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▶ 株式会社シミズの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】非シアン真鍮めっき浴およびめっき方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/58 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
C25D3/58
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022188745
(22)【出願日】2022-11-25
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】390035219
【氏名又は名称】株式会社シミズ
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】河本 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小倉 亮太
(72)【発明者】
【氏名】告船 真一
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-206494(JP,A)
【文献】特開2015-134960(JP,A)
【文献】特表2011-528406(JP,A)
【文献】特表2016-540893(JP,A)
【文献】特表2013-534963(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02730682(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価の銅塩、二価の亜鉛塩、ヒドロキシ酸塩、ヒダントイン類化合物および電導塩を含み、さらにスズ塩、マンガン塩、コバルト塩、またはニッケル塩のいずれかを含むことを特徴とする非シアン銅-亜鉛合金電気めっき浴。
【請求項2】
前記ヒドロキシ酸塩が、炭素数2または4のヒドロキシ酸塩であり、前記ヒダントイン類化合物が、ヒダントイン、アルキルヒダントインまたはフェニルヒダントインであることを特徴とする請求項1に記載の非シアン銅-亜鉛合金電気めっき浴。
【請求項3】
二価の銅塩、二価の亜鉛塩、ヒドロキシ酸塩、ヒダントイン類化合物および電導塩を含み、さらにスズ塩、マンガン塩、コバルト塩、またはニッケル塩のいずれかを含む非シアン銅-亜鉛合金電気めっき浴を用いて、被めっき物に銅-亜鉛合金めっきすることを特徴とするめっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非シアン真鍮めっき浴およびめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シアン化物は、錯化剤として優れていることからめっきにおいて多用されてきたが、生物に有害であり、水質汚染、大気汚染、作業者の健康等に厳重な管理が必要であるため、シアン化物を含有しない弱酸性領域からアルカリ性領域でのめっき液が求められている。
【0003】
非シアン真鍮めっき浴としては、銅と、亜鉛と、金属ポリリン酸とオルトリン酸塩と、を含み、シアン化物を含まない非シアン化物真鍮めっき浴混合物(特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平09-217193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の発明は、銅箔の上に真鍮バリア層を付着させる方法であり、装飾用途として使用するには、光沢、均一性、付き回り性等が不足している。
【0006】
また、一般的に、非シアン真鍮めっき浴を用いてめっきすると、どうしても銅に由来する着色(赤味)が避けられないという問題もある。特に、ボタン、ファスナー、ホック、その他の小物部品でのバレルめっきを行うと、低電流密度部分においては赤っぽいめっきが混ざり、均一性、付き回り性不足が顕著に現れるので、装飾用途のめっき浴には使用できない。
【0007】
本発明者らは、銅に由来する着色(赤味)を抑え、安定した皮膜の均一性、付き回り性が得られる非シアン真鍮めっき浴について、鋭意研究の結果、錯化剤として、ヒドロキシ酸塩とヒダントイン類化合物とを併用すると、前記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、二価の銅塩、二価の亜鉛塩、ヒドロキシ酸塩、ヒダントイン類化合物および電導塩を含み、さらにスズ塩、マンガン塩、コバルト塩、またはニッケル塩のいずれかを含むことを特徴とする非シアン銅-亜鉛合金電気めっき浴である。
【0009】
また、本発明は、前記ヒドロキシ酸塩が炭素数2または4のヒドロキシ酸であり、前記ヒダントイン類化合物が、ヒダントイン、アルキルヒダントインまたはフェニルヒダントインであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、二価の銅塩、二価の亜鉛塩、ヒドロキシ酸塩、ヒダントイン類化合物および電導塩を含み、さらにスズ塩、マンガン塩、コバルト塩、またはニッケル塩のいずれかを含む非シアン銅-亜鉛合金電気めっき浴を用いて、被めっき物に銅-亜鉛合金めっきすることを特徴とするめっき方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ヒドロキシ酸塩およびヒダントイン類化合物に加え、スズ塩、マンガン塩、コバルト塩またはニッケル塩の比率を調整する事によりバレルめっきにおいても安定した均一性、付き回り性が得られる非シアン真鍮めっき浴を提供することができる。
【0012】
さらに、本発明の非シアン真鍮めっき浴は、ラック方式だけでなくバレルめっきにおいても安定した均一性、付き回り性が得られるので、装飾用めっき物を製造する際にも好適にめっきを施すことができる。
【0013】
また、本発明の非シアン真鍮めっき浴は、安定した均一性、付き回り性が得られるので、浴温が40℃程度と低い温度でめっきを施すことができ、めっき皮膜外観の向上だけでなく、作業性の向上という効果も得ることができる。
【0014】
また、めっき浴に電導塩を加えることにより、更に均一性、付き回り性が得られ、電流密度範囲を広げる事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、二価の亜鉛塩、二価の銅塩、ヒドロキシ酸塩、ヒダントイン類化合物、電導塩およびスズ塩、マンガン塩、コバルト塩またはニッケル塩のいずれかを含むことを特徴とする非シアン真鍮電気めっき浴である。
【0016】
本発明において、ヒドロキシ酸塩、ヒダントイン類化合物は、いずれも錯化剤として用いられる。
【0017】
ヒドロキシ酸塩としては、炭素数2または4のヒドロキシ酸塩があげられ、具体的には
たとえばグルコン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩などがあげられ、なかでも酒石酸塩、クエン酸塩が好ましい。
【0018】
ヒドロキシ酸の塩としては、ヒドロキシ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩があげられ、たとえばカリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩などがあげられる。ヒドロキシ酸塩は、前記のものを、単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合することもできる。
【0019】
ヒドロキシ酸塩は、めっき浴において、50~400g/L含まれることが好ましく、とりわけ100~300g/L含まれることが好ましい。
【0020】
ヒダントイン類化合物としては、ヒダントイン、1-メチルヒダントイン、5-エチルヒダントインまたは5,5-ジメチルヒダントインなどのアルキルヒダントイン、5-フェニルヒダントインなどがあげられ、ヒダントイン、アルキルヒダントインが好ましく、とりわけヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントインが好ましい。ヒダントイン類化合物は、前記のものを、単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合することもできる。
【0021】
ヒダントイン類化合物は、めっき浴において、10~150g/L含まれることが好ましく、なかでも10~150g/L含まれることがより好ましい。
【0022】
本発明のめっき浴においては、ヒドロキシ酸塩とヒダントイン類化合物とは、その重量比率としてヒドロキシ酸塩1重量部に対して、ヒダントイン類化合物が0.15~0.6重量部となるよう用いることが好ましい。
【0023】
二価の銅塩としては、二価の銅と無機酸もしくは有機酸との塩があげられ、たとえば硫酸第一銅、ピロリン酸第一銅、シュウ酸第一銅、酸化第一銅、塩化第一銅等があげられる。本発明のめっき浴においては、二価の銅の酸化物、塩化物等であっても用いることができる。二価の銅塩は、前記のものを、単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合することもできる。
【0024】
二価の銅塩は、めっき浴において、1~30g/L含まれることが好ましく、なかでも3~15g/L含まれることがより好ましい。
【0025】
二価の亜鉛塩としては二価の亜鉛と無機酸もしくは有機酸との塩があげられ、たとえば
硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、塩化亜鉛等があげられる。本発明のめっき浴においては、二価の亜鉛の酸化物、塩化物等であっても用いることができる。二価の亜鉛塩は、前記のものを、単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合することもできる。
【0026】
二価の亜鉛塩は、めっき浴において、1~30g/L含まれることが好ましく、なかでも1.5~7.0g/L含まれることがより好ましい。
【0027】
真鍮色のめっき皮膜を得るためには、めっき浴中において金属銅と金属亜鉛の重量比率が重要であり、金属銅1重量部に対して金属亜鉛が0.3~0.9重量部の範囲内にあるように、二価の亜鉛塩と二価の銅塩を用いることが好ましい。
【0028】
本発明においては、めっき浴に、スズ塩、マンガン塩、コバルト塩、ニッケル塩のいずれかを添加することにより、めっき金属が三元合金となり光沢性が上昇する。かかる金属塩としてはスズ、マンガン、コバルト、ニッケルと、アルカリ金属、アルカリ土類金属、無機酸または有機酸との塩があげられ、具体的には、たとえばスズ酸ナトリウム、硫酸マンガン、硫酸コバルト、硫酸ニッケルがあげられる。
【0029】
前記金属塩は、めっき浴に0.1~2g/L含まれることが好ましい。
【0030】
本発明のめっき浴においては、さらに電導塩を加えることにより、めっき皮膜の均一性、付き回り性が向上し、電流密度範囲も広がるので、より好ましい結果を得ることができる。
【0031】
電導塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはアンモニアの塩化物が好ましく、具体的には、たとえば塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウムまたは塩化アンモニウムがあげられる。二価の銅塩は、前記のものを、単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合することもできる。
【0032】
電導塩は、めっき浴中に5~50g/L含まれることが好ましい。
【0033】
本発明の非シアン真鍮めっき浴は、前記の二価の銅塩、二価の亜鉛塩、ヒドロキシ酸塩、ヒダントイン類化合物、電導塩およびスズ塩、マンガン塩、コバルト塩、またはニッケル塩のいずれかを、水に溶解することにより製造することができる。
【0034】
本発明は、二価の銅塩、二価の亜鉛塩、ヒドロキシ酸塩、ヒダントイン類化合物、電導塩およびスズ塩、マンガン塩、コバルト塩、またはニッケル塩のいずれかを含む非シアン真鍮電気めっき浴を用いて、被めっき物に真鍮めっきするめっき方法である。
【0035】
めっきは、電気めっきの常法により実施すればよく、たとえば被めっき物を、脱脂、洗浄、酸浸漬、電解脱脂、酸活性などの前処理ののち、ラック方式やバレル方式などの方法によりめっきすることができる。たとえば、浴温30~50℃で、ラック方式によるときは電流0.2~2.0A/dm、めっき時間0.5~3分間、バレル方式によるときは、電流5~10A/kg、めっき時間5~15分間、回転数4~15回転/分の条件でめっきすることにより、実施することができる。
【0036】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により限定されるものではない。
【0037】
実施例1
酒石酸ナトリウムカリウム150.0g/L、ヒダントイン30.0g/L、硫酸銅(II)・5水和物5.0g/L、硫酸亜鉛(II)・7水和物3.0g/L、塩化ナトリウム20.0g/L、スズ酸ナトリウム(IV)・3水和物0.5g/Lを用いてめっき浴10Lを建浴した。
【0038】
銅めっき済みの亜鉛ダイカスト250個(3.2g/個)をアクチベーターCu(商品名:株式会社シミズ製)50.0g/Lを用いてアルカリ電解脱脂し、水洗、酸洗浄、水洗の前処理を行った後、ミニバレル(コンドウ製ミニバレル)中で、以下の条件によりめっきを行った。
【0039】
めっき条件
陽極=カーボン板(100cm×100cm×1cm) 2枚
電流値=7A/Kg、通電時間=10分、浴温=40℃
バレル回転数=毎分6回転
めっき厚=約0.4m
めっき後、速やかにバレルから被めっき物を取り出し、水洗し、遠心乾燥機にて乾燥した。
【0040】
評価方法
色味:
色差計(CM-3500d、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、被めっき物平面部分のL値、a値、b値SCI(正反射光込み)を測定(n=10)し、その平均値を、シアン系真鍮めっき物とのΔEとして算出した。数値が低いほどシアン系真鍮色に近い色味であることを示す。
なお、シアン系真鍮めっき物は、以下のめっき条件で、「真鍮ソルト」(商品名、日本化学産業株式会社製)により銅めっき済みの亜鉛ダイカスト250個(3.2g/個)をめっきしたものを用いた。
めっき条件
陽極=真鍮板(100cm×100cm×0.5mm) 2枚
電流値=5A/Kg、通電時間=10分、浴温=40℃
バレル回転数=毎分6回転
【0041】
付き回り均一性:
色差計で測定(n=100)し、被めっき物全部のサンプルのL値、a値、b値の平均から個々のL値、a値、b値を用いて平均値からのΔEを算出した。算出したn=100のΔEを用いて標準偏差を計算して、付き回り、均一性を評価した。標準偏差の数値が低い程、付き回り、均一性の良い仕上がりであることを示す。
◎:標準偏差が0.3以下
○:標準偏差が0.3超過~0.7未満
△:標準偏差が0.7以上
【0042】
光沢性:
同様に色差計で測定(n=10)してL値の平均値で評価した。L値平均値の数値が高い程、光沢性の良い仕上がりであることを示す。
◎:L値平均値が83.5以上
○:L値平均値が83.5未満~82.4超過
△:L値平均値が82.4以下
【0043】
実施例2~9
表1および2に示すめっき浴を用いる他は、実施例1と同様にしてめっきを行った。
なお、実施例2~9においては、二価の銅塩として硫酸銅(II)・5水和物5.0g/L、二価の亜鉛塩として硫酸亜鉛(II)・7水和物3.0g/L、電導塩として塩化ナトリウム20.0g/Lをそれぞれめっき浴に配合した。
【0044】
比較例1および2
表3に示すめっきを用いる他は、実施例1と同様にしてめっきを行った。
なお、比較例1および2においても、二価の銅塩として硫酸銅(II)・5水和物5.0g/L、二価の亜鉛塩として硫酸亜鉛(II)・7水和物3.0g/L、電導塩として塩化ナトリウム20.0g/Lをそれぞれめっき浴に配合した。
結果は、表1~4に示すとおりである。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
結果および考察
表1~4からわかるように、ヒドロキシ酸、ヒダントイン類化合物および光択剤を配合しためっき浴では、シアン真鍮色基準のΔE値は低く、付き回り・均一性も対比に用いたシアン系真鍮めっきと同様または近い結果が得られているが、比較例では、ΔE値も上昇し、真鍮色より赤味を増し、付き回り、均一性も悪化していることがわかる。
【要約】
【課題】
銅に由来する着色(赤味)を抑え、安定した皮膜の均一性、付き回り性が得られる非シアン真鍮めっき浴およびめっき方法を提供する。
【解決手段】
二価の銅塩、二価の亜鉛塩、ヒドロキシ酸塩、ヒダントイン類化合物、電導塩およびスズ塩、マンガン塩、コバルト塩、またはニッケル塩のいずれかを含む非シアン真鍮電気めっき浴および二価の銅塩、二価の亜鉛塩、ヒドロキシ酸塩、ヒダントイン類化合物、およびスズ塩、マンガン塩、コバルト塩、またはニッケル塩のいずれかを含む非シアン真鍮電気めっき浴を用いて、被めっき物に真鍮めっきするめっき方法。
【選択図】 なし