(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】プレチャンバ
(51)【国際特許分類】
F02B 19/10 20060101AFI20240214BHJP
F02B 19/12 20060101ALI20240214BHJP
F02F 1/24 20060101ALI20240214BHJP
F02F 1/26 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
F02B19/10 C
F02B19/12 A
F02B19/12 E
F02F1/24 J
F02F1/24 E
F02F1/26
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019134126
(22)【出願日】2019-07-19
【審査請求日】2022-04-26
(32)【優先日】2018-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515191442
【氏名又は名称】ヴィンタートゥール ガス アンド ディーゼル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド イマースリー
(72)【発明者】
【氏名】マルセル オットー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス カレッリ
(72)【発明者】
【氏名】エイドリアン ヘンフリンク
(72)【発明者】
【氏名】コンラッド レース
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0104507(US,A1)
【文献】特開2016-020695(JP,A)
【文献】特開2001-271647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00-23/10
F02F 1/24
F02F 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼シリンダ
(20)と、ガス
-空気混合気の点火のためのただ1つのプレチャンバ(9)とを有するシリンダ・デバイス(30)であって、
前記プレチャンバ(9)が、前記ガス-空気混合気の点火のための、点火チャンバ長手軸線(3)を備えた点火チャンバ(12)と、前記点火チャンバ(
12)を前記燃焼シリンダ
(20)の主燃焼チャンバに連結するためのダクト(4)とを有し、
前記ダクト(4)が、前記点火チャンバ(12)への前記ダクト(4)の入口開口(6)を備えた第1のダクト部分(13)を有し、前記第1のダクト部分(13)が、第1の長手軸線(5)を有し、
前記点火チャンバ長手軸線(3)が、前記第1の長手軸線(5)に対する傾斜(A)を有し、前記入口開口(6)は、点火チャンバ内でタンブル流動が形成可能であるように偏心して配置され、
前記ダクト(4)は、ガス-空気混合気ビームが形成可能であるように配置されたただ1つの出口開口(7)を有している、シリンダ・デバイス(30)において、
前記入口開口(6)のエッジ(8)がソフト・エッジとして設計されること、及び
前記ダクト(4)が、第2の長手軸線(14)を有する第2のダクト部分(19)を有し、前記第2のダクト部分(19)が、前記第1の長手軸線(5)及び前記点火チャンバ長手軸線(3)に対して傾斜しており、前記燃焼シリンダ(20)が、
シリンダ・カバー(17)と、前記シリンダ・カバー(17)に配置された中央出口弁(26)
とを有し、前記プレチャンバ(9)が、前記燃焼シリンダ(20)
の主軸線(25)に対して偏心して配置され、また
前記プレチャンバ(9)、好ましくは前記プレチャンバ(9)の下方部(1)と、前記燃焼シリンダ(20)との間に圧入連結部が存在し、それにより前記プレチャンバ
(9)と前記燃焼シリンダ
(20)との間の直接的な熱伝達を可能にすることを特徴とする、シリンダ・デバイス(30)。
【請求項2】
前記第2のダクト部分(19)が円筒形部分を有し、又は前記出口開口(7)に向かって先細になっている、請求項1に記載のシリンダ・デバイス(30)。
【請求項3】
前記点火チャンバ(12)の容積と前記出口開口(7)の断面積の比が200mm~1000mmである、請求項1に記載のシリンダ・デバイス(30)。
【請求項4】
前記第1の長手軸線(5)が、前記点火チャンバ長手軸線(3)に対して実質的に0.1°~80°、好ましくは前記点火チャンバ長手軸線(3)に対して10°~45°、最も好ましくは16°~30°である角度(α)で配置され、且つ/又は
前記第2の長手軸線(14)が、前記点火チャンバ長手軸線(3)に対して実質的に0.2°~90°、好ましくは前記点火チャンバ長手軸線(3)に対して20°~80°、最も好ましくは45°~66°である角度(β)で配置され、且つ/又は
前記第2のダクト部分(19)が、前記シリンダ(20)の前記主軸線(25)に対して実質的に0.1°~90°、好ましくは40°~85°、より好ましくは70°~80°である角度(γ)で配置される、請求項1に記載のシリンダ・デバイス(30)。
【請求項5】
前記ダクト(4)が湾曲部分(29)を有し、前記湾曲部分(29)は、好ましくは、前記点火チャンバ長手軸線(3)に対して垂直な前記点火チャンバ(12)の最大断面の2分の1倍から、前記点火チャンバ長手軸線(3)に対して垂直な前記点火チャンバ(12)の最大断面の2倍までの範囲の曲率半径を有する、請求項1に記載のシリンダ・デバイス。
【請求項6】
前記プレチャンバ(9)が、点火チャンバ(12)内へ延びる前記ガス-空気混合気の点火のための点火手段(15)を、好ましくは点火プラグ(16)を有する、請求項1に記載のシリンダ・デバイス(30)。
【請求項7】
前記プレチャンバが、上部分(10)と、前記点火チャンバ長手軸線(3)に対して非対称に設計された下方部(1)とを有する、請求項1に記載のシリンダ・デバイス(30)。
【請求項8】
前記プレチャンバ(9)が前記シリンダ・カバー(17)内に配置され、且つ/又は
前記プレチャンバ(9)が
、前記
燃焼シリンダ(20)のシリンダ・ライナー(18)内に配置される、請求項1に記載のシリンダ・デバイス(30)。
【請求項9】
前記プレチャンバ(9)の容積と前記燃焼シリンダ(20)の圧縮容積の比が、0.2~1%、好ましくは0.25~0.8%である、請求項1に記載のシリンダ・デバイス(30)。
【請求項10】
前記プレチャンバ(9)の前記出口
開口(7)と前記中央出口弁(26)との間の距離(27)が、前記
中央出口弁(26)と前記
燃焼シリンダ(20)のシリンダ・ライナー(18)の間の距離(33)の0%~105%である、請求項1に記載のシリンダ・デバイス(30)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダ用のプレチャンバ(副燃焼室)、シリンダ・デバイス、及びプレチャンバから内燃機関の燃焼チャンバにガス-空気混合気を供給するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボアが大きく希薄燃焼で動作する(lean-operating)ガス・エンジンは、エンジンでの点火プロセスを確実にするために、一般にプレチャンバアセンブリを含む。プレチャンバは、小さいオリフィスを介してシリンダの主燃焼チャンバと流体連通したプレチャンバ容積部を含む。
【0003】
プレチャンバは、強力な点火源が必要とされる、いわゆる希薄燃焼エンジンに特に利用されている。この場合、主燃焼チャンバの希薄ガス混合気に点火するための大きいエネルギーを与えるために、プレチャンバが使用される。プレチャンバでは、過剰空気中で反応し一定の圧力条件及び温度条件を超えると自己着火する適切な燃料を注入することによって、又は適切な量のガスをプレチャンバに直接加えて得ることができる局所的な理論空燃比の空気-ガス混合気とともにグロー・プラグ若しくはスパーク・プラグを用いて、主燃焼チャンバから来る希薄な基本空気-ガス混合気に点火することができる。プレチャンバの形状は、実際の点火方法に依存する。グロー・プラグの有無にかかわらず、パイロット燃料(pilot fuel)に点火することにより、従来のスパーク・プレチャンバ点火システムよりも大きい点火エネルギーを与えることができる。要求条件は、一般に、プレチャンバに投入される基本空気-ガス燃料混合気と、注入されるパイロット燃料を素早く繰返し可能に混合することである。いくつかのプレチャンバ装置が知られているが、それらでは、上記の要求条件を同時に満たすことはできない。
【0004】
ガス燃料と空気の混合気に点火すると、主燃焼チャンバに投入される、燃焼燃料のフロント面が生じる。特にターボ過給機が利用されており、エンジンが高出力密度レベルで動作している場合、プレチャンバアセンブリは高温にさらされる。特に、内燃機関の動作中、最高温度のうちのいくつかはここで生じる。したがってプレチャンバの耐用期間は、内燃機関の寿命にとって極めて重要な要因になる。
【0005】
例えばDE1020140116911に開示されているように、プレチャンバはシリンダ・カバーの開口に少なくとも部分的に配置されてもよく、冷却流体がプレチャンバの外側表面に接触できるように、プレチャンバ・システムを実質的に囲む冷却空洞が設けられる。さらに、例えばUS201767356に開示されているように、プレチャンバは、冷却空洞と流体的に接触した孔を有してもよい。
【0006】
しかし、プレチャンバを取り外す、又は交換すべきとき、まず冷却流体を取り除かなければならず、冷却空洞がシリンダ容積部に対して閉じていることを確実にしなければならない。封止材を付けなければならず、それによりプレチャンバの組立てが複雑になる。
【0007】
US5,293,851には、プレチャンバを有するガス・エンジン向けの燃焼システムが開示されている。プレチャンバは、単純なダクトによって主燃焼チャンバに連結される。このダクトは流れが最適化されておらず、プレチャンバに通じる急なエッジを有しており、これにより、特に舶用エンジンなどの大型エンジンの場合、ライフ・サイクルが短くなり、シリンダに供給されるガス/空気混合気の分散が不十分になる。
【0008】
流れが最適化されたプレチャンバが、EP2975237に開示されており、ソフト・エッジを用いて設計されている。
【0009】
DE19703309には、2つの部分から製作されるプレチャンバが開示されている。プレチャンバは対称に作られており、したがって、ダクトを通るいかなる流れも、定まったタンブル流動よりもむしろ渦を生じさせることになる。
【0010】
WO2009/109694には、点火されたガス/空気混合気をシリンダの燃焼チャンバに対称に分散させるためのいくつかの開口を含む、オットー・サイクル向けのプレチャンバ装置が開示されている。こうしたプレチャンバは、高温によって開口間の小さい金属ブリッジが破壊されることにより、開口を有するパーツが頻繁に交換される傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】DE1020140116911
【文献】US201767356
【文献】US5,293,851
【文献】EP2975237
【文献】DE19703309
【文献】WO2009/109694
【文献】EP227572
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって本発明の1つの目的は、従来技術の欠点を回避し、シリンダ・デバイスに対してプレチャンバを最適に配置することができ、最適化された耐用期間が実現されるプレチャンバ及びシリンダ・デバイスを作り出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、ガス/空気混合気に点火するための点火チャンバと、点火チャンバをシリンダの主燃焼チャンバに連結するためのダクトとを有する、ガス-空気混合気に点火するための内燃機関のシリンダ用のプレチャンバによって達成される。ただ1つのダクトが存在することが好ましい。
【0014】
プレチャンバは、一体化され好ましくは自立した冷却アセンブリを備えるハウジングを有する。
【0015】
「自立した(Autarkic)」とは、冷却がシリンダとは独立していることを意味する。したがって、プレチャンバがシリンダから取り外された場合、又はシリンダに完全に組み付けられていない場合でも、依然として冷却が可能である。例えば、冷却流体とシリンダの一部との間にはいかなる接触もなしに、冷却流体空隙だけでなく冷却アセンブリと冷却流体供給源との間にも流体連結部を直接確立することができる。冷却アセンブリは、シリンダに対して閉じられていることが好ましい。
【0016】
好ましい一実施例では、ハウジングは、少なくとも1つの冷却チャネルを有する。チャネルの直径は、局所肉厚(local wall thickness)の0.2~0.8倍であることが好ましい。
【0017】
水又は油を、冷却流体として使用することができる。
【0018】
複数の冷却チャネルがハウジングに配置されてもよい。冷却チャネルは、冷却流体、特に水などの冷却液が通過するのに適している。
【0019】
少なくとも1つの冷却チャネルは、冷却流体供給源へと流体連結するための入口と、冷却流体シンクへと流体連結するための出口とを有する。冷却流体供給源及び冷却流体シンクは、同じ冷却流体槽によって確立されてもよい。プレチャンバは、ただ1つの冷却流体入口及びただ1つの冷却流体出口を有することが好ましい。
【0020】
プレチャンバの、ダクトを有する部分は、通常はプレチャンバの下方部と呼ばれる。プレチャンバが組み立てられたとき、プレチャンバの下方部は、シリンダのカバー又はライナーに位置決めされる。下方部とは逆の方に向いた部分は、プレチャンバの上方部と呼ばれる。通常は、上方部の少なくとも一部はシリンダのカバー又はライナーから突出する。冷却流体入口及び冷却流体出口は、プレチャンバの、ダクトが配置されている部分とは逆の方に向いた、プレチャンバの上方部に配置されることが好ましい。
【0021】
好ましくは、冷却流体入口及び冷却流体出口は、二体式プレチャンバの上方部に配置される。
【0022】
少なくとも1つの冷却チャネルは、二体式プレチャンバの上方部のみに配置されてもよい。好ましくは、冷却チャネルは、二体式プレチャンバの上方部及び下方部に配置される。
【0023】
したがって、冷却流体は、シリンダのいかなる部分も通る、又は伝うことなく、プレチャンバに直接供給され得る。
【0024】
プレチャンバ、特に、少なくともプレチャンバの下方部は、3Dプリンティング法によって形成されてもよく、粉末冶金法によって形成されてもよい。プレチャンバは、KFS99又はNiCr50などのニッケルをベースとした材料から製作することができる。
【0025】
有利な一実施例では、プレチャンバのハウジングは、内側ハウジングと、冷却流体を内側ハウジングの近くに保持するためのケーシングとを有する。
【0026】
ケーシングは、金属板(メタルシート)で製作されることが好ましい。ケーシングは、耐食合金、Co-Cr合金、又はNimonic80A若しくはNICR50のようなNI-Cr合金で製作することができる。使用される材料は、EP227572B1に開示されているような合金でもよい。
【0027】
冷却チャネルは、内側ハウジングとケーシングの間に位置付けられてもよい。例えば、内側ハウジングとケーシングの間の空間に管が配置されてもよい。別法として、ハウジングとケーシングの間の空間が冷却剤によって辿られてもよい。
【0028】
本発明の目的は、燃焼シリンダと上述のようなプレチャンバとを有するシリンダ・デバイスによっても達成される。
【0029】
好ましくは、シリンダ・デバイスは、大型舶用エンジンに使用することができる。本発明による大型舶用エンジンは、シリンダの内径が少なくとも100mm、好ましくは200mmの内燃機関である。
【0030】
エンジンは、2ストロークのクロス・ヘッド型エンジンであることが好ましい。エンジンは、ディーゼル・エンジンでもよく、デュアル・フューエル・エンジンでもよい。
【0031】
本発明の目的は、燃焼シリンダと、ガス/空気混合気に点火するためのプレチャンバとを有する、好ましくは大型舶用エンジン向けの、好ましくは上述のようなシリンダ・デバイスによっても達成される。
【0032】
本発明によれば、プレチャンバ、好ましくはプレチャンバの下方部と、燃焼シリンダ、好ましくは燃焼シリンダのカバー及び/又はライナーとの間には、プレチャンバと燃焼シリンダの間の直接的な熱伝達を可能にする連結部が存在する。
【0033】
したがって、プレチャンバのハウジング及び/又はケーシングからシリンダのカバー及び/又はライナーへと、直接的に熱を伝達することができる。
【0034】
さらに、一体化された冷却システムにより、プレチャンバから熱を取り去ることができる。
【0035】
シリンダは、冷却システム、例えばライナー及び/又はカバーに配置された、熱の除去を促進する冷却チャネルを有することができる。
【0036】
プレチャンバと燃焼シリンダの間には、圧入連結部が存在することが好ましい。
【0037】
好ましくは、プレチャンバと燃焼シリンダの間の接触面は、主として環状のシリンダとして形成され、半径と長さの比は0.5~2、とりわけ1である。
【0038】
したがって、接触面は、適当な熱伝達を可能にするのに十分に大きい面積を有する。
【0039】
少なくとも、プレチャンバの下方部、並びにシリンダのライナー及び/又はカバーは、金属を含むか又は金属で製作される。したがって、特に熱勾配が存在する場合、熱は接触区域へと、また接触区域から離れるように伝達される。プレチャンバからシリンダへの熱伝達を促進する熱勾配は、例えばシリンダの冷却システムの冷却剤によって実現されてもよい。
【0040】
シリンダ・デバイスの有益な一実施例では、プレチャンバは、点火チャンバ長手軸線を有する、ガス-空気混合気に点火するための点火チャンバと、点火チャンバをシリンダの主燃焼チャンバに連結するためのダクトとを有する。
【0041】
ダクトは、二体式プレチャンバの下方部に配置されることが好ましい。
【0042】
好ましくは、プレチャンバの上方部のハウジングの少なくとも一部は、円筒形の形状を有する。通常、点火チャンバ長手軸線は、各円筒軸線に平行である。
【0043】
ダクトは、点火チャンバに通じるダクトの入口開口を備えた、第1のダクト部分を有する。第1のダクト部分は、第1の長手軸線を有する。
【0044】
点火チャンバ長手軸線は、第1の長手軸線に対して傾斜している。
【0045】
入口開口は、点火チャンバにおいてタンブル流動を形成することができるように偏心して配置される。入口開口のエッジは、ソフト・エッジとして設計されることが好ましい。
【0046】
本出願の文脈では、ソフト・エッジという用語は、2つの表面、例えば入口開口の表面と点火チャンバの表面が、表面が連続的に変化し得ないエッジなしで互いに融合することを意味する。
【0047】
ダクトは、ガス-空気混合気のビームを形成できるように配置された、好ましくはただ1つの出口開口を有する。
【0048】
ダクトは、第1の長手軸線及び点火チャンバ長手軸線に対して傾斜した第2の長手軸線を有する第2のダクト部分を有する。
【0049】
こうした構成により、ガス及び空気の分散が最適化され、したがってプレチャンバ及びシリンダの主燃焼チャンバでの点火が最適化される。さらに、プレチャンバの耐用期間が延びる。
【0050】
さらなる態様によれば、本発明の目的は、燃焼シリンダと、ガス/空気混合気に点火するためのただ1つのプレチャンバとを有する、好ましくは大型舶用エンジン向けの、好ましくは上述のようなシリンダ・デバイスによって達成される。
【0051】
プレチャンバは、点火チャンバ長手軸線を有する、ガス-空気混合気に点火するための点火チャンバと、点火チャンバを燃焼シリンダの主燃焼チャンバに連結するためのダクトとを有する。
【0052】
ダクトは、点火チャンバに通じるダクトの入口開口を備えた第1のダクト部分を有する。
【0053】
第1のダクト部分は第1の長手軸線を有する。点火チャンバ長手軸線は、この第1の長手軸線に対して傾斜している。
【0054】
入口開口は、点火チャンバにおいてタンブル流動を形成することができるように偏心して配置される。
【0055】
入口開口のエッジは、ソフト・エッジとして設計される。
【0056】
ダクトは、ガス-空気混合気のビームを形成することができるように配置された、ただ1つの出口開口を有する。
【0057】
ダクトは、第1の長手軸線及び点火チャンバ長手軸線に対して傾斜した第2の長手軸線を有する第2のダクト部分を有する。
【0058】
好ましい一実施例では、プレチャンバは、好ましくはシリンダ・ライナーの内径の近くで、好ましくはシリンダ・カバー内のシリンダ・ライナーの内径の近くで、燃焼シリンダの主軸線に対して偏心して配置される。
【0059】
本発明においては、シリンダ・ライナーの内径の近くとは、プレチャンバが、シリンダ・デバイスのシリンダ軸線よりもシリンダ・ライナーの内径に近いところに配置されることを意味する。
【0060】
この構成により、ガス-空気混合気は、燃焼チャンバの主軸線に対して非対称に主燃焼チャンバへと流れ込むことになる。
【0061】
ダクトの出口開口は、シリンダの主軸線に向かって方向付けられていない主流出方向を提供することが好ましい。
【0062】
内燃機関は、通常、シリンダ内に配置された少なくとも1つのピストンを有する。ピストンは、クランクシャフトに連結されたピストン・ロッドによって駆動される。クランクシャフトの回転の度合いを利用して、シリンダ内部のピストンの位置が示される。ピストン及びシリンダにより、可変の主燃焼チャンバ及び可変の第2のチャンバが画定される。通常、ピストンはシリンダ内で上下に動き、したがってシリンダを上方空間と下方空間に分割する。前記上方空間により燃焼チャンバが画定され、前記下方空間により第2のチャンバが画定される。前記チャンバのサイズは、ピストンの実際の位置に依存する。
【0063】
第2のチャンバは流体連結可能であり、特に、圧縮空気流を第2のチャンバへと投入する少なくとも1つの入口開口を介して、ターボ過給機の圧縮機側に連結される。さらに、主燃焼チャンバは連結可能であり、特に、シリンダの排気開口を介してターボ過給機のタービン側に連結される。また、主燃焼チャンバは連結可能であり、特に、ピストンがその下死点(BDC:lower dead center)にあるとき、シリンダの下端部の入口開口を介してターボ過給機の前記圧縮機側に連結される。
【0064】
プレチャンバから燃焼チャンバへと流れ込むガス-空気混合気は、燃焼チャンバ内のガス-空気混合気と混ざる。接線方向に流入することにより、燃焼チャンバ内で環状の流れが促進又は生成される。こうした設計により、点火されたガス-空気混合気を主燃焼チャンバへと最適に分散させることが可能になる。
【0065】
プレチャンバは、上述のような冷却システムを備えるプレチャンバであることが好ましい。
【0066】
第2のダクト部分は、円筒形部分を有してもよく、出口開口に向かって先細にされてもよい。第2のダクト部分の内側開口面積も出口開口に向かって縮小されてもよく、それにより、第2のダクト部分は、流れ出るガス-空気混合気を加速させるノズルを形成する。ガス-空気混合気は、主燃焼チャンバ内のより遠くに投入される。
【0067】
点火チャンバの容積と出口開口の断面積の比は、200mm~1000mmでもよい。
【0068】
容積のこうした比により、シリンダ・デバイスの燃焼チャンバへと至るガス-空気混合気の流れ及び流速が最適化される。
【0069】
点火チャンバの容積は、ダクトの容積を除いたプレチャンバの容積に対応する。
【0070】
第1の長手軸線は、点火チャンバ長手軸線に対して実質的に0.1°~80°、好ましくは点火チャンバ長手軸線に対して10°~45°、最も好ましくは16°~30°の角度で構成することができる。
【0071】
第2の長手軸線は、点火チャンバ長手軸線に対して実質的に0.2°~90°、好ましくは点火チャンバ長手軸線に対して20°~80°、最も好ましくは45°~66°の角度で構成することができる。
【0072】
第2のダクト部分は、シリンダの主軸線に対して実質的に0.1°~90°、好ましくは40°~85°、より好ましくは70°~80°の角度で構成することができる。
【0073】
こうしたダクトにより、ガス-空気混合気が燃焼チャンバ内で最適な形で非対称に分散される。
【0074】
有利な一実施例では、ダクトは湾曲部分を有する。湾曲部分の曲率半径は、点火チャンバ長手軸線に対して垂直な点火チャンバ最大断面の2分の1倍から点火チャンバ長手軸線に対して垂直な点火チャンバ最大断面の2倍までの範囲であることが好ましい。
【0075】
こうしたダクトでは流れが最適化され、流速が最適になる。
【0076】
少なくともプレチャンバの下方部は、鋳造、精密鋳造、3Dプリンティング法、又は粉末冶金法によって生産されることが好ましい。
【0077】
好ましい実施例では、プレチャンバは、ガス-空気混合気に点火するための点火手段、好ましくは点火チャンバへと延在する点火プラグを有する。
【0078】
点火手段により、プレチャンバのガス-空気混合気が点火され、これにより、燃焼安定性が向上した効率的な燃焼が生じる。
【0079】
プレチャンバは、燃料をプレチャンバに供給することができる燃料供給器を有してもよい。自己着火を用いる場合、燃料供給器は点火手段の代替となる。
【0080】
プレチャンバの上方部のハウジングは、点火手段又は燃料供給器を挿入するための開口を有してもよい。開口は円筒形部分を有してもよく、各円筒軸線は、点火チャンバの長手軸線に対して平行になる。
【0081】
プレチャンバは、上部分と、点火チャンバ長手軸線に対して非対称に設計された下方部とを有することができる。上部分と下方部はプレチャンバの別々の部分として独立して製造され、組み立てられてプレチャンバを形成することが好ましい。
【0082】
プレチャンバは、シリンダ・カバー及び/又はシリンダ・ライナーに配置することができる。
【0083】
プレチャンバは、シリンダ・カバー及び/又はシリンダ・ライナーに接触することが好ましい。
【0084】
シリンダ・デバイスの有益な一実施例では、プレチャンバの容積と燃焼シリンダの圧縮容積の比は、0.2~1%、好ましくは0.25~0.8%である。
【0085】
圧縮容積は、ピストンがその上死点(TDC:top dead center)にあるときの、燃焼チャンバの最小容積である。
【0086】
このように、ガス-空気混合気が流入することによって燃焼チャンバ内でガス流を効果的に混ぜることが可能になるので、シリンダ・デバイスが1つのプレチャンバしか有しないときでも、プレチャンバの容積はこのように小さくてもよい。
【0087】
好ましい一実施例では、燃焼シリンダは、シリンダ・カバーに配置された中央出口弁を有する。中央出口弁はシリンダ・カバーの中央の位置を占めるので、プレチャンバの出口は、主シリンダ軸線に対して非対称に配置されなければならない。
【0088】
プレチャンバの出口と中央出口弁との間の距離は、出口弁とライナーの間の距離の0%~105%であることが好ましい。
【0089】
プレチャンバの出口は、中央出口弁の近くのシリンダ・カバーに配置されてもよい。
【0090】
プレチャンバの出口が燃焼チャンバに流体連結したライナー開口へとガス-空気混合気を排出するように、シリンダ・ライナーにプレチャンバの出口を配置してもよい。したがって、プレチャンバの出口と中央出口弁との間の距離は、シリンダ・ライナーと出口弁の間の距離よりも長くなる。
【0091】
本発明の別の態様によれば、好ましくは上述のようなプレチャンバから、好ましくは上述のようなシリンダ・デバイス内の内燃機関の燃焼チャンバへとガス-空気混合気を供給する方法が提供される。
【0092】
ガス-空気混合気は、プレチャンバのダクトの出口から燃焼チャンバへと案内される。ガス-空気混合気は、環状の流れで燃焼シリンダの主軸線の周りを流れ、ターボ過給機から燃焼チャンバに投入された空気と混ざる。
【0093】
以下では、各図を用いて、複数の実施例において本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【
図1】プレチャンバの第1の実例の概略断面図である。
【
図2】プレチャンバの第2の実例の概略断面図である。
【
図3】プレチャンバの第3の実例の概略断面図である。
【
図4】プレチャンバを有するシリンダ・デバイスの第1の実例の概略断面図である。
【
図5】プレチャンバを有するシリンダ・デバイスの第2の実例の概略断面図である。
【
図6】プレチャンバを有するシリンダ・デバイスの第3の実例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0095】
図1には、プレチャンバ9の第1の実例の概略断面図が示してある。プレチャンバ9は、ガス-空気混合気に点火するための点火チャンバ12と、点火チャンバ12をシリンダ20(
図4及び
図5を参照)の主燃焼チャンバ21(
図4及び
図5を参照)に連結するためのダクト4とを有する。
【0096】
ダクト4は、ただ1つの出口開口7を有する。
【0097】
プレチャンバ9は、一体化され好ましくは自立した冷却アセンブリ28を備えるハウジング11を有する。この場合、プレチャンバ9は、プレチャンバ9の上方部2を終端とする冷却チャネル22を有する。
【0098】
ダクト4は、点火チャンバ12に通じるダクト4の入口開口6を備えた第1のダクト部分13を有する。
【0099】
第1のダクト部分13は、第1の長手軸線5を有する。点火チャンバの長手軸線3は、第1の長手軸線5に対して傾斜している。第1の長手軸線5は、点火チャンバの長手軸線3に対して16°~30°の角度αで構成することができる。
【0100】
入口開口6は、点火チャンバ12においてタンブル流動を形成することができるように偏心して配置される。
【0101】
ダクト4は、第2の長手軸線14を有する第2のダクト部分19を有し、この第2の長手軸線14は、第1の長手軸線5及び点火チャンバ長手軸線3に対して傾斜している。第2の長手軸線14は、点火チャンバ長手軸線3に対して45°~66°の角度βで構成することができる。
【0102】
ダクト4は、第1のダクト部分13と第2のダクト部分19を連結する湾曲部分29をさらに有する。
【0103】
入口開口6のエッジ8は、ソフト・エッジとして設計される。
【0104】
プレチャンバ9は、点火チャンバ12へと広がるガス-空気混合気に点火するための点火手段15、この場合は点火プラグ16を有する。
【0105】
図2には、プレチャンバ9の第2の実例の概略断面図が示してある。
【0106】
プレチャンバ9は、シリンダ・カバー17に配置される。
【0107】
プレチャンバ9のハウジング11は、冷却チャネル22を有する。冷却チャネル22は冷却チャネル入口31を有し、この冷却チャネル入口31は冷却流体供給源(図示せず)に連結させることができる。冷却チャネル入口31並びに冷却チャネル出口32(
図7参照)はプレチャンバ9の上方部2に配置されており、したがって、冷却アセンブリは自立し、シリンダ・カバー17とは独立して使用することができる。
【0108】
図3には、プレチャンバ9の第3の実例の概略断面図が示してある。ハウジング11は、内側ハウジング23と、金属板で製作することができ、冷却流体を内側ハウジング23の近くに保持するためのケーシング24とを有する。この場合、冷却チャネル22は内側ハウジング23とケーシング24の間に配置される。冷却チャネル22は、プレチャンバ9の上方部2に広がる冷却チャネル入口31及び冷却チャネル出口32を有する。
【0109】
図4には、シリンダ・カバー17に配置されるただ1つのプレチャンバ9を有するシリンダ・デバイス30の第1の実例の概略断面図が示してある。
【0110】
プレチャンバ9は、燃焼チャンバ21にガス-空気混合気のビームを形成することができるように配置された、ただ1つのダクト出口開口7を有する。ダクト出口開口7は、ガス-空気混合気の出て行く流れがシリンダ20の主軸線25に向かって方向付けられないように配置される。
【0111】
図5には、
図2に開示したようなプレチャンバ9を有するシリンダ・デバイス30の第2の実例の概略断面図が示してある。
【0112】
シリンダ・デバイス30の燃焼シリンダ20は、シリンダ・カバー17に配置された中央出口弁26を有する。
【0113】
プレチャンバ9の出口7は、シリンダ・カバー17に配置される。
【0114】
図には詳細に開示していない、ただ1つの出口7をそれぞれ有するさらなるプレチャンバ9が、シリンダ・カバー17に配置されてもよい。
【0115】
第2の長手軸線14を有するプレチャンバ9の第2のダクト部分19は、ガス-空気混合気がシリンダ20の内部のガス-空気流のスワールに供給されるように、シリンダ20の主軸線25に対して70°~80°の角度γで配置することができる。
【0116】
図6には、プレチャンバ9を有するシリンダ・デバイス30の第3の実例の概略断面図が示してある。
【0117】
シリンダ・デバイス30の燃焼シリンダ20は、中央出口弁26と、シリンダ・カバー17に配置された入口開口35とを有する。
【0118】
プレチャンバ9の出口7と中央出口弁26との間の距離27は、出口弁26とライナー18の間の距離33よりも短い。
【0119】
プレチャンバ9は、シリンダのライナー18に配置することもできる(図示せず)。この場合、プレチャンバ9の出口7と中央出口弁26との間の距離27は、出口弁26とライナー18の間の距離33よりも長くなり得る。
【0120】
図7には、
図5に示したようなシリンダ・デバイス30の第2の実例の詳細が示してある。
【0121】
プレチャンバ9の下方部1と燃焼シリンダ20の間には、直接的な熱伝達を可能にする連結部、この場合は圧入連結部が存在する。
【0122】
プレチャンバ9と燃焼シリンダ20の間の接触面34は、主として環状のシリンダとして形成され、直径Dと長さLの比は1~4の範囲である。この場合のように、比は1.5であることが好ましい。