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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】魚釣用リール、及びその駆動ギア
(51)【国際特許分類】
   A01K 89/015 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
A01K89/015 E
A01K89/015 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019179822
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021052676
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-11-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】中山 許先
(72)【発明者】
【氏名】高浜 健一
【合議体】
【審判長】住田 秀弘
【審判官】有家 秀郎
【審判官】佐藤 史彬
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-125156(JP,A)
【文献】特開平7-332467(JP,A)
【文献】特開昭62-215489(JP,A)
【文献】特開平5-176662(JP,A)
【文献】特開2001-95437(JP,A)
【文献】特開2004-49151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K89/00-89/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルの回転操作で回転するドライブギアと、リール本体に回転可能に支持したスプールに一体回転可能に係脱するピニオンギアと、前記ドライブギアと噛合した状態で前記ピニオンギアを外部操作により摺動して前記スプールを動力伝達状態と動力遮断状態に切換えるクラッチ機構を備えた魚釣用リールにおいて、
前記ドライブギアとピニオンギアは、耐力が400~600MPaの材料で形成されると共に、ねじれ角βを5°≦β≦25°に、圧力角αを6°≦α≦16°に夫々設定した噛合条件で前記クラッチ機構の動力伝達をON/OFF制御し
前記ピニオンギアの端部には、前記スプールの支軸に設けた係合ピンが回転方向に当接係合する壁部が前記スプールの支軸の軸方向に平行に形成されており、
前記スプールは、前記リール本体の側板間に回転自在に支軸を介して両軸受されると共に、釣糸が巻回される糸巻胴部の両側にフランジ部が形成されており、
前記両フランジ部の外径を20mm~50mmに設定したことを特徴とする魚釣用リール。
【請求項2】
前記スプールは、前記ハンドル1回転で6回転以上回転するドライブギアとピニオンギアの歯数比で巻取駆動されることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用リール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣用リール、及びその駆動ギアに関し、特に、ハンドルの巻き取り操作で回転駆動される駆動ギアを構成するドライブギア及びそれに噛合するピニオンギアに特徴を備えた魚釣用リールに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、両軸受リール及び片軸受リール等の魚釣用リールは、ハンドルの回転をリール本体に回転自在に支持したスプールに伝達する巻取駆動機構と、巻取駆動機構の動力伝達経路を、リール本体に取着した切換部材の外部操作でスプールへ釣糸を巻回可能にする動力伝達状態とスプールをフリー回転状態にして釣糸の放出を可能とする動力遮断状態とに切り換えるクラッチ機構と、備えている。
【0003】
前記巻取駆動機構は、ハンドル軸上に設けられるドライブギアと、ドライブギアに噛合するピニオンギアとを備えており、回転性能及び強度向上のために、一般的に、はす歯歯車が採用されている。また、前記クラッチ機構は、スプール軸側(スプール側)の係合部に、外部操作でピニオンギア側の係合部を、ドライブギアにピニオンギアを噛合状態のままで軸方向に係脱することで、動力伝達状態と動力遮断状態に切換える釣用リール特有の特殊な動力伝達経路を構成している。更に、実釣時に負荷が加わる巻取り操作時に、ピニオンギア側のクラッチ係合部がスプール側のクラッチ係合部から外れて巻取不能になったり、ドライブギアとの噛合状態が悪化しないように、ピニオンギアをスプール軸側に係合する方向に付勢力が作用するように、前記はす歯歯車の傾斜方向が設定されている。
【0004】
なお、はす歯歯車の傾斜方向は、ピニオンギアの場合、軸方向に対するねじれ角を規定するものであり、このねじれ角は、クラッチの切り易さ、強度、回転フィーリングに大きな影響を与えている。すなわち、ねじれ角は、従来の両軸受型リールでは、釣法や対象魚等の用途を考慮した巻取駆動機構のギアシステムに応じて最適な角度が選択されており、ねじれ角が小さければ、クラッチは切り易くなるが回転フィーリングは低下し、ねじれ角が大きければ、クラッチ機構は切り難くなるが回転フィーリングは向上する等、噛合状態で動力を伝達及び遮断するクラッチ機構に起因する特有の噛合特性を有している。
【0005】
実釣時にキャスティング操作が可能な両軸受リールを使用する場合、リール本体に回転自在に支持したスプールを動力伝達状態(クラッチON)と動力遮断状態(クラッチOFF)に切換えるクラッチ機構には、負荷巻取時も動力伝達状態を維持して安定した巻取操作を行えること(クラッチ巻取操作性)、竿先からの仕掛け垂らし長さ調整や仕掛けを所定のポイントに放出する切換操作等の時にクラッチOFF操作を容易に行えること(クラッチ切り操作性)、キャスティング操作時における仕掛け着水時の水面からの仕掛けの不要な沈下を防止し、素早く巻取状態に移行して仕掛けの誘い動作を効率良く行えること(クラッチ入り操作性)等、クラッチに関わる様々な機能が備わっていることが要求される。
【0006】
実釣時の操作時では、釣糸に張力が加わっている状態でクラッチ機構を動力遮断状態(クラッチOFF)に切換え、サミング操作で釣糸の繰り出し状態をコントロールすることがあるが、釣糸に張力が加わっている場合に、はす歯歯車の噛合時に作用する付勢力の影響(ピニオンギアはスプール側に向けて付勢されている)でクラッチOFF操作が迅速かつ容易に行い難くなる。
そこで、クラッチ機構に強い荷重が作用(釣糸に強い張力が作用)してもクラッチOFF操作を迅速に行えるように、スプール軸の係合ピンに係合するピニオンギアの係合溝の壁部をはす歯歯車の傾斜方向と同方向にしたものが特許文献1で知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6407578号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されている両軸受リールは、ピニオンギアの係合溝の壁部に着目し、これをピニオンギアのねじれ方向と同一方向となるようにしているが、このような構成では、係合溝の壁部と歯面の方向性を精度良く位置合わせする必要があり、加工が容易ではない。すなわち、歯面は、インボリュートフライス(ホブ)によって切削する一方、係合溝の壁部については、別の切削工具を用いて加工する必要があり、加工工程が複雑化すると共に精度の高い加工を実現することは難しく、製造コストが高くなる。
【0009】
さらにクラッチの機能面では、クラッチが切れ易くなる(クラッチ切り操作性)反面、釣糸に張力が加わっている状態での巻取り操作時にピニオンギアの傾斜壁の影響でクラッチ係合部が離間し易くなり、ドライブギアとの噛合状態が不安定で巻取回転性能(クラッチ巻取操作性)に劣る。また、キャスティング操作における着水時の繰り出し方向にスプールが回転している状態でハンドルを回転操作して素早く巻取り状態に移行して仕掛けの不要な沈下を防止しようとした場合、スプール軸側の係合ピンがピニオンギアの係合溝の傾斜壁に当接して外方に逃げ易くなり、クラッチを確実に巻取り状態に支障なく移行(クラッチ入り操作)できない等の不具合が実釣時に生じ易い。
【0010】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、ギア製造の簡素化が図れ、クラッチ機構を駆使した最適な魚釣り操作(クラッチ巻取操作性、クラッチ切り操作性、クラッチ入り操作性)の実現を可能とした魚釣用リール、及びその駆動ギアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記したように、魚釣用リールのクラッチ機構は、互いに噛合するドライブギアとピニオンギアに関し、クラッチ機構を動力伝達状態と動力遮断状態に切換制御させるときに噛合状態を維持したまま一方のピニオンギアを歯面に摺動抵抗が作用する状態で軸方向に移動させる、という特殊性がある。本発明は、このような魚釣用リール特有のクラッチ機構の特殊性に着目し、上記した従来技術のように、ピニオンギアの歯面と係合溝を別加工するのではなく、ドライブギア及びピニオンギアの歯面形成時において、摺動抵抗を効果的に抑制した最適なクラッチ機構を構成する噛合システムを提供する。
【0012】
上記した目的を達成するために、本発明は、ハンドルの回転操作で回転するドライブギアと、リール本体に回転可能に支持したスプールに一体回転可能に係脱するピニオンギアと、前記ドライブギアと噛合した状態で前記ピニオンギアを外部操作により摺動して前記スプールを動力伝達状態と動力遮断状態に切換えるクラッチ機構を備えた魚釣用リールにおいて、前記ドライブギアとピニオンギアのねじれ角βを5°≦β≦25°に、圧力角αを3°≦α≦16°に夫々設定した噛合条件で前記クラッチ機構の動力伝達をON/OFF制御したことを特徴とする。
【0013】
上記した構成の魚釣用リールによれば、ピニオンギアのねじれ角βについては、回転フィーリング及びクラッチの切り易さを考慮して、用途に応じて最適な角度に設定される。そして、このようなドライブギアとピニオンギアの噛合関係において、圧力角αを、3°≦α≦16°にすることで、噛合状態での両ギアの歯面に対して垂直方向に作用する作用線方向の力を低減することができ、これにより、ピニオンギアが軸方向に摺動する際の抵抗力も減少し、クラッチ機構が切り易くなると共にクラッチ係合状態も安定し、良好な巻取り性能を維持することが可能となる。また、このような構成では、歯面を形成するホブの切削加工時に、上記した効果的に摺動抵抗の抑制を図る圧力角を形成できるので、クラッチ機構を構成するギアを容易に製造でき、コスト低減も可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ギア製造の簡素化が図れると共に、クラッチ巻取操作、クラッチ切り操作、及び、クラッチ入り操作のクラッチ機構の一連の魚釣り操作性が最適化された魚釣用リール、及び、駆動ギアが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る魚釣用リール(両軸受リール)の一実施形態を示す平面図。
図2図1に示す魚釣用リールの巻取駆動機構の主要部を示す図(クラッチON状態)。
図3図1に示す魚釣用リールの巻取駆動機構の主要部を示す図(クラッチOFF状態)。
図4】巻取駆動機構に組み込まれるドライブギアの拡大図。
図5】ドライブギアに噛合するピニオンギアの拡大図。
図6】ギア同士が噛合して動力を伝達する状態を示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
最初に、図1図3を参照して、本発明の一実施形態に係る魚釣用リールについて、両軸受リールを例示して説明する。
なお、本発明は、両軸受リールとした場合、船釣り用、ルアーフィッシング用等、各種の釣法に適合するタイプのものが含まれるが、図に示す両軸受リールは、ルアーフィッシング釣りに用いられるタイプのものが例示されている。
【0017】
図1図3に示されるように、両軸受リールのリール本体1は、左右フレーム2a,2bと、これら左右フレーム2a,2bに所定の空間を隔ててそれぞれシール材を介して装着される左右側板3a,3bとを備える。左右フレーム2a,2bは複数の支柱を介して一体化されており、下方の支柱に設けられる図示しないリール脚によってリール本体1が釣竿の図示しないリールシートに装着される。
【0018】
左右フレーム2a,2b(左右側板3a,3b)間には、スプール軸5が軸受4A,4Bを介して回転可能に支持されており、このスプール軸5には、スプール6が取り付けられる。スプール6は、釣糸が巻回される釣糸巻回胴部6a、及び、左右両側にフランジ部6b,6bが形成されており、釣糸は、左右両側のフランジ部6b,6bで規制されて釣糸巻回胴部6aに巻回される。
【0019】
スプール6は、ハンドル10を回転操作することによって回転されるように構成されており、ハンドル10は、右側板3bから突出したハンドル軸7の端部に取り付けられる。ハンドル10の巻き取り操作は、以下に説明する巻取駆動機構を介してスプール6に伝達される。
【0020】
ハンドル軸7は、右フレーム2bと右側板3bとの間に、図示しない軸受を介して回転自在に支持されるとともに、右側板3bとの間に介在される図示しない一方向クラッチによって釣糸巻取方向にのみ回転可能に構成されている。
【0021】
右フレーム2bと右側板3bとの間には、ハンドル軸7に回転自在に支持されてハンドル10の回転運動をスプール軸5側に伝達するためのドライブギア11が設けられており、また、ハンドル10の回転操作により回転するこのドライブギア11に係合して、スプール6に所定のドラグ力を付与する公知のドラグ機構12が収容されている。ドラグ機構12は、魚釣時にスプール6から釣糸が繰り出された際に、スプール6に所定のドラグ力を付与するようになっており、ドライブギア11に当接する複数の摩擦板12aを備える。このようなドラグ機構12は、ハンドル軸7の端部に配設された操作部材13を回動操作することで、ドライブギア11に対する圧接力が調節されるようになっており、スプール6に対するドラグ力を調節できるように構成される。
【0022】
ドライブギア11の歯11Aには、クラッチ機構20の一部を構成し、動力伝達部材としてのピニオンギア21(ピニオンギア21の歯21A)が噛合している。このピニオンギア21は、ドライブギア11の回転をスプール6(スプール軸5)に伝達する部材であり、軸方向に貫通する中心孔21aが形成されており、この中心孔21aにスプール軸5(又はスプール軸5の端面に当接する支持軸であってもよい)が貫通されている。
【0023】
本実施形態において、スプール軸5の右端側は、大径部5Aと、この大径部5Aに連続する小径部5Bと、小径部5Bから延びる軸部5C(又は小径部5Bの端面に当接する別体の支持軸であってもよい)とから成り、軸部5Cが前述したようにピニオンギア21の中心孔21aに挿通される。また、スプール軸5は、その(軸部5Cの)右端面5aがリール本体1(右側板3b)の支持部3baに螺合される調節部材60(ダイヤル操作体)の内方に設けられる軸方向規制部62に当て付くことにより軸方向における移動が規制される。この調節部材60は、スプールのフリー回転に対して制動力を付与するスプール制動機構70の操作部材を構成しており、調節部材60を回転操作することで、スプール軸5には、所定の押圧力が制動力として付与されるようになっている。
【0024】
ピニオンギア21の一部には、周方向に沿って円周溝21bが形成されており、この円周溝21bにクラッチ機構20を構成するクラッチ部材23が係合している。クラッチ部材23は、公知のように、左右フレーム2a,2b間に配置したクラッチ操作部材24を押し下げ操作(クラッチON状態からクラッチOFF状態へ操作)することにより、付勢部材90の付勢力に抗して図中右側に向けて駆動されるようになっており、これにより、ピニオンギア21をスプール軸5に沿って右側に移動させるようになっている。
【0025】
この場合、ピニオンギア21は、その両側(ドライブギア11に噛合する歯21Aのスプール6側及び側板3b側の両側部位)がリール本体1(右フレーム2b,右側板3b、図1参照)に設けられる軸受24A,24BによりカラーC(樹脂材)を介して支持されており、軸受24A,24Bの内輪内周面に対して軸方向に移動可能に且つ回転自在に接触している。すなわち、ピニオンギア21は、スプール6に接続する側が第1の軸受24Aによって支持されるとともに、スプール6に接続する側と反対の側が第2の軸受24Bによって支持される。なお、カラーCを削除して軸受24A,24Bで直接にピニオンギア21の両側を支持してもよい。
【0026】
ピニオンギア21のスプール6側の左端部には、スプール軸5の右端部(小径部5B)に設けられる係合ピン5b,5bに係脱可能な凹部25aが設けられている。この場合、係合ピン5b,5bは、スプール軸5の直径方向に突設されており、凹部25aは、各係合ピン5bが嵌合するように、ピニオンギアの端面に直径方向に沿って形成されている(図5参照)。図2に示されるように、凹部25aにスプール軸5の係合突部5b,5bが係合している状態がクラッチON状態であり、図3に示されるように、クラッチ機構20(クラッチ部材23)によりピニオンギア21が図中右側に向けて移動されて凹部25aから係合ピン5b,5bが脱した状態(両者の係合状態が解除された状態)がクラッチOFF状態である。
【0027】
前記ピニオンギア21は、クラッチ操作部材24を復帰操作することによって、或いは、ハンドル10を巻き取り操作した際、公知の自動復帰機構によってクラッチOFF状態からクラッチON状態へ自動復帰させることが可能となっている。
【0028】
前記リール本体1の左右フレーム2a,2bの間には、レベルワインド装置50が設けられており、このレベルワインド装置50は、案内筒51と、この案内筒51内に回転可能に支持される図示しないウォームシャフトと、このウォームシャフトに係合するピン(図示せず)を有する係合部材53と、この係合部材53に取り付けられた釣糸案内部54とを備える。また、前記ウォームシャフトの右側板側には、歯車(図示せず)が取り付けられており、この歯車は、ドライブギア11又はハンドル軸7と一体回転する歯車(図示せず)と噛合している。
【0029】
以上のように構成される両軸受リールでは、図1及び図2に示されるクラッチON状態でハンドル10が回転操作されると、その回転運動が巻取駆動機構を介して、レベルワインド装置側及びスプール側に伝達される。
すなわち、ハンドル軸7からドラグ機構12を介してドライブギア11及び前記歯車に伝達された後、前記歯車を介してレベルワインド装置50の前記ウォームシャフト52に伝達され、このウォームシャフトが回転される。このとき、レベルワインド装置50の係合部材53が、ウォームシャフトの回転運動にしたがって左右に摺動することで、釣糸は、係合部材53の釣糸案内部54を介してスプール6に均等に巻回される。
【0030】
また、ハンドル10の回転操作によりドライブギア11に伝達された回転駆動力は、ピニオンギア21に伝達され、ピニオンギア21の凹部25aに係合している係合突部5b,5bを介してスプール軸5に伝達される。これによって、スプール6が回転駆動される。
【0031】
そして、このような図1及び図2に示されるクラッチON状態(釣糸巻取状態)からクラッチ操作部材24が移動操作(クラッチON状態からクラッチOFF状態へ操作)されると、クラッチ部材23が付勢部材90の付勢力に抗して図中右側に向けて駆動されて、ピニオンギア21が図中右側に向けて移動され、それにより、図3に示されるようにスプール軸5の係合突部5b,5bに対するピニオンギア21の凹部25aの係合が解除される。したがって、スプール6は、ドライブギアからの回転動力の伝達が遮断されるフリー回転可能状態(釣糸繰出状態)となる。
【0032】
このとき、ドライブギア11の歯11Aとピニオンギア21の歯21Aは、常時、噛合関係にあり、したがって、ピニオンギア21の歯面21F(図5参照)と、ドライブギア11の歯面11F(図4参照)は、接触状態のまま摺動する。
【0033】
その後、再びハンドル10が回転操作される又はクラッチ操作部材24が操作されると、クラッチOFF状態からクラッチON状態にクラッチ機構20が復帰され、ピニオンギア21がスプール軸5側(左側)に移動される。それにより、スプール軸5の係合突部5b,5bにピニオンギア21の端面が回転しながら当接し、スプール軸5の係合突部5b,5bがピニオンギア21の凹部25aに嵌入して壁部25eに回転方向に当接係合する状態(釣糸巻取状態)となり(図1及び図2参照)、ハンドル10の回転駆動力がピニオンギア21からスプール軸5へ伝達される。なお、このクラッチON状態への復帰も、ピニオンギア21の歯面21Fと、ドライブギア11の歯面11Fは、接触状態のまま摺動する。
【0034】
上記したドライブギア11とピニオンギア21(これらを総称して駆動ギアとも称する)は、常時、噛合した関係にあり、魚釣用リールでは、クラッチのON/OFF操作時に、両ギアは噛合したまま歯面同士が摺動するという特殊性がある。また、魚釣用リールのギア同士の噛合による動力伝達では、ハンドルを巻取操作した際、できるだけ噛み合いが滑らかでノイズが発生しないようにするため、噛み合い率が大きくなるように、はす歯が採用されている。すなわち、ドライブギア11は、図4に示すように、周方向に連続形成される歯11A(歯面11F)がねじれるように形成されており、かつ、ピニオンギア21の歯21A(歯面21F)についても、図5に示すように、ねじれるように形成されている。
【0035】
ここで、本発明における駆動ギアのねじれ角(β)について説明する。
ねじれ角は、図5のピニオンギア21で説明すると、ギアの軸芯Xに対して歯(歯筋)21eがどの程度ねじれているかを特定する角度であり、ねじれ角が0°であれば、それは平歯車同士の噛合関係となる。上記したように、魚釣用リールでは、噛み合いを滑らかにし、かつ、ノイズが発生しないように、駆動ギアの噛合関係は、ある程度のねじれ角となるように設定されている。
【0036】
本発明に係る魚釣用リールに組み込まれる駆動ギアでは、ねじれ角(β)については、5°≦β≦25°に設定されている。
ねじれ角は、前記クラッチ操作部材24を押し下げ操作して付勢部材90の付勢力に抗してピニオンギア21を右側板側に摺動させる際、その摺動を妨げる要因となり、ねじれ角が小さければ、ピニオンギア21は摺動し易くなる。ところが、ねじれ角を小さく設定し過ぎると、回転の滑らかさが低下してノイズが発生し易くなり、更には、摺動し易くなることから、スプール側との係合が外れ易いという問題が生じる。具体的には、動力伝達状態(クラッチON状態)で、ギアの歯面によるスプール側への押さえ付ける力が弱くなり、釣糸に強い負荷が加わると、ピニオンギア21が摺動してスプールとの係合が外れ易くなったり、クラッチOFF状態でも誤復帰する等の問題が生じる。
【0037】
ねじれ角の下限については、上記した問題が顕著に発生しない(使用時において不都合が生じない)程度である5°以上に設定される。また、ねじれ角は、大きく設定すると、滑らかさが向上してノイズも低下し、ピニオンギアが誤動作することも防止できるが、あまり大きく設定し過ぎると、クラッチをOFFする際にクラッチ操作部材24を押し下げ操作し難くなる。具体的には、20°以上になると押し下げ操作し難い傾向が現れるようになり、25°を超えると、押し下げ操作にかなりの抵抗が作用するようになることから、ねじれ角の上限については、25°に設定することが好ましい。
この場合、釣竿と共に握持、保持される小型のキャスティングリールでは、実釣時において、クラッチONからOFF操作、キャスティング操作、クラッチON操作、ハンドルの巻取操作を頻繁に繰り返すように使用されることから、手返し操作がスムーズに行え、かつ、長時間そのような操作を繰り返しても疲れないようにすることが望ましい。すなわち、このようなタイプの魚釣用リールでは、ねじれ角の上限については、20°、好ましくは18°に設定するのが良い。
【0038】
実際、市販されている各種の両軸受リールを検証すると、用途に応じて駆動ギアのねじれ角は異なっているが、概ね5°≦β≦20°の範囲内で設定されている。すなわち、ジギングや船釣り用では、釣糸巻取時のノイズはそれほど気にならず、滑らかな回転性能もさほど要求されないことから、ねじれ角は、上記した範囲内において、比較的小さい角度に設定され、ルアー等を使用するキャスティングリールでは、頻繁な手返し操作、及び、微妙な巻取操作を行なうことから、ねじれ角は、上記した範囲内において、比較的大きい角度に設定される。
【0039】
上記したように、小型のリール、特に、ルアーキャストに用いられるリールの場合、ねじれ角については、ある程度、大きく設定した方が好ましいと考えられるが、余り大きく設定すると、釣糸に強い張力が作用した際、クラッチ機構を迅速にOFF操作することができなくなる。
本発明では、このような状況下においても、クラッチ切り操作がスムーズに行なえ、更には、クラッチ入り操作及びクラッチ巻取操作の一連の操作も支障なくスムーズに行えるように、駆動ギアの圧力角に着目している。
【0040】
ここで、魚釣用リールに組み込まれている駆動ギアの圧力角(α)について、図6の模式図を参照しながら説明する。
ドライブギア11とピニオンギア21の噛合する歯11A,21Aは、インボリュート歯形で形成されている。図において、各ギアの基礎円(インボリュート歯車の基礎となる円)の半径をR11,R21で示すと、各歯のインボリュート歯形は、基礎円に糸を巻き付けたと仮定して、その糸を緊張状態で解いたときの先端が描く曲線で定義される。また、両ギアの各基礎円の共通の接線Lと、両ギアの基準円(半径R11a,R21aで示す円)の接点(ピッチ点P)における共通接線L1との成す角αが圧力角である。
【0041】
すなわち、圧力角は、インボリュート歯形における歯面と直交する方向で定義され、この方向に作用する力Fnが動力を伝達する力(歯面を押す力;各歯面での垂直抗力)となる。この場合、圧力角αが小さくなるように歯面を形成すると、各ギアの基礎円R11,R21は大きくなり、したがって、同一トルクでの力の伝達を考慮すると、各歯面での垂直抗力Fnは小さくなる(圧力角を小さく設定することで、各歯面における垂直抗力Fnを小さくすることができる)。
【0042】
上記したように、クラッチ機構の作用によって、ピニオンギア21は、ドライブギアと噛合したまま軸方向に摺動するが、この摺動方向は、図6の紙面と直交する方向であることから、上記した歯面に作用する垂直抗力Fnが小さくなれば、ピニオンギア21は摺動し易くなる。すなわち、圧力角αが小さくなる程、ピニオンギア21は軸方向に摺動する際の摩擦抵抗が軽減され、クラッチは切り易くなる。
【0043】
現在、魚釣用リールに組み込まれるギアのインボリュート歯面を形成する工具(ホブ)については、標準基準ラック歯形(JIS B 1701-1 2012;標準インボリュート歯形)が用いられており、圧力角αが20°になるものが採用されている。この場合、そのような工具を用いても、転位量によっては、17°~19°の範囲の圧力角となるギアを形成することは可能である。圧力角αについては、上記したように、従来の一般的な角度20°よりも小さくする方が、クラッチ機構の操作性等を考慮すると有利と考えられるが、本発明者らは、圧力角をどの程度小さくすると、操作性が向上するかについて評価試験(官能試験)を行なった。
【0044】
評価試験は、5人のテスターで行ない、クラッチ切り操作性、クラッチ入り操作性、クラッチ巻取操作性の一連の操作を総合的に評価できるように、ルアーフィッシング用の小型の両軸リールを使用して行った。すなわち、ルアーフィッシングでは、上記した操作が頻繁に繰り返されるとともに、巻取操作では、微妙な相違が把握し易いため、両軸受リールの中でも、小型のキャスティング用のリールを使用して評価をした。評価は、リール本体に組み込まれている駆動ギアのねじれ角と圧力角の設定が異なる複数の同一の大きさの両軸受リールを準備し、各テスターが上記した一連の操作を、各リールで多数回繰り返して総合的な評価を行なった。具体的には、使用したリールについて、非常に良いと感じた場合は3点、良いと感じた場合は1点、従来と変わらない場合は0点とする3段階評価を行ない、5人のテスターの総合点が12点以上の場合は◎、8点以上の場合は〇、4点以上の場合は△、3点以下の場合×で評価した。
【0045】
また、使用した両軸受リールは、図1に示すフランジ部6bの外径Dが34mm、ドライブギア11の軸芯(ハンドル軸7の中心軸)と、ピニオンギア21の軸芯(スプール軸5の中心軸)との間の芯間距離Ldが22.6mmで、釣竿と共に握持、保持が可能な小型のものであり、駆動ギア11,21のギア比が6.3のものを使用した。また、ハンドル10の回転半径については、45mmのものを使用し、ピニオンギア21の端部に形成されているスプール軸の係合ピン5bが係脱可能な凹部25aについては、係合ピン5bが係合し回転方向の当接負荷が作用する壁部25e,25eがスプール軸(軸心X)と軸方向に平行となるように形成されている(図2図5参照)。なお、凹部25aの端面25gは、回転方向に当接係合する壁部25eに対する一方の縁部側が、他方の縁部側より低くなるように傾斜面に形成され、係合ピン5bが回転するピニオンギア21の壁部25eに当接係合し易いようになっている。
【0046】
そして、上記した形態のリールにおいて、ねじれ角βが5°,10°,15°,20°,25°に形成され、それぞれの圧力角αが14°,16°,18°,20°に形成された駆動ギアを組み込んだものを準備した。この場合、圧力角20°は、従来の両軸受リールに組み込まれる駆動ギアである。
評価試験の結果を下記の表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
上記した評価試験の結果によれば、圧力角が18°の場合、従来の20°のリールとの間では、全テスターの総合評価では、それ程改善されたという感覚が得られなかったが、圧力角を16°、更に14°と小さく設定すると、テスター全体の総合評価が良くなる傾向が得られたことから、圧力角については、16°以下に設定することが好ましいといえる。すなわち、ねじれ角が5°≦β≦25°の範囲において、その圧力角を16°以下に設定することで、上記した一連の操作性が向上する。
【0049】
また、圧力角については、小さくして行くと、インボリュート歯面が次第に切り立つ状態となり、歯元のアンダーカットという問題が生じる。このため、圧力角の下限については、駆動歯車の歯数(ギア比)やモジュールにも関係するが、歯面を切削加工する際に、アンダーカットが生じない角度、具体的には、3°(好ましくは5°)以上に設定すれば良い。すなわち、本発明では、駆動ギアの圧力角については、3°≦α≦16°の範囲で設定すれば良い。
【0050】
なお、ギアが回転駆動される際、歯面に作用する垂直抗力(面圧)Fnについては、圧力角αによって変化する。上記したように、垂直抗力Fnは、圧力角を小さくすることで減少するが、それと共に、歯元側はアンダーカットによって強度が低下する。すなわち、垂直抗力を小さくするために圧力角を小さくすると、歯面は次第に切り立つ傾向となり、その歯元が削られてアンダーカットされる傾向が強くなって歯車としての耐強度は低下してしまう。特に、ギア同士が噛合した状態で摺動することでクラッチ機構のON/OFFを連続して行う魚釣用リールにおいて、ギアの強度低下は実釣時に良好なクラッチ性能を安定して維持できない。そこで、駆動歯車にとって許容可能な面圧(最大の面圧)を特定し、それぞれの面圧毎で、ねじれ角(β)、及び、圧力角(α)の関係について、歯車の強度を解析する解析ソフトを用いて、各面圧に耐え得るねじれ角毎の圧力角の許容値についても解析を行なった。
この解析では、駆動歯車の歯面に一定の面圧が作用した際、5°,10°,15°,20°,25°,30°のそれぞれのねじれ角について、その面圧を許容可能にする圧力角の最小値と最大値を求めた。また、噛合する駆動ギアについては、芯間距離を22,6mm、ギア比6.3とし、モジュールは任意とした。
以下、解析結果を下記の表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
上記した表において、面圧が800MPaのケースでは、駆動ギアとして、比較的強度が高い高耐力の材料を使用したケースが該当する。このような材料を考慮した場合、圧力角の最低値は、6°に設定することが可能である。すなわち、6°≦α≦16°の範囲で設定しておけば、耐力が高い材料(400~600MPa)を用いれば、圧力角を6°に形成しても十分に歯の強度を維持することが可能である。なお、表では、最大の面圧が450MPaのケースについても解析しているが、これは、駆動ギアとして、耐力が低い材料を使用したケースが該当する。このような材料で駆動ギアを形成した場合であっても、圧力角を11°以上に設定しておくことで、歯の強度を維持することが可能である。すなわち、圧力角については、11°≦α≦16°の範囲に設定しておけば、たとえ耐力が低い材料を用いて駆動ギアを形成したとしても、十分に歯の強度を維持することが可能である。
【0053】
以上のように、ドライブギア11とピニオンギア21の噛合システムにおいて、ねじれ角βを5°≦β≦25°に、圧力角αを3°≦α≦16°(好ましくは6°≦α≦16°、より好ましくは11°≦α≦16°)に夫々設定した噛合条件でクラッチ機構の動力伝達をON/OFF制御することで、実釣時において、クラッチのON/OFF動作が円滑に行えるようになり、釣糸に張力が加わっている状態であっても、クラッチOFF操作を迅速かつ容易に行うことが可能となる。すなわち、クラッチ機構を駆使した最適な魚釣り操作(クラッチ巻取操作性、クラッチ切り操作性、クラッチ入り操作性)を実現することが可能となる。
【0054】
また、ピニオンギア21の端部に形成され、スプールの支軸に設けた係合ピンを係合させて回転方向に当接係合する壁部を、スプールの支軸の軸方向に平行に形成することで、ピニオンギアとドライブギアとの噛合状態も安定することから、巻取回転性能(クラッチ入り操作性、及び、クラッチ巻取操作性)の向上が図れるようになる。この場合、従来技術のように、スプール軸の係合ピンに係合するピニオンギアの係合溝の壁部を、はす歯の傾斜方向にするような精密な加工を施す必要がなく、単に、歯面を形成する(所定の圧力角となるように切削加工する)だけで、クラッチOFF操作が容易に行なうことが可能であるため、加工工程が複雑化することはなく、精度の高い加工も必要としないので、製造コストが高くなることはない。
【0055】
上記したような駆動ギア(噛合システム)を組み込んだ魚釣用リールは、様々な形態の両軸受リールや片軸受リールに適用することが可能であるが、ルアーフィッシング等の小型のリールに適用することがより効果的である。具体的には、スプール6の両フランジ部6bの外径Dが20mm~50mmに設定されている小型の魚釣用リール、ドライブギアの軸芯と、ピニオンギアの軸芯との芯間距離が15mm~30mmに設定されている小型の魚釣用リール、或いは、ハンドルの回転半径が30mm~80mmに設定されている小型のリールに適用することが好ましい。すなわち、頻繁に手返し操作を行ない、微妙な巻き取り操作を行なう際に、疲れることなく、繊細な巻き取り操作を繰り返して行なうことが可能となる。
【0056】
また、スプール6を、ハンドルの1回転で6回転以上回転するように、ドライブギア11とピニオンギア21の歯数比で巻取駆動できる(ギア比が1:6以上)ようにすることで、キャスティング操作における着水時の繰り出し方向にスプールが回転している状態でハンドルを回転操作して素早く巻取り状態に移行して仕掛けの不要な沈下を防止することができ、かつ、仕掛けを素早く回収することが可能となる。このような場合であっても、スプール軸の係合ピンをピニオンギアの係合溝に確実に係合させることができるため、クラッチを確実に巻き取り状態に支障なく移行して素早くスプールを回転させることが可能となる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明に係る魚釣用リールは、両軸受リール以外にも、片軸受リールに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 リール本体
5 スプール軸
6 スプール
10 ハンドル
11 ドライブギア
11A 歯
20 クラッチ機構
21 ピニオンギア
21A 歯
図1
図2
図3
図4
図5
図6