(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
G05B 19/404 20060101AFI20240214BHJP
B23Q 15/12 20060101ALI20240214BHJP
B23Q 17/22 20060101ALI20240214BHJP
B23Q 1/52 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G05B19/404 G
B23Q15/12 A
B23Q17/22 Z
B23Q1/52
(21)【出願番号】P 2019184686
(22)【出願日】2019-10-07
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】丹後 力
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-048774(JP,A)
【文献】特開2004-348350(JP,A)
【文献】特開2018-128986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B19/18-19/416
G05B19/42-19/46
B23Q17/22
B23Q 1/00- 1/76
B23Q 9/00- 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具が取り付けられる主軸と、
ワークを支持するワーク支持部と、
前記主軸に対する前記ワーク支持部の位置をXYZの3軸方向以外の方向に沿って調整する付加軸モータと、
前記付加軸モータの位相を検出する第1の位相検出器と、
前記付加軸モータによって位置調整される前記ワーク支持部の位相を検出する第2の位相検出器と、
前記付加軸モータの回転駆動を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記付加軸モータを回転駆動させる指令値に対する前記付加軸モータの実位置を前記第1の位相検出器及び前記第2の位相検出器によってそれぞれ検出し、前記第1の位相検出器及び前記第2の位相検出器によって検出された実位置と前記指令値との差分を第1のエラー量及び第2のエラー量として算出するとともに、前記第1のエラー量と前記第2のエラー量との差分値が、予め設定された第1の閾値の範囲を外れる場合に、前記第1の閾値の範囲内に収まるように、前記付加軸モータに対するゲインを調整する、工作機械。
【請求項2】
前記制御装置は、ゲインを調整した場合に、前記第1のエラー量及び前記第2のエラー量を再度算出するとともに、再度算出した前記第1のエラー量と前記第2のエラー量の差分値が前記第1の閾値を外れる場合に、前記差分値が前記第1の閾値の範囲値内に収まるように、前記付加軸モータに対する送り速度を調整する、請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
更に、前記付加軸モータの振動を検出する振動検出器と、を備え、
前記制御装置は、送り速度を調整した場合に、前記差分値を再度算出するとともに、前記差分値が前記第1の閾値内に収まらない場合
で、且つ、前記振動検出器によって検出される前記付加軸モータの振動が、予め設定された振動の閾値を超えた場合に、前記付加軸モータに対する送り速度を低下させる、請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記制御装置は、前記第1のエラー量と前記第2のエラー量との差分値が、予め設定された第1の閾値の範囲よりも広い第2の閾値の範囲を外れる場合に、警告表示を行う表示装置を有する、請求項1~3に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は、工具を取り付けた主軸とワークを支持するワーク支持部との相対的な位置を様々に変化させながらワークに対して加工を行う。近年、主軸とワーク支持部との相対位置をXYZの3軸に調整可能な工作機械に、XYZ軸以外の付加軸を更に搭載することにより、工程集約加工を行う工作機械の需要が高まっている。これによれば、ワークのワンチャッキング加工が可能であるため、工具の取り付け誤差の低減により加工精度の安定に寄与することができる。更に、加工時間の短縮を図ることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、付加軸を有する工作機械によってワークの加工を行う際、付加軸に出力される指令値に対して、付加軸が実際に回転駆動した際の実位置と、ワークを支持するワーク支持部の実位置とが異なることによるエラーが発生する場合がある。付加軸は、指令値に基づく駆動信号によって回転駆動するのに対し、ワーク支持部は、付加軸の回転駆動に伴って回転して位置調整されるため、ワーク支持部に回転時の歪み等が発生することによって、付加軸の回転駆動に対してワーク支持部に僅かに遅れや進みが生じる場合があるためである。指令値が示す位置と実位置との差分はエラー量となる。付加軸の回転駆動に対するワーク支持部の遅れや進みによって付加軸のエラー量とワーク支持部のエラー量との間に大きな差が発生すると、特に同時4軸加工、同時5軸加工を実施する際に、ワークの加工面質不良を発生させる原因となる。そのため、XYZ軸以外に付加軸を有する多軸の工作機械において、付加軸のエラー量とワーク支持部のエラー量との差に起因する加工面質不良の発生を低減して、ワークの加工面質を向上させることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、工具が取り付けられる主軸と、ワークを支持するワーク支持部と、前記主軸に対する前記ワーク支持部の位置をXYZの3軸方向以外の方向に沿って調整する付加軸モータと、前記付加軸モータの位相を検出する第1の位相検出器と、前記付加軸モータによって位置調整される前記ワーク支持部の位相を検出する第2の位相検出器と、前記付加軸モータの回転駆動を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記付加軸モータを回転駆動させる指令値に対する前記付加軸モータの実位置を前記第1の位相検出器及び前記第2の位相検出器によってそれぞれ検出し、前記第1の位相検出器及び前記第2の位相検出器によって検出された実位置と前記指令値との差分を第1のエラー量及び第2のエラー量として算出するとともに、前記第1のエラー量と前記第2のエラー量との差分値が、予め設定された第1の閾値の範囲を外れる場合に、前記第1の閾値の範囲内に収まるように、前記付加軸モータに対するゲインを調整する、工作機械である。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、付加軸を有する工作機械において、ワークの加工時における付加軸に起因するエラーを低減して、ワークの加工面質を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係る工作機械を示す斜視図である。
【
図2】一実施形態に係る工作機械を示す側面図である。
【
図3】一実施形態に係る工作機械における制御装置のブロック図である。
【
図4】一実施形態に係る工作機械における制御装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】ゲイン調整後のX軸、Y軸、Z軸及び付加軸のエラー量と全軸のエラー量の合成値とを示すグラフである。
【
図6】他の実施形態に係る工作機械における制御装置のブロック図である。
【
図7】他の実施形態に係る工作機械における制御装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】更に他の実施形態に係る工作機械における制御装置のブロック図である。
【
図9】更に他の実施形態に係る工作機械における制御装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】指令値と実位置との差分であるエラー量を示すグラフの一部を示す図である。
【
図11】ゲイン調整をしていないX軸、Y軸、Z軸及び付加軸のエラー量と全軸のエラー量の合成値とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1及び
図2に示すように、工作機械1は、ベース部2と、ベース部2から上方に向かって延びるコラム部3と、コラム部3の前面側に設けられる主軸ユニット4と、複数の工具Tbが着脱可能に取り付けられるタレット5と、ベース部2上に設けられるテーブルユニット6と、テーブルユニット6上に配置される付加軸ユニット7と、コラム部3の後方側に配置される制御装置100と、を備える。
【0009】
ベース部2は、例えば、レベリングボルト、アンカーボルト等を使用して、工作機械1の使用場所に設置される。コラム部3は、
図2に示すように、ベース部2の後部側(
図2における右側)の上面からZ軸方向に沿って上方に延びている。コラム部3の前面側(
図2における左側)には、主軸ユニット4を、制御装置100によって制御されるZ軸モータ32の回転駆動によってZ軸方向に沿って上下移動させる主軸ユニット移動機構部31が設けられる。
【0010】
主軸ユニット4は、コラム部3の主軸ユニット移動機構部31に取り付けられる。主軸ユニット4は、先端に工具Taが着脱可能に取り付けられる主軸41と、主軸41を主軸ユニット移動機構部31に対して支持する支持部42と、主軸41を回転駆動させる主軸モータ43と、を有する。主軸41は、支持部42を介して、主軸ユニット移動機構部31によってZ軸方向に沿って上下移動可能であり、制御装置100によって制御される主軸モータ43の回転駆動によって、工具Taを回転させ、その下方に配置されるワークWに対して加工を行う。
【0011】
タレット5は、放射状に配置される複数の工具Tbを有し、主軸ユニット4の前面側に回転可能に配置される。各工具Tbは、タレット5に着脱可能に取り付けられている。主軸41は、工具交換位置に移動した際に、先端の工具Taを、タレット5に取り付けられたいずれかの工具Tbと自動的に交換可能である。
【0012】
テーブルユニット6は、ベース部2の上面におけるコラム部3の前方(
図2における左方)に配置されるY軸移動機構部61と、Y軸移動機構部61上に配置されるX軸移動機構部62と、X軸移動機構部62上に配置されるX-Yテーブル63と、を有する。
【0013】
Y軸移動機構部61は、ベース部2の上面に配置され、Y軸方向に延びている。Y軸移動機構部61は、制御装置100によって制御されるY軸モータ64の回転駆動によって、X軸移動機構部62及びX-Yテーブル63の全体をY軸方向に沿って移動させる。
【0014】
X軸移動機構部62は、Y軸移動機構部61上でY軸方向と直交するX軸方向に延びている。X軸移動機構部62は、制御装置100によって制御されるX軸モータ65の回転駆動によって、X-Yテーブル63をX軸方向に移動させる。X-Yテーブル63は、Y軸移動機構部61及びX軸移動機構部62によって、Y軸方向及びX軸方向に移動可能である。
【0015】
付加軸ユニット7は、X-Yテーブル63上に設けられ、X-Yテーブル63と一緒にY軸方向及びX軸方向に移動可能に設けられる。本実施形態の付加軸ユニット7は、付加軸モータ71と、付加軸モータ71に対向して配置されるプレート押さえ部72と、付加軸モータ71とプレート押さえ部72との間に配置されるワーク支持プレート73と、を有する。ワーク支持プレート73は、その表面に加工対象であるワークWを載置して支持するワーク支持部である。
【0016】
付加軸モータ71は、X-Yテーブル63上のX軸方向に沿う一方端部に固定されている。付加軸モータ71の回転軸は、X軸に平行に配置される。付加軸モータ71は、回転力を減速機等のギヤを介さずに直接伝達させるダイレクトドライブ方式のモータであり、制御装置100によって制御される。
【0017】
プレート押さえ部72は、X-Yテーブル63上において付加軸モータ71が配置される端部と反対側の端部に配置され、付加軸モータ71の回転軸の延長上に位置している。プレート押さえ部72は、付加軸モータ71の面板711に対向している。
【0018】
ワーク支持プレート73は、付加軸モータ71の面板711に対して垂直に突出するように取り付けられ、プレート押さえ部72側の端部がプレート押さえ部72によって回転可能に支持されている。ワーク支持プレート73は、上面にワークWを支持し、付加軸モータ71の回転駆動によってワークWのX軸周りの位置を調整し、工具Taに対する所定角度の割り出しを行う。
【0019】
本実施形態の付加軸ユニット7は、ワーク支持プレート73の一方端部のみに付加軸モータ71を配置した片持ちタイプである。しかし、付加軸ユニット7は、ワーク支持プレート73の両端部にそれぞれ付加軸モータ71が配置される両持ちタイプであってもよい。また、付加軸ユニット7は、ワーク支持プレート73を用いずに、ワークWを付加軸モータ71の面板711に直接固定してX軸周りの割り出しを行うように構成されてもよい。この場合、付加軸モータ71の面板711がワーク支持部を構成する。
【0020】
以上のように、工作機械1は、X軸モータ65、Y軸モータ64及びZ軸モータ32の回転駆動によって、ワークWに対してXYZの3軸方向の加工を行うことができることに加え、付加軸モータ71を回転駆動してワーク支持プレート73の位置を調整することによって、ワークWに対してX軸周りに沿う方向の加工を行うことができる。そのため、この工作機械1は、ワークWに対して複雑且つ高精度なワンチャッキング加工を行うことができる。X軸モータ65、Y軸モータ64、Z軸モータ32及び付加軸モータ71には、例えば同期モータ等のサーボモータを用いることができる。
【0021】
付加軸モータ71は、回転駆動した際の位相を検出するためのパルスコーダ等からなる第1付加軸位相センサ71bを有する。第1付加軸位相センサ71bは、付加軸モータ71の内部に設けられ、例えば付加軸モータ71の図示しないロータの位相を検出する。第1付加軸位相センサ71bの検出信号は、制御装置100に送られる。
【0022】
ワーク支持プレート73は、付加軸モータ71の回転駆動によって回転するワーク支持プレート73の位相を検出するためのパルスコーダ等からなる第2付加軸位相センサ71cを有する。第2付加軸位相センサ71cは、ワーク支持プレート73の位相の検出によって、間接的に付加軸モータ71の位相を検出する。第2付加軸位相センサ71cは、付加軸モータ71の外部に設けられることによって間接的に付加軸モータ71の位相を検出可能であればよく、例えば面板711に設けられてもよい。第2付加軸位相センサ71cの検出信号は、制御装置100に送られる。
【0023】
制御装置100は、
図3に示すように、CPU等を有するプロセッサ101と、液晶表示装置等の表示装置102と、操作盤等の入力部103と、他の工作機械等との送受信を行う送受信部104と、不揮発性ストレージ、ROM、RAM等を有する記憶部105と、を有する。表示装置102がタッチスクリーン機能を有する場合は、表示装置102も入力部として機能する。更に、制御装置100は、主軸モータ43、X軸モータ65、Y軸モータ64、Z軸モータ32及び付加軸モータ71にそれぞれ対応するサーボ制御器43a,65a,64a,32a,71aを有する。主軸モータ43、X軸モータ65、Y軸モータ64、Z軸モータ32及び付加軸モータ71の回転駆動は、対応するサーボ制御器43a,65a,64a,32a,71aを介して、制御装置100によって制御される。
【0024】
入力部103は、ポータブルな操作盤、タブレットコンピュータ等であってもよい。これらの場合、入力部103に表示装置102の一部又は全部を設けることができる。表示装置102は、制御装置100と別体に設けられてもよい。
【0025】
記憶部105には、工作機械1の各動作を制御するシステムプログラム105aと、ワークWに応じて設けられる複数の加工プログラム105bと、少なくとも付加軸モータ71に対するゲインを調整するためのゲイン調整プログラム105cと、が格納されている。
【0026】
制御装置100は、加工プログラム105bの一連のコマンドに従って、各サーボ制御器43a,65a,64a,32a,71aに対して所定の指令値を送信する。指令値は、サーボ制御器43aを介して主軸モータ43を所定の回転数で回転駆動させるとともに、サーボ制御器65a,64a,32a,71aを介して、X軸モータ65、Y軸モータ64、Z軸モータ32及び付加軸モータ71を所定の位置(位相)に回転駆動させるための制御指令信号である。サーボ制御器43a,65a,64a,32a,71aは、その指令値に基づいて、対応する主軸モータ43、X軸モータ65、Y軸モータ64、Z軸モータ32及び付加軸モータ71に対してそれぞれ駆動信号を出力し、各軸モータ43,65,64,32,71を回転駆動させる。これによって、主軸41の工具Taが回転するとともに、工具TaとワークWとの相対位置がXYZ軸及び付加軸に沿って様々に調整される。
【0027】
ゲイン調整プログラム105cは、少なくとも付加軸モータ71に対応するサーボ制御器71aに予め設定される加減速パラメータの一つであるゲインを調整する。ゲイン調整プログラム105cで調整されるゲインは、速度ループ比例ゲイン、速度ループ積分ゲイン等の動作速度に関するゲイン、位置ループ比例ゲイン、及びその他の公知のゲインのうちの少なくとも1つを含む。ゲインの調整によって、指令値に対する付加軸モータ71の回転駆動時の応答性が自動的に調整される。
【0028】
ゲイン調整プログラム105cによる付加軸モータ71に対するゲイン調整は、ワークWに対する加工作業の開始後に、予め設定された所定の制御周期で、付加軸モータ71のエラー量とワーク支持プレート73のエラー量との差分に応じて実行される。付加軸モータ71のエラー量は、指令値に基づくサーボ制御器71aからの駆動信号によって付加軸モータ71が回転駆動した際の付加軸モータ71の位相の実位置と指令値が示す位置との差分である。ワーク支持プレート73のエラー量は、付加軸モータ71が回転駆動することによって位置調整されたワーク支持プレート73の位相の実位置と、付加軸モータ71に対して与えられる指令値が示す位置との差分である。具体的には、付加軸モータ71のエラー量は、第1付加軸位相センサ71bによって検出される実位置と指令値が示す位置との差分によって得られる第1のエラー量E1である。ワーク支持プレート73のエラー量は、第2付加軸位相センサ71cによって検出される実位置と、付加軸モータ71に対して与えられる指令値が示す位置との差分によって得られる第2のエラー量E2である。
【0029】
図10は、ゲイン調整を実行せずに、ワークWとしてポンプのインペラーの翼を加工した場合における付加軸モータ71に対する指令値が示す位置と、そのときの第1付加軸位相センサ71bによって検出される付加軸モータ71の位相の実位置とを視覚的に示している。翼の曲面に対応して滑らかな曲線を描く指令値に対し、付加軸モータ71の位相の実位置は、指令値に追従するように変化しているものの、指令値に完全に一致しておらず、指令値に対してずれている。そのずれ量が付加軸モータ71のエラー量(第1のエラー量E1)に相当する。エラー量は、指令値に対する付加軸モータ71の応答速度の遅速の大きさである。
図10中において、一部のエラー量をハッチングで示している。また、
図11のグラフは、同様にゲイン調整を実行せずにインペラーの翼を加工した場合の付加軸のエラー量を示している。横軸は時間であり、縦軸はエラー量の大きさを示す。グラフの左端がエラー量0(基点)を示している。
【0030】
図10及び
図11に示されるように、エラー量(第1のエラー量E1)は、加工点がインペラーの翼の表面から裏面に移行する際に大きく発生している。加工点がインペラーの翼の表面から裏面に移行する際に、インペラーを支持するワーク支持プレート73が付加軸(X軸)周りに回転し、その際にワーク支持プレート73に歪み等が発生するためであると考えられる。このとき、第1付加軸位相センサ71bに基づく付加軸モータ71のエラー量E1と、第2付加軸位相センサ71cに基づくワーク支持プレート73のエラー量E2との間に大きな差があると、このエラー量の差に起因するワークWの加工面質不良が顕著になる。その結果、インペラーの翼の表面には、エラーに起因する加工筋による加工面質不良が発生する。
【0031】
ゲイン調整プログラム105cは、第1付加軸位相センサ71b及び第2付加軸位相センサ71cからそれぞれ送られる付加軸モータ71の位相の実位置を示す検出信号と指令値が示す位置とに基づいて、第1のエラー量E1及び第2のエラー量E2をそれぞれ算出する機能と、その算出された第1のエラー量E1と第2のエラー量E2の差分値E1-E2=ΔEを算出する機能と、算出された差分値ΔEを予め設定されている閾値と比較し、差分値ΔEが閾値の範囲内か否かを判定する機能と、差分値ΔEが閾値の範囲外であると判定した場合に、その差分値ΔEが閾値内に収まるためのゲイン調整信号を算出する機能と、を有する。
【0032】
ゲイン調整プログラム105cは、ΔEが閾値の範囲を下回る場合には、付加軸モータ71の応答性を低下させて閾値の範囲内に収まるようにするゲイン調整信号を生成し、ΔEが閾値の範囲を超える場合には、付加軸モータ71の応答性を増加させて閾値の範囲内に収まるようにするゲイン調整信号を生成する。ゲイン調整プログラム105cは、算出したゲイン調整信号を、付加軸モータ71に対応するサーボ制御器71aに出力する。
【0033】
ゲイン調整プログラム105cにおいて差分値ΔEと比較する閾値は、ゲイン調整の要否を判定する所定の範囲の値に設定される。本実施形態のゲイン調整プログラム105cには、閾値として、第1の閾値と、第1の閾値よりも広い範囲を示す第2の閾値と、が設定される。第1の閾値は、差分値ΔEがこの範囲内に収まっていればゲイン調整は不要であり、ワークWに対して良好な加工が可能であることを示す。第2の閾値は、ゲイン調整することによってワークWへの加工を継続可能な範囲を示す。換言すれば、差分値ΔEが第2の閾値から外れる場合には、工作機械1には付加軸モータ71やワーク支持プレート73等に異常が発生しており、ゲイン調整しても差分値ΔEを第1の閾値の範囲内に収めることが不可能であり、ワークWへの加工は不可であると判断される。
【0034】
次に、具体的なゲイン調整動作の一例について、
図4に示すフローチャートに基づいて説明する。
工作機械1が稼働すると、制御装置100は、主軸モータ43を回転駆動させるとともに、加工プログラム105bに基づいて、サーボ制御器65a,64a,32a,71aに対して指令値を出力する(S101)。サーボ制御器65a,64a,32a,71aは、指令値に基づいてX軸モータ65、Y軸モータ64、Z軸モータ32及び付加軸モータ71にそれぞれ駆動信号を出力し、各軸モータ65,64,32,71を回転駆動させる。これによって、ワークWの工具Taに対する相対位置が各軸に沿って調整され、ワークWに対する加工が行われる。
【0035】
制御装置100は、ゲイン調整プログラム105cによって、所定の制御周期で、第1付加軸位相センサ71b及び第2付加軸位相センサ71cからそれぞれ送られる付加軸モータ71とワーク支持プレート73の位相の実位置を示す検出信号をそれぞれ取得し、その実位置と指令値が示す位置との差分である第1のエラー量E1及び第2のエラー量E2をそれぞれ算出する(S102)。
【0036】
次いで、制御装置100は、ゲイン調整プログラム105cによって、第1のエラー量E1と第2のエラー量E2の差分値E1-E2=ΔEを算出し(S103)、その差分値ΔEが第1の閾値の範囲内であるか否かを判定する(S104)。第1の閾値は、ゲイン調整が不要な範囲を示すため、差分値ΔEが第1の閾値の範囲内である場合、制御装置100は、次の制御周期が来るまで処理を終了する。
【0037】
差分値ΔEが第1の閾値の範囲外である場合、制御装置100は、続いて、差分値ΔEが第2の閾値の範囲内であるか否かを判定する(S105)。差分値ΔEが第2の閾値の範囲内である場合、制御装置100は、差分値ΔEが第1の閾値の範囲内に収まるようにするためのゲイン調整信号を算出し、そのゲイン調整信号を、付加軸モータ71に対応するサーボ制御器71aに対して出力する(S106)。
【0038】
ゲイン調整信号を受信したサーボ制御器71aは、設定されているゲインの値を、ゲイン調整信号に基づいて更新する。以後、サーボ制御器71aに対応する付加軸モータ71は、更新されたゲインによって応答性が調整されて回転駆動される。ワークWに対して加工を行っている間は、制御周期毎に上記のステップS101からステップS106までの処理が繰り返される。
【0039】
なお、ステップS105において、差分値ΔEが第2の閾値から外れる場合は、付加軸モータ71やワーク支持プレート73等に何らかの不具合が発生していることが想定される。そのため、制御装置100は、表示装置102によって、異常が発生している旨の警告表示を行うとともに、工作機械1の稼働を停止させる(S107)。
【0040】
図5のグラフは、付加軸のゲイン調整を行ってインペラーの翼を加工した場合の付加軸のエラー量を示している。
図11と同様に、横軸は時間であり、縦軸はエラー量の大きさを示す。グラフの左端がエラー量0(基点)を示している。
図5に示されるように、付加軸のゲイン調整を行った結果、ゲイン調整を行っていない
図11の場合に比較して、付加軸のエラー量が大きく低減されていることがわかる。これによって加工されるインペラーの翼の表面の加工筋は低減され、
図11の場合に比較して加工面質の改善が認められた。
【0041】
このように、この工作機械1は、ワークWの加工時における付加軸モータ71のエラー量とワーク支持プレート73のエラー量との偏差を低減して、ワークWの加工面質を向上させることが可能である。しかも、この工作機械1は、付加軸モータ71のエラー量とワーク支持プレート73のエラー量との差分値に基づいて、付加軸モータ71又はワーク支持プレート73の異常を検出することも可能である。
【0042】
図6は、他の実施形態に係る工作機械における制御装置のブロック図を示している。
図3に示すブロック図と同一符号の部位は同一構成の部位であるため、それらの説明は上記説明を援用し、ここでは省略する。
【0043】
図6に示す制御装置100において、記憶部105には、更に送り速度調整プログラム105dが格納されている。送り速度調整プログラム105dは、サーボ制御器71aに予め設定される加減速パラメータの一つである付加軸モータ71の回転速度を調整する。回転速度の調整によって、付加軸モータ71の回転駆動によるワーク支持プレート73の移動方向の速度である送り速度が自動的に調整される。
【0044】
送り速度調整プログラム105dは、ゲイン調整を行っても閾値の範囲内に収まらない差分値ΔEに基づいて、当該差分値ΔEが閾値の範囲内に収まるための送り速度調整信号を算出する機能を有する。
【0045】
送り速度調整プログラム105dは、差分値ΔEが閾値の範囲を下回る場合には、付加軸モータ71の回転速度を低下させて、差分値ΔEが閾値の範囲内に収まるようにする送り速度調整信号を生成し、差分値ΔEが閾値の範囲を超える場合には、付加軸モータ71の回転速度を増加させて、差分値ΔEが閾値の範囲内に収まるようにする送り速度調整信号を生成する。送り速度調整プログラム105dは、算出した送り速度調整信号を、付加軸モータ71に対応するサーボ制御器71aに出力する。
【0046】
次に、送り速度調整プログラム105dを備える工作機械1の制御装置100の具体的なゲイン調整動作の一例について、
図7に示すフローチャートに基づいて説明する。このフローチャートにおいて、ステップS202からステップS205までの処理及びステップS207、S208、S211の処理は、
図4に示したフローチャートのステップS101からステップS104までの処理、ステップS105、S106、S107の処理と同一であるため、説明を省略する。
【0047】
制御装置100は、まず、繰り返し処理回数iをi=1に設定し(S201)、ステップ202からステップS205までの処理によって、第1のエラー量E1と第2のエラー量E2の差分値ΔEが第1の閾値の範囲内か否かを判定する。差分値ΔEが第1の閾値の範囲内である場合、制御装置100は、次の制御周期が来るまで処理を終了する。ステップS205において、差分値ΔEが第1の閾値内に収まらない場合、制御装置100は、繰り返し処理回数i=1であるか否かを確認する(S206)。ここではi=1であるため、制御装置100は、次に、第2の閾値の範囲内か否かを判定し(S207)、第2の範囲内である場合に、差分値ΔEが第1の閾値の範囲内に収まるようにするためのゲイン調整信号を算出し、そのゲイン調整信号を、付加軸モータ71に対応するサーボ制御器71aに対して出力する(S207)。その後、制御装置100は、繰り返し処理回数iをインクリメントし(S209)、ステップS202からステップS206までの処理を繰り返す。
【0048】
繰り返し処理回数iがインクリメントされた後、制御装置100は、再度差分値ΔEを算出し、再度算出された差分値ΔEが第1の閾値の範囲内であるか否かを判定する(S205)。ここで、再度算出された差分値ΔEが第1の閾値の範囲外である場合、ここでは繰り返し処理回数iはインクリメントされているため(S206)、制御装置100は、送り速度調整プログラム105dを起動させて送り速度調整信号を生成し、その送り速度調整信号を付加軸モータ71に対応するサーボ制御器71aに出力し、当該サーボ制御器71aに予め設定されている回転速度のパラメータを調整する。これによって、ゲイン調整だけでは差分値ΔEが第1の閾値の範囲内に収まらない付加軸モータ71の回転速度が増加又は低減され、その付加軸の送り速度が調整される(S210)。
【0049】
付加軸の送り速度が増加又は低減されること、すなわち、付加軸モータ71の回転速度が増加又は低減されることによって、指令値に対する付加軸モータ71の応答速度の遅速が改善され、差分値ΔEが第1の閾値の範囲から外れることに起因する加工面質不良も改善される。一般的に、軸の送り速度はワークWの加工速度に直接関係するため、軸の送り速度に関するパラメータの調整を行うことは望ましくない。しかし、
図7に示すフローチャートによれば、制御装置100は、最初に差分値ΔEが第1の閾値の範囲内に収まるようにゲイン調整を行うため、送り速度を調整する機会は少なくて済み、ワークWの加工速度に与える影響を抑えることができる。
【0050】
図8は、更に他の実施形態に係る工作機械における制御装置のブロック図を示している。
図3及び
図6に示すブロック図と同一符号の部位は同一構成の部位であるため、それらの説明は上記説明を援用し、ここでは省略する。
【0051】
図8に示す制御装置100を備える工作機械1は、付加軸モータ71の振動を検知するための振動センサ74を有する。具体的な振動センサ74は、付加軸モータ71の振動を検知することができるものであれば特に問わない。一般的には、加速度センサを用いることができる。加速度センサは、接触式又は非接触式(光学式)のいずれでもよい。振動センサ74によって付加軸モータ71の振動を検出することにより、付加軸モータ71に、ワークWの加工に影響を与える程の異常な振動が発生していることを検知することができる。
【0052】
次に、振動センサ74を備える工作機械1の制御装置100の具体的なゲイン調整動作の一例について、
図9に示すフローチャートに基づいて説明する。このフローチャートにおいて、ステップS301からステップS309までの処理及びステップS311、S314の処理は、
図7に示したフローチャートのステップS201からステップS209までの処理及びステップS210、S211の処理と同一であるため、説明を省略する。
【0053】
制御装置100は、ステップS311において、付加軸モータ71の送り速度を調整した後、繰り返し処理回数iを更にインクリメント(i=3)し(S309)、ステップS302からステップS305までの処理を繰り返す。ステップS305において、差分値ΔEが第1の閾値内に収まった場合、制御装置100は、次の制御周期が来るまで処理を終了する。
【0054】
ステップS305において、送り速度調整後に再度算出した差分値ΔEが第1の閾値の範囲外である場合、ここでは繰り返し処理回数iはi=3であるため(S306、S310)、制御装置100は、次に、付加軸モータ71に設けられる振動センサ74が、予め設定された振動の閾値を超える程の振動を検知しているか否かを判定する(S312)。振動を検知した場合、制御装置100は、送り速度調整プログラム105dを起動させて送り速度調整信号を生成する。この場合の送り速度調整信号は、付加軸モータ71の送り速度を更に低下させるための信号である。この場合の送り速度は、例えばワークWを加工し得る最低限の送り速度に設定される。
【0055】
制御装置100は、生成した送り速度調整信号を付加軸モータ71に対応するサーボ制御器71aに出力し、当該サーボ制御器71aに予め設定されている回転速度のパラメータを調整する。これによって、付加軸モータ71の回転速度は更に低下され、付加軸の送り速度が低下される(S313)。したがって、付加軸モータ71に発生する振動がワークWの加工面質に与える影響を極力低減することができる。
【0056】
ステップS312において、振動を検知していない場合は、付加軸モータ71、ワーク支持プレート73等の異常によって差分値ΔEが第1の閾値の範囲内に収まらないことが考えられる。そのため、制御装置100は、ステップS314の処理に移行し、表示装置102によって、異常が発生している旨の警告表示を行うとともに、工作機械1の稼働を停止させる(S314)。
【符号の説明】
【0057】
1 工作機械
41 主軸
71 付加軸モータ
71b 第1付加軸位相センサ(第1の位相検出器)
71c 第2付加軸位相センサ(第2の位相検出器)
711 面板(ワーク支持部)
73 ワーク支持プレート(ワーク支持部)
74 振動センサ(振動検出器)
100 制御装置
Ta 工具
W ワーク