(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】RNAヘアピンループを標的にする治療剤の構造ベースの設計
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20240214BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240214BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20240214BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20240214BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20240214BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20240214BHJP
A61K 31/7105 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N9/10
C12Q1/68
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6876 Z
A61K31/7105
(21)【出願番号】P 2022528619
(86)(22)【出願日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 US2020061299
(87)【国際公開番号】W WO2021102153
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-06-17
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】グオ, フェン
(72)【発明者】
【氏名】ショフナー, グラント
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0172981(US,A1)
【文献】GAO, A. et al.,Structural insights into recoginition of c-di-AMP by the ydaO riboswitch,Nature chemical biology ,10(9),2014年,pp.787-792
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GGUUGCCGAAUCCGAAAGGUACGGAGGAACCGCUUUUUGGGGUUAAUCUGCAGUGAAGCUGCAGUAGGGAUACCUUCUGUCCCGCACCCGACAGCUAACUCCGGAGGCAAUAAAGGAAGGAG(配列番号1)と少なくとも90%の配列同一性を有するリボ核酸を含む
、RNA構造を観察するための組成物であって、ここで前記リボ核酸の残基14~17(GAAA)は、長さが4~33ヌクレオチドの間である核酸の異種セグメントで置き換えられる、組成物。
【請求項2】
前記リボ核酸に結合する薬剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記薬剤は、前記リボ核酸にハイブリダイズするポリヌクレオチドである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記核酸の異種セグメントは、天然に存在するRNA分子においてループ構造を形成する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記核酸の異種セグメントは
、完全なループ構造を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
RNA構造を観察するためのシステム/キットであって、
GGUUGCCGAAUCCGAAAGGUACGGAGGAACCGCUUUUUGGGGUUAAUCUGCAGUGAAGCUGCAGUAGGGAUACCUUCUGUCCCGCACCCGACAGCUAACUCCGGAGGCAAUAAAGGAAGGAG(配列番号1)と少なくとも90%の同一性を有するリボ核酸をコードするDNA配列を含むプラスミド、
を含む、システム/キット。
【請求項7】
前記リボ核酸を発現させるためのプロモーターをさらに含む、請求項6に記載のシステム/キット。
【請求項8】
RNAポリメラーゼをさらに含む、請求項7に記載のシステム/キット。
【請求項9】
前記プラスミド中の核酸のストレッチにハイブリダイズする1またはこれより多くのプライマーをさらに含む、請求項6に記載のシステム/キット。
【請求項10】
リボ核酸の構造に関する情報を得る方法であって、前記方法は、
配列番号1と少なくとも90%の同一性を有するリボ核酸を得る工程;
配列番号1におけるループ残基14~17(GAAA)に対応する残基を、融合リボ核酸分子を形成するように、長さが4~33ヌクレオチドの間である核酸の異種セグメントで置換する工程;
前記融合リボ核酸分子を結晶化する工程;
X線または電子結晶学の技術を前記融合リボ核酸分子に対して行う工程;および
前記核酸の異種セグメントの構造に関する情報が得られるように、前記X線または電子結晶学の技術の結果を観察する工程、
を包含する方法。
【請求項11】
前記融合リボ核酸分子は、前記結晶学の分析の前に、前記リボ核酸に結合する薬剤と合わされる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記薬剤は、前記リボ核酸にハイブリダイズするポリヌクレオチドである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記結晶学の分析は、前記リボ核酸に結合する薬剤を欠くコントロールサンプルとの比較を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
複数の融合リボ核酸分子は、前記X線または電子結晶学の技術の前に、前記リボ核酸に結合する複数の薬剤と合わされる、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも2種の薬剤が、前記融合リボ核酸分子と合わされる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ポリヌクレオチドに対して結晶学の分析を行う方法であって、前記方法は、
(a)第1のポリヌクレオチドを選択する工程であって、ここで前記第1のポリヌクレオチドは、第1のmiRNAのポリヌクレオチド配列を含む工程;
(b)前記第1のmiRNAにおける第1のループ領域を形成するポリヌクレオチドのセグメントを同定する工程;
(c)第2のポリヌクレオチドを選択する工程であって、ここで前記第2のポリヌクレオチドは、第2のmiRNAのポリヌクレオチド配列を含む工程;
(d)前記第2のmiRNAにおける第1のループ領域を形成するポリヌクレオチドのセグメントを同定する工程;
(e)前記第1のポリヌクレオチド上の前記第1のループ領域を含む前記ポリヌクレオチドのセグメントが、前記第2のポリヌクレオチド上の前記第1のループ領域を含む前記ポリヌクレオチドのセグメントで置換されるように構築された融合ポリヌクレオチドを形成する工程;および
(f)前記融合ポリヌクレオチドの三次元構造を観察するために、前記融合ポリヌクレオチドを結晶学的に分析する工程;
を包含し、その結果、前記ポリヌクレオチドの結晶学の分析が行われ
、
ここで、前記第1のmiRNAは、GGUUGCCGAAUCCGAAAGGUACGGAGGAACCGCUUUUUGGGGUUAAUCUGCAGUGAAGCUGCAGUAGGGAUACCUUCUGUCCCGCACCCGACAGCUAACUCCGGAGGCAAUAAAGGAAGGAG(配列番号1)と少なくとも90%の配列同一性を有するmiRNAである、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、ここで前記リボ核酸の残基14~17(GAAA)は、長さが4~33ヌクレオチドの間である前記第2のポリヌクレオチド上の前記第1のループ領域を含む核酸の異種セグメントで置き換えられる
、方法。
【請求項18】
前記第1のポリヌクレオチドは、配列番号1の配列を含む;および/または
前記第2のmiRNAは、ヒトmiRNAを含む、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記結晶学の分析は、X線または電子結晶学の技術である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記結晶学の分析は、前記融合ポリヌクレオチドに結合する薬剤の存在下で行われる、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)項の下で、2019年11月19日出願の同時係属中の共有に係る米国仮特許出願第62/937,657号(発明の名称「STRUCTURE-BASED DESIGN OF THERAPEUTICS TARGETING RNA HAIRPIN LOOPS」)に基づく利益を主張している。この出願は、本明細書に参考として援用される。
【0002】
政府支援の陳述
本発明は、National Science Foundationによって授与された助成金番号1616265の下で政府支援を得て行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本発明は、RNAヘアピンループの三次元構造を決定するために有用な方法および材料に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
RNA分子は、多くの疾患(例えば、がんおよびRNAウイルス感染症)の発生にとって極めて重要である。この理由から、RNA分子は、優れた治療標的である。この文脈において、ほぼ全てのRNAは、それらの機能にとって極めて重要なヘアピン二次構造を形成する。結論として、これらの構造の理解は、これらの分子を標的にする治療剤の同定および設計を促進するために必要である。しかし、RNAを調べる従来の方法(例えば、RNA干渉およびアンチセンスオリゴヌクレオチド)は、制限されており、強い構造を回避する。従来の技術は、RNA構造に関するある種の情報を提供し得るが、これらの技術における制限から、RNAヘアピンループは、治療用インヒビター設計の正当に評価されない標的になっている。
【0005】
RNAヘアピンループの三次元構造に関する情報を得るために有用な新たな方法および材料のための技術の強いニーズが、当該分野に存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
以下で詳細に記載されるように、本発明者らは、RNAヘアピンループの三次元構造に関する情報を得るために有用な新規な足場指向性結晶学方法を開発した。本明細書で開示されるRNA結晶学足場および関連方法は、RNAヘアピンループの三次元構造、他の薬剤(例えば、阻害剤)とのそれらの関連も同様に、容易にかつ迅速に決定するために使用され得る。本発明の方法において使用される特異的足場RNAは、Thermoanaerobacter pseudethanolicusに由来するYdaOタイプc-ジ-AMPリボスイッチ(直径60Åを超える大きな空洞を有する結晶を容易に形成することが発見されたRNA)である。以下で詳細に考察されるように、本発明者らは、上記ヘアピンが上記空洞の中に収容されるように、目的のRNAがこの足場RNAのP2ステムへと操作され得ることを決定した。次いで、その得られる融合RNAは、足場単独を結晶化するためのものに類似のまたは関連しないかいずれかの条件下で結晶化され得る。次いで、このような分子(例えば、これらの分子単独および/または他の薬剤と会合して)の三次元構造は、X線または電子結晶学の技術等を使用して決定され得る。
【0007】
本明細書で開示されるRNA結晶学足場および関連方法は、標的RNA分子と高い親和性および特異性で相互作用する、天然のおよび化学的に改変されたオリゴヌクレオチド、ならびに低分子薬物のような化合物を同定するために使用され得る。これは、このような化合物とRNAヘアピンループとの間の相互作用が、がんおよびRNAウイルス感染症のような病理において、インビボでそれらの活性を調節し得る様式で、これらの分子の生物学的活性に影響を及ぼし得ることから重要である。さらに、RNAは、生物学および疾患のほぼあらゆる局面に関与することから、本明細書で開示される方法は、ほとんど任意の標的RNAを特異的に調節する方法に関する情報を提供し得る広く適用可能な手順である。結論として、本明細書で開示される方法は、特異的RNAを標的にするオリゴヌクレオチドアナログのような薬剤(広く種々の生物学的プロセス(例えば、ウイルス複製(例えば、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2、C型肝炎ウイルスおよびZikaジカウイルスのような病原体の複製)に関与するプロセス、がんまたは神経変性疾患のような病的状態に関与するプロセス、ならびにタンパク質コード遺伝子を調節するためのmicroRNAの生成に関与するプロセスなど)において機能するものが挙げられる)の観察および評価を可能にする。
【0008】
本明細書で開示される発明は、多くの実施形態を有する。本発明の1つの実施形態は、GGUUGCCGAAUCCGAAAGGUACGGAGGAACCGCUUUUUGGGGUUAAUCUGCAGUGAAGCUGCAGUAGGGAUACCUUCUGUCCCGCACCCGACAGCUAACUCCGGAGGCAAUAAAGGAAGGAG(配列番号1)と少なくとも90%の配列同一性を有するリボ核酸を含む物質の組成物である。代表的には、上記ポリヌクレオチドは、配列番号1の配列を含む。この組成物において、リボ核酸の配列番号1の残基14~17(GAAA)は、長さが4~33ヌクレオチドの間である核酸の異種セグメントで置き換えられる(上記で注記した少なくとも90%の配列同一性は、残基14~17においてこのリボ核酸に挿入され得る核酸の異種セグメントを含まない)。これらの組成物において、上記核酸の異種セグメントは、代表的には、天然に存在するRNA分子においてループ構造を形成するものである。本発明のある特定の実施形態において、上記核酸の異種セグメントは、天然に存在するRNA分子において完全なループ構造、および必要に応じて、0~5塩基対の間のステム構造を含む。必要に応じてこれらの組成物は、リボ核酸に結合する薬剤、例えば、上記リボ核酸にハイブリダイズするポリヌクレオチドをさらに含み得る。
【0009】
本発明の別の実施形態は、GGUUGCCGAAUCCGAAAGGUACGGAGGAACCGCUUUUUGGGGUUAAUCUGCAGUGAAGCUGCAGUAGGGAUACCUUCUGUCCCGCACCCGACAGCUAACUCCGGAGGCAAUAAAGGAAGGAG(配列番号1)と少なくとも90%(および必要に応じて100%未満)の同一性を有するリボ核酸をコードするDNA配列を含むプラスミドを含むRNA構造を観察するためのシステムまたはキットである。ある特定の実施形態において、上記プラスミドは、上記リボ核酸を発現もしくは転写するためのプロモーターをさらに含む、および/または上記システムもしくはキットは、RNAポリメラーゼをさらに含む。必要に応じて上記システムまたはキットは、上記プラスミド中の核酸のストレッチにハイブリダイズする1またはこれより多くのプライマーをさらに含む。
【0010】
本発明のさらに別の実施形態は、リボ核酸の構造に関する情報を得る方法である。この方法は、配列番号1の残基14~17(GAAA)(または配列番号1と少なくとも90%を有するリボ核酸)を、融合リボ核酸分子を形成するように、長さが4~33ヌクレオチドの間の核酸の異種セグメントで置換する工程、上記融合RNAを結晶化する工程、上記融合リボ核酸分子に対してX線または電子結晶学の技術を行う工程、および次いで、その結果(例えば、X線または電子結晶学の技術の電子密度マップ)を観察して、上記核酸の異種セグメントの三次元構造に関する情報を得る工程を包含する。これらの方法のある特定の実施形態において、上記融合リボ核酸分子は、結晶学の分析の前に、上記リボ核酸に結合する薬剤(例えば、上記リボ核酸にハイブリダイズするポリヌクレオチド)と合わされ、その結果、上記RNA/薬剤複合体の構造が観察され得る。代表的には、これらの方法において、上記結晶学の分析は、リボ核酸に結合する薬剤を欠くコントロールサンプルとの比較を包含する。必要に応じてこれらの方法において、複数の融合リボ核酸分子は、X線または電子結晶学の技術の前に、(例えば、ハイスループットスクリーニングにおいて)上記リボ核酸に結合する複数の薬剤と合わされる。本発明のいくつかの実施形態において、少なくとも2つの薬剤が、上記融合リボ核酸分子と合わされる。
【0011】
本発明の例証的な作業実施形態において、本発明者らは、pri-miRNAヘアピンループの9つの構造を調べた。これらの試験から、長さ4~8ヌクレオチドのループが、以前に考えられていたよりも多く構造化され、これらのおよび中程度により長いループを、治療剤の優れた標的にすることが決定された。本発明の実施形態において、標的ループは、特定の長さのものである必要はなく、利用可能な例より長い可能性も短い可能性もある。この認識および本発明者らの新規な構造決定法は、当業者が、リードオリゴヌクレオチド化合物を同定し、構造ベースの精密化の反復回数を迅速かつコスト効果的に経ることを可能にする。本発明の方法は、広い適用を有する。なぜならそれらは、感染性疾患およびがん、加齢に関連する病理および神経変性疾患、ならびに遺伝的障害(例えば、ディジョージ症候群など)と戦うために重要なプロセスを標的にするからである。
【0012】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から当業者に明らかになる。しかし、詳細な説明および具体例が、本発明のいくつかの実施形態を示す一方で、例証であって限定ではない方法で示されることは、理解されるべきである。本発明の範囲内の多くの変更および改変は、その趣旨から逸脱することなく行われ得、本発明は、全てのこのような改変を包含する。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
GGUUGCCGAAUCCGAAAGGUACGGAGGAACCGCUUUUUGGGGUUAAUCUGCAGUGAAGCUGCAGUAGGGAUACCUUCUGUCCCGCACCCGACAGCUAACUCCGGAGGCAAUAAAGGAAGGAG(配列番号1)と少なくとも90%の配列同一性を有するリボ核酸を含む組成物であって、ここで前記リボ核酸の残基14~17(GAAA)は、長さが4~33ヌクレオチドの間である核酸の異種セグメントで置き換えられる、組成物。
(項目2)
前記リボ核酸に結合する薬剤をさらに含む、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記薬剤は、前記リボ核酸にハイブリダイズするポリヌクレオチドである、項目2に記載の組成物。
(項目4)
前記核酸の異種セグメントは、天然に存在するRNA分子においてループ構造を形成する、項目1に記載の組成物。
(項目5)
前記核酸の異種セグメントは、必要に応じて、天然に存在するRNA分子中のステム構造の0~5塩基対の間で完全なループ構造を含む、項目4に記載の組成物。
(項目6)
RNA構造を観察するためのシステム/キットであって、
GGUUGCCGAAUCCGAAAGGUACGGAGGAACCGCUUUUUGGGGUUAAUCUGCAGUGAAGCUGCAGUAGGGAUACCUUCUGUCCCGCACCCGACAGCUAACUCCGGAGGCAAUAAAGGAAGGAG(配列番号1)と少なくとも90%の同一性を有するリボ核酸をコードするDNA配列を含むプラスミド、
を含む、システム/キット。
(項目7)
前記リボ核酸を発現させるためのプロモーターをさらに含む、項目6に記載のシステム/キット。
(項目8)
RNAポリメラーゼをさらに含む、項目7に記載のシステム/キット。
(項目9)
前記プラスミド中の核酸のストレッチにハイブリダイズする1またはこれより多くのプライマーをさらに含む、項目6に記載のシステム/キット。
(項目10)
リボ核酸の構造に関する情報を得る方法であって、前記方法は、
配列番号1と少なくとも90%の同一性を有するリボ核酸を得る工程;
配列番号1におけるループ残基14~17(GAAA)に対応する残基を、融合リボ核酸分子を形成するように、長さが4~33ヌクレオチドの間である核酸の異種セグメントで置換する工程;
前記融合リボ核酸分子を結晶化する工程;
X線または電子結晶学の技術を前記融合リボ核酸分子に対して行う工程;および
前記核酸の異種セグメントの構造に関する情報が得られるように、前記X線または電子結晶学の技術の結果を観察する工程、
を包含する方法。
(項目11)
前記融合リボ核酸分子は、前記結晶学の分析の前に、前記リボ核酸に結合する薬剤と合わされる、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記薬剤は、前記リボ核酸にハイブリダイズするポリヌクレオチドである、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記結晶学の分析は、前記リボ核酸に結合する薬剤を欠くコントロールサンプルとの比較を含む、項目11に記載の方法。
(項目14)
複数の融合リボ核酸分子は、前記X線または電子結晶学の技術の前に、前記リボ核酸に結合する複数の薬剤と合わされる、項目11に記載の方法。
(項目15)
少なくとも2種の薬剤が、前記融合リボ核酸分子と合わされる、項目14に記載の方法。
(項目16)
ポリヌクレオチドに対して結晶学の分析を行う方法であって、前記方法は、
(a)第1のポリヌクレオチドを選択する工程であって、ここで前記第1のポリヌクレオチドは、第1のmiRNAのポリヌクレオチド配列を含む工程;
(b)前記第1のmiRNAにおける第1のループ領域を形成するポリヌクレオチドのセグメントを同定する工程;
(c)第2のポリヌクレオチドを選択する工程であって、ここで前記第2のポリヌクレオチドは、第2のmiRNAのポリヌクレオチド配列を含む工程;
(d)前記第2のmiRNAにおける第1のループ領域を形成するポリヌクレオチドのセグメントを同定する工程;
(e)前記第1のポリヌクレオチド上の前記第1のループ領域を含む前記ポリヌクレオチドのセグメントが、前記第2のポリヌクレオチド上の前記第1のループ領域を含む前記ポリヌクレオチドのセグメントで置換されるように構築された融合ポリヌクレオチドを形成する工程;および
(f)前記融合ポリヌクレオチドの三次元構造を観察するために、前記融合ポリヌクレオチドを結晶学的に分析する工程;
を包含し、その結果、前記ポリヌクレオチドの結晶学の分析が行われる、方法。
(項目17)
前記第1のmiRNAは、GGUUGCCGAAUCCGAAAGGUACGGAGGAACCGCUUUUUGGGGUUAAUCUGCAGUGAAGCUGCAGUAGGGAUACCUUCUGUCCCGCACCCGACAGCUAACUCCGGAGGCAAUAAAGGAAGGAG(配列番号1)と少なくとも90%の配列同一性を有するmiRNAであり、ここで前記リボ核酸の残基14~17(GAAA)は、長さが4~33ヌクレオチドの間である前記第2のポリヌクレオチド上の前記第1のループ領域を含む核酸の異種セグメントで置き換えられる、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記第1のポリヌクレオチドは、配列番号1の配列を含む;および/または
前記第2のmiRNAは、ヒトmiRNAを含む、
項目17に記載の方法。
(項目19)
前記結晶学の分析は、X線または電子結晶学の技術である、項目17に記載の方法。
(項目20)
前記結晶学の分析は、前記融合ポリヌクレオチドに結合する薬剤の存在下で行われる、項目17に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図面の簡単な説明は、以下の本文中に見出される。
【0014】
【
図1】
図1A~1E。pri-miRNA末端ループの分析および潜在的結晶化足場の検索。
図1(a):pri-miRNA尖端ループ長の分布を示す。
図1(b):各RNA結晶構造に存在する最大の球状空洞(半径R
maxを有する)の、上記構造の回折解像度に対する比較を示す。非対称ユニットの中に単一分子を有する結晶形態を、緑の十字として示し、全ての他のものを黒の点として示す。
図1(c):RNAの構造を示す。
図1(d):YdaOタイプci-ジ-AMPリボスイッチの二次構造を示す。
図1(e):上記リボスイッチの結晶充填を示す(PDB ID 4QK8)。大きな中心チャネル(c-軸に対して平行)の周りの分子は、グレーの色を付けており、31Åの半径を有する青の球は、そのサイズを図示するために、上記チャネルに配置される。上記チャネルの内部で終わるL2ステムループは、緑色である。
図1(f):野生型YdaOおよび上記ステムからの0~3塩基対を有するpri-miR-9-1末端ループとの融合物のネイティブゲル分析を示す。
【0015】
【
図2】
図2A~2F。 足場指向性結晶学によって決定される長さが8~6ntのpri-miRNA末端ループの原子構造。図全体を通じて、足場P2ステムの最後の塩基対は、グレーの色を付けている。
図2Aおよび2D~2Fは、立体図で示される。挿入図は、ループの二次構造を示す。2Fo-Fc電子密度マップは、各パネルにおいて示されるレベルで輪郭が描かれる。
図2(a)は、pri-miR-378a(378a + 0bp)を示す。
図2(b)は、ステムからの1塩基対を有するpri-miR-378aループ(378a + 1bp)を示す。
図2(c)は、378a+1bp構造および電子密度を示す。
図2(d)は、pri-miR-340(340 + 1bp)を示す。
図2(e)は、pri-miR-300(300 + 0bp)を示す。pri-miR-300において隣接する標準的な対は、上記足場における対と同一のC-Gである。従って、その構造は、必須の300 + 1bpである。
図2(f)は、pri-miR-202(202 + 1bp)を示す。
【0016】
【
図3】
図3A~3D。 より短い(4~5nt)pri-miRNAループの構造。配色は
図2のものと同一である。
図3(a)は、pri-miR-208a(208a + 1bp)を示す。
図3(b)は、pri-miR-320b-2(320b-2 + 1bp)を示す。
図3(c)は、pri-miR-449c(449c + 1bp)を示す。
図3(d)は、pri-miR-19b-2(19b-2 + 1bp)を示す。
【0017】
【
図4】
図4A~4E。 ヒトpri-miRNA尖端接合部およびループの構造コンセンサス、非標準的な対、および非対称的可撓性。
図4(a)は、
図2および
図3に示される全8個のループの構造アラインメントを示す。上記構造の大部分または全ての中で十分に整列する位置が、表示される。
図4(b)は、50mM NaClで測定した8個のpri-miRNA尖端接合部およびループの折りたたみΔG値のプロットを示す。エラーバーは、4~6回反復から得られた標準偏差を表す。各RNAは、5個の共通する塩基対とともに、尖端ループおよびステムから直ぐ隣の塩基対を含む(RNA二次構造に関しては
図8aを、および詳細な熱力学的パラメーターに関しては表2を参照のこと)。
図4(c)は、示される尖端ループ-閉鎖残基対とともに、ヒトpri-miRNAの実測数および予測数を示す。予測数は、5’および3’ループ残基の存在量に基づいて概算される。
図4(d)は、全てのループを同じスケールでプロットして、残基あたりの平均原子変位パラメーター(ADP)を示す。5’末端および3’末端は、pri-miRNAステムループの末端塩基対を表す。ADP分布を図示する構造図は、
図10に示される。
図4(e)は、分子動力学法によって各残基に関して決定される平均二乗変動(root-mean-square fluctuation)(RMSF,Å)を示す。記号および配色は、
図4(d)におけるものと同じである。
【0018】
【
図5】
図5A~5K。 DGCR8 Rhedドメインとpri-miRNA尖端接合部との会合。
図5(a)~5(h) ゲルシフトアッセイの定量(代表的なゲル画像は
図11に示される)。データ点は、3回の反復実験からの結合した平均画分±標準誤差(SE)を表す。データをHillの式とフィットさせると、解離定数(K
d)(±SE)が示される。
図5(i)は、mfoldによって推測されるように、末端ループの長さに対するRhed結合の自由エネルギー(RTln(K
d))の比較を示す。
図5(j)は、ループ長が、排除される非標準的な対に関与する塩基で調節されることを除いて、
図5(i)と同じことを示す。
【0019】
【
図6】
図6A~6C。 pri-miRNA尖端接合部のいくつかの結晶構造において本発明者らが観察したU-U対の体系的変異誘発からの結果(U-U対は、最良のプロセシングされたpri-miRNA改変体の中にある)。pri-miRNA尖端ループにおける末端残基は、miRNA生成を微細に調整する。
図6(A)は、哺乳動物細胞におけるmiRNA成熟効率を測定するための二重-pri-miRNA構築物の模式図を示す。各pri-miRNAフラグメントは、ヘアピンおよび各側に約30-ntの隣接配列を含み、合計約150ntである。pri-miR-9-1フラグメントは、荷電しておらず、正規化のために使用される。3’ pri-miRNAフラグメントの末端ループ残基は、変異誘発に供される。両方の成熟miRNAの存在量は、定量的RT-PCRを使用して測定される。
図6(B)は、pri-miR-340改変体の成熟効率(miR-340/miR-9比)を示す。
図6(C)は、pri-miR-193b改変体の成熟効率を示す。これらの散布図では、個々のデータ点が、グレーのドットとして示される。バーは、平均および標準偏差を示す。
【0020】
【
図7】
図7A~7I。 全てのpri-miRNAループに関して計算した、シミュレートしたアニーリングコンポジットオミットマップ。配色は、
図2および3と同じである。全てのマップは、1.1σに対して輪郭が描かれる。個々のマップの計算に関する詳細については、方法の節を参照のこと。
図7Aは、378a + 0bpを示す。
図7Bは、378a + 1bpを示す。
図7Cは、340 + 1bpを示す。
図7Dは、300 + 0bpを示す。
図7Eは、202 + 1bpを示す。
図7Fは、208 + 1bpを示す。
図7Gは、449c + 1bpを示す。
図7Hは、320b-2 + 1bpを示す。
図7Iは、19b-2 + 1bpを示す。
【0021】
【
図8】
図8A~8I。 融解および結合アッセイのために使用されるRNA構築物。
図8(a)は、光学的融解アッセイのために使用される短いRNAオリゴを示す。共通する5-bp螺旋セグメントを、全てのヘアピンのステムとして使用した(グレーの塩基対)。pri-miRNA尖端接合部およびループヌクレオチドは、黒である。
図8(b)~8(i)は、Rhed結合アッセイにおいて使用される全てのpri-miRNAフラグメントの二次構造推定を示す。転写を増強するためにステムの基部に付加されるさらなるG-C対は、黄色で強調される。ボックスは、結晶構造を決定するために使用される尖端ループの配列およびステムの末端塩基対を示す。
【0022】
【
図9】
図9A~9B。 pri-miRNA末端ループ構造の、PDBにおいて見出される類似のRNA折りたたみに対する比較。
図9Aは、pri-miR-378aの8-ntループ(378a+1, 左)の漫画表示を示し、
図9Bは、RNase P(2)、グアニジン-Iリボスイッチ(3)、およびtRNA
Phe(4)の別個の構造に由来する類似のループを示す。
【0023】
【
図10】
図10A~10H。 原子変位パラメーター(ADPs)での尖端ループの可撓性の予測。
図10(a)~
図10(h)に示される各構造は、青色で最低のADPから赤色で最高のものまで着色されている。挿入図は、プロットしたADPの範囲を示す。
【0024】
【
図11】
図11A~11H。 Rhedに結合する各pri-miRNAフラグメントのゲルシフトアッセイの例。pre miRNAフラグメントは、各ゲルの上で同定され、遊離RNAおよびタンパク質結合種を、ゲル中で標識する。結合反応において使用されるRhedダイマー濃度(μM)は、ゲルの下に示される。
【0025】
【
図12】
図12A~12b。 以前に報告されたハイスループット変異誘発およびプロセシングアッセイ(5)からのpri-miR-223尖端ループ配列決定データの分析。
図12(a)は、pri-miR-223ヘアピンの上の方の領域の推定される二次構造を示す。塩基の配色は、このRNAのRfam登録(Rfamアクセッション: RF0064)における進化的保存のレベルを反映する。3pアームからの主なmiRNA生成物は、青色で強調される。赤色の文字は、WT配列に対する変異を示す。挿入図に示される代替の二次構造と比較すると、このモデルは、優勢なコンホメーションである可能性が高い。なぜならそれは、Drosha切断部位の上に約23-bpの最適なステム長を生じ、ステム内部の進化的に保存された残基およびバルジループ(bulge loop)中のあまり保存されていない位置を配置するからである。
図12(b)は、9-nt pri-miR-223ループ配列決定データ中のC-A対の頻度を示すヒートマップを示す。左下の対角線のマトリクスは、入力ライブラリーにおけるパーセント頻度を示し、右上の対角線のマトリクスは、プロセシングされたRNAにおける頻度を示す。参考までに、野生型ループ配列は、対角線に沿って示される。C-A対は、入力において22%に対して、プロセシングされた画分において69%へと富化される。
【0026】
【
図13】
図13。 尖端接合部におけるU-G対および隣り合う5’ G残基のスタッキングを示す、pri-miR-20bのNMRアンサンブル(6)。
【0027】
【
図14A】
図14Aおよび14B。 RNA構築物。
図14Aは、HCV cis作用性複製エレメントの二次構造を示す;
図14Bは、HCV IRESドメインIIIbを示す(例えば、Quadeら, Nature Communications volume 6, Article number: 7646 (2015)を参照のこと)。
【
図14B】
図14Aおよび14B. RNA構築物。
図14Aは、HCV cis作用性複製エレメントの二次構造を示す;
図14Bは、HCV IRESドメインIIIbを示す(例えば、Quadeら, Nature Communications volume 6, Article number: 7646 (2015)を参照のこと)。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の詳細な説明
本明細書で記載されるかまたは言及される技術および手順の多くは、十分に理解され、当業者によって従来の方法論を使用して一般に使用される。好ましい実施形態の説明において、その一部を形成し、本発明が実施され得る具体的実施形態を例証することによって示される添付の図面に対して言及がなされ得る。他の実施形態が利用され得、構造的な変更が本発明の範囲から逸脱することなく行われ得ることは、理解されるべきである。
【0029】
別段定義されなければ、本明細書で使用される全ての技術用語、表記および他の科学用語または用語法は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意味を有することが意図される。いくらかの場合には、一般に理解される意味を有する用語が、明瞭性のためにおよび/または容易な参照のために本明細書で定義され、本明細書中のこのような定義の包含は、当該分野で一般に理解されているものに対する実質的な差異を表すと必ずしも解釈されるべきではない。
【0030】
後生動物のpri-miRNAは、プロセシングの間にマイクロプロセッサ複合体によって認識される特徴的なヘアピン構造へと折りたたまれる。この認識に必須であるのは、ヘアピンステムおよびループを繋ぐ尖端接合部が、DGCR8 RNA結合ヘムドメイン(Rhed)を、そのヘアピンの尖端に指向することである。ここで本発明者らは、足場指向性結晶学方法を記載し、多くのヒトpri-miRNA尖端接合部およびループの構造を報告する。これらの構造は、非標準的な塩基対および少なくとも1個の5’ループ残基が、ヘアピンステムの頂部にスタックするコンセンサスを明らかにする。上記非標準的な対は、溶液中の熱力学的安定性に寄与する。U-U対およびG-A対は、ヒトpri-miRNAの尖端接合部において高度に富化される。本発明者らはまた、Rhedがより長いループをよりきつく結合することを見出し、より短いループを有するpri-miRNAがしばしば不十分にプロセシングされる理由を生化学的に説明する。本発明者らの開示は、pri-miRNAおよびmicroRNA成熟の関連する分子機序を理解するための構造的基礎を提供する。
【0031】
以下で考察されるように、本発明者らは、miRNA成熟および調節におけるそれらの重要な役割に関して、pri-miRNA尖端接合部およびループの三次元構造を決定するために有用な方法および材料を開発した(7-10)。これらの部分は、pri-miRNAおよびpre-miRNAの両方に存在し、それによって、それらの構造がDroshaおよびDicer切断工程の両方に影響を及ぼす(8)。尖端接合部およびループはまた、創薬の標的である(11)。今日まで、2個のpri-miRNA尖端ステム-ループのみが、NMR分光法を使用してリガンドがない状態(ligand-free state)において構造的に特徴づけられている(6, 11, 12)。上記13-nt pre-miR-20b尖端ループは、十分に定義された強固な構造へと折りたたまれる(6)のに対して、弱いシグナルは、14-nt pri-miR-21ループが構造化されていないことを示唆する(11, 12)。ヒトゲノムは、互いから大きく異なる1,881のpri-miRNAヘアピンをコードする(13)。多数のpri-miRNA構造を調査するために、本発明者らは、結晶格子からの干渉なしに、ヘアピンループ構造の迅速な決定を可能にする足場指向性結晶化技術を開発した。本発明者らは、8個のpri-miRNAに由来する9個の尖端接合部およびループ構造、ならびにそれらのRhedとの相互作用の生化学的特徴付けを報告する。
【0032】
本発明の実施形態は、GGUUGCCGAAUCCGAAAGGUACGGAGGAACCGCUUUUUGGGGUUAAUCUGCAGUGAAGCUGCAGUAGGGAUACCUUCUGUCCCGCACCCGACAGCUAACUCCGGAGGCAAUAAAGGAAGGAG(配列番号1)と少なくとも90%の配列同一性を有するリボ核酸を含む物質の組成物を包含する。本発明の実施形態は、好ましくは、配列番号1のポリヌクレオチドと少なくとも約91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を示す。パーセント同一性は、ポリヌクレオチド改変体の配列と、配列番号1の全長ポリヌクレオチドの相当する部分とを比較することによって容易に決定され得る(ここで、上記で注記した配列同一性は、残基14~17の代わりにこのリボ核酸に挿入され得る核酸の異種セグメントを含まない)。配列比較のためのいくつかの技術は、当業者に周知のコンピューターアルゴリズム(例えば、AlignまたはBLASTアルゴリズム(Altschul, J. Mol. Biol. 219:555-565, 1991; Henikoff and Henikoff, PNAS USA 89:10915-10919, 1992))を使用することを含む。デフォルトパラメーターが使用され得る。
【0033】
代表的には、上記ポリヌクレオチドは、配列番号1の配列を含む。この比較において、上記リボ核酸の配列番号1の残基14~17(GAAA)は、長さが4~33ヌクレオチドの間の核酸の異種セグメントで置き換えられる(上記で注記した少なくとも90%の配列同一性は、残基14~17においてこのリボ核酸に挿入され得る核酸の異種セグメントを含まない)。1つの例証的な実施形態において、上記ポリヌクレオチドは、GGUUGCCGAAUCCXGGUACGGAGGAACCGCUUUUUGGGGUUAAUCUGCAGUGAAGCUGCAGUAGGGAUACCUUCUGUCCCGCACCCGACAGCUAACUCCGGAGGCAAUAAAGGAAGGAG(配列番号29)を含み、ここでXは、A、U、GおよびCから選択される4~33個の間の異種ヌクレオチド(例えば、天然に存在するRNA分子(例えば、ヒトmiRNA)中の三次元構造を含むもの)を含む。これらの組成物では、上記核酸の異種セグメントは、代表的には、天然に存在するRNA分子における三次元構造(例えば、ループ構造)を形成するものである。本発明のある特定の実施形態において、上記核酸の異種セグメントは、完全なループ構造、および必要に応じて上記天然に存在するRNA分子におけるステム構造の0~5個の間の塩基対を含む。必要に応じてこれらの組成物は、上記リボ核酸に結合する薬剤(例えば、上記リボ核酸にハイブリダイズするポリヌクレオチド)をさらに含み得る。
【0034】
本発明の別の実施形態は、GGUUGCCGAAUCCGAAAGGUACGGAGGAACCGCUUUUUGGGGUUAAUCUGCAGUGAAGCUGCAGUAGGGAUACCUUCUGUCCCGCACCCGACAGCUAACUCCGGAGGCAAUAAAGGAAGGAG(配列番号1)と少なくとも90%(および必要に応じて100%未満)の同一性を有するリボ核酸をコードするDNA配列を含む1またはこれより多くのプラスミドを含むRNA構造を観察するためのシステムまたはキットである。本発明のいくつかの実施形態において、上記1またはこれより多くのプラスミドは、配列GGTTGCCGAATCC(配列番号27)と少なくとも90%の同一性を有するポリヌクレオチド配列および/または配列GGTACGGAGGAACCGCTTTTTGGGGTTAATCTGCAGTGAAGCTGCAGTAGGGATACCTTCTGTCCCGCACCCGACAGCTAACTCCGGAGGCAATAAAGGAAGGAG(配列番号28)と少なくとも90%の同一性を有するポルヌクレオチド配列を含む。ある特定の実施形態において、上記1またはこれより多くのプラスミドは、上記リボ核酸を発現もしくは転写するためのプロモーターをさらに含む、および/または上記システムまたはキットは、RNAポリメラーゼをさらに含む。必要に応じて、上記システムまたはキットは、上記プラスミド中の核酸のストレッチとハイブリダイズする1もしくはこれより多くのプライマーをさらに含む。
【0035】
本発明のさらに別の実施形態は、リボ核酸の構造に関する情報を得る方法である。この方法は、融合リボ核酸分子を形成するように、配列番号1(または配列番号1と少なくとも90%を有するリボ核酸)の残基14~17(GAAA)に相同な残基を、長さが4~33ヌクレオチドの間である核酸の異種セグメント(例えば、長さが33ヌクレオチドまでの4、5、6、または7ヌクレオチドなどである異種セグメント)で置換する工程、上記融合RNAを結晶化する工程、上記結晶化した融合リボ核酸分子に対して構造分析(例えば、X線または電子結晶学の技術を含むもの)を行う工程、および次いで、上記核酸の異種セグメントの三次元構造に関する情報を得るように結果を観察する工程を包含する。これらの方法のある特定の実施形態において、上記融合リボ核酸分子は、結晶学の分析の前に、上記リボ核酸に結合する薬剤(例えば、上記リボ核酸の異種セグメントに結合するポリヌクレオチドまたは他の薬剤)と合わされ、その結果、上記RNA/薬剤複合体の構造が観察され得る。代表的には、これらの方法において、上記結晶学の分析は、上記リボ核酸に結合する薬剤を欠くコントロールサンプルに対する比較を包含する。必要に応じてこれらの方法において、複数の融合リボ核酸分子は、構造分析(例えば、X線または電子結晶学)技術の前に、上記リボ核酸に結合する複数の薬剤(例えば、ハイスループットスクリーニング技術において)と合わされる。本発明のいくつかの実施形態において、少なくとも2種の薬剤が、上記融合リボ核酸分子と合わされる。
【0036】
本発明の関連する実施形態は、ポリヌクレオチドに対して結晶学の分析を行う方法を包含する。代表的にはこれらの方法は、第1のポリヌクレオチドを選択する工程であって、ここで上記第1のポリヌクレオチドは、第1のmiRNAのポリヌクレオチド配列を含む工程;上記第1のmiRNAにおいて第1のループ領域を形成するポリヌクレオチドのセグメントを同定する工程;第2のポリヌクレオチドを選択する工程であって、ここで上記第2のポリヌクレオチドは、第2のmiRNAのポリヌクレオチド配列を含む工程;上記第2のmiRNAにおける第1のループ領域を形成するポリヌクレオチドのセグメントを同定する工程;上記第1のポリヌクレオチド上の上記第1のループ領域を含む上記ポリヌクレオチドのセグメントが、上記第2のポリヌクレオチド上の上記第1のループ領域を含む上記ポリヌクレオチドのセグメントで置換または交換されるように選択された融合ポリヌクレオチドを形成する工程;および次いで、上記融合ポリヌクレオチドの三次元構造を観察するために、上記融合ポリヌクレオチドを結晶学的に分析する工程;
を包含し、その結果、上記ポリヌクレオチドの結晶学の分析が行われる。これらの方法のある特定の実施形態において、上記第1のmiRNAは、GGUUGCCGAAUCCGAAAGGUACGGAGGAACCGCUUUUUGGGGUUAAUCUGCAGUGAAGCUGCAGUAGGGAUACCUUCUGUCCCGCACCCGACAGCUAACUCCGGAGGCAAUAAAGGAAGGAG(配列番号1)と少なくとも90%の配列同一性を有するmiRNAであり、ここで上記リボ核酸の残基14~17(GAAA)は、長さが4~33ヌクレオチドの間である上記第2のポリヌクレオチド上の前記第1のループ領域を含む核酸の異種セグメントで置き換えられる。本発明のある特定の実施形態において、上記第1のポリヌクレオチドは、配列番号1の配列を含む;および/または上記第2のmiRNAは、ヒトmiRNAを含む。代表的には、これらの方法において、上記結晶学の分析は、X線または電子結晶学の技術である;および/または上記結晶学の分析は、上記融合ポリヌクレオチドに結合する薬剤(例えば、上記第2のポリヌクレオチド上に第1のループ領域を含む核酸のセグメントに対して相同性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド)の存在下で行われる。
【0037】
本発明の例証的な作業実施形態において、本発明者らは、pri-miRNAヘアピンループの9個の構造を調べた。これらの研究は、長さ4~8ヌクレオチドのループが、以前に考えられていたより構造化されており、これらのおよび中程度により長いループが、治療剤の優れた標的になることを決定した。本発明の実施形態において、標的ループは、特定の長さのものである必要はなく、利用可能な例より長い可能性も短い可能性もある。この認識および本発明者らの新規な構造決定法は、当業者が、リードオリゴヌクレオチド化合物を同定し、構造ベースの精密化の反復回数を迅速かつコスト効果的に経ることを可能にする。本発明の方法は、広い適用を有する。なぜならそれらは、感染性疾患(例えば、2019年のコロナウイルス感染症)およびがん、加齢に関連する病理および神経変性疾患、ならびに遺伝的障害(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ディジョージ症候群など)と戦うために重要なプロセスを標的にするからである。この1つの例証において、本発明の実施形態は、ヒトがん(特に、低分子または抗体阻害を受けつけないそれらがん)の病因と関連する遺伝子を標的にするように設計された新たなアンチセンス治療剤を試験し調べるために使用され得る。
【0038】
以下で考察されるように、本発明者らは、microRNAのヒト一次転写物(pri-miRNA)の三次元構造を決定した(1)。簡潔には、pri-miRNAは、DroshaリボヌクレアーゼおよびそのRNA結合パートナータンパク質DGCR8を含むマイクロプロセッサ複合体によって核の中で認識され、切断される。Pri-miRNA尖端接合部およびループはまた、他のRNA結合タンパク質およびmicroRNA成熟を調節する代謝産物に関する結合部位である。より重要なことには、このようなpri-miRNA尖端ループは、次いで、ポリヌクレオチド、低分子などのような薬剤によって標的にされる場合に観察され得る。このようにして、成熟した機能的microRNAおよびそれらの構造は、例えば、治療可能性を有する薬剤に結合されるかまたは別の方法でその薬剤によって調節される場合に観察され得る。
【0039】
本発明のさらなる局面および実施形態は、以下の節において考察される。
【0040】
pri-miRNA尖端ループ長の調査
以前の調査から、短い(<10nt)尖端ループを有するpri-miRNAが、マイクロプロセッサによってそれほど効率的にプロセシングされない傾向があることが示された(7)。これのことを考慮し踏まえて、本発明者らは、mfold(14)およびmiRBaseによって提供される類似のものを使用して、本発明者らが生成した推定される二次構造に基づくヒトpri-miRNA尖端ループ配列のリストを編集した(13)。それらの大部分(1,881個のうちの1,314個、すなわち70%)は、10nt長未満であり、最高頻度は、4~6ntの範囲にあった(
図1a)。RNA二次構造推定プログラムは、必ずしも安定ではない比較的長いループの中に塩基対を含む傾向にある(6, 11)。本発明者らは、ヘアピンステムから単離される1個または2個の塩基対を無視することによって、この明らかな偏りに部分的に対処した。リストは、より長いループの数をなお過小評価している可能性はあるが、にもかかわらず、本発明者らの知識の最良のものを反映している。従って、大部分のpri-miRNA認識事象に関して、Rhedは、尖端接合部にアクセスするために、比較的短い尖端ループと相互作用しなければならない。
【0041】
足場指向性結晶学
pri-miRNA尖端接合部およびループの三次元構造を決定するために、本発明者らは、足場指向性結晶学アプローチを開発した。その概念は、標的(未知)配列を、十分に結晶化することが公知でありかつ利用可能な結晶構造を有する足場分子に融合することである。上記融合物は、足場単独に関するものと類似の条件下で結晶化するはずである。その結晶格子は、標的部分を収容できるはずである。上記足場構造は、上記融合物の構造が分子置き換えを介して決定されることを可能にする。
【0042】
適切な足場を同定するために、本発明者らは、4つの基準を満たすRNA結晶をProtein Data Bankから掘り起こした。各RNA構造登録のために、本発明者らは、半径R
maxによって特徴づけられるように、格子空洞の中に収容され得る最大の球を最初に同定した(
図1b)。本発明者らは、報告された回折解像度を考慮した。その設計を単純化するために、本発明者らは、非対称性ユニット中に1分子を有する登録物に検索を限定した。最後に、本発明者らは、結晶格子を手動で検討して、NAヘアピンが融合され得るように、格子空洞の方を向いているステムループを見出した。数百もの調査した構造の中で、本発明者らは、これらの要件を満たすただ1つのRNA、Thermoanaerobacter pseudethanolicusに由来するYdaOタイプc-ジ-AMPリボスイッチ(以降は、YdaOと省略)を同定した(15)。
【0043】
上記YdaO結晶格子は、大きな溶媒チャネル
【数1】
を含み、短いP2ステムが、上記チャネル内部に位置し、隣り合う分子から離れている(
図1c,d)。上記リボスイッチは、複雑な偽の二回折りたたみの対称的な「クローバーの葉型」の折りたたみ(pseudo-two-fold symmetric ‘cloverleaf’ fold)を有する(
図1d)。本発明者らは、YdaO P2ステム上のGAAAテトラループを、14-nt pri-miR-9-1尖端ループとステムからの0~3個のさらなる塩基対で置き換えた。全4種の融合RNAは、c-ジ-AMPリガンドの存在下でのアリーリング後に、単一のバンドとしてネイティブゲル上で移動し(
図1e)、操作されたpri-mi-RNA配列が、足場折りたたみに干渉しないことを示した。
【0044】
短いpri-miRNAループの本発明者らの代表的なセットに関して、本発明者らは、ループとステムからの種々の数の塩基対とを含むYdaO足場との融合物を生成し、結晶化のためにスクリーニングした。本発明者らは、pri-miRNAステムからの0個または1個の塩基対を含む構築物の結晶を得ることに成功した。これらの結晶は、同じ空間群、P3121に属し、類似の格子乗数(cell dimension)を有する(表1)。本発明者らは、X線回折データを収集し、それらの構造を、2.71~3.08Åの範囲に及ぶ解像度で決定した(表1)。3種のpri-miRNAに関して、本発明者らはまた、単一波長異常分散(single-wavelength anomalous dispersion)(SAD)データを、79~115範囲のリダンダンシーで収集した。これらのSADデータは、位相整合(phasing)および精緻化に寄与する。その精緻化したネイティブ構造は、足場部分が野生型(WT)のものと非常に類似であり、C1’平均二乗偏差(RMSD)値が、0.22~1.18Åの範囲に及ぶことを示した。以下で本発明者らは、pri-miRNA部分を記載する。PDB中の大部分のRNAループ構造とは異なり、本発明者らの構造は、リガンドとの結晶接触および相互作用から自由であり、それによって、それら自体の折りたたみ傾向を反映する。
【0045】
pri-miRNA尖端接合部およびループの構造
本発明者らの一連のpri-miRNAループ構造は、4~8ntの範囲に及ぶヒトにおいて最も頻繁なループ長を網羅する。最長のループは、pri-miR-378aからの8ntであった(378a+0bpと称される。
図2aおよび
図7a)。RNAループは、可撓性であり得ることから、それらはしばしば、電子密度では十分に解像されない。驚くべきことに、378a+0bpの2F
o-F
cマップから、全ての残基に関して明確な密度で高度に構造化されたコンホメーションが明らかにされた。上記378a+0bp構造は、ループの最も外側の残基、C1およびA8が、非標準的な対を形成し、ループスタックの残りから塩基が上に積み重なるプラットフォームを作製することを明らかに示す(
図2b)。5’末端では、C2およびU3が、C1の上にスタックする。3’側から、A4、G5、A6、およびA7が、A8の上に4層でスタックする。塩基の2個のスタックを横断して、C2
O2-A7
N6(3.3Å)、U3
O4’-A6
N6(3.1Å)、U3
N3-A6
OP2(2.8Å)、U3
O2-A6
N7(2.6Å)、およびU3
2’OH-G5
N7(2.7Å)の間の水素結合は、上記ループをさらに安定化する(
図2b)。pri-miR-378aのあらゆるループヌクレオチドは、A4を除くH結合によって調整される(coordinated)。
【0046】
本発明者らはまた、上記ステムからの1個の塩基対を有するpri-miR-378a尖端ループの構造を改名した(378a + 1bp,
図2cおよび
図7b)。両方のループに関するモデルは、ほぼ一致する(ループ中の全ての非水素原子に対して1.4Å RMSD。
図2c)。上記378a + 1bp構造は、非標準的なC1-A8対を確認する。興味深いことに、378a + 0bpおよび378a + 1bpがほぼ同一であるという事実は、ループコンホメーションが、pri-miRNAステムからの末端A:U対によって強くは影響されないことを示唆する。
【0047】
pri-miR-340(340 + 1bp)およびpri-miR-300(300 + 0bp)の構造は、7-ntループを含む。上記340 + 1bp構造は、末端A-U対の存在を確認し、これは、予測外のU1-U7対によってキャップされている(
図2dおよび
図7c)。上記ループの5’末端からのG2およびU3塩基は、U-U対の頂部にスタックする。これは、上記ループの頂部においてより可撓性のコンホメーションの中にちょうど3個の残基(C4、G5、およびU6)を残す。300 + 0bp構造では、上記足場の末端C-G対は、pri-miR-300ステムの最後の塩基対と同一であるので、この構造は、事実上300 + 1bpである。378aおよび340の場合のように、本発明者らは、U1とU7との間の非標準的な対形成を観察する(
図2eおよび
図7d)。同様に、U1、U2、U3およびA4の間の一連の塩基スタッキング相互作用は、上記ループの5’末端を調整している(order)。U6は、U2塩基と水素結合距離内にあり、ほとんど、別の非標準的な対を形成する。C5は、密度の外側にあり、より可撓性であるようである。
【0048】
pri-miR-202(6-ntループ)の構造において、本発明者らは、非標準的な塩基対を観察しなかった。しかし、他の構造と同様に、ループの5’末端にあるA1塩基は、pri-miRNAステムの最後のG-C対にスタックする(
図2fおよび
図7e)。ループの残りは、1σにおいて連続的な電子密度を示すが、本発明者らは、高い信頼性でコンホメーションを決定することはできなかった。全体的に、比較的長い(6~8-nt)pri-miRNAループの構造は、広範囲にわたる塩基スタッキングおよび非標準的な塩基対形成相互作用を明らかにし、これはおそらく、以前に理解されていたよりループを安定化する。結論として、ループ残基が少ないほど、コンホメーション的には可撓性である。
【0049】
次に、本発明者らは、より短いpri-miRNA末端ループの構造を調査した(4~5nt,
図3)。5-ntループを有するpri-miR-208a(208a + 1bp)の構造は、ステムからの最後のG-C対の上に位置した予測外のA1-U5フーグスティーン対を明らかにした(
図3aおよび
図7f)。ループの中央部の3nt、U2、C4、およびG3は、一緒におよびフーグスティーン対の中のA1塩基上に塩基スタックする。さらに、340+1bpからの非標準的なU-U対は、pri-miR-449cの構造中のU1とU5との間で繰り返される(
図3bおよび
図7g)。位置U1およびG2は、上記末端塩基対の上に一緒にスタックし、A3およびU4のみを密度の外側に残す。その2つのペンタループあ、1つのテーマを共有する:最も外側の2つの残基が、非標準的な塩基対を形成するのに対して、中心部の3個の残基が、対形成されず、それらの塩基のうちのいくつかがスタックされる。
【0050】
上記の202+1bpの構造と同様に、pri-miR-320b-2(5-ntループ)に関して、ループのA1残基は、ステムの末端A-U対の頂部に位置する(
図3cおよび
図7h)。最後に、pri-miR-19b-2(19b-2 + 1bp)のテトラループ構造において、5’ループヌクレオチドU1は、末端塩基対の上にスタックし、U1の頂部にA2の部分的スタッキング相互作用がある(
図3dおよび
図7i)。U3およびG4は、ほとんど電子密度の外側にあるが、G4
N7とA2の2’-OHとの間に接触が存在し得る(約2.6Å)。これらの構造は、より長いループ構造中に見られる5’ループ残基の非標準的な対形成および塩基スタッキングがまた、より短いループの折りたたみより優位になることを確認する。
【0051】
pri-miRNA尖端接合部の構造的コンセンサス
本発明者らのpri-miRNAステム-ループ構造は、末端ループを定義する構造的特徴の共通するセットに向く。これらの特徴をさらに例証するために、本発明者らは、全8個のpri-miRNAループの構造的アラインメントを生成した(
図4a)。第1に、本発明者らは、pri-miRNAステムの尖端においてmfold推定の標準的塩基対を常に認める(5’-1が3’-1と対形成)、ループは異なるサイズのものであることから、ここで本発明者らは、5’-1を使用して、pri-miRNA配列の5’末端からの第1の残基を表し、3’-1を使用して、3’末端からの第1の残基残基を表す。第2に、全ての構造において、ループの5’末端上の第1のヌクレオチドは、末端塩基対と塩基スタックする(5’-2は5’-1/3’-1とスタックする)。第3に、8個のループのうちの5個(378a、340、300、208a、449c)において、この塩基スタッキングはまた、非標準的な塩基対(5’-2は3’-2と対形成する)が付随し、尖端ループを2個のヌクレオチド程度、推定されるより効果的に短くする。第4に、全8個の構造は、5’側にある塩基スタッキング相互作用のうちの少なくとも1個のさらなるレベルを明らかにする(5’-3は5’-2上にスタックした)。対照的に、2個の構造のみが、3’側での第2層スタッキングを示す。これらの共通する特徴の他に、pri-miRNAループの他の残基は、極めて異なるコンホメーションをとるようであるか、または可撓性である。
【0052】
非標準的な塩基対は、熱力学的安定性に寄与する
本発明者らが観察した尖端接合部およびループの構造が、溶液中でのそれらの安定性に寄与するか否かを試験するために、本発明者らは、8個のpri-miRNA配列を共通する5-bpラセンセグメントに融合し(
図8a)、光学的融解を使用してそれらの熱力学的パラメーターを測定した。結晶構造におけるように、各pri-miRNA配列は、尖端ループおよびステムからの直ぐに隣り合う標準的な塩基対を含み、その結果、最小の尖端接合部が含まれる。本発明者らは、標準的なステム塩基対が、3個のpri-miRNAにおけるG-C対またはC-G対が他のものにおけるA-U対およびU-A対より安定であることに伴って、全体的な安定性に差次的に寄与すると予測する。しかし、この差異は、本発明者らが測定した折りたたみの自由エネルギー変化(ΔG)を完全には説明しない(表2)。本発明者らは、本発明者らが三次元構造において明らかにした非標準的な対を考慮に入れる場合、傾向が見えてくる。非標準的な対を形成し、末端ステム対としてG-CまたはC-Gを有する2個のpri-miRNA(pri-mir-300およびpri-mir-208a)は、最も安定であるのに対して、非標準的な塩基対を形成せず、A-UまたはU-Aの標準的なステム対を含むもの(pri-mir-320b-2およびpri-mir-19b-2)は、安定性が最小である(
図4b)。大部分の他のpri-miRNA配列(これらは、A-U/U-Aステム対を除いて非標準的な対を含む(pri-mir-340およびpri-mir-449c)、または非標準的な対を形成しないがG-C/C-Gステム対を有する(pri-mir-202)かのいずれかである)は、安定性において中間である。pri-mir-378a尖端接合部/ループは、1個の水素結合によって定義されるC-Aの非標準的な対を含み、それによって、安定性が最小の基に由来するものに類似のΔGを示す。まとめると、これらのデータは、pri-miRNA尖端接合部における非標準的な対が、溶液中のそれらの構造的安定性に寄与することを示唆する。
【0053】
ヒトpri-miRNAは、それらの尖端接合部においてU-U対およびG-A対を優先する
本発明者らは次に、全てのヒトpri-miRNAループ配列を分析することによって、pri-miRNA尖端接合部における非標準的な対の存在量を予測した。1,881のこのような配列の中で、340が、pri-miR-340、pri-miR-300、およびpri-miR-449c構造におけるように対形成する可能性が最も高い5’末端および3’末端の両方でU残基を含む(
図4c)。U-U対は、これらの位置における全ての可能な組み合わせの中で最も存在量が多いのに対して、偶然に予測される存在は、181である。この富化は、非常に顕著である。なぜならU-Uを偶然に340回観察するという確率は、181回に関するものより3×10
-28倍低いからである。第2の最も存在量が豊富な組み合わせは、5’-Gおよび3’-Aであり、245回認められ、139という最もありそうなカウントのオッズより偶然に起こる可能性が1×10
-16倍低い。他の末端組み合わせ(例えば、C-A(122回観察される))のループ配列カウントは、偶然に予測されるものとはそれほど実質的に異ならない(109回、P
122/P
109=0.42)。従って、本発明者らは、ヒトpri-miRNAが、ヘアピンステムの直ぐ隣のU-U対およびG-A対を優先すると結論付ける。
【0054】
興味深いことに、U-UおよびG-Aは、閉じた対として働く場合に、ヘアピンループを安定化することが公知である(16)。本発明者らのpri-miRNAループライブラリーを、U-U対およびG-A対の安定化効果を考慮している二次構造推定に部分的に基づいて構築した。本発明者らは、この小さなボーナスエネルギー期間が、pri-miRNA尖端ループにおいて閉じた対としてU-UおよびG-Aの富化を担うとは考えない。なぜなら大部分のpri-miRNAに関して、ループ配列は、pri-miRNAヘアピンステムの一部として強い標準的な塩基対によって定義されるからである。さらに、他の非標準的な対(例えば、G-G、C-AおよびA-C)はまた、安定化していることが公知である(しかし、わずかに少ない程度まで)が、それらは、pri-miRNA尖端接合部において富化されていない。この結果は、U-UおよびG-Aの非標準的な対が、おそらくそれらの安定化効果および/または特異的な幾何的特徴のために、pri-miRNA尖端接合部によって優先されることを示唆する。
【0055】
pri-miRNAループは、他のRNAと構造的特徴を共有する
本発明者らは、本発明者が網羅しなかったループコンホメーションが、pri-miRNAに特有であるか、または他のRNAステム-ループと共有されているかを求めた。この問題に対処するために、本発明者らは、PDBからのRNAヘアピン配列を、本発明者らのpri-miRNA構造に対してスレッド化し、次いで、そのスレッド化したポーズと元のPDBコンホメーションとの間でRMSDを計算した(方法の節を参照のこと)。pri-miR-378aに関して、本発明者らは、わずかに短く(6-ntまたは7-nt)、配列において異なるが、高度に類似の折りたたみを保持する3個のループを同定した(
図9)。これらの構造を比較することで、一般化したループモチーフが明らかにされる。これを本発明者らは、3’-プリンリッチスタックと称する(
図9b)。3’-プリンリッチスタックにおいて、上記ループの3’側にある4~5個の大部分のプリン塩基が、互いとらせんステムの頂部でスタックする。1個または2個のピリミジンは、ステムから最も遠い位置に見出され得る。ループの5’側に、2または3個のピリミジン残基、最も頻繁にはウリジンが、スタックした残基とステムとの間でリンカーとして働く。これらのリンカーピリミジンは、スタックしたプリンと水素結合を、ときおり、非標準的な塩基対を形成し、これは、全体のループをさらに安定化する。より広く、pri-miR-320b-2構造において、UGAAテトラループ中の3個のプリンは、互いとかつ隣り合うU-A対の頂部でスタックし、本質的に、3’プリンスタックを形成する。多くのpri-miRNAおよび他のヘアピンループは、3’プリンスタックと一致する配列を含む。全体的に、これらの観察は、pri-miRNAループ構造が、pri-miRNAに必ずしも特有ではなく、DGCR8およびDroshaが多くの他の細胞性RNAと相互作用するという以前の報告とも一致することを示唆する(17-21)。
【0056】
pri-miRNA尖端ループの非対称的なコンホメーションの可撓性
構造的安定性および動力学は、少なくとも2つの理由から、pri-miRNA接合部およびループにとって重要であるようである。第1に、共通するコンホメーション特徴は、安定であると予測される。第2に、動力学的領域は、プロセシングするタンパク質を結合する際に立体障害を回避し、プロセシングにとって都合のよいコンホメーションをとることをより容易にする。これを調査するために、本発明者らは第1に、原子変位パラメーター(ADP(温度因子またはB因子としても公知))が構造決定の間に精緻化されることを検討した。驚くことではないが、ループの頂部の残基は、大きなADPを有する。これは、それらが高度に動力学的であることを示唆する;それに対してステムに近い残基は、共通する構造特徴(例えば、非標準的な対および塩基スタッキング)に関与し、低いADPを有する傾向にある(
図10)。重要なことには、大部分のループは、pri-miR-378aを除いて、ループの5’領域においてより高い安定性および3’領域においてより可撓性に向かう傾向を示す。スタックした5’残基は、3’ヌクレオチドより一貫して安定性である。構造間でADPsをさらに比較するために、本発明者らは、残基あたりの平均ADPを計算し、次いで、それらど同じスケールでプロットした(
図4d)。ADPsにおけるピークは、大部分の構造にわたって、中央付近からループの3’末端に一貫して位置する。効率的プロセシングにとって重要であると以前に同定されたUGUモチーフ(5, 10)が、ループの5’領域に位置することに注意することは、興味深い。
【0057】
ループ動力学へのより詳細な検討のために、本発明者らは、陽溶媒(explicit solvent)中でpri-miRNA接合部およびループヌクレオチドの分子動力学シミュレーションを行った。単純性のために、そのシミュレーションは、pri-miRNA残基と足場からの2個の塩基対とを含むのみであり、本発明者らは、足場ヌクレオチドの位置を、鎖の巻き戻しを防止するために制限した(詳細に関しては方法の節を参照)。本発明者らは、1μsに対して300Kにおいてシミュレーションを実行し、各残基に対して平均二乗変動(RMSF)を計算することによって得られる軌跡を分析した(
図4e)。これらの統計は、中心部から3’ループ残基が、より広い範囲のコンホメーションをサンプリングするというより明確な傾向を裏付ける。
【0058】
Rhed結合親和性と尖端ループ長との間の相関
本発明者らは、ループ長における差異にもかかわらず、Rhedがpri-miRNA尖端接合部の全てをどのようにして認識するかを知りたいと思っていた。本発明者らは、尖端ループとステムからのおよそ20bpを含むpri-miRNAフラグメントに対するRhedの親和性を測定することによって、この問題に対処した(
図8b-i)。本発明者らは、電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)を使用して、各RNAに対するRhed解離定数(K
d)を決定した(
図11)。Rhedは、全pri-miRNAフラグメントを、1.9~9.2μMの範囲に及ぶK
dで結合した(
図5a~h)。このような差異は、認識にとって、特に、pri-miRNAがプロセシング機構に関して競合する場合には重要であり得る。本発明者らは、全体的なループ長に対して結合のΔGをプロットした(
図5i)ところ、より長いループのより強固な結合に向かう傾向に気づいた。この傾向は、本発明者らが、本発明者らの3D構造に基づいてループ長を較正した場合により明らかになった(長さから非標準的な対に関与する残基を引く。
図5j)。本発明者らの結果は、pri-miRNAループ長の優先性の生化学的な説明を提供するが、本発明者らは、pri-miRNAステムにおける差異が、Rhed親和性の範囲にも寄与する可能性を除外できない。本発明者らは、pri-miR-340(これは、ループの5’側にUGUモチーフを含む)が、この配列を欠く他の構築物と類似の親和性(K
d=3.5μM)でRhedを結合することを注記する。
【0059】
考察
本発明者らは、足場指向性結晶学が、RNA構造生物学にとっての強力なツールであり得るという概念実証を示す作業実施形態を提供する。この方法は、一般的な固定アームMBP融合技術(ここで標的タンパク質は、MBPに、連続αヘリックスリンカーを介して固定した配向で連結される)に類似であるようである(22)。しかし、本発明者らの操作アプローチは、標的RNAを、足場結晶の格子空隙内に特異的に位置づける。このような設計は、以下のいくつかのさらなる利点を生じる:(1)標的部分が、存在する格子接触を破壊しないことから、融合分子は元の条件下で結晶化され得る;(2)広い範囲の条件の再スクリーニングが不要であることから、最小量の精製した融合RNAが、結晶化に要求される;および(3)標的は、格子の中で隣り合う分子と相互作用せず、それによって、その構造が、溶液中でのコンホメーションを忠実に再現することを可能にする。
【0060】
この技術を、pri-miRNA認識の問題に適用すると、8個のpri-miRNA尖端接合部およびループ構造の原子レベル調査が提供される。これらのループは、ヒトpri-miRNAの中で最も頻度の高いループ長を網羅する。これらの構造は、尖端ループを閉じる非標準的な塩基対および5’末端におけるさらなる塩基スタッキングが関わる構造的コンセンサスをまとめて明らかにする。このコンセンサスは、pre-miR-20bの以前に報告されたNMR構造によって裏付けられる(6)。pre-miR-20bステムは、G-U対で終結し、隣り合う5’ループヌクレオチド(G)は、その対の頂部にスタックする(
図13)。上位20のNMRソリューションの比較から、これらが分子の安定な特徴であることが確認される。pre-miR-21のNMR研究から、尖端接合部における2個のタンデムU-G/G-U対に相当する弱いシグナルが明らかにされ、14-nt尖端ループが他の点で組織だっていないことが示唆された(11)。尖端接合部以外に、本発明者らのおよびNMR構造における尖端ループは、三次元コンホメーションにおいて異なる。これは、それらのコンホメーションが、直接的な特異性決定因子でないことを示唆する。これらのコンホメーションは、それらの個々の機能に関連する。例えば、pri-miR-125aループは、葉酸を結合するためのアプタマードメインとして機能し得る(23)。
【0061】
pri-miRNA尖端接合部における非標準的な対の観察は、それ自体としては、重要な構造的意味および機能的意味を有する。本発明者らの光学的融解実験は、これらの対形成が溶液中のRNAの熱力学的安定性に寄与することを示す(
図4b)。特に、U-U対およびG-A対は、ヒトpri-miRNAの尖端接合部において高度に富化されている(
図4c)。これらの対はしばしば、保存される。例えば、pri-miR-340のU-U対は、ほぼ完全に保存されているのに対して、全ての他の位置ではヌクレオチドバリエーションが起こる。U-U対の唯一のバリエーションは、Pteropus alectoにおけるU-G対による置換である。従って、尖端接合部のこれらの非標準的な対は、miRNA成熟にとって重要である可能性があるが、それらの正確な機能は、未だ決定されていない。マイクロプロセッサは、そのステムを両方の末端において固定することによって、pri-miRNAヘアピンを認識する(24, 25)。最適なpri-miRNAヘアピンステム長は、内部の非標準的な対を参入すれば、35±1bpであると予測される(10)。本発明者らの研究は、尖端接合部の末端非標準的な対が、考慮されるべきであることを示唆する。pri-miR-16-1の以前のハイスループット変異誘発は、その最適より長いステム長に起因すること、およびステムの尖端の標準的な対の破壊が、マイクロプロセッサ切断効率を増大させることを示す(10)。pri-miR-16-1では、G-A対が形成し、ヘアピンステムの末端においてスタックすると予測される。このようなシナリオでは、G-A対は、隣り合う標準的な対とともに破壊される必要がある。このような阻害効果は、RNA結合タンパク質よびRNAヘリカーゼによるmiRNA成熟の活性化を可能にする(26)。逆に、本発明者らは、pri-miRNAらせんステムが最適より短い場合には、非標準的な対が、マイクロプロセッサ複合体の中でヘアピンがフィットするのを助けるのではないかと考える。
【0062】
尖端接合部のコンホメーションはまた、マイクロプロセッサによって優先的に認識され得る。実際に、マイクロプロセッサは、pri-miR-30aステムの(塩基接合部から数えて)35番目のbp位置において、Watson-Crick塩基対よりU-G対を好む(10)。本発明者らは、別のハイスループット変異誘発データ(5)を再度分析したところ、C-A対が、マイクロプロセッサ切断生成物の中で、尖端接合部において高度に富化されていることを見出した(
図12)。さらに、5’ループ残基がスタックし、3’ループ部分がより可撓性である傾向は、UGUモチーフが配置され、プロセシング機構による認識のために曝されることを可能にする。さらなる研究が、この考えを試験するために必要とされる。
【0063】
本発明者らのヒトpri-miRNAループ配列の分析は、それらのうちの大部分が、最適な≧10-ntより短いことを示唆する。4~8ntの間のループ長を有する上記8個のpri-miRNAの中で、本発明者らは、上記ループ長と、Rhedとの結合の自由エネルギー変化との間に相関を認める(
図5i)。この相関は、非標準的な対に関与する残基が、ループ長の計算から排除される場合に改善される(
図5j)。Rhedへの優先的結合は、pri-miRNAをプロセシングのための有利な位置に保ち、それによって、≧10ntという最適なループ長に関する生化学的な説明を提供する(7)。Rhedに対するΔG
結合の差異は、1kcal/mol以内である。本発明者らは、このような中程度の差異が、実質的な生物学的および病理的結論を、特に、マイクロプロセッサが制限される場合に(例えば、多くのがん細胞において)有し得ると考える。マイクロプロセッサへの優先的結合は、尖端接合部とRhedとの相互作用によって代表されるように、ここで、pri-miRNAの中でプロセシングのヒエラルキーを生成する可能性があり、miRNA発現プロフィールを決定するために役立つ。
【0064】
尖端接合部およびループはまた、細胞質へと輸出されかつmiRNA成熟経路においてDicerリボヌクレアーゼによって切断されるpre-miRNAの一部である。以前の研究は、pre-miRNAのステムおよびループ長が、DroshaおよびDicer両方の切断効率に影響を及ぼし得ることを示した(8)。さらなる研究が、尖端接合部およびループ構造が、どのようにしてDicerプロセシング工程に寄与するかを理解するために必要とされる。さらに、pri-miRNA、mRNAおよびウイルスRNAヘアピンループを標的にする潜在的な治療剤を開発するという実質的な目的が存在する(11, 26, 27)。本発明者らの構造は、pri-miRNAループが、予測されるより多くの構造を含み、これは、結合のエントロピーペナルティーを低減することを示す。本発明者らの結晶化方法は、インヒビターの構造ベースの設計を可能にするはずである。
【0065】
方法
Pri-miRNA尖端ループ分析
尖端ループのおおよそのサイズを判断するために、本発明者らは、miRBase(リリース21)から、全ての註釈付きヒト「ヘアピン」配列およびそれらのゲノム座標をダウンロードした。miRBaseヘアピンは、代表的には、pre-miRNA部分を、基部ステム(basal stem)から種々の数のさらなる塩基対とともに含む。各ヘアピンに関して、本発明者らは、そのゲノム配列を使用して、上記RNAを、5’末端および3’末端において等しい数のヌクレオチド程度、全長が150ntに等しくなるまで延ばした。この150-ntの範囲は、完全なpri-miRNAヘアピンと、その基部接合部のいずれかの側にいくらかの1本鎖RNAとを含んだ。次いで、本発明者らは、全てのpri-miRNAヘアピンに関してMFOLD(14)を使用して推定二次構造を生成し、概して、上位のスコアの構造(すなわち、推定される折りたたみの自由エネルギーが最も低い)を保持した。本発明者らは、全ての推定を手動で検討して、それらが、予測されるヘアピン構造を、ステムの片方の鎖または両方の鎖に由来する成熟miRNA配列とともに反映することを確実にした;mfoldが代替のコンホメーションを推定した場合には、本発明者らは、およそ3個のヘリックスターンのステム長を含んだ最低の自由エネルギーを有する構造を選択した。本発明者らは、上記二次構造を、miRBaseからのものと手動で比較し、上記ステムから単離され、それによって不安定とみなされるヘアピンにおける1~2個の塩基対も排除した。
【0066】
YdaO結晶化足場のPDB掘り起こしおよび同定
本発明者らは第1に、PDBをフィルタリングして、RNA分子のみ(タンパク質もDNAもなし)を含むX線構造を得た。結晶格子中の空隙を同定するために、本発明者らは、以下の工程においてグリッドサーチアルゴリズムを実行するPyMOLスクリプトを書いた。(1)ユニットセルの3×3×3ブロック(すなわち、27コピーのユニットセル)を生成する。このブロックの中心にあるユニットセルは、ユニットセルの内部またはユニットセル間のいずれかに、全ての可能な格子空隙を認める。(2)ユニットセル軸の各々に沿った3個の単位ベクトル(すなわち、長さ1Åのa、b、およびcベクトル)を使用して、それぞれのユニットセルの辺の長さを5で除算したものより小さいi,j,kの整数値に関しては、形態5*i*a + 5*j*b + 5*k*cのグリッド点を反復して生成する。これは、グリッド点に5Åの空間を与える。(3)各グリッド点に関して、スーパーセルにおいて全てのC1’原子までの距離を計算し、最短をRlocalとして同定する。各構造に関して、最大のRlocalをRmaxとして有するグリッド点を同定する。
【0067】
適切な足場を見出すために、本発明者らは、次いで、大きなRmax値および非対称ユニットの単一分子を有する構造を手動で検討した。本発明者らは、格子中の空洞へと突出する任意のステム-ループを探すチェーンを追跡した。検討した数百もの候補の中で、YdaOリボスイッチ(PDB ID: 4QK8)のP2ステム-ループのみが、この条件を満たした(15)。
【0068】
YdaO WTおよびpri-miR-9-1融合RNAの調製ならびにネイティブゲル電気泳動
本発明者らは最初に、隣接するEcoRIおよびBamHI制限部位とともに、5’末端にT7プロモーター配列を、および3’側にHDVリボザイムを含むように、W.T. YdaO構築物を設計した。このフラグメントを、遺伝子ブロック(IDT)として合成し、二重消化し、pUC19プラスミドへとクローニングした。そのクローンを、Sanger配列決定法によって検証した。P2ループヌクレオチドをpri-miRNAステム-ループで置き換えるために、本発明者らは、2回のPCRプロトコールを使用した。全ての反応を、Q5高信頼性DNAポリメラーゼ(New England Biolabs)で、製造業者が推奨した反応工程およびサイクリング条件に従って行った。全ての反応は、同じ逆方向プライマーを含み、これは、HDVの3’末端にアニールし、BamHI部位
【化1】
を含んだ。第1のPCRに関しては、正方向プライマーは、pri-miRNA配列と足場上のおよそ20nt上流および下流とを含んだ。pri-miR-9-1融合物の正方向プライマーは、以下であった:
【化2】
このPCR生成物をゲル精製し、1μLを第2回のPCRのテンプレートとして使用した。全ての反応は、同じ逆方向プライマーおよび正方向プライマー
【化3】
を含んだ。これらは、共通する足場残基(太字)にアニールし、T7-プロモーター(斜体)およびEcoRI部位(下線)を付加した。第2回のPCR生成物をゲル精製し、EcoRIおよびBamHIで消化し、pUC19へとライゲーションした。所望の挿入物を含むクローンを、配列決定して検証した。
【0069】
WT YdaOおよびpri-miR-9-1融合構築物に関して、本発明者らは、マキシプレッププラスミド(maxiprep plasmid)を調製し、BamHIで一晩消化することによってそれらを直線状にした。転写反応物は、約400μg 直線化テンプレート、40mM Tris pH7.5、25mM MgCl2、4mM DTT、2mM スペルミジン、40μg 無機ピロホスファターゼ(Sigma)、0.7mg T7 RNAポリメラーゼ、および3mM 各NTPを、総容積5mL中に含んだ。37℃で4.5時間のインキュベーション後、最終MgCl2濃度を40mMに調節し、その反応物をさらに45分間インキュベートした。Mg2+ 濃度の上昇にもかかわらず、本発明者らは、HDVリボザイムによる部分的切断のみを観察した。反応物をエタノール沈殿させ、変性10% ポリアクリルアミドスラブゲルで精製した。その所望の生成物を、UVシャドウイング(UV shadowing)によって可視化し、ゲルから切り出した。ゲル片を砕き、30mL TEN緩衝液(150mM NaCl、20mM Tris pH 7.5、1mM EDTA)中で、4℃において一晩抽出した。次いで、本発明者らは、ゲル片を遠心分離し、RNAを、10-kDa分子量カットオフ(MWCO)を有するAmicon Ultra-15遠心分離フィルターユニットで濃縮した。RNAを、10mM HEPES pH7.5へと3回緩衝液交換し、約50μL 最終容積へと濃縮した。
【0070】
ネイティブゲル上での分析のために、5μM RNAストック溶液を、精製RNAの5mM Tris pH 7.0への希釈によって調製した。次に、2.5 μL RNAを、等容積の2×アニーリング緩衝液(35mM Tris pH 7.0、100mM KCl、10mM MgCl2、および20μM c-ジ-AMP(Sigma)を含む)と混合した。その混合物を、90℃で1分間加熱し、続いて、氷上で急速冷却し、次いで、37℃で15分間のインキュベーションを行った。そのアニールしたRNAを、40mM Tris pH 7.0、50mM KCl、5mM MgCl2、20% (v/v) グリセロールおよびキシレンシアノールを含む2×ローディング色素と混合し、Tris-ホウ酸(TB)泳動緩衝液での10% ポリアクリルアミドゲル上で分析した。そのゲルを、Sybr Green IIで染色し、Typhoon 9410 Variable Mode Imager(GE Healthcare)でスキャンした。
【0071】
結晶化のためのpri-miRNA-YdaO融合物の調製
本発明者らがpri-miR-9-1融合物に関して観察した不十分なHDV自己切断効率を考慮して、本発明者らは、ストラテジーを変更することを選択した。リボザイムを使用して均質な3’末端を作製する代わりに、本発明者らは、PCRを使用して、アンチセンスDNA鎖上の2個の5’残基を2’-O-メチル化した転写テンプレートを生成した。上記改変は、T7 RNAポリメラーゼによってテンプレート化されていないヌクレオチド付加を低減することが示された(28)。本発明者らは、3回のPCRアプローチを利用して、転写テンプレートを作製した。以下の全ての反応物は、同じ逆方向プライマー、5’-mCmUCCTTCCTTTATTGCCTCC-3’(配列番号8)(ここで「m」は、2’-O-メチル化を示す)を含んだ。第1回のPCRに関しては、本発明者らは、Q5ポリメラーゼとの50μL 反応を設定して、YdaOの3’フラグメントを正方向プライマー、5’-GGTACGGAGGAACCGCTTTTTG-3’(配列番号9)で増幅し、30サイクルの増幅を行った。その生成物をゲル精製し、1μLを、次の回のためのテンプレートとして使用した。第2回のPCRでは、本発明者らは、第1段階からの3’ YdaOフラグメントにアニールしたpri-miRNAループおよびステム配列を含む各構築物に対して特有の正方向プライマーを使用した。プライマー配列は、以下であった:
【化4】
【0072】
この反応はまた、50μLであり、Q5ポリメラーゼを30サイクル使用した。第2回のPCRからの生成物を、アガロースゲル電気泳動によって分析して、増幅を確認し、反応物のうちの40μLを、さらに精製することなく第3回のPCRのためのテンプレートとして使用した。2mL PCR反応物を、Phusion高信頼性DNAポリメラーゼ(Thermo-Fisher)および正方向プライマー
5’-GCAGAATTCTAATACGACTCACTATAGGTTGCCGAATCC-3’(配列番号18)
を使用し、35サイクル実行した。
【0073】
第3段階のPCR生成物を、HiTrap Q HPカラム(GE Healthcare)で精製した。緩衝液Aは、10mM NaClおよび10mM HEPES pH 7.5を含んだ;緩衝液Bは、2M NaClを有する以外は同一であった。カラムを20% 緩衝液Bで平衡化し、所望のDNA生成物を、2ml/分で10分間にわたって50% Bへの直線勾配で溶離した。本発明者らは、アガロースゲルでのピーク画分を分析して、それらが正確なサイズの単一のバンドを含んでいることを確認した。次いで、そのピーク画分をプールし、Amiconフィルターユニット(10kDa MWCO)で濃縮し、次いで、水で洗浄して、過剰な塩を除去した。DNAテンプレートの濃度(約200μL 最終容積)を、UV吸光度によって決定した。
【0074】
転写反応を、10mL容積中であることおよび2.8fmol DNAテンプレートを含むことを除いて、pri-miR-9-1融合物に関して上記で記載されるとおりに設定した。反応を、37℃において4時間実行し、続いて、フェノール-クロロホルム抽出を行った。上記転写物をAmiconフィルターユニット(10kDa MWCO)で濃縮し、0.1M トリメチルアミン-酢酸(TEAA) pH 7.0で洗浄した。上記RNA(約2mL)を、54℃において恒温にしたWaters XTerra MS C18逆相HPLCカラム(3.5μm 粒度, 寸法4.6×150mm)に注入した。TEAAおよび100% アセトニトリルを移動相として使用した。上記カラムを6% アセトニトリルで洗浄し、RNAを、0.4ml/分において80分間にわたる17% アセトニトリルへの勾配で溶離した。ピーク画分を、変性10% ポリアクリルアミドゲルで分析した。純粋画分をプールし、10mM HEPES pH 7.0へと、Amiconフィルターユニットを使用して緩衝液交換した。上記RNAを、<50μL 最終容積へと濃縮し、その濃度をUV吸光度によって決定した。
【0075】
結晶化、データ収集、および構造決定
全てのRNA-c-ジAMP複合体を、記載されるように調製した(15)。簡潔には、0.5mM RNA、1mM c-ジ-AMP、100mM KCl、10mM MgCl2、および20mM HEPES pH 7.0を含む溶液を、90℃へと1分間加熱し、氷上で急速冷却し、結晶化する直前に、15分間、37℃において平衡化した。スクリーニングを、0.5mL ウェル溶液を含む24ウェルプレートの中で行った;ハンギングドロップは、1μL RNA+1μL ウェル溶液からなった。プレートを室温でインキュベートし、結晶を、1週間以内に十分なサイズ(100μm~200μm超)へと全体的に成長させた。19b-2 + 1bpに関しては、上記ウェル溶液は、1.7M (NH4)2SO4、0.2M Li2SO4、および0.1M HEPES pH 7.1を含んだ。202 + 1bp、208a + 1bp、および320b-2 + 1bpに関しては、ウェルは、1.9M (NH4)2SO4、0.2M Li2SO4、および0.1M HEPES pH 7.4を含んだ。378a + 0bpのウェル溶液は、1.7M (NH4)2SO4、0.2M Li2SO4、および0.1M HEPES pH 7.4を含んだ。残りの構築物に関しては、結晶化を、0.4μL RNA + 0.4μL ウェル溶液からなるハンギングドロップで96ウェルプレートの中で行った。300 + 1bpに関しては、ウェル溶液は、1.88M (NH4)2SO4、0.248M Li2SO4、および0.1M HEPES pH 7.4を含み、300 + 0bpに関しては、ウェル溶液は、1.90M (NH4)2SO4、0.158M Li2SO4、および0.1M HEPES pH 7.4を保持していた。構築物340 + 1bpは、1.89M (NH4)2SO4、0.214M Li2SO4、および0.1M HEPES pH 7.4を含むウェル溶液から結晶化した。構築物378a + 1bpは、1.63M (NH4)2SO4、0.272 M Li2SO4、および0.1M HEPES pH 7.4から結晶化した。構築物449c + 1bpに関しては、上記ウェルは、1.89M (NH4)2SO4、0.128M Li2SO4、および0.1M HEPES pH 7.4を含んだ。
【0076】
全ての結晶を、20% (w/v) PEG 3350、20% (v/v) グリセロール、0.2M (NH4)2SO4、0.2M Li2SO4、および0.1M HEPES pH 7.3を含む凍結保護溶液中に短時間浸漬し、液体窒素中で急速凍結した。データを、Advanced Photon Source Beamline 24-ID-CまたはAdvanced Light Source Beamline 8.3.1において100Kで収集した。全ての構築物に関して、本発明者らは、波長 約1Åにおいてネイティブデータセットを収集した。320b-2+1bp、378a+0bp、および449c+1bpに関しては、本発明者らは、それぞれ、1個、2個または3個の結晶から1.9Åにおいてさらなる高リダンダンシーデータセットを収集することによって、リンの異常散乱を測定した。データをインデックス化し、統合し、XDSを使用してスケールを付けた(29)。
【0077】
異常データが利用可能である場合、本発明者らは、分子置き換え/単一異常分散アプローチ(molecular-replacement/single anomalous dispersion approach)の組み合わせ(MR-SAD)を使用して、部分的実験相を生成した。上記分子置き換えモデルは、YdaO c-ジ-AMPリボスイッチ構造(PDB ID: 4QK8)と、上記モデルから除去されたP2ステム上のGAAAテトラループからなった。相を、PhenixのPhaser-MRプロトコールにおけるデフォルト設定を使用して得た(30)。
【0078】
全ての構築物に関して、本発明者らは、Phenixを使用してデータへのMRモデル(上記)のリジッドボディーフィット(rigid body fit)を行うことによって、最初の回答を得た(利用可能な場合には、実験相拘束(experimental phase restraints)を含む)。これは、Rwork<30%を有する優れた初期モデルを生成した。次いで、本発明者らは、P2ステムの領域において電子密度マップを精査した。全てのRNAに関して、失われている塩基対およびループについてのさらなる密度を、2Fo-Fcおよび差異マップ(difference map)において明らかに見ることができた。次いで、本発明者らは、Cootにおいて失われている残基をモデル化した(31)。密度が不明確な場合には、本発明者らは、不完全なループでのモデル化を中止し、Phenixでさらなる回数の座標、ADP、およびTLSパラメーター精緻化を行った。これは、代表的には、失われている残基のさらなる密度を明らかにした。ループがいったん完全にモデル化された後、本発明者らは、上記のように、合理的なR因子およびモデル形状が得られるまで精緻化のさらなるラウンドおよび手動での調節を行った。
【0079】
シミュレートしたアニーリングコンポジットオミットマップ(annealing composite omit map)を、Phenixにおいて計算した(
図7)。19b-2 + 1bp、202 + 1bp、320b-2 + 1bp、340 + 1bp、および378a + 1bpの場合には、標準的アニーリング温度(5000℃)および他のデフォルトパラメーターは、合理的なマップを生成した。しかし、300 + 0bp、300 + 1bpおよび378a + 0bpに関しては、上記デフォルト設定は、壊れた密度の領域を有するノイズの多いマップを生成した。マップの質を改善するために、本発明者らは、アニーリング温度を1000℃へと低減し、省略した領域からバルク溶媒マスクを排除した。このタイプのコンポジットオミットマップは、Polderマップとして公知であり、溶媒マスクがより弱い密度を不明瞭にすることから防止する(32)。
【0080】
PDBにおける既知のRNAループ構造との比較
本発明者らのpri-miRNAループモデルに対して構造的類似性を有するPDBの中のRNAループを同定するために、本発明者らは、pri-miRNA尖端接合部およびループの座標を最初に抽出した。検索ツールは、上記の足場結晶化を同定するために使用されるRNA構造の同じセットであった。PDBセットからの各構造に関して、本発明者らは、DSSRを使用して、全てのヘアピンループを同定した。本発明者らは、RNA配列を各ヘアピンループから抽出し、pri-miRNA配列より短いループを排除した。pri-miRNAより長いループに関しては、本発明者らは、同じ長さを有するループの全てのフラグメントを得るために、スライディングウインドウを使用した。次いで、各ループ配列を、Rosetta(33)において「rna_thread」ルーチンを使用して、pri-miRNAモデルに対してスレッド化した。PyMOLスクリプトを使用して、本発明者らは、得られたスレッド化モデルを元のヘアピンループに整列させ、その2つのモデルの間でRMSDを計算した。本発明者らは、全てのPDB構造からRMSDデータを集計およびソートして、小さなRMSDを有するループを手動で精査して、構造的類似性を有するヒットを見出した。
【0081】
光学的融解
光学的融解実験のためのRNAを、合成DNAテンプレートからインビトロで転写した(IDT)。使用したオリゴヌクレオチドテンプレート配列は、以下であった:
【化5】
(T7プロモーターを斜体で、pri-miRNA接合部/ループセグメントを太字で示す)。
テンプレートを、T7プロモーターに相補的な第2鎖とアニールし、上記に記載されるとおりの大規模(10mL)転写反応に添加した。反応物をエタノール沈殿させ、20% ポリアクリルアミド変性ゲルで精製した。その所望のバンドを、UVシャドウイングによって回収した。ゲル抽出後、サンプルを、水へと緩衝液交換し、Amicon遠心分離フィルターデバイスで濃縮した。
【0082】
各RNAに関しては、6つの希釈物のセットを、初期吸光度が約1.0~0.1 AUの範囲に及ぶように、50mM NaClおよび10mM カコジル酸ナトリウム pH 7.0中に調製した。上記サンプルを、95℃へと1分間加熱し、氷上で急速冷却することによってアニールし、続いて、12℃へと平衡化した。融解測定を、ペルチェ素子タイプ(Peltier-type)の温度制御サンプルチェンジャーを装備したCary Bio300 UV可視分光光度計で行った。RNAを12℃から92℃へと、0.8℃/分の速度で加熱する間に、260nmでの吸光度を記録した。融解曲線を、Prism(GraphPad, バージョン7)を使用して分析し、以下の式にフィットさせた:
【数2】
(ここで吸光度(A)は、温度(T)の関数として近似される。エントロピーの変化(ΔS)およびエンタルピーの変化(ΔH)を、2本鎖
【数3】
および1本鎖
【数4】
の両方の直線状の領域に関する傾き(m)およびy切片(b)と同様にフィットさせた)。次いで、37℃での融解温度および熱力学的パラメーターを、これらのパラメーターから導出した(表2)。
【0083】
電気泳動移動度シフトアッセイ
ヒトヘム結合Rhedタンパク質をE.coliにおいて過剰発現させ、以前に記載される(25)ように、イオン交換およびサイズ排除クロマトグラフィーを使用して精製した。放射性標識したpri-miRNAステム-ループ(
図8b~i)を、インビトロ転写によって調製した。DNAテンプレートは、所望の配列とT7プロモーターを網羅するアンチセンスオリゴヌクレオチドからなり、センスオリゴとT7プロモーター配列とにアニールさせた(34)。各20μLの転写反応物は、50fmol テンプレート、40mM Tris pH 7.5、25mM MgCl
2、4mM DTT、2mM スペルミジン、2μg T7 RNAポリメラーゼ、0.5mM ATP、3mM UTP、CTP、およびGTPの各々、ならびに3nmol α-
32P-ATP(10μCi)を含んだ。転写を、37℃で2時間実行し、そのRNAを変性15% ポリアクリルアミドゲルで精製した。そのRNAを4℃において一晩、TEN緩衝液中で抽出し、イソプロパノール沈殿させ、40μL 水に再懸濁した。
【0084】
本発明者らは、近年報告されたEMSA手順を採用して、Rhed-pri-miRNA相互作用を調べた(35)。RNAを、100mM NaCl、20mM Tris pH 8.0中に希釈し、90℃において1分間加熱し、続いて、氷上で急速冷却した。アニールしたRNAを、10% (v/v) グリセロール、0.1mg/ml 酵母tRNA、0.1mg/ml BSA、5μg/ml ヘパリン、0.01% (v/v) オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(IGEPAL CA-630)、0.25ユニット RNase-OUTリボヌクレアーゼインヒビター、キシレンシアノール、20mM Tris pH 8.0、および0~20μM Rhedタンパク質を含む結合反応物に添加した。その溶液の最終塩濃度は、150mM NaClであった。結合反応物を、室温において30分間インキュベートし、その後、10% ポリアクリルアミドゲルに載せた。ゲルおよび泳動緩衝液の両方が、80mM NaCl、89.2mM Tris塩基、および89.0mM ホウ酸(最終pH 8.2)を含んだ。ゲルを、110Vで45分間、4℃において泳動させ、次いで乾燥させ、ストレージホスホスクリーン(storage phosphor screen)に曝した。スクリーンを、引き続いて、Typhoonスキャナー(GE Healthcare)でスキャンした。遊離RNAおよび結合RNAのバンドを、Quantity Oneソフトウェア(BioRad)を使用して定量し、PrismにおいてHillの式とフィットさせた。
【0085】
分子動力学シミュレーション
pri-miRNA残基と足場のP2ステムからの2個のG-C対に相当する座標を、各結晶構造から抽出した。水素を、GROMACSにおけるモデルに追加し(36)、RNAを、TIP3P 水分子を有する先端を切った十二面体ボックスの中で溶解した。そのボックスは、RNAを、それ自体の任意の定期的コピーから少なくとも1nm離して配置するために十分に大きかった。次に、K+イオンおよびCl-イオンを、上記システムに添加して、正味の電荷を中和し、最終KCl濃度 0.1Mを与えた。CHARMM27力場、Verletカットオフスキーム、および粒子-メッシュエバルト静電気(particle-mesh Ewald electrostatics)を、全ての計算に使用した。上記システムを、任意の原子に作用する最大の力が900kJ/mol/nm未満になるまでエネルギーを最小化した。上記システムの最終の位置エネルギー(potential energy)は、-1.3×105kJ/molの範囲にあった。
【0086】
次に、上記システムを、2工程において、先ずNVTアンサンブル中で、次いで、NPTアンサンブル中で最初に平衡化した。両方の平衡化シミュレーションを、2-fs時間工程を使用して、300Kで2nsにわたって実行した。NVTの間に、温度を、速度リスケーリングによって制御した。NPTに関しては、Parrinello-Rahman圧調節器(barostat)を使用して、圧力を1バールで維持した。生成MD実行に関しては、位置拘束を、足場からのG-C対に適用し、全てのpri-miRNAヌクレオチドを非拘束とした。全ての生成シミュレーションを、NPTにおいて2-fs時間工程で合計1μsにわたって実行した。GROMACSにおいてrmsfおよびクラスター化機能を使用して軌跡を分析した。
【0087】
pri-miR-223ハイスループットプロセシングアッセイの再分析
pri-miRNA-223に関して以前に報告したプロセシングアッセイからの配列決定データを、Sequence Read Archive(アクセッション番号: SRA051323)からダウンロードした(5)。pri-miR-223に相当するリードを、Bowtie2を使用して整列させた(37)。未知のヌクレオチドを含む任意のリードを、排除した。入力または選択ライブラリーからのリードを、それらの相当するバーコードによって分離し、Pythonで計数した。
【0088】
【0089】
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【0090】
結論
これは、本発明の好ましい実施形態の説明を結論づける。本発明の1またはこれより多くの実施形態の前述の説明は、例証および説明の目艇で示されている。本発明を網羅する、または開示される正確な形態に限定することは意図されない。多くの改変およびバリエーションは、上記の教示に照らして可能である。
【0091】
本明細書で引用される全ての刊行物、特許および特許出願は、全ての目的のためにそれらの全体において本明細書に参考として援用される。
【配列表】