(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】本質安全防爆型検知システム
(51)【国際特許分類】
G08C 19/00 20060101AFI20240214BHJP
G08C 17/00 20060101ALI20240214BHJP
G08C 15/00 20060101ALI20240214BHJP
G08B 25/00 20060101ALI20240214BHJP
G08B 25/01 20060101ALI20240214BHJP
G05B 19/05 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G08C19/00 M
G08C17/00 Z
G08C15/00 D
G08B25/00 520C
G08B25/01 A
G05B19/05 N
(21)【出願番号】P 2020075498
(22)【出願日】2020-04-21
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000192338
【氏名又は名称】深田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平澤 正憲
(72)【発明者】
【氏名】花井 佑一朗
(72)【発明者】
【氏名】石川 亮
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-154291(JP,A)
【文献】特開2005-339424(JP,A)
【文献】特開2012-245107(JP,A)
【文献】特開2010-220155(JP,A)
【文献】特開2017-153082(JP,A)
【文献】特開2009-265901(JP,A)
【文献】登録実用新案第3136926(JP,U)
【文献】特開2013-90308(JP,A)
【文献】特開2016-100864(JP,A)
【文献】特許第6442118(JP,B1)
【文献】特許第5641381(JP,B1)
【文献】特開2004-355164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08C 15/00-19/48
G08B 17/00-19/02
G08B 25/00-29/16
H04Q 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサによって検出されたセンサ情報に基づいて、環境情報の監視、又は所定の異常を検知したか否かの判定を行う検知部、及び
前記検知部による監視結果又は判定結果をデジタル信号として信号変換器へ出力するとともに、前記信号変換器とデジタル信号を授受する入出力部
を含む複数台の検知器と、
前記複数台の検知器の各々と上位装置との間における信号の授受の中継を行う信号変換器と、
前記複数台の検知器の各々へ電力を供給する電源部と、
前記信号変換器と前記複数台の検知器の各々の前記入出力部との間を接続するように設けられた、前記デジタル信号を伝送するための信号伝送線を含むと共に、前記検知器に対して前記電源部からの電力供給を行う伝送ケーブル部と、
前記上位装置と前記信号変換器との間における信号の授受を無線通信により行う無線送受信部と、
を含み、
前記環境情報又は前記所定の異常の種類に対して予め定められた監視周期又は検知周期に応じて、前記検知器又は/及び信号変換器への電力の供給を制御
し、
前記信号変換器は、2台以上の検知器から、前記検知器の状態が異常状態であることを示す前記デジタル信号、又は前記判定結果が前記所定の異常を検知したことを示す前記デジタル信号の出力があった場合に、各検知器の状態及び判定結果を順に監視し、監視結果を上位装置へ伝送する
本質安全防爆型検知システム。
【請求項2】
センサによって検出されたセンサ情報に基づいて、環境情報の監視、又は所定の異常を検知したか否かの判定を行う検知部、及び
前記検知部による監視結果又は判定結果をデジタル信号として信号変換器へ出力するとともに、前記信号変換器とデジタル信号を授受する入出力部
を含む複数台の検知器と、
前記複数台の検知器の各々と上位装置との間における信号の授受の中継を行う信号変換器と、
前記複数台の検知器の各々へ電力を供給する電源部と、
前記信号変換器と前記複数台の検知器の各々の前記入出力部との間を接続するように設けられた、前記デジタル信号を伝送するための信号伝送線を含むと共に、前記検知器に対して前記電源部からの電力供給を行う伝送ケーブル部と、
前記上位装置と前記信号変換器との間における信号の授受を無線通信により行う無線送受信部と、
を含み、
前記検知器は、前記検知器が有するタイマを用いて、予め定められた監視周期又は検知周期毎に起動
し、
前記信号変換器は、2台以上の検知器から、前記検知器の状態が異常状態であることを示す前記デジタル信号、又は前記判定結果が前記所定の異常を検知したことを示す前記デジタル信号の出力があった場合に、各検知器の状態及び判定結果を順に監視し、監視結果を上位装置へ伝送する
本質安全防爆型検知システム。
【請求項3】
前記伝送ケーブル部は、複数の前記信号伝送線を含み、
前記複数台の検知器の各々の前記入出力部及び前記信号変換器の各々は、前記複数の信号伝送線で、それぞれ異なる信号伝送手法を用いて前記デジタル信号の授受を行う、請求項1又は2記載の本質安全防爆型検知システム。
【請求項4】
前記入出力部及び前記信号変換器の各々は、前記信号伝送手法の一つとして、前記入出力部へ印加される電圧の変調又は電圧の振幅により生成される前記デジタル信号を用いて、前記デジタル信号の授受を行う請求項3記載の本質安全防爆型検知システム。
【請求項5】
前記入出力部及び前記信号変換器の各々は、前記信号伝送手法の一つとして、前記入出力部から前記信号変換器へ流れる電流を変調して生成される前記デジタル信号を用いて、前記デジタル信号の授受を行う請求項3又は4記載の本質安全防爆型検知システム。
【請求項6】
前記入出力部及び前記信号変換器の各々は、前記信号伝送手法の一つとして、イーサネット(登録商標)を用いて、前記デジタル信号の授受を行うと共に、前記電力供給を行う請求項3~請求項5の何れか1項記載の本質安全防爆型検知システム。
【請求項7】
前記伝送ケーブル部は、前記複数の信号伝送線を収めた1本の伝送ケーブルで構成される請求項3~請求項6の何れか1項記載の本質安全防爆型検知システム。
【請求項8】
前記電源部は、一次電池又は二次電池で構成される請求項1~請求項7の何れか1項記載の本質安全防爆型検知システム。
【請求項9】
前記入出力部と前記信号変換器との間に設けられた、前記電源部から供給される電流及び電圧を制限するためのバリア部を更に含む請求項1~請求項8の何れか1項記載の本質安全防爆型検知システム。
【請求項10】
前記複数台の検知器の各々は、前記伝送ケーブル部に接続され、
前記複数台の検知器の各々が、前記信号変換器と双方向通信を行う請求項1~請求項9の何れか1項記載の本質安全防爆型検知システム。
【請求項11】
前記複数台の検知器の各々に対して固有のアドレスが予め付与されており、
前記検知器と前記信号変換器との間で授受される前記デジタル信号は、前記検知器のアドレスを含む、請求項1~請求項10の何れか1項記載の本質安全防爆型検知システム。
【請求項12】
前記信号変換器は、一定時間毎にポーリングにて各検知器の状態、前記伝送ケーブル部の状態、及び判定結果を順に監視し、前記検知器の状態又は前記伝送ケーブル部の状態が異常状態である場合、若しくは前記判定結果が前記所定の異常を検知したことを示す場合、又は
前記検知器から前記所定の異常を検知したことを示す前記判定結果のデジタル信号の出力があった場合には、上位装置へ所定のメッセージを無線通信により伝送する請求項1~請求項11の何れか1項記載の本質安全防爆型検知システム。
【請求項13】
前記伝送ケーブル部の前記異常状態は、前記信号伝送線又は電源ケーブルの断線又は短絡である請求項
1~請求項12の何れか1項記載の本質安全防爆型検知システム。
【請求項14】
前記検知器は、複数の入出力部を備え、
前記伝送ケーブル部、前記電源部、及び前記信号変換器を含む中位構成が複数設けられ、
前記複数の入出力部の何れか一つ及び前記複数の中位構成の何れか一つを用いて、前記デジタル信号の授受が行われる請求項1~請求項1
3の何れか1項記載の本質安全防爆型検知システム。
【請求項15】
前記検知部は、前記環境情報として、湿度、圧力、振動、衝撃、ガス濃度、音、又は回転を監視し、あるいは、前記所定の異常として、温度、湿度、圧力、振動、衝撃、ガス濃度、音、若しくは回転に関する異常、火災、又は液漏れを検知したか否かを判定する請求項1~請求項1
4の何れか1項記載の本質安全防爆型検知システム。
【請求項16】
前記検知器、前記電源部、前記信号変換器、前記無線送受信部、及び前記伝送ケーブル部のいずれか又は全部が、工場電気設備防爆指針で規定される危険箇所(ZONE 0)に設置される請求項1~請求項1
5の何れか1項記載の本質安全防爆型検知システム。
【請求項17】
前記検知器は、
炭酸ガス共鳴放射帯のピーク波長を含む第1帯域の赤外光を透過する第1帯域フィルター、
前記第1帯域とは異なる第2帯域の赤外光を透過させると共に、帯域中心が前記炭酸ガス共鳴放射帯の帯域中心から離れた位置に設けられた第2帯域フィルター、及び
前記第1帯域及び前記第2帯域とは異なる第3帯域の赤外光を透過させると共に、帯域中心が前記炭酸ガス共鳴放射帯の帯域中心から離れた位置に設けられた第3帯域フィルターを含む複数の帯域フィルターと、
前記複数の帯域フィルターの各々に対して設けられた、前記帯域フィルターを透過した赤外光を検出して電気信号に変換する検出素子を含む検出部であって、前記複数の帯域フィルターの少なくとも1つに対して設けられた検出素子は、2次元状に配列されたアレイセンサとして構成されている検出部と、
各検出素子によって検出された電気信号に基づいて、温度の監視、又は炎若しくは異常温度を検知したか否かの判定を行う検知部と、
を含む請求項1
5記載の本質安全防爆型検知システム。
【請求項18】
前記複数台の検知器と、前記信号変換器と、前記電源部と、前記伝送ケーブル部と、前記無線送受信部とからなるセットを複数セット含む請求項1~請求項17の何れか1項記載の本質安全防爆型検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は本質安全防爆型検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、測定器として、センサを備えた無線機器が知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-92116号公報
【文献】特開2019-90761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
可燃性ガス等が充満する危険個所に設置される検知器については、監視エリアに複数台設置する場合があり、上記の特許文献1、2の測定器を設置すると、一台一台、電池を備えているため、電池交換の際のコストが大きくなってしまう。
【0005】
本発明は上記問題点を解消するためになされたもので、電源部の管理コストを低減することができる本質安全防爆型検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る本質安全防爆型検知システムは、センサによって検出されたセンサ情報に基づいて、環境情報の監視、又は所定の異常を検知したか否かの判定を行う検知部、及び前記検知部による監視結果又は判定結果をデジタル信号として信号変換器へ出力するとともに、前記信号変換器とデジタル信号を授受する入出力部を含む複数台の検知器と、前記複数台の検知器の各々と上位装置との間における信号の授受の中継を行う信号変換器と、前記複数台の検知器の各々へ電力を供給する電源部と、前記信号変換器と前記複数台の検知器の各々の前記入出力部との間を接続するように設けられた、前記デジタル信号を伝送するための信号伝送線を含むと共に、前記検知器に対して前記電源部からの電力供給を行う伝送ケーブル部と、前記上位装置と前記信号変換器との間における信号の授受を無線通信により行う無線送受信部と、を含んで構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様である本質安全防爆型検知システムによれば、電源部の管理コストを低減することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る本質安全防爆型検知システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係るケーブル部の構成を示す概略図である。
【
図3】マンチェスタ符号化バス給電を用いた伝送方式における電流の変化を示すグラフである。
【
図4】平衡型差動信号伝送を用いた伝送方式を説明するための図である。
【
図5】平衡型差動信号伝送を用いた伝送方式における電圧の変化を示すグラフである。
【
図6】検知器をツリー接続した場合のイメージ図である。
【
図7】マンチェスタ符号化バス給電を用いた伝送方式における電圧の変化を示すグラフである。
【
図8】高周波電圧変調を用いた伝送方式における電圧の変化を示すグラフである。
【
図9】本発明の第1の実施の形態に係る検知器の構成を示すブロック図である。
【
図10】本発明の第1の実施の形態に係る検知器の演算処理部の構成を示すブロック図である。
【
図11】検知器からの伝送信号のデータ構成を示す図である。
【
図12】通常時の本質安全防爆型検知システムの上位システムと信号変換器と検知器との間の信号のやりとりを示すシーケンス図である。
【
図13】異常時の本質安全防爆型検知システムの上位システムと信号変換器と検知器との間の信号のやりとりを示すシーケンス図である。
【
図14】(A)単独の火災信号の電流の変化を示すグラフ、(B)単独の火災信号の電流の変化を示すグラフ、(C)2つの火災信号を重ね合わせた信号の電流の変化を示すグラフである。
【
図15】火災信号が同時に出力された場合における本質安全防爆型検知システムの上位システムと信号変換器と検知器との間の信号のやりとりを示すシーケンス図である。
【
図16】ケーブル部の断線又は短絡が発生した場合のイメージ図である。
【
図17】本発明の第2の実施の形態に係る本質安全防爆型検知システムの構成を示すブロック図である。
【
図18】ケーブル部の断線又は短絡が発生した場合のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
<本発明の実施の形態の概要>
本発明の実施の形態は、危険箇所(可燃性ガス蒸気場所、可燃性粉じん場所)で火災又は異常温度を検知し、当該情報を上位システムへ無線通信により送信する本質安全防爆型検知システムのネットワーク構成に係るものである。
【0011】
また、各検知器は大半をスリープモード(消費電流:400nA程度)にて動作し、設置箇所の環境データ(温度、振動、圧力、ガス濃度、音、衝撃、回転速度、液面高さ等)の取得時のみにランニングモード(消費電流:数μA~数100μA)となる。
【0012】
上記環境データの取得にかかる時間は検知器によって異なるものの、1回あたり約60~90[s]程度であり、1日6~8回程度実施した場合でも、1日あたりのランニングモードは5分程度であり、大半をスリープモードにて過ごす。
【0013】
ランニングモードへの切り替わりは、各検知器のマイコンの内蔵タイマを使用する方法や、信号送受信器からのポーリングによる割り込みで実施する方法があり、環境データを取得して信号送受信器へ伝送した後、スリープモードへ再移行する。
【0014】
例えば上記マイコンにおいて、CPUやフラッシュ、ほとんどの周辺機能を停止させ、クロックのみを動作させることで上記動作を極低消費電力で実行できる。
【0015】
また、各検知器に順送り回路等を設けておき、信号送受信器からその動作開始を制御する手法も有効である。これにより、電源部(電池ユニット)からみてケーブル部上に接続される検知器は1個となり、当該検知器の動作電流のみが消費電流となる。
【0016】
また各検知器と信号送受信器の信号伝送には、一例として物理層にLVDS(Low voltage differential signaling)又は電流/電圧変調量を低減したMBPを使用し、データ量を削減した独自プロトコルを使用することにより、当該伝送に係る消費電流も低減する。
【0017】
更に、下位無線送受信器の信号伝送には、例えば物理層にLPWA(Low Power Wide Area、LoRaWANやSigfox)を使用し、同じく独自プロトコルとしてデータ量を削減することにより、当該伝送に係る消費電流も低減する。
【0018】
ここで、検知器による監視周期又は検知周期の一例を、以下に列挙する。下記の通り、収集する情報によってはプレアラームの判定にて検知器の種類に応じた検知周期を短くしたり、反対に長期間正常状態が継続する場合は、更に長い検知周期へ移行できるようにする等の対応をおこなう。したがって、最も検知周期の長い検知器によってネットワーク周期が決定される。
【0019】
検知内容の種類が、炎検知である場合には、高速検出型では、検知周期が50msである。この場合、3sで炎の判定を行い、30sで復旧する。標準型では、検知周期が500msである。この場合、1~2周期連続で炎が検知された場合にプレアラームへ移行し、その後、上記高速検出型と同じ検知周期に移行する。
【0020】
また、検知器10が、炎の位置も検出する場合には、上記の炎判定の後、10sで位置判定を行う。
【0021】
また、検知内容の種類が炎用異常検知の場合で、異常温度検知(高温度型)であり、240~480℃の範囲の温度を監視する場合には、検知周期が60sである。監視された温度が設定値以上の場合、高温物体であると判断し、1~2周期連続で高温物体であると判断されるとプレアラームへ移行し、例えば10min連続で高温物体であると判断されると、異常温度であると判定する。
【0022】
検知内容の種類が炎用異常検知の場合で、異常温度検知(低温度型)であり、80~200℃の範囲の温度を監視する場合には、検知周期が1hである。監視された温度が設定値以上の場合、異常温度物体であると判断し、1~2周期連続で異常温度物体であると判断されるとプレアラームへ移行し、例えば3h連続で異常温度物体であると判断されると、異常温度であると判定する。
【0023】
また、検知内容の種類が温度用検知の場合で、温度監視(高温度型)であり、240~480℃の範囲の温度を監視する場合には、監視周期が60sである。また、検知内容の種類が、温度監視(低温度型)であり、80~200℃の範囲の温度を監視する場合には、監視周期が1hである。
【0024】
また、検知内容の種類が、ガス漏れ検知である場合には、炎の高速検出型と同様に、検知周期が50msであるか、標準型と同様に、検知周期が500msである。
【0025】
また、検知内容の種類が、液漏れ検知である場合には、検知周期が1hである。監視された抵抗値が5h連続して閾値以下の場合、プレアラームへ移行し、10h~24h連続で監視された抵抗値が閾値以下であると判断されると、液漏れを検知したと判定する。
【0026】
また、検知内容の種類が、衝撃検知である場合には、検知周期が1msである。監視された加速度が5ms連続して閾値以上の場合、プレアラームへ移行し、10ms~24ms連続で監視された加速度が閾値以上であると判断されると、衝撃を検知したと判定する。
【0027】
[第1の実施の形態]
<システム構成>
以下、本発明の第1の実施の形態に係る本質安全防爆型検知システムについて説明する。
【0028】
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る本質安全防爆型検知システム100は、複数の検知器10と、バリア70と、信号変換器72と、電源部74と、無線送受信器76と、上位システム80とを備えている。複数の検知器10と、バリア70と、信号変換器72と、電源部74と、無線送受信器76とからなるセットが、複数セット設けられている。
【0029】
信号変換器72と、複数の検知器10とはケーブル部90で接続されている。
【0030】
上位システム80は、ホストコンピュータ82、DCS/PLC84、及び制御盤86の何れか一つ又は複数と、無線送受信器88とを備えている。上位システム80と、信号変換器72とは無線通信を介して接続されている。検知器10と、バリア70と、信号変換器72と、電源部74と、無線送受信器76とは、危険個所に設置され、上位システム80は、非危険個所に設置されている。
【0031】
信号変換器72は、検知器10と無線送受信器76との間におけるデジタル信号の授受の中継および変換を行う。電源部74は、ケーブル部90を介して各検知器10へ電力を供給する。電源部74は、一次電池又は二次電池で構成される。無線送受信器76は、上位システム80と信号変換器72との間における信号の授受を無線通信により行う。
【0032】
危険個所に複数台設置された検知器10は、ケーブル部90にT分岐コネクタ90Cを介して接続されており、バリア70、信号変換器72、及び無線送受信器76を介して、非危険個所に設けられた上位システム80と半二重通信を行う。ここでバリア70は、検知器10へ供給されるエネルギーを制限し、断線又は短絡時に生じる過電圧や過電流を、着火に至る火花が発生しないレベルに抑える役割を担う。また信号変換器72は、検知器10と上位システム80間の伝送信号を変換する役割を担うとともに、ネットワーク状態の監視(バスラインの断線及び短絡監視等)を行う。
【0033】
なお、
図1は一本のケーブル部90を中心としたバス接続となっているが、ツリー構造も可能である。
【0034】
<信号伝送(検知器→信号変換器)>
ケーブル部90は、
図2に示すように、信号変換器72と検知器10の後述する入出力部との間を接続するように設けられた、デジタル信号を伝送するための信号伝送線90A、及びデジタル信号を伝送すると共に検知器10に対して電源部74からの電力供給を行うための信号伝送線90Bを備えている。
【0035】
検知器10は、信号伝送線90A、90Bを介して、信号(固有アドレス/火災信号/異常温度信号/状態情報等)を、2種類の異なる伝送方式にてそれぞれ信号変換器72へ伝送する。ここで、信号伝送線90Aでの第1の伝送方式には、電源ライン上にマンチェスタ符号化した伝送信号を載せる、マンチェスタ符号化バス給電(Manchester-coded Bus Powered:MBP)を用いる。MBPでは、各検知器10へ基本消費電流を供給するとともに、信号伝送を行う検知器10に対して通信用電流(例えば6[mA])を供給し、当該検知器10での電流変調(例えば±6[mA])にて電流信号を伝送する(
図3参照)。また、信号伝送線90Bでの第2の伝送方式は、電圧振幅の平衡型差動信号伝送であり、信号伝送線90Aを構成する、対をなす2本の信号線にて、それぞれ逆位相の電圧信号を伝送する(
図4、
図5参照)。両伝送方式は危険個所への伝送手法として確立された技術であり、信頼性が非常に高い伝送方式となる。
【0036】
本実施の形態に係る本質安全防爆型検知システム100では、伝送方式の異なる両方式をそれぞれ用いて信号伝送することにより、高い冗長性を有するネットワークを実現する。ここで各伝送方式の特徴を表1に示す。
【0037】
【0038】
更に上記両データ伝送は、最大でも30kbps程度の低い伝送速度で実施する。例えば、デジタル信号の伝送速度を、10kbps~30kbpsとする。上記速度であれば、長距離伝送(数10km~)を除いてインピーダンス整合を考慮する必要がなく(伝送ラインの分岐による信号反射を考慮する必要が無く)、検知器10をツリー状に配置することもできる(
図6参照)。
【0039】
なお、本質安全防爆型検知システム100で扱うデータ伝送量は数10bit程度であり、上記伝送速度でも充分に実用に足る仕様である。上記方式にて検知器10からそれぞれ別個に出力された信号は、信号変換器72にて任意の伝送信号(LoRaWANやZigbee、LTE-M等)に変換され、無線送受信器76により上位システム80へ送信される。なお、伝送される信号は火災や異常温度を知らせるという性質上、両方式のうち一方から信号が伝送された場合でも、上位システム80へ信号の送信を行う。
【0040】
<信号伝送(信号変換器→検知器)>
本実施の形態に係る本質安全防爆型検知システム100においては、信号変換器72から検知器10へ伝送される信号(アドレス/状態確認信号等)についても、2種類の方式を併用して伝えられる。ただし危険個所においては供給できる最大電流には制限があり、MBP伝送のための電流を全ての検知器10へ供給した場合、ケーブル部90へ接続される検知器10の台数には大きな制限がかかる。例えば危険個所(ZONE0)に設置された検知器10(機器グループIIC、保護レベルia)に対するFISCO電源の許容出力電流は183mA(@出力電圧14[V])であり、接続可能台数は最大でも9台となる。そこで第1の伝送方式は、検知器10へ印加される電圧の変調により、信号伝送を行う。例として、非伝送時に検知器10へ印加される電圧が3[V]の場合、伝送時は2.5Vまで電圧を降下させ、電圧変調(通信用電圧±0.5[V])にてマンチェスタ符号化した電圧を伝送する(
図7参照)。この際、印加される電流は異常検知の動作に必要な基本消費電流を設置台数で積算した値となる(例えば1[mA/台]×32台=32[mA])。本手法により、MBP伝送ラインと同一ラインで通信時の消費電流を抑えることが可能であり、検知器10の設置可能台数を増加させることができる。本方式では、全検知器10に対して同時に信号伝送が可能となる。ただし上記手法は一例であり、0.75~1.0[V]の高周波電圧変調にて信号形成する伝送手法等も可能である(
図8参照。)
【0041】
なお第2の伝送方式では、差動信号伝送を用い、対をなす2本の信号線にてそれぞれ逆位相の電圧信号を伝送する。このように、2種類の異なる伝送方式にて信号伝送を冗長化することにより、本質安全防爆型検知システム100の信頼性を向上させることができる。
【0042】
<伝送ケーブル>
本実施の形態においては、2種類の信号伝送線90A、90B(MBP用、差動信号伝送用)が、1本のケーブル部90に収められることを特徴とする(
図2参照)。これにより、省配線化による施工コスト低減や、ケーブル誤接続のリスク低減を図れる。また、誤接続による本質安全性の損失リスクを低減できる。加えて、ケーブル部90を両端コネクタ付きとし、検知器10やT分岐コネクタ90C、終端抵抗と、コネクタ接続できるようにすることで、より一層の施工コストを低減することができ、誤接続や検知器10の筐体内への異物混入リスクも低減できる。
【0043】
<検知器の構成>
図9に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る検知器10は、炎が発する炭酸ガス共鳴放射帯の4.5μm近傍の帯域の赤外光を検出する第1センサ12と、炭酸ガス共鳴放射帯より短い波長の帯域の4.0μm近傍の帯域の赤外光を検出する第2センサ14と、炭酸ガス共鳴放射帯より長い波長の帯域の5.0μm近傍の帯域の赤外光を検出する第3センサ16と、上記の3つの帯域より短い帯域の3.0μm近傍のバンドの光を監視窓330を介して検出する第4センサ318とを備えている。また、検知器10は、第1センサ12からの信号を増幅する増幅部18と、第2センサ14からの信号を増幅する増幅部20と、第3センサ16からの信号を増幅する増幅部22と、第4センサ318からの信号を増幅する増幅部322と、増幅部18、20、22、322からの信号を切り替えるスイッチ24と、スイッチ24からの信号をデジタル値に変換するAD変換部26とを備えている。また、検知器10は、炎又は異常温度を検知する処理を行う演算処理部28と、入出力部32とを備えている。
【0044】
入出力部32は、演算処理部28によって炎又は異常温度を検知したことをデジタル信号として信号変換器72へ出力するとともに、信号変換器72とデジタル信号を授受する。
【0045】
また、上記
図9に示すように、検知器10は、筐体310Aの一部に監視窓330が設けられている。
【0046】
第1センサ12は、炎が発する炭酸ガス共鳴放射帯の4.5μm近傍の帯域の赤外光を透過するフィルター12Aと、フィルター12Aを透過した赤外光を検出して直流成分の電気信号に変換する検出素子を2次元状に配列させたアレイセンサ12Bと、フィルター12Aの前に配置された光学レンズ12Cとを備えている。
【0047】
第2センサ14は、炭酸ガス共鳴放射帯より短い波長の帯域の4.0μm近傍の帯域の赤外光を透過させるフィルター14Aと、フィルター14Aを透過した赤外光を検出して直流成分の電気信号に変換する検出素子を2次元状に配列させたアレイセンサ14Bと、フィルター14Aの前に配置された光学レンズ14Cとを備えている。
【0048】
第3センサ16は、炭酸ガス共鳴放射帯より長い波長の帯域の5.0μm近傍の帯域の赤外光を透過させるフィルター16Aと、フィルター16Aを透過した赤外光を検出して直流成分の電気信号に変換する検出素子を2次元状に配列させたアレイセンサ16Bと、フィルター16Aの前に配置された光学レンズ16Cとを備えている。
【0049】
第4センサ318は、監視窓330を透過した自然光のうち、4.0μm以下の可視光域を含む範囲の少なくとも一部である短波長域の光を透過させるフィルター318Aと、フィルター318Aを透過した光を検出して直流成分の電気信号に変換する検出素子318Bとを備えている。
【0050】
アレイセンサ12Bの各検出素子は、アレイセンサ14Bの各検出素子及びアレイセンサ16Bの各検出素子と対応するように配置されている。
【0051】
また、アレイセンサ12B、14B、16Bは、予め定められた監視角度(例えば、90度)で、赤外光を検出しており、対応するアレイセンサ12Bの検出素子、アレイセンサ14Bの検出素子、及びアレイセンサ16Bの検出素子は、予め定められた同じ領域からの赤外光を検出している。
【0052】
また、光学レンズ12C、14C、16Cは、各々1枚以上のレンズで構成されている。なお、光学レンズ12C、14C、16Cは、各々2枚以上のレンズで構成されていることが望ましい。これは、アレイセンサ12Bの検出素子、アレイセンサ14Bの検出素子、及びアレイセンサ16Bの検出素子の広い監視角度に対して、フラットな面にできる限り焦点を結ばせるためである。また、レンズの反射によりロスを少なくする為に、レンズに反射防止膜(ARコート)を蒸着することにより、検出素子の感度を増加させることも可能である。レンズ材料は、サファイア、カルコゲナイドガラス、シリコン、ゲルマニウムなどである。
【0053】
なお、炭酸ガス共鳴放射帯の4.5μm近傍の帯域の赤外光を検出する弱い電気信号を確実に捉えるために、第1センサ12と同じセンサを更に設けてもよい。
【0054】
第1センサ12~第4センサ318の検出素子は、サーモパイルで構成されているが、InAsSb素子など、他の光起電力タイプの素子や、抵抗変化を利用したマイクロボロメータ素子、PbSeなどの光導電タイプの素子で構成することもある。なお、サーモパイルやマイクロボロメータと比較して、他の素子は、赤外線検出速度が極めて速い。このため、回路構成は同じでも、AD変換速度を速くする事で、極めて高速に炎を検出することが出来る検知器を構成することが可能となる。
【0055】
増幅部18、20、22、322は、第1センサ12の各検出素子の電気信号、第2センサ14の各検出素子の電気信号、第3センサ16の各検出素子の電気信号、及び第4センサ318の検出素子318Bの電気信号をそれぞれ独立して増幅する。
【0056】
スイッチ24は、増幅部18、20、22、322によって個別に増幅された電気信号を、一定の時間で順次切り替えて一つの電気信号に集約するスイッチ部(図示省略)を含み、当該スイッチ部により一つに集約された電気信号を出力する。なお、スイッチ24を設けずに、増幅部18、20、22、322のそれぞれに対して、AD変換部を設けて、増幅された電気信号をデジタル値に個別に変換して演算処理部28に出力するようにしてもよい。
【0057】
演算処理部28は、CPUで構成されている。演算処理部28を、機能実現手段毎に分割した機能ブロックで説明すると、
図10に示すように、演算処理部28は、信号取得部40、検知部44、及び入出力制御部46を備えている。
【0058】
信号取得部40は、AD変換部26から出力された信号から、第1センサ12の各検出素子からの電気信号の値、第2センサ14の各検出素子からの電気信号の値、第3センサ16の各検出素子からの電気信号の値、及び第4センサ318の検出素子318Bからの電気信号の値を取得する。
【0059】
検知部44は、信号取得部40によって取得された、第1センサ12の各検出素子からの電気信号の値、第2センサ14の各検出素子からの電気信号の値、及び第3センサ16の各検出素子からの電気信号の値に基づいて、アレイセンサ12Bの各検出素子に対し、炎又は異常温度を検知したか否かを判定する。なお、判定方法については特許文献(国際公開第2018/198504号)に記載の手法と同様であるため、説明を省略する。
【0060】
また、検知部44は、アレイセンサ12Bの検出素子のうち、炎を検知したと判定された検出素子に対して予め定められた位置を、火災位置として判定する。
【0061】
検出素子に対して予め定められる位置は、検知器10を設置するときに、位置計測器を用いて、検出素子毎に実空間上の検出位置を計測して設定しておけばよい。
【0062】
検知部44は、炎を検知したと判定された検出素子からの電気信号の値に基づいて、炎の空間的な大きさである規模Wを判定する。
【0063】
検知部44は、災を検知したと判定された場合、火災位置を報知するように入出力制御部46を制御する。例えば、入出力制御部46は、火災信号をケーブル部90を介して信号変換器72へ送信させる。
【0064】
また、検知部44は、第3センサ16の検出素子からの電気信号の値と、第4センサ318の検出素子318Bからの電気信号の値とが、予め定められた条件を満たした場合に、監視窓330、第3センサ16、第4センサ318、増幅部18、20、22、322、スイッチ24、AD変換部26、又は演算処理部28が異常状態であると判定し、異常状態を報知するように入出力制御部46を制御する。例えば、入出力制御部46は、窓汚れ又はその他異常を示す信号をケーブル部90を介して信号変換器72へ送信させる。
【0065】
<本質安全防爆型検知システムの作用>
次に、本発明の第1の実施の形態に係る本質安全防爆型検知システム100の作用について説明する。
【0066】
まず、本質安全防爆型検知システム100に設置される検知器10に対しては、それぞれに個別のアドレスが付与される。これにより、検知器10と信号変換器72との間のデータ伝送では、アドレスと各種情報を併せた信号の授受がなされる。例として、ケーブル部90上に32台の検知器10が接続される場合、アドレス部は5bitで表現され、その後ろに数bitの状態情報(火災信号、異常温度、窓汚れ、火災位置等)が付け加えられる(
図11)。なお本アドレスは、上位システム80からの信号伝送や、検知器10内に設けられたディップスイッチ等で任意に変更可能である。
【0067】
また、検知器10によって、炎又は異常温度を検知する処理が、一定の周期毎に繰り返し実行される。また、検知器10によって、検知器10の異常状態を判定する処理が、一定の周期毎に繰り返し実行される。
【0068】
このとき、本質安全防爆型検知システム100において、通常時、以下のデータの授受が行われる。
【0069】
<データの授受(通常時)>
本質安全防爆型検知システム100では、通常時、ポーリング形式にて各検知器10の状態チェックが行われる。具体的には、信号変換器72から各検知器10(各アドレス)に対して順に状態情報要求信号を出力し(S1)、指定された検知器10が当該情報(アドレス及び異常なし/窓汚れ/その他異常等)を出力する(S2)。これをアドレス順に各検知器10に対して実施し、1サイクルが完了した時点で収集した状態情報を上位システム80へ無線通信により送信する。これを一定時間サイクルで繰り返す(
図12)。
【0070】
なお本状態チェックにより、後述する断線箇所の特定が可能である。信号変換器72からの状態情報要求信号に対して返答がない検知器10の数やアドレスにより、断線箇所の特定が可能となる。
【0071】
上記のように、検知器10およびネットワークの機能を定期的に診断し診断結果を上位システム80へ無線通信により伝送することにより、本質安全防爆型検知システム100の信頼性を向上できるだけでなく、メンテナンスコスト等を低減できる。
【0072】
また、検知器10によって炎又は異常温度が検知され、あるいは、検知器10が異常状態であると判定されると、本質安全防爆型検知システム100において、以下のデータの授受が行われる。
【0073】
<データの授受(火災検知時、異常温度検知時、異常状態判定時)>
任意の検知器10にて異常状態が検知された場合、
図13に示すように、当該検知器10から信号変換器72に対して当該情報(アドレス及び火災信号/異常温度信号等)が出力される(S3)。この本信号入力を受け、信号変換器72は無線送受信器76、88を介して上位システム80へ火災信号、異常温度信号、又は異常状態信号等を送信する(S4)。加えて信号変換器72は、上記信号のうちアドレス部の情報が伝送された時点で、全ての検知器10に対して当該アドレスの検知器10から信号伝送されている旨を信号出力する(S5)。上記信号伝送を受け、当該検知器10を除くすべての検知器10は任意時間経過後まで火災信号、異常温度信号、又は異常状態信号の出力が停止され、任意時間(ミリ秒オーダー)が経過するまでに異常を検知していた検知器10が存在する場合は、当該任意時間経過後、火災信号、異常温度信号、又は異常状態信号の出力がなされる。これにより、複数の検知器10から僅かな時間差で出力された信号について、重なりによる喪失や通信失敗を防ぐことができる。なお上記時間は、伝送する信号量に応じて任意に変更可能である(出力される情報が火災信号、異常温度信号、又は異常状態信号のみの場合は短く、異常位置情報や温度情報等を併せて出力する場合は長くする等)。
【0074】
なお、検知器10は、一定時間を経過しても信号変換器72から承諾信号が伝送されてこない場合、火災信号等を再度出力し、承諾信号が伝送されるまでこれを繰り返し実行する。なお、同時刻に2台以上の検知器10から火災信号等が出力された場合や、検知器10の状態チェック中に任意の検知器10から火災信号等が出力された場合、2つ以上の信号が合成された信号が信号変換器72へ入力される(
図14)。この場合、条件によっては信号の復元ができず喪失する可能性があるため、ポーリング形式にて各検知器10の状態チェックを行う。具体的には、
図15に示すように、信号変換器72側で複数の検知器10から出力があったと判定された場合、全ての検知器10に対して順にアドレスおよび状態情報要求信号を出力し(S6)、指定された各検知器10が当該情報(アドレス及び異常なし/火災信号等)を出力する(S7)。これをアドレス順に各検知器10に対して実施し、火災信号、異常温度信号、又は異常状態信号が確認された時点で、当該情報を上位システム80へ無線通信により送信する(S8)。なお、複数台の検知器10から出力がなされたと信号変換器72にて判定する手法としては、MBP伝送では例えば電源からの出力電流を監視し、当該電流の増加量によって判定を行う方法がある。一方で平衡型差動信号伝送については、信号変換器72へ入力される信号の振幅の増加により判定する方法があるものの、完全に信号が重なった場合には判定が困難となる。
【0075】
したがって、当該伝送方式にて何らかの信号が入力した場合は、上記MBPと同様にポーリング形式にて各検知器10の状態チェックを行うことで、確実な伝送を行う。ただし本手法は一例であり、搬送波感知多重アクセス/衝突検出(CSMA/CD)のように、検知器10同士でケーブル部90を流れる信号の状況を監視し、回線の使用権を調整する手法も適用可能である。以上のように、簡素かつ伝送の確実性が高いポーリングを用いることにより、検知器10からの火災信号の喪失や通信失敗を防ぎ、両伝送方式におけるデータの授受に対する信頼性を向上できる。
【0076】
<断線/短絡対策>
ケーブル部90において断線又は短絡時が発生した場合、任意の検知器10で監視不可状態(電源供給がなされない状態、信号伝送がなされない状態等)が発生する可能性がある(
図16)。本質安全防爆型検知システム100では、以下の手法にて断線及び短絡の監視を行い、上位システム80へ断線/短絡警報を無線通信により送信する。
【0077】
(断線監視)
本質安全防爆型検知システム100では、上述したように、検知器10の状態チェックが一定周期でなされる。従って、信号変換器72からの状態情報要求信号に対して応答がない場合、断線の発生を疑う。ここで、検知器10に対しては固有のアドレスが付与されるため、
図16(A)に示すように、ケーブル部90上で断線が発生した場合や、
図16(B)に示すように、ケーブル部90の支線上で断線が発生した場合には、1サイクルの状態チェックを経て応答がないアドレスを基に、信号変換器72にて断線箇所の特定が可能である。
【0078】
(短絡監視)
本質安全防爆型検知システム100では、
図16(C)に示すように、ケーブル部90上で短絡が発生した場合や、
図16(B)に示すように、ケーブル部90の支線上で短絡が発生した場合には、短絡箇所の特定は行えないものの、信号変換器72ないし電源部74にて短絡電流を監視することで、短絡を検知することが可能である。
【0079】
<電源部の電池メンテナンス>
本質安全防爆型検知システム100では、定期的に、電源部74の一次電池の交換または二次電池の充電を行う。このとき、検知器10の数に対して、電源部74の数が少ないため、電源部74の電池のメンテナンスの手間が少なくて済む。なお、電源部74は、本質安全性を担保すれば外部電源であってもよく、その場合には、電池のメンテナンスが不要なため、管理コストが更に少なくて済む。
【0080】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る本質安全防爆型検知システムによれば、信号伝送線を介して、電源部から複数台の検知器に対して電力を供給することにより、電源部の数を低減することができるため、電源部の管理コストを低減することができる。
【0081】
また、検知器の入出力部及び信号変換器の各々は、複数の信号伝送線で、それぞれ異なる信号伝送手法を用いて前記デジタル信号の授受を行うことにより、簡易な構成で、信頼性の高い本質安全防爆型検知システムを提供することができる。
【0082】
また、複数の信号伝送線を含むケーブル部により、検知器で検知した火災又は異常温度を、ケーブル部の不具合(断線や短絡)が発生した場合でも確実に上位システムへ伝送させ、安全度水準の高い本質安全防爆型検知システムを実現できる。
【0083】
また、最も技術要求の厳しい危険個所(ZONE0)での火災/異常温度監視環境を、低コストで実現できる。
【0084】
また、危険個所に複数台設置された検知器は、一本のケーブル部にT分岐で接続されており、バリア、信号変換器、及び無線送受信器を介して、非危険個所に設けられた上位システムと半二重通信を行う。具体的には、検知器から信号変換器へ伝送される信号(固有アドレス/火災信号/異常温度信号/状態情報等)は、マンチェスタ符号化バス給電による電流信号と、平衡型差動信号伝送による電圧信号の2種類の信号として、冗長化されて伝えられる。また、信号変換器から検知器へ伝送される信号(アドレス/状態確認信号等)は、検知器へ印加する電圧の変調によって生成される電圧伝送と、差動信号伝送による電圧信号の2種類の信号として、冗長化されて伝えられる。これにより、火災信号又は異常温度を確実に上位システムへ伝達することができる。
【0085】
また、上記電圧変調による電圧伝送を用いることにより、危険個所へ供給される電流を抑えることが可能であり、危険個所へ設置される検知器の数を増やすことができる。
【0086】
また、2種の信号伝送をそれぞれ数10kbps程度の低い伝送速度で実施することで、ツリー分岐も可能なネットワークとすることができる。
【0087】
また、上記2種類の信号伝送線を1本のケーブル部に収められることで施工コストを低減させる。
【0088】
また、信号変換器からのポーリングにより、検知器およびネットワークの機能を定期的に診断し、無線通信により上位システムへ伝送することにより、本質安全防爆型検知システムの信頼性を向上させ、かつメンテナンスコスト等を低減する。
【0089】
また、複数台の検知器から火災信号等が同時出力された場合に、信号変換器からのポーリングを行うことで火災信号の通信失敗を防ぎ、データの授受に対する信頼性を向上させる。
【0090】
[第2の実施の形態]
<システム構成>
以下、本発明の第2の実施の形態に係る本質安全防爆型検知システムについて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0091】
図17に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る本質安全防爆型検知システム200は、複数の検知器10と、バリア70A、70Bと、信号変換器72A、72Bと、電源部74A、74Bと、無線送受信器76A、76Bと、上位システム80とを備えている。複数の検知器10と、バリア70A、70Bと、信号変換器72A、72Bと、電源部74A、74Bと、無線送受信器76A、76Bとからなるセットが、複数セット設けられている。
【0092】
信号変換器72Aと、複数の検知器10とはケーブル部290Aで接続され、信号変換器72Bと、複数の検知器10とはケーブル部290Bで接続されている。電源部74A、74Bは、一次電池又は二次電池で構成される。
【0093】
このように、本実施の形態では、ケーブル部290A、無線送受信器76A、電源部74A、信号変換器72A、及びバリア70Aを含む第1中位構成と、ケーブル部290B、無線送受信器76B、電源部74B、信号変換器72B、及びバリア70Bを含む第2中位構成と、が設けられている。これに合わせて、各検知器10は、入出力部32を2つ備え、一方の入出力部32は、第1中位構成と接続され、ケーブル部290Aを介して、演算処理部28によって炎を検知したことをデジタル信号として信号変換器72Aへ出力するとともに、信号変換器72Aとデジタル信号を授受する。また、他方の入出力部32は、第2中位構成と接続され、ケーブル部290Bを介して、演算処理部28によって炎を検知したことをデジタル信号として信号変換器72Bへ出力するとともに、信号変換器72Bとデジタル信号を授受する。
【0094】
ケーブル部290A、290Bは、上記第1の実施の形態のケーブル部90と同様に、信号伝送線90A、及び信号伝送線90Bを備えている。
【0095】
本質安全防爆型検知システム200では、ケーブル部290A、290Bから無線送受信器76A、76Bまでのラインを2重化する。このように、ネットワーク二重化を行うことで、断線又は短絡時に監視不可となる状態を回避できる(
図18)。具体的には、第1の実施の形態と同様の手法で一方のネットワークでの断線/短絡を信号変換器72A又は72Bにて検知した場合、無線通信により上位システム80へ短絡警報を送信すると共に、伝送ラインを自動的にもう一方のネットワークへ切替える。これにより、断線又は短絡による火災/異常温度監視不可となる状態を回避でき、信頼性の高い火災監視環境を構築できる。
【0096】
なお、検知器10に対しては固有のアドレスが付与されるため、
図18(A)に示すように、ケーブル部290B上で断線が発生した場合や、
図18(B)に示すように、ケーブル部290Bの支線上で断線が発生した場合には、1サイクルの状態チェックを経て応答がないアドレスを基に、信号変換器72Bにて断線箇所の特定が可能である。また、
図18(C)に示すように、ケーブル部290B上で短絡が発生した場合や、
図18(B)に示すように、ケーブル部290Bの支線上で短絡が発生した場合には、短絡箇所の特定は行えないものの、信号変換器72Bないし電源部74Bにて短絡電流を監視することで、短絡を検知することが可能である。
【0097】
以上説明したように、第2の実施の形態に係る本質安全防爆型検知システムによれば、ケーブル部から電源部までのラインを2重化することにより更なる冗長化が図れ、火災又は異常温度監視のための、信頼性の高いネットワークを低コストで実現する。この場合、信号伝送という点では4重系統となる。二重化により、断線や短絡が発生した場合でも、火災又は異常温度の監視環境を継続できる。なお実際の運用においては、ケーブル接続用コネクタを2個設けた検知器を標準品とし、顧客の要求する安全度水準(SIL)やコストに応じて二重化の有無を選択可能とすることも可能である。
【0098】
<変形例>
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0099】
例えば、検知器10の第1センサ12、第2センサ14、及び第3センサ16の全てにおいて、アレイセンサを用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。第1センサ12、第2センサ14、及び第3センサ16の少なくとも一つにおいて、アレイセンサを用いるようにしてもよい。例えば、第1センサ12を、アレイセンサ12Bを用いて構成し、第2センサ14、及び第3センサ16では、アレイセンサではなく、1つの検出素子を用いて構成してもよい。
【0100】
また、第1センサ12、第2センサ14、及び第3センサ16で、アレイセンサではなく、1つの検出素子を用いて構成し、2.0μm近傍から5.0μm近傍までの帯域の赤外光を検出する第5センサを更に含むように構成し、第5センサを、アレイセンサを用いて構成するようにしてもよい。この場合には、検知部は、第5センサのアレイセンサの各検出素子によって検出された電気信号の値に基づいて、電気信号の値が最大となる検出素子に対して予め定められた位置を、火災位置として判定するようにすればよい。
【0101】
また、ガス検知器や温度センサのように定められた閾値以上で所定の異常を検知したことを示す警報を出力するようなシステムに、本発明を適用してもよい。例えば、センサによって検出された湿度、圧力、振動、衝撃、ガス濃度、音、若しくは回転が、閾値以上である場合に、所定の異常を検知したことを示す警報を出力するシステムに、本発明を適用してもよい。また、センサによって検出されたセンサ情報によって、液漏れが検知された場合に、警報を出力するシステムに、本発明を適用してもよい。また、検知器として、危険個所に複数台が連なって設置されるフィールド機器を用いた本質安全防爆型検知システムに本発明を適用してもよい。
【0102】
また、第1の伝送方式として、MBPを用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、電圧変調によるマンチェスタ符号や、イーサネット(登録商標)を使用してもよい。第1の伝送方式として、イーサネット(登録商標)を使用する場合には、PoE(Power over Ethernet)という技術で通信線にて給電が可能である。
【符号の説明】
【0103】
10 検知器
28 演算処理部
32 入出力部
70、70A、70B バリア
72、72A、72B 信号変換器
74、74A、74B 電源部
76、76A、76B 無線送受信器
80 上位システム
90、290A、290B ケーブル部
90A、90B 信号伝送線
100、200 本質安全防爆型検知システム