(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】樹脂組成物、シーラントフィルム、包装用積層体及び包装袋
(51)【国際特許分類】
C08L 23/08 20060101AFI20240214BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C08L23/08
C08L23/10
(21)【出願番号】P 2019163092
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-05-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500163366
【氏名又は名称】出光ユニテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 雄太
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-272063(JP,A)
【文献】特開2018-199744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物であって、
エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)及びプロピレン系重合体(B)を含み、
前記エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)及び前記プロピレン系重合体(B)の合計量に対する前記プロピレン系重合体(B)の含有率が、15質量%以上、22質量%以下であり、
前記プロピレン系重合体(B)は
、
融点が145℃以上のプロピレン系重合体(B2
)であ
り、
前記エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)及び前記プロピレン系重合体(B)の合計した含有率が、前記樹脂組成物の全量基準で70質量%以上、100質量%以下である、
樹脂組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載の樹脂組成物において、
前記プロピレン系重合体(B2)は、ホモポリプロピレンである、
樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1
又は請求項
2に記載の樹脂組成物において、
前記プロピレン系重合体(B2)のメルトフローレート(230℃、2160g荷重下、JIS K7210:1999)は、0.1g/10分以上、15g/10分以下である、
樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の樹脂組成物において、
前記エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)のメルトフローレート(190℃、2160g荷重下、JIS K7210:1999)が、1g/10分以上、40g/10分以下である、
樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の樹脂組成物において、
前記エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)は、エチレン・メタクリル酸共重合体である、
樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の樹脂組成物を原料とするシーラントフィルム。
【請求項7】
請求項
6に記載のシーラントフィルムと、
前記シーラントフィルムの片面に積層された基材と、を有する、
包装用積層体。
【請求項8】
請求項
6に記載のシーラントフィルムを使用した包装袋。
【請求項9】
請求項
7に記載の包装用積層体を使用した包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、シーラントフィルム、包装用積層体及び包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体又は粒体等の重量物の輸送に際し、クラフト袋と呼ばれる紙袋が従来より使用されている。クラフト袋の製品形態としては、例えば、外袋と、外袋の内部に配置された内袋と、を備えた多重構造のクラフト袋が挙げられる。外袋は、例えば、クラフト紙を袋状に加工した袋が挙げられる。内袋としては、プラスチックフィルムを筒状に加工した袋が挙げられる。
【0003】
クラフト袋の開口部は、製品充填後にミシン縫い又はオーバーテープによって閉じられるが、閉じた開口部の隙間を通じて、異物が内部に混入するおそれがあった。
【0004】
本発明者は、クラフト袋の内部へ異物が混入することを防ぐとともに消費者が内容物を取り出す際には容易に開封できるように、シーラントフィルムを先に提案した(特許文献1)。特許文献1に記載のシーラントフィルムは、ヒートシールにて封止した箇所が比較的に弱い力でも剥離できるいわゆるイージーピールとなるヒートシール性能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
クラフト袋が折り込みマチを有する「ガゼット型」である場合、ガゼット型のクラフト袋においては、クラフト紙が4枚重ねとなるガゼット部の厚さとクラフト紙が2枚重ねとなる非ガゼット部との厚さとが異なる。この厚さの差異に起因して、シーラントフィルムが内装されたガゼット型のクラフト袋をヒートシールする工程では、ガゼット部においてシーラントフィルムに加わる熱量と非ガゼット部においてシーラントフィルムに加わる熱量との間に差異が生じる。特許文献1に記載のシーラントフィルムをガゼット型のクラフト袋の内袋に用いた場合、ガゼット部におけるイージーピール性が発現し難い。
【0007】
本発明の目的は、加えられる熱量に依らずイージーピール性が発現し易く、かつ剥離時の膜残りが少ない積層体を得ることができる樹脂組成物を提供すること、当該樹脂組成物を用いたシーラントフィルムを提供すること、当該シーラントフィルムを用いた包装用積層体を提供すること、当該シーラントフィルムを用いた包装袋を提供すること、並びに当該包装用積層体を用いた包装袋を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、樹脂組成物であって、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)及びプロピレン系重合体(B)を含み、前記エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)及び前記プロピレン系重合体(B)の合計量に対する前記プロピレン系重合体(B)の含有率が、15質量%以上、35質量%以下であり、前記プロピレン系重合体(B)は、メルトフローレート(230℃、2160g荷重下、JIS K7210:1999)が、1.5g/10分以下のプロピレン系重合体(B1)、及び融点が145℃以上のプロピレン系重合体(B2)の少なくともいずれかである樹脂組成物が提供される。
【0009】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記プロピレン系重合体(B)の含有率が、15質量%以上、25質量%以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)及び前記プロピレン系重合体(B)の合計した含有率が、前記樹脂組成物の全量基準で70質量%以上、100質量%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記プロピレン系重合体(B1)のメルトフローレート(230℃、2160g荷重下、JIS K7210:1999)は、0.1g/10分以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記プロピレン系重合体(B1)の融点は、125℃以上、145℃未満であることが好ましい。
【0013】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記プロピレン系重合体(B1)の融点は、140℃以上、145℃未満であることが好ましい。
【0014】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記プロピレン系重合体(B1)は、プロピレン・エチレン共重合体であることが好ましい。
【0015】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記プロピレン系重合体(B2)は、ホモポリプロピレンであることが好ましい。
【0016】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記プロピレン系重合体(B2)のメルトフローレート(230℃、2160g荷重下、JIS K7210:1999)は、0.1g/10分以上、15g/10分以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)のメルトフローレート(190℃、2160g荷重下、JIS K7210:1999)が、1g/10分以上、40g/10分以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)は、エチレン・メタクリル酸共重合体であることが好ましい。
【0019】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る樹脂組成物を原料とするシーラントフィルムが提供される。
【0020】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係るシーラントフィルムと、前記シーラントフィルムの片面に積層された基材と、を有する、包装用積層体が提供される。
【0021】
本発明の一態様によれば、請前述の本発明の一態様に係るシーラントフィルムを使用した包装袋が提供される。
【0022】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る包装用積層体を使用した包装袋が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、加えられる熱量に依らずイージーピール性が発現し易く、かつ剥離時の膜残りが少ない積層体を得ることができる樹脂組成物を提供することができ、当該樹脂組成物を用いたシーラントフィルムを提供することができ、当該シーラントフィルムを用いた包装用積層体を提供することができ、当該シーラントフィルムを用いた包装袋を提供することができ、並びに当該包装用積層体を用いた包装袋を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態におけるヒートシール前の包装袋の斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態におけるヒートシール後の包装袋の斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態におけるヒートシール後の包装袋を開口部側から見た上面図である。
【
図4】(A)は、イージーピール性の評価に用いた剥離方向TD用試験片の平面概略図である。(B)は、イージーピール性の評価に用いた剥離方向MD用試験片の平面概略図である。
【
図5】(A)は、剥離方向TD用試験片に対する剥離方向を示す斜視概略図である。(B)は、剥離方向MD用試験片に対する剥離方向を示す斜視略図である。
【
図6】実施例1に係る包装用積層体のヒートシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例2に係る包装用積層体のヒートシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【
図8】比較例1に係る包装用積層体のヒートシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【
図9】比較例2に係る包装用積層体のヒートシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【
図10】比較例3に係る包装用積層体のヒートシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【
図11】比較例4に係る包装用積層体のヒートシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)と、プロピレン系重合体(B)と、を含む。
本明細書において、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)を、成分(A)と称する場合がある。
本明細書において、プロピレン系重合体(B)を成分(B)と称する場合がある。
【0026】
本実施形態に係る樹脂組成物は、成分(A)と成分(B)の合計量に対し、成分(B)を特定の割合で含み、成分(B)は、メルトフローレート(230℃、2160g荷重下、JIS K7210:1999)が、1.5g/10分以下のプロピレン系重合体(B1)(以下、成分(B1)ともいう。)、及び融点が145℃以上のプロピレン系重合体(B2)(以下、成分(B2)ともいう)の少なくともいずれかである。
本明細書において、プロピレン系重合体(B1)を、成分(B1)と称する場合がある。
本明細書において、プロピレン系重合体(B2)を、成分(B2)と称する場合がある。
本明細書において、メルトフローレートをMFRと称する場合がある。
【0027】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸及びアクリル酸の両概念を包含する用語である。
【0028】
本実施形態に係る樹脂組成物は、前述の成分(A)及び成分(B)を所定の比率で含有することにより、加えられる熱量に依らずイージーピール性が発現し易く、かつ剥離時の膜残りを抑制できる。剥離時の膜残りを抑制することにより、剥離後の剥離部の外観が優れる。
【0029】
本実施形態に係る樹脂組成物において、(A)成分及び(B)成分の合計量に対する(B)成分の含有率XBは、15質量%以上、35質量%以下である。
本実施形態に係る樹脂組成物において、(A)成分及び(B)成分の合計量に対する(A)成分の含有率XAは、65質量%以上、85質量%以下である。
(A)成分の含有率XA及び(B)成分の含有率XBは、本実施形態に係る樹脂組成物中の(A)成分の含有量MA及び(B)成分の含有量MBとすると、下記数式で算出できる。
XA={MA/(MA+MB)}×100
XB={MB/(MA+MB)}×100
【0030】
(A)成分及び(B)成分の合計量に対する(B)成分の含有率XBは、15質量%以上、25質量%以下であることが好ましく、18質量%以上、22質量%以下であることがより好ましい。
(A)成分及び(B)成分の合計量に対する(B)成分の含有率XAは、75質量%以上、85質量%以下であることが好ましく、78質量%以上、82質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
(A)成分及び(B)成分の合計量に対する(B)成分の含有率XBが15質量%以上であれば、加えられる熱量に依らずイージーピール性が発現し易い。
(A)成分及び(B)成分の合計量に対する(B)成分の含有率XBが35質量%以下であれば、ヒートシール部を剥離した時の膜残りを抑制でき、剥離部の外観が優れる。
【0032】
本実施形態に係る樹脂組成物において、樹脂組成物の全量基準で、成分(A)及び成分(B)の合計の含有率XABは、70質量%以上、100質量%以下であることが好ましく、80質量%以上、100質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上、100質量%以下であることがさらに好ましい。
本実施形態に係る樹脂組成物の全量基準での成分(A)及び成分(B)の合計の含有率XAB(単位は、質量%とする。)は、(A)成分の含有量MA、(B)成分の含有量MB、樹脂組成物の全量MTOTALとすると、下記数式で算出できる。
XAB={(MA+MB)/MTOTAL}×100
本実施形態に係る樹脂組成物の全量基準での成分(A)と成分(B)の合計の含有率XABが70質量%以上であれば、加えられる熱量に依らずイージーピール性が発現し易く、かつ剥離時の膜残りを抑制できるという効果をさらに得易くなる。
【0033】
本実施形態に係る樹脂組成物は、所望により、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の樹脂及び添加剤等の少なくともいずれかを含有してもよい。
添加剤としては、例えば、造核剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、滑剤、フィラー、難燃剤、難燃助剤、熱安定剤、耐熱剤、耐候剤、離型剤、流動改質剤、着色剤、顔料、帯電防止剤、防腐剤、防黴剤、可塑剤及び発泡剤等が挙げられる。本実施形態に係る樹脂組成物には、フィルム製膜時及び二次加工時の作業性向上の為に、例えば、滑剤、アンチブロッキング剤などをさらに添加してもよい。
他の樹脂や添加剤等の含有率は、例えば、本実施形態に係る樹脂組成物の全量基準で、10質量%以下であることが好ましい。
【0034】
[エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)]
本実施形態に係る樹脂組成物に使用するエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)は、エチレン・メタクリル酸共重合体(A1)及びエチレン・アクリル酸共重合体(A2)の少なくともいずれかである。
本実施形態に係る樹脂組成物においては、(A)成分は、エチレン・メタクリル酸共重合体(A1)であることが好ましい。
【0035】
エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)のメルトフローレート(190℃、2160g荷重下、JIS K7210:1999)が、1g/10分以上、40g/10分以下であることが好ましく、1g/10分以上、10g/10分以下であることがより好ましく、1g/10分以上、5g/10分以下であることがさらに好ましい。
【0036】
エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)におけるエチレン由来の構造単位の割合は、85質量%以上、99質量%以下であることが好ましく、90質量%以上、95質量%以下であることがより好ましい。
エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体(A)における(メタ)アクリル酸由来の構造単位の割合は、1質量%以上、15質量%以下であることが好ましく、5質量%以上、10質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
[プロピレン系重合体(B)]
本実施形態に係る樹脂組成物は、前述のとおり、プロピレン系重合体(B)として、メルトフローレート(230℃、2160g荷重下、JIS K7210:1999)が、1.5g/10分以下のプロピレン系重合体(B1)、及び融点が145℃(JIS K7121)以上のプロピレン系重合体(B2)の少なくともいずれかを含有する。
【0038】
プロピレン系重合体(B1)のメルトフローレート(230℃、2160g荷重下、JIS K7210:1999)は、0.1g/10分以上、1.5g/10分以下であることが好ましい。
【0039】
プロピレン系重合体(B2)のメルトフローレート(230℃、2160g荷重下、JIS K7210:1999)は、0.3g/10分以上、15g/10分以下であることが好ましい。
【0040】
プロピレン系重合体(B1)の融点(JIS K7121)は、125℃以上、145℃未満であることが好ましく、140℃以上、145℃未満であることがより好ましい。
【0041】
プロピレン系重合体(B2)の融点(JIS K7121)は、145℃以上、165℃以下であることが好ましい。
【0042】
プロピレン系重合体(B)の融点が125℃以上であれば、過度に低温度域でヒートシール性が発現することを抑制でき、その結果、包装袋における意図せぬ内面融着を抑制できる。
【0043】
プロピレン系重合体(B)は、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体及びプロピレンブロック共重合体からなる群から選択される少なくともいずれかの重合体であることが好ましい。プロピレン系重合体(B)が共重合体である場合、プロピレン以外の共重合成分は、α-オレフィンであることが好ましい。
本実施形態に係る樹脂組成物は、1種のプロピレン系重合体(B)を含有していてもよく、2種以上のプロピレン系重合体(B)を含有していてもよい。
【0044】
本実施形態に係る樹脂組成物がプロピレン系重合体(B1)を含有する場合、プロピレン系重合体(B1)は、プロピレン・エチレン共重合体であることが好ましい。
【0045】
本実施形態に係る樹脂組成物がプロピレン系重合体(B2)を含有する場合、プロピレン系重合体(B2)は、ホモポリプロピレンであることが好ましい。
【0046】
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、通常行われる樹脂組成物の製造方法であれば、特に制限はない。例えば、本実施形態に係る樹脂組成物は、ドライブレンド法又はメルトブレンド法にて製造できる。
【0047】
[シーラントフィルム]
本実施形態に係るシーラントフィルムは、本実施形態に係る樹脂組成物を原料とするフィルムである。
本実施形態に係るシーラントフィルムは、本実施形態に係る樹脂組成物を含有するので、ヒートシールのときに加えられる熱量に依らずイージーピール性が発現し易く、かつ剥離時の膜残りを少なくすることができる。
【0048】
本実施形態に係るシーラントフィルムの厚さは、特に制限されない。本実施形態に係るシーラントフィルムの厚さは、製膜安定性の観点から、20μm以上、200μm以下であることが好ましく、30μm以上、150μm以下であることがより好ましく、40μm以上、150μm以下であることがさらに好ましい。
【0049】
本実施形態に係る樹脂組成物を原料として本実施形態に係るシーラントフィルムを製造する方法は、特に限定されない。本実施形態に係るシーラントフィルムの製造方法として、例えば、溶融押出成形法(Tダイ法及び円形ダイ法)が挙げられる。
【0050】
[包装用積層体]
本実施形態に係る包装用積層体は、本実施形態に係るシーラントフィルムと、基材と、を有する。本実施形態に係る包装用積層体において、基材は、シーラントフィルムの片面に積層されている。
本実施形態に係る包装用積層体は、最外層としてシーラントフィルムを有し、この最外層に位置するシーラントフィルムがシーラント層に相当する。
【0051】
本実施形態に係る包装用積層体は、シーラント層及び基材からなる2層構造に限定されず、シーラント層及び基材以外の他の層を有していてもよい。
シーラント層及び基材以外の他の層は、必要に応じて設けることができる。
他の層としては、シーラント層と基材との間に設けられる中間層等が挙げられる。包装用積層体の一態様としては、例えば、シーラント層と、中間層と、ラミネート層としての基材と、をこの順に備えた包装用積層体が挙げられる。
【0052】
中間層としては、シーラント層と基材との接着強度を高めるための接着層及び包装の内部を湿気又は酸素等から保護するためのガスバリア層等が挙げられる。
【0053】
本実施形態に係る包装用積層体における基材として、例えば、樹脂フィルム、紙及び金属箔を挙げることができる。基材としての樹脂フィルムとしては、例えば、例えば、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム及びポリアミドフィルム等が挙げられる。樹脂フィルムを構成する樹脂としては、例えば、超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体(例えば、プロピレン・エチレン共重合体)、プロピレンブロック共重合体(例えば、プロピレン・エチレン共重合体)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンナフタレート、ポリカプロラミド及びポリヘキサメチレンアジポアミド等を挙げることができる。樹脂フィルムを構成するこれらの樹脂は、1種単独又は2種以上を混合して用いることができる。金属箔に用いる金属として、例えば、アルミニウム等が挙げられる。
【0054】
本実施形態に係る包装用積層体における基材の厚さは、特に限定されない。
また、本実施形態に係る包装用積層体の厚さは、特に限定されない。
【0055】
本実施形態に係る包装用積層体の製造方法は、各層を積層できる方法でれば、特に制限はない。本実施形態に係る包装用積層体は、例えば、各層を形成する樹脂又は樹脂組成物を用いて共押出し法によって製造できる。また、本実施形態に係る包装用積層体は、例えば、各層を形成するフィルム又はシートを製造した後、ドライラミネート又は熱圧着等によって、それらフィルム又はシートを積層させることによっても製造できる。また、本実施形態に係る包装用積層体は、例えば、基材として金属箔又は紙を用いた場合、押出ラミネート法によりシーラント層を基材に積層させることによっても製造できる。コロナ処理又はプラズマ処理等の表面改質処理を施した基材の表面にシーラント層を積層してもよい。
【0056】
[包装袋]
本実施形態に係る包装袋は、本実施形態に係るシーラントフィルム又は本実施形態に係る包装用積層体を使用した包装袋である。
【0057】
本実施形態に係る包装袋は、袋一枚で構成される構造であっても、外袋と、外袋の内部に配置された内袋と、を備えた多重構造であってもよい。
【0058】
袋一枚で構成される構造の包装袋としては、例えば、本実施形態に係る包装用積層体を製袋した包装袋等が挙げられる。
また、袋一枚で構成される構造の包装袋としては、例えば、本実施形態に係るシーラントフィルムからなるシーラント層及び本実施形態に係る包装用積層体の少なくともいずれかが、袋内のヒートシールが予定されている部位に配置された包装袋等が挙げられる。
【0059】
積層構造の包装袋としては、例えば、本実施形態に係る包装用積層体を内袋及び外袋の少なくともいずれかとして製袋した包装袋等が挙げられる。
また、積層構造の包装袋としては、例えば、本実施形態に係るシーラントフィルムからなるシーラント層及び本実施形態に係る包装用積層体の少なくともいずれかが、内袋及び外袋の少なくともいずれかの袋内のヒートシールが予定されている部位に配置された包装袋等が挙げられる。
【0060】
本実施形態に係る包装袋は、マチを有するガゼット型の包装袋であることも好ましい。
【0061】
包装袋の製造方法としては、特に限定はなく、通常の製袋方法で製造できる。包装袋の製造方法としては、例えば、ボトムシール機、三方シール製袋機、半折式シール製袋機、センタープレスシール製袋機、サイドウェルド製袋機及び角底袋製袋機からなる群から選択される少なくともいずれかの装置を用いた製造方法が挙げられる。
【0062】
本実施形態に係る包装袋は、本実施形態に係るシーラントフィルム又は本実施形態に係る包装用積層体を使用した包装袋であるため、開口部をミシン縫い又はオーバーテープによって閉じる方式の包装袋に比べて、袋内部への異物の混入を防止し易い。
また、本実施形態に係る包装袋に使用するシーラントフィルム又は包装用積層体におけるシーラント層は、本実施形態に係る樹脂組成物を含有する。そのため、本実施形態に係る包装袋の開口部をヒートシールする際に加えられる熱量に依らずイージーピール性が発現し易く、かつ包装袋を開封した際に、剥離時のヒートシール部における膜残りを少なくすることができる。
なお、本実施形態に係る包装袋がガゼット型である場合、当該ガゼット型の包装袋は、開口部の幅方向に亘ってガゼット部及び非ガゼット部を有する。ガゼット部は、非ガゼット部よりも厚いため、開口部をヒートシールする際にガゼット部においてシーラントフィルム又はシーラント層に加わる熱量と非ガゼット部においてシーラントフィルム又はシーラント層に加わる熱量との間に差異が生じる。しかしながら、本実施形態に係る包装袋がガゼット型であっても、本実施形態に係るシーラントフィルム又は本実施形態に係る包装用積層体を使用しているため、ヒートシールの際に加えられる熱量に依らずイージーピール性が発現し易く、かつ包装袋を開封した際に、剥離時のヒートシール部における膜残りを少なくすることができる。
【0063】
本実施形態に係る樹脂組成物を含むシーラント層のヒートシール温度は、意図せぬ内面融着が生じることを抑制する観点から、110℃以上であることが好ましい。
【0064】
本実施形態に係る包装袋の一態様としてのガゼット袋を
図1、
図2及び
図3に示す。
【0065】
図1は、ヒートシール前のガゼット袋の斜視図である。
図1に示すガゼット袋1は、本実施形態に係る包装用積層体をガゼット型に製袋した一重構造の包装袋である。
図1に示すように、ガゼット袋1は、開口部100及び開口部100の幅方向の両端側のそれぞれにマチ部11を有する。ガゼット袋1の内側表面に本実施形態に係る包装用積層体におけるシーラントフィルムからなるシーラント層13が配置される。
【0066】
図2は、ヒートシール後のガゼット袋の斜視図である。
ガゼット袋1の内部に目的物を収容した後、マチ部11も含め、開口部100を、幅方向全体に亘ってヒートシールする。ヒートシールする方法は、公知の方法によって行うことができる。ガゼット袋1の内面にシーラント層13が配置されているので、シーラント層13同士を重ね合わせてヒートシールする。
ヒートシールされた開口部100には、ヒートシール部12が形成される。ヒートシール部12は、マチ部11に対応するガゼット部121と、マチが形成されていない非ガゼット部122と、を含む。ガゼット部121は、閉じられた開口部100の幅方向両端側のマチ部11に対応する部位である。
【0067】
図3は、ヒートシール後のガゼット包装袋を開口部側から見た上面図である。
ガゼット部121においては、ガゼット袋1が4重構造を有し、非ガゼット部122においては、ガゼット袋1が2重構造を有する。ガゼット部121及び非ガゼット部122において重なっているガゼット袋1の枚数が異なるため、ヒートシール時にガゼット部121に加わる熱量と非ガゼット部122とが相違するが、ガゼット袋1は、本実施形態に係る樹脂組成物を含有するシーラント層13を有するため、ヒートシールの際に加えられる熱量に依らずイージーピール性が発現し易く、かつガゼット袋1を開封した際に、剥離時のヒートシール部12(ガゼット部121及び非ガゼット部122)における膜残りを少なくすることができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明に係る実施例を説明する。本発明はこれらの実施例によって何ら限定されない。
【0069】
〔実施例1~2及び比較例1~4〕
まず、表1に示す質量比率にて下記成分(A)及び成分(B)を混合して樹脂組成物を調製した。
【0070】
<樹脂組成物>
・成分(A):エチレン・メタクリル酸共重合体(A)
MFR:3.0g/10分、密度:0.930g/cm3、融点:99℃
【0071】
・成分(B):プロピレン系重合体(B)
(b1)プロピレン・エチレン共重合体
MFR:1.3g/10分、密度0.900g/cm3、融点:142℃
(b2)ホモプロピレン重合体
MFR:3.0g/10分、密度0.900g/cm3、融点:160℃
(b3)プロピレン・エチレン共重合体
MFR:3.0g/10分、密度0.900g/cm3、融点:143℃
【0072】
次に、調製した樹脂組成物をシーラント層とし、下記中間層構成成分を中間層とし、下記ラミネート層構成成分をラミネート層とする3層構造の積層体を、多層共押出しインフレーション成形により製造した。シーラント層の厚さを6μmとし、中間層の厚さを20μmとし、ラミネート層の厚さを14μmとした。
【0073】
<中間層構成成分>
中間層構成成分の原料として、直鎖状低密度ポリエチレン(MFR:2.5g/10分、密度:0.935g/cm3、ダウケミカル(株)製:ダウレックス2036P)及び低密度ポリエチレン(MFR:2.0g/10分、密度0.922g/cm3)を用いた。
中間層構成成分の原料中、直鎖状低密度ポリエチレンの含有率は、61.9質量%とし、低密度ポリエチレンの含有率は、38.1質量%とした。
【0074】
<ラミネート層構成成分>
ラミネート層構成成分の原料として、直鎖状低密度ポリエチレン(MFR:2.5g/10分、密度:0.935g/cm3)を用いた。ラミネート層構成成分の原料中、直鎖状低密度ポリエチレンの含有率は、100.0質量%とした。
【0075】
【0076】
以上のとおり、実施例1~2及び比較例1~4に係る3層構造の積層体を製造した。
【0077】
<積層体の評価>
次に、実施例1~2及び比較例1~4に係る3層構造の積層体について、以下の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0078】
(イージーピール性)
2つの積層体のシーラント層同士を接触させ、株式会社東洋精機製作所製の熱傾斜試験機「HG-100-2」を用いてヒートシールして、試験片を作製した。当該熱傾斜試験機は、互いに異なる温度に設定可能な5つの熱盤を有するため、5種の温度条件でのヒートシールが可能である。ヒートシールは、積層体と熱盤との間にポリエステルフィルム(厚さ12μm)を挟み、25mm幅及び10mm長さを有する長方形の熱盤を用いて、シール時間1秒及び圧力0.2MPaで行った。ヒートシール温度は、下記表2に示す。
試験片の作製の際、多層共押出しインフレーション成形により製造した際のフィルムの流れ方向(MD)を一致させて2つの積層体をヒートシールした。試験片としては、フィルムの流れ方向(MD)に対して平行な方向の熱盤にてヒートシールして作製した剥離方向TD用試験片と、フィルムの流れ方向(MD)に対して直交する方向(TD)の熱盤にてヒートシールして作製した剥離方向MD用試験片と、を用いた。ここで、「フィルムの流れ方向」とは、多層共押出しインフレーション成形する際に、3層構造のフィルム(積層体)が流れ出る方向を指す。
【0079】
図4(A)は、剥離方向TD用試験片の平面概略図である。
図4(A)には、重ね合わされた2つの積層体10A,10BのMD方向及びTD方向と、熱盤によってヒートシールされた領域(ヒートシール部12)との位置関係が示されている。また、
図4(A)には、重ね合わされた2つの積層体10A,10Bに対して、互いに異なる温度の5つの熱盤でヒートシールした後の5つのヒートシール部12が示されている。
【0080】
図4(B)は、剥離方向MD用試験片の平面概略図である。
図4(B)には、重ね合わされた2つの積層体10A,10BのMD方向及びTD方向と、熱盤によってヒートシールされた領域(ヒートシール部12)との位置関係が示されている。また、
図4(B)には、重ね合わされた2つの積層体10A,10Bに対して、互いに異なる温度の5つの熱盤でヒートシールした後の5つのヒートシール部12が示されている。
【0081】
作製した剥離方向TD用試験片及び剥離方向MD用試験片のそれぞれについて、島津製作所製の引張試験機「AGS-X」を用い、200mm/minの引張速度でT字剥離を行い、シール強度を測定した。シール強度の単位は、N/25mmである。
図5(A)には、剥離方向TD用試験片に対する剥離方向を示す概略斜視図が示されている。
図5(A)に示された矢印PDは、剥離が進行する方向を示す。
図5(A)に示されるとおり、剥離は、TDに沿って進行する。
図5(B)には、剥離方向MD用試験片に対する剥離方向を示す概略斜視図が示されている。
図5(B)に示された矢印PDは、剥離が進行する方向を示す。
図5(B)に示されるとおり、剥離は、MDに沿って進行する。
シール強度は、ヒートシール後1日静置した剥離方向TD用試験片及び剥離方向MD用試験片について測定した。シール強度の測定値を表2に示す。また、
図6~
図11には、実施例1~2及び比較例1~4に係る積層体を用いた試験片のヒートシール温度とシール強度との関係を示すグラフを示す。
本明細書におけるイージーピール性の判定基準は、次の通りであり、A判定の場合に、加えられる熱量に依らずイージーピール性が発現し易いといえる。
A:ヒートシール温度が110℃以上230℃以下の範囲において、シール強度が1N/25mm以上12N/25mm以下であった。
B:ヒートシール温度が110℃以上230℃以下の範囲において、シール強度が12N/25mmを上回った。
【0082】
(剥離外観)
上述のシール強度を測定した後のヒートシール部の外観を目視で確認した。
本明細書における剥離外観の判定基準は、次の通りであり、A判定の場合に、剥離時の膜残りが少ないといえる。ここで、膜残りとは、シール箇所を剥離した際に、剥離箇所にシールされた部材の断片が残存している状態をいう。
A:剥離後のヒートシール部において、膜残りを確認できなかった。
B:剥離後のヒートシール部において、膜残りを確認できた。
【0083】
【0084】
[評価結果]
表1及び
図6から
図11に示したように、実施例1及び実施例2に係る積層体によれば、加えられる熱量に依らず剥離時の膜残りのないイージーピール性が発現することが確認された。比較例1に係る積層体は、シール強度がヒートシール温度に大きく依存していることから、加えられる熱量によっては、イージーピール性が発現し難いことが分かった。比較例2~4に係る積層体は、シーラント層におけるプロピレン系重合体の含有率が比較例1に比べて増加したことにより、イージーピール性が改善したが、剥離時に膜残りが生じた。
【0085】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、各種の変形例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0086】
1…ガゼット袋、10A、10B…積層体、11…マチ部、12…ヒートシール部、13…シーラント層、100…開口部、121…ガゼット部、122…非ガゼット部、PD…剥離の進行方向