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  • 特許-無機繊維成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】無機繊維成形体
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/26 20060101AFI20240214BHJP
   C04B 14/42 20060101ALI20240214BHJP
   C04B 14/46 20060101ALI20240214BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20240214BHJP
   E04B 1/80 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
C04B28/26
C04B14/42 A
C04B14/46
C04B38/00 301C
E04B1/80 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019174520
(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公開番号】P2021050120
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】常藤 光
(72)【発明者】
【氏名】谷辺 徹
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特表平04-506236(JP,A)
【文献】特表2007-507579(JP,A)
【文献】特開昭60-204659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
C04B 38/00-38/10
C04B 40/00-40/06
F16L 59/00-59/22
E04B 1/62-1/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、珪酸アルカリ、並びに、セメント及び珪酸アルカリ以外のSiO2含有無機粉末を含有する無機結合材と、無機繊維とを主成分とする無機繊維成形体であって、
無機結合材中の水以外の無機質成分と無機繊維の合計100質量部に対し、
珪酸アルカリと、セメント及び珪酸アルカリ以外のSiO2含有無機粉末との合計質量が5質量部以上50質量部以下であり、且つ
無機繊維の質量が50質量部以上95質量部以下であり、
嵩密度が0.15~0.37g/cm3あり、
フィルム形成ポリマーを含有しない、無機繊維成形体。
【請求項2】
無機結合材中の水以外の無機質成分と無機繊維の合計100質量部に対し、
珪酸アルカリの質量が1.4質量部以上12質量部以下である請求項1記載の無機繊維成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維を主成分とする無機繊維成形体に関する。
詳しくは、熱伝導率が低く、高い耐熱性を有し、加熱時に発煙及び臭気の発生することがなく、軽量な無機質断熱材等として用いることのできる無機繊維成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
無機繊維を主成分とした無定形ではない無機繊維成形体としては、ボード状、シート状、フェルト状、マット状、ブロック状、筒状等の形状のものが知られている。これらはロックウールやグラスウール等の無機繊維に、フェノール樹脂等の有機バインダーを結合材として用いることにより成形され、断熱材・保温材・保冷材、防音材・吸音材、栽培培地等に広く使用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、有機物を含有する無機繊維成形体は加熱されると、結合材であるフェノール樹脂等が熱分解により発煙して臭気を発生させる。この臭気は250℃~400℃の温度領域において顕著に発生する。
また、高温域では、フェノール樹脂等は燃焼してバインダーとしての機能が損なわれるため、断熱材の耐久性は著しく低下してしまう。特に、火災時における延焼を遅延するためには、高温域における建材の耐久性は重要である。
【0004】
結合剤の加熱成型温度より高い温度で結合剤の一部が炭化する程度に加熱することで、臭気の原因となる成分を予め気化させることで無臭性の断熱材(無機繊維成形体)とする技術が提案されている(例えば、特許文献2)。
また、無機繊維を有機物結合剤で結着した断熱材に、ゼオライト等の無機物脱臭剤を含有させる技術の提案もある(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-327481号公報
【文献】特公昭53-047561号公報
【文献】特開平07-139689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した加熱時の発煙及び臭気の発生が無く又は少なく、軽量で低い熱伝導率を有し、加熱後の耐久性にも優れた、軽量な無機質断熱材等として用いることのできる無機繊維成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の無機結合材と無機繊維とを主成分とし、無機結合材に含まれる成分との含有割合を特定の範囲とすることにより、上記課題を解決した無機繊維成形体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、次の(1)~(3)を提供するものである。
(1)水、珪酸アルカリ、並びに、セメント及び珪酸アルカリ以外のSiO2含有無機粉末を含有する無機結合材と、無機繊維とを主成分とする無機繊維成形体であって、
無機結合材中の水以外の無機質成分と無機繊維の合計100質量部に対し、
珪酸アルカリと、セメント及び珪酸アルカリ以外のSiO2含有無機粉末との合計質量が5質量部以上50質量部以下であり、且つ
無機繊維の質量が50質量部以上95質量部以下であり、
嵩密度が0.15~0.37g/cm3あり、
フィルム形成ポリマーを含有しない、無機繊維成形体。
(2)無機結合材中の水以外の無機質成分と無機繊維の合計100質量部に対し、
珪酸アルカリの質量が1.4質量部以上12質量部以下である上記(1)の無機繊維成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加熱時の発煙及び臭気の発生が無く又は少なく、軽量で低い熱伝導率を有し、加熱後の耐久性にも優れた、軽量な無機質断熱材等として用いることのできる無機繊維成形体が得られる。
本発明によれば、加熱時の発煙及び臭気の発生が無く又は少なく、軽量で低い熱伝導率を有し、加熱後の耐久性にも優れた、軽量な無機質断熱材、無機質保温材、無機質保冷材、無機質防音材、無機質吸音材が得られる。
また、本発明に用いる結合材及び無機繊維には主成分としてセメントが含まれていないことから、原材料の製造において排出される二酸化炭素の排出量が、結合材の原材料としてセメントを用いた場合に比べて少ない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例において、熱耐久性試験で用いた鋼製筒の概念的な平面図(a)及び概念的な斜視図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の無機繊維成形体は、水、珪酸アルカリ、並びに、セメント及び珪酸アルカリ以外のSiO含有無機粉末を含有する無機結合材と、無機繊維とを主成分とし、「無機結合材中の水以外の無機質成分」と「無機繊維」の合計100質量部に対し、「珪酸アルカリ」と「セメント及び珪酸アルカリ以外のSiO含有無機粉末」との合計質量が5質量部以上50質量部以下(つまり、5~50質量部)、且つ無機繊維の質量が50質量部以上95質量部以下(つまり、95~50質量部)である。ここで、「無機結合材中の水以外の無機質成分」とは、「無機結合材中の無機不揮発成分」である。
【0012】
本発明に用いる珪酸アルカリとしては、メタ珪酸ナトリウム、オルソ珪酸ナトリウム、水ガラス等の珪酸ナトリウム又は珪酸ナトリウム水溶液、珪酸リチウム又は珪酸リチウム水溶液、珪酸カリウム又は珪酸カリウム水溶液から選ばれる1種或いはこれらの2種以上を用いることが好ましい。
【0013】
本発明に用いる「セメント及び珪酸アルカリ以外のSiO含有無機粉末」としては、セメント及び珪酸アルカリ以外で主な化学組成としてSiOを含有する無機質粉末であり、例えば、高炉スラグ粉末、銅スラグ粉末、フェロニッケルスラグ粉末等の金属精錬におけるスラグ粉末;下水汚泥スラグ焼成物の粉末、都市ごみ溶融スラグの粉末、フライアッシュ、パルプスラッジ焼却灰、バイオマスボイラー焼却灰、下水汚泥焼却灰、籾殻灰、シリカフューム、廃ガラス粉砕物、廃陶磁器の粉砕物、タイルセルベン等の各産業から副生する主な化学組成としてSiOを含有する無機質粉末;珪石粉、珪藻土粉末、タルク粉末、カオリンやベントナト等の粘土鉱物の粉末;火山灰,火成岩粉末等のSiOを含有する鉱物(SiO含有鉱物)の粉末;火成岩焼成物の粉末やメタカオリン等のSiO含有鉱物の焼成物の粉末;コロイダルシリカ、合成シリカガラス、ホワイトカーボン、シリカゲル、沈降シリカ等のSiOを含有する無機質工業製品(SiO含有工業製品)の粉末が好ましい例として挙げられる。
当該SiO含有無機粉末としては、ブレーン比表面積が2000cm2/g以上のものが、結合材の硬化が早いことから好ましく、2500cm2/g以上のものがより好ましい。また、本発明に用いるSiO含有無機粉末のブレーン比表面積の上限値としては、結合材の流動性を保持できる時間を長く取れることから、12000cm2/g以下が好ましく、10000cm2/g以下がより好ましい。
【0014】
本発明における無機結合材は、水、珪酸アルカリ、並びに、「セメント及び珪酸アルカリ以外のSiO含有無機粉末」を含有するものである。当該無機結合材は、これら成分以外に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化アルカリ;酸化ナトリウム、酸化カリウム等のアルカリ酸化物;粘度調整剤や反応促進剤等の添加剤、フィラーや骨材等の増量材などから選ばれる1種又は2種以上のものを、本発明の効果を損なわない範囲で、含有していてもよい。
【0015】
本発明に用いる無機繊維としては、非金属の無機繊維が好ましく、例えば、ロックウール、グラスウール、セラミックスウール等から選ばれる綿状無機繊維が、耐久性、吸音性又は断熱性の点で好ましく、ロックウール又はセラミックスウールが、800℃以上に晒されても溶融せずに形状を維持でき、耐熱性又は耐火性の点で優れることからより好ましい。
本発明において、ロックウールとは、溶融炉で溶融された岩石や高炉スラグ等を主体とする材料が、急冷されながら、繊維化された素材(鉱物繊維)である。例えば、高炉スラグを主体とする材料より製造されたスラグウールなども含まれる。
【0016】
本発明において、「無機結合材中の水以外の無機質成分」(無機結合材中の無機不揮発成分)と「無機繊維」の合計100質量部に対し、「珪酸アルカリ」と「セメント及び珪酸アルカリ以外のSiO含有無機粉末」との合計質量は5質量部以上50質量部以下、且つ無機繊維の質量は50質量部以上95質量部以下である。
【0017】
「無機結合材中の水以外の無機質成分」(無機結合材中の無機不揮発成分)と「無機繊維」の合計100質量部に対し、「珪酸アルカリ」と「セメント及び珪酸アルカリ以外のSiO含有無機粉末」との合計質量が50質量部を超えると、無機繊維成形体の熱伝導率が大きくなり、5質量部未満では、加熱後の耐久性が悪い。
また、無機繊維成形体の熱伝導率が小さく且つ加熱後の耐久性に優れることから、「無機結合材中の水以外の無機質成分」と「無機繊維」の合計100質量部に対し、「珪酸アルカリ」と「セメント及び珪酸アルカリ以外のSiO含有無機粉末」との合計質量が6~48質量部、且つ無機繊維の質量が94~52質量部であるのがより好ましく、「珪酸アルカリ」と「セメント及び珪酸アルカリ以外のSiO含有無機粉末」との合計質量が10~46質量部、且つ無機繊維の質量が90~54質量部であることが更に好ましい。
【0018】
ここで、本発明における「無機結合材中の水以外の無機質成分」(無機結合材中の無機不揮発成分)の質量は、珪酸アルカリが水ガラス等の水溶液の場合には、珪酸アルカリ中のアルカリ金属イオンを酸化物(MO)換算としたもの、及び同珪酸イオンを酸化物(SiO)換算としたものを合計したもの(MO換算値とSiO換算値との合計値)を、珪酸アルカリの質量として計算する。
【0019】
本発明において、無機繊維100質量部に対し、上記無機結合材中の水量が20~150質量部であることが、成形し易さの点から好ましい。
ここで、本発明における水量は、無機繊維成形体の成形時の水量であり、珪酸アルカリが水ガラス等の水溶液の場合には、珪酸アルカリ中の「MO換算値とSiO換算値との合計値」を考慮した値、即ち、珪酸アルカリ水溶液の質量から「MO換算値とSiO換算値との合計値」を減じた質量と、添加する水,水溶液及びエマルション等の分散系に含まれる水の質量とを合計したものである。
【0020】
本発明において、珪酸アルカリの含有量は、「無機結合材中の水以外の無機質成分」(無機結合材中の無機不揮発成分)と「無機繊維」の合計100質量部に対し、1.4質量部以上であると加熱後の耐久性に優れ、12質量部以下であると耐水性に優れることから好ましく、2~12質量部がより好ましい。また、珪酸アルカリの含有量が、「無機結合材中の水以外の無機質成分」と「無機繊維」の合計100質量部に対し、12質量部以下であると耐水性に優れることから、結露による無機繊維成形体の劣化が起こり難い。
【0021】
本発明において、無機繊維100質量部に対し、「無機結合材中の水以外の無機質成分」(無機結合材中の無機不揮発成分)の質量が20質量部以上であると、無機繊維成形体の嵩密度が0.20g/cmより大きくなり、耐火性能が向上することから好ましい。より好ましくは、無機繊維の合計100質量部に対し、「無機結合材中の水以外の無機質成分」(無機結合材中の無機不揮発成分)の質量を25質量部以上とすると、無機繊維成形体の嵩密度が0.25g/cm以上になり、より耐火性能が向上する。
【0022】
本発明の無機繊維成形体には、水、珪酸アルカリ、並びに、「セメント及び珪酸アルカリ以外のSiO含有無機粉末」を含有する無機結合材、及び無機繊維以外に、本発明の効果を損なわない範囲あれば、他の成分の1種又は2種以上が含まれていてもよい。当該他の成分としては、例えば、水酸化アルカリ、アルカリ酸化物、粘度調整剤、反応促進剤、反応抑制剤等の化学添加剤、セメント、フィラーや骨材等の増量材、ポリプロピレン繊維等の他の繊維などが挙げられる。
【0023】
本発明の無機繊維成形体は、通常の方法により製造することができ、上記配合割合となるように、無機結合材と無機繊維により成形体を形成すること以外は、特に限定されずに製造することができる。
無機繊維成形体の製造方法としては、例えば、上記配合割合となるように、無機繊維を成形したものに無機結合材を噴霧により添加することで製造する方法、無機繊維に無機結合材を噴霧により添加した後に成形することで製造する方法、無機繊維と無機結合材を混合したものを型に入れ成形する方法、無機繊維と「無機結合材中の水以外の無機質成分」を混合したものを型に入れ水を噴霧し、又は水に浸漬させる方法、無機繊維と無機結合材とを混合してスラリー状にしたものを抄造法や脱水プレス法により成形・製造する方法、これらの方法で製造した複数の無機繊維成形体を無機結合材により張り合わせる方法、更には、これらの何れかの方法により製造した無機繊維成形体を切断、切削等により成形する方法などが、好ましい例として挙げられる。
【0024】
本発明の無機繊維成形体は、断熱性に優れ且つ加熱後の耐久性に優れることから、熱伝導率が0.038~0.060W/mKであるのが好ましく、0.038~0.055W/mKがより好ましい。
本発明において、熱伝導率は、後記実施例に示すように、JIS A 1412-2に準拠して、平板熱流計法に従い、測定条件を測定温度20.0℃,試験体の温度差を20.0℃として測定される。
【0025】
また、本発明の無機繊維成形体は、軽量であり且つ加熱後の耐久性に優れることから、嵩密度が0.15~0.37g/cmであるのが好ましく、更に、耐火性能が優れることから嵩密度が0.25~0.37g/cmがより好ましく、0.25~0.36g/cmであることが、最も好ましい。
本発明において、嵩密度(ρ)は、ノギス等により無機繊維成形体の寸法を測定して体積(V)を求め、電子天秤等の秤で測定したその無機繊維成形体の質量(M)より、次式(1)を用いて求める。無機繊維成形体が大きい場合は、一部を切り出して寸法及び質量(M)を測定し、嵩密度(ρ)を求める。
(式)
ρ=M/V ・・・・・・(1)
【0026】
本発明の無機繊維成形体は、軽量で低い熱伝導率を有し、加熱後の耐久性にも優れることから、無機質断熱材、無機質保温材、無機質保冷材、無機質防音材、無機質吸音材等として好適に用いることができる。
【実施例
【0027】
表1及び表2に示す構成比率の原料を用いて無機繊維成形体を製造した。その作製は、無機繊維(ロックウール又はグラスウール)に対して、結合材のスラリーを均一に噴霧した後、成形し、190℃で8時間乾燥させることにより、寸法が幅200mm×奥行200mm×厚さ30mmの無機繊維成形体を得た。
材料は、以下のものを用いた。
(使用材料)
・無機繊維1 : ロックウール(粒状綿、市販品)
・無機繊維2 : グラスウール(市販品)
・珪酸アルカリ : 珪酸ナトリウム(水ガラス)
・高炉スラグ : 高炉スラグ粉末(ブレーン比表面積;4130cm/g)
・水 : 佐倉市上水
・フェノール樹脂 : 水溶性レゾール型フェノール樹脂(市販品)
【0028】
表1及び表2における珪酸アルカリ及び水の量は、それぞれ、水ガラス中のアルカリ金属イオンを酸化物(MO)換算とし、同珪酸イオンを酸化物(SiO)換算とし、これらを合計したものを珪酸アルカリの質量とし、水ガラス中のその他の質量と別途添加した水の質量の合計を水の質量としたものである。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
得られた無機繊維成形体について、次の項目の評価試験を行った。その結果を表3及び表4に示した。
なお、表2に示した無機繊維成形体は、無機繊維として、グラスウールを用いたものであるが、これらについては、臭気試験、発煙試験、熱耐久性試験、熱伝導率及び嵩密度の評価を行った(表4)。
【0032】
(評価試験)
(1)臭気試験:
得られた無機繊維成形体における200mm×200mmの面の一方を、ガスバーナーを用いて万遍なく1分間加熱した。加熱中に人の嗅覚により臭気を感じなかった場合を、臭気試験において「合格」、臭気を感じた場合を臭気試験において「不合格」とした。
【0033】
(2)発煙試験:
臭気試験行った試験体を、更に臭気試験と同様に9分間ガスバーナーで加熱した。加熱中に発煙しなかった試験体を発煙試験について「合格」、発煙した試験体を発煙試験について「不合格」とした。
【0034】
(3)熱耐久性試験:
幅200mm×奥行200mm×高さ200mm、厚み20mmの立方体の鋼製筒(開口部が160mm×160mmの正方形;図1)の開口部が上面及び底面にくるように水平面に設置し、鋼製筒の上面に合わせて発煙試験に供した試験体を加熱した面が上面となるように置き、試験体の上面の中央に質量200gの分銅(幅31mm×奥行31mm×高さ44mm)を静置し、1分間観察した。試験体に亀裂が生じずに鋼製筒の開口部に試験体が保持していた場合を「優良」(記号:◎)、試験体に亀裂が生じたが鋼製筒の開口部に試験体が保持していた場合を「良好」(記号:〇)、分銅の重みに耐えきれずに試験体が壊れた場合を「不良」(記号:×)と評価した。
【0035】
(4)熱伝導率測定:
得られた無機繊維成形体(幅200mm×奥行200mm×厚さ30mm)の熱伝導率を、JIS A 1412-2に準拠して、平板熱流計法に従い、測定条件を測定温度20.0℃,試験体の温度差を20.0℃として測定した。熱伝導率が0.055W/mK以下の場合を「優良」(記号:◎)、熱伝導率が0.055W/mKより大きく0.060W/Mk以下の場合を「良好」(記号:〇)、熱伝導率が0.060W/mKを超える場合を「不良(不足)」(記号:×)と評価した。
【0036】
(5)耐火性能試験(耐火被覆材としての性能評価試験)
得られた無機繊維成形体(幅200mm×奥行200mm×厚さ30mm)の200mm×200mmの面の一方に水ガラスを接着剤として塗布し、幅200mm×奥行200mm×厚さ9mmの鋼板に貼り合せた。無機繊維成形体を貼り合せた鋼板を温度20±2℃、相対湿度60±5%の室内で恒量になるまで養生し試験体とした。試験体の断熱材が露出した200mm×200mmの面を加熱面として、その試験体裏面の鋼板中央部に熱電対を設置し、加熱面を除くすべての面を断熱材で覆い、加熱温度をJIS A 1304に定める加熱曲線に準拠して1時間加熱を行い、加熱開始から1時間後における鋼板中央部の温度を測定した。
【0037】
耐火被覆材として用いられているロックウール粒状綿とセメントペーストからなるロックウール吹付け材を、半乾式工法により幅200mm×奥行200mm×厚さ9mmの鋼板にように吹付け、幅200mm×奥行200mm×厚さ30mmの耐火被覆材層を備える同様な試験体を作製し、同様な加熱試験を行ったところ鋼材中央部の温度は310℃であった。
この温度を耐火被覆材としての性能の基準値とし、基準値との温度差が20℃未満である(鋼板中央部の温度が330℃未満である)場合を耐火被覆材としての性能(耐火性能)が「優良」(記号:◎)、基準値との温度差が20℃以上40℃未満である(鋼板中央部の温度が330℃以上、350℃未満である)場合を耐火被覆材としての性能が「良好」(記号:〇)、基準値との温度差が40℃以上である(鋼板中央部の温度が350℃以上である)場合を耐火被覆材としての性能が「不良」(記号:×)と評価した。
【0038】
(6)嵩密度測定:
嵩密度(ρ)は、ノギスにより無機繊維成形体の幅(W)、奥行(L)及び厚さ(T)を複数個所測定し、各々の平均値から体積(V)を求め、電子天秤で測定したその無機繊維成形体の質量(M)より、次式(2)を用いて求めた。
(式)
ρ=M/V=M/(W×L×T)・・・・・・(2)
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
表3~表4に示した通り、本発明の実施例に当たる無機繊維成形体(No.2~No.9並びにNo.12)は、何れも高温に曝された場合に発煙や臭気の発生はなく、熱に対する高い耐久性を示した。また、これらの本発明の実施例に当たる無機繊維成形体は、熱伝導率が0.060W/mK以下で、断熱材として充分用いることができることが分かる。
【0042】
特に、「無機結合材中の水以外の無機質成分」と「無機繊維」の合計100質量部に対し、「珪酸アルカリ」と「セメント及び珪酸アルカリ以外のSiO含有無機粉末」との合計質量が6~48質量部、且つ無機繊維の質量が94~52質量部である、No.3~No.9並びにNo.12の無機繊維成形体は、何れも、更に熱耐久性試験においてひび割れが生じず、更に優れた熱耐久性を示した。
【0043】
また、「無機結合材中の水以外の無機質成分」と「無機繊維」の合計100質量部に対し、「珪酸アルカリ」と「セメント及び珪酸アルカリ以外のSiO2含有無機粉末」との合計質量(「無機結合材中の無機不揮発成分」の質量)が10~46質量部、且つ無機繊維の質量が90~54質量部である、No.3~No.8の無機繊維成形体は、何れも、更に熱伝導率が0.055W/mK以下と、より優れた断熱性能を示した。
【0044】
また、無機繊維100質量部に対し、「無機結合材中の水以外の無機質成分」(無機結合材中の無機不揮発成分)の質量が25質量部以上であり且つ無機繊維としてロックウールをもちいた、本発明の実施例に当たるNo.6~No.10の無機繊維成形体は、何れも無機繊維成形体の嵩密度が0.25g/cm以上であり、更に耐火性能に優れ、耐火被覆材として充分用いることができることが分かる。
【符号の説明】
【0045】
1 鋼製筒
2 幅
3 奥行
4 高さ
5 厚み
6 開口部
7 鋼製筒の上面
図1