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▶ 日本製紙パピリア株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】複合不織布
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/26 20120101AFI20240214BHJP
   D04H 1/425 20120101ALI20240214BHJP
   D04H 1/492 20120101ALI20240214BHJP
【FI】
D04H1/26
D04H1/425
D04H1/492
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020079712
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2021172932
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000176637
【氏名又は名称】日本製紙パピリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】奈良 明
(72)【発明者】
【氏名】山本 光保
(72)【発明者】
【氏名】倉石 伸一
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-121693(JP,A)
【文献】特開2005-113287(JP,A)
【文献】特開2008-208492(JP,A)
【文献】特開2001-064862(JP,A)
【文献】特開2012-211412(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102733093(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/26
D04H 1/425
D04H 1/492
D21H 27/30
B32B 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
網目構造を備える湿式不織布と、前記湿式不織布と交絡したパルプ繊維とを有することを特徴とする複合不織布。
【請求項2】
前記湿式不織布と、前記パルプ繊維との乾燥重量割合(湿式不織布:パルプ繊維)が、1:99~50:50の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の複合不織布。
【請求項3】
前記湿式不織布を構成する繊維中のセルロース系繊維の配合率が、20重量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な複合不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布とパルプ繊維とを重ねた状態で水射処理を施すことにより、不織布にパルプ繊維を交絡させた複合体が、知られている(特許文献1、2等)。
このような複合体の不織布には、合成樹脂で製造したスパンボンド不織布が用いられている。紙と同様に天然繊維等を含み、抄紙工程で製造される湿式不織布は、水を媒体としてシートが構成されることにより、スパンボンド不織布に比べ繊維同士が密接したシート構造を有する。そのため、湿式不織布は、複合体製造時の水射処理の際に水流が貫通しづらい。湿式不織布にパルプ繊維を重ねて水射処理を施しても、水流が貫通しなかった部分は、パルプ繊維と湿式不織布が十分に交絡せず、単に重ねたような状態に留まるため、湿式不織布は、複合体を形成する不織布として用いられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2-26970号公報
【文献】特開平8-260327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規な複合不織布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
1.網目構造を備える湿式不織布と、前記湿式不織布と交絡したパルプ繊維とを有することを特徴とする複合不織布。
2.前記湿式不織布と、前記パルプ繊維との乾燥重量割合(湿式不織布:パルプ繊維)が、1:99~50:50の範囲内であることを特徴とする1.に記載の複合不織布。
3.前記湿式不織布を構成する繊維中のセルロース系繊維の配合率が、20重量%以上であることを特徴とする1.または2.に記載の複合不織布。
【発明の効果】
【0006】
本発明の複合不織布は、網目構造を備える湿式不織布を用いることにより、パルプ繊維を湿式不織布に交絡させることができる。本発明の複合不織布は、セルロース系繊維を多く含む湿式不織布を用いることができ、セルロース系繊維のみからなる湿式不織布を用いることもできる。セルロース系繊維のみからなる湿式不織布を有する本発明の複合不織布は、生物由来かつ生分解性であるため、環境への負荷が小さい。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の複合不織布は、網目構造を備える湿式不織布と、この湿式不織布と交絡したパルプ繊維とを有することを特徴とする。
本発明の複合不織布は、網目構造を備える湿式不織布の上にパルプ繊維を積層し、水流交絡処理を施すことにより製造することができる。網目構造を備える湿式不織布は、水流が貫通できる開孔を有するため、パルプ繊維を湿式不織布に交絡させることができる。水流交絡処理は、公知の装置を用いて行うことができ、例えば、ウォータジェットノズルの穴直径0.06~0.15mm、水圧1~30MPa程度の装置を用いることができる。基材における湿式不織布とパルプ繊維との乾燥重量割合(湿式不織布:パルプ繊維)は、1:99~50:50の範囲内であることが好ましい。
【0008】
・湿式不織布
本発明で使用する湿式不織布は、網目構造を備える。
網目構造は、周期的に設けられた開孔を備えるものであれば特に制限されない。開孔を取り囲む形状としては、直線、曲線、またはこれらの組み合わせにより周期的に繰り返される形状を挙げることができるが、これに限定されるものではない。例えば、三角形、四角形、六角形等が周期的に繰り返された構造が挙げられる。また、開孔の形状も特に制限されないが、例えば、円、楕円等の円形、三角形、四角形、五角形等の多角形等が挙げられる。
【0009】
網目構造の開孔率は、3%以上60%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以上50%以下である。開孔率が3%に満たないと、水流が湿式不織布を貫通しにくくなり、パルプ繊維との交絡が不十分となる場合がある。一方、開孔率が60%を越えると、湿式不織布の強度が低下する場合がある。なお、本明細書において、開孔率とは、湿式不織布の単位面積(1cm以上)に対する開孔総面積の比を意味する。
【0010】
開孔面積(開孔一つ当たりの面積)は、0.1mm以上8.0mm以下であることが好ましく、0.15mm以上5.0mm以下であることがより好ましい。開孔面積が0.1mmより小さいと、水流が湿式不織布を貫通しにくくなり、パルプ繊維との交絡が不十分となる場合がある。開孔面積が8.0mmより大きくなると、湿式不織布の強度が低下する場合がある。また、開孔の間隔は、1.0mm以上4.0mm以下であることが好ましい。なお、開孔の間隔とは、ある開孔の中心から、隣接する開孔の中心までの距離を意味する。
【0011】
本発明の湿式不織布を構成する繊維は、湿式不織布の材料として用いられているものを特に制限することなく使用することができる。具体的には、針葉樹パルプや広葉樹パルプなどの木材パルプ、亜麻、ケナフ、楮、みつまたなどの靭皮繊維、バガス、竹、エスパルトなどの硬質繊維、コットンパルプなどの種子毛繊維、マニラ麻パルプ、サイザル麻パルプなどの葉鞘・葉繊維といった非木材パルプ等のセルロース系繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ乳酸系繊維、再生セルロース系繊維、ポリブチレンサクシネート系繊維、ポリエチレンサクシネート系繊維、ポリブチレンサクシネート・アジペート系繊維、ポリブチレンサクシネート・カーボネート系繊維、ポリカプロラクトン系繊維等の単一繊維、またはこれらを組み合わせた芯鞘型、偏芯型、サイドバイサイド型などの複合繊維等の合成繊維を用いることができ、また、1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0012】
ここで、セルロース系繊維を多く用いた湿式不織布は、通液性が低く水流が不織布を貫通しにくいため、水流交絡処理によりパルプ繊維と交絡させることが困難である。一方、本発明で使用する湿式不織布は、網目構造を備え、水流が貫通しやすいため、セルロース系繊維を多く含む湿式不織布であっても、パルプ繊維と効率的に交絡させることができる。そのため、湿式不織布を構成する繊維におけるセルロース系繊維の配合率を20重量%以上とすることができる。セルロース系繊維を多く含む湿式不織布を用いることにより、環境への負荷を低減することができ、また低コストとなる。セルロース系繊維を用いる場合は、湿式不織布を構成する繊維におけるセルロース系繊維の配合率は40重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることがさらに好ましく、100重量%であることが最も好ましい。
【0013】
熱可塑性合成繊維を配合することにより、本発明の複合不織布にヒートシール性を付与することもできる。
セルロース系繊維、再生セルロース系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ乳酸系繊維、ポリブチレンサクシネート系繊維、ポリエチレンサクシネート系繊維、ポリブチレンサクシネート・アジペート系繊維、ポリブチレンサクシネート・カーボネート系繊維、ポリカプロラクトン系繊維等の生分解性繊維を用いることにより、生分解性を付与することができ、これらのうち熱可塑性を有する生分解性繊維を用いることにより、さらにヒートシール性を付与することもできる。
【0014】
「製造方法」
本発明で使用する湿式不織布の製造方法は、網目構造を備える湿式不織布を抄造できる方法であれば特に制限されず、従来公知の方法により製造することができ、例えば、メッシュパターンワイヤーを用いることにより、網目構造を備える湿式不織布を抄造することができる。具体的には、円シリンダーにメッシュパターンワイヤーを使用する方法、または、短網式抄紙機で湿紙を形成後に湿紙を挟むようにメッシュパターンワイヤーを併走させ、このメッシュパターンワイヤーを通して高圧シャワー処理を行う方法により抄造することができる。
本発明で使用する湿式不織布の坪量は、求める強度、軽さ、開孔の多さ等に応じて選択することができるが、具体的には5g/m以上120g/m以下であることが好ましい。
【0015】
・パルプ繊維
本発明で使用するパルプ繊維は特に制限されず、木材パルプ繊維としては、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプ、溶解パルプ、マーセル化パルプ等、非木材系パルプ繊維としては、亜麻パルプ、マニラ麻パルプ、ケナフパルプ等の非木材系パルプ繊維、リヨセル等の精製セルロース繊維等を用いることができる。これらの中で、パルプ繊維長が長いものが、不織布と交絡しやすいため好ましく、具体的には平均繊維長で1.5mm以上であることがより好ましい。このようなパルプ繊維としては、例えば、針葉樹由来のパルプ、非木材系パルプ、精製セルロース繊維等が挙げられる。なお、この平均繊維長とは、JIS P8226-2(2011年版)パルプ-光学的自動分析法による繊維長測定方法で測定される長さ荷重平均繊維長である。
【0016】
本発明の複合不織布は、強度の向上、パルプ繊維の脱落防止のために、高分子樹脂を付着させることができる。高分子樹脂は、塗工液の状態で複合不織布に含浸、塗工等し、乾燥することにより、複合不織布に付着する。高分子樹脂を含む塗工液を複合不織布に含浸、塗工等する方法は特に制限されないが、強いせん断応力が加わるとパルプ繊維が湿式不織布から脱落する場合があるため、大きなせん断が加わらない方法が好ましく、例えば、サイズプレス、ロールコート(含浸orニップ)、カーテンコーター、スプレーコーター等が好ましい。また、乾燥は、公知の方法で行うことができる。
【0017】
高分子樹脂は、湿式不織布に付着するものであれば特に制限されず、求める性能に応じて選択することができる。例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、スチレン・ブタジエン共重合体系樹脂、カルボキシメチルセルロース、天然ゴム等を用いることができる。
【0018】
これらの高分子樹脂は、塗工液として塗工するが、塗工液は水系であることが好ましい。そのため、高分子樹脂は、水溶性または水分散性であることが好ましく、塗工液の粘度の調整が容易で塗工性に優れるため水分散性であることがより好ましい。塗工液には、高分子樹脂以外にも必要に応じて、消泡剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、紫外線防止剤、退色防止剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、インク定着剤、分散剤、界面活性剤等の各種助剤を含むことができる。
【実施例
【0019】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明の構成はこれに限定されない。
得られた複合不織布は、以下の測定方法により評価した。
測定方法
・坪量
湿式不織布の坪量は、JIS P8124に準拠して測定した。
・パルプ繊維脱落(接着テープによる剥離)
積層したパルプと湿式不織布との密着交絡状況を確認するため、複合処理後のパルプ積層面に接着テープを貼りつけた後、テープを引き剥がし、脱落するパルプ繊維の状況を比較した。
具体的には、パルプ積層面に専用のテープ(Scotch はって剥がせるテープNo.811 幅19mm)を、ゴムローラーを荷重250g/19mm幅で速度200mm/minで一往復させて密着させた。貼り付けたテープを、速度200mm/minで剥がした後、光学顕微鏡でテープ粘着剤面を幅19mm、長さ26mmの範囲内で観察し、不織布から脱落してテープに付着したパルプ繊維の本数を計数した。
【0020】
「実施例1」
カナダ標準ろ水度580mlCSFに調整した針葉樹木材パルプ85重量%と、カナダ標準ろ水度480mlCSFに調整したアバカパルプ15重量%とを混合して紙料とした。この紙料を円網抄紙機において30meshの平織りワイヤーを設置した円網シリンダーを用いて抄紙し、120℃のヤンキードライヤーで乾燥することで、網目構造を有する湿式不織布を得た。この網目構造を有する湿式不織布の坪量は15g/m、開孔率は8%、開孔面積は0.23mmであった。
得られた網目構造を有する湿式不織布に、パルプ繊維としてエアレイド法により解繊した針葉樹木材パルプを坪量32g/mになるように積層した。この積層したシートに、2~3MPaで連続3回処理できる高圧水流装置にて水流交絡を行い、135℃のヤンキードライヤーで乾燥することで坪量が47g/mの複合不織布を得た。
接着テープによる剥離評価では、積層面から一部のパルプ繊維の脱落が認められたが、テープ剥離後の湿式不織布には殆どのパルプ繊維が均一交絡密着した状況が確認された。パルプ積層面のパルプ繊維脱落は、317本であった。
【0021】
「実施例2」
カナダ標準ろ水度640mlCSFに調整した針葉樹木材パルプ45重量%と、単糸繊度1.7dT、繊維長5mmのポリエステル繊維15重量%と、単糸繊度1.7dT、繊維長5mmのポリエステル系芯鞘バインダー繊維40重量%を混合して紙料として用意した。この紙料を円網抄紙機において、合成樹脂でメッシュパターンをプリントしたワイヤーを設置した円網シリンダーを用いて抄紙し、120℃のヤンキードライヤーで乾燥することで網目構造を有する湿式不織布を得た。この網目構造を有する湿式不織布の坪量は15g/m、開孔率は27%、開孔面積は2.2mmであった。
得られた網目構造を有する湿式不織布を用い、実施例1と同様の方法でパルプ繊維をエアレイド法で積層及び水流交絡を行い、110℃のヤンキードライヤーで乾燥することで坪量が47g/mの複合不織布を得た。
接着テープによる剥離評価では、積層面から一部のパルプ繊維の脱落が認められたが、テープ剥離後の湿式不織布には殆どのパルプ繊維が均一に交絡密着した状況が確認された。パルプ積層面のパルプ繊維脱落は、347本であった。
【0022】
「実施例3」
カナダ標準ろ水度570mlCSFに調整した針葉樹木材パルプ30重量%と、単糸繊度2.2dT、繊維長6mmのポリエステル系芯鞘バインダー繊維70重量%を混合して紙料として用意した。この紙料を短網式抄紙機において短網上で湿紙を形成後に湿紙を挟むようにプラスチック製で10meshのワイヤーを並走させ、このワイヤーを通して高圧シャワー処理を行い、120℃のヤンキードライヤーで乾燥することにより網目構造を有する湿式不織布を得た。この網目構造を有する湿式不織布の坪量は16g/m、開孔率は49%、開孔面積は2.8mmであった。
得られた網目構造を有する湿式不織布を用い、実施例1と同様の方法でパルプ繊維をエアレイド法で積層及び水流交絡を行い、110℃のヤンキードライヤーで乾燥することで坪量が48g/mの複合不織布を得た。
接着テープによる剥離評価では、積層面から一部のパルプ繊維の脱落が認められたが、テープ剥離後の湿式不織布には殆どのパルプ繊維が均一交絡密着した状況が確認された。パルプ積層面のパルプ繊維脱落は、303本であった。
【0023】
「比較例1」
90meshの平織りワイヤーを用いた以外は実施例1と同様にして抄紙し、120℃のヤンキードライヤーで乾燥することで網目構造を有さない湿式不織布を得た。この不織布の坪量は15g/mであった。
得られた湿式不織布を用い、実施例1と同様の方法でパルプ繊維をエアレイド法で積層及び水流交絡を行い、135℃のヤンキードライヤーで乾燥を行った。
複合処理後の坪量は47g/mであったが、得られた複合不織布のパルプ積層面はパルプ層が不均一に付着した状況となり、接着テープによる剥離評価においても積層したパルプ繊維が剥落する箇所が生じたため測定不能であった。湿式不織布のパルプ繊維が剥落した箇所は、パルプ繊維がほとんど残っておらず、湿式不織布と積層パルプとの交絡化ができなかった。