(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】Piezo2受容体遺伝子発現促進剤、及びPiezo2受容体タンパク質産生促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20240214BHJP
A61K 8/9794 20170101ALI20240214BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240214BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K8/9794
A61Q19/00
A61Q1/02
(21)【出願番号】P 2022177752
(22)【出願日】2022-11-07
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000151966
【氏名又は名称】株式会社桃谷順天館
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】石田 喬裕
(72)【発明者】
【氏名】富永 直樹
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-123130(JP,A)
【文献】国際公開第2022/202714(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/KOSMET(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物を有効成分として含有するPiezo2受容体遺伝子発現促進剤。
【請求項2】
ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物を有効成分として含有するPiezo2受容体タンパク質産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Piezo2受容体遺伝子発現促進剤、Piezo2受容体タンパク質産生促進剤、化粧料、及び化粧料の使用感の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料は、保湿等の機能価値だけでなく、塗布する際の香りや使用感等といった感情価値も重要であるとされている。感情価値は、化粧料の使用時における満足感を高めるとともに、継続使用や高級感の演出等においても欠かせない要素と考えられている。
【0003】
化粧料を皮膚に塗布する際には、手で撫でるような軽い接触圧等が伴う。この接触圧等に起因する皮膚への機械刺激は、皮膚内の各種受容器・受容体に受容され、触覚として認識される。
【0004】
上記触覚機能を担う受容体の一つとして、ヒト表皮に存在するメルケル細胞に発現するPiezo2受容体が知られている。Piezo2受容体は、特に、優しくゆっくりと押される弱機械刺激を受容し、その弱機械刺激はAβ神経線維を介して脳の一次等の体性感覚野に伝達される。このように、Piezo2受容体は、皮膚に加えられた弱機械刺激を脳に伝達する弱機械刺激伝達機能を有する。また、手で撫でられる際に発生する別の弱機械刺激伝達においては、例えば、C神経線維を介した刺激信号も関わっており、その刺激信号は脳の島皮質後部等に伝達される。そして、体性感覚野と島皮質後部との間における双方向の情報処理を通じて、換言すると、お互いに影響し合うことによって、気持ち良い、心地良い等の感情が想起されると考えられている(非文献特許1参照)。
【0005】
このPiezo2受容体が機械刺激を受容することによって発揮される触覚機能は、加齢に伴って鈍化(低下)するため、かかる機能鈍化を改善することが検討されている。
【0006】
例えば、人工的に作製された合成ペプチド(デカペプチド:構成成分はアルギニン、グルタミン酸等)を用いてメルケル細胞のPiezo2受容体等の遺伝子発現量を増加させることにより、老化によって低下するメルケル細胞の機能の向上に寄与し得る可能性を示唆したものがある(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】India Morrison et al.、“The skin as a social organ”、Exp Brain Res(2010)204、p305-314
【文献】伊藤千尋ら、“O-5 感覚受容細胞「メルケル細胞」活性化による皮膚機能の向上”、第39回日本美容皮膚科学会総会・学術大会 Meeting Program Vol.31、No.2、2021年7月、p216
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献2は、Piezo2受容体と、感情価値との関係に着目したものではない。また、非特許文献2で用いられる合成ペプチドは、自然由来のものではない。
【0009】
このため、自然由来でありながら、ヒトの皮膚に塗布した際の触覚機能を高めると共に、化粧料の使用時の満足感(感情価値)を高め得る材料は、これまでに無く、そのような材料が要望されている。
【0010】
また、上記のような材料があれば、生体外(インビトロ:in vitro)において、メルケル細胞のPiezo2受容体を比較的多く産生することが可能となるため、Piezo2受容体を用いた研究開発の促進にも繋がる。
【0011】
一方、ショウガ(根茎)の抽出物は、血行促進作用をはじめ抗菌作用、抗炎症作用を有するとされており、加えて、表皮角化細胞やC神経線維をはじめとする求心性神経に発現するTRPV1受容体を刺激して温感刺激を伝達するとされている。ウンシュウミカンの抽出物は、血流促進作用、抗アレルギー作用を有するとされている。
【0012】
しかし、ショウガの抽出物やウンシュウミカンの抽出物と、これらを塗布した際に脳内で想起される触覚機能や感情価値との関係は、何ら検討されていない。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑み、自然由来でありながら、Piezo2受容体遺伝子の発現を促進し得るPiezo2受容体遺伝子発現促進剤、自然由来でありながら、Piezo2受容体タンパク質の産生を促進し得るPiezo2受容体タンパク質産生促進剤、ヒトの皮膚に塗布した際の感情価値を高め得る化粧料、及び化粧料の使用感の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明に係るPiezo2受容体遺伝子発現促進剤の特徴構成は、
ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物を有効成分として含有することにある。
【0015】
本構成のPiezo2受容体遺伝子発現促進剤によれば、自然由来であるショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物を有効成分として含有することにより、自然由来でありながら、Piezo2受容体遺伝子の発現を促進することができる。これにより、Piezo2受容体遺伝子の発現量が増加するため、その遺伝子が有する遺伝情報に基づいて産生されるPiezo2受容体タンパク質の産生を促進することができる。その結果、例えばPiezo2受容体遺伝子発現促進剤を皮膚に適用する場合、Piezo2受容体タンパク質が本来的に有する弱刺激伝達機能(皮膚での弱い機械刺激を、刺激信号として中枢神経系に伝達する機能)を高めることができる。具体的には例えば、Piezo2受容体遺伝子発現促進剤を化粧料に配合する場合、ヒトの皮膚に塗布した際の触覚機能を高めると共に、感情価値を高めることができる。また、例えばPiezo2受容体遺伝子発現促進剤を生体外(インビトロ:in vitro)においてメルケル細胞に適用する場合、Piezo2受容体タンパク質を比較的多く産生可能となるため、Piezo2受容体を用いた研究開発の促進にも繋がる。
【0016】
本発明に係るPiezo2受容体遺伝子発現促進剤において、
前記抽出物は、水及びエタノールの混合液による抽出物であることが好ましい。
【0017】
本構成のPiezo2受容体遺伝子発現促進剤によれば、上記抽出物が水及びエタノールの混合液による抽出物であることによって、ショウガ及び/又はウンシュウミカンからの有効成分の抽出効率が高められたものとなる。
【0018】
本発明に係るPiezo2受容体遺伝子発現促進剤において、
前記抽出物の濃度が1~500μg/mLとなるように調整してあることが好ましい。
【0019】
本構成のPiezo2受容体遺伝子発現促進剤によれば、抽出物の濃度(含有量)を上記の適切な範囲となるように調整することにより、メルケル細胞に直接接触させることで、細胞毒性を抑えつつ、Piezo2受容体遺伝子の発現をより促進することができる。
【0020】
上記課題を解決するための別の本発明に係るPiezo2受容体タンパク質産生促進剤の特徴構成は、
ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物を有効成分として含有することにある。
【0021】
本構成のPiezo2受容体タンパク質産生促進剤によれば、上述したように、自然由来であるショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物を有効成分として含有することにより、自然由来でありながら、Piezo2受容体遺伝子の発現促進を介してPiezo2受容体タンパク質の産生を促進することができる。この産生促進により、例えばPiezo2受容体タンパク質産生促進剤を皮膚に適用する場合、Piezo2受容体タンパク質が本来的に有する弱刺激伝達機能(皮膚での弱い機械刺激を、刺激信号として中枢神経系に伝達する機能)を高めることができる。具体的には例えば、Piezo2受容体タンパク質産生促進剤を化粧料に配合する場合、ヒトの皮膚に塗布した際の触覚機能を高めると共に、感情価値を高めることができる。また、例えばPiezo2受容体タンパク質産生促進剤を生体外(インビトロ:in vitro)においてメルケル細胞に適用する場合、Piezo2受容体タンパク質を比較的多く産生可能となるため、Piezo2受容体を用いた研究開発の促進にも繋がる。
【0022】
上記課題を解決するための別の本発明に係る化粧料の特徴構成は、
ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物をPiezo2受容体遺伝子の発現を促進するための有効成分として含有することにある。
【0023】
本構成の化粧料によれば、上述したように、自然由来であるショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物をPiezo2受容体遺伝子の発現を促進するための有効成分として含有することにより、Piezo2受容体遺伝子の発現促進を介してPiezo2受容体タンパク質の産生を促進することができる。その結果、Piezo2受容体タンパク質が本来的に有する弱刺激伝達機能(皮膚での弱い機械刺激を、刺激信号として中枢神経系に伝達する機能)を高めることができるため、ヒトの皮膚に塗布した際の触覚機能を高めると共に、感情価値を高めることができる。
【0024】
本発明に係る化粧料において、
前記抽出物の濃度が0.002~6mg/mLとなるように調整してあることが好ましい。
【0025】
本構成の化粧料によれば、抽出物の濃度(含有量)を上記の適切な範囲となるように調整することにより、ヒトの皮膚に塗布した際の感情価値をより高めることができる。
【0026】
上記課題を解決するための別の本発明に係る化粧料の使用感の評価方法の特徴構成は、
上述した化粧料の使用感の評価方法であって、
前記化粧料を手の甲に塗布した後、前記化粧料の使用感を、前記化粧料を塗布した際に想起された感情を示す複数の言葉を選択することによって評価することにある。
【0027】
本構成の化粧料の使用感の評価方法によれば、化粧料を手の甲に塗布した後、化粧料の使用感を、化粧料を塗布した際に想起された感情を示す複数の言葉を選択することによって評価することにより、ヒトの皮膚に塗布した際の使用感に基づいて、感情価値を適切に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、試験例1におけるPiezo2受容体遺伝子の発現結果を示すグラフであり、
図1(a)は、ショウガ及びウンシュウミカンの抽出物を含有するエキス剤をコントロールと比較した結果であり、
図1(b)は、ローズマリー、セージ、ボタンピ、タイム、及びペパーミントの抽出物を含有するエキス剤をコントロールと比較した結果である。
【
図2】
図2は、試験例2におけるPiezo2受容体タンパク質の産生結果を示すグラフであり、
図2(a)は、緑色蛍光強度について、ショウガ及びウンシュウミカンの抽出物を含有するエキス剤をコントロールと比較した結果であり、
図2(b)は、Piezo2陽性面積率について、ショウガ及びウンシュウミカンの抽出物を含有するエキス剤をコントロールと比較した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明者らは、後述する実施例欄に挙げる植物抽出物以外にも種々の多数の植物抽出物を用い、メルケル細胞に含まれるPiezo2受容体遺伝子の発現を促進するうえで有効な植物抽出物のスクリーニングを行った。その結果、ショウガの抽出物、ウンシュウミカンの抽出物がPiezo2受容体遺伝子の発現促進に有効であることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0030】
本発明のPiezo2受容体遺伝子発現促進剤、Piezo2受容体タンパク質産生促進剤、化粧料、及び化粧料の使用感の評価方法の実施形態について、以下に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態に記載される構成に限定されることを意図しない。なお、本明細書において数値範囲を示す表記「~」がある場合、その数値範囲には、「~」を挟む各数値が上限値及び下限値として含まれることを意味し、また、各上限値及び各下限値を適宜組み合わせて数値範囲としてもよい。
【0031】
[Piezo2受容体遺伝子発現促進剤]
Piezo2受容体遺伝子発現促進剤は、ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物を有効成分として含有する。Piezo2受容体遺伝子発現促進剤は、ヒトの皮膚のメルケル細胞に含まれるPiezo2受容体遺伝子の発現を促進することができる。Piezo2受容体遺伝子発現促進剤は、液状のエキス剤であることが好ましい。
【0032】
<Piezo2受容体>
Piezo2受容体は、ヒトの皮膚の表皮に存在するメルケル細胞の細胞膜に存在する受容体である。上述したように、化粧料を皮膚に塗布する際に、手で撫でるような軽い接触圧等が伴い、この接触圧等に起因する皮膚への弱い機械刺激(弱機械刺激)を、メルケル細胞のPiezo2受容体が受容する。Piezo2受容体は、上記弱機械刺激を受容すると、その刺激をAβ神経線維に伝達する。上記刺激は、さらに中枢神経系を介して脳に伝達され、手で撫でるような軽い接触圧等に関する触覚が認識される。Piezo2受容体は、Piezo2受容体タンパク質を、その機能面に着目して称したものである。
【0033】
<Piezo2受容体遺伝子>
Piezo2受容体遺伝子は、メルケル細胞に含まれている核酸である。Piezo2受容体遺伝子は、Piezo2受容体タンパク質を産生するための遺伝情報を有しており、Piezo2受容体遺伝子が有する上記遺伝情報に基づいて、メルケル細胞は、Piezo2受容体タンパク質を産生させる。
【0034】
<ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物>
ショウガは、ショウガ科ショウガ属の多年草である。ショウガの抽出物としては、ショウガの根茎の抽出物を用いる。ショウガの抽出物は、Zingiber officinale Roscoe(Zingiberaceae)の根茎を細切した後に、粗末にして、任意の濃度でエタノールを含有するエタノール及び水の混合液に浸漬して数日間、室温にて抽出し、次いでろ過し、その後、減圧濃縮又は凍結乾固することによって得ることができる。また、得られた抽出物は、水やエタノール等の有機溶媒を使用して一定の濃度に調整(希釈)することができる。例えば、ショウガの抽出物の含有量が20mg/mLである液(濃度が調整されてなる濃度調整液)を作製することができる。
【0035】
ウンシュウミカンは、ミカン科ミカン属の常緑低木である。ウンシュウミカンの抽出物としては、ウンシュウミカンの果実及び/又は果皮の抽出物を用いる。ウンシュウミカンの抽出物は、Citrus unshiu(Swingle) Marcow(Rutaceae)の成熟した果皮を風乾し、細かく粉砕した後に、任意の濃度のエタノールを含有するエタノール及び水の混合液に浸漬して数日間、室温にて抽出し、次いでろ過し、その後、減圧濃縮又は凍結乾固することによって得ることができる。また、得られた抽出物は、水やエタノール等の有機溶媒を使用して一定の濃度に調整することができる。例えば、ウンシュウミカンの抽出物の濃度(含有量)が60mg/mLである濃度調整液を作製することができる。
【0036】
ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物は、通常、水や有機溶媒による抽出物であるが、とりわけ、水及びエタノールの混合液による抽出物であることが好ましい。上記抽出物が、水及びエタノールの混合液による抽出物であることによって、ショウガ及び/又はウンシュウミカンからの有効成分の抽出効率が高められたものとなる。また、水及びエタノールの混合液におけるエタノールの濃度を適切に設定することにより、上記有効成分の抽出効率がより高められたものとなる。
【0037】
Piezo2受容体遺伝子発現促進剤には、ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物の他、これらを溶解、又は希釈するための水や有機溶媒を配合することができる。有機溶媒としては、上述したように、ヒトの皮膚や細胞に対する刺激を低減することができる点で、エタノール等の低級アルコールが好ましい。
【0038】
<ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物の含有量>
Piezo2受容体遺伝子発現促進剤は、例えば上記濃度調整液をさらに適切な溶媒に溶解又は分散させて、ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物の濃度が1~500μg/mLとなるように調整してあることが好ましく、1~200μg/mLとなるように調整してあることがより好ましく、10~120μg/mLとなるように調整してあることがさらに好ましい。ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物の濃度(含有量)を上記の適切な範囲となるように調整することにより、メルケル細胞に直接接触させることで、細胞毒性を抑えつつ、Piezo2受容体遺伝子の発現をより促進することができる。なお、上記抽出物を溶解又は分散させる溶媒としては、水、エタノール等が挙げられ、抽出に使用した溶媒や、希釈(濃度の調整)に使用した溶媒をそのまま使用してもよい。また、上記抽出物の濃度は、有効成分としての濃度である。
【0039】
<Piezo2受容体遺伝子発現促進剤の利点>
Piezo2受容体遺伝子発現促進剤は、自然由来であるショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物を有効成分として含有することにより、自然由来でありながら、Piezo2受容体遺伝子の発現を促進することができる。これにより、Piezo2受容体遺伝子の発現量が増加するため、その遺伝子が有する遺伝情報に基づいて産生されるPiezo2受容体タンパク質の産生を促進することができる。その結果、例えばPiezo2受容体遺伝子発現促進剤を皮膚に適用する場合、Piezo2受容体タンパク質が本来的に有する弱刺激伝達機能(皮膚での弱い機械刺激を、刺激信号として中枢神経系に伝達する機能)を高めることができる。具体的には例えば、Piezo2受容体遺伝子発現促進剤を化粧料に配合する場合、ヒトの皮膚に塗布した際の触覚機能を高めると共に、感情価値を高めることができる。また、例えばPiezo2受容体遺伝子発現促進剤を生体外(インビトロ:in vitro)においてメルケル細胞に適用する場合、Piezo2受容体タンパク質を比較的多く産生可能となるため、Piezo2受容体を用いた研究開発の促進にも繋がる。
【0040】
このように、Piezo2受容体遺伝子発現促進剤は、生体外(インビトロ:in vitro)においてメルケル細胞に接触させることによってPiezo2受容体遺伝子の発現を促進する方法(発現促進方法)に用いることもできる。
【0041】
[Piezo2受容体タンパク質産生促進剤]
Piezo2受容体タンパク質産生促進剤は、ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物を有効成分として含有する。Piezo2受容体タンパク質産生促進剤は、ヒトの皮膚のメルケル細胞に含まれるPiezo2受容体タンパク質の産生を促進することができる。Piezo2受容体タンパク質産生促進剤は、液状のエキス剤であることが好ましい。
【0042】
Piezo2受容体タンパク質産生促進剤は、ヒトの皮膚のメルケル細胞においてPiezo2受容体遺伝子の発現の促進を介してPiezo2受容体タンパク質の産生を促進することができる。この点において、Piezo2受容体タンパク質産生促進剤は、上述したPiezo2受容体遺伝子発現促進剤を、Piezo2受容体タンパク質産生促進剤に適用したものといえる。Piezo2受容体タンパク質産生促進剤の構成は、上述したPiezo2受容体遺伝子発現促進剤の構成と同様であるため、詳細な説明については省略する。
【0043】
Piezo2受容体タンパク質産生促進剤は、上述したように、自然由来であるショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物を有効成分として含有することにより、自然由来でありながら、Piezo2受容体遺伝子の発現促進を介してPiezo2受容体タンパク質の産生を促進することができる。この産生促進により、例えばPiezo2受容体タンパク質産生促進剤を皮膚に適用する場合、Piezo2受容体タンパク質が本来的に有する弱刺激伝達機能(皮膚での弱い機械刺激を、刺激信号として中枢神経系に伝達する機能)を高めることができる。具体的には例えば、Piezo2受容体タンパク質産生促進剤を化粧料に配合する場合、ヒトの皮膚に塗布した際の触覚機能を高めると共に、感情価値を高めることができる。また、例えばPiezo2受容体タンパク質産生促進剤を生体外(インビトロ:in vitro)においてメルケル細胞に適用する場合、Piezo2受容体タンパク質を比較的多く産生可能となるため、Piezo2受容体を用いた研究開発の促進にも繋がる。
【0044】
このように、Piezo2受容体タンパク質産生促進剤は、生体外(インビトロ:in vitro)においてメルケル細胞に接触させることによってPiezo2受容体タンパク質の産生を促進する方法(産生促進方法)に用いることもできる。
【0045】
[化粧料]
本実施形態の化粧料は、上述したショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物をPiezo2受容体遺伝子の発現を促進するための有効成分として含有する。より具体的には、当該化粧料は、上述したショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物をPiezo2受容体遺伝子の発現促進を介してPiezo2受容体タンパク質の産生を促進するための有効成分として含有する。
【0046】
この化粧料には、例えば上述したPiezo2受容体遺伝子発現促進剤又は上述したPiezo2受容体タンパク質産生促進剤を配合することによって、ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物を配合してもよい。この他、化粧料には、ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物を含有することによる効果(感情価値の向上等)を妨げない範囲において、従来公知の化粧料に配合させる成分(保湿剤、可溶化剤、乳化剤、油分、薬剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等)を適宜配合することができる。
【0047】
化粧料におけるショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物の濃度は、0.002~6mg/mLであることが好ましく、0.02~3mg/mLがより好ましく、0.1~1.2mg/mLがさらに好ましい。ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物の濃度(含有量)を上記の適切な範囲に設定することにより、ヒトの皮膚に塗布した際の感情価値をより高めることができる。例えば、化粧料中に上記濃度調整液(抽出物の濃度20~60mg/mL)を0.01~10質量%配合することにより、化粧料における抽出物の濃度を0.002~6mg/mLに設定することができる。化粧料中に上記濃度調整液(抽出物の濃度20~60mg/mL)を0.1~5質量%配合することにより、化粧料における抽出物の濃度を0.02~3mg/mLに設定することができる。化粧料中に上記濃度調整液(抽出物の濃度20~60mg/mL)を0.5~2質量%配合することにより、化粧料における抽出物の濃度を0.1~1.2mg/mLに設定することができる。
【0048】
化粧料は、ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物と、その他の添加剤とを従来公知の方法を用いて攪拌混合することによって得られる。
【0049】
当該化粧料は、上述したように、自然由来であるショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物を有効成分として含有することにより、Piezo2受容体遺伝子の発現促進を介してPiezo2受容体タンパク質の産生を促進することができる。その結果、Piezo2受容体タンパク質が本来的に有する弱刺激伝達機能(皮膚での弱い機械刺激を、刺激信号として中枢神経系に伝達する機能)を高めることができるため、ヒトの皮膚に塗布した際の触覚機能を高め、そして、感情価値をも高めることができる。
【0050】
[化粧料の使用感の評価方法]
【0051】
本実施形態の化粧料の使用感の評価方法は、上述した化粧料の使用感の評価方法であって、化粧料を手の甲に塗布した後、化粧料の使用感を、化粧料を塗布した際に想起された感情を示す複数の言葉を選択することによって評価する方法である。
【0052】
「使用感」とは、ヒトの皮膚に化粧料を塗布した際、皮膚との接触によってメルケル細胞のPiezo2受容体や他の受容体・受容器に受容されて発生した刺激信号が、上述したように中枢神経系を介して脳に伝達されることによって、脳において想起される感情である。
【0053】
化粧料の使用感の評価方法は、具体的には、例えば化粧料を塗布した際に想起された感情を示す複数の言葉を、ランダムに列挙しておく。列挙する言葉の数は、多くなるほど評価の精度は高まるが、被験者の負担を考慮すると30~60個程度が適切である。被験者の手の甲の皮膚に化粧料を1日1回、1週間連用して塗布した後、塗布によって想起された感情を、複数選択(回答)が可能であるとの条件下において、上記複数の言葉から選択させる。そして、選択された言葉を集計する。この評価方法によれば、ヒトの皮膚に塗布した際の使用感に基づいて、感情価値を適切に評価することができる。化粧料を塗布した際に想起された感情を示す複数の言葉としては、化粧品業界において慣用的に使用されている言葉を採用することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を示しつつ本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0055】
[ショウガの抽出物を含有するエキス剤Aの調製]
ショウガとしてのZingiber officinale Roscoe(Zingiberaceae)の根茎を細切した後に、粗末にして、水及びエタノールの混合液に浸漬して数日間、室温にて抽出し、次いでろ過し、その後、減圧濃縮又は凍結乾固することによって、ショウガの抽出物を得た。得られた抽出物を、上記混合液で希釈(濃度を調整)して、エキス剤Aを得た。エキス剤Aにおけるショウガの抽出物の含有量は、20mg/mLであった。
【0056】
[ウンシュウミカンの抽出物を含有するエキス剤Bの調製]
ウンシュウミカンとしてのCitrus unshiu(Swingle) Marcow(Rutaceae)の成熟した果皮を風乾し、細かく粉砕した後に、水及びエタノールの混合液に浸漬して数日間、室温にて抽出し、次いでろ過し、その後、減圧濃縮又は凍結乾固することによって、ウンシュウミカンの抽出物を得た。得られた抽出物を、上記混合液で希釈(濃度を調整)して、エキス剤Bを得た。エキス剤Bにおけるウンシュウミカンの抽出物の含有量は、60mg/mLであった。
【0057】
[試験例1]
8種のエキス剤(エキス剤A、B、1~5、及びコントロール)を用い、各エキス剤によるPiezo2受容体遺伝子の発現を、下記の試験方法によって評価した。エキス剤1~5に関しては、水と1価又は多価のアルコールとの混合液を用いて抽出物を得た後、抽出で使用した上記混合液で希釈(濃度を調整)してエキス剤1~5を得た。
【0058】
(使用したエキス剤)
・エキス剤A(ショウガの抽出物を含有するエキス剤)
・エキス剤B(ウンシュウミカンの抽出物を含有するエキス剤)
・エキス剤1(ローズマリーの抽出物を含有するエキス剤)
・エキス剤2(セージの抽出物を含有するエキス剤)
・エキス剤3(ボタンピの抽出物を含有するエキス剤)
・エキス剤4(タイムの抽出物を含有するエキス剤)
・エキス剤5(ペパーミントの抽出物を含有するエキス剤)
・コントロール(エキス剤A又はBの溶媒である水及びエタノールの混合液のみ)
【0059】
(試験方法)
ヒトメルケル細胞癌(MCC14/2)のPiezo2受容体遺伝子の発現を確認・評価するため、RT-qPCR(半定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)法を活用して検討した。検討は、以下に説明する(1)~(4)の操作手順で行った。
(1)増殖培地(RPMI-1640培地に2mM L-Glutamine、25mM HEPES、15%FBSを添加したもの)で懸濁した一定数のMCC14/2細胞調製液を12ウェル(well)培養プレートに播種した。
(2)24時間後、基礎培地(RPMI-1640培地に2mM L-Glutamine、25mM HEPES、0.5%FBSを添加したもの)に置換した。
(3)さらに24時間後、各エキス剤を基礎培地に加えて表1に示す濃度に調整した後、MCC14/2細胞調製液に添加した。
(4)各エキス剤の添加から24時間後に遺伝子を回収し、RT-qPCRによってPiezo2受容体遺伝子の発現量を測定した。発現量の補正は、ハウスキーピング遺伝子GAPDHを使用した。結果を表1及び
図1に示す。
【0060】
【0061】
表1及び
図1に示すように、MCC14/2細胞におけるPiezo2受容体遺伝子の発現について、ショウガの抽出物を含有するエキス剤A、及びウンシュウミカンの抽出物を含有するエキス剤Bは、ローズマリーの抽出物を含有するエキス剤1、セージの抽出物を含有するエキス剤2、ボタンピの抽出物を含有するエキス剤3、タイムの抽出物を含有するエキス剤4、及びペパーミントの抽出物を含有するエキス剤5と比較して、有意な増加が認められた。このように、ショウガの抽出物を含有するエキス剤A、及びウンシュウミカンの抽出物を含有するエキス剤Bは、Piezo2受容体遺伝子の発現を促進し得ることが示された。
【0062】
[試験例2]
試験例1で使用したエキス剤A、B、及びコントロールを用い、各エキス剤によるPiezo2受容体タンパク質の産生を評価した。
【0063】
(試験方法)
MCC14/2細胞におけるPiezo2受容体のタンパク質の産生量を確認・評価するため、Piezo2受容体に対する一次抗体と蛍光標識二次抗体とを使用し、以下に説明する(1)~(8)の操作手順による試験を行った。
(1)試験例1と同様の増殖培地を用い、この増殖培地で懸濁した一定数のMCC14/2細胞調製液を2ウェル(well)チャンバースライドに播種した。
(2)24時間後、試験例1と同様の基礎培地に置換した。
(3)さらに24時間後、各エキス剤を基礎培地に加えて一定濃度に調整した後、MCC14/2細胞調製液に添加した。
(4)各エキス剤の添加から30時間経過後に培養液を除去し、氷冷した無水メタノールで細胞を固定した。
(5)その後、スキムミルクで調製したブロッキングバッファー液で細胞を60分間ブロッキングし、続いてブロッキングバッファー液で調製したPiezo2抗体液(一次抗体)を添加し、一晩、4℃で処理(放置)した。
(6)翌日、ブロッキングバッファー液を除去した後、同じくブロッキングバッファー液で調製した二次抗体液(緑色蛍光標識抗体)を2時間、室温で処理(放置)し、細胞を緑色に蛍光染色した。これにより、Piezo2受容体タンパク質が緑色に蛍光染色された。
(7)反応終了後、さらにナイルレッド(赤色蛍光)及びDAPI(青色蛍光)の各液で細胞膜及び細胞核を蛍光染色した(上記(6)と合わせて計3色の蛍光染色)。
(8)蛍光顕微鏡を使用して、上記(6)において緑色に蛍光染色した際の緑色(GFP)蛍光強度(輝度)を測定した。また、上記(7)において、上記(6)の緑色蛍光染色に加えて赤色蛍光染色及び青色蛍光染色の3色をオーバーレイした際に確認することができる黄色蛍光の面積(Piezo2受容体タンパク質の産生を示す)、及び細胞膜を示す赤色蛍光の面積を測定した。Piezo2受容体タンパク質の産生量に関しては、「緑色蛍光強度(輝度)」と、黄色面積を赤色面積で調整すること(黄色面積/赤色面積)によって算出した「Piezo2陽性面積率(黄色陽性面積率)」とで評価した。評価結果を表2及び3、並びに
図2に示す。
【0064】
【0065】
【0066】
MCC14/2細胞におけるPiezo2受容体タンパク質の産生について、ショウガの抽出物を含有するエキス剤A、及びウンシュウミカンの抽出物を含有するエキス剤Bは、コントロールと比較して、緑色蛍光強度、及び黄色陽性面積率ともに有意な増加が認められ、その産生量の増加が確認された。このように、ショウガの抽出物を含有するエキス剤A、及びウンシュウミカンの抽出物を含有するエキス剤Bは、Piezo2受容体タンパク質の産生を促進し得ることが示された。
【0067】
[試験例3]
試験例1で使用したエキス剤A、B、及び2~3を用い、表4に示す処方に従って、化粧料として、実施例1~2、比較例1~3の化粧水を調製した。各エキス剤を含有する化粧水を塗布した際にヒトの感情に及ぼす影響を、以下に説明する試験方法によって評価した。
【0068】
【0069】
(試験方法)
実施例1~2、比較例1~3の化粧水を用い、各化粧水を被験者の皮膚に、1日1回、1週間連続して塗布した後、被験者に、化粧水を塗布した際に想起された感情をランダムに列挙した47個の言葉から、複数回答可能であるとの条件下で選択してもらった。これを、7名(男性:5名、女性:2名)の被験者について評価した。評価結果を表5に示す。
【0070】
(ランダムに列挙した言葉)
楽しい、やる気、安心、豊か、潤った、繊細、喜び、幸せ、悲しい、爽やか、生き生き、輝いている、新しい、落ち着く、陽気、愉快、好き、安らか、気持ち良い、優しい、嬉しい、高級感、鮮やか、怖い、楽しみ、心地良い、嫌い、のどか、気持ち悪い、暖かい、上品、弾んだ、平和、びっくり、面白い、イライラ、調和、上質、穏やか、気楽、くつろいだ、素晴らしい、ぬくもり、なごやか、親しい、新鮮、ニュートラルな感じ
【0071】
【0072】
ショウガの抽出物を含有するエキス剤Aを配合した実施例1の化粧水、及びウンシュウミカンの抽出物を含有するエキス剤Bを配合した実施例2の化粧水は、エキス剤を配合していない(未配合の)比較例1、並びにセージの抽出物を含有するエキス剤2を配合した比較例2の化粧水、及びボタンピの抽出物を含有するエキス剤3を配合した比較例3の化粧水と比較して、「気持ち良い」、「心地良い」の両方が上位に選択されることが示された。このように、ショウガの抽出物を含有するエキス剤Aを配合した実施例1の化粧水、及びウンシュウミカンの抽出物を含有するエキス剤Bを配合した実施例2の化粧水は、気持ち良い、心地良いといった感情価値に優れることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のPiezo2受容体遺伝子発現促進剤及びPiezo2受容体タンパク質産生促進剤は、化粧料に配合して感情価値を高めることができ、また、研究開発の促進に寄与し得る。本発明の化粧料は、感情価値を高めることができ、これにより、化粧料を使用する際の満足感を高めることができるため、種々の用途の化粧料に好適に利用することができる。また、本発明の化粧料の使用感の評価方法は、化粧料の研究開発、製造現場や販売現場等において好適に利用することができる。
【要約】
【課題】自然由来でありながら、Piezo2受容体遺伝子の発現を促進し得るPiezo2受容体遺伝子発現促進剤を提供する。
【解決手段】ショウガ及び/又はウンシュウミカンの抽出物を有効成分として含有するPiezo2受容体遺伝子発現促進剤であり、前記抽出物は、水及びエタノールの混合液による抽出物であり、前記抽出物の濃度が1~500μg/mLとなるように調整してある。
【選択図】なし