(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ウパダシチニブのジ-p-トルオイル-L-タートレートの結晶形
(51)【国際特許分類】
C07D 487/14 20060101AFI20240214BHJP
A61K 31/4985 20060101ALI20240214BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240214BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20240214BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C07D487/14 CSP
A61K31/4985
A61P1/04
A61P17/06
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2021555517
(86)(22)【出願日】2020-05-08
(86)【国際出願番号】 CN2020089119
(87)【国際公開番号】W WO2020224633
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】201910385804.0
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516150202
【氏名又は名称】スーチョウ ポンシュイ ファーマテック カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SUZHOU PENGXU PHARMATECH CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【氏名又は名称】河野上 正晴
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ポン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ピーシュ
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ,チィァン
(72)【発明者】
【氏名】チォン,ウェン
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2022/0273651(US,A1)
【文献】国際公開第2022/178492(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/147073(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/007629(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/244323(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/123288(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/005484(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111909160(CN,A)
【文献】国際公開第2020/224633(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/115213(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/115212(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/055698(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0298016(US,A1)
【文献】国際公開第2018/165581(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/066775(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 487/14
A61K 31/4985
A61P 1/04
A61P 17/06
A61P 29/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物:
【化1】
のジ-p-トルオイル-L-タートレートまたは前記ジ-p-トルオイル-L-タートレートの水和物。
【請求項2】
結晶形である、請求項
1に記載のジ-p-トルオイル-L-タートレートまたは前記ジ-p-トルオイル-L-タートレートの水和物。
【請求項3】
前記結晶形が、3.9°±0.2°、7.7°±0.2°、及び15.2°±0.2°の角度(2θ)のピークを含むX線粉末回折パターンによって特徴付けられる、式Iの化合物ジ-p-トルオイル-L-タートレートの結晶形A
である、請求項2に記載のジ-p-トルオイル-L-タートレートまたは前記ジ-p-トルオイル-L-タートレートの水和物。
【請求項4】
前記X線粉末回折パターンが、7.5°±0.2°、10.4°±0.2°、及び23.4°±0.2°の角度(2θ)のピークをさらに含む、請求項
3に記載の
ジ-p-トルオイル-L-タートレートまたは前記ジ-p-トルオイル-L-タートレートの水和物。
【請求項5】
請求項1に記載のジ-p-トルオイル-L-タートレートまたは前記ジ-p-トルオイル-L-タートレートの水和物を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2020年5月8日に出願された国際出願第PCT/CN2020/089119号の日本国内段階であり、2019年5月9日に出願された中国特許出願第201910385804.0号の利益を主張するものであり、その開示内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
本願は、医薬品の合成、特にウパダシチニブ塩及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチ(RA)や乾癬性関節炎(PsA)の具体的な原因は不明であるが、RAと患者の免疫機能の部分的な障害との間に重要な関係があることが医療現場から推測されている。関節リウマチは疾患経過が長く、それに伴う免疫機能不全により、患者は心血管疾患、感染症、及び腎機能障害等の合併症で死亡することが多い。
【0003】
現在、このような免疫系疾患の治療にJAK阻害剤は有効な治療法の一つである。その中でも、アッヴィ社が関節リウマチ及び乾癬性関節炎の治療薬として開発した革新的な新薬であるウパダシチニブは、新しいJAK1標的阻害剤である。JAK1は、関節リウマチ(RA)、クローン病(CD)、潰瘍性大腸炎(UC)、乾癬性関節炎(PsA)等の様々な炎症性疾患の病態生理学的プロセスに重要な役割を果たすキナーゼである。現在、アッヴィは、PsA、強直性脊椎炎(AS)、及びアトピー性皮膚炎等を含む他の免疫疾患に対するウパダシチニブの潜在的有効性についても評価している。
【0004】
今のところ、ウパダシチニブの関連特許は少ない。主な特許ルートは、最初のイノベーターであるアッヴィ社の合成ルート(WO2017066775A1)で、ハイドロクロライド、タートレート、マレエート、及びその他の塩が報告されている。
【0005】
化合物の多形とは、その化合物に2つ以上の異なる結晶形が存在することをいう。多形性は有機化合物に広く存在する。同じ化合物でも結晶形が異なると、溶解度、融点、密度、安定性等に大きな違いがあり、化合物の安定性及び均一性に様々な影響を与える。結晶形が異なると、化合物の精製過程での結晶化による精製能力に明らかな差が生じる。したがって、包括的かつ体系的な多形のスクリーニングと最適な結晶形の選択は、医薬プロセスの研究開発における重要な無視できない内容の一つである。
【0006】
不純物を効果的に管理することは、医薬品の製造において非常に重要であり、医薬品の品質を確保する上で大きな意義がある。患者への責任を果たすために、製薬会社の研究開発は不純物の管理に細心の注意を払う必要がある。医薬品中間化合物の塩形態、結晶形、及び精製プロセスの研究は、APIの品質管理に資するものであり、それにより医薬品の品質と安全性が確保される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願は、ウパダシチニブのいくつかの新規な塩形態及び結晶形を提供する。本願で開示される新規な結晶形は、良好な安定性、容易な取り扱い性、開発可能なプロセス、低コスト等の好ましい特性を有しており、これらは将来的に薬剤の最適化と開発のために重要な価値を有する。その優れた利点は、合成プロセスで生じる不純物を、この塩形成プロセスによって効果的に精製できることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、ウパダシチニブ化合物Iの塩形態及び対応する結晶形を提供することである。ウパダシチニブジ-p-トルオイル-L-タートレートの1つの結晶形は、結晶形Aと命名され、X線粉末回折(「XRPD」)、示差走査熱量測定(「DSC」)、熱重量分析(「TGA」)、及びそれらの調製プロセスによって特徴付けられる。
【0009】
本発明は、約3.9°±0.2°、7.5°±0.2°、7.7°±0.2°、10.4°±0.2°、15.2°±0.2°、及び23.4°±0.2°の2θ角のピークを含む、
図1に表示されるXRPDパターンによって特徴付けられるウパダシニブジ-p-トルオイル-L-タートレートの結晶形Aを提供する。
【0010】
また、ウパダシチニブ、シュウ酸、及びp-トルエンスルホン酸が形成する対応する塩も、より優れた精製効果を発揮する。また、化合物Iは、カンファースルホン酸、安息香酸、リンゴ酸、クエン酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、グルコン酸、マロン酸、コハク酸、メチルマロン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、フマル酸等と対応する塩を形成することができる。
【0011】
本発明はさらに、対応する酸と溶媒を用いた結晶化プロセスにより結晶性ウパダシチニブ塩を調製するプロセスを提供するものである。
【0012】
さらに、前記結晶化プロセスは、懸濁撹拌、加熱及び冷却、揮発または向流溶媒を含む。
【0013】
さらに、前記溶媒としては、水溶媒、アルコール溶媒、エーテル溶媒、ケトン溶媒、エステル溶媒、芳香族炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、ニトリル溶媒、ニトロアルカン溶媒、及び脂肪族炭化水素溶媒の単一系または混合系が挙げられる。
【0014】
本願のもう一つの目的は、化合物I及びその対応するp-トルエンスルホネート、オキサレート、及びジ-p-トルオイル-L-タートレートの、免疫系薬剤ウパダシチニブの合成及び調製のための使用を提供することである。
【0015】
本願の有益な効果は以下の通りである:
本発明が提供する塩形態及び結晶形は、より優れた安定性を有する;
本願に開示される結晶化方法は、文献に開示されたウパダシチニブ酒石酸塩と比較して、薬剤化合物の純度を効果的に向上させ、不純物の含有量を効果的に減少させることができる;
本発明が提供する新規な結晶形の調製方法は、簡単で、再現性が良く、制御可能であり、工業生産に適している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、化合物Iのジ-p-トルオイル-L-タートレート結晶形AのXRPD像である。
【
図2】
図2は、化合物Iのジ-p-トルオイル-L-タートレートの結晶形AのDSCチャートである。
【
図3】
図3は、化合物Iのジ-p-トルオイル-L-タートレートの結晶形AのTGAチャートである。
【
図4】
図4は、化合物Iのジ-p-トルオイル-L-タートレートの結晶形AのHNMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、以下の具体的な実施形態によってさらに説明されるが、本開示の保護範囲を限定するものと結論づけるべきではない。当業者は、特許請求の範囲内の調製方法及び器具の使用について改良を加えることができる。これらの改良も、本開示の保護範囲内と考えるべきである。したがって、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲に従うべきである。
【0018】
以下の実施形態では、試験方法は通常、従来の条件またはメーカーが推奨する条件に従って実施され、化合物Iは特許WO2017066775号の方法で調製される。
【0019】
本開示で使用されている略語の説明は以下の通りである。
XRPD:X線粉末回折
DSC:示差走査熱量計
TGA:熱重量分析
本発明のX線粉末回折パターンは、ブルカー社のX線粉末回折装置 D2 PHASERで取得したものである。
【0020】
本発明のXRPD法のパラメータは以下の通りである。
【表1】
【0021】
本発明の示差走査熱量計(DSC)チャートは、TAインスツルメンツ社の示差走査熱量計DSC2000で取得される。
【0022】
本発明の示差走査熱量計(DSC)の方法パラメータは以下の通りである。
【表2】
【0023】
本発明の熱重量分析(TGA)のグラフは、TA Instruments社の熱重量分析装置TGA Q500で取得される。本発明の熱重量分析(TGA)の方法パラメータは以下の通りである。
【表3】
【0024】
本発明の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の結果は、Waters 2695で取得される。本発明の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の方法パラメータは以下の通りである:
液体クロマトグラフィーカラム:Agilent Zorbax Plus-C18、4.6×100mm、3.5um;
移動相:水-アセトニトリル-トリフルオロ酢酸系;
流速:1mL/分;
カラム温度:40℃;
検出波長:220nm。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
化合物Iのオキサレートの調製法:
380mgの化合物Iを酢酸イソプロピル6mLに溶解し、シュウ酸の酢酸イソプロピル溶液100mg/2mLを20℃でゆっくりと滴下して加え、室温で2時間撹拌、ろ過して、試験用にサンプリングした。HPLCによる純度は99.51%であった。
【0026】
(実施例2)
化合物Iのp-トルエンスルホン酸塩の調製法:
380mgの化合物Iを酢酸イソプロピル6mLに溶解し、p-トルエンスルホン酸の酢酸イソプロピル溶液360mg/2mLを20℃でゆっくりと滴下して加え、室温で2時間撹拌、ろ過して、試験用にサンプリングした。HPLCによる純度は98.73%であった。
【0027】
(実施例3)
化合物Iのジ-p-トルオイル-L-タートレートの調製法:
380mgの化合物Iを酢酸イソプロピル6mLに溶解し、ジ-p-トルオイル-L-酒石酸の酢酸イソプロピル溶液390mg/2mLを20℃でゆっくりと滴下して加え、室温で2時間攪拌、ろ過して、試験用にサンプリングした。HPLCでの純度は99.32%でした。
【0028】
(実施例4)
(比較結果のまとめ)
化合物Iの塩形成精製効果の比較
【表4】
【0029】
(実施例5)
化合物Iのジ-p-トルオイル-L-タートレート結晶形Aの調製法:
390mgの化合物Iを酢酸イソプロピル1mL、イソプロパノール0.5mL、及び水0.3mLの混合溶液に溶解し、ジ-p-トルオイル-L-酒石酸の酢酸イソプロピル溶液400mg/2mLを50℃でゆっくり滴下して加えた。酢酸イソプロピル溶液を50℃で2時間攪拌した後、酢酸イソプロピル溶液5mLを加えてゆっくりと室温まで下げ、ろ過して、固体740mgを排出した。サンプルのHPLC純度は99.78%であった。
【0030】
HNMRデータ:
1H-NMR(DMSO-d6,400MHz) δ:12.29(1H,s),8.58(1H,s),7.89(4H,d),7.40-7.60(2H,m),7.38(4H,d),6.95-7.06(2H,m),5.81(2H,s),4.35(1H,dd),5.65-5.93(5H,m),3.27(1H,dd),2.50-2.62(1H,m),2.40(6H,S),1.05-1.15(1H,m),0.75-0.88(1H,m),0.64(3H,t)。
【0031】
試験のXRPDの結果は以下の通りである。
【表5】
【0032】
(実施例6)
化合物Iのジ-p-トルオイル-L-タートレート結晶形Aの調製法:
反応フラスコに415mgの化合物I及び430mgのジ-p-トルオイル-L-酒石酸を加え、酢酸イソプロピル8mL、イソプロパノール0.5mL、及び水0.3mLの混合溶液を加え、50℃で2時間撹拌した後、ゆっくりと室温まで冷却し、ろ過して、固体755mgを排出し、サンプルのHPLC純度は99.79%であった。
【0033】
HNMRデータ:
1H-NMR(DMSO-d6,400MHz) δ:12.29(1H,s),8.58(1H,s),7.89(4H,d),7.40-7.60(2H,m),7.38(4H,d),6.95-7.06(2H,m),5.81(2H,s),4.35(1H,dd),5.65-5.93(5H,m),3.27(1H,dd),2.50-2.62(1H,m),2.40(6H,S),1.05-1.15(1H,m),0.75-0.88(1H,m),0.64(3H,t)。
【0034】
試験のXRPDの結果は以下の通りである。
【表6】
本発明の実施態様の一部を以下の項目(1)-(10)に記載する。
(1)式Iの化合物:
【化1】
のオキサレートまたは前記オキサレートの水和物。
(2)結晶形である、上記(1)に記載のオキサレートまたは前記オキサレートの水和物。
(3)式Iの化合物:
【化2】
のp-トルエンスルホネートまたは前記p-トルエンスルホネートの水和物。
(4)結晶形である、上記(3)に記載のp-トルエンスルホネートまたは前記p-トルエンスルホネートの水和物。
(5)式Iの化合物:
【化3】
のジ-p-トルオイル-L-タートレートまたは前記ジ-p-トルオイル-L-タートレートの水和物。
(6)結晶形である、上記(5)に記載のジ-p-トルオイル-L-タートレートまたは前記ジ-p-トルオイル-L-タートレートの水和物。
(7)3.9°±0.2°、7.7°±0.2°、及び15.2°±0.2°の角度(2θ)のピークを含むX線粉末回折パターンによって特徴付けられる、式Iの化合物ジ-p-トルオイル-L-タートレートの結晶形A。
(8)前記X線粉末回折パターンが、7.5°±0.2°、10.4°±0.2°、及び23.4°±0.2°の角度(2θ)のピークをさらに含む、上記(7)に記載の結晶形A。
(9)式Iの化合物及び対応する酸を、水、アルコール、及び/またはエステル溶媒中に入れ、次いで冷却及び/または撹拌して、式Iの化合物の塩を得ることを特徴とする、式Iの化合物の塩を調製する方法。
(10)前記塩形態または前記結晶形が、JAK1阻害剤であるウパダシチニブの合成または製剤に用いられる、上記(1)~(9)のいずれかに記載の化合物。