伝熱管12の開口端部のそれぞれに接続されている。互いに接続された伝熱管12とUベンド管13の内部には冷媒が導通するようになっており、蛇行状の冷媒流路が構成されている。
伝熱管12及びUベンド管13の材質としては、例えば、銅、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられる。
【0017】
図3に示すように、伝熱フィン10の表面10a及び伝熱管12の表面12aには、被膜層20が形成されている。被膜層20は、ブラシ状の高分子鎖集合体を含む層である。ブラシ状の高分子鎖集合体の詳細については後述する。
被膜層20は、伝熱フィン10の表面10aの少なくとも一部に形成することができる。例えば、被膜層20は、伝熱フィン10の表面10aにおける高さ方向の中間から底側の半分の領域A(図2)に部分的に形成する。被膜層20は、伝熱フィン10の表面10aの全体に形成してもよい。被膜層20は、伝熱管12の表面12aの少なくとも一部に形成することもでき、伝熱管12の表面12aの全体に形成することが好ましい。
【0018】
ブラシ状の高分子鎖集合体を含む被膜層は液状物質を保持可能であり、被膜層に保持された液状物質は氷点より低い温度(好ましくは-10℃以下、より好ましくは-20℃以下、さらに好ましくは-30℃以下)でも液体状態を保持できる。このように被膜層が液状物質を保持した状態では、優れた水滴付着抑制効果、着氷抑制効果及び氷核形成抑制効果が発現される。このような効果が得られる詳細な理由は不明であるが、以下のように推測される。
【0019】
被膜層では、液状物質が高分子鎖集合体によって保持されることで不可逆的な液漏れ等が起こりにくい安定な液体層を形成できると推測される。高分子鎖集合体に保持された液状物質は、高分子鎖集合体によって運動性が適度に制御されて過冷却状態又は不凍状態を生み出しやすいと推測される。表面の少なくとも一部に被膜層が形成されている熱交換器は、被膜層にこのような安定な液体層が存在できることで、露等の水滴や、氷、雪、霜等に対する運動性の高い界面を有し得ると推測される。そのため、表面での水滴、氷、雪、霜等の滑落性に優れており、水滴付着抑制効果及び着氷抑制効果が発現されると推測される。
また、被膜層に安定な液体層が存在し得ることにより、氷点以下でも水が凝固することなく熱運動できるので、熱交換器の表面上での水の氷結温度をより低下させることができると推測される。そのため、氷核の発生温度を低下させることができ、優れた氷核形成抑制効果及び着霜防止効果が発現されると推測される。
【0020】
特に寒冷地の空気調整機の室外機に設けられる熱交換器においては、暖房運転時にフィン表面に霜が形成されやすく、除霜運転が必要となる。これに対し、熱交換器の表面の少なくとも一部に形成された被膜層が液状物質を保持した状態では優れた着霜防止効果が発現するため、除霜運転を短縮できる。特に、伝熱フィン10の表面10aにおける下半分の領域Aに被膜層20が形成されている室外熱交換器4のように、霜がつきやすい伝熱フィンの底側の領域に少なくとも被膜層を形成することで、除霜運転の短縮効果がより高くなる。また、伝熱フィンの表面全体に被膜層を形成すれば、除霜レスの空気調整機とすることもできる。
【0021】
伝熱フィンに対しては平板状態で被膜層を形成できるため作業性に優れ、生産性が高い。なお、被膜層は、熱交換器の伝熱管の表面に形成することもできる。この場合、伝熱管の表面の少なくとも一部に被膜層を形成することができ、水滴付着抑制効果、着氷抑制効果及び氷核形成抑制効果が向上する観点から、伝熱管の表面全体に被膜層を形成することが好ましい。
【0022】
被膜層が液状物質を保持していることは、示差走査熱量測定により確認することができる。また、示差走査熱量測定で確認できない場合は、押し込み硬さ試験(インデンテーション試験)の方法で確認することができる。
【0023】
被膜層の膜厚は、より優れた水滴付着抑制効果、着氷抑制効果及び氷核形成抑制効果が得られやすい点から、350nm以上が好ましく、500nm以上がより好ましく、1000nm以上がさらに好ましい。
被膜層の膜厚は、分光エリプソメトリー法等によって測定できる。
【0024】
被膜層の表面の25℃の水に対する接触角θ1は、10°≦θ1≦90°を満たすことが好ましく、30°≦θ1≦75°を満たすことがより好ましく、45°≦θ1≦60°を満たすことがさらに好ましい。接触角θ1が前記範囲内であれば、熱交換器のフィン間に付着する結露水の体積を小さく保ちつつ、被膜層表面から結露水を離脱しやすくすることができ、通風抵抗が低減され、熱交換効率が向上する。
被膜層の表面の水に対する接触角θ1の値は、被膜層の表面に水を1μL着摘し、着滴1秒後の表面の水の接触角を測定して求めた値である。
【0025】
また、接触角θ1が小さく結露水が離脱しにくい場合ほど、被膜層の表面の面方向を鉛直方向に近づけることで、被膜層表面の結露水の離脱をより促進できる。この観点から、被膜層表面の水平面に対する角度、すなわち水平面と被膜層の表面とがなす角度をθ2としたとき、接触角θ1は、θ2>90-θ1を満たすことが好ましい。
【0026】
特に外気温度が氷点下となる寒冷地では、フィン表面を下方に滑落した水が室外機の外部へと排水される前に底板上で凍結し、正常に排水されなくなるおそれがある。そのため、実施形態の熱交換器を備える室外機において、室外機の筐体の底板にヒータが設けられていることが好ましい。
【0027】
室外機の底板にヒータを設ける態様としては、特に限定されず、例えば、コードヒータをブラケットに保持させた状態で底板の上面に敷設する態様が挙げられる。室外機の底板にヒータを設ける態様の詳細については、例えば、国際公開第2019-123596号等を参照することができる。
【0028】
[高分子鎖集合体]
高分子鎖集合体とは、複数の高分子鎖の集合体であって、全体としてブラシ様の形状をなしているものであり、高分子の溶液を単に塗布して形成した有機膜とは異なるものである。
「高分子鎖」とは、複数の構成単位が鎖状に連なった構造を有する分子又は分子の部分のことをいう。高分子鎖集合体を構成する複数の高分子鎖は、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、高分子鎖は、複数の構成単位が鎖状に連なった構造を有していればよく、側鎖を有していても分岐構造を有していてもよく、高分子鎖同士の間や、高分子鎖と熱交換器の高分子鎖を固定する表面との間に架橋構造が形成されていてもよい。
【0029】
高分子鎖は、被膜層に保持させる液状物質に対して親和性を有するものであることが好ましい。例えば、被膜層に水や、親水性の液状物質を保持させる場合は、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖は、親水性高分子鎖であることが好ましい。親水性高分子鎖は、親水性モノマーを用いて合成してもよく、疎水性モノマーを用いて高分子を合成した後に、その高分子に親水性基を導入することによって合成してもよい。
【0030】
高分子鎖は、1種類のモノマーを重合させたホモポリマーであってもよく、2種類以上のモノマーを重合させたコポリマーであってもよい。コポリマーとしては、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラジエントコポリマー等が挙げられる。
【0031】
高分子鎖の生成に用いるモノマーは、その重合により得られる高分子鎖を、グラフト鎖として熱交換器の表面上に結合できるものであることが好ましい。そのようなモノマーとしては、付加重合性の二重結合を少なくとも1つ有するモノマーを挙げることができ、付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーであることが好ましい。付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸系モノマー、スチレン系モノマー等が挙げられる。
【0032】
(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、トルイル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、3-エチル-3-(メタ)アクリロイルオキシメチルオキセタン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリレート-2-アミノエチル、2-(2-ブロモプロピオニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-ブロモイソブチリルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、1-(メタ)アクリロキシ-2-フェニル-2-(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ)エタン、1-(4-((4-(メタ)アクリロキシ)エトキシエチル)フェニルエトキシ)ピペリジン、γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチル-ペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、トリフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、2-トリフルオロメチルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロエチル-2-ペルフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロメチル(メタ)アクリレート、ジペルフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロメチル-2-ペルフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロデシルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロヘキサデシルエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0033】
スチレン系モノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-クロロスチレン、p-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、o-アミノスチレン、p-スチレンクロロスルホン酸、スチレンスルホン酸及びその塩、ビニルフェニルメチルジチオカルバメート、2-(2-ブロモプロピオニルオキシ)スチレン、2-(2-ブロモイソブチリルオキシ)スチレン、1-(2-((4-ビニルフェニル)メトキシ)-1-フェニルエトキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン等が挙げられる。
【0034】
また、付加重合性の二重結合を1分子中に1つ有する単官能性のモノマーとして、フッ素含有ビニルモノマー(ペルフルオロエチレン、ペルフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等)、ケイ素含有ビニル系モノマー(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等)、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル、マレイミド系モノマー(マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等)、ニトリル基含有モノマー(アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、アミド基含有モノマー(アクリルアミド、メタクリルアミド等)、ビニルエステル系モノマー(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等)、オレフィン類(エチレン、プロピレン等)、共役ジエン系モノマー(ブタジエン、イソプレン等)、ハロゲン化ビニル(塩化ビニル等)、ハロゲン化ビニリデン(塩化ビニリデン等)、ハロゲン化アリル(塩化アリル等)、アリルアルコール、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、N-ビニルカルバゾール、メチルビニルケトン、ビニルイソシアナート、主鎖がスチレン、(メタ)アクリル酸エステル、シロキサン等から誘導されたマクロモノマー等も用いることもできる。
【0035】
また、高分子鎖の生成には、イオン液体型モノマーを用いることも好ましい。イオン液体型モノマーとしては、特に限定されないが、例えば下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0036】
【化1】
【0037】
式(1)において、mは1~10の整数を表し、nは1~5の整数を表す。Rは、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、R、R及びRは、各々独立に炭素数1~5のアルキル基を表す。ただし、R、R及びRにおけるアルキル基は、その炭素原子や水素原子が、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子から選ばれる1種以上のヘテロ原子で置換されていてもよい。R、R及びRは、その2つ以上が連結して環状構造を形成していてもよい。
【0038】
Yは一価のアニオンを表す。Yが表す一価のアニオンとしては、特に限定されないが、例えばBF 、PF 、AsF 、SbF 、AlCl 、NbF 、HSO 、ClO 、CHSO 、CFSO 、CFCO 、(CFSO、Cl、Br、I等が挙げられる。アニオンの安定性を考慮すると、BF 、PF 、(CFSO、CFSO 、又はCFCO が好ましい。
【0039】
イオン液体型モノマーは、式(1)で表される化合物のなかでも、特に下記式(2)~(9)のいずれかで表される化合物であることが好ましい。
【0040】
【化2】
【0041】
式(2)~(9)において、m、R、R、Yは、式(1)のm、R、R、Yと同義である。Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表す。
【0042】
親水性高分子鎖の生成には、親水性モノマーを用いることが好ましい。すなわち、親水性高分子鎖は親水性モノマー由来の構成単位を含むことが好ましい。
【0043】
親水性モノマーとしては、ヒドロキシ置換アルキル(メタ)アクリレート(例、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエトキシプロピル(メタ)アクリレート等)、ポリ(アルキレングリコール)モノ(メタ)アクリレート(例、ポリ(エチレングリコール)モノメタクリレート等)、アルコキシポリ(アルキレングリコール)(メタ)アクリレート(例、メトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート等)、フェノキシポリ(アルキレングリコール)(メタ)アクリレート(例、フェノキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート等)が好ましく、ポリアルコキシポリ(アルキレングリコール)(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0044】
親水性モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド(例、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド等)、2-グルコシロキシエチル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、メタクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、及びその四級アンモニウム塩を用いることもできる。
【0045】
親水性高分子鎖の生成には、カルボキシル基もしくはカルボキシル基の塩に容易に転換できる基を側鎖に有するモノマーを用いることも好ましい。生成した高分子鎖の側鎖の基を、カルボキシル基もしくはカルボキシル基の塩に転換することによって親水性を付与することができる。カルボキシル基もしくはカルボキシル基の塩に容易に転換できる基を側鎖に有するモノマーとしては、tert-ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0046】
これらの高分子鎖の生成に用いられるモノマーは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0047】
高分子鎖集合体には、高分子鎖同士の間や、高分子鎖と熱交換器の高分子鎖を固定する表面との間に架橋構造が形成されていてもよい。これにより、高分子鎖集合体の弾性率を制御することができる。高分子鎖同士の間に形成する架橋構造は、物理的架橋構造又は化学的架橋構造のいずれであってもよい。架橋構造は、高分子鎖を生成するための重合反応と同時に形成してもよいし、高分子鎖を生成した後に形成してもよい。高分子鎖を生成するための重合反応と同時に行う架橋構造の形成は、重合反応液に、高分子鎖を生成するための単官能性モノマーに加えて、エチレングリコールジメタクリレート等のジビニルモノマーのような二官能性モノマーを適量添加することにより行うことができる。また、生成した高分子鎖同士の間や、高分子鎖と熱交換器の高分子鎖を固定する表面との間の架橋構造の形成は、架橋基を有するモノマーを用いて高分子鎖に架橋基を導入しておき、その架橋基と、他の高分子鎖の反応基との反応、その架橋基と高分子鎖を固定する表面の反応基との反応により行うことができる。架橋基としては、アジド基、ハロゲン基(好ましくはブロモ基)、アルコキシシリル基、イソシアネート基、ビニル基、チオール基等が挙げられる。また、高分子鎖をリビングラジカル重合で生成した際に、グラフト鎖の末端に残る反応基を架橋基として用いることもできる。
【0048】
高分子鎖集合体は、各高分子鎖をブラシ状に集合させることによって形成する。高分子鎖集合体の態様としては、複数の高分子鎖を熱交換器の表面上(例えば伝熱フィンや伝熱管の表面上)に固定する態様、複数の高分子鎖を側鎖として、主鎖としての幹ポリマーに結合する態様等が挙げられる。複数の高分子鎖を熱交換器の表面上に固定する場合、複数の高分子鎖の末端を熱交換器の表面に直接固定してもよく、担体となる基材ポリマー等や中間膜を介して、複数の高分子鎖を熱交換器の表面に間接的に固定してもよい。
【0049】
高分子鎖集合体を構成する複数の高分子鎖が熱交換器の表面上に固定される場合、高分子鎖集合体は「ポリマーブラシ」を構成する。高分子鎖集合体を構成する複数の高分子鎖が、側鎖として、主鎖としての幹ポリマーに結合している場合、幹ポリマーと、幹ポリマーに結合した高分子鎖(側鎖)とを合わせた全体が「ボトルブラシ構造を有するポリマー」を構成する。
【0050】
高分子鎖集合体が「ポリマーブラシ」を構成する場合、高分子鎖集合体を構成する各高分子鎖は、片側の末端のみが熱交換器の表面上に固定されていてもよく、両側の末端が熱交換器の表面上に固定されていてもよい。高分子鎖の両側の末端が熱交換器の表面上に固定されている場合、高分子鎖はループ構造をなしており、このような高分子鎖集合体は、ループ構造のポリマーブラシをなしている。
【0051】
以下、ポリマーブラシとボトルブラシ構造を有するポリマーのそれぞれについて、その高分子鎖集合体の形成方法を説明する。
【0052】
(A)ポリマーブラシ
ポリマーブラシの高分子鎖集合体は、複数の高分子鎖をグラフト鎖として熱交換器の表面上に結合させるグラフト重合法により得ることができる。このグラフト重合は、Grafting-from法やGrafting-to法で行うことができる。中でも、Grafting-from法を用いることが好ましい。ここで、Grafting-from法は、高分子鎖を結合させる表面に重合開始基を導入して、その重合開始基からグラフト鎖を成長させる方法である。Grafting-to法は、予め合成したグラフト鎖を、高分子鎖を結合させる表面に導入した反応点に結合させる方法である。
【0053】
高分子鎖集合体は、疎水性ブロックと親水性ブロックを有する高分子(ジブロックコポリマー)の疎水性部分を、疎水性又は疎水性化された表面に疎水結合させる方法によっても得ることができる。ジブロックコポリマーとしては、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)構造を疎水性ブロックとし、ポリ(ナトリウムスルホン化グリシジルメタクリレート)(PSGMA)構造を親水性ブロックとするコポリマーが挙げられる。PMMA構造とPSGMA構造との間には、他の高分子構造が介在していてもよい。この方法の詳細については、Nature, 425, 163-165 (2003)等を参照することができる。
【0054】
(グラフト重合法)
以下に、高分子鎖集合体を、グラフト重合法を用いて形成する方法を具体的に説明する。
【0055】
<高分子鎖の生成>
グラフト重合法で用いる高分子鎖の生成方法は、特に限定されないが、ラジカル重合法を用いることが好ましく、リビングラジカル重合(LRP)法を用いることがより好ましく、原子移動ラジカル重合(ATRP)法を用いることがさらに好ましい。
リビングラジカル重合法は、高分子鎖の分子量や分子量分布をコントロールし易い、様々な種類のコポリマー(例、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、組成傾斜型コポリマー等)をグラフト鎖として生成できるという利点がある。また、リビングラジカル重合法によれば、高圧条件やイオン液体を用いることで、濃厚ポリマーブラシを、その密度及び厚さを精密に制御して生成することができる。ここで、リビングラジカル重合法を用いる場合のグラフト重合の方法は、Grafting-from法、Grafting-to法のいずれであってもよいが、Grafting-from法であることが好ましい。リビングラジカル重合法とGrafting-from法を組み合わせたグラフト重合法の詳細については、特開平11-263819号公報等を参照することができる。
【0056】
原子移動ラジカル重合法の詳細については、J. Am. Chem. Soc., 117, 5614 (1995)、Macromolecules, 28, 7901 (1995)、Science, 272, 866 (1996)、Macromolecules, 31, 5934-5936 (1998)を参照することができる。
【0057】
高分子鎖は、ニトロキシド媒介重合法(NMP)、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合法、可逆移動触媒重合法(RTCP)、可逆的錯体形成媒介重合法(RCMP)等によっても生成することができる。
【0058】
ラジカル重合法で用いる触媒は、ラジカル重合を制御できるものであればよく、好ましくは遷移金属錯体である。遷移金属錯体の好ましい例として、周期律表第7族、8族、9族、10族、又は11族元素を中心金属とする金属錯体を挙げることができる。中でも、銅錯体、ルテニウム錯体、鉄錯体又はニッケル錯体を用いることが好ましく、銅錯体を用いることがより好ましい。銅錯体は、1価の銅化合物と有機配位子の錯体であることが好ましい。1価の銅化合物としては、塩化第一銅、臭化第一銅等が挙げられる。有機配位子としては、2,2’-ビピリジル若しくはその誘導体、1,10-フェナントロリンもしくはその誘導体、ポリアミン(テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリス(2-アミノエチル)アミン等)、L-(-)-スパルテイン等の多環式アルカロイド等が挙げられる。2価の塩化ルテニウムのトリストリフェニルホスフィン錯体(RuCl(PPh)も触媒として好適である。ルテニウム化合物を触媒として用いる場合には、活性化剤としてアルミニウムアルコキシド類を添加するのが好ましい。2価の鉄のビストリフェニルホスフィン錯体(FeCl(PPh)、2価のニッケルのビストリフェニルホスフィン錯体(NiCl(PPh)、2価のニッケルのビストリブチルホスフィン錯体(NiBr(PBu)等も触媒として好適である。
【0059】
重合反応は溶剤中で行うことが好ましい。溶剤としては、炭化水素系溶剤(ベンゼン、トルエン等)、エーテル系溶剤(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等)、ハロゲン化炭化水素系溶剤(塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、アルコール系溶剤(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、t-ブチルアルコール等)、ニトリル系溶剤(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、カーボネート系溶剤(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、アミド系溶剤(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、ハイドロクロロフルオロカーボン系溶剤(1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン、ジクロロペンタフルオロプロパン等)、ハイドロフルオロカーボン系溶剤(炭素数2~5のハイドロフルオロカーボン、炭素数6以上のハイドロフルオロカーボン等)、ペルフルオロカーボン系溶剤(ペルフルオロペンタン、ペルフルオロヘキサン等)、脂環式ハイドロフルオロカーボン系溶剤(フルオロシクロペンタン、フルオロシクロブタン等)、酸素含有フッ素系溶剤(フルオロエーテル、フルオロポリエーテル、フルオロケトン、フルオロアルコール等)、水等が挙げられる。これらの溶剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0060】
<重合開始基の導入>
高分子鎖集合体を例えばGrafting-from法を用いて形成するには、高分子鎖を結合する表面に重合反応の開始点となる重合開始基を導入し、この重合開始基から、上記の重合方法を用いて高分子鎖をグラフト成長させる。重合開始基としては、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化スルホニル基等が挙げられる。グラフト鎖の密度(グラフト密度)及びグラフト重合により得られる高分子鎖の一次構造(分子量、分子量分布、モノマー配列様式)を精度よく制御できることから、重合開始基は、高分子鎖を結合する表面に物理的若しくは化学的に結合されていることが好ましい。高分子鎖を結合する表面に重合開始基を導入(結合)する方法としては、化学吸着法、ラングミュアー・ブロジェット(LB)法等が挙げられる。
【0061】
LB法により重合開始基を導入するには、重合開始基を含む膜形成材料を適切な溶媒(クロロホルム、ベンゼン等)に溶解する。次に、この溶液の少量を清浄な液面、好ましくは純水の液面上に展開した後、溶媒を蒸発させるか、又は隣接する水相に拡散させて、水面上に膜形成分子による低密度の膜を形成させる。続いて、仕切り板を水面上で機械的に掃引し、膜形成分子が展開している水面の表面積を減少させることによって膜を圧縮して密度を増加させ、緻密な水面上単分子膜を得る。次いで、適切な条件下で、水面上単分子膜を構成する分子の表面密度を一定に保ちながら、伝熱フィン、伝熱管等の部材を、水面上単分子膜を横切る方向に浸漬又は引き上げることによって、水面上単分子膜を前記部材の表面に移し取って堆積させる。LB法の詳細については、「福田清成他著、新実験化学講座18巻(界面とコロイド)6章、(1977年)丸善」、「福田清成・杉道夫・雀部博之編集、LB膜とエレクトロニクス、(1986年)シーエムシー」、或いは、「石井淑夫著、よいLB膜をつくる実践的技術、(1989年)共立出版」を参照することができる。
【0062】
高分子鎖を固定する表面に重合開始基を導入するに当たっては、前記表面に結合する基及び前記表面と親和性を有する基の少なくとも一方と、重合開始基に結合する基及び重合開始基と親和性を有する基の少なくとも一方を有する表面処理剤を用いて前記表面を処理することが好ましい。この表面処理剤は、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。表面処理剤としては、例えば下記式(10)で表される化合物が挙げられる。
【0063】
【化3】
【0064】
式(10)において、nは1~10の整数であり、3~8の整数であることが好ましい。R11、R12及びR13は、各々独立に置換基を表す。R11、R12及びR13の少なくとも1つは、アルコキシル基又はハロゲン原子であることが好ましく、R11、R12及びR13の全てがメトキシ基であるか、エトキシ基であることが特に好ましい。R14及びR15は、各々独立に置換基を表す。R14及びR15は、各々独立に炭素数1~3のアルキル基、又は芳香族性官能基であることが好ましく、R14及びR15の両方がメチル基であることが最も好ましい。X11は、ハロゲン原子を表し、臭素原子であることが好ましい。
【0065】
表面処理剤として、重合開始基を含有するシランカップリング剤(重合開始基含有シランカップリング剤)を用いることが好ましい。これにより、表面処理と重合開始基の導入を同時に行うことができる。重合開始基含有シランカップリング剤としては、前記式(1)で表される化合物等が挙げられる。重合開始基含有シランカップリング剤及びその製造方法の説明については、国際公開第2006/087839号の記載を参照することができる。重合開始基含有シランカップリング剤の具体例としては、(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシヘキシルトリメトキシシラン(BHM)、(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシプロピルトリメトキシシラン(BPM)等が挙げられる。
【0066】
グラフト密度を調整する観点から、重合開始基含有シランカップリング剤を表面処理剤に用いる場合には、重合開始基を含有しないシランカップリング剤、例えば、公知のアルキルシランカップリング剤を併用することが好ましい。これにより、重合開始基含有シランカップリング剤と重合開始基を含有しないシランカップリング剤との割合を調整することで、グラフト密度を自在に変更することができる。例えば、シランカップリング剤のすべてが重合開始基含有シランカップリング剤である場合、その表面処理後にGrafting-from法にてグラフト重合を行うことにより、3%を超える表面占有率で高分子鎖を成長させることができる。なお、表面処理剤として重合開始基含有シランカップリング剤を使用する場合、その重合開始基含有シランカップリング剤を水の存在下で加水分解させてシラノールとし、部分的に縮合させてオリゴマー状態とした後に表面処理に供してもよい。具体的には、このオリゴマーを、高分子鎖を固定する表面に水素結合的に吸着させた後、乾燥処理することで脱水縮合反応を起こさせ、重合開始基を導入してもよい。
【0067】
(他の製造方法)
ポリマーブラシの高分子鎖集合体は、下記の調製工程、製膜工程及び相分離工程を含む製造方法によって製造することもできる。
調製工程:高分子鎖を結合する担体となる基材を構成する有機材料(以下、基材ポリマーともいう)と、ポリマーブロックA及びポリマーブロックAよりも基材ポリマーに対する親和性が低いポリマーブロックBを備え、かつ、ポリマーブロックAを少なくとも2箇所に有している複数のブロックコポリマーとを溶剤中で混合して混合液を調製する。
製膜工程:前記混合液を熱交換器の表面に塗布して製膜する。
相分離工程:前記混合液中から溶剤を除去して、相分離を生じさせる。
この製造方法によれば、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の両末端のそれぞれが担体である基材を介して熱交換器の表面に固定されているループ構造のポリマーブラシを製造することができる。
【0068】
基材ポリマーとしては、特に限定されず、各種樹脂及びゴムを制限なく用いることができる。樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂のいずれでもよい。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリシクロオレフィン等)、ビニル系樹脂(ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール等)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン等)等が挙げられる。ゴムとしては、ジエン系ゴム(ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム等)、ジエン系ゴム以外のゴム(エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、ポリエーテルゴム、ポリウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等)等が挙げられる。
【0069】
ブロックコポリマーとしては、ポリマーブロックA及びポリマーブロックAよりも基材ポリマーに対する親和性が低いポリマーブロックBを備え、かつ、ポリマーブロックAを少なくとも2箇所に有しているものであればよく、特に限定されない。ループ構造を好適に形成できるという観点から、ポリマーブロックBが基材ポリマーに対して非相溶であるブロックコポリマーが好ましく、ポリマーブロックBが基材ポリマーに対して非相溶であり、かつ、ポリマーブロックAが基材ポリマーに対して相溶であるブロックコポリマーがより好ましい。
【0070】
「ポリマーブロックAが基材ポリマーに対して相溶である」とは、次の状態をいう。ポリマーブロックAのみからなるポリマーと、基材ポリマーとを、熱溶融混合や共溶液混合等により混合した後、得られた混合物について、冷却あるいは溶剤蒸発除去等によって固化することで得られた試料について、ガラス転移温度(Tg)を測定する。前記試料の測定において、ポリマーブロックAのみからなるポリマーのTgと、基材ポリマーのTgとの間の温度域に、これらとは異なるTgが観測できる場合に、ポリマーブロックAが基材ポリマーに対して相溶であると判断することができる。
【0071】
「ポリマーブロックBが基材ポリマーに対して非相溶である」とは、次の状態をいう。ポリマーブロックBのみからなるポリマーと、基材ポリマーとを、熱溶融混合や共溶液混合等により混合した後、得られた混合物について、冷却あるいは溶剤蒸発除去等によって固化することで得られた試料について、ガラス転移温度(Tg)を測定する。前記試料の測定において、ポリマーブロックBのみからなる重合体のTg及び基材ポリマーのTg以外に、これらとは異なるTgが観測できない場合に、ポリマーブロックBが基材ポリマーに対して非相溶であると判断することができる。
【0072】
ポリマーブロックA及びポリマーブロックBとしては、基材ポリマーに対する相溶性が上記の関係にあるものを用いればよいが、ループ構造を好適に形成できるという観点から、ポリマーブロックAのSP値(溶解度パラメータ)とポリマーブロックBのSP値との差は、1.5(MPa)0.5以上が好ましく、3(MPa)0.5以上がより好ましく、5(MPa)0.5以上がさらに好ましい。ポリマーブロックAのSP値と基材ポリマーとのSP値との差は、0.5(MPa)0.5以下が好ましく、0.3(MPa)0.5以下がより好ましく、0.2(MPa)0.5以下がさらに好ましい。ポリマーブロックBのSP値と基材ポリマーのSP値との差は、1.5(MPa)0.5以上が好ましく、3(MPa)0.5以上がより好ましく、5(MPa)0.5以上がさらに好ましい。
なお、ポリマーブロックA及びポリマーブロックBのSP値は、例えば、ポリマーハンドブック(第4版、Wiley-Interscience)に開示された値を用いることができる。
【0073】
ポリマーブロックAとしては、上述した特性を満たすものであればよく、用いる基材ポリマーとの関係で選択すればよい。ポリマーブロックAの具体例としては、基材ポリマーを構成する樹脂又はゴムを構成する重合体セグメントからなるもの等が挙げられる。
【0074】
ブロックコポリマーのポリマーブロックA部分の分子量(重量平均分子量(Mw))は、特に限定されないが、1,000~100,000が好ましく、1,000~50,000がより好ましく、1,000~20,000がさらに好ましく、2,000~20,000がより一層好ましく、2,000~6,000が特に好ましい。ポリマーブロックA部分の分子量が前記範囲内であれば、基材ポリマーと十分な相互作用を示し、これにより、ポリマーブロックBによって形成されるループ構造をより適切に支えることで、耐久性をより高めることができる。
【0075】
ポリマーブロックBとしては、上述した高分子鎖として説明したもののうち、基材ポリマーとの間で上述した特性を満たすものが好ましく用いられる。
【0076】
基材ポリマーと、複数のブロックコポリマーとを溶剤中で混合する際に用いる溶剤としては、特に限定されず、基材ポリマーと、ブロックコポリマーとを溶解あるいは分散可能な溶剤であればよい。例えば、脂肪族炭化水素(n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン等)、脂環族炭化水素(シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等)、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等)、含窒素系炭化水素(ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、ケトン類(アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、安息香酸メチル等)、ハロゲン化炭化水素(クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等)、アルコール類(メタノール、エタノール等)等が挙げられる。
【0077】
溶剤中で基材ポリマーと複数のブロックコポリマーとを混合して得た混合液を用いて、キャスト法やスピンコート法等によって熱交換器の表面に製膜した後に、製膜した混合液中から溶剤を除去する。溶剤が除去されることで、ブロックコポリマーのポリマーブロックAが基材ポリマーと相溶した状態のまま、ポリマーブロックBが基材ポリマーと相分離する。そのため、ポリマーブロックAが基材ポリマー中にあり、かつ、ポリマーブロックBが基材ポリマーから露出した状態に変化する。これにより、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の両側の末端が担体である基材を介して熱交換器の表面に固定されたループ構造を形成させることができる。
【0078】
溶剤を除去する方法としては、特に限定されず、用いる溶剤の種類に応じて選択すればよいが、50℃~100℃にて加熱する方法が好ましく、70~80℃にて加熱する方法がより好ましい。
【0079】
ポリマーブラシの高分子鎖集合体は、下記の調製工程、製膜工程及び相分離工程を含む製造方法によって製造することもできる。
調製工程:基材ポリマーと、ポリマーブロックA及びポリマーブロックAよりも基材ポリマーに対する親和性が低いポリマーブロックBとを備え、かつ、ポリマーブロックAを少なくとも2箇所に有している複数のブロックコポリマーとを加熱下で混合して溶融混合物を調製する。
製膜工程:前記溶融混合物を熱交換器の表面に製膜する。
相分離工程:前記溶融混合物を冷却させることで相分離を生じさせる。
この製造方法によっても、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の両末端のそれぞれが担体である基材を介して熱交換器の表面に固定されているループ構造のポリマーブラシの高分子鎖集合体を製造することができる。
【0080】
基材ポリマーと複数のブロックコポリマーとを加熱下で混合して溶融混合物を調製する際における加熱温度としては、特に限定されず、基材ポリマー又はブロックコポリマーが溶融する温度、好ましくは基材ポリマー及びブロックコポリマーの両方が溶融する温度とすればよい。具体的には、溶融混合物を調製する際の加熱温度は、40~300℃が好ましく、80~200℃がより好ましい。
【0081】
得られた溶融混合物を用いて、キャスト法、スピンコート法、ディップコート法等によって製膜した後に、溶融混合物を冷却させ、冷却により固化する過程において相分離を生じさせる。溶融状態から固体状態になる過程において、ブロックコポリマーのポリマーブロックAが基材ポリマーと相溶した状態のまま、ポリマーブロックBが基材ポリマーと相分離する。そのため、ポリマーブロックAが基材ポリマー中にあり、かつ、ポリマーブロックBが基材ポリマーから露出した状態に変化する。これにより、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の両側の末端が担体である基材を介して熱交換器の表面に固定されたループ構造を形成させることができる。
【0082】
溶融混合物を冷却する方法としては、特に限定されないが、製膜した溶融混合物を室温下で静置する方法や、溶融混合物を構成する各成分の溶融温度よりも低い温度にて加温した状態で静置する方法等が挙げられる。
【0083】
ポリマーブラシの高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の数平均分子量(Mn)は、500~10,000,000が好ましく、100,000~10,000,000がより好ましい。
ポリマーブラシの高分子鎖集合体を構成する高分子鎖における分子量分布指数(PDI=Mw/Mn)は、1.0~2.0が好ましく、1.0~1.5がより好ましい。分子量分布指数が前記範囲内であれば、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の最表面まで高密度な状態を維持し得るという効果が期待できる。
【0084】
ポリマーブラシの高分子鎖集合体を構成する高分子鎖のMn及びMw/Mnは、フッ化水素酸処理によって高分子鎖を切り出し、切り出した高分子鎖についてゲル浸透クロマトグラフィー法等のサイズ排除クロマトグラフィー法による分子量分析を行うことで測定することができる。
【0085】
グラフト重合法を用いて高分子鎖集合体を形成した場合には、高分子鎖の重合反応に際して生成するフリーポリマーが、熱交換器の表面上に固定される高分子鎖と等しい分子量を有すると仮定して、そのフリーポリマーについてサイズ排除クロマトグラフィー法によって測定したMn及びMw/Mnを高分子鎖のMn及びMw/Mnとして用いる方法も採用できる。なお、熱交換器の表面上に固定される高分子鎖のMn及びMw/Mnは、重合反応時に生成するフリーポリマーのMn及びMw/Mnとほぼ等しい。
【0086】
フリーポリマーを用いる分子量の測定方法について具体的に説明する。高分子鎖を表面開始リビングラジカル重合で合成する際、重合溶液に遊離開始剤を添加すると、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖と同等の分子量及び分子量分布を有するフリーポリマーを得ることができる。このフリーポリマーを、サイズ排除クロマトグラフィー法にて分析することにより、Mn及びMw/Mnを決定する。
【0087】
なお、サイズ排除クロマトグラフィー法での分析は、入手可能な分子量既知の同種単分散の標準試料を用いた較正法、多角度光散乱検出器を用いた絶対分子量評価を行うものである。本明細書では、本明細書の実施例では、Mn及びMwの値は、多角度光散乱検出器ならびに各種標準試料の分子量検量線を用いて適切に算定した絶対値で示す。標準試料としては、ポリスチレン標準試料、ポリメチルメタクリレート標準試料、ポリエチレングリコール標準試料等が挙げられる。
【0088】
熱交換器の表面上に固定されるポリマーブラシの高分子鎖集合体おける高分子鎖の密度は、0.01鎖/nm以上が好ましく、0.05鎖/nm以上がより好ましく、0.1鎖/nm以上がさらに好ましく、0.2鎖/nm以上が特に好ましい。上限は特に限定されないが、高分子鎖の密度は、1.0鎖/nm以下とすることができ、0.9鎖/nm以下とすることもできる。
【0089】
高分子鎖の密度は、単位面積当たりのグラフト量(W)と、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の数平均分子量(Mn)とを測定し、下記式を用いて求めることができる。
高分子鎖の密度(鎖/nm)=W(g/nm)/Mn×(アボガドロ数)
前記式において、Wは単位面積当たりのグラフト量を表し、Mnは高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の数平均分子量を表す。
被膜層を形成する熱交換器の表面が伝熱フィンのような平面の場合には、エリプソメトリー法によって、乾燥状態の膜厚、すなわち被膜層の乾燥状態における厚みを測定し、バルクフィルムの密度を用いて、単位面積当たりのグラフト量(W)を算出することができる。
高分子鎖集合体を構成する高分子鎖のMnは、上述した方法にて測定することができる。
【0090】
熱交換器の表面の被膜層が形成されている領域における高分子鎖の表面占有率(被膜層の厚さ方向に直交する断面の断面積×高分子鎖の密度×100)は、1%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。表面占有率は、被膜層が形成されている熱交換器の表面におけるグラフト点(1つ目の構成単位)が占める割合を意味し、最密充填で100%である。高分子鎖の密度は、上述した方法にて測定することができる。被膜層の厚さ方向に直交する断面の断面積は、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の伸びきり形態における構成単位の長さと高分子鎖のバルク密度を用いて求めることができる。
【0091】
(B)ボトルブラシ構造を有するポリマー
次に、ボトルブラシ構造を有するポリマーについて説明する。
ボトルブラシ構造は、主鎖から複数の側鎖が分岐していて、全体としてボトルブラシ様の形状をなす分岐高分子構造のことをいう。ボトルブラシ構造を有するポリマーは、主鎖に側鎖として結合している複数の高分子鎖が高分子鎖集合体を構成している。ボトルブラシ構造を有するポリマーは、上述の担体としての基材を介して熱交換器の表面に固定されていてもよい。この場合、ボトルブラシ構造を有するポリマーとポリマーブラシの両方を担体である基材を介して熱交換器の表面に固定してもよい。その場合、ポリマーブラシは濃厚ポリマーブラシであることが好ましい。
【0092】
ボトルブラシ構造を有するポリマーも、グラフト重合法により得ることができる。このグラフト重合は、予め合成した反応性側鎖(グラフト鎖)を、主鎖となる幹ポリマーに結合させるGrafting-to法、マクロ開始剤(重合開始基を導入した幹ポリマー)の重合開始基から側鎖(グラフト鎖)を成長させるGrafting-from法、マクロモノマー(側鎖構成ポリマーの末端に重合性官能基を有するポリマー)を重合させるGrafting-through法を用いて行うことができる。また、これらの側鎖や幹ポリマーの合成には、リビングアニオン重合、開環メタセシス重合(ROMP)、あるいは汎用性の高いリビングラジカル重合法(LRP)を用いることができる。
【0093】
ボトルブラシ構造を有するポリマーの好ましい例としては、式(11)で表される化合物が挙げられる。
【0094】
【化4】
【0095】
式(11)中、R16及びR17は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、R18は置換基を表し、炭素数が1~10のアルキル基であることが好ましい。R19及びR20は原子又は原子団からなる末端基を表し、水素原子、ハロゲン、重合開始剤由来の官能基等が挙げられる。Xは、O又はNHを表し、Yは、2価の有機基を表し、nは、10以上の整数を表し、Polymer Aは、高分子鎖を表す。式(11)で表される化合物では、nで括られた構成単位の繰り返し構造がボトルブラシ構造の主鎖に相当し、Polymer Aがボトルブラシ構造の側鎖に相当する。
【0096】
Yが表す有機基としては、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~5のオキシアルキレン基(RO)(Rは炭素数1~5のアルキレン基を表す)、このオキシアルキレン基が複数連結した連結構造、又は、これらの有機基(炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~5のオキシアルキレン基及びオキシアルキレン基の連結構造)のうちの少なくとも2つの組み合わせからなる2価の有機基等が挙げられる。ここで、アルキレン基及びオキシアルキレン基のアルキレン基は、直鎖状であっても分枝状であってもよく、環状構造を有していてもよい。アルキレン基の具体例としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、シクロヘキシレン基が挙げられる。このアルキレン基及びオキシアルキレン基のアルキレン基は、置換基で置換されていてもよい。置換基としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基が挙げられ、これらの置換基はさらに置換基で置換されていてもよい。Polymer Aの説明と好ましい範囲、具体例については、上述した高分子鎖についての記載を参照することができる。Polymer Aは、主鎖の構成単位同士で、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0097】
ボトルブラシ構造を有するポリマーについて、主鎖を中心軸とし、その中心軸から側鎖(グラフト鎖)を直線状に延ばして、その先端を含む面(仮想外周部)を想定したとき、そのポリマーの外形は、その先端を含む面を側面とする円柱と捉えることができる。こうした外形を有するポリマーでは、側鎖(グラフト鎖)の長さが長くなる程、その側面における側鎖(グラフト鎖)の密度が低下し、側鎖(グラフト鎖)の構造上の自由度が高くなる。その結果、側鎖(グラフト鎖)は自由に折り畳まれ得ることになる。
【0098】
ボトルブラシ構造を有するポリマーにおいて、側鎖の表面占有率(σ)は、下記式(I)で表される。
【0099】
【数1】
【0100】
式(I)において、σは、下記式(II)で求められる、仮想外周部の側鎖の密度を表し、側鎖部分の構成単位1個当たりの体積(V[nm])は、下記式(III)で求められる。
【0101】
【数2】
【0102】
【数3】
【0103】
式(II)において、αは、主鎖及び側鎖部分の構成単位の長さを表す。
【0104】
式(II)で求められる側鎖の密度(σ)は、ポリマー側面の、単位面積当たりの側鎖の数を示すため、式(I)で求められる側鎖の表面占有率(σ)は、側鎖を主鎖から垂直方向に直線上に伸ばした状態での、ポリマー側面における側鎖先端部が占める割合を表す値である。側鎖の表面占有率(σ)は0~100%の値を示し、数値が大きくなる程、ポリマー側面の側鎖先端部が占める割合が大きくなり、側鎖の自由度が制限されることになる。すなわち、側鎖の表面占有率は、側鎖の自由度を反映する数値であり、側鎖の表面占有率(σ)が高い程、側鎖の構造上の自由度が制限される。その結果、側鎖が主鎖に対して、略垂直方向に延びた状態を維持することができ、その構造に特有の性質を示すと推測される。
【0105】
ボトルブラシ構造を有するポリマーの側鎖の表面占有率は、1%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。
【0106】
ボトルブラシ構造を有するポリマーの側鎖の密度は、0.01鎖/nm以上が好ましく、0.05鎖/nm以上がより好ましく、0.1鎖/nm以上がさらに好ましく、0.2鎖/nm以上が特に好ましい。上限は特に限定されないが、ポリマーの側鎖の密度は、1.0鎖/nm以下とすることができ、0.9鎖/nm以下とすることもできる。
【0107】
ボトルブラシ構造を有するポリマーのMnは、1,000~10,000,000が好ましく、1,000~1,000,000がより好ましく、5,000~500,000がさらに好ましい。
【0108】
ボトルブラシ構造を有するポリマーの分子量分布指数(PDI=Mw/Mn)は、1.0~2.0が好ましく、1.0~1.5がより好ましい。分子量分布指数が前記範囲であれば、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の最表面まで高密度な状態を維持しうるという効果が期待できる。
【0109】
[液状物質]
被膜層に保持される液状物質としては、水、イオン液体、フッ素系溶剤、オイル(炭化水素系オイル、シリコーンオイル等)等が挙げられる。中でも、水及び不揮発性のイオン液体から選ばれる少なくとも1種が好ましい。液状物質が水の場合、蒸発等で被膜層から失われた場合でも、大気中の水分を吸収することで被膜層に水が補充されるため、液状物質が枯渇し難く長時間保持されやすい。また、被膜層表面の結露水の水滴に対する接触角を極めて小さくでき、フィン間に付着する結露水の体積が減少するため、通風抵抗が低減され、熱交換効率が向上する。液状物質が不揮発性のイオン液体の場合、大気中においても液状物質が蒸発等によって枯渇し難く長時間保持されやすい。不揮発性のイオン液体としては、例えば、特許第5585873号公報に記載のものが挙げられる。
【0110】
液状物質は親水性であってもよく、疎水性であってもよい。親水性の液状物質としては、水、親水性イオン液体等が挙げられる。疎水性の液状物質としては、疎水性イオン液体、フッ素系溶剤、オイル等が挙げられる。液状物質は、1種の液状物質のみで構成されていてもよく、2種以上の液状物質の混合物であってもよい。液状物質には、添加剤が含まれていてもよい。
【0111】
イオン液体とは、イオン性液体又は常温溶融塩とも呼称される、イオン伝導性を有する低融点の塩である。イオン液体の多くは、カチオンとしての有機オニウムイオンと、アニオンとしての有機又は無機アニオンとを組み合わせることによって得られる比較的低融点の特性を有するものである。イオン液体の融点は、通常100℃以下、好ましくは室温(25℃)以下である。イオン液体の融点は、示差走査熱量計(DSC)等によって測定することができる。
【0112】
イオン液体としては、下記式(20)で表される化合物を用いることができる。このイオン液体の融点は、50℃以下が好ましく、25℃以下がより好ましい。
【0113】
【化5】
【0114】
式(20)において、R21、R22、R23及びR24は、各々独立に炭素数1~5のアルキル基、又はR’-O-(CH-で表されるアルコキシアルキル基を表し、R’はメチル基又はエチル基を表し、nは1~4の整数である。R21、R22、R23及びR24は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R21、R22、R23及びR24のいずれか2つが互いに結合して環状構造を形成していてもよい。但し、R21、R22、R23及びR24の少なくとも1つはアルコキシアルキル基である。X21は窒素原子又はリン原子を表し、Yは一価のアニオンを表す。
【0115】
21、R22、R23及びR24における炭素数1~5のアルキル基として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、2-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。
21、R22、R23及びR24において、R’-O-(CH-で表されるアルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基又はエトキシメチル基、2-メトキシエチル基又は2-エトキシエチル基、3-メトキシプロピル基又は3-エトキシプロピル基、4-メトキシブチル基又は4-エトキシブチル基等が好ましい。
21、R22、R23及びR24のいずれか2つが互いに結合して環状構造を形成している化合物としては、X21に窒素原子を採用した場合には、アジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環等を有する4級アンモニウム塩等が好ましく、X21にリン原子を採用した場合には、ペンタメチレンホスフィン(ホスホリナン)環等を有する4級ホスホニウム塩等が好ましい。また、4級アンモニウム塩としては、置換基として、R’がメチル基であり、nが2の2-メトキシエチル基を少なくとも1つ有するものが好適である。
Yにおける一価のアニオンとしては、BF 、PF 、AsF 、SbF 、AlCl 、NbF 、HSO 、ClO 、CHSO 、CFSO 、CFCO 、(CFSO、Cl、Br、I等が挙げられ、BF 、PF 、(CFSO、CFSO 、又はCFCO であることが好適である。
【0116】
イオン液体としては、式(20)のR21がメチル基で、R23及びR24がエチル基で、R24がR’-O-(CH-で表されるアルコキシアルキル基である構造の化合物が好ましく用いられる。
【0117】
式(20)で表される化合物のうち、好適に用いられる4級アンモニウム塩及び4級ホスホニウム塩の具体例として、以下に示す化合物が挙げられる。
【0118】
【化6】
【0119】
また、イオン液体としては、イミダゾリウムイオンを含むイオン液体や芳香族系カチオンを含むイオン液体を用いることもできる。
【0120】
被膜層に液状物質を保持させる方法は特に限定されない。例えば、被膜層の表面に液状物質を塗布した後、静置して保持させる方法や、被膜層を形成した伝熱フィン、伝熱管等を液状物質中に浸漬させる方法等が挙げられる。また、高分子鎖集合体が大気中の水分を取り込んで被膜層中に液状物質である水を保持することもある。
【0121】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、熱交換器が優れた水滴付着抑制効果、着氷抑制効果、氷核形成抑制効果及び着霜防止効果を発現し、結露水や着霜による熱交換効率の低下を抑制することができる。
【0122】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0123】
1…冷凍サイクル装置、2…圧縮機、3…四方切換弁、4…室外熱交換器、5…膨張装置、6…室内熱交換器、7…冷媒配管、10…伝熱フィン、12…伝熱管、13…Uベンド管、20…被膜層。
図1
図2
図3