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特許7435996熱溶解積層方式3次元造形用樹脂組成物およびそれからなるフィラメント状成形体、造形体
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  • 特許-熱溶解積層方式3次元造形用樹脂組成物およびそれからなるフィラメント状成形体、造形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】熱溶解積層方式3次元造形用樹脂組成物およびそれからなるフィラメント状成形体、造形体
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/314 20170101AFI20240214BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20240214BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240214BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20240214BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B29C64/314
B29C64/118
B33Y70/00
C08L77/00
C08L101/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019123691
(22)【出願日】2019-07-02
(65)【公開番号】P2020029089
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2018153630
(32)【優先日】2018-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】臼井 あづさ
(72)【発明者】
【氏名】松岡 文夫
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 頌平
【審査官】小山 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-128073(JP,A)
【文献】特開2011-057798(JP,A)
【文献】特開2018-024849(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003379(WO,A1)
【文献】特表2006-512282(JP,A)
【文献】特開2017-128072(JP,A)
【文献】国際公開第2015/037674(WO,A1)
【文献】特開2018-083872(JP,A)
【文献】特開2018-095706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00- 64/40
B33Y 10/00- 99/00
C08G 69/00- 69/50
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用樹脂組成物であって、融点が140℃を超える結晶性のアミド系樹脂(A)と、融点が140℃以下かつガラス転移温度が20℃以下の結晶性の熱可塑性エラストマー、または、ガラス転移温度が20℃以下の非晶性の熱可塑性エラストマー(B)とを含有し、(A)と(B)の質量比率[(A)/(B)]が70/30~50/50であり、前記アミド系樹脂(A)は、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド69、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド6/12共重合体、ポリアミド6/66/12共重合体、およびポリアミド6/10Tから選択されることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
曲げ弾性率が0.5~1.0GPaであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用成形体であって、請求項1または2に記載の樹脂組成物で構成され、繊維径が0.2~5.0mmであることを特徴とするフィラメント状成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶解積層方式3次元造形用素材に関するものであり、とくに熱溶解積層方式3次元造形用樹脂組成物およびそれからなるフィラメント状成形体、造形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
3次元CADや3次元コンピューターグラフィックスのデータを元に、立体造形物(3次元のオブジェクト)を作製する3Dプリンターは、近年、産業向けを中心に急速に普及している。3Dプリンターの造形方法には、光造形、インクジェット、粉末石膏造形、粉末焼結造形、熱溶融積層造形等の方法がある。
【0003】
3次元CADや3次元コンピューターグラフィックスのデータを元に、立体造形物(3次元のオブジェクト)を作製する3Dプリンターは、近年、産業向けを中心に急速に普及している。3Dプリンターの造形方法には、光造形、インクジェット、粉末石膏造形、粉末焼結造形、熱溶融積層造形等の方法がある。
【0004】
近年、個人向け等の低価格の3Dプリンターの多くは、熱溶解積層法(FDM法)を採用している。また、産業用としても極め細かな備品や機器部品を製作するために熱溶解積層法を採用している。
【0005】
この熱溶解積層法3Dプリンターにおいては、造形材料として、フィラメント状成形体が用いられ、造形材料を構成する樹脂として、ポリ乳酸やABS樹脂を代表としてエンジニアプラスチックまで、種々の素材が用いられている。しかしながら、ポリ乳酸は、固くてもろく、耐屈曲性や柔軟性や耐衝撃性が欠けるという問題があり、ABS樹脂は、反りが大きく、寸法安定性が悪いという問題があった。
【0006】
フィラメント状成形体に耐屈曲性や柔軟性等を付与するため、熱可塑性エラストマー等の柔軟な素材を用いることが検討されている。例えば、熱融解積層方式三次元造形用フィラメントとして、特許文献1には、ポリ乳酸に、スチレン系樹脂と、ポリエステル、熱可塑性エラストマーおよびグラフト共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂と、エステル系可塑剤を配合した樹脂組成物からなるフィラメントが開示され、特許文献2には、ポリ乳酸と各種官能基群から選ばれる一つの官能基を有する共役ジエン系(共)重合体とを含む樹脂組成物からなるフィラメントが開示され、特許文献3には、所定の物性を有するポリアミド系熱可塑性エラストマーからなるフィラメントが開示され、特許文献4には、所定の物性を有するポリエステル系熱可塑性エラストマーからなるフィラメントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5751388号公報
【文献】特開2016-037571号公報
【文献】特許第6265314号公報
【文献】特開2016-55637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術に鑑み、3Dプリンターにより立体造形物を得る際の造形材料として好適に用いることができる熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、特定のアミド系樹脂に特定の熱可塑性エラストマーを適量配合した樹脂組成物を用いることにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用樹脂組成物であって、融点が140℃を超える結晶性のアミド系樹脂(A)と、融点が140℃以下かつガラス転移温度が20℃以下の結晶性の熱可塑性エラストマー、または、ガラス転移温度が20℃以下の非晶性の熱可塑性エラストマー(B)とを含有し、(A)と(B)の質量比率[(A)/(B)]が90/10~50/50であることを特徴とする樹脂組成物。
(2)曲げ弾性率が0.5~1.0GPaであることを特徴とする(1)に記載の樹脂組成物。
(3)熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料用成形体であって、(1)または(2)に記載の樹脂組成物で構成され、繊維径が0.2~5.0mmであることを特徴とするフィラメント状成形体。
(4)(3)に記載のフィラメント状成形体を造形してなる造形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、3Dプリンターにより立体造形物を得る際の造形材料として好適に用いることができる熱溶解積層方式3次元造形用樹脂組成物を提供することができる。本発明の樹脂組成物は、柔軟性、機械的特性、耐衝撃性に優れている。また、本発明のフィラメントは、繊維径が均一で、耐屈曲性に優れ、表面に粘着性を有しないため、抵抗なく3Dプリンターに供給することができ、造形性にも優れている。また、本発明の造形物は、寸法安定性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】3Dプリンター造形性を評価するために作製した「ルーク」の図である。
図2】反りを評価するために作製した「アンカー」の図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の樹脂組成物は、融点が140℃を超える結晶性のアミド系樹脂(A)と、融点が140℃以下かつガラス転移温度が20℃以下の結晶性の熱可塑性エラストマー、または、ガラス転移温度が20℃以下の非晶性の熱可塑性エラストマー(B)から構成される。
【0013】
本発明の樹脂組成物には、融点が140℃を超える結晶性のアミド系樹脂(A)を含有することが必要である。融点が140℃を超え、結晶性のアミド系樹脂を用いることにより、熱可塑性エラストマー(B)が配合されたものであっても表面に粘着性を有しないフィラメント状成形体を作製することができる。なお、本発明において、「結晶性」とは示差走査熱量計(DSC)を用いて窒素雰囲気下で20℃/分の昇温速度により測定した融解熱量の値が、4J/gより大きいことを意味する。
【0014】
アミド系樹脂としては、例えば、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド69、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド9T、ポリアミド10Tおよびこれらのポリアミド共重合体が挙げられる。
【0015】
ポリアミド共重合体としては、例えば、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド6/12共重合体、ポリアミド6/66/12共重合体、ポリアミド6/10T、ポリアミド6/12共重合体が挙げられ、中でも、融点が比較的低く、耐屈曲性を有することから、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド6/12共重合体、ポリアミド6/66/12共重合体が好ましい。
【0016】
ポリアミドの市販品としては、例えば、ユニチカ社製『A1030BRL』(ポリアミド6)、アルケマ社製『BMNO』(ポリアミド11)、『AMNO』(ポリアミド12)が挙げられる。ポリアミド共重合体の市販品としては、例えば、宇部興産社製『5023』(ポリアミド6/66共重合体)、『7034B』(ポリアミド6/12共重合体)、または『6434B』(ポリアミド6/66/12共重合体)、ユニチカ社製『CX1004』(ポリアミド共重合体)が挙げられる。
【0017】
本発明の樹脂組成物には、融点が140℃以下かつガラス転移温度が20℃以下の結晶性の熱可塑性エラストマー、または、ガラス転移温度が20℃以下の非晶性の熱可塑性エラストマーを含有する必要がある。上記エラストマーを用いることにより、得られるフィラメント状成形体の耐屈曲性を向上させ、得られる造形物の柔軟性、機械的強度、耐衝撃性、寸法安定性に優れたものとすることができる。なお、本発明において、「結晶性」とは示差走査熱量計(DSC)を用いて窒素雰囲気下で20℃/分の昇温速度により測定した融解熱量の値が、4J/gより大きいことを意味し、「非晶性」とは、前記融解熱量の値が、4J/g以下であることを意味する。
【0018】
熱可塑性エラストマーとしては、アミド系エラストマー、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、その他のエラストマーが挙げられる。熱可塑性エラストマーは、二重結合部位を水素添加したものであってもよく、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体いずれであってもよい。また、熱可塑性エラストマーは、上記のエラストマーの混合物であってもよいし、共重合体であってもよい。
【0019】
アミド系エラストマーとしては、例えば、ポリアミド成分をハードセグメントし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分および/または脂肪族ポリエステル成分をソフトセグメントとするものが挙げられる。ソフトセグメントを構成するポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-および1,3-プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、エチレンオキシドとヒドロフランの共重合体が挙げられ、脂肪族ポリエステル成分としては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケートが挙げられる。ポリアミドエラストマーの市販品としては、例えば、ダイセルエボニック社製『ダイアミド』シリーズ、『ベスタミド』シリーズ、ARKEMA社製『Pebax』シリーズ、エムスケミー・ジャパン社製『グリルフレックス』シリーズ、宇部興産社製『UBESTA XPA』シリーズ、T&K TOKA社製『TPAE-12』が挙げられる。
【0020】
スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン-ビニルイソプレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体が挙げられる。スチレンエラストマーの市販品としては、例えば、クラレ社製『ハイブラー』シリーズ、アロン化成製『AR-815C』、旭化成社製『タフテック』シリーズが挙げられる。
【0021】
オレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体およびそのアルカリ金属塩(いわゆる[アイオノマー])、エチレン-グリシジル(メタ)アクリレ-ト共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、酸変性エチレン-プロピレン共重合体が挙げられる。オレフィンエラストマーの市販品としては、例えば、ダウケミカル社製『エンゲージ』シリーズが挙げられる。
【0022】
ウレタン系エラストマーとしては、ポリウレタン成分をハードセグメントし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分および/または脂肪族ポリエステル成分をソフトセグメントとするものが挙げられる。ポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分および/または脂肪族ポリエステル成分の例は、アミド系エラストマーのソフトセグメントを構成するポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分および/または脂肪族ポリエステル成分と同じである。ウレタン系エラストマーの市販品としては、例えば、BASF社製『エラストロン』シリーズが挙げられる。
【0023】
エステル系エラストマーとしては、芳香族ポリエステル成分をハードセグメントし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分および/または脂肪族ポリエステル成分をソフトセグメントとするものが挙げられる。ハードセグメントを構成する芳香族ポリエステル成分とは、通常60モル%以上がテレフタル酸成分であるジカルボン酸成分とジオール成分を縮重合して得られる重合体を示す。ハードセグメントを構成する芳香族ポリエステル成分としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートイソフタレート、ポリブチレンテレフタレートイソフタレートが挙げられる。ソフトセグメントを構成するポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分および/または脂肪族ポリエステル成分の例は、アミド系エラストマーのソフトセグメントを構成するポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分および/または脂肪族ポリエステル成分と同じである。エステル系エラストマーの市販品としては、例えば、東レ社製『ハイトレル』シリーズが挙げられる。
【0024】
その他のエラストマーとしては、例えば、アクリル系エラストマー、塩ビ系エラストマー、塩素化ポリエチレン系エラストマーが挙げられる。
【0025】
本発明において、アミド系樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)の質量比率[(A)/(B)]は90/10~50/50であることが必要であり、80/20~60/40であることが好ましい。(A)と(B)の合計に対する(B)の質量比率が50質量%を超えると、フィラメントの粘着性が増加し、ブロッキングや、塵やごみの付着が生じやすくなったり、糸の解舒性が低下したり、糸の走行抵抗が大きくなったり、得られる造形物の機械的強度が低下したりして好ましくなく、前記(B)の質量比率が10質量%未満となると、得られるフィラメント状成形体の耐屈曲性が低下したり、得られる造形物の柔軟性や耐衝撃性や寸法安定性が低下するので好ましくない。
【0026】
本発明の樹脂組成物には、得られる造形物の寸法安定性を向上させるため、さらに充填剤を含有させてもよい。充填剤としては、例えば、ガラスビーズ、ガラス繊維粉、ワラストナイト、マイカ、合成マイカ、セリサイト、タルク、クレー、ゼオライト、ベントナイト、カオリナイト、ドロナイト、シリカ、チタン酸カリウム、微粉ケイ酸、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、石膏、グラファイト、モンモリロナイト、カーボンブラック、硫化カルシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、セルロースファイバーが挙げられ、中でも、タルクがより好ましい。
【0027】
充填剤の平均粒子径は、製糸性よくフィラメント状成形体を得るため、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。充填剤の平均粒子径が100μmを超える場合、フィラメント状成形体の製造時において、紡糸機のフィルターに詰り、濾過圧が上昇する場合がある。また、得られるフィラメント状成形体表面のざらつきが強くなって、品位が低下する場合がある。充填剤の平均粒子径は、レーザー回折/散乱粒度分布計等の粒度分布測定装置を用いて粒子径分布を測定した場合の、質量累積50%のときの粒径値で定義される値である。測定は、通常、水またはアルコールに測定許容濃度となるように充填剤を加えて縣濁液を調整し、超音波分散機で分散させてからおこなう。
【0028】
充填剤の含有量は、アミド系樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)との合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下とすることがより好ましい。充填剤の含有量が、(A)と(B)との合計100質量部に対して、20質量部を超えると、耐屈曲性を阻害し、また製糸性が低下し、フィラメント状成形体の繊維径が不均一となり、表面のざらつきが大きくなる場合がある。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、上記のような充填剤を含有することにより、フィラメント状成形体の作製時、および、3Dプリンターでの造形時に、ノズルに汚れが付着しやすくなることがある。そのため、本発明の樹脂組成物に充填剤を含有させる場合、汚れ防止剤を含有させることが好ましい。汚れ防止剤としては、例えば、金属セッケン、フッ素系滑剤、脂肪酸アミド等を主成分とする滑剤が挙げられる。金属セッケンは、アルカリ金属以外の金属の脂肪酸塩のことをいい、主な金属として、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、銅、鉛、アルミニウム、鉄、コバルト、クロム、マンガン等が挙げられる。また、フッ素系滑剤としては、パーフルオロアルカン、パーフルオロカルボン酸エステル、パーフルオロ有機化合物やフッ化ポリマー等が挙げられ、脂肪族アミドとしては、オレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等が挙げられる。中でも、汚れの付着防止効果が高いので、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体が好ましい。市販品としては、例えば、ダイキン工業社製のPPAシリーズが挙げられる。
【0030】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、染料、顔料等の着色剤、帯電防止剤、末端封鎖剤、紫外線防止剤、光安定剤、防曇剤、防霧剤、可塑剤、難燃剤、着色防止剤、酸化防止剤、離型剤、防湿剤、酸素バリア剤、結晶核剤、相溶化剤等の添加剤を含有させてもよい。これらの添加剤は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。添加剤の粒径は、製糸性よくフィラメント状成形体を得るために、100μm以下であることが好ましい。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、アミド系樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)からなるため、得られる造形物は柔軟性に優れている。柔軟性を示す指標である曲げ弾性率は、0.5~1.0GPaであることが好ましく、0.5~0.9GPaであることがより好ましい。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、アミド系樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)とを混合することによって作製することができる。両樹脂の混合には、単軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダー等の一般的な混練機を使用することができ、中でも、混練状態の向上のため、二軸の押出機を使用することが好ましい。樹脂組成物は、例えば、シリンダー温度160~230℃、ダイス温度180~240℃の条件で、これらの樹脂を溶融混練して押出して、ストランドを冷却後、ペレットサイズにカットする方法で作製することが好ましい。なお、二軸の紡糸装置を使用すれば、溶融混練したアミド系樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)とから、樹脂組成物のペレットを作製することなく、そのままフィラメント状成形体を作製することも可能である。
【0033】
本発明のフィラメント状成形体は、本発明の樹脂組成物で構成されてなるものである。樹脂組成物をフィラメントの形状とすることで、熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料として好適に用いることができる。フィラメント状成形体は、モノフィラメントでも、マルチフィラメントでもよいが、モノフィラメントが好ましい。またこれらは未延伸のものであっても延伸したものであってもよい。
【0034】
フィラメント状成形体は、繊維径が0.2~5.0mmであることが好ましく、1.5~3.2mmであることがより好ましく、1.6~3.1mmであることがさらに好ましい。フィラメント状成形体の繊維径とは、フィラメント状成形体の長手方向に対して垂直に切断した断面における、最大長径と最小短径の平均である。フィラメント状成形体は、繊維径が0.2mm未満であると、細くなりすぎて、汎用の熱溶解積層法3Dプリンターに適さないことがある。なお、汎用の熱溶解積層法3Dプリンターに適したフィラメント状成形体の繊維径の上限は、5.0mm程度である。
【0035】
モノフィラメントからなるフィラメント状成形体を作製する方法としては、例えば、本発明の樹脂組成物を、180~260℃で溶融し、定量供給装置でノズル孔から押出し、これを20~80℃の液浴中で冷却固化後、紡糸速度1~50m/分で引き取り、ボビン等に巻き取る方法が挙げられる。なお、モノフィラメントの形状にする際、1.0倍を超え5.0倍以下の倍率で延伸を施してもよい。延伸倍率は1.0倍を超え3.5倍以下であることがより好ましい。延伸することにより、得られるフィラメントの耐屈曲性を向上させることができる。モノフィラメントの延伸は、紡糸後のモノフィラメントを一度巻き取ってからおこなってもよく、また、モノフィラメントは、紡糸後に巻き取らず、紡糸に続いて、連続的に延伸してもよい。延伸に際して、適度な加熱延伸、熱処理を施すと、より安定したフィラメントが形成され、形成されたフィラメントは、フィラメント強度が増加し、フィラメント表面の平滑性が向上する。
【0036】
本発明の樹脂組成物やフィラメントは、熱溶解積層法3Dプリンターの造形材料として好適に用いることができる。
【実施例
【0037】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0038】
1.物性測定
用いた樹脂、得られた樹脂組成物、フィラメント、造形物の物性測定は以下の方法によりおこなった。
【0039】
(1)ガラス転移温度
各実施例および比較例で用いた樹脂について、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC-7型)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分の条件で昇温し、昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値を求めた。
【0040】
(2)融点
各実施例および比較例で用いた樹脂について、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC-7型)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で360℃まで昇温した後、360℃で5分間保持し、続いて降温速度20℃/分で25℃まで降温し、さらに25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温し、2回目の昇温時の吸熱ピークのトップを求めた。
【0041】
(3)MFR
各実施例および比較例で用いた樹脂について、JIS K 7210に準じて測定した。
【0042】
(4)樹脂組成物の曲げ弾性率
得られた樹脂組成物のペレットを、60℃で24時間乾燥し、水分率を0.02%とした。乾燥したペレットを用いて、日精樹脂社製射出成形機NEX-110型で、シリンダー温度200~260℃、金型温度30~40℃で、ISO準拠の一般物性測定用試験片(ダンベル片)を作製した。
作製したダンベル片について、JIS K 7171に準じて、23℃×65%調湿下で、曲げスパン64mm、試験速度2mm/秒で測定した。
本発明においては、1.0GPa以下を合格とした。
【0043】
(5)樹脂組成物の引張強度
(4)で作製したダンベル片について、JIS K 7161-2に準じて23℃×65%調湿下で、掴み間隔115mm、引張速度5mm/分で測定した。
本発明においては、15MPa以上を合格とした。
【0044】
(6)樹脂組成物のシャルピー衝撃強度
(4)で作製したダンベル片から、ISO準拠の試験片(80mm×10mm×4.0mm、ノッチ付き)を作製した。
上記ノッチ付き試験片について、JIS K 72111-1に準じて、支持台間距離62mmで測定した。
本発明においては、5kJ/m以上を合格とした。
【0045】
(7)製糸性
紡糸速度10m/分にて24時間、モノフィラメントを採取した際の糸切れ回数により、以下の基準で評価した。
〇:糸切れが発生しなかった。
×:糸切れが発生したか、またはフィラメントの引取りができなかった。
【0046】
(8)モノフィラメントの繊維径
各実施例および比較例で得られたモノフィラメントを、20cm毎に、モノフィラメントの長手方向に対して垂直に切断し、測定サンプルを30個得た。各サンプルの断面における最大長径と最小短径を、マイクロメーターを用いて測定し、その平均を算出し、これを平均径とした。全30サンプルの平均径を平均して、モノフィラメントの繊維径とした。
【0047】
(9)モノフィラメントの繊維径の均一性
上記(8)において算出した、全サンプルの平均径の最大値(M1)と最小値(M2)を用いて、モノフィラメントの繊維径の均一性を算出した。
繊維径の均一性=(M1-M2)/2
【0048】
(10)モノフィラメントの粘着性
各実施例および比較例で得られたモノフィラメントから12cmの長さのサンプルを5本採取し、並列に置き、その両端10mm分をセロテープ(登録商標)で固定した。23℃×65%調湿下で、日本テストパネル社製ポリプロピレン標準試験板(100mm×25mm×2mm、重さ約4.6g)をサンプル上に置き、上から10kgの荷重を60秒間付与した後、徐重した。サンプル台紙を逆さまにし、標準試験板が落下する時間を測定し、以下の基準で評価した。
◎:すぐに落下した。
〇:すぐには落下しなかったが、2秒未満に落下した。
□:2秒以上5秒未満に落下した。
×:落下しなかったか、落下するまでに5秒以上かかった。
本発明においては、「□」以上を合格とした。
【0049】
(11)モノフィラメントの耐屈曲性
モノフィラメントを、標準状態(室温22±2℃、湿度50±2%)で48時間以上放置した後、JIS P 8115に記載のMIT耐折度試験に準じて、マイズ試験機社製、MIT耐折度試験機を用い、荷重5N、クランプ先端R0.38mm、つかみ間隔2.0mm、試験速度175rpm、折り曲げ角度135度で実施し、モノフィラメントの耐折回数を計測した。
耐折回数により、以下の基準で評価した。
◎:100回以上
○:30~99回
□:5~29回
×:5回未満
本発明においては、耐折回数が5回以上である場合、合格とし、30回以上であることが好ましく、100回以上であることがより好ましい。
【0050】
(12)3Dプリンター造形性
得られたモノフィラメントを用いて、3Dプリンター(ニンジャボット社製、NJB-200HT)を用いて、ノズル温度200~260℃、テーブル温度60℃の条件で、図1の「ルーク」を造形した。樹脂が均一に吐出されなかったり、粘着性によりフィラメントのボビン解舒がスムーズにできずに樹脂が安定供給されなかったり、反りが大きすぎて造形台から剥がれて、造形することができなかったりした場合、「×」と評価した。造形することができた場合、図1の1(オーバーハング部分)の外観を、以下の基準で評価した。
◎:オーバーハング部分がダレることがなかった。
○:オーバーハング部分がダレた。
本発明においては、「○」以上を合格とした。
【0051】
(13)造形物の反り
得られたモノフィラメントを用いて、3Dプリンター(ニンジャボット社製、NJB-200HT)を用いて、ノズル温度200~260℃、テーブル温度60℃の条件で、図2の「アンカー」を造形した。反りが大きすぎて造形物が造形台から剥がれ造形することができなかった場合、「×」と評価した。造形することができた場合、造形したアンカーを平滑な水準台(大理石等)上に置き、図2の5の位置におもりを置き固定したのち、図2の2~4の3箇所の先端部分について台からの高さを隙間ゲージまたはノギスで測定し、平均値を求め、以下の基準で評価した。
◎:平均値が0mmを超え1mm未満であった。
○:平均値が1mm以上であった。
本発明においては、「○」以上を合格とした。
【0052】
また、実施例、比較例に用いた各種原料は次の通りである。
〔アミド系樹脂(A)〕
・ポリアミド6、ユニチカ社製『A1030BRL』、融点=225℃、ガラス転移温度=47℃、230℃、2.16kgfでのMFR=26g/10分
・ポリアミド66、ユニチカ社製『A125』、融点=265℃、ガラス転移温度=50℃、275℃、5kgfでのMFR=149g/10分
・ポリアミド6/66/12共重合体、宇部興産社製『6434B』、融点=188℃、ガラス転移温度=44℃、210℃、2.16kgfでのMFR=1.4g/10分
・ポリアミド6/12共重合体、宇部興産社製『7034B』、融点=201℃、ガラス転移温度=60℃、210℃、2.16kgfでのMFR=1.6g/10分
【0053】
〔熱可塑性エラストマー(B)〕
・スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレン共重合体の水添体、クラレ社製『ハイブラー7311』、融点=なし、ガラス転移温度=-32℃、190℃、2.16kgfでのMFR=0.5g/10分
・ポリアミド系エラストマー、T&K TOKA社製『TPAE-12』、融点=なし、ガラス転移温度=-60℃、200℃、2.16kgfでのMFR=200g/10分

【0054】
実施例1
二軸押出機(池貝社製、PCM-30、スクリュー径29mm、L/D30、ダイス径3mm、孔数3)を用い、アミド系樹脂(A)としてA1030BRLを90質量部と、熱可塑性エラストマー(B)としてハイブラー7311を10質量部とをブレンドして、押出機に供給した。温度230℃、スクリュー回転数120rpm、吐出量7kg/時間の条件で混練、押出した。引き続き、押出機先端から吐出されたストランドを、冷却バスで冷却後、ペレタイザーにて引き取り、カッティングして樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物のペレットを60℃×24時間の条件で乾燥して、水分率を0.02%とした。
この乾燥させた樹脂組成物ペレットを、モノフィラメント製造装置(単軸押出機(日本製鋼所社製、スクリュー径60mm、溶融押出しゾーン1200mm))を用い、紡糸温度230℃の条件で、得られるモノフィラメントの繊維径が1.75mmになるように吐出量を調整して、孔径5mmで1孔有する丸断面の紡糸口金から押出した。引き続き、押し出されたモノフィラメントを紡糸口金より20cm下の冷却温水50℃に浸漬し、引き取り速度30m/分で調整しながら引き取り、モノフィラメントを得た。冷却時間は約1分であった(未延伸)。
【0055】
実施例2~10、比較例1~4
表1に記載された樹脂組成に変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなって、樹脂組成物のペレットを得た後、未延伸のモノフィラメントを得た。
【0056】
実施例、比較例で得られたモノフィラメントの特性、3Dプリンターの造形性、得られた造形物の特性を表1に示す(実施例1:参考例)


【0057】
【表1】
【0058】
実施例1~10は、特定のアミド系樹脂に特定の熱可塑性エラストマーを適量配合した樹脂組成物であったため、曲げ弾性率が低く柔軟性に優れ、引張強度やシャルピー衝撃強度が高く、機械的特性や耐衝撃性に優れていた。また、いずれの樹脂組成物も良好に製糸することができ、繊維径が均一で、耐屈曲性に優れており、表面に粘着性を有しなかったため、抵抗なく3Dプリンターに供給することができ、造形性も良好であった。また、得られた造形物は、反りが小さく寸法安定性に優れていた。
【0059】
比較例1、2の樹脂組成物は、ポリアミド6に、熱可塑性エラストマーを含有させなかったか、熱可塑性エラストマーの含有量が少なすぎたため、曲げ弾性率が大きく柔軟性に劣っていた。また、造形物の反りも大きく、寸法安定性が悪かった。
比較例3、4の樹脂組成物は、ポリアミド6に含有させる熱可塑性エラストマーの含有量が多すぎたためか、アミド系樹脂を含有させなかったため、フィラメントの粘着性が大きく、3Dプリンターへの安定供給ができなかった。
【符号の説明】
【0060】
2.先端部分
3.先端部分
4.先端部分
5.おもりを置く場所
図1
図2